説明

脱毛症、急性腎不全および他の疾患の治療のためのオリゴリボヌクレオチドおよびその使用の方法

本発明は、ヒトp53遺伝子の発現を下方制御する二重鎖化合物、好ましくはオリゴヌクレオチドに関する。本発明はまた、オリゴヌクレオチド化合物を発現し得る化合物、またはベクターと、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物に関する。本発明はまた、治療学的有効量の薬学的組成物を患者に投与し、それによって患者を治療することを含む、脱毛症もしくは急性腎不全または他の疾患に罹患した患者を治療する方法に関する。脱毛症は化学療法または放射線療法によって誘発され得、患者は癌、特に乳癌に罹患し得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本出願の全体を通して、様々な特許と科学的刊行物が引用される。これらの刊行物のその全体における開示は、本発明が属する技術の状態をより完全に記載するために、参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0002】
siRNAおよびRNA干渉
RNA干渉(RNAi)、二本鎖(ds)RNA依存型の、遺伝子の特異的な転写後サイレンシングを含む現象である。当初、この現象を調査しかつ実験的に哺乳動物細胞を操作する試みは、長いdsRNA分子に反応して活性化された、活性のある、非特異的な抗ウイルス性の防衛機構によって失敗に終わった(Gil et al. 2000, Apoptosis, 5:107-114を参照)。後に、21塩基対のヌクレオチドRNAの合成二重鎖が、遺伝的な抗ウイルス性の防衛機構の刺激を伴わずに、哺乳動物細胞内において遺伝子特異的なRNAiを仲介し得ることが発見された (Elbashir et al. Nature 2001, 411:494-498 and Caplen et al. Proc Natl Acad Sci 2001, 98:9742-9747 を参照)。その結果、短い干渉RNA(siRNA)(短い二本鎖RNA)は、遺伝子機能を理解する試みにおける強力なツールになった。
【0003】
このように、RNA干渉(RNAi)は、短い干渉RNA(siRNA)(Fire et al, 1998, Nature 391, 806) またはミクロRNA (miRNA) (Ambros V. Nature 431:7006,350-355(2004); および Bartel DP. Cell. 2004 Jan 23; 116(2): 281-97 MicroRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function) によって仲介された哺乳動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを意味する。植物においてこれに対応するプロセスは、一般には特異的な転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと称され、また、菌類においてはクエリング(鎮静化)と称される。siRNAは、その内在性(細胞内)の遺伝子/mRNAの発現を下方制御または沈黙させる(防ぐ)二本鎖RNA分子である。RNA干渉は、特異的なタンパク質複合体を含むdsRNA種の能力に基づき、これが相補的な細胞RNAに向けられ該相補鎖を特異的に分解する。このように、RNA干渉反応は、siRNAを含む複雑なエンドヌクレアーゼを特徴とする。これは、一般にはRNA誘導型のサイレンシング複合体(RISC)と称され、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖と相補的な配列を有する一本鎖RNAの開裂を仲介する。標的RNAの開裂は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖と相補的な領域の中央で起こる可能性がある(Elbashir et al 2001, Genes Dev., 15, 188)。より詳細には、より長いdsRNAsは、III型RNAsesによって短い(17-29bp)dsRNA断片(または短い干渉RNA「siRNA」と称される)に消化される (DICER, DROSHA, etc., Bernstein et al., Nature, 2001, v.409, p.363-6; Lee et al., Nature, 2003, 425, p.415-9)。RISCタンパク質複合体は、これらの断片および相補的mRNAを認識する。全体のプロセスは、標的mRNAのエンドヌクレアーゼ開裂によって完了する (McManus&Sharp, Nature Rev Genet, 2002, v.3, p.737-47; Paddison &Hannon, Curr Opin Mol Ther. 2003 Jun; 5(3): 217-24)。これらの用語と提示された機構の情報については、Bernstein E., Denli AM. Hannon GJ: 2001 The rest is silence. RNA. I; 7(11): 1509-21; Nishikura K.: 2001 A short primer on RNAi: RNA-directed RNA polymerase acts as a key catalyst. Cell. I 16; 107(4): 415-8 および PCT公開WO 01/36646 (Glover et al) を参照されたい。
【0004】
既知の遺伝子と対応するsiRNAの選択および合成は、幅広く報告されている;例えば、Chalk AM, Wahlestedt C, Sonnhammer EL. 2004 Improved and automated prediction of effective siRNA Biochem. Biophys. Res. Commun. Jun 18; 319(1): 264-74; Sioud M, Leirdal M., 2004, Potential design rules and enzymatic synthesis of siRNA, Methods Mol Biol.; 252:457-69; Levenkova N, Gu Q, Rux JJ. 2004 ,Gene specific siRNA selector Bioinformatics. I 12; 20(3): 430-2 および Ui-Tei K, Naito Y, Takahashi F, Haraguchi T, Ohki-Hamazaki H, Juni A, Ueda R, Saigo K., Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference Nucleic Acids Res. 2004 I 9;32(3):936-48 および Liu Y, Braasch DA, Nulf CJ, Corey DR. Efficient and isoform-selective inhibition of cellular gene expression by peptide nucleic acids, Biochemistry, 2004 I 24;43(7):1921-7を参照されたい。また、修飾された/より安定なsiRNAの生産のために、PCT 公開 WO 2004/015107 (Atugen) および WO 02/44321 (Tuschl et al)、および Chiu YL, Rana TM. siRNA function in RNAi: a chemical modification analysis, RNA 2003 Sep;9(9):1034-48 および I Patent Nos.5898031 および 6107094 (Crooke) を参照されたい。
【0005】
いくつかのグループは、細胞内でsiRNAを生成できるDNAに基づいたベクターの開発について記載している。当該方法は、効率的に処理されて細胞内でsiRNAを形成する短いヘアピンRNAの転写に関係する。Paddison et al. PNAS 2002, 99:1443-1448; Paddison et al. Genes&Dev 2002, 16:948-958; Sui et al. PNAS 2002, 8:5515-5520; および Brummelkamp et al. Science 2002, 296:550-553。これらの報告は、多数の内因性および外因性の発現遺伝子を特異的にターゲティングできるsiRNAを生成する方法について記載している。
【0006】
siRNAは、霊長類において抑制のために使用することに最近成功した; さらに詳しくは、Tolentino et al., Retina 24(1) February 2004 I 132-138 を参照されたい。
【0007】
p53遺伝子およびポリペプチド
ヒトのp53遺伝子は、周知かつ高度に研究された遺伝子である。p53ポリペプチドは、種々の異なる刺激(例えば、DNA損傷状態、例えばγ線照射、転写または複製の調節解除および癌遺伝子変換)を、細胞増殖停止またはアポトーシスに転換する、細胞性ストレス反応機構における重要な役割を担う。(Gottlieb et al,1996, Biochem.Biophys. Acta, 1287, p.77)。p53ポリペプチドは、そのような刺激への反応としてのプログラム細胞死または「アポトーシス」の誘導にとって必要不可欠である。
【0008】
大部分の抗癌療法は、ネイティブp53を含む正常細胞に損傷または殺傷するので、正常細胞の損傷または殺傷に関連した重篤な副作用を引き起こす。このような副作用は、正常細胞のp53媒介性の死によって主に決定されるので、抗癌療法の急性期におけるp53の一時的な抑制は、これらの厳しい中毒症状を回避する治療学的な戦略として提案されてきた。これは、米国特許番号6,593,353およびKomarov PG et al , 1999, A chemical inhibitor of p53 that protects mice from the side effects of cancer therapy., Science , 285(5434):1651, 1653 に記載されている。p53は、化学療法および放射線誘導性脱毛症に関与することが示されている (Botcharev et al, 2000, p53 is essential for Chemotherapy -induced Hair Loss, Cancer Research, 60, 5002-5006)。
【0009】
脱毛症
最近、分子の理解と毛包形成および発毛を制御する分子および経路の理解における劇的な前進があった。化学療法は、毛幹を生産する成長球におけるマトリックス・ケラチン生成細胞の増殖を崩壊させる。その結果、毛包は、毛幹の健全性が損なわれて毛が抜け落ちるジストロフィー退行段階に入る。 90%以上の頭皮小胞は、任意の時間において成長段階にあるので、これらの髪は化学療法による治療後に急速に抜け落ち、その結果、脱毛症が急速に広がる (George Cotsarelis and Sarah E. Millar, 2001,Towards a molecular understanding of hair loss and its treatment, TRENDS in Molecular Medicine Vol.7 No.7)。毛髪の脱落を最も生じさせるであろう化学療法薬剤は、シスプラチン、シタラビン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、イホスファミドおよびビンクリスチンである。放射線によって誘導された一般的な脱毛症は、全脳放射線(WBR)(特に3000 rad以上)を受ける患者の100%で視覚的に観察される。
