説明

脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法

【課題】油脂類とアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する際に用いる触媒を特定の処理液で処理されたものとすることにより、高効率かつ高選択的に燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する方法を提供する。
【解決手段】油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、上記触媒は、上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものである脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法に関する。より詳しくは、燃料、食品、化粧品、医薬品等の用途に有用な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する方法並びにバイオディーゼル燃料製造用触媒の前処理方法及び賦活方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、植物油脂から得られるものが食用油として用いられ、その他にも、化粧品、医薬品等の分野に用いられている。また、近年では、軽油等に添加される燃料用としても注目されており、例えば、COの排出削減の目的から、植物由来のバイオディーゼル燃料として軽油に数%添加されることになる。また、グリセリンは、主にニトログリセリンの製造原料として用いられており、その他にも、アルキド樹脂等の原料、医薬品、食料品、印刷インキ、化粧品等の様々な分野に用いられている。このような脂肪酸アルキルエステルやグリセリンの製造方法としては、油脂の主成分であるトリグリセリドをアルコールとエステル交換して製造する方法が知られている。
このような製造方法においては、一般に、均一系アルカリ触媒を用いる方法が工業的に用いられているが、煩雑な触媒の分離除去工程が必要となる。また、油脂に含まれる遊離脂肪酸がアルカリ触媒によってけん化されるため石鹸が副生することになり、多量の水で洗浄する工程が必要であるばかりでなく、石鹸の乳化作用により脂肪酸アルキルエステルの収率が低下し、また、その後のグリセリンの精製プロセスも煩雑となるため、これらの点において工夫の余地があった。
【0003】
従来の不均一系触媒を用いる脂肪酸アルキルエステルの製造方法について、反応媒体中の水分量を1500ppmより低い値に制御する方法が開示されており(例えば、特許文献1参照)、特定の水/メタノール分離工程により触媒を妨害する水の量を制御することができるとしている。しかしながら、この製造方法においては、原料の水の量をコントロールする必要があるため、設備費やユーティリティーコストがかかる等の問題がある。また、原料中に水分が混入し触媒が失活した場合、触媒を詰め替えるしか対処の方法がないという問題もあり、高効率かつ簡便に脂肪酸アルキルエステルを製造できるようにするとともに、製造工程における反応収率や転化率を更に向上させることにより、工業的により有用な製造方法とするための工夫の余地があった。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0034244号明細書(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、油脂類とアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する際に用いる触媒を接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものとすることにより、高効率かつ高選択的に燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法について種々検討したところ、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させて脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造する方法が工業的に有用であることに着目し、このような工程において、該触媒を特定の条件で処理されたものとすることにより、触媒が活性化され、高効率かつ高選択的に燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができることを見いだし、特に該触媒が金属酸化物を必須とするもの、中でもイルメナイト構造を有するものが有用であることを見いだした。また、このような処理は、フレッシュな触媒の前処理にも、少なくとも一度脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に使用された触媒の賦活方法にも好適に用いることができ、高い触媒活性を保った上で反応に繰り返し利用することが可能であることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。そして、触媒が処理された後に、触媒充填反応塔内に充填されるものとすると、触媒活性や触媒寿命が充分に向上されるうえに、触媒の分離除去・回収工程を不要とすることができることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0006】
すなわち本発明は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、上記触媒は、上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものである脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法である。
【0007】
本発明はまた、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、上記製造方法は、触媒が処理された後に、触媒充填反応塔内に充填される脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法でもある。
【0008】
本発明は更に、上述の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる触媒の前処理方法でもある。
本発明はそして、上述の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる触媒の賦活方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法においては、該接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理された触媒の存在下に油脂類とアルコールとを接触させることとなる。
上記処理により、触媒活性が高められ、上記製造方法において何度でも繰り返し使用することができることになる。触媒活性が高められる理由は、以下の通りである。すなわち、フレッシュな触媒においては触媒調製時に生じる不純物が吸着しており、一部の活性点しか発現していないために見かけの反応速度が低下する。また、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に少なくとも一度使用された触媒の表面には例えば水等の阻害物質が吸着しており、該阻害物質のために疎水性である原料の油脂類が触媒表面に接触しにくくなり、見かけの反応速度が低下する。このような触媒を上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理することにより、阻害物質が取り除かれて触媒の活性点が発現し、触媒活性が高められる。フレッシュな触媒とは、触媒として調製された後、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における触媒として一度も使用されていない触媒を意味する。
