説明

脂肪細胞肥大化抑制剤

【課題】レスベラトロールに比べて優れた脂肪細胞肥大化抑制剤、抗肥満剤およびメタボリックシンドローム予防剤の提供。
【解決手段】特定のレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする脂肪細胞肥大化抑制剤、抗肥満剤およびメタボリックシンドローム予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロール誘導体を含有する脂肪細胞肥大化抑制剤に関するものである。また、本発明は、抗肥満剤およびメタボリックシンドローム予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化が進んだ現代社会において、肥満が大きな社会問題となっている。高脂肪、高カロリーな食事による過剰なエネルギー摂取とストレスや運動不足によって引き起こされる肥満は肥満症と呼ばれる疾患であると認識されている。
【0003】
肥満症は、多くの疾患のリスクを増大させる。例えば、インスリン抵抗性に起因する2型糖尿病や高血圧、動脈硬化や心筋梗塞などの循環器系疾患のリスクを増大させることが知られている。先進国において肥満は医療費の増大を招くことから、その改善に向けた様々な研究がなされている。食事制限や運動は最も効果的な治療方法ではあるが、患者への精神的負担や生活時間の拘束から実現することが難しい人も多く、問題解決には至っていない。
【0004】
肥満に大きく関わっているのが脂肪細胞である。脂肪細胞は脂肪酸を中性脂肪として細胞内に蓄積する。脂肪細胞は適度な量の中性脂肪が蓄積された状態では、善玉アディポカインであるアディポネクチンやレプチンの分泌やグルコース吸収を亢進し、体の恒常性を維持する重要な働きをする。一方、過剰な中性脂肪が蓄積した状態では、脂肪細胞が肥大化することが知られている。肥大化した脂肪細胞では炎症性サイトカインであるTNF−αや悪玉アディポカインであるレジスチンの分泌が亢進し、善玉アディポカインの分泌やグルコース吸収が抑制される。この肥大化した脂肪細胞が増えることにより、体内の恒常性が破綻して脂質異常症や糖尿病、動脈硬化など生活習慣病と呼ばれる疾患の原因となる。
【0005】
肥大化した脂肪細胞は分裂することがこれまでの研究から明らかになっている(非特許文献1)。肥大化脂肪細胞の分裂は肥満を進行させ、体内の恒常性の破綻を亢進する大きな要因となる。また、脂肪細胞の肥大化に関わる遺伝子としてMEST(Mesoderm specific transcript)がある。この遺伝は一般的に脂肪細胞に蓄積する脂肪滴の大きさと遺伝子発現量に正の相関があることが知られており、脂肪滴サイズマーカー遺伝子とされている。また、遺伝性肥満マウスの脂肪細胞においてMEST遺伝子の発現が観察され、さらに脂肪細胞で過剰発現させたトランスジェニックマウスでは、野生型と比較して有意な脂肪細胞の肥大化が観察された(非特許文献2)。現在のところその機構は不明であるが、MESTが脂肪細胞の肥大化に関与していることが示唆されている。
【0006】
抗肥満作用を目的として脂肪細胞にアプローチすることの有用性はこれまでに多くの研究から明らかになっており、その先行技術も数多く報告されている。例えば、ポリペプチドを有効成分とする脂肪細胞化抑制剤(特許文献1)、新規サイトカインを有効成分とする抗肥満剤(特許文献2)、カロテノイドを有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤(特許文献3)、キク科植物に含まれるBisabolol oxide−A−β―glucosideを有効成分とする脂肪蓄積阻害剤(特許文献4)、コーヒー生豆の超臨界抽出物を有効成分とするメタボリックシンドローム予防剤(特許文献5)など数多く報告されている。
【0007】
このように脂肪細胞へのアプローチによる抗肥満効果の有用性から、このような活性を有する化合物や素材が多数提案されているが、更なる新規素材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−277065号公報
【特許文献2】特許第2752819号公報
【特許文献3】特開2003−095930号公報
【特許文献4】特開2006−213648号公報
【特許文献5】特開2011−057561号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cytochemistory,30,p63−76(1997)
【非特許文献2】肥満研究 vol.12 No.1 (2006)p80−81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、抗肥満剤に関する前記の状況を鑑みて、新規な抗肥満剤の探索をした。その結果、新たに作製したレスベラトロール誘導体類が優れた脂肪細胞肥大化抑制作用を有する化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
したがって、本発明は、レスベラトロールに比べて優れた脂肪細胞肥大化抑制剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、レスベラトロールに比べて優れた抗肥満剤を提供すること、さらには、レスベラトロールに比べて優れたメタボリックシンドローム予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、
〔1〕下記式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
で示されるレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする脂肪細胞肥大化抑制剤、
〔2〕前記式(1)記載のレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする抗肥満剤、
〔3〕前記式(1)記載のレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドローム予防剤
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脂肪細胞肥大化抑制剤は、レスベラトロールと比較し、優れた脂肪細胞肥大化抑制作用を有していることから、新規の脂肪細胞肥大化抑制剤として有用である。
また、本発明の脂肪細胞肥大化抑制剤は、脂肪細胞の肥大化を抑制することで、肥満の発生を防止できることから、抗肥満剤としても使用でき、さらに、内蔵脂肪が原因となって生じるメタボリックシンドロームを予防できることからメタボリックシンドローム予防剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は実施例1で行ったUHA4003のHPLCのクロマトグラムを示す。R4は本発明品であるUHA4003に該当する。
