説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法とその製造装置

【課題】ディーゼル燃料に使用できるほど高品質な脂肪酸アルキルエステルを、極めて低コストで製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法およびシンプルな構成の製造装置の提供。
【解決手段】脂肪酸アルキルエステルを製造するための密閉容器Aを有しており、密閉容器Aは、原料油脂を投入するための油脂投入口101と、触媒溶液を投入するための触媒溶液投入口102と、処理剤を投入するための処理剤投入口103と、液体物を排出するための液体排出口104と、ガス体を排出するためのガス体排出口108と、内容物を加熱するための加熱手段Bと、内容物を攪拌するための攪拌手段Dと、容器内を減圧状態にするための真空引き手段Gとを備えている。1個の密閉容器Aに脂肪酸アルキルエステルの製造方法を実施するのに必要な投入口と排出口を備え、加熱手段と攪拌手段が設けられ、製造装置をシンプルにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
各種動植物油脂及びこれらの使用済み廃油脂をオレオケミカル原料またはディーゼル燃料として利用できる精製脂肪酸アルキルエステルに変換する方法およびその装置に関する。
【0002】
植物油または動物油脂を触媒の存在下でメタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールと反応させると、油脂に含まれるトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドが、低級アルコールとのエステル交換反応で脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとの混合物に変換されること(化1:R′、R′′、R′′′、Rはアルキル基である)、また油脂に含まれる遊離脂肪酸が低級アルコールとのエステル化反応で脂肪酸アルキルエステルと水の混合物に変換されること(化2:R′、R′′、R′′′、Rはアルキル基である)が、従来から知られている。
これらの反応を利用して製造される脂肪酸アルキルエステルは、従来、オレオケミカルの原料および化成品として利用されているが、最近、地球環境の保護と資源の有効利用を図るために、軽油の代替燃料としても利用されるようになった。
【0003】
ディーゼル機関の燃料として使われる脂肪酸アルキルエステルは、「バイオディーゼル燃料」とも呼ばれる。バイオディーゼル燃料を使用するディーゼル機関の排ガスは、軽油の場合に比べて、一酸化炭素、炭化水素、浮遊物質、空気毒性、突然変異率およびライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく二酸化炭素の排出量とともに低減されるので、環境に優しい燃料と認知されている。
【化1】

【化2】

【0004】
油脂のエステル交換反応に用いる触媒として、水酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、カリウムアルコラート、ナトリウムアルコラートなどの強アルカリ触媒、リパーゼなどの加水分解酵素触媒などが用いられる。また、遊離脂肪酸のエステル化反応に用いる触媒として、スルホン酸や硫酸などの強酸触媒が用いられる。
【0005】
アルカリ触媒を用いる油脂と低級アルコールとのエステル交換反応の場合は、通常油脂に対して化学量論的必要量の1.2〜1.6倍のアルコールを添加し、常圧または加圧下25〜100℃の温度で行われる。触媒としてのアルカリ物質は、通常予めアルコールに溶解し、触媒とアルコールとの溶液の形で添加される。エステル交換反応生成物からグリセリン、残留メタノールおよび触媒などを分離除去し、最終的に精製された脂肪酸アルキルエステル混合物を得る。この方法により油脂の約95%〜98%を脂肪酸アルキルエステルに変換することが可能である。
【0006】
本発明は、オレオケミカル原料または軽油の代替燃料となるバイオディーゼル燃料として使用可能な高純度脂肪酸アルキルエステルの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0007】
油脂には、植物油や動物脂がある。油脂の成分は、モノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドの以外に、一部分の遊離脂肪酸が含まれている場合がある。油脂中の遊離脂肪酸含有量が油脂の種類、精製度合い、使用される度合いによって異なる。一般的に、バージンオイルの遊離脂肪酸含有量が低く、使用済み廃油脂の遊離脂肪酸含有量が高い。
【0008】
