説明

脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤

【課題】新規な肝炎治療剤を開発することを目的とした。
【解決手段】脂肪組織由来間質細胞群が優れた安全性、肝細胞壊死抑制効果及び肝障害マーカー値の改善効果を有することを確認し、該細胞群を含む肝炎治療剤を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(肝臓及びその疾患)
肝臓は、身体に必要な物質を合成し、老廃物を排泄するなど、生命活動にとって重要な臓器である。
しかし、肝臓は、ウイルス、薬物、アルコール等の原因により、急性及び慢性的に障害を受け、肝炎、肝硬変、肝癌等の肝疾患を起こす。
【0003】
(急性肝炎)
急性肝炎は、ほとんどがウイルス(特に肝炎ウイルス)の感染により起こる。感染ウイルスの種類により、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎、及びその他のウイルスによる肝炎に分類される。
日本における急性肝炎の年間発生は、約35万人といわれており、その内訳はA型肝炎10万人、B型肝炎10万人、C型肝炎14万人であり、D型肝炎とE型肝炎は僅かである。
【0004】
(劇症肝炎)
劇症肝炎は、肝臓の肝細胞が急激かつ大量に壊れることによって、肝機能が低下していく疾患である。なお、肝機能が低下すると、血液を固めるために必要な凝固因子の産出が低下し、また、老廃物の蓄積により意識障害(肝性脳症)が出現する。
劇症肝炎の症状は、発熱、全身のだるさ、吐き気、食欲不振等の急性肝炎と同じ症状である。さらに、該症状が現れてから約8週間以内に、肝性脳症が見られ、血液中の凝固因子濃度がある一定値以下になった場合には、劇症肝炎と診断する。劇症肝炎では、肝臓の組織が大量に壊れるために、肝細胞の増殖が遅れて肝再生が十分生じない場合がある。
日本における劇症肝炎の年間発生は、約400人と推定される。
【0005】
先行特許文献1では、「脂肪組織由来幹細胞とヘパリンを組み合わせた組織再生用組成物」を開示している。該文献では、脂肪細胞組織由来幹細胞を単独で含む組織再生組成物を開示している(参照:段落[0023])。また、実施例での四塩化炭素投与による急性肝炎マウスでの実験結果では、肝障害マーカー(ALT、AST)値は、無治療群と比較して、約70〜54%を示した。加えて、脂肪細胞組織由来幹細胞のみを投与した群の生存率は33%であり、該細胞にヘパリンを併用投与した群の生存率は100%であった(参照:段落「0004」及び「0044」)。
さらに、本発明の肝炎治療剤を四塩化炭素投与による急性肝炎マウスに投与しても、該組織再生用組成物のような結果が見られなかった。
以上により、本発明の脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤は、該組織再生用組成物とは、組成内容、治療効果及び治療機構が明らかに異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−1509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
急性肝炎・劇症肝炎は、治療奏功まで時間を要する場合があり、また、速やかな治療開始にもかかわらず急速な肝機能悪化を防ぐことができない場合がある。重篤な肝機能障害症状の場合には、血漿交換、さらには肝移植が必要である。しかし、肝移植のためのドナーが不足している状況である。
そこで、本発明者らは、新規な肝炎治療剤を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、脂肪組織由来幹細胞ではなく、脂肪組織由来間質細胞群に注目した。
そして、本発明者らは、脂肪組織由来間質細胞群が優れた安全性、肝細胞壊死抑制効果及び肝障害マーカー値の改善効果を有することを確認し、該細胞群を含む肝炎治療剤を完成した。
【0009】
本発明は以下からなる。
「1.内皮細胞、血球系細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤。
2.内皮細胞、血球系細胞、線維芽細胞、血管周囲細胞、平滑筋細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群を含む前項1に記載の肝炎治療剤。
3.前記肝炎が、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、劇症肝不全、又は急性肝不全である前項1又は2に記載の肝炎治療剤。」
【発明の効果】
【0010】
本発明の肝炎治療剤は、優れた安全性、肝細胞壊死抑制効果及び肝障害マーカー値の改善効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コンカナバリンA投与群の肝細胞の画像(実施例2)。
【図2】コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群の肝細胞の画像(実施例2)。
【図3】ASTの測定結果(実施例3)。図中の「ConA」、「ConA ADSC」、「ConA MC38」、「ConA hepatocyte」及び「normal」は、それぞれ、「コンカナバリンA投与群」、「コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群」、「コンカナバリンA及び大腸癌細胞株MC38投与群」、「コンカナバリンA及び初代培養マウス肝細胞投与群」及び「正常群」を意味する。
