説明

脂質水和物およびリポソームの製造方法

【課題】リポソーム製剤を高収率で製造しうる脂質水和物およびリポソーム製剤の製造方法の提供。
【解決手段】脂質、有機溶媒および水からなり、脂質粒子の全量中、1μm以下の粒子径の粒子の体積分率が20vol%以下である脂質水和物。脂質を有機溶媒に溶解して均一な脂質溶液を調製した後、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が2〜10wt%の残存量となるように除去した後、脂質の相転移温度以上の温水を加える脂質水和物の製造方法。
この脂質水和物を用いて薬物溶液を封入したリポソーム製剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂質水和物、その製造方法および薬物含有リポソームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、薬物(生理活性物質等)のキャリアーとして医学分野に有望視されており、広く研究され、開発が進められ、研究室レベルでのリポソームの製造方法も数多く報告されている(非特許文献1〜2参照)。
しかしながら研究室レベルの実験に基づく報告は、規模が小さい、操作や条件が複雑である、無菌製造に対応していないなどのさまざまな理由により、薬物を封入したリポソーム(以下、リポソーム製剤と略す)の商業的実施にそのまま適用することは困難である。
【0003】
リポソーム製剤の商業的実施に適用可能な製造方法として、リポソームの膜成分であるリン脂質を含む脂質を、アルコールなどの有機溶媒に融解して均一化した後、一旦有機溶媒を除去して薄膜化または固化させ、その後、水を加えて相転移温度以上まで加温し、得られた脂質水和物(膨潤脂質)と薬物溶液とを相転移温度以下の温度で撹拌して乳化する方法を先に提案した(特許文献1〜2参照)。この方法によれば、相転移温度以下でもリポソームが形成され、また温度によってダメージを受けやすい生理活性物質等でも効率良くリポソーム化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−64926号公報
【特許文献2】特開2005−2055号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liposome Technology 2nd Edtion Volume I Liposome Preparetion and Related Techniques, Gregory Gregoriadis, 1993, CRC Press
【非特許文献2】Liposome Technology 2nd Edtion Volume II Entrapment of Drugs and Other Materials, Gregory Gregoriadis, 1993, CRC Press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リポソーム製剤の製造を工業的に実施するためには、カプセル化効率および薬物/脂質比がより高く、リポソーム製剤を高い収率で得ることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、リポソーム製剤の収率に及ぼす製造工程の影響、特に、薬物封入前の脂質水和物の粒径分布と薬物封入率との関係に着目して検討したところ、脂質水和物の粒径分布によって、薬物のカプセル化効率すなわち製剤収率が大きく異なり、粒子径1μm以下の粒子が多いほど製剤収率が低いことを知得した。具体的に、脂質水和物の粒子径1μm以下の粒子の含有率が20vol%以下であれば、その後に薬物をリポソーム化し、最適な粒子範囲にするためのフィルター精製処理を加えても、最終的に高いカプセル化効率および薬物/脂質比でリポソーム製剤を得ることが出来ることを見出した。この脂質水和物は、脂質を一旦、有機溶媒に溶解した後、所定濃度まで濃縮し、次いで脂質の相転移温度以上の温水と混合してリポソームを形成させるという工業的に実施可能な方法で得ることができることを知得し、以下のような本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、脂質、有機溶媒および水からなり、脂質粒子の全量中、1μm以下の粒子径の粒子の体積分率が20vol%以下である脂質水和物。
