説明

脂肪組織評価方法

【課題】脂肪組織の形成活動を評価する方法、脂肪組織量増加の可能性を評価する方法、ならびに脂肪蓄積調節剤を探索する方法の提供。
【解決手段】動物から採取した脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定することを特徴とする、脂肪組織の形成活動を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の脂肪組織や体脂肪の形成活動を評価する方法、脂肪組織量や体脂肪量の増加の可能性を評価する方法、ならびに脂肪蓄積調節剤を探索する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体内の余剰エネルギーは、中性脂肪として脂肪細胞に蓄えられる。過剰なエネルギー摂取や、運動不足等によるエネルギー消費の不足、糖脂質代謝やホルモンバランスの乱れ等により脂肪蓄積が過剰になると、全身性の肥満が生じたり、局所に好ましくない脂肪沈着が生じて健康や審美性を損なう原因となる。また適正な脂肪組織量が維持されないとインスリン抵抗性やホルモンバランスの乱れが生じる。
【0003】
体脂肪には、主に皮下脂肪と内臓脂肪とがあり、中性脂肪が細胞内に蓄積した脂肪細胞がこれらの組織を構成している。皮下脂肪と内臓脂肪は、身体での存在部位が異なるのみならず、機能的にも差異があることが明らかとなっている。例えば内臓脂肪が過剰な場合、その蓄積量は、インスリン抵抗性、糖尿病などのメタボリックシンドローム疾病率と相関することが知られている。一方、皮下脂肪はメタボリックシンドロームとの相関性は比較的小さいものの、レプチンなどの生理活性因子を盛んに分泌し、過剰に蓄積した場合は局所の循環系異常や、セルライト、審美的に好ましくない体型変化などの原因になる。
【0004】
したがって、体脂肪全体の蓄積量を計測し、適正量を維持することとともに内臓脂肪と皮下脂肪それぞれの蓄積量を計測、維持または調節していくことが重要である。体脂肪の蓄積や分布を評価するためには、従来、体組成測定機器やX線CTスキャンなどにより体脂肪量を計測することが行われてきた。しかし、これらの方法は、現時点での脂肪組織量やその分布を量的に測定することは可能だが、脂肪組織の質的な解析、さらには内臓脂肪と皮下脂肪を分別して質的解析を行うことは不可能である。さらに、今後起きる脂肪組織の変化を予測することもできない。
【0005】
内臓脂肪と皮下脂肪それぞれの蓄積量や、それらが将来増減する可能性を予測することができれば、健康面及び審美的観点から有用である。
【0006】
コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンは、動物の組織全般に発現していることが知られている細胞接着等に関与する細胞外マトリックスタンパク質である。これらの因子が脂肪組織に発現していることは知られているが、その発現変動や生理的機能ついては不明な点が多い。生体外の培養脂肪細胞系においては、未分化な細胞が成熟脂肪細胞へと分化する過程でコラーゲン、フィブロネクチンの発現が減少し、ラミニンの発現が上昇する現象が知られている(非特許文献1)。しかしながら生体内脂肪細胞組織においては、未分化な脂肪細胞、成熟脂肪細胞の他に幹細胞、血管、神経などが混在して組織を構成しており、動物個体の成長や生理的状態により脂肪組織の活動状態は刻々と変化している。したがって、培養脂肪細胞系での知見を単純に生体内脂肪組織の発現分子挙動に当てはめて理解することができない。そして、これらの因子の発現が脂肪組織の種類や発達状態によって異なることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gregorie F. M. et al., Physiological Reviews, 1998, vol.78: 783-809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分子発現を指標とした、脂肪組織や体脂肪の形成活動及び脂肪組織量や体脂肪量の増加の可能性を評価する方法、ならびに脂肪蓄積調節剤を探索する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、皮下脂肪組織及び内臓脂肪組織の形成を個別に評価する方法の開発を試みた。本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ある種のコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンの発現を指標にすることで、脂肪組織の形成活動の活性化状態を評価することができるとともに、将来における脂肪組織の量の増加を予測することを見出した。