説明

脱メチル化および/または酸化された膜DNA、ならびに自己免疫疾患の診断におけるその使用

酸化および/または脱メチル化された抗原の調製のためのプロセスであって、このプロセスは、以下の工程を包含する:細胞を、UV照射、酸化試薬、重金属塩、薬物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ、ならびに酵素インヒビターからなる群より選択されるストレス因子で処理する工程;この細胞を溶解して、細胞溶解産物を得る工程;酸化および/または脱メチル化した抗原をこの細胞溶解産物から精製する工程。このプロセスによって調製された酸化および/または脱メチル化された抗原もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、酸化および/または脱メチル化された細胞質膜会合DNA(cmDNA)または膜DNA(mDNA)または酸化および/または脱メチル化されたmDNAの調製のためのプロセスに関する。
【0002】
本発明はさらに、酸化および/または脱メチル化された膜DNAを含む細胞、ならびに酸化および/または脱メチル化された膜DNAならびにこのようなmDNAを含む細胞の診断的使用および薬学的使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
参考として援用される米国特許第6,057,097号は、自己免疫反応を含む病理的状態についてのマーカー、および炎症性疾患についてのマーカーを開示した。
【0004】
この文献に開示される通り、自己免疫反応および炎症性疾患を含めた多数の病理的状態が、病因が不確かであるかまたは未知であり、そして多因子起源を有し得る。
【0005】
これらの疾患のいくつかの診断は、困難であるかまたは不確かである。この文献において特に言及される1つの疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)である。
【0006】
米国特許第6,057,097号の前には、充分な特異的抗原構造体を提供して、言及した病理的状態(特に、SLE)について特異性および感度の両方において信頼性のある診断を得ることは可能ではなかった。
【0007】
米国特許第6,057,097号は、細胞質膜会合DNA(cmDNA)または膜DNA(mDNA)という名称の抗原性構造体を提供することによってこの課題を解決する。
【0008】
この抗原は、言及した疾患を理解している被験体の生物学的流体中に存在する抗体によって認識される。この抗原構造体は、細胞(特に、Bリンパ球(例えば、Wil−2細胞))から調製される。
【特許文献1】米国特許第6,057,097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、改善された抗原構造体を提供し、それによって、特異性および感度の向上した、改善された診断ツールを提供することである。
【0010】
さらなる目的は、自己免疫疾患および/または炎症の処置において有用な薬学的物質についてのスクリーニング方法を提供することである。
【0011】
さらなる目的は、薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明によれば、抗原性構造体が、酸化および/または脱メチル化された状態にある膜DNAの調製のためのプロセスによって調製される。
【0013】
このプロセスは、以下の工程を包含する:
・細胞を、UV照射、酸化試薬、重金属塩、薬物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ、酵素インヒビター、酵素アクチベーターならびにpHシフトからなる群より選択されるストレス因子で処理する工程、
・この細胞を溶解して、細胞溶解産物を得る工程、
・酸化および/または脱メチル化したmDNAを、この細胞溶解産物から精製する工程。
【0014】
ストレス因子での処理は、酸化された膜DNAの量を増加させ、そして/または細胞中の膜DNAの脱メチル化を増加させると考えられる。その後、このmDNAは、米国特許第6,057,097号によって以前から公知の様式と類似の様式で単離される。
【0015】
「酸化および/または脱メチル化されたmDNA」は、酸化もしくは脱メチル化またはその両方のいずれかがされたmDNAである。
【0016】
「酸化された膜DNA」は、ストレス因子で処理していない細胞由来のmDNAと比較してより多くの酸化されたヌクレオチドを含む、膜DNAである。この酸化されたヌクレオチドは、例えば、5−ヒドロキシメチル−2’−デオキシウリジン、および/またはチミジングリコール、および/または7,8−ジヒドロキシ−8−オキソアデノシンおよび/または8−オキソ−7,8−ジヒドロ−2’−デオキシグアノシンのいずれかであり得る。
