説明

脂肪族ポリエステル系樹脂組成物

【課題】結晶化効果と可塑化効果とが付与され、成形体や繊維への加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)などの3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、結晶化促進および可塑性向上用添加剤として、分子中にポリ乳酸からなる分岐鎖を少なくとも2個有する分岐状ポリ乳酸を1〜30重量部添加した脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル系樹脂組成物に関するものであり、特に自然環境中で微生物の作用を利用して生成される微生物産生ポリエステル樹脂を、種々の産業用資材として適用するためのポリエステル系樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、地球規模での循環型社会の実現が切望される中で、使用後、微生物の働きによって分解される生分解性樹脂が注目を集めている。その中でも、炭酸ガス排出量削減、固定化(カーボンニュートラル)という観点から、植物由来の脂肪族ポリエステルである3−ヒドロキシアルカノエート重合体(以下、「PHA」と略記することもある。)などが注目されている。
【0003】
しかしながら、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体は、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際し、加熱溶融後、固化のための冷却時間を長くする必要があり、生産性が悪い、成形後に起こる2次結晶化により機械物性(特に、引張破断伸度などの靭性)が経時劣化する、という問題点がある。
【0004】
このため、従来から、3−ヒドロキシアルカノエート重合体に、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などの無機物を配合して結晶化を促進しようとする提案があった。しかし、得られた成形体の強度が低下する、成形体表面外観が悪化する、などの弊害が多く、効果は不十分であった。無機物を用いないで3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化を促進する試みとしては、核生成剤としてソルビトールアセタールが挙げられている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、その効果は不十分であった。
【0005】
一方、3−ヒドロキシアルカノエート重合体に可塑剤を添加して機械物性を改善する試みとして、フタル酸エステルやグルタミン酸ジアルキレンオキサイド、トリアセチン、ジアセチンまたはグリセリルジベンゾエートなどの高沸点エステルや一部の多価アルコール、パラトルエンスルホンアミド等の芳香族スルホンアミド、分子中に少なくとも3つのエステル基を有する二重にエステル化されたヒドロキシカルボン酸、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、n−ブチルトリ−n−ヘキシルシトレート、トリ−n−ブチルシトレートなどのシトレート類、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジ−イソデシルアジペート、ジ−イソノニルアジペート、ジオクチルアジペートなどのアジペート類、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールカプリレートなどの高分子量グリコール類、グリセロールトリカプロレートやグリセロールトリブチレートなどのグリセロール誘導体、ペンタエリトリトール類およびその誘導体、脂肪酸のエポキシ化されたエステル類、エポキシ化された大豆油、エポキシ化されたアマニ油やエポキシ化されたオクチルフタレートまたはエポキシ化されたグリコールオレエートなどのエポキシ誘導体、ソルビタンモノラウレートやソルビタンモノオレエートまたはポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウレートなどの置換された脂肪酸などが挙げられている(例えば、特許文献2〜7参照。)。しかし、これらも効果が不十分であり、また、経時により可塑剤が成形品の表面にブリードアウトするなど、耐久性にも難点があった。
【0006】
また、別の試みとして、多価カルボン酸と多価アルコールとからなるポリエステルポリオール化合物をポリ乳酸に加えることが提案されている(例えば、特許文献8〜11参照。)。しかしながら、引張破断伸度などの靭性向上の効果は小さく、更に結晶化核剤としての効果については記載も示唆もされていない。
【0007】
その他の試みとして、レプリン酸エステルの誘導体のような分岐鎖構造を有する化合物をヒドロキシアルカノエート重合体の可塑剤とすることも提案されている(例えば、特許文献12参照。)。しかし、当該文献には、実施例の記載がないのでヒドロキシアルカノエート重合体に対する効果は不明であるが、当該レプリン酸エステル誘導体の構造からするとヒドロキシアルカノエート重合体との相溶性は良くないので、可塑剤としての効果は高くないと予想され、更に結晶化核剤としての効果については記載も示唆もされていない。
【0008】
更に、引張破断伸度の改良としては、3−ヒドロキシアルカノエート共重合体に、アセチル化率50%以上のポリグリセロール酢酸エステル100〜50重量%およびモノグリセロールエステル0〜50重量%からなる変性ポリグリセリンを添加することも提案されている(例えば、特許文献13参照。)。これにより、引張破断伸度の向上は見られるものの、3−ヒドロキシアルカノエート共重合体の結晶化が不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2006−525136号公報
【特許文献2】特表平8−510293号公報
【特許文献3】特表平9−501450号公報
【特許文献4】特表2003−519708号公報
【特許文献5】特表2004−510867号公報
【特許文献6】特表2005−501927号公報
【特許文献7】特表2006−525380号公報
【特許文献8】特開2008−019419号公報
【特許文献9】特開2008−019418号公報
【特許文献10】特開2008−101101号公報
【特許文献11】国際公開第09/013847号
【特許文献12】特表2009−523896号公報
【特許文献13】国際公開第08/018567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、結晶化効果と可塑化効果とが付与され、成形体や繊維への加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、植物由来の生分解性脂肪族ポリエステルである3−ヒドロキシアルカノエート重合体に、分岐状ポリ乳酸を分散させることで、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体に結晶化効果と可塑化効果とが付与され、成形体や繊維などへの加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができ、上記目的を達成し得ることを見出だし、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の第一は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位からなる3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、分岐状ポリ乳酸を1〜30重量部含有してなる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物に関する。
[−CHR−CH2−CO−O−] (式1)
(但し、式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基を表し、n=1〜15の整数である。)。
【0013】
