説明

脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを製造する方法

【課題】脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法を提供する。
【解決手段】
ペプチドは3から6個のアミノ酸残基で構成し、且つ少なくとも1個のアミノ酸残基はリシン(Lys)であるペプチドとし、官能基は−X−CO−Y−CO−とし、Xは酸素または窒素原子、YはC1-6アルキレン基とし、1個または2個の酸素または窒素原子を挿入してもよく、スペーサは親水性ポリマーとし、脂質は以下の式に示すホスファチジルエタノールアミンカルボニルであって、
【化5】


1とR2は同じでもよく、それぞれ直鎖または分枝状C7-30アルキル基又はC7-30のアルケニル基で、液相で反応を行う。そのステップは(a)ペプチドのアミノ酸残基Lysを保護基で保護し、(b)脂質−スペーサ−官能基と反応させ、(c)ペプチドのアミノ酸残基Lys上の保護基を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相環境下で脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを合成する方法に関し、特に、高収率で生成物を得ることができ、生産性がよく、量産することができる脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、1965年にイギリスのケンブリッジ大学のBabraham InstituteのAlec Banghamが発見した。リポソームは、リン脂質とコレステロールなどを膜材として脂質中空微粒子を形成し、微粒子径は約0,0025mmから3.5マイクロメートルで水相中に懸濁し、脂質膜(微粒子表面)は主にリン脂質分子のリン酸側が構成する脂質2層である。リン脂質分子のリン酸側は親水性であり、脂質側は疎水性であるため、形成される脂質層両面は親水、層内は疎水性の膜である。水溶性物質は粒子内の溶液として覆われ、脂溶性物質は粒子皮膜層内に留まることができるため、リポソームは水性物質を覆い包む油性物質のキャリアとして用いることができる。
【0003】
上述のリポソームの特徴から、リポソームは1970年代以降、薬物のキャリアとして認められるようになった。特に、抗癌薬物に適用された。リポソームは、抗癌薬物をキャリア内に包みこみ、癌細胞の部位まで指向するとそこで抗癌薬物を放出し、腫瘍部位に直接作用し、また、正常な組織には進入しにくいため正常な細胞への傷害を低減することができる。次に、リポソームを用いることの主な利点を以下に述べる。
1.薬物をリポソーム内に包み込み薬物動態学を変化させ、薬物の血液中での半減期を延長する。リポソームの大きさは約100ナノ・メートルで、腫瘍の新生血管壁の穴を通ることができ、抗癌薬物を包んだリポソームが大量に腫瘍に累積し、治療効果を増進する。このようなリポソームは受動的標的指向性(passive targeting)を有する。
2.毒性の高い薬物をリポソーム内に包み、好ましくない副作用を減少できる。
3.リポソームの脂質組成、粒子サイズ、構造、調製方法及び内包する薬物の選択性が大きく、各種の異なる状況に対応でき、さまざまな応用が可能である。
4.リポソームは、リン脂質で構成され、細胞膜の成分と同じであるため、生物体内で分解され、毒性をもたず、更にタンパク質のように免疫反応を引き起こすことがないため、何度も使用できる。
【0004】
リポソームの標的組織への集中作用を高めるため、リポソーム上に細胞―特定リガンドを加え、リポソームと標的細胞との作用を促進し、癌細胞がリポソームを取り込む能力を高め、定点での薬物放出を達成し、抗癌薬物の一般組織への非特異毒性を低減し、抗癌効果を増進する。一般には、モノクローナル抗体またはリガンドを使用してリポソーム上に共有結合し、細胞表面のレセプタまたは抗原認識を経て特定細胞に進入する。この種の標的指向性リポソームは指向性をもたないリポソームに比べ治療効果が良好である。
【0005】
例を挙げると、オクトレオチド(octreotide)はソマトスタチン(somatostatin)の類似物であり、8個のアミノ酸残基を具えた環状構造である。オクトレオチドは成長ホルモン、グルカゴン、インスリンに対して効果的な抑制剤である。オクトレオチドをリポソーム上に結合すると標的指向性リポソームを形成でき、この好悪図の重要な成分は脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドである。陳氏等が〔特許文献1〕で提示した脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドの調製方法は、その合成過程を以下の化学反応式[化2]で簡単に説明することができる。
【化2】

【特許文献1】米国特許第6552007(B2)号明細書
【0006】
呉氏等による[特許文献2]では、脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドの製法を開示している。以下の化学反応式[化3]に示す。
