説明

脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳、並びに、これらの製造方法

【課題】膜分離技術を利用して、品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を長時間連続で製造する製造方法と、これによって製造した品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を提案する。
【解決手段】所定範囲の膜面積を有するナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して所定透過流束での第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、所定範囲の膜面積を有するナノフィルトレーション膜を用いて所定透過流束での第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、一定脱塩率の脱塩処理乳を12時間以上連続して製造する脱塩処理乳の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳、並びに、これらの製造方法に関し、特に、膜分離技術を利用して、品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を長時間連続で製造する製造方法と、これによって製造した品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳に関する。
【背景技術】
【0002】
乳からイオンを除去する方法の一つとして膜分離技術が採用されている。乳業においてはチーズ製造時に副産物として発生するチーズホエイの回収、有効利用を目的として、育児用調製粉乳向け乳タンパク・ペプチド原料、WPC(ホエイタンパク濃縮物)・TMP(乳タンパク濃縮物)等の各種飲食品向けタンパク原料、ナチュラルチーズ・ヨーグルト等の乳製品、成分調整牛乳・濃縮乳等の製造に幅広く利用されている。
【0003】
膜分離用の膜は各種存在し、異なる特徴がある。
【0004】
RO(Reverse Osmosis;逆浸透)膜は、乳中より水分のみ除去し、主として濃縮の用途で使用される。
【0005】
NF(Nanofiltration;ナノろ過)膜は、ナトリウム・カリウム等の1価イオンを透過することから、部分脱塩による塩味の除去を目的に使用される。NF膜を用いた処理方法は、容易にナトリウムやカリウムなどの1価ミネラルを低減することができると共に水分の除去を同時に行えるので、濃縮及び乾燥工程での負荷を低減できる、エネルギー的に非常に効率的な方法であるとされている。
【0006】
そこで、従来から、NF膜を用いることによって乳または乳素材中の水分及びナトリウム等の1価の金属塩を透過分離し、無脂乳固形分含量及びCa/Naの濃度比を調整すること、RO膜を用いるこることによって水分を透過分離し、これをNF膜処理した乳または乳素材と混合することによって無脂乳固形分含量及びCa/Naの濃度比を調整することが提案されている(特許文献1)。
【0007】
また、NF膜を用い、乳類をそのまま脱塩するNF法や、NF膜でろ過して濃縮した乳に水を加え、さらにNF膜でろ過するダイヤフィルトレーション(DF)法、更に、原料乳をNF膜で濾過してナトリウムやカリウムなどの1価ミネラルのみを除去した後、濃縮し、噴霧乾燥して低ミネラルミルクパウダーを得る方法などが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−253116号公報
【特許文献2】特開平8−266221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
膜分離技術を利用して原料乳(生乳)からナトリウムやカリウムを分離する際の脱塩率はオンラインでモニタリングすることができず製造終了後に分析確認するのが一般的であった。すなわち、従来技術で原料乳(生乳)から膜分離技術を使用して脱塩処理する場合、全ての原料乳を脱塩工程に通した後に脱塩処理した脱塩処理乳を貯液タンクなどに貯液し、攪拌などで濃度や組成を均一にした後にナトリウムやカリウムの組成を確認する方法を採用してきた。
【0010】
このような従来の方法では、脱塩率が処理毎(バッチ毎)で異なる可能性があり、測定して出てきた脱塩率に応じて更に脱塩処理をするなどの新たな処理が必要となる懸念もあった。そこで、原料乳から同一の処理で脱塩した脱塩処理乳を安定的に供給できない問題点があった。
【0011】
また、膜分離技術を利用して原料乳(生乳)からナトリウムやカリウムを分離する場合、1セクションで圧力を制御すると高濃度側で求められる圧力に設定する必要があり、膜が閉塞しやすかった。
【0012】
膜が閉塞した場合、配管洗浄(CIP)を行うが、再起動した際、脱塩条件を完全に元の条件に戻すことが難しく、CIPの前後で、製品の脱塩率に差が出ることがあった。
【0013】
すなわち、原料乳(生乳)の脱塩処理を1つの脱塩用の膜で処理する場合、特に大量の原料乳を一括して処理するようなライン設計をした場合、脱塩用の膜の閉塞なども考慮して、原料乳から常に設計した脱塩率を有する脱塩処理乳を生産するためには、1バッチの原料乳を処理する毎に新品(おろしたて)の膜を使用する必要があり、極めて不経済であるが、それを解決した技術的提案はない。
【0014】
一方、例えば、原料乳からの脱塩の度合いは、原料乳自体や原料乳を使用した乳製品、及びその乳製品を使用した飲食品の風味へ影響する。例えば、原料乳を脱塩することで原料乳自体が有していた塩味が低減され、相対的に乳風味が高まり、ミルクの良好な風味が高まることも知られている。このため、原料乳から安定した脱塩率で脱塩処理した脱塩処理乳や、これを利用した乳製品が市場から求められていた。