本発明の第二は、前記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物からなるポリエステル系樹脂製品に関する。
【0014】
本発明の第三は、前記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるポリエステル系樹脂成形体に関する。
【0015】
本発明の第四は、前記脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸してなるポリエステル系繊維に関する。
【0016】
本発明の第五は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位からなる3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、分岐状ポリ乳酸を1〜30重量部添加することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法に関する。
[−CHR−CH2−CO−O−] (式1)
(但し、式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基を表し、n=1〜15の整数である。)。
【0017】
本発明の第六は、分岐状ポリ乳酸からなる、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化促進および可塑性向上用添加剤に関する。
【0018】
好ましい実施態様では、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート)からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0019】
また、好ましい実施態様では、前記分岐状ポリ乳酸が、分子中にポリ乳酸からなる分岐鎖を少なくとも2個有する。
【0020】
また、好ましい実施態様では、前記分岐状ポリ乳酸が、分子中に少なくとも2個の水酸基および/またはエポキシ基を有する油脂において、
(a)前記水酸基にポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、または
(b)前記エポキシ基が開環して、ポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている。
【0021】
更に、好ましい実施態様では、前記油脂が、ヒマシ油、ポリヒマシ油、水酸基化大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化パーム油およびエポキシ化亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0022】
また、別の好ましい実施態様では、前記分岐状ポリ乳酸が、その分子末端に、脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族多価カルボン酸から選択される少なくとも1つの官能基が導入されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明で用いる分岐状ポリ乳酸は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化を促進するとともに、可塑化効果により引張破断伸度などの靭性を付与することができる。よって、本発明によれば、植物由来の生分解性ポリエステル系樹脂であって、結晶化効果と可塑化効果とが付与され、成形体や繊維への加工が容易で、しかも機械物性に優れた成形体や繊維を得ることができる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1において、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「PHB」と略記することもある。)の結晶化が促進されたことを示す、DSCによる等温結晶化測定結果のグラフであり、(a)は、原料A−1(PHB)=100重量部と原料B−2=5重量部からなる樹脂組成物(実施例1)および原料A−1(PHB)のみの場合(比較例1)の等温結晶化速度の測定結果を示し、(b)は原料A−1(PHB)=100重量部と原料B−2=5重量部からなる樹脂組成物(実施例1)および原料A−1(PHB)のみの場合(比較例1)の結晶化温度と半結晶化時間t1/2との相関関係を示す。
【図2】本発明の実施例2〜5において、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(以下、「PHBV」と略記することもある。)の結晶化が促進されたことを示すDSCによる冷却時結晶化測定結果のグラフであり、原料A−2(PHBV)=100重量部と原料B−1〜B−4=それぞれ5重量部からなる樹脂組成物(実施例2〜5)および原料A−2(PHBV)のみ(比較例2)の冷却時結晶化速度の測定結果を示す。
【図3】本発明の実施例6〜9において、PHBVの結晶化が促進されたことを示すDSCによる冷却時結晶化測定結果のグラフであり、原料A−2(PHBV)=100重量部と原料B−5〜B−8=それぞれ5重量部からなる樹脂組成物(実施例6〜9)および原料A−2(PHBV)のみ(比較例2)の冷却時結晶化速度の測定結果を示す。
【図4】本発明の実施例10において、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「PHBH」と略記することもある)の結晶化が促進されたことを示す偏光顕微鏡による球晶の写真であり、(a)は、原料A−3(PHBH)=100重量部と原料B−2=5重量部からなるポリエステル樹脂組成物(実施例10)の球晶の状態を示し、(b)は、原料A−3(PHBH)のみ(比較例3)の偏光顕微鏡による球晶の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0026】
<3−ヒドロキシアルカノエート重合体>
本発明で使用する3−ヒドロキシアルカノエート重合体は、環境への負荷の観点から、微生物から生産されるものが好ましい。3−ヒドロキシアルカノエート重合体は、[−CHR−CH2CO−O−](ただし、式中RはCn2n+1で表されるアルキル基で、n=1〜15の整数)で示されるヒドロキシアルカン酸の繰り返し単位を有する重合体である。
【0027】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体を生産する微生物としては、3−ヒドロキシアルカノエート重合体類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)生産菌としては、1925年に発見されたバチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)が最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator、旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus))、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)などの天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。
【0028】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(PHBV)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(PHBH)生産菌であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator、旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus))などが知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、3−ヒドロキシアルカノエート重合体合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファスAC32株(Alcaligenes eutrophus AC32 FERM BP−6038)、(T.Fukui、Y.Doi,J.Bacteriol.,179,4821(1997))などがより好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHBV、PHBHなどが蓄積される。
