説明

脂肪異栄養症の処置用有効物質としてのドコサヘキサエン酸の使用

哺乳動物の脂肪異栄養症の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生物起源の抽出物の使用。この処置法は有効であり、HIV感染患者における現在の脂肪異栄養症処置法の欠点を克服するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にHIVウイルス感染患者の脂肪異栄養症(lipodystrophy)の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生起源の抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1996年の終わり頃から、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)の増殖を制御できる処置法が利用可能となった。これらの処置法は、一般的にいわゆる高活性抗レトロウイルス療法(HAART)と呼ばれている。現在のHAARTは、少なくとも3つの薬剤の組み合わせからなることを特徴とする。現在、ウイルスの複製のために重要な酵素を阻害する抗レトロウイルス薬には2つのファミリーが存在し、それは逆転写酵素阻害剤(ヌクレオシド類似体、ヌクレオチド類似体およびヌクレオシド非類似体)およびウイルスプロテアーゼ阻害剤である。
【0003】
しかし、このような処置法ではウイルスを根絶する(除去する)ことができず、従って感染を制御し続けるためには、それらの処置を恐らく患者の一生を通じて無期限に行なければならない。
【0004】
ウイルス複製の制御において確実な有効性を有するこのような処置法は、患者に対して無害なものではないが、その処置への曝露時間は必然的に長期にわたることとなるために、その毒性作用は時間と共に蓄積する傾向にある。
【0005】
1997年以来、HAARTを受けた患者のなかに、これまで報告されなかった血漿脂質レベル異常を伴う体脂肪分布の異常を示す患者が認められ始めた。
【0006】
要するに、患者には顔、臀部、四肢および胸部の脂肪の喪失と同時に腹部内、頸背部、および女性では乳房への脂肪の蓄積、それと共に血漿中のコレステロール、トリグリセリドレベルの増加、HDLコレステロール(保護コレステロール)の減少、およびLDLコレステロール(有害なコレステロール)の増加、インスリン抵抗性(時折、糖尿病)の上昇、ならびに時折動脈性高血圧症が認められる。
この総ての病状のセットは脂肪異栄養症候群として知られている。
【0007】
脂肪異栄養症の処置のアプローチは大きく5つの群にまとめることができる:
(a)ウイルス複製を制御できなくなるリスクを犯さずにHAART成分が抑制されないよう、その構成を変更する方法。
(b)インスリンの作用に対する感受性を上げる薬剤(例えば、メトホルミン、ロジグリタゾン)
(c)血漿脂質の異常を改善できる(正常化することはまれである)、フィブラート系、スタチン系などの、この症候群の脂質の特徴を制御することを目的とする薬剤。
(d)ホルモン療法(例えば、成長ホルモン)
(e)脂肪喪失を補正するための移植組織を用いる顔の美容手術
これまで試験されたどの処置法も、体脂肪分布異常の改善において効果を示さず、かかる方法を用いる脂質異常の制御は不十分なものであった。
【0008】
前述の試験された薬理学的処置法は、患者に対する毒性作用があり、時にはそれは深刻なものであり得ることは言及されるべきである。加えて、それはさらなる薬剤の負荷を意味し、それらのうちのいくつかは、場合によってはHIV感染患者が服用をやめることのできない抗レトロウイルス薬と重大な相互作用を引き起こし得る。
【0009】
従って今もなお、特にHIV感染患者に有効で、現在公知の処置法の欠点を生じない脂肪異栄養症の有効な処置法は存在しない。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明の発明者らは、脂肪異栄養症に有効で、さらに現在の処置法の欠点を克服する、HIV感染患者の脂肪異栄養症の処置法を見出した。
【0011】
本発明は、哺乳動物の脂肪異栄養症の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生物起源の抽出物の使用に関する。
【0012】
ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22個の炭素原子を含み、それらのうちの6個は不飽和である(C22:6n−3)ω−3脂肪酸である。このような酸は主として魚(例えばマグロ)、微生物および植物に見出される。
【0013】
本発明において、「有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生物起源の抽出物」とは、抽出、および所望により当業者が既知の化学修飾法により、魚、微生物および植物から得られるドコサヘキサエン酸を含む組成物を意味する。
【0014】
本発明において「微生物」とは、限定されるものではないが、DHAを産生することを特徴とする、細菌、原虫、菌類、ウイルスおよび藻類を含む任意の微生物、および遺伝子操作により作製された任意のその変異体を意味するものと理解される。
【0015】
このようにドコサヘキサエン酸は、天然または化学的に修飾されたものであり得る。従ってDHAの見出され得る化学的形態は、限定されるものではないが、DHA遊離酸、天然または合成アルコールとのDHAエステル、ならびにグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質およびガングリオシドなどの脂質形態が含まれる。
【0016】
特に、本発明は哺乳動物の脂肪異栄養症の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生物起源の抽出物の使用に関するものであり、該抽出物のDHA含量は5重量%〜100重量%、好ましくは50重量%〜100重量%の範囲である。
【0017】
驚くべきことに、本発明の発明者らは、DHAは含脂肪細胞(adipocytes)(脂肪細胞(fat cells))と血漿脂質レベルに対して多様な作用を有する生理物質であり、脂肪異栄養症の有効な処置を可能にするという事実を見出した。
【0018】
これらの中でも重要なものは、含脂肪細胞の分化(増殖)を促進し、血中トリグリセリドおよびコレステロールレベルを減少させ、HDLコレステロールレベルを増加させ、LDLコレステロールレベルを減少させ、そして動脈血圧を低下させる能力である。
【0019】
さらに、DHAは抗炎症性(以下に示すように脂肪異栄養症の患者で値が高いα腫瘍壊死因子の分泌を阻害する)を有する。
第二の態様において、本発明の薬剤の用量は、100mg/日以上で投与され、4g/日の用量が好ましい。
本発明の薬剤は、経口または非経口的に投与できる。
【0020】
選択された投与経路に応じて、医薬上許容される希釈剤、賦形剤および/またはリポソーム、マイクロエマルジョン、ミセル等の有効物質の担体を含めることができる。
【0021】
第三の態様において本発明の薬剤は、ヒト、好ましくはHIVに感染しているヒトに投与される。
【0022】
実際には、本発明の薬剤を培養含脂肪細胞に投与すると、これらの細胞が抗レトロウイルス薬に曝露されることにより引き起こされる毒性作用を阻害できることが見出された。
【0023】
従って、上記で指摘された有益な作用を考慮に入れると、本発明の薬剤は特にHAART療法により処置されたHIV感染患者の脂肪異栄養症に対して有益な作用を示すことが可能で、現在の処置法と比較して以下の有利な特徴を有する:
1.含脂肪細胞分化プロモーター作用;
