説明

脂質代謝改善剤およびそれを含有する食品

【課題】 天然物由来の成分を有効成分として含有し、安全かつ安価に、ヒトおよび動物の血中コレステロール量の低減ないし抑制作用による脂質代謝の改善効果を与える脂質代謝改善剤およびそれを含有する食品ないし保健機能食品を提供すること。
【解決手段】 柑橘類搾汁粕を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質代謝改善剤に関し、特に、天然物由来の成分を含む血中コレステロール量の改善に有効な脂質代謝改善剤およびそれを含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高脂肪低繊維食に代表される食事の欧米化やライフスタイルの変化に伴い、高コレステロールに起因する様々な生活習慣病が問題となっている。
【0003】
これら脂質代謝の異常に起因する疾患のうちでも、高脂血症患者の数は近年増加していることが指摘されている。高脂血症は、血液中の脂質(脂肪)、特にコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が正常値を超えて増加している状態をいう。高脂血症は自覚症状がないため、これをそのまま放置すると、動脈硬化が進行して狭心症や心筋梗塞などの心臓病や脳梗塞のような脳動脈疾患を引き起こす。
【0004】
従来、このような高脂血症等の脂質代謝異常を抑制ないし改善するために、スタチオン剤、フィブラート剤などの合成薬剤が広く用いられている。しかしながら、化学合成によって得られた薬剤の服用は副作用を伴う場合が多いため、長期にわたっての服用は必ずしも望ましいものではない。
【0005】
したがって、天然物由来の成分であって、副作用やリバウンドのおそれがなく、長期間にわたって安全に摂取することができる脂質代謝改善剤の開発が望まれている。
【0006】
このような観点で、従来提案されている天然物由来の脂質代謝改善剤としては、柑橘類の種子に含まれているリモノイド含有物を利用するもの(特許文献1)や、タデ科植物やブドウ科植物などに含有されるスチルベン系化合物を利用するもの(特許文献2)が知られている。
【特許文献1】特開2000−72684号公報
【特許文献2】特開2001−72583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、天然物由来の成分を有効成分として含有し、安全かつ安価に、ヒトおよび動物の血中コレステロール量の低減ないし抑制作用による脂質代謝の改善効果を与える脂質代謝改善剤およびそれを含有する食品ないし保健機能食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る脂質代謝改善剤は、柑橘類搾汁粕を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の好ましい態様において、上記柑橘類は、温州みかん、ポンカン、清見、デコポン、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
さらに、本発明においては、上記搾汁粕は、チョッパーパルパー搾汁由来のものであることが好ましい。
また、本発明は、上記脂質代謝改善剤の高脂血症抑制剤としての使用を含む。
【0011】
さらに、本発明は、上記脂質代謝改善剤を含有することを特徴とする食品または飼料を包含する。
【0012】
さらに、本発明は、柑橘類搾汁粕を有効成分として含有し、ヒトおよび動物の血中コレステロールおよび中性脂肪濃度の低減ないし抑制作用による脂質代謝の改善効果を有するものであることを特徴とし、血中コレステロールおよび中性脂肪濃度の改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る脂質代謝改善剤は、柑橘類搾汁粕を有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明において、好ましくは、上記柑橘類としては、温州みかん、ポンカン、清見、デコポン、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツからなる群から選ばれる。
