説明

脂肪肝疾患の治療におけるインターロイキン−22の使用

本発明は、脂肪肝疾患を治療するためのインターロイキン−22(IL−22)の使用に関する。トランスアミナーゼの数値を減少させる際のIL−22の使用も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン−22(IL−22)の医療的使用に関する。特に、本発明は、脂肪肝疾患(FLD)を治療する医薬組成物の調製におけるIL−22の使用に関する。
【0002】
本願は、2007年8月6日付で出願された中国特許出願第200710044592.7号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
脂肪肝疾患は、過剰量の脂質が肝細胞に蓄積する疾患である。通常、脂質は、肝臓の全重量の3%〜4%を占める。脂質の量が5%を上回ると、脂肪肝が形成される。重篤な脂肪肝疾患では、最大で肝重量の40%〜50%を脂質が構成する可能性がある。脂肪肝は主に、肝臓の脂質代謝の障害に起因する。肝臓における脂質の主な形態はトリグリセリドであり、それは大滴性の脂肪変性(macrovesicular steatosis)により特徴付けられる。脂肪肝は、肝線維症、肝硬変及び肝細胞癌へと繋がる可能性がある。米国では、NMRによって、成人の31%前後が脂肪肝であることが示唆されている。中国では、人口の約5.2%〜11.4%が脂肪肝を患っている。疫学的研究から、より発展している地域ほど脂肪肝の発症率が高いことが示唆される。糖尿病患者における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の発症率は50%である。肥満患者(BMI>30)における発症率は高く、肥満患者の2/3が脂肪肝を患っている。
【0004】
脂肪肝疾患(FLD)には2つの形態が存在する。そのうちの1つがアルコール性脂肪肝疾患(AFLD)であり、これは過剰のアルコール摂取(1日当たり20gを上回るエタノール)によって引き起こされる。肝細胞における慢性且つ過剰のアルコール代謝に起因する有毒代謝物が肝細胞の代謝機能不全をもたらし、脂肪肝へと繋がる。アルコールは、NADH/NAD+の酸化還元電位を変化させるため、脂肪酸の酸化及びトリカルボン酸サイクルが阻害される可能性がある。さらに、アルコールは、肝脂肪の酸化を阻害しながら脂肪の合成を促進し得るし、PPAR−α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−α、You et al., 2004, Am J. Gastrointest, Liver Physiol. 287:G1-G6)の活性化も阻害し得る。FLDの第2の形態は、NAFLDであり、かかるNAFLDとして非アルコール性脂肪肝疾患及び非アルコール性脂肪肝炎などが挙げられる。NAFLDは、肥満性脂肪肝、糖尿病性脂肪肝、過栄養性脂肪肝又は栄養欠乏性脂肪肝、妊娠脂肪肝、薬物性脂肪肝、高脂血症脂肪肝、中年及び老年の脂肪肝等に細分化することができる。脂肪肝の一般的な合併症としては、胆嚢炎、胆石症、肥満症、高血圧、糖尿病及び冠動脈心疾患等が挙げられる。
【0005】
脂肪肝疾患の臨床診断には、超音波スキャン、CT(コンピュータ断層撮影)スキャン、mRIスキャン及び肝生検などが含まれる。脂肪肝の最も一般的な指標として、トランスアミナーゼ(アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)など)の増加が挙げられる。一方、アルカリホスファターゼ/γ−グルタミルトランスフェラーゼのレベルの増加も脂肪肝の指標として採用し得る。トランスアミナーゼの増加は、肝代謝の減少を示唆し、FLDの指標として働き得る。
【0006】
NAFLDは、様々な直接的及び間接的な因子によって引き起こされる可能性があると考えられる。例えば、NAFLDは、代謝症候群(例えば、インスリン抵抗性、脂質代謝機能不全など)によって直接的に引き起こされることがある。また、NAFLDは以下の要因によって間接的に誘発される可能性もある。当該要因には、薬剤(例えば、グルココルチコイド、ホルモン、タモキシフェン、メトトレキサート、ジドブジン、アミノダロン、アセチルサリチル酸(ASA)、テトラサイクリン、ジダノシン、コカイン、ペルヘキシレン、過剰のビタミンA、ジルチアゼム);毒素(例えば、タマゴテングタケ(Amanita phalloides)の毒素、キツネノカラカサタケ属(Lepiota)の毒素、石油化学薬品、リン酸塩、セレウス菌(Bacillus Cereus)の毒素、有機溶剤);間接的疾患による誘発(例えば、脂肪異栄養症、異βリポ蛋白血症、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマン病、急性妊娠脂肪肝、ライ症候群);突発性の免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患(IBD)、関節炎、紅斑性狼瘡);ウイルス感染症(例えば、HIV、HBV);細菌感染症;重篤な体重減少(例えば、飢餓、胃バイパス、腸手術)などがある。
【0007】
脂肪肝疾患の臨床治療方針として利用可能なものには、抗酸化剤(例えば、ビタミンC、ビタミンE);メチオニン代謝における化合物(例えば、ベタイン);インスリン感受性を改善できるメトホルミンやこれに類似する薬物(例えば、チアゾリジンジオン(TZD)、アンジオテンシンII受容体の阻害剤);細胞保護及び抗アポトーシス及び免疫調節の効果を有するウルソデオキシコール酸;炎症性因子(腫瘍壊死因子(TNF)−α等など)を阻害するペントキシフィリン;上記以外の薬剤(例えば、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾンなど)が挙げられる。現行で用いられている全ての治療方法は、効能が限られているとともに望ましくない副作用を伴うので好ましくない。
【0008】
インターロイキン−22(IL−22)は、T細胞から分泌される糖タンパク質であり、IL−10関連T細胞由来誘導性因子(IL−TLF)としても知られている。IL−22 mRNAは、最初、ネズミ(murine)における、IL−9で刺激されたT細胞、IL−9で刺激された肥満細胞、コンカナバリンA(Con A)で刺激された脾臓細胞で発現が確認された。ヒトのIL−22 mRNAは、主に単離末梢T細胞に発現し、抗CD3又はCon Aによって刺激されている。また、ヒトのIL−22 mRNAは活性化NK細胞にも発現する。活性化T細胞は、主にCD4+細胞であり、特にCD28経路(パスウェイ)活性化Th1細胞である。
【0009】
IL−22は179個のアミノ酸から構成されている。ネズミ及びヒトのIL−22の遺伝子クローニングはDumoutier et al.によって初めて報告された(Dumoutier, et al., JI, 164:1814-1819, 2000;米国特許第6,359,117号及び第6,274,710号)。膵臓の疾患を治療する際のIL−22の使用は、Gurney et al.によって開示されている(米国特許第6,551,799号)。
【0010】