【0010】
上記処理は、接触工程で得られる生成物、アルコール及び水からなる群から選択される少なくとも1種の処理液を用いて行うことが好ましい。
上記処理に用いる接触工程で得られる生成物とは、該接触工程により得られるものと同じ種類の化合物であればよく、該接触工程により実際に得られたものに限定されない。上記生成物としては、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、副生成物である脂肪酸が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
上記脂肪酸アルキルエステルとしては、炭素数6〜22の飽和又は不飽和脂肪酸と炭素数1〜6の低級アルコールとのエステルが好ましい。飽和又は不飽和脂肪酸としては、炭素数6〜22のものが好ましい。低級アルコールとしては、メタノールが好ましい。上記脂肪酸アルキルエステルは、パルミチン酸メチルエステル、オレイン酸メチルエステル、リノール酸メチルエステル、エルシン酸メチルエステル、ラウリン酸メチルエステル、ステアリン酸メチルエステル、ミリスチン酸メチルエステルが特に好ましい。
【0012】
上記副生成物である脂肪酸としては、炭素数6〜22の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましい。中でも、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、エルシン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸が特に好ましい。例えば、上記脂肪酸のアルコール溶液を処理液として用いてもよく、アルコール溶液の脂肪酸濃度は、0.1〜20質量%が好ましい。該アルコール溶液の溶媒であるアルコールとしては、特に限定されないが、メタノールが好ましい。
上記処理液としては、油脂と水に対して相溶性がある溶媒が好ましく、中でもグリセリンが最も好ましい。
【0013】
上記処理に用いるアルコールとしては、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が挙げられる。炭素数1〜3のアルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
上記処理工程において、処理液と触媒を加熱した状態で接触することにより処理を行うことが好ましい。例えば、処理液の沸点より高い温度で処理を行う場合はオートクレーブ中で処理を行ってもよいし、処理液の沸点より低い温度で処理を行う場合は、冷却管を備えたガラス容器中で行ってもよい。また、管型反応器内に触媒を充填し、処理液を流通させ処理を行ってもよい。処理液として水を用いる場合は、処理工程の間に水が気体状態(水蒸気)になっていてもよい。例えば、オートクレーブ中において少量の水を存在させた上でるつぼ中に触媒を入れ、水が気体状態となる温度、圧力の条件下で水蒸気により処理をするものであってもよいし、管型反応器内に触媒を充填し、水蒸気を流通させ処理するものであってもよい。
【0015】
上記処理液を液体状態として処理を行う場合、処理液の使用量としては、触媒の質量の5〜100倍であることが好ましい。5倍未満であると、触媒性能を充分に向上できないおそれがある。100倍を超えると、経済的に不利となるおそれがある。下限値として、より好ましくは6倍であり、更に好ましくは7倍であり、特に好ましくは8倍である。上限値として、より好ましくは80倍であり、更に好ましくは60倍であり、特に好ましくは40倍である。
また、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.05hr−1、上限が20hr−1であることが好ましい。より好ましくは下限が0.1hr−1であり上限が15hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの処理液の流量(mL・hr−1)}/触媒容量(mL)
【0016】
上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理する温度は、100〜300℃であることが好ましい。
100℃未満であると、触媒性能を充分に向上できないおそれがある。300℃を超えると、経済的に不利になるおそれがある。下限は、120℃がより好ましく、130℃が更に好ましい。上限は、280℃がより好ましく、250℃が更に好ましい。
【0017】
上記処理工程において、圧力としては、処理液の種類と温度から適宜選択することができる。
処理液の沸点以下の温度で行う場合は、常圧で行ってもよいし、沸点を超える場合は、オートクレーブ等を用いて加圧系で行ってもよい。
【0018】
上記触媒を処理する時間は、5〜80時間であることが好ましい。
上記範囲外であると、触媒性能を充分に向上できないおそれがある。下限は、8時間がより好ましく、12時間が更に好ましい。上限は、60時間がより好ましく、48時間が更に好ましい。
本発明の製造方法は、上記処理工程と接触工程との間に、触媒を洗浄・乾燥する工程を含むことが好ましい。
上記洗浄に用いる溶媒は、例えば、メタノールが好ましい。
上記乾燥は、例えば、風乾により好適に行うことができる。
【0019】
上記処理される触媒としては、金属酸化物を必須成分とするのが好ましく、例えば、亜鉛アルミニウム混合酸化物、チタン、ジルコニウム又はアンチモンとアルミニウムとの複合酸化物、結晶性又は非晶質チタノシリケート、酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合酸化物、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、イルメナイト構造を有する金属酸化物、スリランカイト構造を有する金属酸化物、酸化亜鉛と酸化チタンの混合酸化物、酸化亜鉛、酸化チタン及びアルミナの混合酸化物、酸化ビスマスと酸化チタンの混合酸化物、酸化ビスマス、酸化チタン及びアルミナの混合酸化物が挙げられる。すなわち、上記触媒は、金属酸化物を必須とするものであることが好ましい。より好ましくは酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合酸化物、イルメナイト構造を有する金属酸化物であり、特に好ましくはイルメナイト構造を有する酸化物である。すなわち、上記金属酸化物は、イルメナイト構造を有するものであることが特に好ましい。
イルメナイト構造を有する金属酸化物が特に好ましい理由としては、誘導期を有する場合があるため、本発明の作用効果をより十分に発揮することが可能となるためである。
なお、本発明の製造方法においては、上記金属酸化物に他の触媒を併用して用いてもよい。また、上記触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよい。
【0020】
本発明の製造方法においては、触媒として、イルメナイト構造を有する金属酸化物を用いることにより、活性成分の溶出が充分に抑制され、触媒活性や触媒寿命が充分に向上されるため、高効率に反応を実施することが可能となる。