特に好ましい柑橘類の種は、たとえば、温州みかんおよび伊予柑である。
【0015】
本発明においては、上記のような柑橘類を搾汁した後に得られる搾汁粕を有効成分として使用する。
【0016】
本発明者は、温州みかんの果実成分のうちで、温州みかんの搾汁粕に着目して、この成分と生活習慣病の予防機能との間の関係について研究した。
【0017】
柑橘の果実において、じょうのうは普通8〜12の房に分かれている。これらの房は、ジュース分を含む砂じょう(つぶつぶの果肉部分)と内果皮(袋状の薄い皮)によって構成されている。この内果皮が「じょうのう膜」と呼ばれている。通常、温州みかん1個に含まれる外果皮の重量割合は約20%、じょうのう膜の重量割合は約5%、砂じょうの重量割合は約75%である。
【0018】
柑橘類が搾汁される場合、通常インライン搾汁機とチョッパーパルパー搾汁機が使用されるが、現在では前者の使用が圧倒的に多い。インライン搾汁機で柑橘類を搾汁すると、果実の約50%が搾汁粕となる。その構成物質は、柑橘類の種類、品種、収穫時期、果実の大きさ等により異なるが、温州みかんの場合、外果皮約20%、じょうのう膜約5%、砂じょう約25%である。チョッパーパルパー搾汁は外果皮を剥皮した後に搾汁することが特徴であり、外果皮のやわらかい温州みかんの搾汁に用いられており、果実の約10%が搾汁粕となる。搾汁粕の構成物質は温州ミカンの場合、じょうのう膜約5%、砂じょう約5%である。チョッパーパルパー搾汁粕は、外果皮を含まず、ヒトの食するじょうのう膜と砂じょうで構成されているため、好適にはチョッパーパルパー搾汁粕を用いることが望ましい。チョッパーパルパー搾汁粕の主要構成物質である温州みかんのじょうのう膜に含まれる成分としては、特に食物繊維とアミン誘導体(シネフリン)が挙げられる。まず、食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に大別される。水溶性食物繊維はコレステロールが腸壁から吸収される前に吸着し、糞便として排泄するためコレステロール低下作用があり、一方、不溶性食物繊維には食物の消化管通過時間の短縮や便量の増加を促す性質が報告されている。温州みかんのじょうのう膜は、果実や野菜、特に柑橘類に多く含まれる水溶性食物繊維のペクチンや不溶性食物繊維であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどの繊維質が豊富に含まれる。また、アミン誘導体は、アドレナリン作用性アミン類として脂肪細胞を刺激し、脂質吸収阻害作用を引き起こすことが予想される。
【0019】
ところで、体脂肪(内臓脂肪)の蓄積を意味する肥満と病的疾患である高脂血症などの脂質代謝異常の発症とはメカニズムが異なることが予想されることから、両者を同等に考えることもできない。本発明による知見以前において、柑橘類搾汁粕やじょうのう膜成分と脂質代謝改善効果との間の関連性については知られていなかった。特に、じょうのう膜成分と高脂血症抑制・予防効果について研究された例はない。
【0020】
柑橘類から搾汁粕の採取は、通常、以下のような工程に従って行うことができる。
まず、原料果実は、トラック等で搾汁工場に搬送され、直ちに原料貯蔵庫に保管される。次に、ベルトコンベアーや流水路により選果コンベアーに移送される。ここでは、病害果、未熟果、障害果等が除去される。その後、洗浄ラインに移されるが、通常、回転式のブラシ付ロールと食品用の洗剤により、原料果実に付着している土砂、すす、農薬残留物が除去される。また、この工程では、塩素水等により殺菌が行われることもある。尚、チョッパーパルパー搾汁の場合は、剥皮の前に湯通しを行うので、この工程は省略することができる。
【0021】