【0017】
最も豊富な酸化されたヌクレオチドは、8−オキソ−7,8−ジヒドロ−2−デオキシグアノシン(8−オキソ−dG)である。この酸化されたmDNAは、全グアノシンのうち、好ましくは0.5%よりも多く、より好ましくは1%よりも多く、最も好ましくは3%よりも多くを酸化形態で含み得る。
【0018】
「脱メチル化されたmDNA」は、ストレス因子で処理されていない細胞から調製されたmDNAよりも少なくメチル化されたヌクレオチドを含むmDNAである。
【0019】
このメチル化されたヌクレオチドは、通常、シトシンである。このようなメチル化は、大部分が、脊椎動物においてはCpGジヌクレオチドの状況で生じ、そしてしばしば、転写抑制と関連する。
【0020】
5−メチル化されたシトシンの好ましい量は、未処理のmDNAの90%未満であり、より好ましくは50%以下であり、そしてより好ましくは30%以下である。
【0021】
ストレス因子(例えば、酸化的ストレスであるがこれに限定されない)での処理が、細胞中の膜DNAの配列においてトランスバージョンまたは変異(例えば、G→Tであるがこれに限定されない)を生じ得ることもまた考えられる。それ故、「酸化および/または脱メチル化されたmDNA」は、ストレス因子で処理されていない細胞由来のmDNAと比較して、少なくとも同じ量であるが異なるヌクレオチド配列を有する、酸化および/またはメチル化されたヌクレオチドを含む膜DNAであり得る。
【0022】
適切なストレス因子は、例えば、以下である:二クロム酸塩、過酸化水素、過マンガン酸塩、キニジン、D−ペニシラミン(D−pencillamine)、ヒドララジン、プロカインアミド、RNAおよび/またはDNA代謝産物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ(例えば、5−アザ−シチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン)、DNAメチラーゼのインヒビター、ヒストンデアセチラーゼのインヒビター(例えば、酪酸塩またはトリコスタチンA)、ヒストンアセチルトランスフェラーゼのインヒビター、ヒストンアルギニンメチルトランスフェラーゼインヒビターおよびヒストンリジンメチルトランスフェラーゼインヒビター、プロテインキナーゼのインヒビター(例えば、スタウロスポリン(staurosporine)またはカルホスチンC(calphostin C)またはK−252aまたはH−89)、プロテインキナーゼのアクチベーター(例えば、ホルボールエステルまたはブリオスタチン1(bryostatin 1))、プロテインホスファターゼのインヒビター(例えば、カリキュリンA(calyculin A)またはオカダ酸(okadaic acid))、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼのインヒビター(例えば、3−アミノベンズアミドまたはm−ヨードベンジルグアニジンヘミスルフェート)、ユビキチン結合体化酵素のインヒビター(例えば、メチル化ユビキチン)、ユビキチンC末端ヒドロラーゼのインヒビター(例えば、ユビキチンアルデヒド)、複製の誤りおよび/または自然DNA損傷の修復に関与する酵素のインヒビター(例えば、カドミウムイオン)、N−グリコシル化のインヒビター(例えば、ツニカマイシン(tunicamycin))、20Sプロテアソームまたは26Sプロテアソームのインヒビター(例えば、ラクタシスチン(lactacystin))、ファルネシル化のインヒビター(例えば、α−ヒドロキシ−ファルネシルホスホン酸(alpha−hydroxy−farnesylphophonic acid))、ゲラニルゲラニル化のインヒビター、タンパク質メチル化のインヒビター(例えば、エベルラクトンB(ebelactone B))、カタラーゼのインヒビター、スーパーオキシドジスムターゼのインヒビター、グルタチオンペルオキシダーゼのインヒビター、DNA過剰メチル化のインデューサー、リン脂質メチル化のインデューサー、リン脂質メチル化のインヒビター(例えば、3−デアザアデノシンまたは3−デアザ−(±)−アリステロマイシン、またはそれらの組み合わせ。
【0023】
さらなる適切なストレス因子は、pHシフトである。pHシフトは、少なくとも0.2pH単位、好ましくの0.4pH単位の環境pHの変化である。
【0024】
