説明

脂肪細胞形成抑制活性を有する遊離型及びエステル型カプサンチンを含む抗肥満用の機能性食品及び医薬組成物

【課題】遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満抑制用の機能性食品または肥満の治療若しくは予防するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】遊離型及びエステル型カプサンチンの脂肪細胞形成抑制活性に係る新規用途に関する。唐辛子、パプリカ及びピーマンなどの天然物に含まれるカプサンチンが前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び分化された脂肪細胞の脂肪蓄積をそれぞれ抑制することができるということを確認し、これに基づき、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を脂肪細胞前駆体及び脂肪細胞と反応させて前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び脂肪細胞内の脂肪蓄積が抑制される性質を利用する方法、並びに遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含むことにより、肥満の予防または治療に効果がある機能性食品及び医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチンが前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び分化された脂肪細胞への脂肪の蓄積をそれぞれ抑制することを確認し、これに基づくものである。
【背景技術】
【0002】
肥満は、単なる外観上の問題のみならず、糖尿病、高血圧、乳癌、大腸癌、心血管系疾患、脳血管系疾患などの代謝性疾患、即ち、種々の生活習慣病をもたらし得る健康異常に係る深刻な脂肪蓄積性の身体変化である。
【0003】
肥満者は普通の人に比べて疾病発生の恐れが、糖尿病の場合は約10倍、高血圧の場合は約4倍高いといわれている。
【0004】
欧米の場合、総人口の40〜50%が肥満であり、韓国の場合、食生活の欧米化により、大人のみならず小児の肥満発生率が急増しているため、肥満の予防及び改善対策を早急に樹立しなければならない。
【0005】
カプサイシン(capsaicin)は、イソデシレン酸(isodecylenic acid)及びバニリルアミン(vanillylamine)からなる酸アマイドである。これは唐辛子などに少量含まれていて辛味を有し、3T3−L1細胞から誘導される脂肪細胞(adipocyte)に対して強い脂肪細胞形成抑制活性(anti-adipogenic activity)を発揮するものであることが知られている。
【0006】
一方、唐辛子、パプリカ、ピーマンなどに含まれる成分の一種であるカプサンチン(capsanthin)は抗酸化活性を有していることが知られているが、脂肪細胞形成抑制活性については知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチンの投与により脂肪細胞への分化及び脂肪細胞内の脂肪蓄積が抑制される性質を抗肥満剤の開発に利用するものである。
【0008】
本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満抑制用の機能性食品または肥満の治療若しくは予防するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満抑制用の機能性食品組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満の治療若しくは予防するための医薬組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を、脂肪細胞前駆体と反応させることを含む、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化が抑制される性質を利用するものである。
【0012】
また、本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を、脂肪細胞と反応させることを含む、脂肪細胞内の脂肪蓄積が抑制される性質を利用するものである。
【0013】
また、本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を添加することを含む、抗肥満活性を有する食品または医薬成分の調製方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食品及び医薬組成物は、肥満の予防、抑制、及び治療に効果がある。
【0015】
本発明の食品及び医薬組成物にカプサンチンが遊離型(free form)として含まれる場合には、その形態が変化することなく吸収されるため、脂肪細胞及びその前駆体と迅速に反応して脂肪細胞形成抑制活性を奏することができ、その活性はエステル型カプサンチンに比べて顕著に高いといった長所を有する。
【0016】
