説明

脂肪腫および脂肪肉腫を治療する方法

本発明は、脂肪腫および脂肪肉腫を治療するための方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる2009年2月19日に出願された米国特許出願第61/153798号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
米国では、成人の60%が、体重過多または臨床的に肥満とみなされるための臨床的要件を満たし、毎年300,000人の死亡につながると推測されている。Eberhardtら,Urban and rural health chartbook.2001年,Health,United States Hyattsville(MD):NCHS.296頁;General,The Surgeon General’s call to action to prevent and decrease overweight and obesity:2001年,R.M.U.S.Department Health and Human Services, Editor. 2001年参照のこと。2001年に、米国の公衆衛生局長官が、体重過多または臨床的に肥満である個人の罹患率および有病率を防ぎ、低減するための呼びかけを公表した。The Surgean General’s call to action to prevent and decrease overweigt and obesity:2001年,R.M.U.S.Department Health and Human Services, Editor.2001年。興味深いことに、このレポートには、問題に対する薬剤アプローチの適用または使用については何も書かれていない。しかし、産業的研究機関および学術的研究機関の両方によって、薬剤アプローチの開発は相当注目されている。薬剤アプローチは、適用および使用が恐らくは容易であるために、より高いコンプライアンスの可能性が高いので魅力的である。
【0003】
世界中からの疫学的研究によって、死亡率と肥満症の間の論争の余地のない相関が実証されている。感染症、心臓病、糖尿病および特定の癌の予防および制御に関する健康目標の達成において過去50年にわたって成し遂げられた進歩は、肥満症の広がりつつある蔓延によって一掃されてしまった。2001年には、小児および10代の若者の約25%が体重過多であり、ちょうど20年前から2倍を超えるパーセンテージである。現在、成人の60%をはるかに上回る人が、体重過多または肥満であるとわかっており、米国単独で、年に300,000人を上回る死亡が、これらの状態に直接的に起因し得る。これらの知見は、すべての人種、年齢、民族および両方の性別に広く及ぶが、特定の群、特に、少数民族および下層階級が、他のものよりもより傾向があることは明らかである。The Surgeon General’s call to action to prevent and decrease overweigt and obesity:2001年,R.M.U.S.Department Health and Human Services, Editor.2001年.
【0004】
肥満度指数として定義される体重過多(25〜29.9kg/mの範囲のBMI)および肥満症(BMI>30kg/m)は、早死に、2型糖尿病、心臓病、卒中、高血圧症、胆嚢疾患、変形性関節症、睡眠時無呼吸、喘息、種々の呼吸器障害、特定の癌、高い血中コレステロール値、妊娠合併症、手術危険度の増大、精神的疾患および列挙するには多すぎるその他の病状と相関していた。The Surgeon General’s call to action to prevent and decrease overweigt and obesity:2001年,R.M.U.S.Department Health and Human Services, Editor.2001年;NHLBI, Clinical guidelines on the identification, evaluation, and treatment of overweight and obesity in adults,N. NIH, Editor. 1998年, HHS, PHS.29〜41頁.肥満の個体は、正常範囲のBMI(20〜25kg/m)を有する人と比較して、これらの原因のすべてから、50〜100%増大した早死にの危険を有する。適度な体重減少(過剰な全体重の5〜15%)でさえ、これらの疾患の少なくともいくつかの、特に、心臓病の危険因子を短期間低減する。NHLBI, Clinical guidelines on the identification, evaluation, and treatment of overweight and obesity in adults, N. NIH, Editor.1998年,HHS,PHS.29〜41頁.現在の証拠は、効果は、同様に長期の利益を有し得ることを示唆する。同文献参照のこと;NIDDK, Study of health outcomes of weight−loss(SHOW) trial, NIDDK, Editor. 2001年, National Institutes of Health, U.S.A.
【0005】
公衆衛生局長官の、体重過多および肥満を防ぎ、低減するための2001年の呼びかけは、高まり続ける貧弱な栄養の供給源への依存および座りがちな生活様式の増大を伴う、過去数十年の間のアメリカの生活様式の明らかな変化を強調する。彼の重要な呼びかけは、学校での教育を促進し、社会全体で健康的な食事、定期的な、適度な運動を後押しするためのものである。進行中の過程における現段階では、米国国民の大部分が、この重要なメッセージの少なくとも浅薄な知識を有する可能性が高いと思われる。しかし、肥満症に傾く現在の傾向は、弱まる兆しを全く示さず、実際、経時的に悪化すると予測されている。克服するべき主な障害は、一般の人々による指示されたガイドラインに従った食事および運動に関するコンプライアンスの必要性であることは明らかであり、これは先行きの暗い見通しを表す。
【0006】
体重過多および肥満症の予防および治療のための薬剤アプローチについては、本質的に何も触れられていないことは、公衆衛生局長官の2001年レポートの興味深い特徴である。このようなアプローチは、患者のコンプライアンスの必要性を低減し得る可能性があるので、これが、学術的機関および産業的機関の両方の間で強い関心のある領域であることは明らかである。脂肪組織の役割および機能の理解においては、近年、エネルギー貯蓄の調節の観点から、および分泌細胞としての両方で大きな進歩がなされた(Fraynら,Integrative physiology of human adipose tissue. Int J Obes Relat Metab Disord,2003年.27(8):875〜88頁に総説されている)。浮かび上がった図式は、自律神経系の活性、基質およびホルモンの複雑な混合物の送達、脂肪細胞によって分泌される自己分泌および傍分泌エフェクターからのフィードバックおよびまた脂肪組織への血管供給を含むので極めて複雑である。また、脂肪細胞によって分泌されるレプチンおよびアディポネクチンなどの因子は、全身の代謝に対して全体的な効果を有する。Guerre−Millo, Adipose tissue hormones. J Endocrinol Invest,2002年.25(10):855〜61頁;Kishida, Disturbed secretion of mutant adiponectin associated with the metabolic syndrome.Biochem Biophys Res Commun,2003年.306(1):286〜92頁;Miner, The adipocyte as an endocrine cell. J Anim Sci, 2004年.82(3):935〜41頁;Rabin,ら,Adiponectin:linking the metabolic syndrome to its cardiovascular consequences. Expert Rev Cardiovasc Ther, 2005年.3(3):465〜71頁;Houseknechtら,The biology of leptin:a review. J Anim Sci,1998年.76(5):1405〜20頁;Mantzoros, The role of leptin in human obesity and disease:a review of current evidence. Ann Intern Med,1999年.130(8):671〜80頁参照のこと。
【0007】
このことから、上記の体重過多および肥満症に関連する現在の問題の基礎を形成する正常および病的状態の完全な理解を得るには、極めて統合的な、全体的なアプローチが必要であることは明らかである。
【0008】
研究、農業および交流のために多数の種類の動物が使用される。場合によっては、このような動物を収容し、餌を与える費用は大きなものである。小さな大きさの動物は、餌を与え、収容するのに、通常の大きさの動物よりも少ない費用しかかからない。したがって、大きさを小さくした動物および/または体重を減らした動物を作製する組成物および方法は、有利であり得る。また、コンパニオンアニマルにおける肥満症は、1つの問題である。肥満症は、短い寿命およびヒトについて先に記載された同様の疾患および状態の多くを引き起こし得る。
【0009】
脂肪腫は、薄い、線維性被膜中の脂肪細胞からなる良性腫瘍であり、通常、皮膚のすぐ下に見られる。脂肪腫は、身体中のほとんどどこにでも生じ得るが、胴体、頚部、大腿上部、上腕および腋窩で最も多く見られる。脂肪腫は、最もよく見られる種類の非悪性軟組織腫瘍である。脂肪腫は、多数の動物で生じるが、イヌにおいて最もよく見られる。ウシおよびウマ、ネコおよびブタは、脂肪腫の発生に対して感受性がある。脂肪腫の種類として、表在性皮下、筋肉内、紡錘細胞、血管脂肪腫、良性脂肪芽細胞腫および腱鞘、神経または滑膜の脂肪腫が挙げられる。
【0010】
脂肪腫の原因は、完全にはわかっていないが、脂肪腫が生じる傾向は遺伝され得る。例えば、家族性多発性脂肪腫症などの遺伝性状態は、脂肪腫の発生を含み得る。HMG I−C遺伝子(肥満症と関連する遺伝子として先に同定された)と脂肪腫の発生間の相関が、マウスにおいて実証されている。さらに、軽い傷がその成長を誘発し得る。現在、脂肪腫を防ぐ、またはその成長に影響を及ぼす既知治療はない。脂肪腫は、通常、脂肪腫が、有痛性もしくは圧痛があるようになる、伝染性もしくは繰り返し炎症性になる、悪臭のある分泌物を流す、動きもしくは機能と干渉する、大きさが大きくなる、または醜くなる、もしくは厄介になる場合に外科的に摘出される。脂肪腫を除去するために脂肪吸引も使用され得る。
【0011】
脂肪腫の脂肪肉腫への悪性形質転換は稀であるが、悪性形質転換の少数例が、例えば、骨および腎臓脂肪腫において記載されている。脂肪腫および脂肪肉腫の治療方法は、当技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態では、本発明は、脂肪腫にグリシンを投与することを含む、哺乳類において脂肪腫を治療する方法を提供する。グリシンは、グリシン類似体またはグリシンおよびグリシン類似体の組合せを含み得る。哺乳類は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタまたはウマであり得る。グリシンは、脂肪腫への注射によって、または経口投与によって脂肪腫に投与できる。注射される場合には、グリシンは、約0.1mg/ml〜約15mg/mlの濃度で医薬上許容される担体中に存在し得る。グリシンは、哺乳類に経口的に投与される場合には、哺乳類の食事の約10重量%〜30重量%で、医薬上許容される担体または食品中にあり得る。
【0013】
本発明の別の実施形態は、脂肪肉腫にグリシンを投与することを含む、哺乳類において脂肪肉腫を治療する方法を提供する。グリシンは、グリシン類似体またはグリシンおよびグリシン類似体の組合せを含み得る。哺乳類は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタまたはウマであり得る。グリシンは、脂肪肉腫への注射によって脂肪肉腫に投与され得る。グリシンは、約0.1mg/ml〜約15mg/mlの濃度で医薬上許容される担体中に存在し得る。本発明のさらに別の実施形態は、哺乳類にグリシンを経口的に投与することを含む、哺乳類において脂肪肉腫を治療する方法を提供する。グリシンは、哺乳類の食事の約10重量%〜30重量%で医薬上許容される担体または食品と合わせることができる。
【0014】