さらなる適切なストレス因子は、例えば、UV照射である。UV照射は、好ましくは、酸化試薬と組み合わされる。
【0025】
適切な酸化試薬は、例えば、Hまたは分子酸素である。
【0026】
分子酸素からは、活性種(例えば、スーパーオキシドラジカル(O・)およびヒドロキシルラジカル(HO・)が取得され得る。例えば、「proceedings of the society for experimental biology and medicine」、1999、246〜252を参照のこと。
【0027】
適切な重金属塩は、カドミウム塩、クロム塩またはそれらの組み合わせである。これらは、単独で、または酸化試薬(例えば、OまたはH)と組み合わせて用いられ得る。
【0028】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の方法に従って入手され得る、酸化および/または脱メチル化された膜DNA(mDNA)である。
【0029】
このような酸化および/もしくは脱メチル化された膜DNAまたはそれらのフラグメントは、自己免疫疾患の診断試験において、抗原性構造体として有用である。mDNAのフラグメントまたは酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNAのフラグメントは、当該分野で公知の方法(例えば、超音波処理、ヌクレアーゼおよび/または制限酵素を用いた酵素的消化であるがこれらに限定されない)によって入手され得る。
【0030】
さらなる実施形態では、酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNAまたはそれらのフラグメントは、DNA結合タンパク質(最も好ましくはヒストン)とさらに会合されている。
【0031】
これらのDNA結合タンパク質は、過少アセチル化もしくは過剰アセチル化、過少リン酸化もしくは過剰リン酸化、過少メチル化もしくは過剰メチル化、過小ユビキチン化もしくは過剰ユビキチン化、過少(ポリ−ADP−リボシル化)もしくは過剰(ポリ−ADP−リボシル化)、または過少グリコシル化もしくは過剰グリコシル化、またはこれらの組み合わせがなされ得る。
【0032】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の膜DNAを含む細胞である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、この細胞は、白血球(特に、好中球、および/またはBリンパ球および/またはリンパ芽球様細胞および/または単球)の群より選択されるか、または細胞は、微生物(例えば、Tetrahymena thermophilaおよびTetrahymena pyriformisであるがこれらに限定されない)の群より選択される。
【0034】
このような細胞は、細胞を、UV照射、酸化試薬、重金属塩、薬物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ、酵素インヒビター、酵素アクチベーターならびにpHシフトからなる群より選択されるストレス因子で処理する工程を包含するプロセスによって入手され得る。
【0035】
適切なストレス因子は、上記に開示される。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、酸化および/もしくは脱メチル化された膜DNA、このmDNAのフラグメント、または酸化および/もしくは脱メチル化された膜DNA含有細胞を含む、診断剤である。
【0037】
この診断剤は、異なる診断試験において用いられ得る。
【0038】
1つの実施形態では、それゆえ、本発明は、以下の工程を包含する自己免疫疾患の検出のためのプロセスを包含する:
・動物の抗体含有生物学的流体を、本発明の診断剤と接触させる工程、
・この診断剤とのこの抗体の結合を測定する工程。
ここで、結合は、この動物の自己免疫疾患を示す。
【0039】
好ましい実施形態では、この診断剤は細胞の形態にあり、そしてこの細胞は、この生物学的流体をこの診断薬剤と接触させる前に、固体支持体に付着されているかまたは固体支持体に付着され得る。このような付着は、リガンド/レセプターもしくはリガンド/タンパク質相互作用またはビオチン化細胞/(ストレプト)アビジン、レクチン/抗レクチンを通して、あるいは活性化固体支持体とアミノ基、酸性基もしくはスルフヒドリル基または細胞表面の糖質もしくは酸化された糖質との間の共有結合を通してのいずれかによる、共有結合によるものであっても非共有結合的なものであってもよい。
【0040】