【化3】

上記の脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドの調製方法は、いずれも固相環境での合成である。固相合成のステップは煩雑で、少なくとも6つのステップが必要であり、時間がかかり、調製コストも嵩む。更に、固相での脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドの合成は、収率に影響する要因が多く、ペプチドのアミノ酸残基数量(数が多いほど収率は低い)、開裂方法、環化条件及び精製条件によって決まる。脂質とポリエチレングリコールは大型分子であるため、最後のステップでペプチドの開裂と環化を行う際に立体障害の問題があり、反応時間が長くなり収率が低下する。このほか、固相合成装置は各バッチで合成できる最大量が1ミリモルに限られるため、固相環境で脂質−ポリエチレングリコール−オクトレオチドを大量生産することはできない。
【特許文献2】EU特許第1319667(A2)号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固相環境で脂質−ポリエチレングリコール−ペプチドを合成する上での各種欠点にかんがみ、本発明は液相環境で脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法を提供することを課題とする。本発明の方法は非プロトン性溶剤中で合成反応を行い、ステップが簡単で生産効率が高いという長所を具え、大量合成に用いることができ且つコストを大幅に削減できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法を提供し、そこで、ペプチドは、3から16個のアミノ酸残基から構成され、且つ少なくとも一個のアミノ酸残基はリシン(Lys)であるペプチドであり、官能基は−X−CO−Y−CO−とし、Xは酸素または窒素原子とし、YはC1-6アルキレン基とし、これに1または2個の酸素または窒素原子を挿入してもよく、スペーサは親水性ポリマーとし、脂質は以下の化学式[化4]に示すホスファチジルエタノールアミンカルボニルとし、
【化4】

1とR2は等しくても異なってもよく、且つそれぞれ直鎖または分枝状を呈するC7−30アルキル基またはC7−30アルケニル基を表し、
該調製方法は液相で反応を行い且つ以下のステップを含み、(a)始めにペプチド中に含まれるアミノ酸残基Lysを保護基で保護し、(b)続いて脂質−スペーサ−官能基と反応させ、(c)最後にペプチドのアミノ酸残基Lys上の保護基を除去する。
【0009】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、ペプチドは3から16個のアミノ酸残基から成り且つ少なくとも1個のアミノ酸残基はLysであるペプチドである。これらのアミノ酸残基は、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、グリシン(Gly)、リジン(Lys)、フェニルアラニン(Phe)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)からなるグループから選ぶ。これらのアミノ酸残基は、直線状または環状配列を呈してもよい。より好ましくは、6から14個のアミノ酸残基で構成し、且つ1個のアミノ酸残基がLysであるソマトスタチン(somatostatin)類似物であることが望ましい。具体的な実例としてセグリチド(seglitide)(環[N−メチル基−Ala−Tyr−D−Trp−Lys−Val−Phe])、オクトレオチド(octreotide)(D−Phe−環[Cys−Phe−D−Trp−Lys−Thr−Cys]−Thr(ol))、Tyr3−オクトレオチド、D−Phe1−オクトレオチド、ランレオチド(lanreotide)(DβNal−環[Cys−Tyr−D−Trp−Lys−Val−Cyl]−Thr(ol))、バプレオチド(vapreotide)(D−Phe−環[Cys−Tyr−D−Trp−Lys−Val−Cys]−Trp)、D−Phe−環[Cys−Phe−Gly−Lys−Thr−Cys]−Thr(ol)等が挙げられる。
【0010】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、スペーサ上に−X−CO−Y−CO−で表される官能基を結合し、ここでXは酸素または窒素原子、YはC1-6アルキレン基とし、これに1または2個の酸素または窒素原子を挿入してもよい。官能基のカルボニル基側を利用してペプチドと−CONH−結合を生成し、官能基の別の一端Xはスペーサと結合でき、これによりスペーサとペプチドを結合する。官能基はコハク酸、無水コハク酸(SA)、N−ヒドロキシルコハク酸イミド(N−hydroxilsuccinimide)などの化合物から派生した基とする。
