説明

脂肪組織から細胞集団を得る方法

少量の脂肪組織から、多数の、生存可能な、新鮮に単離された細胞を効率よく得る方法、および、その中に見出される標的細胞集団に対し、濃縮もしくは選択する方法が、本明細書中に提供される。特定の実施形態において、脂肪組織から細胞の集団を得る方法は、少なくとも200U/ml溶液かつ約319U/ml溶液以下の濃度で酵素を含む溶液中で、その脂肪組織をインキュベートすることを含む。ある種の実施形態において、その方法には、得られたその細胞集団を拡張する、あらゆる工程が存在しない。特定の局面において、その方法はさらに、脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得るための、陽性もしくは陰性選択工程を含む。患者への投与のための細胞を含む薬学的組成物を調製する関連した方法、および患者における疾患もしくは医学的状態を処置する方法が、本明細書中にさらに提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2008年10月17日に出願された米国仮特許出願第61/106353号に対する優先権を主張し、米国仮特許出願第61/106353号の全体が参考により援用される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
疾患部位に幹細胞を投与することによって疾患を処置するために幹細胞を用いることは、科学者および医者の目標であり、そこでその細胞が組織を再生もしくは修復することが期待される。間葉系幹細胞(間質の幹細胞とも呼ばれる)は、広範囲にわたる増殖能および結合組織系統(骨、軟骨、腱、脂肪など)の子孫を生ずる能力を示すが、これらの細胞は、臨床使用にふさわしい数で収集することが困難であり得る。
【0003】
ヒト脂肪組織は、広範囲にわたる増殖能、および複数の細胞系統に分化する能力を有する細胞集団を含むことが示されている。これらの細胞は、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)もしくは脂肪間質幹細胞(ASC)と呼ばれており、間葉系幹細胞(骨髄間質細胞とも呼ばれる)と同一ではないが、一般的に類似する。非特許文献1。
【0004】
脂肪組織から、細胞(例えば、ADSC)を得る方法は、当該分野において公知であるが、これらの方法は、少量の脂肪組織から最大数の生存可能な細胞を得るように、効率について依然として最適化されるべきである。例えば、上記の非特許文献1は、脂肪組織から細胞を得ることを開示しており、その中ではわずか2×10の細胞が組織から単離されているが、治療の目的での患者への注入のためには代表的に約10から10の細胞が必要とされる(特許文献1)。また、これらの方法の多くは、細胞の増殖および拡張の目的で、脂肪組織から得られた細胞のプレーティングもしくは組織培養工程を包含する。細胞の表現型は、組織培養における時間の関数として変化するため、インビトロの組織培養工程がほとんどない〜全くない、多数の細胞を得る方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/080801号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Fraser et al.、 Methods in Molec Biol 449: 59−67 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、当該分野において、少量の脂肪組織から、多数の、生存可能な、新鮮に単離された細胞を効率よく得る、最適化された方法の必要性が存在する。目的の細胞(例えば、CD34陽性細胞)について、脂肪組織由来の細胞産物を濃縮するための方法がさらに必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
少量の脂肪組織から、多数の、生存可能な、新鮮に単離された細胞を効率よく得る方法、および、その中に見出される標的細胞集団を濃縮もしくは選択する方法が、本明細書中に提供される。
【0009】
特定の実施形態において、脂肪組織から細胞の集団を得る方法は、少なくとも200U/ml溶液かつ約319U/ml溶液以下の濃度で酵素を含む溶液中で、その脂肪組織をインキュベートすることを含む。ある種の実施形態において、その方法には、得られたその細胞集団を拡張する、あらゆる工程が存在しない。特定の局面において、その方法はさらに、脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得るための、陽性もしくは陰性の選択工程を含む。この点で、本発明はまた、脂肪組織から細胞集団を得ること、ならびに一次抗体を含む第二の溶液内でその細胞集団をインキュベートし、それによって、標的細胞の濃縮された集団を得ることを含む、脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得る方法を提供する。この一次抗体は、その細胞集団を、標的細胞を含むサブ集団と標的細胞を実質的に含まないサブ集団とに分ける。
【0010】
本発明はさらに、本明細書中に記載した方法にしたがって得られた細胞集団(例えば、標的細胞の濃縮された細胞集団)を提供する。
【0011】
その脂肪組織から得られた細胞集団(例えば、標的細胞の濃縮された細胞集団)を含む薬学的組成物を調製する関連した方法、およびこれらの方法にしたがって調製された薬学的組成物、および患者における疾患もしくは医学的状態を処置する方法においてその薬学的組成物を用いる方法が、本明細書中に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、抗体を基にした陽性選択技術の概略図を表す。標的細胞(すなわち、「S」の印がつけられた選択された細胞)は、脂肪組織の間質血管画分(stromal vascular fraction;SVF)の一部であり、CD34陽性細胞である。一次抗体(抗CD34 mAb)は、CD34陽性細胞(「S」の印が付けられている)に結合し、二次抗体(SAM Ig抗体)が次いで一次抗体に結合する。二次抗体を常磁性ビーズに結合し、免疫複合体をSVF画分から取り出すために磁石を用いた。CD34陽性細胞を放出させるために、放出ペプチド(三角形として示される)が複合体に加えられ、標的細胞上の一次抗体およびCD34抗原の置換が起こり、精製されたCD34陽性細胞集団が提供される。
【図2】図2は、本明細書中に記載された、脂肪組織の分解後に得られた細胞のマルチカラーフローサイトメトリーのパネルを表す。明るい(明)およびうす暗い(暗)CD34 ASCおよびMSC、ならびにリンパ球、内皮細胞および造血系前駆細胞が示される。破片もしくは死んだ細胞もまた、ゲートされた集団である。
【図3】図3は、図1で概略を述べた、選択前(左のパネル)および選択後(右のパネル)のSVFのフローサイトメトリーのパネルを表す。CD34(明)/CD45−、CD34(明)/CD45+、CD34(暗)/CD45−集団が示される。
【図4】図4は、集団AからCが標識されていることを除き、図2と同じフローサイトメトリーのデータを表す。
【図5】図5は、レーザードップラー画像の時間経過のグラフを表す。そのデータは、本明細書中に記載された、PBSのみ、非選択細胞、もしくはCD34陽性選択細胞を投与されたマウスの、非虚血肢と比較した虚血肢における灌流(%)として表される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、脂肪組織から細胞集団を得る方法を提供する。その方法は、細胞生存率を損なうことなく、脂肪組織1ml当たり最大数の細胞の放出を達成するように最適化された濃度で酵素を含む溶液中で、脂肪組織をインキュベートすることを含む。
【0014】
脂肪組織
本発明に関して、脂肪組織は、脂肪細胞で構成された緩やかな結合組織である、あらゆる体脂肪(もしくは脂肪)であり得る。ある種の実施形態においては、その脂肪組織は、骨髄性脂肪組織、褐色脂肪組織、乳房脂肪組織(mammary adipose tissue)、機械的な脂肪組織(mechanical adipose tissue)、もしくは白色脂肪組織である。その脂肪組織は、提供者のあらゆる体の部位から得られ得る。特定の実施形態において、その脂肪組織は、提供者の大腿部、臀部、腹部、もしくは上肢から得られる。他の実施形態では、その脂肪組織は、提供者の胸、首、背、もしくは、ふくらはぎから得られる。さらに、他の実施形態では、その脂肪組織は、心臓、腎臓、大動脈、生殖線、後眼窩(retroorbital)、もしくは手掌(palmar)の脂肪パッドから得られる。特定の局面では、その脂肪組織は、皮下脂肪である。脂肪組織の提供者は、あらゆる宿主であり得る。その宿主としては、本明細書中に記載された任意のものが挙げられるが、これらに限定されない。ある種の実施形態では、その提供者は哺乳動物である。特定の実施形態では、その提供者はヒトである。
【0015】
その脂肪組織は、脂肪組織を得るための任意の適切な方法により、提供者から得られ得る。そのような方法は、当該分野において公知である。ある種の実施形態において、その脂肪組織は、手術もしくは脂肪吸引により、提供者から得られる。したがって、ある種の実施形態において、脂肪組織は脂肪吸引物(lipoaspirate)である。
【0016】
本発明に関して、酵素溶液とともにインキュベートされる脂肪組織の量は、例えば、0.01g、0.1g、もしくは、1gから5g、10g、50g、もしくは、100gの任意の脂肪組織の量であり得る。
【0017】
酵素溶液
本発明に関して、本明細書中で用いられる用語「溶液」は、組織もしくは細胞を酵素と接触させるために適した、あらゆる媒体を指す。その溶液は、任意の粘性もしくは濃度を有し得、ある種の局面において、その溶液は水溶液である。代替の実施形態において、その溶液は、室温で半固体の媒体である。特定の具体的な局面において、その溶液は、本明細書中でさらに記載されるように、組織培養培地である。
【0018】
溶液中に含まれる酵素は、組織、例えば、結合組織(例えば、脂肪組織内で見出される結合組織)を分解することが知られている、あらゆる酵素であり得る。ある種の局面において、その酵素は、結合組織を分解する酵素である。ある種の実施形態において、その酵素は、動物もしくは非動物源から得られるか、もしくは、それらに由来する。ある種の実施形態において、その酵素は、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、もしくは、プロテイナーゼである。特定の具体的な実施形態において、その酵素は、コラゲナーゼ、トリプシン、もしくは、ディスパーゼ、または、それらの機能的均等物、改変体、誘導体、変異体、もしくはアナログである。その酵素は、ある種の実施形態において、酵素の混合物、例えば、コラゲナーゼ、トリプシンもしくはディスパーゼのうちの少なくとも1つ、または2つを含む混合物である。その酵素は、特定の実施形態において、Liberase Blendzyme(Roche)である。本明細書中における、目的に適した酵素は、当該分野において公知であり、企業から市販されている。その企業としては、Sigma Aldrich(St.Louis、Missouri)、Worthington Biochemcial(Lakewood、New Jersey)、および、Roche(Indianapolis、IN)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
酵素濃度
上記酵素の濃度は、上記脂肪組織からの最大量の細胞の放出のための、その脂肪組織の分解を達成するために十分に大きいものであるべきである。したがって、ある種の実施形態において、上記方法は、少なくとも約200U/ml溶液(例えば、少なくとも約205U/ml溶液、少なくとも約210U/ml溶液、少なくとも約215U/ml溶液、少なくとも約220U/ml溶液、少なくとも約225U/ml溶液、少なくとも約230U/ml溶液、少なくとも約235U/ml溶液、少なくとも約240U/ml溶液、少なくとも約245U/ml溶液、少なくとも約250U/ml溶液、少なくとも約260U/ml溶液、少なくとも約265U/ml溶液、少なくとも約270U/ml溶液、少なくとも約280U/ml溶液、少なくとも約285U/ml溶液、少なくとも約290U/ml溶液、少なくとも約300U/ml溶液、少なくとも約310U/ml溶液、少なくとも約315U/ml溶液、もしくは、それより大きい)の濃度で酵素を含む溶液中で、脂肪組織をインキュベートすることを含む。
【0020】
本発明に関して、細胞がもはや生存できないほど脂肪組織を過分解しないよう注意が払われるべきである。当業者は、過分解が、分解反応(以下に論じるように)において、酵素量を分解反応の時間と釣り合わせることによって避けられることを正しく認識する。したがって、ある種の実施形態において、上記方法は、約500U/ml溶液以下(例えば、約475U/ml溶液以下、約450U/ml溶液以下、約425U/ml溶液以下、約400U/ml溶液以下、約375U/ml溶液以下、約350U/ml溶液以下、約325U/ml溶液以下、約320U/ml溶液以下、約319U/ml溶液以下、約315U/ml溶液以下、約310U/ml溶液以下、約305U/ml溶液以下)の濃度で酵素を含む溶液中で、脂肪組織をインキュベートすることを含む。
【0021】
特定の実施形態において、上記方法は、約190U/mlと319U/mlの間(例えば、約200U/mlと約300U/mlの間、約205U/mlと295U/mlの間、約210U/mlと290U/mlの間、約215U/mlと約285U/mlの間、約220U/mlと約280U/mlの間、約225U/mlと約275U/mlの間、約230U/mlと約270U/mlの間、約235U/mlと約265U/mlの間、約240U/mlと約260U/mlの間、約245U/mlと約255U/mlの間)の濃度で酵素を含む溶液中で、脂肪組織をインキュベートすることを含む。
【0022】
特定の実施形態において、上記方法は、約245U/ml、約246U/ml、約247U/ml、約248U/ml、約249U/ml、約250U/ml、約251U/ml、約252U/ml、約253U/ml、約254U/ml、もしくは、約255U/ml)の濃度で酵素を含む溶液中で、脂肪組織をインキュベートすることを含む。
【0023】
ある種の実施形態において、脂肪組織の量(例えば、容量)と酵素の量(酵素溶液の容量)の比は、約1:1、1:2、2:1、1:3、3:1、1:4、4:1、1:5、5:1である。
【0024】
分解時間
