説明

脂質代替物の素、脂質代替物、及び低カロリー食品

【課題】脂質らしい食感及び旨味(フレバーリリースを含む)を有し、糊状感がなくかつ耐熱性を有する脂質代替物を得ることができる脂質代替物の素、脂質代替物、及び低カロリー食品を提供する。
【解決手段】イヌリン及び低強度寒天を含む脂質代替物の素を水に加熱溶解させた脂質代替物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質の代わりに用いることができる脂質代替物の素、脂質代替物、及び低カロリー食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活における脂質の過剰摂取が問題視されている。なぜなら、脂質の過剰摂取による肥満により、循環器障害、高血圧、及び脂質異常などの生活習慣病を誘発するからである。このような生活習慣病の増加は、医療費の増加を招く。したがって、医療費を削減するために、国を挙げて肥満を防止し、生活習慣病による寝たきりを状態を予防する対策を行っている。肥満防止の有効な手段は、脂肪の摂取を少なくし、摂取カロリーを低くすることである。しかし、食事から脂質を減らしてしまうと、脂質独特の旨味が薄れ、食事が味気ないものになってしまうという問題がある。また、嗜好品においても、脂質の少ない和菓子がよいとは言え、脂質の多い洋菓子のクリームは、和菓子では作りだせない独特の旨味がある。
【0003】
上記問題を解決するために、脂質の代わりに脂質代替物を用いることが知られている。例えば、脂質代替物としてペクチンを用いることが知られている(例えば、特許文献1及び2)。しかし、ペクチンは、ゲル化にカルシウムなどの金属塩を必要とするものや金属塩を必要としないものでも共に食感的にも物足りないものであるという問題がある。
【0004】
また、脂質代替物として、澱粉及びデキストリンを用いることも知られている(例えば、特許文献3)。しかし、澱粉及びデキストリンを用いたものは、糊状感が残り食感的には不十分であるという問題がある。また、耐熱性が劣るため、澱粉やデキストリンからなる脂質代替物を含む食品をレトルト殺菌等の加熱殺菌することが難しく、長期間にわたり保存流通させることができないという問題もある。
【0005】
またさらに、脂質代替物として、イヌリンを用いることも知られている(例えば、特許文献4乃至10)。イヌリンは、高濃度で溶解し冷却することにより脂肪様の組成物にできる。また、脂質代替物として、低強度寒天を用いることも知られている(例えば、特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−103264
【特許文献2】特開平9−103265
【特許文献3】特公平5−37007
【特許文献4】特開2008−173115
【特許文献5】特開平10−290671
【特許文献6】特開平10−179025
【特許文献7】特許第2897328
【特許文献8】特許第2946622
【特許文献9】特許第3195796
【特許文献10】特許第3212094
【特許文献11】特開平6−38691
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、イヌリンを脂質代替物として用いる場合は、イヌリンを高濃度にする必要があるため、現実的に使用が制限されるという問題がある。また、食感的にも糊状感が強いため、充分に満足できるものでなく、さらに耐熱性もないという問題がある。低強度寒天を脂質代替物として用いる場合は、寒天の性質上、口溶け感が瑞々しく、脂質としては物足りないという問題点がある。そこで本発明は、脂質らしい食感及び旨味(フレバーリリースを含む)を有し糊状感がなく、かつ耐熱性を有する脂質代替物を得ることができる脂質代替物の素、脂質代替物、及び低カロリー食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イヌリン及び低強度寒天を組み合わせることにより、新たに脂質らしい食感及び旨味を有し糊状感がなく、かつ耐熱性を有する脂質代替物が得られることを見出した。すなわち、本発明は、イヌリン及び低強度寒天を含むことを特徴とする脂質代替物の素である。また、本発明は、前記脂質代替物の素を水に加熱溶解させたことを特徴とする脂質代替物である。さらに、本発明は、前記脂質代替物を含む低カロリー食品である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、脂質らしい食感及び旨味を有し糊状感がなく、かつ耐熱性を有する脂質代替物を得ることができる脂質代替物の素、脂質代替物、及び低カロリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において用いられるイヌリンは、スクロースのフラクトース残基にフラクトースがβ−2,1結合で直鎖状につながった分子構造を有する。イヌリンは、天然の植物から抽出することにより得ることもできるし、シュクロースを原料として酵素を用いて合成することにより得ることもできる。イヌリンの重合度は、2〜60であることが好ましい。平均重合度は、10〜20であることが好ましい。このような範囲であると、溶解しやすく、また脂質状のクリームになり好ましい。