【0011】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調整する方法において、スペーサの効用は親水側ペプチドと疎水側脂質を結合することであり、そのため親水性を具えた長鎖ポリマーの使用が適している。スペーサの具体例として、ポリビニルピロリジン(polyvinylpyrrolidine)、ポリメタクリレート(polymethacrylate)、ポリエチルオキサゾリン(polyethyloxazoline)、ポリビニルメチルエーテル(polyvinylmethylether)、ポリプロピレングリコール(polypropyleneglycol)、ポリエチレングリコール(PEG)(polyethyleneglycol)等から派生した基が挙げられる。より好ましくは、ポリエチレングリコールから派生した基で且つ―(CH2CH2O)m―を具え、mは34から46であることが望ましく、PEG600、PEG2000またはPEG3000が最適である。
【0012】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、[化3]に示すホスファチジルエタノールアミンカルボニルのR1とR2は同じでも異なってもよく、それぞれC12-24アルキル基またはC12-24アルケニル基を表し、アルキル基及びアルケニル基は直鎖または分枝状を呈すことができる。具体例として、ドデシル(dodecyl)、ミリスチル(myristyl)、パルミトイル(palmityl)、ステアリル(stearyl)、オレイル(oleyl)、及び9−トコセニル(9−docosenyl)等が挙げられる。より好ましくは、ステアリル及びオレイルが望ましい。
【0013】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、ステップ(a)及び(c)に述べる保護基の種類及び保護基のアミノ酸残基上の結合と除去方法はペプチド合成の公知技術であり、当該分野に習熟した者は保護したいアミノ酸残基及びそのペプチド鎖中の位置に応じて決定してよい。本発明の方法においてはペプチド上のアミノ酸残基Lysを保護するために使用する保護基の具体例として、第三ブチルオキシカルボニル(Boc)、2−クロロベンジルオキシカルボニル(2−CIZ)、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、アリルオキシカルボニル(Aloc)、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリジン)エチル(Dde)、1−(1’―アダマンチル)−1−メチルエトキシカルボニル(Adpoc)等が挙げられる。
【0014】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、ステップ(a)、(b)及び(c)は全て液相環境で反応を行う。ステップ(a)及び(b)はペプチドと脂質−スペーサ−官能基とをそれぞれ非プロトン性溶剤中において進行し、非プロトン性溶剤の具体例として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(N,N−dimethylacetamide)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、及びアセトニトリル(ACN)等が挙げられる。より好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフランが望ましい。
【0015】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、官能基部分のカルボキシル基数及びペプチド部分のアミノ基数に基づいて、脂質−スペーサ−官能基とペプチドの用量比率を決定することができる。より好ましくは、官能基部分:ペプチド部分を4:1から1:4の比率に維持して反応を進行するとよく、官能基部分:ペプチド部分を1:2の比率にすると更によい。
【0016】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、各ステップは全て温度が15から50℃の間で進行し、よりよくは20から35℃の間が望ましい。ステップ(a)及び(b)はそれぞれ12から36時間反応を行う必要があり、より好ましくは、20から28時間が望ましい。
【0017】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法において、ペプチドのアミノ酸残基が直線状の配列を呈している場合、状況に応じてペプチド部分の環化ステップを行うことができる。このペプチド環化の方法は公知技術であり、ステップ(a)、(b)及び(c)のどのステップの期間またはどのステップの後に行ってもよい。
【0018】
本発明の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを調製する方法によって得られる生成物は標的指向性リポソームの主要処方成分とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法は、非プロトン性溶剤中で合成反応を行い、ステップが簡単で生産効率が高いという長所を具え、大量合成に用いることができ且つコストを大幅に削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
