説明

脂肪族ポリエステル系樹脂シート、及びそれを用いて成る包装容器用プラスチックケース

【課題】優れた耐衝撃性と耐熱性を有し、さらに良好な透明性をも有する脂肪族ポリエステル系樹脂シートを提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、このポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対し、0.2質量%以上、3.0質量%未満である樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸して成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂シート、及び該脂肪族ポリエステル系樹脂シートを用いて成る包装容器用プラスチックケースに関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステル系樹脂のなかでも、例えば乳酸系重合体は植物由来であることやその生分解特性が着目されており、包装用途等の使い捨てのフィルム、シート、袋、ケース等への活用が図られている。一方で、乳酸系重合体には耐衝撃性や耐熱性が不足する等の課題があり、包装用途分野への展開が制限される場合があった。
【0003】
特開2008−69299号公報には、乳酸系重合体の耐衝撃性が改善されたフィルム、シートまたは袋を形成するためのポリ乳酸組成物が開示されているが(特許文献1参照)、耐熱性の点では不十分な場合があった。また、特開2011−89084号公報には、乳酸系重合体の耐衝撃性を改善する一方で高透明性が維持されたポリ乳酸系樹脂組成物とその成形体が開示されているが(特許文献2参照)、やはり耐熱性の不足が問題となる場合があり、この点において上記ポリ乳酸組成物と同様であった。
【0004】
特開2011−168716号公報には、耐衝撃性および耐熱性が改善されたポリ乳酸系樹脂組成物が開示されているが(特許文献3参照)、高度な耐熱性が要求される場合には未だ不十分であり、すなわち、高度な耐熱性が要求されるプラスチックケース等の用途に用いられると、保管中に変形トラブルを起こす場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−69299号公報
【特許文献2】特開2011−89084号公報
【特許文献3】特開2011−168716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、これまで種々のポリ乳酸系樹脂組成物およびその成形体が提案されてきたが、依然として、耐衝撃性を確保しつつ高度な耐熱性を有するポリ乳酸系樹脂組成物は実現されておらず、かかるポリ乳酸系樹脂組成物が切望されていた。
【0007】
そこで本発明では、乳酸系重合体を始めとする脂肪族ポリエステル系樹脂の耐衝撃性を改善し、かつ、優れた耐熱性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を提供することを目的とする。また、この脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を用いて形成される、耐衝撃性および優れた耐熱性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂シートを提供することを目的とする。中でも、化粧品や日用品などの小間物を収納して販売や展示に供する包装容器として用いられるプラスチックケースに好適な脂肪族ポリエステル系樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、脂肪族ポリエステル系樹脂とポリグリセリン脂肪酸エステルとを特定割合で含有する樹脂組成物を溶融製膜した後、延伸することにより、耐衝撃性を改善すると共に、優れた耐熱性と高透明性を有するシートが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してなり、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、該脂肪酸ポリエステル系樹脂及び該ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対し、0.2質量%以上、3.0質量%未満である樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸して成ることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの重量平均分子量は、1,000以上、3,000未満であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記樹脂組成物を溶融製膜した後、面積倍率で2倍以上となるように、少なくとも一軸方向に延伸して成ることが好ましい。
【0012】
また、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、前記脂肪族ポリエステル系樹脂及び前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対して、0.5質量%以上、2.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、1.2質量%以下であることが更に好ましい。
【0013】
本発明においては、前記脂肪族ポリエステル系樹脂が乳酸系重合体であることが好ましい。
【0014】
ここで、該乳酸系重合体は、D−乳酸とL−乳酸との構成比が、D−乳酸:L−乳酸=99.5:0.5〜95:5、又は、D−乳酸:L−乳酸=0.5:99.5〜5:95であることが好ましい。
【0015】