なお、本発明の製造方法においては、上記金属酸化物に他の触媒を併用して用いてもよい。また、上記触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよい。
【0021】
上記金属酸化物としては、イルメナイト構造を有するものである限り特に限定されず、例えば、単一の酸化物の混合体又は複合酸化物の形態であってもよいし、担体上に活性成分(例えば、金属元素の単一又は複合酸化物)を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
【0022】
上記イルメナイト構造とは、化学式ABX(A及びBは陽イオンであり、Xは陰イオンである)で表され、Xが少し歪んだ六方最密充填をつくり、その八面体間隙にA及びBが6配位で規則配列をする菱面体格子をいう。例えば、FeTiOに代表される複合酸化物があり、該複合酸化物の構造は、α−アルミナ(コランダム型)のAlの位置を規則的にFeとTiとに置き換えられて少し歪んだ構造である。このような構造を有することにより、本発明の製造方法における原料である油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも充分に不溶性となるとともに、触媒寿命が格段に向上することから、本発明の製造方法において、触媒のリサイクル性がより向上されるうえに、触媒の分離除去工程を著しく簡略化又は不溶とすることができ、ユーティリティーコストや設備費を充分に削減することが可能となる。
このような構造を有する金属酸化物としては、上記化学式中のA及びBのうち少なくとも1種がチタンであることが好適であり、例えば、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiO、ZnTiO等が挙げられる。中でも、チタンと、7族、8族、9族及び10族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素とを含んでなるイルメナイト構造を有する金属酸化物であることが好ましい。上記触媒が、このような金属酸化物を含有する形態は、本発明の好適な形態の1つである。この場合、誘導期が解消され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、上記金属酸化物が、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiO、ZnTiOであることである。
【0023】
上記触媒としては更に、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性のもの(以下、「不溶性触媒」ともいう。)であることが好適である。油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる反応においては、反応が進行すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む相(エステル相)と、副産物であるグリセリンを主に含む相(グリセリン相)とに相分離することになるが、この場合、両方の相にアルコールが含まれることになり、その結果、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンが相互に分配する。このとき、触媒の非存在下にアルコールを留去すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む上層とグリセリンを主に含む下層との相互溶解度が低下して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンの分離を向上できることになり、回収率を向上することが可能となる。触媒の活性金属成分が溶出していると、エステル交換反応が可逆反応であることに起因して、上記の工程において逆反応が進行して脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することになる。このように、触媒の非存在下に反応液からアルコールを留去した後に相分離を行うことにより、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において精製が容易になり、収率を向上することができる。すなわち上記製造方法が、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなり、該触媒は、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性のものであり、反応生成液であるエステル相とグリセリン相を相分離するより先に、触媒の非存在下にアルコールを留去する形態は、本発明の好ましい形態の1つである。なお、微量の水を添加することにより、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとの分離や精製を更に向上することが可能となる。
【0024】
上記触媒の非存在下とは、不溶性固体触媒をほとんど含まず、かつ反応後液中に該触媒から溶出した活性金属成分の合計の濃度が、1000ppm以下であることである。また、溶出した活性金属成分とは、操作条件下において、エステル交換反応及び/若しくはエステル化反応に活性を有する均一系触媒として作用し得る、反応液中に溶解した不溶性固体触媒由来の金属成分を意味する。溶出した活性金属成分の濃度が1000ppmを超えると、上述したアルコールの留去工程において逆反応を充分には抑制できないことになり、製造におけるユーティリティーの負荷を充分には低減できないことになる。好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは600ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以下である。特に好ましくは、実質的に活性金属成分が含有されないことである。
上記反応液中の触媒の活性金属成分の溶出量は、反応後の反応液を、溶液状態のまま蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、上記金属酸化物としては、上述したように、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができる性能を有し、油脂中に含まれる鉱酸や金属成分の影響をほとんど受けず、かつアルコールの分解を充分に抑制する等の作用効果を発揮するものであることから、本発明の製造方法において脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを高効率に製造することを可能とするものである。このような本発明の製造方法に用いられる触媒の前処理方法、賦活方法もまた、本発明の1つである。
【0026】
上記触媒は、少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用されたものを処理したものであることが好ましい。すなわち、上記触媒は、少なくとも一度脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に使用されたものを処理したものであることが好ましい。