IL−22は、主に、活性化T細胞(特にTh17細胞)、レクチンで刺激された脾臓細胞(Duroutier JI 2002)、IL−2/IL−12で刺激されたNK細胞(Wolk, K JI 2002)、LPSで刺激された組織及び器官(例えば、腸、肝臓、胃、腎臓、肺、心臓、胸腺、脾臓)に発現する。これらの場所ではIL−22発現の増加を検出することができる。
【0011】
IL−22は、その受容体であるIL−22R1及びIL−22R2と結合することによって機能する。IL−22R1は、IL−22に対する特異的な受容体であり、主に、皮膚、腎臓、消化器系(膵臓、腸、肝臓、大腸、結腸)、並びに呼吸器系(肺、気管支)に発現する。IL−22は免疫調節物質であり、これは開示された研究によって証明されている。
【0012】
脂肪肝疾患(FLD)に対するIL−22の生物学的効果は報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は脂肪肝疾患の別な治療方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明は、一つの側面として、脂肪肝疾患を治療するための組成物の製造におけるIL−22の使用を提供する。
【0015】
本発明は、他の一つの側面として、被験者における脂肪肝疾患を治療する方法であって、薬学的有効量のIL−22を投与することを含む、方法を提供する。さらに他の側面として、本発明は、脂肪肝疾患を治療する薬剤の製造におけるIL−22の使用に関する。
【0016】
一実施の形態において、本発明に係るIL−22は、トリグリセリドの沈着(deposition)を低減させる。これにより、脂肪変性(脂肪症)を低減させる。別の実施の形態において、本発明に係るIL−22は、被験者の血清トリグリセリド値(レベル)を低減させる。さらなる実施の形態において、本発明に係るIL−22は、トランスアミナーゼ、とりわけ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST又はSGOT)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT又はSGPT)を減少させる。別の実施の形態において、本発明に係るIL−22は、肝臓中の遊離脂肪酸(FAA)含量及びトリグリセリド(TG)含量を低減させ、肝脂肪変性(肝脂肪症)を低減させる。
【0017】
様々な態様において、本発明に係るIL−22としては、特に限定するものではないが、哺乳動物IL−22及び組換え哺乳動物IL−22が挙げられる。好ましい実施の形態において、IL−22はヒトIL−22である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヒトIL−22 mRNAの配列を示す図である。
【0019】
【図2】ネズミIL−22 mRNAの配列を示す図である。
【0020】
【図3】ヒトIL−22 mRNAのアミノ酸配列を示す図である。
【0021】
【図4】ネズミIL−22 mRNAのアミノ酸配列を示す図である。
【0022】
【図5】肥満ob/obマウスにおいて血清トランスアミナーゼの値(レベル)を減少させる際のIL−22の効果を示す図である。
【0023】
【図6】非アルコール性脂肪肝疾患の処置に対するIL−22の効果を示す図である。ob/obマウスをIL−22で処置すると、肝臓における脂肪沈着が有意に低減した。A:ob/obマウスのヘマトキシリン−エオシンで染色した病理組織切片(未処置の対照);B:ob/obマウスのヘマトキシリン−エオシンで染色した病理組織切片(IL−22処置)。
【0024】
【図7】アルコール誘発性脂肪肝疾患の処置に対するIL−22の効果を示す図である。FLDを患うアルコール摂取マウスの処置により、肝臓中の脂肪沈着が有意に低減した。A:ob/obマウスのオイルレッドOで染色した肝臓切片(未処置の対照);B:ob/obマウスのオイルレッドOで染色した肝臓切片(IL−22処置)。
【0025】
【図8A】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、体重が低減したことを示す図である。
【0026】
【図8B】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、肝重量が低減したことを示す図である。
【0027】
【図9A】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、血中AST活性が低減したことを示す図である。
【0028】
【図9B】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、血中ALT活性が低減したことを示す図である。
【0029】
【図10A】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、肝臓のトリグリセリド含量が低減したことを示す図である。
【0030】
【図10B】高脂肪食誘発FLDラットの処置により、血中遊離脂肪酸含量が低減したことを示す図である。
【0031】
【図11】肝臓における脂肪沈着が有意に低減したことを示す、肝臓における脂肪のオイルリング染色を示す図である。
【0032】
【図12】肝細胞内の脂肪滴のサイズを示す、肝臓切片の電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
IL−22が、アルコール誘発性脂肪肝疾患(AFLD)や非アルコール誘発性脂肪肝疾患(NAFLD)を治療する際に有用であることが見出された。さらに、IL−22が、血清トランスアミナーゼの値(レベル)を減少させることにも有用であることが見出された。
【0034】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「組成物」には、脂肪肝を治療するための又はトランスアミナーゼの値(レベル)を減少させるための組成物が包含される。
【0035】
「IL−22」という用語は、米国特許第6,359,117号でDumoutierが記載したヒト/ネズミIL−22と本質的に同一のアミノ酸配列、及び天然のIL−22と同一の生物学的活性を有するタンパク質に対して引用される。本発明を限定するものではないが、本発明に係るIL−22としては、ヒトIL−22、組換えヒトIL−22、ネズミIL−22及び組換えネズミIL−22が挙げられる。
【0036】
「本質的に同一のアミノ酸配列を有する」という用語は、同じアミノ酸配列を有すること、又は生物学的活性を減少させることなく、1つ若しくは複数の異なるアミノ酸残基(1つ若しくは複数の残基が欠損、付加若しくは置換する)を有するものであることを意味する。すなわち、それらは依然として標的細胞内のIL−22受容体と結合することによって機能し得る。グリコシル化された(天然又は真核細胞発現系に由来する)又はグリコシル化されていない(原核細胞発現系に由来するか、若しくは化学的に合成される)任意のIL−22が、本発明の範囲内である。
【0037】
「治療(法)」という用語は、被験者の疾患、症状又は体質を治癒、寛解、改善、低減するか、又はそれらに影響を与えるために、IL−22を、それを必要とする被験者に投与することに引用される。