さらに本発明者らは、皮下脂肪と内臓脂肪とにおける当該コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンの発現量の比を求めることで、生体内における体脂肪の形成活動の活性化状態を評価することができるとともに、将来における体脂肪量の増加を予測することができることを見出した。さらに本発明者らは、ある種のコラーゲン及びフィブロネクチンの発現を指標にすることで、脂肪蓄積調節剤を探索することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)動物から採取した脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定することを特徴とする、脂肪組織の形成活動を評価する方法。
(2)上記分子の発現量を経時的に測定し、該発現量が経時的に増加している場合には、上記脂肪組織の形成活動が活性化していると評価することを特徴とする(1)記載の方法。
(3)上記分子の発現量が長期にわたって高い場合又は該発現量が経時的に増加している場合に、上記脂肪組織の量が増加すると予測することを特徴とする(1)記載の方法。
(4)上記脂肪組織が内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織である(1)記載の方法。
(5)動物から採取した内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定し、該内臓脂肪組織における発現量に対する該皮下脂肪組織における発現量の比を求めることを特徴とする、動物の体脂肪の形成活動を評価する方法。
(6)上記発現量の比の経時変化を求め、比が経時的に小さくなっている場合には、体脂肪の形成活動が活性化していると評価することを特徴とする(5)記載の方法。
(7)上記発現量の比が長期にわたって低い場合又は該比が経時的に小さくなっている場合に、体脂肪の量が増加すると予測することを特徴とする(5)記載の方法。
(8)試験物質の存在下で、脂肪細胞における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定し、該発現量に対する試験物質の影響を評価することを特徴とする、脂肪蓄積調節剤の探索方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動物の組織や生体内の脂肪量が将来増加するリスクを予測することができる。さらに本発明によれば、脂肪蓄積を調節することができる素材を探索することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、動物から採取した脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量が測定される。動物としては、特に限定されないが、哺乳動物が好ましく、ヒト等の霊長類、マウス、ラット等のげっ歯類、ブタ、ウシ等の家畜がより好ましく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター等の他の動物へも応用できる。
【0013】
脂肪組織は、上記動物の任意の部位から採取されたものであればよい。例えば、皮下脂肪組織としては、腹部、臀部、胸部などの体幹部、腕、大腿などの四肢部、頚頭部等の部位から採取された脂肪組織が好ましく、内臓脂肪組織としては、腸間膜、大網、腹膜、腎周囲、性腺などに形成された腹腔内の脂肪組織が好ましい。好ましくは、上記内臓脂肪組織および皮下脂肪組織が両方採取され、分子の測定に供される。脂肪組織の採取量としては、測定あたり10〜1000mgが好ましいが、充分な精度で発現量測定ができる量であれば特に限定されない。採取された脂肪組織は、上記分子の発現量測定に供するまで、必要に応じて凍結保存したり、又は溶解液や保存安定剤中に保存しておいてもよい。
【0014】
測定される分子のうち、
4型コラーゲンとしては、4型コラーゲンタンパク質を構成するα1鎖、α2鎖、α3鎖、α4鎖、α5鎖、α6鎖等が挙げられる。
15型コラーゲンとしては、15型コラーゲンタンパク質を構成するα1鎖、エンドスタチンが挙げられる。
ラミニンとしては、ラミニンタンパク質を構成するα1鎖、α2鎖、α3鎖、α4鎖、α5鎖、β1鎖、β2鎖、β3鎖、γ1鎖、γ2鎖、γ3鎖等が挙げられる。
フィブロネクチンとしては、1型、3型、及びそれらの派生物等が挙げられる。
これらの分子の発現量は、いずれか単独で測定してもよく、複数を組み合わせて測定してもよい。
