説明

脱共役剤

【課題】水性系において使用するのに好適である脱共役剤を提供する。
【解決手段】水溶性殺生物剤が式(I)のアルキル置換ホスホニウム化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性系における細菌バイオマスの制御又は抑制に使用するための脱共役剤、このような脱共役剤の使用並びにこのような脱共役剤を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機構的に見れば、排水処理におけるバイオマスの発生は排水中の栄養分の消費から生じる。呼吸のプロセスによって、栄養分が酸化され、これがエネルギーを放出させ、このエネルギーは細胞分裂において微生物によって使用することができる。このエネルギーが“捨てられる”ならば、これはエネルギー生産の抑制によりバイオマスの産生の減少をもたらすであろう。
排水処理の間に産生した細菌バイオマスは、投棄するのに経費がかかり、従ってバイオマスの減少は投棄コストの削減に繋がる。
【0003】
細胞の呼吸に伴う生化学及び機構の詳細は、例えば、“生化学”第3版、著者:ルーベルト・ストライアー、発行者:W.H.フリーマン&カンパニー、ニューヨーク、1988に示されている。また、“一般微生物学”第3版、著者:ロジェ Y・スタイナー、マイケル・ドゥドルフ及びエドワード A・アデルベルグ、発行者:マクミリアン、1971にも示されている。本発明の目的のために注目するべき重要な点は、栄養分の消費がプロトン流出を引き起こし、これが細胞の他の部分において酸化的燐酸化反応を介してアデノシン三燐酸(ATP)を創り出すのに使用されることである。ATPが細胞分裂を含めて細胞プロセスのためのエネルギーを提供している。
【0004】
これまで、プロトン流出を中断させる“脱共役剤(uncoupling agent)”として作用するある種の有機化合物が実験室において同定された。これは、プロトン流出を脱共役させることにより細菌の細胞分裂を減少させ、しかして細菌に利用できるエネルギーを減少させる結果となる。捨てられたエネルギーは熱として現われる。脱共役剤の使用は、しばしば、呼吸制御の損失のために(望ましい)栄養分消費の増加の原因となり得る。しかし、前記の脱共役剤は、通常はフェノール化合物、例えば2,4−ジニトロフェノール及びp−ニトロフェノール;ハロゲン化化合物、例えばカルボニルシアニド−p−トリフルオルメトキシフェニルヒドラゾン及び2,4,5−トリクロルフェノール;又はニトロ化合物である。これらの全ては、それらの環境への高い毒性のために水性系において使用するのには不適当である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“生化学”第3版、著者:ルーベルト・ストライアー、発行者:W.H.フリーマン&カンパニー、ニューヨーク、1988
【非特許文献2】“一般微生物学”第3版、著者:ロジェ Y・スタイナー、マイケル・ドゥドルフ及びエドワード A・アデルベルグ、発行者:マクミリアン、1971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水性系において使用するのに好適である脱共役剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、水溶性殺生物剤を水性系において細菌バイオマスの制御をするのに有効な量で脱共役剤として使用することを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、瞬間混合の方法を例示する図である。
【図2】図2は、本発明で使用される半連続式恒成分培養反応器系の図である。
【図3】図3は、酸素消費のデータを得るのに使用されたOxitop(登録商標)BOD装置系の図である。
【図4】図4は、4種の脱共役剤の脱共役率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量は、5000mg/Lまで、例えば3000mg/Lまで、例えば1000mg/Lまでである。好ましくは、水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量は、0.005mg/L〜500mg/L、例えば0.01mg/L〜300mg/L、例えば0.05mg/L〜100mg/Lである。更に好ましくは、水溶性殺生物剤の有効量は、0.1mg/L〜10mg/L、例えば0.5mg/L〜7.5mg/L、例えば1〜5mg/Lである。
【0010】
別法として、水溶性殺生物剤の有効量は、水性系の汚泥固形分g当たり0.1〜10,000mgであってよい。好ましくは、0.5〜1000mg/g、例えば1〜500mg/g、例えば5〜100mg/gである。
【0011】
好ましい具体例において、本発明は、水溶性殺生物剤の脱共役剤としての使用であって、該水溶性殺生物剤が式(I)のアルキル置換ホスホニウム化合物、式(II)のアルキル置換ホスフィン又は式(III) の縮合物:
【化1】

(ここで、
Xは陰イオンであり、
nはmにより表わされるXの原子価であり、