本発明の包装容器用プラスチックケースは、上記いずれかの脂肪族ポリエステル系樹脂シートを用いて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、優れた耐熱性と耐衝撃性とを備えているので、フィルム、シート、袋、及びケースといった各種包装資材や農業用資材など、広範な用途に用いることができる。さらに、脂肪族ポリエステル系樹脂に配合するポリグリセリン脂肪酸エステルの量を調整することにより、高透明性が維持されるので、包装容器用プラスチックケースに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シート(以下、「本シート」と称することがある)は、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してなる。但し、該脂肪族ポリエステル系樹脂を主成分として含有し、かつ、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、該脂肪酸ポリエステル系樹脂及び該ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対し、0.2質量%以上、3.0質量%未満であることが必要である。
【0019】
(脂肪族ポリエステル系樹脂)
本シートを形成する樹脂組成物の主成分をなす脂肪族ポリエステル系樹脂としては、化学合成されたもの、微生物により発酵合成されたもの、及び、これらの混合物を用いることができる。
【0020】
化学合成された脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ラクトンを開環重合して得られるポリε−カプロラクタム等、二塩基酸とジオールとを重合して得られるポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリテトラメチレンサクシネート、シクロヘキサンジカルボン酸/シクロヘキサンジメタノール縮合体等、ヒドロキシカルボン酸を重合して得られる乳酸系重合体、ポリグリコール等や、上記した脂肪族ポリエステルのエステル結合の一部、例えば50%以下がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合等に置き換えられた脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
【0021】
また、微生物により発酵合成された脂肪族ポリエステル系樹脂としては、ポリヒドロキシブチレート、ヒドロキシブチレートとヒドロキシバリレートとの共重合体等が挙げられる。
【0022】
本発明において、乳酸系重合体とは、D−乳酸またはL−乳酸の単独重合体またはそれらの共重合体をいい、具体的には、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、更にはL−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ(DL−乳酸)があり、またこれらの混合体も含まれる。
【0023】
乳酸系重合体は、縮合重合法、開環重合法等の公知の方法で製造することが出来る。例えば、縮合重合法では、D−乳酸、L−乳酸、または、これらの混合物を、直接脱水縮合重合して任意の組成を有する乳酸系重合体を得ることができる。また、開環重合法では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより任意の組成を有する乳酸系重合体を得ることができる。上記ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸の二量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより、任意の組成、結晶性を有する乳酸系重合体を得ることができる。
【0024】
本発明に用いられる乳酸系重合体は、D−乳酸とL−乳酸との構成比が、D−乳酸:L−乳酸=100:0〜85:15であるか、またはD−乳酸:L−乳酸=0:100〜15:85であることが好ましく、さらに好ましくは、D−乳酸:L−乳酸=99.5:0.5〜95:5、または、D−乳酸:L−乳酸=0.5:99.5〜5:95である。D−乳酸とL−乳酸との構成比が100:0もしくは0:100である乳酸系重合体は非常に高い結晶性を示し、融点が高く、耐熱性および機械的物性に優れる傾向がある。すなわち、フィルムを延伸したり熱処理したりする際に、樹脂が結晶化して耐熱性及び機械的物性が向上するので好ましい。一方、D−乳酸とL−乳酸とで構成された乳酸系重合体は、柔軟性が付与され、フィルムの成形安定性及び延伸安定性が向上するので好ましい。したがって、得られるシートの耐熱性と、成形安定性及び延伸安定性とのバランスを勘案すると、本発明に用いられる乳酸系重合体は、D−乳酸とL−乳酸との構成比が、D−乳酸:L−乳酸=99.5:0.5〜95:5、又は、D−乳酸:L−乳酸=0.5:99.5〜5:95であることが、より好ましい。
【0025】
本発明においては、D−乳酸とL−乳酸との共重合比が異なる乳酸系重合体をブレンドしてもよい。この場合には、複数の乳酸系重合体のD−乳酸とL−乳酸との共重合比を平均した値が上記範囲内に入るようにすればよい。D−乳酸とL−乳酸のホモポリマーと、共重合体とをブレンドすることにより、ブリードのし難さと耐熱性の発現とのバランスをとることができる。
【0026】
本発明に用いられる乳酸系重合体は高分子量であることが好ましく、例えば、重量平均分子量が5万以上であることが好ましく、6万以上、40万以下であることが更に好ましく、10万以上、30万以下であることが特に好ましい。乳酸系重合体の重量平均分子量が5万未満であると、得られたシートの機械的物性が劣る場合がある。