【図2】図2は実施例2で行ったリアルタイムRT−PCR解析の結果を示す。左から、(1)DMSO、(2)レスベラトロール(Resvratrol)、(3)UHA4003で処理した脂肪細胞中のMEST遺伝子の発現量を定量した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、「脂肪細胞肥大化抑制剤」とは、脂肪滴の過剰な蓄積を抑制し、脂肪細胞の肥大化を抑制することができる薬剤をいう。
脂肪細胞肥大化抑制作用は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定し、レスベラトロールの作用と対比することで確認することができる。
また、本発明の「抗肥満剤」は、脂肪細胞の肥大化を抑制することで、肥満の進行を抑えて、肥満の発生を抑制することが可能な薬剤をいう。
また、本発明の「メタボリックシンドローム予防剤」は、脂肪細胞の肥大化を抑制することで、内蔵型肥満が原因で発生するメタボリックシンドロームの発生を予防することが可能な薬剤をいう。
本発明では、脂肪細胞肥大化抑制剤、抗肥満剤およびメタボリックシンドローム予防剤の構成は同じであるため、これらをまとめて、本発明の脂肪細胞肥大化抑制剤等と略する。
【0018】
本発明の脂肪細胞肥大化抑制剤等は、下記式(1):
【0019】
【化2】

で示されるレスベラトロール誘導体、これらの薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする。
【0020】
前記レスベラトロール誘導体において、炭素−炭素2重結合は、トランスまたはシスであってよく、シス体とトランス体との混合物を含む。
【0021】
前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩; アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩; アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩; α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩またはそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
また、前記レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能なエーテルまたはエステルとは、ヒドロキシ基(−OH)の1個または2個以上がエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基であるものをいう。これらのエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基は、非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、または非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖脂肪族、芳香脂肪族または芳香族カルボン酸に由来してもよい。エーテル化ヒドロキシ基はさらにグリコシド基であってもよく、エステル化ヒドロキシ基はさらにグルクロニドまたは硫酸基であってもよい。これらの薬理的に許容し得るエーテルまたはエステルは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明で使用する前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体は、レスベラトロールを原料として、金属塩の存在下で加熱処理して得ることができる。
以下に、前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体の製造方法について具体的に説明する。
【0024】
前記製造方法では、前駆体としてレスベラトロールを用いる。レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、レスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。レスベラトロールは、ブドウ果皮から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明で用いる前記レスベラトロール誘導体が得られるから、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。また、レスベラトロールには、塩、エーテル、エステル等の誘導体もあるが、前記製造方法では、これらの誘導体も原料として使用することができる。
ただし、前記レスベラトロール誘導体の回収率の観点からは、レスベラトロール換算で1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。
前記レスベラトロールとしては、ブドウ果皮、ピーナッツ等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0025】
本発明では、レスベラトロールを適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであれば、レスベラトロールの溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類については特に制限はなく、レスベラトロールが十分に溶解すれば良い。中でも、メタノールやエタノールのみの溶媒や、水とメタノール、水とエタノール等の混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。新規レスベラトロール誘導体を含む反応後組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒としてエタノールや含水エタノールを使用することが望ましい。
得られるレスベラトロールを含有する溶液中のレスベラトロールの濃度について特に制限はないが、それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロールの濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロールがそれぞれ飽和する濃度近くが好ましい。
また、レスベラトロールは前記溶液中において生成反応前に完全に溶解していなくともよい。
【0026】
次に、前記レスベラトロールを含有する溶液(以下、レスベラトロール含有溶液)のpHを8未満に調整することが好ましい。調整方法として、例えば、レスベラトロール含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加してpHを調整しても良いし、前記溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。レスベラトロール含有溶液の反応開始時のpHは8.0以上であれば、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために、生成される前記レスベラトロール誘導体の回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは3以上8未満が望ましい。