【0029】
また、上記以外にも、生産したい3−ヒドロキシアルカノエート重合体に合わせて、各種3−ヒドロキシアルカノエート重合体合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み替え微生物を用いても良い。また、これら微生物の培養により3−ヒドロキシアルカノエート重合体を効率よく生産するには、基質の種類を含む培養条件を最適化すればよい。
【0030】
本発明で使用する3−ヒドロキシアルカノエート重合体の具体例としては、3−ヒドロキシブチレート(3HB)、3−ヒドロキシヘキサノエート(3HH)、3−ヒドロキシバリレート(3HV)、3−ヒドロキシオクタノエート(3HO)、3−ヒドロキシデカノエート(3HD)、3−ヒドロキシプロピオネート(3HP)などのホモポリマーや、それらの共重合体が挙げられる。本発明には、特にポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)(PHBV)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)などが適しているが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明で使用する3−ヒドロキシアルカノエート重合体の重量平均分子量は、30万〜300万が好ましく、40万〜250万がより好ましく、50万〜200万がさらに好ましい。3−ヒドロキシアルカノエート重合体の重量平均分子量が30万未満では、成形品の強度などの機械物性が劣る場合があり、300万を超えると成形加工が難しくなる場合がある。なお、前記重量平均分子量は、クロロホルム溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算分子量分布より測定されたものをいう。
【0032】
<分岐状ポリ乳酸>
本発明で使用する分岐状ポリ乳酸は、乳酸を構成単位とする分岐鎖、すなわち、ポリ乳酸鎖または乳酸オリゴマー鎖(以下、乳酸オリゴマー鎖も含めて「ポリ乳酸鎖」という。)を分子中に平均で(以下、同じ)少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個有する分岐状ポリマーである。具体的には、分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個の水酸基を有する油脂(トリアシルグリセロール)の水酸基に、ポリ乳酸または乳酸オリゴマー(以下、乳酸オリゴマーも含めて「ポリ乳酸」という。)のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている。あるいは、分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個のエポキシ基を有する油脂(トリアシルグリセロール)のエポキシ基が開環して、ポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている。そのため、油脂を起点として少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個のポリ乳酸鎖が延び、各ポリ乳酸鎖の末端には水酸基が存在する。このような分岐状ポリ乳酸は、ポリエチレンアジペートやポリブチレンアジペートなどの他のポリエステルポリオール化合物に比べて、同等の分子量であっても、ガラス転移温度、融点および結晶化度が低い。更に、油脂およびポリ乳酸鎖の構成によっては非晶性であり得る。
【0033】
本発明で使用する分岐状ポリ乳酸は、例えば、国際公開2008/29527号に記載の方法で得られる。すなわち、分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個の水酸基および/またはエポキシ基を有するトリアシルグリセロールを主成分とする油脂の存在下に、(a)ラクチドを開環重合させる工程または(b)乳酸を脱水縮合重合させる工程のいずれかの工程によって得られる。
【0034】
(油脂)
上記のように、本発明で使用する分岐状ポリ乳酸の製造に使用する油脂は、分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個の水酸基を有するトリアシルグリセロール、または分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも2.5個のエポキシ基を有するトリアシルグリセロールを主成分とする。以下、これらの油脂を、それぞれ水酸基化油脂またはエポキシ化油脂という場合がある。
【0035】
本発明において、油脂とは、炭素数の多い脂肪酸(高級脂肪酸)とグリセリンとのエステルをいい、サラダオイルや大豆油のように常温で液体の脂肪油も、ラードや牛脂のように常温で固体の脂肪も、総称して油脂という。本発明においては、再生可能資源である点で、天然物由来の油脂が好ましい。このような油脂は、当業者が通常用いる手段によって得られる。例えば、豆や種などを原料として、脱穀・粉砕・蒸煮(熱処理)などの前処理を施した後に、融出法、圧搾法、抽出法などの方法により採油し、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭などの精製工程を経て得られる。
【0036】
本発明に使用する油脂としては、水酸基を多く有するトリアシルグリセロールを主成分とする油脂が好適である。このような油脂としては、ヒマシ油、ポリヒマシ油などが挙げられる。
【0037】
ヒマシ油は、多くの油脂の水酸基価が10mgKOH/g程度であるのに対して、水酸基価が155〜177mgKOH/gと多いため、本発明で使用する油脂として好適である。
【0038】
ヒマシ油の重合体であるポリヒマシ油は、ヒマシ油よりも多分岐構造であるとともに、油脂分子中の水酸基の数がヒマシ油よりも多いので、重合の起点となる水酸基が多く、本発明で使用する油脂として好適である。
【0039】
また、リノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸における炭素−炭素不飽和結合に水酸基を導入した水酸基化油脂も、前記油脂として用いることができる。水酸基化油脂としては、水酸基化大豆油、水酸基化亜麻仁油、水酸基化なたね油、水酸基化パーム油、水酸基化とうもろこし油などが挙げられる。
【0040】
また、本発明においては、エポキシ基を多く有するトリアシルグリセロールを主成分とする油脂も好適に使用でき、リノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸由来の炭素−炭素不飽和結合にエポキシ基を導入したエポキシ化油脂を前記油脂として使用することができる。エポキシ化油脂としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化なたね油、エポキシ化パーム油、エポキシ化とうもろこし油などが挙げられる。
【0041】
なお、以上の水酸基またはエポキシ基を有する油脂において、構成する脂肪酸の不飽和基に水素添加して飽和脂肪酸とした硬化油を使用することもできる。
【0042】
また、上記のような水酸基またはエポキシ基を有する油脂は、脂肪酸の異なる油脂の混合物であってもよく、分子中に有する水酸基またはエポキシ基の数が2個未満の油脂を不純物として含有していてもよい。前記油脂における、少なくとも2個の水酸基またはエポキシ基を有するトリアシルグリセロールの割合は、50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上である。50質量%未満では直鎖状のポリ乳酸が多く形成され、分岐状ポリ乳酸による効果が得られ難くなる場合がある。
【0043】