第2の実施形態では、本発明は、以下の工程を包含する、自己免疫疾患のインビトロ検出のためのプロセスを包含する:
・動物の細胞含有生物学的サンプルを、請求項4に記載の酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNA、またはそれらのフラグメントに対する抗体と接触させる工程、
・この細胞とのこの抗体の結合を測定する工程。ここで、結合は、この動物の自己免疫疾患を示す。
【0041】
好ましくは、これらの診断試験は、インビトロで行われる。
【0042】
このような診断試験はまた、ストレス因子で細胞を処理することによって(生)化学的に改変された他の抗原についても有用である。
【0043】
適切な試験では、この細胞は、生物学的流体(特に、血液または血清)由来の抗体の、細胞に対する結合を同定するために用いられ得る。
【0044】
あるいは、この酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNA、またはそれらのフラグメントは、結合を同定するために、試験系(例えば、ELISAまたはゲルシフトアッセイ)において用いられ得る。
【0045】
本発明のさらなる実施形態は、この診断剤を用いて、膜DNAとの結合を検出することである。このような結合は、動物の自己免疫疾患を示す。
【0046】
さらなる実施形態では、本発明は、スクリーニング方法によって薬物を同定するための方法を提供する。このスクリーニング方法は、酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNA、またはそれらのフラグメント、あるいは酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNA含有細胞との抗体の結合を測定する工程を包含する。この抗体の結合に対する潜在的物質の影響は、このような物質が有用な薬学的組成物であるか否かを示す。
【0047】
本発明のなお別の実施形態は、酸化および/もしくは脱メチル化されたmDNAまたはそれらのフラグメントあるいは酸化および/または脱メチル化されたDNA含有細胞を含む、薬学的処方物である。このような薬学的組成物は、患者の構造体から患者の自己免疫抗体を減少させ、それにより、この疾患を軽減または治癒するために用いられ得る。
【0048】
この薬学的処方物はまた、ワクチンの形態で用いられ得る。
【0049】
それゆえ、動物における自己免疫疾患を処置するための薬学的処方物の使用もまた、本発明の一部である。
【0050】
本発明は、以下の非限定的な実施形態によってさらに説明される。
【実施例】
【0051】
(細胞培養)
ICN Flow Laboratories(ECACC No 90112121)から入手したヒトリンパ芽球性Bの細胞株(Wil2 NS)を、10%ウシ胎児血清(熱不活化され、そしてマイコプラスマが存在しないことについて試験された)、L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したRPMI 1640中で、加湿オーブン中で、37℃および5% COにおいて維持する。
【0052】
(血清)
血清を、自己免疫反応を有するいくつかの炎症疾患または病理状態に罹患している患者、および正常個体から入手する。これらの血清を、遠心分離した凝固血から入手し、そして使用するまで−20℃において保持する。
【0053】
下記の全ての実験では、米国特許第6,057,97号による試験において陽性であるSLE患者の血清は、細胞処理がどのようなものであれ、常に陽性である。
【0054】
LED 0とは、1/30に希釈した血清が米国特許第6,057,97号の試験において陽性パターンを与えない、SLEDAI基準のうちの少なくとも4つを有するSLE患者を意味する。
【0055】
RFは、「いくつかの炎症性疾患または病理的状態に罹患しているが、SLEに罹患していない患者由来の血清」について用いられる。
【0056】
(mDNAのインビトロ酸化)
Wil2 NS細胞をハンクス溶液(Gibco BRL)で3回洗浄し、そして0.25×10細胞/mLにおいてHBSS中に再懸濁し、続いて20μL/ウェルに分けたスライドガラス上にスポットする。オーブンにおいて2時間の間37℃にて乾燥した後、この細胞をメタノール中で3分間固定する。次いで、細胞を、30μLのPBS中に1/35に希釈したヤギ抗ヒトアルブミン血清(Dia−Sorin)の存在下で室温において30分間インキュベートする。
【0057】
