説明

脱気方法

【課題】細胞を含んでなる水性液体からの油、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造するための方法。
【解決手段】油または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む発酵ブロスを、真空(または減圧)、攪拌の削減による機械的脱気または脱ガスの適用、またはブロスを遠心力にかけ、粘度を(希釈または加熱によって)削減し、発酵中の酸素または空気の供給の削減、または攪拌速度の削減、pHの低下(COの溶解度の低下)、PTFE毛細管を使用するろ過、ガス置換(窒素またはヘリウムの気泡化によって)、または化学的脱気(脱酸素剤を使用)等の脱気ステップ等、様々な手法によって実行して製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造するための方法に関する。この方法は、油またはPUFAが(後に)そこから得られる細胞を含んでなる水性液体を脱気するステップを含む。脱気後、細胞は低温殺菌されうる。次いで、油またはPUFAは細胞から抽出され、精製され、または単離されうる。
【背景技術】
【0002】
多価不飽和脂肪酸、またはPUFAは天然に存在し、さまざまな異なるPUFAが異なる単細胞生物(藻類、菌類等)によって産生される。1つの特に重要なPUFAは、多くの長鎖多価不飽和脂肪酸(LC−PUFA)の1つであるアラキドン酸(ARA)である。化学的に、アラキドン酸はシス−5,8,11,14エイコサテトラエン酸(20:4)であり、LC−PUFAの(n−6)ファミリーに属する。
【0003】
アラキドン酸は、集合的にエイコサノイドとして周知のさまざまな生物活性化合物の主要な前駆体であり、プロスタグランジン、トロンボキサン、およびロイコトリエンを含んでなる群である。アラキドン酸はヒト母乳の脂質画分の成分の1つでもあり、乳児における最適な神経学的発達に重要であると考えられている。アラキドン酸は、乳児用ミルク、食料品、および動物試料における使用を含むさまざまな異なる用途を有する。
【0004】
国際公開第A−97/37032号パンフレットは、低温殺菌されたバイオマスからの微生物PUFA含有油の調製に言及している。しかし、低温殺菌前の脱気の開示はない。
【0005】
2003年12月31日に公開された国際公開第A−04/001021号パンフレットは、低温殺菌条件を詳しく記載している。
【0006】
バイオマス、または微生物細胞の加熱を含む方法が周知である。国際公開第A−97/37032号パンフレットは、微生物細胞が油の形態でそこからPUFAに抽出する前に低温殺菌されうることを記載している。しかし、本出願人は、脱気方法の包含が、細胞から抽出されうる油の品質を改善しうることを見出した。具体的には、結果として生じる油は酸化させにくく、または酸化されにくく、より低い過酸化物価(POV)および/またはアニシジン価(AnV)を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、油、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造するための改良方法を提供する。この改良は、好ましくは、低温殺菌前の脱気の使用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は、油、または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造するための方法に関し、本方法は、
a)細胞を含んでなる水性液体を脱気するステップと、
b)油またはPUFAを細胞から得るステップとを含んでなる。
【0009】
水性液体は、好ましくは、発酵ブロスすなわち発酵に由来するブロスなど、ブロスまたは培養培地である。発酵中に取られまたは除去される液体でもありうるが、好ましくは、発酵の終了時のブロスである。細胞は、好ましくは、微生物細胞である。微生物細胞は、脱気前、脱気中、および/または脱気後に生存している場合がある。
【0010】
水性液体の脱気は、好ましくは、結果として、エントレイドエア、エントラップトエア、非溶解および/または溶解空気などの空気の除去をもたらす。したがって、この方法は、有効に脱ガスであり、または脱ガスを含んでなりうる。これによりガス(例えば、気泡)が除去されうる。好ましくは、この方法は、溶存酸素(例えば、エントラップされた形態で、または泡として)などの酸素を除去する。これに関連して「溶解」は、空気または酸素などの、(細胞内のガスではなく)水性液体中に存在し、または溶解されているガスを指す。
【0011】
脱気法は結果として、水性液体、例えば二酸化炭素から除去される他のガスをももたらしうる。
【0012】
脱気は、好ましくは、溶解および/または一部の非溶存酸素の少なくとも一部を除去しうるため、結果として酸化の減少をもたらしうる。これは、PUFAおよび/または油は酸化されにくく、したがって品質が良好であることを意味しうる。
【0013】
酸素の除去が有利であることは、もちろん微生物細胞は生存し増殖することができるために酸素を必要とするため直ちに明らかではない。実際に、本発明の好ましい方法を含む多くの発酵方法において、空気が微生物細胞に供給され、例えば水性液体、または培養培地(気泡化などへ)に供給される。細胞は分裂して増殖し、かつ好ましくは、その際に1つもしくはそれ以上のPUFAを生合成もする。次いで脱気をもたらすために発酵工程中の酸素または空気の供給を停止する考えは、これは結果として細胞の死をもたらし、または少なくともPUFAおよび他の有益な化合物を産生する能力が阻害されうるため、必ずしも有利な方法であるとは考えられない。
【0014】
脱気は、ミルク、およびオレンジジュースなどの食料品用に、かつ紙の製造におけるなど一部の産業プロセスにおいても周知である。しかし、これらの方法は、微生物の発酵からの異なる分野において、具体的には、抽出される化合物を産生するために、かつ(生きた)細胞が存在しない(従来技術の)システムにおいて実現される。一部の従来技術の方法においては、脱気が行われて細菌増殖を削減するが、本発明においては、微生物細胞増殖および生存(細菌細胞を含む)が、PUFAを産生するために、酸素を必要とする発酵方法の重要な要素である。
【0015】
以下を含む、脱気を実行する多くの方法がある。すなわち、
a)真空(または減圧)の適用、
b)機械的脱気/脱ガス(攪拌、振動、遠心分離機またはサイクロンにおけるなど加速または重力の使用)、
c)粘度変更(水もしくは他の液体での希釈、または温度変化のいずれかによる)、
