説明

脂肪組織由来幹細胞を用いた組織再生用組成物

【課題】一度に大量の脂肪組織由来幹細胞(ASCs)の移植を可能とする技術及びその用途を提供すること。
【解決手段】脂肪組織由来幹細胞とヘパリンを組み合わせて組織再生用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織再生用組成物に関する。詳しくは、脂肪組織由来幹細胞とヘパリンを用いる組織再生用組成物及びその用途に関する。本発明の組織再生用組成物は例えば肝障害の治療又は予防に有効である。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、新規医療技術のなかでも最も進歩を認める医療分野である。皮膚、骨軟骨の再生に始まり、心血管、脳神経、肝膵疾患などへ研究対象が広がりを見せている。再生医療で用いる細胞ソースとしては胚性幹細胞(ES細胞)と体性幹細胞があるが、現状では体性幹細胞を用いた臨床試験が先行している。
体性幹細胞としては骨髄由来幹細胞が有名であるが、臨床応用を考えると骨髄由来幹細胞を使用する場合には比較的高い侵襲性と必要細胞数の獲得という問題が伴う。そこで最近注目を集めているのが脂肪組織由来幹細胞(以下、「ASCs」ともいう。尚、ASCsはAdipose tissue-derived Stem Cellsの略称である)である。脂肪組織からの幹細胞の抽出は低侵襲性で簡便であり、また多くの細胞の獲得が可能であるため、臨床応用を考えるとASCsは非常に期待される体性幹細胞といえる。
最近になって、多分化能幹細胞源として脂肪組織が有望であることがいくつかの研究グループによって報告された(非特許文献1)。一方、北川らによって、多分化能を示す細胞集団を脂肪組織から簡便な操作で大量に調製することが可能であることが報告されるとともに、得られた細胞が脂肪組織への分化能を有し、脂肪組織の再建に有効であることが示された(特許文献1)。また、ASCsの新規な用途も検討されている(特許文献2)。
【特許文献1】国際公開第2006/006692A1号パンフレット
【特許文献2】特表2007−507202号公報
【非特許文献1】Secretion of Angiogenic and Antiapoptotic Factors by Human Adipose Stromal Cells. Circulation 109:1292-1298, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでに本発明者らの研究グループでは、急性肝不全モデルマウスに対してASCsを尾静脈より細胞移植することにより肝障害を改善することができることを確認している。ところで、細胞移植を伴う治療における効果(再生の程度)の高低は、移植する細胞数に依存するところが大きい。従って、高い治療効果を得るためには大量の細胞を移植することが望まれる。しかし、本発明者らが検討したところ、ASCsを一度に大量(1×106cells/匹/150μL以上)に移植したマウスは高頻度で肺梗塞や肝梗塞を生じ死に至るという、致命的な問題点が見出された。
そこで本発明は、良好な治療効果をもたらすべく、一度に大量のASCsの移植を可能とする技術及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑み本発明者らは抗凝固剤であるヘパリンに注目した。そして、急性肝炎のモデルマウスを作製し、ASCsの移植の際にヘパリンを併用投与することによる効果を調べた。その結果、ヘパリンを併用投与した群において肝障害のマーカーAST(GOT)及びALT(GPT)の減少傾向が観察されるとともに、LDHについては対照群(生理食塩水を投与した群)に比して有意な減少が確認された。また、特筆すべきことに、ASCsのみを投与した群では6匹中4匹が肺梗塞、肝梗塞を起こし移植直後に死亡したのに対し(生存率33%)、ヘパリンを併用投与した群では移植後の梗塞は一切認められず、生存率は100%であった。このように、細胞移植に起因する梗塞をヘパリンの併用によって防止することができることが明らかとなった。このことは、ヘパリンを併用すれば一度に大量のASCsを投与することが可能となり、治療効果(再生効果)の向上がもたらされることを意味する。
本発明は主として以上の知見に基づき完成されたものであって、以下の組織再生用組成物、その調製法及び用途を提供する。
[1]脂肪組織由来幹細胞とヘパリンを組み合わせてなる組織再生用組成物。
[2]脂肪組織由来幹細胞とヘパリンとを含有することを特徴とする、[1]に記載の組織再生用組成物。
[3]脂肪組織由来幹細胞を含有する第1構成要素と、ヘパリンを含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、[1]に記載の組織再生用組成物。
[4]脂肪組織由来幹細胞を含有し、投与時にヘパリンが併用投与されることを特徴とする、[1]に記載の組織再生用組成物。
[5]ヘパリンを含有し、投与時に脂肪組織由来幹細胞が併用投与されることを特徴とする、[1]に記載の組織再生用組成物。
[6]前記脂肪組織由来幹細胞が、
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団に含まれる接着性細胞若しくはその継代細胞、
