説明

脂肪由来幹細胞と塩基性線維芽細胞増殖因子を組み合わせた線維性病変の治療法

【課題】これまで治療が困難であった各種の線維性病変に対して,病変部の改善(線維化の縮小、消失)を図ること。
【解決手段】脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子とを含む治療剤または予防剤。本発明はまた、線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養する工程を包含する、肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法を提供する。本発明はさらに、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤を提供する。本発明はなおさらに、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来幹細胞に関する新たな利用法に関する。より詳細には、本発明は、線維性病変の新たな治療に関する。本発明はまた、肝細胞増殖因子(HGF)などのサイトカインの新たな生産方法に関する。本発明はさらに、脂肪由来幹細胞(脂肪由来幹/間質細胞とも呼ばれる、ASC)の新たな増殖刺激剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪由来幹/間質細胞(ASC)は、組織特異的な前駆細胞として機能するだけでなく、多能性であり、そして、特定の状況下で、肝細胞増殖因子(HGF)のような血管新生性増殖因子を分泌する。しかし、この分泌の生物学的な役割と調節機構とは、十分に研究されていない。
【0003】
脂肪由来幹/間質細胞(ASC)は、組織特異的な前駆細胞として機能し、種々の系統の細胞へと分化し得(非特許文献1)、そして、血管内皮増殖因子(VEGF)および肝細胞増殖因子(HGF)のような多くの強力な増殖因子およびサイトカインを分泌し得る(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。分泌された因子のパラクリン作用は、ASCを用いて処置された虚血性の後肢の血管分布の改善を説明する(非特許文献2;非特許文献4);しかし、ASCの内皮細胞への分化は、血管分布の改善にも寄与し得る(非特許文献5;非特許文献6)。血管新生と組織修復を促進するためにASCを使用することは、可能性ある治療戦略としての興味を獲得し[非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9)、そして、ASCにより媒介される骨・脂肪の再生および血管新生の促進に関する臨床治験が進行中である(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【0004】
ASCは、強力な増殖因子とサイトカインを分泌するだけでなく、その分泌した増殖因子やサイトカインからも影響を受ける。線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)は、ASCの増殖を刺激し、そして、その自己再生の維持に寄与する(非特許文献13)。FGF−2は、ASCの脂肪生成性(非特許文献14)、および、軟骨形成性(非特許文献15)の分化を促進するが、骨形成性の分化は阻害することが示されている(非特許文献16)。血小板由来増殖因子(PDGF)は、ASCの増殖および移動を誘導する(非特許文献17)。VEGF、FGF−2、上皮増殖因子(EGF)およびインシュリン様増殖因子−1(IGF−1)を含有する培養培地は、ASCの増殖を顕著に加速し、そして、その多能性を保存した(非特許文献18)。このことは、ASC増殖に対するこれらの増殖因子の間での相乗作用を示唆する。
【0005】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)は、増殖因子による細胞調節の多くの面に関与する、重要なシグナル伝達系の酵素である(非特許文献19)。MAPKの中でも、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)は、FGF−2により媒介されるASCの自己再生に部分的に関与し(非特許文献13)、そして、c−JunのN末端キナーゼ(JNK)は、PDGFにより誘導されるASCの増殖および移動において重要な役割を果たす(非特許文献17)ことが報告されている。また、ASCが、p38 MAPK依存性の機構により、腫瘍壊死因子αに応答して、VEGF、HGFおよびIGF−1を産生することを示す研究もある(非特許文献20)。
【0006】
本研究において、本発明者らは、ASCに対する、障害関連増殖因子の影響を評価した。損傷およびその後の創傷治癒の過程で、種々の増殖因子および炎症性サイトカインが、細胞の再生活性を調節する。本発明者らは、以前に、脂肪吸引手術後の創傷流体を解析し、そして、それに続く増殖因子の発現を報告した:FGF−2およびPDGFは、創傷治癒の早期段階において放出され、一方で、VEGFおよびHGFは、後期段階において発現された(非特許文献21)。増殖因子の投与は、熱傷に対してのFGF−2(非特許文献22、および心筋梗塞に対してのHGF(非特許文献23)などのように、損傷を受けた組織の再生を促進することが報告されている。しかし、おそらく、脂肪組織障害の良好なモデルが存在しないために、脂肪組織における損傷および修復の過程と、ASCの潜在的な役割について焦点を当てた研究はほとんどない。そして、これらの文献は、(1)術後ドレーンを解析したのみであり各GF量変化のメカニズムやパラクライン的な作用についてはなし(2)ASCの遺伝子発現等についてはデータなし(3)ASCがHGFを分泌するとは結論していないなどの欠点が存在する。
【0007】
上記のように、皮膚(ケロイドや肥厚性瘢痕),肝臓(肝硬変),肺(肺線維症),心臓(心筋梗塞後)など,身体の様々な部位において線維性病変は起こりうるが,線維性病変に対する効果的な治療法は存在しないのが現状であった。抗線維化作用のある物質としては肝細胞増殖因子(以下HGF)が知られていたが,血中半減期が非常に短く,これを持続的・効果的に生体に投与する方法は実用化されていなかった。また,脂肪由来幹細胞を用いた治療自体は,脂肪注入術と組み合わせた方法が組織増大を目的に行われているが,線維性病変に対する治療としては行われていなかった。
【非特許文献1】Zuk P.A., Zhu M.,Ashjian P. et al. 「Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells」MolBiol Cell 2002; 13: 4279-4295
【非特許文献2】Rehman J., Traktuev D., Li J. et al. 「Secretion of angiogenic and antiapoptotic factors by human adiposestromal cells」Circulation 2004; 109: 1292-1298
【非特許文献3】Kilroy G.E.,Foster S.J., Wu X. et al. 「Cytokine profile of human adipose-derived stemcells: Expression of angiogenic, hematopoietic, and pro-inflammatory factors」JCell Physiol 2007; 212: 702-709
【非特許文献4】Nakagami H.,Maeda K., Morishita R. et al. 「Novel autologous cell therapy in ischemic limbdisease through growth factor secretion by cultured adipose tissue-derivedstromal cells」Arterioscler Thromb Vasc Biol 2005; 25: 2542-2547
【非特許文献5】Planat-BenardV., Silvestre J.S., Cousin B. et al. 「Plasticity of human adipose lineage cellstoward endothelial cells: Physiological and therapeutic perspectives」Circulation2004; 109: 656-663
【非特許文献6】Miranville A., Heeschen C., Sengenes C. et al. 「Improvement of postnatalneovascularization by human adipose tissue-derived stem cells」Circulation 2004;110: 349-355
【非特許文献7】Miyahara Y.,Nagaya N, Kataoka M. et al. 「Monolayered mesenchymal stem cells repair scarredmyocardium after myocardial infarction」Nat Med 2006; 12: 459-465
【非特許文献8】Rodriguez A.M,Pisani D., Dechesne C.A. et al. 「Transplantation of a multipotent cellpopulation from human adipose tissue induces dystrophin expression in theimmunocompetent mdx mouse」J Exp Med 2005; 201: 1397-1405
【非特許文献9】Matsumoto D.,Sato K., Gonda K. et al. 「Cell-assisted lipotransfer: supportive use of humanadipose-derived cells for soft tissue augmentation with lipoinjection」TissueEng 2006; 12: 3375-3382
【非特許文献10】Lendeckel S.,Jodicke A., Christophis P. et al. 「Autologous stem cells (adipose) and fibringlue used to treat widespread traumatic calvarial defects: case report」JCraniomaxillofac Surg 2004; 32: 370-373
【非特許文献11】Garcia-Olmo D.,Garcia-Arranz M., Herreros D. et al. 「A phase I clinical trial of the treatmentof Crohn’s fistula by adipose mesenchymal stem cell transplantation」Dis ColonRectum 2005; 48: 1416-1423
【非特許文献12】Yoshimura K.,Sato K., Aoi N. et al. 「Cell-assisted lipotransfer (CAL) for cosmetic breastaugmentation -supportive use of adipose-derived stem/stromal cells-」AestheticPlast Surg 2008; 32: 48-55
【非特許文献13】Zaragosi L.E.,Aihaud G., Dani C. 「Autocrine fibroblast growth factor 2 signaling is criticalfor self-renewal of human multipotent adipose-derived stem cells」Stem Cells2006; 24: 2412-2419
【非特許文献14】Kakudo N.,Shimotsuma A., Kusumoto K. 「Fibroblast growth factor-2 stimulates adipogenicdifferentiation of human adipose-derived stem cells」Biochem Biophys Res Commun2007; 359: 239-244
【非特許文献15】Chiou M., Xu Y.,Longaker M.T. 「Mitogenic and chondrogenic effects of fibroblast growth factor-2in adipose-derived mesenchymal cells」Biochem Biophys Res Commun 2006; 343:644-652
【非特許文献16】Quarto N.,Longaker M.T. 「FGF-2 inhibits osteogenesis in mouse adipose tissuederivedstromal cells and sustains their proliferative and osteogenic potential state」TissueEng 2006; 12: 1-14
【非特許文献17】Kang Y.J., JeonE.S., Song H.Y. et al. 「Role of c-Jun N-terminal kinase in the PDGFinducedproliferation and migration of human adipose tissue-derived mesenchymal stemcells」J Cell Biochem 2005; 95: 1135-1145
【非特許文献18】Suga H.,Shigeura T., Matsumoto D. et al. 「Rapid expansion of human adiposederivedstromal cells preserving multipotency」Cytotherapy 2007; 9: 738-745
【非特許文献19】Chang L., KarinM. 「Mammalian MAP kinase signaling cascades」Nature 2001; 410: 37-40
【非特許文献20】Wang M.,Crisostomo PR., Herring C. et al. 「Human progenitor cells from bone marrow oradipose tissue produce VEGF, HGF, and IGF-1 in response to TNF by a p38MAPK-dependent mechanism」Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2006; 291:R880-R884
【非特許文献21】Aiba-Kojima E.,Tsuno N.H., Inoue K. et al. 「Characterization of wound drainage fluids as asource of soluble factors associated with wound healing: Comparison withplatelet-rich plasma and potential use in cell culture」Wound Repair Regen 2007;15: 511-520
【非特許文献22】Akita S., AkinoK., Imaizumi T. et al. 「A basic fibroblast growth factor improved the qualityof skin grafting in burn patients」Burns 2005; 31: 855-858]
【非特許文献23】Nakamura T.,Mizuno S., Matsumoto K. et al. 「Myocardial protection from ischemia/reperfusioninjury by endogeneous and exogenous HGF」J Clin Invest 2000; 106: 1511-1519