d)発酵条件の変更、例えばエアリフト、空気散布、発酵中の酸素もしくは空気の供給の削減、もしくは攪拌速度の削減、
e)例えばpHまたは酸性化を低下させることによる(例えば、液体に溶ける時に炭酸を形成する二酸化炭素を使用することによる)pH変化、
f)例えば、(好ましくは、不活性)ポリマー、例えばPTFEなどのフィルタ、毛細管または膜を使用することによるろ過、
g)窒素などの不活性ガス、またはヘリウムなどの希ガスを用いるガス置換、
h)例えば脱酸素剤、例えば亜硫酸ナトリウムまたはヒドラジンを使用する化学的脱気、
i)水性液体が、酸素または空気が液体から拡散するような条件下に配置される時間、および/または
j)上記の方法の1つもしくはそれ以上の組合せ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記9つの脱気法の各々をこれから詳しく論じる。
【0017】
1.真空(または減圧)
水性液体の表面上に真空をかけることができる。しかし、真の真空は必ずしもつねに必要というわけではなく、それどころか好ましい方法として、例えば、それが発酵容器などの容器中にある間、水性液体の表面上の圧力の削減が含まれる。好ましくは、水性液体上の圧力は常圧または室内圧力未満であり、または少なくとも発酵槽容器内部の圧力(または発酵中の圧力)と比べると圧力の削減を示す。したがって、脱気が開始することになっている場合、例えば発酵が終了すると、圧力の削減がありうる。
【0018】
真空または減圧は、発酵が起こるもの(発酵槽など)から個別の容器にかけられうる。したがって、液体は真空ワークステーション、すなわち真空がかけられ、または存在しうる個別の容器に移されうる。これに関連して、「真空」の適用を脱気の方法の1つとして論じる場合、これは水性液体への減圧の適用として理解すべきである。これは完全真空がかけられることが絶対に必要であるわけではないためである。
【0019】
好ましくは、(真空脱気ステップ中に)かけられる圧力は80以下、好ましくは、600以下、最適には400mbara(ミリバール絶対圧)以下である。特定の条件下では、正確な機器を使用することにより、圧力は、好ましくは、200もしくは100mbara以下である。好ましくは、減圧は、100〜500mbara、かつ最適には200〜450mbaraなど50〜600mbaraである。
【0020】
好ましい実施形態における水性液体は、発酵後など、減圧、すなわち発酵槽(もしくは水性液体が移される他の容器)未満の圧力を有する容器に移される。これら2つの容器からの水性液体の移動(発酵槽から減圧容器へなど)は、その圧力の差によって補助され、またはもたらされうる。したがって、水性液体が移動中に一方の容器から他方の容器へかけられる圧力を表す移動圧力がありうる。この移動圧力は、好ましくは、0.6など0.7bar以下、かつ好ましくは、0.5bar以下である。移動圧力は、0.6〜0.4barなど0.7〜0.3barでありうる。
【0021】
減圧容器は、水性液体の表面積を増加させ、脱気を補助するための手段を有しうる。したがって、水性液体は、薄膜など膜の形を取りうる。水性液体は、機械的デバイス、例えば、アンブレラノズルなどのノズル、またはパラソル脱気器によって膜(薄膜など)へ押進められうる。したがって、水性液体は減圧がかけられている間に曲面上へ押進められうる。膜またはスプレーを形成することによるなど、水性液体の表面積を増加させることによって、これは脱気工程を補助しうるとともに、結果としてより有効な脱ガスをもたらしうる。削減した真空容器(水性液体が押進められるノズルまたは曲面を含有する)内部の水性液体のレベルは、全部で10分の1ないし2でありうる。次いで脱気される水性液体は、低温殺菌もしくは加熱容器またはワークステーションに移動されうる。
【0022】
2.機械的脱気
発酵中にはしばしば、酸素(より一般的には)空気が水性液体(培養培地または発酵ブロス)に供給される。これは微生物細胞の増殖および分裂を可能にし、かつPUFAの生合成を可能にすることである。
【0023】
発酵中、水性液体は攪拌されうる。脱気するために、攪拌(もしくは攪拌速度)の量は減少もしくは減速され、または完全に停止されうる。攪拌の削減は、攪拌ブレードまたは移動面上または近くでキャビテーションを引き起こしにくくし、(水性液体中の)泡を生じにくくする。
【0024】
攪拌の停止、または攪拌程度の削減は、水性液体中の泡が融合し、それによって水性液体の表面に向かって上昇することを可能にしうる。この攪拌の削減中、攪拌速度は、発酵中の半分、3分の1、または4分の1以下に減少しえない。例えば、攪拌疎度が80rpmである場合は、脱気を可能にする攪拌の削減は、40rpm以下の速度での攪拌を必要としうる。
【0025】
機械的脱気は、水性液体(発酵ブロス、通気で)に供給される空気または酸素の量の削減も含みうる。空気または酸素の添加速度は減速され、または完全に停止されうる。脱気中、空気(または酸素)供給の速度は、(発酵中の速度などの)半分、3分の1、または4分の1以下に削減されうる。したがって、液体の通気は、発酵の終了前(例えば、5、2、または1時間まで)に停止または中止しうる。
【0026】
しばしば空気(または酸素)は発酵中、および発酵容器(または発酵槽)にある間に水性液体に供給される。ガスは水性液体へ気泡化され、これはスパージャーによって行われうる。脱気は、スパージャーによる空気または酸素供給の速度の削減を含みうる。
【0027】
脱気は、水性液体がチューブなど(静的)振動容器を通過し、またはその中に移行する場合に振動によっても達成されうる。
【0028】
水性液体は、脱ガスポンプを使用して脱気されうる。水性液体は、例えばサイクロンにおいて加速力にかけられうる。したがって、液体は、脱気を補助しうる遠心力にかけられうる。サイクロンは迅速に水性液体を回転させ、かつ容器中で遠心力にかけ、それによって液体から漏れるガスが増加し、サイクロンの上部から取出され、または除去されるが、脱気されている液体は(下方など)反対方向へ流れうる。
【0029】
機械的真空脱気器が水性液体を脱気するために使用されうる。これは真空(または減圧)をかけることができるポンプでありうる。減圧を受入れることができ、または真空を発生させることができる改良(例えば、遠心)ポンプが市販されている。好ましくは、真空ポンプは回転室を有し、ここで気泡が水性液体から、例えば遠心力の作用下に除去されうる。
【0030】