【0027】
本発明では、前記レスベラトロール含有溶液中に金属塩を添加する。前記金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩等が挙げられる。
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社、グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。
なお、前記金属塩の含有量としては、前記レスベラトロール誘導体を生成可能な量であればよく、特に限定はない。
【0028】
次に、金属塩存在下で、レスベラトロール含有溶液を加熱処理する。この加熱処理により、新規レスベラトロール誘導体の生成反応を行う。生成反応を効率的に進ませるために、レスベラトロール含有溶液の加熱温度は110℃以上に調整することが好ましい。また、使用する溶媒の沸点から考え、加圧加温が望ましい。例えば、開放容器にレスベラトロール含有溶液を入れ、溶媒の沸点を超える高温で前記容器を加温する、密閉容器にレスベラトロール含有溶液を入れて前記容器を加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的に溶液温度が110℃以上に達するように加熱することが好ましい。回収効率面から、溶液温度が均一に110℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜120分の加熱時間が望ましい。また、加熱は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。複数回に分けて加熱する場合、蒸発した溶媒を補うために溶媒を新たに追加して行うことが好ましい。
【0029】
前記加熱処理によるレスベラトロール誘導体の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析によりレスベラトロール誘導体の生成量を確認して判断すればよい。
【0030】
得られる反応液中には、本発明で用いるレスベラトロール誘導体が含有されている。
また、安全な原料のみを用いた工程でレスベラトロール誘導体を製造した場合には、前記レスベラトロール誘導体を含む混合物の状態で食品、医薬品または医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロールを含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーターやミネラルプレミックスを添加して加熱処理した場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0031】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮してレスベラトロール誘導体の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製しレスベラトロール誘導体の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0032】
また、前記反応液から式(1)で表されるレスベラトロール誘導体を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。
【0033】
前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状のレスベラトロール誘導体を得ることができる。
【0034】
また、得られたレスベラトロール誘導体は、必要に応じて、当該分野で公知の方法により、レスベラトロール誘導体の塩としたり、レスベラトロール誘導体のヒドロキシ基をエーテル化またはエステル化してもよい。
【0035】
前記のレスベラトロール誘導体はいずれも、レスベラトロールにはない優れた脂肪細胞肥大化抑制作用を有する。
したがって、本発明は、前記レスベラトロール誘導体を有効成分として含有する脂肪細胞肥大化抑制剤、抗肥満剤、メタボリックシンドローム予防剤を提供することができる。
【0036】
次に本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(実施例1:UHA4003の生成および単離・精製)
トランス−レスベラトロール(東京化成)700mgをエタノール14mlに溶解し、2.5%NaHCO3水溶液を14ml加えて、レスベラトロール含有溶液(pH9.9)を得た。このレスベラトロール含有溶液をオートクレーブ(三洋電機(株)、「SANYO LABO AUTOCLAVE」、以下同じ)にて130℃、20分間加熱した。次いで、1回目のオートクレーブ処理にて得られた反応溶液に、エタノール14mlと5.0%NaHCO3水溶液を14ml加え、再度、オートクレーブにて130℃、20分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mlにメスアップし、このうちの10μlをHPLCにより分析した。その結果を図1に示す。
【0038】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1ml/min
注入:10μl
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0039】
図1に示すように、反応後溶液のクロマトグラムでは、複数のピークが確認され、原料であるレスベラトロールのピークとは相違しているR1〜R4のピークのうち、R4のピークに含まれる化合物をUHA4003と命名した。
【0040】
R4のピークに含まれるUHA4003を分取HPLCにより精製し、常法により乾燥したところ、褐色粉末状の物質であった。
【0041】
なお、UHA4003の分子量を高分解能FAB−MS(Fast Atom Bombardment−Mass Spectrometry)にてそれぞれ測定したところ、439.4765であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C28H23O5(M+H)+ :439.4792
分子式C28225
【0042】
次に、前記UHA4003を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMRおよび各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA4003が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。
【0043】
(実施例2 MEST遺伝子発現量の定量)
MEST遺伝子の発現量を評価するために、3T3―L1細胞(マウス由来脂肪前駆細胞)を用いて評価を行った。
【0044】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA4003の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に2mMの濃度で溶解させて試験に使用した。