【0015】
以上の背景から、本発明は、膜分離技術を利用して、品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を長時間連続で製造する製造方法と、これによって製造した品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を提案することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、
ナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、ナノフィルトレーション膜を用いて第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、前記第二回目の膜濃縮処理後のナトリウム換算の塩分含有量が、前記原料乳におけるナトリウム換算の塩分含有量より低下している脱塩処理乳を、脱塩率を所定の値に保って12時間以上連続して製造する脱塩処理乳の製造方法
である。
【0017】
請求項2記載の発明は、
所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて前記原料乳に対して所定の透過流束で前記第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて所定の透過流束で前記第二回目の膜濃縮処理を行うことを特徴とする請求項1記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0018】
請求項3記載の発明は、
ナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、ナノフィルトレーション膜を用いて第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造する脱塩処理乳の製造方法
である。
【0019】
請求項4記載の発明は、
所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて前記原料乳に対して所定の透過流束で前記第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて所定の透過流束で前記第二回目の膜濃縮処理を行うことを特徴とする請求項3記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0020】
請求項5記載の発明は、
前記原料乳は、還元工程を経ていない獣乳、当該獣乳の加工品である乳製品を還元して作られた加工乳、植物由来の乳のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0021】
請求項6記載の発明は、
原料乳が全脂タイプである請求項1乃至5のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0022】
請求項7記載の発明は、
第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び第二回膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に
F<22−0.8TS
(ただし、F<9.2で、TS<25.8)
の関係が成立することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0023】
請求項8記載の発明は、
原料乳が脱脂したものである請求項1乃至5のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0024】
請求項9記載の発明は、
第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び第二回膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に
F<22.3−TS
(ただし、F<10.1で、TS<18.9)
の関係が成立することを特徴とする請求項8記載の脱塩処理乳の製造方法
である。
【0025】
請求項10記載の発明は、
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳
である。
【0026】
請求項11記載の発明は、
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳
である。
【0027】
請求項12記載の発明は、
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳から水分を除去した脱塩濃縮乳
である。
【0028】
請求項13記載の発明は、
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳から水分を除去した脱塩脱脂濃縮乳
である。
【0029】
請求項14記載の発明は、
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳から水分を除去し、粉末状化してなる脱塩粉乳
である。
【0030】
請求項15記載の発明は、
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳から水分を除去し、粉末状化してなる脱塩脱脂粉乳
