説明

脂質膜への付着に関係するオリゴヌクレオチド

【課題】脂質膜に対してより安定した結合を形成することができ、これによって、オリゴヌクレオチドリンカーが脂質膜に導入される工程の制御に改善を生じさせるオリゴヌクレオチド構造物を提供する。
【解決手段】脂質小胞を含む、脂質膜オリゴヌクレオチド付着を形成する方法。脂質膜に付着していることができる2つ以上の疎水性のアンカー部分を含み、該部分は、オリゴヌクレオチドの末端に付加されるか、または、第1鎖と第2鎖が2重鎖を形成している場合には、一方の鎖の同じ側の末端に付加され、2重鎖の一部を成していない他方の末端は自由なまま別の鎖とハイブリダイズできるようになっていることが可能であるオリゴヌクレオチド。。オリゴヌクレオチドを付着させている脂質小胞は、バイオセンサーに使用することができ、膜タンパク質を含むことが可能であるオリゴヌクレオチド構造物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
今日、水溶性タンパク質に関し、タンパク質チップ技術における急速な進歩が遂げられている(Kodadek,T.,Chemistry and Biology 2001,8,105−115)が、全プロテオーム構成のシグネチャーを作成するためには、病気診断および治療薬にとって共通の標的であるタンパク質の重要なグループを構成する膜タンパク質にも対応できなければならない。しかしながら、この種類のタンパク質は、しばしば、このフォーマット上で解析するのが極めて難しいタンパク質群であるとされる。実際、膜タンパク質に基づいた最初の低密度タンパク質チップは、つい最近になって報告され(Fang,Y.;Frutos,A. G.;Lahiri,J.,Journal of the American Chemical Society 2002,124,(11),2394−2395)、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)を含む脂質膜の微量分注(micro−dispensing)によって作製されたアレイが示された。膜タンパク質のアレイによる解析の可能性を十分に検討するために、繋留された脂質小胞が最も有望な代替的方法として最近になって出現してきたが、とりわけこれらによって、膜タンパク質による物質の膜透過輸送を測定できる可能性が提示されている(Stamou,D.;Duschl,C.;Delamarche,E.;Vogel,H.,Angewandte Chemie−International Edition 2003,42,(45),5580−5583)。さまざまなタイプの小胞を予め画定された領域以上に置くのを制御する方法が、まだかなりの程度欠けている。DNAハイブリダイゼーション検出のシグナル増幅のために既に利用されているDNA標識された小胞という概念(Patolsky,F.;Lichtenstein,A.;Willner,I.,Journal of the American Chemical Society 2000,122,(2),418−4)を、cDNAアレイ上で部位選択的に結合するためにDNA標識された生体分子を利用するという概念(Niemeyer,C. M.,Science 2002,297,(5578),62)と組み合わせることによって、本発明者ら(Svedhem,S.;Pfeiffer,I.;Larsson,C.;Wingren,C.;Borrebaeck,C.;Hoeoek,F.,Chem BioChem 2003,(4),339−343)およびその他(Yoshina−Ishii,C.;Boxer,S. G.,Journal of the American Chemical Society 2003,125,(13),3696−3697)により、DNAタグを付けた脂質小胞を部位選択的および配列特異的に結合させるために低密度cDNAアレイを使用することが最近になって明らかにされている。化学的に活性のある脂質へのDNAの共有結合を利用する(Yoshina−Ishii,Cら、および the article Patolsky,F. ;Katz,E.;Bardea,A.;Willner,I.,Langmuir 1999,15,(11),3703−3706)代わりに、本発明者らは、脂質膜の疎水性内部に自発的に係留させるためにコレステロールで修飾されたss−DNAを利用した。このDNA係留法には、さらに3倍の利点がある。これは、この方法が、(i)より迅速であり(数時間に対し何十分か)、(ii)化学的に修飾された脂質を導入する必要がなく、および、(iii)天然の膜成分を利用し、これによって、取り込まれた膜成分上にある化学的な反応性をもつ脂質ヘッドグループによって引き起こされる副作用のリスクをなくすためにそうなる。しかし、コレステロールによるDNAの脂質膜への係留は比較的弱いことが判明しているため、小胞当りのDNA数を定量的に制御することは面倒である。また、さまざまにDNAタグを付された小胞の、DNAアレイに対する部位選択的な仕分けは、異なってタグ付けされた小胞間でDNA交換が起こるため、並行してではなく、連続したやり方で行う必要がある(Svedhemら、Yshina−Ishiiらによって記載された上記論文参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0002】