ある種の実施形態において、上記酵素を含む溶液と脂肪組織のインキュベーションは、約5分と5時間、もしくは、それより長くの間の時間行う。ある種の実施形態において、酵素溶液と脂肪組織のインキュベーションは、約15分と約1.5時間の間、約25分と約1.25時間の間、もしくは、約30分と約60分の間の時間行う。ある種の局面において、脂肪組織は酵素溶液と約45分と55分の間の時間インキュベートされる。この点で、特定の実施形態における脂肪組織は、酵素溶液中で約45分間、約46分間、約47分間、約48分間、約49分間、約50分間、約51分間、約52分間、約53分間、約54分間、もしくは、約55分間インキュベートされる。
【0025】
再度、当業者は、過分解が、分解反応における酵素量(上で論じた通り)とその分解反応の時間とを釣り合わせることによって避けられることを認識する。
【0026】
その他の分解条件および工程
ある種の実施形態において、上記酵素溶液中で上記脂肪組織がインキュベートされる温度は、分解を可能にする任意の適した温度(例えば、酵素を不活性化しない温度)である。ある種の実施形態における温度は、約20℃と50℃の間(例えば、約25℃、約30℃、約31℃、約32℃、約33℃、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃、約41℃、約42℃、約43℃、約44℃、約45℃)である。
【0027】
ある種の実施形態における上記酵素溶液と脂肪組織のインキュベーションは、脂肪組織および酵素溶液を入れている容器の振とう、振動、回転、または、他の動きもしくは機械的な攪拌の存在下で行われる。他の実施形態において、インキュベーションは、前述のどれも存在せずに保たれる。
【0028】
ある種の実施形態において、上記方法は、当該分野において記載された、任意の、組織の収集工程、組織の処理工程、および組織の洗浄工程のようなさらなる工程を含む。例えば、上記の特許文献1および非特許文献1を参照のこと。ある種の実施形態において、上記方法は、上記酵素が不活性化される不活性化工程を含む。ある種の実施形態において、高濃度のウシ胎仔血清を含む溶液が、上記酵素を不活性化するために用いられる。ある種の実施形態において、上記方法は、脂肪組織の分解画分と非分解画分とを分けることを含む。上記方法は、ある種の実施形態において、細胞ペレットを遠心分離すること、および/もしくは、濾過すること、および/もしくは、洗浄すること、および/もしくは、再懸濁することを含む。
【0029】
このような追加的考慮点およびさらなる工程は、当該分野において公知であるか、もしくは、決定するための当業者の技術の範囲内であるかのいずれかである。例えば、米国特許第6,777,231号、特許文献1、上記の非特許文献1、Bunnell et al.、Methods 45:115−120(2008);Gimble et al.、Cytotherapy 5:362:369(2003);Locke et al.、ANZ Journal of Surgery 79:235−244(2009);およびBoquest et al.、Methods in Molec Biol 325:35−46(2006)を参照のこと。
【0030】
特定の実施形態において、本明細書中に記載された方法は、細胞の増殖もしくは拡張の目的で得られた細胞を培養する必要なく、脂肪組織から多数の生存可能な細胞を得る。この点で、ある種の実施形態において、上記方法には、脂肪組織から得られた細胞集団を拡張する、あらゆる工程が存在しない。他の実施形態において、組織培養における時間は、限定的であり、かつ最小である。ある種の実施形態において、細胞は、8時間以下の間、12時間以下の間、18時間以下の間、24時間以下の間、36時間以下の間、もしくは48時間以下の間、培養もしくはプレートされる。
【0031】
分解された脂肪組織から得られた細胞集団
本発明の方法は、脂肪組織の酵素分解において最大数の生存可能な細胞を得るために最適化される。ある種の実施形態において、脂肪組織1ml当たり得られる生存可能な細胞数は、少なくとも約10、約2×10、約3×10、約4×10、約5×10、約6×10、約7×10、約8×10、約9×10、約10、約10もしくは、それより多い。
【0032】
ある種の実施形態における脂肪組織から得られた細胞集団は、異種細胞集団である。ある種の実施形態において、脂肪組織から得られた細胞集団は、脂肪間質幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、プレ脂肪細胞、内皮細胞もしくはそれらの前駆細胞、繊維芽細胞、マクロファージ、リンパ球、肥満細胞、または、それらの組み合わせを含む。ある種の実施形態において、細胞集団は、脂肪細胞および赤血球を実質的に含まないか、または最小限にしか含まない。特定の実施形態における細胞集団は、脂肪組織の間質血管画分である。脂肪由来の幹細胞は、米国特許第6,777,231号に、さらに記載されている。ヒトCD34+幹細胞は、米国特許第5,130,144号;第5,035,994号;第4,965,204号に記載されている。ある種の実施形態において、得られた細胞集団は、接着細胞および/もしくは非接着細胞を含む。
【0033】
脂肪組織から得られた集団の細胞は、細胞表面マーカーの表現型によって特徴づけられ得る。ある種の実施形態において、上記集団は、本明細書中に記載されたいずれかのような、細胞マーカーの発現について陽性の細胞を含む。ある種の実施形態において、上記集団は、CD34に対して陽性である細胞を含む。得られる細胞のさらなる説明は、本明細書中に記載される。
【0034】
脂肪組織から得られた細胞集団の選択/濃縮
本発明のある種の実施形態において、上記方法は、所望される細胞もしくは標的細胞のサブ集団に対して選択すること、単離すること、濃縮すること、もしくは精製することをさらに含む。この点で、本発明はまた、脂肪組織から、標的細胞の濃縮された集団を得る方法を提供する。標的細胞に対し、精製する方法、セルソーティングする方法および濃縮する方法は、当該分野において公知であり、例えば、蛍光活性化セルソーティング、遠心分離、および抗体を基にした捕捉技術を含む。
【0035】
ある種の実施形態において、脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得る方法は、本明細書中に記載された方法にしたがって、脂肪組織から細胞の集団を得ることを含む。その方法は、例えば、脂肪組織を消化酵素を含む溶液とともにインキュベートすること、その細胞の集団を一次抗体とインキュベートし、それにより、標的細胞の濃縮された集団を得ることを含む。この一次抗体は、その細胞集団を、標的細胞を含むサブ集団と標的細胞を実質的に含まないサブ集団とに分ける。
【0036】
本明細書中で用いられる場合、用語「実質的に含まない」は、ある程度欠如していることを意味する。「実質的に含まない」は、相対的な用語であり、必ずしも、絶対的な非存在、もしくは、完全な非存在とみなされるべきではないことが認識される。したがって、ある種の局面において、標的細胞を実質的に含まないサブ集団は、標的細胞を含むが、そのサブ集団の約15%またはそれ未満のみが標的細胞である。ある種の局面において、標的細胞を実質的に含まないサブ集団の約10%以下が、標的細胞である。ある種の局面において、標的細胞を実質的に含まないサブ集団の約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、もしくは約1%以下が、標的細胞である。
【0037】
陰性選択
上記分解された組織はまた、最終産物のためにあまり目的としていないか、もしくは、全く目的としていない細胞に対する抗体とともにインキュベートされ得る。ある種の実施形態において、標的細胞がCD34陽性細胞であるとき、非標的細胞に対する抗体は、脂肪組織分解のあとで、もしくは、その細胞特異的抗体に対する抗体で覆われた常磁性ビーズとのインキュベーションのあとで得られた細胞とともにインキュベートされ得る。上に記載されたプロセスを通して、そのような所望されない(非標的)細胞は、次いで、必要に応じて分解物から単離され、そこから除去される。得られた分解物は、今や、より低い濃度しか〜全く所望されない細胞を含まず、結果として、より高濃度の所望される細胞(例えば、CD34+細胞)を含む。このような細胞の取り出しの例は、CD45、グリコホリン‐aおよび/もしくは、CD31を発現している細胞の脂肪分解物の減少を含む。
【0038】
上記の通り、ある種の実施形態における標的細胞のサブ集団は、その標的細胞によって発現されないかもしくは低レベルで発現される細胞マーカーに対して特異的な抗体である一次抗体を用いることによって濃縮され、選択され、もしくは、精製される。特定の具体的な実施形態において、一次抗体は、CD45、グリコホリンAおよびCD31からなる群から選択される細胞マーカーに対して特異的な抗体である。
【0039】
陽性選択
ある種の実施形態における標的細胞のサブ集団は、その標的細胞によって発現される細胞マーカーに対して特異的な抗体である一次抗体を用いることによって濃縮され、選択され、もしくは、精製される。ある種の実施形態において、その標的細胞によって発現される細胞マーカーは、CD34である。ある種の実施形態において、その標的細胞は、CD34陽性細胞である。特定の実施形態において、一次抗体は、CD34に特異的に結合する抗体である。CD34特異的抗体は、当該分野において公知であり、市販されている。例えば、米国特許第4,965,204号を参照のこと。ある種の実施形態において、そのCD34特異的抗体は、Isolex 300iキット(Baxter、Deerfield、IL)において提供される抗体である。
【0040】
ある種の局面において、脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得る方法は、陰性選択手順および陽性選択手順の両方を含む。
【0041】
ある種の実施形態において、一次抗体は、10標的細胞当たり約0.01μgと10標的細胞当たり約10μgとの間、10標的細胞当たり約0.1μgと10標的細胞当たり約5μgとの間、もしくは、10標的細胞当たり約1μgと10標的細胞当たり約3μgとの間の終濃度で細胞の集団とともに存在する。ある種の実施形態において、一次抗体は、10標的細胞当たり約2.5μgの終濃度にある。
【0042】
ビーズ
ある種の実施形態において、細胞集団をサブ集団に分ける一次抗体は、固相支持体(例えば、ビーズ、膜)上に「捕捉される」。ある種の実施形態において、固相支持体は、ビーズであり、そのビーズは脂肪組織から得られた細胞の集団(例えば、脂肪組織の分解から得られた細胞の集団)とともにインキュベートされる。ある種の局面において、ビーズ(複数)とのインキュベーションは、これらの細胞の一次抗体とのインキュベーションの前もしくは後に行われる。ある種の実施形態において、そのビーズ(複数)は、一次抗体と同時に脂肪組織から得られた細胞の集団とともにインキュベートされる。一旦、細胞の集団がそのビーズ(複数)と一次抗体の両方とともにインキュベートされると、ビーズ、一次抗体、および標的細胞もしくは非標的細胞を含む複合体が形成される。
【0043】
ある種の実施形態において、そのビーズは、一次抗体に結合するタンパク質を含む。特定の実施形態において、そのタンパク質は、一次抗体(例えば、一次抗体のFc領域)に特異的に結合する二次抗体である。ある種の実施形態において、そのタンパク質は、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインL(例えば、黄色ブドウ球菌由来のプロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインL)である。
【0044】
ある種の実施形態において、そのビーズは、約1:1と5:1の間のビーズ数と標的細胞数の比で、細胞の集団とともにインキュベートされる。ある種の実施形態において、その比は、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、もしくは約5:1である。
【0045】
特定の局面において、標的細胞の濃縮された集団を得る方法は、ビーズと、一次抗体と、標的細胞または非標的細胞のいずれかとを含む複合体を、細胞、ビーズ、および一次抗体を含んだ細胞集団から取り出すことによって、細胞集団を、標的細胞を含むサブ集団と標的細胞を実質的に含まないサブ集団とに分けることを含む。ビーズを取り出す方法は、当該分野において公知である。ある種の実施形態において、そのビーズは、常磁性ビーズであり、そのビーズは、磁石で取り出される。ある種の実施形態において、ビーズは、遠心分離によって分けられる。
【0046】
ある種の実施形態において、ビーズおよび一次抗体を含む複合体は、さらに標的細胞もしくは非標的細胞を含む。複合体が非標的細胞を含む実施形態において、標的細胞は、ビーズが取り出された溶液内に含まれる。ある種の実施形態において、標的細胞を濃縮もしくは精製するために、それ以上の工程は取られない。
【0047】
放出ペプチド
複合体が標的細胞を含む、ある種の実施形態において、その方法は、標的細胞を複合体から放出するためのさらなる工程を含む。この目的のために、特定の局面において、その方法は、複合体を放出ペプチドとともにインキュベートすること含む。本明細書中で用いられる場合、用語「放出ペプチド」は、ペプチド結合によって連結された少なくとも2つのアミノ酸を含む、標的細胞から一次抗体を分離させるあらゆる分子である。
【0048】
ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、CD34のエピトープもしくは一次抗体のエピトープ(例えば、一次抗体のCDR)であるエピトープを含む。ある種の局面において、その放出ペプチドは、可溶性のCD34(例えば、CD34の可溶性フラグメント)、もしくはPR34ペプチドであり、米国特許第5,968,753号および第6,017,719号に記載されている。ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、これらの特許に記載された任意のものである。ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、Isolex 300iキット(Baxter、Deerfield、IL)の一部として提供されるものである。
【0049】
ある種の実施形態において、その放出ペプチドの濃度は、約0.01mg/mlと10mg/mlとの間、約0.1mg/mlと約5mg/mlとの間、もしくは約1mg/mlと約2mg/mlとの間の終濃度で複合体とともに存在する。ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、約2mg/mlの終濃度にある。
【0050】
ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、回転、振とう、もしくは他の動きの間に複合体とともにインキュベートされる。ある種の実施形態において、その放出ペプチドは、動きなしでインキュベートされる。
【0051】
特定の実施形態において、その複合体は、放出ペプチドを介した標的細胞からの一次抗体の置換の効率を高めるために、粉砕(triturate)される。ある種の実施形態において、粉砕すること(triturating)は、注射器、ピペット、もしくは、細胞が通り得る比較的小さい穴を有し、複合体形成の際に形成された細胞凝集物の破壊を容易にする類似の道具で達成される。特定の局面において、その方法は、少なくとも約30秒間、少なくとも約1分間、少なくとも約5分間、少なくとも約10分間、少なくとも約15分間、少なくとも約25分間、少なくとも約30分間、少なくとも約45分間、少なくとも約60分間、少なくとも約90分間、少なくとも約120分間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、粉砕することを含む。ある種の局面において、その方法は、約10時間以下(例えば、約5時間以下)の間、粉砕することを含む。
【0052】
特定の実施形態において、粉砕(trituration)は、放出ペプチドの存在下で行われる。他の実施形態において、粉砕は、放出ペプチドの存在なしに行われる。例えば、粉砕は、放出ペプチドの添加前に行われる。ある種の実施形態において、粉砕は、放出ペプチドの添加前に行われ、粉砕および放出ペプチドの添加は、互いの約30秒以内に、互いの約60秒以内に、互いの約1.5分以内に、互いの約2分以内に、互いの約5分以内に、互いの約10分以内に、互いの約15分以内に、互いの約30分以内に、互いの約45分以内に、互いの約60分以内に、行われる。
【0053】
例示的な実施形態
特定の実施形態において、コラゲナーゼもしくは類似の酵素での脂肪組織の分解後、分解された組織は、次に、抗CD34陽性抗体とともに、または、CD34+細胞上もしくはCD34+細胞内に含まれる他のエピトープ/酵素/タンパク質について選択する抗体とともに、インキュベートされる。その抗体/分解物の混合物は、続いて、CD34陽性抗体に対する抗体で覆われた常磁性ビーズとともにインキュベートされる。そのビーズ−抗体は、CD34+細胞−抗体複合体と複合体を形成し、細胞−抗体−ビーズ複合体を形成する。この数珠状になった複合体は、次に磁石の使用によって、脂肪組織分解物の残りから分けられる。次いで、磁石に結合しない物質は結合した物質から洗い落とされ、得られた結合した物質は、次に、抗CD34陽性抗体について競合するペプチドとともにインキュベートされる。このようなペプチドは、抗CD34陽性抗体について、競合的であるかもしくはより高い親和性を有し、その結果、細胞が、ビーズ、抗体および磁性物質から放出される。このプロセスは、ペプチドが抗体およびビーズを取り除き、それによって細胞を放出するのを可能にするために、その細胞複合体の凝集物を壊すための穏やかな機械的な攪拌(粉砕)によって増進される。そのペプチド−抗体−ビーズ複合体は、次に、磁石の使用により取り出された。
【0054】
抗体選択技術(Isolex 300i、Baxter Healthcare Corp.、Deerfield、IL)は、患者の血液もしくは骨髄からヒトCD34+幹細胞を単離、精製および収集するために用いられる(米国特許第5,536,475号;第6,251,295号;第5,968,753号;第6,017,719号)。ある種の局面において、濃縮プロセスは、Isolexシステム、例えば、上記Isolex 300iシステムもしくは、それの改変(Baxter、Deerfield、IL)で行われる。
【0055】
ある種の実施形態において、さらなる考慮点および追加的工程が取られ得る。本発明の局面は、本明細書中に記載された工程の組み合わせを含む。ある種の実施形態は、標的細胞をCD34陽性細胞として包含するが、類似のプロセスは、CD271陽性細胞、CD117陽性細胞、CD133陽性細胞もしくはCD31陽性細胞のような他の細胞について選択するために利用され得る。このような類似のプロセスは、例えば、抗‐CD271、抗‐CD117、抗‐CD133および抗CD31のような抗体の使用を包含する。本発明は、最終の得られた増進された脂肪組織分解物がこれらの細胞もしくは、その細胞の混合物の1つ(増加した濃度の、上で列挙された細胞の全ての細胞を含む増進された組織が挙げられるが、これに限定されない)について濃縮されるような、単独での、または他の1もしくはそれより多くのプロセスと組み合わせての、任意のこれらの選択プロセスの使用を企図する。
【0056】
特定の実施形態において、本明細書中に記載された方法は、細胞の増殖もしくは拡張の目的で細胞を培養する必要なく、脂肪組織から標的細胞の集団を得る。この点で、ある種の実施形態において、その方法には、得られた標的細胞の集団を拡張する、あらゆる工程が存在しない。他の実施形態において、組織培養における時間は、限定的であり、かつ最小である。ある種の実施形態において、標的細胞は、8時間以下の間、12時間以下の間、18時間以下の間、24時間以下の間、36時間以下の間、もしくは48時間以下の間、培養もしくはプレートされる。
【0057】
ある種の局面において、標的細胞は、一旦、脂肪組織から得られた細胞の集団から選択もしくは精製されると、さらに改変される。ひとつの代替としては、細胞は、標的細胞の集団を拡張する目的、遺伝子を標的細胞内に送達する目的、標的細胞を分化させる目的、または、治療剤もしくは診断剤などの化合物を標的細胞に結合体化する目的で、インビトロで培養される。これらのさらなる工程を実施する方法は、当該分野において周知である。例えば、Sambrook et al.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、2001;Ogawa et al.、Blood 81:2844−2853(1993);米国特許第7,144,731号;Li et al、FASEB J 15:586(2001);Norol et al.、Experimental Hematology 35(4):653−661(2007);Verhoeyen and Cosset、Gene Transfer:Delivery and Expression of DNA and RNA、eds.Friedmann and Rossi、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、2007を参照のこと。
【0058】
細胞集団
本発明の方法は、脂肪組織から細胞の集団を提供する。したがって、本発明は、脂肪組織から細胞の集団をさらに提供する。ある種の実施形態において、本発明の細胞の集団は、(i)脂肪組織から得られたかもしくはそれに由来した、細胞拡張の目的での組織培養における時間がほとんどなかった〜全くなかった初代細胞の集団であり、(ii)接着細胞および非接着細胞を含み、(iii)CD34陽性細胞を含み、または、(iv)(i)から(iv)までの組み合わせ、である。本発明の細胞の集団がCD34陽性細胞を含むある種の実施形態において、その集団の細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)が、CD34陽性細胞である。細胞の集団が、脂肪組織から得られたか、もしくは、それに由来した、細胞拡張の目的での組織培養における時間がほとんどなかった〜全くなかった初代細胞の集団である、ある種の実施形態において、その細胞は限定的かつ最小で、組織培養中に存在していた。ある種の実施形態において、細胞は、8時間以下の間、12時間以下の間、18時間以下の間、24時間以下の間、36時間以下の間、もしくは48時間以下の間、培養もしくはプレートされたものである。ある種の実施形態において、細胞は、培養もしくはプレートされなかったものである。
【0059】
ある種の実施形態において、その細胞の集団は、選択工程を伴い、もしくは、伴わず、本明細書中に記載されたあらゆる方法にしたがって脂肪組織を分解する際に得られた集団である。
【0060】
ある種の実施形態において、本発明の細胞集団は、実質的に単離される。本明細書中で用いられる場合、用語「単離された」は、その天然な環境から取り出されたことを意味する。その集団の細胞は、脂肪組織から得られ、かつ取り出されたので、ほとんどの実施形態における細胞は、「単離された」細胞と考えられる。
【0061】
ある種の実施形態において、本発明の細胞集団は、実質的に精製もしくは濃縮もしくは選択される。本明細書中で用いられる場合、用語「精製された」、「濃縮された」および「選択された」は、もとの組成物の他成分から分けられた結果、純度に関して高められたことを意味する。「純度」もしくは「濃縮」もしくは「選択」は、相対的な用語であり、必ずしも、絶対的な純度、もしくは、絶対的な濃縮、もしくは、絶対的な選択とみなされるべきではないことが認識される。ある種の局面において、純度は、少なくとも約50%であり、60%、70%、80%、もしくは90%より高く、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%もしくは、約100%である。ある種の実施形態において、濃縮もしくは選択は、もとの組成物と比較すると1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、50倍、100倍、1000倍の濃縮もしくは選択である。ある種の実施形態において、濃縮された集団における標的細胞の割合は、選択前もしくは精製前の細胞の集団における標的細胞の割合の約1.5倍から約5倍である。ある種の実施形態において、濃縮された集団における標的細胞の割合は、抗体を基にした選択前だが酵素溶液で分解後の細胞の集団における標的細胞の割合の、約1.5倍から約5倍である。
【0062】
ある種の実施形態において、本発明の細胞の集団は、脂肪細胞、白血球および/もしくは赤血球から実質的に精製される。すなわち、脂肪組織から得られた細胞の集団には、脂肪細胞、白血球および/もしくは赤血球が実質的に存在しない。ある種の局面において、本発明の細胞の集団は、破片もしくは死んだ細胞から実質的に精製される。
【0063】
ある種の実施形態において、細胞の集団は、陽性選択工程を経たものである。ある種の実施形態において、細胞の集団は、陰性選択工程を経たものである。ある種の実施形態において、細胞の集団は、陽性選択工程および陰性選択工程の両方を経たものである。ある種の局面において、本発明の細胞の集団は、標的細胞の濃縮された集団である。ある種の実施形態において、本発明の細胞の集団は、本明細書中に記載されたあらゆる方法にしたがって脂肪組織から得られた標的細胞の濃縮された集団である。
【0064】
ある種の実施形態において、細胞の集団(例えば、標的細胞の濃縮された集団)は、実質的に同質の細胞の集団である。ある種の局面において、細胞の集団(例えば、標的細胞の濃縮された集団)は、集団の各細胞が、集団の別の細胞と遺伝子学的に識別のつかない、標的細胞のクローンの集団である。
【0065】
ある種の実施形態において、細胞の集団(例えば、標的細胞の濃縮された集団)は、異質性の細胞の集団である。ある種の実施形態において、その異質性の細胞の集団は、標的細胞のみを含むが、この集団はクローンの集団ではない(例えば、互いに遺伝子学的に識別がつかないわけではない)。ある種の実施形態において、細胞の集団の実質的な部分は、1つ、もしくはそれより多い共通の細胞マーカー(例えば、CD34)を発現するが、他の細胞マーカーの発現レベルは、集団の細胞によって異なる。ある種の局面において、標的細胞はCD34+細胞であり、そのCD34+細胞は、脂肪細胞、リンパ球、マクロファージ、間葉系幹細胞である。
【0066】
ある種の実施形態において、その異質性の集団は、標的細胞以外の細胞である、他のタイプの細胞を含む。ある種の局面において、その異質性の細胞の集団は、標的細胞に加え、白血球(骨髄性系統の白血球もしくはリンパ系系統の白血球)、赤血球、内皮細胞、循環する内皮前駆細胞、上皮細胞、腎細胞、肺細胞、骨細胞、骨髄球、ニューロン、平滑筋細胞を含む。
【0067】
ある種の具体的な局面において、その集団はさまざまな細胞種を含み、その集団の実質的な部分は、共通の表現型、共通の生物学的機能、または、共通の成熟状態もしくは共通の分化状態を含む。具体的な局面において、その集団における細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、幹細胞(例えば、脂肪間質幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞)である。具体的な局面において、その集団における細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、内皮細胞である。
【0068】
ある種の実施形態において、細胞の集団は、接着細胞もしくは非接着細胞を含む。ある種の実施形態において、脂肪組織から得られた細胞の集団は、接着細胞および非接着細胞の両方を含む。
【0069】
特定の表現型を有する細胞を単離、精製、選択、濃縮する適切な方法は、当該分野において公知であり、例えば、光学フローソーター(例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS))を用いた方法、および非光学フローソーター(例えば、磁気活性化セルソーティング)を用いた方法、および本明細書中に記載された方法を含む。
【0070】
細胞マーカー
脂肪組織から得られた細胞の集団(標的細胞の濃縮された集団を含む)は、ある種の実施形態において、異質性の細胞集団であり、そこでは、その集団における細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、特定の表現型(例えば、細胞マーカーの発現について陽性および/もしくは細胞マーカーの発現について陰性である)を有する。本発明のある種の実施形態において、脂肪組織から得られた集団の細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、CD34陽性細胞である。本発明のある種の実施形態において、その集団の細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、CD45陰性細胞である。本発明のある種の実施形態において、その細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、以下の任意の細胞マーカー:CD140b、CD90、CD31、CD105、CD73、CD144、CD105、CD106、CD44、CD146、の発現について陽性である。本発明のある種の実施形態において、その細胞の少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%)は、以下の任意の細胞マーカー:CD140b、CD90、CD31、CD105、CD73、CD144、CD105、CD106、CD44、CD146、の発現について陰性である。