本発明の食品及び医薬組成物にカプサンチンがエステル型(ester form)として含まれる場合には、胃腸管でリパーゼまたはコレステロールエステラーゼなどの酵素によって遊離型へと加水分解された後に吸収されるため、その血中濃度が急激に変化することなく効果が持続されるといった長所を有する。また、エステル型カプサンチンは遊離型カプサンチンに比べて安定であるため、副生成物の生成が少ないといった長所も有する。
【0017】
カプサンチンは、唐辛子などの天然物中に安定したエステル型として存在するため、唐辛子などがキムチなどの発酵食品に含まれて発酵する場合にもその活性が維持される。参考までに、カプサイシンは、6ヶ月間の発酵過程において35%以上破壊されることが本発明者らの関連した研究で確認された。
【0018】
カプサンチンは、唐辛子の抗肥満活性成分として知られているカプサイシンに比べてIC50値が極めて小さいので、カプサイシンと比較して脂肪細胞形成抑制活性に優れている。
【0019】
カプサンチンはカプサイシンとは異なり、高濃度であっても辛味を示さず、粘膜細胞に対する刺激もないため、製品開発における特別な阻害要因とはならない。
【0020】
遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物は、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び分化された脂肪細胞への脂肪蓄積をそれぞれ抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】エステル型カプサンチンのH−NMR結果を示す図である。
【図2】遊離型カプサンチンのH−NMR結果を示す図である。
【図3】純粋分離したエステル型及び遊離型カプサンチンをHPLCで分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、遊離型及びエステル型カプサンチンの脂肪細胞形成抑制活性に係る新規用途に関するものである。本発明は、唐辛子、パプリカ、ピーマンなどの天然物に含まれるカプサンチンが、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び分化された脂肪細胞への脂肪蓄積をそれぞれ抑制することができるということを確認し、これに基づき、遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を、脂肪細胞前駆体及び脂肪細胞と反応させて前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び脂肪細胞内の脂肪蓄積が抑制される性質を利用する方法、並びに遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含むことにより、肥満の予防または治療に効果がある機能性食品及び医薬組成物を提供する。
【0023】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0024】
唐辛子は、従来から唐辛子そのものまたはコチュジャンなどとして広く食されてきた食品である。本発明者は、唐辛子に含まれるカプサンチンがコチュジャンの発酵過程において変化することなくそのまま含有されつつ、下記実施例のように前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化及び脂肪細胞内の脂肪蓄積を抑制するなど強い脂肪細胞形成抑制活性があることを確認し、これに基づき、本発明を完成するに至った。
【0025】
また、本発明者は、従来から知られていることとは異なり、唐辛子またはコチュジャンの抗肥満活性がカプサイシンまたはその代謝産物によるものであるというよりは、赤色色素成分であるカプサンチンによるものであるということを確認した。これは、唐辛子抽出物から発酵などによって辛味を出すカプサイシンが除去され、唐辛子抽出物の辛味が消失したときも、その唐辛子抽出物が依然として優れた抗肥満活性を示すことから確認された。
【0026】
本発明の機能性食品及び医薬組成物は、有効成分として下記化学式1の遊離型及びエステル型カプサンチンを含む。
【0027】
【化1】


(式中、Rは、水素、ラウロイル、リノレイル、ミリストイルまたはパルミトイルである。)
【0028】
カプサンチンは化学的に合成されたものであってもよく、或いは、唐辛子、パプリカ、ピーマンなどのカプサンチンを含む天然物から分離されたものであってもよい。また、カプサンチンは、コチュジャン、キムチなどの発酵食品から得られるものであってもよい。
【0029】
カプサンチンは、両末端の置換基Rが水素原子であるか、或いはパルミトイル基などの脂肪酸であるかによって、遊離型及びエステル型に分けられる。エステル型カプサンチンは遊離型カプサンチンより安定である。カプサンチンは、天然物中ではエステル型として存在する。成熟した唐辛子中に含まれるカプサンチンは、2つの水酸基とも各種脂肪酸及びエステルを形成している。カプサンチンエステルをけん化して得られる脂肪酸は、例えば、ラウリン酸26.5%、ミリスチン酸48.3%、パルミチン酸17.6%、リノレン酸7.5%の混合物であり得る(M.Isavel Minguez-Mosquera、Changes in carotenoid esterification during the fruit ripening of capsicum annuum Cv. Bola, J.Agric. Food Chem., 1994, 42, 640-644)。天然物中に存在するエステル型カプサンチンは、動物に経口投与すると胃腸管内でリパーゼまたはコレステロールエステラーゼなどの酵素によって遊離型カプサンチンに加水分解された後に吸収される。