【0010】
化学療法後に失われた髪が最終的には再び生えてくるにもかかわらず、毛髪脱落は癌患者の中の化学療法で最も恐れられる副作用のうちの1つである。患者によれば、毛髪脱落(脱毛症)は、化学療法の悲惨な副作用として嘔気の次に位置づけられる。約75%の患者は、化学療法に起因する毛髪脱落を、癌に起因する疼痛と同等またはより強いものとして感じる。
【0011】
このように、毛髪障害が生命を脅かすものではないにもかかわらず、患者の社会的相互作用および心因的健康に関する重大な影響は否定できない。毛髪脱落の治療を求める要求は、数十億ドルの産業を活気づける。これにもかかわらず、現在市場に流通している製品の大半は効果がない。この事実は、FDAが毛髪脱落について2つの治療だけを承認したという事実によって明示される。既知の治療または対策は、癌治療で誘導された脱毛症に関して効果的ではない。
【0012】
急性腎不全(ARF)
ARFは、数日以内に起こる腎機能の急速な悪化によって特徴づけられる臨床症候群である。ARFの主要な特徴は、糸球体濾過速度(GFR)の突然の低下であり、窒素廃棄物(尿素、クレアチニン)の貯留をもたらす。一般の世界人口において、100万人口につき170〜200例の重篤なARFが毎年生じる。現在まで、確立したARFのための特異治療は存在しない。いくつかの薬剤は、毒性かつ虚血性実験的なARFについて、異なる動物モデルにおいてより低い血清クレアチニン濃度、減少した組織学的損傷および腎機能のより速い回復によって発現された改善を示すことが明らかにされた。この薬剤には、酸化防止剤、カルシウム拮抗薬、利尿薬、血管作動性物質、成長因子、抗炎症剤などが含まれる。しかしながら、臨床試験で研究されたこれらの薬剤は有益性を示さなかった。そして、臨床的ARFにおけるこれらの薬剤の使用は承認されていない。
【0013】
大多数の入院患者において、ARFは、急性腎尿細管壊死(ATN)に起因し、これは虚血性および/または腎毒性傷害から生じる。腎臓低灌流は、血管収縮薬剤の投与または腎血管の損傷による、血液量減少性、心臓性、敗血性ショックに起因する。腎毒性物質には、造影剤およびアミノグリコシドのような外在性毒素、ならびにミオグロビンのような内在性毒素が含まれる。しかしながら、最近の研究は、腎臓組織のアポトーシスがARF発症患者の大部分において際立って顕著であることを示す。アポトーシス細胞死の主要な部位は、遠位ネフロンである。虚血性傷害の最初の段階で、アクチンによる細胞骨格の統合性の喪失が、刷子縁の喪失、巣状細胞(focal cell)の接触の喪失、および支持基層からの細胞の離脱を伴う、上皮の平坦化を誘導する。アポトーシスによる細管細胞死が、ネクローシスによる細胞死よりも機能的な変化についてより予測的であることが示された(Komarov et al. Science. 1999 Sep 10;285(5434):1733-7); または(Supavekin et al. Kidney Int. 2003 May;63(5):1714-24)を参照されたい。
【0014】
結論として、現在のところ、毒性脱毛症および急性腎不全の予防および/または治療のための療法について満足のいく方法は存在しない。また、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる多くの他の疾患および障害に適した満足のいく治療の方法も存在しない。その結果、この目的に適した新規な化合物を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、p53遺伝子を阻害する新規な二重鎖オリゴリボヌクレオチドを提供する。本発明はまた、一以上のオリゴリボヌクレオチド、および該オリゴリボヌクレオチドを発現できるベクターを含む薬学的組成物を提供する。本発明はまた、p53活性の一時的な(可逆性)の抑制が有益な結果をもたらす疾患に罹患した患者を治療するための方法を提供する。該方法は、薬学的組成物として典型的には一以上のオリゴリボヌクレオチドを、治療学的有効量において患者に投与し、その結果として患者を治療することを含む。本発明はまた、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる他の障害を治療することを試みる。長期にわたるp53の不活化は癌の危険性を著しく増加させるので、本発明の分子を使用するp53の抑制は一時的なものであることが好ましい。
【0016】
一つの好ましい実施態様において、本明細書中に開示された新規なsiRNA分子は、p53 siRNAを使用するp53の一時的な抑制が、従来の化学療法(本明細書中に記載されたような)または放射線療法とともに有益である場合における腫瘍の治療において使用され得る。例えば、本明細書中に開示された新規なsiRNA分子は、化学療法または放射線療法によって誘導されたアポトーシスから正常なp53含有細胞を保護する。本明細書中に開示された新規なsiRNA分子はまた、p53の抑制が特定の癌細胞におけるアポトーシス細胞死を強化する場合において、この特定の癌細胞におけるp53の発現の抑制のために使用され得る。具体的には、放射線療法および化学療法は、重篤な副作用、例えばリンパ系および造血系に対する重篤な損傷を引き起こす可能性があり、これらの治療の効果を制限し、かつ心理的苦痛を生じる毛髪脱落を生じる可能性がある。これらの副作用はp53によって誘導されたアポトーシスによって引き起こされる。 従って、癌の治療と関連した有害な副作用を除去または減少させるために、本発明のsiRNA分子を使用して正常組織におけるp53活性の一時的な抑制を誘導し、その結果として正常な組織を保護することは有益である。
【0017】
他の好ましい実施態様において、明細書中に開示された新規なsiRNA分子は、急性腎不全(ARF)の治療において使用され得る。腎組織におけるアポトーシス細胞死と関連した腎機能の迅速な悪化によって特徴づけられる。
【0018】
本明細書中に開示された新規なsiRNA分子はまた、傷害と関連した種々のストレス、例えば、熱傷、高熱、遮断された血液供給と関連した低酸素症、例えば心筋梗塞、脳卒中、および虚血の結果としてp53が活性化される他の状態において使用され得る。本発明のsiRNA分子を使用する一時的なp53の阻害は、中枢神経系、すなわち、脳および脊髄の損傷におけるp53依存性のニューロンの死を減少または除去し、移植の前に組織および器官を保存し、骨髄移植のために宿主を調製し、かつ発作中の神経損傷を減少または除去するのに治療学的に有効であり得る。
【0019】
p53はまた、細胞老化において一定の役割を果たす。特に、老化と関連した正常組織の形態学的かつ生理学的な変更は、p53の活性に関連がある。時間の経過につれて組織に蓄積する老化細胞は、非常に高レベルのp53依存性の転写を維持することが知られている。老化細胞による増殖阻害物質のp53依存性の分泌は、加齢組織において蓄積する。従って、本明細書中に開示されたsiRNA分子はまた、加齢組織の抑制において使用される可能性がある。
【発明の詳細な説明】
【0020】
本発明は、p53遺伝子の発現を下方制御する化合物、特に新規な短い干渉RNA(siRNA)に関する。また、本発明は、様々な疾患および臨床状態、特に脱毛症または急性腎不全またはp53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる障害の治療における、これらの新規なsiRNAの使用に関する。
【0021】
本発明の発明者らは、任意の前記疾患または障害を治療するためにp53の一時的な抑制を誘導することが有益であることを見出した。p53を阻害する方法、分子および組成物が、詳細に本明細書中で議論される。そして、任意の前記分子および/または組成物が、任意の前記状態にある患者の治療において有益に使用され得る。
【0022】
本発明は、生体内において標的p53遺伝子の発現を阻害するための方法および組成物を提供する。一般に、該方法は、オリゴリボヌクレオチド、例えば、特定のp53 mRNAを標的とし、生物学的条件下において(細胞内において)mRNAとハイブリダイズまたは相互作用する短い干渉RNA(すなわち、siRNA)を投与することを含む。また、該方法は、RNA干渉機構によって標的遺伝子の発現を下方制御するのに十分な量において、細胞内においてsiRNAを生成できる核酸材料を投与することを含む。特に、当該方法は、疾患の治療のためにp53遺伝子の発現を阻害するのに使用され得る。
【0023】
本発明によれば、p53遺伝子のsiRNA分子または阻害物質は、様々な症状、特に脱毛症または急性腎不全またはp53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされた他の障害を治療する薬剤として使用され得る。長期にわたるp53の不活化は、癌の危険性を著しく増加させる恐れがあるので、本発明の分子を使用するp53の阻害は、一時的/可逆的であることが好ましい。
【0024】
本発明は、p53遺伝子の発現を下方制御する二本鎖オリゴリボヌクレオチド(siRNA)を提供する。本発明のsiRNAは、センス鎖がp53遺伝子のmRNA配列から誘導され、かつアンチセンス鎖がセンス鎖と相補的である二重鎖オリゴリボヌクレオチドである。一般に、標的mRNA配列からの若干の偏差は、siRNA活性を損なうことなく許容される (例えば、Czauderna et al 2003 Nucleic Acids Research 31(11), 2705-2716を参照)。本発明のsiRNAは、mRNAの破壊の有無に関わらず転写後レベルで遺伝子発現を阻害する。理論によって拘束されることなく、siRNAは、特定の開裂および分解のためにmRNAを標的にするか、および/または標的情報からの翻訳を阻害し得る。
【0025】
少なくとも4つの変異体p53ポリペプチドが存在する (Bourdon et al. Genes Dev..2005; 19: 2122-2137を参照)。図1に与えられた配列は、gi-8400737のヌクレオチド配列である。対応するポリペプチド配列は393個のアミノ酸を有する(図2を参照)。全ての変異体および任意の他の類似の変異量の小さい変異体が、p53ポリペプチドおよびこれをコードするp53遺伝子の定義において含まれる。
【0026】
本明細書中に使用されたとき、用語「p53遺伝子」は、配列番号1のアミノ酸コード領域または高度にストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件下でp53遺伝子と結合する核酸配列と好ましくは90%の相同性、より好ましくは95%の相同性、さらにより好ましくは98%の相同性を有するp53遺伝子の相同体として定義される。これらは当該技術分野において周知である(例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1988), updated in 1995 and 1998.を参照されたい)。
【0027】