【0038】
「被験者」という用語は、マウス、ヒト又は他の哺乳動物に対して引用される。
【0039】
「治療的有効量」という用語は、治療の目標を達成することができるIL−22の量を指す。当然のことながら、治療的有効用量は、投与の経路、用いる他の成分のタイプ、及び他の薬剤との組合せに応じて変化し得ることは当業者に理解される。
【0040】
本発明に係るIL−22は、組換え遺伝子クローン技法によって発現する。発現系としては、原核生物細胞、酵母又は高等真核生物細胞が挙げられる。好適な原核生物細胞としては、限定するものではないが、グラム陽性細菌又はグラム陰性細菌、例えば、E.coli(大腸菌)が挙げられる。E.coliの利用可能な株としては、K12MM294(ATCC 31446)、X1776(ATCC 31537)、W3110(ATCC 27325)及びK5772(ATCC 53635)等が挙げられる。他の好適な原核生物の発現系としては、限定するものではないが、Erwinia属、Klebsiella属、Proteus属、Salmonella属(例えば、Salmonella typhimurium)、Serratia属(例えば、Serratia marcescens)、Shigella属、B. subtilis、B.licheniformis、Pseudomonas属(例えば、P. aeruginosa)、及びStreptomyces属が挙げられる。E.coli W3110が、組換えDNA産物に対する宿主細胞として用いられることが多いため好ましい。
【0041】
原核生物細胞に加えて、糸状真菌又は酵母等の真核生物細胞も、本発明のIL−22の発現又はクローニングに好適である。Saccharomyces属が、一般的な下等真核生物宿主微生物である。他の宿主細胞としては、Schizosaccharomyces pombe(Beach and Nurse, Nature, 290:140, 1981;欧州特許第139,383号);Kluyveromyces属宿主(米国特許第4,943,529号明細書);Flee et al., Bio Technology, 9:968-975(1991);例えば、K.lactis(MW98−8C、CBS683、CBS4574;Louvencourt et al., J. Bacteriol., 154 (2):737-742[1983])、K.fragilis(ATCC 12424)、K.waltii(ATCC 56500)、K.drosophilarum (ATCC 36906;Van den Berg et al., Bio Technology, 8:135(1990))、K.thermotolerans、K.marxianus;Yarrowia属(欧州特許第402,226号);Pichia Pastoris(欧州特許第183,070号;Sreekrishna et al., J. Basic Microbiol., 28:265-278[1988]);Candida属;Trichoderma reesia(欧州特許第244,234号);Neurospora crassa(Case et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:5259-5263[1979]);Schwanniomyces属、例えば、Schwanniomyces occidentalis(欧州特許第394,538号);糸状真菌、例えば、Neurospora属、Penicillium属、Tolypocladium属(国際公開第91/00357号パンフレット)、Aspergillus属、例えば、A.nidulans(Balance et al., Biochem. Biophys. Res. Commum., 112:284-289[1983];Tilburm et.al., Gene, 26:205-221[1983];Yelton et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81: 1470-1474[1984])及びA.niger(Kelly and Hynes, EMBO J., 4:475-479[1985])が挙げられる。メチロトローフ酵母も、本発明に係るIL−22の発現に用いることができ、例えば、限定するものではないが、メタノール中で増殖することができる様々なタイプの酵母、例えば、Hansenula属、Candida属、Kloeckera属、Pichia属、Saccharomyces属、Torulopsis属、Rhodotorula属が挙げられる。典型的なメチロトローフは、C. Anthony, The biochemistry of Methylotrophs, 269(1982)に見出すことができる。
【0042】
本発明に係るグリコシル化IL−22の発現に用いる宿主細胞は主に多細胞生物に由来する。多細胞生物の例としては、無脊椎動物(昆虫、例えば、Drosophila(ショウジョウバエ)S2及びSpodoptera(ヨトウガ)Sf9)の細胞や植物細胞が挙げられる。
好適な哺乳動物細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS細胞、特に、SV40形質転換CV1細胞株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎細胞のセルライン293(Graham et al., J.Gen Virol., 36:59(1997));CHO/−DHFR(Urlaub and Chasin, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216(1980));ネズミのセルトリ(Sertoli)細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod., 23:243-251)(1980));ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);ネズミ乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL51)が挙げられる。好適な宿主細胞を選択する方法は、当業者にとって理解されることである。
【0043】
上記の宿主細胞は、IL−22発現ベクター又はクローニングベクターを用いて形質転換又は形質移入した後に、従来の栄養培地で増殖させることができる。プロモータの誘導、形質転換体の選択、又はIL−22をコードする配列の増幅には、改変栄養培地が好適である。栄養培地、温度及びpHの選択は、当業者には明らかである。培養した細胞の増殖を最大化する一般原理、プロトコル及び技法に関しては、「哺乳動物細胞のバイオテクノロジー:実践的アプローチ(Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach)」M. Butler編(IRL Press、1991)及びSambrook et. al.、上掲を参照されたい。
【0044】