【0030】
遊離型及びエステル型カプサンチンを合成、分離、精製、及び調製する方法は、特に限定されない。カプサンチンを天然物から分離する場合には、例えば、乾燥した天然物を細かく粉砕した後、粉砕物の重さの約2〜20倍のアルコール水溶液またはエチルアセテートなどの有機溶媒を使用して冷浸抽出、超音波抽出、還流冷却抽出、薬湯器抽出、超臨界抽出などの抽出方法により溶媒抽出し、この溶媒抽出物を溶媒分画した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー処理方法により分離することができる。
【0031】
本発明の機能性食品及び医薬組成物は、必要に応じて遊離型及びエステル型、及びこれと同一または類似の効能を有する有効成分もともに含まれ得る。例えば、機能性食品または医薬組成物がコチュジャン抽出物をその有効成分として含む場合には、コチュジャン抽出物にカプサンチン、ゲニステイン(genistein)、ダイドゼイン(daidzein)、及びカプサイシンなどが含まれるため、カプサンチン及びこれと同一または類似の効能を有する有効成分が機能性食品または医薬組成物にともに含まれ、強い抗肥満効果を奏する。
【0032】
本発明の組成物は、投与のために、上述した有効成分以外にさらに薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで調製することができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンガー溶液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びこれらの成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、及び潤滑剤を付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液などの液体製剤及び注射剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤または錠剤に製剤化することができる。
【0033】
また、これに加え、Remington's Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company、 Easton PA、18th、1990)に開示されている方法を用いて、各種疾患または成分に応じて、好適に製剤化することができる。
【0034】
本発明の組成物は、目的とする方法により、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)または経口投与することができ、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、及び疾患重症度などにより、その範囲が様々である。一日の投与量は、例えば、本発明に係る天然物抽出物の場合、10〜1,000mg/kg、好ましくは10〜100mg/kgであり、カプサンチンの場合、0.01〜10mg/kg、好ましくは0.01〜1mg/kgであり、一日に1回〜数回、好ましくは1〜3回に分けて投与することがより好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、肥満の抑制及び治療のために、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療、及び生物学的応答調節剤を用いる方法と併用して使用することができる。
【0036】
本発明に係る遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物は、肥満の抑制及び予防を目的とする健康食品に添加することができる。カプサンチン及びこれを含む天然物の抽出物が食品添加物として使用される場合、他の食品または食品成分とともに使用してもよく、通常の方法で適切に使用してもよい。有効成分の混合量は、その使用目的(予防、抑制または治療的処置)に応じて適宜決定することができる。しかしながら、健康及び衛生を目的としたり、または健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下であってもよく、本発明のカプサンチン及びこれを含む天然物の抽出物は、生体における安全性の面において何ら問題がないため、有効成分は前記範囲以上の量でも使用することができる。
【0037】
食品の種類は特に限定されない。前記物質を添加可能な食品の例としては、肉類、ソーセージ類、パン類、チョコレート類、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン類、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料、茶、ドリンク剤、アルコール飲料、及びビタミン複合剤などがあり、通常の意味での機能性食品を全て含む。
【0038】
本発明の健康飲料の組成物は、通常の飲料のように種々の香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。
