説明

脱保護の方法

本発明は、18F標識生成物の合成方法であって、弱酸を含む脱保護剤を使用して保護18F標識化合物を脱保護する段階を含み、脱保護生成物の中和及び緩衝化が中和剤の添加により行われる方法を提供するものである。脱保護生成物は、注射可能な放射性薬剤への続いてのオートクレーブ処理及び処方に適したpH範囲内に緩衝化される。
選択図【なし】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射合成の分野に関し、より詳細にはポジトロンエミッショントモグラフィ(PET)トレーサー用に適し得る18F標識化合物の合成に関する。
【背景技術】
【0002】
PET用の好ましい放射性同位体、18Fは、約110分と言う比較的短い半減期を有する。したがって、PET用18F標識トレーサーは、可及的速やかに合成及び精製されなければならず、理想的には全工程の所要時間が1時間未満である。18Fを導入する標準的合成法は比較的遅いために、反応後の精製(例えば、HPLCによる)を必要とする場合があり、このことは臨床用の18F標識トレーサーを良好な放射化学収率で得るのが困難であることを意味する。18Fトレーサーの代表的な合成経路における主な段階の概要を図1に示す。
【0003】
最終生成物の非修正放射化学収率を増加させるために、これらの段階のいずれにおいてもその完成に要する時間の短縮は有利であろう。合成時間の短縮各1分につき0.6%の収率増加がもたらされる。
【0004】
18F標識化合物は通常、核反応18O(p,n)18Fから水溶液として通常得られ、カチオン性対イオンの添加と引き続く水の除去のために反応性が賦与される[18F]−フッ化物イオン(18)を用いて、適切な前駆体化合物を放射性フッ素化することによって合成される。放射性フッ素化が化合物の特定の部位で行われるように、前駆体化合物は通常、選択的に化学的に保護される。放射性フッ素化反応に続いて、所望の18F標識化合物を得るために、保護18F標識化合物を脱保護する。様々な試剤が、保護基として有用であることが知られており、適切な保護及び脱保護の手順は、例えば、John Wiley&Sons Inc.出版の「Protecting Groups in Organic Synthesis」,Theodora W.Greene及びPeter G.M.Wutsにおいて知ることができる。
【0005】
PETトレーサー用の適切な18F標識化合物類の中でも、[18F]−フルオロデオキシグルコース([18F]−FDG)はよく知られた例である。[18F]−FDGは、保護前駆体化合物テトラアセチル化D−マンノースと18の反応において合成できる。[Hamacherら、1986 J.Nucl.Med.27(2)pp235−8]。保護18F標識化合物は続いて、酸加水分解、例えば、塩酸の使用、続いての水酸化ナトリウムなどの塩基、例えば、濃度2Mによる中和によって脱保護できる。しかし、このプロセスは、注意深く行わなければならない。というのは、標識化合物中の18Fが、Clにより置換される場合があり、特に脱保護を塩酸により行う時にこの置換がおこる場合がある。したがって、反応を低温、好ましくは室温又はそれより低い温度で行うのが好ましい。
【0006】
脱保護の代替の方法は、例えば水酸化ナトリウムによる塩基加水分解、続いての通常塩酸である酸による中和の使用である。
【0007】
類似の保護/脱保護及び緩衝の手順も、他の周知の18F標識化合物の合成において使用される。
【0008】
脱保護剤として弱酸を使用することは、当技術分野において周知である。米国特許第6184309号には、多数の有機、無機の強酸及び弱酸が脱保護剤として示唆されている、酸触媒を使用してポリマーから保護基を除去する方法が開示されている。非常に多数の酸の中でとりわけ、リン酸及び酢酸について述べられている。米国特許公開第2003/0212249号には、酢酸又はクエン酸を使用してトリメチルシリル保護基が除去できる、シクロスポリン類似体の合成が報告されている。米国特許第5135683号は、環式ケタール保護基除去用の試剤としてリン酸を示唆する、脱保護ポリオールの調製に関するものである。Liら[2003 Tetrahedron Letters 44 pp 8113−5]は、t−ブトキシカルボニル保護アミンを酸加水分解するための85重量%リン酸水溶液の使用を報告している。この反応では、リン酸水溶液(85重量%)が、有機溶媒中の保護アミン溶液に添加された。水を添加して反応混合物を希釈し、次いで水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7.8に調整した。作業中に形成されたリン酸ナトリウムは、このレベルより上までpHが上昇するのを防止するための緩衝液として働くと説明された。興味あることに、この文書は、アミンは使用された条件下でうまく脱保護されたが、ベンジル及びメチルエステルはこの反応条件では生き残ったことを教示している。これらの文書のいずれもが、18F標識化合物の合成において脱保護用として弱酸を使用することを教示していない。