本特許または出願ファイルは、少なくとも1つのカラーで作成された図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開のコピーは、請求に応じて必要な支払いにより事務所から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】成体の雄のフィッシャーラットにおける体重に対する、5%グリシン食、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図2】成体の雄のフィッシャーラットにおける腹部脂肪含量に対する、5%グリシン食、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図3】成体の雌のフィッシャーラットにおける体重に対する、5%グリシン食、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図4】成体の雌のフィッシャーラットにおける腹部脂肪含量に対する、5%グリシン食、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図5】成体の雄のフィッシャーラットにおけるに飼料消費に対する、5%グリシン食、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図6】雄のZDFラットの体重に対する、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図7】ZDFラットの腹部脂肪含量に対する、20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図8】雌のスプラーグ−ドーリーラットの体重に対する、5%、10%、15%および20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図9】スプラーグ−ドーリーラットの飼料消費に対する、5%、10%、15%および20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図10】雌のスプラーグ−ドーリーラットにおける腹部脂肪含量に対する、5%、10%、15%および20%グリシン食および非補給食の効果を示す図である。
【図11A】白色脂肪細胞および褐色脂肪細胞におけるチロシン136でのBADのリン酸化を示す図である。レーン1:分子量マーカー;レーン2:陽性対照としてのAkt−リン酸化BAD;レーン3:対照ラットから得たリン酸化BAD;レーン4:5%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD;レーン5:20%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD。
【図11B】白色脂肪細胞および褐色脂肪細胞におけるチロシン136でのBADのリン酸化を示す図である。レーン1:陽性対照としてのAkt−リン酸化BAD;レーン2:対照ラットから得たリン酸化BAD;レーン3:5%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD;レーン4:20%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD)。
【図12】高グリシン食で処理されたスプラーグ−ドーリーラットから得た肝臓組織におけるBADのリン酸化を示す図である。レーン1:陽性対照としてのAkt−リン酸化BAD;レーン2:対照ラットから得たリン酸化BAD;レーン3:5%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD;レーン4:15%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD。
【図13】高グリシン食で処理されたスプラーグ−ドーリーラットから得た筋肉組織におけるBADのリン酸化を示す図である。レーン1:分子量マーカー;レーン2:陽性対照としてのAkt−リン酸化BAD;レーン3:対照ラットから得たリン酸化BAD;レーン4:5%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD;レーン5:5%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD レーン6:15%グリシン食を給餌されたラットから得たリン酸化BAD。
【図14】対照動物の脂肪組織から得たCy3フルオロフォアで標識されたタンパク質の二重標識実験の結果を示す図である。
【図15】食餌中20%グリシンで処理された動物の脂肪組織から得たCy3フルオロフォアで標識されたタンパク質の二重標識実験の結果を示す図である。黄色の円は、対照に対するダウンレギュレーションを示すのに対し、赤色の円は、目視検査によって認識できるようなアップレギュレーションを示す。
【図16A】グリシンの定量のLC/MS法の代表的な結果を示す図である。上部の出力は、オンカラムで78.125pMでグリシン、プロリン、フェニルアラニン、リシンおよびロイシン各々について得られた複合TIC(全イオン電流)である。中央の出力は、グリシンの抽出されたTICクロマトグラムである。底部の出力は、PDA(フォトダイオードアレイ)による複合波長モニタリングによって得られたものである。
【図16B】グリシンの定量のLC/MS法の代表的な結果を示す図である。較正曲線を構築するためにグリシンについて抽出されたTICのピーク下面積が利用される場合に、グリシンについて得られた標準曲線を示す。各較正レベルで3連の注入を使用して較正曲線を構築した。
【図17】(同位体コードアフィニティータグ)法を示す図である。
【図18】グリシンに対する幼若な雌ラットの体重の用量反応を示す図である。
【図19】グリシンに対する幼若な雌ラットの体長の用量反応を示す図である。
【図20】グリシンに対する幼若な雄ラットの体重の用量反応を示す図である。
【図21】グリシンに対する幼若な雄ラットの体長の用量反応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般的なアミノ酸、グリシンは、実験室の動物の食餌に加えられると、体重の用量依存性減少を引き起こす効果を有するということを発見した。この効果は、いくつかのげっ歯類系統およびイヌで観察した。最適用量で、また実際に、最適以上の用量で、長期の投与の間に有害な副作用は観察されなかった。グリシンは、ほとんどの哺乳類によって、解糖経路から通常の中間代謝の一部として生じるセリンから合成される非必須アミノ酸である。その天然の形態および誘導体の形態で、いくつかの精神病、特に、統合失調症の原因および可能性ある治療におけるその役割に関して広く研究されている化合物である(例えば、Waziri & Baruah、A hyperglycinergic rat model for the pathogenesis of schizophrenia:preliminary findings. Schizophr Res,1999年.37(3):205〜15頁;Waziri, Glycine therapy of schizophrenia. Biol Psychiatry,1988年.23(2):210〜1頁;Waziri, Glycine therapy of schizophrenia: some caveats. Biol Psychiatry,1996年.39(3):155〜6頁;Javitt, Glycine therapy of schizophrenia. Biol Psychiatry,1996年.40(7):684〜6頁;Javitt, Glycine modulators in schizophrenia. Curr Opin Investig Drugs,2002年.3(7):1067〜72頁;Shohamら,Chronic high−dose glycine nutrition: effects on rat brain cell morphology. Biol Psychiatry,2001年.49(10):876〜85頁;Javitt, Management of negative symptoms of schizophrenia. Curr Psychiatry Rep,2001年.3(5):413〜7;Shohamら,High dose glycine nutrition affects glial cell morphology in rat hippocampus and cerebellum. Int J Neuropsychopharmcol,1999年.2(1):35〜40頁;Shoham,ら,Glycine and D−cycloserine attenuate vacuous chewing movements in a rat model of tardive dyskinesia. Brain Res,2004年.1004(1−2):142〜7頁;Tuominenら,Glutamatergic drugs for schizophrenia: a systematic review and meta−analysis. Schizophr Res,2005年.72(2−3):225〜34頁参照のこと)。これらの報告のうちいくつかで、グリシン投与の効果が、試験動物または被験体の体重に対して、小さいが、有意な影響を有すると言及されているが、この知見は、考察またはさらなる分析の主題には決してならなかった。これは、恐らくは、観察された効果が比較的小さく、場合によるとその他の医薬の反作用効果によるためである。Petzkeら(1987)は、グリシンが、その他のアミノ酸、糖および脂肪と比較して比較的高い熱発生効果を有し、これは、酸素取り込みの増大と相関していると報告した。Petzke & Albrecht,[The effect of nutrition on the metabolism of glycine]。Nahrung,1987年.31(2):157〜72頁;Petzkeら,Utilization of [1−14C]carbon of glycine of high glycine diet fed young and old rats, Zfa,1987年.42(6):323〜8頁;Petzkeら,[The effect of oral administration of glycine on metabolism]. Nahrung,1987年.31(3):207〜15頁。彼のグループは、実験ラットの成長における用量依存性低減を言及したが、可能性ある機序の生化学的根拠を提供できなかった。本発明者らは、以下に記載されるように、この知見を再現することに加えて、成体動物は、その食餌のグリシン補給を用いて用量依存性体重減少を示すことを実証した。グリシンまたはグリシン類似体は、観察できる有害な副作用を伴わずに肥満症に対抗するために使用できる。さらに、グリシンは、アポトーシスを、具体的には、脂肪細胞において、恐らくは、今までに認識されていない経路を使用して誘導するよう作用する。
【0017】
グリシンおよびグリシン類似体
グリシンは、容易に入手可能な、非毒性のアミノ酸である。グリシン、グリシン類似体またはその組合せは、本発明の方法において使用できる。白色脂肪細胞などの脂肪細胞においてアポトーシスを直接的または間接的に誘導する任意のグリシン類似体を使用できる。本発明の一実施形態では、グリシン類似体は、式Iを含み得る。
【0018】
【化1】

【0019】
例えば、式Iでは、
R1および/またはR2は、Hであり得、
R1および/またはR2は、Me、EtまたはPrであり得;
R1および/またはR2は、Bnであり得;
R1および/またはR2は、(CH2−5であり得る。
【0020】
式Iは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0021】
【化2】

【0022】
その他のグリシン類似体は、式IIを含み得る:
【0023】
【化3】

【0024】
例えば、式IIでは、
R1および/またはR2は、Hであり得、
R1および/またはR2は、Me、EtまたはPrであり得;
R1および/またはR2は、Bnであり得;
R1および/またはR2は、(CH2−5であり得る。
【0025】
式IIは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0026】
【化4】

【0027】
本発明の別の実施形態では、グリシン類似体は、式IIIを含み得る:
【0028】
【化5】

【0029】
式IIIでは、
R1および/またはR2は、Hであり得、R3は、H、Me、Et、PrまたはBnであり得;
R1および/またはR2は、Me、EtまたはPrであり得、R3は、Me、Et、PrまたはBnであり得;
R1は、Hであり得、R2は、BnまたはMeであり得、R3は、Me、Et、PrまたはBnであり得;
R1および/またはR2は、(CH2−5またはMeであり得、R3は、Me、Et、PrまたはBnであり得る。
【0030】
