説明

脂肪組織から幹細胞を調製するための方法およびシステム

本発明は、ヒト(特に、被験体自身)から、単純かつ効率的な様式において、大量に均一な幹細胞および/または前駆細胞を調製するための方法を提供する。本発明はさらに、本発明の幹細胞および/または前駆細胞を使用して、大量に組織移植片または組織片を調製するための方法を提供する。本発明は予想外に、脂肪吸引廃液が大量の幹細胞を含むことを発見し、このような脂肪吸引廃液から幹細胞を調製するための方法を確立した。そしてこれにより、上記の目的を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪吸引廃液から幹細胞を調製する方法、システム、そのような方法およびシステムによって調製された幹細胞、ならびにその幹細胞の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
幹細胞の利用を中心とした再生医療は、ここ数年で、かなりの発展を遂げてきた。従来であれば、存在しないと考えられていた組織幹細胞が、種々の組織から発見され、同定されてきた。このように、再生医療による疾患治療が最近注目を浴びている。
【0003】
しかし、再生医療は、臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。現在までに、ごく限られた数のこのような患者が、臓器移植または医療システムまたは医療機器での補助システムの利用により処置されている。これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題である。骨髄移植の場合、国内外で骨髄バンクまたは臍帯血バンクが次第に充実してきたといっても、限られた量のサンプルを、必要とする多くの患者に提供することはなお困難である。従って、上記の問題を克服するために幹細胞および幹細胞を用いる再生医薬を使用する治療法に対する期待が高まっている。臓器(例えば、心臓、血管など)の移植のための外来性組織の使用は、主に免疫拒絶反応により妨害される。同種異系移植片または同種移植片(allogenic graft;allograft)および異種移植片(xenograft)において起こる変化がよく知られている。
【0004】
受精卵は、原腸陥入の後、内胚葉、中胚葉および外胚葉の3つの胚葉に分かる。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞などが含まれる。内胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞などが含まれる。
【0005】
脂肪細胞、骨細胞、靭帯細胞、心筋細胞などの間葉系細胞は、身体の形状または骨格を形成するに重要な働きを有している。従って、その細胞を含む集団、組織など、間葉系細胞の再生医療および移植医療への応用の期待が高まっている。特に、骨髄間葉系幹細胞は、中胚葉系の種々の臓器に分化することが報告されるようになっており、再生医療分野の中心として注目を浴びている。しかし、そのような細胞の分化は、分化誘導剤(例えば、デキサメサゾンなど)を含む特殊な培地が必要とされる特殊な条件を必要とする(非特許文献1)。
【0006】
間葉系幹細胞は、組織幹細胞の一種である。間葉系幹細胞は、天然にはごく少量(ヒト新生児の骨髄に1万分の1存在し、その後急速に減少する。高齢者では200万分の1といわれる)存在するだけである。従って、間葉系幹細胞を分離することは困難である。間葉系幹細胞は、中胚葉以外の胚葉に分化することが報告されているように、適用の範囲は、広範囲に及ぶようになっている。しかし、このような分化のための条件は、上記の条件よりもさらに特殊である。間葉系幹細胞の既知の表面抗原は、CD105(+)、CD73(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)およびCD45(−)である。
【0007】
間葉系幹細胞の単離には、多大な費用を要する。さらに、骨髄細胞採取は一般的にドナーに痛みを伴う。さらに、特に選別されたロットの血清を使用して、そのような幹細胞の使用にさらにコストと労力を加えなければ、そのような細胞は分化を誘導することなく培養することが困難である。
【0008】
一方、脂肪が幹細胞を含むことが分かってきた(特許文献1〜3、非特許文献2〜3)。脂肪にある幹細胞は、他の組織(例えば、骨髄)に比べて、その供給源が豊富であり、存在率も多いようである。従って、脂肪が注目を浴びている。脂肪組織から幹細胞を調製する従来分野の方法(特許文献4および5)は、その細胞供給源として骨髄が使用される場合よりは、豊富な量で入手可能であるという利点を有する。しかし、その細胞供給源の脂肪組織をコラゲナーゼなどの酵素を用いて処理する必要があり、依然として簡便かつ大量に調製することは不可能である。幹細胞および前駆細胞の再生医療への応用を考えると、ヒト(特に、被検体自身)から簡便かつ大量に均質な幹細胞・前駆細胞を簡便に調製する方法の確立がなお望まれている。
【特許文献1】国際公開第00/53795号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/022988号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/62901号パンフレット
【特許文献4】特表2003−523267号公報
【特許文献5】特表2002−537849号公報
【非特許文献1】中辻編、幹細胞・クローン 研究プロトコール、羊土社(2001)
【非特許文献2】Zuk,P.A.,et al.、Tissue Engineering,2001,Vol.7,211−228
【非特許文献3】Zuk,P.A.,et al.、Molecular Biology of the Cell,2002,Vol.13,4279−4295
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ヒト(特に、被検体自身)から、簡便かつ効率的な様式で、均質な幹細胞および/または前駆細胞を大量に調製する方法を提供することが、本発明の目的である。
【0010】
本発明の幹細胞および/または前駆細胞を用いることにより、組織片または移植片を大量に調製する方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、予想外に、脂肪吸引廃液が幹細胞を多量に含むことを見出し、脂肪吸引廃液からの幹細胞の調製方法を確立することによって、上記の目的を達成した。
【0012】
従って、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;および
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
上記脂肪吸引廃液は、生理食塩水、またはリンゲル液を使用して調製される、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記遠心分離は、800×g以下の範囲内の速度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記遠心分離は、400×g以上の範囲内の速度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記比重による遠心分離は、370×g〜1100×gの範囲内の速度で行われる、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記比重による遠心分離は、20℃における比重が1.076〜1.078g/mlである媒体を用いて行われる、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記比重による遠心分離の媒体は、フィコール、パーコール、およびスクロースからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記比重による遠心分離の媒体は、フィコールである、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記収集された細胞層の比重は、比重1.050〜1.075の間の範囲である、項目1に記載の方法。
(項目10)
上記細胞層の収集は、ピペットを用いて行われる、項目1に記載の方法。
(項目11)
上記細胞層を、DMEM、M199、MEM、HBSS、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)およびそれらの混合物からなる群より選択される成分を含む培地中で培養する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目12)
上記比重による遠心分離は、密度勾配遠心分離を含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
血球を除去する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引由来物質を得る工程;および
B)該脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得る工程、
を包含する、方法。
(項目15)
上記物質を、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に供する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記条件は、細胞外マトリクスの分解のためのものである、項目15に記載の方法。
(項目17)
上記細胞外マトリクスの分解は、コラゲナーゼにより達成される、項目15に記載の方法。
(項目18)
工程B)において、上清を除去する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目19)
上記工程B)由来の物質を濾過する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目20)
血球を除去する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目21)
上記血球を除去する工程が、血球を分解する成分を加える工程を包含する、項目14に記載の方法。
(項目22)
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
i)脂肪吸引由来物質を得る工程;
ii)脂肪組織を単離することなく、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に、該物質を供する工程;
iii)該物質を、遠心分離にかける工程;
iv)該物質に血球を分解する成分を加え、該物質を攪拌する工程;
v)該物質を遠心分離にかけ、ペレットを得る工程;および
vi)該ペレットから、該物質の上清を吸引する工程、
を包含する、方法。
(項目23)
上記物質を上記条件へ供する工程が、上記脂肪吸引廃液を維持する工程を包含する、項目22に記載の方法。
(項目24)
上記脂肪吸引由来物質が、脂肪吸引廃液と脂肪とを含む、項目22に記載の方法。
(項目25)
上記工程ii)における上記条件が、コラゲナーゼを加えることを包含する、項目22に記載の方法。
(項目26)
上記工程iii)における遠心分離が、400〜1200×gにて行われる、項目22に記載の方法。
(項目27)
血球を分解する上記成分が、塩化アンモニウムと炭酸水素カリウムとを含む、項目22に記載の方法。
(項目28)
上記塩化アンモニウムが、上記成分中に155mMにて含まれる、項目27に記載の方法。
(項目29)
上記炭酸水素カリウムが、上記成分中に10mMにて含まれる、項目27に記載の方法。
(項目30)
上記工程v)における上記遠心分離が、400〜1200×gにて行われる、項目22に記載の方法。
(項目31)
上記ペレットは、幹細胞を含む、項目22に記載の方法。
(項目32)
項目1〜31のいずれか1項に記載の方法によって調製される、幹細胞。
(項目33)
CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、項目32に記載の幹細胞。
(項目34)
CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3を発現する、項目33に記載の幹細胞。
(項目35)
さらに、CD31、CD45、CD117、およびCD146からなる群から選択されるタンパク質の少なくとも1つを発現する、項目33に記載の幹細胞。
(項目36)
CD56を発現しない、項目32に記載の幹細胞。
(項目37)
CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現しない、項目32に記載の幹細胞。
(項目38)
CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144を発現しない、項目37に記載の幹細胞。
(項目39)
CD49dを発現し、CD56を発現しない、項目32に記載の幹細胞。
(項目40)
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得るための手段;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけて、細胞画分を得る手段;および
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける手段;
を含む、システム。
(項目41)
項目40に記載のシステムであって、該システムは、以下:
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する手段、
をさらに含む、システム。
(項目42)
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
A)脂肪吸引由来物質を得るための手段;および
B)該脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得るための手段;
を含む、システム。
(項目43)
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
i)脂肪吸引由来物質を得るための手段;
ii)脂肪組織を単離することなく、該物質を、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に供するための手段;
iii)該物質を遠心分離にかける手段;
iv)該物質に血球を分解する成分を加え、該物質を攪拌する手段;
v)該物質を遠心分離にかけ、ペレットを得るための手段;および
vi)該ペレットから該物質の上清を吸引するための手段、
を含む、システム。
(項目44)
外植片を得るための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;および
E)収集された細胞層を培養して、外植片を得る工程、
を含む、方法。
(項目45)
組織移植片を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分より収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程、
を含む、方法。
(項目46)
組織移植片を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;および
E)収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程、
を含む、方法。
(項目47)
組織移植片を移植するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;
E)収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程;および
F)該組織移植片を移植する工程、
を含む、方法。
(項目48)
幹細胞を調製するための脂肪吸引廃液の、使用。
(項目49)
血管内皮前駆細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、および筋細胞からなる群から選択される細胞を調製する方法であって、
項目1〜31のいずれか1項に記載の方法によって得られた幹細胞を培養する工程
を含む、方法。
(項目50)
分化細胞を調製するための方法であって、以下:
A)a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、
b)所望の部位に対応する分化細胞と、
を混合して混合物を得る工程;および
B)該混合物を、脂肪由来前駆細胞が分化するのに十分な条件下で培養する工程、
を包含する、方法。
(項目51)
上記分化細胞は、間葉系細胞である、項目50に記載の方法。
(項目52)
上記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞および膵細胞からなる群より選択される、項目50に記載の方法。
(項目53)
上記分化細胞への分化を促進する因子を提供する工程をさらに包含する、項目50に記載の方法。
(項目54)
項目50に記載の方法であって、上記混合物は、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレニウムからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つを含む培地中で培養される、方法。
(項目55)
項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物。
(項目56)
上記細胞混合物は、上記幹細胞の分化を誘導するのに十分な条件に供されたものである、項目55に記載の細胞混合物。
(項目57)
細胞移植のための組成物であって、以下:
a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物。
(項目58)
上記移植は、上記所望の部位において行われる、項目57に記載の組成物。
(項目59)
上記幹細胞と、上記分化細胞との間の比率は、約1:10〜約10:1である、項目57に記載の組成物。
(項目60)
上記幹細胞と、上記分化細胞との間の比率は、約1:2〜約2:1である、項目57に記載の組成物。
(項目61)
上記幹細胞と、上記分化細胞との間の比率は、実質的に等量である、項目57に記載の組成物。
(項目62)
上記分化細胞は、間葉系細胞を含む、項目57に記載の組成物。
(項目63)
上記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞および膵細胞からなる群より選択される、項目57に記載の組成物。
(項目64)
項目57に記載の組成物であって、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレニウムからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つをさらに含む、組成物。
(項目65)
上記幹細胞と、上記分化細胞とは、互いに同種異系である、項目57に記載の組成物。
(項目66)
上記幹細胞と、上記分化細胞とは、互いに同系である、項目57に記載の組成物。
(項目67)
分化細胞の不全に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための方法であって、
A)a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
(項目68)
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬であって、
a)項目1〜31に記載の方法で得られた幹細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
(項目69)
a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬の調製のための、使用。
(項目70)
美容状態を処置または改善するための方法であって、以下:
A)a)項目1〜26のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物を提供する工程;ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
(項目71)
美容状態を処置または改善するため医薬であって、以下:
a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
(項目72)