【非特許文献1】Kodadek,T.,Chemistry and Biology 2001,8,105−115
【非特許文献2】Fang,Y.;Frutos,A. G.;Lahiri,J.,Journal of the American Chemical Society 2002,124,(11),2394−2395
【非特許文献3】Stamou,D.;Duschl,C.;Delamarche,E.;Vogel,H.,Angewandte Chemie−International Edition 2003,42,(45),5580−5583
【非特許文献4】Patolsky,F.;Lichtenstein,A.;Willner,I.,Journal of the American Chemical Society 2000,122,(2),418−4
【非特許文献5】Niemeyer,C. M.,Science 2002,297,(5578),62
【非特許文献6】Svedhem,S.;Pfeiffer,I.;Larsson,C.;Wingren,C.;Borrebaeck,C.;Hoeoek,F.,Chem BioChem 2003,(4),339−343
【非特許文献7】Yoshina−Ishii,C.;Boxer,S. G.,Journal of the American Chemical Society 2003,125,(13),3696−3697
【非特許文献8】Yoshina−Ishii,Cら、および the article Patolsky,F. ;Katz,E.;Bardea,A.;Willner,I.,Langmuir 1999,15,(11),3703−3706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(発明の概要)
本発明は、脂質膜に対してより安定した結合を形成することができ、これによって、オリゴヌクレオチドリンカーが脂質膜に導入される工程の制御に改善を生じさせるオリゴヌクレオチド構造物を提供することを目的とする。また、本発明は、脂質膜オリゴヌクレオチド付着を形成する方法、および、このようなオリゴヌクレオチドを備えた脂質小胞、ならびにこのような小胞を形成する方法も目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の説明)
本発明を理解することを容易にするため、いくつかの用語を以下のように定義する。
【0005】
本明細書において、「小胞」または「リポソーム」という用語は、通常、脂質膜でできている球状の構造体(直径5nmから20μm)であって、タンパク質、糖脂質、ステロイド、または他の膜関連成分を含むことができるか、または含むことができない構造体を意味する。「リポソーム」および「小胞」という用語は、本明細書において同義的に使用される。小胞は、天然に(例えば、細胞の細胞質の中に存在していて、分子を輸送し、および、特異的な細胞機能を区画化する小胞)、または合成によって生じさせることができる(例えば、リポソーム)。ここで、「小胞」という用語は、脂質を含む粒子であって、親水性の外部と疎水性の内部を有する粒子である「ミセル」に対しても使用される。
【0006】
本明細書において、「ヌクレオチド」という用語は、DNAおよびRNAなどの核酸、および、PNA(ペプチド核酸)、LNA(ロックト核酸)、およびモルホリノ核酸アナログなどの核酸アナログを意味するが、これらに限定されるものではない。この用語は、DNAおよびRNAの公知の塩基アナログからなる任意のヌクレオチドにも関連する。
【0007】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、短い単鎖ポリヌクレオチド鎖を意味する。オリゴヌクレオチドは、典型的には長さが100残基以下であるが、本明細書においては、より長いポリヌクレオチドを含むことも意図されている。この用語は、上記に定義されているヌクレオチドのあらゆる組合せであって、ヌクレオチドのポリマーを形成するものを意味する。
【0008】
本明細書において、「ハイブリダイゼーション」という用語は、しばしばワトソン‐クリック型ハイブリダイゼーションと呼ばれる本質的に相補的な核酸の対合、ならびにフーグスティーン(Hoogsteen)型ハイブリダイゼーションと呼ばれるハイブリダイゼーションに関して用いられる。本明細書において、「固定化」という用語は、物質の動きを拘束するが、必ずしも規制しない形で、化学的またはこの他の方法で物質をトランスデューサーの表面に付着または捕捉させることを意味する。本明細書において、「分析物」という用語は解析の対象となる任意の物質を意味する。
