説明

脂肪滴形成抑制剤と脂肪滴由来細胞傷害防御剤並びに脂肪細胞分化抑制剤

【課題】 脂肪滴の形成にともなう好ましくない症変を予防、抑制し、治療することも可能な、従来のレチノイドに代わり得る物質を有効成分とする新しい処方剤を提供する。
【解決手段】 水酸化フラーレン類および有機化合物により修飾もしくは包接されたフラーレン複合体のうちの1種以上を有効成分として含有している脂肪滴形成抑制剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪滴に係わる組織や細胞の好ましくない発現とその影響を抑制することのできる新しい組成物とその薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪滴の生成とその皮膚への付着は、脂肪性浮腫として好ましくない症状を呈することになる。このような脂肪滴に対する皮膚科学分野におけるスキンケアや皮膚治療のための処方剤として、レチノール、レチノイン酸、レチナール、レチニルアセテート等のレチノイドが有効であることが知られている(特許文献1−2)。
【0003】
また、レチノイン酸は、脂肪細胞前躯体の脂肪細胞への増殖や分化を阻害することも知られている。
【0004】
そこで、従来より、これらの知見に基づいてさらに効果的な治療剤やスキンケア組成物の探索、開発が試みられており、たとえば、ノチノイドとカフェインとの組成物を有効成分とする脂肪性浮腫の軽減方法やその化粧用組成物が提案されてもいる(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、脂肪滴の形成による浮腫や、脂肪滴に由来する細胞の傷害、そして脂肪細胞の分化については、その原因や秩序は依然として結論が出ておらず、このことからも、レチノイドに代わり得る、脂肪滴の形成等の抑制効果により優れた処方剤、その有効成分の開発については手さぐりの状況にある。そして実際に、より大きな抑制効果の実現が可能とされる、レチノイドに代わり得るものについては依然として見出されていないのが実情である。
【0006】
一方、本発明者らは、活性酸素による皮膚傷害の防御についての検討を進めてきており、その過程において、フラーレンC60、あるいはその誘導体が優れた作用を有することを見出し、これを有効成分とする抗酸化組成物、化粧品等の外用組成物、皮膚メラミン抑制剤やセルライト抑制剤等について提案してきている(特許文献4−6)。
【0007】
しかしながら、脂肪滴形成の抑制については、検討は進められていなかった。たとえばセルライト抑制については提案していても、脂肪滴形成の抑制は、セルライトよりも上流、前段階での課題であって、脂肪についてのより予防的な抑制効果が求められることから、フラーレンの有効性については想到することも予測することも困難であった。
【特許文献1】米国特許第5,468,495号明細書
【特許文献2】米国特許第5,051,449号明細書
【特許文献3】特開2001−302494号公報
【特許文献4】特開2004−250690号公報
【特許文献5】PCT/JP2005/014139
【特許文献6】PCT/JP2005/014157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のとおりの背景から、脂肪滴の形成にともなう好ましくない症変を予防、抑制し、治療することも可能な、従来のレチノイドに代わり得る物質を有効成分とする新しい処方剤を提供すること、特に、本発明者のこれまでの検討によるフラーレン類の知見を踏まえての新しい処方剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の処方剤を提供する。
【0010】
第1:水酸化フラーレン類および有機化合物により修飾もしくは包接されたフラーレン複合体のうちの1種以上を有効成分として含有している脂肪滴形成抑制剤。
【0011】
第2:水酸化フラーレン類は、水酸基を1分子当り30以上40以下で結合しているフラーレンまたはその誘導体である上記の脂肪滴形成抑制剤。
【0012】
第3:フラーレン複合体は、フラーレンおよびフラーレン誘導体のうちの1種以上と、有機オリゴマー、有機ポリマー、シクロデキストリンおよびクラウンエーテルとその類縁化合物のうちの1種以上の有機化合物との複合体である上記第1の脂肪滴形成抑制剤。
【0013】
第4:γ−シクロデキストリンにより1.5〜2.0mol/mol比で包接されているフラーレン複合体である上記第3の脂肪滴形成抑制剤。
【0014】
第5:上記いずれかの脂肪滴形成抑制剤からなることを特徴とする脂肪滴由来の細胞傷害の防御剤。
【0015】
第6:上記いずれかの脂肪滴形成抑制剤からなることを特徴とする脂肪細胞分化抑制剤。
【発明の効果】