上記のような各種油脂の中でも、水酸基化油脂またはエポキシ化油脂としては、ヒマシ油、ポリヒマシ油、水酸基化大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化パーム油、エポキシ化亜麻仁油などが好適に使用される。
【0044】
(乳酸/ラクチド)
分岐状ポリ乳酸の1つの特徴である分岐鎖を構成するポリ乳酸は、乳酸またはラクチドを重合することによって合成される。
【0045】
分岐状ポリ乳酸の原料となる乳酸は、化学合成によって生産されることもあるが、多くは乳酸発酵液として生産される。前記乳酸発酵液とは、グルコースなどの資化可能な炭素源を、乳酸菌などの微生物を用いて乳酸発酵させ、乳酸を生成させた水性液体をいう。炭素源であるグルコースは、石油工業的にも得ることができるが、セルロースやデンプンなどの多くの再生可能資源の加水分解によっても製造することができる。本発明においては、乳酸発酵液をそのまま用いてもよく、乳酸発酵液から単離した乳酸を用いてもよく、あるいは市販の乳酸を用いてもよい。
【0046】
また、本発明において、ラクチドとは、2分子の乳酸の脱水縮合によって得られる環状ジエステルを意図する。本発明においては、市販のラクチドを用いることができる。
【0047】
乳酸およびラクチドには光学異性体が存在する。本発明においては、L体、D体、DL体(ラセミ体)の何れも用い得る。
【0048】
(ラクチドの開環重合による分岐状ポリ乳酸の製造)
例えば、ラクチドおよび油脂(水酸基化油脂またはエポキシ化油脂)を十分に乾燥した容器に入れ、不活性ガスでパージした後に、触媒を投入して、加熱攪拌することによって、油脂を起点としてラクチドが開環重合したポリ乳酸鎖を有する分岐状ポリ乳酸を製造することができる。
【0049】
前記油脂として、エポキシ化油脂を用いる場合は、ラクチドを油脂に付加反応させてラクチドによる変性油脂を合成した後に、ラクチドを開環重合させてもよく、あるいはラクチドを単独重合させて得られたポリ乳酸を油脂に付加反応させてもよい。
【0050】
前記水酸基化油脂またはエポキシ化油脂とラクチドとの仕込み比は、モル比(油脂/ラクチド)で、約1/20以上、1/200以下、好ましくは1/25以上、1/100以下である。重量比では、油脂100重量部に対してラクチドは350重量部以上、1600重量部以下である。ラクチドが350重量部より少ないとブリードアウトするなど耐久性が下がる場合があり、1600重量部より多いと分岐鎖であるポリ乳酸鎖が長くなるのでポリ乳酸としての特性が現れやすくなり、結晶化核剤や可塑剤としての効果が得られ難くなる場合がある。
【0051】
ラクチドの重合触媒は、当業者が通常用いるものが挙げられる。具体的には、ポルフィリンアルミニウム錯体、(n−C49O)4Al22Zn、複合金属シアン化錯体、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズ、テトライソプロポキシド、ジエチル亜鉛−水またはジエチルカドミウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、トリブチルスズメトキシド、テトラフェニルスズ、酸化鉛、ステアリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸ビスマス、カリウムアルコラート、フッ化アンチモン触媒、工業的にはスタナスオクタノエート触媒が挙げられる。収率の点から、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズ、テトライソプロポキシドが特に好ましい。
【0052】
触媒の使用量は特に限定されないが、100重量部のラクチドに対して、約0.0001〜5重量部が適切であり、約0.05〜1重量部が好ましい。
【0053】
不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが挙げられる。
【0054】
上記重合反応は、常温下でも行い得るが、必要に応じて加熱する。好ましくは100℃〜180℃の範囲に、さらに好ましくは120℃〜160℃に加熱する。100℃未満では反応速度が遅くなり過ぎる場合がある。一方、180℃より高い温度では、分解速度が速くなり過ぎたり、低分子量体が気化してしまう場合がある。
【0055】
(乳酸の脱水縮合重合による分岐状ポリ乳酸の製造)
乳酸は、1分子中にカルボキシル基および水酸基を有する化合物であるので、乳酸を縮合重合してポリ乳酸鎖を合成できる。例えば、乳酸および油脂(水酸基化油脂またはエポキシ化油脂)を十分に乾燥した容器に入れ、必要に応じて触媒を投入して、加熱あるいは加熱減圧することによって、油脂を起点として乳酸が縮合重合したポリ乳酸鎖を有する分岐状ポリ乳酸を製造することができる。重合により生成する水を反応系外に排出することによって、重合度をさらに上げることができる。
【0056】
前記水酸基化油脂またはエポキシ化油脂と乳酸との仕込み比は、油脂100重量部に対して、乳酸は380重量部以上、3900重量部以下であり、好ましくは480重量部以上、1950重量部以下である。乳酸が380重量部より少ないとブリードアウトするなど耐久性が下がる場合があり、3900重量部より多い場合は、分岐鎖であるポリ乳酸鎖が長くなると共に、ポリ乳酸としての特性が現れやすくなり、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化核剤や可塑剤としての効果を得られ難くなる場合がある。
【0057】
重合反応の温度は、溶液重合の場合は、溶剤と脱水される水との共沸点から各溶剤の沸点までの温度であればよい。しかし、高温になるほど油脂成分の変性が生じやすくなるため、200℃以下の加温であることが好ましい。例えば、ヒマシ油は200℃以上で分解する。脱水を生じさせるためには、好ましくは、共沸点以上(例えば、90℃〜180℃)で適切な重合度が得られるのに適した時間(例えば、1〜24時間)加熱することが好ましい。
【0058】
加熱減圧重合の場合、乳酸重合の過程で、乳酸オリゴマーの解重合反応によってラクチドが生じる可能性がある。高温または高真空であるほどラクチドが生成しやすく、生じたラクチドは系内から昇華により消失し、これにより、ポリ乳酸鎖の収率が低下する。そのため、加熱温度は100℃〜180℃、減圧は670Pa〜13000Paであることが好ましい。加熱温度は、100℃未満では反応速度が遅くなり過ぎる場合がある。一方、180℃より高い温度では、反応速度が速くなり過ぎたり、油脂が変性したりしまう場合がある。減圧は、13000Paより高いと縮合反応が進み難くなる場合があり、670Pa未満ではラクチドの生成および昇華が起こり易くなり生成物の収率が低下する場合がある。
【0059】
乳酸の重合触媒は、当業者が通常用いるものが挙げられる。具体的には、二塩化スズ(SnCl2)、2−エチルヘキサン酸スズ、テトラフェニルスズ、テトライソプロポキシド、酸化スズ、硫酸、スズ粉末、トルエンスルホン酸などが挙げられる。
【0060】
触媒の使用量は特に限定されないが、100重量部の乳酸に対して、約0.0001〜5重量部が適切であり、約0.05〜1重量部が好ましい。
【0061】
なお、重合反応速度が遅くなるものの、触媒を加えずに重合することも可能である。特に、比較的低分子量の分岐状ポリ乳酸を製造する場合には、油脂に対する乳酸の仕込み比が小さいため、触媒は必須ではない。
【0062】
反応系から水を排出する方法は、当業者が通常行う方法が採用され、例えば、溶剤との共沸によって脱水させる。水と共沸可能な溶剤としては、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼンおよびミネラルスピリットなどが挙げられる。これらの溶媒中で水との共沸点以上に加温することにより、水を系外に留出させ、乳酸の脱水縮合を促進することができる。
【0063】
(乳酸発酵液からの分岐状ポリ乳酸の製造)
分岐状ポリ乳酸の製造には、乳酸発酵液をそのまま用いてもよく、あるいは乳酸発酵液中の菌体を予め除去して用いてもよい。
【0064】
分岐状ポリ乳酸の製造においては、乳酸発酵液に、水酸基化油脂またはエポキシ化油脂を加えて脱水重縮合した後に、油分を回収することによって分岐状ポリ乳酸を得ることができる。
【0065】