各Aは同一であっても異なっていてもよく、OH、OR、SO3R、PO32、COOH、COOR、SO3H、PO32、CH2COOH、置換アルキル、アリール及び置換アミノ基から選ばれ、
各R並びに各A基における各R(存在するとき)は水素、C1〜C20アルキル、アリール、置換アルキル若しくはアリール、カルボキシ又はカルボキシエステルから独立して選ばれ、各CR2基は同一であっても異なっていてもよく、
R”は2〜20個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ、アルキルアミノ又はPR1mCH2OH基よりなる群から選ばれる1個以上の置換基により置換されていてよく、或いは1個以上のエーテル又はカルボニル結合により中断されていてよく、
各R1は独立して1〜25個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり、ハロゲン、ヒドロキシ、カルボキシ、アミノ、アルキルアミノ又はPR1vCH2OH基よりなる群から選ばれる1個以上の置換基により置換されていてよく、或いは1個以上のエーテル又はカルボニル結合により中断されていてよく、
式(III) において、各vは1又は2であり、kは0〜10(例えば、1〜10)であり、xはv=2を有する分子中の基の数であり、
Xは化合物が水溶性であるほどの原子価yの適合できる陰イオンである。)
からなる、水溶性殺生物剤の脱共役剤としての使用を提供する。
Xは好ましくは塩化物、硫酸、燐酸、酢酸及び臭化物イオンよりなる群から選ばれる。
【0012】
アルキル置換ホスホニウム化合物は、好ましくは硫酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムである。別法として、アルキル置換ホスホニウム化合物は、塩化テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、臭化テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、酢酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム及び燐酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムよりなる群から選ばれる。
【0013】
縮合物は、好ましくはトリス(ヒドロキシオルガノ)ホスフィンと窒素含有化合物との縮合物である。窒素含有化合物は好ましくは尿素である。別法として、窒素含有化合物は、C1〜C20アルキルアミン、ジシアンジアミド、チオ尿素及びグアニジンよりなる群から選ばれる。
【0014】
別法として、本発明は、下記の群から選ばれる化合物からなる水溶性殺生物剤の脱共役剤として使用を提供する。
・第四アンモニウム化合物、例えば、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム及び塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、
・高分子第四アンモニウム化合物、例えば、二塩化ポリオキシエチレン(ジメチルアミノ)エチレン、
・高分子ビグアニド塩酸塩、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩、ドデシルグアニジン塩酸塩、
・トリス(ヒドロキシメチル)ニトロメタン、
・4,4−ジメチルオキサゾリジン、
・フェノキシプロパノール、
・フェノキシエタノール、
・グリオキサル、
・アクロレイン、
・アルデヒド、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、
・トリアジン類、例えば、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−1,3,5−ヘキサヒドロトリアジン、
・第四ホスホニウム化合物、例えば、塩化トリブチルテトラデシルホスホニウム及び塩化テトラデシルトリブチルホスホニウム、
・2−ブロム−4−ヒドロキシアセトフェノン、
・カルバミン酸塩、例えば、N−ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム及びエチレンビスジチオカルバミン酸ジナトリウム、
・t−ブチルアジン、
・テトラクロル−2,4,6−シアノ−3−ベンゾニトリル、
・チアゾール及びイソチアゾール誘導体、例えば、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロル−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロル−2−メチル−3(2H)−イソチアゾロン及び1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、
・活性化されたハロゲン基を持つ化合物、例えば、2−ブロム−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール及び2,2−ジブロム−3−ニトロプロピオンアミド
・ビスクロルメチルスルホン、そして
・メチレンビスチオシアネート。
【0015】