【0009】
本明細書において、「バイオセンサー」という用語は、一部または全体が生体分子から成る任意のセンサー装置を意味する。従来の意味では、この用語は、「生化学シグナルを電気シグナルに変換する適切な変換装置と密接に連結する固定化された生体物質(酵素、抗体、全細胞、細胞小器官、またはこれらを組み合わせたものなど)から成る解析ツールまたは解析システム」(Gronow,Trends Biochem Sci 9,336,1984)を意味する。
【0010】
本明細書において、「多重層」という用語は、少なくとも第1の層の上に形成された第2の層から成る構造物を意味する。それぞれの層は相互に作用し合うことも、し合わないことも可能である。
【0011】
本明細書において、「生物活性化合物」という用語は、他の物質または化合物と相互作用する能力がある生体化合物を意味する。このような生物活性化合物は、タンパク質、抗体、ヌクレオチド、脂質、炭水化物、およびこれらを組み合わせたものを含むが、これらに限定されるものではない。「レセプター」および「生物活性化合物」という用語は、本明細書において同義のものとして使用される。
【0012】
本明細書において、「膜タンパク質」という用語は、脂質層の脂質膜に結合または挿入されているタンパク質またはポリペプチドを意味するが。
【0013】
本明細書において、「外向きに突出した化合物」という用語は、表面から突出している部分をもった化合物を意味する。小胞の場合のように表面が本質的に球状である場合、この用語は、化合物が表面から周囲に向かって突き出ていることを意味する。
【0014】
本明細書において、「表面」という用語は最も広義に用いられるべきである。構造物をこの上に固定化することができる支持手段として使用することができるすべての化合物を含む。
【0015】
本明細書において、「結合するのに適合したリンカー」という用語は、リンカーが、別の化合物に結合する能力がある化合物を含むことを意味する。
【0016】
本明細書において、「結合に使用可能なリンカー」という用語は、あるリンカーが、結合するのに適合してはいるが、別のリンカーにまだ結合していないこと、または、このリンカーの結合部位のすべてがまだふさがれていないことを意味する。
【0017】
最も一般的に言えば、本発明は、脂質膜に付着可能な少なくとも2つの疎水性アンカー部分を含むオリゴヌクレオチドに言及する。アンカー部分は、膜の隣接部位における疎水性相互作用により脂質膜に直接結合する役割を果たしており、本質的には、確立されている技術によって多くの生物学的機能を備えることができ、および、本発明者らの並行出願であるSE 03 01038−6および下記においてさらに説明されているようなタイプの多層表面を作り上げるためのリンカーとして働くことができる。
【0018】
また一般的に言えば、本発明は、脂質膜付着性リンカーを形成する方法であって、2個以上の疎水性アンカー部分をもつオリゴヌクレオチドが脂質膜と接触することにより、同じ膜の隣接部位において、該部分によって該オリゴヌクレオチドを直接付着させる方法に言及する。好適には、膜が脂質小胞を形成し、この膜は2層膜である。この方法によって、オリゴヌクレオチドが驚くほど強力に、実質的に不可逆的に膜に結合することが可能となる。
【0019】
好適には、疎水性アンカー部分はオリゴヌクレオチドの末側に位置しており、脂質膜は小胞の一部となっている。1つの態様において、オリゴヌクレオチドは、核酸の第1の鎖および第2の鎖を含んでおり、これら2本の鎖は、第1の鎖の末端側が2重鎖区画の一部とならず、疎水性アンカー部分から自由な形で、互いにハイブリダイズして2重鎖区画となっている。好適には、疎水性アンカー部分が該第1および第2の鎖の隣接末端に共有結合している。
【0020】
別の態様において、多価オリゴヌクレオチドが集合して、脂質膜に複数(2つより多い)の付着点を設けることができる。本発明者らは、より高い水溶性を有する、より長い核酸を使用する結果として、疎水性アンカーユニットの数を増やす必要が生じる可能性があると考える。このために、本発明は、代わりに、第1および第2の鎖に加えて、n本のさらに別の鎖を含むオリゴヌクレオチドを目的とする(nは正の整数とする)。n本のさらに別の鎖はそれぞれ、末端の疎水性アンカー部分を備えており、この中で、第1の追加鎖は上記第2の鎖にハイブリダイズし、第2の追加鎖は第1の追加鎖にハイブリダイズし、第n鎖は第(n−1)鎖にハイブリダイズする。
【0021】