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで治療が困難であった各種の線維性病変に対して,病変部の改善(線維化の縮小、消失)を図ることを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、脂肪由来幹細胞と特定のサイトカイン(たとえば、塩基性線維芽細胞増殖因子(以下FGF−2ともいう))を組み合わせた方法を用い,病変部の改善(線維化の縮小、消失)を図ることにより解決された。
【0010】
詳細には、本発明者らは、損傷を受けた組織から放出された因子によって刺激されたASCが、おそらくは、再生関連増殖因子を分泌することによって、または、脂肪細胞、内皮細胞もしくは他の細胞型へと分化することによって、脂肪組織の修復過程において重要な役割を果たすと仮定した。本発明者らは、インビトロにおけるヒトおよびマウスのASCに対する、損傷関連因子の影響および機構を検討した。さらに、本発明者らは、再生過程の間のASCの役割を説明するために、脂肪組織に対する虚血再灌流障害の最初のマウスモデルを用いて、細胞レベルおよび分子レベルにおける損傷関連増殖因子の発現を評価した。
【0011】
その結果、本発明により、線維性病変が顕著に治癒することが明らかになった。
【0012】
本発明者らの研究により,脂肪由来幹細胞を培養する際にFGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインを添加すると,増殖が促進されるのみならず,HGFの分泌が促進されることが判明した。この作用は、とくにFGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインの刺激を長期的に投与した場合に特に顕著に見られた。また,マウス脂肪組織の創傷モデルを用いた実験により,通常の創傷治癒過程でもFGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインによって脂肪由来幹細胞からのHGF分泌が亢進しており,これが治癒過程での線維化を抑制しているということが明らかになった。
【0013】
したがって,本発明では、線維性病変に対する以下のような治療法が可能であることになる。
【0014】
患者から採取した脂肪組織をコラゲナーゼで分解し,遠心処理を行うことにより,脂肪由来幹細胞を抽出する。この細胞をFGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインとともに線維性病変部に投与し,脂肪由来幹細胞からのHGF分泌を亢進させ,HGFの線維化抑制作用による病変部の改善を図る。
【0015】
別の実施形態では、本発明では、創傷時に発現が見られる代表的な増殖因子(VEGF,FGF−2,HGF,PDGF)によるASCの細胞増殖および自らの増殖因子分泌に対する影響を調べた。さらに、影響を持つ増殖因子のシグナル伝達系を同定するための阻害実験を行った。また、脂肪組織の創傷(虚血再潅流障害)モデル(マウス)を確立し、創傷治癒過程における増殖因子の発現および組織内の変化を検討した。
【0016】
FGF−2およびPDGFは濃度依存的にASCの増殖を促進した。また、FGF−2により、ASCからのHGF分泌がmRNAおよび蛋白レベルで著明に促進された。このFGF−2による細胞増殖およびHGF分泌の促進は、JNK阻害剤によって最も抑制された。虚血再潅流障害脂肪組織においては、直後からFGF−2の蛋白発現が見られ、引き続きHGFのmRNAおよび蛋白発現が上昇した。また、このHGFの発現はJNK阻害剤によって抑制され、さらにその抑制により治癒後の線維化が増すことが示された。
【0017】
ASCは、創傷時に周囲の細胞外マトリックスから大量に放出されるFGF−2に刺激を受け、主にJNKの経路を介して細胞増殖およびHGF分泌を促進し、創傷治癒過程における血管新生、線維化抑制において重要な役割を果たしていることが示唆された。
【0018】
本発明は、線維化抑制作用のあるHGFを生体に持続的・効果的に投与する手段として脂肪由来幹細胞を用いること,特に,FGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインによる刺激を加えてHGF分泌を促進させた状態で投与すること、およびFGF−2、PDGFなどの特定のサイトカインの徐放製剤とともに脂肪由来幹細胞を投与することを意図する。
【0019】
したがって、本発明は、以下を提供する。
【0020】
1つの局面において、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子とを含む治療剤または予防剤を提供する。
【0021】
1つの実施形態において、本発明の治療剤または予防剤は、線維性病変を処置または予防するためのものである。
【0022】
1つの実施形態において、この線維性病変は、慢性炎症時のものである。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明において用いられるFGFは、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)である。
【0024】
別の局面では、線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養する工程を包含する、肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法を提供する。
【0025】
この生産方法において好ましい実施形態では、本発明において用いられるFGFは、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)である。
【0026】
別の局面では、本発明は、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤を提供する。
【0027】
さらに別の局面では、本発明は、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤を提供する。
【0028】
なおさらなる別の局面では、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子を用いる疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。
【0029】
これらのすべての局面において、本明細書に記載される各々の実施形態は、適用可能である限り、他の局面において適用されうることが理解される。
【発明の効果】
【0030】
HGFには線維化抑制作用があることは以前から知られている。FGF−2によってHGF分泌が促進された脂肪由来幹細胞を投与することにより,線維性病変部でHGFが持続的,効果的に作用することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に関して、発明の実施の形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0032】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0033】
用語「細胞」は、当該分野におけるその最も広義の意味で本明細書において使用され、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有し、そして細胞のような生物体を外界から隔離する膜構造に包まれる、多細胞生物の組織の構成単位をいう。本発明の方法において、任意の細胞が対象として使用され得る。本発明で使用される細胞の数は、光学顕微鏡により計数することができる。光学顕微鏡を使用して計数する場合は、核の数が計数される。組織を組織切片スライスとし、次いでヘマトキシリン−エオシン(HE)染色し、細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を識別する。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞など)であってもよい。細胞の供給源の例としては、単一の細胞培養物;正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織;あるいは正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるが、それらに限定されない。このような供給源自体が、細胞として使用され得る。
【0034】
本明細書において使用される脂肪細胞(fat cell、adipocyte)およびそれに対応する物質は、生物が脂肪細胞またはそれに対応する細胞を有しさえすれば、任意の生物(例えば、哺乳動物など)、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)に由来し得る。1つの実施形態において、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が使用される。最も好ましくは、ヒト由来の細胞が使用されるが、本発明はそれに限定されない。
【0035】
本明細書において使用される場合、「幹細胞」とは、単分化能性、多能性、または全能性を有する、分化細胞の前駆体(または前駆細胞)をいう。幹細胞は、特定の刺激に応答して分化され得る。代表的に、幹細胞は、損傷された組織を再生することができる。本明細書で使用される幹細胞は、胚性幹(ES)細胞、組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)、あるいは他の前駆細胞であり得るが、これらに限定されない。上述の能力を有している限り、幹細胞は、人工的に作製した細胞(例えば、融合細胞、再プログラム化された細胞など)であってもよい。胚性幹細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞である。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、相対的に限定されたレベルの分化能を有する。組織幹細胞は、組織中に存在し、未分化な細胞内構造を有する。組織幹細胞は、より高い核/細胞質比を有し、そしてわずかな細胞内オルガネラを有する。ほとんどの組織幹細胞は、多能性を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合、脂肪由来幹細胞も使用され得る。
【0036】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0037】
本明細書において使用される場合、「前駆細胞」とは、子孫にあたる細胞が特定の分化形質を発現することが明らかな場合、分化形質を発現していない未分化な親細胞をいい、多能性未分化細胞だけでなく単分化能性未分化細胞も含む。例えば、子孫にあたる細胞が、血管内皮細胞である場合、その前駆細胞を血管内皮前駆細胞という。本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」は、前駆細胞を含む。しかし、幹細胞の分化により得られる前駆細胞は、その幹細胞から見ると「分化細胞」に対応するということができる。用語「PLA(吸引脂肪由来細胞)」は、脂肪吸引物の脂肪部分(吸引脂肪)から得られる前駆細胞をいう。脂肪吸引物の液体部分に由来する前駆細胞は、「吸引物細胞」または「LAF」ということができる。脂肪由来前駆細胞は、PLA(吸引脂肪由来細胞)および吸引物細胞を含む。
【0038】
いわゆる吸引脂肪(lipoaspirates)(脂肪吸引物の脂肪部分)から単離された細胞は、回収した起源にちなんでPLA(processed lipoaspirate)細胞と呼ばれている(例えば、Zuk et al. Mol Biol Cell 2002;13:4279−4295)。そこで、本明細書中でも同様に、脂肪吸引物の脂肪部分から単離した細胞を、PLA細胞という。また、本明細書中、脂肪吸引物の液体部分から単離された細胞を、LAF(liposuction aspirate fluid:脂肪吸引物液)細胞という。
【0039】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪由来前駆細胞」、「脂肪由来幹細胞」および「脂肪由来幹/間質細胞」は、交換可能に使用される用語であり、本明細書では、「ASC」と省略され、脂肪吸引より得られた、幹細胞および前駆細胞をいう。ここでいう前駆細胞は、この脂肪吸引により得られた、末梢血由来の幹細胞または血管間質細胞(脂肪前駆細胞(preadipocyte))のようなものである。脂肪由来前駆細胞は、脂肪組織または脂肪吸引法により得られた任意の多能性前駆細胞または単分化能性前駆細胞の集団を意味する。この細胞としては、脂肪由来血管間質細胞(=脂肪前駆細胞(preadipocyte)、脂肪由来間質細胞)、脂肪由来幹細胞、脂肪幹細胞、内皮前駆細胞、造血性幹細胞などが挙げられる。このような幹細胞を単離するためのいくつかの技術が、例えば、Nakatsujiら「幹細胞研究プロトコール[Stem Cell/Clone Research Protocol]」、Yodosha(2001);WO00/53795;WO03/022988;WO01/62901に記載されるように知られている。これらの文献は、その関連部分において、参考として本明細書中に援用される。本明細書中において使用される場合、ASCとは、これらの公知な単離方法により得られた脂肪組織由来幹細胞を含む、全ての脂肪組織由来幹細胞をいう。本明細書中で使用される場合、「前駆細胞」は、多能性未分化細胞だけでなく、単分化能性未分化細胞も含む。本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」は、前駆細胞を含む。用語「PLA(吸引脂肪由来細胞)」は、脂肪吸引物の脂肪部分(吸引脂肪)から得られる前駆細胞をいう。脂肪吸引物の液体部分に由来する前駆細胞は、「吸引物細胞」ということができる。脂肪由来前駆細胞は、PLA(吸引脂肪由来細胞)および吸引物細胞を含む。
【0040】
語句「脂肪吸引由来物質」とは、脂肪吸引が行われた際に生成する任意の物質をいう。代表的に、このような脂肪吸引由来物質は、脂肪組織および脂肪吸引物を含む。
【0041】
語句「脂肪吸引物」とは、脂肪吸引が行われる際に生成する液体をいう。このような脂肪吸引物は、以下:(1)脂肪吸引時に一緒に吸引された液体(例えば、トゥメセント液および血液を含む)または、(2)吸引脂肪を溶液(例えば、生理食塩水)で洗浄する際に生じた廃液、をいう。
【0042】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪細胞(adipocyte)」とは、組織間に位置されるか、あるいは、疎性結合組織または毛細血管周辺の一群として脂肪組織を形成し、そして大量の脂質を含む細胞をいう。脂肪細胞(Fat Cell)としては、黄色脂肪細胞(yellow adipocyte)または褐色脂肪細胞(brown adipocyte)が挙げられる。これらの細胞は、本明細書中において等価に使用され得る。細胞内の脂肪は、スダンIII(Sudan III)または四酸化オスミウムを用いて容易に検出され得る。
【0043】
本明細書において「線維芽細胞増殖因子」または「繊維芽細胞増殖因子」(FGF)とは、中胚葉と神経外胚葉から発生した幅広い細胞の増殖を促進する因子のファミリーであり、具体的には、FGF−1 (酸性FGF)、FGF−2(塩基性FGF)、int−2(FGF−3)、hst−1(FGF−4)、FGF−5、hst−2(FGF−6)、KGF (keratinocyte growth factor、FGF−7)、FGF−8(AIGF;androgen−induced growth factor)、FGF−9(GAF;Glia−activating factor)などの20種類以上の分子が含まれる。なお、後述する実施例では、これらFGFのなかでも、FGF−2を用いているが、これに限定されるものではなく、他のFGFも適宜用いることができる。なお、FGFの濃度等は、当業者であれば適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、特に、0.1ng/ml〜10ng/mlであることが好ましい。