【0045】
培養は、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS Biological industries社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(Antibiotic−Antimycotic、ギブコ(GIBCO)社製)を含むDulbecco’s modified Eagle medium(DMEM、Sigma社製)を用いていった。試験に使用する脂肪細胞は定法に従って調整した。つまり、細胞培養用6wellディッシュ(日本BD社製)に3T3L1細胞を5×104cells/mLで2mL播種して37℃、5%CO2条件下で48時間培養し、100%コンフルエントしたものを毎日培地交換しながらさらに48時間培養した。その後、培地をAdipoInducer Reagent(タカラバイオ社製)付属のインスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチンをそれぞれ1%、0.5%、0.1%添加した分化用DMEM2mLに交換し、37℃、5%CO2条件下で48時間分化・培養したものを使用した。
【0046】
試験は以下のように行った。分化させた脂肪細胞の培地を、インスリン1%を含むDMEM(維持培地)に交換し、これに各試料を10μL(終濃度10μM)添加し、2日おきに培地交換(化合物含有維持培地)しながら7日間培養した。なお、溶媒であるDMSOのみを0.5%添加したものをコントロールとした。
【0047】
培養終了後、細胞よりRNA抽出キット「NucleoSpin(登録商標)RNA II」(タカラバイオ(株)社製)を用いて全量RNAを抽出・精製した。得られたRNAを2ステップリアルタイムRT−PCR用逆転写試薬「PrimeScript(登録商標)RT Master Mix」(タカラバイオ(株)社製)の取扱説明書に準じて逆転写反応を行った。つまり5×Primescript RT Master Mix 4μL、全量RNA 1μgを混合し、RNase Free dH2Oで20μLに調製した。PCR用サーマルサイクラー「GeneAmp(登録商標)PCR System 9700」(Applied Biosystem(株)社製)を使用して{37℃ 15分 → 85℃ 5秒}×1サイクルのプログラムにて逆転写反応を行った。逆転写反応液をリアルタイムRT−PCR用希釈試薬「EASY Dilution」(タカラバイオ(株)社製)にて10倍希釈した希釈液をリアルタイムRT−PCR解析に使用した。
【0048】
リアルタイムRT−PCR解析は定法に従って行った。解析には「ECO Realtime RT―PCR system」(イルミナ(株)製)を使用した。プライマーには、MESTフォワードプライマー;(プライマーID:MA079874―F)、MESTリバースプライマー;(プライマーID:MA079874―R)を使用した。細胞内遺伝子の内部標準はβ−アクチンとし、そのプライマーとして、ACTBフォワードプライマー;(プライマーID:MA050368−F)、ACTBリバースプライマー;(プライマーID:MA050368−R)(いずれもタカラバイオ(株)社製)を使用した。反応にはリアルタイムRT−PCR試薬「SYBR(登録商標)Premix EX taq II」(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ(株)社製)を使用した。反応液は48ウェルPCRプレート(イルミナ(株)製)中に2×SYBR Premix EX taq II(Tli RNaseH Plus)5μL、フォワードプライマー(50μM)0.08μL、リバースプライマー(50μM)0.08μL、逆転写反応液 2μL、dH2O 2.84μL(総量10μL)を混合して[95℃ 30秒 → {95℃ 15秒 → 60℃ 1分}×40サイクル → 95℃ 15秒 → 55℃ 15秒 → 95℃ 15秒]のプログラムにてPCR反応を行った。
【0049】
得られた各細胞中のβ−アクチンとレプチンのCt値(Threshold Cycle:一定の増幅量(閾値)に達するサイクル数)からレプチン発現量の相対値を算出した。結果を図2に示した。
【0050】
図2の結果より、UHA4003においてレスベラトロールと比較し、優れたMEST遺伝子発現抑制作用が確認された。
このようにUHA4003は、MEST遺伝子発現抑制作用を有することから、脂肪細胞に蓄積する脂肪滴の肥大化を抑える可能性が示唆された。
【0051】
(実施例3 脂肪細胞肥大化抑制作用の評価)
脂肪細胞の肥大化抑制作用を評価するために3T3−L1細胞を用いた評価を行った。
【0052】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA4003の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に4mMの濃度で溶解させて試験に使用した。細胞培養方法および試料添加方法は実施例2に準じて行った。
培養終了後、化合物を添加した細胞を顕微鏡視野下で評価を行った。
その結果、UHA4003を用いた場合には、DMSOの場合と比べて3T3−L1細胞にある脂肪滴の微細化が観察され、また、3T3−L1細胞から分化した脂肪細胞の肥大も抑制されていた。なお、UHA4003におけるこれらの現象は、レスベラトロールを用いた場合には見られなかった。
【0053】
また、UHA4003は、前記のように脂肪細胞の肥大化を抑制できることから、この脂肪細胞の肥大化が原因として発生する肥満を抑える抗肥満剤、さらに内蔵脂肪の肥満化が原因となって生じるメタボリックシンドロームの予防に用いるメタボリックシンドローム予防剤としても有用である。
なお、実施例3に記載されるような3T3−L1細胞を用いる評価系で抗肥満剤の効果を確認することは前記特許文献2、メタボリックシンドローム予防剤の効果を確認することは前記特許文献5に記載されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする脂肪細胞肥大化抑制剤。
【請求項2】
下記式(1):
【化2】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする抗肥満剤。
【請求項3】
下記式(1):
【化3】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするメタボリックシンドローム予防剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95693(P2013−95693A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239359(P2011−239359)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】