説明

脂質代謝異常疾患の治療方法

本発明は、アポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を含む組成物による、脂質代謝異常(dyslipidemia)に関連する症状または疾患の治療または予防方法を提供する。本発明の方法は、寛解効果をもたらす治療的投与に必要とされるアポリポタンパクの量を4〜20分の1に減少させることを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2002年5月17日出願の米国予備特許出願第60/381,512号に基づく優先権を主張するものであり、その全体を引用により本明細書の一部とする。
【0002】
1. 技術分野
本発明は、アポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体またはその医薬組成物を使用した脂質代謝異常(dyslipidemia)に関連する疾患、症状または障害の治療または予防方法を提供する。本発明はさらに脂質代謝異常に関連する疾患、症状または障害の治療または予防のための組成物および該組成物の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2. 発明の背景
循環コレステロールは、血液中の脂質を輸送する脂質およびタンパク質の組成物の複合体粒子である血漿リポタンパク質により運ばれる。リポタンパク質粒子の4つの主要な種類、キロミクロン、超低密度リポタンパク(VLDL)、低密度リポタンパク(LDL)および高密度リポタンパク(HDL)は血漿中を循環し、脂肪輸送系に関与している。キロミクロンは腸管脂肪吸収の短命な産物を構成する。VLDLおよび特にLDLは肝臓から動脈壁を含む肝外の組織にコレステロール(肝臓で食事源から合成されあるいは得られる)を運ぶ役割を有する。これに対し、HDLは逆のコレステロール輸送(RCT、肝外の組織からの肝臓へのコレステロールの除去)を媒介し、コレステロールは肝臓で異化され、除去され、あるいは再利用される。HDLは炎症、酸化脂質およびインターロイキンの輸送においても役割を果たす。
【0004】
リポタンパク質粒子は、コレステロール(通常コレステリルエステルの形態にある)およびトリグリセリドからなる疎水性コアを有する。コアは、リン脂質、非エステル化コレステロールおよびアポリポタンパクからなる表面外皮によって覆われている。アポリポタンパクは脂質輸送を媒介し、いくらかは脂質代謝に関与している酵素と相互反応し得る。少なくとも10種のアポリポタンパクが同定されており、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoD、ApoE、ApoJおよびApoHが挙げられる。LCAT(レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ)、CETP(コレステロールエステル転移タンパク)、PLTP(リン脂質転移タンパク)およびPON(パラオキソナーゼ)のような他のタンパクもリポタンパク質との関連が見出されている。
【0005】
虚血性心疾患、冠状動脈疾患およびアテローム性動脈硬化症のような心臓血管疾患は、高い血清コレステロールレベルと圧倒的な関連がある。例えば、アテローム性動脈硬化症は、動脈壁内でのコレステロールの蓄積を特徴とする緩慢に進行する疾患である。アテローム動脈硬化性病巣に沈積する脂質が主として血漿LDLに由来するという理論は動かぬ証拠として支持されており、したがってLDLは一般に「悪玉」コレステロールとしてよく知られるようになった。これに対してHDL血清レベルは虚血性心疾患と逆相関する。実際、HDLの高い血清レベルは負のリスクファクターであると考えられる。血漿HDLの高いレベルは冠状動脈疾患に対して保護的であるばかりではなく、実際にアテローム硬化性斑の縮退を誘起し得るという仮説が立てられている(例えば、Badimon et al., 1992, Circulation 86(Suppl. III):86-94; Dansky and Fisher, 1999, Circulation 100:1762-63; Tangirala et al., 1999, Circulation 100(17):1816-22; Fan et al., 1999, Atherosclerosis 147(1):139-45; Deckert et al., 1999, Circulation 100(11):1230-35; Boisvert et al., 1999, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 19(3):525-30; Benoit et al., 1999, Circulation 99 (1):105-10; Holvoet et al., 1998, J. Clin. Invest. 102(2):379-85; Duverger et al., 1996, Circulation 94(4):713-17; Miyazaki et al., 1995, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 15(11):1882-88; Mezdour et al., 1995, Atherosclerosis 113(2):237-46; Liu et al., 1994, J. Lipid Res. 35(12):2263-67; Plump et al., 1994, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 91(20):9607-11; Paszty et al., 1994, J. Clin. Invest. 94(2):899-903; She et al., 1992, Chin. Med. J. (Engl). 105(5):369-73; Rubin et al., 1991, Nature 353(6341):265-67; She et al., 1990, Ann. NY Acad. Sci. 598:339-51; Ran, 1989, Chung Hua Ping Li Hsueh Tsa Chih (Zhonghua Bing Li Xue Za Zhiとも表記される) 18(4):257-61; Quezado et al., 1995, J. Pharmacol. Exp. Ther. 272(2):604-11; Duverger et al., 1996, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 16(12):1424-29; Kopfler et al., 1994, Circulation 90 (3):1319-27; Miller et al., 1985, Nature 314(6006):109-11; Ha et al., 1992, Biochim. Biophys. Acta 1125(2):223-29; Beitz et al., 1992, Prostaglandins Leukot. Essent. Fatty Acids 47(2):149-52を参照)。結果として、HDLは一般に「善玉」コレステロールとしてよく知られるようになった。
【0006】
HDLの「保護的」役割は多くの研究において確認されている(例えば、Miller et al., 1977, Lancet 1(8019):965-68; Whayne et al., 1981, Atherosclerosis 39:411-19)。これらの研究においては、LDLの上昇したレベルは増加した心血管リスクを伴うように見えるが、高いHDLレベルは心血管保護を与えるように見える。さらにin vivoでの研究によりHDLの保護的役割が示されており、HDLのウサギへの注入がコレステロールにより誘発された動脈傷害の進展を妨害し得ること(Badimon et al., 1989, Lab. Invest. 60:455-61)および/またはその退縮を誘発すること(Badimon et al., 1990, J. Clin. Invest. 85:1234-41)が示されている。
【0007】
2.1. 逆コレステロール輸送、HDLおよびアポリポタンパクA-1
逆コレステロール輸送(RCT)経路はほとんどの肝外組織からコレステロールを除去するように機能するが、これは身体のほとんどの細胞の構造および機能を維持するために必須である。RCTは、主として3つの工程、(a)コレステロール流出、すなわち、末梢細胞の種々のプールからのコレステロールの初期の除去、(b)流出したコレステロールの細胞への再流入防止、レシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の作用によるコレステロールエステル化、および(c)加水分解、その後の再利用、貯蔵、胆汁の分泌または胆汁酸への異化作用のためのHDLコレステロールおよびコレステリルエステルの肝細胞への取り込み、からなる。
【0008】
RCTのキー酵素であるLCATは、肝臓により製造され、HDL分画とともに血漿中を循環する。LCATは細胞由来のコレステロールをコレステリルエステルに変換し、該エステルは除去される運命にあるHDL中に封鎖される(Jonas 2000, Biochim. Biophys. Acta 1529(1-3):245-56参照)。コレステリルエステル転移タンパク(CETP)およびリン脂質転移タンパク(PLTP)は、循環HDL集団をさらにリモデリングすることに貢献する。CETPは、特にVLDLおよびLDLといったApoBを含むリポタンパク質のような他のリポタンパク質に、LCATにより形成されたコレステリルエステルを移動させる。PLTPは、HDLにレシチンを供給する。HDLトリグリセリドは細胞外肝トリグリセリドリパーゼにより異化され、リポタンパク質コレステロールはいくつかのメカニズムを介して肝臓により除去される。
【0009】
HDL粒子の機能上の特徴は、主にそれらの主要アポリポタンパク成分、例えばApoA-IおよびApoA-IIにより決定される。少量のApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoD、ApoA-IV、ApoE、ApoJはHDLとともにも観察される。代謝RCTカスケードまたは経路の間のリモデリングの状態により、HDLは上述の成分の多様な種々のサイズおよび種々の混合物中に存在する。
【0010】
各HDL粒子は、通常少なくとも1つのApoA-I分子を含み、通常2〜4のApoA-Iの分子を含む。また、HDL粒子はApoE(γ-LpE粒子)のみを含むものであってもよく、これはGerd Assmann教授により記載されているように(例えばvon Eckardstein et al., 1994, Curr Opin Lipidol. 5(6):404-16参照)、コレステロール流出の原因となることも知られている。ApoA-IはプレプロアポリポタンパクA-1として肝臓および小腸により合成され、これはプロアポリポタンパクAI(プロApoA-I)として分泌され、急速に切断されてApoA-Iの血漿形態、243アミノ酸の単一のポリペプチド鎖を生成する(Brewer et al., 1978, Biochem. Biophys. Res. Commun. 80:623-30)。実験的に直接血流に注入されたプレプロApoA-IもApoA-Iの血漿形態に切断される(Klon et al., 2000, Biophys. J. 79(3):1679-85; Segrest et al., 2000, Curr. Opin. Lipidol. 11(2):105-15; Segrest et al., 1999, J. Biol.Chem. 274(45):31755-58)。
【0011】
ApoA-Iは、プロリンであることが多いリンカー部分によって隔てられた6〜8の異なる22アミノ酸からなるα-ヘリックスまたは機能的反複を含む。該反複単位は、両親媒性ヘリカルコンフォメーションにあり(Segrest et al., 1974, FEBS Lett. 38:247-53)、ApoA-Iの主たる生物学的活性、すなわち脂質結合およびレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性化を与える。
【0012】
ApoA-Iは、脂質と3種類の安定な複合体、プレ-β-1 HDLと称される小さい脂質の少ない複合体、プレ-β-2 HDLと称される極性脂質(リン脂質およびコレステロール)を含む扁平な円盤状の粒子、および球状または成熟HDL(HDLL3およびHDLL2)と称される極性および無極性両方の脂質を含む球状粒子を形成する。循環集団の大部分のHDLは、ApoA-IおよびApoA-IIの両方を含む(「AI/AII-HDL分画」)。しかしながら、ApoA-Iのみを含むHDLの分画(「AI-HDL分画」)がRCTにおいてより効果的であるようである。ある疫学的研究によれば、Apo-AI HDL分画が抗アテローム発生性であるという仮説が支持されている(Parra et al., 1992, Arterioscler. Thromb. 12:701-07; Decossin et al., 1997, Eur. J. Clin. Invest. 27:299-307)。
【0013】
細胞表面からのコレステロール転移(すなわちコレステロール流出)のメカニズムは知られていないが、脂質の少ない複合体(プレ-β-1 HDL)が、RCTに関与する末梢組織から転移されるコレステロールの好適なレセプターであると考えられている(Davidson et al., 1994, J. Biol. Chem. 269:22975-82; Bielicki et al., 1992, J. Lipid Res. 33:1699-1709; Rothblat et al., 1992, J. Lipid Res. 33:1091-97;およびKawano et al., 1993, Biochemistry 32:5025-28; Kawano et al., 1997, Biochemistry 36:9816-25参照)。細胞表面からコレステロールが集められるこの過程の間、プレ-β-1 HDLは急速にプレ-β-2 HDLに変換される。PLTPはプレ-β-2 HDL円板形成速度を増加させ得るが、RCTにおけるPLTPの役割を示すデータはない。LCATは優先的に円盤状の小さい(プレ-β)および球状(すなわち成熟)HDLと反応し、レシチンまたはその他のリン脂質の2-アシル基をコレステロールの遊離ヒドロキシ残基に転移させ、コレステリルエステル(HDL中に保持される)およびリゾレシチンを生成する。LCAT反応はApoA-Iを活性化剤として必要とする、すなわちApoA-IはLCATの天然のコファクターである。HDL中に封鎖されたコレステロールのそのエステルへの変換によりコレステロールの細胞への再流入が防止され、最終的な結果としてコレステロールが細胞から除去される。
【0014】
