説明

脊髄小脳変性症治療剤

【課題】小脳や脳幹から脊髄にかけて神経核や伝導路に病変の主座をもつ神経変性疾患を包含する脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia or atrophy, degeneration)もしくは多系統萎縮症治療剤、または運動失調もしくは平衡障害改善剤の提供。
【解決手段】


(式中、Rはメチルである)で示される全ての可能な異性体やラセミ体を含む化合物、その製薬上許容される塩、またはその溶媒和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia or atrophy, degeneration)もしくは多系統萎縮症治療剤、または運動失調もしくは平衡障害改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄小脳変性症(SCA)は小脳や脳幹から脊髄にかけて神経核や伝導路に病変の主座をもつ神経変性疾患を包含する。SCAの主要症候として、小脳性あるいは脊髄後索性の運動失調を示す。例えば、遺伝性のものとして遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症、遺伝性皮質小脳萎縮症、Machado-Joseph病、フリードライヒ運動失調症、遺伝性歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症等、非遺伝性のものとしてオリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、線条体黒質変性症、皮質性小脳萎縮症等に分類されているが、いずれもその発症原因は不明である。症状や病状の進行速度等は病型により様々であるが、いずれも進行性であり、最終的には臥床状態になり、肺炎、窒息死、突然死にいたることが多い原因不明の神経難病であり、その原因究明と有効な治療法の確立が求められている。
【0003】
なお、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症およびシャイ・ドレーガー症候群は病理学的所見に共通性が高いことから、これらを包括する概念として多系統萎縮症と称することもある。尚、脊髄小脳変性症と多系統萎縮症の分類の境界は明確であるとは言えない。
【0004】
脊髄小脳変性症の治療や症状改善にはサイロトロピン放出ホルモン(TRH)が有効であるとされており、特許文献1および非特許文献1記載の化合物は脊髄小脳変性症治療剤として用いられている。また、特許文献2〜7および非特許文献2にもTRH様作用を有する化合物が脊髄小脳変性症治療に有効である旨またはTRH誘導体が脊髄小脳変性症を適応として開発されている旨記載されているが、さらに優れた脊髄小脳変性症治療剤および症状改善剤の開発が望まれている。
【0005】
特許文献8には中枢神経賦活作用を有し、ドーパミン系、ノルエピネフリン系、アセチルコリン系の機能低下に伴う諸症状の治療に使用することができる化合物が開示されている。本発明に係る化合物の構造式も記載されている。
【0006】
特許文献9には本発明に係る化合物がパーキンソン病治療に有効である旨開示されており、特許文献10にはTRHまたはTRH誘導体と比較してバイオアベイラビリティー(以下BA)が4〜34倍である旨開示されている。しかし、いずれにも、本発明に係る化合物が脊髄小脳変性症や多系統萎縮症に格別の効果を有することについては示唆されていない。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−33197号公報
【特許文献2】特開昭63−290876号公報
【特許文献3】特開平3−236397
【特許文献4】特開平6−56886
【特許文献5】特開平9−157286
【特許文献6】特開昭59−155346
【特許文献7】特開昭60−190795
【特許文献8】国際特許出願公開WO98/08867号パンフレット
【特許文献9】国際特許出願公開WO02/17954号パンフレット
【特許文献10】際特許出願公開WO99/53941号パンフレット
【非特許文献1】ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、1994年、271号、357頁
【非特許文献2】「明日の新薬・薬効別 神経系及び感覚器官用医薬品−2、中枢神経系用薬(その2)、末梢神経系用薬」、株式会社テクノミック編集・発行、2004年7月22日、第409頁
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
脊髄小脳変性症(spinocerebellar ataxia or atrophy, degeneration)もしくは多系統萎縮症治療剤、または運動失調もしくは平衡障害改善剤を提供する。
本発明は、
(1)式(I):
【化1】

