説明

脂肪組織分離装置

【課題】チューメセント液により膨潤した脂肪組織からチューメセント液を十分に分離させて除去する。
【解決手段】排出口3bを有し柔軟な材質からなる袋状の容器3を、排出口3bを下方に向けて保持する保持部2と、排出口3bに接続され、容器3内を減圧状態に吸引する吸引手段5と、保持部2に保持された容器3の側面の高さ方向の途中位置を、略全幅にわたって略水平方向に押圧し、途中位置の内面を対向する位置の内面に微小隙間を空けて近接させる近接位置と、側面を解放する解放位置との間で移動可能に設けられた仕切部材7と、側面の途中位置より上方を、容積が小さくなるように押圧する押圧手段7,8とを備える脂肪組織分離装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、体内から採取した脂肪組織を消化酵素により分解し、脂肪由来細胞を脂肪組織から分離させて抽出する装置が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。洗浄液や消化酵素液などの処理液によって脂肪組織を容器内で処理した後、これらの処理廃液は、容器内に設けられたフィルタにより脂肪組織の排出を制限しながら、容器から排出される。
【0003】
また、脂肪組織の採取方法として、麻酔剤や止血剤等を添加した生理食塩水(以下、チューメセント液と言う。)を用いたチューメセント法が知られている。チューメセント法では、体内の脂肪組織部位にチューメセント液を注入して脂肪組織を膨潤させ、互いに結合していた脂肪組織をほぐしてカニューレ等で吸引することにより、脂肪組織をチューメセント液とともに採取する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/012480号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2000/077164号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、チューメセント法により採取された脂肪組織は、その内部にチューメセント液を含んで膨潤しており、特許文献1および2のように、フィルタの通過性だけでチューメセント液を脂肪組織と十分に分離させて除去することは難しい。したがって、採取された脂肪組織の正味の量を正確に測定することが困難であり、使用すべき消化酵素の量などの処理条件が正確に分からない等の不都合がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、チューメセント液により膨潤した脂肪組織からチューメセント液を十分に分離させて除去することができる脂肪組織分離装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、排出口を有し柔軟な材質からなる袋状の容器を、前記排出口を下方に向けて保持する保持部と、前記排出口に接続され、前記容器内を減圧状態に吸引する吸引手段と、前記保持部に保持された前記容器の側面を、高さ方向の略中央より下方の途中位置において、略全幅にわたって略水平方向に押圧し、前記側面の内面を対向する位置の内面に微小隙間を空けて近接させる近接位置と、前記側面を解放する解放位置との間で移動可能に設けられた仕切部材と、前記容器の側面の前記途中位置より上方を、容積が小さくなるように押圧する押圧手段を備える脂肪組織分離装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、脂肪組織およびチューメセント液を層分離した状態で収容した容器を保持部に保持して仕切部材を近接位置へ移動させ、吸引手段により吸引すると、仕切部材によって上下方向に仕切られた容器内の上方に脂肪組織を残して、層分離したチューメセント液を排出口から排出させることができる。
【0009】
この場合に、層分離したチューメセント液が排出された後に減圧状態になった容器は、脂肪組織が残った部分を除いて内面が互いに密着した状態になり、仕切部材を解放位置へ移動させても脂肪組織の位置が保たれる。そして、押圧手段により容器の側面を押圧すると、脂肪組織が圧迫されて脂肪組織内に含まれていたチューメセント液が脂肪組織から漏出し、吸引に従って排出口まで流出する。これにより、膨潤した脂肪組織内に含まれていたチューメセント液も十分に脂肪組織から分離させて除去することができる。
【0010】