従来の脂肪酸アルキルエステル製造技術としては、原料油脂の遊離脂肪酸含有量に応じて様々なプロセスが考案されている。これらの製造プロセスは、基本的に原料の前処理、エステル変換、エステルの分離と精製に大きく分けられる。
【0009】
アルカリ触媒を使った脂肪酸アルキルエステル製造方法の例として、特許文献1では、油脂、アルコールおよびアルカリ触媒の混合物をエステル交換反応させて得られた反応生成物からグリセリンを分離除去することによって得た粗エステルに、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、シュウ酸からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の酸を、前記反応生成物のpHが3.0〜7.5になるように添加し、酸が添加された反応生成物を、重液と軽液とに相分離させ、この軽液を取り出すという方法が開示されている。
【0010】
また、脂肪酸アルキルエステルの後精製方法としては、主に水洗浄を中心とする湿式精製法と、水洗浄せずに吸着精製を用いる乾式精製法とがある。
湿式精製法の場合、エステル交換反応の後に反応混合物中の残留アルカリを酸で中和した後、多量の水を用いて洗浄する。洗浄により、脂肪酸アルキルエステル相に含有されているアルカリや脂肪酸アルカリ金属塩などは、水と共にグリセリン相に移行する。この洗浄工程は、回分操作により繰り返し行われる。
乾式精製法は、精製工程において洗浄水を使用しない精製法であり、この乾式精製法を利用した脂肪酸アルキルエステルの製造装置には、例えば特許文献2,3がある。
【0011】
しかるに、従来の脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び製造装置には、以下の(I)〜(IV)に示す問題がある。
(I)エステル変換反応が可逆反応である故に、ワンステップの反応で、十分な転化率が得られなく、最終的に得られた脂肪酸アルキルエステルの純度が低い。
(II)従来の水洗浄による湿度精製法と吸着剤による乾式精製方法ともに、大量な廃棄物が発生するだけではなく、十分な精製効果が得られない場合がある。
(III)酸で粗エステルに含まれるアルカリを中和するときに、酸によるエステルの加水分解反応が起こり、中和したエステルの酸価が上昇するという問題がある。
(IV)製造工程を実施するための装置は、複数のユニットから構成されているため、設備コストが高く、操作が煩雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−15562号公報
【特許文献2】特開平10−245586号公報
【特許文献3】特開平10−231497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる事情に鑑み、ディーゼル燃料として使用できるほどの高品質な脂肪酸アルキルエステルを、極めて低コストで製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法およびシンプルな構成の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、油脂または使用済み廃油脂に含まれる水分を所定レベルまで低減する真空脱水工程と、前記真空脱水工程から得た脱水済み油脂または使用済み廃油脂を触媒の存在下アルコールと反応させるエステル変換反応工程と、エステル変換反応後の反応液を脂肪酸エステル層とグリセリン層とに分離するグリセリン分離工程と、前記グリセリン分離工程から得た粗エステルに、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の混合酸と直鎖モノアルキル型第4級アンモニウム塩、ケイ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、リン酸ジフェニルからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を重量比で1:0〜1:10の割合で混合して得た処理剤の1〜70%水溶液を前記粗エステルのpHが5.0〜8.0になるように添加し、攪拌することによって、粗脂肪酸エステルを処理する化学処理工程と、前記化学処理した粗脂肪酸エステルを静置分離し、脂肪酸エステル相とスラッジ相に分ける固液分離工程と、前記固液分離工程から得た粗エステルに含まれるアルコールを除去するためのアルコール回収工程と、前記アルコールが回収された後の粗脂肪酸エステルを15torr以下の真空度で180〜280℃まで加熱し、エステルを蒸留し、精製エステルを得るエステル蒸留工程とからなることを特徴とする。
第2発明の脂肪酸アルキルエステルの製造装置は、脂肪酸アルキルエステルを製造するための請求項1記載の工程を順に行う密閉容器を有しており、該密閉容器は、原料油脂を投入するための油脂投入口と、触媒溶液を投入するための触媒溶液投入口と、処理剤を投入するための処理剤投入口と、液体物を排出するための液体排出口と、ガス体を排出するためのガス体排出口と、内容物を加熱するための加熱手段と、内容物を攪拌するための攪拌手段と、容器内を減圧状態にするための真空引き手段とを備えていることを特徴とする。