本発明において、脂質は、通常、少なくとも1種のリン脂質を含む。
また、脂質は、コレステロールおよび/または高級脂肪酸をさらに含む、いわゆる混合脂質であってもよい。
【0009】
上記のような脂質水和物は、脂質を有機溶媒に溶解して均一な脂質溶液を調製した後、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が2〜10wt%の残存量となるように除去した後、脂質の相転移温度以上の温水と混合することで得ることができる。
上記温水は、滅菌水が好ましく、また、脂質と温水との混合は、密閉容器で行うことが好ましい。
なお、従来、脂質からリポソームを商業的スケールで形成しうる方法として一般的に知られているのは、先に述べたとおり、脂質を有機溶媒に融解して均一化した後、一旦有機溶媒を除去して薄膜化または固化させ、その後、水を加えて相転移温度以上まで加温する方法、あるいは脂質の有機溶媒溶液に水を加えた後、有機溶媒を除去する方法である。
【0010】
本発明に係るリポソーム製剤の製造方法は、上記した脂質水和物と、水性薬物溶液とを、相転移温度以下の温度で撹拌混合した後、相転移温度以下で乳化して、リポソーム内に薬物を封入する。
上記撹拌混合は、密閉容器内で行うことが好ましい。
【0011】
リポソーム製剤は、通常、未封入薬物の除去の精製工程が付される。また、粒径調整、滅菌のためのフィルター処理などの精製工程を適宜に付すこともできる。
【0012】
上記のような脂質水和物の調製工程を含む製造工程は、滅菌原料の使用と、各工程を密閉系で行うことにより、容易に無菌製造を実現することができる。
本発明では、脂質の相転移温度以下の低温で薬物を封入できることから、薬物が温度の影響を受けやすい生理活性物質でも封入することができる。本発明の好ましいリポソーム製剤の態様例として、薬物としてヘモグロビンを封入した人工酸素運搬体が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬物を封入する前の脂質水和物の粒度分布を制御することで、最終的にリポソーム製剤を高効率で製造することができる。本発明は、工業的な無菌製造に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る脂質水和物を構成する脂質は、通常、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリンおよびこれらの水素添加物から選ばれる少なくとも1種のリン脂質を含む。
【0015】
また、上記リポソーム膜を形成しうるものであればリン脂質以外の成分も広く含むことができる。たとえば、膜構造強化するためのコレステロール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの各種高級脂肪酸を広く含むことができる。
リポソーム膜形成のためのリン脂質以外の成分を含む脂質の好ましい例としては、リン脂質、コレステロールおよび高級脂肪酸の混合脂質が挙げられる。
【0016】
本発明に係る脂質水和物は、特に1μ以下の粒子の体積分率が20vol%以下、好ましくは限りなく0vol%に近く、より好ましくは0vol%という粒径分布をもつ脂質分散体である。
このような粒径分布をもつ脂質水和物は新規である。したがって、以下には、この脂質水和物の調製方法に基づいて説明する。
【0017】
本発明では、上記粒径分布をもつ脂質水和物の特に工業的に有用な製造方法として、上記脂質を有機溶媒に溶解して均一な脂質溶液を調製した後、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が2〜10wt%の残存量となるように除去した後、脂質の相転移温度以上の温水と混合する方法を提供する。
【0018】
有機溶媒は、脂質を溶解し得るものであればよいが、通常、アルコールが用いられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の揮発性アルコールが挙げられる。中でも、比較的毒性が低く、脂質の溶解性に優れるエタノール、2−プロパノールが好ましい。
