説明

脆性材料割断装置

【課題】板ガラスのような脆性板材を割断するために、複数本のビームよりなるビーム列によって加熱する際に、ビーム列の密度およびビームの本数を調整可能とし、かつ、干渉性散乱の発生を抑制する。
【解決手段】被割断脆性材料に対して不透明な波長のレーザ光線を出力するレーザ光源と、このレーザ光源より出力されたレーザ光線を細く絞るコリメーターと、平行に対向配置された全反射面11および部分反射面12よりなり、コリメーターを経た1本のレーザビームbを斜入射させて複数本のビーム列cに変換するビーム変換手段1と、このビーム変換手段1に入射する1本のレーザビームbの入射角αを変化させて複数本のビーム列cの密度を調整するとともに、ビーム変換手段1の全反射面11および部分反射面12の対面長さL0を調整して変換される複数本のビーム列cの本数を調整する手段を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱応力を利用して脆性材料の板材(例えば、ガラス板)に亀裂を形成させて、脆性材料の板材を分断する割断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脆性材料の板材を割断する際には、板材に機械的に亀裂始点を形成し、その亀裂始点の近傍を局部的に加熱し、この加熱部に追従する部位を局部的に冷却して、加熱部および冷却部を順次に割断予定線に沿って移動させることにより、板材の表面温度が低く、深部の温度が高くなる温度勾配を形成することにより表面層に引張り応力を誘起させて、この引張り応力により板材に亀裂を連続的に進展させる割断方法が、下記特許文献1に開示されている。
【0003】
脆性材料の板材の割断に必要な応力を発生させるためには、板材の表面のみで発生する熱を時間を掛けて板材の内部に伝導させ、十分な応力を発生させるために必要な加熱領域を材料内部に拡大させる必要がある。
【0004】
そこで、レーザ光源から出力される一本のレーザビームを割断予定線の方向に拡げて照射させるために、レーザ光源から出力される一本のレーザビームを平行に対向配置した全反射面および部分反射面を有するビーム変換手段に斜入射させ、全反射面および部分反射面の間において複数回多重反射させて、部分反射面からビームエネルギーの一部を順次に透過させることにより複数本のビームよりなるビーム列を形成して板材に照射することが、下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3027768号公報
【特許文献2】特開2004−155159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された脆性材料割断装置においては、レーザ光源より出力される1本のレーザビームを半円柱形レンズにより楕円形状のビームに変換して脆性材料の板材に照射させている。レーザ光源より出力されるレーザビームは、図3(a)に示すように、その中心部分のエネルギー密度が高く、周辺部に広がるにつれてエネルギー密度が低くなるガウス分布形状を有しており、楕円形状に変換しても、長手方向にガウス分布形状を有するので、板材表面に与える熱分布はガウス分布と同様になり、加熱時間、加熱距離の延長、必要以上の熱を与えなければならない等の問題があった。
【0007】
そこで、特許文献2の開示された脆性材料割断装置においては、レーザ光源から出力される一本のレーザビームを平行に対向する全反射面および部分反射面を有するビーム変換手段に斜入射させ、全反射面および部分反射面の間において複数回多重反射させて、部分反射面からレーザビームのエネルギーの一部を順次に透過させることにより複数本のビームよりなるビーム列を形成することがが提案されている。
【0008】
この特許文献2の開示された脆性材料割断装置においては、変換されたビーム列の板材に対する加熱部(ビーム列)の長手方向寸法および幅方向の寸法を調整するために、2つのZnSe製の半円柱形レンズを互いに焦線が直交するように配置した光学系を使用し、これら2つの半円柱形レンズと脆性板材との間隔を変化させて、ビーム列の縦横の寸法を調整している。
【0009】
この脆性材料割断装置において、図3(a)に示すガウス分布形状を有する一本のレーザビームをビーム変換手段によって複数本のビーム列に変換するとき、複数本のビームを接近させてビーム列の全幅を狭めて密度を高めると、隣接する各ビームの周囲部が重畳して干渉することがある。
【0010】
レーザビームは、可干渉性を有しているので、隣接するレーザ光線の一部でも重畳すると、干渉性散乱を生じて複数本のビーム列が部分的に幅が拡がって一定幅の列を形成することができない。
【0011】
そこで、この発明の脆性材料割断装置は、このような複数本のビームよりなるビーム列の密度およびビームの本数を調整可能とし、かつ、干渉性散乱の発生を抑制するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の脆性材料割断装置は、被割断脆性材料に対して不透明な波長のレーザ光線を出力するレーザ光源と、このレーザ光源より出力されたレーザ光線を細く絞るコリメーターと、平行に対向配置された全反射面および部分反射面よりなり、上記コリメーターを経た1本のレーザビームを斜入射させて複数本のビーム列に変換するビーム変換手段と、このビーム変換手段に入射する上記1本のレーザビームの入射角を変化させて複数本のビーム列の密度を調整する手段とを具備するものである。