第3発明の脂肪酸アルキルエステルの製造装置は、第2発明において、前記密閉容器の内部に、前記加熱手段を設けていることを特徴とする。
第4発明の脂肪酸アルキルエステルの製造装置は、第2発明において、前記密閉容器の内部に、前記攪拌手段を設けていることを特徴とする。
第5発明の脂肪酸アルキルエステルの製造装置は、第2または第3発明において、前記攪拌手段が、入口配管と出口配管ともに前記密閉容器に連結されている循環ポンプであり、該循環ポンプで内容物を循環することによって、内容物を攪拌するようにしていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、原料真空脱水工程において、原料油脂に含まれる水を低減し、エステル変換反応工程において、油脂原料に含まれる脂肪酸グリセリドを脂肪酸アルキルエステルに変換する。グリセリン分離工程において、反応生成物を軽液相と重液相に分離し、その重相を取り出して残留物の軽相を粗エステルとする。化学処理工程において、粗脂肪酸アルキルエステルに残存する触媒、遊離グリセリン、脂肪酸石鹸、有色物質などの不純物をスラッジとして除去する。固液分離工程において、粗エステルを液相と固相に分離させ、その固相を抜き出して、液相を化学処理済み粗エステルとする。アルコール回収工程において、化学処理済み粗エステルに残存している未反応のアルコールを除去する。エステル蒸留工程において、粗エステルを蒸留することによって、高純度の精製エステルが得られる。
第2発明によれば、1個の密閉容器に第1発明の製造方法を実施するのに必要な投入口と排出口を備え、加熱手段と攪拌手段が設けられているので、製造装置をシンプルにすることができる。
第3発明によれば、加熱手段が密閉容器の内部に設けられているので、製造装置がシンプルになる。
第4発明によれば、攪拌手段が密閉容器の内部に設けられているので、製造装置がシンプルになる。
第5発明によれば、循環ポンプからなる攪拌手段を用いたところから、攪拌機も軸シール装置も不要となるので、装置コストが安くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置の構成図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置の構成図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(製造方法)
図1に基づき本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を説明する。同図に示すように、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、以下の7段階の工程からなる。
(1)原料真空脱水工程S21:油脂または使用済み廃油脂に含まれる水分を所定レベルまで低減する。
(2)エステル変換反応工程S22:前記真空脱水工程から得た脱水済み油脂または使用済み廃油脂を触媒の存在下アルコールと反応させる。
(3)グリセリン分離工程S23:エステル変換反応後の反応液を脂肪酸エステル層とグリセリン層とに分離する。
(4)化学処理工程S24:前記グリセリン分離工程から得た粗エステルに、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の混合酸と直鎖モノアルキル型第4級アンモニウム塩、ケイ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、リン酸ジフェニルからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を重量比で1:0〜1:10の割合で混合して得た処理剤の1〜70%水溶液を、前記粗エステルのpHが5.0〜8.0になるように添加し、攪拌することによって、粗脂肪酸エステルを処理する。
(5)固液分離工程S25:前記化学処理した粗脂肪酸エステルを静置分離し、脂肪酸エステル相とスラッジ相に分ける。
(6)アルコール回収工程S26:前記固液分離工程から得た粗エステルに含まれるアルコールを除去する。
(7)エステル蒸留工程S27:前記アルコールが回収された後の粗脂肪酸エステルを15torr以下の真空度で180〜280℃まで加熱し、エステルを蒸留し、精製エステルを得る。
【0018】
(原料)