【0009】
(式中、Rはメチル、シアノまたはカルバモイルである)
で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する脊髄小脳変性症または多系統萎縮症の治療剤、
(2)上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する運動失調の改善剤、
(3)上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する平衡障害の改善剤、
(4)脊髄小脳変性症または多系統萎縮症がオリーブ橋小脳萎縮症または線条体黒質変性症である、上記(1)記載の治療剤または改善剤、
(5)Rがメチルである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の治療剤または改善剤、
(6)1水和物または3水和物である、上記(5)記載の治療剤または改善剤
を提供するものである。
また、
(7)脊髄小脳変性症もしくは多系統萎縮症の治療のための医薬を製造するための上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物の使用、
および
(8)運動失調の改善のための医薬を製造するための上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物の使用、
(9)平衡障害の改善のための医薬を製造するための上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物の使用、
(10)上記(1)記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物の治療有効量を、それを必要とする哺乳類に投与することを特徴とする、脊髄小脳変性症もしくは多系統萎縮症の治療方法または運動失調もしくは平衡障害の改善方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る化合物は脊髄小脳変性症または多系統萎縮症等に起因する運動失調または平衡障害の改善作用を有し、脊髄小脳変性症もしくは多系統萎縮症治療剤、または運動失調もしくは平衡障害改善剤として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書中、「溶媒和物」とは、例えば有機溶媒との溶媒和物、水和物等を包含する。水和物を形成する時は、任意の数の水分子と配位していてもよく、特に1水和物または3水和物が好ましい。3水和物の懸濁液は粒子が沈降しにくく大量合成における操作性が高いため、特に3水和物が好ましい。
【0012】
本発明に係る化合物は製薬上許容される塩を包含する。例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムまたはカリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウムまたはカルシウム等)、アンモニウム、有機塩基およびアミノ酸との塩、または無機酸(塩酸、臭化水素酸、リン酸または硫酸等)、および有機酸(酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸等)との塩が挙げられる。これらの塩は、通常行われる方法によって形成させることができる。
【0013】
また、本発明に係る化合物は特定の異性体に限定するものではなく、全ての可能な異性体やラセミ体を含むものである。
【0014】
本発明に係る化合物は特許文献8および特許文献9等に記載の公知の方法により得ることができ、さらに常法に付すことによりその塩およびそれらの溶媒和物(例えば水和物)を得ることができる。
【0015】
本発明に係る化合物は後述する試験例に記載の通り、優れた運動失調(特に協調運動障害および平衡障害に基づく歩行障害)改善効果を有する。他のTRHまたはTRH誘導体と比較して脳移行性が改善されており少量投与で薬効を示す。また、他のTRHまたはTRH誘導体は脳内において容易に代謝されるが、本発明に係る化合物は脳内安定性が高いため薬効持続性も期待できる。したがって、投与量の設計が容易であり、服用量や服用回数を減少させることができるため、患者のQOLの点からも好ましい医薬となり得るものである。
【0016】
このような特徴は本発明に係る化合物特有のものである。特許文献8には本発明に係る化合物と類似構造を有する化合物が開示されているが、それらの化合物と比較しても、本発明に係る化合物は高い運動失調改善効果を示す。
【0017】
本発明に係る化合物は、脊髄小脳変性症または多系統萎縮症に分類され得る全ての疾患の治療作用、症状改善作用を有する。疾患としては具体的には、遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症、遺伝性皮質小脳萎縮症、フリードライヒ(Friedreich)運動失調症、マシャド・ジョセフ(Machado−Joseph)病、ラムゼイ・ハント(Ramsay Hunt)病、遺伝性歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症および遺伝性痙性対麻痺、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー(Shy−Drager)症候群、皮質性小脳萎縮症、線条体黒質変性症、マリネスコ・シューグレン(Marinesco−Sjogren)症候群、アルコール性皮質性小脳萎縮症、悪性腫瘍に関連した傍腫瘍性小脳変性症、中毒物質による中毒性小脳変性症、内分泌異常に伴う小脳変性症等が挙げられる。主な症状としては、運動失調(歩行失調、躯幹失調、四肢失調)、起立性低血圧、排尿困難、発汗低下、睡眠時無呼吸、立ちくらみ等の自律神経症状、下肢のつっぱり、眼振、眼球運動障害、錐体路症状、錐体外路症状(姿勢調節障害、筋固縮、無動、振戦)、嚥下障害、舌の萎縮、後索症状、筋萎縮、筋力低下、深部反射亢進、感覚障害、脊柱側彎症、脊柱後側彎症、足変形、講音障害、痴呆、精神高揚、リハビリテーション意欲の向上等が挙げられる。
【0018】
特に本発明に係る化合物は運動失調の改善および平衡障害改善に有効である。
【0019】
本明細書における「運動失調」とは、脊髄性運動失調、迷路性運動失調、大脳性運動失調および小脳性運動失調を包含し、本発明に係る化合物は特に小脳性運動失調(例えば協調運動障害および平衡障害に基づく歩行失調等)に有効である。
【0020】
本発明に係る化合物を、上記の疾患の治療または症状改善を目的としてヒトに投与する場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤等として経口的に、または注射剤、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤等として非経口的に投与することができる。また、本化合物の有効量にその剤型に適した賦形剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤等の医薬用添加剤を必要に応じて混合し、医薬製剤とすることができる。注射剤の場合には、適当な担体と共に滅菌処理を行って製剤とする。特に錠剤、カプセル剤、服用しやすい口腔内速崩壊錠、ゼリー製剤、液剤等による経口投与が好ましい。
【0021】
投与量は疾患の状態、投与ルート、患者の年齢、または体重によっても異なるが、成人に経口で投与する場合、通常0.01〜100mg/日であり、好ましくは0.1〜40mg/日であり、最も好ましくは0.5〜20mg/日である。非経口投与の場合には、投与量は投与ルートにより大きく変化するが、通常0.001〜10mg/日であり、好ましくは0.01〜4mg/日であり、最も好ましくは0.05〜2mg/日である。
【0022】
以下に実施例および試験例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0023】
実施例中、以下の略号を使用する。
BOC:t−ブトキシカルボニル
p−Ts:パラトルエンスルホニル
Me:メチル
【実施例】
【0024】
実施例1
【化2】