(2)前記沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は
(3)脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、
である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
[7]前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、[6]に記載の組織再生用組成物。
[8]脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団とヘパリンとを含有することを特徴とする、[1]に記載の組織再生用組成物。
[9]肝障害の治療又は予防に使用されることを特徴とする、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
[10]前記肝障害が、肝炎、肝硬変、肝癌又は術後肝不全であることを特徴とする、[9]に記載の組織再生用組成物。
[11]前記脂肪組織がヒトの脂肪組織である、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
[12]以下のステップを含む、組織再生用組成物の調製法:
(1)脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを用意するステップ;
(2)前記脂肪組織由来幹細胞と前記ヘパリンを混合するステップ。
[13]組織再生用組成物を製造するための、脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンの使用。
[14]再生目的の組織を有する患者に対して治療上有効量の脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを投与することを含む組織再生法。
[15]肝障害を罹患した又は罹患するおそれのある患者に対して治療上有効量の脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを投与することを含む、肝障害の治療又は予防法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の第1の局面は組織の再生に使用される組成物(組織再生用組成物)に関する。本発明の組織再生用組成物の特徴の一つは、脂肪組織由来幹細胞(ASCs)とヘパリンを組み合わせて用いることである。本明細書において「ASCsとヘパリンを組み合わせて用いる」又は「ASCsとヘパリンを組み合わせてなる」とは、ASCsとヘパリンが併用されることをいう。併用の具体的な態様については後記「(5)製剤化」の欄で詳述する。
【0006】
本発明において「脂肪組織由来幹細胞(ASCs)」とは、脂肪組織に含まれる体性幹細胞のことをいうが、多分化能を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞も「脂肪組織由来幹細胞(ASCs)」に該当するものとする。後述の通り、ASCsはSVF画分を構成する細胞として又はSVF画分を用いた培養によって増殖した細胞として、単離された状態に調製される(ASCsの調製法の詳細は後述する)。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。
【0007】
ヘパリンは抗凝固剤の一つであり、血栓塞栓症や播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療・再発防止、人工透析、体外循環での血液凝固防止などに用いられる。小腸、筋肉、肺、脾臓、肥満細胞など生体内において広範囲に存在し、グリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種(β-D-グルクロン酸又はα-L-イズロン酸とD-グルコサミンとが重合した高分子化合物)である。ヘパリンは家畜用動物(ブタやウシ)の腸粘膜から調製されることが多い。低分子ヘパリン(Andersson LO, Barrowcliffe TW, et al: Anticoagulant properties of heparin fractionated by affinity chromatography on matrix bound antithrombin III and by gel filtration. Thromb. Res. 9;575-683, 1976.)も通常のヘパリン同様に抗凝固剤として利用されている。低分子ヘパリンは出血の副作用が少なく、近年使用頻度が増えてきている。本明細書では「低分子のヘパリン」ではないヘパリンを表す用語として「通常のヘパリン」を使用する。また、本明細書における用語「ヘパリン」は通常のヘパリン及び低分子ヘパリンを包括するものとして使用される。
【0008】
以下に列挙するように、通常のヘパリン及び低分子ヘパリンとして数多くの商品が販売されている。このような市販のヘパリンを用いることにすれば、より簡便な操作で本発明の組織再生用組成物を調製することが可能となる。尚、1種のヘパリンのみを用いるのではなく、2種以上のヘパリンを併用することにしてもよい。