【0015】
上記分子の発現量は、タンパク質分子を測定する方法として当該分野で知られている任意の方法により行えばよい。例えば、上記分子の発現量は、タンパク質発現量を直接測定して求めてもよく、又は該分子のサブタイプ、多型、糖と融合したプロテオグリカン、他のタンパク質との重合体、断片化または遊離した部分ペプチド等の発現量;これらをコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の成熟体、未成熟体及び分解体の発現量;ならびにこれらの発現を制御する転写調節領域の活性、等を測定し、それに基づいて発現量を算出してもよい。
【0016】
例えば、タンパク質発現量を測定する場合、脂肪組織から抽出したタンパク質を常法により定量すればよい。また例えば、ELISA法により特異的に定量するか、又はSDS−PAGEなどの電気泳動を施して分離した後に、目的とする分子を検出、定量してもよい。RNA発現量を測定する場合、脂肪組織から抽出したRNAから常法によりcDNA合成してこれをPCR法にかけ、目的とする分子に対応したRNAを検出、定量すればよい。
【0017】
本発明においては、上記分子の発現量が高いほど、当該分子が由来する脂肪組織の形成活動がより活性化していると評価することができる。分子の発現量は相対値として評価してもよい。例えば、動物個体の任意の部位から採取された脂肪組織(サンプル)における上記分子の発現量を測定し、脂肪形成が活性化していない個体(例えば、肥満又はその予備軍でない個体)の群(対照)における上記分子の発現量の平均値と比較する。サンプルの発現量が対照と比べて高ければ、サンプル脂肪組織の形成活動は活性化(増強)していると評価することができる。あるいは、分子の発現量は経時的変化として評価してもよい。例えば、脂肪組織における上記分子の発現量を同一個体、同一部位で経時的に測定し、発現量が経時的に増加している場合には、当該脂肪組織の形成活動が活性化(増強)していると評価することができる。
【0018】
上記分子の発現量が長期にわたって高い場合や経時的に増加している場合は、当該分子の由来する脂肪組織の形成活動が活発に行われ続けていることを表す。従って、このような場合は、当該脂肪組織の組織量が増加することが予測される。すなわち、本発明によれば、個体の脂肪組織が将来増加するリスクを予測することができる。
【0019】
また本発明においては、上述のような分子の発現量測定を内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織の両方において行い、内臓脂肪組織における発現量に対する皮下脂肪組織における発現量の比(皮下脂肪組織/内臓脂肪組織比)を算出する。この比が小さいほど、動物個体における体脂肪の形成活動(すなわち、体内における脂肪組織の形成活動)がより活性化していると評価することができる。
【0020】
上記比の評価は、対照に対する相対値として評価してもよい。例えば、個体(サンプル)の任意の部位から採取された内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織に関して上記分子の発現量の比を算出し、脂肪形成が活性化していない個体(例えば、肥満又はその予備軍でない個体)の群(対照)における比の平均値と比較する。サンプルでの比が対照と比べて低ければ、サンプル個体での体脂肪の形成活動は活性化(増強)していると評価することができる。あるいは、上記比は経時的変化として評価してもよい。例えば、上記比を同一個体で経時的に測定し、比が経時的に小さくなっている場合には、当該個体の体脂肪形成活動は活性化(増強)していると評価することができる。
【0021】
上記発現量の比が長期にわたって高い場合や経時的に小さくなっている場合は、個体の体脂肪形成活動が活発に行われ続けていることを表す。従って、このような場合は、個体の体脂肪量が増加することが予測される。すなわち、本発明によれば、個体の体脂肪量が将来増加するリスクを予測することができる。
上記発現量の比の低下は、内臓脂肪組織の形成活動が皮下脂肪組織の形成活動と比べて相対的に活発化していることを表す。従って、この発現量の比の低下は、好ましくは、内臓脂肪の形成活動の活性化、又は内臓脂肪量の増加リスクの増大を表す。
【0022】
例えば、脂肪形成活動や脂肪量増加リスクを評価する方法として、体脂肪形成活動個体の内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織における上記分子の発現量、又はその発現量の皮下脂肪組織/内臓脂肪組織比(以下、S/V比という)を測定した結果に基づいて、以下のようにステージ分類する方法を挙げることができる。
