説明

脂質消費制御剤のスクリーニング方法

【課題】脂質の消費を亢進又は抑制する物質のスクリーニング方法の提供
【解決手段】体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:真骨魚類の胚、仔魚及び稚魚から選択される検体に対し、体内脂質を色素で染色し、且つ試験物質を投与する工程;該検体から染色された体内脂質を単離する工程;単離された脂質中の色素量を定量し、該色素量に基づいて体内脂質の量を決定する工程;及び、該脂質の量に基づいて、試験物質の体内脂質の消費を亢進又は抑制する能力を評価する工程、を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の欧米化に伴い、脂質の過剰摂取による体脂肪量の増加と、それに伴う肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、心血管疾患等の生活習慣病患者の増加が問題となっている。体脂肪量の増加を抑え、これらの疾患を予防又は改善することが重要である。
【0003】
体脂肪の蓄積は脂質の摂取と消費のバランスによって左右されるので、体内への脂質の摂取を亢進/抑制するだけでなく、体内での脂質の消費を抑制/亢進させることにより、体脂肪量は増減する。脂質の消費を亢進させる方法として運動療法が挙げられるが、継続的に行うことは簡単ではない。一方、カルニチンやカプサイシン等の脂質の消費を亢進させる物質が既に開発されているが、その効果は必ずしも十分とはいえない。従って、体内脂質の消費を抑制/亢進させる新たな物質の開発が望まれる。
【0004】
脂質代謝制御剤等の薬剤のスクリーニングにおいては、通常、ラットやマウスなどの実験動物を用いて候補物質のin vivoでの効果を確認する。しかし、候補物質は無限に存在し得るので、全ての物質をラットやマウスで試すとなると、膨大な時間を要する上に、多くの動物を必要とするため動物倫理やコストの面で好ましくない。そこで一般的には、最初にin vitroでハイスループットスクリーニング(1次スクリーニング)を行って候補物質の数を絞り込み、絞り込まれたいくつかの物質についてのみ動物実験を行う(2次スクリーニング)。この方法は、効率は良いが、in vitroでの1次スクリーニングで有用な候補を除外してしまう危険性がある。ハイスループットでin vivoでの薬剤動態を調べることができるスクリーニング系が求められている。
【0005】
従来、脂質代謝を調整又は制御する物質のスクリーニング方法としては、哺乳動物由来の小腸培養組織又は細胞で脂質代謝関連遺伝子発現を調べて脂質代謝促進効果のある物質をスクリーニングする方法(特許文献1)が知られている。この方法は、培養組織又は細胞を用いるため高感度且つ短期間でのスクリーニングを可能にするが、in vivoスクリーニング方法ではない。特許文献2では、in vivoで脂質代謝を分析し、又は脂質代謝を調節する医薬品をスクリーニングするために、ショウジョウバエや線虫を用いている。この方法もハイスループットを可能にするが、よりヒトに近いモデルでのスクリーニングが好ましい。
【0006】
in vivo創薬スクリーニングのための動物モデルとして、ゼブラフィッシュ等の真骨魚類が利用できることが知られている(特許文献3及び非特許文献1、2)。真骨魚類は、ヒト疾患モデル動物として近年注目されている。ゼブラフィッシュはまた、体内脂質代謝を調べるためのモデルとしても用いられている(非特許文献3及び4)。
【0007】
魚類で体内脂質代謝を調べる場合、幼生の体内脂質を蛍光色素にて染色し、染色された脂質からの蛍光を蛍光顕微鏡で観察する方法が一般的である。しかし、蛍光顕微鏡画像解析は、脂質の存在や局在の同定等の定性的な解析には適しているが、定量的解析には不向きである。しかし、画像解析による定性的な観察では、体内脂質の細かな変動を捉えるのが難しいため、体内脂質が大きく変動しなければ変動を検出することは困難である。したがって、画像解析によるスクリーニングでは、体内脂質を充分に変動させるために候補物質となる素材に検体を長時間曝露する必要があり、素材の評価に時間を要する。たとえば、非特許文献3ではゼブラフィッシュへの素材曝露に4日間を要している。さらに、画像解析の場合、一枚一枚の画像からデータを取得し評価する必要があるので、解析作業が煩雑で、膨大な種類の素材をスクリーニングすることは困難である。従って、従来は、脂質量を正確に定量するためには、クロマトグラフィーやFolch法等の一般的な脂質定量解析を別途行っていた(例えば、非特許文献3及び4)。しかしこれらの解析方法もやはり、労力、時間、コストの面で、ハイスループットスクリーニングには不向きである。
【0008】
正確な定量データに基づいて、簡便に、in vivoで、且つハイスループット(短期間・大量アッセイ)で脂質代謝を調整又は制御する物質を評価できるスクリーニング方法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-180803号公報