a)項目1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、美容状態を処置または改善するための医薬の調製のための、使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ヒト(特に、被検体自身)から、簡便かつ効率的な様式で、大量に均質な幹細胞および/または前駆細胞を調製する方法を提供する。
【0014】
本発明はさらに、本発明の幹細胞および/または前駆細胞を用いることにより、組織片または移植片を大量に調製する方法を提供する。
【0015】
本発明はさらに、その細胞を使用して調製される幹細胞、前駆細胞、組織、臓器を提供する。
【0016】
本発明は、従来の方法よりも簡便かつ効率的な様式で、脂肪から幹細胞を調製する新規の方法を提供する。この方法は、脂肪組織からの吸引液を応用することにより、大容量/多量の幹細胞を提供する有意な効果を達成した。
【0017】
以下に、好ましい実施例により本発明が記載される。本発明の実施例は、本明細書の記載および当該分野で周知な一般的に使用される技術に基づいて、適切に作製または実施され得ることが、当業者により理解される。本発明の機能および効果は、当業者に容易に認識され得る。
【0018】
本発明のこれらおよび他の利点は、図面およびその詳細な説明を読むことにより、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の冠詞(例えば、英語における「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の参照をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、用語「a」または「an」、「1つ以上(one or more)」および「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書において交換可能に使用され得る。「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」が交換可能に使用され得ることにもまた、注意されたい。さらに、「以下に列挙される1種以上の化合物への参照からなる群から選択される」化合物は、2種以上のその化合物の混合物(すなわち、組み合わせ)を含む。本明細書において使用される用語は、特に言及されない限り、当該分野において本来使用される定義を有することもまた、理解されるべきである。従って、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0020】
(用語の定義)
本明細書において特に使用される用語は、以下のように定義される。
【0021】
用語「細胞」は、当該分野におけるその最も広義の意味で本明細書において使用され、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有し、そして細胞のような生物体を外界から隔離する膜構造に包まれる、多細胞生物の組織の構成単位をいう。本発明の方法において、任意の細胞が対象として使用され得る。本発明で使用される細胞の数は、光学顕微鏡により計数することができる。光学顕微鏡を使用して計数する場合は、核の数が計数される。組織を組織切片スライスとし、次いでヘマトキシリン−エオシン(HE)染色し、細胞外マトリクス(例えば、エラスチンまたはコラーゲン)および細胞に由来する核を識別する。この組織切片を光学顕微鏡にて検鏡し、特定の面積(例えば、200μm×200μm)あたりの核の数を細胞数と見積って計数することができる。本明細書において使用される細胞は、天然に存在する細胞であっても、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝子改変細胞など)であってもよい。細胞の供給源の例としては、単一の細胞培養物;正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または体組織;あるいは正常に成長した細胞株由来の細胞のような細胞混合物が挙げられるが、それらに限定されない。このような供給源自体が、細胞として使用され得る。
【0022】
本明細書において使用される脂肪細胞(fat cell、adipocyte)およびそれに対応する物質は、生物が脂肪細胞またはそれに対応する細胞を有しさえすれば、任意の生物(例えば、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類、軟骨魚類、硬骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目など)に由来し得る。1つの実施形態において、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が使用される。最も好ましくは、ヒト由来の細胞が使用されるが、本発明はそれに限定されない。
【0023】
本明細書において使用される場合、「幹細胞」とは、単分化能性、多能性、または全能性を有する、分化細胞の前駆体(または前駆細胞)をいう。幹細胞は、特定の刺激に応答して分化され得る。代表的に、幹細胞は、損傷された組織を再生することができる。本明細書で使用される幹細胞は、胚性幹(ES)細胞、組織幹細胞(組織性幹細胞、組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)、あるいは他の前駆細胞であり得るが、これらに限定されない。上述の能力を有している限り、幹細胞は、人工的に作製した細胞(例えば、本明細書において記載される融合細胞、再プログラム化された細胞など)であってもよい。胚性幹細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞である。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立され、最近は再生医学にも利用されつつある。組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、相対的に限定されたレベルの分化能を有する。組織幹細胞は、組織中に存在し、未分化な細胞内構造を有する。組織幹細胞は、より高い核/細胞質比を有し、そしてわずかな細胞内オルガネラを有する。ほとんどの組織幹細胞は、多能性を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。本明細書において使用される場合、幹細胞は、好ましくは胚性幹細胞であり得るが、状況に応じて組織幹細胞も使用され得る。
【0024】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。
【0025】
本明細書において使用される場合、「前駆細胞」とは、子孫にあたる細胞が特定の分化形質を発現することが明らかな場合、分化形質を発現していない未分化な親細胞をいい、多能性未分化細胞だけでなく単分化能性未分化細胞も含む。例えば、子孫にあたる細胞が、血管内皮細胞である場合、その前駆細胞を血管内皮前駆細胞という。本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」は、前駆細胞を含む。しかし、幹細胞の分化により得られる前駆細胞は、その幹細胞から見ると「分化細胞」に対応するということができる。用語「PLA(吸引脂肪由来細胞)」は、脂肪吸引廃液の脂肪部分(吸引脂肪)から得られる前駆細胞をいう。脂肪吸引廃液の液体部分に由来する前駆細胞は、「吸引廃液細胞」または「LAF」ということができる。脂肪由来前駆細胞は、PLA(吸引脂肪由来細胞)および吸引廃液細胞を含む。
【0026】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪由来前駆細胞」は、脂肪吸引より得られた、幹細胞および他の前駆細胞をいい、他の前駆細胞は、この脂肪吸引により得られた、末梢血由来の幹細胞または血管間質細胞(脂肪前駆細胞(preadipocyte))のようなものである。脂肪由来前駆細胞は、脂肪組織または脂肪吸引法により得られた任意の多能性前駆細胞または単分化能性前駆細胞の集団を意味する。この細胞としては、脂肪由来血管間質細胞(=脂肪前駆細胞(preadipocyte)、脂肪由来間質細胞)、脂肪由来幹細胞、脂肪幹細胞、内皮前駆細胞、造血性幹細胞などが挙げられる。このような幹細胞を単離するためのいくつかの技術が、例えば、Nakatsujiら「Kansaibo Kuron Kenkyu Protokoru[Stem Cell/Clone Research Protocol]」、Yodosha(2001);WO00/53795;WO03/022988;WO01/62901に記載されるように知られている。これらの文献は、その関連部分において、参考として本明細書中に援用される。本明細書中において使用される場合、用語「脂肪由来前駆細胞」とは、これらの公知な単離方法により得られた脂肪組織由来幹細胞を含む、全ての脂肪組織由来幹細胞をいう。本明細書中で使用される場合、「前駆細胞」は、多能性未分化細胞だけでなく、単分化能性未分化細胞も含む。本明細書において使用される場合、用語「幹細胞」は、前駆細胞を含む。用語「PLA(吸引脂肪由来細胞)」は、脂肪吸引廃液の脂肪部分(吸引脂肪)から得られる前駆細胞をいう。脂肪吸引廃液の液体部分に由来する前駆細胞は、「吸引廃液細胞」ということができる。脂肪由来前駆細胞は、PLA(吸引脂肪由来細胞)および吸引廃液細胞を含む。
【0027】
本明細書において使用される場合、用語「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の、そのDNAを次世代に直接引き渡さない全ての細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、その細胞が意図される処置を達成し得る限り、天然に存在するものであっても、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「分化細胞」とは、特化された機能または形態を有する細胞(例えば、筋細胞、ニューロンなど)をいう。幹細胞とは異なり、分化細胞は、多能性を全くまたはほとんど有さない。分化細胞の例としては、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、ニューロン、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において使用される分化細胞は、集団の形態であっても、組織の形態であってもよい。
【0029】
細胞の起源は、外胚葉、内胚葉および中胚葉に分類される。外胚葉起源の幹細胞は、主に脳に存在し、これには神経幹細胞が含まれる。内胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、これには血管幹細胞およびその分化細胞、造血幹細胞およびその分化細胞、間葉系幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、これには肝幹細胞およびその分化細胞、膵幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどの胚葉由来であってもよい。好ましくは、間葉系幹細胞が使用され得る。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「間葉系幹細胞」とは、間葉に見出される幹細胞をいう。本明細書では、用語「間葉系幹細胞」は、「MSC」と略され得る。間葉とは、多細胞動物の発生各期に認められる、星状または不規則な突起をもち、上皮組織間の間隙をうめる遊離細胞の集団をいう。間葉はまた、細胞と結合する細胞内接着因子とともに形成された組織をいう。間葉系幹細胞は、増殖能と、骨細胞、軟骨細胞、筋細胞、ストローマ細胞、腱細胞、および脂肪細胞への分化能とを有する。間葉系幹細胞は、患者から採取した骨髄細胞等を培養または増殖、あるいは軟骨細胞または骨芽細胞に分化させるために使用される。間葉系幹細胞はまた、歯槽骨;関節症等の骨、軟骨、または関節などの再建材料として使用されておいる。間葉系幹細胞に対する大きな需要が存在している。また、間葉系幹細胞は、血球、リンパ系細胞へも分化し得る。従って、間葉系幹細胞に対する需要がますます高まっている。
【0031】
語句「脂肪吸引由来物質」とは、脂肪吸引が行われた際に生成する任意の物質をいう。代表的に、このような脂肪吸引由来物質は、脂肪組織および脂肪吸引廃液を含む。
【0032】
語句「脂肪吸引廃液」とは、脂肪吸引が行われる際に生成する液体をいう。このような脂肪吸引廃液は、以下:(1)脂肪吸引時に一緒に吸引された液体(例えば、トゥメセント液および血液を含む)または、(2)吸引脂肪を溶液(例えば、生理食塩水)で洗浄する際に生じた廃液、をいう。
【0033】
本明細書において使用される場合、用語「体細胞」とは、卵子、精子などの生殖細胞以外の、そのDNAを次世代に引き渡さない任意の細胞をいう。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。本明細書において使用される体細胞は、その細胞が意図される処置を達成し得る限り、天然に存在するものであっても、遺伝子改変されたものであってもよい。
【0034】
本明細書において使用される場合、用語「分化(した)細胞」とは、特殊化した機能および形態を有する細胞(例えば、筋細胞、ニューロンなど)をいう。幹細胞とは異なり、分化細胞は、多能性を全くまたはほとんど有さない。分化細胞の例としては、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、ニューロン、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。本発明において用いられる分化細胞は、集団の形態であっても、組織の形態であってもよい。
【0035】
幹細胞の由来は、外胚葉、内胚葉および中胚葉に分類され得る。外胚葉由来の細胞は、主に脳に存在し、神経幹細胞が含まれる。内胚葉由来の細胞は、主に骨髄に存在し、血管幹細胞およびその分化細胞、造血幹細胞およびその分化細胞ならびに間葉系幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。中胚葉由来の細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞およびその分化細胞、膵幹細胞およびその分化細胞などが含まれる。本明細書では、体細胞はどのような胚葉由来でもよい。好ましくは、間葉系幹細胞が使用され得る。
【0036】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪細胞(adipocyte)」とは、組織間に位置されるか、あるいは、疎性結合組織または毛細血管周辺の一群として脂肪組織を形成し、そして大量の脂質を含む細胞をいう。脂肪細胞(Fat Cell)としては、黄色脂肪細胞(yellow adipocyte)または褐色脂肪細胞(brown adipocyte)が挙げられる。これらの細胞は、本明細書中において等価に使用され得る。細胞内の脂肪は、スダンIII(Sudan III)または四酸化オスミウムを用いて容易に検出され得る。
【0037】
本明細書において使用される場合、用語「所望の部位」とは、被検体における任意の部位であって、処置が望まれる部位をいう。本発明において、そのような所望の部位は、被検体の任意の臓器または組織から選択され得ることが理解される。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「組織」とは、多細胞生物において、実質的に同一の機能および/または形態をもつ細胞の集合体をいう。通常「組織」は、同じ起源の細胞の集合体であるが、その細胞が同一の機能および/または形態を有する限り、異なる起源の細胞の集合体であり得る。従って、本発明の幹細胞が組織再生に使用される場合、2以上の異なる起源の細胞の集合体から構成され得る。通常、組織は、臓器の一部を構成する。動物の組織は、形態的、機能的または発生的根拠に基づき、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などに区別される。植物では、構成細胞の発達段階によって分裂組織と永久組織とに大別される。あるいは、組織は、構成細胞の種類によって単一組織と複合組織とに区別され得る。このように組織は、種々の分類に区別される。任意の組織が、本明細書中において処置される標的として意図され得る。
【0039】
任意の臓器が、本発明の標的となり得る。本発明により標的とされる組織または細胞は、任意の臓器由来であり得る。本明細書において、用語「臓器」とは、特定の機能が行われる個体生物の特定の部分に位置する独立的な構造体をいう。多細胞生物(例えば、動物、植物)において、臓器は、特定の様式において空間的に配列された複数の組織からなり、各組織は多数の細胞から構成される。そのような臓器の例としては、血管系に関連する臓器が挙げられる。1つの実施形態において、本発明により対象とされる臓器としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、任意の臓器が標的として使用され得る。好ましくは、間葉系の組織(例えば、脂肪、骨、靭帯など)が標的とされ得るが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書において使用される場合、用語「分化に十分な条件」は、分化が生じるような時間、培地、温度、湿度などをいう。脂肪吸引廃液由来の幹細胞から分化細胞を調製する方法としては、(1)培地中に分化誘導剤を添加する方法、および(2)所望の部位に対応する分化細胞とともに培養する方法が挙げられる。
【0041】
培地中に分化誘導剤(例えば、デキサメサゾン(dexamethasone)など)を添加する方法は、慣習的に知られている分化誘導剤(例えば、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート(glycerophosphate)、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、αFGF、βFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFなどの増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウム)を、幹細胞の培養培地に添加する方法を含む。
【0042】
上記方法(2)における、幹細胞を所望の部位に対応する分化細胞とともに培養する方法については、本明細書の開示に従って、脂肪吸引廃液由来の幹細胞と分化細胞とを混合すれば、その分化細胞へ分化することになる。本明細書に従うと、このような条件は、脂肪吸引廃液由来の幹細胞または分化細胞を単独で維持するような条件と重複することが理解される。従って、そのような条件は、適切に変更され得る。好ましくは、この条件は、本発明の脂肪由来前駆細胞と、組み合わされる分化細胞およびその混合物における組成に応じて変更するとよい。いったんそのような好ましい条件が設定されると、以後、そのような条件は、同様の混合物の処理のために用いられ得る。本発明において、分化のためのこのような条件は、インビトロで使用されても、あってもインビボで使用されても、エキソビボで使用されてよい。インビボの場合は、移植された体内の部分における条件がそのまま適用される。本発明では、幹細胞と分化細胞とを混合した後すぐに、その混合物は、インビボの環境に移植されても、インビトロで培養されてもよい。自家移植は、エキソビボと呼ばれ得る。
【0043】
本明細書において使用される場合、用語「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「インビボ」は、目的とする組織または器官が配置される位置(例えば、本明細書で使用される所望の部位)をいう。
【0044】
本明細書において使用される場合、用語「インビトロ」(in vitro)とは、種々の研究目的のために、生体の一部分が生体外に(例えば、試験管内に)摘出または遊離されていることをいう。用語「インビトロ」は、用語「インビボ」と対照をなす。
【0045】
本明細書において「エキソビボ」(ex vivo)とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0046】
そのような分化に十分な条件の例は、それぞれ独立して以下:5時間以上の培養、pH5〜10、20℃〜45℃の温度(例えば、37℃)、80%以上の湿度(例えば、100%)、M199培地の使用、ヘパリン5mg/500mlの添加、酸性FGF2μg/500mlの添加、FBS(15%)の添加、NaHCOの添加、酸素濃度10〜ら30%(例えば、20%)、CO濃度2〜10%(例えば、5%)、ゼラチンコートディッシュの使用、フィーダー細胞の存在などから選択されるが、これらに限定されない。一例として、条件は以下:5時間以上の培養、M199培地(500mlに、NaHCOを2.2g、FBS(15%)、酸性FGF 2μg、ヘパリン5mgを加える)にて37度、酸素20%、炭酸ガス5%、湿度100%、ゼラチンコートディッシュにおける培養であるが、本発明はこれに限定されない。