上記発明においては、前記仕切部材は、前記容器の側面の前記途中位置を内面が互いに密着する密着位置まで移動可能であり、該密着位置に配置された状態で上方へ移動可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、仕切部材より上方に配置された脂肪組織を排出口からさらに離れた位置へ移動させて、脂肪組織が押圧手段により押圧されて鉛直平面内で下方に広がっても排出口から排出されるのを防ぐことができる。また、仕切部材より上方に分画されたチューメセント液とともに脂肪組織を上方へ移動させることにより、粘性の高い脂肪組織を容易に容器内で移動させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記保持部が、略鉛直方向に沿って配置され、前記容器の一方の側面を支持する支持板を備え、前記仕切部材が、前記容器の側面の横幅寸法と略同一またはそれより長い長さ寸法を有し、前記支持板との間に前記容器を挟んで略水平にかつ前記支持板に略平行に配置され、該支持板に対して前後方向に移動可能に設けられた棒状部材であってもよい。
このようにすることで、棒状部材を前後方向へ移動させるだけで、容器内を上下方向に仕切った状態と解放した状態とにし、仕切部材の構成および動作を簡略にすることができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記押圧手段が、前記棒状部材を、前記容器の側面を押圧する前後方向位置において上下方向に移動させる移動機構を備えてもよい。
このようにすることで、容器内を減圧状態にしたら、棒状部材によって容器の側面を押圧しながら該側面に沿って上下方向に移動させる。これにより、簡便な構成と動作で脂肪組織を圧迫することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記保持部が、略鉛直方向に沿って配置され、前記容器の一方の側面を支持する支持板を備え、前記押圧手段が、前記支持板との間に前記容器を挟んで配置され、前記支持板に対して前後方向に移動可能に設けられた押圧面を備えてもよい。
このようにすることで、一度により多くの脂肪組織を圧迫して効率良く脂肪組織からチューメセント液を漏出させることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記押圧面が、前記容器の側面の横幅寸法よりも小さい横幅寸法を有していてもよい。
このようにすることで、容器内の側端に押圧面により押圧されない縦方向に延びる領域が生じ、該領域内を伝って脂肪組織から漏出したチューメセント液が排出口へ移動する。これにより、脂肪組織から上方へ漏出したチューメセント液も効率良く排出口へ向かって移動させてチューメセント液の排出を促進することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記容器内に収容された脂肪組織およびチューメセント液の界面の高さ方向位置を検出する界面検出手段と、該界面検出手段によって検出された界面の高さ方向位置に基づいて、前記仕切部材を上下方向へ移動させる移動手段とを備えてもよい。
このようにすることで、仕切部材を、界面検出手段により検出された界面の下方へ、移動手段により移動させる。これにより、脂肪組織の層全体を仕切部材より上方に配置して容器内を仕切り、容器内から脂肪組織が排出されるのを防ぐことができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記保持部に保持された前記容器の内部を撹拌する撹拌機構を備えてもよい。
このようにすることで、脂肪組織からチューメセント液を十分に分離させて除去した後に、容器内へ脂肪組織の処理液を供給して脂肪組織と処理液とを撹拌機構により撹拌して、脂肪組織の分離と処理とを続けて行うことができる。
【0017】
また、本発明は、排出口を有し柔軟な材質からなる袋状の容器を、前記排出口を下方に向けて保持する保持部と、前記排出口に接続され、前記容器内を減圧状態に吸引する吸引手段と、前記保持部に保持された前記容器の側面の高さ方向の途中位置を、略全幅にわたって略水平方向に押圧し、前記途中位置の内面を対向する位置の内面に微小隙間を空けて近接させる仕切部材を備える脂肪組織分離装置を提供する。
【0018】
本発明によれば、脂肪組織およびチューメセント液を収容した容器を保持部に保持させ、仕切部材により容器内を上下方向に仕切った状態で吸引手段により容器内を吸引してチューメセント液を排出すると、仕切部材の上方に、チューメセント液と分離された脂肪組織を得ることができる。
【0019】
この場合に、層分離したチューメセント液が容器内から排出されてからさらに吸引を続けると、仕切部材より上方に配置された脂肪組織が排出口に向かって吸引される。脂肪組織は、仕切部材によって位置が保持され、脂肪組織内に含まれたチューメセント液は、脂肪組織から漏出して内面の微小隙間を通過し、排出口から排出される。これにより、チューメセント液により膨潤した脂肪組織からチューメセント液を十分に分離させて除去することができる。