【0011】
本発明において用いられる低強度寒天は、通常の寒天よりも強度の低い寒天であり、寒天のゼリー強度は、1.5%寒天濃度において10〜250g/cmであることが好ましい。ゼリー強度が250g/cmよりも高いと、食感が硬く滑らかさに欠け好ましくない。低強度寒天は、例えば、特許3023244号、及び特許3414954号に記載の方法によって得ることができる。低強度寒天は、熱処理によって寒天成分の分子が切断されて、ゼリー強度が1.5%寒天濃度で10〜250g/cmの範囲に調整されている低強度寒天であることが特に好ましい。
【0012】
本発明に係る脂質代替物は、本発明に係る脂質代替物の素100質量部に、水100〜1000質量部を添加して加熱溶解させることにより得ることができる。本発明に係る脂質代替物は、加熱溶解後、自然冷却、又は冷蔵庫等で強制的に冷却してペースト状になったものでもよい。加熱溶解する際の加熱温度は、80〜121℃であることが好ましい。加熱時間は、1〜10分であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る脂質代替物に含まれるイヌリンと低強度寒天の質量配合比は、1:0.01〜1:10であることが好ましく、1:0.1〜1:2であることがさらに好ましく、1:0.3〜1:1であることが特に好ましい。この配合比の範囲でない場合は、イヌリンの性質により糊状感が強くなったり、低強度寒天の性質により脂質らしい旨味が損なわれたりして、好ましくない。
【0014】
本発明に係る脂質代替物は、イヌリン及び低強度寒天を含むが、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、機能性成分、及び添加物成分が挙げられる。機能性成分としては、例えば、糖分、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、酸味、及びカテキンが挙げられる。添加物成分としては、例えば、乳化剤、色素、香料、及び保存料が挙げられる。機能性成分や添加物成分を含むことにより、脂質代替物としての機能以外の機能を付与することができる。
【0015】
本発明に係る脂質代替物は、脂質代替物としての性質を損なわない範囲で、さらに、カラギーナン、ファーセレラン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、フェヌグリーク、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、澱粉、化工澱粉、ゼラチン、セルロース誘導体、ジェランガム、ネーティブジェランガム、及びこれらの低分子品を含んでいてもよい。
【0016】
本発明に係る低カロリー食品は、食品、特に高脂肪食品に含まれる脂質の少なくとも一部の代わりに本発明に係る脂質代替物が用いられた食品であれば特に制限されない。本発明に係る低カロリー食品としては、マヨネーズ、マーガリン、ホイップクリーム、チョコレートシロップ、ピーナッツクリーム、バタークリーム、黒ごまクリーム、及び牛乳等の一般的に高脂肪食品であるものを低カロリーとしたものが挙げられる。
【0017】
本発明に係る低カロリー食品は、例えば、イヌリンと低強度寒天とを水に入れ、加熱溶解後、目的となる食品の原料や素材に混ぜ合わせて冷却して得ることもできるし、イヌリンと低強度寒天とを水に入れ、加熱溶解後、冷却してペースト状になったものを目的となる食品の原料や素材に混ぜ込むことによって得ることもできるし、イヌリンと低強度寒天とを、水を含む食品の原料や素材に混ぜ込んで、加熱溶解して得ることもできる。
【0018】
本発明に係る低カロリー食品中のイヌリン及び低強度寒天の含有量は、低カロリー食品の種類にもよるが、一般的には、0.3〜40質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがさらに好ましく、0.5〜20質量%であることが特に好ましい。
【0019】