真核細胞に形質移入し、あるいは原核細胞を形質転換する方法(例えば、塩化カルシウム(CaCl)法、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿法、リポフェクタミン法又はエレクトロポレーション法など)は、当業者には明らかである。当業者であれば、異なる宿主細胞に応じて好適な方法を選択することが可能である。例えば、真核細胞には塩化カルシウム法(Sambrook et al.、上掲)又はエレクトロポレーション法が好適であり;植物細胞の形質転換には主にAgrobacterium tumefaciensが用いられ(Shaw et.al., Gene, 23:315(1983)及び国際公開第89/05859号パンフレット);細胞壁の無い上記の哺乳動物細胞にはリン酸カルシウム沈殿法を用いることができる(Graham and van der Eb, Virology, 52:456-457(1978))。哺乳動物細胞の形質移入方法の包括的記載に関しては、米国特許第4,399,216号明細書を参照されたい。酵母の形質移入の技法に関しては、Van Solingen et al., J. Bact., 130:946(1977)及びHsiao et al., Proc. Natl. Acad. Sci.(USA), 76:3829(1979)を参照されたい。本発明において、DNAを細胞に導入する他の技法としては、例えば、核酸マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、無傷細胞又はポリブレン、ポリオルニチン等のポリカチオンを用いた細菌のプロトプラスト融合を用いることができる。哺乳動物細胞の形質転換に用いることができる様々な技法に関しては、Keown et al., Methods in Enzymology, 185:527-537(1990)及びMansour et al., Nature, 336:348-352(1988)を参照されたい。
【0045】
本発明におけるIL−22をコードするDNA配列は、遺伝子をクローニングするか、又はタンパク質を発現させるために、複製可能なベクターに挿入することができる。すべてのベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス(ビリオン)又はバクテリオファージ)が好適に利用可能である。当該技術分野における一般的な技法を適用することにより、当業者は、IL−22をコードするDNA配列を、適切な制限エンドヌクレアーゼのサイトに挿入することができる。複製可能なベクターは通常、限定するものではないが、以下のパーツ:1つ又は複数のシグナル配列、1つの複製開始点、1つ又は複数のマーカー遺伝子、1つのエンハンサ要素、1つのプロモータ、及び1つの転写終結配列を含有する。当該技術分野における標準的なライゲーション技法を適用することにより、当業者は、1つ又は複数の上記部分を含有する適切な複製可能なベクターを構築することができる。
【0046】
本発明におけるIL−22は、組換えDNAによって直接発現させることができ、ポリペプチドの融合によって生産することもできる。後者は、成熟タンパク質に局在するシグナル配列又はポリペプチドのN末端であり得る。成熟タンパク質又はポリペプチドのN末端に局在する特定の消化部位を有する他のフラグメントであり得る。通常、シグナル配列は、上記複製可能なベクターの一部、又は本発明におけるIL−22をコードするDNA配列の一部である。シグナル配列は、原核生物の配列、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペニシリナーゼ、lpp又は耐熱性エンテロトキシンのリーダー配列であり得る。酵母の分泌系において、シグナル配列は、酵母インベルターゼリーダー配列、α因子リーダー配列、又はALPリーダー配列であるとよい。α因子リーダー配列の例としては、例えば、Saccharomyces属又はDekkeromyces属などのα因子リーダー配列(米国特許第5,010,182号参照)が挙げられる。或いはまた、C. albicansのグルコースアミラーゼのリーダー配列(欧州特許第362,179号)が挙げられる。哺乳動物の発現系では、哺乳動物のシグナル配列を直接用いて、標的タンパク質を分泌することができる。かかる配列としては、同一種又は類似種の哺乳動物に由来するシグナル配列及びウイルスの分泌リーダー配列が挙げられる。
【0047】
発現ベクター及びクローニングベクターは共に、1つ又は複数の対応する宿主細胞においてベクターを複製することが可能な一片のDNA配列を有する。細菌宿主、酵母宿主及びウイルス宿主に対応する配列が当業者に既知である。例えば、pBR322の開始点が殆どのグラム陰性菌に好適であり、2.mu.の開始点が酵母に好適であるのに対し、ウイルス(SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、VSV又はBPV)の開始点は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに好適である。
【0048】
発現ベクター及びクローニングベクターは共に、「選択マーカー」とも称される一片の選択遺伝子を有する。選択遺伝子が発現する典型的なタンパク質は、(a)幾つかの抗生物質、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサート、テトラサイクリン等並びに毒素に対して抵抗性があり、或いは(b)栄養要求性の欠損を治すことが可能であり、或いは(c)複合培地が供給することができない幾つかの重要な栄養素、例えば、バチルス属宿主が必要とするD−アラニンラセマーゼ(D alanine racemase)をコードする配列を補充する。
【0049】
哺乳動物の宿主細胞に好適な選択遺伝子は、IL−22をコードする遺伝子を含有する宿主細胞(例えば、DHFR又はチミジンキナーゼ)と区別することができる。選択遺伝子として野生型DHFRを用いる適切な宿主細胞は、DHFR活性の無いCHO株である。この株を調製及び培養する方法は、Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216(1980)に見出すことができる。酵母細胞に好適な選択遺伝子は、酵母プラスミドYrp7で発現するtrpl遺伝子(Stinchcomb et al., nature, 282:39(1979);Kingsman et al., Gene, 7:141(1979);Tschemperet al., Gene, 10:157(1980))である。trpl遺伝子は、トリプトファンで増殖することができない酵母変異株、例えば、ATCC No.44047又はPEP4−1(Jones, Genetics, 85:12(1977))のスクリーニングに用いることができる。
【0050】
