説明

脂肪酸モノアルカノールアミドの製造方法

【課題】 塩基性触媒や有機溶剤の使用を要することなく、エステルアミン、アミドエステル及び環状アミン等の不純物の含有量が極微量かまたは実質的に無い脂肪酸モノアルカノールアミドの製造方法を提供すること。
【解決手段】 脂肪酸をモノアルカノールアミンと反応させ脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する方法であって、脂肪酸に対して当量もしくはモル過剰のモノアルカノールアミンを140〜170℃の温度下に反応させ、その際、反応は、反応温度を140〜170℃の範囲に維持できる限り水を反応系から実質的に排出せずに水の存在下に行う方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸モノアルカノールアミドの製造方法、詳しくはエステルアミン、アミドエステル及び環状アミン等の不純物の含有量が極微量かまたは実質上無く、また臭い、着色の少ない脂肪酸モノアルカノールアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸モノアルカノールアミドは、洗浄剤の増粘、泡安定化、洗浄力向上に寄与する物質として、台所用洗剤や化粧品の肌・毛髪洗浄剤(ボディーソープ、ヘアーシャンプー)等に用いられている。
【0003】
脂肪酸とモノアルカノールアミンを用いて脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する場合、脱水縮合反応であるため、脂肪酸とモノアルカノールアミンを混合・加熱して反応を行い、反応により出てきた水を蒸留などによって、系外に排出して反応を進めるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、モノアルカノールアミンは、同一分子内に脂肪酸と反応し得る反応サイトとしてアミンとアルコールの2つを有している。このため、目的物である脂肪酸モノアルカノールアミド(以降アミド(1))以外に、副生成物として脂肪酸エステルアミン(以降エステルアミン(2))及び脂肪酸モノアルカノールアミドエステル(以降アミドエステル(3))が生成する可能性があることは、当然のこととして予測できる。
【0005】
例えばモノエタノールアミンと脂肪酸の反応においては次のような物質が生成する。
目的反応物 : RCONHCHCH−OH (1)
副生成物 : HNCHCHOOCR (2)
副生成物 : RCONHCHCHOOCR (3)
【0006】
さらに、反応を行った物質をガスクロマトグラフィー法によって分析を行ったところ、これらの物質のピークに加えて、これらとは全く違う位置にもピークが出現していた。これらの副生成物については、GC質量分析により、主として環状のピロリドンおよびイミダゾール誘導体と推定される。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
特許4079470号(特許文献1)では、脂肪酸に対し、1.0〜1.3のモノアルカノールアミンを2段階で添加し、特に第一段階目において、0.8〜0.95モルを反応することによってアルカノールアミド及びアミドエステルを主成分とする混合物を生成させ、第二段階目に残りのモノアルカノールアミンを第一段階反応物へ添加することにより、アミドエステルをアルカノールアミドに変換させることを特徴としている。脂肪酸が過剰な系においては、反応水を系から除き、150〜160℃で反応を行うことにより、目的物のアミドと副生成物であるアミドエステルが生成される。しかしながら、アミドエステルが大量に生成している場合、第二段階において、アルカノールアミンの添加だけではアミドエステルのアルカノールアミドへの変換は非常に遅く実際的ではなく、実施例で行っているように、ナトリウムメチラートメタノール溶液を触媒として使用することによって、その転換スピードを増加しなければならない。しかし、有機溶媒の使用は、反応後の系外への除去を行う必要があり、特にメタノールは家庭用品品質基準法や化粧品規準において“製品中から検出されないこと”という安全性の基準があり、その様な物質の使用は問題がある。
【0010】
また、特開平9−157234号公報(特許文献2)においては、脂肪酸とアルカノールアミンを2段階で添加しており、1段階目は脂肪酸に対し、0.6〜0.95モルのアルカノールアミンを添加し、1〜8時間反応させた後、第2段階目では残りのアルカノールアミンを無触媒で1〜8時間反応させることを特徴としている。この時の反応温度は130〜200℃である。この反応は、請求項4に反応を減圧下で行う、あるいは実施例において、窒素気流下で反応を行うとの記述があり、反応中の水を系外に排出して反応を進める方法である。
【0011】
しかし、この方法では、温度が150℃以下では反応の時間が遅く12時間後においても未反応の脂肪酸が2%以上残存し、温度が150℃以上では、エステルアミンの生成速度が促進され、さらに環状アミン等の副生成物が生成し、目的物の純度が低いものになるという問題がある。