【0044】
本明細書において「塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)」または「塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)」とは、代表的にアクセッション番号NM_002006(ヒト)で示される配列を有するものをいう。
【0045】
本明細書において「血小板由来増殖因子」(PDGF)とは、血管新生又は血管新生過程に影響を及ぼす哺乳動物血小板由来増殖因子を意味する。ここで使用する、「PDGF」という用語は、PDGF−B及びPDGF−Aを含むPDGFの様々なサブタイプを包含する。さらに、ここで使用する、「PDGF」という用語は、コグネイトPDGF受容体を通して血管新生又は血管新生過程を刺激するように働く、PDGF−C及びPDGF−DなどのPDGF関連血管新生因子を指す。特に、「PDGF」という用語は、(i)PDGFR−B又はPDGFR−AなどのPDGF受容体に結合する;(ii)VEGF受容体に関連するチロシンキナーゼ活性を活性化する;及び(iii)これによって血管新生又は血管新生過程に影響を及ぼす、増殖因子のクラスの成員を意味する。ここで使用する、「PDGF」という用語は、一般に、応答性細胞型上の血小板由来増殖因子細胞表面受容体(すなわちPDGFR)の結合及び活性化を通してDNA合成及び有糸分裂誘発を誘導する増殖因子のクラスの成員を指す。PDGFは、例えば:定方向細胞遊走(走化性)及び細胞活性化;ホスホリパーゼ活性化;ホスファチジルイノシトール代謝回転及びプロスタグランジン代謝の上昇;応答性細胞によるコラーゲン及びコラゲナーゼ合成の刺激;マトリックス合成、サイトカイン産生及びリポタンパク質取込みを含む細胞代謝活性の変調;間接的に、PDGF受容体を持たない細胞における増殖応答の誘導;及び強力な血管収縮剤作用を含む、特異的生物作用を生じさせる。「PDGF」という用語は、「PDGF」ポリペプチド及びこの対応する「PDGF」コード遺伝子又は核酸の両方を包含することが意図されている。
【0046】
本明細書において「肝細胞増殖因子(HGF)」とは、劇症肝炎患者の血清から見出されたサイトカインで、分子量が約10万のタンパク質であり、その生理作用は非常に広く、肝硬変やアルコール肝炎の治療、糖尿病に起因する虚血性疾患の治療などにも用いられている。ここで使用する、「HGF」という用語は、様々なサブタイプを包含する。代表的にアクセッション番号NM_010427(ヒト)で示される配列を有するものをいう
本明細書において使用される「増殖刺激剤」とは、細胞の増殖を正の方向に加速する任意の因子(たとえば、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子など)をいう。標的が脂肪由来幹細胞であれば、脂肪由来幹細胞増殖刺激剤という。
【0047】
以上に記載したサイトカイン類は、必要に応じて、GenBankなどから遺伝子の情報(アクセッション番号)を入手して、生産し、またはプローブなどの調製を行うことができる。そのようなアクセッション番号の例としては、上記のほか、実施例において引用したものを挙げることができる。
【0048】
本明細書において使用される「生産刺激剤」とは、任意の生産物の生産を正の方向に加速する任意の因子(たとえば、タンパク質、ペプチド、核酸、低分子など)をいう。標的が肝細胞増殖因子(HGF)であれば、肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤という。
【0049】
本明細書において、細胞を培養する際に用いることができる培地は、通常の細胞培養用の培地を用いることができ、その具体的な組成等は限定されるものではない。例えば、MEM(Minimal Essential Medium:最小必須培地)やDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)培地に、FBS(Fetal Bovine Serum:ウシ胎児血清)、抗生剤を所定の配合比率で混合したものを用いることができる。この際、必要に応じて、成長因子、例えば、サイトカイン、濃縮血小板、BMP、TGF−β、IGF、PDGF、VEGF、HGFやこれらを複合させたもの等の成長に寄与する物質を混合することにしてもよい。また、エストロゲン等のホルモン剤や、ビタミン等の栄養剤を混合してもよい。なお、ウシ胎児血清に代えてヒト血清を用いてもよい。また、抗生剤としては、ペニシリン系抗生物質の他、セフェム系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ホスホマイシン系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系等任意の抗生物質を採用することができる。さらに、本発明において、培地中にトランスフェリン、インスリン、セレン酸、及びリノール酸からなる群より選択される1種又は2種以上の添加剤を添加することにより、培地中の血清濃度が低い場合でも、通常の血清の使用量と同等若しくはそれ以上の増殖効果を得ることができる。
【0050】
本明細書において「線維性病変」または「繊維性病変」とは、線維が変性する任意の病変を言う。代表的には、線維性病変としては、慢性関節リウマチ、肺線維症、肝硬変、腎硬化症、心筋梗塞、皮膚筋炎、SLE(全身性エリテマトーデス)、シェーグレン症候群、強皮症、肥厚性瘢痕、ケロイド、自己免疫性肝炎、壊死性筋膜炎、動脈硬化、ASO(閉塞性動脈硬化症)、バージャー病などをあげることができるが、これに限定されない。
【0051】
本明細書において使用される虚血還流は、線維化形成のモデルでありうる。そして、このような虚血還流の実験は、本明細書中実施例において例証されている。
【0052】
本明細書において使用される「慢性炎症」とは、あらゆる臓器、組織でおこりうる慢性の炎症一般を指し、たとえば、阻血、感染(微生物)、自己免疫反応(これは非常に多く範囲も広い)、アレルギー、膠原病、リウマチ、毒性物質への暴露(アスベスト、ヒ素、異物など)、毒性物質への暴露(アスベスト、ヒ素など)、動脈硬化などで起こる炎症であり、広く予防、処置が期待されるものである。
【0053】
本明細書において使用される場合、「診断、予防、処置または予後のために有効な量」とは、それぞれ、診断、予防、処置(または治療)または予後において、医療上有効であると認められる程度の量をいう。このような量は、当該分野において周知の技術を用いて種々のパラメータを参酌することにより、当業者により決定され得る。
【0054】
本発明が医薬として使用される場合、その医薬は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。当該分野において公知な任意の薬学的に受容可能なキャリアが、本発明の医薬において使用され得る。
【0055】
薬学的に受容可能なキャリアまたは適切な処方材料としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、および/または薬学的アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、本発明の細胞および他の活性成分を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般に使用される他の物質を補充することが可能である。
【0056】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、好ましくはレシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして好ましくは、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
適切なキャリアの例としては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤が、所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0〜8.5のTris緩衝剤またはpH4.0〜5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらはさらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0058】
本発明の医薬組成物の一般的な調製法を以下に記載する。動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物、食品組成物および化粧品組成物なども、公知の技術により製造することができる。
【0059】
本発明の細胞などは、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアと配合され、注射剤、懸濁剤、溶液剤、スプレー剤等の液状製剤として非経口的に投与され得る。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、賦形剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、崩壊インヒビター、吸収促進剤、吸収剤、保湿剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物も、必要に応じて使用され得る。本発明の組成物は、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチドなど以外の物質を配合され得る。非経口の投与経路の例としては、静脈内、筋肉内、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、局所投与、経皮投与などが挙げられるが、これらに限定されない。全身投与される場合、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当該技術の範囲内である。
【0060】
本発明の医薬組成物は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤をさらに含み得る。
【0061】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者により容易に決定され得る。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者により容易に決定され得る。頻度の例としては、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)が挙げられる。好ましくは、投与は、経過を見ながら1週間〜1ヶ月に1回施される。投薬量は、処置される部位が必要とする量を見積もることによって、確定され得る。
【0062】
本明細書において使用される場合、用語「指示書」は、医薬を投与する方法または診断のための方法などを、医師、患者など投与を行う人または投与される人、診断する人(例えば、医師、患者など)または診断される人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与するための適切な方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供される。この指示書は、これに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供される電子媒体(例えば、ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0063】
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用可能なアッセイもしくは機器を使用する標準的な臨床検査の結果または意図される処置に関連する疾患(例えば、創傷など)に特徴的な臨床症状の消滅あるいは美容状態の回復(例えば、外見の回復など)によって支持され得る。治療は、疾患(例えば、創傷)の再発または美容状態の損傷により再開され得る。
【0064】
本発明はまた、1つ以上の医薬組成物を満たした1つ以上の容器を備える医薬品パッケージまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属され得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。このキットは、注射用デバイスを備え得る。
【0065】
(脂肪由来幹細胞)
脂肪由来幹細胞または脂肪由来前駆細胞は、脂肪吸引物の液体部分(脂肪吸引液)から、例えば以下のように調製することができる。処理方法(1)脂肪組織と等量の0.075%コラゲナーゼを加え37℃で30分酵素処理する(2)処理後に800G×10分遠心する(3)上層を除去し、沈殿した細胞にPBSを加え、100μmポアフィルターを通す(4)フィルターを通った細胞を回収する。(より詳細な条件は、文献Zuk et al. Tissue Eng 7:211−228(2001)、Yoshimura et al. J Cellular Physiol 208:64−76(2006)などに記載されており、これらを参酌して当業者は脂肪由来幹細胞または脂肪由来前駆細胞を調製することができる。)
脂肪吸引方法は、当業者に周知である技術を用いて、実施することができる。脂肪吸引方法に用いられる装置としては、ケイセイ脱脂吸引機サルポンプSAL 76−A(ケイセイ医科工業(株)、東京都文京区本郷3−19−6)が挙げられるが、これらに限定されない。例えばヒトの場合、0.0001%アドレナリン入り生理食塩水などの液体を、予定吸引脂肪量の等量から2倍量、脂肪組織内に注入し、その後、内径2〜3mmのカニューレ(金属製吸引管)を用いて、−250〜900mmHg程度の陰圧で吸引することによって行う。
【0066】
吸引した脂肪細胞を洗浄するために使用される液体として通常は、生理食塩水が用いられる。しかし、生理食塩水以外にも、単離すべき幹細胞に悪影響を与えない液体であれば、任意の液体が使用可能である。具体的には、例えば、リンゲル液、および哺乳動物培養培地(例えば、DMEM、MEM、M199、およびMCDB153など)のような、任意の等張液が、本発明において使用可能である。
【0067】
脂肪吸引物から幹細胞を調製する場合、必要に応じて、脂肪吸引物にコラゲナーゼなどの酵素処理を行なうことが可能である。しかし、脂肪吸引物中に含まれるコラーゲンの量は、脂肪組織と比較して相対的に少ないため、幹細胞調製の原料として脂肪吸引物を用いる場合、コラゲナーゼ処理に必要とされる時間、および/または酵素処理に必要とされる酵素量が、脂肪組織の場合よりも、相対的に低い。
【0068】
脂肪吸引物を遠心分離して細胞画分を得る工程においては、細胞画分と、その他の成分(例えば、血漿、手術時に注入した生理食塩水、麻酔薬、止血薬、破壊された脂肪細胞から漏出した脂質成分)とを分離する任意の条件を用いることができる。例えば、400〜800×gでの5〜15分程度の遠心分離を用いることが可能である。
【0069】
比重による遠心分離により細胞を単離する工程においては、例えば単離された細胞画分を、密度勾配遠心分離にかけることができる。任意の密度勾配遠心分離のために使用可能な媒体が、この媒体として使用され得る。好ましい媒体は、1.076〜1.078g/mlの比重を有し得る。さらに、好ましい媒体のpHは、4.5と7.5との間である。媒体中の好ましいエンドトキシンレベルは、0.12EU/ml以下である。代表的な媒体としては、スクロース、フィコール(スクロースとエピクロロヒドリンとの共重合物)、およびパーコール(ポリビニルピロリドンの被膜を有するコロイド状シリカ製品)が挙げられる。フィコールは、例えば、Ficoll−Paque PLUS(ファルマシアバイオテク株式会社、東京)、Histopaque−1077(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、東京)などの名称で市販されている。パーコールは、Percoll(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、東京)という名称で市販されている。