原料真空脱水工程S21に投入される原料油脂1としては、大豆油、菜種油、ひまわり油、綿実油、椰子油、胡麻油、落花生油などの植物油脂及び牛脂、豚脂、馬脂、魚油、鯨油などの動物油脂およびこれらの使用済み廃油を用いることができる。これらの油脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上の混合物であってもよい。使用済み廃油としては、例えば油脂加工工場、食品製造工場、飲食店、一般家庭などから廃棄される廃油脂、食用油製造工程における油滓などの油脂残渣、金属熱圧延加工の潤滑油として使用する植物性油脂の廃油脂、マーガリン、ショートニング等の加工油脂類製造工程で発生する廃油脂、不良品および期間切れ等返品食用油脂、食用油魚肉加工工程で発生する動物油脂であってもよい。
なお、前記油脂1に含まれるゴミ、料理かすなどの固形物質、水などの不純物を、エステル変換反応を行う前に、予め除去しておくとよい。この場合、エステル変換反応を効率的に行うことができるので好適である。
【0019】
エステル変換反応工程S22で用いられるアルコール2としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜10の一価アルコールが好ましい。また、これらのアルコールの含水量は特に制限がないが、1%以下のものが好ましい。
【0020】
エステル変換反応工程S22で用いられるアルカリ触媒3としては、水酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、カリウムアルコラート、ナトリウムアルコラートなど、エステル交換反応において活性を示すアルカリ性物質であれば特に制限がない。
【0021】
(製造方法の詳細)
つぎに、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を、ステップ順に説明する。
(1)原料油脂真空脱水工程S21において、原料油脂1を減圧下で水の沸点以上かつ油脂の沸点以下に加熱し、蒸留することによって、原料油脂1に含まれる水を蒸発させ、含水率を1000ppm以下、好ましくは500ppm以下にする。
【0022】
(2)エステル変換反応工程S22において、脱水済みの原料油脂に油脂原料の酸価に応じて計算される低級アルコール量とアルカリ触媒量を添加して、30〜120℃の温度でエステル交換反応を行い、油脂原料に含まれる脂肪酸グリセリドを脂肪酸アルキルエステルに変換する。
【0023】
添加すべき低級アルコールの量は、下式に従い計算される。
【数1】

【0024】
また、エステル変換工程において、添加すべきアルカリ触媒の量は、原料油脂の酸価より異なり、下式に従い計算される。
【数2】

【0025】
(3)グリセリン分離工程S23において、前記エステル変換工程S22から得た反応生成物を反応温度と同様な温度に維持しながら、0.5〜4.0時間、好ましくは1.0〜2.0時間静置し、反応生成物を軽液相と重液相に分離し、その軽液を取り出して粗エステル8とする。
【0026】
(4)化学処理工程S24において、前記グリセリン分離工程S23から得られた粗エステル8に、処理剤4を粗エステル8のpHが5.0〜8.0になるように添加し、2〜30分間混合・攪拌することにより粗エステルを処理する。
【0027】
ここに用いられる処理剤4は、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の混合酸と直鎖モノアルキル型第4級アンモニウム塩、ケイ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、リン酸ジフェニルからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を重量比で1:0〜1:10の割合で混合して得た処理剤の1〜70%水溶液である。
【0028】
上記化学処理により、粗脂肪酸アルキルエステルに残存する触媒、遊離グリセリン、脂肪酸石鹸、有色物質などの不純物をスラッジとして除去することができる。
つまり、本発明の処理剤は、アルカリの中和、石鹸の分解、エマルジョンの破壊、脱色、凝縮沈降などの機能を有し、本発明の処理剤で処理することによって脂肪酸アルキルエステル以外の不純物を脂肪酸アルキルエステルに溶けにくい形に変換して分離除去する効果がある。
【0029】
(5)固液分離工程S25において、前記化学処理工程S24によって処理された粗エステルの温度を65℃〜90℃に維持しながら、常圧下で10〜90分間、好ましくは20〜60分間静置し、化学処理された粗エステルを液相と固相に分離させ、その固相を抜き出して、液相を化学処理済み粗エステル10とする。
【0030】
(6)アルコール回収工程S26において、化学処理済み粗エステル10に残存している未反応のアルコールを除去するために、化学処理済み粗エステル10をアルコールの沸点以上かつ脂肪酸アルキルエステルの沸点以下に加熱し、常圧または減圧下で行って、アルコール除去後粗エステル12を得る。
【0031】
(7)エステル蒸留工程S27において、アルコール除去後粗エステル12を15torr以下の真空度で180〜280℃まで加熱し、エステルの蒸留を行う。粗エステルを蒸留することによって、高純度の精製エステルが得られる。