さらに別の態様において、オリゴヌクレオチドは、複数の脂質小胞などの多重層膜構造物、または、化学的または生物学的に活性のある表面を設計するときに役立つ別の集合物を作出するための連接物を構成すると解することができる。このようなオリゴヌクレオチドは、第1および第2の鎖が、これら2本の鎖が、第1の鎖が自由に第3の鎖とハイブリダイズできるような形で2重鎖領域において互いにハイブリダイズしている、第1および第2の鎖を含む。第1の鎖の自由末端は、例えば、標識用物質、抗体、周囲の液体から所望の物質を抽出することができる捕捉用物質、または、特異的結合能力をもつ従来の物質のような別の物質を含むこともできる。本態様の1つの実施態様において、オリゴヌクレオチドは、末端に疎水性アンカー部分を有するか、有しない第3の鎖がハイブリダイズする、両末端に疎水性アンカー部分をもった第1の鎖であって、この第1および第3の鎖が隣接する疎水性アンカー部分を有するようになる第1の鎖を含む。
【0022】
疎水性アンカー部分は、例えば、ステロイド、脂肪酸、疎水性ペプチドおよび脂質から選択され、最も好適には、疎水性アンカー部分は、コレステロールまたはこの誘導体である。
【0023】
脂質膜の疎水性部と最適に会合する可能性のある、適切に柔軟な構築物を形成するために、本発明のオリゴヌクレオチドは、スペーサー基、または十分な数のハイブリダイズしない核酸ユニットによって2重鎖区画から間隙を置いて隔てられている疎水性アンカー部分を有する。2重鎖区画の鎖長によって最適な柔軟性/剛性をもったオリゴヌクレオチド構造物を得るために、鎖化学(chain chemistry)を改変することも可能である。
【0024】
オリゴヌクレオチドは、一般的に、表面に固定されたリンカー、または別の脂質膜に付着したリンカーへの特異的結合によって連接されるよう適合させて利用することができる。連接は、核酸のハイブリダイゼーションを介して、または、当業者によって十分に理解されている別の種類の特異的結合によってもたらすことができる。例えば、オリゴヌクレオチドは、PNA−ペプチド複合体を形成することができるペプチド核酸(PNA)の区画を含むことができる。または、オリゴヌクレオチドは、直接表面に固定することができ、例えば、第1鎖の自由末端によって、脂質膜か、または別の適切な化合物もしくは構造物に直接固定することができる。本技術分野における当業者に公知または利用可能な核酸を表面に固定できるようにする数多くの経路があるため、これに関連しては、これ以上検討する必要はない。
【0025】
本発明の好適な実施態様によれば、第1の鎖は第2の鎖よりも長い(すなわち、より多くの核酸ユニットを含む)。第1および第2の鎖は、第2鎖の末端を含む2重鎖領域を有する。適切な一例によれば、第1の鎖は、核酸モノマーの量が第2の鎖の本質的に2倍であり、該第1および第2の鎖は、それぞれ、遊離した5’末端および3’末端に付着したコレステロール分子をもつ。具体的な例では、オリゴヌクレオチドは、第1鎖が30量体のDNAであり、第2鎖が、相補的な12塩基を有する15量体のDNAである。
【0026】
オリゴヌクレオチドは、脂質小胞に好適に付着することができる。このように形成された脂質小胞は、さまざまな追加的機能を持つように設計することが可能である。例えば、このような脂質小胞は、電気化学的に検知可能なリポーター分子を、参照として本明細書に組み込まれる国際公開公報第WO 02/081739号および第WO 02/081738号に概説されているような形で含むことができる。脂質小胞は、上記のSE0301038−6においてより詳細に考察されているように、膜タンパク質など、生物学的機能性を示す生体活性化合物を含むことができる。
【0027】
本発明は、上記の特徴をもつ膜付着性オリゴヌクレオチドを有する複数の小胞を含む、表面に固定された構造物をさらに目的とする。このような構造物を構築するために、小胞は、表面に固定されたリンカー、別の脂質小胞に付着したリンカー、または上記したタイプの表面に固定されたオリゴヌクレオチドのいずれかに特異的結合によって連接されるよう適合され、使用できるようになっている。表面に固定された構造物は、一般的に、バイオセンサーに使用することができるが、数多くの別の応用法も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、2価コレステロールに基づくオリゴヌクレオチド、および、さまざまなコレステロール−DNA集合体を段階的に加えたとき、散逸観測(dissipation monitoring)の測定値による石英微量天秤から得られた結合質量の変化を示す。
【図2】図2は、明細書において作製および記載されているDNAアレイの略図と、さまざまにDNAタグ付けされた小胞の選別を例示する顕微鏡写真とを示す。
【図3】図3は、脂質膜への付着に利用することができる2個より多くの疎水性アンカー部分をもつ多価オリゴヌクレオチドの略図例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