本明細書中に使用されたとき、用語「p53」または「p53ポリペプチド」は、配列番号2と好ましくは90%の相同性、より好ましくは95%の相同性、さらにより好ましくは98%の相同性を有するp53ポリペプチドの相同体として定義されるか、あるいはこれらの全長または断片またはドメインとして、スプライスされた変異体の核酸配列によってコードされた変異体またはポリペプチドとして、他のポリペプチドを含むキメラとして定義される(但し、上述した任意のものがp53ポリペプチドと同一または実質的に同一の生物学的機能を有することを条件とする)。
【0028】
一般的には、本発明において使用されるsiRNAには、二重鎖構造を含むリボ核酸が含まれる。二本鎖構造は第一の鎖と第二の鎖とを含む。第一の鎖は、隣接するヌクレオチドの第一の伸長部を含み、前記第一の伸長部は少なくとも部分的には標的核酸と相補的である。第二の鎖は、隣接するヌクレオチドの第二の伸長部を含み、前記第二の伸長部は少なくとも部分的には標的核酸と同一である。前記第一の鎖および/または前記第二の鎖には、2’位に修飾体を有する修飾されたヌクレオチドの多数の群が含まれる。鎖内において修飾されたヌクレオチドの各群は、ヌクレオチドの側方基によって片側または両側に側方基が付加される。ヌクレオチドの側方基を形成する側方ヌクレオチドは、未修飾のヌクレオチドまたは修飾されたヌクレオチドの修飾体とは異なる修飾体を有するヌクレオチドである。さらに、前記第一の鎖および/または第二の鎖には、前記多数の修飾されたヌクレオチドが含まれ、かつ前記多数の修飾されたヌクレオチドの群が含まれる。
【0029】
修飾されたヌクレオチドの基および/または側方ヌクレオチドの基には、多数のヌクレオチドが含まれる。その数は、1ヌクレオチド〜10ヌクレオチドを含む群から選択される。本明細書中で特定された任意の範囲と関連して、各範囲が前記範囲を定める前記二つの図を含む範囲を定めるために使用されたそれぞれの図間の任意の個々の整数を開示することが理解されるべきである。この場合において、各基は、1つのヌクレオチド、2つのヌクレオチド、3つのヌクレオチド、4つのヌクレオチド、5つのヌクレオチド、6つのヌクレオチド、7つのヌクレオチド、8つのヌクレオチド、9つのヌクレオチドおよび10個のヌクレオチドを含む。
【0030】
前記第一の鎖の修飾されたヌクレオチドのパターンは、第二の鎖の修飾されたヌクレオチドのパターンと比較して一以上のヌクレオチドの変化を含む。
【0031】
上述した修飾体は、アミノ、フルオロ、メトキシ・アルコキシル、アルキル、アミノ、フルオロ、クロロ、ブロモ、CN、CF、イミダゾール、カルボキシレート、チオエート、C1〜C10低級アルキル、置換された低級アルキル、アルカリールまたはアラルキル、OCF3、OCN、O-、S-、またはN-アルキル;O-、S-、またはN-アルケニル;SOCH3; SO2CH3; ONO2; NO2、N3; ヘテロジクロアルキル; ヘテロジクロアルカリル; アミノアルキルアミノ; ポリアルキルアミノまたは置換されたシリル、欧州特許EP O 586 520 B1またはEP O 618 925 B1に記載された他のものを含む群から選択され得る。
【0032】
siRNAの二重鎖構造は、片側または両側を平滑末端化し得る。より具体的には、二重鎖構造が、第一の鎖の5’末端および第二の鎖の3’末端によって定義される二重鎖構造的側で平滑末端化し得る。または、二重鎖構造が、第一の鎖の3’末端および第二の鎖の5’末端によって定義される二重鎖構造的側で平滑末端化し得る。
【0033】
さらに、二つの鎖の少なくとも一方は、5’末端に少なくとも一方のヌクレオチドのオーバーハングを有する;オーバーハングは少なくとも一つのデオキシリボヌクレオチドからなる。少なくとも一方の鎖はまた、3’末端に少なくとも一方のヌクレオチドのオーバーハングを任意的に有する。
【0034】
siRNAの二重鎖構造の長さは、典型的には約17〜21塩基およびより好ましくは18〜19塩基である。さらに、前記第一の鎖長および/または前記第二の鎖長は、各々独立して約15〜約23塩基、17〜21塩基および18〜19塩基の範囲を含む群から選択される。
【0035】
さらに、前記第一の鎖と標的核酸との間の相補性が完全であるか、または第一の鎖および標的核酸との間に形成された二重鎖が少なくとも15ヌクレオチドを含む。ここで、前記二重鎖構造を形成する前記第一の鎖および標的核酸の間で一つのミスマッチまたは二つのミスマッチが存在する。
【0036】
第一の鎖および第二の鎖はともに、修飾されたヌクレオチドの少なくとも一つの群およびヌクレオチドの少なくとも一つの側方基を含む。修飾されたヌクレオチドの各群は、少なくとも一つのヌクレオチドを含む。ヌクレオチドの各側方基は、少なくとも一つのヌクレオチドを含む。第一の鎖の修飾されたヌクレオチドの各群は、第二の鎖上のヌクレオチドの側方基と整列化される。第一の鎖の大部分の5’末端ヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチドの群のヌクレオチドである。第二の鎖の大部分の3’末端ヌクレオチドは、ヌクレオチドの側方基のヌクレオチドである。修飾されたヌクレオチドの各基は、単一ヌクレオチドからなり得、および/またはヌクレオチドの各側方基は単一ヌクレオチドからなり得る。
【0037】
さらに、第一の鎖上でヌクレオチドの側方基を形成するヌクレオチドを、修飾されたヌクレオチドの基を形成するヌクレオチドと比較して3’方向に整列化される未修飾のヌクレオチドにすることが可能である。そして、第二の鎖上で修飾されたヌクレオチドの基を形成するヌクレオチドを、ヌクレオチドの側方基を形成するヌクレオチドと比較して5’方向に整列化される修飾されたヌクレオチドにすることが可能である。
【0038】
さらに、siRNAの第一の鎖は、8〜12、好ましくは9〜11の修飾されたヌクレオチドの群を含み得る。そして、第二の鎖は、7〜11、好ましくは8〜10の修飾されたヌクレオチドの群を含み得る。
【0039】
第一の鎖および第二の鎖は、ループ構造によって連結され得る。ループ構造は、核酸以外のポリマー、特にポリエチレングリコールで構成され得る。代わりに、ループ構造は、核酸で構成され得る。
【0040】
さらに、siRNAの第一の鎖の5’末端は、第二の鎖の3’末端と連結され得る。また、第一の鎖の3’末端は、第二の鎖の5’末端と連結され得る。前記連結は、10〜2000核酸塩基長を有する核酸リンカーを介して行われる。
【0041】
特に、本発明は構造Aを有する化合物を提供する:
5' (N)x−Z 3’(アンチセンス鎖)
3' Z'−(N')y 5’(センス鎖)
各NおよびN’は、その糖残基において修飾されていても修飾されていなくてもよいリボヌクレオチドであり、かつ(N)xおよび(N')yは、各々連続的なNまたはN’が次のNまたはN’と共有結合によって連結しているオリゴマーであり;
xおよびyの各々は19〜40の整数であり;
ZおよびZ’の各々は存在していても欠失していてもよいが、存在する場合はdTdTであり、それが存在する鎖の3’末端と共有結合し;かつ
(N)xの配列はp53のmRNAに対するアンチセンス配列、特に、表A、BおよびCのいずれかに示した任意のアンチセンス配列を含む。
【0042】
本発明の化合物が、共有結合を通して連結される多数のヌクレオチドからなることは、当業者に容易に理解されるであろう。各共有結合は、個々の鎖のヌクレオチド配列の長さに沿って、リン酸ジエステル結合、リン酸チオエート結合、またはその両方の組み合わせにし得る。他の可能な主鎖の修飾は、特に、米国特許番号5,587,361; 6,242,589; 6,277,967; 6,326,358; 5,399,676; 5,489,677;および5,596,086に記載されている。
【0043】
特定の実施態様において、xおよびyは好ましくは約19〜約27の整数、最も好ましくは約19〜約23の整数である。本発明の化合物の特定の実施態様において、xはyと等しい(viz., x=y)。好ましい実施態様においてx=y=19またはx=y=21である。特に好ましい実施態様においてx=y=19である。
【0044】
本発明の化合物の一実施態様において、ZおよびZ’は両方欠失していてもよく、他の実施態様においてZまたはZ’の一つが存在している。
【0045】
本発明の化合物の一実施態様において、化合物の全てのリボヌクレオチドはその糖残基において未修飾である。
【0046】
本発明の化合物の好ましい実施態様において、少なくとも一つのリボヌクレオチドはその糖残基において修飾され、好ましくは2’位の修飾体である。2’位の修飾体は、アミノ、フルオロ、メトキシ、アルコキシル基およびアルキル基を含む群から選択される基の存在をもたらす。最も好ましい実施態様において、2’位の基はメトキシ(2’−0−メチル)である。
【0047】
本発明の好ましい実施態様において、代替リボヌクレオチドは、化合物のアンチセンス鎖およびセンス鎖の両方において修飾され得る。特に、「例」において使用されたsiRNAは、2’O-Me基が、第1、第3、第5、第7、第9、第11、第13、第15、第17、第19のヌクレオチドのアンチセンス鎖上で存在するように修飾された。まったく同じ修飾体、すなわち2’O-Me基が、センス鎖の第2、第4、第6、第8、第10、第12、第14、第16、第18のヌクレオチドのセンス鎖に存在した。さらに、本発明によるこれらの特定の核酸の場合において、第一の伸長部は第一の鎖と同一であり、かつ第二の伸長部は第二の鎖と同一であり、これらの核酸はまた、平滑末端化される。
【0048】
特に好ましい実施態様において、siRNAの配列は表AのI5の配列である。
【0049】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、siRNA分子のアンチセンス鎖およびセンス鎖はともに、3'末端のみがリン酸化され得、5'末端はリン酸化されない。本発明の他の好ましい実施態様によれば、アンチセンス鎖およびセンス鎖は、3'末端および5'末端の両方が非リン酸化状態にある。本発明のさらに他の好ましい実施態様によれば、センス鎖の5’位の第一のヌクレオチドは、インビボ5'-リン酸化の可能性をなくすように特異的に修飾される。
【0050】
本発明の化合物の他の実施態様において、アンチセンス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドは、その糖残基において修飾される。センス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドは、その糖残基において未修飾の状態にある。
【0051】
本発明はさらに、細胞内において任意の未修飾形態の上述したオリゴヌクレオチドを発現できるベクターを提供する。該オリゴヌクレオチドは発現後に適切な修飾がなされてもよい。
【0052】
本発明はまた、キャリア、好ましくは薬学的に許容可能なキャリア内に本発明の一以上の化合物を含む組成物を提供する。この組成物は、二以上の異なるsiRNAの混合物を含み得る。
【0053】
本発明はまた、ヒトp53およびキャリアを阻害するのに効果的な量で本発明の一以上の化合物と共有結合または非共有結合的に結合した上述の本発明の化合物を含む組成物を提供する。この組成物は、本発明の一以上のオリゴリボヌクレオチドを産生する内在性細胞複合体によって細胞内で処理され得る。
【0054】
本発明はまた、ヒトのp53の細胞における発現を下方制御するのに効果的な量でキャリアおよび本発明の一以上の化合物を含む組成物を提供する。前記化合物は、(N)xの配列と実質的に相補的な配列を含む。
【0055】
さらに、本発明は、遺伝子p53のmRNA転写物を一以上の本発明の化合物と接触させることを含む制御と比較して少なくとも50%まで遺伝子p53の発現を下方制御する方法を提供する。
【0056】