【0013】
また、ビーム変換手段の平行に対向配置された全反射面および部分反射面の対面長さを調整して変換される複数本のビーム列の本数を調整する手段を具備させることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の脆性材料割断装置によると、レーザ光源から出力された1本のレーザビームをコリメーターによって細く絞ってから、ビーム変換手段により複数本のビーム列に変換しているので、複数本のビーム列の密度が高くなって各ビームが接近しても干渉性散乱の発生を抑制することができる。
【0015】
さらに、この発明の脆性材料割断装置によると、半円柱レンズを使用することなく、ビーム変換手段に対するレーザビームの入射角を変化させ得るように構成することにより、変換された複数本のビーム列の密度を調整することができる。また、ビーム変換手段の対向配置された全反射面および部分反射面の対面長さを調整し得るように構成することにより、変換される複数本のビーム列の本数を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の脆性材料割断装置の実施の形態を示す概要図、
【図2】図1の装置におけるビーム変換手段の詳細を示す説明図、
【図3】レーザ光源から出力されるレーザビームのエネルギー分布を示す説明図、
【図4】この発明の割断装置による亀裂発生の原理を説明する図であって、脆性板材に作用する応力を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の脆性材料割断装置によるレーザ割断方法の原理は、図4に示すように、脆性材料の板材をレーザ光線のビーム列cの熱源によって板材表面を溶融・破壊しない程度に加熱すると、板材の表面温度が上昇して膨張しようとするが、周囲の加熱されていない領域によって拘束されているので強い圧縮応力pが作用する。
【0018】
さらに、移動するビーム列cの熱源によって加熱し続けると、板材表面のみで発生した熱が、時間を掛けて板材内部に伝導して加熱領域が内部および幅方向に拡大するので、表面に作用していた圧縮応力pは減少する。
【0019】
その後、加熱領域から間隔xだけ離れたの後方において、温度が上昇した板材の表面に冷却手段から冷媒Jを吹き付けて局部的に冷却すると、表面温度が低くなるが、深部温度は高いので、板材の厚み方向に温度勾配が形成される。この温度勾配が表面から深部まで進むにつれて、表面に作用する引張応力tが強くなり、この引張応力tが板材の破壊靱性値を超えたとき、板材の表面に実線で示す一筋の亀裂kが形成される。この亀裂kにより脆性材料の板材を分断することができる。
【0020】
以上で説明した割断方法の原理に基づくこの発明の脆性材料割断装置は、図1に示すように、脆性材料の板材Gの割断予定線(図4の一点鎖線)の始点に亀裂を形成する初期亀裂形成手段5と、割断予定線に沿って、レーザ光線のビーム列cにより板材Gを線状に加熱するレーザ照射手段と、このレーザ照射手段による加熱領域に間隔xをあけて追従しながら加熱された板剤Gの表面に冷媒Jを吹き付けて急冷却する冷却手段6と、板材Gを載せて移動するるテーブル9とを備えている。このテーブル9は、モータ91および螺子棒92により駆動される。
【0021】
板材Gを線状に加熱するレーザ照射手段は、図1に示すように、割断するガラス板などの板材Gにおいて不透明な波長(5〜6μm)のレーザ光線を出力するレーザ光源、例えば、波長10.6μmのレーザ光線を出力する炭酸ガスレーザ光源2と、このレーザ光源2から出力される1本のレーザビームaを細いビームbに絞るコリメーター3と、このコリメーター3で絞られた細い一本のレーザビームbを下向きに反射するコーナーミラー4と、割断予定線の方向に配列した複数本のビームよりなるビーム列cに変換するためのビーム変換手段1を備えている。
【0022】
このビーム変換手段1は、図2に詳細を示すように、平行に対向配置された全反射面11および部分反射面12を備えており、一本のレーザビームbを斜入射させて、全反射面11および部分反射面12の間において複数回多重反射させながら、部分反射面12からビームエネルギーの一部を順次に透過させて複数本のビームよりなるビーム列cとして脆性板材Gに照射させるものである。
【0023】
図2に示すように、全反射面11は、レーザ光線を透過させる板材11aの一部分(図示左側)に形成されており、全反射面11の先端部から僅かに離れた位置10よりレーザビームbを入射させる。
【0024】
部分反射面12は、レーザ光線を透過させる板材12aの一部分(図示右側)に形成されており、この板材12aは、板材11aに対して平行に移動可能に構成され、全反射面11と部分反射面12との対面長さL0を調整可能に構成されている。
【0025】
このように、部分反射面12を全反射面11に対して平行に移動可能に構成しておくことにより、入射したレーザビームbが多重反射して最終のビームが部分反射面12で反射することなく、そのまま透過までの回数、すなわち、板材Gを照射するビーム列cの本数を設定することができる。
【0026】
このように構成することにより、斜入射させた1本のビームbは、全反射面11および部分反射面12において複数回多重反射する。このとき、両反射面11、12に対するビームbの入射角αが鋭角で小さい場合には、図2(a)に示すように、出力される複数本のビーム列cの長さL1が拡がり、両反射面11、12に対するビームbの入射角αを直角に近づけると、図2(b)に示すように、出力される複数本のビーム列cの幅L2が狭くなるように密度が変化するので、所望の長さのビーム列cとなるように、ビーム変換手段1の回動角度αおよび全反射面11と部分反射面12との対面長さL0を設定する。