脱共役剤として使用するために、水溶性殺生物剤は、排水処理に慣用されている下記の化学薬品:
界面活性剤、
消泡剤、
スケール防止剤、
腐食防止剤、
殺生物剤、
凝集剤、
脱水剤、及び
分散剤
の1種以上と共に処方することができる。
【0016】
好ましくは、水性系は、工場又は都市の流出水の処理のために使用される排水処理プラントである。このようなプラントは、典型的には、工業的プロセス(例えば、製紙、食品加工、化学工業)及び(又は)家庭や公共施設の建物などからの排水を受入れ、そして好気性、無酸素性(例えば、脱窒)及び(又は)嫌気性プロセスにおいて微生物を使用することによって有機汚染物を消費し且つ水を再使用し又は環境に排出させるのに適合させるものである。
【0017】
また、本発明は、前記したような慣用の水溶性水処理用殺生物剤の脱共役剤として使用を提供する。
【0018】
更に、本発明は、前記したような慣用の水溶性水処理用殺生物剤の1種以上を含む脱共役剤を提供する。
【0019】
更に、本発明は、前記したような水溶性殺生物剤である脱共役剤の有効量を水性系に添加し又はそれと接触させることからなる、水性系における細菌バイオマスの増殖を制御するための方法を提供する。
【0020】
好ましい具体例において、本発明は、前記したような水溶性殺生物剤である脱共役剤の有効量を細菌バイオマスと直接接触させることからなる、水性系における細菌バイオマスの増殖を制御するための方法を提供する。
【0021】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量は、5000mg/Lまで、例えば3000mg/Lまで、例えば1000mg/Lまでである。好ましくは、水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量は、0.005mg/L〜500mg/L、例えば0.01mg/L〜300mg/L、例えば0.05mg/L〜100mg/Lである。更に好ましくは、水溶性殺生物剤の有効量は、0.1mg/L〜10mg/L、例えば0.5mg/L〜7.5mg/L、例えば1〜5mg/Lである。別法として、水溶性殺生物剤の有効量は、水性系の汚泥固形分g当たり0.1〜10,000mgであってよい。好ましくは、0.5〜1000mg/g、例えば1〜500mg/g、例えば5〜100mg/gである。
【0022】
細菌バイオマスと水溶性殺生物剤との直接接触は、細菌バイオマスの制御に際して脱共役剤の効率を向上させることが分かった。水溶性殺生物剤と細菌バイオマスとの直接接触を“瞬間投薬(flash dosing)”又は“瞬間混合(flash mixing)”と称する。脱共役剤が汚泥を収容した生物反応器に直接簡単に添加されるならば、脱共役剤が生物反応器内の他の物質と相互作用することができ且つ水溶性殺生物剤の作用が相当に減少するので、脱共役剤の効率が相当に減少することが分かった。
【0023】
ここで、本発明を下記の実施例並びに添付の図面を参照しながら例示のためにのみ説明する。
図1は、瞬間混合の方法を例示する図である。
図2は、本発明で使用される半連続式恒成分培養反応器系の図である。
図3は、酸素消費のデータを得るのに使用されるOxitop(登録商標)BOD装置系の図である。
図4は、4種の脱共役剤の脱共役率を示すグラフである。
【0024】
図1を参照するに、典型的な生物反応器Bが再循環管路Rと共に示され、これに水溶性殺生物剤が注入される。生物反応器は汚泥を収容していて、このものは、本質的には、典型的な排水処理微生物、例えば細菌、原生動物、蠕形動物及び菌類の塊である。生物反応器Bは、排水のための入口I及び処理水のための出口Oを有する。汚泥は、ポンプPにより生物反応器から再循環管路Rに引き出される。典型的には蠕動運動ポンプが使用される。候補となる水溶性殺生物剤が、注入ポンプNに接続された針を介して再循環管路内の汚泥に導入される。商業的規模の生物反応器においては、水溶性殺生物剤はT接続又は注入針を介して導入されこと及び蠕動運動ポンプに変って漸増キャビティポンプを使用できることが理解される。このことは、汚泥と水溶性殺生物剤との直接接触を可能にさせる。水溶性殺生物剤は、ポンプPの後方又は先頭の位置で再循環管路Rに導入することができる。
【0025】
しかし、本発明の実施は“瞬間混合”方法の使用に限定されるものではなく、所望により他の投薬方法を使用できることが理解される。
【実施例】
【0026】
例1:瞬間混合による半連続式パイロット研究
1.装置
排水処理プロセスを模擬実験するために一連の半連続式恒成分培養反応器を構成した。半連続式恒成分培養反応器の配置を図2に示す。
装置の中央部が生物学的恒成分培養反応器1である。反応容器2はガラス製で、10Lの内部容積を有し、pHセンサー3及び溶存酸素センサー4と空気スパージャー5を取り付けてある。これは汚泥を収容していて、このものは本質的には典型的な排水処理微生物の塊である。反応器は、周囲温度(ほぼ20℃)で作動する。
別の容器6に模擬実験排水13を収容し、微生物の損傷を防ぐために4℃に保持する。これを供給管路7及び蠕動運動ポンプ8を介して反応器に移す。