【0025】
第一工程
1-N-[N-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(チアゾール-4-イル)-L-アラニル]-(2R)-2-メチルピロリジン (3)の調整
文献記載(J. Am. Chem. Soc. 73, 2935 (1951), Chem. Pharm. Bull. 38, 103 (1950))の方法で合成したN-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(チアゾール4-イル)-L-アラニン(1, 13.62g, 50mmol)および文献記載の方法(Helv. Chim. Acta, 34,2202(1951))で合成した2(R)-2-メチルピロリジン p-トルエンスルホン酸 (2, 12.79g, 50mmol)のテトラヒドロフラン溶液(130ml)にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(10.83g, 52.5mmol)、N−ヒドロキシベンズトリアゾール(2.03g, 15mmol)およびトリエチルアミン(7.7ml, 55.2mmol)を加え室温で20時間撹拌した。析出した沈殿物を濾去した後、濾液を減圧下で濃縮乾固した。得られた残査を酢酸エチル(200ml)に溶解して炭酸水素ナトリウム水溶液および水で順次洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮乾固して化合物(3, 16.45g, 100%)を油状物として得た。
NMR (CDCl3): δH 8.76 and 8.75 (1 H, each d, J=2.1Hz, Thia-H-2), 7.08 (1 H, d, J=2.1Hz, thia-H-5), 5.45 (1 H, m, NH), 3.45-3.64 (1 H, m, Ala-CαH), 4.14 and 3.81 (1 H, each m, Pyr-CαH), 3.51 (1 H, m, pyr-NCH2), 3.1-3.4 (3 H, m, Pyr-CH2 and Ala-CH2), 1.39 (9 H, s, BOC), 1.3-2.0 (4 H, m, pyr-CH2), 1.06 (3 H, d, J=6Hz, Pyr-Me)

