説明

脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法

【課題】耐水性が改善される脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、脂肪族ポリエステル系樹脂と、含水率が1.5wt%以下のリン酸エステルとを溶融混練することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物及びその製造方法に関し、特にリン酸エステルの配合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸やポリグリコール酸などに代表される脂肪族ポリエステルは、生分解性に優れている。中でもポリグリコール酸(以下、PGA)は、耐熱性、ガスバリア性、機械的強度等に優れており、単独又は他の樹脂材料と複合化したうえで各種シート、フィルム、容器、射出成型品、繊維、微粉体などの用途展開が図られている。
そして、溶融加工時の熱安定性を向上させることを目的として、この脂肪族ポリエステル系樹脂にリン酸エステルを配合し、溶融混練することにより、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を製造している(例えば、特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−095526号公報
【特許文献2】特開2007−126653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、一般に加水分解性を有しているために、この加水分解の進行の程度によっては、ガスバリア性や機械的強度が低下することがある。リン酸エステルは、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の熱安定性向上に作用し、熱分解物の生成を抑制するため、その脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の耐水性も向上させる効果を有する。通常市販のリン酸エステルは、比較的高濃度の水分を含有するが、脂肪族ポリエステル系樹脂組に配合して使用する場合は、その配合量が組成物全体からすれば数百ppm程度の微小量であるために、含有水分が脂肪族ポリエステル系樹脂組の耐水性などの品質に影響しないと推定されていた。そのため、リン酸エステルは、市販品をそのまま使用し厳密な水分量管理の必要性を認識せずに使用するのが実状であった。
【0005】
一方、発明者らは、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の品質として特に耐水性の変動の改善とより一層の向上のために鋭意検討した結果、リン酸エステルに含有する極微量の水分が脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の耐水性に影響し、その含有量を一定値以下に制御することにより、品質として特に耐水性が安定した脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を製造することが可能なこと、更に、水分含有量をより一層低減させることにより、従来よりも耐水性の向上が可能なことを見出した。従来より脂肪族ポリエステル系樹脂組成物中の水分量と耐水性の関係は知られており(図2参照)、その組成物成分として使用するリン酸エステル中の水分も耐水性に作用することも推定される。しかしながら、驚くべきことに、リン酸エステル中の水分の耐水性向上作用(図1参照)は従来知られる組成物中の水分の作用よりはるかに大きいことを見出し、本発明に達した。
【0006】
従来、ポリグリコール酸系樹脂組成物中に含まれる水分量と耐水性の関係は図2の如く得られている。すなわち、この図に基づく従来知見によれば、ポリグリコール酸系樹脂組成物中の水分2ppm減少するとポリグリコール酸の重量分子量が7万(初期は19万)に到達する時間が約1.2時間延長(耐水化により水分分解時間遅延)されることが分る。一方、リン酸エステルを200ppm添加するポリグリコール酸系樹脂組成物において、そのリン酸エステル中の水分量と耐水性の関係は図1の如く見出した。すなわち、リン酸エステル中の水分量1wt%の変化はポリグリコール酸系樹脂組成物中の水分量としては2ppmになるが、この水分量の変化に対する耐水化時間は約16時間であり、顕著に耐水性向上に作用している。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、耐水性の改善された脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、脂肪族ポリエステル系樹脂と、含水率が1.5wt%以下のリン酸エステルとを溶融混練することを特徴とする。