【0019】
脂質を有機溶媒に溶解した脂質溶液は、ろ過滅菌処理することも可能である。
脂質溶液から溶媒の除去は、容器内で風乾し、容器内の気体を循環させつつ脂質溶解液を加温しながら撹拌する方法、容器内を陰圧にして脂質溶解液を加温しながら撹拌する方法など、有機溶媒の沸点を考慮して選択することができる。揮発した有機溶媒は冷却されたトラップ用容器にて回収することができる。
【0020】
本発明において、脂質溶液から有機溶媒の除去は、脂質が完全に固化する前すなわち流動性の保たれている状態で停止する。具体的に、脂質溶液中の残存量は、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が2〜10wt%、好ましくは4〜8wt%である。
【0021】
次いで、上記残存量で有機溶媒が除去された脂質溶液に、脂質全重量に対し、好ましくは0.75倍〜2.0倍量の水を加え、撹拌する。この水は、通常、滅菌水であり、また脂質相転移温度以上の温水である。撹拌は、通常、密閉容器内で行われる。
得られる脂質水和物中の有機溶媒量は、上記のとおり、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が好ましくは2〜10wt%であり、より好ましくは4〜8wt%である。これにより、上記水和した脂質の粒子径1μm以下の粒子の体積分率が20vol%以下の脂質水和物が得られる。
【0022】
リポソーム製剤は、上記脂質水和物と、水性薬物溶液とを、相転移温度以下の温度で撹拌混合した後、相転移温度以下で乳化して、リポソーム内に薬物を封入して得ることができる。
【0023】
薬物は、水性溶液としてリポソームによるカプセル化が可能な薬物であればよく特に制限されないが、通常、水に溶解する低分子化合物および生理活性物質などである。たとえば、低分子化合物としては、ペニシリン、ストレプトマイシン、5−FU、メソトレキセート、アセトアミノフェン、アセトゾラミド、ヒドラジン、アミノフィリン、その他各種薬物の塩類が挙げられる。また、生理活性物質としては、ヘモグロビン、インシュリン、ヘパリン、ウロキナーゼ、ネオマイシン、スーパーオキシドディスムターゼなどが挙げられる。これらのそれぞれ2種類以上、1種類以上の薬物と1種類以上の生理活性物質などの各種組み合わせを含む製剤、または単剤などの制限はない。
【0024】
上記のうちでも、特に高温で分解あるいは変性が起こり易い生理活性物質で利用価値が高い。薬物がヘモグロビン溶液であるとき、リポソーム製剤として人工酸素運搬体が提供される。ヘモグロビン溶液の調製方法自体は、たとえば特開2006−104069号公報の段落[0032]〜[0038]などに開示されており、そこに記載される方法に準じて調製することができ、その記載を引用することで、本明細書に記載されているものとして説明を省略することができる。
【0025】
上記脂質水和物の製造と、水性薬物溶液との混合を連続して実施する場合には、脂質水和物は、相転移温度以下に冷却される。
脂質水和物の製造工程における有機溶媒の除去工程から、脂質水和物と水性薬物溶液との混合までの一連の操作を、一つの密閉系の撹拌容器にて行うことも可能である。また、このとき撹拌機の形状はせん断型であるよりも、吐出型であるパドル型、或いはプロペラ型などが好ましく、撹拌条件は脂質水和物を得るには低速が好ましく、薬物と混合する操作では高速が好ましく、低速から高速まで対応していることが好ましい。
【0026】
脂質水和物と水性薬物溶液との混合物を密閉系で高速撹拌法、エクストルージョン法、高圧乳化法、超音波法等、公知の方法を用いて、脂質の相転移温度以下の条件で乳化しても、薬物への損傷を防ぎ、かつ、高いカプセル化効率を達成することができる。
【0027】
薬物を内封(カプセル化)したリポソームは、通常、精製工程が付される。具体的には、未封入薬物を外液置換にて取り除き、必要なサイズ、適切な粒度範囲にするために、メンブレンフィルターによるろ過処理等や適切な製剤濃度にするために、限外ろ過等を行い、最終製剤を得る。具体的には、この精製処理として、プレフィルター処理、クロスフロー処理、デッドエンドフィルター処理などを適宜行うことができる。