実施例により製造工程ステップまたは組成構造を説明する。以下の説明では次の略号を使用する。
PEG:ポリエチレングリコール
DSPE:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン
DOPE:ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン
BOC:t−ブチルオキシカルボニル
SA:無水コハク酸
DSPC:ジステアロイルホスファチジルクロリン
【0021】
実施例1:D−Phe−環[Cys−Phe−D−Trp−Lys(Boc)−Thr−Cys]−Thr(ol)合成
オクトレオチド100ミリグラムを丸底フラスコに入れ、N,N−ジメチルホルムアミドを5ミリリットル加えて溶解する。オクトレオチドが完全に溶解したら、(Boc)2Oを20マイクロリットル加える。混合物を室温で24時間反応させた後、真空システムで溶剤を吸引し、粗製品D−Phe−環−[Cys−Phe−D−Trp−Lys(Boc)−Thr−Cys]−Thr(ol)を得る。最後に、Merck & Co., Ltd.社製Hibar 250−10 Lichrosorb RP−18(7マイクロメートル)のカラムで、溶離剤は0.1%三フッ化酢酸/H2O、分析時間を40分(80%〜10%)とし、高速液体クロマトグラフィにより粗製品を精製する。その結果、滞留時間は29.4分間、メインピークの溶液を凍結乾燥して得られる白色固体粉末(72ミリグラム、収率70%)を収集し、マススペクトロメトリは[M+H]+=1119Daであった。
【0022】
実施例2:DSPE−PEG−SA合成
DSPE15グラムとカルボニルジイミダゾール3.9グラムを混合してトルエン70ミリリットルに溶解し、更にトリエチルアミン2グラムを加え、100℃で1時間反応させる。PEG40グラム(平均分子量2000)をトルエン15ミリリットルに溶解し、上述の溶液中に滴下し反応を継続する。反応終了後、溶剤を除去し、得られた固体生成物をアセトン500ミリリットルに溶解し、溶解しない固体はろ過して除去する。ろ液を吸引乾燥して得られた固体生成物を陽イオン交換樹脂を用いて生成物をNa+型に置換し、DSPE−PEG−OHが得られる。続いて、コハク酸イミド2.1グラムをピリジン1.7グラムを含むトルエン溶液100ミリリットルに溶解し、DSPE−PEG−OHと反応を継続し、エチルエーテル500ミリリットルを加え(反応溶液相体積の約5倍量)、得られた固体生成物がDSPE−PEG−SAである。その後、クロロホルムで平衡化したシリカゲル60カラム(粒子径62から200マイクロメートル、1.5×30センチメートル)により、溶離剤はクロロホルム/メタノール=4/1で生成物を分離する。上述のTLC法で生成物の純生成物部分を収集し、減圧乾燥法で溶剤を除去する。生成物はマススペクトロメトリ[M+H]+=2892Daと測定され、核磁気共鳴装置(1H NMR)分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(300MHz、CDCl3
δ0.78〜1.40(66H、ジアルキルH)
δ2.33(4H、brt、CO−CH2
δ3.64(160H、brs、PEG−H)
δ3.85〜4.50(9H、m、グリセロール−H及びO−CH2−CH2−N)
【0023】
実施例3:DSPE−PEG−オクトレオチド合成
DSPE−PEG−SAを100ミリグラムとD−Phe−環[Cys−Phe−D−Trp−Lys(Boc)−Thr−Cys]−Thr(ol)を34.6ミリグラムとを混合し、6ミリリットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解する。固体が完全に溶解してから、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールを4.1ミリグラムとジシクロヘキシルカルボジイミドを6.4ミリグラム加え、共に24時間反応させる。その後溶剤を除去する。5ミリリットルの95%三フッ化酢酸を加えて、D−Phe−環[Cys−Phe−D−Trp−Lys(Boc)−Thr−Cys]―Thr(ol)上の保護基Bocを除去し、30分反応させた後溶剤を除去する。過量のクロロホルムを加え静置して溶液に沈殿を生じるようにし、ろ紙No.42でろ過し、ろ液を濃縮した後再度過量のクロロホルムを加え、上述のステップを数回重複してから、ろ液を減圧濃縮装置で濃縮すれば化合物DSPE−PEG−オクトレオチドが得られ、これは淡褐色固体(122ミリグラム、収率91%)である。高速液体クロマトグラフィで生成物を分析し、溶離剤は0.1%三フッ化酢酸/CH3CNを使用するほかは、その他の分析条件は実例1と同様である。その結果、滞留時間は14.5分、マススペクトロメトリは[M+H]+=3893Daと測量され、核磁気共鳴装置(1H NMR)分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(300MHz、CDCl3