である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を長時間連続で製造する製造方法と、これによって製造した品質の安定した脱塩処理乳及び脱塩脱脂粉乳を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】脱脂乳をナノフィルトレーション(NF)膜を用いて膜濃縮する処理を最大12時間連続で行った連続運転中での濃縮液の屈折糖度(%)の経時変化を示す図。
【図2】表2に連続運転中の操作条件が表されている複数の膜濃縮連続処理運転中の操作圧力の経時変化を表す図。
【図3】表2と図1〜2の連続運転の結果に基づき、透過流束(kg/m2/h)と固形分濃度(重量%)の関係から12時間連続が可能と考えられる領域を表す図。
【図4】生乳をナノフィルトレーション(NF)膜を用いて膜濃縮する処理を最大12時間連続で行った連続運転中での濃縮液の屈折糖度(%)の経時変化を示す図。
【図5】表3に連続運転中の操作条件が表されている複数の膜濃縮連続処理運転中の操作圧力の経時変化を表す図。
【図6】表3、図4〜図5の連続運転の結果に基づき、透過流束(kg/m2/h)と固形分濃度(重量%)の関係から12時間連続が可能と考えられる領域を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意研究を進めたところ、以下の知見を得ることができた。
【0034】
即ち、原料乳を膜濃縮して脱塩処理するにあたり、ナノフィルトレーション膜面積あたりの透過液の流速(透過流束)(kg/m/h)を所定範囲に定めながら膜濃縮し、その後希釈処理し、更に、ナノフィルトレーション膜面積あたりの透過液の流速(透過流束)(kg/m/h)を所定範囲に定めながら膜濃縮することで、長時間(12時間以上)連続的に所定の脱塩率(ナトリウム換算で40%以上の低下)を維持して脱塩処理乳を安定的に製造できることを見出した。
【0035】
また、本発明の脱塩処理乳の製造方法を採用することで、単に原料乳を脱塩処理するだけでなく、設計通りの脱塩処理乳を必要に応じて必要なだけ連続的に製造することができ、全ての原料乳の脱塩処理後に再度脱塩、及び全ての原料乳の脱塩処理後に再度原料乳の添加など、出来上がった脱塩状態によって脱塩率を調整するなどの工程が煩雑になるリスクも少なくなり、効率的な脱塩濃縮乳の生産が期待できる。
【0036】
本発明が提案する脱塩処理乳の製造方法は、ナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、ナノフィルトレーション膜を用いて第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、前記第二回目の膜濃縮処理後のナトリウム換算の塩分含有量が、前記原料乳におけるナトリウム換算の塩分含有量より低下している脱塩処理乳を、脱塩率を所定の値に保って12時間以上連続して製造する、あるいは、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造するものである。
【0037】
本発明において、前記第一回目及び第二回目の膜濃縮処理は、いずれも、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用い、所定の透過流束で行うことが望ましい。これによって、長時間(12時間以上)連続的に所定の脱塩率(ナトリウム換算で40%以上の低下)を維持して脱塩処理乳を安定的に製造できる。
【0038】
ここで、透過流束(kg/m/h)とは、ナノフィルトレーション膜面積あたりの透過液の流速のことである。所定範囲の膜面積(m)を有するナノフィルトレーション膜を透過する原料乳の流速(kg/h)及び、第一回膜濃縮後に希釈されて第二回膜濃縮に供される原料乳の流速(kg/h)を、それぞれ、前記ナノフィルトレーション膜の膜面積(m)で除算して求められるものである。
【0039】
ここで、前記の原料乳は特に由来は限定されないが、例えば獣乳(牛乳、羊乳、山羊乳、水牛乳など)や植物由来の乳(大豆乳)などである。原料乳は還元工程を経ていない生乳や、乳製品(脱脂粉乳、脱脂乳、バター、クリーム、練乳など)を還元して作られた加工乳など液状であれば特に限定されない。
【0040】
また、原料乳は液状であればナノフィルトレーション膜で脱塩処理をすることができるので、全脂タイプ、脱脂タイプ、脂肪強化タイプのいずれであっても限定されないことはいうまでもない。
【0041】
さらに、原料乳への風味や栄養価を強化するための各種食品や食品添加物の添加は原料乳が液状である限りは任意に添加することができる。
【0042】
本発明による第一回目の膜濃縮処理は、ナトリウムやカリウムなどの一価の陽イオンと水分を透過して濃縮できる機能を有する膜濃縮処理であれば特に限定されることはない。好ましくはナノフィルトレーション(NF)膜を使用する膜処理であることが望ましい。ナノフィルトレーション膜は市販のものを使用することが可能であるが、平均塩除去率が90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上であり、本発明で実証したナノフィルトレーション膜の平均塩除去率が97%〜99%であった。
【0043】
前述した本発明の製造方法における希釈処理は前述の第一回目の膜濃縮処理後の処理物(濃縮乳)を希釈するものであれば、特に手段は限定されない。
【0044】
例えば、第一回目の膜濃縮処理後の処理物(濃縮乳)に原料水をそのまま加えて、あるいは原料水を脱塩処理してから加えて希釈する方法など、第一回目の膜濃縮処理後の処理物(濃縮乳)の組成が薄まれば特に限定されない。
【0045】