本発明の実施例におけるプレフィルター処理とは乳化後、生理食塩水あるいは亜硫酸生理食塩水に分散した後に、孔径0.8μmのフィルター処理を実施することである。
クロスフロー処理は孔径0.45μmのクロスフロー膜で処理し、透過液を回収することである。
0.45μmフィルター処理は孔径0.45μmのデッドエンドフィルターで処理することである。
【0028】
前述の脂質水和物の製造工程における有機溶媒の除去工程から精製工程までの一連の操作および装置仕様は無菌操作に対応可能である。
リポソーム製剤の無菌操作としては、内封する薬物への影響を考慮すれば高圧蒸気滅菌や電子線等による製造後の滅菌は難しく、またリポソーム製剤の所望粒子径との関係でろ過滅菌が適用できない場合もあるが、上記脂質の有機溶媒液のろ過滅菌、滅菌水の使用、および密閉系での撹拌、乳化によって、薬物を封入したリポソームの無菌化が可能である。この無菌化技術は、特開2002−128660号公報に開示されており、そこに記載される具体的な説明を引用することで、本明細書に記載されているものとして説明を省略することができる。
【0029】
最終製剤の平均粒子径は、190〜270nm程度が好ましく、より好ましくは200〜250nmである。
また、リポソーム製剤は、リポソームの膜表面が親水性高分子鎖で表面修飾されていてもよい。この修飾は、典型的には、ポリエチレングリコール結合リン脂質を用いて行われ、リポソーム膜の外表面のみを修飾することが望ましい。この修飾技術は、特開2009−96730号公報などに開示されており、そこに記載される具体的な説明を引用することで、本明細書に記載されているものとして説明を省略することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を示す。これら例は、本発明を具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲はこれら実施例の記載によって限定されるものではない。
(実施例1)
<脂質水和物の調製>
水素添加大豆レシチン154.6g、コレステロール76.1gおよびステアリン酸40.1gの混合脂質(水素添加大豆レシチンとして相転移温度約55℃)を、85℃にて、混合脂質と等量のエタノール270.8gに溶解した。
これを撹拌容器内に投入し、設定温度85℃にて風乾しながらストレートパドル型撹拌機で80rpmにて70分間撹拌し、系の秤量により、系中のエタノール残量が5wt%となるまでエタノールを留去した。
これに75℃の滅菌水を270.6g入れ、密閉系とし、設定温度85℃、撹拌機回転数50rpmで30分間撹拌して脂質水和物を得た。
【0031】
<乳化>
上記脂質水和物を撹拌容器内で冷却し、50℃に達した時点で、8℃のヘモグロビン溶液(濃度0.42g/g)1930gを投入し、80rpmにて撹拌し、混合した。この混合物を撹拌容器内で冷却しながら、水酸化ナトリウムを滴下し、pH調整を行った。
次に高速撹拌機(エム・テクニック株式会社製クレアミックスダブルモーションCLM−9W/15W)(2.2Lスケール)を用い、ローター回転数6000rpm(周速25m/s)、スクリーン6000rpm(周速27m/s)にて5〜45℃の範囲で30秒を2回、2分を3回で乳化した。
【0032】
<精製>
上記乳化物165gに生理食塩水を加えて3300gの分散液とし、孔径0.8μm(膜面積:0.6m)のザルトクリーンGF(商品名)(ザルトリウス製)でプレフィルター処理し、クロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコンスライス)に設置した孔径0.45μmのクロスフロー膜(ザルトリウス製ハイドロザルト):膜面積0.1mを通過させた。
次に、クロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコンスライス)に設置した孔径300Kのポリエーテルスルホン(ザルトリウス製):膜面積0.3m(0.1m×3枚)でフリーヘモグロビンの除去および濃縮を行い、生理食塩水にて製剤中ヘモグロビン濃度が6w/v%となるように調製し、ヘモグロビン封入リポソームを得た。
【0033】