ApoAI-HDL画分(すなわちApoA-IおよびApoA-IIを含む)中の成熟HDL粒子中のコレステリルエステルは肝臓により除去され、ApoA-IおよびApoA-IIの両者を含むHDL(AI/AII-HDL分画)に由来するものよりも効果的に胆汁に加工される。これは一つには肝細胞膜に対するApoAI-HDLのより効果的な結合によるものであり得る。HDLレセプターの存在が仮定されており、スカベンジャーレセプター、クラスB、タイプI(SR-BI)がHDLレセプターとして同定されている(Acton et al., 1996, Science 271:518-20; Xu et al., 1997, Lipid Res.)。SR-BIは、ステロイド合成組織(例えば副腎)および肝臓において最も豊富に発現される(Landschulz et al., 1996, J. Clin. Invest. 98:984-95; Rigotti et al., 1996, J. Biol. Chem. 271:33545-49)。
【0015】
CETPは、RCTにおいても役割を果たし得る。CETP活性またはそのレセプター、VLDLおよびLDLの変化は、HDL集団の「リモデリング」において役割を果たす。例えば、CETPの非存在下では、HDLはクリアされない拡大された粒子になる(RCTおよびHDLの概説については、Fielding and Fielding, 1995, J. Lipid Res. 36:211-28; Barrans et al., 1996, Biochem. Biophys. Acta 1300:73-85; Hirano et al., 1997, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17 (6):1053-59参照)。
【0016】
HDLは他の脂質の逆輸送および解毒、すなわち異化および分泌のための細胞、器官および組織からの肝臓への脂質の輸送においても役割を果たす。そのような脂質としては、スフィンゴミエリン(SM)、酸化脂質およびリゾフォスファチジルコリンが挙げられる。例えばRobins及びFasulo(1997, J. Clin. Invest. 99:380-84)は、HDLが肝臓による植物ステロールの胆汁分泌への輸送を刺激することを示している。
【0017】
HDLの主成分、ApoA-Iはin vitroでSMと結合できる。ApoA-Iをウシ脳SM(BBSM)とin vitroで再構成した場合、再構成の最大速度は28℃で得られ、該温度はBBSMの相転移温度を示唆している(Swaney, 1983, J. Biol. Chem. 258 (2), 1254-59)。7.5:1(wt/wt)以下のBBSM:ApoA-I比においては、単一の再構成された均質なHDL粒子が形成され、該粒子は粒子あたり3個のApoA-I分子を含み、360:1のBBSM:ApoA-Iモル比を有する。これは電子顕微鏡下で、リン脂質/タンパクの高い比におけるApoA-Iのホスファチジルコリンとの再結合により得られるものと同様の円盤状複合体として観察される。しかし、15:1(wt/wt)のBBSM:ApoA-I比においては、より高いリン脂質:タンパクモル比(535:1)を有するより大きい直径の円盤状の複合体が生ずる。これらの複合体は、ホスファチジルコリンと形成されるApoA-I複合体よりかなり大きく、より安定で変性に対する耐性がより高い。
【0018】
スフィンゴミエリン(SM)は、初期コレステロールアクセプター(プレ-β-HDLおよびγ-遊走ApoEを含むリポタンパク質)において上昇し、SMがこれらの粒子のコレステロール流出を促進する能力を強化し得ることを示唆している(Dass and Jessup 2000, J. Pharm. Pharmacol. 52:731-61; Huang et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:1834-38; Fielding and Fielding 1995, J. Lipid Res. 36:211-28)。
【0019】
2.2. HDLおよびApoA-Iの保護メカニズム
HDLの保護のメカニズムについての最近の研究は、HDLの主成分であるアポリポタンパクAI(ApoA-I)に集中されてきた。ApoA-Iの高い血漿レベルは、冠動脈病巣の欠如または減少を伴う(Maciejko et al., 1983, N. Engl. J. Med. 309:385-89; Sedlis et al., 1986, Circulation 73:978-84)。
【0020】
ApoA-IまたはHDLの実験動物への注入は有意な生化学的変化を発揮し、アテローム動脈硬化性病巣の範囲および重篤度を減じる。Maciejko及びMaoの最初の報告(1982, Arteriosclerosis 2:407a)の後、Badimonら(1989, Lab. Invest. 60:455-61; 1989, J. Clin. Invest. 85:1234-41)は、HDL(d=1.063〜1.325 g/ml)を注入することによりコレステロール飼養ウサギにおいてアテローム動脈硬化性病巣の範囲を有意に減少させ(45%の減少)、そのコレステロールエステル含量を有意に減少(58.5%の減少)させうることを見出した。彼らはHDLの注入により確立した病巣のほぼ50%の縮退が得られることも見出した。Esperら(1987, Arteriosclerosis 7:523a)は、HDLの注入が、初期の動脈病巣を呈する遺伝性高コレステロール血症のワタナベウサギの血漿リポタンパク質組成を顕著に変化させることができることを示した。これらのウサギにおいて、HDL注入は、保護的HDLおよびアテローム発生性LDL間の比を倍以上にすることができる。
【0021】
動物モデルにおける動脈疾患を予防するHDLの能力は、ApoA-Iがin vitroで線維素溶解活性を発揮しうるという所見によりさらに支持された(Saku et al., 1985, Thromb. Res. 39:1-8)。Ronneberger(1987, Xth Int. Congr. Pharmacol., Sydney, 990)は、ApoA-Iがビーグル犬およびカニクイザルにおいて線維素溶解現象を増加させうることを示した。同様な活性はヒト血漿においてin vitroで指摘され得る。RonnebergerはApoA-I処置動物において脂質沈積および動脈プラーク形成の減少を確認することができた。
【0022】
in vitroにおける研究により、ApoA-Iおよびレシチンの複合体が培養動脈平滑筋細胞からの遊離コレステロールの流出を促進できることが示されている(Stein et al., 1975, Biochem. Biophys. Acta, 380:106-18)。このメカニズムにより、HDLはこれらの細胞の増殖を減少させることができる(Yoshida et al., 1984, Exp. Mol. Pathol. 41:258-66)。
【0023】
ApoA-Iの2種の天然のヒト突然変異が単離されており、これらはアルギニン残基がシステインに変異しているものである。アポリポタンパクA-IMilano(ApoA-IM)においては、この置換は残基173で起こるのに対し、アポリポタンパクA-IParis(ApoA-IP)ではこの置換は残基151で起こる(Franceschini et al., 1980, J. Clin. Invest. 66:892-900; Weisgraber et al., 1983, J. Biol. Chem. 258:2508-13; Bruckert et al., 1997, Atherosclerosis 128:121-28; Daum et al., 1999, J. Mol. Med. 77:614-22; Klon et al., 2000, Biophys. J. 79(3):1679-85)。
【0024】
ApoA-IMあるいはApoA-IPのいずれかのジスルフィド結合ホモダイマーを含む再構成されたHDL粒子は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)エマルジョンを清澄化するその能力およびコレステロール流出を促進するその能力において野生型ApoA-Iを含む再構成されたHDL粒子と類似している(Calabresi et al., 1997b, Biochemistry 36:12428-33; Franceschini et al., 1999, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 19:1257-62; Daum et al., 1999, J. Mol. Med. 77:614-22)。両方の突然変異において、ヘテロ接合個体は低下したHDLのレベルを有するが、逆説的にアテローム性動脈硬化症のリスクは減少している(Franceschini et al., 1980, J. Clin. Invest. 66:892-900; Weisgraber et al., 1983, J. Biol. Chem. 258:2508-13; Bruckert et al., 1997, Atherosclerosis 128:121-28)。いずれかの変異体を含む再構成されたHDL粒子はLCATを活性化することが可能であるが、野生型ApoA-Iを含む再構成されたHDL粒子と比較すると効率は低下している(Calabresi et al., 1997a, Biochem. Biophys. Res. Commun. 232:345-49; Daum et al., 1999, J. Mol. Med. 77:614-22)。
【0025】
ApoA-IM突然変異は常染色体の優勢な特性として伝達され、ファミリーの範囲内で8世代のキャリアーが同定されている(Gualandri et al., 1984, Am. J. Hum. Genet. 37:1083-97)。ApoA-IMキャリアー個体の状態は、HDLコレステロールレベルの著しい減少を特徴とする。これにもかかわらず、キャリアー個体は動脈疾患のいかなる増加したリスクも明確には示さない。実際、系統的な記録を調べてみると、これらの被検者はアテローム性動脈硬化症から保護され得るようである(Sirtori et al., 2001, Circulation, 103:1949-1954; Roma et al., 1993, J. Clin. Invest. 91 (4):1445-520)。
【0026】
突然変異のキャリアーにおけるApoA-IMの考えられる保護効果のメカニズムは、1つのαヘリックスの喪失および疎水性残基の増加した露出を伴う突然変異体ApoA-IMの構造の修飾に関連するようである(Franceschini et al., 1985, J. Biol. Chem. 260:1632-35)。複数のα-ヘリックスのしっかりとした構造の喪失は分子の柔軟性を増加させ、これは正常なApoA-Iと比較してより容易に脂質と結合することとなる。さらに、アポリポタンパク-脂質複合体は変性により影響されやすく、したがって変異体の場合、脂質のデリバリーが改良されることが示唆される。
【0027】
Bielickiら(1997, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17(9):1637-43)は、ApoA-IMが野生型ApoA-Iと比較して膜コレステロールを集合させる能力が限られていることを示した。さらに、膜脂質とのApoA-IMの結合により形成される発生期のHDLは主として7.4nmの粒子であり、野生型ApoA-Iにより形成されるより大きな9および11nmの複合体ではない。これらの観察は、ApoA-I一次配列のArg173からCys173への置換が細胞コレステロール集合の正常なプロセスおよび発生期のHDLの構築を妨げたことを示している。前記突然変異は、細胞からのコレステロール除去の効率の減少を伴うようである。したがって抗アテローム発生特性はRCTに無関係であり得る。
【0028】
Arg173からCys173への置換に起因する最も顕著な構造変化はApoA-IMのダイマー化である(Bielicki et al., 1997, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 17 (9):1637-43)。ApoA-IMはそれ自身とホモダイマーを、ApoA-IIとヘテロダイマーを形成できる。アポリポタンパクの混合物を含む血液分画の研究により、循環中のダイマーおよび複合体の存在がアポリポタンパクの除去半減期を増加させる原因となり得ることが示されている。この除去半減期の増加は、突然変異のキャリアーの臨床研究において観察されている(Gregg et al., 1988, NATO ARW on Human Apolipoprotein Mutants:From Gene Structure to Phenotypic Expression, Limone SG)。その他の研究により、ApoA-IMダイマー(ApoA-IM/ApoA-IM)がin vitroでHDL粒子の相互転換の抑制因子として作用することが示されている(Franceschini et al., 1990, J. Biol. Chem. 265:12224-31)。
【0029】
2.3. 脂質代謝異常および関連する疾患の現在の治療
脂質代謝異常疾患は、上昇した血清コレステロールおよびトリグリセリドレベルおよび低下した血清HDL:LDL比を伴う疾患であって、高脂血症、特に高コレステロール血症、虚血性心疾患、冠状動脈疾患、血管および血管周囲の疾患および心臓血管疾患、例えばアテローム性動脈硬化症を含む。動脈の不全により生じる間欠性跛行のようなアテローム性動脈硬化症に伴う症候群も含まれる。脂質代謝異常疾患に伴う上昇した血清コレステロールおよびトリグリセリドを低下させるために多くの治療が現在利用できる。しかしながら、それぞれ有効性、副作用および適格な患者の数に関してそれ自体の欠点および限界を有する。
【0030】
胆汁酸結合樹脂は、小腸から肝臓までの胆汁酸のリサイクルを中断する一群の薬剤であり、例えばコレスチラミン(Questran Light(登録商標)、Bristol-Myers Squibb)および塩酸コレスチポール(Colestid(登録商標)、The Upjohn Company)が挙げられる。経口で服用される場合、これらの正に荷電した樹脂は小腸で負に荷電する胆汁酸に結合する。樹脂は小腸から吸収され得ないので、それらは胆汁酸を担持して排出される。しかしながら、これらの樹脂を使用しても最高で約20%、血清コレステロールレベルを低下させるのみであり、便秘などの胃腸の副作用および特定のビタミン欠乏症を伴う。さらに、樹脂が他の薬剤に結合するので、他の経口薬は樹脂の摂取の少なくとも1時間前あるいは4〜6時間後に摂取しなければならず、したがって心臓病患者の薬剤服用計画を複雑にする。
【0031】
