説明

脱塩重縮合反応による重合体の製造方法

【課題】 脱塩重縮合反応を用いて重合体を製造する場合において、煩雑な工程を必要とせず、かつ溶媒や塩の残存に起因する物性の低下や重合体の着色が充分に抑制された高純度の重合体を得ることができる重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 非プロトン性極性溶媒中で脱塩重縮合反応により重合体を製造する方法であって、該製造方法は、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて抽出を行う工程を含んでなる脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱塩重縮合反応による重合体の製造方法に関する。より詳しくは、エンジニアリングプラスチック等として用いられる重合体の製造に好適に用いられる脱塩重縮合反応による重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの産業分野において、それぞれの分野において要求される性質に応じた重合体が、プラスチックやフィルムをはじめとする様々な形態で用いられており、今や重合体は、産業界だけでなく、日常生活においても様々な製品の材料として、なくてはならないものとなっている。
これら重合体は、その種類に応じて様々な合成法により製造されることになるが、そのような合成法の1つに脱塩重縮合反応がある。脱塩重縮合反応による重合体の合成に関し、特定の構造を有する含フッ素アリールエーテルケトン重合体を含む低誘電性樹脂組成物が開示されており、この含フッ素アリールエーテルケトン重合体は、単量体を脱塩重縮合することにより製造されることが開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかしながら、これらの含フッ素アリールエーテルケトン重合体の製造においては、脱塩重縮合反応後、反応溶液を酢酸水溶液等の水系溶媒に注加して重合体を沈殿として析出させ、これを捕集する再沈殿粉砕法により重合体を得ているが、得られた重合体中に残存する溶媒や塩の量を少なくし、より高純度の重合体を得ることができる製造方法とする工夫の余地があった。
【0003】
また、重合体の精製方法に関し、ハライド置換重合プロセスで製造された芳香族ポリエーテル反応生成物、触媒、アルカリ金属ハライド、及び、実質的に水不混和性の有機溶媒を含む混合物の精製方法として、反応混合物を酸でクエンチングする段階、及び、有機溶液を1回以上水で抽出する段階を含んでなる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この精製方法では、水抽出段階におけるエマルションの形成を妨げ、重合体の収率が低下することを防ぐため、抽出工程の前に、アルカリ金属フェノキシド塩や、カチオン性活性種等の表面活性種をクエンチングする工程が必須となることから、このような工程を必要とせず、より簡便に重合体を精製できる方法とする工夫の余地があった。
【0004】
また、重合体の精製方法に関し、半導体基板塗布材料用ポリマーを溶液抽出して金属含有量を低減させる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、脱塩重縮合反応により得られるポリマー群ではなく、また、この方法では、ポリマーの固体を抽出溶媒に溶解して抽出しており、ポリマーが溶液状態である場合には、抽出前にポリマーを固体で取り出す工程が必要となることから、より簡便な方法により、ポリマーの金属含有量を低減することができる方法する工夫の余地があった。
更に、ポリアリーレン系及び/又はポリアリーレンエーテル系ポリマーを溶液抽出して金属含有量を低減させる方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。しかしながら、この方法においても脱塩重縮合反応により得られたポリマーの溶液から、再沈殿によりポリマーを固体で取り出して金属含有量を低減させた後、更にポリマー固体を抽出溶媒に溶解して抽出していることから、より簡便な方法により、ポリマーの金属含有量を低減することができる方法する工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2001−49110号公報(第1−3、14頁)
【特許文献2】特開2003−82091号公報(第1−2、8頁)
【特許文献3】特表2003−510386号公報(第1−3、17−18頁)
【特許文献4】特公平7−37486(第1−2頁)
【特許文献5】特開2004−2627号公報(第1−2、33−34頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、脱塩重縮合反応を用いて重合体を製造する場合において、煩雑な工程を必要とせず、かつ溶媒や塩の残存に起因する物性の低下や重合体の着色が充分に抑制された高純度の重合体を得ることができる重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、脱塩重縮合反応を用いて重合体を製造する場合において、煩雑な工程を必要とせず、かつ生成する重合体を高純度で得ることができる重合体の製造方法について種々検討したところ、脱塩重縮合反応を行う際の溶媒を非プロトン性極性溶媒とし、脱塩重縮合反応によって製造される重合体について、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒と水とを用いて抽出を行うことにより精製することとすると、生成した重合体は非極性溶媒に移り、反応に用いた溶媒や触媒、反応により生成した塩は水層に移ることになることから、従来脱塩重縮合反応によって生成する重合体の精製に用いられてきた再沈殿粉砕法に比べて不純物の少ない重合体を得ることができるとともに、重合溶媒を効率的に除くことが可能となり、これにより重合溶媒の残存に起因する物性の低下や重合体の着色を著しく改善することができることを見いだした。