別の種類の機器としては脱ガスポンプが挙げられる。これはガス溶解液体の脱ガスをもたらすことができうる。このポンプは(例えば、インタロックした)真空ポンプを有しうる。これは化学的添加剤ないしに脱ガスを実行することができうる。かかるシステムは、0.5ppm以下のレベルに脱ガスすることができうる。それらは25リットル/分以下の流速を有することができうる。適切な脱ガスポンプは、日本の横田製作所(Yokota Manufacturing Company)から入手可能である。
【0031】
3.粘度調節
粘度の増加は水性液体を加熱することによって達成されうる。この加熱は、結果として脱気ももたらしうる。
【0032】
粘度の削減は水性液体中のガスがより有効に浮上することを可能にしうる。したがって、粘度を削減する方法は脱気工程を補助しうる。これは、水などの別の液体(それ自体脱気され、または水性液体よりも低い空気/酸素含量を有する)を添加することによって達成されうるが、したがって、この方法は希釈を含んでなりうる。水性液体はしばしば、細胞、および細胞による同化作用のための窒素および/または炭素源の存在により完全に粘性である。
【0033】
粘度を削減する別の方法は水性液体の加熱によるものである。温度の上昇が液体中の酸素の溶解度を減少させる。
【0034】
4.pH調節
水性液体はより酸性になりうる。これはその中の空気/酸素の溶解度を低下させうる。
【0035】
水性液体が有益な化合物を合成しうる生きた細胞を含んでなることが実現される。細胞は、酸素を消費し、かつ二酸化炭素を遊離させるという意味で「呼吸している」。二酸化炭素は水性液体中で溶解し、その際に炭酸を産生しうる。pHを低下させることによって、これは水性液体をより酸性にすることができ、こうしてその中の二酸化炭素(または酸素)の溶解度を削減することができる。
【0036】
5.ろ過
水性液体は、空気などの小泡を除去することができうるフィルタまたは膜を通過されうる。これは比較的小規模で実行されうる。フィルタまたは膜は、好ましくは、ポリマーなどの不活性材料を含んでなる。材料(例えば)ポリマーは、PTFEなどのハロゲンアルキレンを含んでなりうる。
【0037】
したがって、水性液体は、(例えば、小さな、または比較的微細な)チューブまたは毛細管を通過されうる。これは、PTFEなどのポリマー(のコーティング)を含んでなり(例えば、壁において)、または有しうる。チューブは穴または開口を有し、この中を溶解ガスまたは泡が通過しうる。水性液体は、これらのチューブまたは毛細管を圧力下に通過されうる。
【0038】
6.ガス置換
これは水性液体中の酸素または空気(溶解またはその他の場合)の置換または交換を含む。空気または酸素は、好ましくは、溶存酸素が溶液から強制的に外に出され、次いで水性液体を残しうる限り、多くの広範囲のガスによって交換されうる。不活性ガスは、好ましくは、例えば窒素、またはヘリウムなどの希ガスである。ガスは(発酵槽のヘッドスペースにおけるなど)水性液体より上に供給されうる。例えば、液体より上の、例えば、発酵槽などの容器におけるヘッドスペースに添加または供給されうる。あるいは、ガスは、例えば、気泡化によって、またはスパージャーの使用によって、水性液体に供給されうる。好ましいガスは窒素であるが、窒素を含んでなる(ただし、20%未満または10%もしくは15%未満など削減量の酸素を有し、したがって大気レベル未満である)ガスを使用することができる。
【0039】
好ましい方法は、発酵を終わらせる前に水性液体に供給される空気(または酸素)の量を削減し、または停止することである。最初に、例えば、発酵終了前の少なくとも1時間または2時間、例えばスパージャーによって空気を供給してはならない。スパージャーによって空気を供給する代わりに、空気または酸素以外のガス、例えば削減された酸素含量を有するガス、例えば窒素を供給することができる。したがって、好ましくは、発酵終了前の1時間または2時間まで水性液体に窒素を供給することができる。これは水性液体の上に不活性または削減された酸素含量(例えば、窒素が豊富な)大気、例えば、大気よりも高い含量の窒素を有する大気を生成しうる。水性液体上の窒素の圧力は、約0.6barなど0.4〜0.8barでありうる。
【0040】
7.化学的脱気
これは、空気、もしくはさらに重要なことには空気中の酸素と有利に反応しうる物質または化学薬品を使用することによって達成されうる。物質は脱酸素剤でありうる。この物質は水性液体と接触されうる。化学薬品は、例えば、発酵槽容器などの容器中にある間に水性液体に添加されうる。脱酸素剤を含む適切な酸素反応材料は当技術分野で周知であり、亜硫酸アルカリ金属(ナトリウムなど)およびヒドラジンを含んでなる化合物を含む。他の(非化学的)脱気方法が、PUFAまたは油が食料品に使用されることになっている場合には使用されうる。
【0041】
8.時間
静止させたままにした場合は、水性液体は、酸素および空気など、その溶解ガスをゆっくり放出(give up)する。溶解ガスは水性液体から拡散しうる。したがって、このガスは徐々に、時間とともに、溶液から出る。
【0042】
空気/酸素含量の測定
これは当技術分野で標準の方法を使用することによって達成されうる。例えば、EGT(エントレイドガステスター)を使用することができる。空気の量は、水性液体(効果的には細胞の微生物懸濁液)におけるオンライン方法によって測定されうる。
【0043】
エントレイドガス(気泡)は、測定細胞における試料を圧縮することによって測定されうる。次いで、エントレイドガスの容積占有率は、ボイルの法則(pV=定数)によって計算される。他方、放出されうる溶解ガスは、試料を膨張させることによって測定されうる。これにより圧力の急激な低下が刺激される。測定細胞における圧力が削減されると、ガスの溶解度が減少し、放出される。したがって、懸濁液の容積は増加する。作業は完全に自動であることができ、かつ/または適切に脱気後のシステムにおける適所でオンラインガス分析計を含んでなりうる。
【0044】
脱気は結果として、20または15ppm未満、例えば、2または5〜15または20ppmの(水性液体中の)O含量をもたらす。(例えば、溶解)酸素の濃度は、好ましくは、5ppm未満、かつ最適には2ppm未満など10ppm未満でありうる。
【0045】
好ましくは、脱気は、(溶解)酸素の濃度が0.03cc/リットル(40ppb)、好ましくは、0.005cc/リットル(7ppb)未満であるように行われる。
【0046】