乳酸発酵液中に含まれる他の成分が常温において固体である場合は、脱水重縮合工程中にこれらの成分が反応容器内に析出するので、脱水重縮合の後に水を加えて乾固物を水に溶解させて、上層の油分と分離することもできる。このとき、乳酸菌などの水不溶分があっても、比重が1より大きく反応容器中で沈降するので予め分離する必要はない。
【0066】
本発明に使用する分岐状ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、1,000から30,000の範囲が好ましい。なお、分岐状ポリ乳酸の構造と数平均分子量は、1H−NMRとGPC測定で確認することができる。すなわち、分岐状ポリ乳酸の構造は、1H−NMR測定において、原料油脂の水酸基に隣接するメチン由来のピークが消失していれば、油脂の水酸基を開始点とした分岐状ポリ乳酸が合成されていることが分かる。また、分岐状ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、GPCを用い、キャリアはクロロホルムを用い、カラムは、例えば、TSKgel G3000HHRを用い、ポリスチレン換算で分子量を求める。
【0067】
<分子末端に官能基を導入した分岐状ポリ乳酸>
本発明で使用する分岐状ポリ乳酸としては、その分子末端に、脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族多価カルボン酸から選択される少なくとも一つの官能基が導入されていても良い。
【0068】
前記脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)としては、例えば、酢酸エステル基、オクタン酸エステル基、フタル酸エステル基、ステアリン酸エステル基、アクリル酸エステル基、エチルアクリル酸エステル基、メタクリル酸エステル基、ブチルアクリル酸エステル基などが挙げられる。前記脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、マレイン酸エステル基、コハク酸エステル基、グルタル酸エステル基、アジピン酸エステル基、セバシン酸エステル基などが挙げられる。前記芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸や4−ヒドロキシ安息香酸などが挙げられる。更に、前記芳香族多価カルボン酸としては、例えば、フタル酸エステル基、イソフタル酸エステル基、テレフタル酸エステル基、トリメリット酸エステル基、ピロメリット酸エステル基などが挙げられる。
【0069】
本発明で使用する分岐状ポリ乳酸の分子末端への官能基の導入は、水酸基との間で起こる一般的な縮合反応によって行うことができる。前記官能基の導入法としては、カルボン酸無水物やカルボン酸塩化物やカルボン酸化合物との脱水縮合が挙げられるが、それらに限定されるものではない。カルボン酸化合物との脱水縮合では、カルボジイミド化合物やジフェニルリン酸アジドなどの脱水縮合剤を用いると効率的に官能基を導入することができる。
【0070】
前記分岐状ポリ乳酸の分子末端に導入する官能基の数としては、分岐状ポリ乳酸の1分子中に2〜3個が好ましい。
【0071】
<脂肪族ポリエステル系樹脂組成物>
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えば、3−ヒドロキシアルカノエート重合体および分岐状ポリ乳酸を、種々の一般的な溶融混練機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。溶融混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、コニカル型の溶融混練機などが挙げられる。
【0072】
本発明における分岐状ポリ乳酸の配合量は、3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、1〜30重量部であり、好ましくは2〜25重量部であり、さらに好ましくは3〜20重量部である。1重量部未満では効果が得られない場合があり、30重量部を超えて添加しても、効果は変わらない。
【0073】
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、溶融加工ができる範囲において、必要に応じて、他の生分解性ポリマーと組み合わせて用いることができる。そのような生分解性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンテレフタレートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、熱可塑性デンプン、ポリビニルアルコール、などを挙げることが出来、それらの少なくとも1種と組み合わせて使用し得る。
【0074】
また、本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、溶融加工ができる範囲において、必要に応じて、他の非生分解性ポリマーと組み合わせて用いることが出来る。そのようなポリマーとしては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体(ランダム、ブロック、グラフトなど、いずれの共重合体も含み、これらの混合物であっても良い)、またはオレフィン系エラストマーなどを挙げることができ、これらは無水マレイン酸等の酸化合物、またはグリシジルメタクリレート等のエポキシ化合物で変性されていても良い。
【0075】
更に、本発明のポリエステル系樹脂組成物には、目的に応じて、顔料や染料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、難燃剤、および帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。
【0076】
従来、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化を促進させるためには、窒化ホウ素のような無機物やソルビトール誘導体のような有機物を、いわゆる核剤として添加したり、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)のような融点が高い3−ヒドロキシアルカノエート重合体を核剤として配合するなどの提案があった。特にPHBは核剤として有効であるが、成形加工時にPHBの融点を超える温度領域で加工されてPHBが完全に融けて結晶構造が無くなってしまうと、もはや核としての役割を果たせなくなる。
これに対し、本発明によれば、分岐状ポリ乳酸の分岐構造が核として働いているが、この分岐構造は加工温度が高くなっても存在し得るので3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化核剤として効果を発揮できる。また、分岐状ポリ乳酸におけるポリ乳酸鎖は軟性であり、3−ヒドロキシアルカノエート重合体中に分散することで可塑化効果を与えることができる。
【0077】
<脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の成形加工>
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、各種の溶融成形加工が可能であり、ペレット状やブロック状、フィルム状、シート状に加工しても良い。前記フィルムやシートは、更に加熱による熱成形、真空成形、プレス成形が可能である。また、本発明のポリエステル系樹脂組成物は、ブロー成形機による中空成形も可能である。更に、本発明のポリエステル系樹脂組成物は、溶融紡糸等による繊維状成形体の製造も可能である。
【0078】
<ポリエステル系樹脂組成物の用途>
本発明の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物は、各種繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等の成形品として、単独で使用してもよいし、または、この組成物以外の原材料からなる各種繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等に複合化することで、脂肪族ポリエステル単体からなる成形品に較べて物性を改善することもできる。このようにして得られた成形品は、機械的特性や耐熱変形性等に優れるため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野において、例えば、自動車部品、家庭用電気製品部品、家庭日用品、包装資材、その他一般工業用資材、農業用資材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0080】