【0012】
水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシド等の塩基性触媒を使用すれば、反応温度を低くできるので、環状アミン等の不純物の生成は防げるが、アルカリ触媒から生成するアルカリや溶剤の処理に問題がある。特にナトリウムメトキシドは、着色問題も少なく効果的であるが、生成するメタノールは家庭用品品質基準法や化粧品規準において、検出されてはならない物質とされており、使用しにくい物質である。
【0013】
また、本発明者の検討の中で、いずれの方法においても、アミンが脂肪酸に対し過剰な状態でかつ温度が130℃以上において、反応系の水の排出を促進すると副生成物の一つである環状アミン誘導体が生成することが判明した。よって、脂肪酸とモノアルカノールアミンの反応において、色をわるくしたり、アルコール副生成物を与える触媒や、反応後に系外への除去を行う必要がある有機溶剤を使用を要さず、アミドエステルやエステルアミン、環状アミン誘導体等の副生生物を含有しない高純度脂肪酸モノアルカノールアミドを効率よく製造する方法に対する要望があった。
【0014】
更に、上記の副生成物の問題の他に、最終生成物の脂肪酸モノアルカノールアミドの望ましくない着色や、最終生成物に残存するアルカノールアミン由来の特異な不快な臭いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許4079470号
【特許文献2】特開平9−157234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それ故、本発明の課題の一つは、塩基性触媒や有機溶剤の存在を要することなく、エステルアミン、アミドエステル及び環状アミン等の不純物の含有量が極微量かまたは実質的に無い脂肪酸モノアルカノールアミドの製造を反応効率良く可能とする方法を提供することである。
【0017】
本発明の更なる課題は、加えて、着色が少なく色調に優れた脂肪酸モノアルカノールアミド及びその製造方法を提供することである。
【0018】
本発明の更なる課題は、加えて、異臭がなく、匂いの良好な脂肪酸モノアルカノールアミド及びその製造方法を提供することである。
【0019】
本発明の他の課題は、以下の記載から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題解決のため鋭意検討した結果、脂肪酸とモノアルカノールアミンの反応により脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する際、温度が140〜170℃の範囲であれば、塩基性触媒や有機溶媒の存在を要することもなく、しかも目的物の脂肪酸モノアルカノールアミドの生成速度は、反応で生成した水を排出しなくても、窒素気流や減圧において水を排出した場合と変わらず、高温であるほどアミドの生成速度が速いことを発見した。この際、さらに好ましいことは、150℃を超える高い反応温度下で窒素気流や減圧において水を排出した場合では、エステルアミドや環状アミドの生成が促進され副生成物の含有量の多いアミドが生成されるが、水の存在する系での反応では、環状アミン誘導体等の生成が非常に少なく、エステルアミン、アミドエステルにおいてもその生成割合が非常に少ない純度の高い目的物質が得られることを見出した。
【0021】
また、生成物のアミン臭に関して、反応終了後の最終生成物を含む反応混合物に水を加えて、残存するモノアルカノールアミンを減圧下に共沸蒸留し、この際、その減圧蒸留時の温度を125℃以下とすることで、副生成物の生成を抑えながらも、残存モノアルカノールアミンを首尾良く除去することができ、アミン臭を低減できること、更にこの際、水の添加によって副生成物であるアミドエステルが所望のアミドに加水分解され、最終生成物の純度の更なる向上を達成できることも見出した。
【0022】
更に、最終生成物の着色の問題に関して、本発明者らは、最終生成物の着色がアミンの酸化にあるものと推定し、種々の還元剤の適用を試みたところ、例えば、亜硫酸ナトリウムなどの無機塩タイプの還元剤は、最終生成物のアミド中に溶解しないために溶融液が濁り、他方、油脂成分中に溶解する還元剤であっても、次亜リン酸では全く効果を得ることができず、しかし、還元性のある有機酸を用いたところ、初めて着色を顕著に抑えることができ、色調に優れた生成物が得ることができることを見出した。
【0023】
それ故、本発明は、
(1) 脂肪酸をモノアルカノールアミンと反応させ脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する方法であって、脂肪酸に対して当量もしくはモル過剰のモノアルカノールアミンを140〜170℃の温度下に反応させ、その際、反応は、反応温度を140〜170℃の範囲に維持できる限り水を反応系から実質的に排出せずに水の存在下に行う方法;