このように製造された脂肪族ポリエステル系樹脂組成物において、50℃×90%RH環境に暴露して重量平均分子量Mwが7×104に到達するのが120時間以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、耐水性の改善された脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】配合されるリン酸エステルの含水率(wt%)と、PGA樹脂組成物の重量平均分子量Mwが19×104から7×104に到達する時間との関係を示すグラフ。
【図2】原料PGA中の含水率(ppm)と、PGA樹脂組成物の重量平均分子量Mwが19×104から7×104に到達する時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物、及びその製造方法の好ましい実施形態について説明する。
(脂肪族ポリエステル系樹脂)
脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂は、グリコール酸およびグリコール酸の二分子環状エステルであるグリコリド(GL)を含むグリコール酸類、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;等の脂肪族エステルモノマー類の単独または共重合体が挙げられる。
【0012】
(ポリグリコール酸系樹脂)
脂肪族ポリエステル系樹脂の中でも、耐熱性、ガスバリア性、機械的強度の観点でグリコール酸の単独または共重合体を含むポリグリコール酸系樹脂が好ましく用いられる。より詳しくは、式:−(O・CH2・CO)−で表わされるグリコール酸の繰り返し単位のみからなる単独重合体や、この繰り返し単位を60wt%以上含むグリコール酸共重合体を含むものである。ポリグリコール酸系樹脂の上記グリコール酸の繰り返し単位の含有割合は60wt%以上としたが、70wt%以上であることがより好ましく、80wt%以上であることが特に好ましい。この含有割合が小さ過ぎると、結晶性が低下する傾向があり、また耐熱性、強度及び安定性が損なわれる傾向がある。
ポリグリコール酸系樹脂の合成法としては、グリコール酸単独および必要に応じて共重合成分を加えて縮合重合する方法の他、グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドおよび必要に応じて共重合成分の環状エステルを加えて開環重合する方法が挙げられる。
【0013】
本発明で使用するポリグリコール酸系樹脂は、温度240℃における剪断速度122sec-1の条件下で測定した溶融粘度が、100〜10,000Pa・s、より好ましくは300〜8,000Pa・s、特に好ましくは400〜5,000Pa・sの範囲内にあることが好ましい。
【0014】
(リン酸エステル)
脂肪族ポリエステル系樹脂組成物には、熱安定性向上を目的として、主成分の脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部に対し、リン酸エステルが好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.005〜1重量部の割合で配合される。0.003重量部未満では配合効果が乏しく、3重量部を超えると、溶融混練が不十分になり易い。
さらに、リン酸エステルは、主成分の脂肪族ポリエステル系樹脂と混練される前に、乾燥され、その含水率が1.5wt%以下、好ましくは0.7wt%以下の範囲をとるようにする。この含水率が1.5wt%より大きいと製造される脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の耐水性が低下してしまう。
【0015】
このようなリン酸エステルとして、少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基とを持つリン化合物が挙げられる。この長鎖アルキルの炭素原子数は、8〜24個の範囲が好ましい。この炭素原子数が8未満では、溶融温度において揮発しやすいため添加するのが難しく、24を超えると、溶融混練が不十分となる。また、固体形状で投入する場合、投入量安定性の観点から500g/h以下で連続投入する場合は粒径3.0mm以下に細粒化したものが好ましく、300g/h以下の場合は2.0mm以下の細粒品がより好ましい。この粒径を超えると投入量が不安定になり易い。リン酸エステルの具体例としては、モノ又はジステアリル酸リン酸エステルが挙げられる。
【0016】
その他、適用されるリン酸エステルとしては、ペンタエリスリトール骨格構造を有するものが挙げられる。具体例としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等が挙げられる。
【0017】
これらのリン酸エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
リン酸エステルの水分量を一定値以下に調整する方法としては、入荷したリン酸エステルを防湿袋内に封入する、金属やガラスなどの容器内に入れて密封する、あるいは乾燥ガスを通気させた容器内に保管する等の方法が挙げられる。
【0018】