【0027】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポリグリセリンと脂肪酸とを反応して得られるエステルが挙げられる。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの構成成分であるポリグリセリンとしては、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が挙げられ、これらの中では、ジグリセリン、デカグリセリンが好ましく用いられる。また、本発明においては、ここで列挙されたものを1種または2種以上を混合物として用いることができる。
【0029】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのもう一方の構成成分である脂肪酸としては、炭素数が12以上の脂肪酸が用いられる。具体的に示すと、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸リノレン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ガドレイ酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、べヘン酸、エルカ酸、ドコサジエン酸、リグノセリン酸、イソステアリン酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、水素添加ヒマシ油脂肪酸(12−ヒドロキシステアリン酸の他に少量のステアリン酸及びパルミチン酸を含有する脂肪酸)等が挙げられる。これらの中では、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が好ましい。本発明においては、ここで列挙されたものを、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0030】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの製造方法は特に限定されるものではないが、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、例えば、上記ポリグリセリンと脂肪酸を用いて、リン酸、p−トルエンスルホン酸、苛性ソーダ等の触媒の存在下、もしくは無触媒で、温度100℃〜300℃、好ましくは120℃〜260℃の範囲で加熱して生成水を系外に除去することによって得られる。その反応は不活性ガスの存在下で行なうことが好ましい。また、トルエン又はキシレン等の共沸溶剤中で行っても良い。このようにして合成されたポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ジグリセリンパルミチン酸エステル、ジグリセリンステアリン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル、デカグリセリンパルミチン酸エステル、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられ、これらの一種又は二種以上の混合物が用いられる。また、これらの中では特に、ジグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステルが好ましく用いられる。
【0031】
本発明に用いられるポリグリセリン脂肪酸エステルの重量平均分子量は、1,000以上、3,000以下であることが好ましく、1,000以上、2,000以下であることがより好ましく、1,000以上、1,500以下であることが特に好ましい。
【0032】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの重量平均分子量が1,000以上であれば、得られるシートの耐衝撃性が良好となるので好ましい。またポリグリセリン脂肪酸エステルの重量平均分子量が3,000以下であれば、脂肪族ポリエステル系樹脂に分散しやすく、均質なシートが得られるので好ましい。
【0033】
本シートを形成する樹脂組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有割合は、脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対し、0.2質量%以上、3.0質量%未満であることが重要であり、その下限値は0.5質量%以上であることが好ましく、その上限値は2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
本シートを形成する樹脂組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有割合が0.2質量%以上であれば、実用可能レベルの耐衝撃性を有するシートが得られ、0.5質量%以上であれば、本シートの耐衝撃性が十分となり好ましい。一方、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有割合が3.0質量%未満であれば、樹脂組成物を押出機などで溶融製膜する際、押出吐出量が安定し、2.0質量%以下であれば、押出吐出量がより安定するので好ましい。特に、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有割合が1.2質量%以下であれば、脂肪族ポリエステル系樹脂の高透明性が維持されるので好ましい。
【0035】
また本シートを、長期保管用の包装容器等に使用する場合には、高温度、高湿度に対する耐久性を付与する目的で、加水分解防止剤を添加することが好ましい。
【0036】
本発明に用いられる加水分解防止剤としては、カルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物としては、例えば、下記一般式の基本構造を有するものが好ましいものとして挙げられる。