上記ヘモグロビン封入前の脂質水和物のエタノール濃度および1μm以下の粒子の体積分率を表1に示す。表中のエタノール濃度は、脂質水和物中の水とエタノールとの重量和に対するエタノール濃度にも相当する。
体積分率は、光散乱回折式粒度分布装置(ベックマンコールター株式会社製LS230)を用いて、PIDS(偏光散乱強度差測定)にて、水を分散媒とし、サンプル濃度45〜55%の範囲になるよう水和した脂質を加え、粒度分布を測定して求めた。
また、一連の工程でのヘモグロビンの収率(%)および製剤中のヘモグロビン/脂質比(質量比)を表1に示す。
【0034】
ヘモグロビンの収率(%)は、仕込みのヘモグロビン重量に対する製剤中のヘモグロビン重量の百分率とした。
ヘモグロビン/脂質比は、製剤中のヘモグロビン重量/製剤中のヘモグロビン総重量である。
【0035】
(実施例2)
<脂質水和物の調製>
水素添加大豆レシチン1892.6g、コレステロール927.1gおよびステアリン酸680.3gの混合脂質(水素添加大豆レシチンとして相転移温度約55℃)を、タンク撹拌容器内で、85℃にて、混合脂質と等量のエタノール3.5kgに溶解した。
継続して風乾しながらパルセータ型撹拌機で100rpmにて80分間撹拌し、系中のエタノール残量が7wt%となるまでエタノールを留去した。
これに73℃の滅菌水を3.5kg入れ、密閉系とし、30分間水和させた。このとき10分おきに30秒間、パルセータ型撹拌機にて50rpmで撹拌して脂質水和物を得た。
【0036】
<乳化>
上記脂質水和物を撹拌容器内で冷却し、50℃に達した時点で、10℃のヘモグロビン溶液(濃度0.42g/g)25kgを投入し、120rpmにて撹拌し、混合した。この混合物を撹拌容器内で冷却しながら、水酸化ナトリウムを滴下し、pH調整を行った。
次に高速撹拌機(エム・テクニック株式会社製クレアミックスダブルモーションCLM−9W/15W)(2.2Lスケール)を用い、ローター回転数6000rpm(周速25m/s)、スクリーン6000rpm(周速27m/s)にて5〜45℃の範囲で30秒を2回、2分を3回で乳化した。
【0037】
<精製>
乳化後、80Lの生理食塩水に分散し、クロスフロー装置2プラスカセットに設置したハイドロザルト(ザルトリウス製):膜面積3.6m(0.6m×6枚)、孔径0.45μmで分散液を通過させた。
処理液をデッドエンドフィルターとしてザルトブランP(ザルトリウス製):膜面積1.2m(10インチ×2本)でろ過処理を行った。
次にクロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコン2プラスカセット)に設置したポリエーテルスルホン(ザルトリウス製):膜面積2.1m(0.7m×3枚)、孔径300Kにて濃縮し、濃亜硫酸溶液にて脱酸素処理を行った。
さらにクロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコンスライス)に設置したポリエーテルスルホン(ザルトリウス製):膜面積0.4m(0.1m×4枚)、孔径300Kで、0.5mg/mLの亜硫酸ナトリウムを含む生理食塩水による希釈および濃縮を繰り返してフリーヘモグロビン除去および外液置換を行った。
【0038】
<表面修飾>
0.5mg/mLの亜硫酸ナトリウムを含む生理食塩水に溶解したポリエチレングリコー5000−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG5000−DSPE)を、最終的にPEG5000−DSPEが製剤の0.15w/v%、製剤中ヘモグロビン濃度が6w/v%となる所定量加えてPEG5000−DSPEで表面修飾されたヘモグロビン封入リポソーム(平均粒子径236nm)を得た。
平均粒子径は、ゼータサイザー3000HS(マルバーン社製)にて光子相関法にて測定した。
【0039】
実施例1と同様に測定した脂質水和物のエタノール濃度、1μm以下の粒子の体積分率、ヘモグロビンの収率(%)および製剤中のヘモグロビン/脂質比(質量比)を表1に示す。
【0040】
(実施例3)
<脂質水和物の調製>