少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用されたとは、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における触媒として少なくとも一度使用されたことを意味する。高活性の触媒を一度使用すると、触媒の劣化が生じ、その次の使用の際に前回ほど高収率かつ高選択的に目的物を得ることが出来なくなることがある。本願発明の効果は、処理される触媒として少なくとも一度使用され、活性が低下した触媒を再生し、再度、活性を与えることである(賦活するともいう)。
【0027】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるものである。
上記接触工程においては、例えば、下記式に示すように、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応により、脂肪酸メチルエステルとグリセリンとが生成することになる。
【0028】
【化1】

【0029】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
上記製造方法においては、上述した触媒を用いることによりエステル交換反応とエステル化反応とを同時に行うことができることから、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応工程で同時に遊離脂肪酸のエステル化反応が進行するため、エステル交換反応工程とは別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステルの収率を向上することができる。
上記製造方法においてはまた、上記式に示すように、エステル交換反応により脂肪酸アルキルエステルと共にグリセリンが得られることになる。本発明においては、精製されたグリセリンを工業的に簡便に得ることができるが、このようなグリセリンは、化学原料として各種の用途に好適に用いることが可能である。
【0030】
上記接触工程において、油脂類としては、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれるものを使用することができる。通常では、トリグリセリド(グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド、モノグリセリドやその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレイン等のグリセリンの脂肪酸エステルを用いてもよい。
上記油脂としては、ナタネ油、キャノーラ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ココナッツ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ナンヨウアブラギリ油、ヒマシ油、麻油、マスタード油、ピーナッツ油、ホホバ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等が好適であり、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法は、触媒が鉱酸によって反応阻害を受けにくいものであるので、脱ガム工程を行った後、油脂類に鉱酸が含まれていても、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを効率よく製造することができる。
【0032】
上記接触工程において、アルコールとしては、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が挙げられる。炭素数1〜3のアルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
上記アルコールとしてはまた、食用油、化粧品、医薬等の製造を目的とする場合には、ポリオールであることが好ましい。上記ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が好適である。中でも、グリセリンが好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。このように上記アルコールとしてポリオールを用いる場合、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリドを得る方法において好適に用いることができることとなる。
上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法においては、油脂類、アルコール及び触媒以外のその他の成分が存在してもよい。
【0033】
上記アルコールの使用量としては、油脂類とアルコールとの反応における理論必要量の1〜15倍であることが好ましい。1倍未満であると、油脂類とアルコールとが充分には反応しないおそれがあり、転化率を充分には向上できないおそれがある。15倍を超えると、余剰アルコールの回収やリサイクル量が大きくなるためコストがかかるおそれがある。下限値として、より好ましくは1.1倍であり、更に好ましくは1.3倍であり、特に好ましくは1.5倍である。上限値として、より好ましくは13倍であり、更に好ましくは12倍であり、特に好ましくは11倍である。
なお、本発明でいうアルコールの理論必要量は、油脂類のけん化価に対応するアルコールのモル数を意味しており、下記式で算出することができる。
アルコールの理論必要量(kg)=アルコールの分子量×[油脂の使用量(kg)×けん化価(g−KOH/kg−油脂)/56100]
【0034】
上記アルコールとしてポリオールを用いる場合には、上述したように本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法により、ジグリセリド類を好適に得ることができ、このような形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。このようにして得られるジグリセリド類は、油脂の可塑性改良用添加剤等として食品分野等で好適に用いることができる。また、ジグリセリド類を食用の油脂とし、各種の食品に配合すると、肥満防止、体重増加抑制作用等を発揮することから、本発明により得られるジグリセリド類を食用の油脂として使用する形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記ジグリセリド類を得る形態において、例えば、ポリオールとしてグリセリンを用いる場合、下記式に示すような反応が進行することとなる。
【0035】
【化2】

【0036】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数6〜22のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数6〜22のアルケニル基を表す。
【0037】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応温度としては、下限が100℃、上限が300℃であることが好ましい。100℃未満であると、反応速度を充分には向上できないおそれがあり、300℃を超えると、アルコールが分解する等の副反応を充分には抑制できないおそれがある。より好ましくは、下限が120℃、上限が270℃であり、更に好ましくは、下限が150℃、上限が235℃である。
なお、上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法に用いる触媒としては、上記範囲内の反応温度で用いる場合に、活性金属成分が溶出しないものであることが好ましい。このような触媒を用いることにより、反応温度が高温であっても触媒の活性を充分に維持することができ、反応を良好に行うことができる。