【0024】
(2) 脂肪酸をモノアルカノールアミンと反応させ脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する方法であって、脂肪酸に対して当量もしくはモル過剰のモノアルカノールアミンを140〜170℃の反応温度下に反応させ、その際、反応は、生成する反応水の還流下に、水の存在下に行う方法;
【0025】
(3) 140℃以上の反応温度を維持できない場合に、水の常圧蒸留によって水を部分的に排出する、(1)または(2)の方法;
【0026】
(4) 脂肪酸1モルに対しモノアルカノールアミンを1.0〜1.5モルの量で使用する、(1)〜(3)の方法;
【0027】
(5) 反応を150℃を超える温度で行う、(1)〜(4)の方法;
【0028】
(6) 反応を160〜170℃の反応温度で行う、(1)〜(5)の方法;
【0029】
(7) 反応を、塩基性触媒の不存在下において行う、(1)〜(6)の方法;
【0030】
(8) 反応を、有機溶剤の不存在下において行う、(1)〜(7)の方法;
【0031】
(9) 反応終了後、生じた反応混合物を減圧下に125℃以下で蒸留する、(1)〜(8)の方法;
【0032】
(10) 反応終了後、または反応終了後に反応混合物を減圧下に125℃で蒸留した後に、生じた反応混合物に水を加えて、これを減圧下125℃以下で蒸留する、(1)〜(9)の方法;
【0033】
(11) 反応を還元性有機酸の存在下に反応を行う、(1)〜(10)の方法;
に関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に従い得られた脂肪酸モノアルカノールアミドのガスクロマトグラフである(実施例3)。
【図2】従来技術に従い水を反応系から排出して反応を行うことによって得られた脂肪酸モノアルカノールアミドのガスクロマトグラフである(比較例1)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明で使用される脂肪酸は、好ましくは、次式(1)で表されるものである。
【0036】
−COOH (1)
【0037】
式中、Rは、炭素原子数5〜21の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基又はヒドロキシアルキル基を表す。これらは単独でも混合物としても使用することができる。具体的には、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシステアリン酸、あるいはヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ババス脂肪酸、パーム核油脂肪酸、大豆油脂肪酸、あまに油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、鯨油脂肪酸等の植物油又は動物油脂肪酸などが挙げられ、特に好ましいものは、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸である。
【0038】
本発明で使用されるもう一方の反応体であるモノアルカノールアミンは、好ましくは、次式(2)で表されるものである。
【0039】
【化3】

【0040】
式中、Rは水素原子、あるいは炭素原子数1〜8、好ましくは1〜3の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、あるいは炭素原子数2〜8、好ましくは2〜3の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルケニル基を表す。Rは、炭素原子数1〜6、好ましくは1〜3の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキレン基を表す。Rとしては、水素原子、ヒドロキシエチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられ、特にRは水素原子である。Rとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、へキシレン基などが挙げられ、特にエチレン基である。式(2)のモノアルカノールアミンとしては、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−エチルブタノールアミンなどが挙げられ、中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミンである。
【0041】