【0009】
18F標識化合物を調製するための反応は好都合に、試薬がカセットの形で存在し、シリンジドライバを使用して酸及び中和剤の計量分配が制御できる自動化合成として行うことができる。シリンジドライバを使用する場合の酸及び中和剤の計量分配におけるそれぞれの誤差は、10%(1ml+/−0.1ml)の大きさにもなる場合がある。18F標識化合物溶液の最終pHは、滅菌の前で4.5〜6.5に維持しなければならない。そうでないと滅菌された生成物の放射化学的純度が低下する場合がある(FDMは、FDG形成FDMのLobry de Bruyn−van Eckensteinによる再配列により製造される)。酸及び塩基の処方においても通常それぞれの濃度に対して1%のオーダーの有意の誤差が存在する。したがって、計量分配誤差にもかかわらず最終pHが所望の範囲内に確実に維持されるためには緩衝液の存在が必要である。滅菌前に生成物を緩衝化するために、リン酸塩緩衝液が通常使用され、緩衝液の添加は好都合に、緩衝溶液中において、中和剤(例えば、NaOH)溶液による中和と同時に行われる。しかし、このことが、問題点をもたらす場合があることが分かった。というのは、リン酸塩は、塩基性溶液で溶解度が非常に大きくはなく、特に低温では析出する傾向があるからである。本発明者らは、自動化プロセスにおいて、中和される酸性溶液のpHを維持するためにリン酸塩緩衝液を導入することを検討した。これには、2℃での2M NaOHにおける多数の濃度のリン酸ナトリウムを試験することが含まれた。というのは、この試薬を含むカセットが低温で実用上輸送できるかどうかを知ることが望まれたからである。リン酸ナトリウムは、約40mg/mlを超える濃度で溶液から析出することが観察され、計量分配容積の比較的大きな誤差を許容するのに十分な緩衝能力を有する処方は不可能であった。
【特許文献1】米国特許第6184309号明細書
【特許文献2】米国特許公開第2003/0212249号明細書
【特許文献3】米国特許第5135683号明細書
【非特許文献1】John Wiley&Sons Inc.出版の「Protecting Groups in Organic Synthesis」,Theodora W.Greene及びPeter G.M.Wuts
【非特許文献2】Hamacherら、1986 J.Nucl.Med.27(2)pp235−8
【非特許文献3】Liら 2003 Tetrahedron Letters 44 pp 8113−5
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、18F標識生成物の合成方法であって、脱保護生成物の中和及び緩衝化が中和剤の添加により行われる方法を提供するものである。脱保護生成物は、注射可能な放射性薬剤にするための続いてのオートクレーブ処理及び処方に適したpH範囲内に緩衝化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の態様では、本発明は、18F標識化合物の合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、18F標識化合物に対応する保護18F標識化合物を脱保護する段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)の生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階とを
含む方法を提供する。
【0012】
本発明の方法は、従来の技術に対する利点を提供する。シリンジドライバにより計量分配される試薬量の誤差を避けるために自動化プロセスで別々の緩衝溶液を使用する必要性がない。一旦中和剤を添加したら、生成物溶液のpHは、弱酸の緩衝特性のために許容限度内に維持される。
【0013】
本発明の方法は、脱保護を塩酸などの強酸で行い、中和剤と共に緩衝液が添加される場合に遭遇する問題点をも克服するものである。緩衝液は、脱保護段階において中和剤と合わせて使用される弱酸から形成されるので、緩衝液形成用の化合物を塩基性中和剤中に溶解する必要がなく、したがって、これに由来する溶解度問題が全くない。
【0014】
本発明をさらに説明するために、多数の用語を以下のように定義する:
化合物は、少なくとも1原子の18Fがその化合物中に化学的に導入された場合、「18F標識」と見なされる。通常、18F標識化合物中の18F原子は、その化合物に共有結合している。