【0009】
(1)ヘパリンナトリウム製剤
ノボ・ヘパリン注1万単位(商品名、持田製薬)、ノボ・ヘパリン注1000(商品名、持田製薬)、ヘパリンモチダ(商品名、持田製薬)、ヘパリンナトリウム注N「味の素」(商品名、味の素)デリバデクス100単位シリンジ(商品名、シオノケミカル)、ヘパフラッシュ100単位/mLシリンジ10mL(商品名、テルモ)、ヘパフラッシュ100単位/mLシリンジ5mL(商品名、テルモ)、ヘパリンNa500単位/mLシリンジ「NP」(商品名、ニプロファーマ)、ヘパリンNaロック100シリンジ(商品名、三菱ウェルファーマ)、ヘパリンNaロック用100単位/mLシリンジ「オーツカ」10mL(商品名、大塚製薬工場)、ヘパリンNa透析用250単位/mLシリンジ20mL「AT」(商品名、大洋薬品)、ヘパリンNa透析用500単位/mLシリンジ10mL「AT」(商品名、大洋薬品)、ペミロック100単位/mLシリンジ(商品名、大洋薬品)。
【0010】
(2)ヘパリンカルシウム製剤
ヘパリンカルシウム注射液(商品名、味の素)、カプロシン皮下注用(商品名、沢井製薬)。
【0011】
(3)ダルテパリンナトリウム製剤(低分子ヘパリン)
ダルテパリンナトリウム静注1000単位/mL(商品名、メルク製薬)フラグミン静注(商品名、ファイザー)、リザルミン注1000(商品名、伊藤ライフサイエンス)、フルゼパミン静注1000単位/mL(商品名、大洋薬品)、ヘパグミン静注1000単位/mL(商品名、沢井製薬)、ヘパクロン注5000(商品名、三共エール薬品)、ダルテパン静注5000(商品名、日医工)、ダルテパリンNa静注1000単位/mL「HK」5mL(商品名、光製薬)、ダルテパリンNaシリンジ5000「HK」(商品名、光製薬)。
【0012】
(4)パルナパリンナトリウム製剤(低分子ヘパリン)
ミニヘパ注500(商品名、伊藤ライフサイエンス)、ローヘパ注500(商品名、味の素)。
【0013】
(適用対象)
本発明の組織再生用組成物は、障害された組織の再生(再建)に用いられる。ここでの「障害」は、組織の一部が壊死又は欠損した状態など、組織が正常な状態にないことを包括的に意味する。「組織」とは、一種又は数種の細胞が所定のパターンで集合することによって形づくられた構造体のことをいう。一方、複数の組織が集合することによって「器官(臓器)」が形成される。従って、本明細書において「組織再生用」とは、器官を形成している組織、又は器官を形成していない組織の再生に利用されるものであることを意味する。組織は大別して上皮組織(例えば皮膚上皮)、結合組織(例えば真皮、脂肪組織)、筋組織(例えば横紋筋、平滑筋)、神経組織に分けられる。一方、器官の例として食道、胃、十二指腸、盲腸、小腸、大腸、直腸、結腸、肝臓、膵臓、舌、咽頭、扁桃、血管、心臓、副腎、脾臓、リンパ管、リンパ節、腎臓、膀胱、尿管、尿道、前立腺、精管、精巣、卵管、卵巣、気管、肺、鼻、皮膚、乳房、横隔膜を挙げることができる。
【0014】
本発明の組織再生用組成物は好ましくは肝障害の治療又は予防を目的とした組織の再生に用いられる。即ち、本発明の好適な一態様では、肝障害に対する医薬組成物(細胞製剤)として組織再生用組成物が使用される。「肝障害」には肝炎、肝硬変、肝癌、術後肝不全が含まれる。「肝炎」には急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎などが含まれる。また、「肝炎」は原因の違いによってウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝炎、及び薬剤性肝炎に分類される。
【0015】
本発明の組織再生用組成物の用途は肝障害の治療又は予防に限られるものではない。例えば、膵疾患(糖尿病など)、難治性神経疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、網膜変性症など)、骨軟骨疾患、免疫疾患(移植に起因するものを含む)、腎障害(急性腎不全、慢性腎不全、溶血性尿毒性症候群、急性尿細管壊死、間質性腎炎、急性乳頭壊死、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、膠原病に伴う腎炎、血管炎に伴う腎障害、腎盂炎、腎硬化症、薬剤性腎障害、移植に伴う腎障害など)、虚血性疾患(下肢閉塞性動脈硬化症などの閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞などの脳血管障害など)又は創傷の治療又は予防用の医薬組成物として本発明の組織再生用組成物を適用することも期待される。
【0016】
(投与対象、投与方法)
本発明の組織再生用組成物が投与される対象はヒト、又はヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)である。好ましくは、本発明の組織再生用組成物はヒトに対して使用される。
【0017】
目的の組織に送達される限りにおいて、本発明の組織再生用組成物の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって本発明の組織再生用組成物を投与する。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、目的の組織への直接注入又は塗布を例示することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、病態などを考慮することができる。