脂肪酸とモノアルカノールアミンとの反応は、140〜170℃、好ましくは150〜170℃の温度で行われる。140℃未満、例えば130℃でも所望のアミド化反応が生ずるが、反応速度が遅くなり不経済である。他方、170℃を超えると、アミドエステルや環状アミンの生成速度が速くなり、後に水を加えて加水分解を行っても、アミドエステルの残存が多く、また環状アミンの含有率も多くなってしまい、結果として純度を下げてしまう恐れがある。この際、本発明では、この反応は、生ずる水を排出しながら行う従来技術の方法とは異なり、或る程度の相当量の水を存在させた状態で行われる。これは、生ずる反応水を反応系から実質的に排出せずに、例えば、生成する反応水を反応系内で還流することによって達成することができる。ただし、反応水の発生によって液温が下がり、140℃以上の温度を維持できなくなる場合には、適宜、水を常圧蒸留によって排出して、140℃以上の反応温度を維持することができる。すなわち、上記の反応温度を維持できる程度で、但し以下に説明するように不純物の生成を抑えるのに十分な量の水を存在させることが条件である。140℃以上の温度を維持できる限りは水を排出する必要は原則ないが、副生成物の生成の抑制に十分な量の水の存在を反応系中に確保できるのであれば、反応中に連続的にまたは断続的に水を排出しても差し支えない。これが「実質的に排出しない」という記載の意図するところである。こうすることで、エステルアミン、アミドエステル、環状アミン等の副生成物の生成を抑えることができる。次の説明に拘束されるものではないが、恐らく、当該反応では、目的のアミド、アミドエステル、エステルアミン、環状アミンの生成がこの順序の生成速度で生ずるものと推定されるが、この際、相当量の水の存在が、副生成物のエステルの生成を阻害するかまたは生じたエステルを再び加水分解し、また環状アミンの生成を招く分子内脱水縮合の発生を阻害しているものと考えられる。
【0042】
この際、最終生成物の残留脂肪酸及び副生成物の含有量は、例えば反応時間等の目安として、次の値を目的とすることができる。
残留脂肪酸: 2.0重量%以下
エステルアミド: 1.0重量%以下
アミドエステル: 1.0重量%以下
その他の副生成物(環状アミン含む): 1.0重量%
しかし、最終生成物の必要とされる残留脂肪酸及び副生成物の含有量は、個別のケースでそれぞれ望まれる反応時間量、用途、ユーザーのニーズ等によって当然変わり得るものであり、それ故、上記の値は、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0043】
反応は、水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシド等の塩基性触媒の存在下で行ってもよい。しかし、有利なことに、本発明による反応は、一定量の水を反応中に存在させることによって、140〜170℃といった比較的高い温度でも、副生成物の生成量を増やすことなく、このような塩基性触媒の使用を省略することができる。それによって、追加の物質の使用や、それの除去作業を無しで済ませることができ、コスト的に有利である。また、特にナトリウムメトキシドは、背景技術の欄に記載したように、メタノールを発生させる恐れのある物質であり、これは家庭用品品質基準法や化粧品規準において検出されてはならない物質として分類されているものである。本発明の方法は、このような塩基性触媒を要しないために、製造由来のメタノールが最終生成物に含まれる虞を全く考慮する必要がないという点で、格別な特徴を奏することができるものである。
【0044】
また反応中には、必ずしも要するものではないが、有機溶剤が存在していてもよい。しかし、有機溶剤は、通常水よりも沸点が低いために、水の環流を妨げ、反応温度を目的の温度まで上げられないという虞、また水よりも沸点が高い溶剤であっても、除去が困難という問題がある。また、一般的に有機溶剤の扱いには火災や爆発の危険性が伴う。従って、本発明の方法は、有機溶剤の不存在下に行うのが有利である。
【0045】
特に有利なことに、150℃を超える温度、例えば160〜170℃の温度で反応を行った場合でも、副生成物の生成が抑制され、150℃で反応を行った場合と比べて、反応時間を約1/2程に短縮することができ、それでも同等かそれ以上の純度で所望のアミドを得ることができる。
【0046】
上記反応では、脂肪酸とモノアルカノールアミンとを、脂肪酸に対しモノアルカノールアミンを当量もしくはモル過剰で使用して反応させる。この際、脂肪酸1モルに対するモノアルカノールアミンのモル比は、好ましくは1.0〜1.5モル、特に好ましくは1.0〜1.3モルである。モル比が1.0モル未満であると、脂肪酸が過剰になり、過剰の未反応脂肪酸が最終生成物中に残存し、純度が下がる。原則的に、脂肪酸に対しモノアルカノールアミンを1.5モルを超えて使用することは可能であり、純度には影響はないが、より多量の未反応のアルカノールアミンを反応後に留去する必要が生じ、不経済である。
【0047】