一実施態様において、オリゴリボヌクレオチドはp53を下方制御する。p53の下方制御は、p53機能の下方制御、p53ポリペプチドの下方制御およびp53 mRNA発現の下方制御を含む群から選択される。
【0057】
一実施態様において、前記化合物は、p53ポリペプチドを下方制御する。p53の下方制御は、p53機能の下方制御(特に、天然の遺伝子/ポリペプチドの既知の相互作用因子との酵素アッセイまたは結合アッセイによって調べられうるもの)、p53タンパク質の下方制御(特に、ウェスタンブロット法、ELISAまたは免疫沈降法によって調べられうるもの)、およびp53 mRNA発現の下方制御(特に、ノーザンブロット法、定量的RT-PCR、in-situハイブリッド形成法またはマイクロアレイハイブリッド形成法によって調べられうるもの)を含む群から選択される。
【0058】
本発明はまた、上昇したレベルのp53ポリペプチドによってもたらされた疾患を患う患者を治療する方法を提供する。本方法は、本発明の組成物を治療学的有効量において患者に投与し、患者を治療することを含む方法である。好ましくは、本発明は、p53の一時的な阻害が有益である疾患を患う患者を治療する方法を提供する。 一つの好ましい実施態様において、本発明の組成物は、従来の化学療法または放射線療法で腫瘍の治療を行うとともに、化学療法または放射線療法と関連した脱毛症を防ぐために使用される。他の好ましい実施態様において、本発明の組成物は、急性腎不全の治療のために使用される。さらに他の好ましい実施態様において、本発明の組成物は、熱傷、高熱、遮断された血液供給と関連した低酸素症、例えば心筋梗塞、脳卒中、および虚血と関連した種々のストレスの結果としてp53が活性化される条件において使用される。本発明のsiRNA分子を使用する一時的なp53の阻害は、中枢神経系、例えば脳および脊椎の損傷におけるp53依存的ニューロン死の減少または除去において、移植前の組織および器官の保存、骨髄移植のための宿主の調製、発作中の神経損傷の減少または削除、および組織老化の抑制において、治療学的に有効であり得る。
【0059】
本発明はまた、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる疾患(例えば脱毛症または急性腎不全を患う患者)の治療用組成物の調製のための、本発明の一以上の化合物の治療学的有効量の投与の使用を提供する。
【0060】
より具体的には、本発明は、一方の鎖が、5’から3’まで、配列番号3〜25(表A、センス鎖)または配列番号49〜119(表B、センス鎖)または配列番号191〜253(表C、センス鎖)またはこれらの相同体であって、各末端領域における2以下のヌクレオチドにおいて塩基が変更される相同体に示された配列を有する連続的なヌクレオチドを含むオリゴリボヌクレオチドを提供する。
【0061】
オリゴヌクレオチドの末端領域とは、19塩基配列における塩基1〜4および/または16〜19をいう。また、21塩基配列における塩基1〜4および/または18〜21をいう。
【0062】
さらに、本発明は、一方の鎖が、配列番号26〜48(表A、アンチセンス鎖)または配列番号120〜190(表B、アンチセンス鎖)または配列番号254〜316(表C、アンチセンス鎖)、またはこれらの相同体であって、各末端領域における2以下のヌクレオチドにおいて塩基が変更される相同体を有する連続的なヌクレオチドを含むオリゴリボヌクレオチドを提供する。
【0063】
本発明の好ましいオリゴヌクレオチドは、表Dにおけるヒトp53オリゴヌクレオチドのシリアル番号3、5、20および23、ならびに表Eにおけるマウスp53オリゴヌクレオチドのシリアル番号1、11、12、14、17および18である。これらは、表Aにおけるシリアル番号3、5、20および23(ヒト)ならびに11、12、14、17および18(マウス)と同一である。本発明の最も好ましいオリゴヌクレオチドは、表Aにおけるシリアル番号23の配列を有するヒトp53オリゴヌクレオチドである。
【0064】
本発明の最も好ましい化合物は、平滑末端化された19塩基のオリゴヌクレオチド(すなわち、x=y=19ならびにZおよびZ’がともに欠失)である。オリゴヌクレオチド分子は、センス鎖とアンチセンス鎖の両方の3’末端がリン酸化されるか、またはいずれもリン酸化されない;またはインビボでの5'-リン酸化の可能性を消滅させるように特異的に修飾されたセンス鎖の5'位に第一のヌクレオチドを有する。代わりのリボヌクレオチドは、アンチセンス鎖およびセンス鎖の両方の2'位が修飾される。2'位の基はメトキシ(2’-0-メチル)であり、アンチセンス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドがその糖残基において修飾され、センス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドがその糖残基において未修飾の状態にある。最も好ましい化合物は、表Aにおけるシリアル番号23を有する配列を含む修飾されたオリゴヌクレオチドである。
【0065】
本発明の一側面において、オリゴヌクレオチドは二重鎖構造を含む。該二重鎖構造は、
第一の鎖および第二の鎖を含み、
第一の鎖が近接したヌクレオチドの第一の伸長部を含み、かつ第二の鎖が近接したヌクレオチドの第二の伸長部を含み、
第一の伸長部がp53をコードする核酸配列と相補的または同一であり、かつ第二の伸長部がp53をコードする核酸配列と同一または相補的である。
【0066】
一実施態様において、第一の伸長部および/または第二の伸長部が、約14〜40ヌクレオチド、好ましくは約18〜30ヌクレオチド、より好ましくは約19〜27ヌクレオチドおよび最も好ましくは約19〜23ヌクレオチド、特に約19〜21ヌクレオチドを含む。このような実施態様において、オリゴヌクレオチドは17〜40ヌクレオチド長であり得る。
【0067】
さらに、本発明による核酸は、表における任意の一つのポリヌクレオチドの少なくとも14の連続的ヌクレオチドを含む。より好ましくは、本発明による核酸は、上述した第一の伸長部および第二の伸長部で構成された二重鎖構造の任意の末端での14の連続的なヌクレオチド塩基対を含む。
【0068】
一実施態様において、第一の伸長部は、オリゴヌクレオチドの少なくとも14の連続的ヌクレオチドの配列を含む。前記オリゴヌクレオチドは、配列番号3〜316を含む群から選択される。好ましくは、前記オリゴヌクレオチドは、表Aにおけるシリアル番号3、5、20または23(ヒト)のいずれかの配列を有するオリゴリボヌクレオチドまたはシリアル番号11、12、14、17および18(マウス)のいずれかの配列を有するオリゴヌクレオチドを含む群から選択される。より好ましくは、前記オリゴヌクレオチドは、表Aにおけるシリアル番号3、5、20または23のいずれかの配列を有する群から選択される。
【0069】
さらに、本発明による核酸は、配列番号3〜316の任意の一つの少なくとも14の近接するヌクレオチドを含む。より好ましくは、本発明による核酸は、上述した第一の伸長部および第二の伸長部で構成された二重鎖構造の任意の末端で14の近接するヌクレオチドを含む。本発明による核酸の潜在的長さ、および本発明による核酸を形成する個々の伸長部は、当業者によって理解されるであろう。各側でのp53のコード配列と比較した幾つかのシフトは、両方向において1、2、3、4、5、6以下のヌクレオチドとし得る。そして、生成された二重鎖核酸分子はまた、本発明の範囲内にある。
【0070】
送達 : 哺乳動物細胞への増強かつ向上したsiRNAの送達を特に目指した送達系が開発されている。例えば、Shen et al (FEBS letters 539: 111-114 (2003)), Xia et al., Nature Biotechnology 20: 1006-1010 (2002), Reich et al., Molecular Vision 9: 210-216 (2003), Sorensen et al. (J.Mol.Biol. 327: 761-766 (2003), Lewis et al., Nature Genetics 32: 107-108 (2002) および Simeoni et al., Nucleic Acids Research 31, 11: 2717-2724 (2003)を参照されたい。最近、siRNAは、霊長類における阻害についての使用が成功している。さらなる詳細については、Tolentino et al., Retina 24(1) February 2004 I 132-138 を参照されたい。siRNAについての呼吸系処方は、米国特許出願2004/0063654(Davis et al)に記載されている。コレステロール結合性siRNA(および他のステロイドおよび脂質結合性のsiRNA)が、送達のために使用され得る。Soutschek et al Nature 432: 173-177(2004) Therapeutic silencing of an endogenous gene by systemic administration of modified siRNAs; および Lorenz et al. Bioorg. Med. Chemistry. Lett. 14:4975-4977 (2004) Steroid and lipid conjugates of siRNAs to enhance cellular uptake and gene silencing in liver cells を参照されたい。
【0071】
本発明のsiRNAまたは薬学的組成物は、個々の患者、治療を受ける疾患、投与の部位および方法、投与のスケジュール、患者の年齢、性別、体重および医療従事者に知られた他の因子を考慮しながら、十分なメディカルプラクティスに基づいて投与および投薬される。
【0072】
本明細書の目的に適う「治療学的有効量」は、このような当該技術において知られた考慮によって決定される。前記投与は、向上した生存率またはより迅速な回復を含む(但し、これらに限定されない)改善、または症状および当業者によって適切な基準として選択される他の指標の改善もしくは消失を達成するのに有効でなければならない。本発明の化合物は、投与の任意の従来経路によって投与され得る。化合物は化合物としてまたは薬学的に許容可能な塩として投与され得、かつ単独で投与され得るか、あるいは薬学的に許容可能なキャリア、溶剤、希釈剤、賦形剤、アジュバントおよびビヒクルと組み合わせて活性成分として投与され得る。化合物は、経口的、皮下的、非経口的(静脈内、動脈内、筋肉内、腹膜内、および鼻腔内投与、ならびにくも膜下腔内および注入技術を含む)に投与され得る。化合物の移植がまた有用である。液体形状は、注入のために調製され得る。注入なる用語には、皮下的、経皮的、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内、および投与の他の親の経路が含まれる。液体組成物には、有機共溶媒、水性または油性懸濁液、食用油を含むエマルジョン、および類似の薬学的ビヒクルを含む液体溶液、ならびにこれらを含まない液体溶液が含まれる。さらに、ある状況下で、本発明の新規な治療における使用のための組成物は、鼻腔内投与および類似の投与のための、エアロゾルとして形成され得る。治療される患者は、温血動物および、特にヒトを含む哺乳類動物である。薬学的に許容可能なキャリア、溶剤、希釈剤、賦形剤、アジュバントおよびビヒクルならびに移植キャリアは、一般的には発明の活性成分とは反応しない、不活性な、非毒性固体または液体フィラー、希釈材料または封入材料を意味する。これらにはリポソームおよびミクロスフェアが含まれる。本発明において有用な送達系の例には、米国特許番号5,225,182; 5,169,383; 5,167,616; 4,959,217; 4,925,678; 4,487,603; 4,486,194; 4,447,233; 4,447,224; 4,439,196; および4,475,196が含まれる。多くの他のこのような移植、送達系、および分子は当該技術にとって周知である。本発明の一つの特定の実施態様において、局所的および経皮的処方は特に好ましい。