【0015】
本発明の文脈では、「保護18F標識化合物」は、適切な保護前駆体化合物の放射性フッ素化に由来する18F標識化合物の合成における化学的に保護された中間体である。保護18F標識化合物の保護基は、酸加水分解による除去を受けやすく、脱保護により最終の18F標識化合物が得られる。通常、保護18F標識化合物は、ヒドロキシル(これはカルボン酸部分の一部を形成する場合がある)及びアミン基から選択される1つ以上の保護基を有する。これらの部分のための適切な保護基は当技術分野でよく知られており、例えば、John Wiley&Sons Inc.出版の「Protecting Groups in Organic Synthesis」,Theodora W.Greene及びPeter G.M.Wutsにおいて記載されている。
【0016】
用語「弱酸」は、当技術分野で周知の用語であり、水溶液中で部分的に解離する酸を意味する。本発明の文脈では、弱酸は、pKa2以上の酸である。
【0017】
本発明の文脈での用語「中和剤」は、脱保護溶液のpHを所望のpH範囲4.5〜8.0にするのに十分な塩基性である試剤を意味するものと解釈される。本発明の適切な中和剤の例には、無機水酸化物、無機酸化物及び弱酸の無機塩が含まれる。無機水酸化物は、本発明の好ましい中和剤であり、NaOH及びKOHが特に好ましい。
【0018】
本発明の方法は、必要であれば例えば最高145℃の非常に高温を使用できるが、穏やかな条件下で、10〜50℃の温度、最も好ましくは室温で行うのが非常に好ましい。したがって、選択された反応条件下での酸加水分解により保護基を除去できるように、保護基を選択する必要がある。当業者なら、適切な保護基を選択するのに何らの困難もないはずである。
【0019】
保護18F標識化合物は、任意の保護化合物でよく、例えば、アミン、ヒドロキシ化合物又はカルボン酸であり、脱保護段階(a)で除去される保護基は、それに応じて選択される。当然のことながら、保護18F標識化合物の保護基は、酸加水分解による除去を受けやすいことが必須である。
【0020】
保護基は当技術分野においてよく知られており、保護基に関する詳細な情報は、例えば、上記の「Protecting Groups in Organic Synthesis」において知ることができる。アミン用の普通に使用される保護基には、ベンジルオキシカルボニル又はアルコキシカルボニル(t−ブチルオキシカルボニルなど)、トリフルオロアセトアミド、フルオレニルメトキシカルボニル及びホルムアミドが含まれる。ヒドロキシ基は、例えば、塩化アセチルなどの塩化アルカノイルとの反応による、アルキル又は芳香族エステルへの転換により保護できる。あるいは、ヒドロキシ基は、エーテル、例えば、アルキル又はベンジルエーテルに転換することもできる。カルボン酸基は、アルキル又は芳香族エステルへのエステル化により保護される場合が多い。
【0021】
本発明の方法は、18F標識モノ又はポリヒドロキシ化合物、例えば、アルカノエート基、特に酢酸塩で保護されたスクロースの脱保護に特に適している。
【0022】
本発明の方法は、任意の18F標識化合物の合成に適しているが、PETトレーサーの生成に特に好適である。用語「PETトレーサー」は、患者に対する投与に続くPETにより検出できる化合物を指す。PETトレーサーは、それらが特定の生理又は病態生理の部位において特異的に吸収され、生理又は病態生理の像の創出が可能になるように設計される。
【0023】
したがって、本発明の第2の態様では、18F標識PETトレーサー化合物の合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、保護18F標識PETトレーサー化合物を脱保護する段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)の生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階とを
含む方法が提供される。
【0024】
本発明の本態様の方法により合成できるPETトレーサーの例には、[18F]−フルオロデオキシグルコース([18F]−FDG)、[18F]−フルオロジヒドロキシフェニルアラニン([18F]−F−DOPA)、[18F]−フルオロウラシル、[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)、[18F]−アルトアンセリン、[18F]−フルオロドーパミン、3’−デオキシ−3’−18F−フルオロチミジン[18F−FLT]及び[18F]−フルオロベンゾチアゾールが含まれる。これらの適切なPETトレーサーに対応する保護18F標識化合物の構造をPETトレーサーの名称を付して、以下に示す(P〜Pは、各々独立に保護基である):