更にリン酸エステルの水分量を減少させる方法としては、一般的に使用される乾燥方法が用いられる。具体的な例としては、熱風乾燥法、放射乾燥法、伝導乾燥法、真空乾燥法などが挙げられ、装置の例としてはホッパードライヤー、棚段乾燥機、通気型乾燥機、撹拌型乾燥機、連続式熱風搬送型乾燥機、などが挙げられるが、これらに限定するものではない。特に固体のリン酸エステルを乾燥する場合には乾燥ガスを通気させながらその融点以下の温度で乾燥させることが好ましい。
【0019】
(カルボキシル基封止剤)
ポリグリコール酸系樹脂組成物には、耐水性向上を目的として、主成分のポリグリコール酸系樹脂100重量部に対して、カルボキシル基封止剤を好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜2重量部、さらに好ましくは0.2〜1重量部の割合で配合することが出来る。
このようなカルボキシル基封止剤としては、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミドを含むカルボジイミド化合物、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物、2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物、N−グリシジルフタルイミド、シクロヘキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。
これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能である。
【0020】
(その他の添加剤)
本発明の効果を損なわない範囲において、可塑剤、熱線吸収剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、結晶核剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加することが出来る。これ等の添加場所、添加手段は従来公知のものを採用できる。
【0021】
(混合)
脂肪族ポリエステル系樹脂と乾燥リン酸エステル化合物をドライエアーや窒素による除湿対策が講じられたタンブラーブレンダー、ヘンシェルブレンダー、ローターブレンダー、リボンブレンダー、など汎用タイプブレンダーを用いて室温からリン酸エステル化合物の融点を超える温度、(ただし脂肪族ポリエステル系樹脂の融点以下)でブレンドし,次工程である溶融混合に供することが好ましい。又、後述するように溶融混合中にホッパー等から固体或は溶解状態で投入し混合することも出来る。
【0022】
(溶融混練)
脂肪族ポリエステル系樹脂と乾燥リン酸エステル化合物の溶融混練装置は一軸押出機、二軸押出機(パラレル・コニカルタイプ)など連続式混合機等汎用押出機が有効で、スクリュは浅溝、深溝タイプフルフライトや必要に応じて混練度合いを調整できるセグメント式などを使用して溶融混合される。溶融混練温度は樹脂組成や添加剤の種類によるが通常100〜300℃が好ましい。
【0023】
(添加剤の添加方法)
脂肪族ポリエステル系樹脂と乾燥リン酸エステル化合物のコンパウンドを成形機ホッパーより連続供給装置を用いて所定量連続投入する方法、若しくは脂肪族ポリエステル系樹脂と乾燥リン酸エステル化合物を別々の連続定量供給装置から所定量を連続投入する方法が採用される。後者の場合、リン酸エステル化合物を溶融させて連続添加することもできる。この時の供給手段はギヤポンプなどが有効である。更にはリン酸エステルの添加量が少ない場合は、予め脂肪族ポリエステル系樹脂とリン酸エステルを粉末ブレンドしたもの或は両者を溶融混合してペレット化した高濃度リン酸エステルのマスターバッチを製造し、それを所定量になるよう連続添加する方法も採用できる。
【0024】
又、他の添加剤を溶融混合する場合も、この方法が適用できる。更に、複数の添加剤を導入する場合、添加剤間で反応することが不利益になるときは、必要に応じて添加剤を別々の場所から添加からすることが有効である。添加場所としては押出機の途中が容易で、添加後混合や反応が十分満たされるようにL/D(スクリュ長さ/スクリュ径)やスクリュデザインなど押出機に制限はない。添加順序はリン酸エステル化合物等熱安定剤を初期に導入することが望ましい。尚、一度添加剤を溶融混合した脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を再度別な添加剤と溶融混合する方法も適用できる。
【0025】
(ストランド引取りとペレット化)
このようにして混練溶融されて押し出されたストランドをペレット化する方法は先ずストランドを汎用コンベアー又はメッシュコンベアーなどで引取りながら徐冷する方法、コンベアー上で送風による強制冷却又はミストを噴霧して冷却する方法やストランドを直接水槽(好ましくは10℃〜70℃)に浸漬し、取り出し後、送風により付着水を除去する一般的な冷却引取り方法が採用できる。冷却調整や水滴除去のため、ブロアー等の装置使用は有効である。冷却されたストランドは汎用のストランドカッターで所定のサイズに切り、ペレット化される。
【0026】
(ペレットの乾燥・熱処理)
成形されたペレットはストランドの冷却方法や作業環境により水分を吸着している。
