説明

脂肪酸エステル化合物、その検出方法、及びその製造方法

【課題】プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて得られた脂肪酸エステル化合物、その検出方法、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて抽出される脂肪酸エステル化合物であって、該脂肪酸エステル化合物は、ルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロポリス原塊を原料として超臨界抽出法を用いて抽出されるプロポリス抽出物であって、詳しくは該プロポリス抽出物において、特定の長鎖脂肪酸とトリテルペンアルコールからなる(トリテルペン)脂肪酸エステル化合物、それらの検出方法、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロポリスは、巣の防御及び補強等を目的として、ミツバチが採取した植物の滲出液、新芽、及び樹脂(樹液)等にミツロウを混ぜて作られる膠状ないしは蝋状の物質である。このプロポリスは、ミツバチが原料として巣箱周辺の種々の植物を採取して生産されるため、多種多様な成分を含有している。
【0003】
プロポリス原塊は、紀元前4世紀に編纂されたアリストテレスの動物誌に「皮膚疾患、切り傷、感染症の治療薬」として記載されているように、抗菌効果や抗炎症効果を有していることが古くから知られている。また、プロポリスの主要な生理活性として、抗酸化作用及び免疫賦活作用が知られている。そのため、プロポリスは、ヨーロッパにおいては医薬品或いは健康食品の素材として古くから用いられてきたが、1985年以降から日本においても健康食品や化粧品の素材の他、疾病の予防や治療等の多くの製品に使用されるようになった。
【0004】
プロポリス中に含まれる有効成分としては、極性の高い有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、さらには極性の低いテルペノイド類等の非常に多様な種類の有効成分が確認されている。これら多様な種類の有効成分の生理活性が複雑に作用しあって、プロポリスの優れた生理活性を形成しているものと考えられる。しかしながら、プロポリス原塊中には、上記以外にもこれまで知られていない有効成分が多数含有されているものと考えられている。
【0005】
ところで、プロポリス原塊は、そのままの状態で摂取するのは極めて困難であることから、従来より、例えば特許文献1に開示される方法によって、プロポリス原塊に含まれる有用成分が抽出されている。具体的には、親水性有機溶媒を用いた抽出方法、水を用いた抽出方法、及び超臨界抽出法が用いられている。
【0006】
従来より、例えば親水性有機溶媒を用いて抽出された抽出物の確認作業は、全ての抽出成分を分離し、定性及び定量することは困難であることから、主要抽出成分であるp−クマル酸、ケルセチン、又は桂皮酸誘導体等を指標として、その化合物を検出することにより確認が行なわれていた。また、水を用いて抽出された抽出物は、主要抽出成分であるクロロゲン酸類等を指標として、その化合物を検出することにより確認が行なわれていた。
【特許文献1】特開2003−61593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて得られたプロポリス抽出物においては、超臨界抽出法により得られる特有の成分が見つかっていなかったため、親水性有機溶媒や水を用いて抽出されるp−クマル酸及び桂皮酸誘導体等を指標となる化合物として使用していた。そのため、超臨界抽出法によって得られる抽出物の確認作業は、正確性の観点から未だ不十分なものであった。
【0008】
本発明は、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて得られたプロポリス抽出物において、プロポリス原塊中に含有されていることがこれまで知られていなかった新規な有効成分を発見したことに基づくものである。
【0009】
本発明の目的とするところは、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて得られた新規な脂肪酸エステル化合物、その検出方法、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の脂肪酸エステル化合物は、プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて抽出されるルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の脂肪酸エステル化合物において、前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、脂肪酸エステル化合物の検出方法において、プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて超臨界流体に溶解する成分を抽出する工程、前記抽出された成分について、クロマトグラフィを用いて分離する工程、及び、ルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸エステル化合物を検出する工程からなることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の脂肪酸エステル化合物の検出方法において、前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明の脂肪酸エステル化合物の製造方法は、プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて、脂肪酸エステル化合物としてルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種を抽出する工程からなることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の脂肪酸エステル化合物の製造方法において、前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて得られた新規な脂肪酸エステル化合物、その検出方法、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明の脂肪酸エステル化合物を具体化した第1の実施形態を説明する。
第1の実施形態の脂肪酸エステル化合物は、プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて抽出される。脂肪酸エステル化合物として、具体的にはルペオール−3−テトラコサン酸(lupeol-3-tetracosanoic acid)、ルペオール−3−ヘキサコサン酸(lupeol-3-hexacosanoic acid)、ルペオール−3−オクタコサン酸(lupeol-3-octacosanoic acid)、ルペオール−3−トリアコンタン酸(lupeol-3-triacontanoic acid)、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸(lupeol-3-dotriacontanoic acid)、β−アミリン−3−テトラコサン酸(β-amyrin-3-tetracosanoic acid)、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸(β-amyrin-3-hexacosanoic acid)、β−アミリン−3−オクタコサン酸(β-amyrin-3-octacosanoic acid)、β−アミリン−3−トリアコンタン酸(β-amyrin-3-triacontanoic acid)、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸(β-amyrin-3-dotriacontanoic acid)である。これらの脂肪酸エステル化合物は、長鎖脂肪酸とトリテルペンアルコールがエステル結合した構成を有し、プロポリス中においてロウ成分を構成する。
【0018】
抽出原料であるプロポリスは、巣の防御及び補強等を目的として、セイヨウミツバチ等のミツバチが採取した植物の滲出液、新芽及び樹脂(樹液)等に唾液を混ぜて作られる膠状ないしは蝋状の物質である。第1の実施形態において使用されるプロポリス原塊の産地は、特に限定されず中国、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ等の南米諸国、ハンガリー、ブルガリア等のヨーロッパ、カナダ等の北米、オーストラリア、ニュージーランド等のオセアニア等を使用することができる。
【0019】
プロポリス原塊は、そのままの形態で超臨界抽出法を適用するための抽出原料として使用することができる。また、プロポリス原塊の親水性有機溶媒に対する不溶性の画分(不溶性の残渣)について超臨界抽出法を適用するための抽出原料として使用してもよい。ここで用いられる親水性有機溶媒としては、水に溶解する性質を有するエタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類を適宜選択して使用することができる。これらの親水性有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、最終的に経口摂取することを考えればエタノールが最も好ましい。エタノール以外のメタノール等を溶媒として用いる場合は、後処理工程において溶媒を完全除去することが好ましい。
【0020】
また、前記親水性有機溶媒を用いて抽出する場合、抽出処理前に採取時に混入するゴミ等の夾雑物を除去し、粉砕することが好ましい。前記親水性有機溶媒としてエタノールを使用する場合、抽出温度は5〜40℃であることが好ましい。抽出温度が5℃未満の場合には、溶解成分と不溶成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が40℃を超える場合には、抽出溶媒(エタノール)が蒸発するため作業性の低下を招く。なお、抽出操作は、前記抽出温度で攪拌しながら数時間程度行えばよい。そして、上記の抽出条件で溶解成分を抽出した後、濾過及び遠心分離などの公知の固液分離方法を適用することによりプロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分を得ることができる。