スタチン類は、コレステロール生合成経路に関与するキー酵素HMGCoAレダクターゼを阻害することによりコレステロール合成を遮断するコレステロール低下剤である。スタチン類、例えば、ロバスタチン、(Mevacor(登録商標))、シンバスタチン(Zocor(登録商標))、プラバスタチン(Pravachol(登録商標))、フルバスタチン(Lescol(登録商標))およびアトルバスタチン(Lipitor(登録商標))は、ときとして胆汁酸結合樹脂と組み合わせて使用される。スタチン類は、有意に血清コレステロールおよびLDL血清レベルを低下させ、冠状動脈硬化症の進行を鈍化させる。しかしながら、血清HDLコレステロールレベルは中程度に増加するだけである。LDL低下効果のメカニズムは、VLDL濃度の減少およびLDLレセプターの細胞発現の誘導を含み得、LDLの産生低下および/または異化の増加を導く。肝臓および腎臓機能不全を含む副作用がこれらの薬剤の使用に伴う(The Physicians Desk Reference (56th ed., 2002) Medical Economics)。
【0032】
ナイアシン(ニコチン酸)は、栄養補助食品および抗高脂血症剤として使用される水溶性ビタミンB複合体である。ナイアシンはVLDLの産生を減少させ、LDL低下に効果的である。場合により胆汁酸結合樹脂と組み合わせて使用される。十分な服用量で使用されるとナイアシンはHDLを増加させることができるが、そのような高用量で使用されると、深刻な副作用によりその有用性が制限される。Niaspan(登録商標)は、純粋なナイアシンより副作用が少ない徐放ナイアシンの形態である。ナイアシン/ロバスタチン(Nicostatin(登録商標))は、ナイアシンおよびロバスタチンを含む製剤であって、各薬剤の利点を合わせ持つ。
【0033】
フィブレート類は、高コレステロール血症も伴い得る高脂血症(すなわち上昇した血清トリグリセリド)の種々の形態を治療するのに使用される一群の脂質低下剤である。フィブレート類は、VLDL分画を減少させ、HDLを適度に増加させるようであるが、これらの薬剤の血清コレステロールに対する効果は不定である。米国においては、クロフィブレート(Atromid-S(登録商標))、フェノフィブレート(Tricor(登録商標))およびベザフィブレート(Bezalip(登録商標))のようなフィブレート類が抗脂質代謝異常剤としての使用に対して承認されているが、高コレステロール血症剤としては承認を得ていない。例えば、クロフィブレートはVLDL分画を低下させることにより血清トリグリセリドを低下させるように作用する(未知のメカニズムを介して)抗脂質代謝異常剤である。血清コレステロールは一定の患者亜集団において低下され得るが、この薬剤に対する生化学反応は不定で、どの患者が良好な結果を得るかについて予測することは必ずしも可能ではない。Atromid-S(登録商標)は、虚血性心疾患の予防に有効であることは示されていない。化学的および薬理学的に関連する薬剤、ゲムフィブロジル(Lopid(登録商標))は、適度に血清トリグリセリドおよびVLDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロール、すなわちHDL2およびHDL3亜分画ならびにApoA-IおよびA-II(すなわちAI/AII-HDL分画)を適度に増加させる脂質制御剤である。しかし、脂質応答は一定ではなく、特に異なる患者集団においてそうである。さらに、虚血性心疾患の予防が病歴または既存の虚血性心疾患の徴候のない40〜55の男性患者において観察されたが、これらの知見がどの程度他の患者集団(例えば女性、より高齢あるいは若年男性)に外挿し得るかは明確でない。実際、確立した虚血性心疾患の患者においては、有効性は観察されなかった。深刻な副作用がフィブレート類の使用に伴い、悪性腫瘍(特に胃腸癌)のような毒性、胆嚢疾患および非冠動脈に起因するものではない死亡の増加などが挙げられる。これらの薬剤は、唯一の脂質異常として高LDLまたは低HDLを示す患者の治療に適用されない(The Physicians Desk Reference (56th ed., 2002) Medical Economics)。経口エストロゲン置換療法は閉経婦人における中程度の高コレステロール血症に対して考慮し得る。しかしながら、HDLの増加はトリグリセリドの増加を伴い得る。エストロゲン治療はもちろん特異的な患者集団(閉経婦人)に限定され、悪性新生物、胆嚢疾患、血栓塞栓性疾患、肝アデノーマ、高血圧、グルコース不耐性および高カルシウム血症の誘発などの深刻な副作用を伴う。
【発明の開示】
【0034】
血清コレステロールを低下させること、HDL血清レベルを上昇させること、脂質代謝異常に伴う疾患、症状あるいは障害の予防および/または治療することにおいてより有効であるより安全な薬剤に対する必要性が存在する。
【0035】
例えば、HDLならびにリン脂質と複合化したApoA-Iの再結合体形態は、無極性または両性分子、例えば、コレステロールおよび誘導体(オキシステロール、酸化ステロール、植物ステロールなど)、コレステロールエステル、リン脂質および誘導体(酸化リン脂質)、トリグリセリド、酸化生成物およびリポ多糖体(LPS)の吸引剤/スカベンジャーとなり得る(たとえばCasas et al., 1995, J. Surg. Res. Nov; 59 (5):544-52を参照)。HDLはTNF-αおよびその他のリンフォカインのスカベンジャーともなり得る。HDLはヒト血清パラオキソナーゼ、たとえばPON-1、-2、-3のキャリアーともなり得る。HDLと関連するエステラーゼであるパラオキソナーゼは、酸化に対する細胞成分の保護に重要である。酸化的ストレスの間に起こるLDLの酸化は、アテローム性動脈硬化症の進展に直接関連しているようである(Aviram, 2000, Free Radic. Res. 33 Suppl:S85-97)。パラオキソナーゼは、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患に対する感受性において役割を果たすようである(Aviram, 1999, Mol. Med. Today 5(9):381-86)。ヒト血清パラオキソナーゼ(PON-1)は高密度リポタンパク質(HDLS)に結合する。その活性はアテローム性動脈硬化症に逆相関する。PON-1は有機リン酸を加水分解し、HDLおよび低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を阻害することによりアテローム性動脈硬化症から保護することができる(Aviram, 1999, Mol. Med. Today 5(9):381-86)。実験的研究により、この保護が酸化されたリポタンパクの特異的な脂質過酸化物を加水分解するPON-1の能力と関連することが示唆されている。PON-1活性を保存または強化する処置は、アテローム性動脈硬化症および虚血性心疾患の発症を遅延させる助けとなり得る。
【0036】
HDLはさらに、抗血栓性薬剤およびフィブリノーゲン低下剤として、ならびに出血性ショックにおける薬剤としての役割を有する(Cockerill et al., WO01/13939、2001年3月1日発行)。HDLおよび特にApoA-Iは、敗血症により生成されたリポ多糖体のApoA-Iを含む脂質粒子への交換を容易にし、リポ多糖体の機能的な中和をもたらすことが示されている(Wright et al.、W095/34289、1995年12月21日発行;Wright et al.、米国特許第5,928,624号、1999年7月27日発行;Wright et al.、米国特許第5,932,536号、1999年8月3日発行)。
【0037】
しかしながら、ApoA-I、ApoA-Imilano、ApoA-IParisおよびその他の変異体ならびに再構成されたHDLの治療的使用は、治療的投与に必要なアポリポタンパクの大きな量および生産の全体的な低収率を考慮したタンパク生産のコストにより現在制限されている。初期の臨床試験により、投与量範囲は心臓血管疾患の治療について、1注入あたり1.5〜4gタンパクの間にあることが示唆されている。完全な治療に必要な注入の回数は知られていない(例えば、Eriksson et al., 1999, Circulation 100(6):594-98; Carlson, 1995, Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis. 5:85-91; Nanjee et al., 2000, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 20(9):2148-55; Nanjee et al., 1999, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 19(4):979-89; Nanjee et al., 1996, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 16 (9):1203-14参照)。このように、投与に必要なアポリポタンパクの量を最小化する、脂質代謝異常疾患、症状あるいは障害の治療の新規な方法を開発する必要があった。
【0038】
第2節あるいは本出願のその他の節におけるいかなる参考文献の引用または特定もその参考文献が本発明の従来技術として使用され得ることを認めたものと解してはならない。
【0039】
3. 発明の要旨
本発明は、脂質代謝異常に伴う疾患、症状または障害を治療または予防する方法を提供し、該方法は例えばアポリポタンパクA-I-SM(ApoA-I-SM)のようなアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体またはアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を含む組成物を使用する。
【0040】
全く驚くべきことに、ApoA-Iのようなアポリポタンパクをアポリポタンパク-スフィンゴミエリン(「Apo-SM」)複合体の形態で投与すると、他のアポリポタンパク-脂質複合体により提供されるものと同等またはより優れたコレステロール流動化、したがって治療的利益を得るのに、はるかに少ないアポリポタンパクしか必要としないことが見出された。例えば、ダイズホスファチジルコリン(「大豆PC」)治療レジュメが20〜50mg/kg(すなわち1〜4g/ヒト個体)のアポリポタンパクの2〜5日毎の投与(i.v.)を要するのに対し、本発明による治療レジュメでは0.05〜25mg/kg(すなわち40mg〜2g/ヒト個体)のアポリポタンパクの2〜10日毎の投与(i.v.)しか必要としない。従って、本発明の方法は、治療的利益を得るのに必要とされるアポリポタンパクの量を2〜25分の1に低減し、これにより治療のコストを実質的に低減し、治療レジュメを患者にとってより利用しやすいものとし、おそらくは薬剤の投与に伴って起こり得る有害な副作用を低減する。
【0041】
さらに、コレステロールの流動化(投与の前のベースラインレベルより上へのHDLコレステロールの上昇であり、ベースラインレベルとは薬剤の投与の前のHDLコレステロールの初期レベルであるか、または対象の患者が有するであろうレベルとして、またはそのサイズおよび性の個体が有するであろうレベルとして当業者に知られるレベルである)は、プロApoA-I-SM複合体についてより長い期間有意に保持され、すなわち慣用のアポリポタンパク-リン脂質複合体よりもより長い期間保持される。したがって、本発明による治療は、治療的利益を失うことなく、2〜5日毎と比較して、典型的には約2〜10日毎と現在の治療プロトコルよりも頻度を低くすることができる。さらに、少なくした投与量を同じ頻度で投与することもできる。多くの態様において、投与は約5〜10日毎であり、患者に要求される診療所または病院訪問の回数を有意に減少させる。
【0042】
ある態様においては、本発明は、3500mg未満のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を含む薬学的に許容される注射可能な投与単位を包含する。別の態様においては、組成物は単位投与形態あたり1750mg未満、1400mg未満、700mg未満および350mg未満を含む。
【0043】
本発明によるApoA-I-SM複合体の使用は、注入あるいは注射されるApoA-I-SM複合体の体積の予想されるより低い値により投与がより迅速でより容易になり、患者の苦痛を緩和することからも有利である。
【0044】
本発明によるApoA-I-SM複合体の使用は、SMがダイズホスファチジルコリン(ダイズPC)より大幅に化学的に安定な脂質であるので、慣用の複合体と比較してApoA-I複合体はより安定であり、より長い製品貯蔵寿命を有することからもさらに有利である。
【0045】
本発明の方法は、アポリポタンパク療法が有利である実質的にいかなる関係においても利益をもたらす。例えば、本発明の方法は、アポリポタンパクにより治療できる脂質代謝異常と関連する実質的にるあらゆる疾患、症状または障害の治療または予防に有利に使用し得る。本発明の方法を用いて、アポリポタンパク単独またはアポリポタンパクおよびダイズPCの有効な投与量の2〜25分の1のアポリポタンパクの投与量を投与することができる。Apo-SM複合体は全身的に投与されるので、小さい血管を含め患者の脈管構造全体からコレステロールを流動化し、アテローム性動脈硬化症および狭窄を治療または予防するために用いることができる。
【0046】
4. 図面の説明
図1は、15mg/kgの投与量でのr-プロApoA-I-SMおよびr-プロApoA-I-POPC複合体の投与後における非エステル化コレステロールのHDL分画レベルの絶対値の変化を示す。X軸:時間(時間)、Y軸:遊離HDLコレステロールの変化(mg/dL)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
5. 発明の詳細な説明
本発明は、例えばアポリポタンパクA-I-SM(ApoA-I-SM)のようなアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体またはアポリポタンパク-スフィンゴミエリン(「Apo-SM」)複合体を含む医薬組成物を利用する、脂質代謝異常に伴う症状、疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。
【0048】
本明細書で使用する用語「脂質代謝異常(dyslipidemia)」または「脂質代謝異常の(dyslipidemic)」の用語は、血漿中の脂質の異常に上昇または減少したレベルをいうものであり、限定するものではないが、以下の症状、すなわち虚血性心疾患;冠状動脈疾患;心臓血管疾患、高血圧症、再狭窄、血管または血管周囲疾患; 脂質代謝異常疾患;異リポタンパク血症;高レベル低密度リポタンパクコレステロール;高レベル超低密度リポタンパクコレステロール;低レベル高密度リポタンパク;高レベルリポタンパクLp(a)コレステロール;高レベルアポリポタンパクB;アテローム性動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む);高脂血症;高コレステロール血症;家族性高コレステロール血症(FH);家族性複合型高脂血症(FCH);高トリグリセリド血症、低αリポタンパク血症および高コレステロール血症リポタンパクのようなリポタンパクリパーゼ欠損症に関連した変化した脂質のレベルが含まれる。全く驚くべきことに、アポリポタンパク-スフィンゴミエリン(Apo-SM)複合体の形態でApo-AIのようなアポリポタンパクを投与すると、ダイズPCのようなホスファチジルコリンのアポリポタンパク-脂質複合体により得られるものと同等あるいはそれより優れたコレステロール流動化、従って治療効果を達成するのに、はるかに少ないアポリポタンパクしか必要としないということが見出された。