【0073】
一般には、ヒトのための化合物の活性投与は、1 ng/kg 〜約20〜100 mg/kg体重/日、好ましくは約0.01 mg〜約2〜10 mg/kg体重/日の範囲内にあり、1〜4週またはそれ以上長い期間にわたる一日一回または一日二回または三回またはそれ以上の投与で行われる。
【0074】
腎臓近位尿細管の標的細胞への本発明によるsiRNA化合物の送達は、急性腎不全の治療において特に有効である点に留意されたい。理論によって拘束されることなしに、これは正常なsiRNA分子が腎臓近位尿細管の細胞を介して体から排出されるという事実による。従って、裸のsiRNA分子は、急性腎不全の治療のターゲットになる細胞において自然に濃縮される。
【0075】
本明細書中に使用された用語「治療」は、疾患と関連した症状を寛解させ、重症度を軽減し、または疾患を治療し、または起こりうる疾患を予防するのに有効な治療学的物質の投与を意味する。
【0076】
特定の実施態様において、投与には静脈内投与が含まれる。他の特定の実施態様において、投与には局所的または部分的投与が含まれる。
【0077】
本発明のもう一つの側面は、本発明の薬学的組成物を治療学的有効量で患者に投与し、それによって患者を治療することを含む、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる脱毛症または急性腎不全または腎障害を患う患者を治療する方法である。
【0078】
脱毛症の治療のための好ましい実施態様において、投与には局所的または部分的投与が含まれる。他の好ましい実施態様において、投与には経皮的な投与が含まれる。好ましい実施態様において、薬学的組成物は、患者の頭皮に適用される。ARFの治療のための好ましい実施態様において、投与には静脈内、動脈内、腹膜内投与が含まれる。
【0079】
本発明の他の側面は、本発明の薬学的組成物を治療学的有効量で患者に投与し、それによって患者を治療することを含む、脱毛症を引き起こす治療を受けている患者において脱毛症を防ぐための方法である。
【0080】
本発明の他の側面において、任意の上述のオリゴリボヌクレオチド(配列番号3〜316)またはベクターおよび薬学的に許容可能なキャリアを含む薬学的組成物が提供される。本発明の他の側面は、p53の上昇したレベルによってもたらされる脱毛症または急性腎不全または腎障害を患う患者の回復を促進するための薬剤の調製のための、任意の上述のオリゴリボヌクレオチド(配列番号:3〜316)またはベクターの治療学的有効量の使用である。
【0081】
好ましい実施態様において、薬剤には局所用の薬剤が含まれる。好ましい実施態様において、薬剤は患者の頭皮に適用される。好ましい他の実施態様において、薬剤には経皮的な投与が含まれる。
【0082】
本発明の全ての上述の側面において、脱毛症は化学療法または放射線療法によって誘発され得、「毒性脱毛症」と称される。より詳細には、毒性脱毛症は、γ照射のような照射または化学療法的薬剤によって生じ得る。例えば、化学療法的薬剤には、エトポシド、5-FU (5-フルオロウラシル)、シス型白金、ドキソルビシン、ビンカアルカロイド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、タキソール、シクロホスファミド、イホスファミド、クロランブシル、ブスルファン、メクロルエタミン、マイトマイシン、ダカルバジン、カルボ白金、チオテパ、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、エスペラミシン A1、ダクチノマイシン、プリカマイシン、カルムスチン、ロムスチン、タウロムスチン、ストレプトゾシン、メルファラン、ダクチノマイシン、プロカルバジン、デキサメタソン、プレドニソン、2-クロロデオキシアデノシン、シタラビン、ドセタキセル、フルダラビン、ゲムシタビン、ヘルセプチン、ヒドロキシ尿素、イリノテカン、メトトレキサート、オキサリプラチン、リツキシン、セムスチン、エピルビシン、エトポシド、トムデキスおよびトポテカンまたはこれらの化学療法的薬剤の一つの化学的類似体が含まれる。髪の喪失を生じる化学療法的薬剤の大半は、シスプラチナム、シタラビン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、イホスファミドおよびビンクリスチンである。
【0083】
本発明の化合物は、好ましくは急性腎不全、特に外科的処置後の患者における虚血が原因の急性腎不全、および化学療法処置(例えばシスプラチン投与)が原因の急性腎不全、または敗血症関連の急性腎不全を治療するために使用される。本発明の化合物の好ましい使用は、主要な心臓手術または血管手術を受ける高リスク名患者の急性腎不全の予防のためにある。急性腎不全を発症する高リスクの患者は、様々なスコアリング方法、例えばCleveland ClinicアルゴリズムまたはUS Academic Hospitals (QMMI) and by Veterans' Administration (CICSS) によって開発された方法を使用して同定され得る。本発明の化合物の他の好ましい使用は、腎臓移植患者における虚血性急性腎不全の予防または化学療法を受ける患者の毒性急性腎不全の予防のためにある。他の使用は、創傷治癒、急性肝不全、シスプラチンによって誘発された聴覚消失症(あるいは局所的)、造血性肝細胞の生体外増殖、siRNA溶液中に浸漬する(あるいはエレクトロポーレーションを行う)移植前のドナー器官/組織の保存、移植後の移植組織片の生存の向上のためにある。他の指標は、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、ドキソルビシンによって誘発された心臓毒性、心筋梗塞/心不全および移植後の移植組織片の改善(全身性投与による)であり得る。理論に束縛されることなく、全てのこれらの障害は、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる。
【0084】
本発明はまた、薬学的組成物を調製する方法を提供する。当該方法は、
本発明の一以上の二本鎖化合物を得ることと、
前記化合物を薬学的に許容可能なキャリアと混合することとを含む。
【0085】
本発明はまた、本発明の一以上の化合物を薬学的に許容可能なキャリアと混合することを含む、薬学的組成物を調製する方法を提供する。
【0086】
好ましい実施態様において、薬学的組成物の調製において使用される化合物は、薬学的に有効量においてキャリアと混合される。特定の実施態様において、本発明の化合物は、ステロイドまたは脂質または他の適切な分子、例えばコレステロールと結合する。
【0087】
ヌクレオチドの修飾体および類似体は、ヌクレオチドの治療学的性質を向上させるために誘導され得る。性質の向上には、増強されたヌクレアーゼ耐性および/または細胞膜を浸透する増強された能力が含まれる。
【0088】
これに応じて、本発明にはまた、ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの機能に実質的に影響を与えない本発明のオリゴヌクレオチドの全ての類似体、またはこれに対する修飾体が含まれる。好ましい実施態様において、このような修飾体は、ヌクレオチドの塩基、ヌクレオチドの糖基および/またはヌクレオチドのリン酸基に関連する。
【0089】
本発明の実施態様において、ヌクレオチドは、天然に生じるまたは合成的に修飾された塩基から選択され得る。天然に生じる塩基には、アデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシルが含まれる。オリゴヌクレオチドの修飾された塩基には、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、6-メチル、2-プロピル- および他のアルキル-アデニン、5-ハロウラシル、5-ハロシトシン、6-アザシトシンおよび6-アザチミン、擬似ウラシル、4-チウラシル(8-ハロアデニン)が、8-アミノアデニン、8-チオールアデニン、8-チオールアルキルアデニン、8-ヒドロキシルアデニンおよび他の8-置換性アデニン、8-ハログアニン、8アミノグアニン、8-チオールグアニン、8-チオアルキルグアニン、8-ヒドロキシルグアニンおよび他の置換されたグアニン、他のアザおよび非アザアデニン、他のアザおよび非アザグアニン、5-トリフルオロメチルウラシルおよび5-トリフルオロシトシンが含まれる。
【0090】
さらに、ヌクレオチドの類似体が調製され得る。ここでは、ヌクレオチドの構造が本質的に変更され、治療学的または実験学的試薬としてより適切になる。ヌクレオチド類似体の例は、ペプチド核酸(PNA)である。DNA(またはRNA)のデオキシリボース(またはリボース)リン酸塩の主鎖が、ペプチド中に見出されたものと類似のポリアミド主鎖で置換される。PNA類似体は、酵素による分解に対して耐性であることが示され、インビボおよびインビトロでの活性が延長された。さらに、PNAはDNA分子に対してよりも相補的なDNA配列に対してより強く結合することが示された。この観察は、PNA鎖とDNA鎖との間の荷電相反の欠如に寄与する。オリゴヌクレオチドに作られ得る他の修飾には、ポリマー主鎖、環式主鎖、または非環式主鎖が含まれる。
【0091】
一実施態様において、修飾はリン酸基の修飾であり、修飾されたリン酸基は、リン酸チオアート(phosphothioate)を含む群から選択される。
【0092】
本発明の化合物は、リボ核酸(またはデオキシリボ核酸)オリゴヌクレオチドの合成のために当該技術において周知である任意の方法によって合成され得る。このような合成は、特に、Beaucage S.L. and Iyer R.P., Tetrahedron 1992; 48: 2223-2311, Beaucage S.L. and Iyer R.P., Tetrahedron 1993; 49: 6123-6194 および Caruthers M.H. et. al., Methods Enzymol. 1987; 154: 287-313 において記載されている。チオアートの合成は、特に、Eckstein F., Annu. Rev. Biochem. 1985; 54: 367-402に記載されている。RNA分子の合成は、Sproat B., in Humana Press 2005 edited by Herdewijn P.; Kap. 2: 17-31 に記載され、かつそれぞれの下流のプロセスは、特に、Pingoud A. et. al., in IRL Press 1989 edited by Oliver R.W.A.; Kap. 7: 183-208 および Sproat B., in Humana Press 2005 edited by Herdewijn P.; Kap. 2: 17-31 (supra)に記載されている。
【0093】