これらのスライドをPBS中の1%過酸化水素に曝露し、そしてこれらのUVBを、1時間の間、UV−CAMAGランプ下において254nmにおいて直ちに照射した。照射を、室温において暗所で、13cmのスライドにて実施した。
【0058】
これらのスライドを、PBS/Tween 0.05%(細胞培養グレード)中に20μlにおいて1/10希釈した異なる患者血清の存在下で30分間インキュベートし、そしてPBSで再度洗浄する。Slide−A−Lyser 10,000 MWCO(Pierce)中で4℃において一晩透析し、次いでCentricon MY−10(Millipore)にて3回遠心分離した30μLのフルオレセイン結合体化ヤギ抗ヒトIgG(Inova)の存在下で、暗所において30分間、これらのスライドをさらにインキュベートする。これらのスライドの最終洗浄を、PBS単独で実施し、次いで対比染料としてエバンスブルーを含むPBSによって実施する。最後に、スライドをグリセリン・PBS(1:1)(pH8.4)中にマウントし、そしてUV液浸(Nikon)によって可視化する。
【0059】
(結果)
+UV254nmを用いてインビトロ酸化を実施し、そして45人の血清(5人の健常被験体、10人の自己免疫、および30人の慢性関節リウマチ)を試験した。
【0060】
【表1】

明らかに、mDNAのインビトロ酸化は、この試験の特異性および感度を向上させ、そしてより多くのSLE患者を同定することを可能にする。
【0061】
(mDNAのインビボ酸化)
酢酸カドミウム(Cd)、二クロム酸ナトリウム(Cr)および過酸化水素(H)のプールを、対数増殖期にある細胞の取り出しの17時間30分前に、(それぞれ、10μM、10μMおよび20μMの最終濃度において)この培養物に添加した。この調製物を、1.0〜1.5×10細胞/mLの密度において、この実験の前および終了時に、トリパンブルー排除によって生存率について評価した。生存率は、95%より高くなければならない。
【0062】
Wil2 NS細胞を、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水、10mM、pH7.4)中で1回洗浄し、次いで500μMの濃度でATPを補充したPBS中で1回洗浄する。その後、これらを、PBS中に1/35で希釈したヤギ抗ヒトアルブミン(Dia−Sorin)の存在下で室温において30分間インキュベートする。次いで、細胞を遠心分離によって収集し、そして0.26×10細胞/mLにおいて再懸濁し、続いて20μL/ウェルに分けたスライドガラス上にスポットする。
【0063】
オーブン中で37℃において2時間の間乾燥した後、これらの細胞をメタノール中で3分間固定し、そしてPBS(リン酸緩衝化生理食塩水、10mM、pH7.4)中で1回洗浄する。
【0064】
これらを、PBS/Tween 0.05%(細胞培養グレード)中に20μL/ウェルに1/20希釈した異なる患者血清の存在下で30分間インキュベートし、そしてPBSで再度洗浄する。これらのスライドを、フルオレセイン結合体化ヤギF(ab2)’抗ヒトIgG(Sigma、1/60希釈)およびフルオレセイン結合体化ヤギIgG抗ヒトIgM(Sigma、1/70希釈)の混合物(30μL)の存在下で、暗所にて30分間、さらにインキュベートする。スライドの最終洗浄は、PBS単独、次いで対比染料としてエバンスブルーを含むPBSを用いて実施される。最終的に、スライドをグリセリン/PBS(1:1)(pH8.4)中にマウントし、そしてUV液浸顕微鏡法(Nikon)によって解像度40倍で可視化する。
【0065】
(結果)
10% FBSおよび種々の生成物を補充したRPMI 1640中で細胞増殖が生じる場合、いくつかの炎症性疾患または病理状態に罹患しているがSLEには罹患していない患者由来の327のうちの10の血清のみが陽性のパターンを生じ、そして「LED 0」として参照された31のうちの15の血清が、陽性パターンを生じた。この試験は、97%の特異性および82%の感度を有する。
【0066】
細胞増殖が、無血清培地(AIMV,Life Technologies)及び種々の生成物中で生じた場合、いくつかの炎症性疾患または病理状態に罹患しているがSLEに罹患していない患者由来の347のうちのほんの6つの血清は陽性パターンを生じ、そして「LED 0」と言及される31のうちの18の血清は、陽性結果を生じる。この試験は、98.3%の特異性および84%の感度を有する。
【0067】
(DNAメチラーゼのインビボでの阻害)