脂肪族ポリエステル系樹脂は一般的に加水分解性であり、その加水分解に伴い、ガスバリアー性や機械的強度が低下する問題がある。又、ペレット化後の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は未反応モノマーなどを含んでおり、加水分解を促進する恐れがあるため、用途に制限を受ける場合がある。これらの水分や未反応モノマーを除去する場合、その手段は除湿ホッパードライヤー、パドルドライヤー、ロータリードライヤー、振動ドライヤー、PVミキサー、SVミキサー、ダブルコーンドライヤー、棚式ドライヤー、真空乾燥機、ヘンシェルミキサー、棚段式乾燥機、ドラムドライヤー、ロータリーキルンなどの乾燥処理装置が採用される。
【0027】
又、乾燥処理は吸着水が樹脂の表面に存在している成形直後が効果的である。その時の乾燥温度は室温以上で好ましくは40℃〜150℃で乾燥時間は30分から80時間、好ましくは2h〜48hである。一方、未反応モノマー除去温度は100℃以上で脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の融点以下が好ましく、高温ほど短時間で除去できるが、着色し易くなるため樹脂組成や添加剤配合処方により調整が必要である。尚、乾燥及び未反応モノマー処理は露点10℃以下、好ましくは0℃以下、特に好ましくは−20℃以下のドライエアー若しくは窒素ガスを使用し、処理温度又はそれに近い温度に調整して吹き込むと効率が良い。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例および参考例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、本明細書に記載の特性値は、以下の方法による測定値に基づくものである。
【0029】
(リン酸エステルの含水率調整)
モノ及びジステアリルリン酸エステルの等モル混合物((株)ADEKA製「アデカスタブAX−71」)に対し次の乾燥処理を施して、含水率の異なる数種類(実施例1〜4)のリン酸エステルを作製した。
(実施例1)露点−49℃、室温20℃環境下に設置したオーブンを50℃にセットし4時間乾燥。
(実施例2)室温20℃、相対湿度40%環境下に設置したオーブンを50℃にセットして4時間乾燥。
(実施例3)室温35℃、相対湿度50%環境下に設置したオーブンを50℃にセットして4時間乾燥。
(実施例4)特に調整を行わない乾燥大気中に放置。
(比較例)30℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽内に入れ、1日間放置。この比較例の設定は、高温多湿で保存されたリン酸エステルを再現させる条件である。
【0030】
(含水率測定)
カールフィッシャー水分計を用いて約2gに秤量したリン酸エステル(実施例1〜4、比較例)の含水率を測定した。
装置 :三菱化学製「CA−100」(気化装置「VA−100」)
気化温度 :80℃
キャリヤーガス :窒素,250ml/min
エンドセンス :バックグラウンドより+0.05μg/sまで低下した時点で測定を終了した。
その結果、表1に示すように、リン酸エステルの含水率は、実施例1で0.10wt%、実施例2で0.23wt%、実施例3で0.47wt%、実施例4で0.76wt%、比較例で1.80wt%とする結果が得られた。
なお、後記する原料PGAの含水率測定は、気化温度を220℃に設定した以外は、上記方法に準じて実施した。
【0031】
(PGA組成物の作製)
PGA((株)クレハ製;Mw=19×104,含水率43.4ppm)/100g、リン酸エステル(実施例1〜4、比較例)/0.02g(200ppm)、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI)(川口化学(株)製「DIPC」)/0.3g(0.3phr)を、220〜250℃に温度設定された押出機で溶融混練し、ペレット化した。そして、このペレットを180℃×35hrで熱処理して、残モノマーを除去した。
【0032】
(耐水性評価)
得られたPGA組成物のペレットを、280℃でプレスしてシート化し、50℃×90%RH環境下に暴露し、所定時間経過毎に、下記方法により重量分子量を測定した。そして、得られた結果から近似曲線を作成してPGAの当初重量平均分子量(Mw=19×104)が、Mw=7×104になるまでの時間を算出した。PGA組成物の耐水性を評価した結果を表1に示す。図1は、この表1の結果をグラフ化したものである。
【0033】
(分子量測定)
シート化されたPGA組成物のサンプル約10mgを採取し、このサンプルを5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液10mlに溶解させた。このサンプル溶液をポリテトラフルオロエチレン製の0.1μmメンブレンフィルターで濾過後、20μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置に注入し、下記の条件で分子量を測定した。