【0039】
上述した天然炭水化物は、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、及びデキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味料、またはサッカリン、アスパルテームのような合成甘味料などを使用することができる。
【0040】
前記天然炭水化物の割合は、本発明の組成物100ml当り、一般的に約0.01〜0.04g、好ましくは約0.02〜0.03gである。
【0041】
前記のほかに、本発明の組成物は、種々の栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護コロイド性増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤などを含むことができる。それ以外に本発明の組成物は、天然果汁ジュース、果汁飲料、及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。
【0042】
このような成分は、単独または混合して使用することができる。かかる添加剤の割合は、特に限定されないが、本発明の組成物100質量部当り0.01〜0.1質量部の範囲内で選択することが一般的である。
【0043】
本発明は、前記化学式1で示される遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を、脂肪細胞前駆体と反応させることを含む、前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化が抑制される性質を利用する方法を提供する。また、本発明は、前記化学式1で示される遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を脂肪細胞と反応させることを含む、脂肪細胞内の脂肪蓄積が抑制される性質を利用する方法を提供する。
【0044】
以下、本発明の好適な実施形態を実施例を参照して、より具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例]
実施例1:唐辛子のエチルアセテート抽出物の調製
唐辛子粉10kgにエチルアセテート50Lを加え、ウォーターバスにて還流させて、3時間加熱抽出した。抽出工程を3回繰り返し実施して冷却した後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して、唐辛子のエチルアセテート抽出物1.53kgを得た。
【0046】
実施例2:パプリカのエチルアセテート抽出物の調製
乾燥させたパプリカ粉10kgにエチルアセテート50Lを加え、ウォーターバスにて還流させて、3時間加熱抽出した。抽出工程を3回繰り返し実施して冷却した後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して、パプリカのエチルアセテート抽出物825.2gを得た。
【0047】
実施例3:ピーマンのエチルアセテート抽出物の調製
乾燥させたピーマン粉10kgにエチルアセテート50Lを加え、ウォーターバスにて還流させて、3時間加熱抽出した。抽出工程を3回繰り返し実施して冷却した後、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して、ピーマンのエチルアセテート抽出物784.3gを得た。
【0048】
実施例4:コチュジャンのエチルアセテート抽出物の調製
3ヶ月間発酵させたコチュジャン10kgを凍結乾燥させて水分を除去して凍結乾燥物7kgを得た。ここにエチルアセテート50Lを加え、還流させて3時間加熱抽出した。抽出工程を3回繰り返し実施して冷却した後に、ろ過し、ろ液を減圧濃縮して、コチュジャンのエチルアセテート抽出物1.28kgを得た。
【0049】
実施例5:唐辛子のエチルアセテート抽出物からカプサイシンを除去したカプサンチン含有抽出物の調製
唐辛子のエチルアセテート抽出物1.5kgをヘキサン7Lに溶解させ、0.1Nアルカリ水溶液7Lを分液ロートに加えて混合振とうし、層分離後、アルカリ−水溶液層を除去する工程を5回繰り返し行うことで、カプサイシンを完全に除去した。カプサイシン分子中のフェノール性水酸基が強アルカリ水溶液によりフェノレート塩に転換されて水に溶解する性質を利用した。
【0050】
上記のような工程により得られるヘキサン層をHPLCで分析した結果、カプサイシンは検出されなかった[HPLC分析条件:カラム:C8−逆相カラム(agilent Eclipse XDB-C8、150×4.6mm、5μm)、展開溶媒:メタノール:水=4:6、展開溶媒の流速:1ml/分、カプサイシンの保持時間:18.59分、検出:UV吸収230nm]。
【0051】
また、ヘキサン層に残留し得るアルカリを除去するために、0.5N塩酸を加えて混合振とうした後、塩酸層を除去後、ヘキサン層を飽和重曹水溶液で洗浄し、無水芒硝で脱水及びろ過した後、減圧濃縮することで、カプサイシンを除去したエステル型カプサンチン含有抽出物1.27kgを得た。
【0052】
実施例6:パプリカのエチルアセテート抽出物からカプシエイト(capsiate)を除去したカプサンチン含有抽出物の調製