他の合成手順は、当該技術において周知である。例えば、当該手順は、Usman et al., 1987, J. Am. Chem. Soc., 109, 7845; Scaringe et al., 1990, Nucleic Acids Res., 18, 5433; Wincott et al., 1995, Nucleic Acids Res. 23, 2677-2684; および Wincott et al., 1997, Methods Mol. Bio., 74, 59に記載されている。これらの手順は、一般的な核酸保護およびカップリング基、例えば5’末端のジメトキシトリチル、および3’末端のホスホラミダイトを使用する。修飾された(例えば、2’-O-メチル化)ヌクレオチドおよび未修飾のヌクレオチドが好ましくは組み込まれる。
【0094】
本発明のオリゴヌクレオチドは、別個に合成され得、合成後に、例えばライゲーションによって (Moore et al., 1992, Science 256, 9923; Draper et al., 国際PCT公開番号WO93/23569; Shabarova et al., 1991, Nucleic Acids Research 19, 4247; Bellon et al., 1997, Nucleosides & Nucleotides, 16, 951; Bellon et al., 1997, Bioconjugate Chem. 8, 204) あるいは合成および/または脱保護の後にハイブリダイゼーションによって結合される。
【0095】
商業的に利用可能な機械(特に、Applied Biosystems社から入手可能)が使用できることに留意されたい;オリゴヌクレオチドは本明細書に開示された配列に基づいて調製される。化学的に合成された断片のオーバーラップする対は、当該技術において周知の方法を使用してライゲートされ得る(米国特許番号6,121,426を参照)。鎖は別々に合成され得、その後に試験管中で互いにアニールする。その後、二本鎖siRNAはHPLCによってアニールしていない一本鎖オリゴヌクレオチド(例えば、これらの一方が過剰に存在するため)から分離する。本発明のsiRNAまたはsiRNA断片に関して、二以上の配列が合成され得、本発明における使用のために一緒に結合し得る。
【0096】
本発明の化合物はまた、米国特許出願公開番号US2004/0019001(McSwiggen)に記載されたように、タンデム型合成方法論を介して合成され得る。ここでは、両方のsiRNA鎖は、切断可能なリンカーによって分離された単一の近接するオリゴヌクレオチド断片または鎖として合成される。切断可能なリンカーはその後に切断され、ハイブリダイズしてsiRNA二重鎖の精製を可能にする別個のsiRNA断片または鎖を与える。リンカーは、ポリヌクレオチドリンカーまたは非ヌクレオチドリンカーであり得る。
【0097】
本発明はさらに、本明細書中に言及された任意の疾患および状態の治療のための二以上のsiRNA分子を含む薬学的組成物を提供する。ここで、前記二つの分子は、等しくあるいは有効な活性を生成する量において薬学的組成物中において一緒に物理的に混合され得るか、または2〜100、好ましくは2〜50または2〜30ヌクレオチド長の範囲の核酸リンカーによって一緒に共有結合的または非共有結合的に結合または連結され得る。一実施態様において、siRNA分子は、本明細書中に記載された二重鎖核酸構造で構成され、2つのsiRNA配列は、表A〜C、好ましくは表A、ID番号3、5、20および23(ヒト配列)ならびに11、12、14、17および18(マウス配列)から選択される。
【0098】
他の実施態様において、siRNA分子は、二重鎖核酸構造で構成される。ここで、第一のsiRNA分子は、表A〜C、好ましくは表AのID番号3、5、20および23(ヒトp53配列)または11、12、14、17および18(マウスp53配列)から選択される。第二のsiRNA分子は、プロ-アポトーシス遺伝子を標的とすることによって、有効な活性を与える。二以上のsiRNA配列を含むタンデム型の二本鎖構造は、細胞内で処理されて二以上の異なるsiRNAを形成する。このような第二のsiRNA分子は、好ましくはプロ・アポトーシスの遺伝子を標的とするsiRNA分子である。
【0099】
siRNA分子は、タンデム型siRNA分子を形成するためのリンカーによって共有結合的または非共有結合的に結合または連結される。2つのsiRNA配列を含むこのようなタンデムsiRNA分子は、典型的には38〜150ヌクレオチド長、より好ましくは38または40〜60ヌクレオチド長である。また、二以上のsiRNA配列がタンデム型分子に含まれるならばより長いヌクレオチド長も可能である。内部細胞処理を介して生成されたsiRNA、例えば長いdsRNAをコードする二以上のより長い配列で構成されたより長いタンデム分子がまた、それが二以上のshRNAをコードするタンデム分子であるときに認識される。このようなタンデム分子はまた、本発明の一部であるとみなされる。
【0100】
p53を標的とするsiRNA分子は、薬学的組成物の主要な活性成分であり得、あるいは二以上のsiRNA ( または二以上のsiRNAをコードするまたは内因的に生成する分子、二以上のsiRNAをコードする分子または一以上のタンデム型の分子の混合物である)を含む薬学的組成物の一つの活性成分になり得る。前記薬学的組成物はさらに、一以上の付加的遺伝子を標的にする一以上の付加的siRNA分子でさらに構成される。p53の同時的阻害および前記付加的遺伝子は、本明細書中に開示された疾患の治療のための付加的または相乗的効果を奏するであろう。
【0101】
特定の例において、本明細書中に開示された疾患の治療のための薬学的組成物は、トリマーまたはポリマーを形成する(すなわち、三つのsiRNAをコードするタンデム分子)、以下の化合物の組み合わせで構成され得る 1)p53 siRNAおよびFas siRNA; 2)p53 siRNAおよびBax siRNA; 3)p53 siRNAおよびNoxa siRNA; 4)p53 siRNAおよびPuma siRNA; 5)p53 siRNAおよびRTP801 siRNA; 6)p53 siRNAおよびPIDD siRNA; 7)p53 siRNA、Fas siRNAおよび任意のRTP801 siRNA、Bax siRNA、Noxa siRNAまたはPuma siRNAまたはPIDD siRNA。p53 siRNAと結合するプロ・アポトーシス遺伝子の他の好ましいオプションは、TNFα、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ9、E2F1およびPARP-1である。本発明による好ましい組み合わせは、p53 siRNAおよびRTP801 siRNAである(PCT特許出願PCT/EP 2005/008891を参照)。
【0102】
さらに、p53 siRNAを含むかまたはコードするp53 siRNAまたは任意の核酸分子は、本明細書中に開示された疾患の治療のために強化されたターゲティングを達成するために、標的細胞上に発現した細胞表面の内部移行可能な分子に対する抗体と結合(共有結合的または非共有結合的)し得る。例えば、抗Fas抗体(好ましくは中和抗体)は、p53 siRNA分子と結合され得る。
【0103】
本発明の化合物は、直接的またはウイルスまたは非ウイルスベクターとともに送達され得る。配列が直接送達されるとき、配列は通常、ヌクレアーゼ耐性を与えられる。代わりに、以下の本明細書中で議論されるように、配列は、配列が細胞内で発現するように発現カセットまたは構造物内に組み込むことができる。一般的には、構造物には、配列が標的細胞内で発現できる適切な制御配列またはプロモーターが含まれる。本発明の化合物の送達のために任意的に使用されるベクターは、商業的に入手可能であり、当業者の周知の方法によって本発明の化合物の送達の目的のために修飾され得る。
【0104】
また、一以上のステムおよびループ構造を含む長いオリゴヌクレオチド(典型的には25〜500ヌクレオチド長)が想起される。ここで、ステム領域は本発明のオリゴヌクレオチドの配列を含み、キャリア内、好ましくは薬学的に許容可能な塩に送達され得、内因性細胞複合体(例えば、上記に記載されたDROSHAおよびCICER)によって細胞内で加工処理され得、本発明のオリゴヌクレオチドである一以上のより小さな二重鎖オリゴヌクレオチド(siRNA)を生成する。このオリゴヌクレオチドは、タンデムshRNA構造物と命名され得る。この長いオリゴヌクレオチドは、一以上のステムおよびループ構造を含む単一鎖オリゴヌクレオチドであることが想定される。ここで、各ステム領域は、p53遺伝子のセンスおよび対応するアンチセンスsiRNA配列を含む。特に、このオリゴヌクレオチドには、表A、BまたはCの任意の一つに示されたセンスおよびアンチセンスsiRNA配列が含まれることが想定される。
【0105】
本明細書中で使用されるとき、用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドに加えて、オリゴペプチド、ペプチドおよび全タンパク質を意味する。
【0106】
P53不活性化化合物のスクリーニング
本発明の幾つかの化合物および組成物は、p53の活性を修飾する化合物、特に、p53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる脱毛症または急性腎不全または障害を修飾する化合物を同定および単離するためのスクリーニングアッセイにおいて使用され得る。スクリーニングされる化合物には、特に、小さな化学的分子およびアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0107】
P53ポリペプチド活性についての本発明の化合物の阻害活性または本発明の化合物のP53に対する結合活性は、付加的化合物とp53ポリペプチドとの相互作用を決定するために使用され得る。例えば、付加的化合物がp53阻害について本発明のオリゴヌクレオチドと競合する場合、または付加的化合物が前記阻害を補助する場合などがある。
【0108】
阻害または活性は、様々な方法によって試験され得る。特に、p53ポリペプチドの活性の生成物についての分析または放射活性もしくは蛍光競合アッセイにおけるp53ポリペプチドからの結合化合物の置換などがある。
【0109】
本発明は、「例」を参照して以下により詳細に例示されるが、これに限定されるように解釈されない。
【0110】
本明細書中の任意の文書の引用は、これらの文書が適切な先行技術であること、または本出願の任意のクレームの特許性に対する判断材料としての承認を意味しない。任意の文献の内容または日付についての記述は、出願時に出願人の利用可能な情報に基づいており、このような記述の正確性についての承認を構成しない。
【例】
【0111】
分子生物学の一般的方法