搾汁は、前述したようにインライン搾汁機又はチョッパーパルパー搾汁機が主に用いられる。インライン搾汁機では、外果皮はアッパーカップとロアーカップに切断されて排出され、外果皮の一部、じょうのう膜及び搾汁されずに残された砂じょうはオリフィスチューブから排出される。チョッパーパルパー搾汁機は、温州みかんが他の柑橘類に比べ、剥皮が容易であることを利用した搾汁方式である。即ち、洗浄した温州みかんは、約90℃の湯の中を通し、外果皮を軟化させてから、剥皮機により剥皮される。剥皮された温州みかんはチョッパーにより細断され、スクリーンとパドルで構成されるパルパーにより搾汁される。搾汁粕は外果皮を含まず、通常ヒトが食するじょうのう膜と砂じょうから構成されていることが特徴である。尚、搾汁粕はそのまま利用することもできるが、細断後乾燥して利用することにより、多分野での応用が可能となる。
本発明は、上記脂質代謝改善剤の高脂血症抑制剤としての使用を含む。
【0022】
本発明における、じょうのう膜成分によって高脂血症抑制効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、肥満の防止・抑制効果とは基本的に異なるメカニズムによるものと考えられる。血清コレステロール濃度の低下については糞中胆汁酸排泄の増加の関与がもっとも有力である。脂質消化において疎水性の脂質に対し親水性の酵素が反応するのを補助している内因性の界面活性剤である胆汁酸は肝臓でコレステロールより合成されている。胆汁酸は胆管より小腸上部腔内に大量に分泌され、そのほとんどが小腸下部で吸収され再利用されるが、極わずかな部分が糞中に排泄される。この胆汁酸排泄がほとんど体外排泄経路を持たないコレステロールの最大の排泄経路と考えられている。糞中胆汁酸排泄が促進されれば、体内のコレステロール量が低下し、血清コレステロール濃度が低下する可能性はある。体内のコレステロールの血中異動形態および貯蔵形態のかなりの部分が、中性脂肪の一要素である脂肪酸と結合したコレステロール・エステルであり、肝臓では中性脂肪の代謝はコレステロールの影響を大きく受けている。血清中性脂肪濃度の低下は血清コレステロール濃度の低下を反映している可能性が高い。
【0023】
上記の脂質代謝改善剤の形態としては、特に限定されるものではなく、従来公知の剤形、たとえば錠剤、顆粒状、粉体、カプセル剤、液剤、ペーストなどの形態をとることができ、必要に応じて賦形剤、増量剤、他の栄養剤、乳化剤等を併用することができる。
【0024】
また、本発明においては、上記脂質代謝改善剤を含有する食品または飼料を包含する。このような食品形態としては、固体状、液状、粉末状、ゼリー状などの各種形態が可能であり、常法により調製することができる。
【0025】
本発明による脂質代謝改善剤の摂取量ないし投与量は、年齢、体重、疾患の程度に応じて適宜選択することができる。通常、たとえば、予防的に長期間にわたって摂取する場合は、1日成人1人あたり、じょうのう膜が湿重量で0.5〜10g程度になる範囲で摂取することが好ましい。
【0026】
一方、高脂血症の治療ないし症状の緩和のために投与する場合にあっては、1日成人1人あたり、じょうのう膜成分が10〜100g程度になる範囲で摂取することが好ましい。
【実施例】
【0027】
本実験では、雌のリタイアラットに卵巣摘出手術を行い、閉経後女性モデルラットとした。卵巣摘出によりエストロゲンが欠如する。エストロゲンが欠如することにより、コレステロールの体外排泄が低下し、血中コレステロールが増加し、高コレステロールにつながる。また、エストロゲンの欠如は、過食の原因ともなり、生活習慣病の根底をなす肥満を引き起こす。
【0028】
本発明による温州みかんじょうのう膜をラットに摂取させることにより、食物繊維の作用として胆汁酸排泄を促し、コレステロールを低下させると同時に食物繊維のかさ高さにより過食が抑えられることが予想される。また、アミン誘導体の脂質吸収阻害作用により、高コレステロール血症を防ぐ効果が期待できる。以下の実験1において、温州みかんの果肉とじょうのう膜が含まれる温州みかん搾汁粕凍結乾燥物を卵巣摘出手術を施したラットに与え、血清コレステロール濃度への影響を調べた。
【0029】
実験1
実験飼料
実験に用いた飼料組成を表1に示した。AIN-93Gの飼料組成からセルロールを抜いたものをコントロール飼料とし、コントロール飼料に5%セルロースを置換したもの(AIN-93G)、コントロール飼料にそれぞれミカン搾汁粕凍結乾燥物を1%、3%、5%添加したものを用いた。但し、ミカン搾汁粕凍結乾燥物中に含まれる糖成分は、スクロースで補正した。
【0030】