なお、実施例及び比較例においてPGAの耐水性を、当初重量平均分子量(Mw=19×104)が、Mw=7×104に到達する時間に基づいて評価している。しかし、実際に評価対象となるPGAサンプルの当初重量平均分子量は特に限定はなく、Mw=19×104に内挿又は外挿して得られる平均分子量Mw−時間の依存曲線に基づいてPGAの耐水性を評価することができる。
【0034】
GPC測定条件は次の通りである。
装置:昭和電工(株)製「Shodex−104」
カラム:HFIP−606Mを2本、プレカラムとしてHFIP−Gを1本直列接続、
カラム温度:40℃、
溶離液:5mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液、
流速:0.6ml/分、
検出器:RI(示差屈折率)検出器、
分子量校正:分子量の異なる標準ポリメタクリル酸メチル5種を用いた。
【0035】
次に、参照例として表2に示すように、含水率の異なる原料PGA(参照例1〜6)を作製し、当初重量平均分子量(Mw=19×104)が、Mw=7×104になるまでの到達時間を導いた。図2は、この表2の結果をグラフ化したものである。
なおポリグリコール酸系樹脂組成物は、原料組成物中の水分含水率が高いほど分解速度が大きくなることは元より知られている。
【0036】
ここで、PGA組成物におけるリン酸エステルは、主成分のPGAに対して200ppm程度しか配合されていないことを鑑みると、仮にこのリン酸エステルの含水率の変動量が1wt%であった場合、PGA組成物全体の変動量に換算すると2ppm程度にすぎない。
【0037】
ここで、図2の結果から、PGAの含水率2ppmの変化がおよぼすMw到達時間の変動量は、約1.2時間である。一方、図1の結果から、リン酸エステルの含水率1wt%の変化がおよぼすMw到達時間の変動量は、約16時間となっている。
以上より、リン酸エステルを乾燥する工程を経てから、PGAに配合させることにより、製造されるPGA組成物の耐水性が顕著に向上するという知見が得られた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
上述したように、本発明によれば、耐水性に優れるポリグリコール酸系樹脂組成物の製造方法が得られる。これにより、耐水背が改善され、品質の安定したポリグリコール酸系樹脂組成物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂と、含水率が1.5wt%以下のリン酸エステルとを溶融混練することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル系樹脂と、含水率が0.7wt%以下のリン酸エステルとを溶融混練することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、前記脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部に対し、前記リン酸エステルが0.003〜3重量部の割合で配合されることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、前記リン酸エステルは、少なくとも1つの水酸基及び少なくとも1つの長鎖アルキルエステル基、又はペンタエリスリトール骨格構造を有することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、リン酸エステルを乾燥する工程と、乾燥したリン酸エステルをポリグリコール酸系樹脂に配合し溶融混練する工程と、を含む脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、前記脂肪族ポリエステル系樹脂100重量部に対し、カルボキシル基封止剤0.01〜10重量部をさらに配合することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法において、前記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物がポリグリコール酸系樹脂組成物であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により製造された脂肪族ポリエステル系樹脂組成物おいて、50℃×90%RH環境に暴露して重量平均分子量Mwが7×104に到達するのが120時間以上であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物において、前記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物がポリグリコール酸系樹脂組成物であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−229404(P2012−229404A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85606(P2012−85606)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】