【0049】
本発明は、脂質代謝異常に伴う疾患または障害の治療を必要としているヒトに治療上有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を投与することを含む、前記ヒトにおける脂質代謝異常に伴う疾患または障害の治療を包含する。前記複合体は好ましくは固体であり、アポリポタンパク-スフィンゴミエリンの円盤状粒子の溶液への再構成に適した凍結乾燥固体を含む。投与は、非経口であることが好ましく、特に静脈内投与、ボーラス(大量)注射、筋肉内投与、皮下投与などである。このように、本発明の方法は、アポリポタンパクおよびダイズPCの複合体を投与したときに必要とされるものの2〜25分の1のアポリポタンパクを使用するものである。
【0050】
コレステロールの流動化(投与前のベースライン(当初)レベルより高いレベルへのHDLコレステロールの上昇)が、アポリポタンパク-ホスファチジルコリン複合体により得られるものと比較してより長い時間、プロApoA-I-SM複合体について維持されることがさらに見出された。したがって、本発明るいよる治療は、治療の利益を損なうことなく、より低い頻度で適用することができ、典型的には2〜10日毎に適用することができる。さらに、同じ頻度とすれば投与量を減らして投与することができる。多くの態様においては、治療は5〜10毎に適用することができ、患者に必要とされる診療所または病院訪問の数を有意に低下させる。
【0051】
本発明によるApoA-I-SM複合体の使用は、注入または注射されたApoA-I-SM複合体の体積の予想される量より小さい量により投与がより迅速でより容易になり、患者の負担を改善することからも有利である。
【0052】
本発明によるApoA-I-SM複合体の使用はさらに、SMがダイズホスファチジルコリン(ダイズPC)よりはるかに化学的に安定な脂質であり、それゆえ慣用の複合体と比較してApoA-I複合体の安定性はより大きく、製品貯蔵寿命がより長いことからも有利である。
【0053】
本発明の投与方法は、アポリポタンパク療法が有利である実質的にあらゆる場合において利益をもたらす。例えば、本発明の方法は、脂質代謝異常に伴う実質的にあらゆる疾患、症状または障害、あるいはアポリポタンパクに応答するその徴候を治療または予防するために有利に使用し得る。本発明の方法を用いると、現在当分野において知られる有効な投与量の2〜25分の1のアポリポタンパクの投与量で、疾患の治療または予防あるいは寛解効果をもたらすことにおいて有効であると思われる。Apo-SM複合体は全身的に投与されるので、小さい血管を含め患者の脈管構造全体からコレステロールを流動化し、アテローム性動脈硬化症および狭窄を治療または予防するために用いることができる。
【0054】
本発明のApoA-I-SM複合体がHDLの濃度を増加させることができ、細胞コレステロール流出を増加させることができることを示す実施例により本発明を例示する。本明細書に開示した動物モデルにおけるin vivoでのApoA-I-SM複合体の使用は血漿HDLコレステロールレベルの増加をもたらし、これは再結合HDL粒子(すなわちApoAI-SM-複合体)によるコレステロール流動化/流出を示すものである。さらに、ApoAI-SM粒子の注射により誘導されたHDLコレステロール濃度の増加は、ApoAI-ホスファチジルコリン粒子(例えばApoAI-ダイズPCおよびApoAI-POPC)により誘導されるものより有意に大きい。
限定のためではなく、開示内容を明確にするため、発明の詳細な説明を以下の項に分ける。
【0055】
5.1. アポリポタンパクおよびアポリポタンパクペプチド
本発明は、アポリポタンパクがスフィンゴミエリンと複合化した(「Apo-SM複合体」)アポリポタンパク組成物を使用する。
【0056】
本発明によれば、上記した疾患の治療または予防に使用した際に治療的利益をもたらす実質的にあらゆるアポリポタンパクまたはアポリポタンパク誘導体または類似体をSMと複合化することができ、慣用のものよりも低い投与量で有利に投与できる。さらに、LCATを活性化するα-ヘリックス性の任意のタンパクまたはペプチドを使用することができる。適切なアポリポタンパクとしては、限定するものではないが、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-VおよびApoEのプレプロアポリポタンパク形態、ヒトApoA-I、ApoA-II、ApoA-IVおよびApoEのプロおよび成熟形態、および活性多形形態、アイソフォーム、変種および変異体、ならびに切断形態が挙げられ、これらの中で最も一般的なものはApoA-IMilano(ApoA-IM)およびApoA-IParis(ApoA-IP)である。本発明の範囲内において、プロおよび成熟ApoA-I(Duverger et al., 1996, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 16(12):1424-29)、ApoA-IM (Franceschini et al., 1985, J. Biol. Chem. 260:1632-35)、ApoA-IParis(Daum et al., 1999, J. Mol. Med. 77:614-22)、ApoA-II(Shelness et al., 1985, J. Biol. Chem. 260(14):8637-46; Shelness et al., 1984, J. Biol. Chem. 259(15):9929-35)、ApoA-IV(Duverger et al., 1991, Euro. J. Biochem. 201(2):373-83)、ApoE (McLean et al., 1983, J. Biol. Chem. 258 (14):8993-9000)、ApoJおよびApoHのホモおよびヘテロヘテロダイマー(可能な場合)を利用できる。本発明により利用されるアポリポタンパクは組換体または精製アポリポタンパクを含む。本発明の方法により使用することができるアポリポタンパク-SM複合体は、2001年9月11日に発行された米国特許第6,287,590号に開示されるものを含み、該特許の全体を引用により本明細書の一部とする。
【0057】
本発明により利用されるアポリポタンパクを得る方法は当分野で周知であり、例えばChung et al., 1980, J. Lipid Res. 21(3):284-91; Cheung et al., 1987, J. Lipid Res. 28(8):913-29を参照されたい。
【0058】
本発明により利用されるアポリポタンパクとしては、ApoA-I、ApoA-IM、ApoA-II、ApoA-IVおよびApoEの活性を模倣するアポリポタンパクならびにアゴニストに対応するペプチドをさらに含み、例えば米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号(Dasseuxらに対して発行された)、米国特許第5,840,688(1998年11月24日にTsoに対して発行された)に開示されるようなものが挙げられ、これらの特許の全体を引用により本明細書の一部とする。
【0059】
このようなペプチドは、当分野で知られるペプチド合成技術により合成または製造することができ、例えば米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号に記載された技術を参照されたい。長い貯蔵寿命を有する安定な調製物は、ペプチドを凍結乾燥して、再配合のためのバルクを調製するか、または対象に投与する前に滅菌水または適当な滅菌バッファー溶液での再水和により再構成し得る個々のアリコートまたは投与単位を調製することにより製造することができる。
【0060】
Apo-SM複合体は、単一の種類のアポリポタンパクまたは同一または異なる種に由来する2種以上の異なるアポリポタンパクを含み得る。必要ではないが、Apo-SM複合体は好ましくは治療に対する免疫反応を誘発することを避けるために、治療される動物種に由来するアポリポタンパクを含む。
【0061】
アポリポタンパクは、多数種のSM類似体または誘導体と複合化することができる。一般に、本発明のApo-SM複合体において有効であるSM類似体または誘導体については、それらは天然のSMのようにLCATによる加水分解に影響されないものであってもよい。SMはエステル結合の代わりにアミド結合を有する以外、構造においてホスファチジルコリンに非常に類似するリン脂質である。SMはLCATの基質ではなく、一般にそれにより加水分解されない。しかしそれは、LCATの阻害剤として作用でき、あるいは基質リン脂質の濃度を希釈することによりLCAT活性を減少させることができる。SMが加水分解されないので、それは循環中により長く存在する。この特徴によりApo-SMを含む複合体は薬理効果(コレステロールの流動化)のより長い持続期間を有し、より多くの脂質、特にコレステロールを拾い上げることができる。この結果、Apo-SM粒子での治療に必要な頻度または投与量をより少なくあるいは小さくする。
【0062】
アポリポタンパクは、実質的にいかなるソースに由来するSMとも複合化することができる。例えば、SMはミルク、卵または脳から得ることが可能である。SM類似体または誘導体も使用することができる。有用なSM類似体および誘導体の非限定的な例としてはパルミトイルスフィンゴミエリンおよびステアロイルスフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
スフィンゴミエリンは、1つの特定の飽和または不飽和のアシル鎖において人工的に濃縮することができる。例えば、ミルクスフィンゴミエリン(Avanti Phospholipid、Alabaster、AL)は、長い飽和アシル鎖を特徴とする。ミルクスフィンゴミエリンは、例えば卵スフィンゴミエリンの80%に対し、約20%のC16:0(16炭素、飽和)アシル鎖を含む。溶媒抽出を使用して、例えば卵スフィンゴミエリンと同等のアシル鎖組成を有するように、1つの特定のアシル鎖についてミルクスフィンゴミエリンを濃縮することができる。本発明により利用できるアシル鎖は、限定するものではないが、飽和アシル鎖(例えばジパルミトイル、ジステアロイル、ジアラキドニルおよびジベンゾイルアシル鎖)、不飽和鎖(例えばジオレオイル鎖)、飽和および不飽和アシル鎖の混合鎖(例えばパルミトイルまたはオレオイル鎖)、異なる長さの飽和および/または不飽和鎖、飽和および不飽和アシル鎖のエーテル類似体が挙げられる。
【0064】
SMは、特定のアシル鎖を有するように半合成されたものでもよい。例えば、ミルクスフィンゴミエリンを最初にミルクから精製し、その後1つの特定のアシル鎖、たとえばC16:0鎖を切断し、他のアシル鎖(好ましくはパルミチン酸またはオレイン酸)と置換することができる。
【0065】
SMは、例えば大規模な合成により完全に合成してもよい。例えば、1993年6月15日に発行された、発明の名称が「D-エリスロ-スフィンゴミエリンの合成」であるDong et al.、米国特許第5,220,043号; Weis, 1999, Chem. Phys. Lipids 102(1-2):3-12を参照されたい。合成SMについては、所定の飽和レベルおよび脂肪酸組成を選択することが好ましい。
【0066】
前記複合体は、任意に、SMに加えて1種以上の他のリン脂質を含んでもよい。実質的にあらゆる種類のリン脂質を使用することができ、限定するものではないが、短鎖アルキルリン脂質、ホスファチジルコリン(PC)、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-オレオイル-2-パルミチルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロールホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、スフィンゴ脂質、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、脳スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、ジラウリルホスファチジルコリン、(1,3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3-コレステリル-6’-(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質およびコレステロールおよびその誘導体が挙げられる。組成物は典型的には全リン脂質として約40〜85重量%を含み、全アポリポタンパクとして約60〜15重量%を含む(この範囲はおよそ1:25〜1:200のリン脂質に対するアポリポタンパクのモル比に相
当する)。任意の第2のリン脂質が含まれる場合、スフィンゴミエリンは典型的には全リン脂質成分の約25〜75重量部であり、残部が第2の種類のリン脂質である。
【0067】
アポリポタンパク-リン脂質複合体は、アポリポタンパク、複合体に含まれるSMおよびその他のリン脂質の性質、ならびに2〜12nmの範囲にある複合体の予想サイズによって変化する、リン脂質:アポリポタンパク比(Ri)で複合化させることができる。ApoA-Iについては、リン脂質:ApoA-Iモル比は25から200まで変化し得る。複合体中のSMのパーセンテージは、全リン脂質組成の25%から100%まで変化し得る。例えば、SM:PC:ApoA-Iは、25:25:1(Ri=50)または75:75:1(Ri=150)であり得た。重量比は、リン脂質の650〜800の分子量を用いて得ることができる。
【0068】
前記複合体は、任意に、パラオキソナーゼ(PON)、酸化防止剤、シクロデキストリンまたはHDL様粒子のコアまたは表面のコレステロールのトラップを助けるその他の物質を含むことができる。HDL粒子は任意にpegylate化(例えばポリエチレングリコールまたはその他のポリマーにより被覆する)して循環半減期を延長することができる。
【0069】
本発明に利用されるアポリポタンパク、リン脂質およびApo-リン脂質複合体は、任意の当分野で知られた検出可能なマーカー、安定同位体(例えば13C、15N、2Hなど)、放射性同位体(例えば14C、3H、125Iなど)、蛍光団、化学発光体、酵素マーカーなどにより標識された分子を包含する。
【0070】
5.2. Apo-SM複合体の製造方法
Apo-SM複合体は種々の形態に調製することができ、ベシクル、リポソーム、タンパクリポソーム、ミセル、円盤状粒子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。Apo-SM複合体の調製には当業者に周知の種々の方法を使用することができる。リポソームまたはタンパクリポソームの調製のために利用できる多くの技術を使用することができる。例えば、アポリポタンパクを適当な脂質(すなわちスフィンゴミエリン)とともに超音波処理(浴またはプローブソニケーターを使用)し、複合体を形成し得る。あるいは、アポリポタンパクを予め形成された脂質ベシクルと組み合わせてApo-SM複合体が自然に形成されるようにしてもよい。Apo-SM複合体は、洗剤透析法によっても形成することができ、例えばApo、SMおよびコール酸塩のような洗剤の混合物を透析して洗剤を除去し、Apo-SM複合体に再構成する(例えばJonas et al., 1986, Methods Enzymol. 128:553-82参照)。あるいはApo-SM複合体は、エクストルーダーを使用して、あるいはホモジナイゼーションにより形成することができる。