―(N=C=N−R−)

【0037】
式中、nは1以上の整数を示し、Rは有機系結合単位を示す。例えば、Rは脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかであることができる。また、nは、通常、1〜50の間で適当な整数が選択される。
【0038】
具体的には、例えば、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、および、これらの単量体が、カルボジイミド化合物として挙げられる。これらのカルボジイミド化合物は、単独で使用しても良いし、あるいは、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明においては、本シートを構成する脂肪族ポリエステル系樹脂100質量部に対して、カルボジイミド化合物を0.1〜3.0質量部添加することが好ましい。カルボジイミド化合物の添加量が0.1質量部以上であれば、得られるシートの耐久性が十分となるので好ましい。また、カルボジイミド化合物の添加量が3.0質量部以下であれば、得られるシートの着色が少なく、透明性が維持されるので好ましい。
【0040】
(他の成分)
本シートを形成する樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述したもの以外の他の樹脂等を含有してもよい。また、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、紫外線吸収剤、相溶化剤、滑剤、有機充填剤、無機充填剤及びその他の添加剤を含有してもよい。
【0041】
(脂肪族ポリエステル系樹脂シート)
本シートは、脂肪族ポリエステル系樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量配合してなる樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸してなるものであることが重要である。すなわち、本シートは、延伸シートであり、その延伸の程度としては、面積倍率で2倍以上に延伸することが好ましく、更に好ましくは4倍以上に延伸することであり、面積倍率の上限値は10倍以下であることが好ましい。また、延伸は二軸方向に延伸することが好ましく、二軸延伸により、物性の異方性の小さい、均質なシートが得られやすくなる。面積倍率として2倍以上に延伸することにより、得られるシートの、耐熱性や機械的強度の向上効果が十分得られるので好ましい。
本シートは、上記のように延伸して形成されることにより、その耐熱性や機械的強度が向上し、従来には実現し得なかった高度な耐熱性と良好な耐衝撃性を共に有するバランスのとれたシートが得られる。
【0042】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、脂肪族ポリエステル系樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを特定割合で配合してなる樹脂組成物を用いて形成された単層構成のシートであってもよいし、あるいは、該樹脂組成物を用いて形成された層を2層以上積層した多層構成のシートとしてもよい。
【0043】
多層構成のシートの場合には各層を形成する樹脂組成物は同一でも異なっていてもよく、また、他の層が積層されていても良い。例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを特定割合で配合してなる樹脂組成物Aから形成された樹脂層Aと、脂肪族ポリエステル系樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを特定割合で配合してなる樹脂組成物Bから形成された樹脂層Bとを備えた2種類の層からなるものを挙げることができ、樹脂層A/樹脂層B、樹脂層A/樹脂層B/樹脂層A、樹脂層B/樹脂層A/樹脂層Bの順に積層することが考えられる。また、樹脂層A及び樹脂層B以外に他の層を備えてもよく、樹脂層A及び樹脂層Bの各層間に他の層、例えば、接着層等を介在してもよい。
【0044】
(脂肪族ポリエステル系樹脂シートの製造方法)
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートの製造方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
以下に、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートの製造方法について一例を挙げて説明するが、下記製造法に何等限定されるものではない。
【0045】
まず、脂肪族ポリエステル系樹脂に特定割合のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合し、また必要に応じてその他の添加剤等を配合して樹脂組成物を作製する。具体的には、脂肪族ポリエステル系樹脂にポリグリセリン脂肪酸エステルを加え、さらに加水分解防止剤等を必要に応じて加えて、リボンブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合した後、バンバリーミキサー、1軸または2軸押出機等を用いて、樹脂の融点以上の温度(例えば乳酸系重合体の場合には170℃〜230℃)で混練することにより樹脂組成物を得ることができる。または、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、さらに必要に応じて加水分解防止剤等を別々のフィーダー等により所定量を添加することにより樹脂組成物を得ることができる。あるいは、予め、ポリグリセリン脂肪酸エステル、必要に応じて加水分解防止剤等を脂肪族ポリエステル系樹脂に高濃度に配合した、いわゆるマスターバッチを作っておき、このマスターバッチと脂肪族ポリエステル系樹脂とを混合して所望の濃度の樹脂組成物とすることもできる。