δ0.84〜1.40(66H、ジアルキルH)
δ3.64(160H、brs、PEG−H)
δ3.85〜4.50(9H、m、グリセロール−H及びO−CH2−CH2−N)
δ8.04(4H、ベンジル)
【0024】
実施例4:薄膜ハイドレート法によるドキソルビシン薬物を含む標的指向性リポソーム(オクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシン)合成
DSPC(70モル)/コレステロール/DSPE−PEG 2000/DSPE−PEG 2000−オクトレオチド(3:2:0.094:0.206モル比)、DSPC(70モル)/コレステロール/DSPE−PEG 2000−オクトレオチド(3:2:0.206モル比)、DSPC(70モル)/コレステロール/DSPE−PEG 2000−オクトレオチド(3:2:0.3モル比)を計量してそれぞれ250ミリリットルの丸底フラスコに入れ、更に個別に8ミリリットルのクロロホルムを加え均一に溶解させる。遠心式減圧濃縮機を用いて60℃で有機溶液を真空吸引し、クロロホルムを完全に除くとフラスコ壁上に脂質薄膜が形成される。乾燥後、更に、脂質薄膜が形成された丸底フラスコ内に5ミリリットルの250mM硫酸アンモニウム溶液(pH5.0、530mOs)を加える。60℃の水浴中にて振り動かしてフラスコ壁上の脂質薄膜が全部硫酸アンモニウム溶液中に分散するようにすると、多層膜リポソーム(マルチラメラベシクル、MLV)が得られる。多層膜リポソーム懸濁液を液体窒素及び60℃水浴で凍結と解凍を6回繰り返した後、高圧フィルタ押出装置(Lipex Biomembranes Inc.社、バンクーバー、カナダ)でろ過・押出を行い単層リポソームを得る。
【0025】
続いてドキソルビシン薬物の内包を行う。リン脂質1マイクロモルに対してドキソルビシン140グラムの割合で、予め濃度10ミリグラム/ミリリットルに調製したドキソルビシン薬物ストックをリポソーム懸濁液中に加え、60℃と100rpmで30分間反応させる。反応が完了したら、懸濁液を即座に氷水浴で冷却する。ドキソルビシンを内包したリポソーム懸濁液をSephadex G50ゲルろ過カラムを通し、0.9%塩化ナトリウムを溶離剤として内包されなかったドキソルビシン薬物を除去する。カラムを通過したリポソーム懸濁液を収集し、更に高速遠心装置で150000xgで90分間遠心する。大部分の上澄みを除去し、少量の上澄み液を残し、沈殿したリポソームを再度均一に懸濁する。0.22マイクロメートルフィルタでリポソーム懸濁液をろ過し、最終製品(オクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシン)を得る。リポソーム内のドキソルビシン薬物の濃度測定と粒径分析を行う。
1.N4 Plus(Beckman Coulter社)サブミクロン粒子アナラ イザを用いて、リポソーム平均粒径は75から95ナノメートルの常態分布で あることが測定された。
2.蛍光分光装置(JASCO社、FP6200)を用い475ナノメートル励起光 及び580ナノメートル発光において測定したところ、リポソーム内に内包さ れたドキソルビシン薬物濃度は2ミリグラム/ミリリットルであった。
【0026】
実施例5:標的指向性リポソーム細胞活性実験
この実験は、膵臓腫瘍細胞AR42Jのオクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシン標的指向性リポソーム薬物の取り込み状況を分析する。実験には適量の娘細胞を培養して行う必要がある。まずAR42J細胞を5×105細胞/ウェルで6−ウェル培養プレートに培養し、一晩の時間を経過させて細胞粘着させる。細胞が粘着してから、ことなる組み合わせの薬物を調製し、それぞれコントロールセット(1ミリリットル/ウェルHBSS処理)、自由型ドキソルビシン、リポソーム−ドキソルビシン(自身で合成)、及びオクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシンとする。1ミリリットル/ウェルの濃度で細胞に加え、それぞれ2及び4時間薬物取り込み反応を行う。反応時間終了後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で細胞を洗浄し薬物反応を終結する。続いて5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液で10分間作用させ、細胞を溶解し、取り込まれた薬物を放出させる。放出された摂取薬物を十分に均一に混合した後、1ミリリットルを取り使い捨てキュベットに入れ、ドキソルビシン薬物が自発性蛍光特性を生じることができることを利用し、475ナノメートル励起光と580ナノメートル発光のもとスペクトラム分析を行う。また同時に、溶解した細胞にタンパク質量化分析を行い細胞数の標準化を行う。最後に取り込まれた薬物濃度と標準化した細胞数を対照し、細胞の摂取薬物分子数を得るとともに、実験組別比較を行う。