【0071】
ある態様においては、Apo-SM複合体は、第6.1項(実施例1)に記載するように、コール酸塩ディスパージョン法により調製し得る。要約すると、乾燥脂質をNaHCO3バッファー中で水和し、全ての脂質が分散するまで攪拌し、超音波処理する。コール酸塩溶液を添加し、混合物が透明になり、脂質コール酸塩ミセルが形成されたことが示されるまで周期的に攪拌、超音波処理を行いながら混合物を30分インキュベートする。NaHCO3バッファー中のプロApoA-Iを添加し、溶液を約37〜50℃で1時間インキュベートする。溶液中の脂質:プロApoA-Iの比は1:1〜200:1(モル/モル)であることができるが、好ましい態様ではこの比はタンパクの重量に対する脂質の重量の比(重量/重量)で2:1である。
【0072】
コール酸塩は当分野で周知の方法により除去することができる。例えば、コール酸塩は透析、限外濾過または親和性ビーズまたは樹脂上へ吸着吸収によるコール酸塩分子の除去により除去することができる。ある態様においては、親和性ビーズ、例えばBIO-BEADS(登録商標、Bio-Rad Laboratories)を、Apo-脂質複合体およびコール酸塩の調製物に添加してコール酸塩を吸着する。別の態様においては、例えばApo-SM複合体およびコール酸塩のミセル調製物のような調製物を、親和性ビーズを充填したカラムを通過させる。
【0073】
特定の態様においては、シリンジ内のBIO-BEADS(登録商標)にプロApoA-I-脂質複合体調製物を流すことによりコール酸塩が調製物から除去される。その後シリンジをバリアフィルムにより封止し、揺らしながら4℃で一晩インキュベートする。使用前に、溶液をBIO-BEADS(登録商標)を通して注入することによりコール酸塩がビーズに吸着し、コール酸塩が除去される。
【0074】
Apo-SM複合体がHDL、特にプレ-β-1またはプレ-β-2 HDL集団中のHDLよりも小さいサイズおよび密度を有する場合、複合体の循環半減期が増加する。凍結乾燥法により長い貯蔵寿命を有する安定な調製物を製造することが可能であり、以下に記載する同時凍結乾燥法が、得られる配合物の安定性および配合/粒子調製工程の容易さから好適な方法である。同時凍結乾燥法は、米国特許第6,287,590号(発明の名称は「同時凍結乾燥法によるペプチド/脂質複合体形成」、Dasseuxによる、2001年9月11日発行)にも記載されており、該特許の全体を引用により本明細書の一部とする。凍結乾燥されたApo-SM複合体は、医薬再配合物のためのバルクの調製、または対象に投与する前に滅菌水または適当な滅菌バッファー溶液での再水和により再構成し得る個々のアリコートまたは投与単位の調製に使用することができる。
【0075】
上記したように、アポリポタンパクは種々のスフィンゴミエリンと複合化することができる。スフィンゴミエリンは、1つの特定の飽和または不飽和のアシル鎖において人工的に濃縮することができる。例えば、ミルクスフィンゴミエリン(Avanti Phospholipid、Alabaster、AL)は、長い飽和アシル鎖を特徴とする。ミルクスフィンゴミエリンは、卵スフィンゴミエリンの80%に対し、約20%のC16:0(16炭素、飽和)アシル鎖を含む。溶媒抽出を使用して、例えば卵スフィンゴミエリンと同等のアシル鎖組成を有するように1つの特定のアシル鎖においてミルクスフィンゴミエリンを濃縮することができる。本発明により利用できるアシル鎖は、限定するものではないが、飽和アシル鎖(例えばジパルミトイル、ジステアロイル、ジアラキドニルおよびジベヘノイルアシル鎖)、不飽和鎖(例えばジオレオイル鎖)、飽和および不飽和アシル鎖の混合鎖(例えばパルミトイルまたはオレイル鎖)、長さの異なる飽和および/または不飽和混合鎖、飽和および不飽和アシル鎖のエーテル類似体が挙げられる。
【0076】
ある好ましい態様においては、天然スフィンゴミエリンのソースは、プリオン(例えば脳スフィンゴミエリンにおける)またはウイルス(例えば卵スフィンゴミエリンにおける)による汚染を回避するように選択される。他の好ましい態様においては、完全に合成のSMを選択することにより汚染を回避する。別の態様においては、高い飽和状態を有するSMを使用してApo-AI-SM複合体の化学的安定性を改良する。
【0077】
SMは、特定のアシル鎖を有するように半合成されたものでもよい。たとえば、ミルクスフィンゴミエリンを最初にミルクから精製し、その後1つの特定のアシル鎖、たとえばC16:0鎖を切断し、他のアシル鎖(好ましくはパルミチン酸またはオレイン酸)と置換することができる。
【0078】
SMは、例えば大規模な合成により全合成してもよい。例えば、1993年6月15日に発行された、発明の名称が「D-エリスロ-スフィンゴミエリンの合成」であるDong et al.、米国特許第5,220,043号; Weis, 1999, Chem. Phys. Lipids 102(1-2):3-12を参照されたい。合成SMについては、所定の飽和レベルおよび脂肪酸組成を選択することが好ましい。
【0079】
米国特許第6,004,925号、第6,037,323号、第6,046,166号および第6,287,590号(これらは引用によりその全体を本明細書の一部とする)は、HDLと同様な特性を有するアポリポタンパク-脂質(Apo-脂質)複合体を調製する簡単な方法を開示している。この好適な方法、すなわち有機溶媒(または溶剤混合物)中でのApoおよび脂質溶液の同時凍結乾燥および凍結乾燥された粉末の水和の間のApo-脂質複合体の形成は、以下の利点、(1)該方法は極めて少ない工程しか必要としない、(2)該方法は安価な溶媒を使用する、(3)含まれた成分のほとんどまたは全てが設計された複合体を形成するために用られ、したがって他の方法に共通する出発原料の無駄が回避される、(4)貯蔵の間非常に安定な凍結乾燥された化合物が形成され、得られる複合体は使用の直前に再構成することができる、(5)得られる複合体は、通常、形成の後および使用の前にさらに精製する必要がない、(6)コール酸塩のような洗剤などの有毒化合物が回避される、(7)該製造方法は容易にスケールアップすることができ、GMP製造に適している(すなわちエンドトキシンのない環境において)を有している。
【0080】
好ましい態様においては、当分野でよく知られる同時凍結乾燥法を使用してApo-SM複合体を調製する。要約すると、同時凍結乾燥の工程は、溶媒混合物の有機溶媒中にApoおよび脂質を可溶化し、あるいはApoおよび脂質を別々に可溶化し、それらを混合することを含む。溶媒または溶媒混合物の望ましい特性は、(i)疎水性脂質および両性タンパクを溶解することが可能な中程度の相対的な極性、(ii)残存有機溶媒に伴う潜在的な毒性を避けるために溶媒がFDA溶媒ガイドライン(連邦政府官報、vol. 62、No. 247)のクラス2または3の溶媒であること、(iii)低沸点であり、凍結乾燥の間、溶媒の除去の容易さが確保されること、(iv)高い融点を有し、より迅速な凍結、凝縮器をより高い温度とし、従ってより少ない凍結乾燥器の設備とすることである。好ましい態様においては、氷酢酸を使用する。例えば、メタノール、氷酢酸、キシレンまたはシクロヘキサンの組み合わせを使用することができる。
【0081】
Apo/脂質溶液をその後凍結乾燥して均質なApo/脂質粉末を得る。凍結乾燥条件を最適化して溶媒の迅速な蒸発を得、凍結乾燥されたApo/脂質粉末の残留溶媒を最小量とすることができる。凍結乾燥条件の選択は当業者が決定することができ、溶媒の性質、容器、例えばバイアルの種類と寸法、保持溶液、充填体積および使用する凍結乾燥器の特性に依存する。有機溶媒除去および複合体の成功裏の形成のための、凍結乾燥前の脂質/Apo溶液の濃度は、好ましくは10〜50mg/mlの濃度のApoおよび20〜100mg/mlの濃度の脂質である。
【0082】
適当なpHおよび浸透圧の水性媒体によるApo-脂質の凍結乾燥粉末の水和の後、Apo-脂質複合体が自発的に形成される。ある態様においては、媒体は安定剤、例えばスクロース、トレハロース、グリセリンなどを含んでもよい。ある態様においては、複合体の形成のために脂質の遷移温度より高い温度に前記溶液を数回加熱しなければならない。Apo-SM複合体を成功裏に形成するための脂質のタンパクに対する比は、1:1〜200:1(モル/モル)とすることができ、好ましくはタンパクの重量に対する脂質の重量(wt/wt)で2:1である。粉末を水和してタンパク相当で表して5〜30mg/mlの最終複合体濃度を得る。
【0083】
ある態様においては、Apo粉末は、NH4HCO3水溶液中のApo溶液を凍結乾燥することにより得られる。Apoおよび脂質(すなわちスフィンゴミエリン)の均一な溶液を、それらの粉末およびApoを氷酢酸に溶かすことにより形成する。その後溶液を凍結乾燥し、凍結乾燥粉末の水性媒体による水和によりHDL様Apo-脂質複合体が形成される。
【0084】
別の好適な方法はホモジナイゼーションである。この方法は、Apoダイズ-PC複合体を調製するために使用することができ、AI-Milano-POPC複合体の調製に通常使用される。ホモジナイゼーションは、Apo-SM複合体の形成に容易に採用することができる。要約すると、この方法はUltraturex(登録商標)によりApoの水溶液中の脂質の懸濁物を形成すること、および形成されたを脂質-タンパク懸濁物を、懸濁物が清澄でオパールのような光彩を放つ溶液になり複合体が形成されるまで高圧ホモジナイザーを使用してホモジナイズすることを含む。ホモジナイゼーションの間、脂質転移より高い温度を使用する。溶液は、1〜14時間の長い時間、圧力を上昇させてホモジナイズする。
【0085】
別の態様においては、Apo-SM複合体は、ペプチドまたはタンパク溶液または懸濁物とのリン脂質の同時凍結乾燥により形成する。ペプチド/タンパクおよびSM(および選択された任意のリン脂質)の有機溶媒または有機溶媒混合物中の均一溶液を凍結乾燥することができ、凍結乾燥粉末を水性バッファーで水和することによりApo-SM複合体を自発的に形成させることができる。有機溶媒またはそれらの混合物の例としては、限定するものではないが、酢酸、酢酸およびキシレン、酢酸およびシクロヘキサン、およびメタノールおよびキシレンが挙げられる。
【0086】
得られた複合体が適当な物理化学的特性を有するように、すなわち通常は(必ずしもそうでなければならないことはないが)HDLとサイズが同様なものとなるように、タンパク(ペプチド)の脂質に対するは適当な比率を経験的に決定することができる。溶媒中のApoおよび脂質の得られた混合物は凍結し凍結乾燥して乾燥させる。場合により追加的な溶媒を混合物に添加し、凍結乾燥を促進しなければならない場合もある。この凍結乾燥生成物は、長期間貯蔵することができ、安定なままとなる。
【0087】
凍結乾燥生成物は、Apo-脂質複合体の溶液または懸濁液を得るために再構成することができる。このためには、凍結乾燥された粉末を、例えば静脈内注射に便利な適当な体積(典型的には5〜20mgのApo-SM複合体/ml)に水溶液により再水和する。好ましい態様においては、凍結乾燥粉末を、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水炭酸水素塩または生理的食塩水により再水和する。混合物を攪拌またはかき混ぜることにより再水和を促進してもよい。一般に、再構成の工程は、複合体の脂質成分の相転移温度以上の温度で行われなければならない。数分の再構成により、再構成されたApo-脂質複合体の清澄な調製物が得られる。
【0088】
得られた再構成された調製物のアリコートを特性化し、調製物中の複合体が所望のサイズ分布、例えばHDLのサイズ分布を有することを確認することができる。再構成された調製物の特性化は、限定するものではないが、サイズ排除濾過、ゲル濾過、カラム濾過およびゲルパーミエーションクロマトグラフィーなどの任意の公知の方法を使用して行うことができる。
【0089】
例えば、凍結乾燥されたApo-脂質粉末の水和の後またはホモジナイゼーションもしくはコール酸塩透析の終了時、形成されたApo-脂質HDL様粒子をサイズ、濃度、最終pHおよび得られた溶液の浸透圧について特性化し、ある場合においては脂質およびアポリポタンパクの一体性を特性化する。得られたApo-脂質粒子のサイズはそれらの有効性を決定するものであり、したがってこの測定を行うことは粒子の特性化に好ましい。
【0090】
ある態様においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)、例えば、1x30 cm Superdex(登録商標、Parmacia Biotech)カラムおよびUV検出器を備えた高圧液体クロマトグラフィーシステムを使用することができる。140mMのNaClおよび20mMの炭酸水素ナトリウムを含む炭酸水素塩緩衝食塩水を0.5ml/分の流速で供給して複合体は溶出させる。注入する複合体の典型的な量は、タンパク重量で0.1〜1mgである。複合体は、280nmの吸光度によりモニターする。
【0091】
Apo-脂質粒子溶液のタンパクおよび脂質濃度は、公知の任意の方法で測定することができ、限定するものではないが、タンパクおよびリン脂質アッセイ、ならびにHPLC、ゲル濾過クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー法、質量分析、UVまたはダイオードアレイを含む種々の検出器に連結されたGC、蛍光、弾性光散乱などが挙げられる。脂質およびタンパクの一体性は、同様のクロマトグラフィー技術ならびにペプチドマッピング、SDS-PAGEゲル、タンパクのNおよびC末端シークエンシングおよび脂質についての脂質酸化を測定する標準的なアッセイにより測定することができる。
【0092】
5.2.1. 医薬組成物
本発明により利用される医薬組成物は、有効成分としてのApo-SM複合体を、in vivoにおける投与およびデリバリーに適する薬学的に許容されるキャリアー中に含む。ペプチドは酸性および/または塩基性末端および/または側鎖を含み得るので、ペプチドは遊離酸または塩基、あるいは薬学的に許容される塩の形態で組成物中に含まれることができる。
【0093】
注射可能な組成物は、水性または油性ビヒクル中の有効成分の滅菌懸濁物、溶液およびエマルションを包含する。組成物は、懸濁剤、安定剤および/または分散剤のような配合剤を含み得る。注射用の組成物は、アンプル剤または複数回投与用容器のような単位投与量形態にすることができ、添加された保存剤を含むことができる。注入用には、組成物は、エチレン酢酸ビニルあるいは当分野で知られるその他のApo-脂質複合体に適合する材料のようなApo-脂質複合体に適合する材料からなる注入バッグ中のものとして供給されることが好ましい。
【0094】