<製造例>
(3−ヒドロキシアルカノエート重合体:原料A−1〜A−4)
(原料A−1):3−ヒドロキシアルカノエート重合体(PHB)
PHBはSigma Aldrich社製から購入し、Mw(重量平均分子量)が約30万、融点が約151℃のものを用いた。
【0081】
(原料A−2):3−ヒドロキシアルカノエート重合体(PHBV(3HV;5mol%))
PHBVはSigma Aldrich社製から購入し、3HV率が5mol%であり、Mw(重量平均分子量)が約50万、融点が約146℃のものを用いた。
【0082】
(原料A−3):3−ヒドロキシアルカノエート重合体(PHBH(3HH;11mol%))
培養にはKNK−631株(国際公開第2009/145164号)を用いた。
種母培地の組成は、1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Tryptone、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4、(pH6.8)とした。
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に、1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、とした。炭素源はパーム核油を10g/Lの濃度で一括添加した。
PHBH生産培地の組成は、0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に、1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
まず、KNK−631株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に、種母培養液を1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
次に、前培養液を6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS−1000型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/minとし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源として、パーム核オレイン油を使用した。培養は64時間行い、培養終了後、遠心分離によって菌体を回収、メタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体重量を測定した。
得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHBHを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHBHをろ別後、50℃で3時間真空乾燥し、PHBHを得た。得られたPHBHの3HH組成分析は以下のようにガスクロマトグラフィーによって測定した。乾燥PHBH20mgに2mlの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mlのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱して、PHBH分解物のメチルエステルを得た。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mlのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中のポリエステル分解物のモノマーユニット組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μlを注入した。温度条件は、初発温度100から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。上記条件にて分析した結果、3HH組成は11mol%であった。
培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法に準じて分子量を調整した。GPCで測定した重量平均分子量は55万であった。
DSCで測定した融点は約130℃であった。
【0083】
(原料A−4):3−ヒドロキシアルカノエート重合体(PHBH(3HH;7mol%))
生産株としてKNK−631株の代わりにKNK−005株(米国特許第7384766号明細書参照。)を用いた以外は、原料A−3と同様の方法で実施した。
得られたPHBHの3HH組成は7mol%であり、重量平均分子量は60万であり、DSCで測定した融点は約138℃であった。
【0084】
(分岐状ポリ乳酸:原料B−1〜原料B−8)
(原料B−1):分岐状ポリ乳酸
ヒマシ油100重量部に対し、ラクチド387重量部、2−エチルヘキサン酸スズ0.5重量部を秤量し、アルゴン雰囲気下、130℃で攪拌した。24時間後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、数平均分子量6000の分岐状ポリ乳酸B−1を得た。
【0085】
(原料B−2):分岐状ポリ乳酸
ヒマシ油100重量部に対し、ラクチド774重量部、2−エチルヘキサン酸スズ0.5重量部を秤量し、アルゴン雰囲気下、130℃で攪拌した。24時間後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、数平均分子量8700の分岐状ポリ乳酸B−2を得た。
【0086】
(原料B−3):分岐状ポリ乳酸
ヒマシ油100重量部に対し、ラクチド1161重量部、2−エチルヘキサン酸スズ0.5重量部を秤量し、アルゴン雰囲気下、130℃で攪拌した。24時間後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、数平均分子量11000の分岐状ポリ乳酸B−3を得た。
【0087】
(原料B−4):分岐状ポリ乳酸
ヒマシ油100重量部に対し、ラクチド1548重量部、2−エチルヘキサン酸スズ0.5重量部を秤量し、アルゴン雰囲気下、130℃で攪拌した。24時間後生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、数平均分子量12710の分岐状ポリ乳酸B−4を得た。
【0088】
(原料B−5):分岐状ポリ乳酸
分岐状ポリ乳酸(B−2)100重量部とステアリン酸無水物95重量部をピリジンに溶解させ、100℃で攪拌した。2時間後、水を添加し15分攪拌した。放冷した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、原料B−2の末端にステアリン酸エステル基を導入した。
【0089】
(原料B−6):分岐状ポリ乳酸
分岐状ポリ乳酸(B−2)100重量部とオクタン酸無水物47重量部をピリジンに溶解させ、100℃で攪拌した。2時間後、水を添加し15分攪拌した。放冷した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、原料B−2の末端にオクタン酸エステル基を導入した。
【0090】
(原料B−7):分岐状ポリ乳酸
分岐状ポリ乳酸(B−2)100重量部と無水酢酸18重量部をピリジンに溶解させ、100℃で攪拌した。2時間後、水を添加し15分攪拌した。放冷した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、原料B−2の末端に酢酸エステル基を導入した。
【0091】
(原料B−8):分岐状ポリ乳酸