本発明に係る脂質代替物は、イヌリン及び低強度寒天を組み合わせることにより、新たに脂質らしい食感及び旨味を有し、かつ耐熱性を有する脂質代替物が得られる。イヌリンだけでも脂質代替物として使用されているが、使用濃度を高くしなければならず、また、結晶化しているため口腔内において溶解するまでに時間を要し、ざらつき感があるという欠点を有する。さらに、使用濃度が高いため、糊状感が多少なりとも残るという欠点も有する。一方、低強度寒天だけでも脂質代替物として使用されているが、寒天は離水しやすくフレーバーリリースは良いが、さっぱり感が強く脂質代替物としては、特に食感に物足りなさがある。本願発明に係る脂質代替物は、イヌリンと低強度寒天とを組み合わせ、これによる相乗効果により、より脂質らしいものとなる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明に係る脂質代替物素、脂質代替物、及び低カロリー食品について説明する。なお、実施例及び比較例においては、以下の原料を用いた。
イヌリン1:ラフティリンST,平均重合度10,(日本シイベルヘグナー社製)
イヌリン2:フジFF,平均重合度16(フジ日本精糖社製)
イヌリン3:ラフティリンHP,平均重合度20,(日本シイベルヘグナー社製)
低強度寒天1:ウルトラ寒天UX−30,1.5%寒天濃度でゼリー強度30g/cm(伊那食品工業社製)
低強度寒天2:ウルトラ寒天AX−200,1.5%寒天濃度でゼリー強度200g/cm(伊那食品工業社製)
低強度寒天3:ウルトラ寒天イーナ,1.5%寒天濃度でゼリー強度10g/cm(伊那食品工業社製)
寒天1:伊那寒天S−5,1.5%寒天濃度でゼリー強度530g/cm(伊那食品工業社製)
寒天2:伊那寒天大和,1.5%寒天濃度でゼリー強度400g/cm(伊那食品工業社製)
寒天3:伊那寒天S−7,1.5%寒天濃度でゼリー強度730g/cm(伊那食品工業社製)
デキストリン:特開昭60−164449の実施例1の方法により製造した。具体的には、タピオカ澱粉(MKK−100,松谷化学工業社製)100gに塩酸0.05溶液を噴霧し、132℃で4時間処理した。その後、0.1%水酸化ナトリウム溶液で中和しpH5.5とし、再乾燥してデキストリンを得た。
澱粉:エヌライトL(ナショナルスターチ社製)
ペクチン:スレンディッド200(CPケルコ社製)
【0021】
実験例1
(実施例1)
30gのイヌリン2と0.6gの低強度寒天3とを混合して、実施例1に係る脂質代替物の素を得た。これを69.4gの水に添加し、90℃で2分間加熱することにより、溶解させた。これを容器に充填し、4℃にて1晩放置して実施例1に係る脂質代替物を得た。実施例1に係る脂質代替物のゲル強度を求めた。ゲル強度は、テクスチャーアナライザー(英弘精機社製,1g/cm円柱状プランジャー,測定速度20mm/分,測定温度20℃)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0022】
(実施例2〜6)
表1に記載の配合量(g)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2乃至6に係る脂質代替物を得た。また、実施例1と同様にゲル強度を求めた。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実験例1より、実施例1乃至6に係る脂質代替物は、種々の配合比及び配合量によっても、ゲル強度が10〜120cm/cmの間であり、口腔内での口溶けはすべて良く、脂質代替物として優れていた。
【0025】
実験例2
(実施例7)
30gのイヌリン1と1gの低強度寒天1とを混合して、実施例7に係る脂質代替物の素を得た。これを69gの水に添加し、95℃で2分間加熱することにより、溶解させた。これを容器に充填し、20℃にて1晩放置して、実施例7に係る脂質代替物を得た。実施例7に係る脂質代替物について、口腔内での脂肪感及び耐熱性を求めた。口腔内での脂肪感は、パネラーにより、次のように評価した。◎:脂肪感が非常にあり口どけも良い,○:脂肪感はあるが◎より劣り口溶けも若干劣る,△:脂肪感は劣るが口どけは良い,×:脂肪感、口どけ共に悪い。耐熱性は、実施例7に係る脂質代替物と、それを90℃に加温し、5時間保持後4℃に冷却したものとを、パネラーが食すことにより比較した。実施例7に係る脂質代替物と口腔内での脂肪感が変わっていなければ○,若干劣っていれば△,劣っていれば×,として評価した。結果を表2に示す。
【0026】
(比較例1〜8)
表2に記載の原料及び配合量(g)とした以外は、実施例7と同様にして比較例1乃至8に係る脂質代替物を得た。また、口腔内での脂肪感及び耐熱性を実施例7と同様に求めた。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
実験例2より、イヌリン及び低強度寒天を含む脂質代替物は、他の脂質代替物に比べ、口腔内での脂肪感が強く、脂質代替物として優れた食感を有し、また耐熱性も優れていることが分かる。