多価性の相互作用を利用する自然の方法を模倣することによって、本発明者らは、本研究において、脂質膜に結合する、コレステロールに基づくDNAの強度を向上させる新規の方法を提示する(Mammen,M.;Choi,S. K.;Whitesides,G. M.,Angewandte Chemie−International Edition 1998,37,(20),2755−2794)。それぞれ3’末端と5’末端がコレステロールで修飾されている15量体DNAと30量体DNAをハイブリダイズさせることによって、2価性のコレステロールに基づくDNAの結合を行った(図1)。
【0030】
水を脱イオン化して濾過した(MilliQ装置、Millipore)。以下のDNA鎖:
5’−TAGTTG−TGA−CGT−ACA−CCC−CC−3’(DNAA’);5’−TAT−TTC−TGA−TGT−CCA−CCC−CC−3’(DNAB’);5’−TGT−ACG−TCA−CAA−CTA−CCC−CC−3’(DNA);5’−TGG−ACA−TCA−GAA−ATA−CCC−CC−3’(DNA);5’−TAG−TTG−TGA−CGT−ACA−AAG−CAG−GAG−ATC−CCC−3’(DNA);5’−TAT−TTC−TGA−TGT−CCA−AGC−CAC−GAG−ATC−CCC−3’(DNA);5’−CCC−GAT−CTC−CTG−CTT−3’(DNAC’);5’−CCC−GAA−CTC−GTG−GCT−3’(DNAD’
は、3’末端をビオチン(biotin−DNA)またはコレステロール(chol−DNA;chol−DNA;chol−DNAB’)で、または、5’末端をコレステロール(chol−DNA、chol−DNAC’、chol−DNA、chol−DNAD’)で誘導体化されている(MedProbe社、ノルウェー)。DNA複合体(バッファーI中20μM:10mMトリス、1mM EDTA、pH 8.0)およびタンパク質(ビオチン標識されたBSA(Sigma社、水に1mg/mL)、ニュートラアビジン(Pierce社、バッファーII中1mg/mL:10mMトリス、pH8.0、100mM NaCl)の保存溶液を一定分量に分けて−20℃で保存した。1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC、Avanti Polar Lipids社、米国アラバマ州(AL、USA))をクロロフォルムに溶解させた。蛍光性小胞については、0.5%(w/w)のLissamine(商標)ローダミンB 1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(ローダミン−DHPE)(Molecular Probes社、米国)または2−(12−(7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)ドデカノイル−1−ヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(NBD−HPC)(Molecular Probes社、米国)を脂質溶液に加えた。溶媒をN下で蒸発させた(>1h)後、バッファー(5mg/mL)中で水和させ、それぞれ11×の0.1および0.03μmポリカーボネート膜から押し出して、N下4℃で保存した。小胞1個当りほぼ4個のDNAに相当する0.5%(w/w)のchol−DNAを小胞溶液に加えてDNAの標識を行った。保存溶液を所定の濃度になるようバッファーIIに溶解して全ての実験を行った。基質(金またはSiOのいずれかを有するATカット水晶、f=5MHz)およびQCM−D計器(Q−センスD300)は、スエーデンのキューセンス社(Q−sense)から入手した。結晶は、10mM SDS(>15分)で洗浄した後、水で2回濯ぎ、乾燥させ(N)て、UV−オゾン処理(10分)を行った。画像化に使用した顕微鏡は、ツァイス社(Zeiss)のAxioplan 2蛍光顕微鏡であった。SiOで被覆された結晶を、3nMのTiおよび100nMのAuを、マスクを通して蒸発させることによりパターン化した。
【0031】
30量体の鎖上にある12塩基を、15量体鎖上の12塩基に相補的になるよう選択して、構築物の詳細な設計を画定した。これらの鎖をインキュベートして形成された2重鎖が、依然として1対のハイブリダイズしない(3C)スペーサーによって2重鎖領域から隔てられている2つのコレステロール部分を近傍に来させるよう配列を選択した。
【0032】
