説明

脂質代謝改善剤

【課題】食品加工時の作業性が良く、食感への影響も少なく、血中の脂質の上昇を抑制することができる、ヒトやその他動物類等の脂質代謝改善作用といった機能を有する、飲食品、医薬品、医薬部外品、健康食品、飼料、餌料等を提供する。
【解決手段】4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩又はマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とする、脂質代謝改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースとグルコン酸からなる4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンを有効成分とする組成物の機能および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコン酸は、単糖で有りながらビフィズ菌増殖選択性を持つ機能性等を有しており、ハチミツや醸造酢に0.3%程度含まれ、クエン酸の約1/3とまろやかな酸味を有している。また、グルコン酸或いはその塩類は、塩味代替やマスキング効果、pH調節、日持向上用途などに幅広く利用されている。しかしながら、溶液安定性が悪く、高濃度下で保存すると析出してしまう欠点があった。
【0003】
また、アルドン酸二糖類であるラクトビオン酸は、ガラクトースとグルコン酸が結合した二糖類であり、特許第3559063号公報(特許文献1)ではビフィズス菌増殖効果を、特許第3501237号公報(特許文献2)ではミネラル吸収促進効果を有することが報告されており、ラクトースを原料に化学合成或いは酸化酵素等により製造可能である。
【0004】
しかしながら、原料となるラクトースを、乳製品の生産時に排出されるホエイから精製する必要があり、近年、中国及び東南アジア、旧東欧圏、中南米、中近東など、先進国と言われていた国々のみならず、それ以外の地域からの乳製品の引き合いが急増しているため、これまで安価に入手可能であった副産物であるホエイまで需要が極めて旺盛となった。このため輸入に頼る日本では乳糖の確保は容易でなく、一般消費者へ安定に安価に供給することは困難であると考えられる。
【0005】
一方、カルシウムは人体で五番目に豊富な元素であり、体内において歯や骨の形成、血液凝固、神経筋興奮、酵素活性などの生理的に重要な作用を営んでおり、これらが不足することで骨粗鬆症、高血圧、大腸癌等の重大な疾患の原因となることが広く知られている。厚生労働省の日本人の栄養調査に関する報告によれば、カルシムは所要量に満たない唯一の必須栄養素である。そのため種々のカルシウム剤が開発されてきた。
【0006】
カルシウム強化目的に用いるカルシウム剤としては、卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等の天然素材や炭酸カルシウム、塩化カルシウム等化学合成品等が知られているが、これらカルシウム剤は、水に対する溶解性が低いこと、呈味性に悪影響を与えること等が問題となっている。これらの問題点を部分的に解決するための技術としてグルコン酸カルシウムや乳酸カルシウム等の有機酸カルシウム塩が溶解性の高いカルシウム素材として用いられているが、水に対する溶解度は満足ゆくほど高くない。また水に対する溶解速度も遅く作業性が悪い点が問題視されていた。これらカルシウム塩の溶解度や溶解速度を改善する代表的な例として、特開昭56−97248号公報(特許文献3)に記載されたクエン酸カルシウムとリンゴ酸カルシウムの複合体や、特許第2906215号公報(特許文献4)に記載された乳酸カルシウムとグルコン酸カルシウムの複合体とする手法があり、これにより溶解度は3〜5倍程度向上した。しかしながら溶液中での安定性は満足ゆくものではなく、冷蔵保存すると析出してしまうため、低濃度溶液でしか使用できない問題があった。
【0007】
また、溶解度が高いカルシウム素材としてアスコルビン酸カルシウムがあるが、アスコルビン酸カルシウムはアスコルビン酸部分が吸収されるため、過剰摂取により尿路結石を誘発するという問題がある。
【0008】
このような課題を解決するために、食品中に含まれているカルシウム成分の溶解性が高く、かつ安全性が高い素材が望まれていた。
【0009】
マルトビオン酸に関しては、製造方法では、微生物変換や触媒を用いた方法などの幾つかの報告はあるが、用途に関しては、特開昭47−20372号公報(特許文献5)に記載された呈味改善についてのみであり、マルトビオン酸やその塩類のその他の用途や生理機能については全く報告がない。
【0010】
さらに、近年、食生活の多様化により高血圧、動脈硬化、糖尿等の生活習慣病が国民的な問題となっており、これらの原因の1つとして考えられている肥満を防止することが大きな課題となっている。この肥満には脂質が大きく関与しているため、血中の脂質の上昇を抑制する食素材が求められている。
【0011】
従来、ペクチンなどの食物繊維に脂質代謝改善効果があることが知られていたが、高分子のため溶解性が悪く粘性も高いため作業性が悪かったり、また、食感や風味が変わってしまったりと欠点を多く抱えていた。この改善策として、特開平6−256198号公報(特許文献6)に開示された、ペクチンの低分子化により粘度低下させる方法があるが、より低分子で食品加工時の作業性が良く、食感への影響も少ない安価な素材が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、腸内の有用菌の増殖を促進すると共に、有害菌の増殖を抑制することができる素材を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、カルシウムなどのミネラルの吸収を促進することができる素材を提供することにある。
【0014】
また、本発明は、従来のカルシウム剤よりも溶解性(溶解速度、保存安定性)に優れ、体内への吸収性の向上が期待される、飲み易い新規なカルシウム剤及びカルシウム液剤又は該物質を含むカルシウム補給剤、及びカルシウム強化剤、カルシウム飲料を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、食品加工時の作業性が良く、食感への影響も少なく、血中の脂質の上昇を抑制することができる素材を提供することも目的としている。
【0016】
一方、本発明は、これらの目的を達成するために、入手容易で、一般消費者へ安定して安価に供給することができる素材を提供することも目的とする。
【0017】
具体的には、本発明は、マルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンを含有する組成物を有効成分とし、ヒトやその他動物類等の腸内環境の改善作用、カルシウム吸収促進性作用、カルシウム昜吸収作用、脂質代謝改善作用といった機能を有する、飲食品、医薬品、医薬部外品、健康食品、飼料、餌料等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、腸内環境改善促進活性を有する物質を求めて、鋭意研究を重ねた結果、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンが、腸内のビフィズス菌や乳酸菌等の有用菌の増殖を促進すると共に、クロストリジウム菌等の有害菌の増殖を抑制することによって、腸内環境の改善を促進することを見出した。また、マルトビオン酸カルシウムなどの塩類の溶解性が高く、ミネラル吸収を促進すると共に、脂質代謝改善作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
さらに、本発明者らは、マルトビオン酸カルシウムが、即溶解性で、溶解度にも優れており、高濃度溶液で冷蔵保存しても析出せず安定であり、しかも飲みやすいカルシウム剤又は液剤が得られることを見出し本発明を完成した。
【0020】
一方、ラクトビオン酸と同様にアルドン酸二糖類であり、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸は、日本で非常に多く生産されているマルトースを原料にするため、安価で非常に入手しやすいことから、一般消費者へ安定的に安価に提供することができる。
【0021】
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
【0022】
第一に、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とする腸内環境改善剤である。
【0023】
第二に、マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸鉄及びマルトビオン酸亜鉛から選択される少なくとも1つ以上である、上記第一に記載の腸内環境改善剤である。
【0024】
第三に、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とするミネラル吸収促進剤である。
【0025】
第四に、マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸鉄及びマルトビオン酸亜鉛から選択される少なくとも1つ以上である、上記第三に記載のミネラル吸収促進剤である。
【0026】
第五に、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とするカルシウム吸収促進剤である。
【0027】
第六に、マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸鉄及びマルトビオン酸亜鉛から選択される少なくとも1つ以上である、上記第五に記載のカルシウム吸収促進剤である。
【0028】
第七に、上記第五又は第六に記載の組成物と、無機カルシウム或いは有機カルシウム塩の一種類以上とを併用することを特徴とするカルシウム吸収促進剤である。
【0029】
第八に、マルトビオン酸カルシウムを有効成分とする易吸収性カルシウム剤である。
【0030】
第九に、マルトビオン酸カルシウムと、糖又は糖アルコールとを含有する、易吸収性カルシウム剤である。
【0031】
第十に、4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩又はマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤である。
【0032】
第十一に、マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸鉄及びマルトビオン酸亜鉛から選択される少なくとも1つ以上である、上記第十に記載の脂質代謝改善剤である。
【0033】
本発明の有効成分であるマルトビオン酸或いはその塩またはそのラクトンの製造方法としては、化学的な酸化反応によるマルトース酸化方法やマルトース酸化能を有する微生物或いは酸化酵素を作用させる方法や、可溶性澱粉或いはマルトオリゴ糖とグルコン酸からなる基質に転移能の高いα−グルコシダーゼやシクロデキストリン合成酵素による転移反応により製造することができる。
【0034】