あるいは、注射可能な組成物は、使用前に適切なビヒクルにより再構成するための粉末形態で提供することができ、ビヒクルとしては、限定するものではないが、滅菌発熱因子非含有水、バッファー、デキストロース溶液などが挙げられる。このためには、Apoを凍結乾燥することができ、あるいは同時凍結乾燥されたApo-SM複合体を調製することができる。貯蔵された組成物は、単位投与形態で供給し、in vivoでの使用の前に再構成することができる。
【0095】
持続的なデリバリーのためには、例えば皮下、皮内または筋肉内注射のような体内移植による投与用のデポー製剤組成物として有効成分を製剤することができる。すなわち、例えば、Apo-脂質複合体またはアポリポタンパク単独を、適当なポリマーまたは疎水性物質と配合し(例えば許容されるオイル中のエマルション)、あるいはリン脂質発泡体またはイオン交換樹脂中に配合することができる。
【0096】
あるいは、経皮吸収のために有効成分を徐放する粘着性ディスクあるいはパッチとして製造された経皮デリバリーシステムを使用することができる。この目的のため、透過増強剤を使用して有効成分の経皮的浸透を促進することができる。本発明により利用されるApo-SM複合体を虚血性心疾患および高コレステロール血症患者に使用するためのニトログリセリンパッチに加えることにより特別な利点が得られる。
【0097】
所望の場合は、組成物を、有効成分を含む一以上の単位投与形態を含むことができるパックまたはディスペンサー装置中のものとすることができる。パックは例えば金属またはプラスチック箔を含むもの(例えばブリスター包装)とすることができる。パックまたはディスペンサー装置には、投与のための説明書を添付することができる。
【0098】
5.3. 治療方法
本発明により利用されるApo-SM複合体は、アポリポタンパクまたは他のアポリポタンパク-リン脂質粒子(例えばApoAI-ダイズPC、ApoAI-POPC)に応答する実質的にあらゆる疾患、症状あるいは障害を治療または予防するために用いることができ、そのようなる疾患、症状あるいは障害としては、限定するものではないが、虚血性心疾患;冠状動脈疾患;心臓血管疾患、高血圧症、再狭窄、血管または血管周囲疾患; 脂質代謝異常疾患;異リポタンパク血症;高レベル低密度リポタンパクコレステロール;高レベル超低密度リポタンパクコレステロール;低レベル高密度リポタンパク;高レベルリポタンパクLp(a)コレステロール;高レベルアポリポタンパクB;アテローム性動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む);高脂血症;高コレステロール血症;家族性高コレステロール血症(FH);家族性複合型高脂血症(FCH);高トリグリセリド血症、低αリポタンパク血症および高コレステロール血症リポタンパクのようなリポタンパクリパーゼ欠損症が挙げられる。
【0099】
本発明の方法の使用は、現在当分野において知られる有効な投与量の2〜25分の1のアポリポタンパクの投与量で、疾患の治療または予防または寛解効果をもたらすことにおいて有効であると思われる。
【0100】
ある態様においては、本発明の方法は、投与前のベースライン(当初)レベルより高い10mg/dL〜300mg/dLの範囲の遊離または複合化アポリポタンパクの血清レベルを投与後5分〜1日の間達成するのに有効な量のアポリポタンパクおよびスフィンゴミエリンを含む組成物を対象に投与することを含む、脂質代謝異常に伴う疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0101】
別の態様においては、本発明の方法は、当初HDLコレステロール分画濃度の10%〜1000%のHDL-コレステロール分画の循環血漿濃度を投与後5分〜1日の間達成するのに有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常に伴う疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0102】
別の態様においては、本発明の方法は、30〜300mg/dLのHDLコレステロール分画の循環血漿濃度を投与後5分〜1日の間達成するのに有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常に伴う疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0103】
別の態様においては、本発明の方法は、30〜300mg/dLのコレステリルエステルの循環血漿濃度を投与後5分〜1日の間達成するのに有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常に伴う疾患を治療または予防する方法を包含する。
【0104】
Apo-SM複合体は単独で使用することができ、あるいは上記症状の治療または予防に使用される他の薬剤との併用療法に使用できる。このような治療法としては、限定するものではないが、使用する薬剤の同時投与あるいは連続投与が挙げられる。例えば、高コレステロール血症またはアテローム性動脈硬化症の治療においては、Apo-SM製剤は、現在使用されているコレステロール低下療法、例えば、胆汁酸樹脂、ナイアシン、スタチン類および/またはフィブレート類の任意の一以上とともに投与することができる。このような併用レジュメは、各薬剤がコレステロール合成および輸送の異なる標的に作用すること、すなわち胆汁酸樹脂はコレステロールリサイクリング、キロミクロンおよびLDL集団に作用し、ナイアシンは主にVLDLおよびLDL集団に作用し、スタチン類はコレステロール合成を抑制し、LDL集団を減少させ(そしておそらくLDLレセプター発現を増加させる)、これに対してApo-SM複合体はRCTに作用し、HDLを増加させ、コレステロール流出を促進することから、特に有益な治療効果をもたらすことができる。
【0105】
別の態様においては、Apo-SM複合体をフィブレート類と併用して、虚血性心疾患;冠状動脈疾患;心臓血管疾患、高血圧症、再狭窄、血管または血管周囲疾患; 脂質代謝異常疾患;異リポタンパク血症;高レベル低密度リポタンパクコレステロール;高レベル超低密度リポタンパクコレステロール;低レベル高密度リポタンパク;高レベルリポタンパクLp(a)コレステロール;高レベルアポリポタンパクB;アテローム性動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む);高脂血症;高コレステロール血症;家族性高コレステロール血症(FH);家族性複合型高脂血症(FCH);高トリグリセリド血症、低αリポタンパク血症および高コレステロール血症リポタンパクのようなリポタンパクリパーゼ欠損症を治療または予防することができる。典型的な製剤および治療レジュメは後述する。
【0106】
本発明により利用されるApo-SM複合体は、循環中のバイオアベイラビリティが確保される任意の適当な経路により投与することができる。本発明の重要な特徴は、単独で投与されるアポリポタンパク(Apo)またはApoペプチドに必要とされる有効投与量の1〜10%よりも少ない投与量でApo-SM複合体を投与し得、Apo-ダイズPC(またはApo-卵PCまたはApo-POPC)投与に必要とされる有効投与量の2〜25分の1の投与量で投与し得るということである。約40mg〜2g/ヒトという低い投与量(静脈内注射について)での2〜10日毎の投与でよく、現在利用可能な治療レジュメにより必要とされるアポリポタンパクの大きな量(投与あたり20mg/kg〜100mg/kgの2〜5日毎の投与、平均的な大きさのヒトあたり1.4g〜8g)とは異なる。
【0107】
本発明により利用されるApo-SM複合体は、小さいHDL分画、好ましくはをプレβ-(およびプレ-γ)およびプレ-β様HDL分画を増加させる投与量で投与される。
投与は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、皮内、皮下(SC)および腹腔内(IP)注射などの非経口の投与経路により最も効果的に行うことができる。ある態様においては、投与は注入器具、浸潤器具またはカテーテルによる。ある好ましい態様においては、Apo-SM複合体は、注射により、皮下に移植可能なポンプにより、あるいはデポー製剤により、非経口的投与により得られるものに相当する循環血清濃度を達成する量で投与される。
【0108】
投与は、種々の異なる治療レジュメで達成することができる。例えば、注射の累積全体積が1日の有毒投与量に達しないようにして1日の間に数回の(several)静脈内注射を周期的に投与することができる。あるいは、約3〜15日毎、好ましくは約5〜10日毎、最も好ましくは約10日毎に1回の静脈内注射を投与することができる。さらに別の変形例においては、投与あたり(50〜200mg)の間の投与量で約1〜5回の投与から開始し、その後投与あたり200mg〜1gの間の投与量で投与を繰り返し、漸増する投与量で投与することができる。患者の必要に従い、1時間を超える期間でのゆっくりとした注入により、あるいは1時間以下の急速な注入、または単一のボーラス注射により投与を行うことができる。
【0109】
他の脂質、例えばホスファチジルコリン(PC)ではなくSMと複合化したアポリポタンパクは、複合体が血清循環からより多くのコレステロールを除去し、それがより大きな薬理学的有効性と毒性効果を有し得るので、所与の個々の投与量での毒性を増加させる。例えば、アポリポタンパク-SMを例えば注射により非経口的に投与すると、200mg/kgの投与量で毒性である。しかしながら、注射をより低い投与量で数日行い、その後徐々に増加させると、受容者は投与に適応し、より高い最終的な投与量を使用することができる。例えば、10mg/kgの濃度で連続した2日間注射し、その後20mg/kgの濃度で次の連続した2日間注射し、その後30mg/kgの濃度で次の連続した2日間注射し、その後40mg/kgの濃度で注射することができる。このようなスケジュールで、毒性の問題なしにアポリポタンパク-SM複合体を最高2週間投与することができる。
【0110】
その他の投与経路も使用することができる。例えば、胃腸管での吸収は、適当な製剤(例えば腸溶コーティング)を使用して、例えば口腔粘膜、胃および/または小腸の過酷な環境での有効成分の分解を回避または最小限にするならば、経口の投与経路(限定するものではないが、経口摂取、頬側および舌下の経路など)により達成することができる。あるいは、膣および/または直腸投与形態のような粘膜組織を介した投与を利用して胃腸管での分解を回避または最小化することができる。さらに別の変形例においては、本発明の製剤を経皮(例えば経真皮)または吸入により投与することができる。好適な経路は、受容者の症状、年齢およびコンプライアンスにより変化し得ることはいうまでもない。
【0111】
Apo-SM複合体の実際の投与量は投与の経路により変更し得る。ある態様においては、投与前のベースライン(当初)レベルより高い10mg/dL〜300mg/dLの範囲の遊離または複合化アポリポタンパクの血清レベルを投与後5分〜1日の間達成するように投与量を調節する。ベースラインレベルは、Apo-SM複合体投与前の初期のアポリポタンパクレベルである。
【0112】
別の態様においては、当初HDLコレステロール分画濃度の10%〜1000%のHDL-コレステロール分画の循環血漿濃度を静脈内投与後5分〜1日の間達成するように投与量を調節する。
【0113】
別の態様においては、30〜300mg/dLのHDLコレステロール分画の一時的または恒久的な循環血漿濃度を静脈内投与後5分〜1日の間達成するように投与量を調節する。
【0114】
別の態様においては、30〜300mg/dLのコレステリルエステルの一時的または恒久的な循環血漿濃度を静脈内投与後5分〜1日の間達成するように投与量を調節する。
【0115】
米国特許第6,004,925号、第6,037,323号および第6,046,166号(Dasseux et alに対して発行、これらの特許は引用によりその全体を本明細書の一部とする)に記載された動物モデル系において得られたデータは、ApoA-IペプチドがHDL成分と結合し、約5日のヒト予想半減期を有することを示している。したがって、ある態様においては、Apo-SM複合体は、平均的大きさのヒトについて、1回の投与あたり約0.1g〜1gの間のApo-SMの投与量で、2〜10日毎に静脈内注射することにより投与することができる。
【0116】
種々のApo-SM複合体の毒性および治療的効能は、細胞培養物または実験動物においてLD50(集団の50%に対する致死投与量)およびED50(集団の50%に治療上有効な投与量)を標準的な製薬学的手順を使用して測定することにより測定できる。毒性および治療的効果の間の投与量比が治療係数であり、これは比LD50/ED50として表することができる。大きな治療係数を示すApo-SM複合体が好ましい。
【0117】
患者は、医療行為(例えば予防的治療)の前または医療行為の間に数日から数週間まで治療することができる。投与は、他の侵襲的治療、例えば血管形成術、頸動脈切除、ステント留置冠動脈アテローム切除術(rotoblader)または臓器移植(例えば心臓、腎臓、肝臓など)と共にあるいは同時期に行い得る。
【0118】
特定の態様においては、Apo-SM複合体を、コレステロール合成がスタチンまたはコレステロール合成阻害剤により制御されている患者に投与する。他の態様においては、Apo-SM複合体を結合樹脂、例えばコレスチラミンのようなを半合成樹脂、または繊維、例えば植物繊維による治療を受けている患者に投与し、胆汁酸塩およびコレステロールをトラップし、胆汁酸排出を増加させ、血液コレステロール濃度を低下させる。
【0119】
5.4. その他の用途
本発明により利用されるApo-SM複合体は、例えば診断目的で、血清HDLをin vitroで測定するためのアッセイに使用することが可能である。ApoA-I、ApoA-IIおよびApoペプチドは血清のHDL成分と結合するので、Apo-SM複合体をHDL集団およびプレ-β1およびプレ-β2 HDL集団の「マーカー」として使用し得る。さらに、Apo-SM複合体を、RCTにおいて有効なHDLの亜集団のマーカーとして使用することが可能である。このためには、Apo-SMを患者血清サンプルに添加または混合し、適当なインキュベーション時間の後、取り込まれたApo-SMを検出することによりHDL成分をアッセイすることができる。これは、標識したApo-SM(例えば放射線、蛍光標識、酵素標識、染料など)を使用して行うことができ、あるいはApo-SMに対特異的な抗体(または抗体フラグメント)を使用するイムノアッセイにより行うことができる。
【0120】
あるいは、標識したApo-SMは、イメージング方法(例えばCATスキャン、MRIスキャン)において使用して、循環系を視覚化し、RCTをモニターし、あるいはHDLがコレステロール流出において活性である、脂肪条痕、アテローム動脈硬化性病巣などでHDLの蓄積を視覚化することができる。
【実施例】
【0121】
6. 実施例
6.1. 実施例1:プロApoA-I-脂質複合体の調製
プロApoA-Iおよびリン脂質の複合体は、潜在的にHDLの生物学的活性を模倣する候補薬剤である。本実施例は、プロApoA-I-リン脂質複合体の調製を記載する。