【0032】
(製造装置)
図2は、本発明における第1実施形態の脂肪酸アルキルエステルの製造装置の構成図である。
同図に示すように、本実施形態の脂肪酸アルキルエステルの製造装置は、図1に示す一連の工程を実施し、油脂1を有用な脂肪酸アルキルエステル13に精製する装置である。
【0033】
密閉容器Aは、上部に原料油脂投入口101、触媒溶液投入口102、処理済投入口103を備えている。
また、密閉容器Aの上部はガス排出口108を備え、これにコンデンサEが接続されている。
このコンデンサEには、配管109、真空バッファタンクF、配管111を介して真空ポンプGが接続されている。この真空ポンプGは特許請求の範囲にいう真空引き手段を構成しており、これによって密閉容器Aを減圧することができる。
【0034】
密閉容器Aの下部には、液体排出口10が設けられ、これに循環ポンプDが接続されている。また、循環ポンプDは、配管107を介して密閉容器Aの上部に接続されている。
この循環ポンプDは特許請求の範囲にいう攪拌手段を構成している。なお、循環ポンプからなる攪拌手段を用いたところから、攪拌機も軸シール装置も不要となるので、装置コストが安くなる。
【0035】
前記配管107には加熱手段Bが介装されている油脂1を加熱するための加熱手段Bとしては、電気ヒーター、スチーム熱交換器、熱媒体熱交換器のいずれかを用いてよい。
上記が、製造装置の主たる構成要素であり、これら以外の構成要素は、以下の製造工程と共に説明する。
【0036】
図2に示す脂肪酸アルキルエステルの製造装置を用いて、図1に示す脂肪酸アルキルエステルの製造工程を実施する手順を以下に示す。
【0037】
1)原料真空脱水工程S21
原料油脂投入口101から、計量された原料油脂1を密閉容器Aに投入した後、真空ポンプGによる引きと循環ポンプDによる攪拌を行いながら、油脂1を水の沸点温度以上かつ油脂の沸点温度以下に加熱手段Bで加熱する。
これにより、油脂に含まれる水が蒸気となり、油脂から脱離される。発生した蒸気がガス排出口108を通してコンデンサEに入り、部分的に凝縮され、配管112、配管113及び配管121を通して、回収水タンクKに流入する。凝縮されない蒸気と非凝縮性ガスが配管109、配管122、配管110、真空バッファタンクF、配管111及び真空ポンプGを通して、大気に排出される。
原料油脂1の投入は、ポンプによる送り込み、真空状態にした密閉容器Aによる吸い込み、重力による自然流入のいずれかの方法を用いてもよい。
【0038】
2)エステル変換工程S22
前記原料真空脱水工程S21が終了した後、引き続き触媒溶液投入口102から、所定量の触媒溶液を投入し、加熱手段Bにより、密閉容器A内の温度を必要な反応温度に調整すると同時に、循環ポンプDによって所定時間攪拌し、エステル変換反応を行う。
触媒溶液の投入は、ポンプによる送り込み、真空状態にした密閉容器Aによる吸い込み、重力による自然流入のいずれかの方法を用いてもよい。
エステル変換反応中に、真空ポンプGは停止状態にし、攪拌は、循環ポンプDによって行われる。
【0039】
3)グリセリン分離工程S23
エステル変換工程S22が終了した後、攪拌を停止し、密閉容器Aの内容物を静置し、エステル変換反応生成物を軽液相と重液相に分離する。静置終了後、循環ポンプDを起動し、グリセリンである重液を密閉容器Aの底部にある液体排出口104から、配管124と配管105を通して抜出し、エステルである軽液を密閉容器Aに残しておく。
【0040】
4)化学処理工程S24
グリセリン分離工程23が完了し、グリセリンが排出した後、処理剤投入口103から所定量の処理剤を投入し、一定時間攪拌することによって行われる。
処理剤の投入は、ポンプによる送り込み、真空状態にした密閉容器Aによる吸い込み、重力による自然流入のいずれかの方法を用いてもよい。
【0041】
5)固液分離工程S25
化学処理工程24が完了した後、攪拌を停止し、密閉容器Aの内容物を所定時間静置し、液相と固相に分離する。沈降分離して析出した固形物質が密閉容器Aの底部に設けているスラッジポットCに溜まる。
【0042】
6)アルコール回収工程S26
前記固液分離工程S25が終了した後、密閉容器Aの内容物を循環ポンプDで攪拌しながら、粗エステルをアルコールの沸点温度以上かつエステルの沸点温度以下に加熱手段Bで加熱し、粗エステルに含まれるアルコールを蒸発させる。アルコールが蒸発して生じるアルコール蒸気がガス排出口108を通してコンデンサEに入り、液体のアルコールに凝縮され、配管112、配管113、配管115を通して、回収アルコールタンクLに流入する。アルコール回収工程は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってよい。