化学的な酸化反応としては、パラジウムや白金、ビスマスを活性炭に担持させた酸化触媒の存在下、マルトースと酸素をアルカリ雰囲気下で接触酸化させることにより得る方法が知られている。
【0035】
また、アルドース酸化能を有する微生物を用いた方法としては、アシネトバクター属やブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などの微生物変換・発酵法により得る方法が知られている。
【0036】
酵素反応による製造方法としては、前記酸化能を有する微生物から酸化酵素を抽出する方法や、バチラス・ステアロサーモフィラスやテルモアナエロバクター属由来の転移能の高いシクロデキストリン合成酵素を用い、可溶性澱粉或いはマルトオリゴ糖とグルコン酸からなる基質から転移反応で製造することが可能である。
【0037】
マルトビオン酸の塩としては、ナトリウム塩、カルシウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、銅塩、鉄塩、亜鉛塩などの金属塩が挙げられる。
【0038】
化学的な酸化反応による製造方法の一例を挙げれば、まず、50℃に保持した20%マルトース溶液100mlに5%白金炭素触媒3gを加え、100mL/minで酸素を吹き込みながら600rpmで攪拌する。反応pHは10N水酸化ナトリウム溶液を滴下することでpH9.0を維持させる。酸化反応終了後、遠心分離とメンブレンフィルターろ過により触媒を取り除き、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得ることができる。
【0039】
上記のように得たマルトビオン酸ナトリウム溶液をカチオン交換樹脂または電気透析により脱塩することで、マルトビオン酸を得ることができる。
【0040】
マルトビオン酸に各種塩類を添加することで、マルトビオン酸塩を調製可能であり、脱水操作によりマルトビオノデルタラクトンの調製も可能である。また、マルトビオノデルタラクトンは水に溶かすと速やかにマルトビオン酸となる。
【0041】
マルトビオン酸カルシウムの製造法については、上記方法で得られたマルトビオン酸溶液に炭酸カルシウムなどのカルシウム源を2:1のモル比となるように添加し溶解させることで、マルトビオン酸カルシウムの調製が可能である。また、本発明に用いるカルシウム源としては可食性のカルシウムであれば良く、例えば、卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末等の天然素材や炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の化学合成品などがある。
【0042】
マルトビオン酸カルシウムは溶液状態でも析出することなく安定で、凍結乾燥やスプレードライなどにより容易に粉末品を調製することも可能である。必要であれば結晶化粉末を調製することも可能である。
【0043】
上記のように調製した4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、以下のような性質を有する。
【0044】
(1)マルトビオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムの30倍以上の常温溶解安定性を持つ。
【0045】
(2)マルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、難溶性の無機塩又は有機塩の溶解安定性を高める能力を持つ。
【0046】
(3)マルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、生体内酵素では消化され難くい難消化性である。
【0047】
(4)マルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、腸内細菌増殖選択能を持ち、腸内環境改善促進活性を有する。
【0048】
(5)マルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、脂質代謝改善効果を有する。
【0049】
(6)マルトビオン酸カルシウム溶液は、濃度70%で冷蔵保存しても析出することなく、安定な溶液状態を保つ。
【0050】
(7)マルトビオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムに比べて溶解速度が著しく速い。
【0051】
(8)マルトビオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムよりも苦味が弱い。
【0052】
(9)マルトビオン酸カルシウムは、加熱安定性、pH安定性が高い。
【0053】
本発明の4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、経口摂取により消化管で吸収され難く、その大部分は大腸に到達し、腸内細菌相中のビフィズス菌や乳酸菌等の有用菌を増殖させ、有害菌であるクロストリジウム等を選択的に抑制する。
【0054】
また、腸内細菌の選択的な増殖により酢酸や酪酸、プロピオン酸等の有機酸を生成して大腸内のpHを下げ、クロストリジウム等の有害菌を選択的に抑制する。
【0055】
さらに、本発明のマルトビオン酸その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、難消化性であるため、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖のように大腸まで達したのち、腸内細菌糞の作用を受けて大腸のpHを酸性側に傾けることにより、大腸部位におけるカルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など欠乏しやすいミネラルの溶解性を高め、それらの吸収を促進することから、ミネラル吸収促進剤としても有効である。
