説明

脆性材料微粒子

【課題】高温の基板加熱と熱処理工程を必要とせず、室温で高密度、高緻密性や高密着性をもつ脆性材料微粒子成膜体が形成できる脆性材料微粒子を提供する。
【解決手段】平均粒子径が50nm以上1μm以下で、形状が非球形の不定形形状であり、少なくとも一カ所以上、電子顕微鏡観察により2次元的な像として求めた角を持つ形状をした微粒子を少なくとも体積率30%以上含み、前記角の尖り角度(θ)は、140度以下であることを特徴とする、脆性材料微粒子。当該微粒子を用いて、微細成膜装置1を用いてエアロゾル7式ガスデポジション法により被膜形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はセラミック材料などの脆性材料の微粒子を基板上に供給して成膜する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料などの脆性材料の超微粒子を基板上に供給して成膜する技術については最近各分野で必要性が高まっている。例えば圧電材料は、それ自体がセンサにもアクチュエータにもなりデバイス構造が簡略化できるという特徴があるため、微小なセンサやアクチュエータを電気回路と共に集積した微小電気機械システム(Micro
Electro Mechanical Syste;MEMS)の分野で注目され、デバイス化するための薄膜技術、微細加工法が世界各所で盛んに研究されている。一般にこのようなアクチュエータの場合は、或る程度の力の発生が要求され、1μm以上の膜厚が必要になると考えられている。しかしながら従来微粒子の衝突現象を利用した成膜法でセラミックス材料の成膜を試みた報告例はあるが高温の基板加熱と熱処理工程を必要としており、室温で高密度の成膜体が形成できる技術は開発されていなかった。
次に、機械分野の耐磨耗コーティングとしては、従来、溶射技術やイオンプレーティング法などが検討されてきた。しかしながら膜の緻密性や密着性、成膜温度などの点でまだ数多くの課題を持っている。
【0003】
このようなことから高温の基板加熱と熱処理工程を必要とせず、室温で高密度、高緻密性や高密着性をもつ脆性材料微粒子成膜体が形成できる技術の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、高温の基板加熱と熱処理工程を必要とせず、室温で高密度、高緻密性や高密着性をもつ脆性材料微粒子成膜体が形成できる脆性材料微粒子成膜体成形法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的に対応してこの発明の脆性材料微粒子成形体の低温成形法は、減圧チャンバー内で脆性材料微粒子を搬送ガスと混合してエアロゾル化してノズルを通して加速して基板上に吹き付けて膜形成を行うエアロゾル式ガスデポジション法において、前記脆性材料微粒子は平均粒径が50nm以上で、形状が非球形の不定形形状であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、高温の基板加熱と熱処理工程を必要とせず、室温で高密度、高緻密性や高密着性をもつ脆性材料微粒子成膜体が形成できる脆性材料微粒子成膜体成形法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】微細成膜装置の構成説明図
【図2】Siメンブレン上に形成されたPZT厚膜を示す顕微鏡写真
【図3】成膜条件の違いとアルミナ(α−Al23)膜の状態の違いを示す断面TEM像
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0008】
以下この発明の詳細を一実施例を示す図面について説明する。図1において、1は微細成膜装置である。微細成膜装置1は成膜チャンバー2内に基板3と脆性材料微粒子供給装置の一例としてノズル4とを配設している。基板3は形成された膜を支持するためのものである。
【0009】
ノズル4は脆性材料微粒子を基板3上に供給し微粒子成膜体を形成するものである。基板3は基板駆動装置6に取り付けられ、基板駆動装置6に駆動されてチャンバー2内で変位可能である。ノズル4もチャンバー内で変位可能に構成してもよい。以上の構成の微細成膜装置1自体は公知のものである。
【0010】
次に成膜する動作について説明する。脆性材料微粒子としてはジルコニア微粒子、窒化チタン微粒子、C−BN微粒子、アルミナ微粒子等の脆性材料微粒子のうち少なくとも一種類を含むものである。微粒子の平均粒径は50nm以上で、特に0.1〜0.7μmの平均粒径のものは好適である。
【0011】
材料微粒子は、非球形、不定形で少なくとも一カ所以上、角を持つ形状をした微粒子を含むことを特徴としており、その尖り角度(θ)は、140度以下である。
【0012】
微粒子に、この様な尖った角が一カ所以上あると、微粒子衝突時の基板あるいは膜表面への衝撃力は集中、増大し、既に基板上に到達した材料微粒子が未粉砕状態あるいは不完全な粉砕状態で付着している場合でも、後続する鋭利な角をもつ粒子の衝突により再破砕され、緻密で強固な結合力をもつ成膜体・成形体を得ることができる。この140度という値は、実験的に有効な尖り角度として求められたものであり、その角度は電子顕微鏡観察により2次元的な像として求めたものである。(尖り角度(θ)は、次の文献中、図−7に示された角度θである(「粉粒体の耐摩耗設計」橋本建次著、粉体と工業社発行、第37頁参照))。また、一個の微粒子に存在する鋭利な角の数は、多ければ多いほど、その角が基板、あるいは堆積物表面を叩く確率が高くなり効果的である。
【0013】
これよりも尖り角度が大きくなり、粒子形状が実質、球体上の滑らかな表面になると、衝突時の弾性変形により衝撃力は緩和され、粒子が弾性反撥するなど、衝突による粒子の破砕は起こりにくくなり、成膜速度、成形体密度が著しく低下することが実験的に確かめられた。
【0014】
尚、上記の粒子形状に該当するものとして、「American Foundrymen Society:Foundry
sand handbook, 7ed(1963), p5〜26」に挙げられている、「Sub-Angular」,「Angular」,「Compound」に該当する微粉体を指す。この最後の「Compound」は、この場合、上記尖り角度(140度以下)の角を持つ粒子である「Sub-Angular」,「Angular」の粒子を材料微粒子全体の中に含む材料微粒子を指し、その比率は、材料微粒子の利用効率、成膜速度(レート)、成膜体/成形体密度に大きく影響する。実験によると、実用的な効率を考慮すると、この様な尖り角度(140度以下)の角をもつ「Sub-Angular」,「Angular」の粒子を少なくとも堆積率30%以上含むことが好ましい。
【0015】
材料微粒子は、最も長い軸の長さLと、それと直角な2つの短軸長さa,bの軸比率L/a,L/bが少なくとも1<L/a,L/b<10の範囲にある微粒子を含む。
【0016】
軸比率L/a,L/bが10以上であることは、偏平な板状の粒子形状であるか、細長い針状の粒子形状である場合で、この場合、衝突による粒子の破砕のされ方は、軸が折れるような形になる確率が高く、結果として、破砕されて形成される新生面(破砕面)の粒子全表面積に対する比率は小さく、本成形法の新生面形成による粒子結合を効率よく達成することができない。
【0017】
このようなことは、実際の成膜体/成形体の形成に有効な軸比率L/a,L/bを実験的に検討したところ1<L/a<10,1<L/b<10の範囲にある微粒子を用いることが効果的であることが明らかとなった。また、材料微粒子は、多結晶体から構成されている微粒子である。
【0018】
単結晶構造の場合では、衝突による衝撃波のエネルギーは、粒子内部を通過する際に、均一に広がり、粒子内部で局所的に集中する確率は低い。
【0019】
これに対して、粒子が多結晶体から構成されていると、衝突により粒子内部に発生する衝撃波は、粒子内の方位の異なる結晶界面などに局所的な集中が起こり、また、この様な結晶方位の異なる界面での原子結合は、一般に結晶内の原子結合より弱いため、微粒子は粉砕されやすい。
【0020】
また、上記のことは請求項1とも関連し、真球形状で単結晶からなる微粒子を用いた場合は、粒子粉砕のために非常に大きな衝撃エネルギー(粒子速度)が必要となり、本発明で実現しようとする成膜/成型法で、実用的に非常に効率が悪くなる。
【0021】
エアロゾル化チャンバーで搬送ガスと混合された材料微粒子は、分級装置を通して粗い粒子をフィルターした後、減圧された成膜チャンバー2に送られ、エアロゾル7として細い開口のノズル4をとおして基板に吹き付けられることで膜を形成する。このとき、減圧チャンバー2内が0.1〜10Torr以下の圧力であると、搬送された微粒子は数百m/secまで容易に加速される。基板上に吹きつけるエアロゾルの速度は150〜400m/secであることが好ましい。使用する微粒子原料の調整と微粒子の粒径分布、加速条件、成膜雰囲気などにより、脆性材料微粒子の膜12が形成される。
【0022】
(実験例)
圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr52,Ti48)O3)について10−30μm/min(5mm角のエリア)という高い成膜レートを達成した。このとき成膜法は基板加熱などの熱的アシストは一切行っておらず、粒子間結合は衝突によるエネルギーの開放だけで達成した。膜密度は理論密度の95%にも達し、Si、SUS304、Pt/Ti/SiO2/Si等の基板上への付着力も20MPa以上と非常に強固なことが判った。X線解析、SEM,TEM,EDX等の分析から、形成された膜は組織変動もなく原料微粉の結晶構造を維持しており、成膜時に数十ナノメータの微細な結晶構造を持つことが判った。膜内部には歪みなど含むものの、衝突による基板温度の上昇も一切観察されず、マクロ的には室温でセラミック材料が固化できたといえる。簡単なマスクを用いればエチング工程なしでアスペクト比(高さ/幅)で1以上、数十ミクロン幅のパターンニングが行なえ、さらに、図2に示すようにバックエッチングされた厚さ10μmの極薄Siメンブレン上に破損無しに同程度の厚さのPZT膜が形成できることも確認された。
【0023】
この結果は、粒子間結合に衝撃力を利用しているにも関わらず、デリケートな構造体への成膜も可能で、プロセス手法としてMEMS技術などへの適用性を示すものである。しかしながら、この結晶粒径は圧電材料として充分な特性を得るには小さすぎると考えられる。そこでゾルゲル法と同程度の熱処理(大気中、600℃−1h)を行なったところ、すぐれた強誘電特性を示し、圧電定数もd31〜−100pm/Vと従来報告されてきた薄膜材料なみの特性が得られ、また従来の厚膜プロセスと高い絶縁耐圧(<1MV/cm)とヤング率(>80GPa)を示し、高い出力のマイクロアクチュエータへの応用の可能性が開けた。Siマイクロマシニングでメンブレン加工されたマイクロポンプ用メンブレンアクチュエータでは、共振周波数22.4kHz,約8Vの駆動電圧で25μmの振幅が得られ、マイクロミキサー、マイクロポンプとして応用可能なことも確認された。
【0024】
一方、上述した金属材料上の耐磨耗性コーティングニについては、ステンレス、Ni基合金、センダスト合金、真鍮、アルミ、銅などの各種金属基板やガラス、石英、Si基板上へのアルミナ(α−Al23)の薄膜の室温形成に成功した。PZTの場合と同様に、形成された膜は数十ナノメータの微細な結晶構造から成り、高い膜密度、高い密着強度、高い絶縁耐圧を有し、膜硬度で1000〜1600Hvが得られた。又、数μmの膜厚ではRa=50nmと非常に滑らかな表面が得られた。
【0025】
成膜メカニズムに関しても、これまで粒子の運動エネルギーが衝突時に局所解放され、非常に高温になることで、粒子間の焼結が起こると推察されてきた。これに対し、我々は測定困難であったノズル噴射後の飛行中にあるサブμm前後の超微粒子の速度を、飛行時間差法を基本原理とする測定方法を用い評価した。結果、測定されたセラミックス微粒子の平均速度は150〜400m/sec程度とAg,Ni,Al,Cu等の低融点金属微粒子の成膜条件(500m/sec以上)と比べ低速で、微粒子のサイズ効果による融点降下現象を考慮しても、基板衝突時に微粒子近傍に生じた熱により微粒子同士が融着したとは考えにくい結果となった。この粒子速度から計算きれる衝突衝撃力は、これまで爆発やレールガン等を利用し研究されてきた衝撃固化現象の場合と比べ一桁ほど低い値である。図3に示すように、化学的手法で合成された平均粒径50nm前後、球形のα−Al23超微粒子を用いて成膜したところ、400m/secと上記粒子速度以上に加速しても圧粉体になり成膜体が形成できない。また、粒子速度が増加すると成膜レートがむしろ低下する傾向が見られるなど、実際の現象は必ずしも粒子速度エネルギーの大きさだけで説明できない。さらに、ミクロ的に粒子結合の状態を観察するため2種類の原料微粒子の混合膜を形成し、高分解能TEMを用いて粒子結合界面の微細構造を評価したところ、2種類の元素が熱平衡な原子拡散を起こしている可能性は低く、むしろ冶金学に見られるメカニカルアローイングのような原子オーダーのミキシングが観察される。成膜雰囲気は数Torrと低真空で搬送ガスも空気でよく、金属微粒子の堆積に必要とされていたような超高真空、不活性な雰囲気が必要ないという結果になった。これは、従来の真空コーティングと比較して実用的観点から非常に魅力的である。この様に、セラミックスなど脆性微粒子材料を用いた場合の成膜メカニズムは、これまで金属微粒子材料で提唱されてきた局所熱解放による融着結合により生じるという解釈だけでは説明しきれない。粒子間結合、粒子基板間結合の達成は、原料微粒子の機械的、物理的特性などに大きく依存しており、衝突によるエネルギー解放のメカニズムについてはさらなる詳細な検討をすると、むしろ、セラミックス微粒子材料は脆性材料のため、基板衝突時に破砕(注:塑性変形的脆性破壊)される。その結果、粒径が微細化され、さらに新生面も形成されるため微粒子同子の接合現象と緻密化が進み高密度な膜組織が形成されるのではないかと考えられる。また、この様な破砕が生じれば、衝突による熱的なエネルギー解放もその粒径よりも狭い領域になると考えられ、局所的な温度上昇も金属材料での塑性変形による場合よりも大きい可能性もある。
【符号の説明】
【0026】
1 微細成膜装置
2 成膜チャンバー
3 基板
4 ノズル
6 基板駆動装置
7 エアロゾル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が50nm以上1μm以下で、形状が非球形の不定形形状であり、少なくとも一カ所以上、電子顕微鏡観察により2次元的な像として求めた角を持つ形状をした微粒子を少なくとも体積率30%以上含み、前記角の尖り角度(θ)は、140度以下であることを特徴とする、脆性材料微粒子。
【請求項2】
最も長い軸の長さLと、それと直角な2つの短軸長さa,bの軸比率L/a,L/bがL/aは1<L/a<10,L/bは1<L/b<10の範囲にある微粒子を含むことを特徴とする、請求項1記載の脆性材料微粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−153980(P2012−153980A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86196(P2012−86196)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【分割の表示】特願2001−256580(P2001−256580)の分割
【原出願日】平成13年8月27日(2001.8.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】