【0071】
薬学的組成物を調製する方法
脂肪組織から得られた標的細胞の濃縮された集団を含む細胞の集団は、治療上の価値を有すると考えられる。この点で、本発明は、患者への投与のための細胞を含む薬学的組成物を調製する方法をさらに提供し、この方法は、本明細書中に記載されたあらゆる方法にしたがって得られた細胞の集団(例えば、標的細胞の濃縮された集団)を薬学的に受容可能なキャリアと調合することを含む。
【0072】
ある種の局面において、脂肪組織の提供者は、患者と同一である。この点で、その細胞(例えば、標的細胞)は、患者にとって「自己由来(autologous)」と考えられる。ある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)の提供者は、患者と異なるが、その提供者および患者は同じ種である。この点で、その細胞(例えば、標的細胞)は、「同種由来(allogeneic)」と考えられる。
【0073】
特定の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は、脂肪組織から新鮮に得られた。具体的な局面において、その細胞は限られた程度(例えば、4時間以下、6時間以下、8時間以下、12時間以下、18時間以下、24時間以下、36時間以下、もしくは48時間以下)でのみ培養もしくはプレートされた。他の局面において、その細胞は、薬学的に受容可能なキャリアと調合される前に培養もしくはプレートされなかった。
【0074】
薬学的組成物
本発明は、本明細書中に記載されたあらゆる方法によって得られ、薬学的に受容可能なキャリアと調合された細胞の集団(例えば、標的細胞の濃縮された集団)を含む薬学的組成物をしかるべく提供する。この点で、本発明は、細胞(例えば、標的細胞)および薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。そのキャリアは、慣例的に使用される任意のものであり、可溶性および活性化合物(複数)との反応性の欠如のような物理化学的考慮点ならびに投与経路によってのみ制限される。本明細書中に記載された薬学的に受容可能なキャリア、例えば、ビヒクル、アジュバント、賦形剤、および希釈剤は、当業者に周知であり、一般に容易に入手可能である。1つの局面において、薬学的に受容可能なキャリアは、その細胞(例えば、標的細胞)について、化学的に活性のないものであり、使用条件の下、有害な副作用もしくは毒性を有さないものである。キャリアの選択は、薬学的組成物の細胞の特定のタイプにより、および薬学的組成物の投与に用いられる特定の経路により、部分的に決定される。したがって、本発明の薬学的組成物について、さまざまな適切な調合がある。
【0075】
投与経路
ある種の実施形態において、細胞(例えば、標的細胞)を含む薬学的組成物は、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、髄腔内投与、もしくは、腹膜内(interperitoneal)投与のために調合される。他の実施形態において、その薬学的組成物は、鼻投与、スプレー投与、経口投与、エアゾール投与、直腸投与、もしくは膣内投与によって投与される。
【0076】
細胞(例えば、標的細胞)を投与する方法は、当該分野において公知である。例えば、以下の任意の米国特許を参照のこと。
【0077】
【数1】

非経口
ある種の実施形態において、本明細書中に記載された薬学的組成物は、非経口投与のために調合される。本発明の目的のため、その非経口投与は、静脈内、動脈内、筋肉内、大脳内、脳室内、心臓内、皮下、骨内、皮内、髄腔内、腹腔内、膀胱内、および海綿体内(intracavernosal)注射もしくは注入を含むが、これらに限定されない。
【0078】
非経口投与に適した調合物は、水性および非水性の等張滅菌注射溶液ならびに水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。この注射溶液は、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、およびその調合物を意図された受容者の血液と等張にする溶質を含み得る。この懸濁液は、懸濁化剤、可溶化剤、糊料、安定剤、および保存剤を含み得る。薬学的組成物は、さまざま局面において、薬学的キャリアにおける生理学的に受容可能な希釈剤によって、薬学的に受容可能な界面活性剤(例えば、石鹸もしくは洗剤)、懸濁化剤(例えば、ペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、もしくはカルボキシメチルセルロース)、もしくは乳化剤および他の薬学的アジュバントの添加を伴い、もしくは伴わずに投与される。その希釈剤は、例えば、滅菌した液体もしくは液体の混合物(水、生理食塩水、水性のデキストロースおよび関連する糖溶液を含む)、グリコール(例えば、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール)、グリセロール、エーテル、ポリ(エチレングリコール)400、油、脂肪酸、脂肪酸エステルもしくはグリセリドまたはアセチル化された脂肪酸グリセリドである。
【0079】
非経口調合物において、必要に応じて用いられる油は、石油、動物油、植物油、もしくは合成油(synthetic oil)を含む。油の具体的な例は、ピーナッツ、大豆、ごま、綿実、コーン、オリーブ、ペトロラタムおよびミネラルを含む。非経口調合物における使用に適切な脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0080】
ある種の実施形態における非経口調合物は、保存剤もしくは緩衝液を含む。注射箇所の刺激を最小限に、もしくは排除するため、そのような組成物は、必要に応じて、約12から約17の親水−親油平衡(HLB)を有する1つもしくはそれより多くの非イオン性界面活性剤を含む。そのような調合物における界面活性剤の量は、代表的に、約5重量%から約15重量%に及ぶ。適切な界面活性剤は、ソルビタンモノオレエートのようなポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、およびプロピレンオキシドとプロピレングリコールとの縮合により形成される、疎水性の塩基とエチレンオキシドの高分子量付加物を含む。その非経口調合物は、さまざまな局面において、アンプルおよびバイアルのような単位用量もしくは複数回用量の密封容器の中に提供され、使用直前の滅菌液体賦形剤(例えば、注射用水)の添加のみを必要とするフリーズドライされた(凍結乾燥された)状態で保管され得る。即時の注射溶液および懸濁液は、特定の局面において、以前に記載されたような滅菌した粉末、顆粒および錠剤から調製される。
【0081】
注射可能な調合物は、本発明に従うものである。注射可能な組成物に対し、有効な薬学的キャリアについての必要条件は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice、J. B. Lippincott Company、Philadelphia、PA、Banker and Chalmers、eds.、238−250ページ(1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs、Toissel、4th ed.、622−630ページ(1986)を参照のこと)。
【0082】
細胞送達マトリックス
ある種の実施形態において、細胞(例えば、標的細胞)は、細胞送達マトリックスによって投与される。その細胞送達マトリックスは、特定の実施形態において、コラーゲン、フィブリン、キトサン、MATRIGEL、ポリエチレングリコール、デキストラン(化学的に架橋可能、もしくは光架橋可能なデキストランを含む)を含むポリマーおよびヒドロゲルなどのうちの任意の1つもしくはそれより多くを含む。特定の実施形態において、その細胞送達マトリックスは、1つもしくはそれより多くの:収縮および非収縮コラーゲンゲルを含むコラーゲン、ヒドロゲル、アルブミン、ポリアクリルアミド、ポリグリコール酸、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ(n‐ビニル‐2‐ピロリドン(pyrollidone))、ポリ(メタクリル酸‐2‐ヒドロキシエチル)、親水性ポリウレタン、アクリル誘導体、ポリプロピレンオキシドおよびポリエチレンオキシドのコポリマーのようなプルロニック(pluronic)、35/65ポリ(イプシロン−カプロラクトン)(PCL)/ポリ(グリコール酸)(PGA)、Panacryl(登録商標)生体吸収性構成物、Vicryl(登録商標)ポリグラクチン910、および自己集合性ペプチドならびにフルオロポリマー(例えば、Teflon(登録商標)フルオロポリマー)、プラスチックおよび金属のような非再吸収物質を含む。ヒドロゲルとしては、例えば、フィブリン、アルギネート、アガロース、ゼラチン、ヒアルロネート、ポリエチレングリコール(PEG)、化学的架橋、光架橋、もしくはその両方に適したデキストランを含むデキストランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
そのマトリックスは、ある種の場合において、非分解性物質もしくは選択的分解性物質を含む。非分解性物質としては、例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリカーボネート(polycabonate)、ポリスチレン、シリコーンなどが挙げられるが、これらに限定されない。その選択的分解性物質は、例えば、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic−co−glycolic acid;PLGA))、PLAもしくはPGAである。(また、Middleton et al.、Biomaterials 21:2335 2346、2000;Middleton et al.、Medical Plastics and Biomaterials、March/ April 1998、30 37ページ;Handbook of Biodegradable Polymers、Domb、Kost、and Domb、eds.、1997、Harwood Academic Publishers、Australia;Rogalla、Minim. Invasive Surg. Nurs. 11:6769、1997;Klein、Facial Plast. Surg. Clin. North Amer. 9:205 18、2001 ;Klein et al.、J. Dermatol. Surg. Oncol. 1 1:337 39、1985;Frey et al.、J. Urol. 154:812 15、1995;Peters et al.、J. Biomed. Mater. Res. 43:422 27、1998;および Kuijpers et al.、J. Biomed. Mater. Res. 51:13645、2000を参照のこと)。
【0084】
そのマトリックスは、ある種の実施形態において、生体吸収性または非生体吸収性の、液体、ゲルまたは固体の、生体適合性の足場、格子、自己集合性構築物などを含む。そのようなマトリックスは、治療上の細胞処置、外科的修復、組織工学、および創傷治癒の分野において公知である。特定の局面において、そのマトリックスは、細胞(例えば、標的細胞)と前処理される。他の実施形態において、そのマトリックスは、マトリックスもしくはその空間と密接に結びついた細胞(例えば、標的細胞)で占められる。その細胞(例えば、標的細胞)は、マトリックスに接着し得るか、またはマトリックス空間内に閉じ込められ得る、もしくは含まれ得る。特定の局面において、そのマトリックス−細胞(例えば、標的細胞)は複合体を形成し、そこでは、その細胞がマトリックスと密接に結びつき増殖し、それが治療で用いられるときには、患者自身の腎細胞の成長、修復、および/もしくは再生が刺激および支持され、適切な血管新生が同様に刺激もしくは支持される。そのマトリックス−細胞組成物は、当該分野において公知の任意の方法で患者の体内に導入され得る。その方法としては、埋め込み、注射、外科的連結(surgical attachment)、他の組織とともに移植などが挙げられるが、これらに限定されない。ある種の実施形態において、マトリックスは、インビボで形成、もしくはさらに好ましくはインサイチューで形成する。例えば、インサイチューで重合可能なゲルが本発明にしたがって用いられ得る。そのようなゲルの例は、当該分野などにおいて公知である。
【0085】
ある種の実施形態における細胞(例えば、標的細胞)は、三次元の骨組もしくはマトリックス(例えば、足場、発泡体、もしくはヒドロゲル)に播種され、しかるべく投与される。その骨組は、特定の局面において、さまざまな形状(例えば、実質的に平坦、実質的に円筒形もしくは管状)に設計されるか、または考慮中の矯正的な構築物について必要とされ得るかもしくは所望され得るような完全に自由な形態であり得る。ある種の局面における2つ、もしくはそれより多くの実質的に平坦な骨組は、別の骨組の上に横たえられ、必要に応じて一緒に固定されて、多層の骨組を生成する。
【0086】
マトリックスの例、例えば、本発明の局面に用いられ得る足場は、マット(織った、編んだ、およびより好ましくは、不織の)、多孔性もしくは半多孔性の発泡体、自己集合性ペプチドなどを含む。不織のマットは、例えば、天然もしく合成のポリマーから構成される繊維を用いて形成され得る。ある種の実施形態において、VICRYL(登録商標)(Ethicon、Inc.、Somerville、N.J.)の商用名で販売されるグリコール酸と乳酸(PGA/PLA)の吸収性コポリマーがマットを形成するために用いられる。例えば、ポリ(イプシロン‐カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーで構成される、米国特許第6,355,699号で論じられるようにフリーズドライすなわち凍結乾燥といったプロセスにより形成される、発泡体もまた、足場として機能し得る。ゲルもまた、本明細書中で用いられる場合、適切なマトリックスを形成する。例は、例えば自己集合性ペプチドで構成される、インサイチューで重合可能なゲル、およびヒドロゲルを含む。これらの物質は、ある種の局面において、組織の成長の支持として用いられる。インサイチューで形成する分解性ネットワークもまた、本発明における使用に適している(例えば、Anseth、K.S.et al.、2002、J.Controlled Release 78:199−209;Wang、D.et al.、2003、Biomaterials 24:3969−3980;He et al.に対する米国特許公報第2002/0022676号を参照のこと)。これらの物質は、ある種の局面において、注射に適した液体として調合され、後に、インサイチューもしくはインビボで分解性ヒドロゲルネットワークを形成するためにさまざまな手段(例えば、温度、pH、光への曝露における変化)によって誘導され得る。