【0016】
上記のとおりの特有のフラーレン物質を有効成分とする本発明によれば、従来のレチノイドに代わり得る高活性の脂肪滴形成の抑制が実現され、これによって、脂肪滴由来の細胞傷害の発生が効果的に防御される。そして脂肪細胞そのものの分化が抑制されることになる。
【0017】
これらは、スキンケア、化粧品、皮膚活性剤等として有用なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明における水酸化フラーレン類、そしてフラーレン複合体を形成するフラーレンは、Cn(nは60以上の整数)として表わされるもので、C60フラーレン、C70フラーレン等をはじめ、さらにはカーボンチューブフラーレン等の球面状、チューブ等の炭素骨格構造を有する、従来公知のものをはじめとする各種のものが例として挙げられる。
【0020】
そして、このような炭素骨格構造には、各種の置換基、たとえば炭化水素基、酸素架橋基、水酸基、アシル基、エーテル基、カルボキシル基等の含酸素基、アミノ基、シアノ基の含窒素基等を有していてもよい。
【0021】
そしてまた、メチレン鎖等のアルキレン鎖を介して複数のフラーレンが結合したものも含まれる。フラーレンC60の誘導体としては、フラーレン分子一個に対して修飾基が1個から40個結合しているものや、フラーレンC70の誘導体としては、フラーレン分子一個に対して修飾基が1個から50個結合しているものが例示される。この場合の修飾基は、各々独立に水酸基またはその水酸基と無機もしくは有機酸とのエステル基または糖との配糖体基、もしくは水酸基とケトンとのケタール基もしくはアルデヒドとのアセタール基であればよく、このフラーレン修飾化合物またはその塩及びそこから選択される少なくとも一種であればよい。さらにこの出願の発明のフラーレンは、C60フラーレン、C70フラーレン又はナノチューブフラーレンでもよく、それらから選択される一種以上の混合物でもよい。
【0022】
また、フラーレン含酸素誘導体については、フラーレン骨格の炭素原子に直接滴に、あるいはアルキレン鎖等の炭素鎖等を介して酸素原子が結合するものが考慮される。たとえば水酸化率が50/モル・フラーレン程度までの−OH基が直接結合した水酸化フラーレンが例示される。
【0023】
この水酸化フラーレン類は、本発明においては、必須の有効成分の一つとされている。特に、フラーレンの一分子当り30〜40個の範囲内の水酸基(OH)が結合している水酸化フラーレン類が本発明においては好適なものとして例示される。これらの水酸化フラーレン類は、各種の公知の方法によって合成されたもの、あるいは市販品として利用可能である。
【0024】
また、たとえば以上のようなフラーレンまたはフラーレン誘導体を修飾もしくは包接する有機化合物としては、有機オリゴマー、有機ポリマーおよび包接化合物または包接錯体が形成可能なシクロデキストリン(CD)やクラウンエーテルもしくはそれらの類縁化合物の1種または2種以上のものが好適なものとして例示される。
【0025】
なお、この場合の有機化合物による修飾、包接は、物理的なものであってもよいし、あるいは化学的な結合形成をともなうものであってもよい。
【0026】
有機オリゴマーや有機ポリマーとしては、たとえば、カルボン酸エステル類、アルコール類、糖類、多糖類、多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、等のポリアルキレングリコール又は多価アルコール類の重合体、デキストラン、ブルラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン及びヒドロキシプロピルデンプンのようなデンプン誘導体を含む非イオン性水溶性高分子、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、キチン誘導体、並びにこれらの高分子のアニオン性又はカチオン性誘導体及びこれらの高分子グリセリン及び脂肪酸類、油類、炭酸プロピオン、ラウリルアルコール、エトキシル化ひまし油、ポリソルベート類、及びこれらのエステル類又はエーテル類、及びこれらの重合体、及びこれらのポリエステル重合体類、ポリビニルピロリドン等のピロリドン重合体類、不飽和アルコール重合体類のエステル類またはエーテル類およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のものがフラーレン又はその誘導体に結合したものが好ましく、それらの一種以上の混合物であってよい。なかでも、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、等の各種のものが好ましいものとして例示される。PEG、PVP等のポリマーの場合には、その平均分子量については、一般的には、2000〜100,000程度が好ましい、フラーレンまたはフラーレン含酸素誘導体との比率としては、モル比として10/1以下程度とすることが考慮される。この出願の発明において好適なフラーレン類としては、水酸化フラーレン、水酸化フラーレンのエステル類、たとえばモノエステル類、ジエステル類、トリエステル類、ポリエステル類やそれらの塩類より選択される一種または二種以上の混合物も例示される。