一定の長さの可撓性シリコーンチューブと蠕動運動ポンプ10からなる再循環管路9を反応器上に備える。蠕動運動ポンプが汚泥を反応器から再循環管路に引き出す。候補の水溶性殺生物剤をこの管路9に針11によって導入するが、このものは注入ポンプ12により供給される。この系を使用すると、水溶性殺生物剤と汚泥微生物との迅速な接触を確実にさせる“瞬間混合”を達成するのを可能にさせる。再循環管路の内径は8mmであり、流速は0.5m/秒であって、このことは、反応器に再流入する前に、3秒間の候補水溶性殺生物剤と汚泥との接触時間を与えた。
処理された流出水17は外部管路15を介して反応器から収集容器16に取り出す。
【0027】
2.操作手順
反応器に、フランス国リヨンのクールリの都市排水処理工場から得た汚泥を装入した。この汚泥には、プロセスを始動させるための“種”を準備した。次いで、反応器に模擬実験排水を5Lの目印まで満たし、ほぼpH7.5に調節し、曝気を開始した。反応器には、表Bに示す配合となるように作った模擬実験排水を800mL/日の割合で連続的に供給した。
週日毎に(即ち、1週間に5回)、平衡を維持するために生物反応器の内容物の13.3%を引き出した。これは汚泥期を7.5日の範囲に維持させた。
また、週日毎に、前記の調節を行なった後に、候補の水溶性殺生物剤(希薄溶液として)を瞬間混合用の再循環管路を経て装置系に注入した。この希薄溶液は、10gの炭酸水素ナトリウムをほぼ900mLの脱イオン水に溶解させ、次いで5gの候補水溶性殺生物剤を添加し、十分に混合することによって調製した。次いで、この混合物を脱イオン水により1Lまでにした。この希薄溶液の適当量を所要の投薬レベルを得るように注入した。
実験を52日間実施してから系を閉鎖した。
【0028】
3.試験濃度
試験では化合物Xを評価した。この化合物は、硫酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム(THPS)の75%水溶液である。二つの濃度:2及び4mg/L/日を評価した。
【0029】
4.結果
【表1】

また、パイロット研究中に下記の観察を行なった。
・対照例(未処理)研究は汚泥内の糸状細菌の増殖を示したのに対して、化合物Xで処理した系からの汚泥にはこれらは実質的に存在しなかった。
・未処理の汚泥に対して、処理汚泥には有意に高濃度の原生動物及び他の高等生物体が存在した。
・化合物Xによる処理は汚泥の凝集を害さなかった。
【0030】
5.コメント
この研究は、化合物Xによる瞬間処理が、低用量レベルで、汚泥の比活性を実際に増大させながら汚泥増殖を有意に減少することができたことを確認した。
また、汚泥の質は、相当に改善されて、一層容易に凝集し(糸状細菌の増殖の場合に)、しかして操業上の利益をもたらすであろう汚泥を生じさせた。
【0031】
模擬実験排水の組成
【表2】

【0032】
例2:予備希釈を伴う半連続式パイロット研究
1.装置
この試験列で使用した装置は、反応器に瞬間混合のための再循環管路を取り付けなかったことを除いて、例1で使用したものと同一であった。
【0033】
2.操作手順
操作手順は、化合物Xの投薬方法が異なることを除いて、例1で使用したものと同じであった。この場合には、5gの炭酸水素ナトリウムを1Lの脱イオン水中に含有する溶液に5gの化合物Xを混合した。この溶液の4.0mLを、生物反応器から取り出した500mLの浄化された排水に添加した。処理した浄化排水を生物反応器に戻し、生物反応器の正常の操作を再開した。従って、生物反応器における化合物Xの最終濃度は4mg/Lに等しい。この手順を週5回毎日実施した。
実験は、例1と平行して、即ち、52日間実施してから系を閉鎖した。
【0034】
3.試験濃度
4mg/L/日の化合物X濃度を使用した。
【0035】
4.結果
【表3】

【0036】
5.コメント
この試験における増殖収率の減少は、瞬間混合を使用したときに同じ投薬速度で37.6%の減少(例1を参照)であったのと比べて、26.4%に過ぎなかった。このことは瞬間混合の利益を立証するものである。
【0037】
例3:他の水処理用殺生物剤による脱共役
1.摘要
モノ・ピルトによる刊行された研究に基づくモデル(注)を使用する酸素消費パターン分析によって、呼吸パラメーターに対する化合物の衝撃を決定するために実験室用スクリーニング試験を発展させた。増殖の脱共役は、合成増殖培地での細菌の増殖中に酸素消費の増加があることが特徴である。
注:
モノ J.、1950、Ann.Inst.Pasteur、“連続培養の技術、理論及び応用”、79:390−410
モノ J.、1942、“細菌培養の成長の研究”、パリ、ハーマン、p.210
ピルト SJ.、(1965)“増殖している培養物中の細菌の保持エネルギー”、Proc.of the Royal Soc.London B163、224−231
“水質管理の原理”、編者:WW.エケンフェルダー Jr、CBIパブリッシング社、USA、1980:9章−生物学的水処理、p.249−275
【0038】
2.原理
バッチ型増殖速度モデル及び酸素消費速度の説明を数学的モデルによって行なった。増殖速度は、モノ・ピルトのモデルに従い、以下のように説明される。
【数1】

上記の式において、
[X]:内因性代謝を受けやすいバイオマスの濃度、gMLSS/L