【0047】
上記の条件は、分化細胞(例えば、脂肪細胞)および脂肪細胞由来幹細胞を維持するための条件に使用され得るが、本発明はこれに限定されない。
【0048】
脂肪細胞由来幹細胞の分化のために、分化細胞への分化を促進する因子を含む任意の培養媒体が、培養のために使用され得る。そのような媒体としては、例えば、10%FBS、0.5mMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、1μMデキサメタゾン、10μMインスリンおよび200μMインドメタシンを加えたDMEMが挙げられるが、それらに限定されない。この媒体は、37℃、酸素20%、炭酸ガス5%および湿度100%にて使用され得る。
【0049】
本明細書において「分化細胞への分化を促進する因子」または「分化促進因子」とは、分化細胞への分化を促進することが知られている任意の因子(例えば、化学物質、温度など)をいう。そのような因子の例としては、種々の環境因子(例えば、温度、湿度、pH、塩濃度、栄養、金属、ガス、有機溶媒、圧力、化学物質(例えば、ステロイド、抗生物質など)など)またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。そのような因子の代表例としては、DNA脱メチル化剤(例えば、5−アザシチジンなど)、ヒストン脱アセチル化剤(例えば、トリコスタチンなど)、細胞内レセプターリガンド(例えば、レチノイン酸(ATRA)、ビタミンD3、T3など)、細胞増殖因子(アクチビン、IGF−1、FGF,PDGF、TGF−β、BMP2/4など)、サイトカイン(例えば、LIF、IL−2、IL−6など)、ヘキサメチレンビスアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ジブチルcAMP、ジメチオルスルホキシド、ヨードデオキシウリジン、ヒドロキシル尿素、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、酪酸ナトリウム、アフィディコリン、フルオロデオキシウリジン、ポリブレン、セレンなどが挙げられるがそれらに限定されない。しかし従来は、分化促進因子として分化細胞が使用され得ることは、想定されていなかった。なぜなら、分化細胞は、分化を抑制するような因子を放出すると考えられていたからである。
【0050】
本明細書において使用される場合、細胞、組織、臓器などに関連する用語「所望の部位に対応する」とは、本発明における移植または再生などを目的とするときの、目的とする部位から取得したか(例えば、心臓であれば、心臓由来の細胞)または目的とする部位に存在する細胞などと実質的に同じ性質を有する細胞など(例えば、心臓細胞へと分化させた細胞)を示す。従って、所望の部位に対応する細胞は、実質的に同一の特徴(例えば、細胞表面マーカーなど)を有することによって確認することができる。
【0051】
そのような所望の部位に対応する細胞を判別するために有用なマーカーの例としては、(1)脂肪:細胞質内におけるトリグリセリドの存在、OilRed−O染色、グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ(Glycerophosphate dehydrogenase=GPDH)活性、細胞質内のGLUT4 、Ap2(脂肪酸結合タンパク質)、LPL(リポタンパク質リパーゼ)、PPARγ1,2(ペルオキシソーム増殖活性化レセプターγ1,2)、およびレプチン(Leptin)の発現;(2)骨細胞、骨組織:アルカリホスファターゼの存在、ある程度の骨石灰化(カルシウムの沈着)の確認;およびオステオカルシン(Osteocalcin)、オステオポンチン(Osteopontin)、またはオステオネクチン(Osteonectin)の発現;(3)軟骨細胞、軟骨組織:ムコ多糖の存在、II型コラーゲン、コンドロイチン−4−サルフェート(chondroitin−4−sulfate)の発現/存在;(4)骨格筋細胞:細胞質内のミオシンの豊富な存在;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書において使用される場合、用語「移植(implantation)」および「移植(transplantation)」とは、本明細書中で互換的に使用され、本発明の細胞、組成物、医薬などを、単独で、または他の治療剤と組み合わせて、体内に移入することを意味する。本明細書において「移植片」とは、体内に移入される本発明の組織片、細胞、組成物、医薬などを意味する。本発明において、治療部位(例えば、骨など)への導入のための以下の方法、形態および量が使用され得:本発明の医薬は、損傷部位へ直接注入、貼付後および縫合、挿入などされる。本発明の脂肪由来前駆細胞と分化細胞との組み合わせは、同時に(例えば、混合物として同時に、別々であるが同時にもしくは並行して);または逐次的にかのいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療混合物として一緒に投与される提示を含み、そして組み合わせた薬剤が、別々であるが同時に(例えば、分化促進因子)投与される手順もまた含む。「組み合わせ」投与は、第1に与えられ、続いて第2に与えられる化合物または薬剤のうちの1つを別々に投与することをさらに含む。
【0053】
本明細書において使用される場合、用語「自家」または「自己」とは、ある個体に関連して、その同じ個体に由来する全体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。本明細書において使用される場合、用語「自家」または「「自己」は、広義には遺伝的に同一の個体(例えば一卵性双生児)からの移植片を包含し得る。
【0054】
本明細書において使用される場合、用語「同種異系」とは、同種であっても遺伝的には異なる別の個体から移植される実体の全体またはその一部(例えば、細胞、組織、臓器など)をいう。同種異系の個体は遺伝的に異なることから、この同種異系の個体は、その異系個体が移植された個体(レシピエント)において免疫反応を惹起し得る。そのような細胞の例としては、個体の親由来の細胞が挙げられるが、これに限定されない。
【0055】
本明細書において使用される場合、用語「異種」とは、異種個体から移植されるものをいう。従って、例えば、ヒトがレシピエントである場合、ブタ由来移植物は異種移植物と呼ばれる。
【0056】
本明細書において使用される場合、用語「レシピエント」(受容者)とは、移植される細胞などを受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植される細胞などを提供する個体は、「ドナー」(供与者)と呼ばれる。レシピエントとドナーとは同じであっても異なっていてもよい。
【0057】
本発明において使用される細胞は、自系由来(自己由来)でも、同種異系由来(非自己由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応の観点から、自己由来の細胞が好ましい。拒絶反応が問題でない場合、同種異系細胞が使用され得る。
【0058】
本明細書において使用される場合、用語「分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態」とは、分化細胞が関与する任意の疾患、障害または異常状態をいう。このような分化細胞としては、好ましくは、間葉系細胞であることが好ましいが、これに限定されない。
【0059】
1つの実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、循環器系(血液細胞など)のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、貧血(例えば、再生不良性貧血(特に重症再生不良性貧血)、腎性貧血、癌性貧血、二次性貧血、不応性貧血など)、癌または腫瘍(例えば、白血病)およびそれらの化学療法処置後の造血不全、血小板減少症、急性骨髄性白血病(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期およびそれ以降)、急性リンパ性白血病(特に、第1寛解期、第2寛解期およびそれ以降)、慢性骨髄性白血病(特に、慢性期、移行期)、悪性リンパ腫(特に、第1寛解期(High−risk群)、第2寛解期およびそれ以降)、多発性骨髄腫(特に、発症後早期)など;心不全、狭心症、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心筋/心膜疾患、先天性心疾患(例えば、心房中隔欠損、動脈管開存、ファロー四徴など)、動脈疾患(例えば、動脈硬化、動脈瘤)、静脈疾患(例えば、静脈瘤)、リンパ管疾患(例えば、リンパ浮腫)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、神経系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、痴呆症、脳卒中およびその後遺症、脳腫瘍、脊髄損傷が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、免疫系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、T細胞欠損症、白血病などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、運動器および骨格系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、骨折、骨粗鬆症、関節の脱臼、亜脱臼、捻挫、靱帯損傷、変形性関節症、骨肉腫、ユーイング肉腫、筋ジストロフィー、骨形成不全症、骨軟骨異形成症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、皮膚系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、無毛症、黒色腫、皮膚悪性リンパ腫、血管肉腫、組織球症、水疱症、膿疱症、皮膚炎、湿疹などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、内分泌系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、視床下部/下垂体疾患、甲状腺疾患、副甲状腺(上皮小体)疾患、副腎皮質/髄質疾患、糖代謝異常、脂質代謝異常、タンパク質代謝異常、核酸代謝異常、先天性代謝異常(フェニールケトン尿症、ガラクトース血症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症)、無アルブミン血症、アスコルビン酸合成能欠如、高ビリルビン血症、高ビリルビン尿症、カリクレイン欠損、肥満細胞欠損、尿崩症、バソプレッシン分泌異常、侏儒症、ウオルマン病(酸リパーゼ(Acid lipase)欠損症)、ムコ多糖症VI型などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、呼吸器系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、肺疾患(例えば、肺炎、肺癌など)、気管支疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、消化器系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、食道疾患(例えば、食道癌など)、胃/十二指腸疾患(例えば、胃癌、十二指腸癌など)、小腸疾患/大腸疾患(例えば、結腸ポリープ、結腸癌、直腸癌など)、胆道疾患、肝臓疾患(例えば、肝硬変、肝炎(A型、B型、C型、D型、E型など)、劇症肝炎、慢性肝炎、原発性肝癌、アルコール性肝障害、薬物性肝障害など)、膵臓疾患(急性膵炎、慢性膵炎、膵臓癌、嚢胞性膵疾患など)、腹膜/腹壁/横隔膜疾患(ヘルニアなど)、ヒルシュスプラング病などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、泌尿器系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、腎疾患(例えば、腎不全、原発性糸球体疾患、腎血管障害、尿細管機能異常、間質性腎疾患、全身性疾患による腎障害、腎臓癌など)、膀胱疾患(例えば、膀胱炎、膀胱癌など)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
別の実施形態において、本発明が対象とする疾患および障害は、生殖器系のものであり得る。そのような疾患または障害の例としては、男性生殖器疾患(例えば、男性不妊、前立腺肥大症、前立腺癌、精巣癌など)、女性生殖器疾患(例えば、女性不妊、卵巣機能障害、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮癌、子宮内膜症、卵巣癌、絨毛性疾患など)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
本明細書において使用される場合、「診断、予防、処置または予後のために有効な量」とは、それぞれ、診断、予防、処置(または治療)または予後において、医療上有効であると認められる程度の量をいう。このような量は、当該分野において周知の技術を用いて種々のパラメータを参酌することにより、当業者により決定され得る。
【0070】
別の実施形態において、本発明は、美容目的の治療、処置または改善において使用され得る。そのような美容目的は、純粋に健常状態への美容目的と同様に、手術後または外傷後の変形および先天性の変形に対する美容治療も含まれる。本発明は例えば、乳房の組織増大術(豊胸術)、頬や上下眼瞼の陥凹に対する組織増大術、および顔面半側萎縮症、顔面神経麻痺後の組織萎縮、漏斗胸などへの組織増大術に適用され得るが、これらに限定されない。さらに本発明は、鼻形成術、整鼻術、オトガイ形成術(組織増大術)、前額形成術(組織増大術)、小耳症など耳介変形/奇形に対する耳介軟骨形成術へ適用され得るが、これらに限定されない。
【0071】
本発明が医薬として使用される場合、その医薬は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに含み得る。当該分野において公知な任意の薬学的に受容可能なキャリアが、本発明の医薬において使用され得る。
【0072】
薬学的に受容可能なキャリアまたは適切な処方材料としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、および/または薬学的アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、本発明の細胞および他の活性成分を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般に使用される他の物質を補充することが可能である。
【0073】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、好ましくはレシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして好ましくは、リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
適切なキャリアの例としては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤が、所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0〜8.5のTris緩衝剤またはpH4.0〜5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらはさらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0075】
本発明の医薬組成物の一般的な調製法を以下に記載する。動物薬組成物、医薬部外品、水産薬組成物、食品組成物および化粧品組成物なども、公知の技術により製造することができる。
【0076】
本発明の細胞などは、必要に応じて薬学的に受容可能なキャリアと配合され、注射剤、懸濁剤、溶液剤、スプレー剤等の液状製剤として非経口的に投与され得る。薬学的に受容可能なキャリアの例としては、賦形剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、崩壊インヒビター、吸収促進剤、吸収剤、保湿剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物も、必要に応じて使用され得る。本発明の組成物は、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチドなど以外の物質を配合され得る。非経口の投与経路の例としては、静脈内、筋肉内、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、局所投与、経皮投与などが挙げられるが、これらに限定されない。全身投与される場合、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当該技術の範囲内である。
【0077】
液状製剤における溶剤の好ましい例としては、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油およびトウモロコシ油などが挙げられる。
【0078】
液状製剤における溶解補助剤の好ましい例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
液状製剤における懸濁化剤の好ましい例としては、界面活性剤(例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなど)、親水性高分子(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
液状製剤における等張化剤の好ましい例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
液状製剤における緩衝剤の好ましい例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩およびクエン酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
液状製剤における無痛化剤の好ましい例としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウムおよび塩酸プロカインなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
液状製剤における防腐剤の好ましい例としては、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
液状製剤における抗酸化剤の好ましい例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α−トコフェロールおよびシステインなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
液剤および懸濁剤が注射剤として調製される場合、それらは殺菌され、かつ好ましくは他の目的のための注射部位における血液または媒体と等張である。代表的に、これらの薬剤は、バクテリア保留フィルターなどを用いる濾過、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらの処理後、これらの薬剤は凍結乾燥などにより固形物とされ得る。使用直前に、無菌水または無菌の注射用希釈剤(塩酸リドカイン水溶液、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノールまたはこれらの混合溶液など)が添加され得る。
【0086】
本発明の医薬組成物は、着色料、保存剤、香料、矯味矯臭剤、甘味料等、ならびに他の薬剤をさらに含み得る。
【0087】
本発明の処置方法において使用される組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者により容易に決定され得る。本発明の処置方法を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者により容易に決定され得る。頻度の例としては、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)が挙げられる。好ましくは、投与は、経過を見ながら1週間〜1ヶ月に1回施される。投薬量は、処置される部位が必要とする量を見積もることによって、確定され得る。