【0018】
(ASCsの調製法)
以下、ASCsの調製法の一例を説明する。
(1)脂肪組織からの細胞集団の調製
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)を含む。免疫拒絶の問題を回避するため、本発明の組織再生用組成物を適用する対象(レシピエント)と同一の個体から脂肪組織を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。
【0019】
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際の患者への負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくてもよい)を混合し、以降の操作に使用してもよい。脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるASCsの量を考慮して定めることができ、例えば0.5〜100g程度である。ヒトをドナーとする場合にはドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約10〜20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。尚、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。
【0020】
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すればよい(例えば、R.I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A John Wiley & Sones Inc., Publication参照)。好ましくは、後述の実施例に記載の手法及び条件によってここでの酵素処理を行う。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多分化能幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞等を含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。
【0021】
(2)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1〜10分間、800〜1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。
【0022】
ここで得られた「SVF画分」はASCsを含む。従って、SVF画分を用いて本発明の組織再生用組成物を調製することができる。つまり、本発明の組織再生用組成物の一態様では、SVF画分が含有されることになる。尚、SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、SVF画分は、CD34陽性且つCD45陰性の細胞集団と、CD34陽性且つCD45陰性の細胞集団を含む点によって特徴付けられる(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。
【0023】
(3)接着性細胞(ASCs)の選択培養及び細胞の回収
SVF画分にはASCsの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をASCsとして本発明の組織再生用組成物に用いる。
【0024】
まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば3日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されない。尚、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしてもよい。血清又は血清代替物の添加量は例えば5%(v/v)〜30%(v/v)の範囲内で設定可能である。
【0025】
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレイパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ASCs)を用いることにより、ASCsを高純度で含有する組織再生用組成物を調製することができる。
【0026】
(4)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
本発明の一態様では、上記(3)の操作の代わりに又は上記(3)の操作の後に以下の低血清培養を行う。そして、その結果得られた細胞をASCsとして本発明の組織再生用組成物に用いる。
【0027】