式IIIは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0031】
【化6】

【0032】
高グリシン食
「高グリシン食」は、グリシン、グリシン類似体もしくは複数の類似体もしくはそれらの組合せが高い食事、または高投与量のグリシン補給、グリシン類似体補給もしくはそれらの組合せである。本発明の一実施形態では、グリシン類似体、または、グリシンと組み合わせたグリシン類似体は、グリシンのみを含む食事が投与される場合に得られるものとほとんど同じ生理学的効果をもたらす。すなわち、グリシン類似体、または、グリシンおよびグリシン類似体の組合せは、高グリシン食で動物にグリシンが投与される場合の動物におけるグリシンの生理学的濃度とほとんど同じである、動物におけるグリシンの生理学的濃度をもたらす。いくつかの例では、グリシンとの組合せ中のグリシン類似体または複数のグリシン類似体は、グリシンが単独で使用される場合と同様の効果を達成するためにグリシン単独よりも低いパーセンテージで投与できる。例えば、グリシンとの組合せ中のグリシン類似体または複数のグリシン類似体は、食事中、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10重量パーセント以上で投与できる。
【0033】
グリシンおよびグリシン類似体は、食事中に混合してもよく、その他の経路によって投与してもよい。補給は、液体、半固体、固体または任意のその他の形態であり得る。高グリシン食は、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40重量%またはそれ以上のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せを含む。本発明の一実施形態では、高グリシン食は、約5%〜約40%以上、約10%〜約40%;約10%〜約30%;約15%〜約25%;または約20%〜約25%のグリシンまたはグリシン類似体またはそれらの組合せを含み得る。
【0034】
本発明はまた、約3.5%〜約40%以上、約3.5%〜約40%;約10%〜約30%;約15%〜約25%または約20%〜25%のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ(すなわち、約3.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40重量%またはそれ以上のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ)および約60%〜約96.5%(すなわち、約96.5、95、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、75、70、65または60%)のカロリーが少ない食事を含む、動物における体重減少のための食事組成物を提供する。
【0035】
本発明はまた、約3.5%〜約40%以上;約10%〜約40%以上;約10%〜約30%;約15%〜約25%;または約20%〜25%のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ(すなわち、約3.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40重量%またはそれ以上のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ)および約60%〜約96.5%(すなわち、約96.5、95、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、75、70、65または60%)の脂肪が少ない食事を含む、動物における体重減少のための食事組成物を提供する。低脂肪食は、低飽和脂肪食であり得る。
【0036】
本発明はまた、約3.5%〜約40%以上;10%〜約40%以上;約10%〜約30%;約15%〜約25%;または約20%〜25%のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ(すなわち、約3.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40重量%またはそれ以上のグリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せ)および約60%〜約96.5%(すなわち、約96.5、95、90、89、88、87、86、85、84、83、82、81、80、75、70、65または60%)の炭水化物が少ない食事を含む、動物における体重減少のための食事組成物を提供する。
【0037】
本発明の方法
ヒトなどの雄または雌の動物への高グリシン食の投与は、脂肪組織、特に、動物の白色脂肪細胞においてアポトーシスを誘導し得る。したがって、高グリシン食は、動物において脂肪組織を低減し得る、または脂肪細胞の大きさを低減し得る、またはその両方である。本発明の方法は、動物に高グリシン食を投与して、動物において、脂肪組織においてアポトーシスを誘導すること、脂肪組織を低減すること、脂肪細胞の大きさを低減することまたはそれらの組合せを含む。
【0038】
特定の理論に拘束されようとは思わないが、脂肪組織におけるアポトーシスの誘導は、グリシンの直接または間接効果によって引き起こされると考えられる。この作用機序は、このような食事が有する、BAD、Bcl−2ファミリーのアポトーシス促進性メンバーに対する観察された効果によって支持される。BADの細胞死を促進する能力は、位置136でのリン酸化によって阻害される。高グリシン食の投与は、脂肪組織において位置136でのBADのリン酸化を低減または排除し、このことは、高グリシン食またはその等価物が投与される場合に観察される脂肪組織の減少が、アポトーシスの誘導によって起こることをを示す。
【0039】
食事で、(すなわち、経口的な)またはその他の投与手段のいずれかによる高濃度のグリシンの投与は、動物において腹部脂肪含量を低減し得る。さらに、動物への、食事で、またはその他の投与手段のいずれかによるグリシンの投与は、動物において体重減少をもたらし得る。しかし、グリシンを補給した食事の最初の投与時に、体重増加が見られる場合がある。いずれか特定の理論に拘束されようとは思わないが、この観察結果は、脂肪組織の減少および筋肉組織の獲得の結果であり得ると考えられる。
【0040】
本発明の方法および組成物を使用して、大きさを小さくした、およびまたは体重を減らした動物を作製できる。例えば、通常の大きさの動物よりも約3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%もしくは75%小さい動物または通常の体重の動物よりも約3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%もしくは75%軽い動物。通常の大きさまたは通常の体重の動物とは、年齢および全身の健康状態が考慮された場合に、動物種の平均または標準的な体重もしくは大きさの範囲内に入る動物である。
【0041】
本発明は、動物に高グリシン食を投与することを含む、大きさを小さくした、または体重を減らした、または大きさを小さくし、体重を減らした両方の動物を作製する方法を提供する。大きさを小さくした動物のために、幼若動物に高グリシン食が給餌される。高グリシン食は、毎日投与され得る。動物は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウマ、トリまたは魚であり得る。
【0042】
本発明はまた、上記のように大きさを小さくした動物を作製し、続いて、動物を通常の大きさに戻す方法を提供する。本方法は、幼若動物に高グリシン食を投与して、大きさを小さくした動物を作製すること、次いで、動物に正常食を投与して、通常の大きさの動物を作製することを含む。正常食は、グリシンを補給していないが、正常な量のグリシンを含む食事である。
【0043】
本発明はまた、成熟または幼若動物に高グリシン食を投与して、体重を減らした動物を作製し、次いで、動物に正常食を投与して通常の体重の動物を作製することを含む、体重を減らした動物を作製し、次いで、動物を通常の体重に戻す方法を提供する。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態は、幼若動物へ高グリシン食を投与して、恒久的に大きさを小さくした、または体重を減らした動物を作製することによって、恒久的に大きさを小さくした、およびまたは体重を減らした動物を作製する方法を提供する。高グリシン食の投与は、動物の生涯を通じて、または通常は成長の休止と関連している生理的プロセスによってさらなる成長が妨げられるまで継続できる。
【0045】
本発明の方法および組成物を使用して、幼若または成熟動物などの動物において体重減少を引き起こすことができる。約3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%または75%の体重減少が達成され得る。
【0046】
本発明の一実施形態は、動物に上記の高グリシン食を投与することを含む動物において体重減少を引き起こす方法を提供する。動物は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウマ、トリ、魚または無脊椎動物であり得る。本発明の一実施形態では、動物は、健康であり、潜在する健康問題または関心事がない。本発明の別の実施形態では、動物は、体重過多または肥満症の健康問題のみを有し、その他の健康問題または関心事はない。
【0047】
高グリシン食は、運動管理療法、低脂肪食、低カロリー食、低炭水化物食、胃形成術、胃の分割および胃バイパスなどの外科的介入、行動療法、薬物療法(例えば、シブトラミン、メリディア(登録商標)(シブトラミンHCl一水和物)、ゼニカル(登録商標)(オルリスタット)およびそれらの組合せの使用)、天然のダイエット補助食品または店頭販売の(OTC)体重減少製品およびそれらの組合せなどの付属的体重減少治療とともに投与してもよい。
【0048】
低脂肪食は、所与の年齢、体重および全身の健康状態の所与の種に通常推奨される量の食事中の脂肪より、約3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%または80%少ない脂肪を含む食事である。例えば、ヒトにおける低脂肪食は、約0%、3%、5%、7%、10%、13%、15%、20%または25%の脂肪からなる食事を含み得る。
【0049】
低カロリー食は、所与の年齢、体重および全身の健康状態の特定の種に通常推奨される量のカロリーより、約3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%または80%少ないカロリーを含む食事である。
【0050】
低炭水化物食は、所与の年齢、体重および全身の健康状態の特定の種に通常推奨される量のカロリーより、約3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%または80%少ない炭水化物を含む食事である。
【0051】
行動療法は、食事療法および/または運動療法に伴うコンプライアンスに対する障壁を克服するのに役立つ戦略を含む。このような戦略は、例えば、食習慣および運動の自己監視、ストレス管理、刺激制御、問題解決(例えば、摂食および運動と関連する問題領域の自己補正)、随伴性管理(例えば、特定の望ましい行動に対する報奨の使用、認知再構築(例えば、非現実的な目標および不正確な信念の改変)および社会的支援を含む。
【0052】
グリシンおよびグリシン類似体は、例えば、従来の非毒性の医薬上許容される担体、アジュバントおよび/またはビヒクルを含有する製剤を使用して、経口的に、局所的に、非経口的に、吸入もしくは噴霧によって、または直腸性に投与できる。本明細書において、用語、非経口とは、経皮、皮下、血管内(例えば、静脈内)、筋肉内、腹膜内またはくも膜下腔内注射または注入技術などを含む。さらに、グリシンおよびグリシン類似体は、医薬上許容される担体と組み合わせてもよい。グリシンおよびグリシン類似体は、1種以上の非毒性の医薬上許容される担体、賦形剤、着色剤、防腐剤、矯味剤、希釈剤、アジュバントまたはそれらの組合せ、および必要に応じて、その他の有効成分と関連して存在し得る。グリシンおよびグリシン類似体は、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性懸濁液、分散性散剤または顆粒剤、エマルジョン、ハードもしくはソフトカプセル剤、持続放出製剤またはシロップ剤もしくはエリキシル剤のような経口使用に適した任意の形態であり得る。グリシンおよびグリシン類似体は、食品製剤中に存在し得る。
【0053】