発現ベクター及びクローンベクターは共に、通常、mRNA合成を指示することができる、IL−22をコードするDNA配列とライゲートすることができるプロモータを有する。すべての種の宿主に対応するプロモータが当業者に既知である。原核生物宿主に好適なプロモータとしては、β−ラクタマーゼ及びラクトースプロモータ系(Chang et al., Nature, 275:615(1978);Goeddel et al., Nature, 281;544(1979))、ALP及びtrpプロモータ系(Goeddel, nucleic Acids Res., 8:4057(1980);欧州特許第36,776号)、tacプロモータ等のヘテロプロモータ(deBoer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:21-25(1983))。細菌プロモータは、IL−22をコードする配列とライゲートすることができる一片のシャイン・ダルガノ(SD)配列も有する。
【0051】
酵母宿主に好適なプロモータとしては、3−ホスホグリセリン酸キナーゼプロモータ(hitzeman et al., J. Biol. Chem., 255:2073(1980))又は他の糖分解酵素プロモータ(Hess et al., J.Adv.Enzyme Reg., 7:149(1968);Holland, Biochemistry, 17:4900(1978))、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、フルクトースジホスファターゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、トリホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ及びグルコースキナーゼが挙げられる。
【0052】
幾つかの他の誘導性酵母プロモータは、異なる増殖条件に応じて転写を調節することができ、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムc、酸ホスファターゼ、窒素の分解に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸、マルトース及びガラクトースの分解酵素に対するプロモータが挙げられる。酵母の発現系に好適なベクター及びプロモータの詳細な説明は、欧州特許第73,657号に見出すことができる。
【0053】
プロモータは、哺乳動物宿主細胞において、複製可能なベクター上の本発明に係るIL−22をコードする遺伝子の転写を制御することができる。プロモータとしては、或る特定のウイルスゲノム、例えば、ポリオーマ(polymoa)ウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、鶏肉腫(flow sarcoma)ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、HBV、又はSV40に由来するもの、外来性の哺乳動物プロモータ、例えば、β−アクチンプロモータ又は免疫グロブリンプロモータに由来するもの、及び熱ショックタンパク質プロモータに由来するものが挙げられる。しかしながら、これらのプロモータは、宿主の発現系と適合させるべきである。
【0054】
真核生物の発現系における本発明に係るIL−22をコードする配列の転写は、複製可能なベクターへのエンハンサの挿入を通じて亢進することができる。エンハンサは、プロモータに作用することによってDNA分子の転写を亢進することができる、通常、10bp〜300bpの、DNA分子のシス作用性要素(cis-acting element)の一種である。既知のエンハンサの多くが哺乳動物遺伝子に由来する(例えば、ハプトグロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテイン及びインスリン)。最も汎用されているエンハンサは、真核生物ウイルス細胞に由来する(例えば、開始点の後側のSV40エンハンサ(100bp〜270bp)、サイトメガロウイルス初期プロモータのエンハンサ、開始点の後側にあるポリオーマウイルスエンハンサ、アデノウイルスエンハンサ)。エンハンサは、複製可能なベクター上のIL−22をコードする配列の5’末端又は3’末端に挿入することができるが、5’末端が好ましい。
【0055】
また、真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト又は他の多細胞生物由来の他の有核細胞)における発現ベクターは、転写を終結させ、mRNAを安定化するDNA配列を含有する。この種の配列は通常、真核生物細胞又はウイルスのDNA若しくはcDNAにおける非翻訳領域の5’末端、場合によっては3’末端に由来する。非翻訳領域内の核酸配列は、本発明に係るIL−22の非翻訳領域で、アセチル化ポリA配列として転写することができる。
【0056】
組換え脊椎動物培養系において本発明に係るIL−22を合成する他の方法、ベクター及び宿主は、Gething et al., Nature, 293:620-625(1981);Mantei et al., Nature, 281:40-46(1979);欧州特許第117,060号及び同第117,058号に見出すことができる。
【0057】
IL−22は、脂肪肝を治療するための組成物中の成分として用いることができる。IL−22としては、哺乳動物IL−22及び/又は組換え哺乳動物IL−22、又はそれらの組合せ、好ましくはヒトIL−22、組換えヒトIL−22、ネズミIL−22及び/又は組換えネズミIL−22が挙げられる。
【0058】
本発明における組成物の構成成分としては、脂肪肝を治療するのに有用な他の成分、例えば、炎症性サイトカインに対する阻害剤や抗体、糖や脂質の代謝を増加させる酵素(例えば、インスリン、グルカゴン)、及び/又は、代謝調節タンパク質因子(例えば、レプチン、アディポネクチン)が挙げられる。
【0059】
本発明に係る組成物はさらに、重量の低減、血中脂質や血糖の減少に用いることができる抽出物又は化合物、例えば、茶抽出物、スタチン(シンバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン)、抗酸化剤、インスリン感受性改善薬、アンジオテンシン変換酵素の阻害剤、及び免疫調節薬を含んでもよい。
【0060】
本発明に係るIL−22は、トランスアミナーゼの値(レベル)を減少させる組成物の構成成分として用いることができる。IL−22としては、哺乳動物IL−22及び/又は組換え哺乳動物IL−22又はそれらの組合せ、好ましくはヒトIL−22、組換えヒトIL−22、ネズミIL−22及び/又は組換えネズミIL−22が挙げられる。
【0061】
本発明における組成物はさらに、トランスアミナーゼの値(レベル)を減少させることができる他の構成成分を含んでもよい。
【0062】