脱気水性液体(本発明による細胞を含んでなる水性液体を脱気することによって得られる)は、有利には、上昇圧力および/または上昇温度にかけられうる。上昇圧力および/または上昇温度は、例えば、細胞の加熱および/または低温殺菌中に存在しうる。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明による方法は、脱気水性液体を少なくとも1bara、好ましくは、少なくとも1.5bara、好ましくは、少なくとも2bara、好ましくは、少なくとも5baraの圧力にかけるステップを含んでなる。圧力に対する特定の上限はない。脱気水性液体は、例えば40bara未満、例えば20bara未満の圧力にかけられうる。
【0048】
好ましい実施形態において、本発明による方法は、少なくとも60℃、好ましくは、少なくとも80℃、好ましくは、少なくとも90℃、好ましくは、少なくとも100℃、好ましくは、110℃の温度にかけるステップを含んでなる。温度に対する特定の上限はない。脱気水性液体は、例えば150℃未満の温度にかけられうる。
【0049】
好ましくは、上昇温度および/または上昇圧力にかけられうる脱気水性液体は、本明細書に開示されている好ましいO含量および/または好ましい(溶解)酸素の濃度を有する。
【0050】
低温殺菌方法
低温殺菌は通常、脱気および/または発酵が終了した後に行われる。好ましい実施形態において、低温殺菌は、低温殺菌中の熱が細胞を殺すため発酵を終了させる。したがって、低温殺菌は発酵ブロス(または液体(水性)培地中の細胞)で実行されうるが、ブロスから得られる微生物バイオマスで実行されうる。前のケースの場合、低温殺菌は、微生物細胞が依然として発酵槽内にある間に行われうる。低温殺菌は、好ましくは、微生物細胞のさらなる処理、例えば、造粒(例えば、押出しによって)細片、または混練の前に行われる。
【0051】
発酵が終了すると、発酵ブロスはろ過され、またはその他の方法で処理され、水または水性液体を除去しうる。水の除去後、バイオマス「ケーキ」を得ることができる。低温殺菌が行われなかった場合は、脱水した細胞(またはバイオマスケーキ)を低温殺菌にかけることができる。
【0052】
低温殺菌は、(細胞を)直接または間接加熱することによって実行されうる。加熱は、直接の場合は、蒸気を発酵槽へ通すことによって行われうる。間接的な方法では、発酵槽の壁を通じ、または加熱コイルにより、または平板熱交換器など外部熱交換器のいずれかの熱交換器によって培地を使用しうる。
【0053】
通常、低温殺菌は、発酵が起こった発酵槽容器中で行われる。しかし、一部の微生物(細菌など)については、最初に細胞を容器から除去し、次いで低温殺菌することがしばしば好ましい。低温殺菌は、微生物の他の処理、例えば、乾燥または造粒の前に行われうる。
【0054】
低温殺菌は通常、微生物の全部ではないが大部分を殺す。低温殺菌後、微生物の少なくとも95%、96%、またはさらに98%が殺されており、すなわち生存していない。
【0055】
細胞の加熱または低温殺菌は、適切な温度で、好ましくは、少なくとも60℃、好ましくは、少なくとも80℃、好ましくは、少なくとも90℃、好ましくは、少なくとも100℃、好ましくは、少なくとも110℃で達成されうる。温度に対する特定の上限はない。低温殺菌は、例えば150℃未満の温度で達成されうる。好ましい低温殺菌方法は、国際公開第97/37032号パンフレットおよび同第A−0−04/001021号パンフレットに記載されている。
【0056】
PUFAの抽出
本発明は、(例えば、低温殺菌された)細胞からPUFAを抽出および/または単離するステップを含みうる。好ましくは、これは脱気後、また(場合により)低温殺菌後である。
【0057】
抽出は、最初に塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属ハロゲン化物の添加で開始しうる。細胞は(次いで)、湿ったケーキを生成するために、ろ過、洗浄、および/または圧搾にかけられうる。
【0058】
次いで、微生物細胞は押出しにかけられ、必要に応じて、結果として生じる押出顆粒または押出し物は乾燥にかけられうる。次いで、結果として生じる乾燥顆粒、または乾燥バイオマスを使用し、PUFAの1つ、好ましくは、1つもしくはそれ以上のPUFAを含有する油を抽出することができる。微生物細胞からのPUFAを含有する油を調製するための好ましい抽出方法は、国際特許出願第PCT/EP99/01446号明細書(国際公開第97/36996号パンフレット)、同第PCT/97/01448号明細書(同第97/37032号パンフレット)、および同第PCT/EP01/08903号明細書(同第02/10423号パンフレットに記載されている。
【0059】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)および微生物油
PUFAは、単一のPUFAまたは2つもしくはそれ以上の異なるPUFAでありうる。または各PUFAはn−3またはn−6ファミリーでありうる。好ましくは、これはC18、C20、またはC22PUFAである。これは少なくとも18個の炭素原子および/または少なくとも3個もしくは4個の二重結合を有するPUFAでありうる。PUFAは、遊離脂肪酸、塩の形態で、脂肪酸エステル(例えば、メチルまたはエチルエステル)として、リン脂質として、かつ/またはモノ−、ジ−、もしくはトリグリセリドとして提供されうる。
【0060】
適切な(n−3およびn−6)PUFAとしては、
(渦鞭毛虫)海産渦鞭毛藻(Crypthecodinium)または(真菌)ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)などの適切に藻類または菌類からの、ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6 Ω3)、
γ−リノレン酸(GLA、18:3 Ω6)、
α−リノレン酸(ALA、18:3 Ω3)、
共役リロレン酸(オクタデカジエン酸、CLA)、
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3 Ω6)、
アラキドン酸(ARA、20:4 Ω6)、および
エイコサペンタエン酸(EPA、20:5 Ω3)が挙げられる。
【0061】
好ましいPUFAとしては、アラキドン酸(ARA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、および/またはγ−リノレン酸(GLA)が挙げられる。特に、ARAが好ましい。
【0062】