ステージI:上記分子の皮下脂肪組織又は内臓脂肪組織における発現量が著しく小さいか又は測定不能な場合(例えば、発現量の検出が困難又はPCR法での検出のために増幅回数が30回以上必要な場合)
→当該脂肪組織の形成活動はほとんど活性化されていないと判定される。但し、皮下脂肪のみで発現が認められる場合は、今後内臓脂肪形成が活性化する可能性があると推定される。
ステージII:S/V比が1.1より大きい場合
→皮下脂肪組織の形成が優位に進行しており、内臓脂肪組織形成の活性は小さい状態と判定される。今後内臓脂肪形成が活性化される可能性が推定される。
ステージIII:S/V比が0.9〜1.1の場合
→内臓脂肪の形成が活性化された状態と判定される。今後内臓脂肪蓄積が著しく増大すると推定される。
ステージIV:S/V比が0.9より小さい場合
→皮下脂肪に比べ内臓脂肪の形成が著しく活発化した状態で、既に内臓脂肪の蓄積が進行していると判定される。今後も内臓脂肪の蓄積増大が継続されると推定される。
【0023】
さらに本発明は、上記分子の発現量を指標とした、脂肪蓄積調節剤の探索方法を提供する。この方法においては、試験物質の存在下で、脂肪細胞における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定し、該発現量に対する試験物質の影響を評価する。
【0024】
上記試験物質は、脂肪蓄積調節剤として使用することを所望する物質であれば、特に制限されない。試験物質は、天然に存在する物質であっても、化学的又は生物学的方法等で人工的に合成した物質であってもよく、また化合物であっても、組成物若しくは混合物であってもよい。
【0025】
本発明の方法において使用される脂肪細胞としては、上述したような動物個体の任意の部位に由来する脂肪組織及びその培養物に由来する細胞、ならびに培養脂肪細胞株等が挙げられる。好ましくは、脂肪細胞は培養されている。
【0026】
好ましくは、本発明の方法においては、上記試験物質の存在下で上記脂肪細胞を培養した後、上記分子の発現量を測定する。発現量を測定すべき分子及びその測定方法は、上述のとおりである。測定された発現量に基づいて、上記分子の発現に対する試験物質の影響を評価し、発現量に影響をもたらした試験物質を選択する。発現量への影響の評価は、例えば、異なる濃度の試験物質を添加したサンプル間で上記分子の発現量を比較することによって行うことができる。より具体的な例としては、より高濃度の試験物質添加群とより低濃度の試験物質添加群との間;試験物質添加群と非添加群との間;試験物質添加群と対照物質添加群との間;又は試験物質添加前後で、上記分子の発現量を比較する。
【0027】
上述のとおり、上記分子の発現量が増加すると脂肪組織の形成活動が活性化され、結果として個体の脂肪量が増加する。従って、試験物質添加により、又はより高濃度の試験物質の添加により上記分子の発現量が変化する場合、当該試験物質を、脂肪組織の形成活動の活性化を変化させ、脂肪量増加を調節することができる脂肪蓄積調節剤として同定することができる。より具体的には、上記分子の発現量を低下することができる試験物質は、脂肪蓄積抑制剤として同定することができる。他方、上記分子の発現量を増加させることができる試験物質は、脂肪蓄積促進剤として同定することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0029】
実施例1
常法により、3週齢、4週齢及び12週齢のウィスター系ラットから採取した腹部脂肪組織(皮下脂肪)、副睾丸周囲脂肪組織(内臓脂肪)よりトータルRNAを抽出し、mRNAをcDNAに逆転写した後、リアルタイムPCR法を用いて4型コラーゲンα2サブユニット、15型コラーゲンα1サブユニット、ラミニンのα4、β1、γ1各サブユニット、ならびにフィブロネクチンのmRNA発現量を定量した。各サンプルの定量値は、検量線として4週齢の皮下脂肪のRNAを用いた相対値として求め、内部標準遺伝子として36B4の発現値で標準化した。内臓脂肪における値に対する皮下脂肪における値(S/V比)を算出し、脂肪組織の状態を以下の表1の基準で評価した。
【0030】
【表1】

【0031】
各週齢のラットにおける評価結果を以下の表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
発現量の測定に供したラットの実際の脂肪組織量、及び測定後の脂肪組織蓄積の経過を調べ、上記判定結果と比較した。
3週齢ラットでは、体重当たりの脂肪組織重量比率は皮下脂肪で0.6%、内臓脂肪で0.1%であり、内臓脂肪形成はほとんどみられなかった。すなわち本発明の方法による判定結果と一致した。