本発明の別の実施形態は、脂肪細胞へ1種以上のグリシン類似体、または、グリシンおよびグリシン類似体の組合せを投与することを含む、in vivoまたはin vitroで、白色脂肪細胞においてアポトーシスを誘導する方法を提供する。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態は、脂肪細胞に1種以上のグリシン類似体、または、グリシンおよびグリシン類似体の組合せを投与することを含む、in vivoまたはin vitroで、白色脂肪細胞においてアミノ酸位置136でのBADのリン酸化を低減する方法を提供する。
【0055】
グリシンは、約5、10、50、75、100、200、300、400、500、750、1000μg/mlまたはそれ以上の濃度で脂肪細胞に加えてもよい。
【0056】
脂肪腫および脂肪肉腫
本発明は、脂肪腫または脂肪肉腫の治療方法を提供する。脂肪腫の種類として、例えば、血管脂肪腫、アンギオリポレイオミオーマ(angiolipoleiomyoma)、神経線維肪腫、軟骨脂肪腫(chondroid lipoma)、紡錘細胞脂肪腫、多形性脂肪腫、皮内紡錘細胞脂肪腫、褐色脂肪腫および表在性皮下脂肪腫が挙げられる。グリシンおよび/またはグリシン類似体を、約0.1、0.2、0.5、0.75、1.0、2.0、2.5、5.0、7.5、10.0または15.0mg/ml以上の注射可能濃度で使用して、脂肪腫または脂肪肉腫を治療できる。あるいは、グリシンおよび/またはグリシン類似体を、約15.0、10.0、7.5、5.0、2.5、2.0、1.0、0.75、0.5、0.2、0.1mg/ml以下または15から0.1mg/mlの間の任意の範囲の濃度で使用して、脂肪腫または脂肪肉腫を治療できる。グリシンおよびグリシン類似体は、約0.5、1、2、3、4、5、10、15%以上または約0.5%から約15%の間の任意の範囲の濃度で存在し得る。中性グリシンは、水または任意の医薬上許容される担体の溶液中に存在し得る。グリシンおよび/またはグリシン類似体は、非経口的に、例えば、経皮的に、皮下に、血管内に(例えば、静脈内に)、筋肉内に、腹膜内に、またはくも膜下腔内注射、注入技術によって、または経口的に(上記のように)投与できる。グリシンおよび/またはグリシン類似体はまた、脂肪腫もしくは脂肪肉腫への直接注射によって、または脂肪腫もしくは脂肪肉腫周囲の領域への注射によって投与できる。脂肪腫または脂肪肉腫の治療は、脂肪腫または脂肪肉腫の低減または排除を意味する。
【0057】
本明細書においてどこかで参照されるすべての特許、特許出願およびその他の科学的または技術的文書は、参照によりその全文が組み込まれる。本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されない、任意の要素または複数の要素、制限または複数の制限の不在下で適宜実施できる。したがって、例えば、本明細書における各例では、用語「含む」、「本質的に、からなる」および「からなる」のいずれも、その元の意味を維持しながら、他の2つの用語のいずれかと置き換えられ得る。使用された用語および表現は、説明の用語として使用され、制限の用語ではなく、このような用語および表現の使用において、示され、説明される特徴またはその一部の任意の同等物を排除する意図はないが、特許請求される本発明の範囲内で種々の改変が可能であることは認識される。したがって、本発明は、実施形態、任意選択の特徴によって具体的に開示されているが、当業者によって本明細書に開示される概念の改変および変法が用いられ得ることおよびこのような改変および変法は、本文および添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内にあると考えられることは理解されるべきである。
【0058】
さらに、本発明の特徴または態様が、マーカッシュグループまたは代替のその他のグループ分けの用語で記載されている場合には、当業者ならば、それによって本発明はまた、マーカッシュグループまたはその他のグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーの下位グループの用語でも記載されるということは認識されよう。
【実施例1】
【0059】
ラットを、無作為に分け、別個にケージに入れ、水を自由に与え、食餌TD 80406食(Harlan Teklad、Madison、Wisconsin)を給餌した。食餌組成は、表1に示されている。TD 80406食は、ラクトアルブミン成分中に存在する約1〜2%グリシンを有し、非補給食と考えられる。
【0060】
【表1】

【0061】
成体(180日齢)の雄のフィッシャーラットを、各群中、10匹ラットの処理群で、その食餌中に5%または20%グリシンを含む食餌または非補給食に無作為に割り当てた。図1参照のこと。動物および食品重量測定値は、示された研究日に得た。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の食餌に関して盲検化された。バーは、示された観察日での各群のラットの体重の±1標準誤差を表す。20%グリシン食を給餌されたラットは、14〜30日間の処理の間、5%グリシン食またはグリシンが補給されていない食餌を給餌されたラットよりも統計的に軽かった。30日目に、ひとたび、20%グリシン食を給餌されたラットを非補給食に戻すと、それらは、急速に体重増加し、その体重は、非補給食を給餌されたラットのものと同様となった。研究の32日目以降の対照と20%グリシン群の動物の体重間に統計的な相違はなかった。
【0062】
各処理群から5匹のラットを、無作為に選択し、研究の30日目に安楽死させた。各ラットの腹部脂肪含量の測定値は剖検で得た(図2)。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の処理群に関して盲検化された。一元配置分散分析を使用して、データを分析し、ダネットの多重比較検定を使用するポスト−ホック分析に付した。20%グリシン食を給餌されたラットは、5%グリシン食または非補給食を給餌されたものよりも統計的に有意に少ない腹部脂肪を有していた。
【0063】
雌の成体(180日齢)フィッシャーラットを用いて同じ実験を実施した。得られた結果は、体重減少および腹部脂肪含量の両方に関して、グリシンの効果が、雄においてよりも雌において実際に幾分かより明白であった点を除いて全般的に同様であった(図3および図4)。処理された雌ラットの体重は、回復相の最後までに対照動物のレベルにリバウンドしなかったこと、および腹部脂肪の観察された低減は、雄について観察されたものよりも大きかったということは留意されたいものであった。実験の過程を通じて消費された食品または水の量では、群間で有意な相違は観察されなかった。
【0064】
飼料消費測定値は、示された研究日に得た。図5参照のこと。これらのデータは、観察された体重減少は、食物摂取の減少によるカロリー制限の結果ではないことを示す。さらに、観察された体重減少は、食餌がボンベ熱量計によって分析され(表2参照のこと)、カロリー含量が有意に異なっていないことが示されたように、食品のカロリー含量の減少の結果ではない。
【0065】
【表2】

【0066】
研究下のラットの尾静脈から血液サンプルを採取し、Mutli−Analyte Profile検査のためにCharles River Laboratoriesに送った。これらの試験の結果は、高グリシン食のラットは、その血清トリグリセリド、HDLおよびコレステロールレベルにおいて統計的に有意な(p≦0.05)低下を示すことを示した。これらの結果は、グリシンを用いる研究を実施する他者による文献における結果と一致する。Hafidiら,Glycine intake decreases plasma free fatty acids, adipose cell size, and blood pressure in sucrose−fed rats. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,2004年.287(6):R1387−93;Austら,The hypolipaemic action of a glycine rich diet in rats. Nahrung,1980年.24(7):663〜71頁;Sugiyamaら,Dietary sulfur−containing amino acids and glycine as determinant factors in plasma cholesterol regulation in growing rats. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo),1985年.31(1):121〜5頁;Senthilkumarら,Glycine modulates hepatic lipid accumulation in alcohol−induced liver injury. Pol J Pharmacol, 2003. 55(4):603−11;Parkら,Dietary taurine or glycine supplementation reduces plasma and liver cholesterol and triglyceride concentrations in rats fed a cholesterol−free diet. Nutrition Research,1999年.19(12):1777〜1789頁;Yoshidaら,Effects of addition of arginine, cystine, and glycine to the bovine milk−simulated amino acid mixture on the level of plasma and liver cholesterol in rats. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo),1988年.34(6):567〜76頁;Olsonら,Effect of amino acid diets upon serum lipids in man. Am J Clin Nutr, 1970年.23(12):1614〜25頁;Ryzhenkovら,[Hypolipidemic activity of glycine and its derivatives]. Vopr Med Khim,1984年.30(2):78〜80頁;Yagasakiら,Effects of dietary methionine, cystine, and glycine on endogenous hypercholesterolemia in hepatoma−bearing rats. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo),1986年.32(6):643〜51頁;Emiら,Missense mutation (Gly−−−−Glu188) of human lipoprotein lipase imparting functional deficiency. J Biol Chem,1990年.265(10):5910〜6頁参照のこと。白色脂肪細胞(WAT)が減少する場合に期待されるように、有意な傾向のあるレプチンレベルの低下が観察された。WATが減少している場合に期待されるように、アディポネクチンレベルが、有意な傾向で上がることが観察された。データは、高グリシン食が、これらの肥満症の病原性のバイオマーカーに正の効果をもたらすことを実証した。
【実施例2】
【0067】
成体の雄のスッカー糖尿病肥満(ZDF)ラットを、各群中、3匹のラットの処理群で、その食餌中に20%グリシンを含む食餌または非補給食に無作為に割り当てた。ZDFラットは、肥満で、高血圧症で、インスリン抵抗性である。体重測定値は、示された研究日に得た。図6参照のこと。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の食餌に関して盲検化された。バーは、示された観察日での各群のラットの体重の±1標準誤差を表す。一元配置分散分析を使用して、データを分析し、ダネットの多重比較検定を使用するポスト−ホック分析に付した。20%グリシン食を給餌されたラットは、非補給食を給餌されたラットと比較して、研究の15日目から36日目の体重において統計的に有意な低下を有していた。やはり、飼料消費には群間に差異が観察されなかった。各ラットの腹部脂肪含量の測定値は剖検で得た(図7)。20%グリシン食を給餌されたラットは、5%グリシン食または非補給食を給餌されたものよりも統計的に有意に(p≦0.05)少ない腹部脂肪を有していた。
【実施例3】
【0068】