【0007】
従来脱塩重縮合反応により重合体を得る場合に用いられてきた再沈殿粉砕法では、(1)再沈殿を行う際に大量の貧溶媒を必要とする。通常、ポリマー溶液の3倍以上の貧溶媒を必要とし、析出固体以外のものは廃溶媒(目的物の3倍以上)となり、環境負荷等が大きい。(2)再沈殿を行う際に析出する重合体は、塩や溶媒等の不純物を抱いた形で析出してくることから、高純度品を得ることが難しい。そのため、高純度品を得るために2回、3回と回数を重ねて取り出す場合がある。(3)再沈殿を行うと、その後、析出物を濾過及び乾燥という工程で取り出し、作業日数が掛かる。という問題があった。
更に、(4)場合により、析出物を粉状にするために大型の粉砕装置が必要となる。(5)再沈殿後の析出物を更に貧溶媒(例えば水)で洗浄して、塩や良溶媒を除く工程を必要とする場合がある。等の問題もあった。
これに対し、抽出を用いた方法では、粉体で得る場合と比較して沈殿物の粉砕や粉体の乾燥の工程がなく、作業工程も少なく作業日数も大幅に短縮して重合体溶液を得ることができる。溶液状態で得られることから、取り扱いが容易で、このまま重合体溶液をキャストすることで当該組成物の膜を得ることができる。更に、この方法によると、従来脱塩重縮合反応により得られる重合体の精製工程において用いられていたクエンチング工程を含む抽出方法に比べて、より簡便な方法により生成した重合体を精製することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、非プロトン性極性溶媒中で脱塩重縮合反応により重合体を製造する方法であって、該製造方法は、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて抽出を行う工程を含んでなる脱塩重縮合反応による重合体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法は、非プロトン性極性溶媒中で脱塩重縮合反応を行うものであるが、脱塩重縮合反応とは、2つ又は2つ以上の官能基を有する単量体間の反応であって、1つの単量体の官能基と、別の単量体の官能基間の反応において、簡単な分子が塩として脱離し、官能基間に新たな結合が形成される反応が連続して起こることにより、重合体が形成される反応のことである。脱塩重縮合反応により重合体を製造する反応としては、例えば、2つ以上のハロゲン元素を置換基として有する化合物と、2つ以上の水酸基を有する化合物から、ハロゲン化水素が脱離してエーテル系重合体が生成する反応等が挙げられる。脱塩重縮合反応に用いられる単量体は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
なお、本発明の重合体の製造方法は、脱塩重縮合反応を行う工程、及び、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて抽出を行う工程を含むものである限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の重合体の製造方法は、脱塩重縮合反応後に重合体を取り出す操作をすることなく抽出を行い、分液された溶液を濃縮又は溶媒置換することにより金属成分を減少させた重合体溶液を得るものであることが好ましい。ここで、重合体を取り出す操作とは、重合体溶液中の重合体を、塩や溶媒等の溶液中の他の成分から分離する操作のことを意味し、重合体を固体の状態として分離する操作である。重合体を析出させる工程、例えば、再沈殿による大量の貧溶媒を必要とする工程を減らすことで製造工程を簡略化し、製造プロセスへの負担を減らし、また廃溶媒を削減できる上、簡便に精製された重合体を得ることができる。
【0011】
本発明の重合体の製造方法において、脱塩重縮合反応は、非プロトン性極性溶媒中で行われるものである。非プロトン性極性溶媒としては、一般に非プロトン性極性溶媒に分類される溶媒であれば特に制限されないが、水への溶解度が10%以上であるものが好ましい。水への溶解度が10%以上の非プロトン性極性溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が好ましい。また、水と任意に混合するものは、残っている後工程の抽出を行う際に影響があるので、10%以上溶解する一方で、水と任意には混合しない溶媒、例えばメチルエチルケトン等がより好ましい。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0012】