凝縮されないアルコールと非凝縮性ガスが配管109、配管114、110、真空バッファタンクF、配管111及び真空ポンプGを通して、大気に排出される。
【0043】
7)エステル蒸留工程S27
前記アルコール回収工程S26が終了した後、真空ポンプを起動し、循環ポンプDで攪拌しながら、粗エステルをエステルの沸点温度まで加熱手段Bで加熱し、粗エステルの蒸留を行う。蒸発してガス体となったエステルがガス排出口108を通してコンデンサEに入り、液体のエステルに凝縮され、配管112、配管123を通して、精製エステルタンクIに流入する。
凝縮されない蒸気と非凝縮性ガスが配管109、配管116、真空バッファタンクF、配管111及び真空ポンプGを通して、大気に排出される。
【0044】
エステル蒸留工程S27終了後に、密閉容器Aに残留されている蒸留残渣を循環ポンプD、配管104、配管124及び配管106を通して抜き出す。また回収水タンクKに溜まっている水と回収アルコールタンクLに溜まっているアルコールは、手動バルブを操作することによって抜き出す。
【0045】
精製エステルタンクIに貯留されている精製エステルは、そのまま製品として配管118、ポンプJ、配管119、配管120によって抜き出してもよいが、必要に応じて流動点降下剤や酸化防止剤などの添加剤を添加してから抜き出してもよい。添加剤を添加する場合、所定量の添加剤を添加剤投入口117から投入し、製品抜出ポンプJを起動し、精製エステルタンク内の内容物を一定時間循環させ、かき混ぜてから、配管120を通して排出する。
【0046】
図3は、本発明における第2実施形態に係る製造装置の構成図である。図3に示すように、本実施形態の特徴は、内容物を加熱するための加熱手段Bおよび内容物を攪拌する攪拌機Mを直接密閉容器の内部に設けている。
加熱手段Bは、密閉容器A内に通したパイプに適宜の熱交換器を介装したものである。攪拌機Mは、密閉容器A内に配置した攪拌羽根をモータMで回転させる公知のものである。
このような密閉容器内蔵型の構成をとることによって、本実施形態においても、第一実施形態の装置と同様な機能を持たせると同時に、装置がよりコンパクトになる。
【0047】
図4は、本発明における第3実施形態に係る製造装置の構成図である。図4に示すように、本実施形態の特徴は、内容物を攪拌するための攪拌手段Dが入口配管と出口配管ともに密閉容器Aと繋がっている循環ポンプDであり、その循環ポンプで内容物を循環することによって、内容物を攪拌することができる。
加熱手段Bは図3と同様に密閉容器内部配置型である。
【0048】
図4に図示の例は、攪拌手段Dが密閉容器外付け型であり加熱手段Bが密閉容器内部配置型であるが、これを逆にして、攪拌手段を内部配置型とし、加熱手段を外付け型としてもよい。
本実施形態においても、第一実施形態の装置と同様な機能を持たせると同時に、装置の部品数が減らせられ、より低コスト化になる。
【実施例1】
【0049】
次に、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法を、より具体的な実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
油脂1は、一般家庭から回収された廃食用油(遊離脂肪酸2%、水分0.9%)を用いた。
アルコール2は、メタノール(純度99.8%)を用いた。
アルカリ触媒3は、工業用水酸化カリウム(KOH含有量:95%)を用いた。
処理剤4は、70%の硫酸と98%の塩化亜鉛を1:5の割合で配合し得た混合物を用いた。
【0051】
廃食油からの脂肪酸メチルエステルの製造は、図2に示す装置を行った。また、図2に示す加熱手段Bはシェル型電気ヒーターであった。
まず、115lの廃食油を真空吸込みによって原料油脂投入口101から投入した。真空ポンプGによって密閉容器内の真空度を60torrに維持し、循環ポンプDによって攪拌しながら、加熱手段Bによって廃食油を70℃まで加熱し、さらに70℃に維持して、20分間真空脱水を行った。
引き続き、1.6kgの水酸化カリウムを溶解したメタノール18lを触媒溶液投入口102から、真空吸込みによって投入し、常圧下、65℃で、30分間エステル変換反応を行った。
エステル変換反応終了後に、攪拌を停止し、90分間静置し、反応生成物をエステル相とグリセリン相に分離させた。密閉容器Aの底から、26lのグリセリンを循環プンプDによって抜き出した。
その後、処理剤50mlを処理剤投入口103から自然流入によって投入し、循環ポンプDによって5分間攪拌し、粗エステルの化学処理を行った。
化学処理後、循環ポンプDを止めて、粗エステルを30分間静置し、化学処理することによって生じたスラッジを沈降分離させた。スラッジの比重がエステルより重いため、密閉容器Aの底に設けているスラッジポットCに溜まった。
さらに、粗エステルを攪拌しながら、常圧下で、120℃まで加熱し、粗エステルに残留している未反応のメタノールを除去した。