【0021】
超臨界抽出法は、公知の超臨界流体抽出装置を用い、超臨界流体を臨界温度以上及び臨界圧力以上の条件下で超臨界状態にした超臨界流体とプロポリス原料とを接触させることにより、プロポリス中の超臨界流体に溶解する成分を抽出するものである。超臨界流体として二酸化炭素を用いる場合は、31.1℃の臨界温度以上及び72.8気圧(7.4MPa)の臨界圧力以上として超臨界流体状態となった二酸化炭素によって上記プロポリスの抽出原料から抽出する。この二酸化炭素を用いた超臨界抽出物には、これまでプロポリスに含有されていることが確認されていなかった上記脂肪酸エステル化合物が含有されている。
【0022】
前記超臨界流体は、二酸化炭素以外にエタン、プロパン、二酸化炭素、亜酸化窒素、水等が使用可能であるが、二酸化炭素を用いるのが最も好ましい。この二酸化炭素は、臨界温度が常温に近いうえに極性がエタノールより低いという抽出対象化合物に適合する物理的、化学的性質を有している。二酸化炭素はこのように抽出工程での物性が優れているばかりでなく無味・無臭で超臨界抽出製品の味にも影響を及ぼさないことから本実施形態に用いる超臨界流体としては二酸化炭素が最も好ましい。
【0023】
超臨界流体抽出における操作には、超臨界流体が臨界点近傍において、わずかな温度差、圧力差に対して密度と溶解性が大きく変化する性質を利用するため処理の温度及び圧力には適切な上下幅が必要である。二酸化炭素を用いる場合の操作温度は、好ましくは32〜80℃、より好ましくは32〜50℃である。また、その操作圧力は、好ましくは73〜500気圧(7.4〜50.7MPa)、より好ましくは73〜400気圧(7.4〜40.5MPa)である。超臨界流体としての二酸化炭素の流量(流速)は、プロポリス原料1kgに対して、好ましくは1〜10kg/時間、より好ましくは3〜7kg/時間である。処理時間は、プロポリス原料の量や状態により異なるが、テスト又は処理実績から抽出が完了する時間を確認することで適宜に決定することが可能である。
【0024】
そして、上記の抽出条件で抽出されたプロポリスの超臨界抽出物の性状は、抽出の経過時間によっても変化する。多くはペースト状であるが一部は粉末ないし塊状の固体として得られることもある。エントレーナーとしてエタノールを用いるときは、エタノールを含んだ液状となる。超臨界抽出物は、抽出直後は抽出原料に含まれるエタノール、エントレーナーとしてのエタノール等が含まれるほか、断熱膨張で固体化した二酸化炭素が含まれる。さらに抽出経過時間によって異なる組成を持つ不均一な抽出物として得られるので、均一に攪拌しながらエタノールと二酸化炭素を除去して固形の超臨界抽出物とした後、粉砕すれば純粋な超臨界抽出物粉末となる。さらによりよい粉末特性を与えるために、必要に応じて、超臨界抽出物に乳糖やデキストリン等の賦形剤を添加して粉末化した超臨界抽出物粉末としてもよい。
【0025】
以上のように得られた脂肪酸エステル化合物は、上述したように構成成分として特定の長鎖脂肪酸と特定のトリテルペンアルコールがエステル結合した構造を有している。したがって、ロウ原料及び食品や化粧品の基材として各種製品に使用することができる。また、トリテルペンアルコールとしてのルペオールは、抗腫瘍作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗菌作用等を有することが知られている。脂肪酸エステル化合物を摂取することによりそれらの作用・効果の発揮が期待される。また、本実施形態の脂肪酸エステル化合物において、構成成分である長鎖脂肪酸は、低コレステロール血症として、高コレステロール血症のタイプIIに対して、抗血小板剤として、抗血栓剤及び抗虚血剤として用いられる製薬配合物の活性成分として製薬学的特性を有することが知られている。また、胃潰瘍の進行の阻害にも有効であることが知られている。したがって、第1の実施形態の脂肪酸エステル化合物はそれらの作用・効能の発揮を目的とした飲食品、医薬品、各種化学製品に好ましく適用することができる。
【0026】
このように、第1の実施形態の脂肪酸エステル化合物の適用分野としては、特に限定されず、例えば健康食品、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等に含有されて利用される。例えば、健康食品に含有させて利用する場合、含有成分の生理活性を損なわない範囲内で、賦形剤、光沢剤、ゲル化剤、増粘剤、甘味剤、乳化剤、香味料、色素、pH調整剤等を添加してもよい。脂肪酸エステル化合物の適用形態としては、そのままドリンク剤及びチンキ剤のような液状の製品として適用してもよい。また、澱粉やデキストリン等の賦形剤を混合した後、熱風乾燥や凍結乾燥することにより、粉末状にしてもよい。粉末化されて粉末剤や顆粒剤等の剤形で供給されたり、粉末や顆粒を圧縮成形した錠剤として供給されたり、ゼラチン製のカプセルに充填されたカプセル剤として供給してもよい。