【0027】
表1に示すように、AR42J細胞が異なる処方の薬物を取り込む状況では、コントロールセットはHBSS処理したため、ドキソルビシンの取り込みはなく、ドキソルビシンの存在下でのみドキソルビシンの取り込みがあることを示している。自由形ドキソルビシンは細胞中の取り込みが最も高く、細胞の2時間の取り込みは96.43×109分子/細胞、4時間の取り込みは110.83×109分子/細胞であった。リポソーム特性を備えたリポソーム−ドキソルビシン(自身で合成)では、細胞の2時間と4時間の取り込みはそれぞれ1.89×109分子/細胞と2.46×109分子/細胞であった。標的指向性腫瘍治療薬物オクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシンは異なる処方で2時間と4時間で異なる取り込みがあった。オクトレオチド−リポソームドキソルビシンは1.97×109分子/細胞と3.14×109分子/細胞であった。4%オクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシンは2.26×109分子/細胞と3.43×109分子/細胞であった。6%オクトレオチド−リポソーム−ドキソルビシンは2.98×109分子/細胞と5.35×109分子/細胞であった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法であって、
ペプチドは3から6個のアミノ酸残基から構成され、且つ少なくとも一個のアミノ酸残基はリシン(Lys)であるペプチドであって、
官能基は、−X−CO−Y−CO−であって、Xは酸素または窒素原子、YはC1-6アルキレン基とし、これに1または2個の酸素または窒素原子を挿入し又は挿入せず、
スペーサは親水性ポリマーとし、
脂質は次の化学式に示すホスファチジルエタノールアミンカルボニルとし、
【化1】

1とR2は等しくても異なってもよく、且つそれぞれ直鎖または分枝状を呈するC7−30アルキル基またはC7−30アルケニル基であって、
液相で反応を行い、(a)始めにペプチド中に含まれるアミノ酸残基Lysを保護基で保護し、(b)続いて脂質−スペーサ−官能基と反応させ、(c)最後にペプチドのアミノ酸残基Lys上の保護基を除去するステップから成ることを特徴とする脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項2】
該ペプチドのアミノ酸残基は、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、グリシン(Gly)、リジン(Lys)、フェニルアラニン(Phe)、スレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)からなるグループのうちから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項3】
該ペプチドのアミノ酸残基は、直線状または環状配列を呈することを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項4】
該ペプチドは、6から14個のアミノ酸残基で構成され、且つ1個のアミノ酸残基はLysであるペプチドである、請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項5】
該ペプチドは、セグリチド(seglitide)、オクトレオチド(octreotide)、Tyr3−octreotide、D−Phe1−オクトレオチド、ランレオチド(lanreotide)及びバプレオチド(vapreotide)からなるグループのうちから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項4記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項6】
該官能基は、コハク酸(succinic acid)、無水コハク酸(succinic anhydride)、またはN−ヒドロキシルコハク酸イミド(N−hydroxilsuccinimide)から派生した基であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項7】
該スペーサは、ポリビニルピロリジン(polyvinylpyrrolidine)、ポリメタクリレート(polymethacrylate)、ポリエチルオキサゾリン(polyethyloxazoline)、ポリビニルメチルエーテル(polyvinylmethylether)、ポリプロピレングリコール(polypropyleneglycol)、ポリエチレングリコール(polyethyleneglycol)からなるグループのうちから選ばれた少なくとも一種の化合物から派生した基であることを特徴とする請求項1の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項8】
