説明

脂肪蓄積抑制剤

【課題】生体内で脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑制することにより肥満を抑え、副作用の恐れがなく、安全で効果的な脂肪蓄積抑制剤およびそれを含む飲食品または飼料を提供する。
【解決手段】高分子ペクチン、あるいは該高分子ペクチンを加水分解で調製した中分子量および低分子量のペクチンを有効成分として含有させた脂肪蓄積抑制剤とするこれはメタボリックシンドロームを改善するとともに肥満を解消する、該ペクチンを飲食品又は飼料に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペクチンを有効成分とする脂肪蓄積抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
〔肥満の問題点〕
生活習慣の欧米化、および運動不足などにともない、高血圧、高脂血症、糖尿病等の罹患者数の増加が問題となっている。こられに共通する因子として内臓脂肪の増加を特徴としたメタボリックシンドロームという概念が提唱された。日本では現在メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が強く疑われている者と予備軍と考えられている者を併せた割合は、20歳以上の男性で23.0%、女性で7.8%という報告がある。
【0003】
メタボリックシンドロームを改善するとともに肥満を解消することが、動脈硬化症、さらには虚血性心疾患などの病態を抑える一つの要因となる。一般的に肥満の改善には、食餌療法(摂取エネルギーの制限)、運動療法あるいは重度の肥満症では薬物治療が行われている。長年にわたり上記改善法が提唱されているが、継続性の問題等により、肥満は現在でもますます増加の一途をたどっているのが現状である。
そのため、糖尿病、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病を改善する効果を有し、さらに肥満を改善する効果を併せ持つような素材が望まれている。
【0004】
これまで種々の物質を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤および脂質代謝改善剤などが開発されている。
たとえば、アスタキサンチンを有効成分とする脂肪蓄積抑制剤(特許文献1:アスタキサンチン・ヤマハ発動機)、ナマナス類の花などに含まれるtellimagrandinIを主成分とする脂肪蓄積抑制剤(特許文献2:ハマナスtellimagrandinI・はるにれバイオ研究所、東農大)、ゴボウの葉の抽出物を有効成分とする脂肪蓄積抑制剤(特許文献3:ゴボウ抽出物・日清ファルマ)などが提案されている。
【0005】
しかし、これら成分には、苦味やえぐ味などの特有の味、臭いがあり、継続して摂取する点で問題があったり、あるいは微量成分のため抽出に非常に手間がかかるなどの問題があった。
【0006】
〔ペクチンの生理活性〕
一方、ペクチンの生理活性として様々な研究や特許出願されている。例えば、ペクチンを加水分解することによって得られる低粘度の血中コレステロール上昇抑制剤(特許文献4:ペクチンおよびその利用・ヤクルト)や、シークワーサーの果皮などから抽出したペクチンの高いコレステロール低減作用(特許文献5:血中コレステロール上昇抑制剤・日本たばこ)が示されている。しかし、ペクチンに脂肪蓄積抑制効果があることは、今までのところ見いだされてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−153845号公報
【特許文献2】特開2009−102288号公報
【特許文献3】特開2008−137976号公報
【特許文献4】特開2004−197001号公報
【特許文献5】特開平6−256198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、各種生活習慣病に効果を有することが知られており、かつ、生体内で脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑制することにより肥満を抑え、副作用の恐れがなく、安全で効果的な脂肪蓄積抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔ペクチンの説明・起源および今まで見出されている生理活性効果〕
本発明者らは脂肪細胞への脂肪の蓄積を抑制す物質について鋭意検討を行った。すなわち、マウスを用い各種粘度のペクチンを摂取させたときの脂肪細胞への効果を調べた。その結果、各種粘度をもったペクチンは、いずれの粘度のペクチンも脂肪の蓄積を抑制する効果を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の脂肪蓄積抑制剤は、ペクチンを有効成分として含むことを特徴とする。
【0011】
ペクチンは、リンゴやレモンの細胞壁に含まれる多糖類で、ジャムの製造などに数世紀にわたって使用されている。ペクチンは高等植物全般に広く存在しているが、工業的には、主にリンゴの搾りかすと柑橘類の皮から抽出される。植物の細胞中でペクチンはセルロースと結合してプロトペクチンの形で存在し大量の水分を吸収する能力を持ち植物に柔軟性を与えている。
【0012】
ペクチン分子はα(1→4)D−ガラクツロン酸がグリコシド結合した線状高分子の形で存在する。この規則構造はメチルペントース、L−ラムノースの存在で妨げられ、“ペクチンエルボ”と呼ばれるねじれの原因となる。L−ラムノースは炭素1と2で結合している。主鎖のホモガラクツロン酸の規則性も中性糖(ガラクタン、アラバン、キシラン)の短いラムノース分岐によって中断される。これらの分岐は“ヘアリー”と呼ばれる領域に集まっている。
【0013】
本発明に用いられるペクチンは、市販のいずれのペクチンも使用することができ、その起源を制限するものではない。したがって、一般に知られているリンゴ由来のペクチンやレモンなど柑橘系果実からのペクチンなど、多くの果実由来のペクチンを用いることができる。
【0014】
また、本発明の脂肪蓄積抑制剤として、加水分解で調製した中分子量および低分子量のペクチンも同様に使うことができる。ペクチンそのものは高分子量であるため溶解性が低く、高粘度となる性質を有している。本発明者らは加水分解したペクチンについて種々検討した結果、中分子量および低分子量のペクチンにも脂肪蓄積抑制効果があることを見出した。中分子および低分子ペクチンは、飲料など粘度の発現が制限される飲食品などに好適に用いることができる。
【0015】
中分子量および低分子量のペクチンの調製は、高温加熱による加水分解、あるいはペクチン分解酵素による加水分解など、常法の手段を使うことができる。
【0016】
なお、ペクチンの分子量は、その溶液粘度とよく対応していることが知られているので、本発明での高粘度ペクチンは高分子量ペクチンに、低粘度ペクチンは低分子量に対応している。
【0017】
我が国における平均食物摂取量は1日当り14g程度で、目標量である1日当たり20gに6g程度足らない。これを補う上でも、本件発明の脂肪蓄積抑制剤をペクチン換算で1日当たり6g以上を摂取することが望ましく、脂肪蓄積抑制効果をより効果的に発現させるためには、1日当たり10〜20g(1食当り、約4〜7g程度)摂取することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の脂肪蓄積抑制剤は、飲食品または飼料をヒトまたはヒト以外の動物が摂取したときに、脂肪が体内に蓄積することを抑制することができ、それにより内臓脂肪型肥満を予防あるいは改善し、ひいてはメタボリックシンドロームを予防することができる。本発明の脂肪蓄積抑制剤を含む飲食品は、ヒトを含む動物の体に安全で、容易に摂取することができ、飲食品や飼料の価値を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各種ペクチンを投与した場合の後腹壁脂肪蓄積量を示したグラフ
【図2】各種ペクチンを投与した場合の副睾丸脂肪蓄積量を示したグラフ
【図3】各種ペクチンを投与した場合の腸間膜脂肪蓄積量を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
ペクチンの調製
本発明にはリンゴ由来のペクチン(SSND:カーギル社製)を用いた。また、各種分子量のペクチンの調製にはペクチン分解酵素(Pectinex Ultra SP-L: ノボザイムズ ジャパン)を用いた。
(1)高粘度ペクチン(高分子量ペクチン)はペクチンSSNDをそのまま使用した。
(2)中粘度ペクチン(中分子量ペクチン)はペクチンSSNDを酵素分解することで調製した。すなわち、ペクチンSSNDの5%溶液を35℃に保温して、そこにペクチン分解酵素を0.007%加え、90分間反応させた。反応終了後、90℃まで昇温し酵素を失活させた。その後、凍結乾燥により粉末化し中粘度ペクチンとした。
(3)低粘度ペクチンは、中粘度ペクチンと同様の方法で調製した。すなわち、ペクチンSSNDの5%溶液を35℃に保温して、そこにペクチン分解酵素を0.03%加え、15時間反応させた。反応終了後、90℃まで昇温し酵素を失活させた。その後、噴霧乾燥により粉末化し低粘度ペクチンとした。
【0022】
調製したペクチンの粘度および分子量を表1に示す。なお、粘度は回転粘度計(HAAKE VT550)、せん断速度:100(1/s)で測定した。分子量は標準物質にプルランを用い、カラム(Shodex OHpak SB-804HQ)および示差屈折計を検出器として備えたHPLCで測定した。
【0023】
【表1】