【0122】
6.1.1. 材料および方法
プロApoA-Iおよび脂質の複合体を、コール酸塩ディスパージョン法により調製した。4種の脂質、Phospholipon 90G(ダイズPC)、スフィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)および1-パルミトイル-2-オレイル-ホスファチジルコリン(POPC)を使用した。
【0123】
0.9677gのコール酸を32.25mlの2mM NaHC03バッファーに加えることにより30mg/mlのコール酸塩溶液を調製した。
プロApoA-I溶液を調製するために、6M尿素中の1mg/mlの濃度のプロApoA-I溶液(Eurogentec)を使用した。プロApoA-I-6M尿素溶液の60mlを、10 kDaカットオフメンブランを備えた接線流れ方式(tangential flow)濾過ユニット(Labscale TFF System、Millipore)を使用して、1200mlの2mM NaHC03バッファーに対して透析した。透析後、溶液を20mlの最終容量に濃縮した。残った溶液を回収し、タンパク濃度をMarkwell-Lowryタンパクアッセイ(Markwell et al., 1978, Anal. Biochem. 87(1):206-10)により測定したところ2.62mg/mlであった。
【0124】
Phospholipon 90G(ダイズPC)溶液を調製するために、Phospholipon 90G(Rhone-Poulenc Nattermann Phospholipid GMBH #228154)を50mlのアリコートとし、N2ガス下-20℃で貯蔵した。0.7815gのPhospholipon 90Gを31.26mlのクロロホルムに加えて25mg/mlのPhospholipon 90G溶液を調製した。
0.0637gのスフィンゴミエリンを2.548mlのクロロホルムに加えることにより25mg/mlのスフィンゴミエリン溶液を調製した。
1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)および1-パルミトイル-2-オレイルホスファチジルコリン(POPC)のクロロホルム中の25mg/mlの溶液も調製した。
その後Phospholipon 90G、スフィンゴミエリン、DPPCおよびPOPC溶液の250μ1のアリコートをガラス管に入れ、N2を吹き付けてクロロホルムを蒸発させ、攪拌して各管につき6.25mgの乾燥脂質を生成した。400μlの2mM NaHCO3バッファーを各管に添加し、DPPC以外の全ての脂質について脂質を37℃で15分間水和した。DPPCは15分間50℃で水和した。全ての脂質が分散するまで、管の溶液を攪拌し、周期的に超音波処理した。160μlの30mg/mlコール酸塩溶液をそれぞれの管に添加した。
【0125】
160mlの30mg/mlコール酸塩溶液を各管に加え、スフィンゴミエリン溶液を清澄化した。脂質-コール酸塩溶液を37℃(POPC、SMおよびダイズPC)および50℃(DPPC)でインキュベートした。インキュベートの間、溶液を周期的に攪拌し、超音波処理した。攪拌および超音波処理工程の後に溶液が清澄にならない場合、コール酸塩溶液を100mlのアリコートとして脂質-コール酸塩溶液に逐次添加した。全ての溶液が清澄になるまで、インキュベート、攪拌、超音波処理およびコール酸塩の追加を続けた。加えた全コール酸塩溶液の合計量は、SM、DPPC、ダイズPCおよびPOPCについてそれぞれ160、260、560および560mlであった。脂質-コール酸塩溶液は合計30分間インキュベートした。
【0126】
1.908mlの2mM NaHC03バッファー中のの2.62mg/mlのプロApoA-Iの溶液を各管に添加した。溶液中のプロApoA-I:脂質の比は、5mg:6.25 mg、すなわち1:1.25(wt/wt)であった。プロApoA-I-脂質-コール酸塩溶液を37℃(POPC、SMおよびダイズPC)および50℃(DPPC)で1時間インキュベートした。
【0127】
毒性のコール酸塩を除去するため、溶液をイオン交換樹脂(BIO-BEADS(登録商標)、Sigma)とインキュベートした。BIO-BEADS(登録商標)は、1容量の乾燥BIO-BEADS(登録商標)を2容量の2mM NaHC03と6時間インキュベートすることにより活性化した。10mlおよび30mlのプラスチックシリンジに活性化BIO-BEADS(登録商標)を充填した。その後プロApoA-I-脂質複合体の調製物をBIO-BEADS(登録商標)上に注入した。スフィンゴミエリンおよびDPPC溶液については、4.8mgのコール酸塩溶液あたり約5〜7mlのBIO-BEADS(登録商標)を加えた。ダイズPCおよびPOPCについては、16.8mgのコール酸塩溶液あたり約12mlのBIO-BEADS(登録商標)を加えた。その後プロApoA-I-脂質複合体溶液をシリンジ内でBIO-BEADS(登録商標)に注入した。その後シリンジをバリアフィルムにより封止し、4℃で一晩揺らしながらインキュベートした。インキュベート終了後、プロApo-A-I-脂質複合体の溶液を回収し、0.22mmのPESフィルターで濾過した。溶液は分析まで4℃で貯蔵した。
【0128】
複合体溶液は、1x30 cm Superdex(登録商標)200(Pharmacia Biotech)カラムを用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用して分析した。20mMのNaHCO3(pH 8)を含む水性移動相を0.5ml/分の流速で供給した。注入体積は100μlとした。操作時間は45分とした。複合体は280nmの吸収で検出した。プロApoA-I-脂質複合体の保持時間を精製ウサギHDLの保持時間と比較した。
【0129】
6.1.2. 結果と考察
プロApo-A-I複合体のクロマトグラムは2つの主要なピークを含んでおり、第1のものは約22分で現れ、およそ200〜300kDaの分子量に対応し、第2のものは約26分で現れ、およそ100kDaの分子量に対応した。それぞれのクロマトグラムにおいて、22分のピークは脂質を多量に含むプロApo-A-I脂質複合体に対応し、26分のピークは脂質含量の少ないプロApo-A-I脂質複合体に対応した。精製したウサギHDL標準のクロマトグラムは、約20分において単一のピークを生成した。精製ウサギHDLの保持時間から計算して、配合を最適化し、脂質の豊富なプロApo-AI複合体の約22分における単峰のピークを得た。
【0130】
22分および26分のピーク間の比は脂質によって異なった。1:1.25のタンパク/脂質(wt/wt)比のプロApo-A-I-POPCおよびプロApo-A-I-ダイズPC複合体については、総面積に対する26分のピークの面積の割合は10〜20%にすぎなかった。したがって、これらの複合体についてはさらに最適化する必要はなかった。これに対し、1:1.25(wt/wt)タンパク/脂質比のプロApo-A-I-SMおよびプロApo-A-I DPPC複合体については、総面積に対する26分のピークの面積の割合は30〜50%であった。脂質によって異なる22分および26分のピーク比間の相違は、脂質の分子量および構造の違い、したがって脂質の豊富な複合体を形成するのに必要なタンパクの脂質に対する異なる重量/重量比の相違に帰することができるものであった。脂質に富むプロApo-A-I SM複合体の22分のピークの分画を増加させるために、タンパクに対するSMの重量/重量比を下記実施例2において増加させた。
【0131】
6.2. 実施例2:別のプロApoA-I-脂質複合体の調製
第6.1節(実施例1)において得られた結果に基づき、プロApoA-I-SM複合体の単一ピークを優先的に生成するために、SMの比率を増加させた。この実施例は、スフィンゴミエリンに対するプロApoA-Iの比を変化させて1:2(重量/重量)の比のプロApoA-I-スフィンゴミエリン複合体の単一のピークを生成し得ることを示す。
【0132】
6.2.1. 材料および方法
プロApoA-I-SM複合体は、以下の同時可溶化法により調製した。
6Mの尿素(Eurogentec)中のプロApoA-I溶液を5回濃縮し、10倍容量の5mM NH4HCO3に対して透析した。その後Markwell-Lowryタンパクアッセイを行ってタンパク濃度を測定した。タンパク溶液はその後凍結乾燥した。
128.2mgの凍結乾燥したプロApo-A-I粉末を5.13mlの氷酢酸(JT Baker)に溶解することにより酢酸中の25mg/mlのプロApoA-Iの保存溶液を調製した。
256.0mgのスフィンゴミエリン(Avanti)を5.12mlの氷酢酸に溶解することによりスフィンゴミエリンの50mg/mlの保存溶液を調製した。
【0133】
1.0mlのプロApo-A-I保存溶液を0.5、0.625、0.75および1.0mlのスフィンゴミエリン保存溶液と合わせることにより、プロApoA-IおよびSMの溶液を重量/重量(wt/wt)比1:1、1:1.25、1:1.5および1:2で合わせた。合わせた溶液をシリンジ駆動0.2μmポリエーテルスルホンフィルター(Whatman)を使用して濾過し、濾過溶液の体積を記録した。
プロApoA-I-SMの溶液を-40℃で約1.5時間凍結させ、その後下記の温度とその順番で凍結乾燥器で凍結乾燥した。
【0134】
温度 時間
-20℃ 2時間
-23℃から23℃ 12時間
50℃ 6時間
23℃ 1.5時間
【0135】
凍結乾燥した粉末を炭酸水素塩食塩水(140mM NaCl、20mM NaHC03)中で10mg/mlのタンパク濃度に水和させることによりプロApoA-I SM複合体を形成した。水和を容易にするために溶液を3回52℃に加熱し、室温に冷却した。
【0136】
200μlの炭酸水素塩食塩水を使用して複合体溶液の200μlのアリコートを希釈し、下記の条件を使用してSuperdex 200HR 10/30 GPCカラム(Amersham Parmachia Biotech AB)で分析した。流したバッファーは140mM NaClおよび20mM NaHC03であった。流速は、0.5ml/分とした。操作時間は50分とした。注入体積は10μlとした。検出波長は220nmとした。複合体の保持時間を、ゲル濾過標準(Bio-Rad)の保持時間と比較した。
【0137】
6.2.2. 結果と考察
クロマトグラムは24および29分に2つの主要なピークを含んでいた。24分のピークはプロApoA-I-SM複合体に対応し、29分のピークは遊離のプロApoA-Iタンパクに対応するものであった。24分および29分のピークの間の比はプロApo-A-I-SMの比により異なり、wt/wt比が増加すると、複合体部分に現れるピークのパーセンテージがより大きくなった。プロApoA-I:SM比1:2(wt/wt)で24分における単一のピークが観察され、したがって複合体サイズの均一な分布が得られた。
【0138】
6.3. 実施例3:r-プロApoA-I-POPC複合体と比較したr-プロApoA-I-スフィンゴミエリン複合体の薬理学的効能
プロApoA-I-脂質複合体は、潜在的にHDLの生物学的活性を模倣する候補薬剤である。本研究の目的は、プロApoA-I-SMの薬物動力学的性質(すなわち血漿中のコレステロールの流動化)を、プロApoA-I-POPCのような慣用のプロApoA-I-ホスファチジルコリンのものと比較することである。組換ヒトプロApoA-I(r-プロApoA-I)を本研究において使用した。プロアポリポタンパクA-Iは、ApoA-Iのアミノ末端に結合した6つのアミノ酸(Arg-His-Phe-Trp-Gln-Glu)を含む。
【0139】
6.3.1. 材料および方法
複合体調製
プロApoA-I-SMおよびプロApoA-I-POPC複合体を、上記したコール酸塩透析法により調製した。脂質に対するアポリポタンパクの比は、プロApoA-I-SMおよびプロApo-A-I-POPC について1:2(タンパクの重量/脂質の重量)であった。6M尿素中の1mg/mlのタンパクr-プロApoA-I(Eurogentec、Belgum)溶液を20倍容量の5mM NH4HCO3溶液(pH 8)により透析した。透析後のタンパク濃度は、修正Lowryアッセイで測定した。
【0140】
コール酸ナトリウム(Sigma)を、タンパク溶液に1:2の比(r-プロApoA-Iの重量/コール酸ナトリウムの重量)で添加した。その後リン脂質をタンパク-コール酸塩溶液に、リン脂質に対するアポリポタンパクの重量比1:2で加えた。タンパク-コール酸塩-リン脂質溶液を、POPCを含んでいる溶液については37℃で、SMを含んでいる溶液については50℃でインキュベートした。インキュベートの間、溶液を攪拌により周期的に混合した。
【0141】
1時間のインキュベートの後、清澄な溶液が形成された。ヒトおよび動物に有毒であるコール酸塩は、イオン交換樹脂Biobeads(登録商標、Bio-Rad)の存在下インキュベートすることにより溶液から除去した。Biobeads(登録商標)は、水和Biobeads(登録商標)体積の溶液体積に対する比1:2でタンパク-リン脂質-コール酸塩溶液に添加した。得られた溶液を揺らしながら4℃で12時間インキュベートした。インキュベートの間、コール酸塩をBiobeads(登録商標)イオン交換樹脂により吸収した。コール酸塩の除去により、コール酸塩を含まないアポリポタンパク-リン脂質複合体が形成された。インキュベート終了後、溶液を濾過してBiobeads(登録商標)を除去し、得られた溶液を殺菌した。トレハロースを80mg/mlで最終的な溶液に添加して浸透圧を調整した。得られた溶液を分析し、動物に注射するまで4℃で貯蔵した。
【0142】
複合体特性化
調製後、アポリポタンパク-リン脂質複合体を分析してそれらのサイズ、タンパク濃度、溶液pHおよび浸透圧を決定した。複合体のサイズは、1x30 cm Superdex(登録商標)200(Parmacia Biotech)カラムを備えたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用して分析した。20mMのNaHCO3(pH 8)を含む水性移動相を0.5ml/分の流速で供給した。注入体積は100μlとした。複合体は280nmのUV吸収で検出した。タンパク濃度は通常の方法(すなわち修正Markwell-Lowryアッセイ)で測定した。
【0143】
動物実験設計
ランダムに育種された、約3〜3.6kgの体重のNZW雌ウサギを本研究において使用した。アポリポタンパク-リン脂質複合体を、辺縁耳静脈にゆっくりとしたボーラス注入により静脈内注射した。採血については、血液凝固阻止薬を含まない3mlのシリンジを使用して約1〜2mlの血液を、注射していない耳の側静脈から(場合により内側動脈から)採取した。血液凝固阻止薬なしで集めた全ての管を30〜60分間の室温に保持して凝固させた。血液サンプルを採取後1時間以内に遠心分離し、それぞれのサンプルからの血清をアリコートに分離して分析時まで-80℃で貯蔵した。
【0144】
3匹のウサギにr-プロApoA-I-POPC複合体を投与し、別の3匹のウサギにr-プロApoA-I-SM複合体を投与した。複合体は、タンパク含量に基づいて15mg/kgの投与量で投与した。血液サンプルは、予備的採血、5分、30分、1時間、2時間、24時間および48時間で採集した。