分岐状ポリ乳酸(B−2)100重量部とフタル酸無水物26重量部をピリジンに溶解させ、100℃で攪拌した。2時間後、水を添加し15分攪拌した。放冷した後、生成物をクロロホルムに溶解させ、多量のエタノールを用いて再沈殿した。その後、乾燥することによって、原料B−2の末端にフタル酸エステル基を導入した。
【0092】
<実施例1>
(樹脂組成物の作製)
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1:PHB)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−2)5重量部をクロロホルムに溶解させ、フィルム状にキャストした。キャストは、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体0.5gに対し、5mLのクロロホルムを用いて溶解させ、室温で約12時間かけてクロロホルムを蒸発させた。その後、180℃、5MPaで20分間熱プレスし、樹脂組成物を作製した。
【0093】
(等温結晶化の測定)
示差走査熱量計(SII社製、 DSC6220)を用いて、樹脂約5mgを、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃の各温度で30分間保持し、等温結晶化挙動を測定することによって到達結晶化度の1/2の量に到達する時間(半結晶化時間)t1/2(分)を求めた。
半結晶化時間t1/2の値は小さいほど好ましい。
【0094】
<比較例1>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1:PHB)単独で、実施例1と同じ方法で到達結晶化度の1/2の量に到達する時間(半結晶化時間)t1/2(分)を求めた。
【0095】
実施例1および比較例1の測定結果を表1および図1(a)、(b)に示す。3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−1:PHB)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−2)を5重量部加えることによって半結晶化時間t1/2が大幅に短くなり、結晶化速度が向上したことがわかる。
【0096】
【表1】

【0097】
<実施例2〜5>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2:PHBV)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−1〜B−4)5重量部をクロロホルムに溶解させ、フィルム状にキャストした。キャストは、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体0.5gに対し、5mLのクロロホルムを用いて溶解させ、室温で約12時間かけてクロロホルムを蒸発させた。その後、175℃、5MPaで20分間プレスし、樹脂組成物を作製した。
【0098】
(冷却時結晶化温度の測定)
示差走査熱量計(SII社製、 DSC6220)を用いて、樹脂約5mgを、30℃から10℃/分で175℃まで昇温し、次いで10℃/分で−50℃まで冷却した。冷却時の発熱曲線のピークトップを結晶化温度Tcc(℃)とし、吸熱エンタルピー△Hc(J/g)を表2および図2に示す。
Tccの値は高いほど、△Hcの値は大きいほど好ましい。
【0099】
<比較例2>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2:PHBV)単独で、実施例2と同じ方法で冷却時の結晶化温度Tcc(℃)、吸熱エンタルピー△Hc(J/g)を求めた。測定結果を表2および図2に示す。
【0100】
表2および図2に示すように、3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2:PHBV)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−1〜B−4)を5重量部加えることによって結晶化温度Tccが高まり、結晶化速度が向上したことがわかる。
【0101】
【表2】

【0102】
<実施例6〜9>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2:PHBV)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−5〜B−8)5重量部をクロロホルムに溶解させ、フィルム状にキャストした。キャストは、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体0.5gに対し、5mLのクロロホルムを用いて溶解させ、室温で約12時間かけてクロロホルムを蒸発させた。その後、175℃、5MPaで20分間プレスし、樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物は、実施例2と同様の方法で冷却時結晶化温度Tcc(℃)、吸熱エンタルピー△Hc(J/g)を測定した。結果を表3および図3に示す。
【0103】
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2:PHBV)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−5〜B−8)を5重量部加えることによって、3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−2)単独の場合(比較例2)よりもTccが高まり、結晶化速度が向上したことがわかる。
【0104】
【表3】

【0105】
<実施例10>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−3:PHBH)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−2)5重量部をクロロホルムに溶解させ、フィルム状にキャストした。キャストは、前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体0.5gに対し、5mLのクロロホルムを用いて溶解させ、室温で約12時間かけてクロロホルムを蒸発させた。その後、150℃、5MPaで20分間熱プレスし、樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物の約0.5mgを150℃で融解させた後、30℃に冷却し、30分後に偏光顕微鏡(OLYMPUS社製、BX51)を用いて球晶の観察を行った。
球晶の数が多いほど結晶化が進んでいることをあらわす。
【0106】
<比較例3>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−3:PHBH)単独で実施例10と同様の方法で球晶を観察した。
【0107】
実施例10および比較例3の顕微鏡観察結果を図4(a)、(b)に示す。3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−3:PHBH)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−2)を5重量部加えることによって球晶の数が増えており、結晶化速度が向上したことがわかる。
【0108】
<実施例11、比較例4〜6>
3−ヒドロキシアルカノエート重合体(原料A−4:PHBH)100重量部に対して分岐状ポリ乳酸(原料B−2)、市販の変性グリセリン系可塑剤(理研ビタミン社 リケマール(登録商標)PL710)、窒化ホウ素(モメンティブ社製)を表4の配合比率で、また原料A−4(PHBH)単独で、同方向二軸コニカル型スクリュー(Haake社製、MiniLab)で、140℃、100rpm、5分間溶融混練して樹脂組成物を作製した。
【0109】
結晶化の測定は冷却時結晶化温度で行った。すなわち、示差走査熱量計(SII社製、 DSC6220)を用いて、樹脂約5mgを、30℃から10℃/分で180℃まで昇温し、次いで10℃/分で30℃まで冷却した。冷却時の結晶化温度Tcc(℃)および発熱エンタルピー(△Hc)を測定した。Tccおよび△Hcの値は高いほど好ましい。