低血清培養では、SVF画分((3)の後にこの工程を実施する場合には(3)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多分化能幹細胞(即ちASCs)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明の組織再生用組成物を投与する対象(レシピエント)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。自己血清を使用することによって、製造工程中から異種動物材料を排斥し、安全性が高く且つ高い治療効果を期待できる細胞製剤が提供される。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1〜100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2を含有する培養液中で細胞培養する。
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清等を用いることができる。好ましくはヒト血清、更に好ましくは本発明の組織再生用組成物を適用する対象の血清(即ち自己血清)を用いる。
【0028】
培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMED:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。
【0029】
以上の方法で培養することによって、多分化能幹細胞(ASCs)を選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖する多分化能幹細胞(ASCs)は高い増殖活性を持つので、継代培養によって、本発明の組織再生用組成物に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。尚、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞はCD13、CD90及びCD105陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD106及びCD117陰性である(国際公開第2006/006692A1号パンフレット)。
【0030】
続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(3)の場合と同様に行えばよい。回収した細胞(ASCs)を用いることにより、ASCsを高純度で含有する組織再生用組成物を調製することができる。
【0031】
(5)製剤化
SVF画分の細胞、上記選択培養(3)の結果得られた細胞、又は上記低血清培養(4)の結果得られた細胞(以下、これらの細胞をまとめて「本発明の細胞」という)とヘパリンを組み合わせて用いることによって本発明の組織再生用組成物を得る。典型的には、本発明の細胞とヘパリンとを混合した配合剤として本発明の組織再生用組成物が提供されることになる。例えば、本発明の細胞を生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁させて得た細胞懸濁液にヘパリンを混合すればよい。
【0032】
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して増殖した細胞を用いて組織再生用組成物が構成されるが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養することによって増殖した細胞をASCsとして用いて組織再生用組成物を調製することにしてもよい。即ち本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞をASCsとして用いる。
【0033】
好ましい一態様において本発明の組織再生用組成物は、ASCs以外は細胞成分を含有しない。換言すれば、細胞成分としてはASCsのみを含有する。このようにASCsを高純度で含有することは、ASCsに期待される再生効果の発揮に有利である一方で、他の細胞成分による不測の副作用の防止に効果的である。
【0034】
一方、例えば、ASCsを含有する第1構成要素と、ヘパリンを含有する第2構成要素とからなるキットの形態で本発明の組織再生用組成物を提供することもできる。この場合、対象に対して同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が投与されることになる。好ましくは、両要素を同時に投与することにする。大量の細胞を安全に投与することを可能にするという、本発明者らが見出したヘパリンの効果が最大限に発揮されるからである。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に対象へ投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。一方、片方の投与後、所定の時間差で他方を投与する場合は、上記ヘパリンの効果が良好に奏されるよう、時間差を可及的に短く設定することが好ましい。例えば、片方の投与後15分以内、好ましくは10分以内、更に好ましくは5分以内に他方を投与する。
【0035】
ASCsを含有する組織再生用組成物とし、その投与時にヘパリンが併用投与されるようにしてもよい。この場合の組織再生用組成物とヘパリンの投与のタイミングは、上記のキットの形態の場合と同様である。即ち、好ましくは同時に両者が投与されることになるが、所定の時間差で両者を投与することにしてもよい。また、上記の態様とは逆に、ヘパリンを含有する組織再生用組成物とし、その投与時にASCsが併用投与されるようにしてもよい。この場合の投与のタイミングは上記の態様の場合に準ずる。