図1aは、既述された(CA Kellerら、Biophysical Journ. 75 (3),1397−1402)通りにして形成されたSPB被覆SiO表面に濃度を上げながら、chol−DNAを段階的に加えたときの、散逸観測(QCM−D)測定値による石英微量天秤から得られたf(結合質量参照)の変化を示す。SPB被覆SiO被覆されたQCMセンサーの表面上にSPBが自然に形成された後(t=2から4分)、濃度を上げながら(青)chol−DNAを加えて得られたfの経時変化は、流速250μL/分で5、10、25、50、100nMであった。100nMで飽和結合した後、このシステムをバッファーで念入りに洗浄して、ラングミュアの吸着作用に合致する完全に可逆的な結合を実証し(DNAフィルムに捕捉された水がQCMによって感知されるため(例えば、14参照)、fの変化を、結合質量の量を定量するために使用することはできないが、結合質量対濃度の相対的な比較のためだけに利用した)、K(=koff/kon)値およびkoff値が、それぞれ16.7±4nMおよび約5.8×10−4−1であることを明らかにした(30量体のchol−DNAを加えると、chol−DNAおよびchol−DNAの反応速度と同じような反応速度を示す(図示せず))。
【0033】
図1bに関して、図1aで示されている実験状況におけると同じタイプのデータが、事前に(30分間のインキュベーション)ハイブリダイズさせておいたchol−DNAおよびchol−DNAC’からなるDNA構築物を、濃度を上げながら加えると得られた:25、37.5、50および75nMおよび5nMのみ。飽和結合した後、溶液を純粋なバッファーIIに交換した。また、挿入図として示されているのは、chol−DNA/chol−DNAC’の2重鎖構築物上に15個の遊離した突出塩基に相補的なchol−DNAを加えたときのものである。2個のコレステロール部分をもつ2重鎖構築物(chol−DNA/chol−DNAC’)の結合は、濃度とは無関係に不可逆的結合を示す(図1b参照)。これは、ラングミュア法に基づくデータ解析を排除するが、1価の結合に比べて、koffが1桁以上少なくなることを示している。したがって、1価および2価の結合についてkonは同じであるとの前提(M Mammenら、による上記引用論文参照)の下では、親和定数(1/K)は、2価の結合では少なくとも1桁大きい。たとえ、結合強度の上昇が、これよりも大きく、さらに、理論値である(1/Kに近づいたとしても、最も重要な観察結果は、結合が不可逆的であるということである。
【0034】
第1に、このことは、2価の結合を用いて、脂質膜領域当りのDNA数を正確に制御することができるということを意味している。第2に、完全に相補的なビオチン−DNAを加えると急速に結合すること(図2bの挿入図)は、詳細なDNAハイブリダイゼーション反応速度を調べるためにこの鋳型が適していることを示している。第3に、さまざまにDNA修飾された小胞の間におけるDNAの交換が顕著に減少する可能性が高い。
【0035】
後者の仮説を検討するために、chol−DNAで修飾された平坦なSPBによって囲まれているため、最も単純な「cDNAアレイ」である可能性があるものを含む、ビオチン−DNA修飾された金スポットを作製して2価のコレステロール結合を調べた(図2)。
【0036】
既述したように作製したDNAアレイの略図を示す図2(左)について(Svedhemらによる上記論文参照)。要するに、ビオチン−BSA(10μγ/μL)を周囲のSiOよりもAuスポットに優先的に吸着させて表面のパターンを変更した後、POPC脂質小胞溶液(20マイクログラム/mL)を加えて、周囲のSiO基質をSPBで修飾させた一方で、ビオチン−BSAで修飾された金スポットには弱い吸着しか起こらなかった(Svedhemら)。次いで、引き続き(i)ニュートラアビジン(10.0マイクログラム/mL)、ビオチン−DNA(0.1マイクロM)、およびchol−DNA(0.1マイクロM)を加えた。図2(右)は、それぞれchol−DNAA’およびchol−DNAB’で修飾されているローダミン標識された小胞(exc.=550nM/em.=590nM)およびNBD標識された小胞(exc.=460nM/em.=550nM)(顕微鏡写真iおよびii)と、それぞれchol−DNA/chol−DNAC’およびchol−DNA/chol−DNAD’からなる2価結合したDNA構築物との混合物に、DNA修飾された基質を曝露することによって得られた、さまざまにDNAタグ付けされた小胞の選別を説明する顕微鏡写真(iからiv)を示す。DNA濃度を小胞1個あたり約4個のDNAになるよう調整した。曝露する前に、小胞の懸濁液を5分間インキュベートし、30分後、画像ii)およびiv)について緑色フィルター(exc.=450から490nM/em.=515から565nM)を用いて、画像i)およびii)については赤色フィルター(exc.=546nM/em.=590nM)を用いて解析した。
【0037】