本発明の一つの態様では、脂肪酸とモノアルカノールアミンとの反応の間に還元性有機酸を存在させる。この反応では、アミンの酸化生成物により反応生成物が着色される場合がある。還元性有機酸を加えることで、この酸化反応を阻止し、この着色を抑えることができる。還元性有機酸の量は、一般的には、モノアルカノールアミンと脂肪酸の総量に対し50〜200重量ppm、好ましくは50〜100重量ppmである。50ppm未満であると、十分な酸化抑制効果が期待できず、他方、200ppmを超えると、還元性有機酸がアミンと反応して、所望のアミドの生成に本来供すべきアミンが消費され、またその反応生成物は副生成物となり、最終生成物の純度を低下させる恐れがある。還元性有機酸としては、特に、シュウ酸、ギ酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0048】
反応後の未反応の残留モノアルカノールアミンは、必要ならば、減圧下に蒸留して除去することができる。水の突沸を避けるために最初はわずかな減圧で行い、徐々に減圧を高めることによって行うのが有利である。温度は125℃以下として行うのが有利である。というのも、125℃を超えると、分子内脱水環状化が促進され、副生成物の生成を招く恐れがあるからである。
【0049】
本発明の更に別の態様の一つでは、脂肪酸とモノアルカノールアミンとの反応の後に、または好ましくはこの反応の後に上述のように減圧蒸留によって残留モノアルカノールアミンを留去した後に、反応混合物に水を加えて、減圧蒸留することができる。そうすることで、副生したアミドエステルのエステル部分が目的のアミドに加水分解され、純度の更なる向上を図ることができ、またこれと同時に、なおも残存し得るモノアルカノールアミンが水との共沸蒸留によって留去され、一層の純度の向上並びにモノアルカノールアミンに起因する異臭の更なる低減を達成できる。この蒸留の条件は、減圧下に(例えば、最初は100〜3Kpa/水ポンプ、次いで1Kpa以下/ドライポンプ、例えば0.1〜0.3Kpa/ドライポンプ)で、125℃以下の温度である。125℃を超えると上記と同じように分子内脱水環状化が促進され、副生成物の生成を招く恐れがある。
【0050】
更に、脂肪酸とモノアルカノールアミンとの反応は、アミド化重金属系触媒、例えばクロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ハフニウム、インジウム、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム及びリチウムから選ばれた少なくとも一種の金属化合物の存在下に行ってもよい。このようなアミド化重金属系触媒としては、上記金属の塩化物、臭化物等のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、クロロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アセチル酢酸塩等のカルボン酸塩、酸化物などがある。このような触媒の使用により、収率の向上を期待できる。しかし、脂肪酸モノアルカノールアミドの用途によっては重金属含有量の上限が定められている場合があり(例えば、化粧品では10ppm以下)、そのような用途では、残存する重金属量が限度を超えてしまい、その点で不利となることもある。
【実施例】
【0051】
以下に実施例比較例を示して、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン64.05g(1.05モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。還流器を装着し、ヒーター温度を165℃にセットするが、反応水の発生によって液温が下がってくるので、液温が下がらないように温度調節を行い液温が152℃以下(反応開始30分後)になったら、ヒーター温度を160℃にセットし、蒸留ラインを開いて、液温が158℃に上がるまで、常圧蒸留により反応水を流出し、蒸留ラインを閉じ還流にもどした。さらに反応開始1時間後、2時間後さらに4時間後同様に、蒸留ラインを開いて常圧蒸留を行い、再度還流にもどす。反応開始12時間後加熱を止め、液を90℃まで冷却した後、減圧蒸留を行った。
その後、水5gを加え撹拌後、水ポンプに切り替え減圧蒸留を行った後、ドライポンプに切り替え120℃まで減圧蒸留を行う操作を5回行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0053】
実施例2
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン70.15g(1.15モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。
以下実施例1と同様に操作した。
【0054】
実施例3
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン76.25g(1.25モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。以下実施例1と同様に操作した。
【0055】
実施例4