【実施例2】
【0024】
動物実験
5週齢のSTR/ortマウス(日本クレア株式会社より入手)を、1群8匹の4群に分けた。各群のマウスを表2に示す4種類の飼料と水を57日間自由摂取させ体重と飼料摂取量を測定した。なお、飼育環境は、室温22±1℃、湿度50±5%、12時間明暗サイクル(12:00〜24:00)とした。
【0025】
(1)飼料組成
飼料組成を表2に示す。対照飼料(C)は、AIN−93G組成を基本とし、脂肪エネルギー比が50%となるようラードを添加したものを用いた。低粘度ペクチン(L)、中粘度ペクチン(M)、高粘度ペクチン(H)を添加した飼料は、それぞれ、セルロースと置換して総食物繊維量が5.0%となるようにした。またコレステロールを飼料全体に対して0.1%となるように添加した。
【0026】
【表2】

【0027】
(2)測定項目および統計手法
マウスは実験最終日(57日目)に飼料摂取量および体重を計測後、エーテル麻酔下で開腹して心臓より血液を採取した。肝臓、盲腸、後腹壁脂肪、腸間膜脂肪、副睾丸周辺脂肪を摘出し、重量を測定した。その後、肝臓は凍結乾燥、粉砕し、盲腸は−20℃にて冷凍し、後腹壁脂肪、腸間膜脂肪、副睾丸周辺脂肪は10%ホルマリン溶液で固定し、それぞれ分析用の試料とした。
なお、実施例におけるすべての測定結果は平均±標準偏差で示した。平均値の差の検定はTukey-Kramerの多重比較法を用いた。各測定値間の関係はPearsonの相関係数検定によって解析した。統計解析はStat View 5.0(SAS Institute社)を用い、有意水準は5%とした。
【0028】
(3)結果
マウスの成長結果を表3に示す。各群のマウスの成長は良好で、対照群と比較して終体重、体重増加量、飼料摂取量、飼料効率、はいずれも有意差がなかった。
【0029】
【表3】