【0029】
実験例3
(実施例8)
25gのイヌリン3と0.3gの低強度寒天2とを混合して、実施例8に係る脂質代替物の素を得た。これを74.7gの水に添加し、95℃で3分間加熱することにより、溶解した後、10℃に冷却して、実施例8に係る脂質代替物を得た。実施例8に係る脂質代替物について、実施例7と同様に口腔内での脂肪感を求めた。結果を表3に示す。
【0030】
(実施例9,比較例9〜11)
表3に記載の原料及び配合量(g)とした以外は、実施例8と同様にして、実施例9及び比較例9乃至11に係る脂質代替物を得た。また、実施例7と同様に口腔内での脂肪感を求めた。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
実験例3より、イヌリン及び低強度寒天を含む脂質代替物は、通常の寒天を使用した時に比べ、口腔内での脂肪感が強く、脂質代替物として優れた食感を有していることが分かる。
【0033】
実験例4
(実施例10)
低強度寒天1、イヌリン2、及び水を混合し、95℃で3分間加熱することにより、溶解させた後、4℃に冷却して実施例10に係る脂質代替物を得た。それとは別に、卵黄にサラダ油をかき混ぜながら加え乳化(高速撹拌機使用)させた後、食酢、及び実施例10に係る脂質代替物を添加して混合撹拌し、実施例10に係る低カロリーマヨネーズを得た。配合量(g)は、表4に示した通りである。
【0034】
(比較例12〜16)
表4に示した原料及び配合量(g)とした以外は、実施例10と同様にして比較例12乃至16に係る低カロリーマヨネーズを得た。
【0035】
(参考例1)
サラダ油700g、卵黄170g、及び食酢130gを混合して通常通りに参考例1に係るマヨネーズを得た。
【0036】
参考例1に係る通常のマヨネーズと、実施例10及び比較例12乃至16に係る低カロリーマヨネーズとについて、食感と旨味を評価した。食感は、パネラーにより、参考例1に係るマヨネーズと比べ、○:満足のいく食感である,△:やや食感に劣る,×食感に劣る,として評価した。旨味は、パネラーにより、参考例1に係るマヨネーズと比べ、○:満足のいく旨味を有する,△:やや旨味がない,×:旨味がない,として評価した。結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
実験例4より、本願発明に係る脂質代替物を用いると、本物の脂質を含むマヨネーズと比較しても食感及び旨味において同等であり、脂質代替物として非常に有用であることが分かる。
【0039】
実験例5
(実施例11)
低強度寒天1、イヌリン2、及び水を混合し、95℃にて3分間加熱することにより、溶解させた後、4℃に冷却して実施例11に係る脂質代替物を得た。配合量(g)は、表5に示した通りである。
【0040】
(比較例17〜21)
表5に示した原料及び配合量(g)とした以外は、実施例11と同様にして比較例17乃至21に係る脂質代替物を得た。
【0041】
市販のマーガリン(ネオソフト,雪印乳業社製)100gと、実施例11及び比較例17乃至21に係る脂質代替物それぞれ100gとを良く撹拌し混ぜ合わせて、実施例11及び比較例17乃至21に係る低カロリーマーガリンを得た。実施例11及び比較例17乃至21に係る低カロリーマーガリンについて、食感と旨味を評価した。食感は、パネラーにより、市販のマーガリンと比べ、○:満足のいく食感である,△:やや食感に劣る,×食感に劣る,として評価した。旨味は、パネラーにより、市販のマーガリンと比べ、○:満足のいく旨味を有する,△:やや旨味がない,×:旨味がない,として評価した。結果を表5に示す。
【0042】
【表5】

【0043】
実験例5より、本発明に係る脂質代替物を用いると、本物の脂質を含むマーガリンと比較しても食感及び旨味において同等であり、脂質代替物として非常に有用であることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリン及び低強度寒天を含むことを特徴とする脂質代替物の素。
【請求項2】
請求項1記載の脂質代替物の素を水に加熱溶解させたことを特徴とする脂質代替物。
【請求項3】
イヌリンと低強度寒天の質量配合比が1:0.01〜1:10であることを特徴とする請求項2記載の脂質代替物。
【請求項4】
請求項2又は3記載の脂質代替物を含む低カロリー食品。


【公開番号】特開2011−30444(P2011−30444A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176938(P2009−176938)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】