【0056】
また、マルトビオン酸塩はグルコン酸塩に比べ水に対する溶解度が高い。例えば、マルトビオン酸カルシウムはグルコン酸カルシウムの30倍以上の常温溶解度であるため、カルシウムの主要な吸収部位である小腸においてカルシウム吸収率が上がる。そのため、カルシウム易吸収剤としてより有利に利用でき、骨粗鬆症、高血圧、大腸癌等の重大な疾患予防、改善にも寄与することが期待される。
【0057】
同様に鉄、マグネシウム、亜鉛等のマルトビオン酸塩類もグルコン酸塩等に比べ水に対する溶解度が高いことから、易吸収剤としてより有利に利用でき、ホルモン調節、循環器疾患予防、貧血予防にも寄与することが期待される。
【0058】
また、マルトビオン酸カルシウムのこのような常温溶解度により、70%濃度で冷蔵保存しても析出することはないため、従来では出来なかったカルシウム高濃度溶液として流通可能である。
【0059】
一方、粉末状態であっても、グルコン酸カルシウムなどのカルシウム素材に比べ、溶解度が高く溶解速度が早いことから、粉立ちや溶液温度を気にすることなく溶液へ投入できる。
【0060】
マルトビオン酸やマルトビオン酸カルシウムを、他の溶解性が低く保存安定性が悪い炭酸カルシウムや塩化カルシウム、乳清カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酢酸カルシウム、フッ化カルシウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等と併用することで、これらの溶解安定性が保たれる。
【0061】
また、上記カルシウムは、例えば牛骨、豚骨、鶏骨等の家畜、家禽類の骨粉、卵殻、貝殻、珊瑚、乳清等を含有する天然物の形で添加してもよい。
【0062】
本発明の4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、血中の善玉であるHDLコレステロールへは影響せず、悪玉であるLDLコレステロールおよびVLDLコレステロール濃度を下げる脂質代謝改善剤効果があり、高脂血症、肥満症等の予防、治療或いは改善効果を奏することが期待される。また、これらに伴う合併症、例えば動脈硬化症、高血圧症等の循環器系、乳がん、大腸がん等の生活習慣病の予防、改善等にも寄与することが期待される。
【0063】
従って、本発明の4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンは、老若男女を問わず、美容、健康の維持増進、成人病予防、病中、病後の回復促進、骨粗鬆症などの治療、予防などに有効に利用可能である。
【0064】
また、ブタ、牛などの家畜、ニワトリ、ダチョウなどの鳥、うなぎ、タイなどの魚においても、その効果は発揮し、感染防止、肥育促進、糞便の悪臭抑制、ミネラル吸収促進などの目的で利用可能である。
【0065】
本発明の4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩或いはマルトビオノデルタラクトンの諸性質は、飲食物、嗜好物、医薬品、医薬部外品、健康食品、飼料、餌料などの各種組成物に有利に使用できる。とりわけ、これらを水あめ、糖アルコール、ミネラルおよび蔗糖から選ばれる1種類以上の成分とともに含有せしめて各種組成物を製造することも可能である。
【0066】
例えば、本発明のマルトビオン酸カルシウムの諸性質は、飲食物、嗜好物、医薬品、医薬部外品、健康食品、飼料、餌料などの各種組成物に有利に使用できる。これらをブドウ糖、マルトース、トレハロース、果糖、異性化糖、粉飴、蜂蜜、メイプルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ステビオシド、スクラロース、アセスルファムKなどのような甘味料やミネラルから選ばれる1種類以上の成分とともに含有せしめて各種組成物を製造することも可能である。必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することも出来る。
【0067】
本発明の4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸は、グルコン酸の約半分の酸味を呈することから、酸味料としても有効に用いることが出来る。また、甘味、塩味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐熱性や耐酸性も大きいので、一般の飲食物の酸味付け、呈味改良や品質改良などへ利用することが可能である。
【0068】
また、本発明のマルトビオン酸カルシウムは、他のカルシウム素材に比べ苦味が小さく、熱安定性やpH安定性も高く低メイラード性であることから、味質や色調等を悪くすることなく飲食物へ利用することが可能である。
【0069】