【0088】
本明細書において使用される場合、用語「指示書」は、医薬を投与する方法または診断のための方法などを、医師、患者など投与を行う人または投与される人、診断する人(例えば、医師、患者など)または診断される人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の診断薬、医薬などを投与するための適切な方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供される。この指示書は、これに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供される電子媒体(例えば、ウェブサイト)、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0089】
本発明の方法による治療の終了の判断は、商業的に利用可能なアッセイもしくは機器を使用する標準的な臨床検査の結果または意図される処置に関連する疾患(例えば、骨疾患、心臓疾患、神経疾患など)に特徴的な臨床症状の消滅あるいは美容状態の回復(例えば、外見の回復など)によって支持され得る。治療は、分化細胞の欠損などに関連する疾患(例えば、神経疾患)の再発または美容状態の損傷により再開され得る。
【0090】
本発明はまた、1つ以上の医薬組成物を満たした1つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に任意に付属され得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。このキットは、注射用デバイスを備え得る。
【0091】
毒性研究が、種々の動物モデル(例えば、マウス、ウサギ、または非げっ歯類)を用いて行われ得る。これらの動物モデルにおいて、一般状態、体重、摂餌量、飲水量などの観察、ならびに、血液検査、血液化学的検査、尿検査、および眼科学的検査などの検査が行われる。各種検査は、当該分野において周知であり、例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
血液学的検査:赤血球数、白血球数、血小板数、血色素量、ヘマトクリット、血液像(白血球型別百分率)、その他網赤血球数、プロトロンビン時間、活性化部分トロンボプラスチン時間、などの測定が行われる。例えば、血液細胞組成物は、以下のように測定される:(1)薬剤がマウスに投与される(未処置のコントロールマウスもまた、測定されるべきである);(2)各々の処置群中の1匹のマウスから尾静脈を介して血液サンプルを周期的に得る;そして(3)上記サンプルを、赤血球数および白血球数、血液細胞組成物ならびにリンパ球と多形核細胞との割合について分析する。各々の投薬レジメンおよびコントロールは、毒性が存在するか否かを示す。
【0093】
血液化学的検査:血清(血漿)タンパク、アルブミン、A/C比、タンパク分画、ブドウ糖、コレステロール、トリグリセリド、ビリルビン、尿素窒素、クレアチニン、トランスアミナーゼ(ASAT(GOT)、ALAT(GPT))、アルカリホスファターゼ、電解質(ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、無機リンなど)の測定。
【0094】
尿検査:尿量、pH、タンパク、糖、ケトン体、ビリルビン、潜血、沈渣、比重又は浸透圧、電解質(ナトリウム,カリウムなど)の測定。
【0095】
眼科学的検査:肉眼および検眼鏡を使用し、前眼部、中間透光体、眼底を分析する。
【0096】
各々の毒性研究の終了の際に、動物を屠殺することによって、さらなる研究が行われ得る(好ましくは、American Veterinary Medical Association guidelines Report of the American Veterinary Medical Assoc.Panel on Euthanasia,(1993)J.Am.Vet.Med.Assoc.202:229−249に従う)。次いで、各処置群からの代表的な動物が、転移、異常疾患または毒性の直接的な証拠のために、全体的な検屍によって試験され得る。組織における全体の異常が記載され、その組織が組織学的に試験される。体重の減少または血液成分の減少を引き起こす医薬は、主要な器官に対する有害作用を有する医薬と同様に好ましくない。一般的に、有害作用が大きいほど、その医薬は好ましくない。
【0097】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態が説明される。以下の実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。本明細書中を参酌して、本発明の範囲を逸脱することなく、変更および修正を行い得ることが、当業者に明らかに理解される。
【0098】
(脂肪吸引廃液からの幹細胞の調製方法)
本発明の1つの局面において、本発明は、脂肪吸引廃液から幹細胞を調製するための方法を提供し、この方法は、A)脂肪吸引廃液を得る工程;B)その脂肪吸引廃液を遠心分離して細胞画分を得る工程;C)その細胞画分を比重による遠心分離(例えば、密度勾配遠心分離)にかける工程;および、D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程、を包含する。本方法において使用される脂肪吸引廃液としては、脂肪吸引時に一緒に吸引された液体(例えば、トゥメセント液および血液が挙げられるが、これらに限定されない)または、吸引脂肪を液体で洗浄する際に生じた廃液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
脂肪由来前駆細胞は、例えば、WO00/53795;WO03/022988;WO01/62901;Zuk,P.A.et al.,Tissue Engineering,Vol.7,211−228,2001;Zuk.P.A.,et al.,Molecular Biology of the Cell,Vol.13,4279−4295,2002;またはこれらの改変したものなどのように、脂肪吸引廃液の脂肪部分(吸引脂肪)から単離され得る。具体的には、例えば、(1)吸引された脂肪を、1リットルの分液漏斗を使用して生理食塩水でよく洗浄する;(2)下層の生理食塩水から上層の吸引脂肪が十分に分離されたことを確認し、その下層を捨てる。この手順は、その生理食塩水が肉眼で見たときに実質的に透明になるまで繰り返される;(3)0.075%のコラゲナーゼ/PBSを、吸引された脂肪の量と等量添加し、続いてよく攪拌しながら37℃にて30分間インキュベートする;(4)等量の10%血清補充DMEMを、上記のサンプルに添加する;(5)このサンプルを、1200×gにて10分間遠心分離する;(6)生じるペレットを、0.16MのNHCl/PBSに懸濁し、続いて室温にて10分間インキュベートする;(7)このサンプルを、100μm直径メッシュを使用して吸引濾過する;そして(8)生じる濾液を、1200×gにて5分間遠心分離する。上記プロトコールは、製剤の量に依存して、当業者によりスケールアップまたはスケールダウンされ得る。
【0100】
他方、脂肪由来前駆細胞は、脂肪吸引廃液の液体部分(脂肪吸引液)から、例えば以下のように単離され得る:(1)脂肪吸引廃液の液体部分を調製する;(2)その液体部分を遠心分離し、細胞画分を得る;(3)その細胞画分を密度勾配遠心分離し、比重に基づいて細胞の分離を行う;そして(4)赤血球よりも比重の軽い細胞層から細胞を回収する。吸引液の液体部分は、生理食塩水またはリンゲル注射液を使用して調製され得る。この遠心分離は、約800×g以下、あるいは約400×g以上の速度にて行われ得る。その密度勾配遠心分離は、約370×g〜1,100×gの速度にて行われる。この密度勾配遠心分離は、約1.076g/ml〜1.078g/mlの比重(20℃)を有する媒体を使用して行われる。この密度勾配遠心分離法において使用される媒体は、FicollTM、PercollTMまたはスクロースであり得る。回収される細胞層の比重は、約1.050〜1.075の範囲であり得る。この細胞層は、ピペットを使用して収集され得る。
【0101】
脂肪吸引方法は、当業者に周知である技術を用いて、実施することができる。脂肪吸引方法に用いられる装置としては、ケイセイ脱脂吸引機サルポンプSAL 76−A(ケイセイ医科工業(株)、東京都文京区本郷3−19−6)が挙げられるが、これらに限定されない。例えばヒトの場合、0.0001%アドレナリン入り生理食塩水などの液体を、予定吸引脂肪量の等量から2倍量、脂肪組織内に注入し、その後、内径2〜3mmのカニューレ(金属製吸引管)を用いて、−250〜900mmHg程度の陰圧で吸引することによって行う。
【0102】
吸引した脂肪細胞を洗浄するために使用される液体として通常は、生理食塩水が用いられる。しかし、生理食塩水以外にも、単離すべき幹細胞に悪影響を与えない液体であれば、任意の液体が使用可能である。具体的には、例えば、リンゲル液、および哺乳動物培養培地(例えば、DMEM、MEM、M199、およびMCDB153など)のような、任意の等張液が、本発明において使用可能である。
【0103】
脂肪吸引廃液から幹細胞を調製する場合、必要に応じて、脂肪吸引廃液にコラゲナーゼなどの酵素処理を行なうことが可能である。しかし、脂肪吸引廃液中に含まれるコラーゲンの量は、脂肪組織と比較して相対的に少ないため、幹細胞調製の原料として脂肪吸引廃液を用いる場合、コラゲナーゼ処理に必要とされる時間、および/または酵素処理に必要とされる酵素量が、脂肪組織の場合よりも、相対的に低い。
【0104】
脂肪吸引廃液を遠心分離して細胞画分を得る工程においては、細胞画分と、その他の成分(例えば、血漿、手術時に注入した生理食塩水、麻酔薬、止血薬、破壊された脂肪細胞から漏出した脂質成分)とを分離する任意の条件を用いることができる。例えば、400〜800×gでの5〜15分程度の遠心分離を用いることが可能である。
【0105】
比重による遠心分離により細胞を単離する工程においては、例えば単離された細胞画分を、密度勾配遠心分離にかけることができる。任意の密度勾配遠心分離のために使用可能な媒体が、この媒体として使用され得る。好ましい媒体は、1.076〜1.078g/mlの比重を有し得る。さらに、好ましい媒体のpHは、4.5と7.5との間である。媒体中の好ましいエンドトキシンレベルは、0.12EU/ml以下である。代表的な媒体としては、スクロース、フィコール(スクロースとエピクロロヒドリンとの共重合物)、およびパーコール(ポリビニルピロリドンの被膜を有するコロイド状シリカ製品)が挙げられる。フィコールは、例えば、Ficoll−Paque PLUS(ファルマシアバイオテク株式会社、東京)、Histopaque−1077(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、東京)などの名称で市販されている。パーコールは、Percoll(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社、東京)という名称で市販されている。
【0106】
比重による遠心分離の条件は、Ficoll−Paque PLUSを媒体として用いる場合、400×g、30〜40分が用いられ、Histopaque−1077を媒体として用いる場合、370cg、約30分が用いられる。リンフォプレップを媒体として用いる場合、条件としては800×g、約20分または1100×g、約10分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
比重による遠心分離が用いられるときに、最も多い細胞は、通常赤血球細胞であり、赤色の細胞層として確認することができる。幹細胞は、赤血球よりも比重が軽いため、幹細胞を分離する場合には、赤血球よりも軽い細胞層を収集する。好ましくは、比重1.050〜1.075の範囲の細胞層を収集する。
【0108】
おおまかな細胞の比重は、パーコール、レディグラッドのような密度勾配遠心分離媒体を塩化ナトリウム溶液やスクロース溶液で調製し、収集した細胞と共にデンシティーマーカービーズ(density marker beads)を加えて遠心し、ビーズによって分けられた5〜10層のうち、どの層に細胞があるかを確認することで、試験され得る。
【0109】
さらに、層に分離した細胞の回収は、例えば、ピペットを用いて行なうことができる。
【0110】
比重による遠心分離においては、セルセパレーター(例えば、血液成分分離装置ASTEC204、(株)アムコ)を使用することが可能である。
【0111】
本発明の別の局面において、本発明の幹細胞を調製する方法は、以下:A)脂肪吸引由来物質を得る工程;およびB)この脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得る工程、を包含する。この方法はさらに、この細胞画分を濾過し、幹細胞を得る工程を包含し得る。本発明の方法はさらに、その物質を、少なくとも一部の細胞がその物質から分離される条件に供する工程を包含する。
【0112】
脂肪吸引由来物質は、脂肪吸引術が行われた際に得られる任意の物質である。このような物質は、脂肪、脂肪細胞、液体、コラーゲンなどの細胞外マトリクスなどを含む。本発明において、脂肪吸引廃液に加えて、このような脂肪吸引由来物質も一般に豊富な幹細胞または前駆細胞を含むことが見出されている。従って、概して、脂肪吸引由来物質は、幹細胞を調製するための優良な供給源である。このような効果は、当該分野において予想されていなかった。
【0113】
脂肪組織が細胞から分離される条件は、脂肪組織が細胞から分離され、かつ細胞の単離を促進する条件であり得る。このような条件としては、例えば、Wakoより入手可能なコラゲナーゼ(細胞分散のためのコラゲナーゼ、032−10534)を添加するような、細胞外マトリクスの分解が挙げられるが、これに限定されない。このようなコラゲナーゼは、濃度0.075%にてPBS中に溶解し、この溶液を37℃まで温めて脂肪と等量を添加する。そのサンプルを37℃にて80rpmで30分間攪拌するために、アジテーターが使用される。
【0114】
本発明において使用される遠心分離工程において、本発明はさらに、上清を収集して細胞層を得る工程を包含する。
【0115】
好ましくは、本発明の方法は、残っている脂肪集団を除去するために、工程B)において上清を除去する工程、または工程B)由来の物質を濾過する工程をさらに包含する。目詰まりしなければ、任意の濾過がこの目的のために使用され得る。
【0116】
好ましくは、本発明の方法は、高度の幹細胞純度を達成するために、血球細胞を除去する工程をさらに包含する。しかし、このような血球細胞は、続いてディッシュ上で培養し、この細胞集団を継代し、80%を超える(好ましくは、90%を超える)幹細胞を生じさせることにより除去され得る。これもまた、先行技術からは予想されていなかった驚くべき効果である。このような血球細胞は、血球細胞を分解する成分を添加する工程を包含する血球除去工程により、除去され得る。
【0117】
本発明の好ましい実施形態において、本発明は幹細胞を調製する方法を提供し、この方法は、i)脂肪吸引由来物質を得る工程;ii)この物質を、好ましくは脂肪組織を単離せずに脂肪組織が細胞から分離される条件に供する工程;iii)この物質を遠心分離にかける工程;iv)この物質に、血球細胞を分解する成分を添加し、この物質を攪拌する工程;v)この物質を遠心分離にかけ、ペレットを得る工程;vi)そのペレットから、この物質の上清を吸引する工程を包含する。
【0118】
本発明において用いられる脂肪吸引由来物質は、通常脂肪吸引廃液および脂肪を含むが、本発明に従って処理される場合は、この物質は廃液において見られる幹細胞よりも非常に多い幹細胞を含む。
【0119】
好ましくは、上記工程ii)における条件は、コラゲナーゼを添加することを包む。
【0120】
好ましくは、本発明の方法はさらに、上記物質を、脂肪吸引廃液を維持することを含む条件に供する工程を包含し得る。
【0121】
好ましくは、本発明において使用される脂肪吸引由来物質は、脂肪吸引廃液および脂肪をさらに含む。
【0122】
別の実施形態において、上記工程iii)における遠心分離は、400〜1200×gで行われる。通常400×gまたは800×gが用いられる。
【0123】
別の実施形態において、上記血球細胞分解成分は、塩化アンモニウムおよび炭酸水素カリウムを含む。
【0124】
別の実施形態において、上記塩化アンモニウムは、100mM〜200mM(好ましくは、約155mM)にて、その成分に含まれる。別の実施形態において、上記炭酸水素カリウムは、5mM〜20mM(好ましくは、約10mM)にて、その成分に含まれる。好ましくは、この2つの組み合わせが有利に使用される。
【0125】
別の実施形態において、上記工程v)における遠心分離は、400〜1200×gにて行われる。
【0126】
本発明により得られるペレットは、多数の幹細胞または前駆細胞を含む。これらの細胞は、多数の分化細胞(例えば、骨、軟骨、脂肪など)への分化能を有することが実証されている。
【0127】
本発明において、赤血球は除去されることが好ましいが、この除去は必ずしも必須であるとは限らない。なぜなら、このような除去工程なしで調製された本発明の幹細胞も、有意な分化活性および増殖活性を示すからである。
【0128】
このように収集された細胞を培養する培地としては、例えば、DMEM、M199、MEM、HBSS、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい倍地としては、DMEM、およびM199が挙げられる。
【0129】
収集された細胞は、ヘテロな細胞の集団であり、CD13、CD29、CD44、CD49d、CD71、CD73、CD90、CD105、CD151を発現する幹細胞を含み、さらにCD31、CD34のどちらか、もしくは両方を発現する幹細胞を含む。
【0130】
本発明の1つの局面において、収集された細胞を、各種条件で培養することによって、例えば、血管内皮細胞、神経細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞、靭帯細胞、およびストロマ細胞などを得ることが可能である。
【0131】
このような条件は当該分野において公知であり、その条件としては、以下が挙げられる:
得られた細胞を、DMEM培地に1.8×10細胞の濃度にて、60mm皿上に播種する。
【0132】
1週間から2週間培養すると、細胞はコンフルエントに近い(subconfluent)状態になり、その後この細胞を脂肪分化誘導培地、軟骨分化誘導培地または骨分化誘導培地に供し、約2〜4週間培養を続ける。
【0133】
脂肪生成性(adipogenic)培地の例は、10%FBSを含むDMEMに、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、10μMインスリン、200μMインドメタシン、および1%AMAMを添加した培地であり得る。
【0134】
骨生成性培地の例は、10%FBSおよび5%ウマ血清を含むDMEMに、1μMデキサメタゾン、50μMアスコルベート−2−ホスフェート、10mM β−グリセロホスフェート、および1%ABAMを添加した培地であり得る。
【0135】
軟骨形成性培地の例は、1%FBSを含むDMEMに、6.25μg/mlインスリン、6.25μg/mlトランスフェリン、10ng/ml TGF β1、50nMアスコルベート−2−ホスフェート、および1%ABAMを添加した培地であり得る。ABAM抗菌−抗真菌溶液は、Gibco(ABAM;カタログ番号600−5240)より入手可能である。
【0136】
誘導後の評価は、脂肪細胞についてはオイルレッドO染色を、軟骨細胞についてはアルシアンブルー染色を、そして骨細胞についてはvon Kossa染色を使用して行われた。
【0137】
さらに、本発明において、以下の方法を用いて、収集された細胞群から、血管内皮前駆細胞を分離、回収することが可能である。
【0138】
例えば、得られた細胞群を、血管内皮細胞用培地を用いて1%ゼラチンコート培養皿にて4〜5日培養する。この培養後、0.25%トリプシンで培養皿から剥がして、anti−PECAM−1ビーズと反応させて、抗体と反応した細胞のみをMACS(磁気細胞分離システム)もしくはFACS(フローサイトメトリー)を用いて分離する。分離した細胞を、再度、血管内皮細胞用培地を用いて1%ゼラチンコート培養皿にて培養する。混在する繊維芽細胞などを除外するため、血管内皮細胞の方が他の細胞よりも剥がれやすい性質を利用して、0.25%トリプシンを30〜40秒ほど細胞と反応させて剥がれた細胞のみを回収し、そして別の培養皿で培養することにより、血管内皮前駆細胞に分化した細胞を単離することが可能である。(例えば、Hutley LJ, et al: Human adipose tissue endothelial cells promote preadipocyte proliferation. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 2001 Nov;281(5):E1037−44を参照のこと)。