【0070】
比重による遠心分離の条件は、Ficoll−Paque PLUSを媒体として用いる場合、400×g、30〜40分が用いられ、Histopaque−1077を媒体として用いる場合、370cg、約30分が用いられる。リンフォプレップを媒体として用いる場合、条件としては800×g、約20分または1100×g、約10分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
比重による遠心分離が用いられるときに、最も多い細胞は、通常赤血球細胞であり、赤色の細胞層として確認することができる。幹細胞は、赤血球よりも比重が軽いため、幹細胞を分離する場合には、赤血球よりも軽い細胞層を収集する。好ましくは、比重1.050〜1.075の範囲の細胞層を収集する。
【0072】
おおまかな細胞の比重は、パーコール、レディグラッドのような密度勾配遠心分離媒体を塩化ナトリウム溶液やスクロース溶液で調製し、収集した細胞と共にデンシティーマーカービーズ(density marker beads)を加えて遠心し、ビーズによって分けられた5〜10層のうち、どの層に細胞があるかを確認することで、試験され得る。
【0073】
さらに、層に分離した細胞の回収は、例えば、ピペットを用いて行なうことができる。
【0074】
比重による遠心分離においては、セルセパレーター(例えば、血液成分分離装置ASTEC204、(株)アムコ)を使用することが可能である。
【0075】
細胞が脂肪組織から分離される条件は、細胞が脂肪組織から分離され、かつ細胞の単離を促進する条件であり得る。このような条件としては、例えば、Wakoより入手可能なコラゲナーゼ(細胞分散のためのコラゲナーゼ、032−10534)を添加するような、細胞外マトリクスの分解が挙げられるが、これに限定されない。このようなコラゲナーゼは、濃度0.075%にてPBS中に溶解し、この溶液を37℃まで温めて脂肪と等量を添加する。そのサンプルを37℃にて80rpmで30分間攪拌するために、アジテーターが使用される。
【0076】
好ましくは、本発明の方法は、高度の幹細胞純度を達成するために、血球細胞を除去する工程をさらに包含する。しかし、このような血球細胞は、続いてディッシュ上で培養し、この細胞集団を継代し、80%を超える(好ましくは、90%を超える)幹細胞を生じさせることにより除去され得る。このような血球細胞は、血球細胞を分解する成分を添加する工程を包含する血球除去工程により、除去され得る。
【0077】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態が説明される。以下の実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。本明細書中を参酌して、本発明の範囲を逸脱することなく、変更および修正を行い得ることが、当業者に明らかに理解される。
【0078】
本発明者らは、ヒトおよびマウスの脂肪由来幹細胞/間質細胞(ASC)に対する障害関連増殖因子の作用を分析し、FGF−2が、JNKシグナル伝達経路を介してASCによるHGF分泌を誘導すること、そして、アップレギュレートされたHGFの産生が、損傷を受けた脂肪組織における線維化を防ぐ助けとなることを見出した。
【0079】
本発明者らの結果は、損傷後の脂肪組織修復においてASCが主要な増殖細胞集団として重要な役割を果たすことを示した。FGF−2−JNK−HGF機構を通じて、ASCは、損傷後に、線維化を防ぎ、脂肪組織の体積を維持し、そして、脂肪組織の機能を向上する助けとなる。
【0080】
本発明者らは、脂肪の損傷および修復についての新規動物モデルを開発および使用した。この動物モデルは、脂肪細胞および毛細管の再構築を伴う脂肪組織の損傷および再生の再現性のある結果を提供し、この全ては、2週間以内に完了した。
【0081】
本研究の結果は、損傷応答におけるASCについての新しい役割を明らかにし、そして、ASCの治療上の可能性に新しい見通しを提供した。ASCを用いた細胞治療は、特に、FGF−2で前処理をするか、または、FGF−2と組み合わせたとき、組織の修復を加速し、線維化を減らし、そして、HGFの作用によって急性または慢性の炎症により損ねられた臓器の機能を改善し、同様に、自家脂肪移植片の活着を改善する。
【0082】
好ましい実施形態では、本発明者らは、脂肪組織の損傷および修復の過程におけるASCの役割に焦点を当て、そして、損傷に関連する増殖因子の中でも、線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)が、c−Jun N末端キナーゼ(JNK)シグナル伝達経路を介して、ASCの増殖とHGF分泌を強く促進したことを見出した。脂肪組織の虚血再潅流障害のマウスモデルにおいて、壊死性およびアポトーシス性の変化に続く再生性の変化が2週間にわたり見られた。損傷を受けた脂肪組織によるFGF−2の短時間の放出の後、HGFのアップレギュレーションが続いた。脂肪組織の再構築過程の間に、BrdU陽性の増殖細胞は、CD34+であり、そして、ASCではないかと疑われた。JNKシグナル伝達の阻害は、ASCの増殖と移動を阻害し、そして、再構築過程の進行を妨げた。さらに、FGF−2またはJNKシグナル伝達の阻害は、損傷後のHGFのアップレギュレーションを妨げ、そして、損傷を受けた脂肪組織における線維化の増加をもたらした。線維化の増加はまた、HGFに対する中和抗体の投与の後にも起こった。
【0083】
したがって、結論として、損傷を受けた組織から放出されるFGF−2は、JNKシグナル伝達経路を介して、ASCを刺激して増殖させ、そしてHGFを分泌するように機能し、損傷後の脂肪組織の再生と線維化抑制に寄与する。本研究は、損傷に対する応答におけるASCについての機能的な役割を明らかにし、そして、ASCの治療的な可能性に、新しい見通しを提供することができる。
【0084】
(治療剤および予防剤)
1つの局面において、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子とを含む治療剤または予防剤を提供する。
【0085】
本発明の治療剤または予防剤は、従来の技術に比べて、以下の点で顕著な効果を奏する。理論に束縛されることを望まないが、たとえば、本発明の治療剤または予防剤は、従来のものに比べて、線維性病変を効率的に治療する、より効果的に線維化を予防する、より効果的に血管新生を促進する、より効果的に組織の再生・正常なターンオーバーを促進するなどの効果を奏する。また、本発明において細胞を用いることにより、持続的かつ安全なHGFの分泌(投与)が実現できるという利点もある。
【0086】
特に、本発明の脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子とを含む治療剤または予防剤は、線維性病変を処置または予防するために使用されることが本発明において実証された。
【0087】
ここで、本発明によって治療または予防されうる「線維性病変」としては、たとえば、性関節リウマチ、肺線維症、肝硬変、腎硬化症、心筋梗塞、皮膚筋炎、SLE(全身性エリテマトーデス)、シェーグレン症候群、強皮症、肥厚性瘢痕、ケロイド、自己免疫性肝炎、壊死性筋膜炎、動脈硬化、ASO(閉塞性動脈硬化症)、バージャー病などを挙げることができるが、これらに限定されない。線維性の病変の改善が所望される任意の疾患が本発明の対象であるというべきである。
【0088】
1つの実施形態では、特に、本発明が標的とする線維性病変は、慢性炎症時のものである。慢性炎症時のものの処置については、従来有効な処置法が提供されているとはいいがたく、よりよい治療・予防剤の提供が望まれていた。そこで、本発明の治療剤または予防剤は、従来の技術に比べて、以下の点で顕著な効果を奏する。理論に束縛されることを望まないが、形質転換されていない細胞が分泌するものであるため副作用が小さいと考えられることから、慢性炎症が従来に増して抑制されることが期待される。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明において使用されるFGFは、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)である。理論に束縛されることを望まないが、FGF−2が好ましい理由としては、たとえば、FGF−2はすでに医薬品として承認されており、その安全性についての情報が十分であること(科研製薬から販売されているものを使用することができる。)、また、徐放化製剤の治験も行われており、将来的に使用が容易になることが予想されること、形質転換されていない自己の細胞を使うことにより、その安全性が高いと思われること、他の因子の分泌など付随した利益が期待できることなど、種々の有利な点が存在する。
【0090】
(肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法)
別の局面において、本発明は、線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養する工程を包含する、肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法を提供する。この生産方法では、驚くべきことに、線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養することによって、予想外にHGFの生産が促進された。また、従来の文献(たとえば、非特許文献17、21など)でも、術後ドレーンを解析したのみであり各GF量変化のメカニズムやパラクライン的な作用については記載はなく、ASCの遺伝子発現等についてはデータがなく、ASCがHGFを分泌することはなんら記載も示唆もしていない。したがって、本発明のHGF生産刺激剤としての効果は、予想外であったといえる。理論に束縛されることを望まないが、FGF−2がHGF生産を促進することが予想外であった理由は、以下のとおりである:従来技術で想定されていたものより、本発明のものはその分泌能が非常に高く、その分泌能がbFGFを継続的に投与した場合に特に飛躍的に高い分泌能が見られることは通常他の因子や細胞においても稀にしか見られないことから、従来のHGF生産技術から飛躍的な効果が期待される。また、本発明のこの局面において、使用されるFGFおよびASCなどは、必要に応じて、適宜公知・周知技術を用いることによって、本明細書において記載される任意の形態を使用することができることが理解される。
【0091】
(脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤)
別の局面において、本発明は、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤を提供する。
【0092】
本発明のこの局面において、使用されるFGFおよびASCなどは、必要に応じて、適宜公知・周知技術を用いることによって、本明細書において記載される任意の形態を使用することができることが理解される。
【0093】
(脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤)
別の局面において、本発明は、線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤を提供する。理論に束縛されることを望まないが、FGFが脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激することが予想外であった理由は、以下のとおりである:HGFが分泌されることは予想外ではないが、その分泌能が非常に高く、その分泌能がbFGFを継続的に投与した場合に特に飛躍的に高い分泌能が見られることは通常他の因子や細胞においても稀にしか見られないことである。本発明のこの局面において、使用されるFGFおよびASCなどは、必要に応じて、適宜公知・周知技術を用いることによって、本明細書において記載される任意の形態を使用することができることが理解される。
【0094】
(脂肪由来幹細胞を用いる疾患または障害を治療または予防する方法)
別の局面において、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子を用いる疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。また、本発明のこの局面において、使用されるFGFおよびASCなどは、必要に応じて、適宜公知・周知技術を用いることによって、本明細書において記載される任意の形態を使用することができることが理解される。
【0095】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記実施形態にも下記実施例にも限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0096】
以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigma等から得ることができる。動物の飼育は、National Society for Medical Researchが作成した「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成、National Institute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication,No.86−23,1985,改訂)に遵って、動物愛護精神に則って行った。ヒトを対象とする場合は、事前に同意(インフォームドコンセント)を得た上で実験を行った。
【0097】
(実施例1:脂肪組織の損傷および修復の過程におけるASCの効果)
本実施例では、脂肪組織の損傷および修復の過程におけるASCの効果を実証した。
【0098】
(材料および方法)
細胞の単離および培養
腹部または大腿部の脂肪吸引を受けた健康な女性ドナーからインフォームドコンセントを得た後に、倫理調査委員会により承認されたプロトコールを用いて、脂肪吸引術による吸引物をこれらのドナーから得た。ASCを、以前に記載されたようにして、吸引された脂肪から単離した(Yoshimura K., Shigeura T., Matsumoto D. et al. 「Characterization offreshly isolated and cultured cells derived from the fatty and fluid portionsof liposuction aspirates」J Cell Physiol 2006; 208: 64-76)。簡単に述べると、吸引された脂肪を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、そして、シェーカー上で、0.075%コラゲナーゼを含むPBS中、37℃にて30分間、消化した。遠心分離(800×g、10分間)により、ペレットから成熟脂肪細胞と結合組織を分離した。細胞ペレットを再懸濁し、100μmメッシュを通してろ過し、そして、5×10の有核細胞/10cmシャーレの密度で播種し、そして、加湿空気中5% COの雰囲気において、37℃で培養した。培養培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むDulbeccoの改変Eagle培地(DMEM)であった。始原細胞を7日間培養し、そして、「パッセージ0」として規定した。培地は、3日毎に交換した。細胞を、トリプシン処理により毎週継代した。パッセージ1〜3のヒトASCを実験に使用した。マウスASCを分離するために、6週齢の雄性ICRマウスの鼠径部の脂肪パッドから脂肪組織を得た。この脂肪組織を、2〜3mm角に細かく切り、そして、上記のように処理した。パッセージ1〜3のマウスASCを実験に使用した。ヒト真皮線維芽細胞(hDF)を、別々のドナーからの皮膚サンプルの外植片から得た;パッセージ3〜5のhDFを実験に使用した。パッセージ2で凍結された、骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(hBM−MSC)を、Cambrex(Walkersville,MD)から購入した;パッセージ3〜5のhBM−MSCを実験に使用した。