【表1】

実験動物
実験動物としてWistar系の雌ラット(日本エスエルシー株式会社:リタイア)を使用した。ラットは室温23±1℃、12時間の明暗サイクル(明期;3:30〜15:30)に保った動物飼育室内の飼育ゲージで個々に飼育した。その際、飼料と水は自由摂取とした。
【0031】
搬入後、3日間市販の固形飼料(オリエンタル酵母)を与え、予備飼育をし、飼育環境に慣らした後、ネンブタール麻酔下で卵巣摘出手術(OVX、n=30)または偽手術(Sham、n=6)を行った。その後、5日間固形飼料で飼育し、術後の回復を確認後、OVXは5群に組み分け、表1に示したコントロール飼料、またはこれに5%セルロースを添加した飼料、1%、3%、5%温州みかん搾汁粕凍結乾燥物を添加した飼料を与え、Sham群は1群とし、表1に示したコントロール飼料を与えて4週間飼育した。飼料摂取量、体重は毎日測定した。本飼育14日目、28日目に尾静脈採血を行った。解剖前3日間、糞を採取した。
【0032】
実験飼育最終日の20:00に解剖を行った。エーテル麻酔をかけた後に、断頭採血により屠殺した。屠殺後すぐに開腹し、肝臓を氷冷生理食塩水で潅流した。潅流後、摘出し、重量を測定し、分析まで−50℃で冷凍保存した。その後、小腸を摘出し、内容物を氷冷生理食塩水で洗い出し、採取した。その後、小腸粘膜をはがして採取した。また、血液は解剖後すぐに4℃、3,000×g、15分間遠心分離し、血清を得た後、分析まで−50℃で冷凍保存した。
【0033】
測定項目および分析方法
(1) 血清総コレステロール、血清TG、血清PL
血清総コレステロール濃度はキット(コレステロールEテストワコー:和光純薬)を用いて測定し、TGはキット(TG-Eテストワコー:和光純薬)、PLもキット(PL-Cテストワコー:和光純薬)、グルコースもキット(GL−5 カイノス:株式会社カイノス)を用いて測定した。
【0034】
(2) 肝臓コレステロール7α水酸化酵素(CYP7α)活性の測定
肝臓ミクロソームの調製およびCYP7α活性の測定はOgishima et al.の方法に従って行った。
i)ミクロソーム調整
生理食塩水で灌流した肝臓約2.0〜2.2gを正確に秤り取り、氷冷した0.1Mリン酸カリウム緩衝液7mL中で荒く刻み、氷冷しながらホモジナイザーで粉砕し、懸濁後、遠心チューブに移し、50Tiローターを用いて超遠心分離した(12000rpm, 30min, 3℃)。上清を新しいチューブに移し、再び超遠心した(38000rpm, 60min, 3℃)。沈殿を0.1Mリン酸カリウム緩衝液2.4mLに再懸濁し、これを肝臓ミクロソーム溶液とした。
ii)CYP7α活性の測定
酵素測定用緩衝液0.4mLを37℃で10分間保温し、肝臓ミクロソーム懸濁液100μLを加え、37℃で正確に25分間保温後、6%コール酸ナトリウムを50μL加えた。これにコレステロールオキシダーゼ溶液を25μL加え、37℃で30分間保温後に冷メタノールを0.55mL加えた。氷冷石油エーテルを6mL加え、シリコン栓をして2分間の振とうを2回くり返した。これを遠心分離(2500rpm, 10min, 4℃)し、石油エーテル層を4mL採取し、窒素ガス下で蒸発乾固させた後、氷冷・ヘキサンで試験管の内壁を洗い、再び窒素ガス下で蒸発乾固させる。さらに氷冷・クロロホルムを100μL加えて乾固物を溶解する。この溶液のうち25μLをHPLCでの分析に供した。
【0035】
7α-ヒドロキシコレステロールを用いて標準曲線を作成し、得られた検量線からCYP7α活性を算出した。HPLCによる分析条件は以下に示した。
HPLC (ポンプ: LC-10AD、カラムオーブン: CTO10A、デガッサー: DGU-12A、
島津製作所)
カラム SILICA SG80, 25.0cm×4.6 mm (SHISEIDO FINE CHEMICALS)
カラム温度 40℃
溶離液 n-ヘキサン:i-プロピルアルコール=82:18(v/v)
流速 0.5 mL/min
検出器 UV-VIS、240 nm
注入量 20μL
【0036】
(3) 肝臓総脂質、肝臓コレステロール、肝臓TG、肝臓PL