【0027】
すでに図3(a)によって先に説明したように、半導体レーザ、炭酸ガス・レーザなどのレーザ光源から出力されるレーザビームbは、そのビーム中心部分のエネルギー密度が高く、周囲部分のエネルギー密度が低くなるガウス分布形状を有している。
【0028】
このようなエネルギー分布を有するレーザビームをビーム変換手段1によって、複数のビームよりなるビーム列cに変換する際に、複数本のビームを接近させてビーム列cの密度を高めると、各ビームの周囲部が重畳することがある。
【0029】
レーザビームは、可干渉性を有しているので、隣接するレーザの一部でも重畳すると、干渉性散乱を生じて複数本のビームを一直線状の列に形成することができない。
【0030】
しかし、コリメーター3を設けて、図3に示すように、レーザ光源2から出力される1本のレーザビーム(a)を細いビーム(b)に絞ってからビーム変換手段1に入射させているので、干渉性散乱を生じることはなく、複数本のレーザビームよりなる線状のビーム列cを得ることができる。このビーム列cを形成する複数本の各レーザビームの太さは、コリメーター3により設定することができる。
【0031】
このように構成されたレーザ照射手段によると、従来の割断装置のように、2つの半円柱形レンズを用いることなく、分断する脆性板材Gの外形寸法(厚さ)、物理的特性に適した複数本のビーム列cの密度、ビーム列cの本数、各ビームの太さを設定することができる。
【0032】
ビーム列cの密度の変更は、図2に示すように、ビーム変換手段1の角度αを調整することにより変更することができる。角度αを鋭角に小さくすると、図2(a)に示すように、ビーム列cの密度が低くなるとともに、各ビームの照射形状が楕円になって長径が長くなる。角度αを直角に近づけると、図2(b)に示すように、ビーム列cの密度が高くなるとともに、各ビームの照射形状が円形に近づく。しかし、何れの形態においても、ビーム列cを形成する各ビームが、部分的に重畳することはなく干渉性散乱を生じることはないのである。
【0033】
次に、この発明の脆性材料割断装置を使用して板材を割断する方法を説明する。
【0034】
図1に示すテーブル9を図示右方向に移動させてテーブル9の上に割断すべき板材Gを載せる。
【0035】
テーブル9を左方向に移動させると、脆性板材Gの表面上の割断予定線の始点に、初期亀裂形成手段5により始点亀裂を形成する。そして、すでに図4によって説明した「割断方法の原理」に基づいて、その始点亀裂の近傍からビーム列cを照射して加熱する。
【0036】
このビーム照射による加熱を割断予定線に沿って連続的に移動させ、冷却手段6から冷却媒体Jを噴出し、割断予定線に沿って板材Gを局部的に急冷する。
【0037】
このように、板材Gの加熱を行うことにより、加熱された表面の領域は膨張しようとするが、周囲の加熱されていない領域によって拘束されているので圧縮応力が作用し、その後、加熱領域の後方で局部的に冷却すると、熱膨張した部分が急激に収縮して引張応力が発生し、この引張応力が板材Gの破壊靱性値を超えたとき、板材Gの表面に一筋の亀裂kを形成するのである。
【0038】
なお、図4から明らかなように、この冷却手段6から冷媒Jを吹き付ける冷却位置xには最適位置があり、最適位置よりも加熱領域に近い部位を冷却すると、熱が板材の深部まで伝導しないうちに冷却することになり、加熱による圧縮応力pを減少させるだけで、十分な引張応力tが発生するまでには至らず亀裂kを形成しない。反対に、最適位置よりも後方の部位を冷却すると、加熱された部位の温度が低下するために、表面において発生する引張応力tが減少する。したがって、最適位置を冷却しなければならない。
【符号の説明】
【0039】
1 ビーム変換手段
2 レーザ光源
3 コリメーター
5 初期亀裂形成手段
6 冷却手段
9 テーブル
11 全反射面
12 部分反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被割断脆性材料に対して不透明な波長のレーザ光線を出力するレーザ光源と、
該レーザ光源より出力されたレーザ光線を細く絞るコリメーターと、
平行に対向配置された全反射面および部分反射面よりなり、上記コリメーターを経た1本のレーザビームを斜入射させて複数本のビーム列に変換するビーム変換手段と、
該ビーム変換手段に入射する上記1本のレーザビームの入射角を変化させて複数本のビーム列の密度を調整する手段とを具備することを特徴とする脆性材料割断装置。
【請求項2】
ビーム変換手段の平行に対向配置された全反射面および部分反射面の対面長さを調整して変換される複数本のビーム列の本数を調整する手段を具備することを特徴とする請求項1に記載の脆性材料割断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240098(P2012−240098A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114245(P2011−114245)
【出願日】平成23年5月22日(2011.5.22)
【出願人】(503390651)株式会社レミ (34)
【Fターム(参考)】