PUFAは、微生物細胞など、本発明の方法において低温殺菌された細胞によって産生されうる。これは細菌、藻類、真菌、または酵母細胞でありうる。好ましくは、ケカビ目、例えば、モルティエレラ属(Mortierella)、ヒゲカビ属(Phycomyces)、ブラケスレア属(Blakeslea)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)、ヒゲカビ属(Pythium)、またはハエカビ属(Entomophthora)の菌類が好ましい。好ましいARA源は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、ブラケレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、またはピシウム・インシジオスム(Pythium insidiosum)由来である。菌類は、渦鞭毛虫であり、かつ/またはチノリモ属(Porphyridium)、ニッチア属(Nitszchia)、またはクリフテコディニウム属(Crypthecodinium)(例えば、海洋性微細藻クリプテコディニウム・コニー(Crypthecodinium cohnii))を含みうる。酵母としては、ピチア・シフェリ(Pichia ciferii)などのピチア属(Pichia)またはサッカロミセス属(Saccharomyces)のものが挙げられる。細菌は、プロピオン酸菌属(Propionibacterium)でありうる。微生物油は液体(室温下)でありうる。
【0063】
PUFAの大部分はトリグリセリドの形態であることが好ましい。したがって、好ましくは、PUFAの少なくとも60%、または最適には少なくとも70%など、少なくとも50%がトリグリセリドの形態である。しかし、トリグリセリドの量は、油の少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、最適には少なくとも93%もしくは95%などより高くありうる。これらのトリグリセリドのうち、好ましくは、PUFAの少なくとも50%、かつ最適には少なくとも60%など、少なくとも40%が、1または3位でも知られる、グリセロール(トリグリセリド骨格に存在)のa−位において存在する。PUFAの少なくとも30%、最適には少なくとも40%など、少なくとも20%がb(2)位にあることが好ましい。
【0064】
微生物油は、アラキド酸など所望のPUFAの少なくとも10、35、40、または45%もしくはそれ以上を含んでなりうる。これは、92〜94%など少なくとも90%のトリグリセリド含量を有しうる。通常、微生物油は、5%未満、好ましくは、1%未満、かつより好ましくは、0.5%未満のエイコサペンタエン酸(EPA)含量を有する。油は、C20、C20:3、C22:0、および/またはC24:0脂肪酸の各々の5%未満、2%未満、1%未満を有しうる。遊離脂肪酸(FFA)含量は、1.0、0.4、0.2、または0.1以下でありうる。油はGLAおよび/またはDGLAをほとんど、またはまったく有しえない。
【0065】
微生物油は原油でありうる。これは、ヘキサンまたはイソプロパノールなど、有機液体などの溶媒を使用することによって細胞から抽出されているとみられる。
【0066】
PUFA抽出方法
次いで、PUFA(または通常、PUFAを含んでなる微生物油)は、(低温殺菌された)微生物細胞から抽出されうる。好ましくは、細胞を含有する(例えば、乾燥)顆粒(例えば、押出し物)から抽出される。抽出は溶媒を使用して実行されうる。好ましくは、非極性溶媒、例えば、C1−8、好ましくは、C2−6、アルカン、例えばヘキサンが使用される。
【0067】
好ましくは、溶媒は乾燥顆粒上に浸透させられる。適切な微生物造粒および押出し法ならびにその後の油を含有する微生物PUFAの抽出は、国際公開第A−97/37032号パンフレットに記載されている。
【0068】
溶媒は油を含有する精製していないPUFAを得ることを可能にする。この油は、さらに処理することなく、その状態で使用され、または1つもしくはそれ以上の精製ステップにかけられうる。しかし、原油は通常、油を抽出するために使用される溶媒(例えば、ヘキサン、またはイソプロピルアルコールなどのアルコール)などの溶媒を含有し、または以下の精製ステップの1つ(もしくは、好ましくは、すべて)にかけられていない油である。
【0069】
適切な精製プロトコールは、国際特許出願第PCT/EP01/08902号明細書に記載されている(本文書および本明細書に記載されたその他の文書のすべての内容は、参照することにより本明細書で援用される)。例えば、油は、酸処理または脱ガム、アルカリ処理または脂肪酸除去、漂白または色素除去、ろ過、脱ろう(または、例えば飽和トリグリセリドを除去する冷却)、脱臭(または遊離脂肪酸の除去)、および/または研磨(または油不溶性物質の除去)を含みうる1つもしくはそれ以上の精製ステップにかけられうる。これら精製ステップのすべては国際特許出願第PCT/EP01/08902号明細書に詳しく記載されており、必要な変更を加えて本出願に記載されたステップに適用されうる。
【0070】
結果として生じる油は栄養的目的に特に適しており、(ヒト用)食品または(動物用)飼料に添加されうる。例としては、ミルク、乳児用ミルク、健康飲料、パン、および動物の飼料が挙げられる。
【0071】
細胞
細胞は、油またはPUFAが獲得されうる細胞でありうる。好ましくは、細胞は微生物細胞である。本発明において使用される微生物細胞(または微生物)は、特にPUFAおよび微生物油に関する部で前述されたもののいずれかでありうる。それらは、PUFAまたは微生物油を含んでなり、または産生しうるとともに、適切には、PUFA油は細胞から抽出または単離されうる。それらは、線状体であり、菌類または細菌に似ており、または酵母、藻類、および細菌に似た単細胞でありうる。これらの細胞は、酵母、菌類、細菌、または藻類である微生物を含んでなりうる。好ましい菌類は、例えば、ケカビ目のものであり、真菌はモルティエレラ属(Mortierella)、ヒゲカビ属(Phycomyces)、ブラケスレア属(Blakeslea)、またはアスペルギルス属(Aspergillus)のものでありうる。好ましい種の菌類モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、ブラケレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)。
【0072】
酵母に関する限り、これらは好ましくは、ピチア属(Pichia)(ピチア・シフェリ(Pichia ciferii)種のものなど)またはサッカロミセス属(Saccharomyces)である。
【0073】
細菌はプロピオン酸菌属のものでありうる。
【0074】