第二工程
1-N-[3-(チアゾール-4-イル)-L-アラニル]-(2R)-2-メチルピロリジン ジ-p-トルエンスルホン酸塩 (4)の調整
化合物(3, 33.77g, 99.48mmol)およびp-トルエンスルホン酸水和物(37.85g, 199mmol)を酢酸エチル(101ml)に溶解し、氷冷した。4mol/L塩化水素−酢酸エチル溶液(125ml)を加え、2時間45分攪拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮乾固した。得られた残査にメタノールを加え、再び濃縮乾固した。残渣にメタノールートルエン(1:1)を加えて減圧下濃縮乾固すると結晶性残渣が得られた。残渣をアセトンで洗浄した後、結晶を濾取して化合物(4, 36g, 62%)を得た。母液を減圧下濃縮乾固した後、残渣にメタノール及びトルエンを加えて濃縮乾固した。得られた結晶性残渣をアセトンで洗浄して、さらに化合物(4, 10.67g, 18.4%)を得た。
mp 188-189℃
[α]D24 +2.2 (c, 1.0, MeOH)
IR(KBr)cm-1: 3431, 3125, 3080, 2963, 1667, 1598, 1537, 1497, 1451, 1364, 1229, 1198, 1170, 1123, 1035, 1011.
NMR (CD3OD): δH 9.04 and 9.03 (1 H, each d, J=2.1Hz, Thia-H-2), 7.70 (2 H, m, aromatic H), 7.46 (1 H, d, J=2.1Hz, thia-H-5), 7.23 (2 H, m, aromatic H), 4.49 and 4.46 (1 H, each d, J=6.9Hz, Ala-CαH), 4.14 and 3.75 (1 H, each m, Pyr-CαH), 3.51 (1 H, m, pyr-NCH2), 3.2-3.4 (3 H, m, Pyr-CH2 and Ala-CH2), 2.36 (3 H, s, aromatic Me), 1.3-2.0 (4 H, m, pyr-CH2), 1.19 and 1.07 (3 H, each d, J=6.3Hz, Pyr-Me)
元素分析(C11H17N3OS 2C7H8O3S)
計算値:C, 51.44%; H, 5.70%; N, 7.20%; S, 16.48%.
実測値:C, 51.36%; H, 5.69%; N, 7.23%; S, 16.31%.