本発明の重合体の製造方法に原料として用いられる単量体としては、脱塩重縮合反応の原料となるものであれば特に制限されず、ハロゲン原子や水酸基、メルカプト基、及び、アミノ基等の置換基を2つ以上有する化合物の中から、非プロトン性極性溶媒中で脱塩重縮合反応が起こる単量体を適宜選択して1種類、又は、2種類以上を組み合わせて用いることができる。1種類の単量体のみで脱塩重縮合反応が起こる単量体としては、例えば、1つの分子中にハロゲン元素と水酸基との両方を置換基として有する化合物、1つの分子中にハロゲン元素とアミノ基との両方を置換基として有する化合物、1つの分子中にハロゲン元素とメルカプト基との両方を置換基として有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、1分子中に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士の2種類以上の組み合わせとしては、例えば、臭素、塩素、フッ素等ハロゲン元素を2つ以上有する化合物と2つ以上の水酸基を有する化合物の組み合わせ、ハロゲン元素を2つ以上有する化合物とアミノ基を2つ以上有する化合物との組み合わせ、ハロゲン元素を2つ以上有する化合物とメルカプト基を2つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。
なお、本発明の重合体の製造によって得られる重合体は、得られる重合体の重合鎖の少なくとも一部が脱塩重縮合反応により形成されるものである限り、重合鎖の他の部分が脱塩重縮合反応以外の反応により形成されるものであってもよい。すなわち、本発明の重合体の製造方法に原料として用いられる単量体は、脱塩重縮合反応により重合鎖を形成する単量体を含むものである限り、その他の単量体を含んでいてもよい。
【0013】
上記1種類の単量体のみで脱塩重縮合反応が起こる単量体としては、4−ヒドロキシ−4’−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(HPDE)等の1つの分子中にハロゲン元素と水酸基との両方を置換基として有する化合物等が挙げられる。1分子に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士を組み合わせて脱塩重縮合反応を行う場合に用いられる単量体としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Bis−AF)等のビスフェノール類等の2つ以上の水酸基を有する化合物;4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE)、4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PTFBN)、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイルオキシ)ジフェニルエーテル、2,2−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA)等の2つ以上のハロゲン原子を有する化合物等が挙げられる。
1分子に同一の置換基を2つ以上有する単量体同士を組み合わせて脱塩重縮合反応を行う場合、単量体の有効利用、及び、重合体の収率の点から、1つの単量体1モルに対して、他の単量体0.5〜1.5モルの比率で用いることが好ましい。より好ましくは、1つの単量体1モルに対して他の単量体0.7〜1.3モルの比率で用いることである。
【0014】
上記脱塩重縮合反応の反応温度や反応時間は、原料となる単量体の種類等により適宜選択されることになるが、0〜210℃が好ましい。反応温度が0℃より低いと、反応が進みにくく、分子量が上がりにくい。また、210℃より高いと、溶媒の残存による重合体の変質が起り易い。より好ましくは、20〜170℃である。また、反応時間は、0.5〜20時間とすることが好ましい。反応時間が0.5時間より短いと、反応が十分に進行しない。また、20時間より長いと作業効率が悪くなる。より好ましくは、1〜10時間である。
【0015】
上記脱塩重縮合反応においては、触媒を用いてもよい。触媒としては、脱塩重縮合反応により生成する酸を補集することにより脱塩重縮合反応を促進するように作用するものが好適であり、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、フッ化カリウム等の1種又は2種以上を用いることができる。触媒の使用量としては、脱塩重縮合反応の原料として用いられる単量体が有する水酸基、アミノ基、メルカプト基等の求核種に対して0.5〜10.0倍モルが好ましい。より好ましくは、1.0〜5.0倍モルである。
【0016】
本発明の重合体の製造方法において、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて抽出を行う工程において用いる非極性溶媒としては、水と任意に混和しないものであれば特に制限されず、溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。非極性溶媒としては、例えば、エステル系、芳香族系、ケトン系が好ましい。また、非極性溶媒としては、上述したものの中でも、沸点が150℃以下の溶媒が好ましい。非極性溶媒が150℃以上になると、重合体から溶媒を完全に除くことに時間が掛かったり、溶媒置換が困難となる。より好ましくは、130℃以下のものであり、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等を用いることができる。更に好ましくは、酢酸エチル、酢酸ブチル、MIBKである。また、最も好ましくは、沸点が90℃以下のものである。