【0038】
上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応圧力としては、下限が0.1MPa、上限が10MPaであることが好ましい。0.1MPa未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、10MPaを超えると、副反応が進行しやすくなるおそれがある。また、高圧に耐え得る特殊な装置が必要になり、ユーティリティーコストや設備費を充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が0.2MPa、上限が9MPaであり、更に好ましくは、下限が0.3MPa、上限が8MPaである。
【0039】
このように反応温度や圧力を充分に低下させた場合においても、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法においては、上述したように高活性の触媒を用いるため、反応を良好に実施することが可能となる。
なお、上記イルメナイト構造及び/若しくはスリランカイト構造を有する触媒は、使用するアルコールの超臨界状態で用いることもできる。超臨界状態とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を指す。該触媒を用いることにより、超臨界条件下においても効率的に脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができる。
【0040】
また上記脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、反応に用いる触媒量としては、バッチ式の場合、油脂、アルコール及び触媒の総仕込み質量に対し、下限が0.5質量%、上限が20質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、20質量%を超えると触媒コストを充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が1.5質量%、上限が10質量%である。また、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.1hr−1、上限が20hr−1であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.2hr−1、上限が10hr−1である。更に好ましくは、下限が0.3hr−1、上限が5hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの油脂の流量(mL・hr−1)+1時間あたりのアルコールの流量(mL・hr−1)}/触媒容量(mL)
【0041】
本発明の製造方法において触媒として不溶性固体触媒を用いる場合は、反応を繰り返し実施することができるため、反応終了後に未反応原料や中間体グリセリド等を含んでいてもよい。この場合には、例えば、反応終了後の混合液から触媒の非存在下、アルコール及び水等の軽沸分を留去した後、この流出液から未反応のグリセリド類及び遊離脂肪酸を分離及び回収し、原料油脂類とともに再使用することが好ましい。これにより、高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセリンをより高収率で得ることが可能となり、精製コストを更に充分に削減することができる。
【0042】
上記接触工程の好ましい形態としては、バッチ式(回分式)又は連続流通式であり、中でも、触媒分離の工程が不要となることから、固定床流通式であることが好適である。すなわち、上記接触工程は、固定床流通反応装置を使用して行われることが好ましい。また、バッチ式の好ましい形態としては、触媒を油脂類とアルコールとの混合系に投入する形態である。
【0043】
本発明はまた、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、上記製造方法は、触媒が処理された後に、触媒充填反応塔内に充填される脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法でもある。
上述した好ましい形態と触媒が処理された後に触媒充填反応塔内に充填される形態とを適宜組み合わせて用いることができる。例えば、上記触媒は、少なくとも一度脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に使用されたものを処理したものであることが好ましい。
【0044】
上記製造方法においては、通常、固定床連続流通式反応装置により、油脂類とアルコールとを固体触媒を固定相とした充填反応塔内で触媒と接触させることになる。このような製造方法は、触媒分離の工程が不要となる点で好ましい。本発明の好ましい実施形態としては、触媒充填反応塔内で反応した反応後液をセトラー内で静置して、エステル相とグリセリン相とに分離する形態が挙げられる。グリセリン相を分離して得られたエステル相を、更に触媒充填反応塔内でアルコールと反応させて得られた反応後液からアルコールを留去した後に、セトラー内で静置してエステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを得ることが好ましい。このようにして得られた脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンは、目的に応じて、蒸留塔の操作により、更に精製することが好ましい。
【0045】
上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種での処理は、上記接触工程で得られる生成物、上記処理液に用いるアルコール及び水からなる群から選択される少なくとも1種の処理液で処理することが好ましい。
上記触媒の処理におけるその他の条件については、触媒の処理について上述した通りである。
上記接触工程における油脂類、アルコール、触媒、及び、その他の化合物の種、量等については、上述した通りである。
上記接触工程における温度、圧力等の条件については、上述した通りである。
【0046】
本発明は更に、上述の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる触媒の前処理方法でもある。
このような触媒の前処理方法は、触媒の触媒活性を高めることができる。フレッシュな触媒を前処理することが好ましい。
本願発明の効果は、前処理される触媒として、誘導期のあるフレッシュな触媒を用いる場合に最も顕著な効果を奏する。
上記誘導期のあるフレッシュな触媒は、一度も使用されていない状態において触媒活性が低い状態にあり、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における触媒として誘導期が経過するまで使用しなければ、本来の触媒活性を発揮することができない。このような誘導期のあるフレッシュな触媒を前処理することにより、該製造方法における触媒として最初から充分な触媒活性を発揮することができることになる。
触媒の処理における条件については、上述した通りである。
【0047】
本発明はそして、上述の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる触媒の賦活方法でもある。
このような触媒の賦活方法は、劣化した触媒の触媒活性を高めることができる。