【0087】
ある種の実施形態において、上記骨組はフェルトであり、それは生体吸収性物質(例えば、PGA、PLA、PCLコポリマーもしくはブレンド、またはヒアルロン酸)から作られるマルチフィラメントヤーンを含む。特定の局面におけるヤーンは、クリンプ(crimping)、裁断(cutting)、カーディングおよび針で縫う(needling)からなる標準テキスタイル加工技術を用いてフェルトにされる。特定の局面における細胞(例えば、標的細胞)は、複合構築物であり得る発泡体足場の上に播種される。加えて、その三次元の骨組は、ある種の局面において、有用な形状にかたどられる。その形状は、例えば、修復され、置換され、もしくは増大される腎臓内もしくは腎臓周りの特定の構築物である。
【0088】
特定の局面における骨組は、細胞連結を増進するために細胞(例えば、標的細胞)の接種前に処理される。例えば、細胞(例えば、標的細胞)の接種前に、ナイロンマトリックスは、ナイロンをコートするために0.1Mの酢酸で処理され、ポリリジン、PBSおよび/もしくはコラーゲンの中でインキュベートされる。ある種の局面におけるポリスチレンは、硫酸を用いて同様に処理される。
【0089】
追加的実施形態において、三次元骨組の外表面は、細胞の連結もしくは増殖および組織の分化を改善するために改変される。例えば、骨組のプラズマコーティングによって、またはタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性繊維、細網繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン4‐硫酸、コンドロイチン6‐硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸(keratin sulfate))、細胞マトリックス、および/もしくは他の物質(特にゼラチン、アルギネート、寒天、アガロースおよび植物ゴムが挙げられるが、これらに限定されない)のうちの1つもしくはそれより多くの添加によって改変される。
【0090】
ある種の実施形態における足場は、その足場を非血栓形成性(non‐thrombogenic)にする物質を含む。これらの物質は、特定の実施形態において、内皮の増殖、移動、および細胞外マトリックスの堆積を促進および維持する。そのような物質の例は、天然物質(例えば、ラミニンおよびIV型コラーゲンのような基底膜タンパク質)、合成物質(例えば、ePTFE)およびセグメント化ポリウレタンウレアシリコーン(segmented polyurethaneurea silicone)(例えば、PURSPAN(登録商標)(The Polymer Technology Group、Inc.、Berkeley、Calif.))が挙げられるが、これらに限定されない。これらの物質は、その足場を非血栓形成性にするためにさらに処理され得る。そのような処理は、ヘパリンのような抗血栓剤、およびプラズマコーティングのような物質の表面電荷を変える処理を含む。
【0091】
細胞(例えば、標的細胞)を含む薬学的組成物は、特定の実施形態において、本明細書中に記載された任意の成分を含む任意の細胞送達マトリックスの成分を含む。
【0092】
ある種の実施形態において、その薬学的組成物は、幹細胞を含む。虚血性損傷の動物への幹細胞の投与は、米国特許第5,980,887号に記載されている。
【0093】
本発明の局面において、標的細胞は、脂肪由来のCD34+細胞である。全てもしくは実質的に全ての処理試薬が存在しない増進されたCD34+細胞の混合物は、次に、患者への治療上の注射に適切な媒体に入れられ得る。そのような媒体は、一般に当業者に公知であり、灌注溶液、細胞培養溶液などを含むが、これらに限定されない。ある種の局面において、そのCD34+細胞は、いくつかの手段の1つによって患者に送達される。ある種の実施形態において、そのCD34+細胞は、筋肉内に、腹膜内に、頭蓋内に、血管内に、静脈内に、組織成分(例えば、砕けた(fractured)もしくは折れた(broken)骨もしくは軟骨)の間に送達される。
【0094】
標的について可能性のある送達の選択肢は、以下を含むが、これらに限定されない:直接注射(針および注射器);注射カテーテル(より深い組織);表面のためのスプレー;あらかじめ作られたフィブリン(皮下の、もしくは組織層内のより深くの)を生体足場(内部および外部の両方)とともに埋め込むこと。本発明の局面において、送達のための標的身体の場所は、心臓、肢、目、脳、腎臓、神経、肝臓、腎臓、心臓、肺、目、胃腸管の器官、皮膚および脳であり得る。
【0095】
用量
本発明における目的のため、投与される薬学的組成物の量もしくは用量は、無理のない時間枠にわたって、例えば、治療上もしくは予防の応答を、被験体もしくは動物において達成するのに十分である。例えば、薬学的組成物の用量は、投与時から、約12時間、約18時間、約1日から4日もしくはそれより長い期間(例えば、5日、6日、1週間、10日、2週間、16日から20日、もしくはそれより長く)に疾患もしくは医学的状態を処置もしくは予防するのに十分である。特定の実施形態において、その期間はさらに長い。その用量は、特定の薬学的組成物の効果および処置される動物(例えば、ヒト)の状態、ならびに処置される動物(例えば、ヒト)の体重によって決定される。
【0096】
投与される用量を決定する多くの分析が、当該分野において公知である。ある種の実施形態において、哺乳動物へのそのような細胞(例えば、標的細胞)の所定の用量の投与の際にその細胞(例えば、標的細胞)が損傷部位に局在する程度をそれぞれに異なる用量の細胞(例えば、標的細胞)が与えられる一組の哺乳動物の間で比較することを含む分析が、哺乳動物に投与される開始用量を決定するのに用いられる。特定の用量の投与の際に細胞(例えば、標的細胞)が損傷部位に局在する程度は、当該分野において公知の方法によって分析され得る。
【0097】
また、哺乳動物へのそのような細胞(例えば、標的細胞)の所定の用量の投与の際にその細胞(例えば、標的細胞)が損傷した後肢の再灌流を引き起こす程度をそれぞれに異なる用量の細胞(例えば、標的細胞)が与えられる一組の哺乳動物の間で比較することを含む分析が、哺乳動物に投与される開始用量を決定するのに用いられる。特定の用量の投与の際に細胞(例えば、標的細胞)が損傷した後肢の再灌流を引き起こす程度は、当該分野において公知の方法によって分析され得、本明細書中に記載されている。
【0098】
薬学的組成物の用量はまた、特定の薬学的組成物の投与に付随して起こり得る任意の有害な副作用の存在、性質、および程度によって決定される。代表的に、主治医がさまざまな要因(例えば、年齢、体重、全体的な健康、食事、性別、治療剤(複数)(例えば、投与される薬学的組成物の細胞(例えば、標的細胞)、投与経路、および処置されている状態の重症度)を考慮し、個々の患者それぞれを処置する薬学的組成物の用量を決める。例示であり、本発明を制限することを意図しないが、薬学的組成物の用量は、少なくとも約0.5×10(例えば、少なくとも約1×10、少なくとも約1.5×10、少なくとも約2×10、少なくとも約2.5×10、少なくとも約3.0×10、少なくとも約5.0×10、少なくとも約10、少なくとも約10)の細胞(例えば、標的細胞)が患者に投与されるようなものであり得る。
【0099】
投与のタイミング
本発明の特定の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)の投与は遅らされる;すなわち、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷直後に投与されない(例えば、損傷後、約30分より前ではなく、約1時間より前ではなく、約2時間より前ではなく、約3時間より前ではなく、約4時間より前ではなく、約5時間より前ではなく、約6時間より前ではなく、約7時間より前ではなく、約8時間より前ではなく、約9時間より前ではなく、約10時間より前ではなく、約11時間より前ではなく、もしくは約12時間より前ではなく)。
【0100】
本発明のある種の局面において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷の修復期の最初に患者に投与される。ある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷後、少なくとも約12時間(例えば、少なくとも約14時間、少なくとも約16時間、少なくとも約18時間、少なくとも約20時間、少なくとも約21時間、少なくとも約22時間、少なくとも約23時間、少なくとも約24時間、少なくとも約25時間、少なくとも約26時間、少なくとも約28時間、少なくとも約30時間、少なくとも約32時間、少なくとも約32時間、少なくとも約34時間、少なくとも約36時間、少なくとも約38時間、少なくとも約40時間、少なくとも約42時間、少なくとも約44時間、少なくとも約46時間、少なくとも約48時間、少なくとも約50時間、少なくとも約52時間、少なくとも約54時間、少なくとも約56時間、少なくとも約58時間、少なくとも約60時間、少なくとも約62時間、少なくとも約64時間、少なくとも約66時間、少なくとも約68時間、少なくとも約70時間、少なくとも約72時間)に投与される。
【0101】
さらなる実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は上に記載されたような時点、および損傷後、約14日より前(例えば、約13日より前、約12日より前、約11日より前、約10日より前、約9日より前、約8日より前、約7日より前、約6日より前、約5日より前、約4日より前、約3日より前)に患者に投与される。ある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷後約24時間、もしくはその後のいつか、しかし損傷後約14日より前に患者に投与される。
【0102】
ある種の局面において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷後Xより後かつ損傷後Yより前に投与され、ここで、Xは約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約40時間、約48時間、約52時間、約58時間、約64時間、約72時間、約3.5日、約4日、約5日、約6日、約1週間、約8日、約9日、約10日からなる群から選択され、Yは約16日、約15日、約14日、約13日、約12日、約11日、約10日、約9日、約8日、約1週間からなる群から選択され、XはYより少ない。本発明のある種の局面において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷後、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間に投与される。
【0103】
本発明のある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は1回より多く患者に投与される。その細胞(例えば、標的細胞)は1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、週1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、8日に1回、9日に1回、10日に1回、11日に1回、12日に1回、13日に1回、もしくは14日に1回、または月1回、投与され得る。ある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は損傷後約24時間より後(例えば、24時間)に投与され、損傷後約48時間より後(例えば、48時間)に再投与される。
【0104】
制御放出調合物
薬学的組成物は、特定の局面において、その薬学的組成物が投与される体の中に放出される方法が体内での時間および位置について制御されるように、デポ剤の形態に改変される(例えば、米国特許第4,450,150号を参照のこと)。デポ剤の形態は、さまざまな局面において、細胞(例えば、標的細胞)および多孔性もしくは非多孔性物質(例えば、ポリマー)を含む埋め込み可能な組成物であり、ここでは、その細胞(例えば、標的細胞)は、その物質および/もしくは非多孔性物質の分解物によって包まれるか、もしくは、その物質および/もしくは非多孔性物質の分解物にわたって拡散される。そのデポ剤は次に、体内の所望する位置に埋め込まれ、その細胞(例えば、標的細胞)は、あらかじめ決められた速度でそのインプラントから放出される。
【0105】
したがって、特定の局面における薬学的組成物は、インビボ放出プロフィールの任意のタイプを有するように改変される。本発明のある種の局面において、その薬学的組成物は、即時放出の、制御放出の、持続放出(sustained release)の、徐放放出(extended release)の、遅延放出の、もしくは二相性放出の調合物である。
【0106】
結合体
本発明のある種の実施形態において、細胞(例えば、標的細胞)は、第二の部分(例えば、治療剤もしくは診断剤)に、連結(attached)されるか、もしくはつなげられる(linked)。これらの実施形態の細胞(例えば、標的細胞)は、損傷した腎臓組織に特異的に局在できるので、標的化剤として働く。したがって、本発明は、1つの局面において、治療剤もしくは診断剤に連結した細胞(例えば、標的細胞)を含む組成物を提供する。本発明における目的に適した治療剤および診断剤は、当該分野において公知であり、本明細書中に言及された任意のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
組み合わせ