【0139】
本発明のさらなる局面において、本発明は、幹細胞を調製するためのシステムであって:A)脂肪吸引廃液を得るための手段;B)脂肪吸引廃液を遠心分離して細胞画分を得る手段;および、C)細胞画分を比重による分離(例えば、密度勾配遠心分離)にかけて細胞分離を行う手段;を含むシステムを提供する。このシステムによって、簡便かつ大量に幹細胞を、自動的に調製することが可能となる。
【0140】
異なる局面において、本発明は、幹細胞を調製するためのシステムであって:A)脂肪吸引由来物質を得るための手段;およびB)その脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得るための手段;を含むシステムを提供する。
【0141】
なお別の局面において、本発明は、幹細胞を調製するためのシステムであって:i)脂肪吸引由来物質を得るための手段;ii)この物質を、好ましくは脂肪組織を単離することなく、この物質から少なくとも一部の細胞が分離される条件へ供するための手段;iii)この物質を遠心分離にかけるための手段;iv)血球分解成分をこの物質に添加し、この物質を攪拌するための手段;v)この物質を遠心分離にかけ、ペレットを得るための手段;およびvi)このペレットからその物質の上清を吸引するための手段;を含むシステムを提供する。
【0142】
脂肪吸引廃液を得るための手段としては、減圧によって生体内から脂肪を吸引する手段が挙げられる。例えば、そのような手段としては、脂肪吸引手術(手動の陰圧注射器を用いる脂肪吸引手術、および電動の脂肪吸引器を用いる脂肪吸引手術など)、ならびに皮膚を切開することによる除脂術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0143】
脂肪吸引廃液を遠心分離して細胞画分を得る手段、および細胞画分を比重による細胞分離(例えば、密度勾配遠心分離)にかけ、細胞を分離する手段としては、遠心分離装置が挙げられる。脂肪吸引廃液を遠心分離して細胞画分を得る場合、その条件としては、200〜1200×g、30〜60分間の遠心分離が挙げられ、好ましくは260〜900×g、3〜30分間の遠心分離、より好ましくは400〜800×g、3〜15分間の遠心分離、最も好ましくは400g、5〜10分間の遠心分離を行う。また、フィコールを用いて、細胞画分を密度勾配遠心分離にかけて比重による細胞分離を行う場合、その条件としては、200〜1200×g、10〜60分間の遠心分離が挙げられ、好ましくは260〜900×g、10〜60分間の遠心分離、より好ましくは400〜800×g、10〜40分間の遠心分離、最も好ましくは400×g、30〜40分間の遠心分離を行う。また、さらに本発明のシステムは、必要に応じて、特定の比重の細胞層を収集する手段を備える。好ましくは、収集される細胞層は、赤血球よりも比重が軽い細胞層である。そのような手段としては、手動ピペッター、手動アスピレーター、自動ピペッター、および自動アスピレーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
本発明の幹細胞を用いて、種々の分化細胞および/または前駆細胞を得ることができる。具体的な手順は、以下に説明される。
【0145】
(分化細胞を調製するための方法)
1つの局面において、本発明は、幹細胞から分化細胞を調製するための方法を提供する。幹細胞から得られる分化細胞としては、最終的に分化した細胞のみならず、前駆細胞も含まれる。
【0146】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞から分化細胞を調製する方法としては、(1)培養培地中に分化誘導剤(例えば、デキサメサゾン)を添加する方法、および(2)所望の部位に対応する分化細胞とともに培養する方法が挙げられる。
【0147】
(培養培地中に分化誘導剤を添加することにより、幹細胞の分化を誘導する方法)
本発明の細胞混合物は、所望の部位に対応する分化細胞への分化を促進する因子をさらに含み得る。この因子は、所望の部位に対応する分化細胞への分化を促進することが知られているかまたは確認されている任意の因子であり得る。好ましい分化誘導剤の例としては、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、αFGF、βFGF、EGF、IGF、TGF−β、ECGF、BMP、PDGFをはじめとする増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(例えば、亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
本発明の細胞混合物については、混合される細胞の維持および所望の部位に対応する分化細胞への分化を維持する限り、任意の培養液を用いることができる。そのような培養液の例としては、DMEM、M199、MEM、HBSS(Hanks’Balanced Salt Solution)、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)などが挙げられるが、これらに限定されない。このような培養液には、デキサメタゾン(dexamethasone)などの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、αFGF、βFGF、EGF、IGF、TGFβ、ECGF、BMP、PDGFをはじめとする増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(例えば、亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウムなどの1つまたはその組み合わせを含ませておいてもよい。
【0149】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞の脂肪細胞への分化誘導の条件としては、例えば、イソブチル−メチルキサンチン、デキサメタゾン、インスリン、およびインドメタシンを添加したDMEM培地中でその幹細胞を培養することが挙げられるが、これに限定されない。
【0150】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞の軟骨細胞への分化誘導の条件としては、例えば、インスリン、アスコルベート−2−ホスフェート、およびTGF−β1を添加したDMEM培地中でその幹細胞を培養することが挙げられるが、これに限定されない。
【0151】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞の骨細胞への分化誘導の条件としては、例えば、デキサメタゾン、アスコルベート−2−ホスフェート、β−グリセロホスフェートを添加したDMEM培地中でその幹細胞を培養することが挙げられるが、これに限定されない。
【0152】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞の筋細胞への分化誘導の条件としては、例えば、10%の仔ウシ血清(FBS)と5%のウマ血清(HS)とを含むDMEM培地に、デキサメタゾン、ハイドロコルチゾンを添加した培地中でその幹細胞を培養することが挙げられるが、これに限定されない。
【0153】
(幹細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを、同時に培養することによる分化誘導)
この幹細胞と所望の部位に対応する分化細胞との同時培養により、所望の性質を、好ましくは均質に含有する分化細胞を一定量以上で提供することができる。この方法は、A)a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞とを混合して混合物を得る工程;およびB)この脂肪由来前駆細胞の分化が生じるに十分な条件で、この混合物を培養する工程、を包含する。
【0154】
所望の部位に対応する分化細胞もまた、当該分野において周知の技法を用いて調製することができる。あるいは、そのような分化細胞は、市販の細胞株(例えば、ATCCなどから分譲される細胞株など)を用いることができる。分化細胞は、移植を目的とする被検体から初代培養された細胞(例えば、肝細胞、腎細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞など)を用いてもよい。そのような初代培養および細胞株の培養方法は、当該分野において周知であり、例えば、AMBOマニュアル 細胞研究法[AMBO Manual of Cell Study Method]、畠中 寛・淺野 朗 共編、TaKaRa;バイオ実験イラストレイテッド(6)すくすく育て細胞培養[Illustrated Culture Experiments−Cells grow quickly]、渡邊利雄編、秀潤社(1996)などに記載されており、本明細書においてその内容が援用される。
【0155】
本発明において、分化細胞としては、所望の部位に対応するものであれば、どのような細胞を用いてもよいが、好ましくは、間葉系細胞が用いられ、そのような間葉系細胞としては、例えば脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、膵細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。そのような分化細胞は、同定された細胞であってもよいが、その細胞の性質が未知であったとしても、例えばFACSのような分別技術を用いて所望の部位に対応する細胞を調製するために使用され得る。
【0156】
所望の部位に対応する細胞の決定に有用なマーカーの例としては、(1)脂肪:細胞質内におけるトリグリセリドの存在、OilRed−O染色、グリセロホスフェートデヒドロゲナーゼ(Glycerophosphate dehydrogenase=GPDH)活性、細胞質内のGLUT4 、Ap2(脂肪酸結合タンパク質)、LPL(リポタンパク質リパーゼ)、PPARγ1,2(ペルオキシソーム増殖活性化レセプターγ1,2)、およびレプチン(Leptin)の発現;(2)骨細胞、骨組織:アルカリホスファターゼの存在、骨石灰化(カルシウムの沈着)の程度を確認する;オステオカルシン(Osteocalcin)、オステオポンチン(Osteopontin)、オステオネクチン(Osteonectin)の発現;(3)軟骨細胞、軟骨組織:ムコ多糖の存在、II型コラーゲン、コンドロイチン−4−サルフェート(chondroitin−4−sulfate)の発現/存在;(4)骨格筋細胞:細胞質内のミオシンの豊富な存在などが挙げられるが、これらに限定されない。FACSの使用方法は、フローサイトメトリー自由自在[Master of Flow cytometry] 細胞工学別冊(秀潤社)、中内編、1999などに記載されており、本明細書においてその内容を参考として援用する。
【0157】
本発明の細胞混合物には、所望の部位に対応する分化細胞への分化を促進する因子がさらに含有され得る。そのような因子は、所望の分化細胞への分化を促進することが知られているかまたは確認された任意の因子であり得る。好ましい分化促進因子としては、例えば、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、αFGF・βFGF・EGF・IGF・TGF−β・ECGF・BMP・PDGFをはじめとする増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウムが挙げられるがそれらに限定されない。
【0158】
本発明の細胞混合物については、混合される細胞の維持および所望の部位に対応する分化細胞への分化を維持する限り、任意の培養液を用いることができる。そのような培養液の例としては、DMEM、M199、MEM、HBSS(Hanks’Balanced Salt Solution)、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)などが挙げられるが、これらに限定されない。このような培養液には、デキサメタゾン(dexamethasone)などの副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルベート−2−ホスフェート(ascorbate−2−phosphate)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、αFGF、βFGF、EGF、IGF、TGF−β、ECGF、BMP、PDGFをはじめとする増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸(亜セレン酸ナトリウムなど)、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、5−アザンシチジンなどの脱メチル化剤、トリコスタチンなどのヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、LIF、IL−2、IL−6などのサイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレン、セレニウムなどを1つまたはその組み合わせを含ませておいてもよい。
【0159】
従って、別の局面において、本発明は、脂肪吸引廃液由来の幹細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物を提供する。このような混合物は、細胞移植に有用であり、従来の細胞単独を用いた移植に比べて、各々の成分が少なくてすむという利点もある。さらに、従来技術と比べて有利な点としては、例えば、(1)組織外で再生組織を作る必要がない;(2)より確実に、より大きな組織の再生が可能である;(3)簡便かつ短時間の処理により実現が可能である;(4)皮膚など臓器を切開する手術を必要とせず、針を用いるだけで細胞および/または組織を投与(移植)することが可能であることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0160】
本発明の細胞混合物は、好ましくは脂肪の幹細胞の分化が生じるに十分な条件に供された後のものであるが、本発明はそれに限定されない。分化条件に供された後の細胞混合物は、そのまま移植に使用されても、組織または器官に分化させてもよい。
【0161】
(細胞移植組成物)
別の局面において、本発明は、細胞移植のための組成物(例えば、組織片、および移植片、ならびにこれらを含む組成物)を提供する。この移植は、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化などに伴う疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するためであれば、任意の目的で使用することができる。このような移植の場合、好ましくは、移植は、所望の部位に移植されるがそれに限定されず、最終的に所望の部位の処置または予防が可能なのであれば、本発明の細胞含有組成物は、任意の部位に投与または移植することができる。
【0162】
脂肪吸引廃液由来の幹細胞と、分化細胞との混合比率は、所望の分化が生じる限り、どのような比率でもよいが、通常、約1:10〜約10:1であり、好ましくは、約1:5〜約5:1であり、より好ましくは、約1:2〜約2:1であり、最も好ましくはほぼ等量で含有される。この細胞組成物において、移植のために使用される分化細胞および脂肪吸引廃液由来の幹細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」において説明したような任意の形態または態様をとり得る。
【0163】
この分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、移植されるべき宿主に対して、それぞれ異種、同種異系または同系である。好ましくは、同種異系または同系であり、より好ましくは同系であるが、本発明はそれに限定されない。理論に束縛されることは望まないが、同系であれば、免疫拒絶反応が抑制できるからである。しかし、拒絶反応が予測される場合は、本発明は、拒絶反応を回避する工程をさらに包含し得る。拒絶反応を回避する手順は、当該分野において公知である(例えば、新外科学体系、第12巻、臓器移植(心臓移植・肺移植、技術的・倫理的整備から実施に向けて[New Whole Surgery,Vol.12,Organ Transplantation(Heart Transplantation・Lung Transplantation From Technical and Ethical Improvements to Oractice)](改訂第3版)、中山書店などを参照のこと)。そのような方法の例としては、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられるが、これらに限定されない。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル);「タクロリムス」(プログラフ);「アザチオプリン」(イムラン);「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン);「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)がある。予防的免疫抑制療法として世界中で行われている方法は、シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモンの3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の薬剤と同時期に投与されることが望ましいが、本発明はこれに限定されない。免疫抑制効果が達成される限り、免疫抑制剤は本発明の再生法/治療法の前または後にも投与され得る。
【0164】
上記分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、それぞれ異種、同種異系または同系であり、好ましくは、同種異系または同系であり、より好ましくは同系である。理論に束縛されることは望まないが、同種異系または同系(好ましくは同系)の方が、分化細胞と脂肪吸引廃液由来の幹細胞とが均一の細胞集団と形成しやすいからである。
【0165】
上記の細胞混合物または組成物は、医薬として提供され得る。このような医薬は、所望の部位に対応する分化細胞の欠損または劣化に関連する疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するために使用され得る。本発明の医薬には、細胞混合物またはそれを含む組成物のほか、薬学的に受容可能なキャリアが含まれていてもよい。そのようなキャリアとしては、本明細書において記載される任意のキャリアが選択され得、その用途に応じて当業者により使用され得る。当業者は、本発明に含ませるべき成分を改変することができる。
【0166】
(細胞混合を用いた治療および予防法)
別の局面において、本発明は、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための方法、および美容状態を処置または改善するための方法を提供する。これらの方法は、A)a)脂肪由来前駆細胞;およびb)所望の部位に対応する分化細胞、を含む組成物を提供する工程、ならびにB)被検体にその組成物を投与する工程、を包含する。この方法において、移植に使用される分化細胞および脂肪吸引廃液由来の幹細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」において説明したような任意の形態および態様をとり得る。
【0167】
本発明の技術分野において公知な投与方法を含む任意の投与方法が、使用され得る。例えば、上記組成物は、シリンジ、カテーテル、チューブなどを用いて注入されるが、これらに限定されない。好ましくは、投与経路の例としては、局所注入(皮下注入、筋肉や脂肪など臓器内注入)、静脈内注入、動脈内注入、組織上投与などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のこの移植による処置方法または予防方法は、例えば、以下の従来技術と比べて有利な点を有するが、これらに限定されない:(1)組織外で再生組織を作る(エキソビボ産生)必要がない;(2)より確実に、より大きな組織の再生が可能である;(3)簡便かつ短時間の処理により実現が可能である;(4)皮膚など臓器を切開する手術を必要とせず、針を刺すことによって細胞および組織を投与(移植)することが可能である、など。