劣化した触媒とは、少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用されたことにより、触媒活性が低減された触媒を意味する。
上記劣化した触媒は、触媒活性が低い状態にあり、本来の触媒活性を発揮することができない。このような劣化した触媒を賦活することにより、該製造方法における触媒として劣化する前の充分な触媒活性を発揮することができることになる。
触媒の処理における条件については、上述した通りである。
本発明の好ましい実施形態としては、前処理を行うことにより、充分な触媒活性を発揮することができる触媒を脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの合成を行う反応塔等の場所とは別の場所に貯蔵又は保管しておいて、必要なときに使用する形態が挙げられる。こうすることにより、反応開始直後から高転化率の反応液が得られるため、誘導期中に得られる転化率の低い反応液がなく、原料を有効に活用できる。また、触媒の活性を事前に評価することが可能となり、確実に活性を有する触媒を用いることが可能となる。また、賦活処理においては、触媒を反応塔等に充填したまま、処理液で処理する形態が挙げられる。更に、前処理又は賦活処理において、触媒を反応塔等に充填したまま、処理液を循環させ、リサイクルしながら処理する形態が挙げられる。こうすることにより、少量の処理液で効率的に処理を行うことが可能となる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルは、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途に好適に用いられることとなる。中でも、上記製造方法により、植物性油脂や廃食油を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルを用いたディーゼル燃料は、その製造工程においてユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、触媒を繰り返し利用できるため、製造段階から環境保全効果を充分に発揮することが可能となり、各種の燃料として好適に利用することができる。
【0049】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態を図1に示す。なお、本発明は、これらの形態に限られるものではない。
【0050】
図1においては、固定床連続流通反応器に賦活処理の設備を備えた装置により、油脂類としてパーム油を用いてアルコールとしてメタノールを用いて、これらを上記処理液で処理された固体触媒を固定相とした充填反応塔内で触媒と接触させる工程と、得られたグリセリンにより賦活処理を行う工程が示されている。触媒充填反応塔内で反応した反応後液をメタノール留去後、セトラー内で静置して、エステル相とグリセリン相とに分離する。グリセリン相を分離して得られたエステル相を、更に触媒充填反応塔内でメタノールと反応させて得られた反応後液からメタノールを留去した後に、セトラー内で静置してエステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを得る。それぞれのセトラーで分離されたグリセリンはタンクに回収する。触媒の活性が低下した場合は、反応を停止し解圧する。反応塔の入り口を賦活処理ラインに切り換え、グリセリンを反応塔に流通し賦活処理を行う。賦活処理終了後、賦活処理ラインから原料供給ラインに切り替え、メタノールにより反応塔内に残留したグリセリンを洗い流す。十分洗い流したら反応塔を反応温度及び反応圧力まで昇温、昇圧し、パーム油を流して反応を再開する。また、フレッシュな触媒を触媒反応塔内に充填し、グリセリン回収タンクにあらかじめグリセリンを充填しておけば、触媒の前処理を行うことも可能である。賦活処理及び前処理に使用したグリセリンは、グリセリン回収タンクに回収し、循環して使用してもよいし、回収せずに廃棄してもよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法は、上述のような構成よりなるため、フレッシュな触媒又は少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用された触媒の触媒活性を充分に高めることができ、このような触媒を上記製造方法において何度でも繰り返し使用することができることになり、本発明の製造方法において転化率、収率を優れたものとすることができる。また、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途、中でも、バイオディーゼル燃料としての用途に好適に用いられることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
下記の実施例等において、転化率及び収率は下記式により算出した。
転化率(モル%)=(反応終了時の油脂類の消費モル数)/(油脂類の仕込みモル数)×100(%)
メチルエステル収率(モル%)=(反応終了時のメチルエステル生成モル数)/(仕込み時の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
グリセリンの収率(モル%)=(反応終了時の遊離グリセリンの生成モル数)/(仕込み時の有効グリセリン成分のモル数)×100(%)
なお、有効脂肪酸類とは、油脂類に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類、遊離脂肪酸類のことをいう。すなわち、仕込み時の有効脂肪酸類のモル数は、下記式で算出される。
仕込み時の有効脂肪酸類のモル数(モル)=[油脂類の仕込み量(g)×油脂類のけん化価(mg−KOH/g−油脂)/56100]
また、有効グリセリン成分とは、本発明の方法によってグリセリンを生成することができる成分をいい、具体的には、油脂類中に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類をいう。有効グリセリン成分の含有量は、油脂類(反応原料)をけん化することによって遊離するグリセリンの存在量をガスクロマトグラフィーによって定量することによって算出される。
【0053】
実施例1
フレッシュなMnTiO触媒(5g)を内部容積200mLのオートクレーブ中で、処理液としてグリセリン(50g)を用いて200℃で24時間処理を行った。室温で触媒を30mLのメタノールで2回洗浄して風乾を行った。内部容積200mLのオートクレーブ内にパーム油(61.5g)、メタノール(20g)及び処理を行った触媒(2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表1に示す。
【0054】
実施例2〜5
処理液として、メタノール、水、オレイン酸メチルエステル及び1質量%濃度のパルミチン酸のメタノール溶液を用いた以外は実施例1と同様にして処理及び反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
実施例6
フレッシュなMnTiO触媒(5g)を内部容積50mLのオートクレーブ内の中空に設置したるつぼに入れ、水(0.5g)を触媒には直接接触しないように内部容積50mLのオートクレーブ底部に入れて、200℃で24時間処理を行った。その後の処理及び反応評価は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及びフレッシュなMnTiO触媒(2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