【0027】
そして、本発明では、γ−シクロデキストリンにより包接されたフラーレン複合体が好適なものの一つとして考慮される。
【0028】
ただ、γ−シクロデキストリンによる包接はフラーレン類が、1.5〜2.0mol/mol比の範囲内で包接されたものとする。この比率未満、あるいは逆にこの比率を超える場合には、本発明の効果は低下する。
【0029】
フラーレン類として水溶性のあるフラーレン誘導体や有機化合物による修飾体あるいは包接体、そしてフラーレン類の塩類は安定性が高く、水に溶けやすく、またpHが調整可能なため、細胞毒性が低く生体適合性が高いので、本発明に使用するのにより適している。たとえば水酸化フラーレンや、フラーレンと高分子ポリマーとしてPEG(ポリエチレングリコール)、PVP(ポロビニルピロリドン)や、CD(シクロデキストリン)による修飾あるいは包接体である。
【0030】
また水分付加物または結晶水付加物はその無水物よりも水に対する溶解性が高いことから有用である。
【0031】
水分付加物または結晶付加物の水分または結晶水の含量は特に限定されないが、より良好な溶解性を保持するためには水分含量が1%から50重量%、より好ましくは5%から20重量%、結晶水の場合は1から20水塩の範囲の水分子を保持する水分付加物または結晶水付加物が望ましい。
【0032】
本発明の脂肪滴形成抑制剤、そして脂肪滴由来の細胞傷害の防御剤や脂肪細胞分化抑制剤については、化粧品、あるいは医療品としての外用剤として、より有用、有効なものとなる。
【0033】
そのための形態としてはたとえば以下のことが考慮される。
1.投与量
この出願の発明のフラーレン類の濃度は、0.00001%から30%重量濃度であればよいが使用感的側面から好ましくは5%以下が良い。皮膚に投与する場合外用組成物の量は皮膚面積1平方メートル当たり液体0.001〜20ml好ましくは0.01〜5.0mlを外用塗布、湿布または粉霧するのがのぞましい。
2.投与形態
皮膚外用組成物の形態の例としては、特に限定されず、たとえば、水溶剤、軟膏、乳液、クリーム、ジェル剤、パック、浴剤、洗浄剤、パップ剤、分散液等のあらゆる外用剤の形態を取ることができ、その剤型についても特に制限はなく、ペースト状、ムース状、ジェル状、粉末状、溶液系、可溶化系、乳化系とすることができる。特に水溶液、乳剤、軟膏剤、ジェル剤、水溶製剤、美容液、パック剤については、これらの剤を外用した後に加湿導入器、振動導入器、イオン導入器、音波導入器、電磁波導入器を用いることによりフラーレン類の皮膚への浸透を促進することができより大きな効果を発揮できる。
【0034】
塗布方法は、液剤の場合、スプレー、貼布、湿布、ディッピング、マスク等物理的に可能な全ての方法を用いることができる。
3.配合成分
本発明の抗酸化組成物、そして外用組成物は、基本的に従来より知られている化粧品や外用薬剤を構成する各種成分との組合わせとして実現される。
【0035】
たとえば、保温剤、顔料、基材としてアルコール類や水溶性高分子、細胞賦活剤、アスコルビン酸またはその誘導体、活性酸素消去剤、抗菌剤等である。
【0036】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0037】
<参考例>
t−BuOOH添加による細胞傷害に及ぼす脂肪滴の影響について評価した。図1はその結果を示したものである。
【0038】
この図1においては、オレイン酸の添加の有無で脂肪滴の影響を示している。Oleic Acid(+)での、オレイン酸の添加量は0.01%である。
【0039】
この評価試験では、細胞生存を支える生体エネルギーを産生するミトコンドリアの活動度を計測して細胞生存率と見なしている。ミトコンドリアの活動を担う脱水素酵素活性、特にサクシネートデヒドロゲナーゼが働くと水溶性テトラゾリウムが有色のフォルマザンに変換されるので、吸光プレートリーダーで計測することができる。
【0040】
図1より、脂肪滴が細胞に傷害を及ぼすことがよくわかる。
<実施例1>
マウス前駆脂肪細胞3T3−L1での脂肪滴形成に対する水酸化フラーレンの抑制効果について、既存の脂肪滴抑制剤として知られるレチノイン酸(R.A)と対比して評価した。
【0041】
水酸化フラーレン(S.F./Star Fullerene)は、結合する水酸化数は33〜36であり、ビタミンC60バイオリサーチ株式会社製のものを用いた。
