説明

脂肪酸による簡便な除草技術

【課題】高い安全性と使用の簡便性を備えた緑地管理除草剤を提供する。
【解決手段】食品添加物であるペラルゴン酸と食品に添加することが許されている合成界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルの一種、もしくは二種以上を水に混合して調製した低濃度液剤を、希釈せずそのまま使用する緑地管理用除草技術。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生活環境周辺における雑草の防除技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中級脂肪酸、とくにペラルゴン酸(ノナノイックアシド)は、安全かつ極めて速効的な除草活性を有する化合物であることはよく知られた事実である。アメリカ合衆国においては、リンゴや梨の摘花剤、ジャガイモや落花生畑の一年生雑草防除、もしくは非農耕地用除草剤(US EPA PC Code 217500)として使用されている。わが国においても、ペラルゴン酸52%乳剤(日本たばこ産業株式会社 商品名グラントリコ)として1996年に農薬登録され、ジャガイモ植付後萌芽前処理、ラッカセイ生育期畦間処理、その他緑地管理用の除草剤として販売された実績がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ペラルゴン酸は、薬剤の接触部位にのみ枯死反応を起こす。従って、付着が不十分な部位から再生を生じやすく高濃度少量散布は難しい。同時に面積あたりの有効成分投下量が10aあたり数kgと一般に使用される合成除草剤に比べて多いため処理費用の上昇を免れることは難しい。これらの課題に対して、合成除草剤を混合する、もしくは再生する雑草の生長を抑制する植物成長調整剤を混合する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−158451
【特許文献2】特開平11−335209
一般に、農薬の効果を安定させるには対象部位に薬剤を均一付着させる必要があり、助剤として界面活性剤が広く用いられている。除草剤に使用される界面活性剤は、植物に影響を与える界面活性剤を混合することも可能であり、細胞に障害を与える陽イオン界面活性剤をペラルゴン酸に混合する技術も開示されている。
【特許文献3】US Patent 5106410
【0004】
ペラルゴン酸は、炭素数9個からなる飽和脂肪酸であり水に対する溶解度は、32ppm(30℃)と小さい。そのため、一般に油に溶解させ界面活性剤を含む高濃度乳剤として用いられている。従って、希釈して散布する場合、発生する微細な霧状の水滴が眼、粘膜を刺激する、また不快臭を発生する問題を有していた。これらの問題を解決し、水への溶解性を向上させたアンモニウム塩もアメリカ合衆国では農薬(US EPA PC Code 031802)として使用されている。
【特許文献4】US Patent 6608003
ペラルゴン酸の塩は容易に水に溶解し、刺激性も減少する。しかし、一方では中和により効果発現の遅延や殺草活性が低下する問題を有している。
【0005】
以上のような背景から、水溶解度が低く、除草活性も高くないペラルゴン酸は高濃度乳剤として処方され使用されてきた。わが国におけるペラルゴン酸52%乳剤は、効果と価格の問題から広く普及に至らず2003年に農薬登録が失効した。
また、効果が劣ることを回避するため、既存の除草剤を混合させる、もしくは細胞に障害を与える陽イオン界面活性剤を用いる解決方法は、食品添加物であるペラルゴン酸の安全性に対する価値を一方では損なうものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、家庭用除草剤としてグリホサート、もしくはグルホシネートの塩を水で希釈し、プラスチック容器に充填したものが販売されている。手を汚すことも無く、誰でも簡単に誤り無く農薬が散布できることから使用量は大きく拡大している。これらの商品は容器、輸送費用が原価の多くを占めており、除草活性に関わる有効成分の価格に占める割合は小さい。即ち、予め希釈して容器に充填する製剤処方は、有効成分投下量の多いペラルゴン酸であっても大きな価格上昇を伴わず、安全性の高い家庭用除草剤の提供を可能にする。
【0007】
また、この希釈液剤を容器から直接散布する方法は、加圧を伴わず比較的大きな孔から大気圧と重力によって薬液を落下させるものである。従って、直接ペラルゴン酸を散布しても霧状の水滴の発生が無く、粘膜等に刺激を与えない利点を備えている。投下量は、ペラルゴン酸の1.5〜5%溶液を希釈せず50〜200ml/m処理することで期待する除草効果を得ることができる。
【0008】
水溶解度の低いペラルゴン酸の有効量を水に溶解させる、もしくは乳化させるためには界面活性剤を必要とする。食品添加物であるペラルゴン酸の低濃度液剤を調製するにあたって使用する界面活性剤は、可能な限り高い安全性が望まれる。わが国で安全性が確認され、食品に添加することが許されている合成界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルであり、これらの界面活性剤の一種、もしくは二種以上をペラルゴン酸と混合することで、より高い安全性を保証する除草剤の提供が可能になる。
【発明の効果】
【0009】
ペラルゴン酸を食品添加物である界面活性剤とともに水に混合し、希釈せずそのまま散布する安全かつ簡便な除草技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(薬剤調製例1)
90%ペラルゴン酸(メルク株式会社商品)に各種の界面活性剤、28%アンモニア水溶液(和光純薬株式会社商品)水酸化カリウム(和光純薬株式会社商品)、および水を加えて100gの液剤を調製した。比較のためペラルゴン酸に有機溶媒、界面活性剤を加えた乳剤20gを調製した。その処方、および1時間後の溶液状態を表1に示す。また、乳剤は50倍に希釈して前記液剤と同様に状態を観察した。
界面活性剤、有機溶媒の商品名、一般名、および販売会社名は下記表10に記載する。
【0011】
【表1】