成体の雌のスプラーグ−ドーリーラットを、各群中、3匹のラットの処理群で、その食餌中に5、10、15または20%グリシンを含む食餌または非補給食に無作為に割り当てた。図8参照のこと。体重測定値は、示された研究日に得た。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の食餌に関して盲検化された。バーは、示された観察日での各群のラットの体重の±1標準誤差を表す。20%グリシン食を給餌されたラットの体重は、非補給食を給餌されたラットのものよりも少なかった。一元配置分散分析を使用して、データを分析し、ダネットの多重比較検定を使用するポスト−ホック分析に付した。20%グリシン食を給餌されたラットは、非補給食を給餌されたラットと比較して研究の15日目から36日目の体重において統計的に有意な低下を有していた。
【実施例4】
【0069】
成体の雌のスプラーグ−ドーリーラットを、各群中、3匹のラットの処理群で、その食餌中に5、10、15または20%グリシンを含む食餌または非補給食に割り当てた。図9参照のこと。飼料消費測定値は、示された研究日に得た。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の食餌に関して盲検化された。これらのデータは、観察された体重減少は、食物摂取の減少によるカロリー制限の結果ではないことを示す。さらに、観察された体重減少は、食餌がボンベ熱量計によって分析され(表2参照のこと)、カロリー含量が有意に異なっていないことが示されたように、食品のカロリー含量の減少の結果ではない。
【実施例5】
【0070】
成体の雌のスプラーグ−ドーリーラットを、各群中、3匹のラットの処理群で、その食餌中に5、10、15または20%グリシンを含む食餌または非補給食に割り当てた。各処理群中のラットを研究の30日目に安楽死させた。各ラットの腹部脂肪含量の測定値は剖検で得た。図10参照のこと。重量測定を行う分析者は、観察結果が記録されている動物の処理群に関して盲検化された。一元配置分散分析を使用して、データを分析し、ダネットの多重比較検定を使用するポスト−ホック分析に付した。5%〜20%の示された量のグリシンを含有する食餌を給餌されたラットは、非補給食を給餌されたものよりも統計的に有意に少ない腹部脂肪を有していた。
【実施例6】
【0071】
スプラーグ−ドーリーラット、24日齢に、15%グリシンおよび85% TD80406の食餌を給餌した。15%グリシンおよび85% TD80406を含有する食餌を6週間給餌された動物の剖検で、肉眼的病変または体重以外の処理に関連する異常は報告されなかった。6週間、100% TD80406を給餌された対照動物と15%グリシンおよび85% TD80406を含有する食餌を給餌された動物間で、血液化学および全血球計算における相違は観察されなかった。高グリシンを補給した食餌を給餌された一動物から採取した組織の病理組織学的検査を実施した。トリミングされ、処理され、包埋され、ミクロトーム処理され、ヘマトキシリンおよびエオシン染色した組織の鏡検は、脳、肺、肝臓、副腎、腎臓、膀胱、心臓、胃、大腸または小腸について顕著な結果を示さなかった。手短に言えば、正常な組織診断から顕微鏡的変化はなかった。
【実施例7】
【0072】
成体の雄のスプラーグ−ドーリーラットを、各群中、3匹のラットの処理群で、その食餌中に5%または20%のグリシンを含む食餌または非補給食に無作為に割り当てた。研究の20日目に動物を安楽死させ、剖検で脂肪組織を得た。総タンパク質を脂肪組織から抽出した。高グリシン食を給餌されたラットから得た脂肪組織が、アポトーシスを起こしたことを示すために、対照またはグリシン含有食を給餌された動物の抽出物を、位置136でBADをリン酸化する能力についてアッセイした。図11Aおよび11Bに見られるように、データは、(WAT)においてチロシン136でのBADのリン酸化において用量依存性減少を明らかに示したのに対し、褐色脂肪細胞(BAT)では、このような減少は観察されず、このことは、高グリシン食が白色脂肪細胞におけるアポトーシスにつながることを示す。図12および図13は、同じ動物に由来する肝臓組織(図12)または筋肉(図13)の抽出物がアッセイされた場合には、チロシン136でのBADのリン酸化状態におけるこのような減少がないことが観察されたことを明らかに示す。
【0073】
データは、チロシン136でのBADのリン酸化における用量依存性減少を明らかに示し、このことは、高グリシン食が脂肪組織におけるアポトーシスにつながることを示す。
【0074】
セリン位置136でBADをリン酸化する能力についての組織抽出物のアッセイを、以下のとおりに実施した:1mgの組織抽出物を、BADアガロース(Upstate、Waltham、MA)に加えた。反応容量をRIPAバッファー(抗ホスファターゼおよび抗プロテアーゼを含む)(Tris−HCl [pH 7.4]50mM;NP−40 1%;デオキシコール酸Na 0.25%;NaCl 150mM;EDTA 1mM;PMSF 1mM;Protease Arrest 100μl;オルトバナジン酸ナトリウム 1mM;フッ化ナトリウム 1mM)を使用して1mlに調整し、30℃で0.5時間インキュベートした。遠心分離(12,000×gで5秒)によってアガロースビーズを集めた。上清を除去し、ビーズを洗浄し、氷冷TBSで3回洗浄した。BAD−アガロースを40μlのサンプルバッファーに再懸濁し、5分間沸騰させ、遠心分離した(12,000×gで5分)。7マイクロリットルのサンプルを、15%ゲル(Tris−グリシン)で電気泳動した。ウエスタンブロッティングによってタンパク質をニトロセルロースメンブレンにトランスファーし、TTBS中、5% NFMを用い、4℃で振盪しながらブロッキングした。TTBS中、2% NFMを用いてメンブレンを洗浄した。(2% NFM/TTBS中、1:1000)でウサギ抗ホスホBAD 136抗体を用いて各レーンを、室温で2時間ブロッティングした。ブロットをTTBSを用いて5分間3回洗浄した。ブロットを、ヤギ抗ウサギ−HRP(2% NFM/TTBS中、1:5000)とともにインキュベートした。ブロットをTTBSを用いて5分間3回洗浄し、TBSを用いて5分間2回洗浄した。リン酸化BADの可視化は、化学発光基質(Pierce Super−Signal Substrate(商標))を用いて達成した。
【0075】
本発明者らは、グリシンが観察された生物学的効果を誘発する作用機序をさらに解明するために、ゲル電気泳動における2D−ディファレンシャル(2D−DIGE)を使用した。2D−DIGEは、異なっている生物学的状態からの組織のプロテオームにおける発現の相違の迅速な評価を可能にする強力な方法である。Patton, Detection technologies in proteome analysis. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci,2002年.771(1−2):3〜31頁;Unluら,Difference gel electrophoresis: a single gel method for detecting changes in protein extracts. Electrophoresis,1997.18(11):2071〜7頁;Von Eggelingら,Fluorescent dual colour 2D−protein gel electrophoresis for rapid detection of differences in protein pattern with standard image analysis software. Int J Mol Med,2001年.8(4):373〜7頁参照のこと。
【0076】
対照(図14)および20%グリシン処理(図15)から得た組織から抽出したタンパク質の二重標識実験の予備的結果を、未来の2D−DIGE実験を受けるための調製物において得た。対照動物の脂肪組織から得たCy3フルオロフォアで標識されたタンパク質が、図14に示されている。図15は、食餌中20%グリシンで処理された動物の脂肪組織から得たCy5フルオロフォアで標識された得られたタンパク質を用いて得られた結果を示す。黄色の円は、目視検査によって識別可能なものとしての、対照に対するダウンレギュレーションを示し、赤い円は、アップレギュレーションを示す。
【0077】
対照食または20重量%グリシンを補給した食餌のいずれかを給餌した雌のスプラーグ−ドーリーラットから得た脂肪組織の2D−DIGE分析。組織サンプルは、7X110 mini−Tip Reusable Generator Probesが取り付けられたPowerGen 125モデルFTH115ホモジナイザーを使用して氷上でホモジナイズし、Total Protein Extraction (TPE)キット(Genotech、92−Weldon Parkway、St. Louis、MO 63043−9989 U.S.A.)を使用し、キットに同梱されているプロトコールに従ってタンパク質を抽出した。すべてのバッファーは、使用の前の抽出および保存の間のタンパク質分解を最小にするためにProtease Arrest Cocktail(Genotech、92−Weldon Parkway、 St. Louis、MO 63043−9989 U.S.A.)を含有していた。Bio Rad 2D精製キット(カタログ番号163−2130)を使用して、抽出されたタンパク質を沈殿させ、Cy標識バッファー(30mM Tris−HCl pH8.5、4% CHAPS、8M 尿素)に再懸濁した。対照動物および処理された動物から得た等量のタンパク質(50μg)を、DMFで希釈した400pmolのCy3またはCy5フルオロフォアを用い、製造業者の仕様書にしたがって各々標識した。標識反応は、氷上、暗所で30分間実施し、1mMリシンの添加によってクエンチした。標識されたタンパク質の2つの集団をBiolyte両性電解質(Bio Radカタログ番号163−1112)および再水和バッファー(Bio Radカタログ番号163−2083)と混合した。次いで、混合物を、再水和IPGストリップ(Bio Radカタログ番号163−2099)上に、室温で一晩ロードした。再水和IPGストリップ中のタンパク質をBiorad Protean IEFゲル装置で集め、Bio Rad Protean Slabゲル装置で製造業者の使用説明書に従って二次元に流した。ゲル中のCy3およびCy5標識されたタンパク質の可視化を、KODAK Image Station 2000MMを使用し、それぞれ、535および620nm励起ならびに600および670nm発光フィルターを使用して行った。
【実施例8】
【0078】
血液および組織(脂肪の)中のグリシンの濃度の正確な測定のための高感度アッセイ
脂肪組織量の低減に関するグリシンの薬物動態および薬力学モデルの開発には、投与されるグリシンの濃度の測定のための正確な方法が必要である。方法は、内因性グリシンを除く、投与されたグリシンの吸収(adsorption)、分布、代謝および排泄(ADME)をたどることができることが理想的である。さらに、開発される方法は、グリシン類似体を用いる将来の研究に適用するために容易に改変され得るべきである。LC/MS法はこの目的のために使用できる。このアプローチによって、研究におけるC13−グリシンの利用が可能となり、これは、投薬されたC13−グリシンおよび内因性グリシンのADMEの同時決定を可能にする。
【0079】
手短には、方法論は、LC/MSによる分析の前の、タンパク質および核酸夾雑物が、酸沈殿によって除去されるサンプル精製ステップからなる。各研究の開始に先立って、サンプルマトリックス(すなわち、未処理動物から得た血漿または透析された組織抽出物)中に既知量のグリシン/C13−グリシンを含有するQCサンプルを調製する。褐色の1.5ml微量遠心管中の100μlの血漿サンプルに、1%メタリン酸を含有する100μlの氷冷10%(vol/vol)過塩素酸を添加することによって、サンプルの酸沈殿を達成し、これを氷上で10分間インキュベートし、その後、4℃、12,000×gでで5分間遠心分離する。次いで、得られた上清を0.2μmフィルターを通して濾過し、Savant SC110 Speedvac(または等価物)で真空乾燥させる。研究サンプルおよびQCサンプルは、分析に付されるまで−80℃で保存する。分析に先立って、サンプルを、室温に加温し、50μlの脱イオン化LC/MS等級の水(LC/MS−ddHO)で再構成し、ガラス自動注入装置バイアルに移し、次いで、Micro AS(Thermo Electron)自動注入装置にロードする。20μlの各サンプルを、ESI(エレクトロスプレーイオン化)供給源を介してLCQ DECA XP イオントラップ質量分析計(Thermo Electron Corp.)と接続されたSurveyor Plus HPLCシステム(Thermo Electron Corp.)で50×2.1mm Hypercarb(商標)カラム(Thermo Electron Corporation)上に注入する。クロマトグラフィーによる分離は、10分で、LC/MS−ddH0中、20mMペルフルオロペンタン酸からLC/MS−ddH0中、15%アセトニトリル、次いで、さらに10分でLC/MS−ddH0中、26%アセトニトリル、次いで、10分で、最終LC/MS−ddH0中、50%アセトニトリルの勾配を流すことによって達成される。条件を、LC/MS−ddH0中、最終50%アセトニトリルおよび20mMペルフルオロペンタン酸で10分間維持し、続いて、LC/MS−ddH0中、100%の20mMペルフルオロペンタン酸に5分間戻し、その後、次の注入とする。