当該技術において知られたおよび特に記載されない標準的な分子生物学的技術は、一般的にはSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989), および Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989) および Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley & Sons, New York (1988), および Watson et al., Recombinant DNA, Scientific American Books, New York および Birren et al (eds) Genome Analysis: A Laboratory Manual Series, Vols. 1-4 Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998) および米国特許番号4,666,828; 4,683,202; 4,801,531; 5,192,659 および 5,272,057 に示された方法論に記載されている。これらは参照によって本明細書中に組み込まれる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、一般的には、PCRプロトコル: A Guide To Methods And Applications, Academic Press, San Diego, CA (1990)に従って行われる。 フローサイトメトリーと組み合わされたIn situ (細胞内) PCRは、特定のDNAおよびmRNA配列 (Testoni et al., 1996, Blood 87:3822.) を含む細胞の検出のために使用され得る。RT-PCRを行う方法はまた、当該技術において周知である。
【0112】
例1:活性siRNA化合物のための配列の生成
専売の(proprietary)アルゴリズムと遺伝子p53(配列番号1)の既知の配列を使用して、多くの潜在的siRNAの配列を生み出した。表Aは、これまでに選択された、化学的に合成された、活性について試験された(例2を参照)23個のsiRNAを示す。全てのこれらのsiRNAは、19構造単位である。
【表1】

【0113】
上記の表Aにおいて、siRNA 1〜23のセンス鎖がそれぞれ配列番号3〜25を有することに留意されたい。そして、siRNA 1〜23のアンチセンス鎖は、配列番号26〜48をそれぞれ有する。siRNA化合物の番号1(配列番号3および26)は、文献 (Dirac and Bernards, Reversal of senescence in mouse fibroblasts through lentiviral suppression of p53,J. Biol. Chem.(2003) 278:11731)で知られている。そして、siRNA番号2(配列番号4および27)はまた、文献(Brummelkamp et al. Science 2002, 296:550-553)で知られている。しかしながら、本明細書中に開示された治療の方法におけるこれらの化合物の使用は未だ開示されておらず、新規である。
【0114】
下記の表Bは、専売のアルゴリズムによってもたらされた71個のさらなる19構造単位のsiRNAを示す。
【表2】

【0115】

【0116】

【0117】

【0118】
上記の表Bにおいて、siRNA 1〜71のセンス鎖は、それぞれ配列番号49〜119を有し、siRNA 1〜71のアンチセンス鎖は、それぞれ配列番号120〜190を有する。
【0119】
下記の表Cは、専売のアルゴリズムによってもたらされた63個のさらなる21構造単位siRNAを示す。
【表3】

【0120】

【0121】

【0122】

【0123】
上記の表Cでは、siRNA 1〜63のセンス鎖が、それぞれ配列番号191〜253を有し、かつsiRNA 1〜63のアンチセンス鎖が、それぞれ配列番号254〜316を有する。
【0124】
例2:抗p53活性についてのsiRNA化合物の試験
プロトコル
I. siRNA(二本鎖オリゴヌクレオチド)の調製
凍結乾燥されたオリゴヌクレオチドを、100μMの最終濃度を生成するためにRNAseフリーの蒸留水中に溶解した。希釈されたオリゴヌクレオチドは、15分間にわたって室温下で保持し、液体窒素中に直ちに凍結した。オリゴヌクレオチドは−80℃で保存し、使用前にPBSで希釈した。
【0125】
II. リポフェクタミン2000試薬でのヒト細胞へのsiRNAのトランスフェクション
2×105 p53-wt HCT 116またはSW480細胞は、6ウェルプレートでウェルごとに播種した。24時間後、リポフェクタミン2000試薬(インビトロゲンから入手)を使用してp53オリゴヌクレオチドを細胞にトランスフェクションした。
【0126】
以下の手順を行った:
1.トランスフェクションの前に、細胞培養液は、抗生物質を含まない1500μlの新鮮培養液で置換した。
2.無菌のプラスチック製の試験管内において、リポフェクタミン2000試薬(当該量は5μl/ウェルに基づいて計算される)を、250μlの無血清培養液に加え、室温で5分間にわたってインキュベートした。
3.他の試験管において、ヒト抗p53オリゴヌクレオチド(一ウェル当り所望の最終濃度に適合させる量に変化させる)を、250μlの無血清培養液に加えた。
4.リポフェクタミン2000複合体を、p53オリゴヌクレオチド溶液と組み合わせて、室温で20分間にわたってインキュベートした。
5.得られた混合物を、細胞に滴下して加えた。細胞は37℃でインキュベートした。
【0127】
6.SW480細胞:トランスフェクションの48時間後、細胞を収集し、タンパク質をRIPAバッファーを使用して抽出した。
7.HCT116細胞:
トランスフェクションの40時間後、5Fu(Sigma)を細胞に添加し、25μg/mlの最終濃度を生成した。細胞トランスフェクションの48時間後(5Fu治療の8時間後)、細胞を収集し、タンパク質をRIPAバッファーを使用して抽出した。
8.p53の発現は、モノクローナル抗体(Do-1クローン、Santa Cruz)を使用してウェスタンブロット分析によって決定された。標準化のために、ブロットはチューブリン発現のために試験された。
【0128】
III. リポフェクタミン2000試薬を使用したPC3細胞へのマウスp53遺伝子およびマウスp53オリゴヌクレオチドのコトランスフェクション:
2×105 p53-ヌルPC3細胞を、6ウェルプレートの各ウェルごとに播種した。24時間後、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を使用してマウスp53遺伝子およびGFP遺伝子およびマウスp53オリゴヌクレオチドを細胞にコトランスフェクトした。以下の手順を実行した:
1.トランスフェクションの前に、細胞培養液を、抗生物質を含まない1500μlの新鮮培養液と置換した。
2.無菌のプラスチック試験管内において、リポフェクタミン2000試薬(5μl/ウェル)を、250μlの無血清に添加し、室温で5分間にわたってインキュベートした。
3.他の試験管において、4μg DNA(p53遺伝子:GFP遺伝子、10:1)およびヒトp53オリゴヌクレオチドを、250μl無血清培地に加えた。
4.リポフェクタミン2000複合体を、p53オリゴヌクレオチド溶液と組み合わせ、室温で20分間にわたってインキュベートした。
5.混合溶液を細胞に滴下して加え、細胞を37℃でインキュベートした。
6.トランスフェクションの48時間後、細胞を収集し、タンパク質をRIPAバッファーを使用して抽出した。
7.p53の発現を、モノクローナル抗体(Clone240、Chemicon)を使用してウェスタンブロット分析によって決定した。標準化のために、ブロットをGFP発現のために試験した。
結果:
A.ヒトp53オリゴヌクレオチド:
【表4】

【0129】
注:表Dの番号は、表Aで使用された番号と対応する。ここで、siRNA 1〜23のセンス鎖は、それぞれ配列番号3〜25に対応し、かつsiRNA 1〜23のアンチセンス鎖は、それぞれ配列番号26〜48に対応する。
【0130】
表Dにおいて示すように、ヒトについてオリゴヌクレオチドは、上述のプロトコルIIによる2つの系SW480およびHCT116で試験した。試験の結果が基礎とした代表的な結果(ウェスタンブロット)を図3に示す。
【0131】
B.マウスp53オリゴヌクレオチド:
【表5】

【0132】
注:表Eの番号(表Dについても同じ)は、表Aにおいて使用される番号に対応する。ここで、siRNA 1〜23のセンス鎖は、それぞれ配列番号3〜25に対応し、かつsiRNA 1〜23のアンチセンス鎖は、それぞれ配列番号26〜48と対応する。試験の結果が基礎とした代表的なウェスタンブロットの結果を図4に示した。
【0133】
例3:毛髪脱落のモデル系
活性siRNAの試験は、以下の系において行うことができる:
a.毛髪脱落のマウス モデル
b.生体外で培養されたヒトの毛包
c.ヌードマウスにおけるヒト毛包移植片
注: 活性siRNAを試験するための系は、Botcharev et al, 2000, p53 is essential for Chemotherapy -induced Hair Loss, Cancer Research, 60, 5002-5006に記載されている。
【0134】
例4:急性腎不全(ARF)のモデル系
ARFを治療するための活性siRNAの試験は、敗血症誘発型のARFまたは虚血-再灌流-誘発型ARFを使用して行うことができる。
【0135】
1.敗血症誘発型のARF
敗血症によって誘発されたARFの2つの前兆となる動物モデルは、 Miyaji T, Hu X, Yuen PS, Muramatsu Y, Iyer S, Hewitt SM, Star RA, 2003, Ethyl pyruvate decreases sepsis-induced acute renal failure and multiple organ damage in aged mice, Kidney Int. Nov;64(5):1620-31 に記載されている。これらの二つのモデルは、マウス(好ましくは老齢マウス)におけるリポ多糖類投与および盲腸結紮穿刺である。
【0136】
2.虚血-再灌流-誘発型ARF
この前兆となる動物モデルは、Kelly KJ, Plotkin Z, Vulgamott SL, Dagher PC, 2003 January,. P53 mediates the apoptotic response to GTP depletion after renal ischemia-reperfusion: protective role of a p53 inhibitor, J Am Soc Nephrol.;14(1):128-38に記載されている。
【0137】
虚血-再灌流障害は、両側45分の腎臓動脈のクランプ止めと、続くクランプの解放で24時間の再灌流を行った後のラットにおいて誘発された。追加の250μgのp53 siRNA(QM5配列、表A)を、クランプ止めの2時間前および30分後に頸静脈に注射した。追加の250μgのsiRNAを、クランプ止めの4時間後および8時間後に尾部静脈を介して与えた。GFPに対するsiRNAは、ネガティブコントロールとして用いた。本明細書中に記載された実験において使用されたsiRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方の3'末端でリン酸基を有する。3'非リン酸化siRNAは、動物モデルにおいて対応する3’リン酸化siRNAと類似の生物学的活性を有することが見出された。ARFの進行を、血清クレアチニンレベルの測定によって術前および術後24時間までモニターした。実験終了後、ラットを温かいPBS、続いて4%のパラホルムアルデヒドで留置の大腿ラインを介して灌流適用した。左の腎臓を除去し、後の組織学的分析のために4%のパラホルムアルデヒド中に貯蔵した。急性腎不全は、基線からの血清クレアチニンレベルの急激な上昇としてしばしば定義される。血清クレアチニンの少なくとも0.5mg/dLまたは44.2μmol/Lの増加は、急性腎不全の徴候としてみなされる。血清クレアチニンは、手術前のゼロ時間およびARF手術後24時間で測定した。