第三工程
1-[N-[(4S,5S)-(5-メチル-2-オキソオキサゾリジン-4-イル)カルボニル]-3-(チアゾール-4-イル)-L-アラニル-(2R)-2-メチルピロリジン 3水和物 (I−1)
第三工程(1)
A法
文献記載(J. Chem. Soc. 1950, 62; Tetrahedron 48; 2507 (1992); Angew. Chem. 101, 1392 (1989)の方法で合成した(4S, 5S)-5-メチル-2-オキソオキサゾリジン-4-イルカルボン酸(5, 1.368 g, 9.43mmol)、化合物(4, 5g, 8.56mmol)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(217 mg, 1.89 mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解した後、テトラヒドロフラン(65ml)を加えた。氷冷した後、攪拌しながらトリエチルアミン(2.63ml, 18.86mmol)及びN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(2.04g, 9.89mmol)を加え30分間攪拌した。冷却浴を除き、室温でさらに15時間攪拌した。析出物を濾去した後、濾液を減圧下に濃縮乾固した。得られた残渣9.95gに水100mlを加え、室温で1時間30分攪拌した。不溶物を濾去した後、濾液を約半量まで減圧下で濃縮し、少量の不溶物を濾去した。濾液を重量が約20gになるまで濃縮し、3日間冷蔵庫に放置した。析出した結晶2.98gを濾取し、冷水で洗浄した。濾液をクロロホルムで2回抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下濃縮乾固した。オイル状残渣1.05gに酢酸エチル5mlを加えて攪拌し、結晶136mgを得た。上記で得た結晶と合併し、精製水45mlに加温溶解した。室温まで冷却後、析出した不溶物を濾去した。濾液を減圧下濃縮し、室温に一夜放置した。氷冷した後、結晶を濾取し、化合物(I−1, 2.89g, 80.3%)を得た。
mp 194-196℃
[α]D22 -2.0±0.4 ゜(c, 1.008, H2O), [α]365 +33.1±0.7 ゜(c, 1.008, H2O)
IR(Nujor)cm-1: 3517, 3342, 3276, 3130, 3092, 3060, 1754, 1682, 1610, 1551, 1465, 1442, 1379, 1235, 1089.
NMR(CD3OD): δH 8.97 and 8.96 (total 1 H, d, J=2.1Hz, Thia-H-2), 7.34 and 7.33 (total 1 H, d, J=2.1Hz, Thia-H-5), 5.18 and 5.04 (total 1 H, each t, J=7.5Hz, Ala-CαH), 4.92 (1 H, dq, J=6.6 and 8.7Hz, Oxa-H-5), 4.36 and 4.35 (total 1 H, d, J=8.7Hz, Oxa-H-4), 4.07 and 3.92 (total 1 H, each m, Pyr-Cα-H), 3.78 (1 H, m, Pyr-NCH2), 3.42 (1 H, m, Pyr-NCH2), 3.22 (2 H, m, Ala-CH2), 1.5-2.0 (4 H, m, Pyr-CH2), 1.28 and 1.22 (total 3 H, each d, J=6.6Hz, Oxa-5-Me), 1.21 and 1.02 (total 3 H, each d, J=6.6Hz, Pyr-2-Me)
Anal Calcd For C16H22N4O4S 3H2O
Calculated: C, 45.00%; H, 6.71%; N, 13.33%; S, 7.63%.
Found: C, 45.49%; H, 6.60%; N, 13.58%, S, 7.88%.

第三工程(2)
B法
化合物(I−2, 410g, 1.119mol)を精製水6.3Lに加熱溶解した後、総重量1370gになるまで減圧下で濃縮した。濃縮液を室温に一夜放置した。濃縮液を氷冷下で1時間冷却した後、析出した結晶を濾取した後、冷水で洗浄し、化合物 (I-1, 448g, 95.2%)を無色結晶として得た。さらに、母液を精製水300mLに再度加温溶解した後、総重量55gになるまで減圧下で濃縮した。濃縮液を室温に一夜放置した後、析出した結晶を濾取して化合物(I−1, 16.3g, 3.5%)を得た(合計464.3g, 98.7%)。
mp 194-196℃
[α]D22 -0.9±0.4 ゜(c, 1.007, H2O), [α]365 +35.4±0.8 ゜(c, 1.007, H2O)
IR(Nujor)cm-1: 3511, 3348, 3276, 3130, 3093, 3060, 1755, 1739, 1682, 1611, 1551, 1465, 1442, 1379, 1235, 1089.
元素分析(C16H22N4O4S 3H2O)
計算値:C, 45.00%; H, 6.71%; N, 13.33%; S, 7.63%.
実測値:C, 45.56%; H, 6.66%; N, 13.43%, S, 7.69%.