【0025】
【化1】

は、水素、C1〜6アルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル及びC1〜6ハロアルキルから選択される。R乃至Rは、独立に水素、ハロ、C1〜6アルキル、C1〜6ハロアルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル、C1〜6アルコキシ、C1〜6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。
【0026】
本発明の方法により合成できる特に好ましいPETトレーサーは、[18F]−FDGである。
【0027】
したがって、本発明のさらなる態様では、[18F]−FDGの合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、保護[18F]−FDGを脱保護して[18F]−FDGを得る段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)からの[18F]−FDG生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階とを
含む方法が提供される。
【0028】
本発明の本態様では、緩衝作用は、pH4.5〜6.5が好ましい。というのはこれよりも高いpHでは、グルコースのエピマー化が激しく起こり、最後の滅菌中にマンノースが形成されるからである。
【0029】
保護出発物質がテトラアセチル[18F]−フルオロデオキシグルコース([18F]−FTAG)であることが特に好ましい。
【0030】
本方法の生成物が、[18F]−FDGである場合、保護[18F]−FDGは、保護マンノース誘導体を18Fフッ素化剤と反応させる最初の段階により調製できる。このマンノース誘導体は、スルホン酸トリフルオロメタン(トリフレート)などの脱離基により誘導体化され、保護基は上述したとおりである。保護[18F]−FDGを調製するのに特に適した材料は、テトラアセチルマンノーストリフレートである。
【0031】
本発明の方法において使用するのに適した弱酸の例には、リン酸、クエン酸及び酢酸が含まれる。これらの弱酸のpKa値及び緩衝範囲を下記の表1に示す。
【0032】
【表1】

1個を超える酸性水素原子を有する弱酸、例えば、リン酸及びクエン酸(これらはそれぞれ3個の酸性水素原子を有する)が、本発明における使用に好ましい。この理由は、複数のpKa値のためにこれらの酸は脱保護剤として働くことも緩衝系を形成することも共に可能であるからである。
【0033】
本発明の最も好ましい弱酸は、リン酸である。その第1のpKa値2.1は、リン酸が保護基を加水分解的に除去可能であることを意味する。中和剤を添加すると、リン酸/リン酸塩緩衝系(これは溶液のpHを所望の範囲内に維持する)が形成される。
【0034】
脱保護剤は、弱酸の水性溶媒溶液でもよいし、あるいは、追加の酸成分、例えば、塩酸などの強酸を含むこともできる。
【0035】
弱酸がリン酸である場合、脱保護剤は、リン酸のHCl溶液でよく、好ましくは濃度約2Mである。あるいは、脱保護剤は、リン酸水溶液でもよい。いずれの場合でも、リン酸は適切には、濃度10mM(1.36g/L)〜5M(680g/L)で存在する。好ましくは、リン酸のモル範囲は、1M〜4Mであり、最も好ましくは、3M〜4Mである。
【0036】
酸及びアルカリの計量分配における誤差を相殺する緩衝作用は、pH4.5〜6.5の範囲内で行われるのが好ましい。この範囲は、18F標識化合物が[18F]−FDGである場合に特に好ましい。というのはより高いpH値では、追加の生成物フルオロデオキシマンノース(FDM)がオートクレーブプロセス中に発生することが知られているからである。
【0037】
問題になっている保護基に応じて、脱保護は、室温乃至145℃の温度で最大10分間行われる。当業者には、如何なる特定の脱保護プロトコルに対しても、可能な限り室温に近い温度で、可能な限り短時間にその反応を行うのが好ましいことが理解されよう。
【0038】
本発明の方法は、
(iii)有機溶媒を除去する段階及び/又は
(iv)18F標識化合物を水溶液として処方する段階及び/又は
(v)段階(iv)の水溶液を滅菌する段階
をさらに含むことができる。
【0039】
これらのさらなる段階は特に、18F標識化合物をPETトレーサーとして使用することを想定する場合など、18F標識化合物を薬剤として許容される形に調製することを想定する場合に行われる。本発明の方法は、自動化に特に好適である。というのは、緩衝系の一部を形成できる弱酸を使用することは、試薬を計量分配する際の誤差が、生成物溶液のpHに重大な影響を及ぼさないことを意味するからである。加えて、リン酸塩などの緩衝液のアルカリ溶液中の溶解度に伴う問題点も発生しない。