また、原料水以外にも第一回目の膜濃縮処理で出てきた透過液(原料乳から透過されたナトリウムやカリウムなどの1価の陽イオンと水分の含まれた溶液)を脱塩処理したものを全て使用することができる。ここでの脱塩処理の一例としては、RO膜などの逆浸透膜処理を使用する方法、電気透析処理を行う方法、イオン交換カラムなどのイオン交換処理を行う方法、等が挙げられるが特に限定されるものではない。
【0046】
前述した本発明の製造方法における第二回目の膜濃縮処理は、ナトリウムやカリウムなどの一価の陽イオンと水分を透過して濃縮できる機能を有する膜濃縮処理であれば特に限定されることはない。好ましくはナノフィルトレーション(NF)膜を使用する膜処理であることが望ましい。ナノフィルトレーション膜は市販のものを使用することが可能であるが、平均塩除去率が90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上であり、本発明で実証したナノフィルトレーション膜の平均塩除去率が97%〜99%であった。
【0047】
前述した本発明の製造方法においては、脱塩率を所定の値に維持したまま12時間以上連続して脱塩処理乳を製造する上で、また、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造する上で、第一回目及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に所定の関係を成立させておくことが望ましい。
【0048】
前述したように、前記第一回目及び第二回目の膜濃縮処理を、いずれも、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用い、所定の透過流束で行うことにより、前記脱塩処理乳を、脱塩率を所定の値に保って12時間以上連続して製造する、あるいは、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造することができる。この上で、更に、第一回目及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に所定の関係を成立させておくことにより、脱塩率を所定の値に保って脱塩処理乳を12時間以上連続して製造する、あるいは、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造することを一層安定的に行うことができる。
【0049】
この場合、第一回目及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間の関係は、個々の処理において、目標とする脱塩率を考慮して適宜設定することができる。
【0050】
例えば、本願発明者等の検討によれば、脱脂乳を脱塩処理する場合には、F<22.3−TS(ただし、F<10.1で、TS<18.9)の関係が成立することが望ましいことが確認されている。
【0051】
この場合、F>10.1またはTS>18.9の時には運転時間が長くなるにつれて膜が閉塞することにより、管内圧力が高まり安定的な連続生産が困難になる。また、透過流束F>22.3−TSの場合にも管内圧力が高まり、安定的な連続生産が難しくなる。
【0052】
なお、前記の関係(F<22.3−TS)が成立しているときには、20t/hの処理量で前記原料乳を処理することができる。
【0053】
例えば、この場合、第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理に使用される前記ナノフィルトレーション膜は同一とし、いずれも、合計の膜面積を1800mとし、第一回目の膜濃縮で固形分9.4%から16%まで脱塩濃縮し、希釈水にて固形分16%の脱塩濃縮乳を固形分9.4%まで希釈し、第二回目の膜濃縮で固形分9.4%から16%まで再度脱塩濃縮することでナトリウム換算にて40%の脱塩が可能となる。これらの工程を一連で行うよう設計することで、12時間以上安定した脱塩率の脱塩脱脂(濃縮)乳を生産することが可能となる。
【0054】
一方、生乳(全脂乳)を脱塩処理する場合には、本願発明者等の検討によれば、F<22−0.8TS(ただし、F<9.2で、TS<25.9)の関係が成立することが望ましいことが確認されている。
【0055】
この場合、F>9.2またはTS>25.9の時には運転時間が長くなるにつれて膜が閉塞することにより、管内圧力が高まり安定的な連続生産が困難になる。また、透過流束F>22−0.8TSの場合にも管内圧力が高まり、安定的な連続生産が難しくなる。
【0056】
なお、前記の関係(F<22−0.8TS)が成立しているときには、20t/h及び14t/hの処理量で前記原料乳を処理することができる。
【0057】
また、この場合、第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理に使用される前記ナノフィルトレーション膜は同一とし、いずれも、膜面積を1800mとし、第一回目の膜濃縮で固形分12.8%から22.6%まで脱塩濃縮し、希釈水にて固形分22.6%の脱塩濃縮乳を固形分12.8%まで希釈し、第二回目の膜濃縮で固形分12.8%から22.6%まで再度脱塩濃縮することでナトリウム換算にて40%の脱塩が可能となる。これらの工程を一連で行うよう設計することで、12時間以上安定した脱塩率の脱塩(濃縮)乳を生産することが可能となる。
【0058】
さらに、脱脂乳および生乳において、透過流束Fと全固形分TSとの関係が成立している範囲では、1つのナノフィルトレーション膜処理設備を有効活用し、膜処理と貯液を繰り返す工程を行うことで、最終的なナノフィルトレーション膜処理後に12時間以上安定した脱塩率の脱塩(脱脂)濃縮乳を生産することが可能であることはいうまでもなく、この場合、工場での膜設備の占有スペースの効率化が期待できる。