細胞が藻類由来である場合は、これは好ましくは渦鞭毛虫であり、かつ/またはクリフテコディニウム属(Crypthecodinium)またはダニエラ属(Daniella)に属する。好ましい藻類は、海洋性微細藻クリプテコディニウム・コニー(Crypthecodinium cohnii))種またはダニエラ・サリナ(Daniella Salina)種のものである。
【0075】
過酸化物価(POV)
好ましくは、(微生物)油のPOVは3〜8または12である。しかし、本発明の方法を使用することにより低いPOV値を得ることができ、これらの値は10.0未満もしくは8.0未満でありうる。POVは、例えばAOCS Cd−8−53に記載されている当技術分野で周知の方法を使用することにより測定されうる。(POVの)単位は通常、meq/kgである。
【0076】
アニシジン価(AnV)
この値は、アルデヒド含量の尺度を示しうる。好ましくは、(微生物)油のアニシジン価は、5、6、7または10〜15、20または25である。適切には、AnVは20以下、例えば、15以下である。これは10以下またはさらに5もしくは2以下でありうる。AnV値(好ましい実験において)は5〜15にわたり、最適には7〜12であった。好ましくは、AnVは2または5〜12または15である。AnVは、例えばAOCS Cd−18−90による当技術分野で周知の方法を使用することにより測定されうる。
【0077】
油およびPUFAの使用
本発明の別の態様は、油、必要に応じて、さらに(追加の)物質を含んでなる組成物に関する。この組成物は、動物またはヒト用の食料品および/または食品補助製品でありうる。油はヒト消費に適切に、必要に応じて、通常、微生物から得られる油の精製または浄化によって提供されうる。
【0078】
組成物は乳児用ミルクまたは(ヒト用)食料品でありうる。ここで乳児用ミルクの組成物は、通常の母乳とほぼ同じ量の脂質またはPUFAを有するように調節されうる。これは、適切な組成物を獲得するために、本発明の微生物油を他の油と混合するステップを含みうる。
【0079】
組成物は動物または海洋飼料組成物または補助製品でありうる。かかる飼料はおよび補助製品は、家畜、具体的には、羊、畜牛、家禽に提供されうる。また、飼料または補助製品は、魚およびアワビなどの養殖海洋生物に提供されうる。したがって、組成物は、1つもしくはそれ以上の飼料物質またはかかる動物用の成分を含みうる。
【0080】
本発明の油は原油または精製油でありうる。これは直接、油として販売され、かつ適切な包装に収容され、通常はエポキシフェノール性ラッカーで内部コーティングされ、窒素で洗浄された一本のアルミニウム瓶でありうる。油は、1つもしくはそれ以上の抗酸化剤(例えば、トコフェロール、ビタミンE、パルミテート)を各々、例えば、100〜700ppmなど50〜800ppmの濃度で含有しうる。
【0081】
適切な組成物は、例えば、経口摂取される医薬または獣医組成物、または化粧用組成物を含みうる。油はかかるものとして摂取され、または、例えばシェルにカプセル化され、したがってカプセルの形態でありうる。シェルまたはカプセルは、ゼラチンおよび/またはグリセロールを含んでなりうる。組成物は他の成分、例えば調味料(例えば、レモンまたはライム調味料)、または医薬または獣医的に許容される担体もしくは賦形剤を含有しうる。
【0082】
消泡剤
脱気中、ガスの泡が水性液体中で形成しうる。これは脱ガスの工程中、ガスが溶液から出て(泡として)水性液体の表面に向けて上昇すると起こりうる。予想されるように、これは水性液体の上部に形成する気泡を引き起こしうる。気泡が望ましくない場合は、1つもしくはそれ以上の消泡剤を水性液体に添加することによって気泡形成を削減または阻止することができる。かかる消泡剤は当技術分野で周知であり、それから適切な消泡剤、例えばリン酸トリブチルが投入されうる。消泡剤は、好ましくは、疎水性のものであり、水中で不溶性でありうる。これは、例えば極性群で修飾された非極性炭化水素鎖を含んでなりうる。好ましい消泡剤としては、シリコーン油、パラフィン、脂肪アルコールアルコキシレート、および/またはポリグリコールが挙げられる。
【0083】
好ましい化学的脱気器としては、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸エトキシレート、脂肪酸ポリエーテル、および/または脂肪アルコールが挙げられる。
【0084】
脱気は、特に微生物細胞が加熱され、例えば、それらが殺され、または低温殺菌にかけられる場合にさらに利点を有する。細胞、または水性液体(または組成物が適切な段階でどんな細胞を含んで成ろうと)は、加熱または低温殺菌中に高温および/または高圧にかけられうる。これはガスを突然に、または激しく水性液体を出させ、例えば、微生物細胞移動中のポンプにおいてキャビテーションをもたらしうる。これは細胞壁崩壊を引き起こし、すなわち細胞を壊して開きうるため望ましくない。したがって、事前脱気ステップが、例えば加熱または低温殺菌中の高温または高圧中に生じうる可能な問題を削減しうる。
【0085】
機器(例えば、産業プロセスプラント)
本発明の第2の態様は、第1の態様の方法を実施するために適した装置に関する。したがって、第2の態様は、
(a)場合により結合される、微生物細胞を培養(または発酵)するための手段(例えば、発酵槽)と、
(b)微生物細胞を含んでなる水性液体を脱気するための手段と、
(c)場合により、微生物細胞から(結果として生じる)油を得るための手段とを含んでなりうる。
【0086】
1つの実施形態において、(b)における脱気は、細胞が(依然として)発酵槽内にある間に行われる。別の実施形態において、脱気手段は個別に(場合により接続されているが)(b)における脱気手段でありうる。したがって、細胞および培養培地(例えば、ブロス)は(例えば、直接)(b)における脱気手段に通過または移動されうる。低温殺菌の手段もありうる。(b)における脱気後、脱気液体は低温殺菌手段、または液体(および細胞)が低温殺菌される容器に移動または通過されうる。手段の各々は指定の順序、第1の態様の方法のステップの順序で配置されうる。
【0087】
好ましいシステムにおいて、水性液体は発酵槽から(適切にチューブ状の)加熱システムに移動されうる。水性液体は(事前)加熱されうるが、これはそれ自体、脱気を引き起こしうる。液体は、55〜65℃など、50〜70℃など、40〜80℃の温度に加熱されうる。したがって、加熱(または事前加熱ステップ)は、脱気システムの一環でありうる。脱気はさらに水(希釈法)および/または蒸気(ガス置換法)の添加によって促進されうる。これらのどちらかまたは両方は(事前)加熱前に起こりうる。
【0088】
例えば事前加熱後、水性液体は別の脱気ステップ、例えば真空または減圧にかけられうる。次いで、液体は低温殺菌にかけられうる。