【0080】
図16は、グリシンの定量において使用するための代表的なクロマトグラムおよび標準曲線を示す。データは、カラム上にロードされた24種の一般的なアミノ酸を含有していた既知標準ならびにグリシン、プロリン、フェニルアラニン、リシンおよびロイシンの選択イオンモニタリング(SIM)を使用して得た。結果は、アッセイが、提案された研究においてその意図される目的にとって必要な感度を有することを明らかに示す。アッセイは、C13−グリシンを用いて、さらに正確にされ、確認され得る。
【実施例9】
【0081】
高用量グリシンの単回用量薬物動態プロフィールおよび経口バイオアベイラビリティ
以下の実験計画を使用して、グリシンの薬物動態プロフィールおよび経口バイオアベイラビリティを決定できる。Charles River Laboratoriesから入手した、外科的に埋め込まれた頚静脈カテーテルを有し、200〜225gの間の体重の成体(180日齢)スプラーグ−ドーリーラットを使用できる。18匹のラットを、6匹のラット(3匹の雄3匹の雌)の3群に無作為に分け、3つの投与量群の各々:高(5mg/kg)、中(2.5mg/kg)および低(0.25mg/kg)に無作為に割り当てる。20重量%のグリシンを含有する食餌を給餌された雄のZDFラットから、24時間の絶食後に剖検で得た血漿サンプルの予備的分析は、16.9μg/mLレベルのグリシンを示した。実際の定常状態レベルのグリシンは、動物が絶食している前は、恐らくはかなり高かった。本発明者らが選択した用量は、約150μg/m、高用量群、75μg/m、中用量群、および7.5μg/m、低用量群のピーク血漿レベルをもたらすはずである。グリシンは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.2に溶解し、まず、IVボーラスによって投与する。以下の時点、T=0分、T=0.5分、T=1分、T=5分、T=15分、T=30分、T=1時間、T=2時間、T=4時間、T=8時間、T=6時間、T=24時間およT=4時間で、血漿サンプル(0.1ml)を、クエン酸塩を含有するライトブルーのふたのバキュテナーチューブ(BD363080番)中に採取する。各時点で集められた分離された血漿を、液体窒素中で急速凍結し、分析されるまで−80℃で保存する。動物は、7日間回復させ、再度秤量し、次いで、経口胃管栄養法による高、中および低投与量のグリシンで処理する。以下の時点T=0分、T=30分、T=1時間、T=2時間、T=4時間、T=6時間、T=8時間、T=16時間、T=24時間、T=48時間、T=72時間およびT=96時間で、血漿サンプル、0.1mlを、IVボーラス投与について先に記載されるように、ライトブルーのふたのバキュテナー中に採取する。各時点で集められた分離された血漿を、液体窒素中で急速凍結し、分析されるまで−80℃で保存する。データを、薬物動態分析のためのWinNonlin(登録商標)バージョン4.1ソフトウェアを使用して分析する。これらの実験から得られた薬物動態モデルを使用して、その後の実験において使用される複数の投与計画を設計する。さらに、このモデルは、さらなる開発のための類似体の選択において使用するためのベースモデルとして役立つ。
【実施例10】
【0082】
グリシンの複数回用量薬物動態学
本研究者らの予備的研究では、グリシンを、試験動物の正常食の一部として経口的に投与した。この投与方法は、脂肪組織におけるアポトーシスの誘導に関する、グリシンの作用の薬力学モデルを構築するのに必要な投薬の正確度および再現性を提供しなかった。本発明者らは、この研究に取り掛かるために、本研究者らが、観察される薬理学的効果(すなわち、脂肪組織におけるアポトーシスの誘導)を正確に熟考するのを可能にする投与計画を開発しなくてはならない。高用量グリシンの単回用量薬物動態プロフィールおよび経口バイオアベイラビリティを規定するために本発明者らの研究において得られた薬物動態パラメータを使用して、高用量グリシンの複数回投与計画設計する。開発される計画を使用して、食餌中、20重量%、10重量%および5重量%グリシンからなる食餌を給餌された動物において観察されるものの±10%に等しいレベルで試験動物の血液中のレベルでグリシンを維持する。各投与群中の動物の数およびサンプルのタイミングについての詳細な記載は、薬物動態パラメータおよび先の単回用量研究から確認されたパラメータの変動性に基づいて決定する。しかし、本発明者らは、研究デザインは、計画を検証するのに投与群あたり10匹(5匹の雄、5匹の雌)未満の動物しか必要でないと見込んでいる。本発明者らは、投与計画の設計においてWinNonlin(登録商標)のシミュレーション機能を使用して、計画を検証するために使用されるデータを得るためにサンプリングする時点を開発する。
【0083】
WinNonlin(登録商標)ソフトウェアは、投与スケジュールを検証するための複数回投与スケジュールおよびサンプリングスキームの設計においてシミュレーションを利用するための優れたツールセットを提供する。Windows用のGraphPad StatMateバージョン2.00を使用して、各投与群中の動物の数が、統計的妥当性を実証するための適切な検出力を達成するために必要とされるものであることを確認する。統計分析は、Windows用GraphPad InStatバージョン3.06 32ビットを使用して実施する。投与計画は、血液中のグリシンのPKパラメータおよび循環レベルが、統計的に有意な方法で、実験的に得られたものと異ならないと示される場合に妥当であると考えられる。
【0084】
研究動物は、研究の最後に安楽死させ、剖検を実施する。脂肪組織におけるser−136でのBADのリン酸化状態を、抗BAD ser−136抗体を用いる免疫沈降およびウエスタンブロット解析または親和性捕獲LC/MS分析のいずれかによって決定する。Papac & Shahrokh, Mass spectrometry innovations in drug discovery and development. Pharm Res,2001年.18(2):131〜45頁;Creaserら,Immunoaffinity chromatography combined on−line with high−performance liquid chromatography−mass spectrometry for the determination of corticosteroids. J Chromatogr A,1998年.794(1−2):37〜43頁;Galloら,Development of a liquid chromatography/electrospray tandem mass spectrometry method for confirmation of chloramphenicol residues in milk after alfa−1−acid glycoprotein affinity chromatography. Rapid Commun Mass Spectrom,2005年.19(4):574〜9頁参照のこと。脂肪組織はまた、活性なアポトーシスのマーカーとしてのTUNELタンパク質の免疫組織化学的染色に付す。Pavlovsky & Vagunda, [Apoptosis−−selected methods of detection of apoptosis and associated regulatory factors on tissue sections of tumors]. Cesk Patol,2003年.39(1):6〜10頁;Heatwole, V.M., TUNEL assay for apoptotic cells. Methods Mol Biol,1999年.115:141〜8頁;Stadelmann & Lassmann, Detection of apoptosis in tissue sections. Cell Tissue Res,2000年.301(1):19〜31頁参照のこと。
【0085】
主要な臓器も摘出し、毒性の任意の顕在的な兆候について観察し、毒性の任意の顕在的な兆候が見られる場合には、さらなる分析のために保存する。
【実施例11】
【0086】
グリシンの、脂肪組織におけるアポトーシスの誘導による体重減少を誘発するその能力に関する、連結PK/PD(薬物動態/薬力学モデル)。
薬動力学とは、作用部位での薬物濃度と、その相互作用に影響を及ぼす生化学的作用および生理学的効果をはじめとする薬理反応の間の関係を指す。Shargel & Yu, Applied Biopharmaceutics and Pharmacokinetics.第4版 1999年, New York: McGraw−Hill. 573〜605頁参照のこと。
【0087】
薬力学モデルの形態は、薬物がその薬理作用を行使する機序に応じて変わる。したがって、このモデルにおいて得られる情報は、グリシンが脂肪組織においてその生物学的効果を誘発する方法に関して有用な情報を提供する。本発明者らの予備的研究では、本発明者らは、高グリシン食は、ser−136で脱リン酸化された状態にあるBADをもたらすと示した。本発明者らは、ser−136でのBADのリン酸化状態を、本発明者らの薬力学モデリングのアポトーシスのマーカーとして使用することを提案する。本発明者らは、グリシン作用の、BADのリン酸化状態に対するその効果に関するPK/PD連結モデルを構築する。PK/PD連結モデルは、固定された薬物動態パラメータを仮定して、PDモデルによって使用される作用部位での薬物の局所濃度をモデリングする。Jusko, Corticosteroid pharmacodynamics: models for a broad array of receptor−mediated pharmacologic effects. J Clin Pharmacol,1990年.30(4):303〜10頁;Daynekaら, Comparison of four basic models of indirect pharmacodynamic responses. J Pharmacokinet Biopharm,1993年.21(4):457〜78頁。本発明者らは、単回用量および複数回用量研究から導かれた薬物動態モデルを使用して、PK/PD連結モデルの固定PKパラメータを供給する。白色脂肪細胞(WAT)の生体外器官培養を使用して、PK/PD連結モデルのPD部分をモデリングする。WATの生体外培養を確立するための方法および手順は、十分に記載されている。Moustaid−Moussa & Fried, Culture of Adipose Tissue and Isolated Adipocytes, in Adipose Tissue Protocols, G. Ailhaud, Editor.2001年, Humana Press, Inc.:Totowa, NJ. 197〜213頁;Livingstonら, Insulin−dependent regulation of the insulin−sensitivity of adipocytes. Nature,1978年.273(5661):394〜6l頁;Bernstein, Improved insulin responsiveness in rat adipose tissue pieces cultured with charcoal−treated albumin and oxygen. J Lipid Res,1982年.23(2):360〜3頁;Bernstein, Insulin insensitivity and altered glucose utilization in cultured rat adipose tissue. J Lipid Res,1979年.20(7):848〜56頁;Maloffら,Direct effects of growth hormone on insulin action in rat adipose tissue maintained in vitro. Endocrinology,1980年.107(2):538〜44頁参照のこと。器官培養は、WATの複雑な生化学をより十分に反映し、in vivo状態をより反映する濃度対効果のPDモデルをもたらすので、これらの実験では、WAT器官培養を、単離された脂肪細胞に対立するものとしてとして使用する。Papac & Shahrokh, Mass spectrometry innovations in drug discovery and development. Pharm Res,2001年.18(2):131〜45頁.