【0059】
この場合、膜濃縮処理に使用される前記ナノフィルトレーション膜は、膜面積を648mとし、第1回目の膜濃縮後に貯液し、次いで第2回目の膜濃縮を行うことで固形分12.8%から25.6%まで脱塩濃縮し、希釈水にて固形分25.6%の脱塩濃縮乳を固形分12.8%まで希釈し、第3回目の膜濃縮後に貯液し、次いで第4回目の膜濃縮を行うことで固形分12.8%から25.6%まで脱塩濃縮し第二回目の膜濃縮で固形分12.8%から22.6%まで再度脱塩濃縮することでナトリウム換算にて50%の脱塩が可能となる。これらの工程を設計により第4回目の膜濃縮処理後に、12時間以上安定した脱塩率の脱塩脱脂(濃縮)乳を生産することが可能となる。
【0060】
本発明の製造方法において、膜処理による脱塩濃縮工程にて、透過流束一定にさせた際の操作圧力が運転時間と共に上昇せず、一定または所定の範囲内である場合において連続運転による一定の脱塩率の脱塩(脱脂)濃縮乳の生産することが、膜の閉塞のリスクが軽減される点で望ましい。
【0061】
本発明の製造方法において、原料乳の処理温度は特に制限されないが、殺菌前の原料乳を処理する場合にはできる限り細菌増殖を抑えるために低温で処理することが望ましく、例えば10℃以下で処理することが望ましい。
【0062】
本発明の製造方法で使用する組成分析法は牛乳や乳製品で公知となっている手法で分析することができ、その手法は特に限定されない。
【0063】
本発明が、提案する脱塩処理乳は前述した本発明の製造方法によって製造したものである。
【0064】
本発明で製造された脱塩処理乳から更に処理、加工することに特に制限はない。すなわち、脱塩処理乳を更に濃縮・乾燥して粉乳にすることや、脱塩処理乳を希釈して加工乳や乳飲料などにすること、脱塩処理乳やそれを加工した乳製品を原料とした飲食品にすることなどに制限はない。
【0065】
なお、前述したように、原料乳には液状であれば、全脂タイプ、脱脂タイプ、脂肪強化タイプのいずれでも使用できる。そこで、脱脂タイプを原料乳に使用すれば、本発明の製造方法によって脱塩脱脂処理乳を製造することができる。使用する原料乳を全脂タイプ、脱脂タイプにすることによって、脱塩処理乳を更に濃縮・乾燥して全脂粉乳や脱脂粉乳を製造することができる。
【0066】
以下、発明者等が本願発明を完成させるに至った実験例と当該実験例に基づく本発明の実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は上述した実施形態及び以下の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。なお、以下において%はいずれも重量基準である。
【0067】
(試験例1)
脱脂乳に対するナノフィルトレーション膜の透過性能を確認するための回分濃縮試験。
【0068】
3t容量の供給タンクより脱脂乳を高圧ポンプにて約1300L/hで、直径4インチ、膜面積7.4mの平均塩除去率97〜99%のナノフィルトレーション膜(NF3838C/30−FF スパイラル膜、米国Dow−Filmtec社製)を含む循環ラインに払い出し、払い出し後は透過液のみ回収タンクに排出しながら脱脂乳濃度が約2倍程度になるまで10℃以下で膜濃縮を行った。操作圧力を1.2MPa、1.4MPa、1.6MPaの3水準にて等圧条件となるよう設定し、濃縮液のサンプリングを行い、それぞれ屈折糖度(%)、全固形分(%)、ナトリウム含量(mg%)、カリウム含量(mg%)を測定した。測定結果を表1に示した。
【表1】

【0069】
表1の測定結果より、1.6MPa以下の操作圧力において等圧条件下でナノフィルトレーション膜による膜濃縮を行った場合、全固形分と屈折糖度の関係は以下の式の通りと考えられた。
全固形分(%)=0.9338×屈折糖度(%)−0.8478
【0070】
また、ナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値と濃縮後の脱塩濃縮乳の全固形分との関係は表1の結果より以下の式の通りと考えられた。
NaとKの脱塩率の平均値(%)=42.3×Ln(全固形分%)−94.8
【0071】
そこで、全固形分9.38%の脱脂乳よりナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値を40%の脱塩脱脂濃縮乳をするには、上記の式より脱塩脱脂濃縮乳の全固形分を23.9%までナノフィルトレーション膜で濃縮する必要のあることがわかった。
【0072】
また、全固形分9.38%の脱脂乳より全固形分16.02%の脱塩脱脂濃縮乳までナノフィルトレーション膜で濃縮し、その後、全固形分9.38%まで希釈して脱塩脱脂乳とし、再び全固形分16.02%まで膜濃縮することでも、ナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値を40%の脱塩脱脂濃縮乳とすることができることがわかった。
【0073】
(試験例2)
膜濃縮条件(透過流束と濃縮濃度)毎による、透過流束と濃縮濃度の組み合わせを幅広く設定し、12時間の連続運転が可能となる条件範囲を特定するための連続運転試験を実施した。
【0074】
3t容量の貯液タンクより脱脂乳を高圧ポンプにて所定流量で払い出しを行い、直径4インチ、膜面積7.4mの平均塩除去率97〜99%のナノフィルトレーション膜(NF3838C/30−FF スパイラル膜、米国Dow−Filmtec社製)で膜濃縮を行い、処理温度を10℃以下で実施した。
【0075】