【0089】
本発明の1つの態様の好ましい特徴や特性は、必要な変更を加えて別の態様に適用可能である。
【0090】
本発明はこれから、例示の目的で提供され、範囲を限定することが目的ではない、以下の実施例を参照することによって説明する。
【実施例】
【0091】
比較例1および実施例2〜4(発酵槽内の脱気)
真菌バイオマス(モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)の低温殺菌を含んだ一部の実験中、一部の酸化が確認された。説明として、特に高温で化学的酸化が結果として生じる発酵ブロス中の空気の存在であることが疑われた。微生物細胞は生存し、PUFAを生合成するために空気を必要とするが、低温殺菌(熱ショック処理)前に、発酵槽内の発酵ブロスの脱気を使用することが決定された。
【0092】
真菌バイオマス、M.アルピナの発酵を当技術分野で記述されているように行った。発酵は、国際公開第97/36996号パンフレットに記載されているものと同様に行われた(実施例を参照)。発酵は、およそ150〜200時間かかった。ブロスを小さな容器(容量350リットル)によって発酵槽から低温殺菌機器へ移した。
【0093】
150〜200時間の発酵時間で多くの同様の発酵からの発酵ブロスで試験を行った。
【0094】
実験の第1群において、発酵終了前2時間にスパージャーによってブロスへの空気の気泡化の停止(実施例2)および窒素を使用して発酵ブロス上のヘッドスペースにおける空気の交換(実施例3および4)を含む、さまざまな脱気方法を使用する発酵槽内に依然としてある間にブロスで直接、試験を行った。比較例1について脱気方法は行われなかった。
【0095】
熱ショック試験から得られた乾燥バイオマスをTPC(総平板計数)について分析した。TPCの結果は、標準条件下に低温殺菌されたブロスで測定されたものから外れることはなかった。脱気され、低温殺菌されたブロスを使用し、アラキドン酸(ARA)を含有する微生物/単細胞油を単離した。アラキドン酸原油を回収し、分析した。回収システムは、ブロスを脱気し低温殺菌した後、塩化カルシウム添加、ろ過/洗浄、および湿ったケーキを形成する圧搾を含んだ。次いで、この湿ったケーキを押出して押出し物を形成し、これを乾燥させ、結果として生じる乾燥バイオマスを抽出にかけた。
【0096】
およそ1リットルのブロスが、約45〜55グラムの乾燥バイオマスを約30〜35%の油とともに含有することがわかった。
【0097】
以下の実験室規模の回収方法が使用される。塩化カルシウム添加を塩化カルシウムフレークおよび水とともにガラスの実験容器を使用して行った。塩化カルシウムの25%w/w溶液をCaCl.2HOを用いて使用した。24グラムの溶液を1リットルの低温殺菌されたブロスに添加し、十分に混合した。
【0098】
ろ過を使用して膜フィルタプレスを刺激した。1リットルの「ザイツ(Seitz)」フィルタを、Sefar Fyltis AM 25116クロスとともに使用した。1リットルのブロスを0.5〜1bar窒素でろ過した。次いで、脱気し、ブロス量の0.6倍の洗浄水を添加し、水添加中にケーキを妨げなかった。次いで、ケーキを0.5〜1barで洗浄し、ケーキを約1分間乾かした。
【0099】
次いで、パネビス(Pannevis)クロス材料を使用するパネビス実験室規模ろ過ベルトを使用して真空ろ過を実行した。約400〜500mlのブロスを使用し、0.45bara(−0.55bar真空)の圧力にろ過した。次いで、ブロス量の0.6倍の洗浄水を添加し、ケーキを0.45baraの圧力で洗浄した。次いで、ケーキを吸引乾燥した。
【0100】
次いで、水がそれ以上に除去されなくなるまでバイオマスを平板間で圧搾した。これはチーズクロスを使用することによって行った。
【0101】
次いで、ミートグラインダー(ビクトリア(Victroria))押出し機を使用して押出しを実行した。次いで、結果として生じる顆粒を、30分間「5」の流速設定で吸込温度50℃の流動床乾燥機を使用して乾燥させた。乾物は91〜96%であった。
【0102】
次いで、抽出を実行し、100グラムの乾燥バイオマスを500mlのヘキサンにより周囲温度で60分間、抽出した。ヘキサンを傾斜し、250mlの新鮮ヘキサンで周囲温度下に30分間、ケーキを洗浄した。ヘキサンを傾斜し、前に抽出したヘキサンに添加した。抽出物をガラスフィルタを使用する真空ろ過によって浄化した。
【0103】
蒸発は、60〜70℃の水浴温度で200mbara下に5〜10分間、回転蒸気中のバルクヘキサンの洗浄を含んだ。残ったヘキサンも同じ温度で10〜20分間、100mbara未満で蒸発させた。酸化を最小限に抑えるために、窒素を使用してシステムを圧抜きした。
【0104】
次いで、結果として生じるARA含有油を以下の表1に示されているようにPOVおよびAnV含量について分析した。
【0105】
【表1】

【0106】
表1におけるデータからわかるように、ブロス中の空気量の削減は結果としてPOVおよび/またはAnVの改善をもたらした。これらの結果に基づき、脱気が酸化の減少、かつPOVおよびAnV値の改善を達成しうると考えられた。次いで、個別脱気器を使用する大量の別の試験を設定した。
【0107】
実施例5〜14(個別脱気)
永続的脱気システムを500mbara未満の作動圧力で「アンブレラノズル」とともに設置した。発酵槽から脱気器への発酵ブロスの移動は、低剪断ポンプ(ムンフポンプ)を用いて行った。
【0108】
脱気システムを、発酵後、ただし低温殺菌前にAPV脱気システムを使用して設置し、パラソル脱気器を模倣した。発酵槽を脱気器に連結し、ブロスを0.5barの移動圧力で移動させた。脱気器を真空ポンプに接続した。脱気器を通った後、熱ショック処理機器(APVも)を使用する低温殺菌のために送られる前にバイオマスを(ムンフポンプによって)貯蔵タンクに送った。ムンフポンプは、流速が10m/時であり、脱気器内部の圧力は400mbaraであった。
【0109】
表2は、この脱気設定を使用して行われた試験の結果を示す。微生物油の単離および分析は既述通りであった。
【0110】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油または多価不飽和脂肪酸(PUFA)を製造するための方法であって、前記方法が、
(a)細胞を含んでなる水性液体を脱気するステップと、
(b)前記油またはPUFAを前記細胞から得るステップとを含んでなる方法。
【請求項2】