上記結合体を含む本明細書中に記載された薬学的組成物は、ある種の実施形態において、それだけで投与される。他の実施形態において、上記結合体を含む薬学的組成物は、他の治療剤もしくは診断剤と組み合わせて投与される。ある種の実施形態において、その薬学的組成物は、腎臓病もしくは腎臓の医学的状態を処置すると知られている別の治療剤(例えば、サイトカインもしくは成長因子、抗炎症剤、TLR2阻害剤、ATF3遺伝子もしくは遺伝子産物、およびミネラルコルチコイド受容体ブロッカー(例えば、スピロノラクトン)を含む)、リゾホスファチド酸、2−メチルアミノクロマン(例えば、U83836E)、21−アミノステロイド(例えば、ラゾロイド(lazoroid)(U74389F))、トリメタジジン、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、もしくはアンギオテンシン受容体ブロッカー(ARB)、およびスラミンと投与される。
【0108】
ある種の実施形態において、その細胞(例えば、標的細胞)は、他の追加的治療剤と投与される。その追加的治療剤としては、抗血栓剤、抗アポトーシス剤、抗炎症剤、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン、ラパマイシン)、抗酸化剤、もしくは当該分野において腎臓損傷もしくは腎疾患を処置するために通常用いられる他の剤(例えば、エプロジセート(eprodisate)およびトリプトリド(triptolide)、HMG−CoA還元酵素阻害剤(例えば、シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチンおよびアトルバスタチン)、細胞溶解物、可溶性細胞画分、膜濃縮細胞画分、細胞培地(例えば、馴化培地)、もしくは細胞外マトリックス栄養因子(例えば、肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成タンパク質−7(BMP−7)、形質転換成長因子β(TGF−β)、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)および塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
特定の実施形態において、標的細胞のサブ集団は、全能性幹細胞、多能性幹細胞、造血幹細胞、および任意の他の幹細胞からなる群から選択される他の幹細胞と組み合わせられる。ある種の実施形態において、その標的細胞は、非造血幹細胞と組み合わせられる。その非造血幹細胞としては、例えば、間葉性の細胞が挙げられるが、これに限定されない。ある種の実施形態における標的細胞は、足場と組み合わせられる。その足場としては、フィブリン、コラーゲン、もしくはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
ある種の実施形態における選択された細胞は、さまざまな成長因子もしくは他の生物活性剤と組み合わせて用いられる。これらは、上方調節因子もしくは下方調節因子としての使用のために、遺伝子療法を用いて改変され得る。
【0111】
使用
本明細書中に記載された薬学的組成物は、多くの疾患および医学的状態の治療上の処置において、有用であると考えられる。したがって、上記方法は、疾患もしくは医学的状態を処置するのに効果的な量で本明細書中に記載された任意の薬学的組成物を患者に投与することを含む、その疾患もしくは医学的状態を処置する方法を追加的に提供する。用語「処置する」およびそこから派生する用語は、本明細書中で用いられる場合、標的とされた状態の、必ずしも100%もしくは完全な改善を意図するものではない。むしろ、当業者が利益を有すると認識するさまざまな程度の治療効果が存在する。この点、本明細書中に記載された方法は、腎臓損傷について、任意の量もしくは任意のレベルの治療上の利益を提供し、ゆえにその損傷を「処置する」。
【0112】
ある種の局面において、その疾患もしくは医学的状態は、慢性心筋虚血、重大な四肢の虚血、急性心筋梗塞、心血管疾患、糖尿病、自己免疫疾患、脳卒中、脳損傷および/もしくは脊髄損傷、熱傷損傷、骨欠陥、腎虚血、および黄斑変性である。ある種の実施形態において、その薬学的組成物は、虚血、血流の損失、裂傷、体温の極端な状態、外傷、または、代謝病もしくは遺伝病に起因する組織損傷を処置するために用いられる。
【0113】
その薬学的組成物が脂肪由来の幹細胞を含むある種の局面において、上記方法は、治療効果を提供することを含む。その治療効果としては、例えば:虚血に対抗する血管新生促進効果(proangiogenic effect)、細胞、組織および/もしくは臓器再生の生成、創傷治癒、分化、血液供給の再構成、アポトーシスの減少、パラクリンシグナル伝達、および免疫調節が挙げられるが、これらに限定されない。CD34およびCD271に対する抗体を用いた陽性選択手順を用いて細胞が選択されるある種の局面において、その方法は、炎症を処置する。上記薬学的組成物がCD34+細胞を含む局面において、その方法は、抗アポトーシス効果を提供する。
【0114】
脂肪組織内の細胞は、分化の可能性を有することが示されており、ゆえに複数の組織の修復および再生ならびに複数の損傷タイプに用いられ得る。これらの細胞はまた、美容外科の領域において有益であり得る。処理の容易さ、および脂肪吸引の比較的非侵襲な性質に起因して、これらの細胞は、組織を修復する能力のために選択され得るか、もしくは回復を早めるために創傷治癒剤と併用され得る。
【0115】
腎臓損傷
本発明のさまざまな局面において、提供される方法は、患者における腎臓損傷を処置することが意図されている。その腎臓損傷は、さらに本明細書中に記載された、以下の1つもしくはそれより多くの任意のものにより引き起こされる腎臓に対する任意の損傷である:虚血、毒素への曝露、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)もしくはアンギオテンシンII受容体ブロッカーの使用、輸血反応、筋肉に対する損傷もしくは外傷、手術、ショック、低血圧、または、任意のARFもしくは慢性腎臓病の原因。
【0116】
標的とされる腎臓損傷は、腎臓内に見出される任意の組織に対する損傷を含む。その組織としては、髄質、皮質、腎錐体、葉間動脈、腎動脈、腎静脈、腎門、腎盤、尿管、小腎杯、腎被膜、下腎臓被膜(inferior renal capsule)、上腎臓被膜(superior renal capsule)、葉間静脈、ネフロン、大腎杯、腎乳頭、糸球体、ボーマン嚢、腎柱の組織が挙げられるが、これらに限定されず、その組織が十分に損傷すると、部分的もしくは完全な機能喪失という結果になる。その損傷した腎臓組織は、任意の1つもしくはそれより多い腎臓に存在するはっきり識別できる細胞型含む。その細胞型としては、腎糸球体の壁細胞、腎糸球体の足細胞、糸球体内血管間膜細胞、糸球体の内皮細胞、腎臓近位尿細管刷子縁細胞、ヘンレ係蹄の薄いセグメント細胞(segment cell)、厚い上行脚細胞、腎臓遠位尿細管細胞、腎臓集合管細胞、および間質性の腎細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の特定の実施形態において、その腎臓損傷は、腎臓の管周囲微小血管系に対する損傷を含む。特定の局面において、その腎臓損傷は、管周囲毛細血管に対する損傷を含む。ある種の実施形態において、その腎臓損傷は、細管(管状)上皮細胞に対する損傷を含む。
【0117】
腎臓病および腎臓の医学的状態の予防
腎臓は自己修復もしくは自己再生に対してすさまじい能力を有するが、腎臓損傷は、しばしば、腎臓病もしくは腎臓の医学的状態に対して増加した素因につながる。本明細書中において提供される、患者における腎臓損傷を処置する方法は、成功する腎臓の修復および再生を可能にすると理論づけられ、そのため、その患者は腎臓病もしくは腎臓の医学的状態に対して増加した素因を有さない。ゆえに、本発明は、腎臓損傷を含む、患者における腎臓病もしくは腎臓の医学的状態を予防する方法をさらに提供する。その方法は、腎臓病もしくは腎臓の医学的状態を予防するのに効果的な量で患者に細胞(例えば、標的細胞)を投与することを含む。ある種の実施形態において、その量は、その腎臓損傷を処置するのに効果的である。例えば、腎臓の機能を回復するのに効果的な量、腎臓の管周囲微小血管系を再生するのに効果的な量である。
【0118】
本明細書中で用いられる場合、用語「予防する」およびそこから派生する用語は、必ずしも100%もしくは完全な予防を意図するものではない。むしろ、当業者が予防について潜在的利益を有すると認識するさまざまな程度の予防が存在する。この点、本明細書に記載された予防する方法は、腎臓病もしくは腎臓の医学的状態について任意の量もしくは任意のレベルの予防を提供する。さまざまな局面において、その予防する方法は、その腎臓病もしくは腎臓の医学的状態またはその兆候もしくは状態の開始、発症、発生、もしくは進行を遅延する、ゆっくりにする、減少させる、もしくは軽減する方法である。
【0119】
ある種の実施形態において、予防される腎臓病もしくは腎臓の医学的状態は、急性腎不全、慢性腎疾患、腎間質性線維症、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、水腎、間質性腎炎、腎石(腎石症)、腎腫瘍(例えば、ウィルムス腫、腎細胞癌)、ループス腎炎、微小変化群、ネフローゼ症候群、腎盂腎炎、腎不全(例えば、急性腎不全および慢性腎疾患以外の)である。
【0120】
急性腎不全
本明細書中で用いられる場合、用語「急性腎不全」は、「急性の腎臓損傷」もしくは「ARF」と同義であり、腎臓に対する損傷に起因する腎機能の急速な喪失を指す。ARFは、通常は腎臓によって排出される窒素性不用物(例えば、血清クレアチンおよび/もしくは尿排出物)および非窒素性不用物のレベルにおける急な変化により特徴づけられる複合症候群である。ARFの兆候および診断は、当該分野において公知である。例えば、Acute Kidney Injury、Contributions to Nephrology、Vol.156、vol.eds.Ronco et al.、Karger Publishers、Basel、Switzerland、2007、およびBellomo et al.、Crit Care 8(4):R204−R212、2004を参照のこと。
【0121】
さまざまな局面において、そのARFは、原因によって、腎前性ARF、内因性ARFもしくは腎後性ARFである。この点で、その腎前性ARFは、以下の1つもしくはそれより多くのものにより引き起こされ得る:血液量減少(例えば、ショック、脱水、流体の喪失、もしくは過剰な利尿薬(diruretic)の使用に起因する)、肝腎症候群、血管の問題(例えば、アテローム塞栓性疾患、腎静脈血栓症、ネフローゼ症候群に関係するもの)、感染(例えば、敗血症)、重症の熱傷、腐骨形成(例えば、心膜炎、膵炎に起因する)、および低血圧(例えば、抗高血圧性、血管拡張薬の使用に起因する)。
【0122】
その内在性ARFは、以下の1つもしくはそれより多くのものにより引き起こされ得る:毒素もしくは薬物(例えば、NSAID、アミノ配糖体抗生物質、ヨウ素化造影剤、リチウム)、リン酸腎症(phosphate nephropathy)(例えば、結腸鏡検査の腸の、リン酸ナトリウムとの調製に関連した)、横紋筋融解症(例えば、損傷(例えば、圧挫もしくは広範囲な鈍的外傷)、スタチン、興奮薬の使用により引き起こされる)、溶血、多発性骨髄腫、急性糸球体腎炎。
【0123】
その腎後性ARFは、以下の1つもしくはそれより多くのものにより引き起こされ得る:薬物(例えば、抗コリン作用性の)、良性前立腺肥大もしくは前立腺癌、腎石、腹部の悪性腫瘍(例えば、卵巣癌、結腸直腸癌)、塞がれた尿路カテーテル、および結晶尿もしくはミオグロブリン尿、または膀胱炎を引き起こす薬。
【0124】
ARFは、患者における虚血、毒素、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)もしくはアンギオテンシンII受容体ブロッカーの使用、輸血反応、筋肉に対する損傷もしくは外傷、手術、ショック、および低血圧により引き起こされ得る。ARFを引き起こす毒素は、抗真菌性の色素、もしくは放射線写真の色素であり得る。また、ある種の実施形態において、ARFは急性尿細管壊死もしくは腎虚血再灌流障害を包含する。
【0125】
慢性腎疾患
腎臓病もしくは腎臓の医学的状態を予防する方法のある種の実施形態において、その腎臓病は、慢性腎疾患(CKD)である。本明細書中で用いられる場合、「慢性腎臓病」としても知られる「慢性腎疾患」は、何ヶ月もしくは何年にもわたる進行性の腎機能の喪失を指す。処置されるCKDは、任意の病期である。その病期は、例えば、Stage1、Stage2、Stage3、Stage4、もしくはStage5(確立したCKD、末期の腎臓病(ESRD)、慢性腎不全(CKF;chronic kidney failure)、もしくは慢性腎不全(CRF;chronic renal failure)としても知られる)を含む。
【0126】
そのCKDは、多数の要因のうちの任意の1つにより引き起こされ得る。その要因としては、急性腎臓損傷、急性腎臓損傷の原因、糖尿病性腎症につながるI型およびII型の真性糖尿病、高い血圧(高血圧)、糸球体腎炎(腎臓の濾過系の炎症および損傷)、多嚢胞腎疾患、鎮痛薬性腎症につながる鎮痛薬(例えば、アセトアミノフェン、イブプロフェン)の使用(例えば、定期的な、および長期間にわたる)、虚血性腎症につながるアテローム性動脈硬化症、石による尿の流れの閉塞、拡大した前立腺、狭窄(stricture)(狭窄(narrowing))、HIV感染、鎌状赤血球症、ヘロイン乱用、アミロイドーシス、腎石、慢性腎臓感染、および特定の癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
非腎臓病および非腎臓の医学的状態の予防
慢性腎疾患は、心血管疾患および心血管死の主要な独立した危険因子として同定されている。本明細書中に記載された細胞(例えば、標的細胞)の投与は、腎臓病および腎臓の医学的状態以外の疾患もしくは医学的状態を予防するのにさらに有用であると理論づけられる。したがって、腎臓損傷を含む、患者における腎臓病もしくは腎臓の医学的状態により引き起こされるか、または腎臓損傷を含む、患者における腎臓病もしくは腎臓の医学的状態に関連する、非腎臓病もしくは非腎臓の医学的状態を予防する方法が、本明細書中にさらに提供される。その方法は、その非腎臓病もしくは非腎臓の医学的状態を予防するのに効果的な量で患者に細胞(例えば、標的細胞)を投与することを含む。特定の実施形態において、その非腎臓病もしくは非腎臓の医学的状態は、心血管疾患である。
【0128】