2つのタイプの小胞の混合物から並行選抜することを評価するために、「cDNAアレイ」を2つのタイプの小胞懸濁液に曝露した。一方は、それぞれchol−DNAA’およびchol−DNAB’によって修飾されている2種類の別々に蛍光標識された小胞(赤と緑)を含んでいた(図1a参照)。もう一方は、それぞれ固定されたchol−DNAおよびchol−DNAに相補的な1本鎖領域を有する、2価結合したDNA構築物を介して別個に修飾された同じタイプの小胞を含んでいた(図1bの挿入図参照)。実際、2価結合したDNAによってタグ付けされた小胞を含む小胞懸濁液は、表面上の予め画定された領域に配列特異的および部位選択的に結合する(図2のiiiおよびiv)一方で、1価結合により修飾された小胞は、どちらの領域にも分布しているように見える(図2のiおよびii)。SPB基質上の蛍光が全体的により低いのは、ビオチン−DNAよりもchol−DNAのカバー率が少ないためであり、また、図iv.)のスポット上の蛍光ドットが弱いのは、SPB形成過程でビオチン−BSAに非特異的に吸着した脂質小胞に対してchol−DNAが結合するためである(図面の説明を参照)。
【0038】
たとえ、2価コレステロールに基づく結合の強度が、活性型脂質ヘッドグループに共有結合すると得られるものよりも必ずしも高くなってはいないとしても、本発明者らは、原理の単純さ、および、例えば、細胞によって産生されるか、元の細胞膜から形成される脂質小胞などの非常に多様な脂質集合体など、この広い応用範囲を重視している(公表予定)。
【0039】
さらに、制御されたフロー条件下におけるハイブリダイゼーションを検出するためにDNA修飾されたSPBを上手に使用すること(図1b)は、薬剤−DNA、タンパク質−DNA、およびDNA−DNAの相互作用を研究するための興味深い鋳型を指向する。DNAによるカバー率は正確に制御することができ、これが固定化されたDNAの場合に重要であることが知られているため、これは特にそうである(Larsson,C.;Rodahl,M.;Hook,F.,Analytical Chemistsy 2003,75,(19),5080−5087、およびShchepinov,M. S.;CaseGreen,S. C.;Southern,E. M.,Nucleic Acids Research 1997,25,(6),1155−1161)。さらに、広く使用されているストレプトアビジンの鋳型であって、これらの目的のために使用されるものは、一定の場合に、好ましくない非特異的なタンパク質結合を誘導する可能性があるが、この場合は、この可能性が顕著に低くなっている可能性がある。
【0040】
最後に、DNAを構成単位として利用して2価結合を構築する本発明者らの手段は、多価の相互作用をもたらすDNA構築物にまで容易におよぶため、例えば、本技術分野における最近の理論的発展を裏付けるための基礎研究を行うための簡単なモデルシステムを含む(Kitov,P. I.;Bundle,D. R.,Journal of the American Chemical Society 2003,125,(52),16271−16284)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質膜に付着することができる疎水性アンカー部分を少なくとも2個含むオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
前記疎水性アンカー部分がその末端に存在する、請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
核酸の第1および第2の鎖を含む請求項2に記載のオリゴヌクレオチドであって、前記2つの鎖が、第1鎖の末端が2重鎖区画の一部ではなく、及び疎水性アンカー部分から自由な形で、前記2重鎖区画において互いにハイブリダイズしている、前記オリゴヌクレオチド。
【請求項4】
2つの疎水性アンカー部分が、前記第1および第2の鎖の末端に隣接して共有結合している、請求項2または3に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
n>0の整数であるn、それぞれが末端に疎水性アンカー部分を備えた追加の鎖であって、第1の追加鎖が前記第2の鎖にハイブリダイズし、第2の追加鎖が第1の追加鎖にハイブリダイズし、第n鎖が第(n−1)鎖にハイブリダイズする前記追加の鎖を含む、請求項3または4に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項6】
第1および第2の鎖を含む請求項2に記載のオリゴヌクレオチドであって、前記2つの鎖が、第1の鎖が自由に第3の鎖とハイブリダイズできるような形で2重鎖区画において互いにハイブリダイズしている、前記オリゴヌクレオチド。
【請求項7】
前記第1の鎖が、両末端に疎水性アンカー部分を有する、請求項6に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項8】