【0042】
結果は図2に示した。ここで、図中のNCは、Negative Control(無処理)を、PCは、Postive Control(オレイン酸の投与)を示し、縦軸は、脂肪滴の形成割合を示している。なお、測定方法としては、細胞内脂肪滴(トリグリセリドが主成分)をオイルレッドOで選択的に染色し、その細胞内色素を抽出して吸光プレートリーダで計測した。
【0043】
この図2の結果から、黒色バーで表示されている水酸化フラーレン(S.F.)は、レチノイン酸(R.A.)の場合よりも、より効果的に脂肪滴蓄積を抑制することがわかる。
<実施例2>
実施例1と同様にしてC60フラーレンをγ−シクロデキストリンにより包接したCrown-Fullereneの投与による細胞内脂肪滴蓄積抑制の効果を評価した。
【0044】
Crown-Fullereneは、C60フラーレンとシクロデキストリンとを1:7(wt/wt)で粉体混合し、バイブレーションで加圧して調製した。シクロデキストリンにより2.0mol/mol比で包接されている。
【0045】
オレイン酸の添加(0.01%)にともなうCrown-Fullereneの添加量(ppm)の変化による抑制効果を、実施例1と同様の吸光プレートリーダーで530nmでの吸光度として評価した。その結果を図3に示した。
【0046】
Crown-Fullerene添加による脂肪滴蓄積の抑制効果が確認された。
<実施例3>
ホルモン様混合体(Insulin、Isobutyl methy xanthine,Dexamethazone)処理によるマウス前駆脂肪細胞3T3−L1の細胞分化脂肪滴形成に対する実施例1で用いた水酸化フラーレン(S.F.)の抑制効果を評価した。そして、レチノイン酸(R.A.)の場合と対比した。図4はその結果を示したものである。
【0047】
水酸化フラーレンの抑制効果が顕著であることがわかる。
<実施例4>
実施例1〜3の脂肪滴の形成と蓄積に対する予防効果とは別に、すでに蓄積(存在)している細胞内脂肪滴の減量の効果についても評価した。図5はその結果を示している。水酸化フラーレン(S.F.)による効果は、極めて顕著であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】参考例としての細胞傷害に及ぼす脂肪滴の影響を例示した図である。
【図2】実施例1での水酸化フラーレンによる脂肪滴形成の抑制効果について示した図である。
【図3】実施例2でのシクロデキストリン包接体による脂肪蓄積抑制効果について示した図である。
【図4】実施例3での脂肪細胞分化脂肪滴形成に対する水酸化フラーレンの抑制効果について示した図である。
【図5】実施例4での水酸化フラーレンによる細胞内に蓄積された脂肪滴の減量効果について示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化フラーレン類および有機化合物により修飾もしくは包接されたフラーレン複合体のうちの1種以上を有効成分として含有していることを特徴とする脂肪滴形成抑制剤。
【請求項2】
水酸化フラーレン類は、水酸基を1分子当り30以上40以下で結合しているフラーレンまたはその誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪滴形成抑制剤。
【請求項3】
フラーレン複合体は、フラーレンおよびフラーレン誘導体のうちの1種以上と、有機オリゴマー、有機ポリマー、シクロデキストリンおよびクラウンエーテルとその類縁化合物のうちの1種以上の有機化合物との複合体であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪滴形成抑制剤。
【請求項4】
γ−シクロデキストリンにより1.5〜2.0mol/mol比で包接されているフラーレン複合体であることを特徴とする請求項3に記載の脂肪滴形成抑制剤。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれかの抑制剤からなることを特徴とする脂肪滴由来の細胞傷害の防御剤。
【請求項6】
請求項1から4のうちのいずれかの抑制剤からなることを特徴とする脂肪細胞分化抑制剤。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222645(P2008−222645A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64233(P2007−64233)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(803000104)財団法人ひろしま産業振興機構 (70)
【Fターム(参考)】