【0145】
血液サンプルの分析
血清リン脂質(Phospholipid B, Kit # 990-54009, Wako Chemicals GmbH, Neuss, Germany), トリグリセリド(Triglycerides, Kit # 1488872, Boehringer Mannheim Corporation, Indianapolis, IN)、総コレステロールおよび非エステル化コレステロールは、Hitachi 912 Automatic Analyzer(Roche Diagnostics Corporation, Indianapolis, IN)用の市販のキットを用いて決定した。
【0146】
リポタンパク質プロフィールは、Kieftら (J Lipid Res 1991; 32:859-866, 1991) により記載された、総コレステロールまたは遊離コレステロール用オンライン検出を備えたSuperose 6HR 1x30cmカラムでのゲル濾過クロマトグラフィーを使用して分析した。血清およびリポタンパク分画VLDL、LDLおよびHDL中のエステル化コレステロールは、総コレステロール値から遊離コレステロール値を減じることにより算出した。
【0147】
データ分析
血清遊離(非エステル化)コレステロール、HDL遊離(非エステル化)コレステロールの絶対量およびパーセンテージの時間経過における変化をプロットした。流動化コレステロールについての曲線下の面積を台形法により算出し、種々のr-プロ-ApoA-I-リン脂質複合体について比較した。
【0148】
6.3.2. 結果および考察
プロApoA-I-SMおよびプロApoA-I-POPC複合体(タンパク重量/リン脂質重量比1:2)をNZW雌ウサギに15mg/kgの投与量(タンパク含量に基づく)で投与した。予期されなかったことに、プロApo-I-POPC複合体と比較してプロApo-I-SM複合体の投与により遊離コレステロールの有意に高い流動化が観察された。HDL遊離コレステロールは、プロApoA-I-SMの投与の30分後に31mg/dl増加し、これに対しプロApoA-I-POPC複合体の投与30分後では7mg/dlの増加であった(図1)。
【0149】
さらに、0〜24時間の期間についての遊離コレステロールおよびHDL遊離コレステロール濃度対時間の曲線(AUC0-24h)下の面積について大きな相違が観察された。
HDL遊離コレステロールについては、AUC0-24h値は、r-プロApoA-I-POPCおよびR-プロApoA-I-SM複合体についてそれぞれ22.3mg*hr/dlおよび354.2mg*hr/dlであった。これは、r-プロApoA-I-SM複合体がr-プロApoA-I-POPC複合体と比較して24時間にHDL遊離コレステロールを16倍多く流動化させたことを示している。
【0150】
全ての目的において個々の刊行物、特許または特許出願を具体的かつ個々に表示し、引用によりその全体を本明細書の一部としたのと同様に、全ての引用した参考文献は同様に全ての目的において引用によりその全体を本明細書の一部とする。
いかなる刊行物の引用も出願日前の開示についてのものであるが、先行の発明であるがために本発明がそのような刊行物に先立つものであるとする権利がないと容認したものと解釈されてはならない。
当業者には明らかであるように、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多くの修正および変更を加えることができる。記載されている具体的な態様は例示のみのために提供されたものであって、本発明は請求の範囲の記載にのみ限定されるものであり、また請求の範囲に認められる均等物の範囲全体も包含される。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は、15mg/kgの投与量でのr-プロApoA-I-SMおよびr-プロApoA-I-POPC複合体の投与後における非エステル化コレステロールのHDL分画レベルの絶対値の変化を示す。X軸:時間(時間)、Y軸:遊離HDLコレステロールの変化(mg/dL)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与前のベースラインレベルより上10mg/dL〜300mg/dLの範囲の遊離または複合アポリポタンパクの血清レベルを達成するのに有効な量のアポリポタンパクおよびスフィンゴミエリンを含むアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常(dyslipidemia)または脂質代謝異常に伴う疾患の治療方法。
【請求項2】
脂質代謝異常に伴う疾患が、虚血性心疾患;冠状動脈疾患;心臓血管疾患、高血圧症、再狭窄、血管または血管周囲疾患; 脂質代謝異常疾患;異リポタンパク血症;高レベル低密度リポタンパクコレステロール;高レベル超低密度リポタンパクコレステロール;低レベル高密度リポタンパク;高レベルリポタンパクLp(a)コレステロール;高レベルアポリポタンパクB;アテローム性動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む);高脂血症;高コレステロール血症;家族性高コレステロール血症(FH);家族性複合型高脂血症(FCH);高トリグリセリド血症、低αリポタンパク血症および高コレステロール血症リポタンパクのようなリポタンパクリパーゼ欠損症からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アポリポタンパクが、プレプロアポリポタンパク、プレプロApoA-I、プロApoA-I、ApoA-I、プレプロApoA-II、プロApoA-II、ApoA-II、プレプロApoA-IV、プロApoA-IV、ApoA-IV、ApoA-V、プレプロApoE、プロApoE、ApoE、プレプロApoA-IMilano、プロApoA-IMilano、ApoA-IMilano、プレプロApoA-IParis、プロApoA-IParisおよびApoA-IParisからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポリポタンパクがホモダイマーである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アポリポタンパクがヘテロダイマーである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が1:1〜200:1(モル/モル)の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が1:2〜200:1(モル/モル)の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が約2:1(重量/重量)である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
複合体がアポリポタンパクおよびスフィンゴミエリンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
複合体がさらにホスファチジルコリンを含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ホスファチジルコリンがダイズホスファチジルコリンである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複合体の脂質含量の50%〜70%がスフィンゴミエリンである請求項1に記載の方法。
【請求項13】
複合体の脂質含量の30〜50%がホスファチジルコリンである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
アポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を、ヒト個体および投与あたり約40mg〜2gの量で周期的な間隔で投与する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
投与が静脈内投与である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
周期的な間隔が約3〜15日毎である請求項14に記載の方法。
【請求項17】
周期的な間隔が約5〜10日毎である請求項14に記載の方法。
【請求項18】
周期的な間隔が約10日毎である請求項14に記載の方法。
【請求項19】
周期的な間隔が1日数回(several times)であり、投与量が毎日の毒性量に達しない請求項14に記載の方法。
【請求項20】
投与が1時間を超える期間でのゆっくりとした注入によるものである請求項14に記載の方法。
【請求項21】
投与が1時間以下の急速な注入によるものである請求項14に記載の方法。
【請求項22】
投与が一回のボーラス注射によるものである請求項14に記載の方法。
【請求項23】
複合体を胆汁酸樹脂、ナイアシン、スタチン類またはフィブレート類と同時に投与する請求項1に記載の方法。
【請求項24】
投与前の当初HDLコレステロール分画濃度の10%〜1000%の間のHDL-コレステロール分画の循環血漿濃度を達成するのに有効な量でアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常または脂質代謝異常に伴う疾患の治療方法。
【請求項25】
脂質代謝異常に伴う疾患が、虚血性心疾患;冠状動脈疾患;心臓血管疾患、高血圧症、再狭窄、血管または血管周囲疾患; 脂質代謝異常疾患;異リポタンパク血症;高レベル低密度リポタンパクコレステロール;高レベル超低密度リポタンパクコレステロール;低レベル高密度リポタンパク;高レベルリポタンパクLp(a)コレステロール;高レベルアポリポタンパクB;アテローム性動脈硬化症(アテローム性動脈硬化症の治療および予防を含む);高脂血症;高コレステロール血症;家族性高コレステロール血症(FH);家族性複合型高脂血症(FCH);高トリグリセリド血症、低αリポタンパク血症および高コレステロール血症リポタンパクのようなリポタンパクリパーゼ欠損症からなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
アポリポタンパクが、プレプロアポリポタンパク、プレプロApoA-I、プロApoA-I、ApoA-I、プレプロApoA-II、プロApoA-II、ApoA-II、プレプロApoA-IV、プロApoA-IV、ApoA-IV、ApoA-V、プレプロApoE、プロApoE、ApoE、プレプロApoA-IMilano、プロApoA-IMilano、ApoA-IMilano、プレプロApoA-IParis、プロApoA-IParisおよびApoA-IParisからなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項27】
アポリポタンパクがホモダイマーである請求項26に記載の方法。
【請求項28】
アポリポタンパクがヘテロダイマーである請求項26に記載の方法。
【請求項29】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が1:1〜200:1(モル/モル)の範囲である請求項24に記載の方法。
【請求項30】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が1:2〜200:1(モル/モル)の範囲である請求項24に記載の方法。
【請求項31】
複合体のSM:アポリポタンパクの比が約1:2(重量/重量)である請求項24に記載の方法。
【請求項32】
複合体がアポリポタンパクおよびスフィンゴミエリンを含む請求項24に記載の方法。
【請求項33】
複合体がさらにホスファチジルコリンを含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ホスファチジルコリンがダイズホスファチジルコリンである請求項33に記載の方法。
【請求項35】
複合体の脂質含量の50%〜70%がスフィンゴミエリンである請求項24に記載の方法。
【請求項36】
複合体の脂質含量の30〜50%がホスファチジルコリンである請求項24に記載の方法。
【請求項37】
アポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を、ヒト個体および投与あたり約40mg〜2gの量で周期的な間隔で投与する請求項24に記載の方法。
【請求項38】
投与が静脈内投与である請求項37に記載の方法。
【請求項39】
周期的な間隔が約3〜15日毎である請求項37に記載の方法。
【請求項40】
周期的な間隔が約5〜10日毎である請求項37に記載の方法。
【請求項41】
周期的な間隔が約10日毎である請求項37に記載の方法。
【請求項42】
周期的な間隔が1日数回(several times)であり、投与量が毎日の毒性量に達しない請求項37に記載の方法。
【請求項43】
投与が1時間を超える期間でのゆっくりとした注入によるものである請求項37に記載の方法。
【請求項44】
投与が1時間以下の急速な注入によるものである請求項37に記載の方法。
【請求項45】
投与が一回のボーラス注射によるものである請求項37に記載の方法。
【請求項46】
複合体を胆汁酸樹脂、ナイアシン、スタチン類またはフィブレート類と同時に投与する請求項37に記載の方法。
【請求項47】
30〜300mg/dLの間のHDLコレステロール分画の循環血漿濃度を達成するのに有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常または脂質代謝異常に伴う疾患の治療方法。
【請求項48】
30〜300mg/dLの間のコレステリルエステルの循環血漿濃度を達成するのに有効な量のアポリポタンパク-スフィンゴミエリン複合体を対象に投与することを含む、脂質代謝異常または脂質代謝異常に伴う疾患の治療方法。
【請求項49】
10mg/dL〜300mg/dLの範囲が投与後5分〜1日の間達成される請求項1に記載の方法。
【請求項50】
HDLコレステロール分画の前記循環血漿濃度が投与後5分〜1日の間達成される請求項24または47に記載の方法。
【請求項51】
コレステリルエステルの前記循環血漿濃度が投与後5分〜1日の間達成される請求項48に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−507223(P2006−507223A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−504982(P2004−504982)
【出願日】平成15年5月16日(2003.5.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/015467
【国際公開番号】WO2003/096983
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(503131490)エスペリオン セラピューティクス,インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】