【0040】
好ましい実施形態では、18F標識化合物は、自動化液相プロセスにより合成される。18F標識化合物がPETトレーサーである場合にこれは特に適切であり、実際、PETトレーサー製造用の自動化液相プロセスは当技術分野においてよく知られている。例えば、[18F]-FDGの合成は、Tracerlab FX Synthesiser(GE Healthcare,Little Chalfont,England)又はTracerlab MX Synthesiser(GE Healthcare,Little Chalfont,England)のいずれかにより容易に行うことができる。両方のシステムでは、試薬を合成を開始する前に機械上に装填し、次いでソフトウエアの直接制御下で[18O]−HO標的から直接に18を導入することによりその合成が開始される。Tracerlab MXの場合、試薬の装填は、単に使い捨てのカセットを機械に取り付けることにより行われる。これらの使い捨てのカセットは、様々なカートリッジ及び試薬含有バイアルを含み、[18F]−FDGの製造用の自動化プロセスと連携して使用するための消耗可能アイテムとして適するように設計される。したがって、本発明の方法を行うための一手段は、合成の脱保護、中和及び緩衝段階用のそうしたカセット中に弱酸及び中和剤を組み込むことであり得る。
【0041】
自動化液相プロセスによる18F標識化合物の合成は、マイクロ流体力学デバイス上でマイクロ流体力学プロセスを使用して行うことができることも予想される。マイクロ流体力学技法の使用に関連して多数の利点が予見される。数種のアッセイを平行して処理することが可能であるために大量の処理が可能になる。試料と試薬を少量しか必要としないので、廃棄物が少量になり、それはデバイス内に含有できる場合が多い。合成の段階の全ては、1つのデバイス上に組み込むことができるので、複雑なプロセスをより簡単に行うことが可能になる。さらに、プラスチック製のマイクロ流体力学デバイスの製造コストは、使い捨てが可能になるように非常に低くすることができる。薬品開発におけるマイクロ流体力学技法のパフォーマンス及び応用例についてのさらなる詳細は、Bernhardらによる総説中において知ることができる[Advanced Drug Delivery Reviews,Volume 55,Issue 3,24 February 2003,Pages 349−377]。
【0042】
代替の好ましい実施形態では、保護18F標識化合物は、固相反応において得ることができる。最も好ましくは、保護18F標識化合物は、放射性フッ素化されたら溶液相中に放出される。国際公開第03/002157号には、得られる18F標識化合物がPETトレーサーとしての使用に適しているように、18F標識化合物を速やかに、高い特異的活性で製造し、しかも時間を要する精製段階を必要としない固相法が記載されている。あるいは、固相からの化合物の放出が、脱保護された18F標識化合物の放出をもたらす脱保護の際に行われることも予想される。これらの固相方法は、容易な製造及びより大きな処理量という利点を有する自動化にも適している。
【実施例】
【0043】
実施例1:NaOHで中和されたHCl脱保護FDGに対するリン酸の緩衝能力の分析
本実施例には、NaOHで中和されたHCl脱保護FDGに対するリン酸の緩衝能力を分析するのに使用された実験が記載される。
【0044】
0.15g/mlのアセトニトリル中の保護前駆体化合物、テトラアセチル[18F]−FDGの16μlアリコートをガラス状カーボン反応容器に加えた。これを50℃で恒量になるまで加熱し、容器中にpFDG2.4mgを残した。この容器をシールし、約2バールの空気で加圧試験を行った。HCl5M溶液2.5ml及び85%リン酸294μlを加え、容器を145℃で15分間加熱し、次いで冷却した。反応混合物0.5mlを容器から取り出し、1M NaOHで適定した。
【0045】
HClで脱保護された反応混合物を1M NaOHで適定すると、リン酸塩は、NaOH1.47〜1.63mlでpHを4.5〜6.3の範囲内に保持することが明らかにされた。
【0046】
実施例2:525mg/mlリン酸による保護FDGの脱保護
本実施例には、525mg/mlリン酸による保護FDGの脱保護が記載される。
【0047】
0.18g/mlのアセトニトリル中の保護前駆体化合物、テトラアセチル[18F]-FDGの16μlアリコートをガラス状カーボン反応容器に加えた。これを50℃で恒量になるまで加熱し、容器中にpFDG2.8mgを残した。この容器をシールし、約2バールの空気で加圧試験を行った。HPLCグレードの525mg/mlリン酸溶液2mlを反応容器に加え、145℃まで加熱し、この温度で10分間保持し、次いで冷却した。