【0168】
(使用)
別の局面において、本発明は、a)脂肪由来前駆細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するため、あるいは美容状態を処置または改善するための医薬の調製のための使用を提供する。移植のための細胞混合物において用いられる分化細胞および脂肪由来前駆細胞は、本明細書において、「分化細胞を調製するための方法」において説明したような任意の形態をとり得る。
【0169】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明する。以下に説明される実施例は、例示目的のみのために提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明によっても下記実施例によっても限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0170】
以下の実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬またはSigmaから得た。動物の飼育は、National Society for Medical Researchにより作成された「Principles of Laboratory Animal Care」およびInstitute of Laboratory Animal Resourceが作成、National Institute of Healthが公表した「Guide for the Care and Use of Laboratory Animals」(NIH Publication, No. 86−23, 1985,改訂)に遵って、動物愛護精神に則って行った。ヒトを対象とする場合は、事前に同意を得た上で実験を行った。
【0171】
(実施例1:脂肪吸引廃液の調製)
脂肪吸引手術前に予定吸引脂肪量を超える、過剰量のトゥメセント液(0.0001%アドレナリンを含む生理食塩水)を皮下脂肪層に注入し(トゥメセント法(tumescent法))、その後、脂肪吸引のために内径2〜3mmのカニューレ(金属製吸引筒)を使用して、脂肪吸引手術を行った。脂肪吸引手術は、当該分野において周知であり、例えば、美容外科手術プラクティス2(Cosmetic Operation Practice 2)、市田正成・谷野隆三郎・保阪善昭 共編、文光堂、P429−469に、その方法が記載される。これは、本明細書中に参考として援用される。
【0172】
吸引脂肪を生理食塩水で洗浄した。洗浄によって生じる計5〜10リットル程度の廃液のうち、細胞成分の豊富な最初の1〜2リットルだけを、その後の処理に使用した。
【0173】
(実施例2:脂肪吸引廃液からの、幹細胞懸濁液の調製)
採取された廃液を、以下の2方法のいずれかを用いて処理することによって、幹細胞懸濁液を調製した。以下の2方法のいずれも、コラゲナーゼなどの酵素を用いる処理が不要であるため、コラゲナーゼなどの酵素の混入がない点においても、従来法で調製された脂肪組織由来の幹細胞とは異なる。
【0174】
(I)調製方法1
1)脂肪吸引廃液の液体部分(通常、2〜4リットル程度)を400×gで10分間遠心分離した。
2)上清を捨てた。ただし、沈殿した細胞は浮遊しやすいため、アスピレーターを用いて、細胞を損傷しないよう慎重に吸引した。
3)ペレット化した細胞(ほとんどが赤血球)を50mlのポリプロピレン製チューブ数本に移し、再度遠心分離(400×g、5分間)した。
4)上清を吸引し、総量が15〜20mlとなるようにペレット化細胞を集めた。マトリクス成分が多い場合は、そのマトリクス成分を100μmフィルターを用いて濾過・除去した。必要に応じて、再遠心分離を行なった。
5)50mlのチューブにフィコール(登録商標)15mlを入れ、その上に層を作るように極力ゆっくりと細胞液15〜20mlを加えた。
6)そのチューブを、400×gで30分遠心分離した。(18〜20℃)
7)遠心分離後、その細胞溶液は4層:上からA層(無細胞層、透明);B層(単核球層、淡赤色);C層(フィコール層、透明);およびD層(赤血球層、濃赤色)、に分離した。幹細胞を含む接着細胞群は、B層およびC層に含まれていた。A層を吸引後、B層および約3ml程度のC層を細胞懸濁液として回収し、50mlのチューブに移した。
8)回収した細胞懸濁液に、血清加PBS(10%FBS、もしくは10%ヒト血清を加えたPBS)を加えて50mlとした。その混合物をピペッティングにより混和し、次いでその混合物を遠心分離(400×g、5分)した。
9)上清を吸引し、再度血清加PBSを加えて50mlとした。その混合物をピペッティングにより混和し、次いでその混合物を遠心分離(400×g、5分)した。
10)上清を吸引した。幹細胞を含むペレット化細胞群を回収した。
【0175】
(II)調製方法2
1)クリーンベンチ内で、吸引管を用いて脂肪吸引廃液を吸引し、フィルター(ポアサイズ;120μm)付きリザーバーを通した。得られる濾液を、閉鎖分離バックに封入した。
2)セルセパレーター(血液成分分離装置ASTEC204、東京(日本)の(株)アムコより入手可能)で遠心分離を3回行い、比重の軽い血小板成分、比重の重い赤血球、顆粒球成分を可能な限り除去した。
3)幹細胞を高濃度に含む分画(約30〜40ml)を採取した。単離した細胞の比重は、1.050〜1.075の範囲であった。
【0176】
細胞の比重は、おおまかに以下のように決定され得る。パーコール(Percoll)TM、レディグラッドTMのような密度勾配遠心分離媒体を、塩化ナトリウム溶液またはスクロース溶液中に調製した。収集した細胞およびデンシティーマーカービーズ(density marker beads)をその混合物に加え、次いで遠心分離した。この混合物は、そのビーズに基づいて5〜10層に分離される。細胞を含む層が、その細胞の比重を示す。
【0177】
単離した細胞の写真を、図1に示す。
【0178】
(実施例3:回収した幹細胞の特徴付け)
実施例2において回収した幹細胞を、以下の手順でFACSを用いて特徴付けした。
【0179】
約5mlの細胞懸濁液を、染色培地(SM;0.5% ウシ血清アルブミンおよび0.05% NaNを含むPBS)で2回洗浄した。必要に応じて、細胞を計数した。
【0180】
約1〜10×10細胞/mlの細胞懸濁液に対して、最終濃度として0.001〜0.1μg/mlの標識化抗体(標識には、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)および/またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC))を添加した。
【0181】
この混合物を氷上で30分間ほどインキュベーションした後、細胞を洗浄した。SMを用いて、細胞浮遊液の濃度を約5×10細胞/mlに調整した。
【0182】
FACS Vantage(Becton Dickinson社)を使用した。抗体の標識を指標として、単離した幹細胞における各種CDタンパク質の発現を解析した。その結果、脂肪吸引廃液の液体部分由来の幹細胞は、表1に示すように、CD90およびCD49dを発現することが判明した。
【0183】
単離した幹細胞を、DMEM培地において2回継代培養した。継代は、80%のコンフルエンス時に行った。2回の継代培養後に、細胞を、上記のようにFACSにより分析した。その結果を以下の表1に示す。
【0184】
(表1:2回継代培養した後の幹細胞における種々のCDの発現)
CD 発現量
3 −
4 −
11c −
13 ++
14 −
15 −
16 −
19 −
29 ++
31 +
33 −
34 +
36 ++
38 −
44 +
45 +
49d ++
54 +
56 −
58 +
61 −
62E −
62P −
69 −
71 ++
73 ++
90 ++
104 −
105 ++
106 −
117 +
135 −
144 −
146 +
151 ++
235a −
SH3 +
STRO−1 +
「−」=発現は検出されず、
20%を+および++により表す。
「+」=20%以下の細胞に検出され、
「++」=20%以上の細胞に検出される。
【0185】
上記の結果から、脂肪吸引廃液の液体部分から調製された幹細胞は、間葉系幹細胞に対応する細胞集団を含むものの、この幹細胞は、従来技術によって調製される脂肪由来幹細胞には含まれないCD31およびCD34陽性細胞を含んだ。従って、本発明の方法によって調製された幹細胞は、血管内皮への分化(血管新生)が容易かつ高効率で可能な細胞群であることが理解できる。さらに、今回指標として用いたCD発現は、2回継代培養した後に確認されている。従って、本発明の幹細胞は、2回程度の継代培養後もその表現型のほとんどを変化しないことが理解される。
【0186】
(実施例4:複数の被検体から得られた脂肪吸引廃液の液体部分より回収した幹細胞の特徴付け)
さらに、複数の被検体から得られた脂肪吸引廃液の液体部分より幹細胞を回収し、その特徴付を行った。その結果を以下に示す。
【0187】
(表2:複数の被検体から得られた脂肪吸引廃液の液体部分より回収した幹細胞の特徴付けの結果)
【0188】
【表1】

【0189】
数字は、細胞集団中で、各タンパク質を発現する幹細胞の割合(%)を示す。
「−」=発現は検出されず、「+」=発現が検出された、N.T.=試験せず。
【0190】
収集された幹細胞のほとんどは、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3について陽性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞である。CD106を発現する幹細胞は、本発明において使用される脂肪由来前駆細胞の特徴である。CD31、CD45、CD117、およびCD146については、その幹細胞の集団の一部が陽性であり、一部は陰性であった。
【0191】
その幹細胞の集団は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144については、陰性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144の少なくとも1つを発現しない細胞である。
【0192】
この幹細胞の集団を、分化誘導培地で培養する場合、2〜3週間後に骨、軟骨、脂肪などの臓器特異的なタンパク質の発現が認められた。この幹細胞の集団は、ヒト真皮由来培養線維芽細胞とは異なり、ほとんどの線維芽細胞で発現するCD56を、発現しなかった。対照的に、この幹細胞の集団が示すCD105の発現は、線維芽細胞においては、通常は観察されなかった。この幹細胞の集団が示すCD49dの発現は、骨髄由来間葉系幹細胞においては、代表的には観察されなかった。
【0193】
さらに、CD31、CD34、CD36、CD45、CD106、およびCD117については、培養期間が長くなると発現が消失する傾向が見られた。そのため、継代培養を続けた場合、継代培養前に観察されたCD106発現が観察されなくなり得る。
【0194】
(実施例5:脂肪吸引廃液由来の幹細胞の脂肪細胞への分化誘導)
脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、以下の方法で脂肪生成性DMEM培地で培養することによって、脂肪細胞へ分化誘導した。
【0195】
使用された脂肪生成性DMEM培地は、以下の組成を有する:
DMEM(10% FBSを含む) 100ml;
イソブチル−メチルキサンチン (0.5M) 100μl(終濃度0.5mM);
デキサメタゾン(10−4M) 1ml(終濃度1μM);
インスリン(10−3M) 1ml(終濃度10μM);および
インドメタシン 100μl(終濃度 200μM)。
【0196】
実施例2で調製した幹細胞約30万個を上記培地中で、継代せずに約4週間培養した。その結果、図2に示すように、幹細胞は、貯蔵された脂肪様の物質を細胞内に含有する細胞に分化した。
【0197】
分化細胞に対して、以下の方法でオイルレッド染色を行い、貯蔵された脂肪様の物質が脂肪であること、および分化細胞が実質的に脂肪細胞であることを確認した。
【0198】
オイルレッドO染色を以下のように行った:
1)培地を捨て、PBSで洗浄した;
2)約10分間、細胞を10%ホルマリンで固定した;
3)蒸留水で洗浄した;
4)60%イソプロピルアルコールを添加し、約1分間放置した;
5)細胞をオイルレッドO染色液に移し、15分間放置した;
6)60%イソプロピルアルコールを添加し、1分放置した;
7)蒸留水で洗浄した;
8)ヘマトキシリンを添加し、2分間放置することによって、核染色を行なった;
9)蒸留水で洗浄した;
10)炭酸リチウム液**を添加し、数秒間放置することによって、色出しをした;
11)蒸留水で水洗した。
*:オイルレッドO染色液を以下の手順で調製した:
オイルレッドO 0.3g(SIGMA O−0625)を、99%イソプロピルアルコール100mlに溶解した。使用時に、この溶液と蒸留水とを6対4の割合で混ぜ、激しく振盪した。その30分後に、得られた溶液を濾過して使用した。
**:炭酸リチウム液は以下の手順で調製した:
3mgの炭酸リチウム飽和液(100ml蒸留水中に1.54g:Sigma−Aldrich)を、蒸留水100mlに加えた。
【0199】
染色した細胞の写真を図3に示す。図3に示されるように、実施例2で調製された幹細胞を、上記脂肪生成性DMEM培地で培養することによって、細胞内に蓄積された物質が脂肪であること、すなわち、幹細胞から分化した細胞が事実上脂肪細胞であることを確認した。
【0200】
(実施例6:脂肪吸引廃液由来の幹細胞から軟骨細胞への分化誘導)
脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、以下のように軟骨生成性(Chondrogenic)DMEM培地で培養することによって、軟骨細胞へ分化誘導した。
【0201】
使用された軟骨形成性DMEM培地は、以下のように調製された:
1)DMEM(血清含まず適切な抗生物質を含む)100ml;
インスリン(6.25mg/mL) 100μl(添加量625μL);
アスコルベート−2−ホスフェート(5μM) 1ml(終濃度50nM);および
仔ウシ血清 1ml(終濃度1%)を混合した。
2)得られた混合液を0.22μmフィルターを用いて濾過し、TGF−β1(1μg/ml)を1mlその混合物に加え、ピペッティング後、4℃で保管した。
【0202】
実施例2で調製した幹細胞約30万個を、継代せずに約4週間培養した。その結果、図4に示すように、幹細胞は、微小細胞塊を形成する軟骨細胞様の細胞に分化した。
【0203】
分化した細胞に対して、以下のようにアルシアンブルー染色を行い、分化細胞が軟骨細胞であることを確認した。
【0204】
アルシアンブルー染色を以下のように行った:
1)培地を捨て、PBSで洗浄した;
2)約10分間、細胞を10%ホルマリンで固定した;
3)3%アセテート溶液を添加して、3分間放置した;
4)アルシアンブルー染色液を添加して、約1時間放置した;
5)3%アセテート溶液を添加して、3分間放置した;
6)蒸留水で2分間洗浄した;
7)ヌクレアファーストレッド(ケルンエヒトロート)**を添加して、2分間放置した;
8)蒸留水で洗浄した。
*:アルシアンブルー染色液を以下の手順で調製した:
アルシアンブルー8GX 1gを3%酢酸水100mlに溶解し、濾過して使用した
**:ヌクレアファーストレッド(ケルンエヒトロート)溶液を以下の手順で調製した:
蒸留水100mlにヌクレアファーストレッド(ケルンエヒトロート)を0.1g添加し、そして硫酸アルミニウムを5g添加して、煮沸溶解した。生成物を濾過して使用した。
【0205】
アルシアンブルー染色した細胞の写真を、図5に示す。図5に示されるように、上記軟骨形成性DMEM培地で培養することによって、幹細胞から分化した細胞が事実上軟骨細胞であることを確認した。
【0206】
(実施例7:脂肪組織の調製)
次に、分化細胞として、同意を得たヒト被験体から脂肪組織を調製した。分離は、当該分野において周知の技法を用いて行った。簡単に述べると、同意を得たヒト被験体から吸引された脂肪組織から、ヒト脂肪組織を無菌的に分離した。この組織塊は、脂肪細胞用の培地((500ml)組成=イーグル培地4.75g;10%NaHCO 10ml;グルタミン 0.3g;カナマイシン(20mg/ml) 1.5ml;ペニシリンストレプトマイシン5ml;FBS(10%))中に保存した。その組織塊は、組織のまま使用してもよいし、さらに分離して脂肪細胞として使用してもよい。
イーグル培地成分 (9.5g中)
塩化ナトリウム 6400mg
塩化カリウム 400mg
塩化カルシウム(無水) 200mg
硫酸マグネシウム(無水) 97.7mg
リン酸二水素ナトリウム(無水) 108mg
硝酸第二鉄(九水塩) 0.1mg
ブドウ糖 1000mg
ピルビン酸ナトリウム 110mg
コハク酸 106mg
コハク酸ナトリウム(六水塩) 27mg
L−アルギニン塩酸塩 84mg
L−システイン塩酸塩(一水塩) 70.3mg
グリシン 30mg
L−ヒスチジン塩酸塩(一水塩) 42mg
L−イソロイシン 104.8mg
L−ロイシン 104.8mg
L−リジン塩酸塩 146.2mg
L−メチオニン 30mg
L−フェニルアラニン 66mg
L−セリン 42mg
L−スレオニン 95.2mg
L−トリプトファン 16mg
L−チロシン二ナトリウム 89.5mg
L−バリン 93.6mg
重酒石酸コリン 7.2mg
葉酸 4mg
ニコチンアミド 4mg
パントテン酸カルシウム 4mg
塩酸ピリドキサール 4mg
リボフラビン 0.4mg
塩酸チアミン 4mg
i−イノシトール 7.2mg
フェノールレッド 5mg。
【0207】
(実施例8:脂肪細胞の混合)
次に、実施例2で調製した脂肪由来前駆細胞(PLA)をさらなる処理をせずに、実施例6で調製した分化細胞である脂肪組織(脂肪細胞集団)と混合した。分化が促進し再生されるかどうかを決定する。
【0208】
まず、実施例6で調製した1ml(900mg)の脂肪組織塊(A)、またはその脂肪組織1ml(900mg)と、実施例2で調製した10mlの吸引された脂肪由来の幹細胞との混合物(B)を、SCIDマウス(日本チャールズリバー)の背部に皮下注入する。注入は、シリンジを用いて行う。4週間後、注入部位から組織を採取する。移植された脂肪組織の重量を測定し、その組織を分析する。
【0209】
組織重量の維持における、脂肪吸引廃液由来の幹細胞の混合による効果を確認することができる。
【0210】
(脂肪細胞の混合による脂肪組織再生)
脂肪由来幹細胞と脂肪組織とを混合する場合、再生脂肪の平均重量は、脂肪組織のみの場合よりも重い。従って、PLAの影響が明らかに実証されている。検査のためにSCIDマウスを切開すると、この再生による効果が確認できる。見られるように、脂肪由来幹細胞を含む混合物が投与された場合、その組織は有意に大きい。
【0211】
脂肪組織のみを注入する場合、4週間後にはその脂肪組織の重量は約半分に減少する。これは、脂肪組織の壊死が起こったためであり得る。脂肪由来幹細胞を含む混合物が投与される場合に、その組織の重量が維持される理由は、脂肪由来幹細胞が脂肪組織に分化誘導されるか、または脂肪由来幹細胞が組織の破壊を防止する機能を有していたか、あるいはこれら両方のためであると考えられる。
【0212】
(実施例9:DMEMで維持培養したPLAの効果)
実施例2で調製した脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、DMEM(実施例7において使用したものと同一)中で維持した。生じた脂肪由来幹細胞を使用して、同様の効果を確認する。具体的には、この調製物を、実施例2において調製し、実施例7において使用した脂肪由来幹細胞または脂肪由来前駆細胞(PLA)の代わりに使用した。
【0213】
その結果、2億5千万個の脂肪由来幹細胞を900mgの脂肪に加える場合、約40%〜50%の脂肪組織が首尾よく増殖する。これにより、増殖培地中で収集および維持された幹細胞が使用され得ることが確認された。
【0214】
(実施例10:M−199で培養した脂肪吸由来幹細胞の効果)
M−199で培養した脂肪由来前駆細胞を、実施例2において調製され、実施例7において使用された脂肪由来幹細胞の代わりに使用する。M−199は、以下の成分を含む。
【0215】
M−199の成分:(血管内皮細胞用培地)(1リットル当たり)
Medium199 9.5g
NaHCO 2.2g
FBS (15%)
酸性−FGF 2μg
ヘパリン 5mg
抗菌−抗真菌剤 10ml
(注)以下の成分の単位はmg/mlである
L−アラニン 50
L−アルギニン・HCl 70
L−アスパラギン酸 60
L−システイン 0.1
L−シスチン 20
L−グルタミン酸 150(HO)