【0046】
次に、このようにして得られた樹脂組成物を溶融し、シート状に形成する。例えば、樹脂組成物を乾燥させた後、押出機に供給し、樹脂の融点以上の温度に加熱して溶融するか、あるいは、樹脂組成物を乾燥させずに押出機に供給しても良いが、乾燥させない場合には溶融押出する際に真空ベントを用いることが好ましい。押出温度等の条件は、分解によって分子量が低下すること等を考慮して設定されることが必要であるが、例えば、押出温度は乳酸系重合体の場合であれば170℃〜230℃の範囲が好ましい。その後、溶融した樹脂組成物をTダイのスリット状の吐出口から押し出し、冷却ロールに密着固化させてキャストシートを形成する。
【0047】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも1軸方向に1.1倍以上延伸して得ることが必要である。このように得られたキャストシートを延伸することにより、その耐熱性や機械的強度を向上させることができる。
【0048】
キャストシートを延伸する際の延伸温度は、樹脂のガラス転移温度(Tg)から+50℃の範囲内(Tg+50℃)程度の温度であることが好ましく、例えば乳酸系重合体の場合には50℃以上、90℃以下であることが好ましい。延伸温度がこの範囲であれば、延伸時にシートが破断することがなく、また延伸配向が高くなり、耐熱性や機械的強度の向上効果が得られやすくなるので好ましい。
【0049】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、二軸方向に延伸されていることが好ましく、二軸延伸することにより、物性の異方性の小さい、均質なシートが得られやすくなる。本発明において、二軸延伸の延伸順序は特に制限されることはなく、例えば、同時二軸延伸でも逐次延伸でも構わない。溶融製膜した後、延伸設備を用いて、ロール延伸によってMDに延伸した後、テンター延伸によってTDに延伸しても良いし、チューブラー延伸等によって二軸延伸を行ってもよい。
【0050】
本発明においては、脂肪族ポリエステル系樹脂シートに耐熱性あるいは寸法安定性を付与するために、延伸後に熱固定を行うことが好ましい。シートに熱固定するための処理温度は、90〜160℃であることが好ましく、110〜140℃であることが更に好ましい。熱固定に要する処理時間は、好ましくは1秒〜5分である。その際の延伸設備等については特に限定はないが、延伸後に熱固定処理を行うことができるテンター延伸を採用することが好ましい。
【0051】
(本シートの厚み)
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートの厚みは、特に限定されることはないが、通常は20μm〜500μmであり、実用面における取り扱い性を考慮すると50μm〜300μm程度の範囲内であることが好ましい。かかる範囲のシート厚みであれば、例えばフィルム、シート、袋、ケース等の形態の各種包装用資材や農業用資材など、広範な用途に用いることができる。
【0052】
(包装容器用プラスチックケース)
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、筐体等の形状のプラスチックケースに形成することができる。例えば、筐体等の角部分に折り曲がり線等を付してプラスチックケースを形成すれば、平面部分が平な面であり、良好な透明性を実現できる優れた包装容器用プラスチックケースが得られる。
【0053】
<用語の説明>
一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚みが極めて小さく、最大厚みが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JISK6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、一般にその厚みが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0054】
また、本明細書において「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含する。この際、当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100%含む)を占めるものである。
【0055】
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0057】
<測定及び評価方法>
以下に、実施例および比較例で得られたシートの各種物性値の測定方法及び評価方法について説明する。以下、シートの引取り(流れ)方向をMD、その直交方向をTDと表示する。
【0058】
(耐衝撃性)
得られたシートについて、下記の測定装置を用い、下記測定条件に基づいて最大衝撃力点エネルギー(kgf・mm)を測定した。得られた最大衝撃力点エネルギー(kgf・mm)を下記式に代入して耐衝撃性改善率を求め、下記評価基準に基づいて耐衝撃性の評価を行った。なお、記号「○」および「△」は実用可能レベル以上である。