【0020】
上記発明においては、前記容器内に収容された脂肪組織およびチューメセント液の界面の高さ方向位置を検出する界面検出手段と、該界面検出手段によって検出された界面の高さ方向位置に基づいて、前記仕切部材を上下方向へ移動させる移動手段とを備えてもよい。
また、上記発明においては、前記保持部に保持された前記容器内を撹拌する撹拌機構を備えてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チューメセント液により膨潤した脂肪組織からチューメセント液を十分に分離させて除去することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る脂肪組織分離装置の全体構成図である。
【図2】図1の脂肪組織分離装置の動作を説明する図であり、(a)液体バッグ内を上下方向に仕切ったとき、(b)脂肪組織を上端へ寄せたとき、(c)脂肪組織を圧迫するときをそれぞれ示している。
【図3】図1の脂肪組織分離装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る脂肪組織分離装置1について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪組織分離装置1は、図1に示されるように、正面に扉2aを有し内部に液体バッグ3が設置される保温箱(保持部)2と、液体バッグ3内へ洗浄液を供給する供給ポンプ4と、液体バッグ3内の廃液を排出する排出ポンプ(吸引手段)5と、液体バッグ3を水平面内で振とうさせる振とう機(撹拌機構)6と、扉2aの内面に略水平に配置されたローラ(仕切部材、棒状部材、押圧手段)7と、該ローラ7を扉2aの内面に垂直な方向および上下方向に移動させる移動機構8とを備えている。
【0024】
保温箱2は、直方体であり、扉2aは、一方の側端が、隣接する側面にヒンジにより接続されて開閉可能になっている。保温箱2内には、液体バッグ3を懸架するフック2bと、該フック2bに懸架された液体バッグ3の背面を支持する背面板(支持板)2cとが設けられている。背面板2cは、液体バッグ3の横幅より十分大きい横幅寸法を有し、液体バッグ3の背面全面を支持するようになっている。
【0025】
液体バッグ3は、柔軟な材質からなり、供給口3aおよび排出口3bを有する内部が密封されたものが用いられ、供給口3aおよび排出口3bを下方へ向けてフック2bに懸架される。
供給ポンプ4および排出ポンプ5は、保温箱2外においてそれぞれチューブ9の途中位置に配置され、各チューブ9は、振とう機6の台6a(後述)および保温箱2の底面に設けられた貫通孔を通って液体バッグ3の供給口3aおよび排出口3bに接続される。また、排出ポンプ5は、液体バッグ3内を十分に減圧可能な吸引力を有している。各チューブ9の途中位置にはそれぞれバルブV1,V2が設けられている。
【0026】
振とう機6は、フック2bに懸架された液体バッグ3の底部を支持する台6aと、該台6aを、その姿勢を保持しつつ水平面内で偏心した軸回りに回転させるモータ6bとを備えている。
モータ6bは、略水平に配置された台6aの底面に略垂直に固定された軸6cを有し、該軸6cを水平面内の所定の円周軌道に沿って並進回転させるようになっている。
【0027】
体内からチューメセント法により採取した脂肪組織Aおよびチューメセント液Bを収容した液体バッグ3をフック2bに懸架して供給口3aおよび排出口3bをチューブ9に接続して保温箱2内に設置する。そして、液体バッグ3を静置すると、脂肪組織Aとチューメセント液Bとが比重の差によってそれぞれ上方と下方に層分離する。この状態で、バルブV2を開放して排出ポンプ5により液体バッグ3内を吸引すると、チューメセント液Bから先に排出される。
【0028】
また、チューメセント液Bを排出した液体バッグ3内へ、バルブV1を開放して供給ポンプ4により洗浄液を供給し、モータ6bを作動させると、液体バッグ3が水平面内で振とうさせられて脂肪組織Aが洗浄液内において撹拌される。モータ6bを停止して、チューメセント液Bの排出のときと同様に、脂肪組織Aと洗浄液とを層分離させてから排出すると、洗浄された脂肪組織Aを液体バッグ3内に残して洗浄済みの洗浄液から排出されるようになっている。
【0029】
ローラ7は、円柱状であり、液体バッグ3の横幅寸法より長く、保温箱2の横内寸法より短い長さ寸法を有している。
【0030】
移動機構8は、扉2aの内面に垂直に固定されたX軸ガイド8aと、該X軸ガイド8aに沿って移動可能に設けられ略鉛直方向に延びるZ軸ガイド8bと、該Z軸ガイド8bに沿って移動可能に設けられたハンド部8cと、Z軸ガイド8bおよびハンド部8cを、それぞれX軸ガイド8aまたはZ軸ガイド8bに沿って移動させるX軸シリンダ8dおよびZ軸シリンダ8eとを備えている。X軸シリンダ8dおよびZ軸シリンダ8eは、例えば、空気圧シリンダまたは電動シリンダが用いられる。