可塑化による靭性付与については引張破断伸度で評価した。熱プレスを用い、得られた樹脂組成物を設定温度160℃、設定圧力5MPa、時間2分で、約0.5mm厚のシートを作製した。JIS K7113に基づき当該シート成形品を23℃、湿度50%雰囲気下にて7日間保存した後、引張強度測定サンプル(小型試験片2(1/3)号形)を打ち抜き、島津製作所製のAUTOGRAPH AG2000Aを用いて、試験速度33mm/分の条件にて引張破断伸度を測定した。
【0110】
実施例11、比較例4〜6の結果を表4に示す。市販の可塑剤は引張破断伸度の向上には効果があるが結晶化には効果がなかった。また市販の窒化ホウ素は結晶化には効果があるが引張破断伸度には効果がなかった。これに対し、分岐状ポリ乳酸を配合した実施例11では、引張破断伸度および結晶化の両方が向上したことがわかる。
【0111】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される繰り返し単位からなる3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、分岐状ポリ乳酸を1〜30重量部含有してなる脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
[−CHR−CH2−CO−O−] (式1)
(但し、式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基を表し、n=1〜15の整数である。)。
【請求項2】
前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中にポリ乳酸からなる分岐鎖を少なくとも2個有することを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中に少なくとも2個の水酸基および/またはエポキシ基を有する油脂において、
(a)前記水酸基にポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、または
(b)前記エポキシ基が開環して、ポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記油脂が、ヒマシ油、ポリヒマシ油、水酸基化大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化パーム油およびエポキシ化亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記分岐状ポリ乳酸が、その分子末端に、脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族多価カルボン酸から選択される少なくとも1つの官能基が導入されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物からなるポリエステル系樹脂製品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を成形してなるポリエステル系樹脂成形体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸してなるポリエステル系繊維。
【請求項10】
下記一般式(1)で示される繰り返し単位からなる3−ヒドロキシアルカノエート重合体100重量部に対して、分岐状ポリ乳酸を1〜30重量部添加することを特徴とする脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
[−CHR−CH2−CO−O−] (式1)
(但し、式中、RはCn2n+1で表されるアルキル基を表し、n=1〜15の整数である。)。
【請求項11】
前記3−ヒドロキシアルカノエート重合体が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバリレート)およびポリ(3−ヒドロキシブチレート)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
【請求項12】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中にポリ乳酸からなる分岐鎖を少なくとも2個有することを特徴とする請求項10または11に記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
【請求項13】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中に少なくとも2個の水酸基および/またはエポキシ基を有する油脂において、
(a)前記水酸基にポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、または
(b)前記エポキシ基が開環して、ポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、
ことを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
【請求項14】
前記油脂が、ヒマシ油、ポリヒマシ油、水酸基化大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化パーム油およびエポキシ化亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
【請求項15】
前記分岐状ポリ乳酸が、その分子末端に、脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族多価カルボン酸から選択される少なくとも1つの官能基が導入されていることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系樹脂組成物の改質方法。
【請求項16】
分岐状ポリ乳酸からなる、3−ヒドロキシアルカノエート重合体の結晶化促進および可塑性向上用添加剤。
【請求項17】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中にポリ乳酸からなる分岐鎖を少なくとも2個有することを特徴とする請求項16に記載の添加剤。
【請求項18】
前記分岐状ポリ乳酸が、分子中に少なくとも2個の水酸基および/またはエポキシ基を有する油脂において、
(a)前記水酸基にポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、または
(b)前記エポキシ基が開環して、ポリ乳酸のカルボキシ末端がそれぞれエステル結合されている、
ことを特徴とする請求項16または17に記載の添加剤。
【請求項19】
前記油脂が、ヒマシ油、ポリヒマシ油、水酸基化大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化パーム油およびエポキシ化亜麻仁油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項18に記載の添加剤。
【請求項20】
前記分岐状ポリ乳酸が、その分子末端に、脂肪族カルボン酸(炭素鎖数1〜18)、脂肪族多価カルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族多価カルボン酸から選択される少なくとも1つの官能基が導入されていることを特徴とする請求項16〜19のいずれかに記載の添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57039(P2013−57039A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197460(P2011−197460)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/研究開発項目(4)化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発/植物由来資源からの微生物による新規バイオベースポリマーの開発と実用材料化」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】