【0027】
第1の実施形態の脂肪酸エステル化合物によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1の実施形態では、プロポリス原塊を原料として超臨界抽出法により、従来プロポリスに含有されていることが知られてなかった特定の脂肪酸と特定のトリテルペンアルコールからなるルペオール−3−テトラコサン酸等の脂肪酸エステル化合物が抽出される。したがって、それらの脂肪酸エステル化合物を各種ロウ材及び食品や化粧品の基材に使用することができる。
【0028】
(2)第1の実施形態では、超臨界流体として二酸化炭素を好ましく使用することができる。したがって、抽出物を安全に各種用途に適用することができる。
(3)第1の実施形態では、脂肪酸エステル化合物は、天然素材であるプロポリス原塊が抽出原料として使用される。したがって、安全に各種用途に適用することができる。
【0029】
(4)第1の実施形態では、抽出原料としてプロポリス原塊の親水性有機溶媒に対する不溶性の画分(不溶性の残渣)について超臨界抽出法を適用するための抽出原料として使用してもよい。プロポリス原塊の親水性有機溶媒に対する不溶性の画分にも特定のトリテルペンアルコールからなるルペオール−3−テトラコサン酸等の脂肪酸エステル化合物が含有されている。
【0030】
(5)第1の実施形態において、脂肪酸エステル化合物の構成成分であるルペオールは、抗腫瘍作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗菌作用等を有するため、摂取によりそれらの作用・効果の発揮を期待することができる。
【0031】
(6)第1の実施形態において、脂肪酸エステル化合物の構成成分である長鎖脂肪酸は、低コレステロール血症として、高コレステロール血症のタイプIIに対して、抗血小板剤として、抗血栓剤及び抗虚血剤として用いられる製薬配合物の活性成分として適用できることが期待される。また、胃潰瘍の進行の阻害に有効な成分として適用できることが期待される。
【0032】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・プロポリス原塊より親水性有機溶媒を用いて抽出する場合、本願発明の効果を阻害しない範囲において、親水性有機溶媒と水の混合物を配合してもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
以下、本発明の脂肪酸エステル化合物の検出方法を具体化した第2の実施形態を説明する。
【0034】
第2の実施形態の脂肪酸エステル化合物の検出方法は、プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて抽出する工程、クロマトグラフィを用いて抽出成分を分離する工程、第1の実施形態に記載される各脂肪酸エステル化合物を検出する工程からなる。
【0035】
超臨界抽出法は、抽出原料から超臨界流体に溶解する成分を抽出することにより行なわれ、第1の実施形態に記載される超臨界抽出法を適宜採用することができる。分離工程に用いられるクロマトグラフィとして、脂肪酸エステル化合物を分離することができる公知のクロマトグラフィを適宜採用することができ、具体的にガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、超臨界流体クロマトグラフィ、及び薄層クロマトグラフィ等を挙げることができる。各クロマトグラフィの使用方法としては、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、薄層クロマトグラフィでは、発色試薬として、例えば硫酸、ドラーゲンドルフ、トリテルペン発色試薬、塩化第二鉄、ブロモクレゾールグリーン等を使用することができる。各クロマトグラフィにより分離された脂肪酸エステル化合物は、各化合物の標準品等と比較することにより、又は核磁気共鳴装置等を用いて構造決定を行なうことにより検出することができる。
【0036】
第2の実施形態の脂肪酸エステル化合物の検出方法によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第2の実施形態の脂肪酸エステル化合物の検出方法は、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて抽出された抽出物を確認するために、第1の実施形態で得られた脂肪酸エステル化合物を指標とするものである。
【0037】