【0031】
X軸ガイド8aは、扉2aの上端近傍の略中心に設けられている。Z軸ガイド8bは、扉2aの内面との間にX軸シリンダ8dを介して設けられ、扉2aを閉じた状態で、背面板2cに向かって略水平に前後方向に移動可能になっている。Z軸シリンダ8eは、Z軸ガイド8bと一体で設けられ、Z軸ガイド8bの前後方向の移動と独立してハンド部8cを上下方向に移動可能になっている。ハンド部8cには、ローラ7が略水平にかつ扉2aの内面に略平行に取り付けられている。また、ハンド部8cは、ローラ7の一部、例えば、両端面から長手方向に突出した支持軸を、軸受を介して周方向に回転可能に支持している。
【0032】
X軸シリンダ8dは、最も収縮したときに、ローラ7を背面板2cから後方に十分離れた位置に配置する。また、X軸シリンダ8dは、液体バッグ3の膜厚の2倍の寸法だけローラ7を背面板2cから後方に配置させる密着位置と、該密着位置から微小距離だけ後方に移動した近接位置とが設定されている。また、X軸シリンダ8dは、伸長時に第1の所定の大きさの抗力を受けると、伸長を停止するようになっている。
【0033】
Z軸シリンダ8eは、液体バッグ3の上端と下端との間でローラ7を移動させるように、可動範囲が設定されている。また、Z軸シリンダ8eは、伸長時に第2の所定の大きさを超える効力を受けると、伸長を停止するようになっている。
【0034】
保温箱2内に液体バッグ3を設置して扉2aを閉じ、X軸シリンダ8dを密着位置まで移動させると、液体バッグ3は、高さ方向の途中位置において全横幅にわたってローラ7と背面板2cとに挟まれて内面が密着した状態になる。これにより、液体バッグ3の内部はローラ7の上方と下方とで互いに隔離された状態になる。
【0035】
また、ローラ7を近接位置へ移動させると、液体バッグ3内の、ローラ7と背面板2cとの間に挟まれた位置には微小隙間が空き、液体バッグ3内は、ローラ7によって上下方向に仕切られながら、その上下で液体が移動可能になる。
また、X軸シリンダ8dを、ローラ7が脂肪組織Aに当たる位置において伸長させると、ローラ7が液体バッグ3の側面を押圧して脂肪組織Aが第1の所定の大きさの圧力で圧迫されたときに、ローラ7の移動が停止するようになっている。
【0036】
このように構成された脂肪組織分離装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る脂肪組織分離装置1を用いて、チューメセント法によって採取した脂肪組織Aからチューメセント液Bを分離するには、ローラ7の位置を脂肪組織Aとチューメセント液Bとの界面より若干下方に配置して扉2aを閉じる。そして、ローラ7を密着位置まで移動させると、図2(a)に示されるように、脂肪組織Aと一部のチューメセント液Bとがローラ7の上方に分画される。この状態で、Z軸シリンダ8eを伸長させてローラ7を上方へ移動させると、図2(b)に示されるように、脂肪組織Aが液体バッグ3内の上端に寄せられたところでローラ7が停止する。
【0037】
次に、ローラ7を近接位置へ移動させて液体バッグ3内から排出を開始すると、脂肪組織Aを残して層分離したチューメセント液Bが排出された後に、液体バッグ3が減圧密封されて内面が互いに密着した状態になる。続いて、ローラ7を一旦後方へ退避させて液体バッグ3の上端へ移動させてから、ローラ7を前方へ移動させると、ローラ7が液体バッグ3を押圧する位置で停止する。ローラ7をそのまま下方へ移動させると、図2(c)に示されるように、ローラ7が液体バッグ3の側面上を転動して脂肪組織Aが上端から下方へ順次圧迫され、脂肪組織A内に含まれていたチューメセント液Bが脂肪組織A外へ漏出する。
【0038】
漏出したチューメセント液Bは、ローラ7により下方へ押し出されて、また、排出ポンプ5によって吸引されて排出口3bから排出され、チューメセント液Bが除去された脂肪組織Aが残される。続けて、ローラ7を液体バッグ3に接触しない位置まで退避させて液体バッグ3内に洗浄液を供給し、振とう機6を作動させると、脂肪組織Aが洗浄される。
【0039】
このように、本実施形態によれば、層分離したチューメセント液Bを十分に排出した後に、脂肪組織Aをさらに圧迫することにより、膨潤して内部に含まれていたチューメセント液Bも脂肪組織Aから十分に分離させて除去することができるという利点がある。また、これにより、液体バッグ3内の脂肪組織Aの正味の量を正確に測定して、より適切な条件を用いて脂肪組織Aを処理することができるという利点がある。また、ローラ7により脂肪組織Aを上端へ持ち上げる際に、脂肪組織Aと液体バッグ3の内面との間に少量のチューメセント液Bが貯留した状態にすることで、粘性が高い脂肪組織Aであっても容易に上方へ移動させることができる。