【特許文献2】特開2003-501102号公報
【特許文献3】特表2002-504667号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wheeler & Brandli, Developmental Dynamics, 2009, 238:1287-1308
【非特許文献2】Bowman & Zon, ACS Chemical Biology, 2010, vol.5, no.2:159-161
【非特許文献3】Jones et al, Nutrition & Metabolism, 2008, 5:23 doi:10.1186/1743-7075-5-23
【非特許文献4】Hostetler et al, J Lipid Res, 2009, 50:1663-1675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、脂質の消費を亢進又は抑制する物質をin vivoで評価又は選択することができるハイスループットスクリーニング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来行われていた薬剤1次スクリーニングのハイスループット性と2次スクリーニングの正確性とを併せ持つ新しいスクリーニング方法の開発を検討した。その結果、真骨魚類胚、仔魚又は稚魚等の検体の生体内脂質を脂質に高親和性の色素で染色し、染色した脂質を検体から抽出して、その色素量を測定することにより、色素量を基準に生体内の脂質を簡便且つ正確に定量できること、及び当該染色された検体に候補物質を投与し、その後上記手順によって体内脂質を定量することによって、体内脂質の消費を制御する物質のin vivoでのハイスループットスクリーニングが可能になることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:
真骨魚類の胚、仔魚及び稚魚から選択される検体に対し、体内脂質を色素で染色し、且つ試験物質を投与する工程;
該検体から染色された体内脂質を単離する工程;
単離された脂質中の色素量を定量し、該色素量に基づいて体内脂質の量を決定する工程;及び
該脂質の量に基づいて、試験物質の体内脂質の消費を亢進又は抑制する能力を評価する工程、
を含む、方法。
(2)前記検体が真骨魚類の胚又は仔魚である、(1)記載の方法。
(3)前記真骨魚類がゼブラフィッシュ(Danio rerio)又はメダカ(Oryzias latipes)である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記色素が、boron-dipyrrometheneである、(1)〜(3)のいずれか1に記載の方法。
(5)前記色素の濃度が1〜100ng/mlである、(4)記載の方法。
(6)前記色素で体内脂質を染色する時間が24時間以内である、(5)記載の方法。
(7)前記単離する工程が、前記検体から有機溶媒により脂質を抽出する工程である、(1)〜(6)のいずれか1に記載の方法。
(8)有機溶媒がアセトンである、(7)記載の方法。
(9)前記検体に試験物質を投与する工程が、前記検体を含む培地に試験物質を添加する工程である、(1)〜(8)のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、体内の脂質代謝を調節又は制御する物質を、正確に、簡便且つ短時間で評価又は選択することができるin vivoスクリーニングが可能となる。本発明によれば、脂質代謝調節又は制御剤のスクリーニングにかかる費用及び時間を削減することができ、薬剤開発を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ゼブラフィッシュ仔魚におけるBODIPY(商標)を用いた脂質定量。エラーバー=SD(n=15)。
【図2】ゼブラフィッシュ仔魚におけるNile Redを用いた脂質定量。エラーバー=SD(n=15)。
【図3】ゼブラフィッシュ仔魚における従来法による脂質定量。エラーバー=SD(n=15)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。当該方法は、以下:真骨魚類の胚、仔魚及び稚魚から選択される検体に対し、体内脂質を色素で染色し、且つ試験物質を投与する工程;該検体から染色された脂質を単離する工程;単離された脂質中の色素量を定量し、該色素量に基づいて脂質量を決定する工程;及び、該脂質量に基づいて、試験物質の体内脂質の消費を亢進又は抑制する能力を評価する工程、を含む。
【0017】
本明細書において、「体内脂質」とは、生体の組織又は細胞中に存在する任意の種類の脂質、例えば中性脂肪、トリグリセリド等をいう。「体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質」とは、生体内での体内脂質の消費(例えば、代謝、燃焼若しくは排出)を亢進又は抑制、あるいは調節又は制御することができる物質をいう。