ある種の実施形態において、本明細書中に提供される方法により処置される疾患もしくは医学的状態は、自己免疫疾患である。本明細書中における目的のため、「自己免疫疾患」は、身体が自らの組織のある種の構成成分に対して免疫原性(例えば、免疫系)応答を起こす疾患を指す。換言すると、その免疫系は体内のある種の組織もしくは機構を「自己」として認識する能力を失い、まるでそれが外来性であるかのようにそれを標的にし、攻撃する。自己免疫疾患は、優先的に1つの臓器が影響されるもの(例えば、溶血性貧血および抗免疫甲状腺炎)と、その自己免疫疾患のプロセスが多くの組織に拡散するもの(例えば、全身性エリテマドーデス)とに分類され得る。例えば、多発性硬化症は、T細胞が脳および脊髄の神経線維をとり囲む鞘を攻撃することにより引き起こされると考えられる。このことは、協調の喪失、衰弱(weakness)、および不鮮明な視界という結果になる。自己免疫疾患は、当該分野において公知であり、例えば、橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、狼瘡、多発性硬化症、リウマチ性動脈炎、溶血性貧血、抗免疫甲状腺炎、全身性エリテマドーデス、セリアック病(celiac disease)、クローン病、大腸炎、糖尿病、強皮症、乾癬などを含む。
【0129】
ある種の実施形態において、その疾患は癌である。具体的な実施形態において、その癌は、以下のものからなる群から選択される:急性リンパ球性癌、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫、骨癌、脳癌、乳癌、肛門の、肛門間の、もしくは肛門直腸の癌、目の癌、肝内胆管の癌、関節の癌、頸の、胆嚢の、もしくは胸膜の癌、鼻の、鼻腔の、もしくは中耳の癌、口腔の癌、外陰の癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性癌、結腸癌、食道癌、頸部の癌、胃腸カルチノイド腫瘍、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、腎臓癌(kidney cancer)、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、悪性中皮種、黒色腫、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、膵臓癌、腹膜の、網の、および腸間膜の癌、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌(renal cancer)(例えば、腎細胞癌(RCC))、小腸癌、軟組織癌、胃癌、精巣(睾丸)癌、甲状腺癌、尿管癌、および膀胱癌。
【0130】
患者の型
本明細書中に記載された発明の方法に関して、その患者は任意の宿主である。ある種の実施形態において、その宿主は哺乳動物である。本明細書中で用いられる場合、用語「哺乳動物」は、哺乳綱の任意の脊椎動物を指す。その脊椎動物としては、任意の、単孔類、有袋類、および有胎盤哺乳類の分類群が挙げられるが、これらに限定されない。ある種の実施形態において、その哺乳動物は、マウスおよびハムスターのようなげっ歯目の哺乳動物およびウサギのようなウサギ目(Logomorpha)の哺乳動物の1つである。特定の実施形態において、その哺乳動物は、ネコ科(ネコ)およびイヌ科(イヌ)を含む食肉目由来である。特定の実施形態において、その哺乳動物は、ウシ属(ウシ)およびブタ(Swine)(ブタ(pig))を含む偶蹄目由来もしくはウマ科(ウマ)を含む奇蹄目(Perssodactyla)のものである。ある種の場合において、その哺乳動物は、霊長目、セボイド目(Ceboid)、もしくはシモイド目(Simoid)(サル)もしくは類人の目(order Anthropoid)(ヒトおよび類人猿)である。特定の実施形態において、その哺乳動物はヒトである。
【0131】
以下の実施例は、本発明を単に説明するために与えられ、どんな様式でも本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0132】
実施例1
分解工程の最適化
組織から細胞を放出するために脂肪組織を分解するための標準プロトコルを酵素の濃縮および分解時間に関して最適化した。細胞の生存率を保ちながら、脂肪組織1ml当たり放出される最大の細胞量を得るために、2つのパラメーターおよび全体の分解技術を最適化した。
【0133】
191U/ml、250U/mlおよび319U/mlのコラゲナーゼ濃度を試験した。脂肪組織(脂肪吸引物)の容量に対して1:1の容量の割合で使用したコラゲナーゼ溶液は、以下の成分を含んだ。コラゲナーゼI型(Worthington Biochemical);DMEM/F12 50:50(Gibco);w/L−グルタミン;10% FBS(Hyclone);および10mM Hepes。
【0134】
コラゲナーゼ溶液とのインキュベーション時間は、15と60分との間で変動した。分解は常に振とうしながら37℃で行った。DMEM(Gibco)および10% FBS(Hyclone)を含有する洗浄緩衝液もまたこれらの実験に用いて、酵素を不活性化し、放出された細胞の総合的な健常性および生存率を促進した。
【0135】
脂肪組織から放出された細胞総数に加えて、放出された細胞の生存率を測定した。細胞生存率を細胞膜が傷ついたときにのみ細胞を透過する色素(7AAD)を用いて分析した。色素を、したがって細胞生存率を、次にフローサイトメトリーを用いて定量化した。
【0136】
異なる濃度のコラゲナーゼを含む培地とのインキュベーション時において、脂肪組織から放出された細胞総数、および生存可能であったこれらの細胞の割合を表1に示す。
【0137】
【表1】

これらのデータは、250U/mL濃度のコラゲナーゼを含む培地で45分間、約37℃、攪拌、振とう、混合しながらのインキュベーションがこの応用に最適であることを示した。これらの条件下で処理された組織1ml当たりに放出される細胞数は250U/mlにおいて最大であった。そして細胞の生存率は大幅には損なわれなかった。
【0138】
選択工程の最適化
コラゲナーゼ分解において脂肪組織から放出された細胞を、標的細胞集団に対して抗体を基にした捕捉方法を用いて濃縮、もしくは選択した。細胞の生存率を保ちながら最大の純度および回収率を達成するために、図1に概説する選択工程を最適化した。
【0139】
抗体濃度、ビーズと標的細胞の比、放出ペプチド濃度、および粉砕技術を脂肪組織放出細胞集団内に含有されるCD34陽性細胞に対して選択することによって分析した。蛍光球を用いて所定のサンプル中のCD34陽性細胞の総数を計算するStem Kit CD34 Enumeration Assayを用いて、CD34の発現、ならびに選択細胞および非選択細胞の定量化を分析した。CD45の発現および細胞の生存率(7AADによる)をさらに評価した。
【0140】
これらの実験に用いた溶液は、Selection Buffer、ならびにReagent Kit(Baxter)の成分を含んだ。Selection BufferはPhosphate Buffered Saline(PBS)(Baxter);137mM NaCl;2.68mM KCl;3.21mM Na2HPO4 ×12 H2O(pH7.2);41% Sodium Citrate(Baxter);および1% Human Serum Albumin(Baxter)を含んだ。Reagent Kit(Baxter)は、抗CD34抗体(Clone9C5);Dynal anti Mouse常磁性ビーズ(SAM);およびPR34放出ペプチドを含んだ。
【0141】
Isolexキット濃度を模倣する抗体濃度(100万標的細胞当たりの抗体量)および過剰と考えられる抗体濃度を使用した。100万標的細胞当たり1μgの抗体を使用し、使用された特定の種類の細胞に対して最適化することにより、抗CD34抗体の濃度を決定した。特に100万標的細胞当たり約1μgと2.5μgの間の抗体濃度を試験した。放出された細胞および抗体を含む培地を回転装置の上で30分間インキュベートした。細胞を600gの遠心分離によって洗浄した。
【0142】
ビーズと細胞の比は、選択法の重大な側面であり、処理される細胞/組織の型に基づいて変動し得る。末梢血由来細胞よりも高い頻度でCD34抗原を発現する接着細胞を使用したこの分析のために、ビーズと標的細胞の比1:1、2:1、4:1、5:1、7.5:1および10:1を試験した。標的細胞は、選択されなかった、放出された細胞の総集団の50%と見積もった。ビーズを細胞とともに回転装置の上で約45分間インキュベートした。混合物を、免疫複合体を捕らえるために磁石に3回曝した。1:1から5:1(ビーズと標的細胞の比)の標的範囲を、最適であると決定した。この範囲は脂肪組織のみに対して最適であり得る。
【0143】
他のビーズと標的細胞の比が有用であるように見えるが、きわめて高い捕捉能力を考慮すると、高すぎるビーズと標的細胞の比においては放出能力が欠点になると考えられた。
【0144】
最適な放出ペプチド濃度を、1mg/mlもしくは2mg/mlでPR34ペプチドの量を変動させることによって決めた。細胞、CD34抗体、ビーズ、放出ペプチドを含む培地を、回転装置の上で45分間から60分間インキュベートした。
【0145】
CD34陽性標的細胞の接着性質は、細胞の集団を分散する方法、および放出ペプチドの結合のための空間を作る方法を必要とした。放出工程の間に、集団を破壊し、細胞を放出するために粉砕を使用した。具体的には、放出工程の間に3度別個に、集団を、培地を注射器の小さな穴から吸い込むことによって粉砕し、ゆっくり注射器から吐き出した。試験した粉砕時間は0分、15分、30分および45分を含んだ。
【0146】
これらの実験から、粉砕を伴う放出ペプチドPR34の使用が最良の結果を生むことが見出された。このタイプの粉砕技術は脂肪組織に特有であり、かつ新規である。この技術を用いて、20%より高いおおよその放出割合が観察された。
【0147】
選択されたCD34陽性細胞の生存率および純度を、選択されていない細胞のものと比較した。表2に示すように、抗体を基にした選択工程は、23%の総回収率を伴い、純度において約2倍の上昇(40%から75%へ)を達成した。別の一組の実験では、その選択工程は、CD34陽性細胞の36%から73%への純度上昇を達成した(データ示さず)。特に、その選択工程は、細胞の生存率を有意には損なわなかった(comprise)。
【0148】
【表2】

この例については、n=3である。純度は、CD34陽性細胞の総数を総細胞(破片を除く)で除算した度合いである。回収率(%)は、選択されなかった集団内におけるCD34陽性細胞の総数で除算した、選択された集団内におけるCD34陽性細胞の総数である。
【0149】
選択された細胞の表現型は、選択されなかった細胞と異なるものであることが測定された。例えば、CD45の発現は、CD34選択細胞(7.54%)において、選択されなかった細胞(15.82%)と比較すると減少した。さらに、選択の際に、リンパ球も減少した。また、明るいCD34細胞(CD34をより高い度合いで発現する細胞)の数は、選択された細胞集団において、選択されなかった集団と比較すると減少した。その明るいCD34細胞を捕捉するために、選択工程を調節し得る。選択の際に、CD140b陽性細胞の数は増加したが、選択の際に、ASCおよびCD144陰性細胞の数は維持された。
【0150】
実施例2
脂肪吸引処置由来のヒト脂肪組織を、実施例1で決定したように最適な酵素分解手順を用いて分解した。具体的には、250U/mlの培地を含む溶液を、等しい容量の脂肪組織に加えた。混合物を、継続的に振とうしながら37℃でインキュベートした。酵素を、高濃度のウシ胎仔血清(FBS)溶液で不活性化した。不活性化された酵素混合物を300gで5分間、遠心分離した。そして、細胞ペレットを新たな溶液に再懸濁した。細胞懸濁液を、一連の濾過工程に供した。次いで、濾過された溶液を300gで5分間、遠心分離した。細胞ペレットを新たな溶液に再懸濁した。この細胞産物を間質血管画分(SVF)と呼んだ。
【0151】
SVFサンプルを、FACSCaliburおよびFACScan Flow Cytometers(Becton Dickinson、San Jose、CA)で分析した。マルチカラーフローサイトメトリーのパネルを、SVFの細胞組成を定量的に測定するために使用した(図2)。明るいCD34細胞(脂肪性の間質細胞;ASC)、リンパ球、うす暗いCD34陽性細胞(間葉性の間質細胞;MSC)、内皮細胞および破片(死んだ細胞)の存在を測定ならびに定量した(図3)。
【0152】
CD34陽性細胞に対するSVFの標的化選択を、CD34抗体および常磁性ビーズを用いて行った。細胞は、CD34特異的抗体に対する二次抗体を提示する常磁性ビーズとインキュベートした際にロゼットを形成した。放出工程を経て抗体‐ビーズ複合体からCD34陽性細胞を放出した。この選択手順により、このように、精製されたCD34陽性細胞を得た。
【0153】
フローサイトメトリーを使用して、CD34陽性細胞の表現型を測定した。CD10、CD13、CD34、CD45、CD140b、CD90、CD31、CD105、CD73、CD144、およびその他を含む細胞マーカーの発現を、この方法で測定した。CD34は、あらゆる細胞源の幹細胞、芽細胞、ならびに骨髄および臍帯における種々の細胞を含む、さまざまな細胞種に存在する幹細胞マーカーである。CD140b(またPDGFR2として知られる)は、MSCマーカーとして報告されている。CD90は、またThy−1胸腺細胞抗原として知られており、多くの細胞種に存在する。この細胞種としては、MSC、HSC、NK細胞、内皮および繊維芽細胞が挙げられるが、これらに限定されない。CD31はまた、PECAM‐1(Platelet Endothelial Cellular Adhesion Molecule)として知られており、内皮細胞に存在する。CD105(またTGF−ベータ受容体‐細胞複合体の制御成分であるEndoglinとして知られる)は、TGF−ベータに対する細胞応答を媒介する。CD105は増殖およびアポトーシス経路の制御を補助するので、さまざまな細胞に存在する。CD73は、Ecto−5’−ヌクレオチダーゼ(5’−NT)であり、白血球に存在するが、ASCマーカーとして報告されている。CD45は白血球共通抗原であり、赤血球を除く、すべての造血細胞に存在する。CD144はまた、細胞間の結合部におけるカルシウム依存性接着分子であるVE−カドヘリンとして知られており、主に血管内皮に見出される。最近の研究は、CD144が、ある種の白血球にも存在し得ることを示している。
【0154】
その非選択集団のCD34陽性選択細胞の集団内で、少なくとも3つのはっきり認識できるサブ集団が存在するようである:集団Aは、全体の20+/−6%を構成し、34(明)/45−/90+/140b+/31−/73+/44+/105−/146−の発現プロフィールを有する;集団Bは、全体の8+/−4%を構成し、34(明)/45−/90+/140b−/105+/146+/144+/31+/44+の発現プロフィールを有する;および集団Cは、全体の31+1−16%を構成し、34(暗)/45−/90+/105+/146+/31+/44(暗)、の発現プロフィールを有する。集団Aおよび集団Bの約96%はCD34陽性であり、これらの集団の約78%はCD140bの発現について陽性である。これらの集団の約92%はCD45の発現について陰性である。