【0099】
増殖アッセイ
ヒトASCを2×10細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種した。障害関連増殖因子(VEGF、FGF−2、HGFおよびPDGF;全て、和光純薬製)の各々を、0.1ng/ml、1ng/mlおよび10ng/mlの濃度でコントロール培地(DMEM+10% FBS)に加えた。細胞カウンター(NucleoCounterTM,Chemometec,Allerod,Denmark)を用いて、培地中で3日後、6日後および9日後に、細胞数をカウントした。他の細胞型について、10cmシャーレに2×10細胞を播種し、そして、7日後に細胞数をカウントした。
【0100】
フローサイトメトリー
10ng/mlのVEGF、FGF−2、HGFまたはPDGFと共に7日間培養したヒトASCを、フローサイトメトリーを用いて、表面マーカー発現について調べた。以下の蛍光色素結合化モノクローナル抗体を使用した:抗CD31−PE、抗CD34−PE(BD Biosciences,San Diego,CA)、抗Flk−1−PEおよび抗Tie−2−PE(R&D Systems,Minneapolis,MN)。細胞を、各抗体と共に30分間インキュベートし、次いで、LSR IIフローサイトメトリーシステム(BD Biosciences)を用いて解析した。ゲートは、問題とされる抗体と無関係の抗体との組み合わせを用いた染色に基づき、無関係の抗体を用いた場合に細胞の0.1%以下が陽性となるように設定した。
【0101】
定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応
本発明者らは、10ng/mlのVEGF、FGF−2、HGFまたはPDGFと共に培養したヒトASCからRNAを単離した。他の細胞型については、RNAを、FGF−2(10ng/ml)を伴ってか、または伴わずに培養した細胞から単離した。RNeasyTM Mini Kit(QIAGEN,Hilden,Germany)を用いて2μgの総RNAを単離し、その後、逆転写反応を行った。本発明者らは、ABI 7700配列検出システム、TaqManTM Universal PCR Master Mixと、以下の予め設計されたプライマーおよびフルオレセイン標識プローブとを用いて、cDNAを40サイクル増幅した:ヒトVEGF(Hs00900054_m1);FGF−2(Hs00266645_m1);HGF(Hs00300159_m1);PDGF(Hs00234042_m1);GAPDH(Hs99999905_m1);マウスVEGF(Mm00437304_m1);FGF−2(Mm00433287_m1);HGF(Mm01135182_m1);およびGAPDH(Mm99999915_m1;全てのプライマーは、Applied Biosystems(Foster City,CA)製)。本発明者らは、GAPDHを内部参照遺伝子として用いて、相対的CT法により発現レベルを算出した。
【0102】
酵素結合免疫吸着定量法による、HGFタンパク質の定量
FGF−2(10ng/ml)を伴ってか、または伴わずに72時間培養したヒトASCの馴化培地を、ヒトHGF(QuantikineTM, R&D Systems)についてのELISAキットを用いて、酵素結合免疫吸着定量法(ELISA)により分析した。データは、収穫の時点での10細胞あたりの分泌された因子として表した。
【0103】
MAPキナーゼシグナル伝達経路の阻害
3つのシグナル伝達経路の各々について1つの選択的なインヒビター(ERKインヒビターであるU0126、p38タンパク質インヒビターであるSB202190、およびJNKインヒビターであるSP600125;全て、Calbiochem(La Jolla,CA)製)を10μMの濃度で、FGF−2(10ng/ml)と共に加え、そして、増殖アッセイおよびリアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、増殖および遺伝子発現に対する作用を調べた。
【0104】
JNK活性アッセイ
細胞ベースのELISAキット(CASETM Kit,SuperArray,Frederick,MD)を製品説明書に従って使用して、c−Junリン酸化の程度によりJNKの活性を測定した。簡単に述べると、ヒトASCを、1ウェルあたり2×10細胞の濃度で96ウェルプレートに播種し、そして、一晩静着させた。次いで、細胞を無血清培地中で24時間養分を絶った。細胞をビヒクル(0.1% DMSO)、U0126、SB202190またはSP600125と共に15分間前処理した後、これらを、FGF−2(10ng/ml)に15分間曝露した。抗ホスホ−c−Jun(セリン73)抗体および抗汎C−Jun抗体を用いて、活性化された(リン酸化された)c−Junタンパク質と、総c−Junタンパク質の量を測定した。
【0105】
脂肪組織に対する虚血再潅流障害についてのマウスモデル
動物の世話は、施設のガイドラインに従った。6週齢のICRマウスを、ペントバルビタール(50mg/kg体重)を用いて麻酔し、そして、鼠径部領域に2cmの切開をつくった。インタクトな大腿動脈から延びる栄養大動脈と共に、鼠径部皮下の脂肪パッドを持ち上げた。脂肪パッドから皮膚まで延びる細い交通枝を、電気凝固した。大動脈を、血管マイクロクリップで3時間にわたり締め付け、次いで、解放して再潅流させた。虚血再潅流障害後、種々の時間間隔(1日目、3日目、7日目および14日目)で脂肪組織サンプルを採取し、そして、リアルタイムRT−PCRおよび組織学(ヘマトキシリン−エオジン染色、Azan染色など;以下を参照のこと)により調べた。擬似手術を行った動物(虚血再潅流なし)からの脂肪サンプルをコントロールサンプルとして使用した。
【0106】
インビボ阻害アッセイ
0.5μl/hの速度で液体を放出する浸透性ポンプ(Model 1007D,ALZET,Cupertino,CA)を用いて、約7日間にわたり、インヒビター溶液を注入した。100μlのJNKインヒビター(SP600125;10μM)、ヤギ抗FGF−2抗体(R&D Systems;50μg/ml)、ヤギ抗マウスHGF抗体(R&D Systems;50μg/ml)を含むポンプ、または、コントロールのPBSを含むポンプを再潅流時に皮下に移植した。
【0107】
アポトーシスおよび増殖の組織学的検出
脂肪組織における虚血再潅流障害後のアポトーシスを検出するために、In Situ Cell Death Detection Kit(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を用いて、ターミナルデオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼにより媒介されるdUTPニック末端標識(TUNEL)染色を行った。増殖細胞を検出するために、組織を採取する6時間前および3時間前に、1mgの5−ブロモ−2−デキシウリジン(BrdU;BD Biosciences)を腹腔内投与した。BrdU In−Situ Detection Kit(BD Biosciences)を用いて、BrdU陽性細胞を検出した。切片1枚あたり3つの無作為に選択した視野を用いて、TUNELまたはBrdU陽性細胞の数を、倍率200×でカウントした。
【0108】
免疫組織化学
採取した脂肪組織サンプルを、亜鉛固定し(Zinc Fixative,BD Biosciences)、そして、パラフィン包埋した。本発明者らは、6μm厚の切片を調製し、そして、以下の一次抗体を用いて免疫染色を行った:ヤギ抗FGF−2(R&D Systems)、ヤギ抗マウスHGF(R&D Systems)、ヤギ抗マウスCD68(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)、ヤギ抗マウスCD34(Santa Cruz Biotechnology)、ラット抗マウスCD31(BD Biosciences)、およびビオチン化マウス抗BrdU(BD Biosciences)。ジアミノベンジジン(DAB)を用いた可視化のために、各一次抗体に適切なペルキシダーゼを結合した二次抗体(ニチレイ生化学Nichirei Biosciences,Tokyo,Japan)、または、ストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体(BD Biosciences)を使用した。二重蛍光染色のために、以下の二次抗体または試薬を使用した:Alexa FluorTM 488を結合したウサギ抗ラットIgG、Alexa FluorTM 488または568を結合したロバ抗ヤギIgG、およびAlexa FluorTM 568を結合したストレプトアビジン(Molecular Probes,Eugene,OR)。
【0109】
生存組織の画像化
Nishimuraらの手順を用いて、生存脂肪組織の可視化を行った(Nishimura S., Manabe I., NagasakiM. et al. 「Adipogenesis in obesity requires close interplay betweendifferentiating adipocytes, stromal cells, and blood vessels」Diabetes 2007; 56:1517-1526)。簡単に述べると、脂肪組織を3mm角に細かく切り、そして、以下の試薬とともに30分間インキュベートした:脂肪細胞を染色するためのBODIPYTM 558/568またはBODIPYTM−FL(両方とも、Molecular Probes製)、内皮細胞を染色するためのAlexa FluorTM 488を結合したイソレクチンisolectin GS−IB4(Molecular Probes)、全核を染色するためのHoechst 33342(同仁堂Dojindo,Kumamoto,Japan)、または、壊死細胞の核を染色するためのヨウ化プロピジウム(PI;Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)。次いで、サンプルを洗浄し、そして、共焦点顕微鏡システム(Leica TCS SP2)を用いて直接観察した。
【0110】
統計的解析
結果は、平均±平均の標準誤差(SEM)として表した。2群間の比較は、Welchのt検定を用いて行った。多群間の比較は、複数比較のための補正を行って、分散解析により行った。p<0.05の値を有意であるとみなした。
【0111】
(結果)
ヒトASC増殖に対する障害関連増殖因子の作用
FGF−2およびPDGFは、濃度依存的にヒトASCの増殖を促進し、一方で、VEGFおよびHGFは、ASCの増殖を促進しなかった(図1A)。形態学的には、FGF−2と共に培養したASCは、他の増殖因子と共に培養したASCよりも小さかった(図1B)。
【0112】
ヒトASCに対する障害関連増殖因子の表現型による作用
フローサイトメトリーは、あらゆる障害関連増殖因子による内皮表面マーカー(CD31、CD34、Flk−1およびTie−2)の発現において有意な差は示さず、少なくともいかなる細胞外マトリックスもなしで培養した場合に、単一の因子の補充だけでは、ヒトASCの内皮性の分化を誘導するには不十分であることが示唆された(図1C)。
【0113】
ヒトASCによる発現に対する障害関連増殖因子の相互作用
FGF−2およびPDGFは、ヒトASCによるその自己転写体の発現を有意にダウンレギュレートし、そして、FGF−2はまた、PDGF mRNA発現も有意に抑制した(図2A)。より興味深いことに、FGF−2は、HGF mRNA発現において顕著な増加を促進した。経時的な評価により、HGF mRNAのアップレギュレーションは二相性であり、6時間で最初のピークに達し、そして24時間後に顕著な増加が始まることが明らかとなった(図2B)。培養培地のELISAにより、FGF−2により刺激されたヒトASCによるHGFタンパク質の分泌は、3日目に有意に増加したことが実証された(図2C)。
【0114】
ヒトASCに対するFGF−2誘導性作用の細胞内シグナル伝達経路
ヒトASCに対するFGF−2の増殖促進作用は、JNKインヒビター(SP600125)により有意に阻害されたが、ERKインヒビター(U0126)またはp38インヒビター(SB202190)では阻害されなかった(図3A)。FGF−2によるHGF mRNAのアップレギュレーションもまた、JNKインヒビターによって有意に阻害された(図3B)。ERKインヒビターおよびp38インヒビターの投与は、HGF mRNAの発現レベルをわずかに減少したが、この変化は、統計的に有意ではなく、JNKと他のシグナル伝達経路との間の混線が示唆された。FGF−2処理により増加されたJNKシグナル伝達経路の典型的な核エフェクターであるc−Junのリン酸化と、c−Junリン酸化のFGF−2誘導性のアップレギュレーションとは、JNKインヒビターを用いた前処理により完全に防止された(図3C)。これらの結果は、FGF−2が、JNKシグナル伝達経路を通じて、増殖とHGF mRNA発現とを優先的に促進することを示す。
【0115】
ヒトASCおよび他の細胞型におけるFGF−2誘導性作用
細胞増殖は、研究に用いた4つ全ての細胞型(ヒトASC、ヒトDF、ヒトBM−MSCおよびマウスASC)により促進されたが、基礎的な増殖能力は、細胞型間で異なった。FGF−2により増進された細胞増殖は、検討した全ての細胞型においてJNKインヒビター(SP600125)によって有意に阻害された(図3D)。HGF mRNAの発現もまた、全ての細胞型において、FGF−2により促進され、そして、HGF mRNAのアップレギュレーションは、ヒトBM−MSCを除いて、JNKインヒビターにより有意に阻害された(図3E)。これらのことから、FGF−2によるHGF mRNAのアップレギュレーションは、ヒトBM−MSCにおいてはJNK以外のシグナル伝達経路により媒介されることが示唆された。
【0116】
マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の修復
マウス鼠径部の脂肪パッドは、一貫して、解剖学的に異常のない栄養大動脈および大静脈を有し、このことにより、再現性のある虚血再潅流障害実験が可能となった(図4A)。組織学的には、早くも1日目には血球の間質浸潤が観察され、そして、この間質浸潤は3日目に最も顕著であった。小さなサイズの脂肪細胞が1日目に現れ、そして、3日目には数が増えていた。このことから、脂肪分解または脂肪生成は、脂肪組織の全体にわたって起こることが示唆された。7日目には、浸潤性の赤血球が消失し、そして、いくつかの脂肪細胞はサイズが大きくなる一方で、相当数の有核細胞は、脂肪細胞間の間隙空間に残ったままであった(図4B)。BrdU陽性の増殖細胞数は、1日目から増加し、そして、3日目にピークを迎えたが(図4C)、TUNEL陽性の脂肪細胞は、1日目に有意に高い頻度(有核細胞の6〜9%)で観察され、そして、その後減少した(図4D)。さらに、PI陽性の壊死細胞の増加が3日目に観察され、そして、これらの細胞の中には、レクチン陽性のものもあった。これらのことから、毛細管内皮細胞の中には、壊死を起こしているものもあり、そして、毛細管の再構築が進行中であったことが示唆された(図4E)。これらの結果は、脂肪組織が再潅流直後に損傷を受け、アポトーシスおよび壊死が脂肪変質過程に関与し、そして、その後に、再生上の変化が生じることを示唆する。
【0117】