本発明の飲食用組成物としては、ヒトの食品、動物あるいは養魚用の飼料、ペットフードを総称する。すなわち、日本茶、ウーロン茶、紅茶、コーヒー、紅茶、ジュース、加工乳、スポーツドリンクなどの飲料類、パン、ピザ、パイなどのベーカリー類、クッキー、クラッカー、ビスケット、ケーキ、カステラなどの洋菓子類、うどん、そば、ラーメンなどの麺類、スパゲティー、マカロニなどのパスタ類、おかき、ポテトチップス、スナックなどのスナック菓子類、ハードキャンデー、ソフトキャンディー、キャラメル、ガム、チョコレートなどの菓子類、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓、クリーム、チーズ、ムース、粉乳、練乳、乳飲料などの乳製品、ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルト、バタークリーム、カスタードクリームなどの洋生菓子類、求肥、ういろう、もち、おはぎ、どら焼きなどの和菓子類、ジャム、マーマレード、シロップ漬け、糖果などの果実・野菜の加工食品類、フラワーペースト、フルーツペースト、ピーナッツペーストなどのペースト類、らっきょ漬け、福神漬け、キムチなどの漬物類、醤油、ソース、たれ、麺つゆ、だしの素、スープの素などの複合調味料、シチューの素、スープの素、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップなどの調味料類、カレー、シチュー、スープなどのレトルトもしくは缶詰食品、ハム、ソーセージ、ベーコン、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎりなどの冷凍食品および冷蔵食品、ちくわ、かまぼこなどの水産加工食品、リゾット、寿司などの米飯類が含まれる。さらに乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、ペットフード、ペット用ガム、動物用飼料、スポーツ食品、栄養補助食品、健康食品なども含まれる。
【0070】
本発明の組成物を適切な剤型に製剤化して用いてもよい。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、チュワブル剤、液剤、シロップ剤、経腸栄養剤、嚥下剤等の製剤で用いることができる。
【0071】
より具体的には、本発明のマルトビオン酸、その塩又はマルトビオノデルタラクトンを、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立法体、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、チュワブル剤など各種形状に成型して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】血中カルシウム濃度の経時変化を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0074】
[調製例1]
マルトビオン酸の調製
【0075】
30%マルトース溶液(サンエイ糖化株式会社製)1000mlに、5%パラジウム炭素(川研ファインケミカル株式会社製)を9g添加した。この溶液を40℃に保持した後、空気1.0L/min、回転数600rpmで反応を開始させた。反応pHは9.0に維持するように20%水酸化ナトリウム溶液を連続的に添加した。反応6時間後、触媒を含む反応液を遠心分離と0.2μmのメンブレンフィルターでろ過し、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得た。この溶液を強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製、商品名「DOWEX−88」)2Lをつめたカラムへ通液することで脱塩処理を行った。次に、弱塩基性アニオン交換樹脂(三菱化学社製、商品名「WA30」)200mlと強酸性カチオン交換樹脂(ダウケミカル社製、商品名「DOWEX−88」)200mlの混合樹脂をつめたカラム、次いで粒状活性炭(武田薬品工業製、粒状白鷺)200mlをつめたカラムに順次通液し脱色を行った後、減圧濃縮と凍結乾燥によりマルトビオン酸粉末285gを得た。
【0076】
[調製例2]
マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸亜鉛、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸銅の調製
【0077】
調製例1で得たマルトビオン酸粉末30gを蒸留水100mlへ溶解後、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び炭酸銅をマルトビオン酸に対して2:1のモル重量比となるようにそれぞれ添加し、50℃で2時間攪拌した。反応終了後の溶液を0.2μmフィルターで濾過し、凍結乾燥することで、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸亜鉛、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸銅粉末サンプルを得た。
【0078】
[調製例3]
マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カリウムの調製
【0079】
調製例1で得たマルトビオン酸粉末30gを蒸留水100mlへ溶解後、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムをマルトビオン酸に対して1:1のモル重量比となるようにそれぞれ添加し、50℃で2時間攪拌した。反応終了後の溶液を0.2μmフィルターで濾過し、凍結乾燥することで、マルトビオン酸ナトリウムおよびマルトビオン酸カリウム粉末サンプルを得た。
【0080】
[調製例4]
マルトビオノデルタラクトンの調製
【0081】
調製例1で得たマルトビオン酸粉末5gにアセトン100mlを加え、エバボレーターにて濃縮操作を行った。この操作を数回繰る繰り返すことで脱水しマルトビオノデルタラクトン約4gを得た。
【実施例1】