本発明に係るIL−22をコードするDNA配列は、遺伝子療法で用いることができる。遺伝子療法の過程では、in vivoで治療効果を有する生成物が発現されるように遺伝子を細胞に導入する(例えば、当初の欠損遺伝子の置換)。遺伝子療法としては、有効なDNA又はmRNAを1回又は複数回投与する、1回の治療法及び遺伝子治療薬の投与の後に長期の効果を有する、従来の療法が挙げられる。アンチセンスRNA又はアンチセンスDNAは、幾つかの遺伝子の発現を遮断する遺伝子治療薬としても用いることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、限られた程度でしか細胞膜に吸着されず、細胞内での濃度が低いにもかかわらず、細胞内で阻害剤として作用し得ることが証明されている(Zamecnik et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:4143-4146[1986])。オリゴヌクレオチドの吸収度は、例えば、負に荷電したホスホジエステルを、電荷バランスのとれた基で置換するといったような修飾によって改善することができる。
【0063】
本発明におけるIL−22は、薬剤として用いることができる。当業者は、一般的な方法に従って、有効量のIL−22及び薬学的に許容可能な担体を含有する、薬学的に有効な製剤を調製することができる。
【0064】
薬剤を凍結乾燥物又は液体として調製する場合には、生理学的に許容可能な担体、賦形剤、安定剤を、本発明に係る薬学上の組成物に添加する必要がある(「レミントンの製薬の科学第16版(Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition)」Osol, A.編(1980))。担体、賦形剤及び安定剤には、バッファー(例えば、リン酸、クエン酸及び他の有機酸);抗酸化剤(例えば、ビタミンC);小さいポリペプチド、タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、PVP);アミノ酸(例えば、アミノ酢酸、グルタミン酸塩、アスパラギン、アルギニン、リジン);単糖、二糖及び他の糖質(例えば、グルコース、マンノース又はデキストリン);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール);対イオン(例えば、Na);及び/又は非イオン性界面活性剤(例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はPEG)、その他を含む。これらの担体、賦形剤及び安定剤の投与量及び濃度は被験者(ヒト、マウス及び他の哺乳動物)に対して安全であるべきである。
【0065】
本発明に係るIL−22を含有する調製物は、注入前に滅菌するべきである。この手順は、凍結乾燥及び再構成の前後に滅菌した濾過膜を用いて行うことができる。
【0066】
薬学上の(医薬)組成物は通常、滅菌された注入口を備える容器、例えば、コルク栓を備える静脈内注射用の溶液瓶に充填される。コルク栓は皮下針によって貫通され得る。
【0067】
本発明における薬学上の(医薬)組成物は、通常の方法、例えば、限定するものではないが、静脈内注射若しくは静脈内注入、腹腔内注射、頭部内(intracephalic)注射、筋肉内注射、眼内注射、動脈内注射若しくは動脈内注入によって、局所的に、又は徐放システムによって投与することができる。
【0068】
投与量及び濃度は、実態に応じて調整することができる。当業者は、実態に応じて適切な投与量及び注入手段を選ぶことができる。本発明における動物実験により、人体での有効量に関する信頼可能な教示が提供されている。例えば、rIL−22には、用量依存的に30μg/kg/日を超える用量で血中脂肪を減少させる際に有意な効果がある。異なる種、例えば、マウスとヒトとの間で調整する原理は、Yacobi et al.著「毒物動態学及び新薬開発(Toxicokinetics and New Drug Developmemt)」内のMordenti, J. and Chappell, W.著「毒物動態学における種間スケーリングの使用(The use of interspecies scaling in toxicokinetics)」;Pergamon Press, New York 1989, pp.42-96に見出すことができる。
【0069】
哺乳動物においてIL−22を注射する場合、通常の投与量は、1日当たり1ng/kg体重〜100mg/kg体重、好ましくは10μg/kg/日〜100μg/kg/日である。かかる投与量は異なる注射手段に応じて調整することができる。所定の具体的な投与量及び投与法に対する指針は、米国特許第4657760号;同第5206344号;又は同第5225212号に見出すことができる。当然であるが、異なる疾患に対しては異なるIL−22製剤が効果的である。薬物の標的(器官又は組織)が変わる場合には、それに応じて注射手段は調整されるものである。
【0070】
本発明に係るIL−22を含有するマイクロカプセルは、徐放システムとして用いることができる。組換えタンパク質のマイクロカプセル徐放システムは、rhGH、rhIFN、IL−2及びMNrgp120に成功裏に応用されている(Johnson et al., Nat. Med., 2:795-799(1996);Yasuda, Biomed. Ther 27:1221-1223(1993);国際公開第97/03692号、同第96/40072号、同第96/07399号、米国特許第5654010号)。
【0071】
本発明におけるIL−22の徐放(持続放出)システムは、生体適合性及び生分解性が良好なPLGAを用いて調製することができる。PLGAの分解産物である、乳酸及びグリコール酸は、人体内で迅速に除去され得る。さらに、上記ポリマーの分解性は、その分子量及び組成に応じて、数ヶ月〜数年の期間で変動させることができる(M. Chasin and R. Langer(編)「薬物送達システムとしての生分解性高分子(Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems)」(Marcel Dekker: New York, 1990)内のLewis著「生物活性剤型ラクチド/グリコリドポリマーの制御放出(Controlled release of bioactive agents form lactide/glycolide polymer)」、pp.1-41))。
【0072】
本発明におけるIL−22は、その半減期を延長する目的で、分子量が5000〜100000の活性化PEGで修飾することができる。詳細なプロトコルは、Greenwald et al., Bioorg. Med.Chem. Lett. 1994, 4, 2465;Caliceti et al., IL Farmaco, 1993, 48,919;Zalipsky and Lee著「ポリエチレングリコールの化学:生物工学的応用及び生物医学的応用(Polyethylene Glycol Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications)」J.M.Harris, Plenus Press, New York(1992)に見出すことができる。上記活性化PEGとしてはマルチアームの分枝PEGが好ましい(中国特許第02101672.0号、国際公開第9932139号、国際出願PCT/US95/0755号、同第PCT/US94/13013号、米国特許第4,640,835号、同第4,496,689号、同第4,301,144号、同第4,670,417号、同第4,791,192号、同第4,179,337号)。