【0155】
選択方法に対する改変は、これらの細胞集団の保持もしくは除去という結果になった。
【0156】
集団Aは、多分化能性の脂肪性間質細胞であるようであった。これらの細胞は、幹細胞マーカーおよび45−/105+/31−のプロフィールを提示し、このことは、これらの細胞が間質の特性を有することを示している。この集団のその間質の特性によって、これらの細胞が組織工学品質を有することが可能であり得る。これらの細胞はまた、PDGFR2抗原も発現し、このことは、より間葉の性質を示す。これらのマーカーの組み合わせによって、これらの細胞が骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞、上皮細胞、ニューロンもしくはその他に分化することが可能になり得る。
【0157】
集団Bは、内皮細胞のプロフィール(31+/144+/146+)を有したが、また、幹細胞マーカーならびにTGFB受容体の一部であるエンドグリンマーカーCD105も提示する。これらの細胞は、血管新生および脈管形成を容易にし得、そして組織修復に寄与し得る。
【0158】
集団Cは、プロフィール34+/31+/146+/105(暗)/90+/45−を提示した。これは、骨髄性細胞およびリンパ系細胞を形成できる造血系前駆細胞のプロフィールとして公開されている。他のマーカーは、これらの細胞の内皮特性が存在し得ることもまた、示唆する。
【0159】
SVFは、治療上の可能性に富んだ細胞画分である。各集団は、それぞれの表面マーカープロフィールに示される特定の特徴を含む。これらの各集団に対する選択方法は、ある集団を、他の集団によるコンタミネーションなく単離するように設計され得た。これらの特定の細胞産物は、複数の特定治療用途を有し、個々の患者の要求に特殊化され得た。
【0160】
実施例3
新鮮なASCを、ヒト脂肪吸引物から調製した。コラゲナーゼ処理および100ミクロンのフィルターを通す濾過後、サンプルを分割した:3/4を、実施例1および2において本質的に記載したように、Dynabeads(Invitrogen)を用いて、CD34陽性画分の選択に使用し、1/4を標準的な濾過方法で処理した。CD34選択は、約3倍のCD34陽性細胞の濃縮を達成し、CD34陽性細胞の純度を13%から36%に上昇させた。
【0161】
後肢虚血のモデルをヌードマウスで作製した。手術の1日後、動物を3つのグループ:PBSコントロール;非選択(総集団);およびCD34選択、のうちの1つに割り当てた。処置(PBS、非選択細胞、もしくはCD34選択細胞)を、虚血肢の、ひ腹筋および大腿四頭筋への直接的な筋肉注射により行った。
【0162】
レーザードップラー灌流画像(LDI)を、1日目、5日目、10日目、15日目および20日目に行い、虚血肢の灌流を評価した。1日目に最も低い相対的灌流を有したコントロール処理マウスの大部分は、5日目までに深刻な壊死(虚血の脚の半分より多くに作用した)を発症し、安楽死させなければならなかった。その結果、コントロールグループについての平均値は、より高い相対的灌流に向かって傾いた。どの動物も、1日目の相対的灌流値の範囲外(すなわち、>20%)であることに基づく除外をしなかった。これは、残り5匹のコントロールマウスのうち3匹を除くことを必要としたからである。
【0163】
図5に示すように、高い相対的灌流値を5日目および10日目に観察した。この観察は、より多くのコントロールグループマウスの除外数により説明し得る。
【0164】
CD34+ ASCの3倍濃縮物は、虚血後肢を有したマウスの冒された筋肉組織に直接注射したとき、非選択細胞よりも効力があった。
【0165】
公報、特許出願および特許を含む、本明細書中で引用されたすべての参考文献は、あたかも各参考文献が、個々に、かつ具体的に参考として援用することが示され、その全体が本明細書中に明記されたかのごとく、その同程度まで、本明細書により参考として援用される。
【0166】
発明を記載する文脈において(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)、「a」および「an」および「the」および類似の指示対象の用語の使用は、本明細書中にそうでないと示されない限り、もしくは文脈によって明白に否定されない限り、単数形および複数形の両方を含むと解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」は、そうでないと言及されない限り、オープンエンドな用語(すなわち、「を含むが、限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書中における値の範囲についての記載は、本明細書中にそうでないと言及されないかぎり、その範囲内に入る各々の別個の値を個々に指す簡略な方法として機能することを単に意図され、各々の別個の値は、あたかも本明細書中で個々に記載されたかのごとく、明細書に組み込まれる。本明細書中に記載されたすべての方法は、本明細書中にそうでないと示されない限り、もしくは文脈によって明白に否定されない限り、あらゆる適切な順序で行われ得る。本明細書に提供された、あらゆる例、およびすべての例、もしくは例示的な用語(たとえば、「など(such as)」)の使用は、そうではないと請求されない限り、本発明をより明確にすることを単に意図し、本発明の範囲に限定を与えない。本明細書における用語はいずれも、任意の特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
【0167】
本発明を実施するために、本発明者らに知られている最良の形態を含め、本発明の特定の実施形態が本明細書中に記載されている。これらの好ましい実施形態の改変は、前述記載を読めば、当業者には明白になり得る。本発明者らは、当業者がこのような改変を適切に利用することを予想し、そして本発明者らは、本明細書中に具体的に記載されたものとは異なるように本発明が実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許容されるように、本明細書に添付された、特許請求の範囲に記載された主題のすべての改変および均等を含む。さらに、それらの可能性のある改変のすべてにおいて、上に記載された要素のあらゆる組み合わせが、本明細書においてそうでないと言及されない限り、もしくは文脈により明白に否定されない限り、本発明によって包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から細胞の集団を得る方法であって、該方法は、少なくとも約200U/ml溶液かつ約319U/ml溶液以下の濃度で酵素を含む溶液中で、該脂肪組織を約30分と60分の間の時間インキュベートする工程を包含し、そのことにより該脂肪組織から細胞の集団を得る方法。
【請求項2】
前記酵素の濃度が約200U/ml溶液と約300U/ml溶液の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酵素の濃度が約225U/ml溶液と約275U/ml溶液の間である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素の濃度が約245U/ml溶液と255U/ml溶液の間である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記時間が約45分と約55分の間である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素がコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ、もしくは少なくとも前述のうちの1つを含む酵素の混合物である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
脂肪組織の容量と酵素溶液の容量の比が約1:1である、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
脂肪組織1ml当たり少なくとも6.0×10個細胞が得られる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
脂肪組織1ml当たり少なくとも8.0×10個細胞が得られる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
脂肪組織から標的細胞の濃縮された集団を得る方法であって、以下:
a.請求項1から9のいずれか1項に記載の方法に従って脂肪組織から細胞の集団を得る工程;および
b.一次抗体を含む第二の溶液内で該細胞の集団をインキュベートする工程であって、該一次抗体は、該細胞の集団を、標的細胞を含むサブ集団と標的細胞を実質的に含まないサブ集団とに分けるものであり、そのことにより、標的細胞の濃縮された集団を得る工程
を包含する方法。
【請求項11】
前記一次抗体が、前記標的細胞によって発現されない細胞マーカーに対して特異的な抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記一次抗体がCD45、グリコホリン‐AおよびCD31からなる群から選択される細胞マーカーに対して特異的な抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記一次抗体が、前記標的細胞によって発現される細胞マーカーに対して特異的な抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞マーカーがCD34である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記標的細胞がCD34陽性細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞の集団をビーズとインキュベートする工程を包含し、そのことによりビーズおよび前記一次抗体を含む複合体を形成する、請求項10から15に記載の方法。
【請求項17】
前記ビーズが前記一次抗体に結合するタンパク質を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質が:(i)前記一次抗体に特異的に結合する二次抗体、もしくはその抗原結合フラグメント、(ii)プロテインA、(iii)プロテインG、および(iv)これらの組み合わせからなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ビーズが、1:1と5:1の間のビーズと標的細胞の比で存在する、請求項16から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ビーズと標的細胞の比が約4:1である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の溶液から前記複合体を取り出す工程を包含する、請求項16から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記ビーズが常磁性ビーズであり、前記複合体が前記溶液から磁石で取り出される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記複合体を放出ペプチドとともにインキュベートする工程を包含する、請求項13から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記放出ペプチドが、CD34のエピトープもしくは前記一次抗体のエピトープであるエピトープを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記放出ペプチドが、可溶性のCD34もしくはPR34放出ペプチドである、請求項23もしくは24に記載の方法。
【請求項26】
前記複合体を注射器で粉砕する工程を包含する、請求項23から25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
得られた前記集団が、1日より短い間、培養もしくはプレートされる、請求項1から26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
得られた前記集団を拡張する、あらゆる工程が存在しない、請求項1から26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
請求項10から28のいずれか1項に記載の方法にしたがって、脂肪組織から得られた標的細胞の濃縮された集団。
【請求項30】
前記濃縮された集団における標的細胞の割合が、(a)の前記細胞の集団における標的細胞の割合の約1.5倍から約5倍である、請求項29に記載の濃縮された集団。
【請求項31】
前記標的細胞がCD34陽性細胞である、請求項29もしくは30に記載の濃縮された集団。
【請求項32】
患者への投与のための細胞を含む薬学的組成物を調製する方法であって、該方法は、請求項29から31のいずれか1項に記載の標的細胞の濃縮された集団を薬学的に受容可能なキャリアと調合する工程を包含する方法。
【請求項33】
前記細胞が患者にとって自己由来である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が、1日以下の間、培養もしくはプレートされた、請求項32もしくは33に記載の方法。
【請求項35】
前記薬学的組成物の前記細胞の少なくとも50%がCD34陽性細胞である、請求項32から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
請求項32から35のいずれか1項に記載の方法にしたがって調製された薬学的組成物。
【請求項37】
患者における疾患もしくは医学的状態を処置する方法であって、該方法は、該疾患もしくは医学的状態を処置するのに効果的な量で、請求項36に記載の薬学的組成物を該患者に投与する工程を包含する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−505665(P2012−505665A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532316(P2011−532316)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/061185
【国際公開番号】WO2010/045645
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】