第四工程
1-[N-[(4S,5S)-(5-メチル-2-オキソオキサゾリジン-4-イル)カルボニル]-3-(チアゾール-4-イル)-L-アラニル-(2R)-2-メチルピロリジン (I−2)
A法
特許文献8に記載の方法で合成した1-[N-[(4S,5S)-(5-メチル-2-オキソオキサゾリジン-4-イル)カルボニル]-3-(チアゾール-4-イル)-L-アラニル-(2R)-2-メチルピロリジン 1水和物(4.77g)を乳鉢で粉砕した後、減圧下(66.5Pa)、100℃で15時間加熱乾燥して化合物(I−2)4.54gを得た。
mp 194.5-196.5℃
[α]D25 -2.1±0.4 ゜(c, 1.004, H2O), [α]365 +36.8±0.8 ゜(c, 1.004, H2O)
水分測定(カールフィッシャー法):0.27%
IR(Nujor)cm-1: 3276, 3180, 3104, 1766, 1654, 1626, 1548, 1517, 1457, 1380, 1235, 1102, 979.
NMR(CD3OD):δH 8.97 and 8.96 (total 1 H, d, J 2.1 Hz, Thia-H-2), 7.34 and 7.33 (total 1 H, d, J 2.1 Hz, Thia-H-5), 5.19 and 5.04 (total 1 H, each t, J 7.5 Hz, Ala-CαH), 4.92 (1 H, dq, J 6.6 and 8.7 Hz, Oxa-H-5), 4.36 and 4.35 (total 1 H, d, J 8.7 Hz, Oxa-H-4), 4.07 and 3.92 (total 1 H, each m, Pyr-Cα-H), 3.78 (1 H, m, Pyr-NCH2), 3.42 (1 H, m, Pyr-NCH2), 3.22 (2 H, m, Ala-CH2), 1.5-2.0 (4 H, m, Pyr-CH2), 1.28 and 1.22 (total 3 H, each d, J 6.6 Hz, Oxa-5-Me), 1.21 and 1.02 (total 3 H, each d, J 6.6 Hz, Pyr-2-Me).
元素分析(C16H22N4O4S)
計算値:C, 52.44%; H, 6.05%; N, 15.29%; S, 8.75%.
実測値:C, 52.24%; H, 5.98%; N, 15.27%, S, 8.57%.

B法
化合物(I−1, 17.89g, 47.3mmol)を乳鉢で粉砕後、減圧下(66.5Pa)、100℃で14時間加熱乾燥して化合物(I−2, 17.31g)を得た。
mp 193-194℃
[α]D25 -1.9±0.4 ゜(c, 1.002, H2O), [α]365 +37.2±0.8 ゜(c, 1.002, H2O)
水分測定(カールフィッシャー法):0.22%
IR(Nujor)cm-1: 3273, 3180, 3111, 1765, 1685, 1653, 1626, 1549, 1516, 1456, 1346, 1331, 1277, 1240, 1097, 980.
計算値(C16H22N4O4S)
計算値:C, 52.44%; H, 6.05%; N, 15.29%; S, 8.75%.
実測値:C, 52.19%; H, 5.98%; N, 15.42%, S, 8.74%.

試験例1 ローリングマウスナゴヤにおける運動失調改善効果
遺伝性運動失調マウスであるローリングマウスナゴヤは脊髄小脳変性症のモデルマウスとして知られており、多くの論文が報告されている(E. Kurihara, N. Fukuda, S. Narumi, T. Matsuo, S. Saji, and Y. Nagawa, Jpn. Pharmacol., Ther., 13, 49-56 (1985)、Y. Mano, K. Matsui, E. Toyoshima, and K. Ando, Acta. Neurol. Scand., 73, 352-358 (1986)、K. Kinoshita, T. Fujitsuka, M. Yamamura, and Y. Matsuoka, Eur. J. Pharmacol., 274, 65-72 (1995). 、K. Kinoshita, T. Fukushima, Y, Kodama, J. Sugihara, M. Yamamura, and Y. Matsuoka, Biol. Pharm. Bull., 20, 36-39 (1997))。
【0026】
ローリングマウスナゴヤの運動失調に対する化合物(I−1)の作用を検討した。対照化合物1および2として、特許文献1および非特許文献1に記載の下記化合物を用いた。
【化3】