前記細胞が微生物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、(a)の脱気後であるがステップ(b)の前に加熱されるか、または低温殺菌される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性液体が発酵ブロスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(c)前記油または1つもしくはそれ以上のPUFAを抽出するか、精製するか、または単離するステップをさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
脱気が、
a)真空(または減圧)の適用、
b)機械的脱気/脱ガス(攪拌、振動、遠心分離機またはサイクロンにおけるなど加速または重力の使用)、
c)粘度変更(水もしくは他の液体での希釈、または温度の上昇のいずれかによる)、
d)発酵条件の変更、例えばエアリフト、空気散布、発酵中の酸素もしくは空気の供給の削減、もしくは攪拌速度の削減、
e)例えばpHまたは酸性化を低下させることによるpH変化、
f)例えば、好ましくは、不活性ポリマー、例えばPTFEを含んでなるフィルタまたは膜を使用することによるろ過、
g)窒素などの不活性ガス、ヘリウムなどの希ガス、または蒸気を用いたガス置換、
h)例えば脱酸素剤、例えば亜硫酸ナトリウムまたはヒドラジンを使用する化学的脱気、
i)水性液体を、酸素または空気が液体から拡散するような条件下に置く時間、または(a)〜(i)における1つもしくはそれ以上の方法の組合せを含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記脱気が、削減した攪拌および/またはガス置換によって達成される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ガス置換が、酸素を含まず、または大気を下回る濃度レベルで酸素を含んでなるガスを使用して実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガスが、窒素であり、または窒素を含んでなる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
脱気が水性液体を減圧にかけるステップを含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記減圧が、800mbara以下、好ましくは、600mbara以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水性液体が、真空もしくは脱ガスポンプ、パラソル脱気器もしくはアンブレラノズルを使用して脱気される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
脱気が結果として20ppm未満、好ましくは、10ppm未満の水性液体中のO含量をもたらす、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
脱気が結果として10ppm未満、好ましくは、5ppm未満、より好ましくは、2ppm未満の溶存酸素の濃度をもたらす、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、脱気水性液体を
(i)1bara超、好ましくは、1.5bara超、より好ましくは、2bara超の圧力にかけるステップ、および/または
(ii)60℃超、好ましくは、80℃超、より好ましくは、100℃超の温度にかけるステップとを含んでなる請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、80℃超、好ましくは、90℃超、好ましくは、100℃超の温度で加熱または低温殺菌される、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記PUFAが、または油が、C18、C20もしくはC22Ω−3またはΩ−6PUFA(場合によりARA、EPA、DHA、および/またはGLA)であるPUFAを含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、酵母菌細胞、細菌細胞、真菌細胞、または藻細胞である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記油が微生物または単細胞油である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
(b)が、前記細胞からのPUFAを含んでなる油を得るステップを含んでなり、前記油が12未満のPOVおよび/または20未満のAnVを有する、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
PUFA、または請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法によって得られるPUFAを含んでなる油。
【請求項22】
前記油が微生物または単細胞油である、請求項21に記載の油。
【請求項23】
微生物細胞からの油またはPUFAを製造するための装置であって、
(a)微生物細胞を培養または発酵するための手段と、
(b)前記微生物細胞を含んでなる水性液体を脱気するための手段と、
(c)場合により、前記油またはPUFAを前記微生物細胞から得るための手段とを含んでなる装置。
【請求項24】
(a)が発酵槽容器を含んでなり、(b)が脱気器(場合により減圧をかけることが可能)、および/または(c)がホモジナイザーおよび/または遠心分離機を含んでなる、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
(b)が、真空もしくは脱ガスポンプ、パラソル脱気器もしくはアンブレラノズルを含んでなる、請求項23または24に記載の装置。
【請求項26】
(b)が、800mbara未満、好ましくは、600mbara未満の圧力をかけることが可能な脱気器を含んでなる、請求項23〜25のいずれか一項に記載の装置。

【公開番号】特開2011−97952(P2011−97952A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1192(P2011−1192)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【分割の表示】特願2006−546128(P2006−546128)の分割
【原出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】