肝臓約1 gを20 mLのクロロホルム:メタノール=2:1でホモジネートし、それを濾過した溶液に0.37%KClを加えて1日放置し、2層に分かれた下層を恒量したビーカーに入れ、クロロホルム、メタノールを蒸発させ、105℃で一日乾燥させて冷却後重量を測定し、肝臓総脂質含量を求めた。
【0037】
肝臓総コレステロール、遊離コレステロール、肝臓TG、肝臓PLは肝臓脂質抽出液50 μLを遠心エバポレーターで蒸発乾固させ、それに10%トリトンX100含有2-プロパノール200 μLを加えてよく撹拌した後、キット(コレステロールEテストワコー、FコレステロールEテストワコー、TG-Eテストワコー、PL-Eテストワコー:和光純薬)によって定量した。また、エステルコレステロール濃度は総コレステロール濃度と遊離コレステロール濃度の差から求めた。
【0038】
(4) 糞中および消化管内容物胆汁酸量
凍結乾燥後、粉末にした糞(または内容物)0.05 gにクロロホルム:メタノール=1:1を加え、60℃で一晩恒温槽中で抽出した。抽出液3 mLから溶媒を蒸発乾固し、これにメタノール0.5 mLを加え、完全に溶かした。STDとして、0.01Mのタウロコール酸を0、5、10、20、30 μl、メタノールを順に30、25、20、10、0 μl加え全量を30 μlにして使用した。サンプルとSTDに保存液(I;0.05M CAPSbuffer、II;0.5M セミカルバジド溶液、この2つを使用直前にI:II=19:1の割合で混合し、この溶液20 mlに対してNADを25 mg加えた。これを保存液とした。)1.35 mlと酵素溶液(ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ0.024 gに0.1Mリン酸カリウム緩衝液を10 ml加えたもの。)を50 μl加えてよく混和した。これら全てを37℃で30分間インキュベートし、氷水につけて反応をとめた。室温に戻した後、340 nmで吸光度を測定した。
【0039】
(5) 血清レプチン濃度測定
市販のラットレプチン測定キット(森永生科学研究所)を用いた。
300μL/ウェルの洗浄液で2回洗浄し、45μL/ウェルの検体希釈液、50μL/ウェルのモルモット抗ラットレプチン抗血清および5μL/ウェルの標準曲線用ラットレプチン溶液または血清サンプルを分注した。その後、4℃で、一晩、安定な場所に置き反応させた。
300μL/ウェルの洗浄液で5回洗浄した後、100μL/ウェルの酵素標識抗モルモットIgG抗体溶液を分注し、4℃で、3時間、安定な場所に置き反応させた。
300μL/ウェルの洗浄液で7回洗浄した後、100μL/ウェルの酵素基質液(3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン:TMB)を分注し、遮光条件下、常温で、30分間、安定な場所に置き反応させた。
100μL/ウェルの反応停止液を分注し、酵素反応を停止させた後、30分以内に分光吸光度計(UV-1200、島津製作所)にて450nmで測定した。標準曲線用ラットレプチン溶液の吸光度から標準曲線を作成し、血清サンプルの吸光度からラットレプチン濃度を求めた。
【0040】
(6) 血清インスリン濃度測定
市販のラットインスリン測定キット(森永生科学研究所)を用いた。
300μL/ウェルの緩衝液で2回洗浄し、50μL/ウェルのモルモット抗インスリン血清、45μL/ウェルの検体希釈液2および5μL/ウェルの標準曲線用ラットインスリン溶液または血清サンプルを分注した。その後、4℃で、一晩、安定な場所に置き反応させた。
300μL/ウェルの緩衝液で3回洗浄した後、100μL/ウェルの抗モルモット酵素標識抗体を分注し、4℃で、3時間、安定な場所に置き反応させた。
300μL/ウェルの緩衝液で5回洗浄した後、100μL/ウェルの酵素基質溶液を分注し、遮光条件下、常温で、30分間、安定な場所に置き反応させた。
50μL/ウェルの反応停止液を分注し、酵素反応を停止させた後、30分以内に分光吸光度計(UV-1200、島津製作所)にて450nmで測定した。標準曲線用ラットインスリン溶液の吸光度から標準曲線を作成し、血清サンプルの吸光度からラットインスリン濃度を求めた。
【0041】
(7) 体脂肪率測定