【0030】
マウスの臓器重量
各種食物繊維を与えたマウスの臓器重量を表4に示す。肝臓重量、後腹壁脂肪重量、副睾丸周辺脂肪重量、腸間膜脂肪重量には有意な差は見られなかった。盲腸重量はC群と比べM群が有意に高くなった(P<0.05)。
【0031】
【表4】

【0032】
脂肪細胞のサイズの計測
摘出した各臓器を10%ホルマリン溶液に浸漬して固定した。次いで、脱水・脱脂・パラフィン浸透・パラフィン包埋・薄切・伸展・乾燥して無染標本を調製した。その後、無染標本をヘマトキシリン・エオジン染色し封入した。各脂肪細胞を光学顕微鏡で観察し100個の細胞の直径を測定して平均値を求めた。
脂肪細胞の大きさを図X〜図Yに示す。後腹壁脂肪細胞と腸間膜脂肪細胞のサイズは、対照群(C)に比較して、L群、M群、H群の全てで有意に小さくなった(P<0.05)。副睾丸周辺脂肪のサイズはC群と比較してH群で有意に小さくなった(P<0.05)。脂肪細胞のサイズと重量に相関はなかった。
【0033】
【表5】

【0034】
結論
以上の結果から、低分子ペクチン摂取群、中分子ペクチン摂取群、および高分子ペクチン摂取群のいずれのペクチン摂取群において、後腹壁脂肪サイズおよび腸間膜脂肪サイズにおいて対照群のセルロースよりも有意に脂肪の肥大化が抑制された。脂肪組織が過剰に蓄積した状態になると肥満となり、これが糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化性疾患など多くの生活習慣病の病態基盤となる。つまり、この脂肪組織の肥大化の抑制は、これらの疾病予防の可能性が期待できるとともに、現在、社会的に問題視されているメタボリックシンドロームの予防が期待できる。
【0035】
実施例 3
脂肪蓄積抑制効果を持つ飲食品の実施例
低分子ペクチンを配合した飲料
(1)配合
【表6】

(2)製造方法
低分子ペクチンとペクチン、コラーゲンパウダーを水に攪拌溶解し、加熱して完全に溶解させたのち、アップルスイートナーとリンゴ果汁を加えて重量調整し、飲料瓶に充填した。その後90℃20分間殺菌し、リンゴ味の飲料を製造した。
この飲料は低分子ペクチン由来の適度な酸味を有し、非常に好ましい味を有していた。また砂糖不使用であり、低分子ペクチンに加えてコラーゲンパウダーを配合しているため、ダイエット飲料として非常に適していた。
【0036】
低分子ペクチンを配合したグミキャンディー
(1)配合
【表7】

(2)製造方法
低分子ペクチン、砂糖および水飴を混合して加熱濃縮したのち、ゼラチン溶液を加え加熱を行い、最後に果汁と香料を加え、糖度を80%に調整したのちスターチモールドに充填し一晩室温に置きグミキャンディーを製造した。
このグミキャンディーは低分子ペクチン由来の適度な酸味を有し、甘酸味のバランスのとれた良好な風味を有していた。また、低分子ペクチンを配合してもゼラチンの組織が抑制されることなく適度な物性を有していた。
【0037】
低分子ペクチンを配合したクッキー
(1)配合
【表8】

(2)製造方法
無塩バターと砂糖を混合し、なめらかになるまで練った後、これに鶏卵を少しずつ加えて均一になるまで混ぜた。この混練物に薄力粉と低分子ペクチン及びベーキングパウダーを混合して篩いにかけたものを添加して混ぜ、1個10g程度になるように鉄板に搾り出した。これを180℃で15分間焼くことでクッキーを製造した。
このクッキーはさくさくとした食感で、適度な酸味を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
低分子ペクチン、中分子ペクチンおよび高分子ペクチンを摂取すると脂肪の肥大化が抑制されることを見出した。脂肪組織が過剰に蓄積した状態になると肥満となり、これが糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化性疾患など多くの生活習慣病の病態基盤となる。つまり、この脂肪組織の肥大化は、ペクチンを摂取することで抑制することができ、これらの疾病予防の可能性が期待できる。また現在、社会的に問題視されているメタボリックシンドロームの予防が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクチンを有効成分として含む脂肪蓄積抑制剤。
【請求項2】
ペクチンの分子量が26,000から430,000の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脂肪蓄積抑制剤を配合した、飲食品または飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42604(P2011−42604A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190739(P2009−190739)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(306007864)ユニテックフーズ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】