一般に、例えば親水性有機溶媒を用いて抽出された抽出物の確認作業は、全ての抽出成分について分離し、定性及び定量することは困難であることから、主要抽出成分であるp−クマル酸、ケルセチン、又は桂皮酸誘導体等を指標として、その化合物を検出することにより確認が行なわれていた。従来、プロポリス原塊より超臨界抽出法を用いて抽出された抽出物に対し、親水性有機溶媒や水を用いて抽出されるp−クマル酸及び桂皮酸誘導体等を指標となる化合物として使用していた。そのため、超臨界抽出法によって得られる抽出物の確認作業は、正確且つ十分なものとはいえなかった。したがって、主として、超臨界抽出法を用いて得られる抽出物について、第1の実施形態に記載される脂肪酸エステル化合物を確認のための指標とすることにより、正確な超臨界抽出物の確認作業を行なうことができる。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・抽出効率確認方法において用いられる各クロマトグラフィは、2種以上を組み合わせて実施してもよい。それにより、脂肪酸エステル化合物の検出作業の正確性をより向上させることができる。
【0039】
・第2の実施形態において、抽出原料は、第1の実施形態に記載されるプロポリス原塊の親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられてもよい。かかる不溶性の画分にも脂肪酸エステル化合物が含有されている。
【0040】
・第2の実施形態において、クロマトグラフィにより分離された各脂肪酸エステル化合物は、けん化処理することにより脂肪酸部分とトリテルペンアルコール部分を別々に定性することにより検出してもよい。
【0041】
・第2の実施形態において、超臨界抽出物を薄層クロマトグラフィ等の各クロマトグラフィで分離する前に、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィによって粗精製を行なってもよい。
【0042】
・第2の実施形態において、クロマトグラフィにより分離された各脂肪酸エステル化合物は、超臨界抽出物の主要成分として、例えば定量分析、及び抽出効率の確認にも使用してもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例1:脂肪酸エステル化合物の分離・精製)
ブラジル産グリーンプロポリスの原塊6kgを粉砕機で粉砕した後、95%エタノール30リットルを加えて室温で24時間攪拌抽出した。次に、プロポリス粉砕物を含む抽出液を遠心分離することによって、固液分離し、エタノールに不溶性の画分4.2kg(固形分50重量%)を得た。この不溶性画分を減圧下で乾固させた後、乳鉢で粉砕することによって粉末とした。かかる粉末1kgを超臨界流体処理装置(三菱化工機株式会社製)で2時間超臨界流体処理を行った。なおこのとき、超臨界ガスとして二酸化炭素を用い、流速28L/時間、最高圧力345気圧(35.0MPa)、温度50℃の条件で抽出した。抽出物を均一に混合することによって超臨界抽出物114gが得られた。
【0044】
次に、上記ブラジル産グリーンプロポリスの超臨界抽出物10gを、クロロホルムに溶解させシリカゲルに塗し溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(BW-820MH、富士シリシア化学製)に付した。溶離溶媒をn−ヘキサン→n−ヘキサン:クロロホルム=4:1→2:1→1:1→1:2→クロロホルムまで順次濃度勾配をかけ分画し、23画分を得た。これらの画分を薄層クロマトグラフィ(TLC;Silica gel 60 F254、Merck社製)にて展開し、20%硫酸試薬を噴霧後加熱し呈色させ、スポットを確認し8つのスポット群に分類した。上記カラムクロマトグラフィで2番目に溶出されるスポット群を、上記シリカゲルクロマトグラフィにて再精製し、化合物(350mg)を得た。
【0045】
(試験例2:脂肪酸エステル化合物の構造決定)
(a)核磁気共鳴装置を用いた構造決定
上記化合物を核磁気共鳴装置(NMR300、VARIAN製)で測定した結果を下記に示す。
【0046】
H−NMR(in CDCl)δ:0.84、0.84、0.85、1.03、0.94、0.79(3H、s、H−23、24、25、26、27、28)、4.56、4.68(2H、brs、H−29)、1.68(3H、s、H−30)、2.38(1H、ddd、J=5.5、11.0、11.0Hz、H−19)、4.47(1H、dd、J=5.5、11.0Hz、H−3)、0.88(3H、t、J=7.0Hz、H−n’)、1.28(2H、m、H−(n−1)’)、1.25(2H、m、H−(n−2)’)、1.32(2H、m、H−4’)、1.63(2H、m、H−3’)、2.29(2H、t、J=7.5Hz、H−2’)
13C−NMR(in CDCl)δ:38.9、24.3、80.9、38.3、55.8、18.8、34.7、41.3、50.8、37.6、21.5、25.6、38.5、43.3、28.0、36.1、43.5、48.7、48.5、151.1、30.3、40.5、28.5、17.2、16.8、16.5、15.1、18.6、109.6、19.8(C−1〜30)、173.7、35.4、25.7、(C−1’〜3’)、29.7〜30.2(C−4’〜C−(n−3)’)、32.5(C−(n−2)’)、23.3(C−(n−1)’)、14.7(C−n’)