【0018】
本発明の方法においては、真骨魚類の胚、仔魚及び稚魚から選択される検体に対し、体内脂質を色素で染色し、且つ試験物質を投与する。真骨魚類の好ましい例としては、例えば、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)及びメダカ(Oryzias latipes)が挙げられる。このうち、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)については、脂質代謝やそれに関連する疾患に関連する多くの報告があり(Int J Dev Biol. 2000 44(2):249-52; Physiol Genomics. 2007 28(3):239-52; Dev Dyn. 2005 232(2):506-18; Biochemistry. 2006 45(51):15179-87; J Lipid Res. 1989 30(4):467-89; Br J Nutr. 2008 Sep;100(3):512-7; Dev Dyn. 2005 232(2):506-18; Hepatology. 2008 Sep 30;49(2):443-452)、ヒトの脂質代謝や疾患のモデル動物として利用されている動物である。
【0019】
試験物質の効果をより正確に評価するために、上記検体は、体内の養分で生体を維持することができ、外部からの栄養摂取(捕食)を必要としない発生段階にあることが好ましい。従って、検体としては、真骨魚類の胚、仔魚、稚魚又は幼魚が挙げられるが、胚、仔魚又は稚魚が好ましく、胚又は仔魚がより好ましい。一般に「胚」とは受精から孵化までの発生段階を指し、「仔魚」とは孵化から摂食を開始するまで、若しくは卵黄の栄養を消費し尽すまで、若しくは骨格や鰭などが整うまでの発生段階を指し、「稚魚」とは摂食を行い、形態はほぼ種の特徴を示しているが、体の各部の特徴はまだ発現初期の状態(仔魚期の特徴など)を残している発生段階を指し、「幼魚」とはほぼ種の特徴を現すが生殖能力はまだ持たない発生段階を指す。本明細書においては、「胚」とは受精から孵化までの発生段階、「仔魚」とは孵化から卵黄の栄養を消費し尽すまでの発生段階、「稚魚」とは卵黄の栄養を消費し尽くし形態はほぼ種の特徴を示しているが、体の各部の特徴はまだ発現初期の状態(仔魚期の特徴など)を残している発生段階、「幼魚」とはほぼ種の特徴を示すが生殖能力はまだ持たない発生段階とする。例えば、ゼブラフィッシュの場合、「胚」とは、受精から孵化まで又は受精後3日までの発生段階をいい、「仔魚」とは、孵化から約6日まで又は受精後3〜10日の発生段階をいい、「稚魚」とは、孵化後約6日からおおよそ27日まで又は受精後10〜30日の発生段階をいい、「幼魚」とは孵化後おおよそ27日から87日まで又は受精後30〜90日の発生段階をいう。
【0020】
本発明の方法において、検体は、体内脂質を色素で染色される。染色は、試験物質の投与前、投与とともに、又は投与後に行われ得る。好ましくは、染色は試験物質の投与前に行われ、体内脂質を色素で染色されている検体に試験物質が投与される。染色の方法としては、色素の種類及び検体の種類や状態に依存して、当該分野で通常行われる方法を適宜使用すればよい。例えば、検体として真骨魚類の胚、仔魚又は稚魚を使用する場合、当該胚、仔魚又は稚魚を含む培地に適切な濃度の当該色素を添加するか、あるいは適切な濃度で当該色素を含有する液体に当該胚、仔魚又は稚魚を添加(浸漬)することにより、該色素が該検体に浸透し、体内脂質が染色される。あるいは、検体に適切な濃度及び量の色素を注入することにより、該検体の体内全体に色素が拡散し、体内脂質を染色することができる。
【0021】
色素としては、脂質に親和性の高い色素、又は体内において脂質に特異的かつ定量的に吸着する色素であれば特に限定されないが、boron-dipyrromethene(例えば、BODIPY(商標)493/503(4,4-difluoro-1,3,5,7,8-pentamethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene)、Invitrogen社)が好ましい。boron-dipyrrometheneは、脂肪に特異的に吸着して緑色蛍光を発することが知られている色素である(Fluorescent Detection of Lipid Droplets and Associated Proteins, Laura L, Current Protocols in Cell Biology 24.2.1-24.2.11, 2007)。色素は、アセトン等の溶媒に溶解した後に検体に添加され得る。添加される色素の濃度は、検体と接触する液体中の終濃度として1〜100ng/ml、より好ましくは3〜50ng/ml、さらに好ましくは5〜20ng/ml、なお好ましくは10ng/mlであり得る。染色時間は、好ましくは24時間以内である。色素が蛍光色素の場合、色素の減色及び退光を防ぐため、染色作業、及び染色後の工程は遮光下で行うことが望ましい。また、染色作業後、検体に非特異的に吸着した色素を取り除くため、洗浄操作を行う。洗浄操作としては、検体にダメージを与えずに非特異的に吸着した色素を除去できる方法であれば限定されないが、例えば、検体を新しい飼育水(カルキ除去した水道水等の検体が生存可能な水)に数回移し変えることで行うことができる。