【図4】ALTの測定結果(実施例3)。図中の「ConA」、「ConA ADSC」、「ConA MC38」、「ConA hepatocyte」及び「normal」は、それぞれ、「コンカナバリンA投与群」、「コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群」、「コンカナバリンA及び大腸癌細胞株MC38投与群」、「コンカナバリンA及び初代培養マウス肝細胞投与群」及び「正常群」を意味する。
【図5】マウスの生存率の結果(実施例4)。図中の「ConA」及び「ConA ADSC」、は、それぞれ、「コンカナバリンA投与群」及び「コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群」を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(肝炎治療剤)
本発明の肝炎治療剤は、少なくとも、内皮細胞、血球系細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群、より好ましくは、内皮細胞、血球系細胞、線維芽細胞、血管周囲細胞、平滑筋細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群を含む。
なお、脂肪組織由来間質細胞群は、好ましくは、自家性又は同系である。自家性脂肪組織由来間質細胞群とは、投与対象から得られた脂肪組織由来間質細胞群を意味する。また、同系脂肪組織由来間質細胞群とは、投与対象と同じ種から得られた脂肪組織由来間質細胞群を意味する。例えば、投与対象がヒトであるなら、同系脂肪組織由来間質細胞群は投与対象以外のヒトから得られる。
【0013】
(脂肪組織由来間質細胞群)
本発明の脂肪組織由来間質細胞群とは、分取した脂肪組織を酵素処理(好ましくは、コラゲナーゼ処理)して得られた細胞群を意味する。
脂肪組織由来間質細胞群は、少なくとも内皮細胞、血球系細胞を含み、好ましくは、内皮細胞、血球系細胞、線維芽細胞、血管周囲細胞、平滑筋細胞を含む。
【0014】
(肝炎治療剤の適用対象)
本発明の肝炎治療剤の適用対象は、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、劇症肝不全、又は急性肝不全等である。
さらに、本発明の肝炎治療剤は、肝炎予防にも利用できる。
【0015】
(肝炎治療剤の治療対象)
本発明の肝炎治療剤の治療対象は、哺乳動物を包括的に含む。哺乳動物の例として、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サル等であるが、特に限定されない。
【0016】
(肝炎治療剤に含まれる生理活性物質)
本発明の肝炎治療剤には、生理活性物質が含まれていても良い。生理活性物質は、例えば、タンパク質、ポリペプチド、多糖(例えばヘパリン)、オリゴ糖、単糖、二糖、有機化合物、有機金属化合物、又は無機化合物等が挙げられるが特に限定されない。より詳しくは、生物学的に活性な分子、例えば、ホルモン、増殖因子、増殖因子産生ウイルス、増殖因子阻害薬、増殖因子受容体、抗炎症薬、代謝拮抗薬、インテグリン遮断薬、又はセンス遺伝子若しくはアンチセンス遺伝子等が挙げられる。
さらにより詳しくは、増殖因子の例としては、白血病阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子−ベータ(TGF−β)、インスリン様増殖因子(IGF)、および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ヒト成長ホルモン、血小板誘発増殖因子(PDGF)、インターロイキン、サイトカイン、又はそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0017】
(肝炎治療剤に含まれる免疫抑制剤)
本発明の肝炎治療剤には、免疫抑制剤が含まれていても良い。例えば、自家性ではない脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤の場合には、免疫拒絶反応を抑えるために、好ましくは免疫抑制剤を含める。
【0018】
(肝炎治療剤に含まれる担体)
本発明の肝炎治療剤には、担体が含まれていても良い。担体の例としては、生理食塩水、溶媒、分散培地、細胞培養液、水溶性緩衝、抗酸化剤等が挙げられるが特に限定されない。
【0019】
(肝炎治療剤の投与形態)
本発明の肝炎治療剤の投与経路は特に限定されない。例えば、静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射等を利用することができる。
また、本発明の肝炎治療剤の投与量は、例えば、1回の1治療部位当たり約1×102〜1×1015個の脂肪由来幹細胞を該治療部位に投与できるが、特に限定されない。
【0020】
(脂肪組織由来間質細胞群の調製方法)
脂肪組織由来間質細胞群の調製方法を以下に記載するが、特に限定されない。
脂肪組織(皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪)を動物から切除、吸引などの手段で採取する。免疫拒絶を回避するため、治療対象と同一の個体から脂肪組織を採取することが好ましい。
採取した脂肪組織は、必要に応じて、付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、酵素処理に供される。酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化する。
なお、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分等を除去することができる。
【0021】
(脂肪組織由来間質細胞群の調製方法の例)
脂肪組織由来間質細胞群の調製方法の具体例を以下に示すが、特に限定されない。