沸点の低い溶媒を抽出溶媒に選ぶことにより、それ以上の沸点の溶媒への溶媒置換が容易となるため、溶媒を選択できる。抽出に用いる非極性溶媒の使用量としては、重合溶媒の2倍以上であることが好ましく、3倍以上がより好ましい。
【0017】
上記抽出に用いる非極性溶媒の比重が1以下である場合、抽出時における有機層である重合体溶液の比重は0.95以下であることが好ましい。比重が0.95より大きい場合、液液分離が難しくなり、時間を要することになる。より好ましくは、0.93以下である。
また重合体溶液の粘度は、50mPa・s以下であることが好ましい。粘度が50mPa・s以上の場合、水と混合したときの液粘度が高くなり、液液分離がしにくくなり、時間を要することとなる。より好ましくは、15mPa・s以下である。
【0018】
本発明の重合体の製造方法によって製造される重合体は、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、及び、ポリエーテルアミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。本発明の製造方法によって、これらの重合体が製造されると、少ない工程で、溶媒や塩の残存による物性の低下や重合体の着色が充分に抑制された高純度の重合体を得ることができることから、これらの重合体は、本発明の製造方法によって製造されることが好ましいものである。これらの中でも、構造中にエーテル部分と結合した芳香環を有するポリアリールエーテル系のものがより好ましい。
なお、上記ポリエーテルスルホンは、分子中にエーテル結合とスルホン酸基とを少なくとも1つずつ有する化合物であればよく、エーテル結合とスルホン酸基との比率は特に制限されない。上記ポリエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、及び、ポリエーテルアミドについても同様に、分子中のエーテル結合とケトン基との比率、エーテル結合とニトリル基との比率、及び、エーテル結合とアミド基との比率は、特に制限されない。
【0019】
本発明の重合体の製造方法によって製造される重合体は、フッ素含有重合体であることが好ましい。重合体がフッ素原子を含有するものであると、生成した重合体の撥水性が高まり、抽出工程において、生成した重合体が有機層に留まることから、抽出工程において、より確実に、有機層に留まる重合体と水層に移動する不純物等とを分離することができ、重合体の収率を高めることができることになる。また、重合体にフッ素を含有することにより、各種溶剤に対する重合体の溶解性が著しく向上し、抽出溶媒を任意に選択することが可能となる。
【0020】
更に、本発明の重合体の製造方法によって製造される重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることが好ましい。フッ素含有芳香族系重合体は、重合温度が低くても得ることが可能であって、重合溶媒の選択が可能であるため、後工程において溶媒置換することが可能となる。
したがって、本発明の重合体の製造方法によって製造される重合体としては、フッ素原子を有するポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルニトリル、及び、ポリエーテルアミドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、これらの中でも、構造中に芳香環を有するフッ素含有ポリアリールエーテル系のものが更に好ましい。本発明の重合体の製造方法においては、これらの重合体が製造されることとなるように、上述した単量体の中から、適宜単量体を選択して脱塩重縮合反応が行われることが好ましい。
【0021】
上記フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体は、芳香環及びエーテル結合を有する重合体であって、フッ素原子を必須とするものであればよく、その結合順序やフッ素原子の結合している位置には特に制限はないが、芳香環、エーテル結合により構成される繰り返し単位を必須として、該繰り返し単位における芳香環の少なくとも一つにフッ素原子を有する重合体が好ましい。
これらのなかで、下記式(1);
【0022】
【化1】

【0023】
(式中のZは、2価の有機基又は直接結合を示す。mは、同一又は異なって、芳香環に付加しているフッ素原子の数を表し、1〜4の整数である。式中のRは、2価の有機基である。)及び/又は、下記式(2);
【0024】
【化2】

【0025】
(式中のRは、2価の有機基である。またRは、同一又は異なって、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルコキシル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜12のアルキルアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールアミノ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールチオ基を表す。)で表される構造の繰り返し単位を有する重合体であることがより好ましい。