フレッシュなMnTiO触媒(5g)を内部容積200mLのオートクレーブ中、パーム油(50g)で200℃で24時間処理を行った。内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及び処理を行った触媒(2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
参考例1
内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及びフレッシュなMnTiO触媒(2.5g)を仕込み、200℃で24時間反応させて触媒を活性化した。触媒を30mLのメタノールで2回洗って風乾を行った。内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及び活性化した触媒(2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表2に示す。
【0060】
実施例7
劣化したMnTiO触媒(5g)を内部容積200mLのオートクレーブ中、グリセリン(50g)で200℃で24時間処理を行った。触媒を30mLのメタノールで2回洗って風乾を行った。内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及び処理を行った触媒(2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表2に示す。
実施例8
処理液をメタノールとした以外は実施例7と同様に行った。結果は表2に示す。
【0061】
比較例3
内部容積200mLのオートクレーブにパーム油(61.5g)、メタノール(20.0g)及び劣化した触媒(実施例7に用いた触媒で処理を行っていないもの、2.5g)を仕込み、200℃で3時間反応させた。結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例9
冷却管と攪拌器を備えたガラス容器内にフレッシュなMnTiO触媒(20g)とグリセリン200gを仕込み、常圧で200℃、24時間処理を行った。その後、室温で触媒を100mLのメタノールで2回洗浄を行い風乾させた。
次に、処理を行った触媒を用いて、固定床流通反応装置を用いて評価を行った。内径10mm、長さ210mmのSUS316製直管反応器内に処理を行った触媒15mLを充填し、反応に用いた。反応器出口には、背圧弁を取り付け圧力制御できるようにした。
精密高圧定量ポンプを用いてパーム油とメタノールとを双方とも0.105g/min(当量比9、LHSV=1.0hr−1)の流量で反応器に流通させながら、背圧弁で反応器内の圧力を5MPaに設定した。反応管部はオーブンを使用して外部から加熱し、温度を200℃に設定した。温度及び圧力がそれぞれ200℃及び5MPaに安定してから3時間後のパーム油転化率は99モル%で脂肪酸アルキルエステル収率は93モル%でありグリセリン収率は92モル%であった。
比較例4
処理を行っていないフレッシュなMnTiO触媒を用いた以外は実施例9と同様にして、固定床流通反応装置で反応を行った。その結果、実施例9と同様の転化率及び収率が得られるまでに温度及び圧力がそれぞれ200℃及び5MPaに安定してから50時間を要した。
実施例10
固定床流通反応器で処理液としてグリセリンを用い、グリセリンを循環させ前処理を行った。
内径10mm、長さ210mmのSUS316製直管反応器内にフレッシュなMnTiO触媒15mLを充填した。原料タンクにグリセリン(31.2g)を仕込み、反応器の出口から出た処理液がグリセリン原料タンクに戻るようにした。精密定量ポンプを用いて、グリセリンを0.156g/min(LHSV=0.5hr−1)の流量で常圧で循環させた。反応管部はオーブンを使用して外部から加熱し、温度を200℃に設定した。温度が安定してから24時間循環させ処理を行った。処理終了後、60℃まで冷却し、精密定量ポンプを用いてメタノールを0.105g/min(LHSV=0.5hr−1)の流量で9時間通液し、洗浄を行った。洗浄後、実施例9と同様の条件で固定床流通反応で反応評価を行った。実施例9と同様の結果が得られるまでは温度及び圧力がそれぞれ200℃及び5MPaに安定してから10時間であった。
【0064】
実施例11
含水率が1質量%のメタノール及びパーム油を用いた以外は実施例9と同様に固定床流通評価を行い、転化率70モル%、脂肪酸メチルエステル収率36モル%、グリセリン収率20モル%まで低下したMnTiO触媒について、固定床流通反応器で賦活化を行った。
反応停止後、冷却し、反応器内部を窒素でパージした。その後、精密定量ポンプを用いて、グリセリンを0.156g/min(LHSV=0.5hr−1)の流量で200℃、常圧で24時間通液した。処理後、60℃まで冷却し、メタノールを0.105g/min(LHSV=0.5hr−1)の流量で11時間通液し、洗浄した。再度、実施例9と同様の条件で反応を行ったところ、転化率98モル%、脂肪酸メチルエステル収率86モル%、グリセリン収率85モル%であり、賦活されていることが確認された。再び活性低下が起こっても同様の操作で賦活化が可能なことも確認された。
【0065】
触媒調製例1:TiO/ZrO触媒の調製
チタンテトライソプロポキシド(17g)とイソプロピルアルコール(2.3g)を混合した溶液中に、酸化ジルコニウム(60g)(第一稀元素化学工業社製、RSC−HP)を混練し、攪拌しながら蒸発乾固した。更に120℃で一晩乾燥させた後、空気気流下で900℃×3時間焼成させることにより、TiO/ZrO触媒を得た。TiO/ZrO触媒100質量%中のチタン及びジルコニウムの含有量は、各々、金属換算で4.4質量%及び68.6質量%であった。TiO/ZrO触媒のXRD(X線粉末回折法)測定の結果、酸化ジルコニウムは単斜晶構造であることがわかった。
【0066】
実施例12
触媒として上記触媒調製例1で調製されたTiO/ZrOを用い、触媒量を30mLとし、LHSV=0.45hr−1とした以外は実施例9の固定床反応評価と同様にして反応を行った。温度と圧力が安定してから50時間後の転化率、脂肪酸アルキルエステル収率及びグリセリン収率はそれぞれ、100モル%、98モル%、97モル%であったが、原料中の水分量が1質量%となるように水を添加したところ、転化率、脂肪酸アルキルエステル収率及びグリセリン収率がそれぞれ66モル%、47モル%及び36モル%まで低下した。この触媒について、処理液として、パーム油から合成して得られた脂肪酸メチルエステル(パームエステル)を用い、流量を0.105g/min(LHSV=0.5hr−1)とした以外は実施例11と同様にして賦活化を行った。その結果、添加率、脂肪酸アルキルエステル収率及びグリセリン収率は98モル%、92モル%及び91モル%となり、賦活化されていることが確認された。
【0067】
比較例5
含水率が1質量%のメタノール及びパーム油を用いた以外は実施例9と同様に固定床流通評価を行い、転化率70モル%、脂肪酸メチルエステル収率36モル%、グリセリン収率20モル%まで低下したMnTiO触媒について、賦活処理をせずに、水を含まないメタノール及びパーム油に原料を切り替えたが、転化率及び収率の向上は見られなかった。
【0068】
【表3】

【0069】