【0022】
本発明の方法において、検体に投与される試験物質となる素材としては、体内脂質の消費を亢進又は抑制することを所望する物質であれば、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;ならびにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
【0023】
本発明の方法においては、検体の体内脂質の染色及び検体への試験物質の投与に続いて、該検体から染色された体内脂質を単離する。単離前には、検体を安楽死又は深麻酔しておくことが好ましい。単離の方法としては、検体から色素で染色されたままの脂質を単離するための通常知られた方法であれば、特に限定されないが、例えば、有機溶媒を用いて検体から脂質を抽出する方法が挙げられる。一態様として、有機溶媒に該検体を浸漬させて、体内脂質を抽出させ、分離する方法が挙げられる。
【0024】
脂質の単離に使用される有機溶媒は、色素や検体の種類にあわせて当業者が適宜選択すればよいが、アセトン、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、エーテル、エチルエーテル、キシレン、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、ジクロロエチレン、ベンゼン、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、このうちアセトンが好ましい。単離のためには、例えば、検体として真骨魚類の胚、仔魚又は稚魚を使用する場合、アセトンに安楽死又は深麻酔した検体を浸漬させ、1時間以上静置する。その後、上記アセトンに蒸留水を加えて攪拌した後、液相を回収すればよい。アセトン及び蒸留水の量は、例えば、一検体(胚、仔魚又は稚魚1個体)に対して、アセトン10〜500μL、蒸留水10〜1000μLとすればよく、好ましくはアセトン50μL、蒸留水200μLとすればよい。
【0025】
上記単離工程により、色素が結合した体内脂質を含む試料を検体から単離することができる。この単離された試料中の色素量を定量すれば、検体の体内脂質量を決定することができる。試料中の色素量は、色素の種類にあわせて当該分野で通常用いられる方法で定量すればよい。例えば蛍光色素の量は、蛍光強度計で測定された蛍光強度に基づいて定量することができる。その他の色素の量は、プレートリーダーや分光光度計を用いた比色定量を行うことによって測定することができる。試料中の脂質量はそれを染色する色素量に反映されるので、色素量が定量できれば、その値に基づいて、体内脂質の量を決定することができる。
【0026】
決定された体内脂質の量に基づき、試験物質の体内脂質の消費を亢進又は抑制する能力を評価する。評価は、試験物質添加群と対照群(例えば、試験物質非添加群若しくは対照物質添加群)との間で脂質量を比較することによって行われ得る。対照群と比較して、試験物質添加群における脂質量が減少していれば、当該試験物質を体内脂質の消費を亢進する物質として評価することができる。逆に、対照群と比較して試験物質添加群における脂質量が増加していれば、当該試験物質を体内脂質の消費を抑制する物質として評価することができる。あるいは、評価は、種々の濃度の試験物質間で脂質量を比較することによって行われ得る。脂質量が試験物質の濃度に相関して増減している場合、当該試験物質を体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質として評価することができる。
【0027】
本発明の方法において、脂質の染色及び試験物質の投与、脂質の抽出、色素の定量は、任意の容器内で行えばよいが、各ウェル毎に1〜50サンプル、好ましくは5〜20サンプルを含む4穴、6穴、12穴、24穴、36穴、48穴又は96穴等のマルチウェルプレート内で行うと高効率である。さらに、本発明の方法の工程を、自動分注器や、インキュベーション及び抽出システム、プレートリーダー等を搭載したラボオートメーションシステムを用いて実行することにより、さらなるハイスループット化を実現できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
実施例1
ゼブラフィッシュ胚において、脂質染色色素としてBODIPY(商標)を用いて、試験物質の脂質消費の亢進又は抑制能を評価した。
【0030】
A.材料および方法
1)検体調製