実施例5と同様、パプリカのエチルアセテート抽出物800gからカプシエイトを除去することで、カプサンチン含有抽出物536.3gを得た。
【0053】
実施例7:ピーマンのエチルアセテート抽出物からカプシエイトを除去したカプサンチン含有抽出物の調製
実施例5と同様、ピーマンのエチルアセテート抽出物700gからカプシエイトを除去することで、カプサンチン含有抽出物487.7gを得た。
【0054】
実施例8:コチュジャンのエチルアセテート抽出物からカプサイシンを除去したカプサンチン含有抽出物の調製
実施例5と同様、コチュジャンのエチルアセテート抽出物1.2kgからカプサイシンを除去することで、カプサンチン含有抽出物753.4gを得た。
【0055】
実施例9:カプサンチン含有抽出物からエステル型カプサンチンの分離
カプサンチン含有抽出物1kgに無水エタノール30Lを加え、触媒量のナトリウムメトキシドを加え、室温で撹拌し、エステル交換反応(trans-esterificaition)に供した。この反応が完了した後、酢酸を加えて触媒を失活させ、これを減圧濃縮して、カプサンチン脂肪酸エステル、脂肪酸のエチルエステル及びグリセリンの混合物1.03kgを得た(このとき、トリグリセライドは脂肪酸のエチルエステルに変換されるが、エステル型カプサンチンは反応しない(T.Philip, W.W.Nawar and F.J.Francis, The nature of fatty acids and capsanthin esters in paprika, Journal of Food Science, 1971, 36, 98-100))。
【0056】
上記のような工程により得られる混合物1kgをヘキサン10Lに溶解させ、シリカゲル2kg及びヘキサンによるカラムを用いたクロマトグラフィーに供して脂肪酸のエチルエステル成分が残留しないまで溶出させて除去した後、展開溶媒をヘキサン:エチルアセテート=20:1に変えて溶出させてエステル型カプサンチン分画物8.75gを得た。
【0057】
この分画物8.75gをヘキサンに溶解させ、4℃に放置して暗赤色の無定形粉末1.54gを得た。
【0058】
これをCDClに溶解させ、500MHz H−NMRに供してエステル型カプサンチンであることを確認した(図1)。
【0059】
実施例10:エステル型カプサンチンをけん化して遊離型カプサンチンの分離
エステル型カプサンチン1gをエタノール5mlに溶解させ、0.1N NaOH/EtOH溶液20mlを添加した後、窒素気流下において1時間65℃のウォーターバスにてけん化した。これを冷却した後、減圧濃縮してエタノールを除去した。脂肪酸塩及びアルカリを除去するために、エーテル20mlを加えて強く振とうした後、遠心分離(6,000rpm、10分)して上層液を採取する工程を3回繰り返した。エーテル層を蒸留水で洗浄し、脱水した後、濃縮することにより、濃赤色のけん化物420mgを得た。けん化物420mgをメチレンクロライドから再結晶を行い暗赤色の針状結晶280mgを得た。
【0060】
これをCDClに溶解させ、500MHz H−NMRに供して遊離型カプサンチンであることを確認した(図2)。
【0061】
これをHPLCに供して単一ピークとして検出されることを確認した(図3)。
【0062】
−HPLC分析条件:カラム:ODS−120A(TOSOH、tsk‐gel、150×4.6mm、5μm)、展開溶媒:アセトニトリル:2−プロパノール:エチルアセテート(8:1:1)、展開溶媒の流速:0.8ml/分、遊離型カプサンチンの保持時間:7.60分、エステル型カプサンチンの保持時間:75.47分、検出:UV吸収480nm。
【0063】
実施例11:赤色色素成分であるカプサンチンの3T3−L1細胞を利用した脂肪細胞への分化抑制及び脂肪蓄積抑制活性の確認
3T3−L1マウス胚芽前駆脂肪細胞をSinghの方法により培養した(Singh R, Testosterone inhibits adipogenic differentiation in 3T3-L1 cells :Nuclear translocation of androgen receptor complex with β-catenin and T-cell factor 4 may bypass canonical WNT signaling to down-regulate adipogenic transcription factors, Endocrinology, 2006, 147, 141-154)。
【0064】
韓国細胞株バンクから入手した3T3−L1細胞を、10%子ウシ血清(bovine calf serum)及び1%ペニシリン−ストレプトマイシン混合物を含むDMEMを用いて培義した。コンフルエンス(Confluence)に到逹したとき、さらに2〜3日培養した後、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum)、1.7μMインスリン、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾンを含むDMEMに交替して8日間培養した。脂肪細胞への分化抑制及び脂肪蓄積抑制の陽性対照群としてカプサイシン(sigma)及びゲニステイン(sigma)を使用した。
【0065】