-50 ℃で保存しておいた屠体をミンチ機(#22GM-D:日本キャリア工業、愛媛、日本)で細かく刻み、均一になるようによくこねた後、約10 gを採取した。ミンチ中の脂質抽出はFolch et al. (16) の方法に従って行った。ミンチ肉約1 gを15 mlのクロロホルム:メタノール混液(2:1、v/v)で2分30秒間ホモジネートした後、濾過し、脂質抽出液をクロロホルム:メタノール混液で20 mlに定容、0.37%塩化カリウム水溶液4 mlを加え、一晩放置した。その後、水層を除去し、クロロホルム:メタノール:水混和液(3:48:47、v/v/v)で数回洗い込んだ後に、恒量したビーカー(W1)に移し、ホットプレート上で溶媒を除去し、再びビーカー重量(W2)を測定した。脂質重量は(W2−W1)により求めた。求めた体脂肪重量に摘出した卵巣周囲脂肪組織または副睾丸脂肪組織および腎臓周囲脂肪組織重量を足したものを全体脂肪重量(g)とし、それを最終体重で割ったものを体脂肪率(%)とした。
【0042】
(8) 糞中脂質
糞約0.5 gを15 mLのクロロホルム:メタノール=2:1でホモジネートし、それを濾過した溶液に0.37%KClを加えて1日放置し、2層に分かれた下層を恒量したビーカーに入れ、クロロホルム、メタノールを蒸発させ、105℃で一日乾燥させて冷却後重量を測定し、糞中脂質含量を求めた。
【0043】
統計処理
実験結果は各群の平均値±標準誤差で表した。各データの統計処理は、Tukeyの多重比較検定法で比較した。P<0.05をもって有意とした。Sham のC群とOVXのC群、OVXのC群と5%セルロース群との比較は、Studentのt-検定法により比較した。P<0.05をもって有意とした。
【0044】
結果
最終体重、体重増加量、総飼料摂取量、飼料効率、体脂肪率、体脂肪量は、飼料効率が卵巣摘出-コントロール群と比較して、偽手術-コントロール群で有意に低下していた以外に差はなかった(表2)。
【0045】
血清総コレステロール濃度は尾静脈28日目では卵巣摘出-コントロール群と比較して5%搾汁粕群で有意に低下していた。28日目と解剖時において偽手術-コントロール群は、卵巣摘出-コントロール群と比べて有意に低下した。血清TG濃度は、尾静脈14日目で卵巣摘出-コントロール群と比較して搾汁粕群で有意に低下していた。尾静脈28日目、解剖後は有意差は見られなかった。血清PL濃度は、尾静脈28日目と解剖後において卵巣摘出-コントロール群に比べて5%搾汁粕群で有意に低下した。また、尾静脈14日目、尾静脈28日目、解剖後において卵巣摘出-コントロール群に比べて偽手術-コントロール群で有意に低下していた(表3)。
【0046】
肝臓重量、肝臓総脂質、肝臓遊離コレステロール濃度、CYP7α活性は全群で有意差は見られなかった。肝臓総コレステロール濃度は、卵巣摘出-コントロール群と比較して、5%搾汁粕群で有意に低下していた。肝臓エステルコレステロール濃度は、卵巣摘出-コントロール群と比べて搾汁粕群で有意に低下していた。肝臓TG濃度は、卵巣摘出-コントロール群と比較して3%搾汁粕群と5%搾汁粕群で有意に低下していた。また、卵巣摘出-コントロール群と比較して5%セルロース群で有意に上昇した。肝臓PL濃度は、卵巣摘出-コントロール群と比較して5%搾汁粕群で有意に低下した(表4)。
【0047】
糞乾燥重量、糞中胆汁酸、糞中脂質は、卵巣摘出-コントロール群に比べて5%セルロース群で有意に上昇した。糞中脂質は、卵巣摘出-コントロール群に比べて5%搾汁粕で有意に上昇した。小腸内容物胆汁酸は、卵巣摘出-コントロール群に比べて搾汁粕群で上昇した(表5)。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
考察
(高齢メスラットの卵巣を摘出した高齢閉経後女性高コレステロール血症モデルラットを用いて、5%セルロースおよび1%、3%、5%搾汁粕添加飼料におけるコレステロール低下作用について検討した。)
体重増加量、飼料摂取量は、偽手術-コントロール群と卵巣摘出-コントロール群で有意差はなかった(表2)。これまで様々な研究でOVXによる卵巣ホルモンの欠如から、これらが増加したという報告がされているが、今回の実験においては増加する傾向は見られたものの有意ではなかった。