4週齢ラットでは、体重当たりの脂肪組織重量比率は皮下脂肪で1.1%、内臓脂肪で0.3%であり、皮下脂肪形成は進行しているが内臓脂肪形成は小さかった。さらに、そのまま飼育継続したラットでは、皮下脂肪に比べ内臓脂肪蓄積が急激に増大した。すなわち判定結果と一致した。
12週齢ラットでは、体重当たりの脂肪組織重量比率は皮下脂肪で1.5%、内臓脂肪で2.5%であり、顕著な内臓脂肪蓄積が認められた。そのまま飼育継続したラットでは、皮下脂肪の蓄積以上に顕著な内臓脂肪蓄積が継続した。すなわち判定結果と一致した。
【0034】
実施例2
培養脂肪細胞株である3T3−L1細胞を、2枚の直径100mmシャーレ上で常法によりコンフルエントになるまで10%FBS混合DMEM培地で培養した。1枚はそのまま5日間培養を継続した(非処理群)。他方は同培地に終濃度でインスリン10μg/ml、デキサメタゾン0.25μM、3−イソブチル−1−メチルキサンチン0.5mMとなるよう調製した培地で2日培養後に通常の培地でさらに3日間培養した(処理群)。それぞれの細胞における4型コラーゲンα1サブユニットのmRNA発現量をリアルタイムPCR法にて定量・標準化し、非処理群における発現量を1とし、処理群における発現量の相対値を算出した。同条件で両細胞をそのままさらに5日間、培養を継続し、細胞をホルマリン固定後、オイルレッドO染色(中性脂肪染色)し、一定量のイソプロパノールで溶出した溶液の吸光度を540nmで測定した。非処理群の吸光度を1とし、処理群の相対値を算出したものを脂肪蓄積量として記した。
【0035】
4型コラーゲンα1の発現量及び脂肪蓄積量を表3に示す。非処理群に比べ、薬剤処理した処理群ではこの分子の発現が2倍以上高かった。さらに5日間細胞を継続培養した結果、非処理群では細胞内に脂肪は蓄積されていなかったが、処理群では顕著な脂肪蓄積が認められ、脂肪蓄積量は6.7倍であった。
すなわち、特定の分子発現を指標として、脂肪組織の形成や脂肪蓄積活動を評価できるとともに、脂肪蓄積調節剤の評価が可能であることが示された。
【0036】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物から採取した脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定することを特徴とする、脂肪組織の形成活動を評価する方法。
【請求項2】
前記分子の発現量を経時的に測定し、該発現量が経時的に増加している場合には、前記脂肪組織の形成活動が活性化していると評価することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記分子の発現量が長期にわたって高い場合又は該発現量が経時的に増加している場合に、前記脂肪組織の量が増加すると予測することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪組織が内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織である請求項1記載の方法。
【請求項5】
動物から採取した内臓脂肪組織及び皮下脂肪組織における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定し、該内臓脂肪組織における発現量に対する該皮下脂肪組織における発現量の比を求めることを特徴とする、動物の体脂肪の形成活動を評価する方法。
【請求項6】
前記発現量の比の経時変化を求め、比が経時的に小さくなっている場合には、体脂肪の形成活動が活性化していると評価することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記発現量の比が長期にわたって低い場合又は該比が経時的に小さくなっている場合に、体脂肪の量が増加すると予測することを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
試験物質の存在下で、脂肪細胞における4型コラーゲン、15型コラーゲンコラーゲン及びフィブロネクチンから選ばれる少なくとも1種の分子の発現量を測定し、該発現量に対する試験物質の影響を評価することを特徴とする、脂肪蓄積調節剤の探索方法。

【公開番号】特開2013−15479(P2013−15479A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149806(P2011−149806)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】