FGF−2タンパク質は、早くも1日目には免疫組織化学により間質組織において検出され、その検出ピークは3日目であったが、そう多くないFGF−2が、7日目に発現されていた(図5A)。一方、そう多くないHGFタンパク質が1日目に検出されたが、HGFの発現は、3日目から、少なくとも7日目までに上昇した(図5B)。興味深いことに、FGF−2 mRNAは、損傷直後から第一週目を通じてダウンレギュレートされており、FGF−2は、ASCのような生存細胞により産生されるのではなく、細胞外マトリックスまたは瀕死の細胞のような損傷を受けた脂肪組織の貯蔵庫から放出されることが示唆された。放出されたFGF−2は、ヒトASCにおいてインビトロで観察されるように、損傷を受けた脂肪組織においてASCによるFGF−2 mRNAの発現をダウンレギュレートし得る。対照的に、組織におけるHGF mRNAの発現は、3日目に有意に上昇したが、1日目と7日目には上昇しておらず(図5C)、HGF mRNAの遅れたアップレギュレーションと、HGFの分泌とは、おそらく、先行するFGF−2タンパク質の放出により誘導されるということが示唆された。
【0118】
損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象
損傷を受ける前、CD34+/CD31−細胞(ASCとみなす)は、インタクトな脂肪組織の全体にわたって見られ、成熟な脂肪細胞の間に位置し、そして、特に、血管周辺で豊富であった(図6A)。CD34+/CD31−細胞の数は、明らかにCD31+内皮細胞(CD34について、陰性、または、かすかに陽性であった)の数よりもかなり多かった。損傷後3日で検出されることが多かったBrdU陽性増殖細胞の大部分はまた、CD34についても陽性であり(図6B上段)、そして、CD34+細胞の多くは、レクチン陰性であり(図6B下段)、CD34+/レクチン−のASCが、修復過程において実質的な役割を担うことが示唆された。生存組織の画像化により、間隙空間と小さなサイズの脂肪細胞の増加、レクチン陽性の円形細胞を含む有核細胞数の増加(図6C)、そして、特に小さなサイズの脂肪細胞の周囲での毛細管(図8A)が明らかとなった。7日目には、大きなサイズの脂肪細胞はJNKインヒビターで処理したサンプルにおいては観察されず、一方で、未処理のモデルにおいては大きなサイズの脂肪組織が観察された(図6C)。さらに、PI陽性の核は、1日目と3日目に観察されることが多く、そして、このうちの少数のものが、脂肪細胞において観察された。このことから、毛細管の内皮細胞(図4D)だけでなく、脂肪細胞(図6D)もまた、壊死を起こしていたことが示唆される。7日目には、PI陽性の核が依然としてJNKで処置したサンプルにおいては観察されたが、未処理のモデルにおいてはほとんど検出されなかった(図6D)。JNKインヒビターはまた、3日目と7日目に、CD34+/レクチン−のASCの増殖および移動を抑制した(図6E)。これらの結果は、脂肪細胞および毛細管を伴う脂肪組織の再構築が、損傷後の第一週の間に進行中であり、そして、組織修復過程は、JNKインヒビターでの処置により損ねられたことを示唆する。CD68+細胞は、浸潤性のマクロファージとして、インタクトな脂肪組織においてほとんど検出されなかった(図8B)。しかし、浸潤したマクロファージは、損傷後の小さなサイズの脂肪細胞様の細胞の周囲に凝集したのが観察され、これは、食作用を示唆するものである。CD68+細胞のこの凝集は、損傷後3日目に最も多く観察された。
【0119】
虚血再潅流障害後のHGF発現および線維化に対するシグナル阻害の影響
JNKインヒビター、または、FGF−2に対する中和抗体の投与は、3日目に、損傷を受けた脂肪組織におけるHGF mRNAのアップレギュレーションを完全に妨げ(図7A)、そして、7日目には、HGFの分泌を抑制した(図7B)。2週間目の線維性領域の組織学的測量は、脂肪組織に対する再潅流障害は、線維性領域の有意な増加(10%から23%への増加)をもたらしたことを明らかにした。さらに、JNKまたはFGF−2シグナル伝達の阻害は、ビヒクルのみの投与と比べて、線維性領域のさらに有意な増加をもたらした。有意に増加した線維化はまた、抗HGF抗体で処置した群においても観察された(図7C)。これらの結果は、損傷を受けた脂肪組織において見られる線維化が、脂肪組織の修復過程においてHGFにより抑制されたことを示し、そして、主にASCからのHGFの分泌が、JNKシグナル伝達経路を介して、FGF−2により誘導されたことが示唆された。
【0120】
(考察)
ヒト脂肪組織に対して機械的に損傷を加えた後、FGF−2、EGF、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−βおよびPDGFがまず、創傷治癒の早い段階で分泌される。その後、上記増殖因子が低下するにつれ、VEGFおよびHGFの分泌が、損傷後の第一週の間に次第に増加する(Aiba-Kojima E., Tsuno N.H., Inoue K. et al. 「Characterization ofwound drainage fluids as a source of soluble factors associated with woundhealing: Comparison with platelet-rich plasma and potential use in cell culture」WoundRepair Regen 2007; 15: 511-520)。本発明者らの結果から、これらの障害関連増殖因子の中でも、FGF−2が主にJNKシグナル伝達経路を介して、ASCの増殖と、ASCによるHGFの分泌とを促進したことが示唆された。FGF−2は、血管新生(MontesanoR., Vassalli JD., Baird A. et al. 「Basic fibroblast growth factor inducesangiogenesis in vitro」Proc Natl Acad Sci USA 1986; 83: 7297-7301)と、細胞増殖(NissenN.N., Polverini P.J., Gamelli R.L. et al. 「Basic fibroblast growth factormediates angiogenic activity in early surgical wounds」Surgery 1996; 119:457-465)の重要な内因性刺激因子であり、創傷治癒の早い時期に放出されることが知られる(Cordon-Cardo C., Vlodavsky I.,Haimovitz-Friedman A. et al. 「Expression of basic fibroblast growth factor innormal human tissues」Lab Invest 1990; 63: 832-840;Schulze-Osthoff K., Risau W.,Vollmer E. et al. 「In situ detection of basic fibroblast growth factor by highlyspecific antibodies」Am J Pathol 1990; 137: 85-92)。細胞のFGF−2は、種々の細胞型(例えば、線維芽細胞(TakimiyaM., Saigusa K., Aoki Y. 「Immunohistochemical study of basic fibroblast growthfactor and vascular endothelial growth factor expression for age determinationof cutaneous wound」Am J Forensic Med Pathol 2002; 23: 264-267)および内皮細胞(MuthukrishnanL., Warder E., McNeil P.L. 「Basic fibroblast growth factor is efficientlyreleased from a cytolsolic storage site through plasma membrane disruptions ofendothelial cells」J Cell Physiol 1991; 148: 1-16))が溶解する間に創傷の周囲で放出され、一方で、細胞外マトリックス内に束縛されたFGF−2は、種々の創傷プロテアーゼの作用により解放される(BashkinP., Doctrow S., Klagsburn M. et al. 「Basic fibroblast growth factor binds tosubendothelial extracellular matrix and is released by heparitinase andheparin-like molecules」Biochemistry 1989; 28: 1737-1743;Ishai-Michaeli R.,Eldor A., Vlodavsky I. 「Heparanase activity expressed by platelets,neutrophils, and lymphoma cells releases active fibroblast growth factor fromextracellular matrix」Cell Regul 1990; 1: 833-842)。JNKシグナル伝達は、本研究において明らかにされたように、FGF誘導性のASC増殖においてのみ関与するのではなく、ヒトASCのPDGF誘導性の増殖および移動にも関与する(KangY.J., Jeon E.S., Song H.Y. et al. 「Role of c-Jun N-terminal kinase in thePDGFinduced proliferation and migration of human adipose tissue-derivedmesenchymal stem cells」J Cell Biochem 2005; 95: 1135-1145)。それゆえ、本研究に使用したJNKインヒビターは、ASCに対するFGF−2およびPDGFの両方の生物学的な作用を阻害するようである。PDGFは、ASCの増殖を促進したが、ASCによるHGFの発現に対しては有意な作用を示さなかった。他の研究者が報告するように、FGF−2およびEGFの両方が、ASCによるHGFの分泌を促進した(KilroyG.E., Foster S.J., Wu X. et al. 「Cytokine profile of human adipose-derived stemcells: Expression of angiogenic, hematopoietic, and pro-inflammatory factors」JCell Physiol 2007; 212: 702-709);それゆえ、JNKはまた、ASCによるEGF誘導性のHGFの分泌に関与し得る。
【0121】
本発明者らがASCについて観察したFGF−2により増強された細胞増殖とHGFの産生とが、BM−MSCおよびDFのような他の間葉系細胞型においても観察されたが、ヒトBM−MSCにおけるHGF mRNAのアップレギュレーションは、JNK以外のシグナルにより媒介されたことは興味深い。FGF−2誘導性のHGFのアップレギュレーションは、平滑筋細胞(Onimaru M., Yonemitsu Y., Tanii M. et al. 「Fibroblast growthfactor-2 gene transfer can stimulate hepatocyte growth factor expressionirrespective of hypoxia-mediated downregulation in ischemic limbs」Circ Res2002; 91: 923-930)、肺組織に由来する線維芽細胞様細胞(Roletto F., Galvani A.P., Cristiani C. etal. 「Basic fibroblast growth factor stimulates hepatocyte growth factor/scatterfactor secretion by human mesenchymal cells」J Cell Physiol 1996; 166: 105-111)および骨芽細胞(BlanquaertF., Delany A.M., Canalis E. 「Fibroblast growth factor-2 induces hepatocytesgrowth factor/scatter factor expression in osteoblasts」Endocrinology 1999; 140:1069-1074);のような他の細胞型において観察された;しかしながら、細胞内シグナル伝達機構は、十分には研究されていない。インターロイキン−1(MatsumotoK., Okazaki H., Nakamura T. 「Up-regulation of hepatocyte growth factor geneexpression by interleukin-1 in human skin fibroblasts」Biochem Biophys ResCommun 1992; 188: 235-243)、インターフェロン−γ(Takami Y., Motoki T., Yamamoto I. et al. 「Synergisticinduction of hepatocyte growth factor in human skin fibroblasts by theinflammatory cytokines interleukin-1 and interferon-gamma」Biochem Biophys ResCommun 2005; 327: 212-217)およびアスコルビン酸(Wu Y.L., Gohda E., Iwao M. et al. 「Stimulationof hepatocyte growth factor production by ascorbic acid and its stable2-glucoside」Growth Horm IGF Res 1998; 8: 421-428)のような他の因子もまた、HGFの産生を刺激することが報告されている。HGFは、血管新生および創傷治癒の重要なメディエーターであり、そしてその発現は、種々の細胞および組織において多数の因子によって調節されているようである。
【0122】
脂肪組織における損傷および修復の過程は、おそらくは、標準的な動物モデルが存在しないことが原因で、十分には研究されていない。損傷を受けた脂肪組織において、損傷後の早い段階での壊死性およびアポトーシス性の変化とその後の浮腫および出血、ならびに、食作用、細胞の浸潤および増殖のような炎症性および再生性の変化が、第一週を通じて観察された。壊死性の変化は、毛細管の内皮細胞および脂肪細胞において見られ、脂肪組織の再構築と、その修復過程とが、JNKインヒビターにより損ねられることが示唆された。HGFが分泌された後、この組織から束縛されていたかまたは他の形態にあったFGF−2が放出された;HGFのアップレギュレーションは、主に、JNKシグナル伝達経路を介して、FGF−2により刺激されたASCから導かれるようである。というのも、ASCは、脂肪組織に由来する間質の血管画分内の間葉系細胞の半分より多くを構成することが知られているからである(Yoshimura K., Shigeura T., Matsumoto D. et al. 「Characterization offreshly isolated and cultured cells derived from the fatty and fluid portionsof liposuction aspirates」J Cell Physiol 2006; 208: 64-76)。この研究において使用した虚血再潅流モデルは、脂肪組織の損傷および再生の再現性のある結果を提供し、損傷および再生は全て、2週間以内に完了した。
【0123】