【0088】
手短には、200〜225gの体重の3匹の雄および3匹の雌のスプラーグ−ドーリーラットの各々から、後腹膜、鼠径部および生殖腺脂肪パッドの外科的切除によって安楽死の10分以内にWATを得る。各動物から約12〜15gmのWATが得られる。同じ性別の動物に由来するWATを合わせ、粗く分割して、滅菌、室温M199(Gibco−BRL;グルタミンおよび25mM HEPESを補給した重炭酸緩衝された液体)および50μg/mLゲンタマイシンを含有するコニカルプラスチック遠心分離管に入れる(チューブあたり3g)。材料のすべてのさらなる処理は、Fried and Moustaid−Moussa (Culture of Adipose Tissue and Isolated Adipocytes, in Adipose Tissue Protocols, G. Ailhaud, Editor.2001年, Humana Press, Inc.: Totowa, NJ.197〜213頁)によって記載されるように層流フード中で無菌で実施する。WATを、よく切れるはさみを使用して5〜10mgの断片にさらに分割する。組織を、細かく分割すれば、RTで最大1時間とどめてもよい(その他のチューブの組織が分割されている間)。組織は、現段階ではその代謝速度の増大を避けるために、37℃に置かない。次いで、各チューブの内容物を、約500mLのビンの上部に置かれる、ナイロンメッシュ(漏斗に取り付けられた)を通して注ぐことによってWAT器官培養物を洗浄して脂肪小滴および血液を除く。これに、漏斗上の組織の上からの少なくとも300mLの37℃の滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の洗浄を続ける。洗浄された組織を、無菌の風袋を測られたペトリ皿中に入れ、ピンセットで大きな血餅はいずれも除去する。WAT器官培養物を含有する風袋を測られたペトリ皿を、無菌性を維持するために密閉し次いで、秤量する。次いで、ピンセットまたは穴の開いたスプーンを使用して、WATを6ウェルの組織培養プレート中に等分に入れる(約0.5g湿重量/ウェル)。次いで、新鮮なM199(Gibco−BRL;グルタミンおよび25mM HEPESを補給した重炭酸緩衝された液体)および50μg/mLゲンタマイシンを直ちに加え、5% CO2-95%空気の雰囲気下、加湿された、37℃のインキュベーター中で48時間培養物を維持して、汚染がないことおよび無菌性を確実にする。
【0089】
上記のように調製された、雄および雌のスプラーグ−ドーリーラットに由来するWAT器官培養物を含有する3連のウェルを、新鮮なM199(Gibco−BRL;グルタミンおよび25mM HEPESを補給した重炭酸緩衝された液体)および50μg/mLゲンタマイシンで3回洗浄する。以下の濃度のグリシンを補給した新鮮なM199培地の添加によって実験を開始する。対照ウェルには、グリシンが添加されていない新鮮培地を与え、実験ウェルには、複数回用量PK研究の最高用量群の血液中のグリシンの循環レベルの2倍に匹敵する最高濃度で、5つの等間隔の濃度でグリシンを補給したM199培地を与える。培地は、3日間の間、毎日補充する。次いで、培養物を回収し、氷冷PBSを用いて5回洗浄する。先に記載されるLC/MS法によるグリシンの定量のためにサンプルを調製する。
【実施例12】
【0090】
グリシンの生物活性類似体のスクリーニングのための迅速な生化学アッセイ
高レベル(20重量%)の食餌性グリシンは、大幅な体重減少をもたらす。この体重減少は、グリシンの、WATにおいてアポトーシスを誘発する能力の結果であり得る。これは、処理された動物のWATから得たタンパク質抽出物が、セリン位置136でBADをリン酸化する能力を有さなかったことを示す予備的データに基づく(図11、12および13)。Mastersら,14−3−3 inhibits Bad−induced cell death through interaction with serine−136. Mol Pharmacol,2001年.60(6):1325〜31頁;Thompson & Thompson, Putting the rap on akt. J Clin Oncol,2004年.22(20):4217〜26頁参照のこと。
【0091】
体重減少が起こる機序は、解明されないままである。本発明者らは、グリシンは、BADのリン酸化状態の調節によってWATに対して直接的な生化学的効果を有し、アポトーシスの誘導につながると考えている。これは、本発明者らの予備的実験における、ser−136でのBADのこのような脱リン酸化がないことがBATで観察された、またはBAT組織の大幅な減少は起こらなかったという観察結果に基づいている。さらに、本発明者らは、脂肪細胞に分化される3T3−L1細胞の培地中の高濃度のグリシンが、非処理細胞と比較すると、TUNELの染色の増大を示したことを観察した。Heatwole, TUNEL assay for apoptotic cells. Methods Mol Biol,1999年.115:141〜8頁参照のこと。この実施例の目的は、グリシンの生物活性類似体をスクリーニングするために使用できる迅速な生物検定法を開発することである。
【0092】
本発明者らは、雌のスプラーグ−ドーリーラットは、食餌中の高グリシンの作用に対して特に感受性が高く、迅速な大幅な体重減少を受けることを見い出した。したがって、雌のスプラーグ−ドーリーラットにおける大幅な体重減少を使用して、グリシンの類似体の活性をスクリーニングすることが可能であろう。しかし、このアッセイは、時間がかかり、大規模な類似体の合成を必要とし、多数の化合物のスクリーニングにとって効率的ではないであろう。本発明者らは、分化した3T3−L1細胞株およびser−136でのBADのリン酸化状態の測定を使用する迅速な生物学的in vitro試験を開発することを提案する。Gaillard et al., Growth of preadipocyte cell lines and cell strains from rodents in serum−free hormone−supplemented medium. In Vitro,1984年.20(2):79〜88頁。
【0093】
このようなアッセイが確信を持って使用されるために、本発明者らは、分化した3T3−L1細胞に由来する脂肪細胞は、in vitroで脂肪細胞と同様に高グリシンレベルに応答することを示す。以下の実験は、この目的のために、分化した3T3−L1細胞におけるSer 136でのBADの脱リン酸化を使用することの有用性および妥当性を実証することを目的とする。
【0094】
WATに由来する脂肪細胞は、WATの器官培養について先に記載される精製方法の改変によって得る。手短には、WATを先に記載されるように単離し、単離された脂肪細胞および間質−血管画分を得るために以下のさらなるステップに付す。単離された脂肪細胞および間質画分は、刻まれたWATを、M199培地中、1mg/mlの濃度のI型コラゲナーゼを用いる37℃で60分間の消化に付すことによって得る。次いで、コラゲナーゼ処理された組織を、滅菌ナイロンフィルター(350μmメッシュ)を通して濾過し、滅菌遠心分離管に入れる。この懸濁液を、500×gで1分間遠心分離すると、その結果、脂肪細胞含有画分から間質−血管画分(ペレット)が分離される。それぞれの細胞画分を、ハンクス緩衝塩溶液でさらに3回洗浄する。次いで、それぞれの脂肪細胞および間質−血管画分をカウントし、新鮮なM199培地で希釈し、6ウェル培養プレートのウェルに入れる。細胞を、5% CO2-95%空気の雰囲気下、37℃のインキュベーター中で一晩インキュベートする。生存力および汚染がないことを確実にするために細胞を観察し、培地中の、以下の漸増濃度のグリシンを補給した新鮮なM199培地の添加によって実験を開始する。対照ウェルには、グリシンが添加されていない新鮮培地を与え、実験ウェルには、PD実験に使用したグリシンの同一濃度でグリシンを補給したM199培地を与える。培地は、3日間の間、毎日補充する。次いで、培養物を回収し、氷冷PBSを用いて5回洗浄する。細胞を、低張バッファーに曝露することによって溶解し、遠心分離によって清澄化し、溶解物のアリコートを液体窒素中で即時凍結し、使用まで−80℃で保存する。サンプルの細胞内グリシン含量を、LC/MS法によって調べる。Ser−136でのBADのリン酸化状態を、BAD−Ser 136に対するELISAを使用して、または親和性捕獲LC/MS分析によってのいずれかで調べる。各サンプル条件の3連のウェルを置き、活性アポトーシスを実証するためにTUNELの免疫組織化学的染色を実施する。本発明者らは、以下の実験は、グリシンが、WATに由来する脂肪細胞に直接的に作用するという決定的な証拠を提供すると考えている。
【実施例13】
【0095】
グリシンは、BADの脱リン酸化およびアポトーシスを誘導するよう、分化した3T3−L1細胞に由来する脂肪細胞に対して作用する。
標準法によって、3T3−L1細胞を、培養で増殖させ、脂肪細胞に分化させる。Negrel & Dani, Cultures of Adipose Precursor Cells and Cells of Clonal Lines from Animal White Adipose Tissue, in Adipose Tissue Protocols, G. Ailhaud, Editor.2001年,Humana Press, Inc.: Totowa, NJ.225〜227頁参照のこと。実験の開始に先立って、3T3−L1脂肪細胞をトリプシン処理し、dDMEM[3.7g/L重炭酸Na、33μMビオチン、17μM パントテン酸塩、抗生物質(62mg/L ペニシリンおよび50mg/L ストレプトマイシンまたは10mg/L テトラサイクリン)、17nM インスリンおよび2nM T3および10% FBSを補給した、1g/L グルコースおよび110mg/L ピルビン酸Naを含有する]で5回洗浄する。細胞を、8.5×10細胞/cmの密度で6ウェル培養プレートのウェルに入れる。生存力、および汚染がないことを確実にするために、細胞を観察し、培地中に、以下の漸増濃度のグリシンを補給した新鮮なdDMEM培地の添加によって実験を開始する。対照ウェルには、さらなるグリシンが添加されていない新鮮培地を与え、実験ウェルには、PD実験に使用したグリシンの同一濃度でグリシンを補給したdDMEM培地を与える。培地は、3日間の間、毎日補充する。次いで、培養物を回収し、氷冷PBSを用いて5回洗浄する。細胞を、低張バッファーに曝露することによって溶解し、遠心分離によって清澄化し、溶解物のアリコートを液体窒素中で即時凍結し、使用まで−80℃で保存する。サンプルの細胞内グリシン含量を、LC/MS法によって調べる。Ser−136でのBADのリン酸化状態を、BAD−Ser 136に対するELISAを使用して、または親和性捕獲LC/MS分析によってのいずれかで調べる。予備的実験は、血液中の正常な循環レベルの2倍に匹敵する培地中の濃度のグリシンは、陽性TUNEL染色によって明らかなように、3T3−L1脂肪細胞にアポトーシスを引き起こさせることを示す。各サンプル条件の3連のウェルを置き、活性アポトーシスを実証するためにTUNELの免疫組織化学的染色を実施する。
【実施例14】
【0096】
グリシン処理が、WATおよび分化した3T3−L1細胞に由来する脂肪細胞において同等な生物学的応答を誘発することを確認するための2D−ゲルおよびICAT(同位体標識親和性タグ)分析。