実施した連続運転試験の設定条件と連続運転試験の結果は以下の表2の通りである。
【表2】

【0076】
表2のデータはRun2は7時間、Run2以外のRun1とRun3〜7は12時間連続運転したデータである。膜処理後の濃縮液の実測TS(%)はそれぞれ連続運転した際の平均値を指す。また、流量についてはそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータを流量計による指示値をいう。透過液屈折糖度はそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータをいう。透過流束(kg/m/h)は透過液の流量からナノフィルトレーション膜の面積(7.4m)を割った値であり、その実測値はそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータをいう。透過流束の「実測・平均」はそれぞれ連続運転した際の平均値を指す。
【0077】
脱脂乳や脱脂濃縮乳を供給タンクより高圧ポンプで循環ラインに定量供給し、透過流束を一定に保つよう透過液の流量を一定にするようナノフィルトレーション膜前後の操作圧力を調整しながら連続運転を行った。
【0078】
連続運転結果を前記の表2に示した。いずれの試験においても脱脂乳、濃縮液の流量は12時間通して安定していた。濃縮乳の濃度も目標値付近で安定していた。また、各試験では概ね設定通りの透過流束で運転を行った。ナノフィルトレーション膜を透過した濃縮液の屈折糖度の運転時間における推移を図1に示した。
【0079】
図1より、連続運転中の濃縮液の屈折糖度は一定していることが明らかとなった。
【0080】
連続運転中の操作圧力の経時変化を図2に示した。
【0081】
図2より、Run2以外は連続運転中の操作圧力値は一定であり、安定して12時間の連続運転が可能と考えられる。Run4では運転の終盤にナノフィルトレーション膜の閉塞を示唆する操作圧力の上昇が観られたが、Run2と比べると操作圧力の上昇開始時間が遅く、12時間の運転は可能と判断した。
【0082】
前記の結果を踏まえて、連続運転の可否をシンボル(○、△、×)で区別してプロットし、○の分布状況から12時間連続運転可能領域を図3上に斜線で示した。
【0083】
図3より、脱脂乳の各濃縮固形分における12時間連続運転が可能な条件の範囲は、透過流束をF[kg/m/h]、濃縮固形分TS[%]をとすると、凡そ次式で示す範囲内となる。
透過流束F <22.3−TS
(ただしF<10.1 かつ TS<18.9)
【実施例1】
【0084】
脱脂乳から脱塩脱脂濃縮乳を製造するための処理設備として、ナノフィルトレーション膜の総面積1800mの3循環経路方式の第1のナノフィルトレーション膜処理設備、その下流工程に、脱脂乳をナノフィルトレーション濾過して得られた透過液を逆浸透膜処理した濾過水を比例混合する設備、さらに、その下流工程に、ナノフィルトレーション膜の総面積1800mの3循環経路方式の第2のナノフィルトレーション膜処理設備を有する連続処理装置を使用した。
【0085】
脱塩率(製造された脱塩処理乳のナトリウム換算での塩分含有量÷脱脂乳のナトリウム換算での塩分含有量×100)=40%を目標として、脱脂乳(固形分9.4%)をこの装置に20t/hで通液した。第1及び第2のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速はいずれも8.3t/hであった。第2のナノフィルトレーション膜処理装置を出たところでの脱塩率は40%前後で推移し、その脱塩率は12時間以上変わらなかった。
【0086】
(試験例3)
全脂乳に対するナノフィルトレーション膜の透過性能を確認するための回分濃縮試験。
【0087】
3t容量の供給タンクより全脂乳を高圧ポンプにて約1300L/hで、直径4インチ、膜面積7.4mの平均塩除去率97〜99%のナノフィルトレーション膜(NF3838C/30−FF スパイラル膜、米国Dow−Filmtec社製)を含む循環ラインに払い出し、払い出し後は透過液のみ回収タンクに排出しながら脱脂乳濃度が約2倍程度になるまで10℃以下で膜濃縮を行った。操作圧力を1.2MPa、1.4MPa、1.6MPaの3水準にて等圧条件となるよう設定し、濃縮液のサンプリングを行い、それぞれ屈折糖度(%)、全固形分(%)、ナトリウム含量(mg%)、カリウム含量(mg%)を測定した。測定結果を表3に示した。
【表3】

【0088】
表3の測定結果より、1.6MPa以下の操作圧力において等圧条件下でナノフィルトレーション膜による膜濃縮を行った場合、全固形分と屈折糖度の関係は以下の式の通りと考えられた。
全固形分(%)=1.15×屈折糖度(%)−1.09
【0089】
また、ナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値と濃縮後の脱塩濃縮乳の全固形分との関係は表1の結果より以下の式の通りと考えられた。
NaとKの脱塩率の平均値(%)=50.5×Ln(全固形分%)−131
【0090】
そこで、全固形分12.81%の生乳よりナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値を40%の脱塩脱脂濃縮乳をするには、上記の式より脱塩脱脂濃縮乳の全固形分を29.6%までナノフィルトレーション膜で濃縮する必要のあることがわかった。
【0091】
また、全固形分12.81%の生乳より全固形分25.6%の脱塩濃縮乳までナノフィルトレーション膜で濃縮し、その後、全固形分12.81%まで希釈して脱塩全脂乳とし、再び全固形分25.6%まで膜濃縮することでも、ナトリウムとカリウムの脱塩率の平均値を50%の脱塩全脂濃縮乳とすることができることがわかった。