これらの繰り返し単位は、同一であっても異なっていてもよく、異なる繰り返し単位により構成される場合には、ブロック状、ランダム状等のいずれの形態であってもよい。フッ素含有ポリアリールエーテル系重合体がフッ素含有ポリアリールエーテルケトン構造を含む繰り返し単位、フッ素含有ポリアリールエーテルニトリル構造を含む繰り返し単位の両方を有するものである場合、両者の構成比率は特に制限されない。
【0026】
上記一般式(1)、(2)中、Rで示す2価の有機基としては、下記に示す(3−1)〜(3−19)等がある。
【0027】
【化3】

【0028】
上記(3−1)〜(3−19)中、Y、Y、Y及びYにおける置換基として、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基が好適である。より好ましくは、炭素原子数1〜30であって、置換基を有してもよいアルキル基、アルコキシル基である。
これらの中でもRとしては、下記(4−1)〜(4〜20)がより好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
上記一般式(1)中、Zとしては、2価の有機基又はベンゼン環が直接結合していることを表す。2価の有機基としては、C、S、N、及び/又は、O原子を含むことが好ましい。より好ましくは、カルボニル基、メチレン基、スルフィド基、スルホン基、複素環等を含有することである。より好ましくは、例えば下記の(5−1)〜(5−17)である。(5−1)〜(5〜13)中、Xは、例えば、上記(3−1)〜(3−19)である。
【0031】
【化5】

【0032】
上記本発明の重合体の製造方法によって製造される重合体の分子量は、5000〜500000であることが好ましい。分子量が5000より小さいと、重合体の物性が低下する。また、500000より大きいと粘度が大きくなり、取り扱いにくい。より好ましくは、10000〜300000である。
【0033】
本発明の重合体の製造方法は、脱塩重縮合反応によって重合体を製造し、得られた重合体を抽出によって精製する工程を含む製造方法であるが、このような脱塩重縮合反応によって合成される重合体は、電子材料や光学材料等の分野で、重合体溶液を塗布乾燥して膜として用いられる。電子材料や光学材料では、このような膜に純度やパーティクルが求められるが、本発明の重合体の製造方法によると、溶液状態で精製したポリマー溶液を得ることができ、これらの用途に好ましい膜を得ることができる。このように本発明の製造方法で得られる重合体溶液を塗布、乾燥することにより得られる膜もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の重合体の製造方法は、上述の構成よりなり、煩雑な工程を経ることなく、脱塩重縮合反応によって生成した塩や反応に用いた溶媒を効率的に除去することができ、また不純物の除去を抽出により行うことから、塩や溶媒の残存に起因する物性の低下や重合体の着色が充分に抑制された高純度の重合体を取り扱いがし易い溶液の状態で得ることができる製造方法である。本発明の製造方法によって製造された重合体は、電子材料や光学材料等の高純度の材料が要求される分野においても好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
実施例1
4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(BPDE) 167.50g(0.3mol)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF) 105.12g(0.3mol)、炭酸カリウム 124.39g(0.9mol)、モレキュラーシーブ100g、及び、メチルエチルケトン(MEK) 500gを仕込み、窒素中還流条件下で7時間反応した。その後、この反応液に1.5Lの酢酸エチルを注いで攪拌後静置した。この上澄みを2Lの水と攪拌することで、塩を水層に、重合体を有機層に抽出した。抽出を4回繰り返し、有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は93%であった。
得られた重合体溶液について、残存カリウム塩量、残存反応溶媒量、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色を測定した。結果を表1に示す。残存カリウム(K)塩量、残揮量(残存反応溶媒量)、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色の測定方法は、以下のとおりである。
【0037】
<残存カリウム塩の定量A法>
重合体を厚膜に成型し、日本フィリップス社製蛍光X線分析装置PW2404を用いて測定した。
<残存カリウム塩の定量B法>
重合体溶液を乾燥して重合体を固体で取り出し、キシレンで希釈した後、ICP(Rigaku CIROS−120)を用いて分析した。
<残揮量測定>
実施例で得られた重合体溶液をメタノールに注いで再沈澱し、50℃で減圧乾燥してサンプルを調整した。比較例のものは、得られた粉体をそのまま用いた。測定にはVarian社製Unity Plus400を用い、溶媒プロトンと重合体プロトンの面積比により、残揮量を定量した。
<数平均分子量測定>
東ソー社製高速ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定装置 HLC−8020を用い、展開液にTHF、標準ポリスチレンを基準として測定した。