2D−ゲルおよびICAT分析を使用して、グリシン処理で誘発される異なって発現されるタンパク質のパターンが、グリシン処理されたWATタンパク質抽出物において見られるパターンと同様であることを示すことによって、3T3−L1細胞の分化に由来する脂肪細胞の有用性をさらに検証する。Pattonら, Two−dimensional gel electrophoresis; better than a poke in the ICAT? Curr Opin Biotechnol,2002年. 13(4):321〜8頁参照のこと。
【0097】
手短には、WATおよび3T3−L1由来脂肪細胞を、先に記載されるように得る。対照および実験ウェルにおけるグリシンの濃度を、上記のように処理する。分析のためのサンプルを、先に記載されるように調製し、3T3−L1脂肪細胞およびWAT由来脂肪細胞が、グリシン処理に対して生物学的に同等に応答することを実証するために、等量のサンプルを2D−ゲルによる分析およびICAT分析に付す。ICATによる分析は、グリシンがWATに由来する脂肪細胞においてアポトーシスを誘導する作用機序を解明するための出発点を提供し得る。ICATは、グリシンおよび処理された細胞間で異なるタンパク質を数量化できる方法で同定できる強力な方法である。ICAT法は、図17において図式的に提示されている。
【実施例15】
【0098】
グリシンの構造的類似体のライブラリーの合成および3T3−脂肪細胞においてアポトーシスを誘導する能力についての化合物のプレスクリーニング。
グリシンは、容易に入手可能な、非毒性のアミノ酸である。グリシン、グリシン類似体またはそれらの組合せは、WATにおけるアポトーシスの誘導によって体重減少を誘発するはずである。以下の一連のグリシン類似体を合成できる:
【0099】
【化7】

【0100】
式Iのシリーズは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0101】
【化8】

【0102】
ジメチルアミンなどの種々のジアルキルアミンをクロロメタンスルホン酸で処理することによって、上記のスキーム中で提案されるアミノスルホン酸類似体を合成する。式IIのシリーズは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0103】
【化9】

【0104】
上記で示される類似体は、還元剤として水素化シアノホウ素ナトリウムを使用して還元条件下で、ジアルキルアミンまたは第一級アミンを、オキソ−酢酸メチルエステルで処理することによって合成する。生成物を、クロマトグラフィーによって精製する。式IIIは、例えば、以下のスキームによって合成できる:
【0105】
【化10】

【0106】
N(アルキル)またはN,N−ジアルキルグリシンの遊離カルボキシ末端を、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)およびジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で、アミンを用いてアミド化する。すべての場合において、生成物は、クロマトグラフィーによって精製する。同一性、純度および量は、必要に応じて、質量分析、NMR、分析的液体クロマトグラフィーおよび任意のその他の分析的方法によって確認する。
【0107】
合成された類似体は、Ser−136でのBADの脱リン酸化を促進するその能力についての第1のスクリーニングに付す。類似体を、グリシンを補給していない対照ならびに同じ濃度および既知有効濃度の培地中のグリシンの陽性対照と同一濃度でスクリーニングする。すべてのアッセイは、3連で実施する。すべての可能性ある陽性類似体を、反復スクリーニングに付す。その化学特性を確認するための、in vitro試験において同定された陽性化合物の第2のスクリーニングによって、in vivo試験のための良好な薬物候補となる。
【0108】
一実施例では、成体(180日齢)雄のフィッシャーラットを、各群中3匹のラットの処理群中で、その餌中に0.1%、0.25%、0.5%、2%、3.5%または5%アミノメタンスルホン酸(「AMS」)を含む食餌または非補給食に無作為に割り当てた。水および飼料消費および動物の体重の測定値は、26日の研究を通じて得た。非補給食を消費するラットは、26日の研究の過程にわたって6.6%の体重増加を示したが、3.5% AMS食を給餌されたラットは、統計的に軽く、0.6%の平均体重増加を示し、5% AMS食を給餌されたラットは、そのベースライン体重から2.8%の減少を有していた。群間で、実験の過程を通じて消費された食物または水の量においては有意な相違は観察されなかった。各ラットの腹部脂肪含量の測定値は、剖検で得た。体脂肪の低下%は、AMSが補給された食餌を用いて観察され、この低下は、食餌中のAMSの量と直接的に関連している。3.5%または5% AMS食を給餌されたラットは、非補給食を給餌されたものよりも統計的に有意に(p≦0.05)少ない腹部脂肪を有していた。対照群の平均体脂肪%は3.62%であったのに対し、3.5%および5% AMS群の平均体脂肪%は、それぞれ1.59%および1.12%であった。
【実施例16】
【0109】
幼若動物
図18および19はそれぞれ、幼若の雌のスプラーグ−ドーリーラットの食餌へのグリシンの添加が、体重増加および成長における用量依存性低減をもたらしたことを示す。グリシンを補給した食餌で4週間処理された動物を、グリシン補給を含有しない食餌に切り替えた(図18および19、10%から0%)。このことは、急速な成長および体重増加をもたらし、その結果、1ヶ月以内に、それらは、群1中の対照動物と同様の大きさおよび体重であった。図20および21はそれぞれ、幼若の雄のスプラーグ−ドーリーラットの食餌へのグリシンの添加が、体重増加および成長における用量依存性低減をもたらしたことを示す。グリシンを補給した食餌で4週間処理された動物を、グリシン補給を含有しない食餌に切り替えた(図20および21、10%から0%)。このことは、急速な成長および体重増加をもたらし、その結果、1ヶ月以内に、それらは、群1中の対照動物と同様の大きさおよび体重であった。
【0110】
以下の先見的実施例は、本発明を例示するために提供する。しかし、本発明の趣旨および範囲は、特定の条件または本実施例において詳細に記載されるものに制限されるのではなく、特許請求の範囲によってのみ制限されるべきであるということは理解されるべできある。
【実施例17】
【0111】
動物における脂肪腫または脂肪肉腫の治療
公知の技術(例えば、医学の専門家による診断)を使用して、脂肪腫または脂肪肉腫の治療を必要とする動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマなど)を同定できる。グリシンおよび/またはグリシン類似体の治療上有効な量は、非経口的に、例えば、経皮的に、皮下に、血管内に(例えば、静脈内に)、筋肉内に、腹膜内に、またはくも膜下腔内注射、注入技術によって、または経口的に投与してよい。
【0112】
治療計画の間、周期的に、動物を、脂肪腫または脂肪肉腫の兆候および症状についてモニタリングする。治療期間が終わった後、やはり公知の技術を使用して、動物は、減少した脂肪腫または脂肪肉腫の兆候および症状を有すると、かつ/または、脂肪腫もしくは脂肪肉腫のための治療をもはや必要としない、または低減した治療を必要とすると見られる。脂肪腫または脂肪肉腫の大きさは、約5、10、25、50、75もしくは100%または約5%と100%の間のいずれかの範囲、低減される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類において脂肪腫を治療する方法であって、脂肪腫にグリシンを投与するステップを含む方法。
【請求項2】
グリシンが、グリシン類似体、または、グリシンおよびグリシン類似体の組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳類が、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタまたはウマである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
グリシンが、脂肪腫への注射によって脂肪腫に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
グリシンが、約0.1mg/ml〜約15mg/mlの濃度で医薬上許容される担体中にある、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
グリシンが、哺乳類に経口的に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
グリシンが、医薬上許容される担体または食品中にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
グリシンが、哺乳類の食餌の約10重量%〜30重量%として投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
哺乳類における脂肪肉腫の治療方法であって、脂肪肉腫にグリシンを投与するステップを含む方法。
【請求項10】
グリシンが、グリシン類似体、または、グリシンおよびグリシン類似体の組合せを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
哺乳類が、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタまたはウマである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
グリシンが、脂肪肉腫への注射によって脂肪肉腫に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
グリシンが、約0.1mg/ml〜約15mg/mlの濃度で医薬上許容される担体中にある、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
グリシンが、哺乳類に経口的に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
グリシンが、医薬上許容される担体または食品中にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
グリシンが、哺乳類の食餌の約10重量%〜30重量%として投与される、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2012−518641(P2012−518641A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551212(P2011−551212)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/024562
【国際公開番号】WO2010/096539
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(506047905)オラジェニックス,インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】