【0053】
卵巣摘出-コントロール群に比べて搾汁粕群で血清総コレステロール濃度は低下傾向にあった(表3)。また、糞中胆汁酸量およびCYP7α活性が増加する傾向にあり、肝臓コレステロール濃度は低下した(表4、5)。この結果から、搾汁粕は、胆汁酸代謝に関与して血清コレステロールを低下させていることが認められる。食物繊維は空腸でミセルを拡散し、ミセル生成を阻害することでコレステロール吸収に重要な働きをする。また、胆汁酸やコレステロールと吸着して糞中へ排泄し、脂質代謝に影響を与えると考えられる。食物繊維は種類により吸着能は異なるものの、胆汁酸吸着作用がある。搾汁粕に豊富に含まれる食物繊維が、多くの胆汁酸を吸着し、糞中へ排泄することができると考えられる。
【0054】
小腸内容物胆汁酸は卵巣摘出-コントロール群と比較して搾汁粕群で上昇した(表5)。このことより、搾汁粕は小腸胆汁酸プールを大きくし、肝臓への胆汁酸再吸収量を減少させることで胆汁酸代謝に変化を与え、コレステロール代謝を変化させることが予想される。
【0055】
これまでにセルロースは糞量が増加するが、コレステロール低下作用がないと報告されている。今回の実験でもセルロースは、糞乾燥重量を増加させたが、コレステロール低下作用は見られなかった(表3、5)。また、セルロースは胆汁酸吸着能がほとんどないとされているが、今回の実験では、糞中胆汁酸濃度が上昇した(表5)。
【0056】
今回の実験で、血清TG濃度、肝臓TG濃度は、卵巣摘出-コントロール群に比べて搾汁粕群で低下傾向にあったが、体脂肪は増加し、肥満予防という点を考えると搾汁粕の効果があったとは言えない(表2、3、4)。しかし、肝臓総脂質も低下し、糞中脂質として排泄される量も増加していた(表4、5)ことから、温州みかんじょうのう膜自体には脂質吸収阻害作用があることが認められた。
【0057】
上記実施例の結果からも明らかなように、本発明による脂質代謝改善剤は、高脂血症の防止・抑制においてすぐれた効果を奏する。また、本発明による脂質代謝改善剤は柑橘類搾汁粕成分を有効成分として含有しているので、副作用もなく安全かつ安価に適用することができる点においても有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類搾汁粕を有効成分として含有することを特徴とする、脂質代謝改善剤。
【請求項2】
前記柑橘類が、温州みかん、ポンカン、清見、デコポン、伊予柑、オレンジ、レモン、ライム、柚子、甘夏、八朔、文旦、グレープフルーツからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項3】
前記搾汁粕が、チョッパーパルパー搾汁由来のものである、請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項4】
請求項1に記載の脂質代謝改善剤の高脂血症抑制剤としての使用。
【請求項5】
請求項1に記載の脂質代謝改善剤を含有することを特徴とする、食品。
【請求項6】
請求項1に記載の脂質代謝改善剤を含有することを特徴とする、飼料。
【請求項7】
前記柑橘類が、温州みかんおよび(または)伊予柑である、請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項8】
柑橘類搾汁粕を有効成分として含有し、ヒトおよび動物の血中コレステロールおよび中性脂肪濃度低減ないし抑制作用による脂質代謝の改善効果を有するものであることを特徴とし、血中コレステロールおよび中性脂肪濃度の改善のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。

【公開番号】特開2006−225278(P2006−225278A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38095(P2005−38095)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(503163804)株式会社えひめ飲料 (9)
【Fターム(参考)】