L−グルタミン 100
グリシン 50
L−ヒスチジン・HCl・HO 20
ヒドロキシ−L−プロリン 10
L−イソロイシン 40
L−ロイシン 120
L−リシン・HCl 70
L−メチオニン 30
L−フェニルアラニン 50
L−プロリン 40
L−セリン 50
L−トレオニン 60
L−トリプトファン 20
L−チロシン 40
L−バリン 50
グルタチオン(還元型) 0.05
CaCl・2HO 264.9
KCl 400
MgSO・7HO 97.7(無水型)
NaCl 6800
NaHCO 2200
NaHPO 140(2HO)
Fe(NO・9HO 0.72
CHCOONa・3HO 83
フェノールレッド 15
D−ビオチン 0.01
葉酸 0.01
ニコチンアミド 0.025
パントテン酸カルシウム 0.01
ピリドキサール・HCl 0.025
ピリドキシン・HCl 0.025
リボフラビン 0.01
チアミン・HCl 0.01
アデニン 10(SO
塩化コリン 0.5
ヒポキサンチン 0.3
i−イノシトール 0.05
p−アミノ安息香酸 0.05
グアニン・HCl 0.3
キサンチン 0.3
チミン 0.3
ウラシル 0.3
ニコチン酸 0.025
ビタミンA 0.1
カルシフェロール 0.1
メナジン 0.01
α−トコフェロール 0.05
アスコルビン酸 20
Tween80 20
コレステロール 0.2
ATP・2Na 1
アデニル酸 0.2
リボース 0.5
デオキシリボース 0.5。
【0216】
その結果、M−199培地で培養した脂肪由来前駆細胞を脂肪に加えると、脂肪組織が増殖することが確認された。従って、取得後任意の培地において維持された幹細胞が使用され得ることが確認された。
【0217】
(実施例11:骨細胞への応用)
次に、骨細胞を用いて、本発明の細胞混合物を移植する同様の実験を行う。骨細胞については、当該分野において周知の技法を用いて、骨(骨組織)をマウスから採取する。この骨組織と実施例2で調製したPLAとを混合し、この混合物を骨に移植する。この場合、骨の再生を本発明の混合移植物が支持することが観察される。
【0218】
(実施例12:血管新生への応用)
次に、血管細胞を用いて、本発明の細胞混合物を移植する同様の実験を行う。血管細胞については、当該分野において周知の技法を用いて、血管(血管組織)をマウスから採取する。この血管組織と実施例2で調製したPLAとを混合し、その混合物を血管に移植する。この場合、血管の再生を本発明の混合移植物が支持することが観察される。
【0219】
(実施例13:幹細胞の調製条件のアッセイ)
実施例2「脂肪吸引廃液からの、幹細胞懸濁液の調製」、「(I)調製方法1」において使用された細胞層の密度勾配遠心分離条件は、フィコールを用いた400×g、30分間であった。次に、この密度勾配遠心分離の条件をより詳細にアッセイした。
【0220】
(1)使用する媒体の研究
フィコール以外の使用可能な密度勾配遠心分離の媒体としては、パーコール(登録商標)、ヒストパーク(登録商標)、およびリンフォプレップなどが挙げられる。これらを用いて細胞層の密度勾配遠心分離を行って、フィコールの場合の結果と比較する。単離した細胞をFACSを使用して測定する。最も良好な純度を示す媒体は、フィコールである。
【0221】
(2)遠心分離条件の研究
実施例2においては、400×g、30分間の遠心分離を行った。次に、以下の遠心分離条件をアッセイする。
【0222】
200×g 60分間、400×g 20分間、400×g 30分間、400×g 40分間、600×g 30分間および800×g 20分間を、フィコールを媒体に使用し、幹細胞の単離について試験する。細胞の純度をFACSで分析する。400×g 30分間が、幹細胞の単離に対して最も高純度かつ高収率を示した。
【0223】
(実施例14:脂肪吸引物質由来の幹細胞の調製)
次に、廃液と組織(今後、「脂肪組織+廃液」とも呼ぶ)とに分離する前の脂肪吸引物質を試験するために、本発明者らは、分離前の脂肪吸引物質を用いて同様の分離実験を行った。
【0224】
その分離方法は、以下の通りであった:
1.「脂肪組織+廃液」(脂肪組織が「廃液」を覆っている)を含むカバー付き容器に、コラゲナーゼ(7.5%コラゲナーゼ、Sigma、総サンプルの1/100容量を加えた)を加え、適切な速度にて振盪した。37℃で30分間攪拌した後、脂肪細胞内マトリクスの主要な成分であるコラゲナーゼを分解し、脂肪細胞の単離を促進させた。ここでは、8本の500mlチューブまたは4本の1000mlチューブを使用した。
2.得られたサンプルを、800×gで遠心分離にかけ、これにより脂肪成分と細胞とを分離した。脂肪成分は、細胞よりも小さい比重を有する。遠心分離後、この物質を、油層、基質層、液体層および細胞層を含む4層に分離した。
3.この油層、基質層、および液体層を吸引し、細胞層のみを得た。この細胞層を、必要に応じて、500μmのフィルターおよび250μmのフィルターを用いて濾過した。500μmのフィルターであることは、必須ではないと考えられる。
4.10mlの溶解緩衝液(例えば、塩化アンモニウム水溶液および炭酸水素カリウム水溶液)を加え、2〜5分間攪拌して、赤血球を溶解する。必要に応じて、この溶解工程は省略され得る。
5.リン酸緩衝化生理食塩水を、生じたペレットに加えた。上記溶解緩衝液反応を停止させた。この溶解したサンプルを、100μmフィルターで濾過した。175mlの円錐形チューブを遠心分離に用いた。
6.得られたサンプルを、800×gまたは400×gで5分間のさらなる遠心分離にかけた。ペレット化した細胞が目的の細胞である。
7.上清を吸引して不要な溶液を除去し、その細胞の遠心分離を行った。収集された細胞を、同様の分析に供した。
【0225】
(実施例15:「脂肪組織+廃液」由来の幹細胞)
実施例14によって調製された幹細胞について、実施例4のように分析した。
【0226】
「脂肪組織+廃液」から収集されたほとんどの幹細胞が、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3に対して陽性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞である。CD106を発現する幹細胞は、本発明において使用される脂肪由来前駆細胞の特徴である。幹細胞群の集団の一部は、CD31、CD45、CD117およびCD146に対して陽性であったが、別の一部は陰性であった。
【0227】
「脂肪組織+廃液」由来の幹細胞群は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144に対して陰性であった。従って、本発明の脂肪由来前駆細胞は、CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144のうちの少なくとも1つを発現しない細胞である。
【0228】
「脂肪組織+廃液」由来の幹細胞群を分化誘導培地で培養すると、2〜3週間後に、骨、軟骨、脂肪などの臓器に特異的なタンパク質の発現が認められた。この幹細胞群は、ヒト真皮由来培養線維芽細胞とは異なり、ほとんどの線維芽細胞で発現するCD56を、発現しなかった。対照的に、この幹細胞群が示すCD105の発現は、線維芽細胞においては、通常は観察されなかった。この幹細胞の集団が示すCD49dの発現は、骨髄由来間葉系幹細胞においては、代表的には観察されなかった。
【0229】
さらに、CD31、CD34、CD36、CD45、CD106、およびCD117については、培養期間が長くなると発現が消失する傾向が見られた。そのため、継代培養を続けた場合、継代培養前に観察されたCD106発現が観察されなくなり得る。
【0230】
このように、幹細胞の供給源として「脂肪組織+廃液」を使用したとしても、良質な幹細胞が得られた。従って、脂肪組織(脂肪細胞)の分離または単離は、脂肪吸引物質から幹細胞を得るために必須でないことが実証された。さらに、大量の幹細胞を、この物質から得ることができる。
【0231】
(実施例16:本発明の幹細胞の増殖)
次に、脂肪吸引廃液を、赤血球の除去を省略することを除いて実施例2(調製方法1)のように処理し、幹細胞を得た。
【0232】
1.8×10細胞の調製された幹細胞を、(ゼラチンコーティングされた皿を用いる)M199、および(非コーティング皿を用いる)DMEMを培養培地として使用して、60mm皿上で培養した。細胞数の計数を、6日目(または、ラウンド2については3日目)に開始し、細胞数の計数を1日おきに行った。
【0233】
その結果は、以下の通りであった:
【0234】
【表2】

【0235】
上記の表に見られるように、赤血球の除去は、幹細胞を効率的な様式で得るために必須ではないことが示された。なぜなら、増殖曲線が、脂肪吸引廃液から調製された幹細胞と類似しているからである。増殖曲線は、図6にも示される。図7〜図10は、DMEM培地(図7=ラウンド1;6日目、8日目、10日目および12日目;図8=ラウンド2;3日目、5日目、7日目および9日目)ならびにM199培地(図9=ラウンド1;6日目、8日目、10日目および12日目;図10=ラウンド2;3日目、5日目、7日目および9日目)における、赤血球を除去せずに脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖を示す写真を示す。
【0236】
(実施例17:コンフルエントに近い条件での増殖のアッセイ)
本実施例においては、コンフルエントに近い条件下での培養が、種々の分化細胞への分化誘導を生じることを示す。
【0237】
使用されたプロトコールは、以下の通りである:
1)骨への分化
収集された細胞を、DMEM培地において1.8×10細胞/皿の濃度にて、60mm皿上で培養した。10日間の培養後、この細胞はコンフルエント近くになり、その時点で、その現在の培地と、分化誘導培地(組成:骨生成性培地の例は、10% FBSおよび5%馬血清を含むDMEMに、1μMデキサメタゾン、50μMアスコルベート−2−ホスフェート、10mM β−グリセロホスフェート、および1% ABAMを添加した培地であり得る)とを交換し、22日間培養した。この細胞を、von Kossa染色を用いて観察した。
【0238】
von Kossa染色:
培養培地を捨て、目的のサンプルをリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄する。この洗浄したサンプルを、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定する。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、暗所で20分間、2.5%硝酸銀と接触させる。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、蛍光灯の下に15分間放置する。このサンプルを、0.5%ヒドロキノンと2分間インキュベーションし、続いて5%チオ硫酸ナトリウムと2分間インキュベーションする。次いで、このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、ヌクレアファーストレッド(Nuclear First Red)で2分間染色する。次いで、このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、マウントクイック(大道産業、日本)と共にマウントし、顕微鏡で観察する。
【0239】
2)軟骨への分化
収集された細胞を、DMEM培地において1.8×10細胞/皿の濃度にて、60mm皿上で培養した。10日間の培養後、この細胞はコンフルエント近くになり、その時点で、その現在の培地と、分化誘導培地(組成:軟骨生成性培地の例は、1% FBSを含むDMEMに、6.25μg/mlインスリン、6.25μg/mlトランスフェリン、10ng/ml TGF β1、50nMアスコルベート−2−ホスフェート、および1% ABAMを添加した培地であり得る)とを交換し、22日間培養した。この細胞を、アルシアンブルー染色を用いて観察した。
【0240】
アルシアンブルー染色:
目的のサンプルから培地を捨てる。このサンプルを、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定する。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、3%アセテートで3分間洗浄する。このサンプルを、アルシアンブルー染色溶液(組成:脂肪生成培地の例は、10%FBSを含むDMEMに、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、10μMインスリン、200μMインドメタシン、および1%AMAMを添加した培地であり得る)に、30分間浸す。このサンプルを、3%アセテートで3分間洗浄する。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、ヌクレアファーストレッドで2分間染色する。次いで、このサンプルを、milliQ水で洗浄する。次いで、このサンプルを、マウントクイック(大道産業、日本)と共にマウントし、顕微鏡で観察する。
3)脂肪への分化
収集された細胞を、DMEM培地において1.8×10細胞/皿の濃度にて、60mm皿上で培養した。10日間の培養後、この細胞はコンフルエント近くになり、その時点で、その現在の培地と、分化誘導培地(組成:脂肪生成培地の例は、10% FBSを含むDMEMに、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、10μMインスリン、200μMインドメタシン、および1% AMAMを添加した培地であり得る)とを交換し、12日間培養した。この細胞を、オイルレッドO染色を用いて観察した。
【0241】
オイルレッドO染色:
培養培地を捨て、目的のサンプルをリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄した。この洗浄したサンプルを、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で10分間固定する。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、60%イソプロピルアルコールに1分間浸す。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。このサンプルを、ヘマトキシリンに10分間浸す。このサンプルを、milliQ水で洗浄する。次いで、このサンプルを、炭酸リチウムに数秒間浸し、次いでmilliQ水で洗浄する。このサンプルを、マウントクイック(大道産業、日本)と共にマウントし、顕微鏡で観察する。
【0242】
1)オイルレッドO染色溶液を、以下のように調製した:
オイルレッドO 0.3gを、100mlの99%イソプロピルアルコールに溶解する。使用に際して、この溶液を6:4の割合でmilliQ水と混合し、そのまま30分間攪拌した。この混合溶液を、使用前に濾過した。
【0243】
2)炭酸リチウム溶液
3mlの炭酸リチウム飽和溶液(100ml当たり1.54gの炭酸リチウム)を、100mlのmilliQ水に加えた。
【0244】
結果を図11〜図20に示す。見ることができるように、実施例3または実施例15において調製された幹細胞は、良質な多能性を示した。
【0245】
(実施例18:赤血球除去工程なしの、コンフルエントに近い条件での増殖のアッセイ)
本実施例においては、たとえ原材料が赤血球除去工程なしで調製されたとしても、コンフルエントに近い条件下の培養が、種々の分化細胞への分化を誘導することを示す。
【0246】
使用された分化工程は、実施例17と同じである。
【0247】
実施例17と類似の結果が得られた。結果として、赤血球除去工程なしで調製された幹細胞は、良質な多能性を示した。
【0248】
(実施例19:分化培地での分化)
本実施例においては、分化培地を使用した培養が、種々の分化細胞への分化を誘導することを示す。
【0249】
使用されたプロトコールは、以下の通りである:
1)骨への分化
収集された細胞を、分化誘導培地(組成:骨生成性培地の例は、10% FBSおよび5%馬血清を含むDMEMに、1μMデキサメタゾン、50μMアスコルベート−2−ホスフェート、10mM β−グリセロホスフェート、および1% ABAMを添加した培地であり得る)において1.8×10細胞/皿の濃度にて、60mm皿上に播種する。22日間培養後、このサンプルをvon Kossa染色で評価した。von Kossa染色は、上記実施例17で説明したように行った。
2)脂肪への分化
収集された細胞を、分化誘導培地(組成:脂肪生成培地の例は、10% FBSを含むDMEMに、0.5mM IBMX、1μMデキサメタゾン、10μMインスリン、200μMインドメタシン、および1% AMAMを添加した培地であり得る)において1.8×10細胞/皿の濃度にて、60mm皿上に播種した。25日間培養後、このサンプルを、オイルレッドO染色を用いて評価した。オイルレッドO染色は、上記実施例17で説明したように行った。
【0250】
結果を、図21〜図26に示す。見ることができるように、実施例3または実施例15において調製された幹細胞は、コンフルエントに近い状態への培養なしで分化誘導培地を用いて、良質な多能性を示した。
【0251】
(実施例20:赤血球除去工程なしでの、分化誘導培地での増殖のアッセイ)
本実施例においては、たとえ原材料が赤血球除去工程なしで調製されたとしても、分化誘導培地での培養が、種々の分化細胞への分化を誘導することを示す。
【0252】
使用された分化工程は、実施例19と同じである。
【0253】
実施例19と類似の結果が得られた。結果として、赤血球除去工程なしで調製された幹細胞は、良質の多能性を示した。
【0254】
(実施例21:定量化)
本実施例は、脂肪吸引由来物質から得ることができる幹細胞数を示す。数量化は、ある容量の細胞サンプル中の細胞数を単純に計数して行った。
【0255】
結果を以下の表に示す。以下の表は、調製直後および7日間の培養後の7日目の細胞数を含む。幹細胞サンプルを培養することにより、血球細胞が除去され、幹細胞の濃度が増加したことが観察された。
【0256】
【表3】

【0257】
上で示されるように、脂肪吸引廃液(LFA)は、固形の脂肪組織のみに匹敵する量の幹細胞を含む。従って、幹細胞調製の供給源として、このような脂肪吸引廃液および脂肪組織を含む脂肪吸引廃液および/または物質を使用することは、有利である。
【0258】
特定の好ましい実施形態が本明細書中で説明されたが、添付の特許請求の範囲以外に、このような実施形態が本発明の範囲を制限すると解釈されることを意図しない。本明細書中で引用された全ての特許、公開特許出願および刊行物は、あたかも本明細書中にその全体が示されたかのように、参考として援用される。
【0259】
本発明の範囲および精神を逸脱せずに、種々の改変が当業者に明らかであり、そして当業者により容易になされ得る。従って、本明細書に添付の特許請求の範囲は、本明細書の記載により制限されることを意図されず、むしろ特許請求の範囲は広く解釈されることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0260】
本発明は、簡便な方法で取得できる脂肪吸引廃液由来の幹細胞が、再生医療に応用できることを証明した。従って、当業者は、医薬品業界などにおける本発明の産業上の利用可能性を容易に見出す。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1】図1は、本発明の方法によって調製した脂肪吸引廃液の液状部分由来の幹細胞の写真である。
【図2】図2は、本発明の方法によって調製した脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、脂肪生成性DMEM培地で培養することによって誘導された分化細胞を示す写真を示す。
【図3】図3は、本発明の方法によって調製した脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、脂肪生成性DMEM培地で培養することによって誘導された分化細胞を、オイルレッドO染色した写真を示す。
【図4】図4は、本発明の方法によって調製した脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、軟骨形成性DMEM培地で培養することによって誘導された分化細胞を示す写真を示す。
【図5】図5は、本発明の方法によって調製した脂肪吸引廃液由来の幹細胞を、軟骨形成性DMEM培地で培養することによって誘導された分化細胞を、アルシアンブルー染色した写真である。
【図6】図6は、赤血球を除去せずに、脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖曲線を示す。