【0040】
また、ローラ7により脂肪組織Aを圧迫する前に、脂肪組織Aを液体バッグの上端側へ寄せることにより、ローラ7によって脂肪組織Aが下方へ延ばされても排出口3bから排出されるのが防止される。これにより、脂肪組織Aから脂肪由来細胞を分離した場合に、脂肪由来細胞の回収率の低下を防ぐことができる。また、排出口3bが脂肪組織Aによって詰まるという不都合が防止され、液体バッグ3をそのまま脂肪組織Aの洗浄処理や消化酵素液による分解処理に用いても、円滑にこれらの処理を進めることができる。
【0041】
上記実施形態においては、液体バッグ3の側面をローラ7により押圧することとしたが、これに代えて、平面板(押圧面、押圧手段)で押圧することとしてもよい。
この場合、例えば、扉2aの内面にもう1つのX,Z軸ガイドおよびX,Z軸シリンダが設けられ、そのハンド部に、平面板が扉2aの内面に略平行に設けられる。平面板の横幅寸法は、液体バッグ3の側面の十分に広い領域を覆う大きさを有しつつ、液体バッグ3の横幅寸法よりも小さいことが好ましい。
【0042】
このようにすることで、一度に液体バッグ3の側面の広い領域を押圧して、膨潤した脂肪組織Aから効率的にチューメセント液Bを漏出させることができる。また、液体バッグ3が平面板に押圧されたときに、該平面板の両側端側に、脂肪組織Aが平面板に圧迫されない領域が縦方向にわたって生じる。これにより、脂肪組織Aから漏出したチューメセント液Bが液体バッグ3内の上端側へ移動しても、平面板の脇を伝って排出口3bまで容易に到達し、漏出したチューメセント液Bの排出を促進することができる。
【0043】
また、平面板10は、例えば、図3に示されるように、背面板2cに略平行に配置されて液体バッグ3を押圧可能な位置と、天井内面に沿った位置との間で揺動可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、平面板10を天井内面側から背面板2c側へ揺動させると、液体バッグ3内の脂肪組織Aは上端側から下方へ順次圧迫され、脂肪組織Aから漏出したチューメセント液Bは下方へ押し出される。これにより、脂肪組織Aを圧迫しながら、同時にチューメセント液Bの排出口3bへの移動を促すことができる。
【0044】
また、上記実施形態においては、脂肪組織Aおよびチューメセント液Bの界面を検出する界面検出部を備え、Z軸シリンダ8eが、界面検出部によって検出された界面の位置から所定の距離だけ低い位置へハンド部8cを移動させてもよい。
界面検出部は、透過光センサ、または、重力計が用いられる。
透過光センサの場合、液体バッグ3内の透過率を、高さ方向の複数の位置で検出する。これにより、脂肪組織Aとチューメセント液Bとの透過率の差から、これらの界面を検出することができる。
【0045】
重量計の場合、例えば、台6aの中央にロードセルが設けられる。この場合、液体バッグ3の荷重のほとんどが台6aに分配されるように、フック2bと台6aとの高さ方向の間隔または使用する液体バッグ3の縦幅寸法が調節される。これにより、台6a上に設置された液体バッグ3の重量から、例えば、液体バッグ3内の脂肪組織Aとチューメセント液Bとの体積比が1:1であるとして、チューメセント液Bの体積を算出し、これと液体バッグ3の内寸法から界面の高さ位置を検出する。
このようにすることで、操作者によるローラ7の高さ方向の位置調節の手間を省くことができる。
【0046】
また、上記実施形態においては、ローラ7により脂肪組織Aを圧迫して内部に含まれたチューメセント液Bを漏出させることとしたが、これに代えて、脂肪組織Aを排出ポンプ5により吸引してチューメセント液Bを漏出させることとしてもよい。
この場合、ローラ7によって脂肪組織Aを上端へ寄せる必要はなく、脂肪組織Aとチューメセント液Bとの界面より下方においてローラ7を近接位置へ移動させる。
【0047】
そして、排出ポンプ5により液体バッグ3内を吸引すると、層分離したチューメセント液Bが排出された後に脂肪組織Aが下方に向けて吸引される。脂肪組織Aは、ローラ7によって位置が保持され、脂肪組織A内に含まれるチューメセント液Bは、液体バッグ3の内面の隙間を通って排出口3bへ流出する。これにより、膨潤した脂肪組織Aからチューメセント液Bをさらに分離させて除去することができる。また、脂肪組織Aが排出口3bから常に離れた位置に保持されるので、脂肪組織Aの排出および排出口3bの詰まりを未然に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 脂肪組織分離装置