また、HMQC、HMBCの測定により、ルパン骨格のルペオールの構造が支持され、その3位のプロトン(δ4.47、H−3)と脂肪酸のカルボキシル基(δ173.7、C−1’)に相関が認められた。この結果から、化合物はルパン骨格を持つトリテルペンのルペオールと、長鎖脂肪酸がエステル結合した化合物であることが推定された。
(b)けん化処理及び長鎖脂肪酸の定性
長鎖脂肪酸部位を確認するため、上記化合物を0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液25mLを加え、還流冷却器をつけたフラスコを水浴で1時間穏やかに加熱してけん化処理を行い、次いで酢酸エチル/水分配を行い、酢酸エチル層を溶媒留去し、長鎖脂肪酸を得た。次にこの長鎖脂肪酸1mgに0.1mLのTMSI−Hを加え、TMS化させることにより分析試料を調製し、ガスクロマトグラフィ質量分析計(GC−MS;Automass system II、JOEL製)にて測定を行なった。測定条件は、カラム(DB−5:(5%Phenyl)-methylpolysiloxane、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)、条件(イニシャル200℃(3分保持)→5℃/分昇温→300℃(17分保持)、40分測定)で行った。
【0047】
その結果、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、及びドトリアコンタン酸に相当する分子イオンピークが観測された。また市販の標準品との比較において、保持時間や開裂パターンが一致したことから、化合物はトリテルペンのルペオールに、これらの5種類の脂肪酸が各々エステル結合した5種類の脂肪酸エステルであることが判明した。
【0048】
以上のように、従来プロポリス中に含有されていることが知られていなかった上記脂肪酸エステル化合物が、超臨界抽出法により抽出されることが確認された。したがって、プロポリスから超臨界抽出法を用いて抽出された抽出物について、抽出物中に含有されている上記脂肪酸エステル化合物を公知のクロマトグラフィを使って分離し、標準品と比較する等の方法により検出することが可能となった。それにより、超臨界抽出法を用いて得られる抽出物について、上記脂肪酸エステル化合物を確認のための指標とすることにより、より正確な抽出物の確認作業を行なうことができる。
【0049】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)健康食品、医薬品、医薬部外品、及び化粧品に適用される前記プロポリス抽出物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて抽出されるルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする脂肪酸エステル化合物。
【請求項2】
前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸エステル化合物。
【請求項3】
脂肪酸エステル化合物の検出方法において、
プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて超臨界流体に溶解する成分を抽出する工程、
前記抽出された成分について、クロマトグラフィを用いて分離する工程、及び、
ルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種の脂肪酸エステル化合物を検出する工程からなることを特徴とする脂肪酸エステル化合物の検出方法。
【請求項4】
前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする請求項3に記載の脂肪酸エステル化合物の検出方法。
【請求項5】
プロポリス原塊を抽出原料として超臨界抽出法を用いて、脂肪酸エステル化合物としてルペオール−3−テトラコサン酸、ルペオール−3−ヘキサコサン酸、ルペオール−3−オクタコサン酸、ルペオール−3−トリアコンタン酸、ルペオール−3−ドトリアコンタン酸、β−アミリン−3−テトラコサン酸、β−アミリン−3−ヘキサコサン酸、β−アミリン−3−オクタコサン酸、β−アミリン−3−トリアコンタン酸、及びβ−アミリン−3−ドトリアコンタン酸から選ばれる少なくとも一種を抽出する工程からなることを特徴とする脂肪酸エステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記抽出原料は、前記プロポリス原塊から親水性有機溶媒に対する不溶性の画分が用いられることを特徴とする請求項5に記載の脂肪酸エステル化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−120712(P2009−120712A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295851(P2007−295851)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】