[S]:炭素基質の濃度、g/L
d[X]/dt:バイオマス増殖速度、g乾燥バイオマス/L.d
d[S]/dt:炭素基質消費速度、g/L.d
a:固有の基質−バイオマス増殖収率、gX/g消費基質
b:バイオマス保持係数、g乾燥バイオマス/g乾燥バイオマス.d
d[O2]/dt:酸素消費速度、gO2/L.d
a’:比酸素消費係数、gO2/g消費有機基質
b’:内因性呼吸係数、gO2/gX
k:最大比活性、gS/g乾燥バイオマス.d
S:見掛け基質親和性係数又は半最大比活性基質濃度、mg/L
aとa’との間の関係:a’+(b’/b)*a=1
bとb’との間の関係:b’=1.25*b
提案された水溶性殺生物剤を評価するために、酸素消費速度を測定し、コンピューター繰返しプロセスが酸素消費曲線に適合するように最適化した方程式係数を最適化する。
最適化された係数から、細菌脱共役の度合を計算することができる。
【0039】
3.装置
ビッセンシャフトリッヒ−テクニシェ・ベルケシュテーテンGmbH、Dr−カール−スレボスト通 1、D−82362(ドイツ国ワイルハイム)により供給されたOxitop(登録商標)BOD装置をスクリーニング試験のために使用した(図3を参照)。全体の装置系(図3を参照)は、以下の部材からなる。
・播種した培養培地21を入れた500mLのガラス瓶20。
・各瓶は、360気圧のデータ点まで記録できるネジ止め式ガス圧力メーター22でもって栓をした。細菌の呼吸中に生じる二酸化炭素を吸収するために装置系に水酸化ナトリウムペレット23を入れた。
・磁気攪拌機25及び磁気フレア24を使用して培養培地21を撹拌した。
・瓶を温度制御した容器(20℃)に入れた。
・データの取得は、手持ち制御ユニットを使用して赤外線インクにより行なった。
・最後に、データは、計算を行なうために手持ち制御ユニットからExcel(登録商標)スプレッドシートファイルに移した。
【0040】
4.試験殺生物剤
3種の慣用の水処理用殺生物剤を細菌水溶性殺生物剤として評価した。それぞれは、水処理産業において慣用されている殺生物剤タイプの主な類を代表するものである。更に、広く知られた細菌水溶性殺生物剤である2,4−ジニトロフェノールを比較のために試験列に加えた。詳細は以下の通りである。
【表4】

【0041】
5.試験濃度
液状の汚泥を基準にして、2,4−ジニトロフェノールは20mg/Lの用量で投薬したが、これは有意の脱共役が生じるであろう既知のレベルである。試験殺生物剤は、それぞれを1、2.5、5、10及び25mg/Lで評価した。
【0042】
6.操作手順
・増殖培地:
グルコース:500mg/L
酵母エキスDifco:5mg/L
ミネラル栄養分:標準法 ISO9888(水性環境での極限好気性生分解性の決定)に記載の通り。
・培地の播種:
都市の活性汚泥処理ユニットからの50mg/Lのホモジナイズした洗浄試料。
・インキュベーション
BOD−メーター瓶(OxiTop)中で20℃で7日間。
酸素の消費を増殖相及び衰退相と通じて全て(各試験物質について合計で360個のデータ点)自動的に決定し計算した。
前記した簡単な増殖数学的モデルを使用してデータを解釈した。
モデルの係数の決定は、調節して、そしてモデルを実験データに適合させるために統計的試験χ2を使用して行なう。
【数2】

(ここに、OCは酸素の消費量である。)
【0043】
7.結果
図4は、結果を要約するが、3種の試験殺生物剤の全てが有意で且つ有用な脱共役レベルを生じたことを示している。それらのうちの2種(殺生物剤C及びD)は、慣用の水溶性殺生物剤である2,4−ジニトロフェノールよりも有意に低い用量レベルで大きな脱共役レベルを生じさせた。しかし、これらはスクリーニング試験であったこと及び条件は個々の殺生物剤について最適化されていなかったことを念頭に置くべきであり、従って殺生物剤Bがより最適な条件下で大きな脱共役を生じさせた可能性がある。
【0044】
8.コメント
これらの結果は、3種の主要な水処理用殺生物剤類の代表が低い処理レベルで有意な細菌脱共役を生じさせることを明示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性系における細菌バイオマスの増殖を制御するための方法であって、
前記水性系は水性系が工場排水又は都市排水の処理のために使用される排水処理プラントであり、
脱共役剤としての水溶性殺生物剤の有効量を前記水性系に添加し又はそれと接触させることからなり、
前記水溶性殺生物剤が式(I)のアルキル置換ホスホニウム化合物

(ここで、
Xは陰イオンであり、
nはmにより表わされるXの原子価であり、
各Aは同一であっても異なっていてもよく、OH、OR、SO3R、PO32、COOH、COOR、SO3H、PO32、CH2COOH、置換アルキル、アリール及び置換アミノ基から選ばれ、
各R並びに各A基における各Rは水素、C1〜C20アルキル、アリール、置換アルキル若しくはアリール、カルボキシ又はカルボキシエステルから独立して選ばれ、各CR2基は同一であっても異なっていてもよい。)
である水性系における細菌バイオマスの増殖を制御するための方法。
【請求項2】