2.高脂血低下(hypolipemiant)作用;
3.抗炎症作用(α腫瘍壊死因子の減少);
4.抗高血圧作用;
5.投与用量では副作用がない;
6.この薬剤は抗レトロウイルス薬に一般的な経路では代謝されないため、抗レトロウイルス療法の成分との相互作用がない(患者はHAARTを免除することはできないということを記憶すべきである)。
以下に非限定的な例示として本発明の実施形態の例を示す。
【実施例】
【0024】
実施例1
HAART療法を受けており、脂肪異栄養症候群の症状を示している4人のHIV感染患者に、DHA含量70%のマグロ油を4g/日の用量で投与した。該患者にDHAを3ヶ月間投与した後に、投与が短期間であったことを考慮に入れても、以下の所見が得られた:
1.体脂肪分布異常の部分的な改善
1.1 顔部分の脂肪の喪失の改善;
1.2 臀部および四肢の脂肪の喪失の改善;
1.3 腹腔内の脂肪の増加はない。
2.血漿トリグリセリド値の平均56%の減少
3.血漿総コレステロール値の平均25%の減少
4.血漿HDLコレステロール値の平均9%の増加
5.血漿LDLコレステロール値の平均18%の減少
後記の表に示したこれらの結果から、本発明者らは、4g/日の用量のDHAの3ヶ月間にわたる投与は脂肪異栄養症とそれに伴う脂質異常を改善し得ると結論づけることができる。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2
高用量のDHA(1.5g/日)を投与した4人の患者全員を300日間モニタリングしたところ、特にトリグリセリドに関して注目すべき変動は認められたものの(表2参照)、300日間のモニタリングの後、基礎レベルに対するトリグリセリド値の減少の平均は66%であり、コレステロールは28.0%であった。同時に、HDLコレステロールは11.6%の減少を示した。
総ての患者は、主観的な観点から、また当業者の判断基準に従って、脂肪再分布に改善がみられた。
【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の脂肪異栄養症の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生起源の抽出物の使用。
【請求項2】
該抽出物中のドコサヘキサエン酸量が100mg/日以上である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該抽出物中のドコサヘキサエン酸量が4g/日である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
その薬剤が含脂肪細胞の分化を促進する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
その薬剤が高脂血低下作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
その薬剤がα腫瘍壊死因子を減少させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
その薬剤が抗高血圧作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
その薬剤が抗レトロウイルス薬投与によりもたらされる毒性作用を阻害し得る、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
該ドコサヘキサエン酸が該抽出物中に5重量%〜100重量%の濃度範囲で存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
該ドコサヘキサエン酸が該抽出物中に50重量%〜100重量%の濃度範囲で存在する、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
その薬剤が経口投与される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
その薬剤が非経口的に投与される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
該哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
そのヒトがHIVウイルスに感染している、請求項13に記載の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高活性抗レトロウイルス療法(HAART)を同時に受けている患者に投与される、哺乳動物の脂肪異栄養症の処置用薬剤を製造するための、有効物質としてドコサヘキサエン酸を含んでなる、動物、植物または微生物産生起源の抽出物の使用。
【請求項2】
該抽出物中のドコサヘキサエン酸量が100mg/日以上である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
該抽出物中のドコサヘキサエン酸量が4g/日である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
その薬剤が含脂肪細胞の分化を促進する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
その薬剤が高脂血低下作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
その薬剤がα腫瘍壊死因子を減少させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
その薬剤が抗高血圧作用を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
その薬剤が抗レトロウイルス薬投与によりもたらされる毒性作用を阻害し得る、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
該ドコサヘキサエン酸が該抽出物中に5重量%〜100重量%の濃度範囲で存在する、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
該ドコサヘキサエン酸が該抽出物中に50重量%〜100重量%の濃度範囲で存在する、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
その薬剤が経口投与される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
その薬剤が非経口的に投与される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
該哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
そのヒトがHIVウイルスに感染している、請求項13に記載の使用。

【公表番号】特表2006−511514(P2006−511514A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556700(P2004−556700)
【出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005673
【国際公開番号】WO2004/050077
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(505211673)プロイェクト、エンプレサリアル、ブルーディ、ソシエダッド、リミターダ (2)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO EMPRESARIAL BRUDY, S.L.
【Fターム(参考)】