【0073】
本発明におけるIL−22は、その生物学的活性を強めるか、又はその半減期を延長する目的で、キメラ分子又は融合タンパク質としても調製することができる。例えば、IL−22cDNA配列の全部又は一部を用いて、Fc領域の全部又は一部が発現するように連結することができる。Fc融合タンパク質を生産する方法は、米国特許第5,428,130号に見出すことができる。IL−22遺伝子は、Fc遺伝子のN末端又はC末端に発現され得る。
【0074】
共有結合で修飾されたIL−22も本発明に含まれる。化学的な共有結合修飾としては、N末端アミノ酸若しくはC末端アミノ酸を修飾すること或いは化学的分子をそれら以外のアミノ酸に付加することが挙げられる。アミノ酸配列を修飾すること、IL−22のグリコシル化を修飾すること(例えば、グリコシル化を増加させる若しくは減少させる)、又は化学反応によって直接グリコシル化の状態を変化させること(国際公開第87/05330号)も挙げられる。
【0075】
ナノテクノロジーとしての製剤化の他の技法(米国特許出願第60/544,693号明細書)、エアロゾル(中国特許出願公開第00114318.2号明細書、国際出願PCT/CN02/00342号明細書)、吸入剤等も、本発明の範囲内である。
【0076】
上述した又は以下の実施例中の技法の特性をランダムに組み合わせることができる。本明細書中で開示するすべての特性や機能は、任意の形態の組成物と組み合わせて採用することができる。本明細書中で開示する特性、機能はそれぞれ、同一又は類似の効果を有する任意の特性、機能で置換することができる。したがって、特に明示しない限り、ここに開示する特性、機能は、同一又は類似の特性や機能を有するものの単なる例示に過ぎない。
【0077】
本発明の利点は以下である:
1.IL−22が脂肪肝疾患を治療する効果を有する。
2.IL−22がトランスアミナーゼ(とりわけ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST又はSGOT)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT又はSGPT)のレベルを減少させる効果を有する。
【0078】
本発明は、以下の実施例を参照することでさらに理解されるが、これらは本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を例示するに過ぎない。詳細な実験プロトコルを示していない方法に関しては、当業者は、例えば「分子クローン:実験マニュアル(Molecular Clone: a Laboratory Manual)」Sambrook et al., New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989によって教示されるような当該技術分野における一般的な方法に従うか、又は製造業者の使用説明書に従うことができる。特に明示しない限り、すべての割合及び比は、質量表示である。
【0079】
特に定義しない限り、ここで用いるすべての用語及び表現は、当業者によって一般的に理解されているものと同一の意味を有する。機能的に等価な任意の方法が本発明の範囲内である。好ましい方法及び材料は、本発明の単なる例示に過ぎない。
【0080】
<実施例1:ヒト及びネズミのIL−22遺伝子のクローニング>
ヒトIL−22遺伝子のクローニング:
ヒト末梢血の単球(単核白血球)を抗ヒトCD mAbで刺激し、24時間培養した。全RNAを超遠心分離で抽出し、cDNAをdTプライマーを用いて合成した。センスプライマー(5’−GCA GAA TCT TCA GAA CAG GTT C−3’)及びアンチセンスプライマー(5’−GGC ATC TAA TTG TTA TTT CTA G−3’)を用いたPCRによって、ヒトIL−22遺伝子を増幅した。増幅したDNAを大腸菌発現ベクターにクローニングした。
【0081】
マウスIL−22遺伝子のクローニング:
C57BL/6雌性マウスに、LPSを注射した(5mg/kg、皮下)。20時間後に脾臓を得た。全RNAを抽出し、dTプライマーを用いてcDNAを合成した。センスプライマー(5’−CTC TCA CTT ATC AAC TGT TGA C−3’)及びアンチセンスプライマー(5’−GAT GAT GGA CGT TAG CTT CTC AC−3’)を用いたPCRによって、マウスIL−22遺伝子を増幅した。増幅したcDNAを、大腸菌発現ベクターpET21(+)にクローニングした。
【0082】
図1及び図2に示すように、ヒトIL−22及びネズミIL−22は共に、DNAシークエンシングによって確認された。
【0083】
<実施例2:ヒトIL−22及びマウスIL−22の遺伝子発現>
E.coli株BL21(+)を用いて組換えタンパク質を発現させた。当該E.coli細胞を高圧下でホモジナイズした。IL−22含有物(封入体)を遠心分離によって取得し、バッファー(50mMのTris−HCl、100mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのDTT及び0.5%のデオキシコール酸ナトリウム)で完全に洗浄した。上記封入体を、8Mの尿素、50mMのMes、10mMのEDTA及び0.1mMのDTTを含みpH6.5の溶液に溶解させた。封入体は、100mMのTris−HCl、2mMのEDTA、0.5MのL−アルギニン、1mMの還元型グルタチオン及び0.1mMの酸化型グルタチオンを含みpH8の溶液中で、20時間で4回のリフォールディングさせた。次いで、混合物を濃縮し、Superdex75(Amersham社製品)カラムクロマトグラフィを用いて精製した。タンパク質を、20mMのTris−HCl、50mMのNaClを含みpH7の溶液で溶出した。図3及び図4に示すように、IL−22の純度をSDS−PAGEで求めた(>95%)。分注したIL−22タンパク質は−80℃で保存した。
【0084】
<実施例3:組換えIL−22は肥満ob/obマウスにおいて血清トランスアミナーゼの価(レベル)を減少させる>
実施例2で得られた上記組換えネズミIL−22を、300μg/kg/日の用量で14日間、肥満ob/obマウス(8週齢〜12週齢、35g〜50g)に注射した。また、対照群(何も注射していない群)に同一量のビヒクル溶液(0.1%BSA、PBS)のみをマウスに注射した。供試動物は15日目に屠殺し、血清を回収した。血清ALT及び血清ASTの値(レベル)を求めた。結果を図5に示す。
【0085】
この結果は、IL−22が血清トリグリセリドの値(レベル)を減少させるだけではなく血清AST及び血清ALTの値(レベル)を有意に減少させることができることを示している。
【0086】
<実施例4:肥満ob/obマウスにおいて非アルコール性脂肪肝疾患を治療する際の組換えIL−22の効果>