【0092】
(試験例4)
膜濃縮条件(透過流束と濃縮濃度)毎による、透過流束と濃縮濃度の組み合わせを幅広く設定して、12時間の連続運転が可能となる条件範囲を特定するための連続運転試験を実施した。
【0093】
3t容量の貯液タンクより脱脂乳を高圧ポンプにて所定流量で払い出しを行い、直径4インチ、膜面積7.4mの平均塩除去率97〜99%のナノフィルトレーション膜(NF3838C/30−FF スパイラル膜、米国Dow−Filmtec社製)で膜濃縮を行い、処理温度を10℃以下で実施した。
【0094】
実施した連続運転試験の設定条件と連続運転試験の結果は以下の表4の通りである。
【表4】

【0095】
表4のデータはRun2は5時間、Run3が7時間、Run4が8時間、Run7が9時間、それ以外のRun1とRun5〜6、Run8〜9は12時間連続運転したデータである。膜処理後の濃縮液の実測TS(%)はそれぞれ連続運転した際の平均値を指す。また、流量についてはそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータを流量計による指示値をいう。透過液屈折糖度はそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータをいう。透過流束は透過液の流量からナノフィルトレーション膜の面積(7.4m)を割った値であり、その実測値はそれぞれ連続運転した際の下限値と上限値のデータをいう。透過流束の「実測・平均」はそれぞれ連続運転した際の平均値を指す。
【0096】
脱脂乳や脱脂濃縮乳を供給タンクより高圧ポンプで循環ラインに定量供給し、透過流束を一定に保つよう透過液の流量を一定にするようナノフィルトレーション膜前後の操作圧力を調整しながら連続運転を行った。
【0097】
連続運転結果を前記の表4に示した。いずれの試験においても脱脂乳、透過液の流量は連続運転を通して安定していた。濃縮乳の濃度も目標値付近で安定していた。また、各試験では設定通りの透過流束で運転を行った。膜濃縮された濃縮液の屈折糖度の運転時間における推移を図4に示した。
【0098】
図4より、連続運転中の濃縮液の屈折糖度は一定しており、濃縮液の組成も一定であることが明らかとなった。
【0099】
連続運転中の操作圧力の経時変化を図5に示した。図5より、Run1、5、6、8、9は操作圧力が安定しており、12時間の連続運転が可能であったが、Run2、3、4、7は運転中にナノフィルトレーション膜の閉塞を示唆する操作圧力の上昇が観られ、12時間の連続運転は不可能と考えられた。
【0100】
この連続運転結果を踏まえて、連続運転の可否をシンボル(○、×)で区別してプロットし、○の分布状況から12時間連続運転可能領域を図6上に斜線で示した。
【0101】
図6より、生乳の各固形分における12時間連続運転が可能な条件の範囲は、透過流束をF[kg/m/h]、濃縮固形分をTS[%]をとすると、凡そ次の式で示す範囲内となる。
透過流束F <22−0.8TS
(ただしF<9.2 かつ TS<25.9)
【実施例2】
【0102】
生乳から脱塩濃縮乳を製造するための処理設備として、ナノフィルトレーション膜の総面積1800mの3循環経路方式の第1のナノフィルトレーション膜処理設備、その下流工程に、脱脂乳をナノフィルトレーション濾過して得られた透過液を逆浸透膜処理した濾過水を比例混合する設備、さらに、その下流工程に、ナノフィルトレーション膜の総面積1800mの3循環経路方式の第2のナノフィルトレーション膜処理設備を有する連続処理装置を使用した。
【0103】
脱塩率(製造された脱塩処理乳のナトリウム換算での塩分含有量÷脱脂乳のナトリウム換算での塩分含有量×100)=40%を目標として、生乳(固形分13.0%)をこの装置に20t/hで通液した。第1及び第2のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速はいずれも8.3t/hであった。第2のナノフィルトレーション膜処理装置を出たところでの脱塩率は40%前後で推移し、その脱塩率は12時間以上変わらなかった。
【実施例3】
【0104】
生乳から脱塩濃縮乳を製造するための処理設備として、ナノフィルトレーション膜の総面積648mの2循環経路方式のナノフィルトレーション膜処理設備、さらに、その下流工程に貯液設備を有する装置を使用した。
【0105】
脱塩率(製造された脱塩処理乳のナトリウム換算での塩分含有量÷生乳のナトリウム換算での塩分含有量×100)=50%を目標として、生乳(固形分12.8%)をこの装置に14t/hで通液し、第1回目のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速は4.7t/hであった。貯液後の濃縮液を7.2t/hで通液し、第2回目のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速は1.8t/hであった。さらに、貯液後の濃縮液に生乳をナノフィルトレーション濾過して得られた透過液を逆浸透膜処理して水と同等組成となった濾過水を混合し、固形分12.8%まで希釈した。さらに、希釈後の脱塩乳(固形分12.8%)を14t/hで通液し、第3回目のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速は4.7t/hであった。貯液後の濃縮液を7.2t/hで通液し、第4回目のナノフィルトレーション膜処理設備における透過液体の平均流速は1.8t/hであった。第4回目のナノフィルトレーション膜処理装置を出たところでの脱塩率は50%前後で推移し、その脱塩率は12時間以上変わらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