<重合体溶液の着色>
20質量%濃度に調整した重合体溶液を準備し、分光式色彩計(日本電色工業社製 SE2000)を用いてイエローインデックス(YI)の測定を行った。比較例のものは、酢酸エチルに溶解して評価した。
【0038】
実施例2
BPDE 167.50g(0.3mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Bis−AF) 100.87g(0.3ml)、炭酸カリウム 82.93g(0.6mol)、モレキュラーシーブ100g、及び、MEK 500gを仕込み、窒素中還流条件下で4時間反応した。その後、この反応液に1.5Lの酢酸エチルを注いで攪拌後静置した。この上澄みを2Lの水と攪拌することで、塩を水層に、重合体を有機層に抽出した。抽出を4回繰り返し、有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は91%であった。
【0039】
実施例3
4−フェノキシ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル(PTFBN) 80.15g(0.3ml)、BPF 105.12g(0.3ml)、炭酸カリウム 124.39g(0.9mol)、モレキュラーシーブ100g、及び、MEK 500gを仕込み、窒素中還流条件下で5時間反応した。その後、この反応液に1.5Lの酢酸エチルを注いで攪拌後静置した。この上澄みを2Lの水と攪拌することで、塩を水層に、重合体を有機層に抽出した。抽出を4回繰り返し、有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は92%であった。
【0040】
実施例4
PTFBN 80.15g(0.3mol)、Bis−AF 100.87g(0.3ml)、炭酸カリウム 124.39g(0.9mol)、モレキュラーシーブ 100g、及び、MEK 500gを仕込み、窒素中還流条件下で4時間反応した。その後、この反応液に1.5Lの酢酸エチルを注いで攪拌後静置した。この上澄みを2Lの水と攪拌することで、塩を水層に、重合体を有機層に抽出した。抽出を4回繰り返し、有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は90%であった。
【0041】
実施例5
2,2′−ビス(ペンタフルオロベンゾイルオキシフェニル)−1,1,3,3−ヘキサフルオロプロパン(BP6FBA) 30g(0.041mol)、Bis−AF 13.9g(0.041mol)、炭酸カリウム 17.0g(0.123mol)、モレキュラーシーブ 8.0g、及び、MEK 150gを仕込み、窒素雰囲気下75℃で反応した。その後、この反応液に酢酸エチル900gを注いで攪拌後静置した。この上澄みを脱イオン水500gで抽出洗浄した。この操作を4回繰り返し、塩を水層に除いた。有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は90%であった。
【0042】
実施例6
BPDE 167.5g(0.3mol)、Bis−AF 100.87g(0.3mol)、炭酸カリウム 62.19g(0.45mol)、モレキュラーシーブ 75g、及び、MEK 630gを仕込み、窒素雰囲気下78℃で8時間反応した。その後、この反応液に酢酸ブチル2500gを投入し、粗いろ過を行い、モレキュラーシーブを取り除いた。この溶液を脱イオン水800gで抽出洗浄した。この操作を5回繰り返し、塩を水層に除いた。この有機層の粘度は3cps(B型粘度計)であった。有機層をろ過した後濃縮して重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は93%であった。
【0043】
実施例7
実施例6の抽出溶液をメチルイソブチルケトン(MIBK)に変更した以外は同じ工程で行い、ポリマー溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は92%であった。
【0044】
実施例8
BPDE 167.5g(0.3mol)、Bis−AF 100.87g(0.3mol)、炭酸カリウム 62.19g(0.45mol)、モレキュラーシーブ 75g、及び、MEK 630gを仕込み、窒素雰囲気下78℃で8時間反応した。その後、この反応液に酢酸エチル2500gを投入し、粗いろ過を行いモレキュラーシーブを取り除いた。この溶液を脱イオン水800gで抽出洗浄した。この操作を5回繰り返し、塩を水層に除いた。有機層を濃縮してトルエンを投入して溶媒置換を行い、重合体溶液を得た。その際の重合体収率(固形分換算)は91%であった。
【0045】
実施例2〜8で得られた重合体溶液についても、残存カリウム塩量、残存反応溶媒量、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色を測定した。結果を表1に示す。残存カリウム(K)塩量、残揮量(残存反応溶媒量)、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色の測定方法は、上記のとおりである。
【0046】
比較例1