上述した実施例及び比較例から、次のようにいえることがわかった。すなわち、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法において、該触媒を該接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものとすることにより、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの収率において有利な効果を発揮し、それが顕著であることがわかった。
【0070】
具体的には、フレッシュな触媒の前処理のために、触媒を上記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものとすることにより、転化率86〜96モル%、脂肪酸メチルエステルの収率67〜80モル%、グリセリン36〜55モル%となる。また、誘導期を有する触媒を用いて固定床流通反応を行った場合には、誘導期を短縮することが可能となる。このような、触媒が活性化され、高効率かつ高選択的に燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができるという効果は、際立ったものである。それに対して、フレッシュな触媒をそのまま用いたり、パーム油で処理した場合、転化率61〜69モル%、脂肪酸メチルエステルの収率33〜38モル%、グリセリンの収率10〜12モル%となり、効率よく脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができない。実施例1では、処理液としてグリセリンを用いており、転化率96モル%、脂肪酸メチルエステルの収率80モル%、グリセリンの収率55モル%となり、更に本発明の効果が顕著に現れることになる。
【0071】
また、少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用された触媒の賦活のために、触媒をグリセリン又はメタノールで処理されたものとすることにより、転化率82〜90モル%、脂肪酸メチルエステルの収率60〜73モル%、グリセリンの収率29〜43モル%となる。このような触媒が活性化され、高効率かつ高選択的に燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができるという効果は、際立ったものである。それに対して、使用されて劣化した触媒をそのまま用いる場合は、転化率69モル%、脂肪酸メチルエステルの収率44モル%、グリセリンの収率16モル%となり、効率よく脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンを製造することができない。
上述した少なくとも脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に一度使用された触媒の賦活のための実施例では、処理液としてグリセリン又はメタノールを使用し、固定床流通反応を行った場合には、処理液としてグリセリン又は脂肪酸メチルエステルを使用しているが、接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で触媒を処理するものであれば、阻害物質が取り除かれて触媒の活性点が発現し、触媒活性が高められる機構は同様である。したがって、触媒を、接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものとすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、処理液としてグリセリン又はメタノールを使用し、固定床流通反応を行った場合には、処理液としてグリセリン又は脂肪酸メチルエステルを使用する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【0072】
なお、上述した実施例では、触媒として金属酸化物であるイルメナイト構造を有するMnTiO及びTiO/ZrOを使用しているが、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法に用いられる触媒であれば、接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されることにより阻害物質が取り除かれて触媒の活性点が発現し、触媒活性が高められる機構は同様である。したがって、脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法に用いられる触媒を、接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものとすれば、本発明の有利な効果を発現することは確実であるといえる。少なくとも、触媒としてイルメナイト構造を有する金属酸化物を使用する場合においては、上述した実施例及び比較例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、
該触媒は、該接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理されたものである
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項2】
前記接触工程で得られる生成物、アルコール、水及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも1種で処理する温度は、100〜300℃である
ことを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項3】
前記触媒は、金属酸化物を必須とするものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物は、イルメナイト構造を有するものである
ことを特徴とする請求項3記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項5】
前記触媒は、少なくとも一度脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に使用されたものを処理したものである
ことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項6】
油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法であって、
該製造方法は、触媒が処理された後に、触媒充填反応塔内に充填される
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項7】
前記触媒は、少なくとも一度脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造に使用されたものを処理したものである
ことを特徴とする請求項6記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる
ことを特徴とする触媒の前処理方法。
【請求項9】
請求項5又は7に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/若しくはグリセリンの製造方法で用いられる
ことを特徴とする触媒の賦活方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−111085(P2008−111085A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296480(P2006−296480)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】