所定範囲のナノフィルトレーション膜面積と透過流速において、原料乳をナノフィルトレーション(NF)膜において脱塩処理をすることで膜濃縮し、その後希釈処理をし、さらにナノフィルトレーション(NF)膜において脱塩処理をすることで、長時間(12時間以上)連続的に一定の脱塩率(例えば、ナトリウム換算で40%以上の低下)を有する脱塩処理乳を安定的に製造できることを見出した。
【0107】
本発明の脱塩処理乳の製造方法を採用することで、単に原料乳を脱塩処理するだけでなく、設計通りの脱塩処理乳を必要に応じて必要なだけ製造することができ、脱塩処理後に再度脱塩するような脱塩状態によって工程が煩雑になるリスクも少なくなり、効率的な脱塩濃縮乳の生産が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、ナノフィルトレーション膜を用いて第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、前記第二回目の膜濃縮処理後のナトリウム換算の塩分含有量が、前記原料乳におけるナトリウム換算の塩分含有量より低下している脱塩処理乳を、脱塩率を所定の値に保って12時間以上連続して製造する脱塩処理乳の製造方法。
【請求項2】
所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて前記原料乳に対して所定の透過流束で前記第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて所定の透過流束で前記第二回目の膜濃縮処理を行うことを特徴とする請求項1記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項3】
ナノフィルトレーション膜を用いて原料乳に対して第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、ナノフィルトレーション膜を用いて第二回目の膜濃縮処理を行うことにより、ナトリウム換算で塩分含有量が前記原料乳に比較して40%以上低下している脱塩処理乳を12時間以上連続して製造する脱塩処理乳の製造方法。
【請求項4】
所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて前記原料乳に対して所定の透過流束で前記第一回目の膜濃縮処理を行った後、当該第一回膜濃縮後の原料乳を希釈し、再度、所定範囲の膜面積を有する前記ナノフィルトレーション膜を用いて所定の透過流束で前記第二回目の膜濃縮処理を行うことを特徴とする請求項3記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項5】
前記原料乳は、還元工程を経ていない獣乳、当該獣乳の加工品である乳製品を還元して作られた加工乳、植物由来の乳のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項6】
原料乳が全脂タイプである請求項1乃至5のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項7】
第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び第二回膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に
F<22−0.8TS
(ただし、F<9.2で、TS<25.8)
の関係が成立することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項8】
原料乳が脱脂したものである請求項1乃至5のいずれか一項記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項9】
第一回目の膜濃縮処理及び第二回目の膜濃縮処理における透過流束:F(kg/m/h)と、前記原料乳の固形分濃度及び第二回膜濃縮が行われる前の固形分濃度:TS(重量%)との間に
F<22.3−TS
(ただし、F<10.1で、TS<18.9)
の関係が成立することを特徴とする請求項8記載の脱塩処理乳の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳。
【請求項11】
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳。
【請求項12】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳から水分を除去した脱塩濃縮乳。
【請求項13】
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳から水分を除去した脱塩脱脂濃縮乳。
【請求項14】
請求項1乃至請求項9のいずれか一項の製造法によって製造した脱塩処理乳から水分を除去し、粉末状化してなる脱塩粉乳。
【請求項15】
請求項8又は9記載の製造法によって製造した脱塩脱脂処理乳から水分を除去し、粉末状化してなる脱塩脱脂粉乳。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−21990(P2013−21990A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161600(P2011−161600)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】