測定装置:高速衝撃試験機 HTM−1型 (島津製作所社製)
試験温度:23℃
試験速度:3m/秒
撃芯径:0.5 inch
支持台:50mm

耐衝撃性改善率=(各シートの最大衝撃力点エネルギー/比較例1のシートの最大衝撃力点エネルギー)

評価基準:
○ 耐衝撃性改善率≧5の場合
△ 5>耐衝撃性改善率≧4の場合
× 耐衝撃性改善率<4の場合

【0059】
(耐熱性)
得られたシートより、100mm×100mmの正方形のサンプルを採取して、耐熱性試験片とした。耐熱性試験片の4辺の長さ(mm)を測定し、次いで、55℃に温度調節した恒温水槽に耐熱性試験片を10分間浸漬させた後の4辺の長さ(mm)を測定した。恒温水槽に浸漬させる前の4辺の長さの合計(Σ浸漬前の辺長さ)と、浸漬させた後の4辺の長さの合計(Σ浸漬後の辺長さ)を次式に代入して寸法変化量(mm)を求めて、下記評価基準に基づいて耐熱性の評価を行った。ただし、記号「○」および「△」は実用レベル以上である。

寸法変化量=|(Σ浸漬前の辺長さ)/4−(Σ浸漬後の辺長さ)/4)|(mm)

評価基準:
○ 寸法変化量≦1の場合
△ 1<寸法変化量≦2の場合
× 寸法変化量>2の場合

【0060】
(透明性)
得られたシートについて、下記測定装置を用い、下記測定規格に基づいてヘーズ(曇価)(%)を測定した。得られたヘーズ(%)を次式に代入してヘーズ変化量(%)を求め、下記評価基準に基づいて透明性の評価を行った。

ヘーズ変化量=(各シートのヘーズ)−(比較例2のシートのヘーズ)(%)

評価基準:
○ ヘーズ変化量≦0.3の場合
△ 0.3<ヘーズ変化量≦1.0の場合
× ヘーズ変化量>1.0の場合

ヘーズ(%)の測定:
測定装置:濁度計 NDH5000型(日本電色工業株式会社製)
測定規格:JIS K7361−1およびJIS K7136
【0061】
[実施例1]
(樹脂組成物の作製)
重量平均分子量20万の乳酸系重合体A(NW4043D:ネイチャーワークス社製、D体含有量4%)のペレット、およびポリグリセリン脂肪酸エステル(チラバゾールVR−17:太陽化学社製、重量平均分子量1,400)を90質量%/10質量%の割合で混合して混合物を形成した。この混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練後、ペレット化して、いわゆるマスターバッチを作製した。このマスターバッチと重量平均分子量20万の乳酸系重合体B(NW4032D:ネイチャーワークス社製、D体含有量1.5%)とを5質量%/95質量%の割合で混合し、樹脂組成物を作製した。
【0062】
(脂肪族ポリエステル系樹脂シートの作製)
得られた樹脂組成物を、200℃に加熱された押出機に供給した。押出機から、溶融状態の樹脂組成物を、Tダイを用いてシート状に押出し、冷却固化してシートを形成した。得られたシートを、温度75℃で、MDに2.5倍、TDに2.8倍の二軸延伸した後、120℃で30秒間熱処理し、厚さ50μmの脂肪族ポリエステル系樹脂シートを得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂シートについて、耐衝撃性、耐熱性、および透明性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
実施例1の樹脂組成物の作製において、マスターバッチと乳酸系重合体Bとを10質量%/90質量%の割合で混合した点を除いて、実施例1と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂シートを得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂シートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
[実施例3]
実施例1の樹脂組成物の作製において、マスターバッチと乳酸系重合体Bとを15質量%/85質量%の割合で混合した点を除いて、実施例1と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂シートを得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂シートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
[実施例4]
実施例1の樹脂組成物の作製において、マスターバッチと乳酸系重合体Bとを2.5質量%/97.5質量%の割合で混合した点を除いて、実施例1と同様にして、脂肪族ポリエステル系樹脂シートを得た。得られた脂肪族ポリエステル系樹脂シートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
(樹脂組成物の作製)
重量平均分子量20万の乳酸系重合体A(NW4043D:ネイチャーワークス社製/D体含有量4%)のペレット、およびポリグリセリン脂肪酸エステル(チラバゾールVR−17:太陽化学社製、重量平均分子量1,400)を90質量%/10質量%の割合で混合して混合物を形成した。この混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練後、ペレット化して、いわゆるマスターバッチを作製した。このマスターバッチと重量平均分子量20万の乳酸系重合体B(NW4032D:ネイチャーワークス社製、D体含有量1.5%)とを15質量%/85質量%の割合で混合し、樹脂組成物を作製した。
【0067】
(シートの作製)
得られた樹脂組成物を、200℃に加熱された押出機に供給した。押出機から、溶融状態の樹脂組成物を、Tダイを用いてシート状に押出し、冷却固化してシートを形成し、そのまま厚さ50μmのシート(未延伸)を得た。得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
[比較例2]
実施例1の樹脂組成物の作製において、重量平均分子量20万の乳酸系重合体B(NW4032D:ネイチャーワークス社製、D体含有量1.5%)のペレットを、そのまま樹脂組成物として用いた点を除いて、実施例1と同様にして、シートを作製した。得られたシートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例1の樹脂組成物の作製において、マスターバッチと乳酸系重合体Bとを30質量%/70質量%の割合で混合した点を除いて、実施例1と同様にして、シートの作製を試みたが、押出機からの吐出量が安定せず、外観の良好なシートは得られなかった。したがって、このシートについては、実施例1と同様の評価を行うことはできなかった。
【0070】
【表1】