2 保温箱(保持部)
2a 扉
2b フック
2c 背面板(支持板)
3 液体バッグ(容器)
3a 供給口
3b 排出口
4 供給ポンプ
5 排出ポンプ(吸引手段)
6 振とう機(撹拌機構)
6a 台
6b モータ
6c 軸
7 ローラ(仕切部材、棒状部材、押圧手段)
8 移動機構(押圧手段)
8a X軸ガイド
8b Z軸ガイド
8c ハンド部
8d X軸シリンダ
8e Z軸シリンダ
9 チューブ
10 平面板(押圧手段、押圧面)
A 脂肪組織
B チューメセント液
V1,V2 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出口を有し柔軟な材質からなる袋状の容器を、前記排出口を下方に向けて保持する保持部と、
前記排出口に接続され、前記容器内を減圧状態に吸引する吸引手段と、
前記保持部に保持された前記容器の側面の高さ方向の途中位置を、略全幅にわたって略水平方向に押圧し、前記途中位置の内面を対向する位置の内面に微小隙間を空けて近接させる近接位置と、前記側面を解放する解放位置との間で移動可能に設けられた仕切部材と、
前記側面の前記途中位置より上方を、容積が小さくなるように押圧する押圧手段とを備える脂肪組織分離装置。
【請求項2】
前記仕切部材は、前記容器の側面の前記途中位置を内面が互いに密着する密着位置まで移動可能であり、該密着位置に配置された状態で上方へ移動可能に設けられている請求項1に記載の脂肪組織処理装置。
【請求項3】
前記保持部が、略鉛直方向に沿って配置され、前記容器の一方の側面を支持する支持板を備え、
前記仕切部材が、前記容器の側面の横幅寸法と略同一またはそれより長い長さ寸法を有し、前記支持板との間に前記容器を挟んで略水平にかつ前記支持板に略平行に配置され、該支持板に対して前後方向に移動可能に設けられた棒状部材である請求項1に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項4】
前記押圧手段が、前記棒状部材を、前記容器の側面を押圧する前後方向位置において上下方向に移動させる移動機構を備える請求項3に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項5】
前記保持部が、略鉛直方向に沿って配置され、前記容器の一方の側面を支持する支持板を備え、
前記押圧手段が、前記支持板との間に前記容器を挟んで配置され、前記支持板に対して前後方向に移動可能に設けられた押圧面を備える請求項1に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項6】
前記押圧面が、前記容器の側面の横幅寸法よりも小さい横幅寸法を有する請求項5に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項7】
前記容器内に収容された脂肪組織およびチューメセント液の界面の高さ方向位置を検出する界面検出手段と、
該界面検出手段によって検出された界面の高さ方向位置に基づいて、前記仕切部材を上下方向へ移動させる移動手段とを備える請求項1に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項8】
前記保持部に保持された前記容器内を撹拌する撹拌機構を備える請求項1に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項9】
排出口を有し柔軟な材質からなる袋状の容器を、前記排出口を下方に向けて保持する保持部と、
前記排出口に接続され、前記容器内を減圧状態に吸引する吸引手段と、
前記保持部に保持された前記容器の側面の高さ方向の途中位置を、略全幅にわたって略水平方向に押圧し、前記途中位置の内面を対向する位置の内面に微小隙間を空けて近接させる仕切部材を備える脂肪組織分離装置。
【請求項10】
前記容器内に収容された脂肪組織およびチューメセント液の界面の高さ方向位置を検出する界面検出手段と、
該界面検出手段によって検出された界面の高さ方向位置に基づいて、前記仕切部材を上下方向へ移動させる移動手段とを備える請求項9に記載の脂肪組織分離装置。
【請求項11】
前記保持部に保持された前記容器内を撹拌する撹拌機構を備える請求項9に記載の脂肪組織分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−239891(P2010−239891A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91100(P2009−91100)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】