ゼブラフィッシュ(Danio rerio)胚を、天然対交配によって生成した。ゼブラフィッシュ(Danio rerio)は名東水園株式会社より入手し、4〜5のゼブラフィッシュ対を各交配のために設定した。1つの対あたり平均して100〜150の胚が生成された。胚を回収し、飼育水の交換にて十分洗浄し、親個体の排泄物やごみなどを除去した。次いで、この胚を胚水(embryo water)中で5回水交換にて洗浄した。魚胚は、付随の卵黄嚢から栄養を受容するので、さらなる維持は必要ではなかった。
当該胚を、3dpf(days post-fertilization)の仔魚となるまで発生させた。
【0031】
2)試験物質
カテキン製剤(茶カテキン、ポリフェノン70S(三井農林(株)):組成:Total polyphenol 87.5% (w/w)、Total catechin content 81.8% (w/w)、Caffeine content 0.1% (w/w)、カテキン類の割合:epigallocatechin gallate 44.4% (w/w); epigallocatechin 20.4% (w/w); epicatichin gallate 12.0% (w/w); epicatechin 8.1% (w/w); gallocatechin 7.0% (w/w); gallocatechin gallate 4.4% (w/w); その他 3.7% (w/w))。最終濃度0.005質量%。
茶カテキンは、ヒトやげっ歯類における抗肥満効果が知られている物質である(S. Megro et al. J.Oleo Sci. 50, 593-598, 2001;T. Hase et al. J.Oleo Sci. 50, 599-605, 2001;土屋隆 他 栄養−評価と治療 19,365-376, 2002)。
【0032】
3)色素溶液の調製
蛍光色素BODIPY(商標)493/503(Invitorogen社)(Fluorescent Detection of Lipid Droplets and Associated Proteins, Laura L, Current Protocols in Cell Biology 24.2.1-24.2.11, 2007)のストック溶液(1mg BODIPY(商標)/1mlアセトン)を調製し、これをゼブラフィッシュ飼育水(カルキ除去のため活性炭フィルター処理した水道水)にて希釈し、10ng/mlのBODIPY(商標)溶液を調製した。これに3dpfのゼブラフィッシュ仔魚を投入し、遮光下で3時間染色した。染色後は、速やかに染色水をBODIPY(商標)を含まないゼブラフィッシュ飼育水に交換し、さらにこのゼブラフィッシュ飼育水を新たなBODIPY(商標)を含まないゼブラフィッシュ飼育水に交換する作業を2回行うことで、染色した仔魚を洗浄した。
【0033】
4)試験物質の投与
脂質を染色した仔魚を、6穴ウェルプレートに1ウェルあたり約15匹、飼育水とともに投入し、1群とした。試験物質をウェルに直接添加することによって、各仔魚群に投与した。コントロール群には、試験物質を添加しなかった。当該ウェルを、蛍光色素による染色後1日目までそのまま維持し、その後、仔魚を回収した。
【0034】
5)蛍光色素定量
アセトン50μLに、氷冷にて安楽死させたゼブラフィッシュ仔魚を1匹ずついれ、1時間以上静置した。上記アセトンに、蒸留水200μLを加え、攪拌した後、液部200μLをとり、これを96ウェルプレートに移し、蛍光プレートリーダーにて蛍光強度を測定した。蛍光測定用96ウェルプレートはNunc社製 96 Well FluoroNunc Plates, blackを用いた。蛍光プレートリーダーはBertholdTech Mithras LB 940(BERTHOLD社製、Driver Version 1.05 (1.0.5.0))を用い、測定条件は、モード: Fluor. Label、Counting time: 1秒、Lamp Energy: 15000、Excitation Filter: F492、Emission filter: F535で行った。
【0035】
B.結果
結果を図1に示す。ブランクは、BODIPY(商標)で染色していない仔魚を用いてアッセイを行ったものである。脂質染色色素の蛍光強度を定量化することにより、検体の脂質量を定量的に測定することができた。
試験物質(茶カテキン)を投与された群では、蛍光強度(脂質量)が有意に低下しており、脂質の消費が亢進されたことが示された。この結果より、茶カテキンの脂質消費亢進効果を確認することができた。
【0036】
比較例1
比較例として、色素としてNile Redを用いて、試験物質の脂質消費の亢進又は抑制能の評価を試みた。Nile redは、脂肪滴に吸着して緑色の蛍光を示すが、それ以外にもリン脂質に吸着して最大蛍光波長636nmの非常にブロードな波長帯の赤色蛍光を発する。さらに、細胞膜等に吸着した場合にも赤色の蛍光を発する。このようにNile redは、脂質以外の部分(細胞膜等)に吸着して様々な波長の蛍光を発する蛍光色素であるため、脂質の選択的定量に利用するには問題がある。
【0037】
A.材料および方法