カプサイシンは唐辛子に、ゲニステインは味噌麹に含まれる脂肪細胞形成抑制活性物質である。
【0066】
(1) カプサンチンの脂肪細胞への分化抑制活性
3T3−L1(マウス)前駆脂肪細胞(pre-adipocyt)はDMEMに10%子ウシ血清(BCS、Bovine calf serum)を混合した培地を用いてCO(CO濃度5%、37℃)培養器にて12−wellで培養した。前駆脂肪細胞がコンフルエンス状態に到達した時点で、さらに2日間培養し、カプサンチン(in DMSO)及び分化誘導用(DMEM、10%FBS、1.7μMインスリン、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン)培地に交換してさらに3日間培養した。カプサンチンを溶解させるためのDMSOの最終濃度は0.1%以下とした。3日後、ウェル(well)から培養液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、phosphate buffer saline)で洗浄した後、10%ホルムアルデヒド500ulを加えて1時間放置して固定させた。その後、ホルムアルデヒドを除去し、PBSを用いて洗浄した後、オイルレッドO(Oil Red O)500ulをウェルに加えて2時間染色した。Oil Red Oで染色した脂肪細胞を顕微鏡にて観察して分化した数を測定した。
【0067】
各試料の脂肪細胞分化抑制活性IC50値を測定した結果、遊離型カプサンチンは4.49μM、エステル型カプサンチンは75.43μM、カプサイシンは3.97μM、ゲニステインは28.21μM、フコキサンチンは79.11μMを示した。
【0068】
(2)脂肪細胞におけるカプサンチンの脂肪蓄積抑制活性
脂肪細胞におけるカプサンチンの脂肪蓄積抑制活性を観察するために、Negalの方法(Negrel R, Culture of adipose precursor cells and cells of clonal lines from animal white adipose tissue, In adipose tissue protocols. G. Ailhaud(ed). Humana press, inc., Totowa, NJ, 2001, 225-237)に従ってOil Red O染色法を使用した。前駆脂肪細胞がコンフルエンス状態に到達した時点で、さらに2日間培養し、カプサンチン(in DMSO)及び分化誘導用培地に交換してさらに8日間培養した。カプサンチンを溶解させるためのDMSOの最終濃度は0.1%以下とした。脂肪細胞が培養されているプレートから培養液を除去し、PBSで洗浄した後、10%ホルムアルデヒド500ulを加えて1時間放置して固定させた。その後、残留したホルムアルデヒドはPBSを用いて除去した後、Oil Red Oを500ul加えて2時間染色した。その後、残留したOil Red OはPBSで十分洗浄して残留しないようにした。Oil Red Oで染色した脂肪細胞にイソプロピルアルコール1ml加えて10分間脂肪細胞内のOil Red Oを抽出した。Oil red Oの含量はELISAリーダーを用いて510nmで吸光度を測定した。
【0069】
各試料の脂肪蓄積抑制活性IC50値を比較した結果、遊離型カプサンチンは1.31μM、エステル型カプサンチンは55.24μM、カプサイシンは32.65μM、ゲニステインは58.74μM、フコキサンチンは54.81μMを示した。
【0070】
実施例12:赤色色素成分であるカプサンチンを投与したラット(SD系)のプラズマ中のカプサンチン含量の分析
試験動物は、(株)オリエントバイオから購入した雄ラット(SD)を使用した。本実験において飼料及び水は自由に摂取させ、動物の飼育温度は25(±1)℃、湿度50(±5)%、明暗は12時間おきに調節した。エステル型カプサンチン及び遊離型カプサンチンは、それぞれ異なる動物に、1日1回15mg/kg経口投与した。単回または7日間投与した動物の血液から採取したプラズマ中のカプサンチン(含量及び形態)をHPLC分析した。動物から血液4mlをEDTAが塗布されている試験管に採取して血液が凝固するのを防止した後、遠心分離(3,000rpm、10分、4℃)を行い上層のプラズマ1mlをとった。ここに1%BHT/EtOH1mlを加えて1分間撹拌した後、ヘキサン2mlを加えてさらに1分間撹拌した後、遠心分離(2,000rpm、5分)を行いヘキサン層1mlをとってHPLCで分析した(M. A. Grashorn, Quantification of carotenoids in chicken plasma after feeding free or esterified lutein and capsanthin using high-performance liquid chromatography and liquid chromatography-mass spectrometry analysis, Poultry science, 2003, 82, 395-401, Hideo E, Carotenoids in human blood plasma after ingesting paprika juice)。
【0071】
−HPLC分析条件:カラム:ODS−120A(TOSOH、tsk‐gel、150×4.6mm、5μm)、展開溶媒:アセトニトリル:2−プロパノール:エチルアセテート(8:1:1)、展開溶媒の流速:0.8ml/分、遊離型カプサンチンの保持時間:7.60分、エステル型カプサンチンの保持時間:75.47分、検出:UV吸収480nm。
【0072】
動物の血液を分析した結果、遊離型カプサンチンを投与した動物の血液中からも遊離型カプサンチンが検出され、エステル型カプサンチンを投与した動物の血液中からも遊離型カプサンチンのみが検出され、両実験群のいずれの動物の血液からエステル型カプサンチンは検出されなかった。これにより、遊離型カプサンチンは無変化状態で吸収され、エステル型カプサンチンは胃腸管で加水分解され、遊離型カプサンチンに変化された後、吸収されるということが分かった。
【0073】
このような理由から、エステル型カプサンチンを投与した動物よりも遊離型カプサンチンを投与した動物のほうがカプサンチンの血中濃度が高いことを観察することができ、エステル型カプサンチンを投与した動物から時間帯別に採取した血液中のカプサンチンの血中濃度は緩慢に上昇する一方、遊離型カプサンチンを投与した動物から時間帯別に採取した血液中のカプサンチンの血中濃度は急激に高くなることを観察することができた。
【0074】
本実施例において、遊離型及びエステル型カプサンチンを互いに異なる動物に単回投与後、所定の時間に血液を採取してカプサンチン含量をHPLCで分析した結果を表1に示し、遊離型及びエステル型カプサンチンを互いに異なる動物に7日間投与して最終投与後、時間帯別に血液を採取してカプサンチン含量をHPLCで分析した結果を表2に示す。表1及び2において、血液中のカプサンチンの含量は面積(mV・秒)で表記した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
実施例13:カプサンチンを含む飲料の製造
カプサンチンに水及び豆から抽出したレシチン及び調味料などの適当な添加物を少量添加した後、高速にホモジネーションして乳化剤を調製し、通常の飲料製造方法により製造して、茶色の瓶に1回分量ずつ分けて窒素充填した後、105℃で1時間加熱滅菌して飲料を製造した。
【0078】
実施例14:カプサンチンを含むカプセル剤の調製
カプサンチンをジャガイモでん粉などを用いて均一な希釈粉末を製造した後、通常の方法によりカプセル剤を調製した。
【0079】
実施例15:カプサンチンを含む錠剤の調製
カプサンチンを適当な希釈剤及び錠剤の調製に必要な各種賦形剤の適当量を均質混合させた後、通常の錠剤調製方法により打錠して錠剤を調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で示される遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満の予防または抑制用機能性食品組成物。
【化1】


(式中、Rは、水素、ラウロイル、リノレイル、ミリストイルまたはパルミトイルである。)
【請求項2】
化学式1で示される遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む、肥満の治療または予防用医薬組成物。
【化2】


(式中、Rは、水素、ラウロイル、リノレイル、ミリストイルまたはパルミトイルである。)
【請求項3】
前記天然物は、唐辛子、パプリカ及びピーマンからなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記天然物に含まれるカプサンチンはエステル型である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記食品は、飲料類、穀類、パン類、菓子類または麺類である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
速放性製剤または徐放性製剤である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記カプサンチンは、コチュジャンまたはキムチである発酵食品から分離されたものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
化学式1で示される遊離型及びエステル型カプサンチン、またはこれらを含む天然物の抽出物を含む肥満の予防または治療用組成物の使用。
【化3】


(式中、Rは、水素、ラウロイル、リノレイル、ミリストイルまたはパルミトイルである。)
【請求項9】
前記天然物は、唐辛子、パプリカ及びピーマンからなる群より選択される1種以上である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記天然物に含まれるカプサンチンはエステル型である、請求項8に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−254980(P2012−254980A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−122390(P2012−122390)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【出願人】(508375974)イーエスバイオテック カンパニーリミテッド (2)
【Fターム(参考)】