前記第3の鎖が末端に疎水性アンカー部分を有して、第1および第3の鎖が隣接する疎水性アンカー部分を有する、請求項7に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
疎水性アンカー部分が、ステロイド、脂肪酸、疎水性ペプチド、および脂質から選択される、請求項1から8のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項10】
疎水性アンカー部分がコレステロールまたはこの誘導体である、請求項9に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項11】
疎水性アンカー部分が、スペーサー基、または、十分な数のハイブリダイズしていない核酸ユニットによって2重鎖区画から間隔を置かれている、請求項3から10に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
表面に固定されたリンカー、または別の脂質膜に付着しているリンカーに対する特異的結合によって連接されるよう適合され、利用可能することができる、請求項1から11のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項13】
表面に固定されている、請求項1から11のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項14】
第1の鎖が第2の鎖よりも長く、前記第1および第2の鎖が、第2の鎖の末端を含む2重鎖区画を有する、請求項2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
第1の鎖が、第2の鎖よりも本質的に2倍の核酸モノマー量を有し、前記第1および第2の鎖が、それぞれ、これらの遊離した5’末端および3’末端に付着したコレステロール分子を有する、請求項8に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項16】
PNA−ペプチド複合体を形成することができるペプチド核酸(PNA)の区画を含む、請求項1から15のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
第1の鎖が30量体のDNAであり、第2の鎖が、12個の相補性塩基を有する15量体のDNAである、請求項9に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
脂質膜に付着した請求項1から10のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドを含む、脂質小胞。
【請求項19】
電気化学的に検出可能なレポーター分子を含む、請求項17に記載の脂質小胞。
【請求項20】
生物学的機能性を示す生物活性化合物を含む、請求項11に記載の脂質小胞。
【請求項21】
前記生物活性化合物が膜タンパク質である、請求項21に記載の脂質小胞。
【請求項22】
請求項18から21に記載の複数の小胞を含む、表面に固定された構造物であって、前記小胞が、任意の表面固定化リンカー、別の脂質小胞に付着したリンカー、または表面に固定されている請求項13に記載のオリゴヌクレオチドに対する特異的結合によって連接されるよう適合され、利用できるようになっている、前記構造物。
【請求項23】
請求項13に記載の表面に固定された構造物を含むバイオセンサー。
【請求項24】
脂質膜に付着したリンカーを形成する方法であって、2つ以上の疎水性アンカー部分を有する請求項1から17のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドが脂質膜に接触して、同じ膜の隣接する部位において前記部分による前記オリゴヌクレオチドの直接的付着が行われる、前記方法。
【請求項25】
前記膜が脂質小胞を形成する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記膜が2層膜である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
付着が不可逆的である、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−55939(P2013−55939A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−222399(P2012−222399)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2007−500723(P2007−500723)の分割
【原出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(507190880)バイオ−ラッド ラボラトリーズ インコーポレーティッド (25)
【Fターム(参考)】