脂肪組織において、ASCであることが示唆されたCD34+/CD31−細胞は、損傷前は、脂肪細胞(毛細管に密接に関連するもの)と周囲の血管壁(特に、外膜において)との間に多く見られた。血管内皮細胞へと分化して、毛細管の新芽を形成する能力を有するCD34+血管壁内在前駆細胞は、以前に報告されており(Zengin E., Chalajour F., Gehling U.M. et al. 「Vascular wall residentprogenitor cells: a source for postnatal vasculogenesis」Development 2006;133:1543-1551)、そしてこの集団は、ASCを構成する一部分である可能性がある。一方で、血管周皮細胞の特徴を有するASCの血管周皮亜集団もまた特徴付けられている(TraktuevD., Merfeld-Clauss S., Li J. et al. 「A population of multipotent CD34-positiveadipose stromal cells share pericyte and mesenchymal surface markers, reside ina periendothelial location, and stabilize endothelial networks」Circ Res 2008;102: 77-85)。ASCは、異種性の亜集団を構成し得、そして、インビボにおけるASCの特徴および機能を解明する際の複雑さを説明し得る。以前に示唆されたように、脂肪生成と血管新生との間には密接な関係性が存在し、それゆえ、最初は脂肪細胞の前駆体細胞とみなされていたASCは、脂肪生成と血管新生の前駆体として機能し得(非特許文献5)、そして、肥満(NishimuraS., Manabe I., Nagasaki M. et al. 「Adipogenesis in obesity requires closeinterplay between differentiating adipocytes, stromal cells, and blood vessels」Diabetes2007; 56: 1517-1526)、脂肪組織のターンオーバー、および損傷後の脂肪組織の修復のような種々の状況において、脂肪細胞と血球と血管との間の相互関係を管理し得る。組織再生の間、コントロールと比べてより多くのCD34+/CD31−のASCが、脂肪細胞の間に見られ、3日目に見られたBrdU陽性の増殖細胞の多くは、CD34+/レクチン−であった。これらのことから、ASCが増殖し、そして、脂肪生成および血管新生のような修復過程に関与していることが示唆された。ASCの増殖および移動は、JNKインヒビターの処置により強く阻害され、その結果、組織修復が遅延され、かつ損ねられ、同時に、線維化が増加した。マクロファージは、脂肪組織における炎症と肥満とに関与することが知られる(NishimuraS., Manabe I., Nagasaki M. et al. 「Adipogenesis in obesity requires closeinterplay between differentiating adipocytes, stromal cells, and blood vessels」Diabetes2007; 56: 1517-1526)。この研究においては、CD68+のマクロファージはコントロールにおいてはほとんど検出されなかったが、3日目には多数観察されたものの、その数はASCよりもかなり少ないレベルであった。損傷を受けた脂肪組織におけるマクロファージの役割は、明らかにすべきままであるが、マクロファージは、食作用および/または血管新生に関与する可能性がある(NishimuraS., Manabe I., Nagasaki M. et al. 「Adipogenesis in obesity requires closeinterplay between differentiating adipocytes, stromal cells, and blood vessels」Diabetes2007; 56: 1517-1526]。
【0124】
HGFは、心臓(NakamuraT., Mizuno S., Matsumoto K. et al. 「Myocardial protection fromischemia/reperfusion injury by endogeneous and exogenous HGF」J Clin Invest2000; 106: 1511-1519)、肝臓(Ueki T., Kaneda Y., Tsutsui H. et al. 「Hepatocytegrowth factor gene therapy of liver cirrhosis in rats」Nat Med 1999; 5: 226-230]および腎臓(LiuY. 「Hepatocyte growth factor in kidney fibrosis: Therapeutic potential andmechanisms of action」Am J Physiol Renal Physiol 2004; 287: 7-16)を含む種々の臓器において抗線維形成作用を有することが報告されている。最近の研究では、HGFが、種々の機構によりSmadシグナル伝達を中断することにより、TGF−βの線維化促進作用に拮抗することが明らかとなった(LiuY. 「Hepatocyte growth factor in kidney fibrosis: Therapeutic potential andmechanisms of action」Am J Physiol Renal Physiol 2004; 287: 7-16;Conway K.,Price P., Harding K.G. et al. 「The molecular and clinical impact of hepatocytegrowth factor, its receptor, activators, and inhibitors in wound healing」WoundRepair Regen 2006; 14: 2-10)。本研究において、FGF−2のシグナル伝達を阻害することにより、ASCによるHGFの産生が抑制され、そして、HGFを阻害することにより、損傷を受けた脂肪組織における線維化が増加した。さらに、JNKインヒビターまたは抗FGF−2抗体を投与することもまた、損傷後の重篤な線維化をもたらし、これは、線維化のFGF−2誘導性の防止が、少なくとも部分的に、ASCに由来するHGFにより媒介されること、そして、HGFは、線維化を防止し、そして、損傷後に脂肪の体積を維持することにおいて重要な因子であることを意味する。FGF−2は、線維芽細胞および内皮細胞に対するその直接的な作用により創傷治癒を促進することが知られる(BikfalviA., Klein S., Pintucci G. et al. 「Biological roles of fibroblast growthfactor-2」Endocr Rev 1997; 18: 26-45)。しかしながら、本研究は、FGF−2はまた、ASCおよび/またはDFからHGFを誘導することにより、組織修復を促進し、かつ、線維化を防止することもできることが明らかとなった。脂肪組織は、多くの臓器内またはその周辺に存在するので、FGF−2誘導性のASCからのHGFの分泌は、心筋梗塞、肝炎および腎炎のような臓器損傷の後の修復過程において重要である可能性がある。
【0125】
本研究の結果は、ASCの治療的な可能性に新しい見通しを提供する。ASCを用いた細胞治療は、特に、FGF−2で前処置されたか、またはFGF−2と併用したとき、組織修復を加速し、線維化を減らし、そして、HGFの作用を通じて、急性または慢性の炎症により損傷を受けた臓器の機能を改善する可能性がある。ASCにより分泌されたHGFは、自家脂肪移植術において重要な役割を担う可能性があり(非特許文献9;非特許文献12);脂肪移植片の生存を促進し、そして、瘢痕の形成を防止することが示唆されている。HGFは抗線維形成性であるだけでなく、血管新生性でもあること(Conway K., Price P., Harding KG. et al. 「The molecular and clinicalimpact of hepatocyte growth factor, its receptor, activators, and inhibitors inwound healing」Wound Repair Regen 200; 14: 2-10)、そして、ASCによるHGF産生が、虚血の肢の改善に寄与するようであること(CaiL., Johnstone B.H., Cook TG. et al. 「Suppression of hepatocyte growth factorproduction impairs the ability of adipose-derived stem cells to promoteischemic tissue revascularization」Stem Cells. 2007; 25: 3234-3243)を考慮すると、FGF−2誘導性のHGFの分泌はまた、毛細管の総量が改善しているが、損傷を受けた脂肪組織における血管密度が有意に増大していなかった場合でさえも、組織修復の間に血管新生を促進することができた(図9)。ASCにおいて、VEGFの分泌は、虚血により誘導されるようである(RehmanJ., Traktuev D., Li J. et al. 「Secretion of angiogenic and antiapoptoticfactors by human adipose stromal cells」Circulation 2004; 109: 1292-1298)。本発明者らが本研究において使用したモデルは、虚血モデルではなく、損傷モデルであり、VEGFの発現は、損傷後すぐにダウンレギュレートされた(データ示さず)。脂肪組織における血管新生を研究し、そして、血管新生を増進するための治療戦略を確立するために、脂肪組織における慢性的な虚血の特定のモデルを用いる研究が必要とされる。
【0126】
(結論)
FGF−2は、JNKシグナル伝達経路を介して、ASCの増幅とASCによるHGFの分泌を促進する。損傷を受けた脂肪組織において、損傷を受けた組織から放出されたFGF−2により刺激されたASCは、脂肪修復過程において、主要な増殖細胞集団であることが示唆される。このJNK媒介性のシグナルは、線維化の防止、そして、損傷後の脂肪体積の維持において重要な役割を担う。本研究はまた、損傷応答におけるASCについての新しい役割を明らかにし、そして、将来的にASCを治療に利用するための戦略に見通しを提供する。
【0127】
(実施例2:肝硬変での治療実験)
本実施例では、肝硬変モデルマウスを用いて、ASCとbFGF徐放剤を投与したときの、線維化の改善を観察する。
【0128】
ここで、肝硬変モデルマウスとしては、四塩化炭素連続投与モデルを用いる。0.5mg/kgの四塩化炭素を週2回、4週間連続投与し肝硬変を誘発させる。
【0129】
また、ASCとbFGF徐放剤は、以下のように調製する。
【0130】
ASC処理方法
(1)脂肪組織と等量の0.075%コラゲナーゼ(和光純薬等から入手可能。)を加え37℃で30分酵素処理する。
【0131】
(2)処理後に800G×10分遠心する。
【0132】
(3)上層を除去し、沈殿した細胞にリン酸化緩衝生理食塩水(PBS)を加え、100μmポアフィルター(Millipore等から入手可能。)を通す。
【0133】
(4)フィルターを通った細胞を回収する。
【0134】
bFGF徐放剤の調製法
(1)ゼラチン溶液をウォーターバス内で攪拌して、マイクロスフィアを作成して、冷却し乾燥させる。
【0135】
(2)グルタルアルデヒド(和光純薬等から入手可能。)処理により、ゼラチンスフィアを架橋する。
【0136】
(3)bFGF溶液を含浸させ、bFGF徐放剤とする。
【0137】
上記のように調製したASCとbFGF徐放剤を上記肝硬変モデルマウスに投与し、線維化の改善状況を観察する。ここでは、線維化の改善が期待される。
【0138】
(実施例3:肝細胞増殖因子(HGF)の生産)
本実施例では、線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養する工程を包含する、肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法を実証する。
【0139】
実施例2に記載のように調製したASCをbFGF添加培地にて培養し、1週間おきに培地を継続的に回収して、HGFタンパクを回収、精製する。
【0140】
HGFタンパク質の回収および精製は、以下のとおりである。
【0141】
(1)HGFに対する抗体カラムを常法により作製する。
【0142】
(2)回収した培地を抗体カラムに通し、常法により吸着させる。
【0143】
(3)抗体カラムから吸着したHGFを常法により溶出させ回収する。
【0144】
このようにして調製したHGFの収量等を測定し、本発明の調製法による効果を確認することができる。
【0145】
(実施例4:脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤および複合剤としての効果)
本実施例では、脂肪由来幹細胞(ASC)増殖刺激剤の効果を確認する。
実施例2において記載されるように調製したASCをbFGF添加培地にて培養する。
【0146】
ASCの増殖を、bFGF添加のないコントロールサンプルと比較して、増殖刺激効果を確認する。
【0147】
このようにして調製したASCをbFGF徐放剤とともに体内に投与する。
【0148】
投与された被検体の体内を調べることにより、移植したASCが増殖し、さらには脂肪新生および血管新生が亢進していることがわかる。
【0149】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0150】
脂肪由来幹細胞を用いた細胞治療は,すでに実用化(臨床応用)されている。また,FGF-2は既に医薬品として製品化され,熱傷や皮膚潰瘍の治療薬として用いられている。今後はFGF-2を徐放する製剤も商品化される可能性がある。脂肪由来幹細胞とFGF-2はともにこれまでの実績から,生体に対する安全性は高いと考えられる。このような状況から,今回の細胞治療も実用化のめどは立っている。線維化は、局所もしくは全身において慢性炎症を伴うあらゆる疾患に共通しており、本発明はまた、局所投与だけでなく、全身投与も可能であるため、広い範囲での臨床治療に役立つ可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1A】図1は、ヒトASCの増殖および表面マーカー発現に対する障害関連増殖因子の作用を示す。(A)VEGF、FGF−2、HGFまたはPDGFと共に培養してから、3日後、6日後または9日後のASCのカウント。FGF−2およびPDGFは、用量依存的にヒトASCの増殖を促進したが、VEGFおよびHGFは、増殖作用を示さなかった(n=4;p<0.05)。
【図1B】図1は、ヒトASCの増殖および表面マーカー発現に対する障害関連増殖因子の作用を示す。(B)各増殖因子と共に6日間培養したヒトASCの光学顕微鏡写真。FGF−2と共に培養した細胞は、他の増殖因子と共に培養した細胞よりも小さかった。スケールバー=200μm。
【図1C】図1は、ヒトASCの増殖および表面マーカー発現に対する障害関連増殖因子の作用を示す。(C)各増殖因子と共に7日間培養したヒトASCのフローサイトメトリー解析。血管内皮マーカー(CD31、CD34、Flk−1およびTie−2)の発現における有意な変化は観察されなかった。
【図2A】図2は、ヒトASCによる障害関連増殖因子mRNAの発現に対する障害関連増殖因子の相互作用を示す。(A)ヒトASCによる障害関連増殖因子mRNAの発現。FGF−2は、ヒトASCによるHGF mRNAの発現の顕著なアップレギュレーションを誘導したが、FGF−2およびPDGFは、それぞれ、FGF−2およびPDGFの発現をダウンレギュレートした(n=7;p<0.05)。