【0027】
運動失調改善作用はオープンフィールドを用いて転倒指数で判定した。マウスをオープンフィールド(円形オープンフィールド(直径75cm,25分画))の中央に置き、5分間の移動コマ数及び転倒回数を測定し、転倒指数(転倒回数/移動コマ数)を求めた。
【0028】
各化合物は実験当日に生理食塩水に溶解し、化合物(I−1)は1mg/kgおよび3mg/kg、対照化合物1は30mg/kgおよび100mg/kg、対照化合物2は100mg/kgおよび300mg/kgとなるように経口ゾンデを用いてマウスに経口投与した。対照群には生理食塩水のみを経口投与した。経口投与液量はマウス体重20g当り0.2mLとなるように投与サンプルを調製した。
【0029】
いずれのマウスにおいても、投与1時間後に運動失調改善作用をオープンフィールドで判定した。例数はいずれの群においても5例以上となるように行った。
【0030】
その結果を図1に示した(*: p<0.05、**: p<0.01)。化合物(I−1)は3mg/kgにおいて対照群よりも優位な運動失調改善作用を示した。対照化合物1は100mg/kgにおいてのみ対照群よりも優位な運動失調改善作用を示し、対照化合物2は300mg/kgにおいても改善作用を認めることはできなかった。
【0031】
以上の結果より、化合物(I−1)は対照化合物1に比べて30倍以上、対照化合物2と比べて100倍以上という非常に優れた運動失調改善作用を示すことがわかる。
【0032】
特許文献10に記載されている通り、本発明に係る化合物は対照化合物と比較して高いBAを有するが、運動失調改善作用は対照化合物と比較してさらに高い作用を示すものである。そのような優れた効果はBAにのみ依存するものではなく、本発明に係る化合物は運動失調改善に優れた効果を示す。

試験例2:Ara-C投与による小脳障害ラットにおける運動失調改善効果
生後2日目と3日目のSprauge-Dawleyラット(日本クレア)にAra-C(60mg/kg、日本新薬)を皮下投与し、4週齢での化合物(I−1)、対照化合物1および2の運動失調改善効果を検討した。
【0033】
運動失調改善作用はオープンフィールドを用いて転倒指数で判定した。ラットをオープンフィールド(円形オープンフィールド(直径75cm,25分画))の中央に置き、3分間の移動コマ数及び転倒回数を測定し、転倒指数(転倒回数/移動コマ数)を求めた。
【0034】
各化合物は投与当日に生理食塩水に溶解し、化合物(I−1)は0.1mg/kg、0.3mg/kg、1mg/kgおよび3mg/kg、対照化合物1は30mg/kgおよび100mg/kg、対照化合物2は100mg/kgおよび300mg/kgとなるように経口ゾンデを用いてラットに経口投与した。対照群には生理食塩水のみを経口投与した。投与は7日間1日1回反復経口投与を行い、最終投与24時間後の作用について検討した。経口投与液量はラット体重100g当り0.1mLとなるように投与サンプルを調製した。例数はいずれの群においても5例以上となるように行った。
【0035】
その結果を図2に示した(**: p<0.01)。化合物(I−1)は0.3mg/kg以上において対照群よりも優位な運動失調改善作用を示した。また対照化合物1は100mg/kgにおいてのみ対照群よりも優位な運動失調改善作用を示し、対照化合物2は300mg/kgにおいても改善作用を認めることはできなかった。
【0036】
以上の結果より、対照化合物1は300分の1の投与量の化合物(I−1)と同等の有効性を示し、対照化合物2は1000分の1量以下の化合物(I−1)と同等の有効性であった。化合物(I−1)は非常に優れた運動失調改善作用を示すことがわかる。
【0037】
上記試験例1の結果と同様、この結果は本発明に係る化合物の優れた運動失調改善作用が、BAのみに依存するものではないことを示すものである。