脱共役剤の有効量が5000mg/Lまでである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱共役剤の有効量が3000mg/Lまでである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脱共役剤の有効量が1000mg/Lまでである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
脱共役剤の有効量が0.005mg/L〜500mg/Lである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
脱共役剤の有効量が0.01mg/L〜300mg/Lである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
脱共役剤の有効量が0.05mg/L〜100mg/Lである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱共役剤の有効量が0.1mg/L〜10mg/Lである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
脱共役剤の有効量が0.5mg/L〜7.5mg/Lである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
脱共役剤の有効量が1mg/L〜5mg/Lである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Xが塩化物、硫酸、燐酸、酢酸及び臭化物イオンよりなる群から選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
アルキル置換ホスホニウム化合物が硫酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムである請求項1又は11に記載の方法。
【請求項13】
アルキル置換ホスホニウム化合物が塩化テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、臭化テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、酢酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム及び燐酸テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムよりなる群から選ばれる請求項1又は11に記載の方法。
【請求項14】
水溶性殺生物剤が界面活性剤、消泡剤、スケール防止剤、腐食防止剤、殺生物剤、凝集剤、脱水剤及び分散剤の1種以上と共に処方される請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
水溶性殺生物剤の有効量を水性系における細菌バイオマスと直接接触させることからなる請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が5000mg/Lまでである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が3000mg/Lまでである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が1000mg/Lまでである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が0.005mg/L〜500mg/Lである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が0.01mg/L〜300mg/Lである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が0.05mg/L〜100mg/Lである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が0.1mg/L〜10mg/Lである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が0.5mg/L〜7.5mg/Lである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
水性系に添加される水溶性殺生物剤の有効量が1mg/L〜5mg/Lである請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−90125(P2010−90125A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249183(P2009−249183)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【分割の表示】特願2006−516458(P2006−516458)の分割
【原出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(306001161)ロディア ユーケイ リミテッド (9)
【Fターム(参考)】