【0138】
ラットの腎臓のp53 siRNAの分布を研究するために、糖残基中に代替のO-メチル修飾体を有するCy3ラベル化19構造単位の平滑末端siRNA分子(2mg/kg)を、3〜5分間にわたって頚静脈投与した。投与後、生体内イメージングを、2-光子共焦点顕微鏡を使用して行った。共焦点顕微鏡分析は、腎臓の大多数のsiRNAが近位の尿細管細胞のエンドソーム区画に濃縮されることが明らかにした。エンドソームおよび細胞質siRNAの蛍光はともに、最初の送達後2時間は安定であり、24時間後に消失した。
【0139】
図5から明らかであるように、腎臓の両側の動脈をクランプ処理した45分後に血清クレアチニンのレベルにおいて10倍の増加があった(PBS処理)。 p53 siRNA(QM5配列、表A)の4つの注入(クランプ処理の2時間前、クランプ処理の30分後、4時間後および8時間後)では、血清中のクレアチニンレベルが50%まで著しく減少した(P<0.001)。これらの結果は、p53 siRNAが腎組織を虚血-再灌流障害の影響から保護し、ARFの重症度を減少させることを示す。
【0140】
腎臓の虚血-再灌流障害のp53 siRNA治療の効果を、腎組織の尿細管壊死の範囲を分析することによってさらに決定した。尿細管壊死を、障害なし(障害スコアリング0)、単細胞、斑状孤立壊死(障害スコアリング1)、組織の25%未満の尿細管壊死(障害スコアリング2)、組織の25〜50%の尿細管壊死(障害スコアリング3)および組織の50%以上の尿細管壊死(障害スコアリング4)としてスコアリングすることができる。図6は、虚血-再灌流障害を受けなかった動物(グループ1)または虚血-再灌流障害動物であって、PBS処理を受けた動物(グループ2)、p53 siRNAの2つの注入(グループ3)、p53 siRNAの3つの注入(グループ4)またはp53 siRNAの4つの注入(グループ5)について、障害スコアリング(Y軸)として表わされた尿細管腎臓障害を実証する。図6によって明らかなように、p53 siRNAの4つの注入は、PBS対照群と比較して尿細管腎臓障害における著しい減少を導く。図7は、p53 siRNA処理の4つの注入が、虚血-再灌流障害を受けた動物の腎臓の皮質区画中のプロ-アポトーシス遺伝子Pumaの発現を下方制御することを実証する。これは、p53 siRNA処理が虚血-再灌流障害後の腎臓におけるアポトーシスプロセスを阻害できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】図1は、ヒトp53遺伝子(配列番号1)のヌクレオチド配列を表す。
【図2】図2は、ヒトp53ポリペプチド(配列番号2)のアミノ酸配列を表す。
【図3】図3は、p53の発現についての様々なヒトp53 siRNAの効果を実証するウェスタンブロットの結果を示す。
【図4】図4は、p53の発現についての様々なマウスp53 siRNAの効果を実証するウェスタンブロットの結果を示す。
【図5】図5は、両側の腎臓動脈をクランプし、かつp53 siRNA化合物または図示された対照化合物で治療された動物における急性腎不全のための指標としての血清クレアチニンのレベルを表す。
【図6】図6は、両側の腎臓動脈をクランプし、かつp53 siRNA化合物で治療された動物の腎臓組織における尿細管壊死の程度を示す。
【図7】図7は、p53 siRNA治療が、虚血−再灌流腎臓傷害を患う動物の腎臓の皮質区画においてプロ-アポトーシスの遺伝子Pumaの発現を下方制御したことを実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する化合物:
5' (N)x−Z 3’(アンチセンス鎖)
3' Z'−(N')y 5’(センス鎖)
各NおよびN’は、その糖残基において修飾されていても修飾されていなくてもよいリボヌクレオチドであり、かつ(N)xおよび(N')yは、各々連続的なNまたはN’が次のNまたはN’と共有結合によって連結しているオリゴマーであり;
xおよびyの各々は19〜40の整数であり;
ZおよびZ’の各々は存在していても欠失していてもよいが、存在する場合はdTdTであり、それが存在する鎖の3’末端と共有結合し;かつ
(N)xの配列はp53のcDNAに対するアンチセンス配列を含む。
【請求項2】
前記(N)xの配列が、表A、BおよびCに示された一以上のアンチセンス配列を含む請求項1の化合物。
【請求項3】
前記共有結合が、ホスホジエステル結合である請求項2の化合物。
【請求項4】
x=y、好ましくはx=y=19である請求項3の化合物。
【請求項5】
ZおよびZ’がともに欠失している請求項4の化合物。
【請求項6】
ZおよびZ’の一つが存在している請求項4の化合物。
【請求項7】
前記リボヌクレオチドの全てが、その糖残基において修飾されていない請求項5の化合物。
【請求項8】
少なくとも一つのリボヌクレオチドが、その糖残基において修飾されている請求項5の化合物。
【請求項9】
前記糖残基の修飾が、2’位での修飾を含む請求項8の化合物。
【請求項10】
前記2’位での修飾が、アミノ、フルオロ、メトキシ、アルコキシルおよびアルキル基を含む群から選択される基の存在下において生じる請求項9の化合物。
【請求項11】
前記2’位での修飾が、メトキシ(2'-O-メチル)である請求項10の化合物。
【請求項12】
交互リボヌクレオチドが、アンチセンスおよびセンス鎖の両方において修飾される請求項11の化合物。
【請求項13】
前記アンチセンス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドが、これらの糖残基において修飾され、かつ前記センス鎖の5’および3’末端のリボヌクレオチドが、これらの糖残基において修飾されていない請求項12の化合物。
【請求項14】
前記アンチセンスおよびセンス鎖が3’および5’末端でリン酸化されていないか、または前記アンチセンスおよびセンス鎖が3’末端でリン酸化されている請求項13の化合物。
【請求項15】
表Aのシリアル番号3、5、20および23のいずれかのアンチセンス配列を有する請求項14の化合物。
【請求項16】
表Aのシリアル番号23のアンチセンス配列を有する請求項15の化合物。
【請求項17】
請求項1の化合物を発現することができるベクター。
【請求項18】
ヒトp53を阻害するのに有効量の請求項1の一以上の化合物または請求項17のベクターと、キャリアとを含む薬学的組成物。
【請求項19】
ヒトp53を阻害するのに有効量の請求項15の一以上の化合物と、キャリアとを含む薬学的組成物。
【請求項20】
ヒトp53を阻害するのに有効量の請求項16の化合物と、キャリアとを含む薬学的組成物。
【請求項21】
ヒトp53を阻害するのに有効量の、表Aのシリアル番号3、5、20および23のいずれかのアンチセンス配列を有する請求項2の任意のオリゴリボヌクレオチドと、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物。
【請求項22】
表Aのシリアル番号23のアンチセンス配列を有するオリゴリボヌクレオチドと、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物。
【請求項23】
治療学的に有効量の請求項1に記載の一以上の化合物を含む組成物を患者に投与し、それによって患者を治療することを含む障害のある患者を治療する方法。
【請求項24】
前記組成物が請求項18の組成物である請求項23の方法。
【請求項25】
治療学的に有効量の請求項2に記載の一以上の化合物を含む組成物を患者に投与し、それによって患者を治療することを含む障害をもつ患者を治療する方法。
【請求項26】
前記障害が脱毛症もしくは急性腎不全であるか、または前記障害がp53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる請求項25の方法。
【請求項27】
前記疾患が、主要な心臓外科手術後に急性腎不全を発症するリスクが大きい請求項26の方法。
【請求項28】
一以上のステムおよびループ構造を含む一本鎖オリゴヌクレオチドであって、前記ステム領域がp53遺伝子のセンスsiRNA配列およびこれに対応するアンチセンスsiRNA配列を含む一本鎖オリゴヌクレオチド。
【請求項29】
前記センスまたはアンチセンスsiRNA配列が、表AからCのいずれかに存在する配列を含む請求項28のオリゴヌクレオチド。
【請求項30】
ヒトp53を阻害するのに有効量の請求項1の一以上の化合物と共有結合または非共有結合した請求項1の化合物と、キャリアとを含む組成物。
【請求項31】
前記脱毛症が、化学療法または放射線療法によって誘発される請求項26に記載の方法。
【請求項32】
請求項1のオリゴリボヌクレオチドまたは請求項17のベクターの治療学的有効量の、脱毛症または急性腎不全またはp53ポリペプチドの上昇したレベルによってもたらされる障害を患う患者において回復を促進するための薬剤の調製のための使用。
【請求項33】
遺伝子p53のmRNAを請求項1のオリゴリボヌクレオチドと接触させることを含む、対照と比較して少なくとも50%まで遺伝子p53の発現を下方制御する方法。
【請求項34】
プロ-アポトーシス遺伝子の発現を阻害する一以上の化合物と共有結合または非共有結合したヒトp53を阻害するのに有効量の請求項1の化合物と、キャリアとを含む組成物。
【請求項35】
前記プロ-アポトーシス遺伝子が、RTP801、Fas、Bax、Noxa、Puma、PIDD、TNFα、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ9、E2F1、およびPARP-1から選択される請求項34の化合物。
【請求項36】
プロ-アポトーシスの遺伝子の発現を阻害する前記化合物が、siRNA化合物である請求項34の組成物。
【請求項37】
治療学的に有効量の請求項1の一以上の化合物を含む組成物を患者に投与し、それによって患者を治療することを含む、大手術を受けるリスクの大きな患者の急性腎不全の予防のための方法。
【請求項38】
前記手術が心臓外科手術である請求項37の方法。
【請求項39】
前記化合物が請求項16の化合物である請求項38の方法。
【請求項40】
治療学的に有効量のp53を阻害する一以上のsiRNA化合物を含む組成物を患者に投与し、それによって患者を治療することを含む、大手術を受ける患者の急性腎不全の予防のための方法。
【請求項41】
前記手術が心臓外科手術であり、かつ前記化合物が請求項16の化合物である請求項40の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−514223(P2008−514223A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534174(P2007−534174)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【国際出願番号】PCT/IL2005/001035
【国際公開番号】WO2006/035434
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(502337583)クアーク・ファーマスーティカルス、インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Quark Pharmaceuticals,Inc.
【Fターム(参考)】