【0082】
消化試験
【0083】
岡田らが「日本栄養・食糧学会誌」、第43巻、第1号、23−29ページ(1990年)で報告している方法を一部改変して、下記に示したインビトロでの試験を行い、調製例2及び3で調製したマルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸ナトリウムの消化の程度を、HPLC分析により残存するマルトビオン酸塩量を測定することで評価した。また、比較例としてマルトース及びマルチトール、調製例1及び3と同様の方法で調製したマルトトリオン酸ナトリウム、マルトテトラオン酸ナトリウム、マルトペンタオン酸ナトリウムを用いて同様に試験した。
【0084】
(1)ヒト唾液α−アミラーゼによる消化性
【0085】
5mlの10%試料(1mM塩化カルシウムを含んだ50mMマレイン酸緩衝液、pH6.0)に1mlのヒト唾液α−アミラーゼ(40units/ml)を加え、37℃で30分間反応させた。
【0086】
(2)人口胃液による消化性
【0087】
4mlの2.2%試料に2mlの50mM HCl−KCl緩衝液(pH2.0)を加え、37℃で100分間反応させた。
【0088】
(3)豚膵臓α−アミラーゼによる消化性
【0089】
5mlの1%試料(1mM塩化カルシウムを含んだ50mMマレイン酸緩衝液、pH6.6)に0.5mlの豚膵臓α−アミラーゼ(20units/ml)を加え、37℃で6時間反応させた。
【0090】
(4)ラット小腸粘膜酵素による消化性
【0091】
5mlの1%試料(50mMマレイン酸緩衝液、pH6.6)に1mlのラット小腸粘膜酵素(3.8units/ml)(シグマ社製)を加え、37℃で3時間反応させた。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果から明らかなように、マルトトリオン酸ナトリウムやマルトテトラオン酸ナトリウムなどは、小腸粘膜酵素により良く分解され、その分解物はグルコースとマルトビオン酸となった。一方、本発明のマルトビオン酸は、難消化性糖質であるマルチトールと同様に小腸粘膜酵素により僅かしか分解を受けないことから、経口摂取した場合、その大部分は大腸に到達するものと考えられる。
【実施例2】
【0094】
腸内細菌による資化性試験
【0095】
調製例1〜3で得たマルトビオン酸、マルトビオン酸カルシウム及びマルトビオン酸ナトリウムを用い、腸内細菌の資化性について評価した。前培養は表2に示したそれぞれの菌をGAMブイヨン(日水製薬製)で一夜前培養した。本培養は、各糖試料0.5%を含む培地(1.0%ポリペプトン(日本製薬製)、0.5%肉ブイヨン(極東製薬製)、0.5%酵母エキス(アサヒビール製)、0.3%リン酸水素二カリウム(関東化学製)、0.1%Tween80(関東化学製))を121℃で20分間オートクレーブした後、還元剤として1%アスコルビン酸ナトリウム(関東化学製)、0.05%L−システイン塩酸塩溶液(和光純薬製)を加えた培地2mlに、前培養液を10μl植菌し37℃で3日間嫌気培養を行った。この培養後液の濁度を660nmにおける吸光度から、糖試料無添加で培養した時の培養液の濁度を差し引いた値で腸内細菌の生育度を求め、その資化性の良否は判定した。
【0096】
また、比較例としてグルコース、マルトース、マルチトール、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウムを用いた。
【0097】
【表2】

【0098】
表2の結果から明らかなように、マルトビオン酸およびその塩類は、他の糖類に対して高い増殖選択性を示した。すなわちビフィズス菌や乳酸菌等の有用菌の増殖を促進するとともに、成人腸内の最優勢菌群であるバクテロイデスやユーバクテリウム、有害菌であるクロストリジウムには全く或いは殆ど資化しないことが分かった。
【実施例3】
【0099】
マウス腸内糞及び盲腸内容物に及ぼす影響
【0100】
調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い、マウスの腸内糞および盲腸内容物へ及ぼす影響について評価した。AIN93G飼料組成に基づく精製飼料をコントロールとし、この飼料組成のα化コーンスターチをマルトビオン酸カルシウム(飼料固形分当たり5%w/w)へ置換し添加した飼料をマウス(BALB/c、5週齢、♀、日本SLC)2群6匹に自由摂取させた。投与開始2週間後、放血致死させた後、内容物を含む盲腸を採取した。盲腸内容物からDNAを抽出し、乳酸菌およびビフィズス菌数をリアルタイムPCRにより計数した。さらに、盲腸内容物中の有機酸組成をHPLCを用いて分析した。
【0101】
【表3】

【0102】
その結果、表3より明らかなように、マルトビオン酸カルシウムの投与は、マルトビオン酸カルシウム無投与と比べて盲腸内容物及び盲腸壁重量が増加し、生体調節機能に影響を及ぼす酢酸、酪酸およびプロピオン酸の増加が観察された。また糞中のビフィズ菌および乳酸菌も有意な増加が観察された。
【0103】
以上の結果より、マルトビオン酸カルシウム投与により腸内環境が有意に改善されたことが分かった。
【実施例4】
【0104】
マウス体内脂質代謝に及ぼす影響
【0105】
調製例1で得たマルトビオン酸と、調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い、マウスの脂質代謝に及ぼす影響について評価した。
【0106】