5−アザ−シチジンを、1.0μMの最終濃度において、対数増殖期における細胞の取り出しの17時間30分前に培養物に添加した。この調製物を、1.5〜1.8〜2.0×10細胞/mlの密度において、トリパンブルー排除による実験の前および終了後での両方で、生存率について評価した。生存率は、95%よりも高くなければならない。
【0068】
これらのスライドを、PBS/Tween 0.05%(細胞培養グレード)中に1/20希釈した異なる患者血清の存在下で30分間インキュベートし、そしてPBSで再度洗浄する。
【0069】
これらのスライドを、フルオレセイン結合体化ヤギF(ab)’抗ヒトIgG(Sigma、1/60希釈)およびフルオレセイン結合体化ヤギIgG抗ヒトIgM(Sigma、1/70希釈)の混合物(30μl)の存在下で、暗所にて30分間さらにインキュベートする。
【0070】
(結果)
【0071】
【表2】

脱メチル化されたmDNAはまた、良好な抗原であり、SLE患者の抗mDNA抗体によって良好に認識される。特異性は、感度と同様に向上する。なぜなら、血清は、1/30の代わりに1/10で希釈され得るからである。
【0072】
ここで、7つのうちの6つのRF血清が、上記の実験において陽性であって血清であることに留意すべきである。
【0073】
(ヒストン脱アセチル化のインビボ阻害)
酪酸ナトリウムを、対数増殖期での細胞の取り出しの17時間30分前に、培養培地(無血清培地AIMV,Life Technologies)に1.0mMの最終濃度において添加した。この調製物を、1.5〜1.8×10細胞/mlの密度において、トリパンブルー排除による実験前および実験終了時の両方で、生存率について評価した。生存率は、95%より高くなければならない。
【0074】
これらのスライドを、PBS/Tween 0.05%(細胞培養グレード)中に20μL/ウェルにおいて1/20希釈した異なる患者血清の存在下で30分間インキュベートし、そしてPBSで再度洗浄する。
【0075】
これらのスライドを、フルオレセイン結合体化ヤギF(ab)’抗ヒトIgG(Sigma、1/60希釈)およびヤギIgG抗ヒトIgM(Sigma、1/70希釈)の混合物(30μl)の存在下で、暗所にてさらに30分間インキュベートする。
【0076】
(結果)
【0077】
【表3】

ヒストン過剰アセチル化を制御することが、この試験の選択性を改善するようである。それ故、膜DNAは、細胞表面の過剰アセチル化ヒストンと会合し得る(ヌクレオソーム様構造体)。
【0078】
(薬物の使用)
ヒドララジンまたはプロカインアミドを、対数増殖期にある細胞の取り出しの17時間30分前に、10−5Mの最終濃度において培養培地(無血清培地AIMV,Life Technologies)に添加した。この調製物を、1.5〜1.8×10細胞/mlの密度において、トリパンブルー排除による実験前および実験終了時の両方で、生存率について評価した。生存率は、95%より高くなければならない。
【0079】
これらのスライドを、PBS/Tween 0.05%(細胞培養グレード)中に20μL/ウェルにおいて1/20希釈した異なる患者血清の存在下で30分間インキュベートし、そしてPBSで再度洗浄する。
【0080】
これらのスライドを、フルオレセイン結合体化ヤギF(ab)’抗ヒトIgG(Sigma、1/60希釈)およびヤギIgG抗ヒトIgM(Sigma、1/70希釈)の混合物(30μl)の存在下で、暗所にてさらに30分間インキュベートする。
【0081】
(結果)
【0082】
【表4】

細胞を、狼瘡を誘導することが周知の薬物のうちの1つで処理した後、mDNAはまた、良好な抗原であり、SLE患者血清の抗mDNA抗体によって良好に認識される。特異性は、感度と同様に向上する。なぜなら、血清は、1/30または1/40の代わりに1/20希釈され得るからである。
【0083】
(8−オキソ−2’−デオキシグアノシンの存在)
−UV照射スライド、またはCd+Cr+Hもしくは5−アザシチジンのいずれかの存在下で増殖させた細胞を有して製造されたスライド、または酪酸ナトリウムを、10mM Tris.HCl(pH7.5)、10%ウシ胎児血清中に1/100希釈した30μlの抗8−オキソ−dGマウスモノクローナル抗体(Gentaur)の存在下で、4℃にて一晩インキュベートする。これらのスライドをPBS中で1回洗浄し、次いでPBS中0.1μg/1×10細胞の濃度に希釈したヤギ抗マウスIgG1抗体(southern Biotechnology Associates,Inc)の存在下で40分間インキュベートする。
【0084】
これらのスライドの最終洗浄をPBS中で実施し、そしてこれらのスライドをグリセリン/PBS(pH8.4)中にマウントし、その後、UV液浸顕微鏡法により可視化する。