【0071】
表1から明らかなように、実施例1〜4の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、耐衝撃性改善率が4以上であり、実用可能レベル以上の耐衝撃性を有しており、特に実施例1〜3のシートは耐衝撃性改善率が6以上であり非常に優れた耐衝撃性を有することが分かった。一方、比較例1および2のシートは、耐衝撃性改善率が低く、耐衝撃性に劣っていることが分かった。
【0072】
また、実施例1〜4の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは寸法変化量が2mm以下であり、実用レベル以上の耐熱性を満たしているのに対して、比較例1のシートは波打ち、変形が著しく、耐熱性が劣っており実用に供することはできないことがわかった。さらに、実施例1〜4の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、ヘーズ変化量が1.0%以下であり、良好な透明性を有していることがわかった。
【0073】
以上より、実施例1〜4の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、良好な耐衝撃性、高度な耐熱性および良好な透明性の全ての特性を備えているシートであることがわかった。
【0074】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂シートは、高度な耐熱性が要求されるプラスチックケース等の用途に用いることができ、例えば化粧品や日用品等の小間物を収納して販売や展示に供する透明なプラスチックケースに好適に用いられ、プラスチックケースの平面部分は平らで透明な外観良好なケースが得られることもわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、該脂肪族ポリエステル系樹脂及び該ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対し、0.2質量%以上、3.0質量%未満である樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸して成ることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項2】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの重量平均分子量が、1,000以上、3,000未満であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項3】
前記樹脂組成物を溶融製膜した後、面積倍率で2倍以上となるように、少なくとも一軸方向に延伸して成ることを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項4】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記脂肪族ポリエステル系樹脂及び前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対して、0.5質量%以上、2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項5】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記脂肪族ポリエステル系樹脂及び前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの合計量100質量%に対して、0.5質量%以上、1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項6】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂が、乳酸系重合体であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項7】
前記乳酸系重合体のD−乳酸とL−乳酸との構成比が、D−乳酸:L−乳酸=99.5:0.5〜95:5、又は、D−乳酸:L−乳酸=0.5:99.5〜5:95であることを特徴とする請求項6に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂シートを用いて成ることを特徴とする包装容器用プラスチックケース。

【公開番号】特開2013−103946(P2013−103946A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246363(P2011−246363)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】