該スペーサは、ポリエチレングリコールから派生した基であり、且つ―(CH2CH2O)m―を具え、mは34から46であることを特徴とする請求項7記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項9】
該ポリエチレングリコールは、PEG600、またはPEG2000、またはPEG3000であることを特徴とする請求項8記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項10】
上記〔化1〕中のR1とR2は、それぞれ直鎖または分枝状C12-24アルキル基またはC12-24アル
ケニル基であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項11】
上記〔化1〕中のR1とR2は、ドデシル(dodecyl)、ミリスチル(myristyl)、パルミトイル(palmityl)、ステアリル(stearyl)、オレイル(oleyl)、及び9−トコセニル(9−docosenyl)からなるグループから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項9記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項12】
該ステップ(a)においてペプチド上のアミノ酸残基lysを保護するのに使用する保護基は、第三ブチルオキシカルボニル(tert−butyloxycarbonyl)、2−クロロベンジルオキシカルボニル(2−chlorobenzyloxycarbonyl)、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(9−fluorenylmethyloxycarbonyl)、アリルオキシカルボニル(allyloxycarbonyl)、1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロヘキシリジン)エチル(1−(4,4−dimethyl−2,6−dioxocyclohexylidene)ethyl、1−(1’―アダマンチル)−1−メチルエトキシカルボニル(1−(1’―adamantyl)−1−Methylethoxycarbonyl)からなるグループから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項13】
該ステップ(a)及び(b)は、非プロトン性溶剤中において進行せしめることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項14】
該非プロトン性溶剤は、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N−dimethylformamide)、N,N−ジメチルアセトアミド(N,N−dimethylacetamide)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofrane)、ジメチルスルホオキシド(dimethylsulfoxide)、ヘキサメチルホスホルアミド(hexamethylphosphoramide)、及びアセトニトリル(acetonitril)からなるグループから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項13記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項15】
脂質−スペーサ−官能基と該ペプチドの用量比率は、官能基部分:ペプチド部分=4:1から1:4であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項16】
各ステップの反応温度は、15から50℃の間であることを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項17】
該ステップ(a)及び(b)はそれぞれ12から36時間反応を行うことを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項18】
該ステップ(a)、(b)及び(c)においていずれかのステップの期間またはいずれかのステップの後に、更にペプチド部分の環化反応を行うことを特徴とする請求項1記載の脂質−スペーサ−官能基−ペプチドの調製方法。
【請求項19】
標的指向性リポソームであって、請求項1記載の方法で得られる脂質−スペーサ−官能基−ペプチドを主要成分とすることを特徴とする標的指向性リポソーム。

【公開番号】特開2008−115147(P2008−115147A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350627(P2006−350627)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(599171866)行政院原子能委員會核能研究所 (37)
【Fターム(参考)】