実施例3と同様にAIN93G飼料組成に基づく精製飼料をコントロールとし、この飼料組成のα化コーンスターチをマルトビオン酸及び、マルトビオン酸カルシウム(飼料固形分当たり5%w/w)へ置換し添加した飼料をマウス(BALB/c、5週齢、♀、日本SLC)2群6匹に自由摂取させた。投与開始2週間後、エーテル麻酔下頸静脈より採血を行い、血清中の総コレステロールをコレステロール E−テストワコー(和光純薬製)で、HDLコレステロールはHDL−コレステロール E−テストワコー(和光純薬製)を用いて測定し、HDLとLDL+VLDL量を算出した。
【0107】
【表4】

【0108】
その結果、表4より明らかなように、マルトビオン酸及びマルトビオン酸カルシウム添加区において善玉コレステロールであるHDLはコントロール区と殆ど変化無いのに対し、悪玉コレステロールであるLDL+VLDLでは有意に抑制されていることが明らかになった。
【実施例5】
【0109】
マルトビオン酸カルシウムの溶解性試験
【0110】
調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い水溶解性について評価した。
【0111】
20℃に維持した蒸留水100mlへマルトビオン酸カルシウムを添加しマグネティックスターラーにて攪拌し限界溶解度を求めた。また、比較として炭酸カルシウム(和光純薬製)、クエン酸カルシウム(扶桑薬品工業製)、グルコン酸カルシウム1水和物(扶桑薬品工業製)、乳酸カルシウム5水和物(扶桑薬品工業製)を用いた。
【0112】
【表5】

【0113】
その結果、マルトビオン酸カルシウムでは130g/100ml以上と、グルコン酸カルシウムの34倍以上、クエン酸カルシウムの300倍以上、溶解性が高い結果が得られた。
【実施例6】
【0114】
マルトビオン酸カルシウム溶解速度試験
【0115】
調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い溶解速度について評価した。
【0116】
25℃の蒸留水100mlへマルトビオン酸カルシウムを1g添加しマグネティックスターラーにて攪拌し溶解速度を求めた。また、比較として乳酸カルシウム5水和物(扶桑薬品工業製)、グルコン酸カルシウム1水和物(扶桑薬品工業製)を用いた。
【0117】
【表6】

【0118】
その結果、マルトビオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムに比べ約130倍早く完全に溶解した。
【実施例7】
【0119】
マルトビオン酸カルシウム溶液冷蔵保存安定性試験
【0120】
調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い溶液の冷蔵保存安定性について評価した。
【0121】
各濃度に調製したマルトビオン酸カルシウム溶液を冷蔵保存した時の溶液の状態を観察した。また、比較として乳酸カルシウム5水和物(扶桑薬品工業製)、グルコン酸カルシウム1水和物(扶桑薬品工業製)を用いた。
【0122】
【表7】

【0123】
その結果、比較として用いたグルコン酸カルシウムや乳酸カルシウムは析出してしまったのに対し、マルトビオン酸カルシウムでは、濃度70%でも析出することなく溶液状態を維持した。
【実施例8】
【0124】
マルトビオン酸カルシウム溶液安定性試験
【0125】
調製例2で得たマルトビオン酸カルシウムを用い溶液安定性について評価した。
【0126】
2.0ml用マイクロチユーブへ表8に示した配合にて各種試料を秤量した後、25℃の蒸留水を加え1mlとし、VORTEXミキサーにて5分間攪拌した。このときの溶解性を確認した後、沸騰液中で10分間加熱溶解処理を行った。これら4℃で保存したときの溶解安定性について目視にて評価した。また、比較として乳酸カルシウム5水和物(扶桑薬品工業製)、グルコン酸カルシウム1水和物(扶桑薬品工業製)を用いた。
【0127】
【表8】

【0128】
その結果、常温溶解性については、グルコン酸カルシウムでは50mg/mlで、乳酸カルシウムでは100mg/mlで溶解しなかったのに対し、マルトビオン酸カルシウムでは、500mg/mlでも速やかに溶解した。
【0129】
また、乳酸カルシウムとグルコン酸カルシウム混合品に比べ、マルトビオン酸と乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウム混合品の方が溶解速度及び溶解度共に高い結果が得られた。
【0130】
加熱溶解後の冷蔵保存安定性については、マルトビオン酸カルシウム単独及び、乳酸カルシウム又はグルコン酸カルシウム混合共に、析出することなく透明な溶液状態を維持した。一方、グルコン酸カルシウムや乳酸カルシウムでは100mg/ml程度より析出が観察され、これらの混合品においても析出が観察された。
【0131】
以上結果から、マルトビオン酸カルシウムは他のカルシウム素材に比べ非常に溶液安定性優れた素材であるといえる。
【実施例9】
【0132】
マルトビオン酸、マルトビオノデルタラクトンのカルシウム溶解性試験
【0133】
調製例1と4で得たマルトビオン酸とマルトビオノデルタラクトンを用いカルシウム溶解性について評価した。
【0134】
2.0mlマイクロチューブへ5%(w/w)試料溶液(マルトビオン酸、マルトビオノデルタラクトン、マルトース)500μlに、10mM炭酸カルシウム溶液500μlを加え、37℃で1時間、130rpmで振騰した。これを0.2μmフィルターにて濾過した後、溶液中に可溶化したカルシウム量をカルシウムC−テストワコー(和光純薬製)にて測定した。また、比較としてマルトースを用いた。
【0135】
【表9】

【0136】
その結果、炭酸カルシウムはマルトース溶液中では、カルシウムの可溶量は9.5%だったのに対し、マルトビオン酸及びマルトビオノデルタラクトンでは100%可溶化した。