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン76.25g(1.25モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。還流器を装着し、ヒーター温度を170℃にセットするが、反応水の発生によって液温が下がってくるので、液温が下がらないように温度調節を行い液温が160℃以下(反応開始20分後)になったら、蒸留ラインを開いて、液温が167℃に上がるまで、常圧蒸留により反応水を流出し、蒸留ラインを閉じ還流にもどした。さらに反応開始40分後、1時間後さらに2時間後同様に、蒸留ラインを開いて常圧蒸留を行い、再度還流にもどして反応を続け、反応開始7時間後加熱を止め、液を90℃まで冷却した後、減圧蒸留を行った。
【0056】
その後、水5gを加え撹拌後、水ポンプに切り替え減圧蒸留を行った後、ドライポンプに切り替え120℃まで減圧蒸留を行う操作を3回行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0057】
実施例5
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン76.25g(1.25モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。還流器を装着し、ヒーター温度を170℃にセットするが、反応水の発生によって液温が下がってくるので、液温が下がらないように温度調節を行い液温が160℃以下(反応開始20分後)になったら、蒸留ラインを開いて、液温が167℃に上がるまで、常圧蒸留により反応水を流出し、蒸留ラインを閉じ還流にもどした。さらに反応開始40分後、1時間後さらに2時間後同様に、蒸留ラインを開いて常圧蒸留を行い、再度還流にもどして反応を続け、反応開始7時間後加熱を止め、液を90℃まで冷却した後、減圧蒸留を行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0058】
比較例1
500ml四つ口フラスコに204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を入れ、50℃にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った。モノエタノールアミン62.83g(1.03モル)を撹拌・昇温しながら加えた。ヒーター温度を160℃にセットし、蒸留ラインを開けて、窒素ガスを少量づつ流入させ、反応水を常圧蒸留で留出させた。反応開始後2時間後より、水ポンプにて減圧蒸留(60〜70Kpa)を行い、そのまま減圧状態を60〜70Kpaに維持し反応水の系外への排出を促進した。反応開始12時間後、温度を160℃のまま、減圧蒸留を行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0059】
比較例2
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン70.15g(1.15モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。ヒーター温度を154℃にセットし、蒸留ラインを開けて、窒素ガスを少量づつ流入させ、反応水を常圧蒸留で留出させた。反応開始後6時間後、水ポンプにて減圧蒸留(60〜70Kpa)を行い、そのまま減圧状態を60〜70Kpaに維持し反応水の系外への排出を促進した。
【0060】
反応開始12時間後、温度を150℃にセットし、減圧蒸留を行った。その後、水5gを加え撹拌後、水ポンプに切り替え減圧蒸留を行った後、ドライポンプに切り替え120℃まで減圧蒸留を行う操作を3回行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0061】
比較例3
500ml四つ口フラスコにモノエタノールアミン70.15g(1.15モル)及び0.92gの10%シュウ酸・2HO水溶液を入れ、常温にて5〜7Kpaにて減圧窒素置換を行った後、204.8g(1.0モル)の溶融した(50℃)ヤシ油脂肪酸を撹拌・昇温しながら加えた。還流器を装着し、ヒーター温度を185℃にセットし、反応水の発生によって液温が下がってくるので、液温が下がらないように温度調節を行い液温が170℃以下(反応開始20分後)になったら、蒸留ラインを開いて、液温が178℃に上がるまで、常圧蒸留により反応水を流出し、蒸留ラインを閉じ還流にもどした。さらに反応開始40分後、1時間後さらに2時間後同様に、蒸留ラインを開いて常圧蒸留を行い、再度還流にもどして反応を続け、反応開始5時間後加熱を止め、液を90℃まで冷却した後、減圧蒸留を行った。その後、水5gを加え撹拌後、水ポンプに切り替え減圧蒸留を行った後、ドライポンプに切り替え120℃まで減圧蒸留を行う操作を3回行った。その後、アルミ箔上に物質を流し、冷却固化したものについてGC分析を行った。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜3から示されるように、本願発明による方法では、脂肪酸の残留含有率が低い上に(すなわち反応効率がよい)、副生成物の割合を非常に低いレベルに抑えることができる。また、最終生成物の特異臭も弱い。