【0012】
(除草試験例1)
平成21年4月22日、茨城県稲敷郡阿見町の樹林下に発生した草丈10から20cmのヨモギ、スギナを対象として薬剤調製例1による各処方薬剤30ml、処方例7は50倍希釈液30mlを小型噴霧器(Canyon社 HI−SPRAYER)に入れ、50cm四方の区画に散布した。対照薬剤グルホシネートアンモニウム塩0.2%液(バスタ液剤0.2 バイエルクロップサイエンス株式会社商品)も同量を散布した。2日後、15日後における除草効果を表2に示す。除草効果の評価は、対無処理区比生存部残存率で行った。●:完全に枯死。◎:全個体の10%以下。○:全個体の11〜20%。□:全個体の21〜40%。△:全個体の41〜60%。×:全個体の61%以上とした。
【0013】
【表2】

【0014】
(薬剤調製例2)
90%ペラルゴン酸に各種の界面活性剤、炭酸水素アンモニウム(和光純薬株式会社商品)炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社商品)、燐酸三ナトリウム(キシダ化学株式会社商品)、および水を加えて100gの液剤を調製した。その処方、および1時間後の溶液状態を表3に示す。
【0015】
【表3】

【0016】
(除草試験例2)
平成21年4月27日、茨城県稲敷郡阿見町の樹林下に発生した草丈10から20cmのヨモギ、スギナを対象として薬剤調製例2、および処方番号2による各薬剤30mlを小型噴霧器に入れ、50cm四方の区画に散布した。対照薬剤グルホシネートアンモニウム塩0.2%液も同量を散布した。3日後、16日後における除草効果を表4に示す。除草効果の評価は、除草試験例1と同様に行った。
【0017】
【表4】

【0018】
(薬剤調製例3)
90%ペラルゴン酸に下記表3に示す各種の界面活性剤、炭酸ナトリウム、および水を加えて100gの液剤を調製した。その処方、および1時間後の溶液状態を表5に示す。
【0019】
【表5】

【0020】
(除草試験例3)
平成21年4月30日、茨城県稲敷郡阿見町の樹林下に発生した草丈10から20cmのヨモギ、スギナを対象として薬剤調製例3、および処方番号12による各薬剤30mlを小型噴霧器に入れ、50cm四方の区画に散布した。1日後、15日後における除草効果を表6に示す。除草効果の評価は、除草試験例1と同様に行った。
【0021】
【表6】

【0022】
(薬剤調製例4)
90%ペラルゴン酸に各種の界面活性剤、尿素(和光純薬株式会社商品)、炭酸水素アンモニウム、および水を加えて100gの液剤を調製した。その処方、および1時間後の溶液状態を表7に示す。
【0023】
【表7】

【0024】
(除草試験例4)
平成21年5月7日、茨城県稲敷郡阿見町の樹林下に発生した草丈10から20cmのヨモギ、スギナを対象として薬剤調製例4、および処方番号12、処方番号19による各薬剤30mlを小型噴霧器に入れ、50cm四方の区画に散布した。2日後、14日後における除草効果を表8に示す。除草効果の評価は、除草試験例1と同様に行った。
【0025】
【表8】

【0026】
(除草試験例5)
平成21年5月21日、茨城県つくば市下別府に発生した草丈20cm以下のヨモギ、スギナ、エノコログサ、ツユクサを対象としてペラルゴン酸2.5%(90%メルク社製ペラルゴン酸2.8%)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリルエーテル(ツイン♯20)2%、ソルビタンモノラウレート1%、および水で調製した薬剤を市販の散布器具(住友化学園芸株式会社 草退治シャワー用容器)を用いて所定量を散布した。対照薬剤グルホシネートアンモニウム塩0.2%液は100ml/mを散布した。一区1.5m2反復で実施した。1日後、14日後における除草効果の平均を表10に示す。除草効果の評価は、除草試験例1と同様に行った。
【0027】
【表9】

【0028】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペラルゴン酸を1.5%から5%含有し、かつ食品添加物として使用しうる界面活性剤の中から一種もしくは二種以上を水に混合させた希釈せずにそのまま散布する除草用液剤。

【公開番号】特開2011−1337(P2011−1337A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162204(P2009−162204)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】