水素添加大豆レシチン3150g、コレステロール1543gおよびステアリン酸809gの混合脂質(水素添加大豆レシチンとして相転移温度約55℃)を、撹拌容器内で、混合脂質と等量のエタノール5.5kgに、85℃にて溶解した。風乾しながらストレートパドル型撹拌機で60rpmにて60分間撹拌し、系中のエタノール残量が8wt%となるまでエタノールを留去した。これに70℃の滅菌水を5.5kg入れ、密閉系とし、20rpmにて20分間水和させた。
【0041】
<乳化>
上記脂質水和物を撹拌容器内で冷却し、50℃に達した時点で、9℃のヘモグロビン溶液(濃度0.41g/g)29.4kgを投入し、60rpmにて撹拌し、混合した。この混合物を高速撹拌機(エム・テクニック株式会社製クレアミックスダブルモーションCLM−22W/30W)(4.8Lスケール)でローター回転数4300rpm(周速23m/s)、スクリーン4300rpm(周速25m/s)にて9〜35℃の範囲で30秒を2回、2分を3回で乳化した。
【0042】
<精製>
乳化後、100Lの生理食塩水に分散し、孔径0.8μmのザルトクリーンGF(ザルトリウス製:膜面積3.0m)(10インチ×5本)でプレフィルター処理し、クロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコン2プラス):膜面積12m(0.6m×20枚)、孔径0.45μmにて、処理液50kgを透過させ、生理食塩水50kgを加水する処理を9回繰り返した。
次に、クロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコン2プラスカセット)に設置したポリエーテルスルホン(ザルトリウス製):膜面積6.3m(0.7m×9枚)、孔径300Kにて濃縮処理を行った。
濃亜硫酸生理食塩水の添加による製剤の脱酸素処理を行った後、0.5mg/mLの亜硫酸ナトリウムを含む生理食塩水による希釈、および濃縮を繰り返しフリーヘモグロビンの除去を行った。
【0043】
<表面修飾>
0.5mg/mLの亜硫酸ナトリウムを含む生理食塩水に溶解したPEG5000−DSPEを、最終的にPEG5000−DSPEが製剤の0.9mol%、製剤中ヘモグロビン濃度が6w/v%となる所定量加えてPEG5000−DSPEで表面修飾されたヘモグロビン封入リポソーム(平均粒子径244nm)を得た。
【0044】
実施例1と同様に測定した脂質水和物のエタノール濃度、1μm以下の粒子の体積分率、ヘモグロビンの収率(%)および製剤中のヘモグロビン/脂質比(質量比)を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
<脂質水和物の調製>
水素添加大豆レシチン2163g、コレステロール1060gおよびステアリン酸778gの混合脂質を、撹拌容器内で85℃にて、混合脂質と等量のエタノール4.0kgに溶解した。溶解後、70℃の滅菌水8.0kgを投入し、風乾しながらパルセータ型撹拌機で150rpmにて120分間撹拌し、系中のエタノール残量が6wt%、実施例1〜3と同じ表記にすると12wt%(総脂質重量とエタノール重量の和に対するエタノール重量の百分率)となるまでエタノールを留去した。
【0046】
<乳化>
9℃のヘモグロビン溶液(濃度0.41g/g)28.6kgを投入し、250rpmにて撹拌し、混合した。
混合物を高速撹拌機(エム・テクニック株式会社製クレアミックスダブルモーションCLM−22W/30W)(4.8Lスケール)でローター回転数4600rpm(周速25m/s)、スクリーン4500rpm(周速27m/s)にて9〜35℃の範囲で30秒を2回、2分を3回で乳化した。
【0047】
<精製>
乳化後、乳化物200gに生理食塩水を3000g加え分散液とし、ペリコンカセット(ミリポア製、膜面積0.5m、孔径0.45μm)にて希釈およびろ過処理を繰り返し、透過液を回収した。
次にフリーヘモグロビンの除去として、クロスフロー装置(ザルトリウス製ザルトコンスライス)に設置したポリエーテルスルホン(ザルトリウス製):膜面積0.3m(0.1m×3枚)、孔径300Kで生理食塩水による希釈、および濃縮を繰り返しフリーヘモグロビンの除去および外液置換をした。
【0048】
<表面修飾>
生理食塩水に溶解したPEG5000−DSPEを、最終的にPEG5000−DSPEが製剤の0.15w/v%、製剤中ヘモグロビン濃度が6w/v%となる所定量加えてPEG5000−DSPEで表面修飾されたヘモグロビン封入リポソーム(平均粒子径194nm)を得た。