試験例3 ローリングマウスナゴヤにおける運動失調改善効果
特許文献8に記載の化合物(I−3:R=CN、I−4:R=CONH)および対照化合物2について、ローリングマウスナゴヤの運動失調に対する作用を検討した。
【0038】
運動失調改善作用はオープンフィールドを用いて転倒指数で判定した。マウスをオープンフィールド(100cm四方の平らなフィールドを20cm四方のコマ25個に区切ったもの)の中央に置き、10分間の移動コマ数及び転倒回数を測定し、転倒指数(転倒回数/移動コマ数)を求めた。
【0039】
各化合物は実験当日に生理食塩水に溶解し、化合物(I−3)、(I−4)は10mg/kg、対照化合物2は100mg/kgとなるように経口ゾンデを用いてマウスに経口投与した。経口投与液量はマウス体重20g当りに0.2mLとなるように投与サンプルを調製した。
【0040】
いずれのマウスにおいても、オープンフィールドにて転倒指数を測定し、その直後に化合物を経口投与した。投与1時間後に再度オープンフィールドにて転倒指数を測定し、運動失調改善作用を判定した。例数はいずれの群においても5例以上となるように行った。
【0041】
その結果を図3に示した(*: p<0.05、**: p<0.01)。化合物(I−3)、(I−4)は経口投与により強い運動失調改善作用を示し、対照化合物2は弱い改善作用を示した。
以上の結果より、化合物(I−3)、(I−4)は優れた運動失調改善作用を示すことがわかった。

製剤例1
以下の成分を含有する顆粒剤を製造する。
【0042】
成分 式(I)で表わされる化合物 10mg
乳糖 700mg
コーンスターチ 274mg
HPC-L 16mg
1000mg
式(I)で表わされる化合物と乳糖を60メッシュのふるいに通す。コーンスターチを120メッシュのふるいに通す。これらをV型混合機にて混合する。混合末にHPC-L(低粘度ヒドロキシプロピルセルロース)水溶液を添加し、練合、造粒(押し出し造粒 孔径0.5〜1mm)、乾燥工程する。得られた乾燥顆粒を振動ふるい(12/60メッシュ)で櫛過し顆粒剤を得る。

製剤例2
以下の成分を含有するカプセル充填用顆粒剤を製造する。
【0043】
成分 式(I)で表わされる化合物 15mg
乳糖 90mg
コーンスターチ 42mg
HPC-L 3mg
150mg
式(I)で表わされる化合物、乳糖を60メッシュのふるいに通す。コーンスターチを120メッシュのふるいに通す。これらを混合し、混合末にHPC-L溶液を添加して練合、造粒、乾燥する。得られた乾燥顆粒を整粒後、その150mgを4号硬ゼラチンカプセルに充填する。

製剤例3
以下の成分を含有する錠剤を製造する。
【0044】
成分 式(I)で表わされる化合物 10mg
乳糖 90mg
微結晶セルロース 30mg
CMC-Na 15mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
150mg
式(I)で表わされる化合物、乳糖、微結晶セルロース、CMC-Na(カルボキシメチルセルロース ナトリウム塩)を60メッシュのふるいに通し、混合する。混合末にステアリン酸マグネシウム混合し、製錠用混合末を得る。本混合末を直打し、150mgの錠剤を得る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る化合物は、脊髄小脳変性症もしくは多系統萎縮症治療剤、または運動失調もしくは平衡障害改善剤として有効な医薬となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】化合物(I−1)のローリングマウスナゴヤにおける運動失調(平衡障害)改善作用を示すグラフである。
【図2】化合物(I−1)のAra−C投与による小脳障害ラットにおける運動失調(平衡障害)改善作用を示すグラフである。
【図3】化合物(I−3)および(I−4)のローリングマウスナゴヤにおける運動失調(平衡障害)改善作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


(式中、Rはメチルである)
で示される化合物、その製薬上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含有する脊髄小脳変性症に起因する運動失調の改善剤。
【請求項2】
脊髄小脳変性症がオリーブ橋小脳萎縮症または線条体黒質変性症である、請求の範囲第1項記載の改善剤。
【請求項3】
1水和物または3水和物である、請求の範囲第1または2項記載の改善剤。
【請求項4】
脊髄小脳変性症に起因する運動失調の改善のための医薬を製造するための請求の範囲第1項記載の式(I)で示される化合物、その製薬上許容される塩またはそれらの溶媒和物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−10776(P2013−10776A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186224(P2012−186224)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2007−508661(P2007−508661)の分割
【原出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】