ヒトから採取した脂肪を、緩衝液を含有する培養皿に置き、洗浄し、さらに別の緩衝液を含有する培養皿に移す。該脂肪を微細な小片に刻み、2mg/mLコラゲナーゼIを用いて数時間、約30〜39℃で消化する。消化済みの脂肪の懸濁液をDMEM−10(DMEM+10%FBS+1%ペニシリン/アンピリシン)中で洗浄する。そして、消化されなかった脂肪組織を除去し、細胞ペレットを5mLのDMEM−10中に懸濁させる。さらに、脂肪細胞懸濁液を、フィルターメッシュに通し、大きな粒子および凝集塊を除去して、脂肪組織由来間質細胞群を得る。
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(脂肪組織由来間質細胞群の調製方法)
マウスの脂肪より脂肪組織由来間質細胞群を調製した。詳細は、以下の通りである。
C57Bl/6マウスを安楽死させ、鼡径部皮下脂肪組織を鈍的に剥離採取し、緩衝液を含有する培養皿に浸し洗浄し、さらに別の緩衝液を含有する培養皿に移した。該脂肪組織を細切し、0.15%コラゲナーゼIにて最大30分、37℃にて酵素処理し、抗真菌および抗生物質を含む10% FBS 添加DMEM/F12(1:1) 溶液へ懸濁し、フィルターメッシュ(100μm)に通した後、遠心分離にて沈降させ、初代間質細胞群を得た。
さらに、該初代間質細胞群を、抗真菌および抗生物質を含む10%FBS添加DMEM/F12(1:1)培養液で培養し、非選択的に継代培養増殖を行った。
【実施例2】
【0024】
(肝細胞壊死抑制効果の確認)
本発明の肝炎治療剤が肝細胞壊死抑制効果を有することを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0025】
(マウスの準備)
C57Bl/6マウス(メス、12週齢)を使用し、コンカナバリンA(Concanavalin A)投与群、並びに、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群を準備した。各群の条件は、以下の通りである。
<コンカナバリンA投与群>
0.3mg コンカナバリンAをすべてのマウスの尾静脈投与した。そして、各マウスを、それぞれ、投与0時間後(投与直後)、投与3時間後、6時間後、12時間後、24時間後に、麻酔下で開腹して、肝臓を確認した。
<コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群>
0.3mg コンカナバリンAをすべてのマウスの尾静脈投与し、さらに該投与3時間後に実施例1で調製した約100,000個の脂肪組織由来間質細胞を尾静脈投与した。そして、各マウスを、それぞれ、コンカナバリンA投与前無処置マウス(脂肪組織由来間質細胞投与なし)、3時間後(脂肪組織由来間質細胞投与直後)、6時間後(脂肪組織由来間質細胞投与3時間後)、12時間後(脂肪組織由来間質細胞投与9時間後)、24時間後(脂肪組織由来間質細胞投与21時間後)に、麻酔下で開腹して、肝臓を確認した。
【0026】
(肝臓の肝細胞壊死の確認)
上記コンカナバリンA投与群の肝細胞の画像を図1に示す。また、上記コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群の肝細胞の画像を図2に示す。
図1の画像より、コンカナバリンA投与後3時間、6時間では炎症を示唆する暗赤色調が経時的に強くなり、12時間より壊死部が明瞭となり、24時間でさらに拡大していることを確認できた。
一方、図2の画像により、コンカナバリンA投与後6時間(脂肪組織由来間質細胞投与3時間後)のマウスの肝臓では、炎症を示唆する暗赤色変化がみられるが、コンカナバリンA投与後12及び24時間の各マウスの肝臓では、色調は正常肝とほぼ同様、炎症の消褪が観察された。
以上により、本発明の脂肪組織由来間質細胞を含む肝炎治療剤は、迅速な肝細胞壊死抑制効果を有することを確認した。
【実施例3】
【0027】
(肝障害マーカーの改善の確認)
本発明の肝炎治療剤が肝障害マーカー値改善効果を有することを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0028】
(マウスの準備)
C57Bl/6マウス(メス、12週齢)を合計36匹用意した。
肝障害マーカーであるAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)測定用のコンカナバリンA投与群(4匹)、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群(3匹)、コンカナバリンA及び大腸癌細胞株MC38投与群(3匹)、コンカナバリンA及び初代培養マウス肝細胞投与群(3匹)並びに正常群(5匹)を用意した。
肝障害マーカーであるALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)測定用のコンカナバリンA投与群(4匹)、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群(3匹)、コンカナバリンA及び大腸癌細胞株MC38投与群(3匹)、コンカナバリンA及び初代培養マウス肝細胞投与群(3匹)並びに正常群(5匹)を用意した。
各群の条件は、以下の通りである。
<コンカナバリンA投与群>
0.3mg コンカナバリンAをマウスの尾静脈投与した。
<コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群>
コンカナバリンAをマウスの尾静脈投与し、さらに該投与3時間後に実施例1で調製した約100,000個の脂肪組織由来間質細胞を尾静脈投与した。
<コンカナバリンA及び大腸癌細胞株MC38投与群>
コンカナバリンAをマウスの尾静脈投与し、さらに該投与3時間後に約100,000個の大腸癌細胞株MC38を尾静脈投与した。
<コンカナバリンA及び初代培養マウス肝細胞投与群>