【図7】図7は、DMEM培地(図7=ラウンド1;6日目、8日目、10日目および12日目)において、赤血球を除去せずに、脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖を示す写真を示す。
【図8】図7は、DMEM培地(図8=ラウンド2;3日目、5日目、7日目および9日目)において、赤血球を除去せずに、脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖を示す写真を示す。
【図9】図9は、M199培地(図9=ラウンド1;6日目、8日目、10日目および12日目)において、赤血球を除去せずに、脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖を示す写真を示す。
【図10】図9は、M199培地(図10=ラウンド2;3日目、5日目、7日目および9日目)において、赤血球を除去せずに、脂肪吸引由来物質から調製された幹細胞の増殖を示す写真を示す。
【図11】図11〜図26は、種々の条件下での写真を示す。以下の表は、条件、培養日数、倍率、誘導/コントロール、および培養/播種を列挙する。最も右の列において、用語「誘導」は、分化条件に細胞が供されることをいい、用語「コントロール」は、非分化条件に細胞が供されることをいう。5列目において、用語「培養」は、誘導を開始する前に、播種後10日間の培養が行われた条件をいい、一方用語「播種」は、誘導が開始する前に、培養が何も行われなかった条件をいう。
【0262】
【表4−1】

【0263】
【表4−2】

【0264】
本発明によって調製された細胞を、1.8×10細胞/皿の密度で、60mm皿上に播種した。誘導は、2群において行われた。1群については、10日間の培養後、各分化誘導培地(脂肪細胞分化培地、軟骨細胞分化培地および骨細胞分化培地)が、本来の培地に交換された(本明細書中では、「培養」とも呼ばれる)。別の1群については、誘導が開始される前にいずれの培養も行われなかった(本明細書中では、「播種」とも呼ばれる)。誘導後の評価は、脂肪細胞についてはオイルレッドO染色を、軟骨細胞についてはアルシアンブルー染色を、骨細胞についてはvon Kossa染色を使用して行われた。
【図12】図12は、図11の続きである。
【図13】図13は、図12の続きである。
【図14】図14は、図13の続きである。
【図15】図15は、図14の続きである。
【図16】図16は、図15の続きである。
【図17】図17は、図16の続きである。
【図18】図18は、図17の続きである。
【図19】図19は、図18の続きである。
【図20】図20は、図19の続きである。
【図21】図21は、図20の続きである。
【図22】図22は、図21の続きである。
【図23】図23は、図22の続きである。
【図24】図24は、図23の続きである。
【図25】図25は、図24の続きである。
【図26】図26は、図25の続きである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;および
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記脂肪吸引廃液は、生理食塩水、またはリンゲル液を使用して調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遠心分離は、800×g以下の範囲内の速度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遠心分離は、400×g以上の範囲内の速度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記比重による遠心分離は、370×g〜1100×gの範囲内の速度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記比重による遠心分離は、20℃における比重が1.076〜1.078g/mlである媒体を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記比重による遠心分離の媒体は、フィコール、パーコール、およびスクロースからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記比重による遠心分離の媒体は、フィコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記収集された細胞層の比重は、比重1.050〜1.075の間の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞層の収集は、ピペットを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞層を、DMEM、M199、MEM、HBSS、Ham’s F12、BME、RPMI1640、MCDB104、MCDB153(KGM)およびそれらの混合物からなる群より選択される成分を含む培地中で培養する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記比重による遠心分離は、密度勾配遠心分離を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
血球を除去する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引由来物質を得る工程;および
B)該脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項15】
前記物質を、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に供する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記条件は、細胞外マトリクスの分解のためのものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞外マトリクスの分解は、コラゲナーゼにより達成される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
工程B)において、上清を除去する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記工程B)由来の物質を濾過する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
血球を除去する工程をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記血球を除去する工程が、血球を分解する成分を加える工程を包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
幹細胞を調製するための方法であって、以下:
i)脂肪吸引由来物質を得る工程;
ii)脂肪組織を単離することなく、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に、該物質を供する工程;
iii)該物質を、遠心分離にかける工程;
iv)該物質に血球を分解する成分を加え、該物質を攪拌する工程;
v)該物質を遠心分離にかけ、ペレットを得る工程;および
vi)該ペレットから、該物質の上清を吸引する工程、
を包含する、方法。
【請求項23】
前記物質を前記条件へ供する工程が、前記脂肪吸引廃液を維持する工程を包含する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記脂肪吸引由来物質が、脂肪吸引廃液と脂肪とを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記工程ii)における前記条件が、コラゲナーゼを加えることを包含する、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記工程iii)における遠心分離が、400〜1200×gにて行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
血球を分解する前記成分が、塩化アンモニウムと炭酸水素カリウムとを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記塩化アンモニウムが、前記成分中に155mMにて含まれる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記炭酸水素カリウムが、前記成分中に10mMにて含まれる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記工程v)における前記遠心分離が、400〜1200×gにて行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記ペレットは、幹細胞を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法によって調製される、幹細胞。
【請求項33】
CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現する、請求項32に記載の幹細胞。
【請求項34】
CD13、CD29、CD34、CD36、CD44、CD49d、CD54、CD58、CD71、CD73、CD90、CD105、CD106、CD151、およびSH3を発現する、請求項33に記載の幹細胞。
【請求項35】
さらに、CD31、CD45、CD117、およびCD146からなる群から選択されるタンパク質の少なくとも1つを発現する、請求項33に記載の幹細胞。
【請求項36】
CD56を発現しない、請求項32に記載の幹細胞。
【請求項37】
CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質を発現しない、請求項32に記載の幹細胞。
【請求項38】
CD3、CD4、CD14、CD15、CD16、CD19、CD33、CD38、CD56、CD61、CD62e、CD62p、CD69、CD104、CD135、およびCD144を発現しない、請求項37に記載の幹細胞。
【請求項39】
CD49dを発現し、CD56を発現しない、請求項32に記載の幹細胞。
【請求項40】
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得るための手段;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけて、細胞画分を得る手段;および
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける手段;
を含む、システム。
【請求項41】
請求項40に記載のシステムであって、該システムは、以下:
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する手段、
をさらに含む、システム。
【請求項42】
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
A)脂肪吸引由来物質を得るための手段;および
B)該脂肪吸引由来物質を遠心分離にかけ、脂肪組織を単離することなく細胞画分を得るための手段;
を含む、システム。
【請求項43】
幹細胞を調製するためのシステムであって、以下:
i)脂肪吸引由来物質を得るための手段;
ii)脂肪組織を単離することなく、該物質を、少なくとも一部の細胞が該物質から分離される条件に供するための手段;
iii)該物質を遠心分離にかける手段;
iv)該物質に血球を分解する成分を加え、該物質を攪拌する手段;
v)該物質を遠心分離にかけ、ペレットを得るための手段;および
vi)該ペレットから該物質の上清を吸引するための手段、
を含む、システム。
【請求項44】
外植片を得るための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;および
E)収集された細胞層を培養して、外植片を得る工程、
を含む、方法。
【請求項45】
組織移植片を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分より収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程、
を含む、方法。
【請求項46】
組織移植片を調製するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;および
E)収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程、
を含む、方法。
【請求項47】
組織移植片を移植するための方法であって、以下:
A)脂肪吸引廃液を得る工程;
B)該脂肪吸引廃液を遠心分離にかけ、細胞画分を得る工程;
C)該細胞画分を比重による遠心分離にかける工程;
D)赤血球よりも比重が軽い細胞層を収集する工程;
E)収集された細胞層を培養して、組織移植片を得る工程;および
F)該組織移植片を移植する工程、
を含む、方法。
【請求項48】
幹細胞を調製するための脂肪吸引廃液の、使用。
【請求項49】
血管内皮前駆細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、および筋細胞からなる群から選択される細胞を調製する方法であって、
請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法によって得られた幹細胞を培養する工程
を含む、方法。
【請求項50】
分化細胞を調製するための方法であって、以下:
A)a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、
b)所望の部位に対応する分化細胞と、
を混合して混合物を得る工程;および
B)該混合物を、脂肪由来前駆細胞が分化するのに十分な条件下で培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項51】
前記分化細胞は、間葉系細胞である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞および膵細胞からなる群より選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記分化細胞への分化を促進する因子を提供する工程をさらに包含する、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
請求項50に記載の方法であって、前記混合物は、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレニウムからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つを含む培地中で培養される、方法。
【請求項55】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、所望の部位に対応する分化細胞とを含む、細胞混合物。
【請求項56】
前記細胞混合物は、前記幹細胞の分化を誘導するのに十分な条件に供されたものである、請求項55に記載の細胞混合物。
【請求項57】
細胞移植のための組成物であって、以下:
a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物。
【請求項58】
前記移植は、前記所望の部位において行われる、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記幹細胞と、前記分化細胞との間の比率は、約1:10〜約10:1である、請求項57に記載の組成物。
【請求項60】
前記幹細胞と、前記分化細胞との間の比率は、約1:2〜約2:1である、請求項57に記載の組成物。
【請求項61】
前記幹細胞と、前記分化細胞との間の比率は、実質的に等量である、請求項57に記載の組成物。
【請求項62】
前記分化細胞は、間葉系細胞を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項63】
前記分化細胞は、脂肪細胞、骨髄細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞および膵細胞からなる群より選択される、請求項57に記載の組成物。
【請求項64】
請求項57に記載の組成物であって、副腎皮質ステロイド、インスリン、グルコース、インドメタシン、イソブチル−メチルキサンチン(IBMX)、アスコルビン酸およびその誘導体、グリセロホスフェート、エストロゲンおよびその誘導体、プロゲステロンおよびその誘導体、アンドロゲンおよびその誘導体、増殖因子、下垂体エキス、松果体エキス、レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、仔ウシ血清、ウマ血清、ヒト血清、ヘパリン、炭酸水素ナトリウム、HEPES、アルブミン、トランスフェリン、セレン酸塩、リノレン酸、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、脱メチル化剤、ヒストン脱アセチル化剤、アクチビン、サイトカイン、ヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジブチルcAMP(dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヨードデオキシウリジン(IdU)、ヒドロキシウレア(HU)、シトシンアラビノシド(AraC)、マイトマイシンC(MMC)、酪酸ナトリウム(NaBu)、ポリブレンおよびセレニウムからなる群より選択される成分のうち少なくとも1つをさらに含む、組成物。
【請求項65】
前記幹細胞と、前記分化細胞とは、互いに同種異系である、請求項57に記載の組成物。
【請求項66】
前記幹細胞と、前記分化細胞とは、互いに同系である、請求項57に記載の組成物。
【請求項67】
分化細胞の不全に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための方法であって、
A)a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物を提供する工程、ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項68】
分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬であって、
a)請求項1〜31に記載の方法で得られた幹細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
【請求項69】
a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、分化細胞の欠損に起因する疾患、障害または異常状態を処置または予防するための医薬の調製のための、使用。
【請求項70】
美容状態を処置または改善するための方法であって、以下:
A)a)請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;および
b)所望の部位に対応する分化細胞、
を含有する、組成物を提供する工程;ならびに
B)被検体に、該組成物を投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項71】
美容状態を処置または改善するため医薬であって、以下:
a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞;
b)所望の部位に対応する分化細胞;および
c)薬学的に受容可能なキャリア、
を含む、医薬。
【請求項72】
a)請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法で得られた幹細胞と、b)所望の部位に対応する分化細胞との混合物の、美容状態を処置または改善するための医薬の調製のための、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−509601(P2007−509601A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519022(P2006−519022)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016717
【国際公開番号】WO2005/042730
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(503368498)株式会社バイオマスター (11)
【Fターム(参考)】