【0085】
(結果)
陽性パターン5は、細胞膜の緑色の断続的パターンによって表された。8−オキソ−dGは、mDNAの酸化を上記の方法に従ってインビボ(Cd+Cr+H)またはインビトロ(H+UV)のいずれかで実施した場合に細胞表面に存在することが示される。
【0086】
細胞を5−アザ−シチジンの存在下で増殖させた場合も陽性パターンが示されるが、酪酸ナトリウムの存在下で増殖させた場合には示されない。
【0087】
(5−メチルシトシンの存在)
Cd+Cr+Hもしくは5−アザシチジンのいずれか、または酪酸ナトリウムの存在下で増殖させた細胞を有して製造されたスライドを、PBS中に1/100希釈した30μlの抗5−メチルシトシンヒツジ抗体(Abcam,Ab1884)の存在下で4℃にて一晩インキュベートする。これらのスライドをPBS中で1回洗浄し、次いで30μlのNaOH(7×10−5N)の存在下で15秒間インキュベートする。PBSで洗浄した後、これらのスライドを、PBS中の0.1μg/1×10細胞の濃度に希釈したロバ抗ヒツジIgG抗体(Southern Biotechnology Associates,Inc)の存在下で30分間、最終的にインキュベートする。
【0088】
これらのスライドの最終洗浄をPBS中で実施し、そしてスライドをグリセリン/PBS(pH8.4)中にマウントし、その後、UV液浸顕微鏡法によって可視化する。
【0089】
(結果)
この細胞内での5−メチルシトシンを同定するための陽性パターンを、細胞内緑色蛍光により表す。
【0090】
DNAの強力な全体的メチル化は、Cd+Cr+Hまたは酪酸ナトリウムのいずれかの存在下で増殖させた細胞について生じたが、酪酸ナトリウムによって処理した細胞の細胞内緑色蛍光が、最初の場合と同程度に強い場合でさえ、5−アザ−シチジンの存在下では生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化および/または脱メチル化した膜DNA(mDNA)の調製のためのプロセスであって、以下の工程:
細胞を、UV照射、酸化試薬、重金属塩、薬物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ、酵素インヒビターならびにpHシフトからなる群より選択されるストレス因子で処理する工程;
該細胞を溶解して、細胞溶解産物を得る工程;
酸化および/または脱メチル化したmDNAを、該細胞溶解産物から精製する工程
を包含する、プロセス。
【請求項2】
前記ストレス因子が、二クロム酸塩、過酸化水素、過マンガン酸塩、キニジン、D−ペニシラミン、ヒドララジン、プロカインアミド、RNA/DNA代謝産物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ(例えば、5−アザ−シチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン)、DNAメチラーゼのインヒビター、ヒストンデアセチラーゼのインヒビター(例えば、酪酸塩またはトリコスタチンA)、ヒストンアセチルトランスフェラーゼのインヒビター、ヒストンアルギニンメチルトランスフェラーゼインヒビターおよびヒストンリジンメチルトランスフェラーゼインヒビター、プロテインキナーゼのインヒビター(例えば、スタウロスポリンまたはカルホスチンCまたはK−252aまたはH−89)、プロテインキナーゼのアクチベーター(例えば、ホルボールエステルまたはブリオスタチン1)、プロテインホスファターゼのインヒビター(例えば、カリキュリンAまたはオカダ酸)、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼのインヒビター(例えば、3−アミノベンズアミドまたはm−ヨードベンジルグアニジンヘミスルフェート、ユビキチン結合体化酵素のインヒビター(例えば、メチル化ユビキチン)、ユビキチンC末端ヒドロラーゼのインヒビター(例えば、ユビキチンアルデヒド)、複製の誤りおよび/または自然DNA損傷の修復に関与する酵素のインヒビター(例えば、カドミウムイオン)、N−グリコシル化のインヒビター(例えば、ツニカマイシン)、20Sプロテアソームまたは26Sプロテアソームのインヒビター(例えば、ラクタシスチン)、ファルネシル化のインヒビター(例えば、α−ヒドロキシ−ファルネシルリン酸)、ゲラニルゲラニル化のインヒビター、タンパク質メチル化のインヒビター(例えば、エベルラクトンB)、カタラーゼのインヒビター、スーパーオキシドジスムターゼのインヒビター、グルタチオンペルオキシダーゼのインヒビター、DNA過剰メチル化のインデューサー、リン脂質メチル化のインデューサー、リン脂質メチル化のインヒビター(例えば、3−デアザアデノシンまたは3−デアザ−(±)−アリステロマイシン)、またはこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記酸化および/または脱メチル化されたmDNAが、核酸結合タンパク質と会合している、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法に従って入手可能な、酸化および/または脱メチル化された膜DNA(mDNA)。