【実施例10】
【0137】
マルトビオン酸塩類のカルシウム溶解性試験
【0138】
調製例2及び3で得たマルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸亜鉛、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カリウムを用いてカルシウム素材の溶解性について評価した。
【0139】
200ml用ビーカーへ表10に示した配合比で100mlの溶液を調製後、37℃で30分間、マグネティックスターラーで攪拌した。これを遠心分離により上清液を除去し、沈殿物を凍結乾燥することで可溶化率を求めた。
【0140】
【表10】

【0141】
その結果、グルコン酸カルシウムのみに比べ、マルトビオン酸塩類を配合することで、カルシウムの可溶化量が20%程度増加した。
【0142】
これらの結果よりマルトビオン酸塩類には他のカルシウム素材の溶解度を上げる効果があることが分かった。
【実施例11】
【0143】
マウスのカルシウム吸収へ及ぼす影響
【0144】
調製例1および2で得たマルトビオン酸とマルトビオン酸カルシウムについて、マウスのカルシウム吸収に及ぼす影響について評価した。
【0145】
実験には6週齢のddY系雌性マウス(日本SLC)を終夜絶食して使用した。試験期間中は脱イオン水のみを与えた。マウスを1群5匹の3群に分け、I群には5mmol/kg体重のマルトビオン酸カルシウムを、II群には5mmol/kg体重のマルトビオン酸と5mmol/kg体重の炭酸カルシウムの同時投与、III群には5mmol/kg体重の炭酸カルシウムをそれぞれ経口投与した。投与前、および投与後15,30,60,120分に尾静脈より採血した。血中のカルシウム濃度はカルシウムC−テストワコー(和光純薬製)を用いて測定した。2群間の平均値の比較にはt−検定を用い、p<0.05の場合を有意差ありと判定した。
【0146】
図1に両群の血中カルシウム濃度の経時変化を示した。血中カルシウム濃度は、マルトビオン酸カルシウム投与群及び、マルトビオン酸と炭酸カルシウムを同時投与群では、炭酸カルシウム投与に比べ、投与後30分で高い傾向を示し、60分後では有意な高値を示した。さらに、表11に示した時間曲線下面積では、マルトビオン酸カルシウム投与群及びマルトビオン酸と炭酸カルシウムを同時投与群で炭酸カルシウム投与群と比較して有意に高い値を示した。
【0147】
【表11】

【実施例12】
【0148】
マルトビオン酸カルシウムの溶解安定性と味質試験
【0149】
表12に示した配合比にてカルシウム強化飲料を調製し、室温下での溶解性を確認すると共に、加熱溶解後4℃にて一週間保存後に試料溶液の析出状況について評価した。また、味質については、パネラー10名による官能検査により4段階評価を行った。
【0150】
その結果、本発明1〜5のマルトビオン酸カルシウム添加区ではいずれも室温で速やかに溶解し、冷蔵保存後も透明な溶液状態を維持した。一方、グルコン酸カルシウムと乳酸カルシウムを用いた比較例6〜10ではいずれも室温下では溶解しなかった。また、グルコン酸カルシウムでは、カルシウム含量が1%となるように添加すると冷蔵保存中に析出が観察され、乳酸カルシウムとの複合化によりカルシウム含量1.5%までは、冷蔵保存も安定であったが2%では析出が観察された。
【0151】
味質については、乳酸カルシウムとグルコン酸カルシウムを配合した比較例6〜10の飲料では、いずれも強い苦味を感じたが、マルトビオン酸カルシウム添加飲料では、苦味は殆ど感じられなかった。
【0152】
以上の結果から、マルトビオン酸カルシウムは既存の有機酸カルシウム素材に比べ、味質に影響を与えずカルシウム高含有させることが可能であることが分かった。
【0153】
【表12】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0154】
【特許文献1】特許第3559063号公報
【特許文献2】特許第3501237号公報
【特許文献3】特開昭56−97248号公報
【特許文献4】特許第2906215号公報
【特許文献5】特開昭47−20372号公報
【特許文献6】特開平6−256198号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−O−α−D−グルコピラノシル−D−グルコン酸の一般式で表されるマルトビオン酸、その塩又はマルトビオノデルタラクトンを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤。
【請求項2】
マルトビオン酸塩が、マルトビオン酸ナトリウム、マルトビオン酸カルシウム、マルトビオン酸マグネシウム、マルトビオン酸カリウム、マルトビオン酸銅、マルトビオン酸鉄及びマルトビオン酸亜鉛から選択される少なくとも1つ以上である、請求項2に記載の脂質代謝改善剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−67663(P2013−67663A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−8236(P2013−8236)
【出願日】平成25年1月21日(2013.1.21)
【分割の表示】特願2007−325865(P2007−325865)の分割
【原出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(591014097)サンエイ糖化株式会社 (15)
【Fターム(参考)】