実施例1と同様の方法でゼブラフィッシュ(Danio rerio)仔魚及び試験物質を調製した。
Nile Red(SIGMA)のストック溶液(1mg Nile Red/1mlアセトン)を調製し、これをゼブラフィッシュ飼育水にて希釈し、10ng/mlのNile Red溶液を調製した。これにゼブラフィッシュ仔魚(3dpf)を投入し、遮光下で3時間染色した。
染色に供した仔魚を、6穴ウェルプレートに1ウェルあたり約15匹、飼育水とともに投入し、1群とした。実施例1と同様の方法で試験物質を仔魚群に投与し、これを染色後1日目まで維持し、その後仔魚を回収した。実施例1と同様の方法で、仔魚から色素を抽出し、その蛍光強度を測定した。
【0038】
B.結果
結果を図2に示す。Nile Redを用いた場合、各群で測定された蛍光強度に有意差は見られず、十分な検出感度が得られないことが示された。
【0039】
参考例1
本願の方法で脂肪量が正しく測定されていることを確認するため、仔魚中の総脂肪酸量を従来の方法で測定し、本発明方法による結果と比較した。
【0040】
A.材料および方法
実施例1と同様の方法でゼブラフィッシュ(Danio rerio)仔魚及び試験物質を調製した。仔魚を、6穴ウェルプレートに1ウェルあたり約15匹、飼育水とともに投入し、1群とした。実施例1と同様の方法で試験物質を仔魚群に投与し、これを実施例1と同じ時間維持し、その仔魚を回収した。
【0041】
仔魚は、エッペンドルフ社製2mLチューブ(1本あたり5匹)に回収し、低温安楽死後、できるだけ水分を除去し、これをサンプルとして−20℃にて保存した。サンプルを加水分解処理し、市販の脂肪酸測定キット(NEFA Cテストワコー、Wako)を用いて仔魚体内の脂肪酸の定量を行った。詳細な定量手順を以下に示す。
【0042】
サンプル
↓←遠心(混入している飼育水をできるだけ除去)
Pellet
↓←加水分解処理(0.5N NaOH(メタノール溶液)):0.2ml
↓←粉砕処理(ジルコニアビーズ:2分)
↓←加熱(ヒートブロック:〜80℃、60分)
↓←中和処理(0.5NHCl(メタノール溶液)):0.25ml
↓←pH試験紙で酸性を確認
↓←ビーズ除く(ピンセット)
↓←N2で乾固
↓←+水:0.5ml+飽和食塩水:0.1ml
↓←Voltex:30秒
↓←抽出処理(クロロホルム:0.5ml)
↓←Voltex:30秒
↓←遠心(12000 rpm、3分、20℃)
下層(クロロホルム層)を分取
↓←N2で乾固⇒凍結で保存
イソプロパノール/Triton=9/1 100μlに溶解

NEFA Cテストワコーにて脂肪酸定量
【0043】
B.結果
結果を図3に示す。従来の定量法で測定した場合でも、試験物質(茶カテキン)添加群で脂肪酸量が減少していることが示された。これはBODIPY(商標)を用いた本発明の方法での測定結果と合致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内脂質の消費を亢進又は抑制する物質をスクリーニングする方法であって、該方法は、以下:
真骨魚類の胚、仔魚及び稚魚から選択される検体に対し、体内脂質を色素で染色し、且つ試験物質を投与する工程;
該検体から染色された体内脂質を単離する工程;
単離された脂質中の色素量を定量し、該色素量に基づいて体内脂質の量を決定する工程;及び
該脂質の量に基づいて、試験物質の体内脂質の消費を亢進又は抑制する能力を評価する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記検体が真骨魚類の胚又は仔魚である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真骨魚類がゼブラフィッシュ(Danio rerio)又はメダカ(Oryzias latipes)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記色素が、boron-dipyrrometheneである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記色素の濃度が1〜100ng/mlである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記色素で体内脂質を染色する時間が24時間以内である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記単離する工程が、前記検体から有機溶媒により脂質を抽出する工程である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
有機溶媒がアセトンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記検体に試験物質を投与する工程が、前記検体を含む培地に試験物質を添加する工程である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate