脈波測定装置、脈波の測定方法
【課題】被験者の体動から血液灌流を判定し、生体の鼓動以外の状態および測定対象の生体内における深さを考慮して脈波の測定を行う脈波測定装置を提供する。
【解決手段】外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、を有することを特徴とする脈波測定装置。
【解決手段】外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、を有することを特徴とする脈波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電容積脈波の測定を行う脈波測定装置、脈波の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の状態を把握するために、種々の医療機器がある。非侵襲的に生体の状態を把握するものの1つに、循環器機能に関する数値を測定するものがある。例えば、生体の皮膚面から光を照射して、その透過光または反射光を受光し、血管を流れる血液を検出することで脈波を測定する脈波測定装置がある。このような脈波測定装置は、例えば検出された脈波の値を微分し、循環動態の1つである加速度脈波を算出する。得られた加速度脈波は、生体の状態を把握することに用いられる。例えば、血管弾性特性を評価することで、生体の状態を把握することが行われている。
【0003】
上述の測定機器としては、例えば、超音波と光電容積脈波を用いた加速度脈波測定装置が考えられている(特許文献1参照)。この加速度脈波測定装置は、第1の循環センサー手段(超音波やレーザー)を用いて血流速を検出し、第2の循環センサー手段(レーザーやLED(Light Emitting Diode)などの光)で光電脈拍信号を検出し、血流速から循環情報を測定して、測定条件が同一になるよう補正を行う機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−275184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体の鼓動は、精神状態や運動前後等の状況によって変動するため、脈波を測定する際、この鼓動の影響を受けた測定結果が得られることになる。そうすると、精神状態や運動前後等の状況によっては、その測定結果である脈波にばらつきが生じることになり、この脈波から得られる血管の弾性特性にも影響が生じる。また、生体が感じる暖かさや寒さによっても、血管の緊張・弛緩度合いが変動するため、測定結果に影響が生じることも考えられる。従って、このような心臓の心拍機能以外での血管の弾性特性を得られることが望ましい。また、生体内部へ向けて照射される光が単一種類であると、その光が到達する深さも一定であるため、測定・診断が一面的になる傾向もある。更に、血液の流れ方(以下、血液灌流)は被験者の体質などに応じて被験者ごとに異なり、測定部位における局所的な血液灌流は重力による影響も受けるため、血管の弾性特性にも影響を与えることにもなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、生体の鼓動以外の状態と測定対象の生体内における深さと重力による血流灌流の影響とを考慮して脈波の測定を行う脈波測定装置、脈波の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る脈波測定装置は、外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、を有することを特徴とする。
【0009】
[適用例2]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記加速度計測部は、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する3軸加速度センサーであり、前記測定部位または前記測定部位の近傍に装着され、前記測定部位に対して働く重力の方向とその影響とを前記加速度信号を解析して特定し、その特定結果を加味して前記測定部位における血液灌流の良否と、重力加速度以外にも加速度が生じたことを示す加速度信号を前記加速度計測部から受け取った場合に前記被験者について体動有りと、を判定することを特徴とする。
【0010】
上記適用例1および上記適用例2に記載の脈波測定装置によれば、体内の血管に振動を与える波動を送信し、この波動の影響を受けた血管の状態に応じた容積脈波を生体センサー部によって検出するようにしたので、心臓の拍動とは異なる振動が与えられた血管の挙動を把握することができ、さらに、加速度計測により測定部位における血液灌流に影響を及ぼす重力の方向と大きさとを解析して、その結果を加味できる。これによって、血液灌流に影響による血管の状態を正確に把握して、血管の弾性特性などに関して分析対象として用いることができる新たなデータを得ること可能となる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する
ことを特徴とする。
【0012】
[適用例4]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出することを特徴とする。
【0013】
上記適用例3および上記適用例4に記載の脈波測定装置によれば、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光または複数種類の光を照射するので、測定対象となる組織の生体内における深さごと、さらに、動脈血および静脈血に含まれる血液成分に反応することを利用して動脈血管および静脈血管ごとにその挙動を解析することが可能となる。
【0014】
[適用例5]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態に加え、当該振動が付与されていない状態で、前記容積脈波を検出し、前記振動付与部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていない状態で前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に付与することを特徴とする。
【0015】
上記適用例5に記載の脈波測定装置によれば、体内の血管に振動を与える波動を送信しない状態で血管の状態に応じた容積脈波を生体センサー部によって検出し、この容積脈波に応じた振動を振動付与部により付与するため、血管の拡張状態および収縮状態に応じた血管の挙動を把握することとなり、これによって、新たな分析データを得ること可能となる。
【0016】
[適用例6]上記適用例に記載の脈波測定装置において、心電図モニター装置から出力される心電図データを受信する受信部を有し、前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図データにおけるR波の検出時期から予め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に付与することを特徴とする。
【0017】
上記適用例6に記載の脈波測定装置によれば、心電図モニター装置から出力される心電図データに応じた振動を振動付与部により付与するため、血管の拡張状態および収縮状態に応じた血管の挙動を把握することとなり、これによって、新たな分析データを得ること可能となる。
【0018】
[適用例7]本適用例に係る脈波の測定方法は、測定部位に働く加速度の方向と大きさとで重力による影響が及ぼす血液灌流を判定し、光を体表面から体内の血管に向けて照射して、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出し、前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与し、前記被験者の血液灌流を加味して、前記波動が送信された場合に前記体内の血管の容積脈波を検出することを特徴とする。
【0019】
このように、加速度計測部により測定部位における血液灌流の影響を解析して、振動付与部により被験者の体内にエネルギー波を送信して血管の動態変化を光電容量脈波で検出することができる。これによって、血管状態の変化を捉えつつ、生体の鼓動に依存しない測定を行うことができ、より正確に血管の弾性特性などに関してデータを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の脈波測定装置1の外観の一例を示す図である。
【図2】同脈波測定装置1のセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
【図3】同脈波測定装置1の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図5】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図6】同期タイミングについて説明する図である。
【図7】波動部によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。
【図8】血液灌流が良い姿勢と血液灌流が悪い姿勢の一例を示す図である。
【図9】血液灌流の良否と脈波信号の信号強度の関係を表す図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1aの構成を表す図である。
【図11】2つの発光部がそれぞれ照射する光の主波長と、その光が生体内部に到達する深さについて説明するための図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1bの構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成のすべてが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置1の外観の一例を示す図である。なお、後述する第2実施形態に係る脈波測定装置1aと、第3実施携帯に係る脈波測定装置1bと、についてもそれぞれの外観は同じ構成を有することが可能である。
図1に示すように、脈波測定装置1は、腕時計構造を有しており、被験者の手首に装着される装置本体10と、この装置本体10にケーブル20を介して接続されたセンサー部30とを有する。図1に示すように、装置本体10にはリストバンド12が取り付けられている。脈波測定装置1は、リストバンド12を被験者の手首(図1に示す例では、左手首)に巻きつけることで当該被験者の身体に装着される。装置本体10の表面には、液晶ディスプレイなどの表示部14が設けられている。表示部14には、センサー部30により検出された脈波信号から分析対象として血管の弾性特性や算出される脈間隔や単位時間当たりの脈拍数等の生体情報が表示される。また、装置本体10の外周部にはボタンスイッチ16が設けられている。ボタンスイッチ16は、脈波測定装置の計測開始や計測終了、計測結果のリセットなどの各種指示の入力に用いられる。
【0023】
図2は、被験者の身体に対するセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
図2に示すように、センサー部30は、生体センサー32と、センサー固定用バンド34とを有する。センサー部30は、例えば被験者の左手人差し指の根元から第2指関節までの間の部分(以下、測定部位)にセンサー固定用バンド34を巻きつけることで被験者の身体に装着される。センサー部30が被験者の身体に装着された状態では、生体センサー32はセンサー固定用バンド34によって外光から遮光される。外光に起因したノイズを排除するためである。本実施形態では、センサー部30を被験者の左手人差し指に装着する場合について説明するが、左手中指や薬指などの他の指に装着しても勿論良い。また、図1に示すように、第1実施形態では被験者の左腕に装置本体10を装着するのであるが、右腕に装置本体10を装着しても良く、この場合は右手の指にセンサー部30を装着するようにすれば良い。さらに、本実施形態では、測定部位を被験者の左手の指および右手の指について説明したが、センサー部30の装着は脈波計測が可能な測定部位であれば検出された脈波信号から分析対象として血管の弾性特性や脈間隔や単位時間当たりの脈拍数等の生体情報を得られる。
図2に示す生体センサー32は、測定部位の体表面から血管に向けて照射する光が、血管などの生体組織に反射された反射光に基づいて容積脈波を検出する態様であっても、または、測定部位の体表面から血管に向けて照射する光が、血管などの生体組織を透過した透過光に基づいて容積脈波を検出する態様であっても良い。
【0024】
以下、本発明の実施形態については、主に反射された反射光に基づいて容積脈波を検出する態様をもって説明を行うこととする。
図3は、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置1の構成を示す概略ブロック図である。
脈波測定装置1は、生体センサー部110と、振動付与部120と、データ処理部130と、加速度計測部140とを有する。ここでは、更に、外部に心電図モニター装置2が接続もできる。
【0025】
生体センサー部110は、発光部111と、駆動部112と、受光部113と、増幅部114とを有する。発光部111は、発光することにより、生体の体表面から体内に向けて光を照射する。駆動部112は、データ処理部130からの制御信号に基づいて、発光部111を発光させる。受光部113は、発光部111から照射され生体によって反射される光を検出する。増幅部114は、受光部113からの検出結果を増幅する。例えば、検出結果を表す電気信号を増幅し、脈波処理部131に出力する。
【0026】
振動付与部120は、振動発振部121と、波動送信部122と、波動部123とを有する。振動発振部121は、データ処理部130から指示に基づいて、振動発振させる信号を波動送信部122に出力する。振動発振部121は、脈波処理部131によって検出される容積脈波に基づいて、心臓の拍動とは異なる振動を与える制御信号を生成し、波動送信部122に出力する。
【0027】
また、この振動発振部121は、心電図モニター装置2が外部に接続されていない場合には、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その値に対応する時刻から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成する。
【0028】
一方、心電図モニター装置2が外部に接続されている場合には、振動発振部121は、データ演算部132が受信した心電図データ、例えば、R波から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成する。
波動送信部122は、振動発振部121が生成した制御信号を波動部123に送り、波動部123を駆動させる。制御信号を受けた波動部123は、この制御信号に応じて体内の血管に振動を与えるための波動をその体内に向けて送信する。この波動は、例えば、音波である。
【0029】
データ処理部130は、脈波処理部131と、データ演算部132とを有する。
脈波処理部131は、波動部123によって血管に振動が与えられた場合の容積脈波を受光部113によって検出する。
データ演算部132は、外部に設けられる心電図モニター装置2から出力される心電図データを受信する受信部を備えている。また、データ演算部132は、脈波処理部131によって得られた容積脈波に基づいて、各種解析処理を行い、血管の状態診断を行う。ここでは、一例として、光電式指尖容積脈波による血管の状態診断を行う。
【0030】
ここで、光電式指尖容積脈波においては、加速度脈波を用いる。加速度脈波とは光電式指尖容積脈波(photoplethysmogram;PTG)の二次微分波(second derivative of photoplethysmogram;SDPTG)である。加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波の変曲点を、より明確にするために利用されており、加速度脈波を用いた検査法は、現在では独立した検査法として確立している。この加速度脈波は、記録が簡単で時間もかからず、被験者に与える苦痛がないという利点がある。また、波形の解釈、意義といった点についても十分臨床応用できるようになってきている。ここでは、加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波を2回微分(加速度)したものであり、血流の速度あるいは加速度とは直接関係ない。
【0031】
図4は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図4(a)は、生体センサー部110によって得られる指尖容積脈波の測定結果を表す波形の一例を表す図である。図4(b)は、指尖容積脈波を1回微分して得られる速度脈波の一例を表す図である。図4(c)は、指尖容積脈波を2回微分して得られる加速度脈波の一例を表す図である。データ演算部132は、微分回路を備えており、生体センサー部110によって得られる指尖容積脈波に対して2回微分を行い、加速度脈波を得る。
【0032】
図5は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図5(a)は指尖容積脈波の波形の一例であり、図5(b)は加速度脈波の波形の一例である。図5(a)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。区間(A)は、収縮期前方成分を表す区間であり、心臓が収縮した時の血液の駆出によって生ずる駆動圧波を表している。区間(B)は、収縮期後方成分を表す区間であり、駆動圧が末梢に伝搬し、反射して戻ってきた再上昇圧波を表している。区間(A)の終わりの時間に対応する脈波の大きさを表す値をPT1、区間(B)の終わりの時間に対応する脈波の大きさを表す値をPT2、で表す。
【0033】
図5(b)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。図に例示した加速度脈波には、波高a、b、c、d、eで表す5つの変曲点がある。加速度脈波の波高比(b/a、c/a、d/a、e/a)について、加速度脈波の波高成分には厳密な意味でのキャリブレーションはない。従って、波高の比較には、各波形成分を収縮初期陽性波である波高aの値で除したb/a、c/a、d/a、e/aといった波高比を用いる。この加速度脈波の各波高比が加齢に伴って変化が見られる。この変化から血管の状態を診断することが可能である。例えば、加速度脈波の各波高比と年齢との関係を表すデータを過去の事例等に基づいて生成してテーブル情報として記憶しておき、得られた波高比に対応する年齢を、このテーブル情報を参照することによって得る。また、加速度脈波の各波高比と血管弾性特性との関係を表すデータを過去の事例等に基づいて生成してテーブル情報として記憶しておき、得られた波高比に対応する血管弾性特性を得る。このようにして、血管の状態診断を行う。
【0034】
続いて心電図モニター装置2が外部に接続されている場合の同期タイミングについて、図6を用いて説明する。図6(a)は、心電図データとして得られる心電図波形を表す。縦軸が心電図データの値を表し、横軸は時間を表す。振動発振部121は、この心電図波形に含まれるR波のピーク値を検出し、このピーク値の時刻を検出する。そして、振動発振部121は、この時刻から予め決められた時間だけ遅延させたタイミング(時刻)を検出する。図6(b)は、容積脈波の波形を表す図であり、縦軸が容積脈波を表す値、横軸が時間である。この図において、時間t1は、R波が発生した時刻T0から、容積脈波のピーク値mが発生した時刻T1までの時間である。この時間t1の値は、心臓から脈波測定装置1の測定部位までの距離に応じて異なる。振動発振部121は、時刻T0を起点とし、時刻T0から時刻T1までの間のいずれかの時刻までの時間または、時刻T1が到来した後に所定の時間が経過した時間をメモリー内に記憶しており、R波が検出された時刻R0からこの時間を経過したときに、振動(パルス振動)を発生させる。
【0035】
図6(c)は、図6(b)に示す容積脈波を2回微分した場合の値を表す図である。縦軸が2回微分された後の値を表し、横軸が時間を表す。データ演算部132は、脈波処理部131から得られる検出結果の値を2回微分し、波高a、b、c、d、eの値を検出する。
【0036】
図7は、波動部123によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。縦軸は、容積脈波の値を表し、横軸は時間を表す。区間Taの容積脈波の波形が、波動部123から振動が与えられていない場合の波形であり、区間Tbの容積脈波の波形が、波動部123から振動が与えられている場合の波形である。ここでは、時刻T10において、波動部123から振動を与えた場合、符号kで表すように、容積脈波が変化した。この変化が生じた容積脈波を検出し、データ演算部132が2回微分を行うことにより、診断を行う。
【0037】
振動を与えた場合における容積脈波を2回微分した値は、振動を与えていない場合における容積脈波を2回微分した値とは異なる。このような、振動を与えた場合と与えていない場合における2回微分した値の関係と、血管弾性特性とのデータを測定深度ごとに収集して相関関係を分析し、その分析結果を求めて診断用データとして予め記憶装置に記憶しておく。そして、脈波測定装置1によって、振動を与えていない場合における容積脈波と振動を与えた場合における容積脈波との2回微分した場合の値を得て、この診断用データを参照し、診断を行うことができる。
【0038】
なお、図7に示すように、脈波測定装置1が、振動を与えていないときの容積脈波を測定した場合に、脈波測定装置1の振動付与部120により、その次の鼓動に対応する心臓の拍動に対して振動を与え、これら2つの測定結果から、診断を行うようにしてもよい。このように、連続する心臓の拍動を利用して診断することにより、生体が受ける精神的な変動や温度の相違等による拍動の変動を低減させて測定をすることができる。
【0039】
図3に戻る。加速度計測部140は、被験者の体動の有無および血液灌流に影響を及ぼす測定部位における重力を検出し、それに対応する値をデータ処理部130に出力する。例えば、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸(x、yおよびz軸)方向の成分に分解して検出し、各成分の大きさを示す加速度信号ASを出力する。この加速度計測部140は、一例としてx軸が図1のセンサー固定用バンド34の延在方向と一致し、かつy軸が図1の人差し指の指す方向と一致するように図1に示すセンサー部30に内蔵されている。
【0040】
このため、図1に示すような態様で脈波測定装置1を左腕に装着した被験者が、その左腕を垂直に垂らした姿勢で静止していると、加速度計測部140は、y軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。また、上記被験者が左手親指を上に向けた状態で肩と同じ高さに左腕を水平に伸ばした姿勢で静止していると、加速度計測部140は、x軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。重力加速度以外の加速度が働いていることを示す加速度信号を受け取った場合に、データ処理部130は、体動有りと判定させることも可能である。
加速度計測部140は、つまり、本実施形態では、加速度信号ASを解析することで、xyzの3軸に対する重力加速度の方向を特定することができる。
【0041】
図8は、測定部位における血液灌流が良い姿勢(図8に示す例では、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢)と、血液灌流が悪い姿勢(図8に示す例では、左腕を垂直に垂らした姿勢)の一例を示す図である。血液灌流が良い姿勢から血液灌流が悪い姿勢へと被験者の姿勢が変化すると、重力の影響によって左手抹消部(すなわち、左手指先)に血液が溜まり、これにより抹消部における血液灌流が変化する。つまり、「血液灌流が悪い状態」とは、末梢部に血液が溜まり、生体組織の鬱血等によって血流が阻害されている状態のことを言い、「血液灌流が良い状態」とは末梢部に血液が溜まっておらず、スムースに血液が流れている状態である。
【0042】
図9は、左手人指し指を測定部位とし、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢から同左腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させた場合に、光電変換方式の脈波測定により計測される脈強度(脈波信号の波形の谷と山の高低差:以下、ボトム・ピーク間隔)の変化の一例を示す図である。図9に示すように、左腕を肩と同じ程度の高さに水平の伸ばした姿勢から腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させると、脈波信号のボトム・ピーク間隔は次第に小さくなり、ある一定値まで低下すると、以後、変化しなくなる。腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変えた後に脈波信号のピーク・ボトム間隔が次第に小さくなるのは、測定部位に滞留する血液が増加するにつれて発光素子から照射された光の吸収量が増え、反射光が減少するからである。また、脈波信号のボトム・ピーク間隔が一定値まで低下した後変化しなくなるのは測定部位に滞留する血液量には上限があるからである。
【0043】
図9に示すように、血液灌流に対する重力の影響は、脈波信号のボトム・ピーク間隔の変化として現れるのであるが、血液灌流に対する重力の影響の大きさには個人差がある。具体的には、血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける脈波信号のピーク・ボトム間隔の変動幅が大きい者もいれば、同変動幅が小さい者もいる。一般に、冷え性の人のように血管周りの筋肉が強張っている人や動脈硬化の進んだ人のように血管の硬い人の場合、健康な人に比較して血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける脈強度の変動幅が小さいことが多い。
【0044】
このように、加速度計測部140によって重力加速度の方向を特定することで、測定部位における血液灌流に対する重力の影響の大きさや血液の滞留状態を把握が可能で、さらに、血液灌流の良し悪しの状態を脈強度から分析できる。よって、本実施形態の脈波測定装置1は、被験者の状態変化を正確に把握しつつ、前述した心臓の拍動とは異なる振動を与える機能と複数種類の光を適切に選択する機能とを有するため、さまざまな生体情報を得ることが可能である。特に、動脈血管および静脈血管に血液が滞留した血液灌流が悪い状態での血管の弾性特性などの新たなデータを取得できることとなる。
【0045】
図10は、本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1aの構成を示す概略ブロック図である。図3に対応する部分に同一の符号を付し、第1実施形態に係る脈波測定装置1の構成と異なる部分について説明する。第2実施形態において脈波測定装置1aは、生体センサー部110aと、操作部150とを有する。
生体センサー部110aは、発光部111a,111b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「発光部111」と記す)と、駆動部112と、受光部113と、増幅部114とを有する。発光部111a,111bは、発光することにより、生体の体表面から体内に向けて主波長が互いに異なる光をそれぞれ照射する。
【0046】
図11は、発光部111aおよび発光部111bがそれぞれ照射する光の主波長と、その光が生体内部に到達する深さについて説明するための図である。ヒトのような生体の体表面に近い部分、すなわち生体組織の浅い部分には、毛細血管が横たわる毛細血管床と呼ばれる領域が存在している。一方、体表面から遠い部分、すなわち生体組織の深い部分には、細動静脈や動静脈吻合等が横たわる血管床と呼ばれる領域が存在している。毛細血管とは、動脈と静脈とを結ぶ網目状の血管で最も細い血管である。細動静脈とは、細動脈と細静脈であり、細動脈とは、動脈のうち毛細血管を介して静脈に繋がっている部分であり、細静脈とは、静脈のうち毛細血管を介して動脈に繋がっている部分である。動静脈吻合とは、動脈の抹消が毛細血管を経ずに直接静脈に続くものである。すなわち動静脈吻合とは、毛細血管を迂回するバイパスとして機能する。
【0047】
毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とは異なることがあり、特に、動静脈吻合がある部位においては、その動静脈吻合の状態に応じてそれぞれの脈波が異なることがある。したがって、毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とをそれぞれ測定し、解析することにより、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静脈吻合の状態を示す情報を取得することができる。
【0048】
光の主波長とは、その光のうち最も多く含まれている光の波長をいう。光の主波長が長いほど、その光は生体組織の深い部分まで到達し、その部分において反射される傾向がある。例えば、発光部111aが照射する光の主波長は、発光部111bが照射する光の主波長よりも長い。そして、発光部111bから照射される光は毛細血管床で反射され、発光部111aから照射される光は血管床で反射されるように、それぞれの発光部111が設計されている。
【0049】
さらに、複数種類の光を照射して生体情報を得る医療機器として動脈血酸素飽和度測定器が一般に知られている。動脈血酸素飽和度測定器は、赤色と赤外の2種類の光を利用して、動脈血中のヘモグロビンのうち、酸素と結び付いている酸化ヘモグロビンの割合をパーセントで表示し、これを動脈血酸素飽和度と言う。すなわち、身体の活動に不可欠な酸素は、赤血球内のヘモグロビンと結合して酸化ヘモグロビンとなり、全身の各臓器に運ばれて各臓器の細胞に供給される。おおよそ血液100mlには、20.4mlの酸素が酸化ヘモグロビンとして含まれている。
【0050】
詳細な酸素飽和度の導出原理については、文献などの公開情報に委ねることとするが、酸素と結合した酸化ヘモグロビンと酸素を放出した還元ヘモグロビンとの分光吸光特性の違いを利用して測定している。ここで、分光吸光特性とは、どの色をよく吸収する特性を持っているかという性質である。酸化ヘモグロビンは赤外線付近の光をよく吸収し、還元ヘモグロビンは赤色付近の光をよく吸収する特長を持っている。これら2つの波長における透過光または反射光を測定し、赤色光と赤外光の透過光の比率または反射光の比率から2種類のヘモグロビンの比率を求める。
【0051】
生体に照射された光は、動脈血層、静脈血層などの組織で吸収または反射を受けることになるが、動脈以外の組織は時間的な変動(光吸収量または光反射量の変動)がない。このため、動脈血酸素飽和度測定器は、脈動による動脈血の容積変化に応じた時間的な強度変化から2種類のヘモグロビンの比率を求めている。つまり、透過光の変動成分または反射光の変動成分だけを見ることで、動脈血のみの情報から酸素飽和度を計測している。
【0052】
本実施形態の脈波測定装置1aにおいて、一例として図10に示す生体センサー部110aの発光部111a,111bにそれぞれ赤色付近の光と赤外線付近の光と、を用いた場合について説明する。
本実施形態では、図10に示す振動付与部120より振動を付与する機能を使用して、時間的な変動がない静脈血層の組織に、動脈血層と同様に時間的な変動を与えることができる。この時、生体センサー部110aの赤色付近の光を照射することで、静脈血に多く存在する還元ヘモグロビンがよく吸収し、得られた信号には静脈血管の情報を多く含むことになる。また、生体センサー部110aの赤外線付近の光を照射することで、動脈血に多く存在する酸化ヘモグロビンがよく吸収し、得られた信号には動脈血管の情報を多く含むことになる。このように、複数種類の光を適切に選択することで、動脈血管と静脈血管とについて、それぞれ血管の状態診断を行うことができる。さらに、図10に示す加速度計測部140によって重力加速度の方向と大きさを特定することで、測定部位における血液灌流に対する重力の影響の大きさや血液の滞留状態を把握して、血液灌流が良い状態と血液灌流が悪い状態とで、動脈血管の弾性特性および静脈血管の弾性特性など新たなデータを取得でき、それぞれの状態における比較および解析が可能となる。このため、より詳細な生体の状態診断も行うことができる。
【0053】
図10に戻る。操作部150は発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択するための操作ボタン(図示せず)を備えており、例えば、ユーザーによる操作を受け付けてその操作内容に応じた操作信号を駆動部112に供給する。駆動部112は、操作部150からの操作信号に基づいて発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択し、選択したその発光部111をデータ処理部130からの制御信号に基づいて発光させる。受光部113は、発光部111から照射され生体によって反射される反射光を検出する。すなわち、駆動部112により発光部111aが選択された場合には、受光部113は、血管床で反射された反射光を検出し、駆動部112により発光部111bが選択された場合には、受光部113は、毛細血管床で反射された反射光を検出する。このように、操作信号により、脈波を測定する組織の深さ(測定深度)が選択される。また、発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択するための操作は、操作部150を介さずに選択できる機能を有しても良い。
【0054】
図12は、第3実施形態に係る脈波測定装置1bの構成を表す図である。図10に対応する部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。第3実施形態において、脈波測定装置1bは振動付与部120に替えて振動付与部120aを備え、データ処理部130に替えてデータ処理部130aを備える。
【0055】
振動付与部120aにおいて、受信部124は、血管中を流れる血液に反射した波動を受信する。この波動は、例えば、光または振動である。波動増幅部125は、受信部124が受信した結果を表す電気信号を増幅する。波動送信部122は、第2の実施形態において説明をした振動の他に、予め決められた周波数の音波を波動部123によって生体に送信する。
【0056】
データ処理部130aにおいて、血流計測部133は、波動増幅部125を介して得られる受信部124の受信結果に基づいて、血流速度を計測する。例えば、波動送信部122によって送信された超音波の周波数と、受信部124で受信した測定結果から得られる周波数とを比較することにより、血流のドップラー効果を算出する。そして、その周波数の変化により生体の血管に流れる血流速度を算出し、その速度の時間変化を求める。
【0057】
データ演算部132aは、脈波処理部131によって得られる容積脈波を、血流計測部133によって得られる血液速度に基づいて補正する。例えば、受光部113によって受光した拍動成分の波形を積分した値を算出することによって得られる値を、血液レオロジー補正用係数Kとする。そして、血液レオロジーの特徴成分の1つである最大血流速度Vmaxが、血液レオロジーと相関関係にあることから、血液レオロジーを表す指標をTとすると、Tは、最大血流速度Vmaxと血液レオロジー補正用係数Kとの積(Vmax×K)で表される。この式に基づいて、血管の緊張による影響を補正する。そして、この補正を行うことにより、血管緊張の影響を低減させることができ、測定精度を向上させることができる。
また、血流速度を検出してエネルギー波の状態を決定することも可能である。
【0058】
なお、上述した第2実施形態および第3実施形態において、生体センサー部110aは、2つの発光部111a,111bを有していたが、主波長が互いに異なる光を照射する3つ以上の発光部111を有していてもよい。この場合、各発光部111の照射する照射光の主波長ごとに、その照射光が反射される生体組織の深さ、すなわち測定深度の情報をデータ演算部132が取得し、その測定深度ごとに血管の状態診断を行えばよい。
【0059】
また、発光部111は、複数種類の光を含んだ光を発生させて、その光をプリズムやフィルター等の分光手段により、主波長が互いに異なる複数種類の光に分光し、そのうちの選択された1種類の光を照射するようにしてもよい。この場合、駆動部112は、データ処理部130からの制御信号に基づいて、発光部111の分光手段を駆動させることにより、選択された1種類の光を照射させる。
【0060】
また、駆動部112は、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち選択された1種類の光を発光部111a,111bのいずれかにより照射させていたが、駆動部112は、発光部111により2種類以上の光を同時に照射させてもよい。生体組織により反射されても、その反射光の主波長は、照射光の主波長とほとんど同じである。したがって、この場合、受光部113は、主波長が互いに異なる複数種類の光を含んだ光からそれぞれの光を分光する分光手段、すなわち、例えばプリズム等を有していればよく、この分光手段により、複数種類の照射光に対応する複数種類の反射光をそれぞれ分光すればよい。増幅部114は、分光された複数種類の反射光の検出結果をそれぞれ増幅し、脈波処理部131に個別に出力する。脈波処理部131は、受光部113によって検出されて増幅部114によって増幅された複数種類の検出結果を個別に入力し、上記の複数種類の反射光ごとに容積脈波をそれぞれ検出し、各検出結果のうちのいずれかを振動発振部121に出力すればよい。
【0061】
なお、上述した実施形態において、振動発振部121は、心電図モニター装置2が外部に接続されていない場合には、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その値に対応する時刻から予め決められた時間を遅延させた時刻(送信時刻)に、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成し、心電図モニター装置2が外部に接続されている場合には、データ演算部132が受信した心電図データにおけるに基づいて、R波から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動送信部122から波動を送信させるための制御信号を生成していたが、振動発振部121は、上記の送信時刻にのみ、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成するのではなく、波動部123に連続的な波動を送信させるための制御信号を生成してもよい。この場合、波動部123は、連続的な波動を送信することにより、図7に示したようなパルス振動ではなく、連続的な振動を体内の血管に付与する。要するに、振動付与部120および振動付与部120aは、体内の血管に振動を付与すればよく、また、生体センサー部110は、振動付与部により体内の血管に振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から体内に向けて照射して、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出すればよい。
【0062】
なお、上述した実施形態において、波動部123から与える振動の強さや、その振動パターンを変えて、それぞれの場合における各測定深度における容積脈波を測定して2回微分した値を求め、この求められた複数の結果の組み合わせから、診断を行うようにしてもよい。例えば、測定深度を毛細血管床、血管床の2種類とし、波動の強さをA10、A11の2種類とし、振動パターンをB10、B11の2種類とする。そして、これらの組み合わせである8パターンによってそれぞれ容積脈波の測定を行って2回微分した値をそれぞれ求め、8パターンの各結果の相関関係から診断を行うようにしてもよい。
【0063】
例えば、第1パターンと第2パターンが基準値以内の範囲に収まる場合には、血管の老化度合いが最も若いことを表していると診断結果を出力したり、血管弾性特性が、もっとも弾性特性が高いことを表す診断結果を出力したりしてもよい。なお、この相関関係は、多数の測定を行うことによって、予め分析して記憶装置内に記憶しておく。
【0064】
なお、このようにして得られた診断結果から、循環器系の診断や血管の老化度合い及び動脈硬化度合いの評価を行ったり、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静脈吻合の状態を示す情報を取得したりすることが可能になる。
【0065】
なお、上述した実施形態において、生体センサー部110または生体センサー部110aが、受光部113によって受光した結果に基づいて容積脈波を検出し、検出された容積脈波を直接、データ演算部132に出力するようにしてもよい。この場合、生体センサー部110は、脈波処理部131を含んでもよい。
【0066】
なお、上述した実施形態においては、心電図モニター装置2が外部に接続される場合について説明したが、接続しない場合であってもよい。なお、心電図モニター装置2を接続した場合には、波動を送信するタイミングをより正確に決定することができる。
【0067】
また、図1における脈波測定装置1、脈波測定装置1aおよび脈波測定装置1bの機能を実現するためのプログラムをコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピューターシステムに読み込ませ、実行することにより容積脈波の検出を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0068】
また、「コンピューターシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD−ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部における揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0069】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1,1a,1b…脈波測定装置、2…心電図モニター装置、110,110a…生体センサー部、111,111a,111b…発光部、112…駆動部、113…受光部、114…増幅部、120,120a…振動付与部、121…振動発振部、122…波動送信部、123…波動部、124…受信部、125…波動増幅部、130,130a…データ処理部、131…脈波処理部、132,132a…データ演算部、133…血流計測部、140…加速度計測部、150…操作部、AS…加速度信号。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電容積脈波の測定を行う脈波測定装置、脈波の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の状態を把握するために、種々の医療機器がある。非侵襲的に生体の状態を把握するものの1つに、循環器機能に関する数値を測定するものがある。例えば、生体の皮膚面から光を照射して、その透過光または反射光を受光し、血管を流れる血液を検出することで脈波を測定する脈波測定装置がある。このような脈波測定装置は、例えば検出された脈波の値を微分し、循環動態の1つである加速度脈波を算出する。得られた加速度脈波は、生体の状態を把握することに用いられる。例えば、血管弾性特性を評価することで、生体の状態を把握することが行われている。
【0003】
上述の測定機器としては、例えば、超音波と光電容積脈波を用いた加速度脈波測定装置が考えられている(特許文献1参照)。この加速度脈波測定装置は、第1の循環センサー手段(超音波やレーザー)を用いて血流速を検出し、第2の循環センサー手段(レーザーやLED(Light Emitting Diode)などの光)で光電脈拍信号を検出し、血流速から循環情報を測定して、測定条件が同一になるよう補正を行う機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−275184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体の鼓動は、精神状態や運動前後等の状況によって変動するため、脈波を測定する際、この鼓動の影響を受けた測定結果が得られることになる。そうすると、精神状態や運動前後等の状況によっては、その測定結果である脈波にばらつきが生じることになり、この脈波から得られる血管の弾性特性にも影響が生じる。また、生体が感じる暖かさや寒さによっても、血管の緊張・弛緩度合いが変動するため、測定結果に影響が生じることも考えられる。従って、このような心臓の心拍機能以外での血管の弾性特性を得られることが望ましい。また、生体内部へ向けて照射される光が単一種類であると、その光が到達する深さも一定であるため、測定・診断が一面的になる傾向もある。更に、血液の流れ方(以下、血液灌流)は被験者の体質などに応じて被験者ごとに異なり、測定部位における局所的な血液灌流は重力による影響も受けるため、血管の弾性特性にも影響を与えることにもなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、生体の鼓動以外の状態と測定対象の生体内における深さと重力による血流灌流の影響とを考慮して脈波の測定を行う脈波測定装置、脈波の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る脈波測定装置は、外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、を有することを特徴とする。
【0009】
[適用例2]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記加速度計測部は、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する3軸加速度センサーであり、前記測定部位または前記測定部位の近傍に装着され、前記測定部位に対して働く重力の方向とその影響とを前記加速度信号を解析して特定し、その特定結果を加味して前記測定部位における血液灌流の良否と、重力加速度以外にも加速度が生じたことを示す加速度信号を前記加速度計測部から受け取った場合に前記被験者について体動有りと、を判定することを特徴とする。
【0010】
上記適用例1および上記適用例2に記載の脈波測定装置によれば、体内の血管に振動を与える波動を送信し、この波動の影響を受けた血管の状態に応じた容積脈波を生体センサー部によって検出するようにしたので、心臓の拍動とは異なる振動が与えられた血管の挙動を把握することができ、さらに、加速度計測により測定部位における血液灌流に影響を及ぼす重力の方向と大きさとを解析して、その結果を加味できる。これによって、血液灌流に影響による血管の状態を正確に把握して、血管の弾性特性などに関して分析対象として用いることができる新たなデータを得ること可能となる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する
ことを特徴とする。
【0012】
[適用例4]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出することを特徴とする。
【0013】
上記適用例3および上記適用例4に記載の脈波測定装置によれば、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光または複数種類の光を照射するので、測定対象となる組織の生体内における深さごと、さらに、動脈血および静脈血に含まれる血液成分に反応することを利用して動脈血管および静脈血管ごとにその挙動を解析することが可能となる。
【0014】
[適用例5]上記適用例に記載の脈波測定装置において、前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態に加え、当該振動が付与されていない状態で、前記容積脈波を検出し、前記振動付与部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていない状態で前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に付与することを特徴とする。
【0015】
上記適用例5に記載の脈波測定装置によれば、体内の血管に振動を与える波動を送信しない状態で血管の状態に応じた容積脈波を生体センサー部によって検出し、この容積脈波に応じた振動を振動付与部により付与するため、血管の拡張状態および収縮状態に応じた血管の挙動を把握することとなり、これによって、新たな分析データを得ること可能となる。
【0016】
[適用例6]上記適用例に記載の脈波測定装置において、心電図モニター装置から出力される心電図データを受信する受信部を有し、前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図データにおけるR波の検出時期から予め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に付与することを特徴とする。
【0017】
上記適用例6に記載の脈波測定装置によれば、心電図モニター装置から出力される心電図データに応じた振動を振動付与部により付与するため、血管の拡張状態および収縮状態に応じた血管の挙動を把握することとなり、これによって、新たな分析データを得ること可能となる。
【0018】
[適用例7]本適用例に係る脈波の測定方法は、測定部位に働く加速度の方向と大きさとで重力による影響が及ぼす血液灌流を判定し、光を体表面から体内の血管に向けて照射して、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出し、前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与し、前記被験者の血液灌流を加味して、前記波動が送信された場合に前記体内の血管の容積脈波を検出することを特徴とする。
【0019】
このように、加速度計測部により測定部位における血液灌流の影響を解析して、振動付与部により被験者の体内にエネルギー波を送信して血管の動態変化を光電容量脈波で検出することができる。これによって、血管状態の変化を捉えつつ、生体の鼓動に依存しない測定を行うことができ、より正確に血管の弾性特性などに関してデータを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態の脈波測定装置1の外観の一例を示す図である。
【図2】同脈波測定装置1のセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
【図3】同脈波測定装置1の構成を示す概略ブロック図である。
【図4】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図5】指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。
【図6】同期タイミングについて説明する図である。
【図7】波動部によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。
【図8】血液灌流が良い姿勢と血液灌流が悪い姿勢の一例を示す図である。
【図9】血液灌流の良否と脈波信号の信号強度の関係を表す図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1aの構成を表す図である。
【図11】2つの発光部がそれぞれ照射する光の主波長と、その光が生体内部に到達する深さについて説明するための図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1bの構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成のすべてが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0022】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置1の外観の一例を示す図である。なお、後述する第2実施形態に係る脈波測定装置1aと、第3実施携帯に係る脈波測定装置1bと、についてもそれぞれの外観は同じ構成を有することが可能である。
図1に示すように、脈波測定装置1は、腕時計構造を有しており、被験者の手首に装着される装置本体10と、この装置本体10にケーブル20を介して接続されたセンサー部30とを有する。図1に示すように、装置本体10にはリストバンド12が取り付けられている。脈波測定装置1は、リストバンド12を被験者の手首(図1に示す例では、左手首)に巻きつけることで当該被験者の身体に装着される。装置本体10の表面には、液晶ディスプレイなどの表示部14が設けられている。表示部14には、センサー部30により検出された脈波信号から分析対象として血管の弾性特性や算出される脈間隔や単位時間当たりの脈拍数等の生体情報が表示される。また、装置本体10の外周部にはボタンスイッチ16が設けられている。ボタンスイッチ16は、脈波測定装置の計測開始や計測終了、計測結果のリセットなどの各種指示の入力に用いられる。
【0023】
図2は、被験者の身体に対するセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
図2に示すように、センサー部30は、生体センサー32と、センサー固定用バンド34とを有する。センサー部30は、例えば被験者の左手人差し指の根元から第2指関節までの間の部分(以下、測定部位)にセンサー固定用バンド34を巻きつけることで被験者の身体に装着される。センサー部30が被験者の身体に装着された状態では、生体センサー32はセンサー固定用バンド34によって外光から遮光される。外光に起因したノイズを排除するためである。本実施形態では、センサー部30を被験者の左手人差し指に装着する場合について説明するが、左手中指や薬指などの他の指に装着しても勿論良い。また、図1に示すように、第1実施形態では被験者の左腕に装置本体10を装着するのであるが、右腕に装置本体10を装着しても良く、この場合は右手の指にセンサー部30を装着するようにすれば良い。さらに、本実施形態では、測定部位を被験者の左手の指および右手の指について説明したが、センサー部30の装着は脈波計測が可能な測定部位であれば検出された脈波信号から分析対象として血管の弾性特性や脈間隔や単位時間当たりの脈拍数等の生体情報を得られる。
図2に示す生体センサー32は、測定部位の体表面から血管に向けて照射する光が、血管などの生体組織に反射された反射光に基づいて容積脈波を検出する態様であっても、または、測定部位の体表面から血管に向けて照射する光が、血管などの生体組織を透過した透過光に基づいて容積脈波を検出する態様であっても良い。
【0024】
以下、本発明の実施形態については、主に反射された反射光に基づいて容積脈波を検出する態様をもって説明を行うこととする。
図3は、本発明の第1実施形態に係る脈波測定装置1の構成を示す概略ブロック図である。
脈波測定装置1は、生体センサー部110と、振動付与部120と、データ処理部130と、加速度計測部140とを有する。ここでは、更に、外部に心電図モニター装置2が接続もできる。
【0025】
生体センサー部110は、発光部111と、駆動部112と、受光部113と、増幅部114とを有する。発光部111は、発光することにより、生体の体表面から体内に向けて光を照射する。駆動部112は、データ処理部130からの制御信号に基づいて、発光部111を発光させる。受光部113は、発光部111から照射され生体によって反射される光を検出する。増幅部114は、受光部113からの検出結果を増幅する。例えば、検出結果を表す電気信号を増幅し、脈波処理部131に出力する。
【0026】
振動付与部120は、振動発振部121と、波動送信部122と、波動部123とを有する。振動発振部121は、データ処理部130から指示に基づいて、振動発振させる信号を波動送信部122に出力する。振動発振部121は、脈波処理部131によって検出される容積脈波に基づいて、心臓の拍動とは異なる振動を与える制御信号を生成し、波動送信部122に出力する。
【0027】
また、この振動発振部121は、心電図モニター装置2が外部に接続されていない場合には、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その値に対応する時刻から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成する。
【0028】
一方、心電図モニター装置2が外部に接続されている場合には、振動発振部121は、データ演算部132が受信した心電図データ、例えば、R波から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成する。
波動送信部122は、振動発振部121が生成した制御信号を波動部123に送り、波動部123を駆動させる。制御信号を受けた波動部123は、この制御信号に応じて体内の血管に振動を与えるための波動をその体内に向けて送信する。この波動は、例えば、音波である。
【0029】
データ処理部130は、脈波処理部131と、データ演算部132とを有する。
脈波処理部131は、波動部123によって血管に振動が与えられた場合の容積脈波を受光部113によって検出する。
データ演算部132は、外部に設けられる心電図モニター装置2から出力される心電図データを受信する受信部を備えている。また、データ演算部132は、脈波処理部131によって得られた容積脈波に基づいて、各種解析処理を行い、血管の状態診断を行う。ここでは、一例として、光電式指尖容積脈波による血管の状態診断を行う。
【0030】
ここで、光電式指尖容積脈波においては、加速度脈波を用いる。加速度脈波とは光電式指尖容積脈波(photoplethysmogram;PTG)の二次微分波(second derivative of photoplethysmogram;SDPTG)である。加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波の変曲点を、より明確にするために利用されており、加速度脈波を用いた検査法は、現在では独立した検査法として確立している。この加速度脈波は、記録が簡単で時間もかからず、被験者に与える苦痛がないという利点がある。また、波形の解釈、意義といった点についても十分臨床応用できるようになってきている。ここでは、加速度脈波は、元波形である指尖容積脈波を2回微分(加速度)したものであり、血流の速度あるいは加速度とは直接関係ない。
【0031】
図4は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図4(a)は、生体センサー部110によって得られる指尖容積脈波の測定結果を表す波形の一例を表す図である。図4(b)は、指尖容積脈波を1回微分して得られる速度脈波の一例を表す図である。図4(c)は、指尖容積脈波を2回微分して得られる加速度脈波の一例を表す図である。データ演算部132は、微分回路を備えており、生体センサー部110によって得られる指尖容積脈波に対して2回微分を行い、加速度脈波を得る。
【0032】
図5は、指尖容積脈波と加速度脈波との関係を説明する図である。図5(a)は指尖容積脈波の波形の一例であり、図5(b)は加速度脈波の波形の一例である。図5(a)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。区間(A)は、収縮期前方成分を表す区間であり、心臓が収縮した時の血液の駆出によって生ずる駆動圧波を表している。区間(B)は、収縮期後方成分を表す区間であり、駆動圧が末梢に伝搬し、反射して戻ってきた再上昇圧波を表している。区間(A)の終わりの時間に対応する脈波の大きさを表す値をPT1、区間(B)の終わりの時間に対応する脈波の大きさを表す値をPT2、で表す。
【0033】
図5(b)において、縦軸は、脈波の大きさを表し、横軸は時間を表す。図に例示した加速度脈波には、波高a、b、c、d、eで表す5つの変曲点がある。加速度脈波の波高比(b/a、c/a、d/a、e/a)について、加速度脈波の波高成分には厳密な意味でのキャリブレーションはない。従って、波高の比較には、各波形成分を収縮初期陽性波である波高aの値で除したb/a、c/a、d/a、e/aといった波高比を用いる。この加速度脈波の各波高比が加齢に伴って変化が見られる。この変化から血管の状態を診断することが可能である。例えば、加速度脈波の各波高比と年齢との関係を表すデータを過去の事例等に基づいて生成してテーブル情報として記憶しておき、得られた波高比に対応する年齢を、このテーブル情報を参照することによって得る。また、加速度脈波の各波高比と血管弾性特性との関係を表すデータを過去の事例等に基づいて生成してテーブル情報として記憶しておき、得られた波高比に対応する血管弾性特性を得る。このようにして、血管の状態診断を行う。
【0034】
続いて心電図モニター装置2が外部に接続されている場合の同期タイミングについて、図6を用いて説明する。図6(a)は、心電図データとして得られる心電図波形を表す。縦軸が心電図データの値を表し、横軸は時間を表す。振動発振部121は、この心電図波形に含まれるR波のピーク値を検出し、このピーク値の時刻を検出する。そして、振動発振部121は、この時刻から予め決められた時間だけ遅延させたタイミング(時刻)を検出する。図6(b)は、容積脈波の波形を表す図であり、縦軸が容積脈波を表す値、横軸が時間である。この図において、時間t1は、R波が発生した時刻T0から、容積脈波のピーク値mが発生した時刻T1までの時間である。この時間t1の値は、心臓から脈波測定装置1の測定部位までの距離に応じて異なる。振動発振部121は、時刻T0を起点とし、時刻T0から時刻T1までの間のいずれかの時刻までの時間または、時刻T1が到来した後に所定の時間が経過した時間をメモリー内に記憶しており、R波が検出された時刻R0からこの時間を経過したときに、振動(パルス振動)を発生させる。
【0035】
図6(c)は、図6(b)に示す容積脈波を2回微分した場合の値を表す図である。縦軸が2回微分された後の値を表し、横軸が時間を表す。データ演算部132は、脈波処理部131から得られる検出結果の値を2回微分し、波高a、b、c、d、eの値を検出する。
【0036】
図7は、波動部123によって波動を与えていない場合と、この波動を与えた場合のそれぞれにおける各容積脈波を表す波形を示す図である。縦軸は、容積脈波の値を表し、横軸は時間を表す。区間Taの容積脈波の波形が、波動部123から振動が与えられていない場合の波形であり、区間Tbの容積脈波の波形が、波動部123から振動が与えられている場合の波形である。ここでは、時刻T10において、波動部123から振動を与えた場合、符号kで表すように、容積脈波が変化した。この変化が生じた容積脈波を検出し、データ演算部132が2回微分を行うことにより、診断を行う。
【0037】
振動を与えた場合における容積脈波を2回微分した値は、振動を与えていない場合における容積脈波を2回微分した値とは異なる。このような、振動を与えた場合と与えていない場合における2回微分した値の関係と、血管弾性特性とのデータを測定深度ごとに収集して相関関係を分析し、その分析結果を求めて診断用データとして予め記憶装置に記憶しておく。そして、脈波測定装置1によって、振動を与えていない場合における容積脈波と振動を与えた場合における容積脈波との2回微分した場合の値を得て、この診断用データを参照し、診断を行うことができる。
【0038】
なお、図7に示すように、脈波測定装置1が、振動を与えていないときの容積脈波を測定した場合に、脈波測定装置1の振動付与部120により、その次の鼓動に対応する心臓の拍動に対して振動を与え、これら2つの測定結果から、診断を行うようにしてもよい。このように、連続する心臓の拍動を利用して診断することにより、生体が受ける精神的な変動や温度の相違等による拍動の変動を低減させて測定をすることができる。
【0039】
図3に戻る。加速度計測部140は、被験者の体動の有無および血液灌流に影響を及ぼす測定部位における重力を検出し、それに対応する値をデータ処理部130に出力する。例えば、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸(x、yおよびz軸)方向の成分に分解して検出し、各成分の大きさを示す加速度信号ASを出力する。この加速度計測部140は、一例としてx軸が図1のセンサー固定用バンド34の延在方向と一致し、かつy軸が図1の人差し指の指す方向と一致するように図1に示すセンサー部30に内蔵されている。
【0040】
このため、図1に示すような態様で脈波測定装置1を左腕に装着した被験者が、その左腕を垂直に垂らした姿勢で静止していると、加速度計測部140は、y軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。また、上記被験者が左手親指を上に向けた状態で肩と同じ高さに左腕を水平に伸ばした姿勢で静止していると、加速度計測部140は、x軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。重力加速度以外の加速度が働いていることを示す加速度信号を受け取った場合に、データ処理部130は、体動有りと判定させることも可能である。
加速度計測部140は、つまり、本実施形態では、加速度信号ASを解析することで、xyzの3軸に対する重力加速度の方向を特定することができる。
【0041】
図8は、測定部位における血液灌流が良い姿勢(図8に示す例では、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢)と、血液灌流が悪い姿勢(図8に示す例では、左腕を垂直に垂らした姿勢)の一例を示す図である。血液灌流が良い姿勢から血液灌流が悪い姿勢へと被験者の姿勢が変化すると、重力の影響によって左手抹消部(すなわち、左手指先)に血液が溜まり、これにより抹消部における血液灌流が変化する。つまり、「血液灌流が悪い状態」とは、末梢部に血液が溜まり、生体組織の鬱血等によって血流が阻害されている状態のことを言い、「血液灌流が良い状態」とは末梢部に血液が溜まっておらず、スムースに血液が流れている状態である。
【0042】
図9は、左手人指し指を測定部位とし、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢から同左腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させた場合に、光電変換方式の脈波測定により計測される脈強度(脈波信号の波形の谷と山の高低差:以下、ボトム・ピーク間隔)の変化の一例を示す図である。図9に示すように、左腕を肩と同じ程度の高さに水平の伸ばした姿勢から腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させると、脈波信号のボトム・ピーク間隔は次第に小さくなり、ある一定値まで低下すると、以後、変化しなくなる。腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変えた後に脈波信号のピーク・ボトム間隔が次第に小さくなるのは、測定部位に滞留する血液が増加するにつれて発光素子から照射された光の吸収量が増え、反射光が減少するからである。また、脈波信号のボトム・ピーク間隔が一定値まで低下した後変化しなくなるのは測定部位に滞留する血液量には上限があるからである。
【0043】
図9に示すように、血液灌流に対する重力の影響は、脈波信号のボトム・ピーク間隔の変化として現れるのであるが、血液灌流に対する重力の影響の大きさには個人差がある。具体的には、血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける脈波信号のピーク・ボトム間隔の変動幅が大きい者もいれば、同変動幅が小さい者もいる。一般に、冷え性の人のように血管周りの筋肉が強張っている人や動脈硬化の進んだ人のように血管の硬い人の場合、健康な人に比較して血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける脈強度の変動幅が小さいことが多い。
【0044】
このように、加速度計測部140によって重力加速度の方向を特定することで、測定部位における血液灌流に対する重力の影響の大きさや血液の滞留状態を把握が可能で、さらに、血液灌流の良し悪しの状態を脈強度から分析できる。よって、本実施形態の脈波測定装置1は、被験者の状態変化を正確に把握しつつ、前述した心臓の拍動とは異なる振動を与える機能と複数種類の光を適切に選択する機能とを有するため、さまざまな生体情報を得ることが可能である。特に、動脈血管および静脈血管に血液が滞留した血液灌流が悪い状態での血管の弾性特性などの新たなデータを取得できることとなる。
【0045】
図10は、本発明の第2実施形態に係る脈波測定装置1aの構成を示す概略ブロック図である。図3に対応する部分に同一の符号を付し、第1実施形態に係る脈波測定装置1の構成と異なる部分について説明する。第2実施形態において脈波測定装置1aは、生体センサー部110aと、操作部150とを有する。
生体センサー部110aは、発光部111a,111b(以下、特に区別の必要がない場合は、これらを総称して「発光部111」と記す)と、駆動部112と、受光部113と、増幅部114とを有する。発光部111a,111bは、発光することにより、生体の体表面から体内に向けて主波長が互いに異なる光をそれぞれ照射する。
【0046】
図11は、発光部111aおよび発光部111bがそれぞれ照射する光の主波長と、その光が生体内部に到達する深さについて説明するための図である。ヒトのような生体の体表面に近い部分、すなわち生体組織の浅い部分には、毛細血管が横たわる毛細血管床と呼ばれる領域が存在している。一方、体表面から遠い部分、すなわち生体組織の深い部分には、細動静脈や動静脈吻合等が横たわる血管床と呼ばれる領域が存在している。毛細血管とは、動脈と静脈とを結ぶ網目状の血管で最も細い血管である。細動静脈とは、細動脈と細静脈であり、細動脈とは、動脈のうち毛細血管を介して静脈に繋がっている部分であり、細静脈とは、静脈のうち毛細血管を介して動脈に繋がっている部分である。動静脈吻合とは、動脈の抹消が毛細血管を経ずに直接静脈に続くものである。すなわち動静脈吻合とは、毛細血管を迂回するバイパスとして機能する。
【0047】
毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とは異なることがあり、特に、動静脈吻合がある部位においては、その動静脈吻合の状態に応じてそれぞれの脈波が異なることがある。したがって、毛細血管床における脈波と、血管床における脈波とをそれぞれ測定し、解析することにより、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静脈吻合の状態を示す情報を取得することができる。
【0048】
光の主波長とは、その光のうち最も多く含まれている光の波長をいう。光の主波長が長いほど、その光は生体組織の深い部分まで到達し、その部分において反射される傾向がある。例えば、発光部111aが照射する光の主波長は、発光部111bが照射する光の主波長よりも長い。そして、発光部111bから照射される光は毛細血管床で反射され、発光部111aから照射される光は血管床で反射されるように、それぞれの発光部111が設計されている。
【0049】
さらに、複数種類の光を照射して生体情報を得る医療機器として動脈血酸素飽和度測定器が一般に知られている。動脈血酸素飽和度測定器は、赤色と赤外の2種類の光を利用して、動脈血中のヘモグロビンのうち、酸素と結び付いている酸化ヘモグロビンの割合をパーセントで表示し、これを動脈血酸素飽和度と言う。すなわち、身体の活動に不可欠な酸素は、赤血球内のヘモグロビンと結合して酸化ヘモグロビンとなり、全身の各臓器に運ばれて各臓器の細胞に供給される。おおよそ血液100mlには、20.4mlの酸素が酸化ヘモグロビンとして含まれている。
【0050】
詳細な酸素飽和度の導出原理については、文献などの公開情報に委ねることとするが、酸素と結合した酸化ヘモグロビンと酸素を放出した還元ヘモグロビンとの分光吸光特性の違いを利用して測定している。ここで、分光吸光特性とは、どの色をよく吸収する特性を持っているかという性質である。酸化ヘモグロビンは赤外線付近の光をよく吸収し、還元ヘモグロビンは赤色付近の光をよく吸収する特長を持っている。これら2つの波長における透過光または反射光を測定し、赤色光と赤外光の透過光の比率または反射光の比率から2種類のヘモグロビンの比率を求める。
【0051】
生体に照射された光は、動脈血層、静脈血層などの組織で吸収または反射を受けることになるが、動脈以外の組織は時間的な変動(光吸収量または光反射量の変動)がない。このため、動脈血酸素飽和度測定器は、脈動による動脈血の容積変化に応じた時間的な強度変化から2種類のヘモグロビンの比率を求めている。つまり、透過光の変動成分または反射光の変動成分だけを見ることで、動脈血のみの情報から酸素飽和度を計測している。
【0052】
本実施形態の脈波測定装置1aにおいて、一例として図10に示す生体センサー部110aの発光部111a,111bにそれぞれ赤色付近の光と赤外線付近の光と、を用いた場合について説明する。
本実施形態では、図10に示す振動付与部120より振動を付与する機能を使用して、時間的な変動がない静脈血層の組織に、動脈血層と同様に時間的な変動を与えることができる。この時、生体センサー部110aの赤色付近の光を照射することで、静脈血に多く存在する還元ヘモグロビンがよく吸収し、得られた信号には静脈血管の情報を多く含むことになる。また、生体センサー部110aの赤外線付近の光を照射することで、動脈血に多く存在する酸化ヘモグロビンがよく吸収し、得られた信号には動脈血管の情報を多く含むことになる。このように、複数種類の光を適切に選択することで、動脈血管と静脈血管とについて、それぞれ血管の状態診断を行うことができる。さらに、図10に示す加速度計測部140によって重力加速度の方向と大きさを特定することで、測定部位における血液灌流に対する重力の影響の大きさや血液の滞留状態を把握して、血液灌流が良い状態と血液灌流が悪い状態とで、動脈血管の弾性特性および静脈血管の弾性特性など新たなデータを取得でき、それぞれの状態における比較および解析が可能となる。このため、より詳細な生体の状態診断も行うことができる。
【0053】
図10に戻る。操作部150は発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択するための操作ボタン(図示せず)を備えており、例えば、ユーザーによる操作を受け付けてその操作内容に応じた操作信号を駆動部112に供給する。駆動部112は、操作部150からの操作信号に基づいて発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択し、選択したその発光部111をデータ処理部130からの制御信号に基づいて発光させる。受光部113は、発光部111から照射され生体によって反射される反射光を検出する。すなわち、駆動部112により発光部111aが選択された場合には、受光部113は、血管床で反射された反射光を検出し、駆動部112により発光部111bが選択された場合には、受光部113は、毛細血管床で反射された反射光を検出する。このように、操作信号により、脈波を測定する組織の深さ(測定深度)が選択される。また、発光部111aまたは発光部111bのいずれかを選択するための操作は、操作部150を介さずに選択できる機能を有しても良い。
【0054】
図12は、第3実施形態に係る脈波測定装置1bの構成を表す図である。図10に対応する部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。第3実施形態において、脈波測定装置1bは振動付与部120に替えて振動付与部120aを備え、データ処理部130に替えてデータ処理部130aを備える。
【0055】
振動付与部120aにおいて、受信部124は、血管中を流れる血液に反射した波動を受信する。この波動は、例えば、光または振動である。波動増幅部125は、受信部124が受信した結果を表す電気信号を増幅する。波動送信部122は、第2の実施形態において説明をした振動の他に、予め決められた周波数の音波を波動部123によって生体に送信する。
【0056】
データ処理部130aにおいて、血流計測部133は、波動増幅部125を介して得られる受信部124の受信結果に基づいて、血流速度を計測する。例えば、波動送信部122によって送信された超音波の周波数と、受信部124で受信した測定結果から得られる周波数とを比較することにより、血流のドップラー効果を算出する。そして、その周波数の変化により生体の血管に流れる血流速度を算出し、その速度の時間変化を求める。
【0057】
データ演算部132aは、脈波処理部131によって得られる容積脈波を、血流計測部133によって得られる血液速度に基づいて補正する。例えば、受光部113によって受光した拍動成分の波形を積分した値を算出することによって得られる値を、血液レオロジー補正用係数Kとする。そして、血液レオロジーの特徴成分の1つである最大血流速度Vmaxが、血液レオロジーと相関関係にあることから、血液レオロジーを表す指標をTとすると、Tは、最大血流速度Vmaxと血液レオロジー補正用係数Kとの積(Vmax×K)で表される。この式に基づいて、血管の緊張による影響を補正する。そして、この補正を行うことにより、血管緊張の影響を低減させることができ、測定精度を向上させることができる。
また、血流速度を検出してエネルギー波の状態を決定することも可能である。
【0058】
なお、上述した第2実施形態および第3実施形態において、生体センサー部110aは、2つの発光部111a,111bを有していたが、主波長が互いに異なる光を照射する3つ以上の発光部111を有していてもよい。この場合、各発光部111の照射する照射光の主波長ごとに、その照射光が反射される生体組織の深さ、すなわち測定深度の情報をデータ演算部132が取得し、その測定深度ごとに血管の状態診断を行えばよい。
【0059】
また、発光部111は、複数種類の光を含んだ光を発生させて、その光をプリズムやフィルター等の分光手段により、主波長が互いに異なる複数種類の光に分光し、そのうちの選択された1種類の光を照射するようにしてもよい。この場合、駆動部112は、データ処理部130からの制御信号に基づいて、発光部111の分光手段を駆動させることにより、選択された1種類の光を照射させる。
【0060】
また、駆動部112は、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち選択された1種類の光を発光部111a,111bのいずれかにより照射させていたが、駆動部112は、発光部111により2種類以上の光を同時に照射させてもよい。生体組織により反射されても、その反射光の主波長は、照射光の主波長とほとんど同じである。したがって、この場合、受光部113は、主波長が互いに異なる複数種類の光を含んだ光からそれぞれの光を分光する分光手段、すなわち、例えばプリズム等を有していればよく、この分光手段により、複数種類の照射光に対応する複数種類の反射光をそれぞれ分光すればよい。増幅部114は、分光された複数種類の反射光の検出結果をそれぞれ増幅し、脈波処理部131に個別に出力する。脈波処理部131は、受光部113によって検出されて増幅部114によって増幅された複数種類の検出結果を個別に入力し、上記の複数種類の反射光ごとに容積脈波をそれぞれ検出し、各検出結果のうちのいずれかを振動発振部121に出力すればよい。
【0061】
なお、上述した実施形態において、振動発振部121は、心電図モニター装置2が外部に接続されていない場合には、容積脈波信号のピーク値(またはボトム値)を検出し、その値に対応する時刻から予め決められた時間を遅延させた時刻(送信時刻)に、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成し、心電図モニター装置2が外部に接続されている場合には、データ演算部132が受信した心電図データにおけるに基づいて、R波から予め決められた時間を遅延させて、波動部123に波動送信部122から波動を送信させるための制御信号を生成していたが、振動発振部121は、上記の送信時刻にのみ、波動部123に波動を送信させるための制御信号を生成するのではなく、波動部123に連続的な波動を送信させるための制御信号を生成してもよい。この場合、波動部123は、連続的な波動を送信することにより、図7に示したようなパルス振動ではなく、連続的な振動を体内の血管に付与する。要するに、振動付与部120および振動付与部120aは、体内の血管に振動を付与すればよく、また、生体センサー部110は、振動付与部により体内の血管に振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から体内に向けて照射して、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出すればよい。
【0062】
なお、上述した実施形態において、波動部123から与える振動の強さや、その振動パターンを変えて、それぞれの場合における各測定深度における容積脈波を測定して2回微分した値を求め、この求められた複数の結果の組み合わせから、診断を行うようにしてもよい。例えば、測定深度を毛細血管床、血管床の2種類とし、波動の強さをA10、A11の2種類とし、振動パターンをB10、B11の2種類とする。そして、これらの組み合わせである8パターンによってそれぞれ容積脈波の測定を行って2回微分した値をそれぞれ求め、8パターンの各結果の相関関係から診断を行うようにしてもよい。
【0063】
例えば、第1パターンと第2パターンが基準値以内の範囲に収まる場合には、血管の老化度合いが最も若いことを表していると診断結果を出力したり、血管弾性特性が、もっとも弾性特性が高いことを表す診断結果を出力したりしてもよい。なお、この相関関係は、多数の測定を行うことによって、予め分析して記憶装置内に記憶しておく。
【0064】
なお、このようにして得られた診断結果から、循環器系の診断や血管の老化度合い及び動脈硬化度合いの評価を行ったり、動静脈吻合に流れ込む血液の割合や血流変化等の動静脈吻合の状態を示す情報を取得したりすることが可能になる。
【0065】
なお、上述した実施形態において、生体センサー部110または生体センサー部110aが、受光部113によって受光した結果に基づいて容積脈波を検出し、検出された容積脈波を直接、データ演算部132に出力するようにしてもよい。この場合、生体センサー部110は、脈波処理部131を含んでもよい。
【0066】
なお、上述した実施形態においては、心電図モニター装置2が外部に接続される場合について説明したが、接続しない場合であってもよい。なお、心電図モニター装置2を接続した場合には、波動を送信するタイミングをより正確に決定することができる。
【0067】
また、図1における脈波測定装置1、脈波測定装置1aおよび脈波測定装置1bの機能を実現するためのプログラムをコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピューターシステムに読み込ませ、実行することにより容積脈波の検出を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0068】
また、「コンピューターシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD−ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部における揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0069】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1,1a,1b…脈波測定装置、2…心電図モニター装置、110,110a…生体センサー部、111,111a,111b…発光部、112…駆動部、113…受光部、114…増幅部、120,120a…振動付与部、121…振動発振部、122…波動送信部、123…波動部、124…受信部、125…波動増幅部、130,130a…データ処理部、131…脈波処理部、132,132a…データ演算部、133…血流計測部、140…加速度計測部、150…操作部、AS…加速度信号。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、
前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、
前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、
を有することを特徴とする脈波測定装置。
【請求項2】
前記加速度計測部は、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する3軸加速度センサーであり、前記測定部位または前記測定部位の近傍に装着され、前記測定部位に対して働く重力の方向とその影響とを前記加速度信号を解析して特定し、その特定結果を加味して前記測定部位における血液灌流の良否と、
重力加速度以外にも加速度が生じたことを示す加速度信号を前記加速度計測手段から受け取った場合に前記被験者について体動有りと、
を判定することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項3】
前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態に加え、当該振動が付与されていない状態で、前記容積脈波を検出し、前記振動付与部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていない状態で前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に付与することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項6】
心電図モニター装置から出力される心電図データを受信する受信部を有し、前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図データにおけるR波の検出時期から予め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に付与することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項7】
測定部位に働く加速度の大きさにより重力による影響が及ぼす血液灌流を判定し、
光を体表面から体内の血管に向けて照射して、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出し、
前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与し、
前記被験者の血液灌流を加味して、前記波動が送信された場合に前記体内の血管の容積脈波を検出することを特徴とする脈波の測定方法。
【請求項1】
外力に応じて生じた加速度を検出し、被験者の身体のうち測定部位として定められた部位における当該加速度を表す加速度信号を出力する加速度計測部と、
前記測定部位の体内に波動を送信して、当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与する振動付与部と、
前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、前記測定部位の体表面から前記血管に向けて光を照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出する生体センサー部と、
を有することを特徴とする脈波測定装置。
【請求項2】
前記加速度計測部は、外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する3軸加速度センサーであり、前記測定部位または前記測定部位の近傍に装着され、前記測定部位に対して働く重力の方向とその影響とを前記加速度信号を解析して特定し、その特定結果を加味して前記測定部位における血液灌流の良否と、
重力加速度以外にも加速度が生じたことを示す加速度信号を前記加速度計測手段から受け取った場合に前記被験者について体動有りと、
を判定することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項3】
前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光のうち、選択された1種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記生体センサー部は、前記振動付与部により前記血管に前記振動が付与された状態で、主波長が互いに異なる複数種類の光を体表面から前記血管に向けて照射し、その各透過光または各反射光に基づいて当該複数種類の光の各々に対応した容積脈波をそれぞれ検出することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
前記生体センサー部は、前記振動が付与された状態に加え、当該振動が付与されていない状態で、前記容積脈波を検出し、前記振動付与部は、前記振動付与部により前記体内の血管に前記振動が付与されていない状態で前記生体センサー部によって検出される前記容積脈波に応じた振動を前記血管に付与することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項6】
心電図モニター装置から出力される心電図データを受信する受信部を有し、前記振動付与部は、前記受信部が受信した心電図データにおけるR波の検出時期から予め決められた時間遅延した時期に前記振動を前記血管に付与することを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項7】
測定部位に働く加速度の大きさにより重力による影響が及ぼす血液灌流を判定し、
光を体表面から体内の血管に向けて照射して、その透過光または反射光に基づいて容積脈波を検出し、
前記検出される前記容積脈波に応じた波動を前記体内に送信して当該体内の血管に心臓の拍動と異なる振動を付与し、
前記被験者の血液灌流を加味して、前記波動が送信された場合に前記体内の血管の容積脈波を検出することを特徴とする脈波の測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−179210(P2012−179210A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43614(P2011−43614)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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