コンカナバリンAをマウスの尾静脈投与し、さらに該投与3時間後に約100,000個の初代培養マウス肝細胞を尾静脈投与した。
<正常群>
コンカナバリンAを投与していない。
【0029】
(肝障害マーカー値の測定)
上記コンカナバリンA投与24時間後の各群の血清中のAST及びALTを測定した。
AST測定は、Lタイプワコー GOT・J2(和光純薬工業株式会社製)のキット及び自動分析装置(日立7180/日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行なった。
ALT測定は、Lタイプワコー GPT・J2(和光純薬工業株式会社製)のキット及び自動分析装置(日立7180/日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて行なった。
【0030】
(肝障害マーカー値の測定結果)
AST及びALTの測定結果を、それぞれ、図3及び図4に示す。
図3の結果より、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群のASTは、コンカナバリンA投与群のASTと比較して、顕著に減少していることを確認した。
さらに、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群のAST値は、コンカナバリンA投与群(無治療群)のAST値と比較して、約11.5%(750/6500)にまで減少した。
図4の結果より、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群のALTは、コンカナバリンA投与群のALTと比較して、顕著に減少していることを確認した。
さらに、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群のALT値は、コンカナバリンA投与群(無治療群)のALT値と比較して、約5.5%(300/5500)にまで減少した。
加えて、本発明の肝炎治療剤の効果を、先行特許文献1に記載の「組織再生用組成物」と比較すると、AST効果では約6倍(70/11.5×100)、ALT効果では約9倍(50/5.5×100)であった。
すなわち、本発明の肝炎治療剤の肝障害マーカー改善効果は、先行技術に記載の組織再生用組成物の肝障害マーカーの改善効果と比較して、6倍以上である。
以上により、本発明の脂肪組織由来間質細胞を含む肝炎治療剤は、肝障害マーカーを顕著に改善させることができることを確認した。
【実施例4】
【0031】
(安全性の確認)
本発明の肝炎治療剤が安全であることを確認するために、該治療剤を投与されたマウスの生存率を確認した。
極めて強い肝炎誘発マウスで安全性(生存率)を確認するために、マウスに投与するコンカナバリンAを0.6mgとした。詳細は、以下の通りである。
【0032】
(マウスの準備)
C57Bl/6マウス(メス、12週齢)を使用し、コンカナバリンA(Concanavalin A)投与群、並びに、コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群を準備した。各群の条件は、以下の通りである。
<コンカナバリンA投与群>
0.6mg コンカナバリンAをすべてのマウス(4匹)の尾静脈投与した。そして、マウスの生存率を算出した。
<コンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群>
0.6mg コンカナバリンAをすべてのマウス(3匹)の尾静脈投与し、さらに該投与直後に実施例1で調製した約100,000個の脂肪組織由来間質細胞を尾静脈投与した。そして、マウスの生存率を算出した。
【0033】
(マウスの生存率の確認)
上記マウスの生存率を図5に示す。
図5に示すように、コンカナバリンA投与72時間経過後のコンカナバリンA及び脂肪組織由来間質細胞群投与群の生存率は100%であり、一方コンカナバリンA投与群の生存率は25%であった。
すなわち、本発明の肝炎治療剤は、先行技術に記載の組織再生用組成物とは異なり、ヘパリンを併用投与することなく、コンカナバリンA投与72時間経過後の生存率100%を達成することができた。
以上により、本発明の脂肪組織由来間質細胞を含む肝炎治療剤は、極めて強い肝炎(劇症肝不全類似)でも生存率100%を達成することができ、安全性が高いことを確認した。
【0034】
(総論)
実施例2、3及び4の結果より、本発明の肝炎治療剤は、安全性が高く、急激な肝炎に対する即効性の治療効果を有することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明では、新規な肝炎治療剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮細胞、血球系細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群を含む肝炎治療剤。
【請求項2】
内皮細胞、血球系細胞、線維芽細胞、血管周囲細胞、平滑筋細胞を含む脂肪組織由来間質細胞群を含む請求項1に記載の肝炎治療剤。
【請求項3】
前記肝炎が、急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、劇症肝不全、又は急性肝不全である請求項1又は2に記載の肝炎治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−56913(P2012−56913A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203796(P2010−203796)
【出願日】平成22年9月11日(2010.9.11)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】