【0049】
実施例1と同様に測定した脂質水和物のエタノール濃度、1μm以下の粒子の体積分率、ヘモグロビンの収率(%)および製剤中のヘモグロビン/脂質比(質量比)を表1に示す。
【0050】
【表1】

表中、乳化方法において、Rは乳化機のローターの周速、Sはスクリーンの周速を示す。
【0051】
上記表に示されるとおり、脂質水和物の1μm以下の割合が20vol%以下である実施例では、ヘモグロビン収率は25%〜27%、製剤中のヘモグロビン/脂質比は1.41〜1.48の高効率となった。
それに対し、比較例1では、ヘモグロビン収率(10%)、ヘモグロビン/脂質比(0.99)のいずれも低かった。
すなわち脂質水和物の1μm以下の粒子の割合が20vol%以下であれば、ヘモグロビン収率およびヘモグロビン/脂質比ともに高いリポソーム製剤が得られた。
【0052】
(実施例4)脂質水和物の調製
水素添加大豆レシチン155.0g、コレステロール75.8g、ステアリン酸39.9gで秤量した混合脂質(水素添加大豆レシチンとして相転移温度約55℃)を、85℃にて混合脂質と等量のエタノール270.7gに溶解した。
これを撹拌容器内に投入し、設定温度85℃にて風乾しながらストレートパドル型撹拌機で80rpmにて撹拌し、系中のエタノール残量が表2に示す各濃度(2〜6wt%)となるまでエタノールを留去した。
これに75℃の滅菌水を270.7g入れ、密閉系とし、設定温度85℃、撹拌機回転数40rpmで30分間撹拌して脂質水和物を得た。
この脂質水和物の実施例1に準ずるエタノール濃度と、粒子径1μm以下の粒子の割合(体積分率vol%)を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(参考例1)脂質水和物の調製
水素添加大豆レシチン、コレステロールおよびステアリン酸の混合脂質(水素添加大豆レシチン1モルに対するモル比1/1/1)250gに、脂質水和物中の総脂質重量とエタノールの重量の和に対するエタノール重量の百分率が表3に示す濃度になるように、水およびエタノールが合わせて250gとなるように秤量し、密閉された撹拌容器内で設定温度85℃にてストレートパドル型撹拌機で40rpmにて20分間、続けて80rpmで10分間撹拌し、脂質水和物を調製した。
この脂質水和物中の総脂質重量とエタノールの重量の和に対するエタノール重量の百分率、および1μm以下の小粒子の割合を表3に示す。
【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質、有機溶媒および水からなり、脂質粒子の全量中、1μm以下の粒子径の粒子の体積分率が20vol%以下である脂質水和物。
【請求項2】
前記脂質が、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリンおよびこれらの水素添加物から選ばれる少なくとも1種のリン脂質を含む請求項1に記載の脂質水和物。
【請求項3】
前記脂質が、コレステロールおよび/または高級脂肪酸をさらに含む請求項1または2に記載の脂質水和物。
【請求項4】
脂質を有機溶媒に溶解して均一な脂質溶液を調製した後、総脂質重量と有機溶媒重量の和に対する有機溶媒重量の百分率が2〜10wt%の残存量となるように除去した後、脂質の相転移温度以上の温水と混合する請求項1〜3のいずれかに記載の脂質水和物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の脂質水和物と、水性薬物溶液とを、相転移温度以下の温度で撹拌混合した後、相転移温度以下で乳化して、リポソーム内に薬物を封入する、リポソーム製剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−75839(P2013−75839A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215414(P2011−215414)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】