【図2B】図2は、ヒトASCによる障害関連増殖因子mRNAの発現に対する障害関連増殖因子の相互作用を示す。(B)FGF−2により誘導されるHGF mRNA発現の時間経過。FGF−2は、ヒトASCによる二相性のHGF mRNA発言を促進し、最初のピークは6時間後に生じ、そして、第2の増加は24時間後に始まった(n=6;p<0.05)。
【図2C】図2は、ヒトASCによる障害関連増殖因子mRNAの発現に対する障害関連増殖因子の相互作用を示す。(C)ヒトASCによるFGF−2誘導性のHGFタンパク質の分泌。7日目の培養培地のELISAは、FGF−2がヒトASCからのHGFタンパク質の分泌を促進したことを示した(n=4;p<0.05)。
【図3A】図3は、FGF−2細胞内シグナル伝達経路の阻害を示す。(A)FGF−2および下流にあるシグナルインヒビターのうちの1つと共に培養した後のASCのカウント。JNKインヒビターSP600125(SP)は、ヒトASCに対するFGF−2の増殖作用を有意に阻害したが、U1026(ERKインヒビター)およびSB202190(SB、p38タンパク質インヒビター)は、ASCの増殖に対して阻害作用を示さないか、または、限られた阻害作用を示した(n=5;p<0.05)。
【図3B】図3は、FGF−2細胞内シグナル伝達経路の阻害を示す。(B)7日目のヒトASCによるHGF mRNAの発現。FGF−2誘導性のHGF mRNAのアップレギュレーションは、SPによって有意に阻害され(n=5;p<0.05)、一方、U1026およびSBは、限られた阻害作用を有した。
【図3C】図3は、FGF−2細胞内シグナル伝達経路の阻害を示す。(C)インヒビターの特異性。c−Junのリン酸化は、FGF−2での処理と共に増加した。FGF−2誘導性のc−Junのリン酸化は、SPでの前処理により完全に妨げられた(n=4;p<0.05)。
【図3D】図3は、FGF−2細胞内シグナル伝達経路の阻害を示す。(D)培養における7日後の細胞のカウント。FGF−2誘導性の細胞増殖は、検討した全ての細胞型においてJNKインヒビターであるSPにより有意に阻害された(hASC、ヒト脂肪由来幹/間質細胞;hBM−MSC、骨髄由来間葉系幹細胞;hDF、ヒト真皮線維芽細胞;mASC、マウス脂肪由来幹/間質細胞;n=5;p<0.05)。
【図3E】図3は、FGF−2細胞内シグナル伝達経路の阻害を示す。(E)HGF mRNA発現についてのリアルタイムPCRアッセイ。HGF mRNAの発現は、全ての細胞型においてFGF−2により促進されたが、FGF−2誘導性のHGF mRNAのアップレギュレーションは、ヒトBM−MSCを除いてJNKインヒビターにより有意に阻害された(n=5;p<0.05)。
【図4A】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。虚血再潅流障害モデル。上段:マウス鼠径部の脂肪パッド。矢印は、大腿動脈から延びる栄養大動脈を示す。矢印の先は、皮膚への交通枝を示す。下段:交通枝を切断し、そして、血管クリップで栄養大動脈を3時間にわたり締め付けた。
【図4B】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。ヘマトキシリン−エオシン染色は、早くも1日目に血球の間質性浸潤が観察され、そして、7日目にはこの浸潤は消失していたことを明らかにした。第一週を通じて、再生性の変化が損傷を受けた脂肪組織において観察された。スケールバー=100μm。
【図4C】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。
【図4D】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。BrdU陽性の増殖細胞は損傷後に増加し、3日目にピークを迎えた(n=4;p<0.05)。スケールバー=100μm。
【図4E】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。BrdU陽性の増殖細胞は損傷後に増加し、3日目にピークを迎えた(n=4;p<0.05)。スケールバー=100μm。
【図4F】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。
【図4G】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。TUNEL陽性の脂肪細胞(矢印)は、損傷後、1日目に最も高い頻度で観察された(n=4;p<0.05)。スケールバー=100μm。
【図4H】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。TUNEL陽性の脂肪細胞(矢印)は、損傷後、1日目に最も高い頻度で観察された(n=4;p<0.05)。スケールバー=100μm。
【図4I】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。
【図4J】図4は、マウスの鼠径部脂肪組織における虚血再潅流障害およびその後の再生性の変化を示す。生存細胞をHoechst 33342(青色)、レクチン(上皮細胞;赤色)またはPI(壊死細胞;緑色)で染色して画像化し、その干渉コントラスト像と重ね合わせた。PI陽性の壊死細胞は3日目に増加しており、そして、その中には、レクチン陽性の毛細管内皮細胞であるように見えた。スケールバー=100μm。
【図5A】図5は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後のFGF−2およびHGFの発現を示す。FGF−2の免疫染色。FGF−2タンパク質は、早くも損傷後1日目には検出され、その検出ピークは3日目であった。スケールバー=100μm。
【図5B】図5は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後のFGF−2およびHGFの発現を示す。FGF−2タンパク質は、早くも損傷後1日目には検出され、その検出ピークは3日目であった。
【図5C】図5は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後のFGF−2およびHGFの発現を示す。HGFの免疫染色。損傷の1日後にはわずかなHGFタンパク質が検出されたが、HGFの発現は、損傷後3日目から検出され、その検出ピークは損傷後7日目であった。スケールバー=100μm。
【図5D】図5は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後のFGF−2およびHGFの発現を示す。損傷の1日後にはわずかなHGFタンパク質が検出されたが、HGFの発現は、損傷後3日目から検出され、その検出ピークは損傷後7日目であった。
【図5E】図5は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後のFGF−2およびHGFの発現を示す。損傷を受けた脂肪組織におけるFGF−2 mRNAおよびHGF mRNAの発現のリアルタイムPCRアッセイ。FGF−2 mRNAは、損傷後すぐにダウンレギュレートされ(n=5;p<0.05)、一方で、HGF mRNAは、損傷の3日後に、有意にアップレギュレートされた(n=5;p<0.05)。
【図6A】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。(A)CD31(緑色)、CD34(赤色)またはHoechst 33342(青色)についてのコントロール組織の免疫染色。損傷を受ける前、CD34+/CD31−細胞は、脂肪組織の全体にわたって、特に、血管周辺で観察された。スケールバー=20μm。
【図6B】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。(B)3日目の損傷を受けた組織。上段:CD34(緑色)、BrdU(赤色)またはHoechst 33342(青色)についての染色。損傷後3日で観察されることが多かったBrdU陽性細胞の大部分はまた、CD34についての陽性であった。スケールバー=20μm。下段:CD34(緑色)、レクチン(内皮細胞;赤色)またはHoechst 33342(核;青色)で染色した3日目の組織の生存組織像。3日目に、CD34+細胞の多くは、レクチン陰性であり、これらの細胞がASCであったことが示唆された。スケールバー=20μm。
【図6C】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。(C)BODIPY(脂肪細胞;黄色)、レクチン(内皮細胞;赤色)またはHoechst 33342(核;青色)で染色した生存組織像。有核細胞および小さなサイズの脂肪細胞の数の増加が、1日目および3日目に観察された。浸潤血球由来の細胞である可能性があるレクチン+の小さな円形細胞が1日目に見られたが、これらは、特徴付けられていないままである。大きなサイズの脂肪細胞は7日目に増加したが、JNKインヒビターで処理した場合には見られなかった。青いスケールバー=200μm、白いスケールバー=50μm。
【図6D】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。有核細胞および小さなサイズの脂肪細胞の数の増加が、1日目および3日目に観察された。浸潤血球由来の細胞である可能性があるレクチン+の小さな円形細胞が1日目に見られたが、これらは、特徴付けられていないままである。大きなサイズの脂肪細胞は7日目に増加したが、JNKインヒビターで処理した場合には見られなかった。
【図6E】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。BODIPY(脂肪細胞;黄色)、PI(有核細胞の核;赤色)またはHoechst 33342(すべての核;青色)で染色した生存組織の三次元像;白い破線のレベルで水平方向および垂直方向に切断した像もまた示す。PI陽性細胞は、1日目と3日目に観察されることが多く、そして、このうちの少数のものが、脂肪細胞であることが分かった。JNKインヒビターでの処理は、7日目にPI陽性細胞数の増加をもたらした。スケールバー=50μm。
【図6F】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。PI陽性細胞は、1日目と3日目に観察されることが多く、そして、このうちの少数のものが、脂肪細胞であることが分かった。JNKインヒビターでの処理は、7日目にPI陽性細胞数の増加をもたらした。
【図6G】図6は、損傷を受けた脂肪組織の修復過程における細胞の事象を示す。C34(緑色)、レクチン(内皮細胞;赤色)またはHoechst 33342(核;青色)で染色した生存組織像。CD34+/レクチン−のASCの増殖および移動は、3日目および7日目に、JNKインヒビターにより損ねられた。スケールバー=50μm。
【図7A】図7は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後の、HGFの発現および線維化に対するシグナル阻害の影響を示す。
【図7B】図7は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後の、HGFの発現および線維化に対するシグナル阻害の影響を示す。3日目の、脂肪組織によるHGF mRNAの発現。JNKインヒビターであるSP600125(SP)または抗FGF−2抗体の継続的な投与は、3日目に、HGF mRNAのアップレギュレーションを妨げた(n=5;p<0.05)。
【図7C】図7は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後の、HGFの発現および線維化に対するシグナル阻害の影響を示す。7日目のHGFについての免疫染色。SPまたは抗FGF−2抗体の継続的な投与は、7日目に、損傷を受けた脂肪組織におけるHGFの分泌を阻害した。スケールバー=100μm。
【図7D】図7は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後の、HGFの発現および線維化に対するシグナル阻害の影響を示す。SPまたは抗FGF−2抗体の継続的な投与は、7日目に、損傷を受けた脂肪組織におけるHGFの分泌を阻害した。
【図7E】図7は、脂肪組織に対する虚血再潅流障害後の、HGFの発現および線維化に対するシグナル阻害の影響を示す。損傷後2週間目の、損傷を受けた脂肪組織における線維化。線維性領域をAzan染色で染色した。スケールバー=1mm。虚血再潅流障害は、有意な線維化を誘導した;線維化領域は、損傷を受けていない動物の2倍であった。SP、抗FGF−2抗体または抗HGF抗体の継続的な投与は、線維化を有意に増大した(n=6;p<0.05)。
【図8A】BODIPY(脂肪細胞;黄色)、レクチン(内皮細胞;赤色)またはHoechst 33342(核;青色)で染色した生存組織像。有核細胞および毛細管の数の増加が、小さなサイズの脂肪細胞の周囲で観察された。スケールバー=20μm。
【図8B】CD68についての組織の免疫染色。CD68+のマクロファージは、脂肪組織においてほとんど検出されなかったが、これらのマクロファージの凝集(食作用を示唆する)が、損傷後3日目に最も多く観察された。スケールバー=100μm。
【図9】図9は、損傷から2週間後の脂肪組織における血管密度を示す。血管密度は、CD31について免疫染色を行った顕微鏡写真における血管をカウントすることにより計算した。スケールバー=100μm。脂肪領域は線維化により減少したが(図7)、最終的な血管密度は、JNKインヒビターSP600125(SP)の継続的な投与を行った場合も、行っていない場合も、損傷後に有意に変化しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子とを含む治療剤または予防剤。
【請求項2】
線維性病変を処置または予防するためのものである請求項1に記載の治療剤または予防剤。
【請求項3】
前記線維性病変は、慢性炎症時のものである請求項2に記載の治療剤または予防剤。
【請求項4】
前記FGFは、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)である、請求項1に記載の治療剤または予防剤。
【請求項5】
線維芽細胞増殖因子(FGF)の存在下で脂肪由来幹細胞(ASC)を培養する工程を包含する、肝細胞増殖因子(HGF)の生産方法。
【請求項6】
前記FGFは、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)である、請求項5に記載の生産方法。
【請求項7】
線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む、脂肪由来幹細胞(ASC)に対する肝細胞増殖因子(HGF)生産刺激剤。
【請求項8】
脂肪由来幹細胞(ASC)と、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血小板由来増殖因子(PDGF)からなる群より選択される少なくとも1つの因子を用いる疾患または障害を治療または予防する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図4I】
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【図4J】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−37292(P2010−37292A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203653(P2008−203653)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者:日本再生医療学会、刊行物名・巻数・号数:再生医療 日本再生医療学会雑誌 VOL.7 Suppl 2008 第7回日本再生医療学会総会 プログラム・抄録、発行年月日:平成20年2月22日
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503368498)株式会社バイオマスター (11)
【Fターム(参考)】