【0064】
実施例4は、実施例1〜3と比べて反応温度を高くしたものであるが、この場合には、脂肪酸含有率及び副生成物を低く抑えながらも、反応時間をほぼ半分に短縮できることを示している。またこの場合も、最終生成物の特異臭は弱い。
【0065】
実施例5は、実施例1〜3と比べて、反応温度を高くしかつ反応後の水を加えた共沸を行わなかった例であるが、6.5時間後には既に残留脂肪酸の量を1.31%の低濃度まで減少させることができ、その上、副生成物の生成量も十分に満足できる程度である。ただし、この場合には、最終生成物には強いアンモニア臭が残った。このアンモニア臭は、反応混合物に水を加えて蒸留することによって改善することができる。
【0066】
比較例1では、水を連続的に反応系から排出しながら比較的高い温度(160℃)で行った例であるが、この例では、12時間の反応後(残留脂肪酸含有率1.1%)には、アミドエステルが副生成物として非常に多量に生成した。また他の副生成物の生成量も実施例と比べるとかなり多い。更に、最終生成物は、強いアンモニア臭を発した。
【0067】
比較例2は、同様に水を連続的に反応系から排出しながら、但し比較例1と比べて反応温度を低くして(145〜150℃)行った例であるが、この場合、比較例1と比べるとアミドエステルの生成量を低く抑えることができるが、12時間反応させた後でも脂肪酸が多量に残留し(4.1%)、更にアミドエステル及び他の副生成物の量も比較的多量に存在する。加えてこの最終生成物も強いアンモニア臭を発する。
【0068】
比較例3は、本願発明の例と同じく水の還流下に行ったものであるが、但し反応温度を170〜180℃と高くした例である。この例では、残留脂肪酸含有率は5時間後に1.84%まで減少するが、アミドエステル及びその他副生成物の生成量がこの時点で既にそれぞれ2.21%及び1.61%と高くなっており、望ましくない。更に反応を続けた場合には、脂肪酸の一部がアミドエステルの生成にも消費されアミドエステルのさらなる増加と、一旦生成したアミドがさらなる環状アミドへ転換することにより、純度はさらに低くなるものと予期される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸をモノアルカノールアミンと反応させ脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する方法であって、脂肪酸に対して当量もしくはモル過剰のモノアルカノールアミンを140〜170℃の反応温度下に反応させ、その際、反応は、反応温度を140〜170℃の範囲に維持できる限り水を反応系から実質的に排出せずに水の存在下に行う方法。
【請求項2】
脂肪酸をモノアルカノールアミンと反応させ脂肪酸モノアルカノールアミドを製造する方法であって、脂肪酸に対して当量もしくはモル過剰のモノアルカノールアミンを140〜170℃の反応温度下に反応させ、その際、反応は、生成する反応水の還流下に、水の存在下に行う方法。
【請求項3】
140℃以上の反応温度を維持できない場合に、水の常圧蒸留によって水を部分的に排出する、請求項1または2の方法。
【請求項4】
脂肪酸1モルに対しモノアルカノールアミンを1.0〜1.5モルの量で使用する、請求項1〜3のいずれか一つの方法。
【請求項5】
反応を150℃を超える温度で行う、請求項1〜4のいずれか一つの方法。
【請求項6】
反応を160〜170℃の反応温度で行う、請求項1〜5のいずれか一つの方法。
【請求項7】
反応を、塩基性触媒の不存在下において行う、請求項1〜6のいずれか一つの方法。
【請求項8】
反応を、有機溶剤の不存在下において行う、請求項1〜7のいずれか一つの方法。
【請求項9】
反応終了後、生じた反応混合物を減圧下に125℃以下で蒸留する、請求項1〜8のいずれか一つの方法。
【請求項10】
反応終了後、または反応終了後に反応混合物を減圧下に125℃で蒸留した後に、生じた反応混合物に水を加えて、これを減圧下125℃以下で蒸留する、請求項1〜9のいずれか一つの方法。
【請求項11】
反応を還元性有機酸の存在下に行う、請求項1〜10のいずれか一つの方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32312(P2013−32312A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169500(P2011−169500)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(596081005)クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド (27)
【Fターム(参考)】