BPDE 167.50g(0.3ml)、BPF 105.12g(0.3mol)、炭酸カリウム 45.61g(0.33ml)、及び、ジメチルアセトアミド(DMAc) 800gを仕込み、窒素中60℃で7時間反応した。その後、この反応液に500mLのアセトンを注いで攪拌後静置した。次いでこの上澄みを激しく攪拌した3Lの水に落とし、粉状の重合体を得た。粉体を吸引ろ過し、10Lの水に1時間浸漬して余分なDMAcを除いた。これを吸引ろ過し、乾燥機にて12時間乾燥させて重合体粉体を得た。その際の重合体収率は82%であった。
【0047】
比較例2
比較例1で得た重合体粉体を再びアセトン1Lに溶解し、DMAc 200gを足した後、1gの硫酸を加えて洗浄した。この溶液を激しく攪拌した2Lの水に落とし、粉状の重合体を得た。吸引ろ過、浸漬と同様の手順を繰り返し、減圧乾燥して粉体重合体を得た。その際の重合体収率は74%であった。
【0048】
比較例3
BPDE 167.5g(0.3mol)、Bis−AF 100.87g(0.3mol)、炭酸カリウム 62.19g(0.45mol)、モレキュラーシーブ75g、及び、メチルエチルケトン(MEK) 630gを仕込み、窒素雰囲気下78℃で8時間反応した。この反応液にアセトン300gを注いで攪拌後静置した。この上澄みを激しく攪拌した脱イミン水を落とし、粉上の重合体を得た。粉体を吸引ろ過し、10Lの水に浸漬して溶媒を取り除き、これを吸引ろ過、乾燥機にて乾燥して重合粉体を得た。その際の重合体収率は80%であった。
【0049】
比較例1〜3で得られた重合体粉末について、残存カリウム塩量、残存反応溶媒量、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色を測定した。結果を表1に示す。残存カリウム(K)塩量、残揮量(残存反応溶媒量)、数平均分子量、及び、重合体溶液の着色の測定方法は、上記のとおりである。
【0050】
実施例9
実施例2で得られた重合体溶液を、予め白金膜形成したガラス板上にスピンコーターを用いて塗布した後、80℃、150℃で乾燥し、厚さ10μmの膜を得た。表面にイオンスパッタにより白金膜を形成して誘電率を測定したところ、周波数10MHzにおける誘電率が2.75であった。10点において測定を行ったが、リークすることなく、全ての点で測定できた。誘電率の測定方法は、以下のとおりである。
【0051】
<誘電率>
あらかじめ白金膜を形成したガラス板上にスピンコーターを用いて重合体溶液を塗布した後、最初80℃で、その後150℃で乾燥し、10μmの膜を得た。更に、表面にイオンスパッタにより白金膜を形成して、絶縁膜の両面に白金膜がついた評価用サンプルを作製した。このサンプルの誘電率をインビーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製 HP−4294A)により測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1の結果から、非プロトン性極性溶媒中で重合反応を行って生成した重合体を非極性溶媒で抽出して得られた重合体は、残存カリウム量、残揮量ともに少なく、高純度であるのに対し、重合体を粉末として得た場合には、残存カリウム量、残揮量ともに抽出の場合に比べて多く、また溶媒が残存することにより、重合体が着色していた。このことから、非プロトン性極性溶媒中で重合反応を行って生成した重合体を非極性溶媒で抽出して得る重合体の製造方法は、生成した重合体を沈殿させて粉体として得る方法に比べて、より高純度の重合体を得ることができる製造方法であることが確認された。
また、実施例9の家結果から、本発明の重合体の製造方法によって得られた重合体から得られた膜は、良好な絶縁性を有する絶縁膜であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶媒中で脱塩重縮合反応により重合体を製造する方法であって、該製造方法は、脱塩重縮合反応後に非極性溶媒を用いて抽出を行う工程を含んでなる
ことを特徴とする脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合体の製造方法は、脱塩重縮合反応後に重合体を取り出す操作をすることなく抽出を行い、分液された溶液を濃縮又は溶媒置換することにより金属成分を減少させた重合体溶液を得る
ことを特徴とする請求項1記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合体は、フッ素含有芳香族系重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。
【請求項4】
前記抽出に用いる非極性溶媒は、沸点が150℃以下の溶媒であることを特徴とする請求項1〜3記載の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。
【請求項5】
前記抽出に用いる非極性溶媒の比重が1以下である場合、抽出時における有機層である重合体溶液の比重が0.95以下である
ことを特徴とする請求項1〜4記載の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。
【請求項6】
前記脱塩重縮合反応に用いる非プロトン性極性溶媒は、水への溶解度が10%以上の溶媒である
ことを特徴とする請求項1〜6記載の脱塩重縮合反応による重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で得られる重合体溶液を塗布した後、乾燥することにより得られる膜。