実施例2で得られた上記組換えネズミIL−22を、300μg/kg/日の用量で14日間、肥満ob/obマウス(8週齢〜12週齢、35g〜50g)に注射した。また、対照群(何も注射していない群)に同一量のビヒクル溶液(0.1%BSA、PBS)のみをマウスに注射した。供試動物は15日目に屠殺した。肝臓を採取し、10%ホルマリン中で固定した。組織切片をヘマトキシリン−エオシンで染色した。結果を図6に示した。図6は、担体及びIL−22で処置したob/obマウス群のうち代表的な動物個体について示す。担体で処置したマウスの肝臓切片が、典型的な肝脂肪変性(脂肪症)を示し、多数の大空胞変性および微少空胞変性を有するのに対し、IL−22で処置したob/obマウスの肝臓切片は、肝脂肪変性の有意な低減を示し、大空胞変性が有意に低減していた。
【0087】
この結果は、担体溶液を注射した肥満ob/obマウスが明白な脂肪変性及び脂肪肝を示したことを実証している。また、IL−22を注射した肥満ob/obマウスは脂肪変性の程度が有意に低いことから、非アルコール性脂肪肝を治療する際のIL−22の効果が示唆される。
【0088】
<実施例5:マウスにおいてアルコール性脂肪肝疾患を治療する際のrIL−22の効果>
8週齢〜12週齢のC57BC/6マウスに、20%のタンパク質、10%の脂肪、45%の糖質及び25%のアルコールを含有する液体食を与えた(Lieber et.al., 1989, Hepatology 10:501-510)。2週間〜3週間後、マウスをランダムに2つの群に分けた:対照群には、同一量の0.1%BSA、PBSを注射した);処置群には、実施例2で得られたrIL−22を300μg/kg/日の用量で注射した。動物は、2週間後に屠殺した。肝臓を採取し、解析した。即ち、肝臓組織切片をオイルレッドOで染色した。結果を図7に示した。
【0089】
この結果は、rIL−22には、肝臓中の脂肪含量を低減させることによる、アルコール性脂肪肝疾患を治療する際の有意な薬理学的効果があることを示している。
【0090】
<実施例6:ラットにおける高脂肪食誘発性脂肪肝疾患の治療に対するIL−22の効果>
高脂肪食を用いてラットにおける脂肪肝疾患を確立し、当該ラットをrmIL−22で処置した後、ラットにおける生理学的変化及び病理組織学的変化を分析することによって、ラットモデルにおいて高脂肪食誘発性脂肪肝疾患を治療する際のIL−22の効果を検討した。
脂肪肝疾患ラットモデルは、雄性SDラットに高脂肪食(通常食に、さらに2%のコレステロール及び10%のラードを含む)を与えることによって確立した。高脂肪食が8790kcal/kgを含有するのに対し、通常食は4000kcal/kgを含有する。すべての供試動物には10週間、高脂肪食を与えた。7週目終了時、ラットを任意抽出し、皮下注射による週2回の、担体溶液(0.5%BSA、PBS)による対照処置、30μg/kgでのPEG化rmIL−22による処置、100μg/kgでのPEG化rmIL−22による処置のいずれかの処置を開始した。体重は毎週測定した。3週間処置した後、ラットを屠殺した。肝重量、肝トリグリセリド含量、肝脂肪酸、肝臓の病理組織学的分析、並びに血清AST活性及び血清ALT活性を測定した。
PEG化rmIL−22による高脂肪食誘発FLDラットの処置により、以下の効能が証明された:
1.高脂肪摂取対照処置ラットと比較して、(30μg/kg及び100μg/kgでの)PEG化rmIL−22の処置により、体重及び肝重量が有意に低減した(n=5〜7)、図8A/図8B。
2.高脂肪摂取対照処置ラットと比較して、(100μg/kgでの)PEG化rmIL−22の処置により、AST及びALTの血清中の値(レベル)が有意に低減した(n=5〜7)、図9A/図9B。
3.対照処置群と比較して、(30μg/kg及び100μg/kgでの)PEG化rmIL−22の処置により、肝臓中のトリグリセリド及び遊離脂肪酸(FFA)の含有量が低減した(n=5〜7)、図10A/図10B。
4.オイルリング染色で染色した肝臓切片の病理組織学的分析から、PEG化rmIL−22で処置したラットの肝臓では、脂肪沈着が有意に低減することが示された、図11。
5.肝細胞の電子顕微鏡スキャニングから、PEG化rmIL−22(100μg/kg)で処置したラットの肝細胞では、脂肪滴沈着が有意に低減することが証明された、図12。
【0091】
本明細書中で引用したすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0092】
本明細書中で示したもの及び記載したもの以外に、本発明の様々な変更形態が、以上の記載から当業者には明らかである。かかる変更形態は、添付の特許請求の範囲内であることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪肝疾患を治療する方法であって、脂肪肝を患う被験者に対し、薬学的有効量のIL−22を投与することを含む、方法。
【請求項2】
肝障害を治療する方法であって、薬学的有効量のIL−22を投与することを含む、方法。
【請求項3】
脂肪肝疾患を治療するための組成物の製造におけるIL−22の使用。
【請求項4】
肝障害を治療するための組成物の製造におけるIL−22の使用。
【請求項5】
脂肪肝疾患を治療するための薬剤の製造におけるIL−22の使用。
【請求項6】
肝障害を治療するための薬剤の製造におけるIL−22の使用。
【請求項7】
前記IL−22は、脂肪変性を低減させるために使用される、請求項3〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記IL−22は、血清トリグリセリド値を減少させるために使用される、請求項3〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記IL−22は、トランスアミナーゼ値を減少させるために使用される、請求項3〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記IL−22がヒトIL−22である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記IL−22が、配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項3〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記脂肪肝疾患が、アルコール性脂肪肝疾患又は非アルコール性脂肪肝疾患である、請求項3又は5に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−535786(P2010−535786A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520208(P2010−520208)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/071859
【国際公開番号】WO2009/020844
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(510033918)ジェネロン コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】Generon Corporation
【Fターム(参考)】