【0036】
所望の再生効果が発揮されるように、一回投与分の量として例えば1×105個〜1×1010個のASCsを組織再生用組成物に含有させるとよい。ヘパリンについては、一回投与分の量として例えば100単位〜10000単位を組織再生用組成物に含有させるとよい。ASCs及びヘパリンの量は、使用目的、適用対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。
【0037】
細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の組織再生用組成物に含有させてもよい。サイトカインの例はインターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及びエリスロポエチン(EPO)、アクチビン、オンコスタチンM(OSM)である。尚、CSF、G-CSF、EPO等は成長因子でもある。一方、成長因子の例は肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF2)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)及び脳由来神経栄養因子(BDNF)である。
【0038】
さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の組織再生用組成物に含有させてもよい。
【実施例】
【0039】
<急性肝炎マウスへのASCs・ヘパリン同時投与試験>
脂肪組織由来幹細胞(ASCs)を投与する際にヘパリンを併用した場合の効果を調べることを目的として以下の実験を施行した。
【0040】
1.ACSsの調製
以下の一連の操作によってマウスの脂肪よりASCsを調製した。
(1)1mg/mlの濃度でコラゲナーゼをHank's緩衝液に溶解した後、0.45μmフィルターに通し、滅菌した(コラゲナーゼ溶液)。使用するまでは4℃にてコラゲナーゼ溶液を保存した。使用直前に37℃でインキュベートした。
(2)C57BL/6 Cr SLCマウス(メス、14週齢、日本エスエルシー株式会社)をけい椎脱臼後、EtOHに浸漬させた。
(3)表皮を腹部から上下に剥ぎ取り、皮膚を上手に足に巻きつけ、脂肪組織を採取した。採取した脂肪組織を軽くPBSで洗浄後、氷上のFD培地(F12:DMEM=1:1)に浸漬した。
(4)不要な結合組織、血管、その他の組織(筋肉)等を除いた後、脂肪組織をナイフで細断した。
(5)脂肪組織をPBSで再度洗浄した。
(6)脂肪組織の重量を測定し、2倍容量のコラゲナーゼ溶液を加えた後、37℃の保温器内で60分間振盪させた。
(7)FD培地を10ml添加後、ピペッティングして塊をほぐした。
(8)セルストレイナー(70μmメッシュ)を通した後、新しい遠沈チューブ移した。
(9)セルストレイナーを10mlのFD培地ですすぎ、セルストレイナー上に残った細胞を回収し、(8)の遠沈チューブに加えた。
(10)遠沈チューブを室温、1200rpmで5分間遠心した後、上清を除いた。
(11)沈渣を10mlのFD培地に懸濁させた。
(12)(9)〜(11)の操作を繰り返した(3回)。
(13)最終的に得られた沈渣を5mlのFD培地に懸濁することによって細胞懸濁液を得た後、細胞数を計測した。
(14)2×105cells/25cm2となるように培養用フラスコに細胞を播種し、37℃で一晩培養した。
(15)培地交換することによって非付着細胞を除去した。以降、3日おきに培地交換した。
以上の操作の結果、1gの脂肪組織から約5×106cellsのASCsを回収することができた。
【0041】
2.移植実験
2−1.マウスの準備
C57BL/6 Cr SLCマウス(オス、6週齢、日本エスエルシー株式会社)を合計28匹用意し、正常群(3匹)、生食投与群(6匹)、ヘパリン投与群(7匹)、ASCs投与群(6匹)及びヘパリンASCs併用投与群(6匹)に分けた。各群の条件は次の通りである。
正常群:CCl4による肝炎の誘導をしない群
生食投与群(対照群):CCl4による肝炎を誘導した後、生理食塩水(150μl)を静脈注射で投与する群
ヘパリン投与群:CCl4による肝炎を誘導した後、ヘパリン(5μlのノボ・ヘパリン注1000を生理食塩水145μlと混合したもの)を静脈注射で投与する群
ASCs投与群:CCl4による肝炎を誘導した後、ASCs(上記の手順で調製したASCs(1×106)を生理食塩水150μlに懸濁したもの)を静脈注射で投与する群
ヘパリンASCs併用投与群:CCl4による肝炎を誘導した後、ヘパリンとASCsの混合液(上記の手順で調製したASCs(1×106)を生理食塩水150μlに懸濁した後、5μlのノボ・ヘパリン注1000を添加したもの)を静脈注射で投与する群
【0042】
2−2.試験方法
(1)肝炎を誘導するマウス(生食投与群、ヘパリン投与群、ASCs投与群、ヘパリンASCs併用投与群)にCCl4(オリーブ油でCCl4を10倍希釈した溶液を0.5mL/kg)を腹腔内投与した。