【0048】
一部分を取り出し、5M NaOHでpH約8.0まで適定した。
【0049】
1ml/分での0.1M NaOH移動相を使用するHPLC分析及び電気化学的検出法(ECD)を、(i)標準FDG溶液、(ii)最終反応混合物及び(iii)(i)と(ii)の共注射液について行った。
【0050】
脱保護反応後、沈殿は全く見られなかった。HPLC分析により、最終反応混合物中の主ピークはFDGであり、脱保護がうまく行われたことを示していることが明らかになった。
【0051】
実施例3:2M HCl中の525mg/mlリン酸による保護FDGの脱保護
本実施例には、2M HCl中の525mg/mlリン酸による保護FDGの脱保護が記載される。
【0052】
0.11g/mlのアセトニトリル中の保護前駆体化合物、テトラアセチル[18F]−FDGの16μlアリコートをガラス状カーボン反応容器に加えた。これを50℃で恒量になるまで加熱し、容器中に保護FDG1.8mgを残した。この容器をシールし、約2バールの空気で加圧試験を行った。2M HCl中の525mg/mlリン酸溶液2mlを反応容器に加え、145℃まで加熱し、この温度で10分間保持し、次いで冷却した。
【0053】
一部分を取り出し、5M NaOHでpH約8.0まで適定した。
【0054】
1ml/分での0.1M NaOH移動相を使用するHPLC分析及びECD検出法を、(i)標準FDG溶液、(ii)最終反応混合物及び(iii)(i)と(ii)の共注射液について行った。
【0055】
脱保護反応後、沈殿は全く見られなかった。HPLC分析により、最終反応混合物中の主ピークはFDGであり、脱保護がうまく行われたことを示していることが明らかになった。
【0056】
実施例4:pKa値を求めるための水酸化ナトリウムによるリン酸の適定
この系に対する有効pKa値を求めるために、525mg/mlリン酸水溶液を2M水酸化ナトリウムで適定した。適定曲線を図2に示す。これから、これらの条件下で第2のpKa値が約6.5であることを知ることができる。これにより、これらの実験条件下で、リン酸/リン酸塩緩衝液が溶液のpHをpH約5.5〜pH約7.5に維持するのに適していることが分かる。したがって、リン酸/リン酸塩緩衝系は、保護18F標識化合物の脱保護での使用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】18F標識化合物の合成において通常行われる主な段階を示す流れ図である。
【図2】525mg/mlリン酸水溶液を2M水酸化ナトリウムで適定した場合の溶液のpHを示すプロットである。曲線の第2の屈曲はpH約6.5に生ずる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F標識化合物の合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、18F標識化合物に対応する保護18F標識化合物を脱保護する段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)の生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階と
を含む方法。
【請求項2】
18F標識PETトレーサー化合物の合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、保護18F標識PETトレーサー化合物を脱保護する段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)の生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階と
を含む方法。
【請求項3】
PETトレーサーが、[18F]−フルオロデオキシグルコース([18F]−FDG)、[18F]−フルオロジヒドロキシフェニルアラニン([18F]−F−DOPA)、[18F]−フルオロウラシル、[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)、[18F]−アルタンセリン、[18F]−フルオロドーパミン、3’−デオキシ−3’−18F−フルオロチミジン[18F−FLT]及び[18F]−フルオロベンゾチアゾールである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
保護18F標識PETトレーサーが以下のいずれかの構造を有しており、P乃至Pが各々独立に保護基である、請求項2又は請求項3記載の方法。
【化1】