【請求項5】
DNA結合タンパク質(特に、ヒストン)と会合している、請求項4に記載のmDNA。
【請求項6】
前記DNA結合タンパク質が、過少アセチル化もしくは過剰アセチル化、および/または過少リン酸化もしくは過剰リン酸化、および/または過少メチル化もしくは過剰メチル化、および/または過少ユビキチン化もしくは過剰ユビキチン化、および/または過少(ポリ−ADP−リボシル化)もしくは過剰(ポリ−ADP−リボシル化)、および/または過少グリコシル化もしくは過剰グリコシル化されているか、あるいはこれらの組み合わせされている、請求項5に記載のmDNA。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のmDNAを含む、細胞。
【請求項8】
細胞を、UV照射、酸化試薬、重金属塩、薬物、ヌクレオシドアナログおよびヌクレオチドアナログ、酵素インヒビター、酵素アクチベーター、ならびにpHシフトからなる群より選択されるストレス因子で処理する工程を包含する、請求項7に記載の細胞を調製するためのプロセス。
【請求項9】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のmDNA、請求項4〜6のいずれか1項に記載のmDNAのフラグメント、または請求項7に記載の細胞を含む、診断剤。
【請求項10】
疾患のインビトロ検出のためのプロセスであって、以下の工程:
動物の抗体含有生物学的流体を、請求項9に記載の診断剤と接触させる工程、
該診断剤との該抗体の結合を測定する工程
を包含し、ここで、結合が、該動物の疾患を示す、プロセス。
【請求項11】
前記診断剤が細胞であり、該細胞が、固体支持体に結合されている、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
疾患のインビトロ検出のためのプロセスであって、以下の工程:
動物の細胞含有生物学的サンプルを、リガンド(特に、抗体またはDNA結合タンパク質(例えば、請求項4に記載の酸化および/または脱メチル化されたmDNAに対するホルムアミドピリミジンDNA−グリコシラーゼ))と接触させる工程、
該細胞との該リガンド、抗体またはDNA結合タンパク質の結合を測定する工程
を包含し、ここで、結合が、該動物の疾患を示す、プロセス。
【請求項13】
前記疾患が、自己免疫疾患である、請求項10または12に記載のプロセス。
【請求項14】
mDNAとの抗体の結合を検出するための、請求項9に記載の診断剤の使用。
【請求項15】
動物由来の抗体の結合が、該動物の自己免疫疾患を示す、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
薬物をスクリーニングするための方法であって、薬物の存在下で、請求項4〜6のいずれか1項に記載のmDNAまたは請求項7に記載の細胞との抗体の結合を測定することによる、方法。
【請求項17】
薬学的処方物であって、請求項4〜6のいずれか1項に記載のmDNAまたは請求項7に記載の細胞を含む、薬学的処方物。
【請求項18】
ワクチンの形態の、請求項17に記載の薬学的処方物。
【請求項19】
動物における自己免疫疾患を処置するための、請求項10に記載の薬学的処方物の使用。

【公表番号】特表2006−502742(P2006−502742A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501285(P2005−501285)
【出願日】平成15年10月13日(2003.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011293
【国際公開番号】WO2004/036219
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(505137373)バイオテック ツールズ エス.アー. (1)
【Fターム(参考)】