(2)CCl4の投与から4時間後、生食投与群のマウスには生理食塩水を、ヘパリン静注群のマウスにはヘパリンを、ASCs静注群のマウスにはASCsを、ヘパリンASCs静注群のマウスにはヘパリンASCs混合液をそれぞれ尾静脈より投与した。
(3)CCl4の投与から24時間後に各マウスからサンプリング(血液及び肝組織)を行った。
(4)サンプリングした試料を用いて肝障害マーカーAST(GOT)、ALT(GPT)、LDHを測定し、測定値を群間で比較・評価した。尚、近年GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)をAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)をALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)と呼ぶ施設が多くなり、国際的な標準になりつつある。また、LDHはlactate dehydrogenase(乳酸脱水素酵素)の略称である。
【0043】
2−3.結果
各肝障害マーカーの測定結果を図1に示す。図1aはASTの測定値を比較したグラフ、同bはALTの測定値を比較したグラフ、同cはLDHの測定値を比較したグラフである。各グラフにおいて左から順に正常群の測定値、生食投与群の測定値、ヘパリン投与群の測定値、ASCs投与群の測定値、及びヘパリンASCs併用投与群の測定値が示される。図1dは、ASCs投与群とヘパリンASCs併用投与群の生存率を比較したグラフである。図2は各肝障害マーカーについて、生食投与群の測定値とヘパリンASCs投与群の測定値をt-検定で比較・評価した結果(a:AST値の検定結果、b:ALT値の検定結果、c:LDH値の検定結果)である。
【0044】
2−4.考察
生食投与群と比較すると、ヘパリンASCs併用投与群においてAST値の減少傾向を確認できる(p=0.052)(図1a、図2a)。ヘパリンASCs併用投与群よりもASCs投与群の方がAST値が若干低いが、ASCs投与群のマウスは2匹(6匹中)しか生存していない(図1d)。
生食投与群に比較すると、ヘパリンASCs併用投与群においてALT値の減少傾向を確認できる(図1b、図2b)。
生食投与群に比較すると、ヘパリンASCs併用投与群においてLDH値の有意な減少を確認できる(p=0.029)(図1c、図2c)。
ASCs投与群では6匹中4匹が肺梗塞、肝梗塞を起こし、移植直後に死亡が確認されたのに対し(生存率33%)、ヘパリンASCs投与群ではいずれのマウスにおいても梗塞が認められず、死亡に至るものもなかった(生存率100%)。
以上の通り、ASCsとヘパリンを併用投与すれば高い治療効果が得られた。また、ASCsの大量投与に伴う梗塞の惹起をヘパリンの併用によって防止できること、即ちヘパリンを併用すれば大量のASCsを安全に投与可能であることが判明した。
【0045】
<低血清培養によるASCsの取得>
1.脂肪組織からの沈降細胞集団(SVF画分)の調製
以下の手順でヒト脂肪組織からSVF画分を調製する。
(1)切除術によって得られたヒト脂肪組織(皮下脂肪又は内臓脂肪)をDMEM/F12液(ダルベッコ変法イーグル培地とF12培地を等量混合した培地(シグマ))で数回(例えば3回)洗浄し、付着した血液などを除去する。
(2)滅菌培養皿内で脂肪組織を手術用メスで細片化する。
(3)遠心チューブに脂肪組織を入れ、その重量を計測する。
(4)コラゲナーゼtype1溶液を上記の遠心チューブに必要量添加した後、37℃で所定時間(例えば1〜2時間)振盪させる。振盪条件は例えば120回/minの条件とする。
(5)続いて、遠心チューブにDMEM/F12液を所定量入れ、ピペッティングする。
(6)ピペッティング後の細胞懸濁液を孔径100μmのフィルターで濾過する。
(7)得られた濾液を常温で1200rpm、5分間遠心処理する。沈渣を回収し、SVF画分とする。
尚、吸引脂肪を用いる場合には、(1)及び(2)の操作を省略することができる。
【0046】
2.SVF画分の低血清培養
以下の手順でSVF画分を低血清培養する。
(1)SVF画分中の有核細胞を低血清培養液に懸濁し、ファイブロネクチンコート25cmフラスコに播種する。低血清培養液は以下の通り調製した(a〜e)。
(a)DMEM(日水製薬)5.7g、MCDB201(シグマ)7g、L-グルタミン(シグマ)0.35g、NaHCO3(シグマアルドリッチジャパン)1.2g、0.1mMアスコルビン酸(和光純薬工業)1ml、抗生物質(100,000units/mlペニシリン及び100mg/mlストレプトマイシン)0.5mlを980mlの蒸留水に溶解する。
(b)10N NaOHにてpHを7.2に調整する。
(c)濾過・滅菌する。
(d)リノール酸-アルブミン(シグマ)10mlと100×ITS(インスリン10mg、トランスフェリン5.5mg、亜セレン酸ナトリウム5μg、シグマ)10mlを添加する。
(e)100μg/ml bFGF(ぺプロテック)1μlを加える(最終濃度10ng/ml)。
【0047】
(2)2日毎に培地を全量交換する。
(3)コンフルエントに達したら1mM EDTA含有PBSで洗浄後、0.05〜0.25%トリプシン溶液で処理して細胞を剥離して回収し、回収した細胞を所定の密度(例えば8×103個/cm2)でファイブロネクチンコートプレートに播種する。