は、水素、C1〜6アルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル及びC1〜6ハロアルキルから選択される。R乃至Rは、独立に水素、ハロ、C1〜6アルキル、C1〜6ハロアルキル、C1〜6ヒドロキシアルキル、C1〜6アルコキシ、C1〜6ハロアルコキシ、ヒドロキシ、シアノ及びニトロから選択される。
【請求項5】
18F]−FDGの合成方法であって、
(i)弱酸を含む脱保護剤を使用して、保護[18F]−FDGを脱保護して[18F]−FDGを得る段階と、
(ii)中和剤の添加により段階(i)からの[18F]−FDG生成物を中和及び緩衝化する段階であって、緩衝化がpH4.5〜8.0である段階と
を含む方法。
【請求項6】
保護マンノース誘導体を18Fフッ素化剤と反応させることにより、保護[18F]−FDGを調製する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
保護[18F]−FDGがテトラアセチル[18F]−FDGである、請求項5又は請求項6記載の方法。
【請求項8】
保護マンノース誘導体がスルホン酸テトラアセチルマンノーストリフルオロメタンである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
中和剤が水酸化ナトリウムである、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
脱保護剤が弱酸の水性溶媒溶液である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
弱酸がリン酸、クエン酸又は酢酸である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
弱酸がリン酸である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
リン酸の濃度が10mM〜5Mである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
リン酸の濃度が3M〜4Mである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
脱保護剤が強酸をさらに含む、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
強酸が塩酸である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
緩衝化がpH4.5と6.5の範囲内である、請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
脱保護を室温乃至145℃の温度で最大10分間行う、請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
(iii)有機溶媒を除去する段階及び/又は
(iv)18F標識化合物を水溶液として処方する段階及び/又は
(v)段階(iv)の水溶液を滅菌する段階
をさらに含む、請求項1乃至請求項18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
自動化された、請求項1乃至請求項19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
自動化液相プロセスである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
自動化液相プロセスがマイクロ流体工学プロセスである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
保護18F標識化合物を固相反応において得る、請求項20記載の方法。
【請求項24】
保護18F標識化合物を放射性フッ素化時に固相から溶液相に放出する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
保護18F標識化合物を脱保護時に固相から溶液相に放出する、請求項23記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−515793(P2008−515793A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534071(P2007−534071)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003692
【国際公開番号】WO2006/037950
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】