次に循環ポンプDと真空ポンプGを起動し、粗エステルを最高230℃まで加熱し、エステル蒸留を行った。エステル蒸留中の最高真空度が最高真空度5torrであった。エステル蒸留後、精製エステルタンクから100lの精製エステルを、密閉容器Aから5lの蒸留残渣を、スラッジポットCから100mlのスラッジを抜き出した。
【0052】
抜き出した精製エステルの分析結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、大量廃棄されていた廃油脂を含めて、様々な油脂原料を低コストでオレオケミカル原料または軽油代替燃料として利用できる高純度の脂肪酸アルキルエステルに変換できる。
【符号の説明】
【0054】
1 油脂
2 アルコール
3 アルカリ触媒
4 処理剤
5 水
6 反応生成物
7 グリセリン
8 粗エステル
9 スラッジ
10 化学処理済み粗エステル
11 回収メタノール
12 アルコール除去後粗エステル
13 精製エステル
14 蒸留残渣
A 密閉容器
B 加熱手段
C スラッジポット
D 循環ポンプ
E コンデンサ
F 真空バッファタンク
G 真空ポンプ
H 添加剤ホッパー
I 精製エステルタンク
J 製品抜出ポンプ
K 回収水タンク
L 回収メタノールタンク
M 攪拌機
101〜124 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂または使用済み廃油脂に含まれる水分を所定レベルまで低減する真空脱水工程と、
前記真空脱水工程から得た脱水済み油脂または使用済み廃油脂を触媒の存在下アルコールと反応させるエステル変換反応工程と、
エステル変換反応後の反応液を脂肪酸エステル層とグリセリン層とに分離するグリセリン分離工程と、
前記グリセリン分離工程から得た粗エステルに、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸からなる群から選ばれる1種類または2種類以上の混合酸と直鎖モノアルキル型第4級アンモニウム塩、ケイ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、リン酸ジフェニルからなる群から選ばれる1種類または2種類以上の化合物を重量比で1:0〜1:10の割合で混合して得た処理剤の1〜70%水溶液を前記粗エステルのpHが5.0〜8.0になるように添加し、攪拌することによって、粗脂肪酸エステルを処理する化学処理工程と、
前記化学処理した粗脂肪酸エステルを静置分離し、脂肪酸エステル相とスラッジ相に分ける固液分離工程と、
前記固液分離工程から得た粗エステルに含まれるアルコールを除去するためのアルコール回収工程と、
前記アルコールが回収された後の粗脂肪酸エステルを15torr以下の真空度で180〜280℃まで加熱し、エステルを蒸留し、精製エステルを得るエステル蒸留工程とからなる
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
脂肪酸アルキルエステルを製造するための請求項1記載の工程を順に行う密閉容器を有しており、
該密閉容器は、原料油脂を投入するための油脂投入口と、触媒溶液を投入するための触媒溶液投入口と、処理剤を投入するための処理剤投入口と、液体物を排出するための液体排出口と、ガス体を排出するためのガス体排出口と、内容物を加熱するための加熱手段と、内容物を攪拌するための攪拌手段と、容器内を減圧状態にするための真空引き手段とを備えている
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造装置。
【請求項3】
前記密閉容器の内部に、前記加熱手段を設けている
ことを特徴とする請求項2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造装置。
【請求項4】
前記密閉容器の内部に、前記攪拌手段を設けている
ことを特徴とする請求項2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造装置。
【請求項5】
前記攪拌手段が、入口配管と出口配管ともに前記密閉容器に連結されている循環ポンプであり、該循環ポンプで内容物を循環することによって、内容物を攪拌するようにしている
ことを特徴とする請求項2または4記載の脂肪酸アルキルエステルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−148874(P2011−148874A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9748(P2010−9748)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(505404530)株式会社ダイキアクシス (9)
【Fターム(参考)】