(4)以上の継代培養を必要に応じて繰り返す。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、組織の再生に際し大量のASCsを安全に投与することが可能となる。本発明は、治療効果の向上を目指せば大量のASCsを投与することが望まれるものの安全性の観点から投与量を抑えるしかないという現状の課題を打破する有効な手段を提供するものであり、その臨床的意義は大きい。本発明は例えば肝障害の治療又は予防に対する医薬として利用され得る。
【0049】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】各肝障害マーカーの測定結果。(a)はASTの測定値を比較したグラフ、(b)はALTの測定値を比較したグラフ、(c)はLDHの測定値を比較したグラフである。各グラフにおいて左から順に正常群の測定値、生食投与群の測定値、ヘパリン投与群の測定値、ASCs投与群の測定値、及びヘパリンASCs併用投与群の測定値が示される。(d)は、ASCs投与群とヘパリンASCs併用投与群の生存率を比較したグラフである。●はASCs投与群の生存率、▲はヘパリンASCs併用投与群の生存率である。
【図2】各肝障害マーカーについて、生食投与群の測定値とヘパリンASCs投与群の測定値をt-検定で比較・評価した結果。(a)はAST値の検定結果であり、(b)はALT値の検定結果であり、(c)はLDH値の検定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織由来幹細胞とヘパリンを組み合わせてなる組織再生用組成物。
【請求項2】
脂肪組織由来幹細胞とヘパリンとを含有することを特徴とする、請求項1に記載の組織再生用組成物。
【請求項3】
脂肪組織由来幹細胞を含有する第1構成要素と、ヘパリンを含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項1に記載の組織再生用組成物。
【請求項4】
脂肪組織由来幹細胞を含有し、投与時にヘパリンが併用投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組織再生用組成物。
【請求項5】
ヘパリンを含有し、投与時に脂肪組織由来幹細胞が併用投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組織再生用組成物。
【請求項6】
前記脂肪組織由来幹細胞が、
(1)脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団に含まれる接着性細胞若しくはその継代細胞、
(2)前記沈降細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、又は
(3)脂肪組織から分離した細胞集団を低血清条件下で培養したときに増殖した細胞、
である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
【請求項7】
前記低血清条件が、培養液中の血清濃度が5%(V/V)以下の条件である、請求項6に記載の組織再生用組成物。
【請求項8】
脂肪組織から分離した細胞集団を800〜1500rpm、1〜10分間の条件下で遠心処理したときに沈降する沈降細胞集団とヘパリンとを含有することを特徴とする、請求項1に記載の組織再生用組成物。
【請求項9】
肝障害の治療又は予防に使用されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
【請求項10】
前記肝障害が、肝炎、肝硬変、肝癌又は術後肝不全であることを特徴とする、請求項9に記載の組織再生用組成物。
【請求項11】
前記脂肪組織がヒトの脂肪組織である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組織再生用組成物。
【請求項12】
以下のステップを含む、組織再生用組成物の調製法:
(1)脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを用意するステップ;
(2)前記脂肪組織由来幹細胞と前記ヘパリンを混合するステップ。
【請求項13】
組織再生用組成物を製造するための、脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンの使用。
【請求項14】
再生目的の組織を有する患者に対して治療上有効量の脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを投与することを含む組織再生法。
【請求項15】
肝障害を罹患した又は罹患するおそれのある患者に対して治療上有効量の脂肪組織由来幹細胞及びヘパリンを投与することを含む、肝障害の治療又は予防法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1509(P2009−1509A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161599(P2007−161599)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】