脱水装置とそれを備える洗濯機
【課題】簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置とそれを備える洗濯機を提供する。
【解決手段】洗濯機100は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む洗濯物を収容するための内槽120と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置されて、水を保持するためのバランスリング130と、内槽120の回転により生じる遠心力によって内槽120内の水をバランスリング130に誘導するための樋123とを備える。
【解決手段】洗濯機100は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む洗濯物を収容するための内槽120と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置されて、水を保持するためのバランスリング130と、内槽120の回転により生じる遠心力によって内槽120内の水をバランスリング130に誘導するための樋123とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には脱水装置とそれを備える洗濯機に関し、特定的には、遠心力を用いて脱水を行なう脱水装置とそれを備える洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転の遠心力を利用した脱水装置や脱水を行なうことが可能な洗濯機は、回転機の不釣合い振動を低減させるために流体バランサ装置を備えている。不釣合い振動は、脱水するために脱水槽や洗濯槽などの回転槽に収容した洗濯物が回転槽の内部で偏り、回転槽がいわゆる不釣合い質量をもって回転することによって生じる。流体バランサ装置は、所定量の水あるいは塩水のような水溶液が注入されて密閉されたバランスリングなどによって構成される。このような流体バランサ装置は、脱水槽や洗濯槽などの回転体の回転速度が所定の範囲にあるとき、流体バランサ内に封入されている液体が回転体の不釣合い位置と反対側に移動することによって、回転体の過大な不釣合い振動を防止することができる。
【0003】
図13は、従来のバランスリングを備える洗濯機の回転槽の側面断面を概略的に示す図である。
【0004】
図13に示すように、円筒状の回転槽920は、回転槽920の上部において、回転槽920の周壁921上に、回転槽920と一体に形成されているバランスリング930を備える。バランスリング930は中空の環状であり、内部に液体収容空間931が形成されている。液体収容空間931内には水や塩水などの液体が収容されて密閉されている。
【0005】
回転槽920は、図13に一点鎖線で示す、回転槽920の底面の中心を通ってほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸901として回転するように、回転槽920の下方に配置されるモータ等によって駆動される。バランスリング930の高さ方向の中心を通る、図13に破線で示すバランスリング平面902と、回転槽920の底面の中心を通って鉛直方向に延びる軸との交点を、回転槽920のバランスリング平面902の中心O0とする。回転槽920の内部に洗濯物が偏ることなく均一に収容されている場合には、回転槽920の回転軸901は、回転槽920の回転時にも回転槽920の中心O0から大きくずれることなく回転する。
【0006】
図14は、従来のバランスリングを備える回転槽が不釣合い(アンバランス)を有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度以下で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0007】
図14に示すように、回転槽920の内部に収容される洗濯物が偏ってアンバランスUが発生している場合にも、回転槽920は、回転槽920の下方に設けられているモータ等によって、静止時の回転槽920の回転軸901と同じ回転軸901を中心として回転させられる。しかしながら、アンバランスUを有することによって回転槽920が傾いているので、回転軸901は回転槽920のバランスリング平面902の中心Oを通らず、回転槽920の中心Oの位置が、アンバランスUが無い状態で回転する時の回転槽920の中心O0からずれた状態で回転槽920が回転する。
【0008】
図15は、図14に示す回転槽をXV−XV線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0009】
図15に示すように、アンバランスUを有する状態で回転する回転槽920のバランスリング930内の任意の位置Wにおいては、バランスリング930内の液体には、回転槽920が回転軸901(図14)を中心に回転することによって生じる遠心力Fが作用する。バランスリング930内の液体に働く重力や摩擦力等のその他の力は図示を省略している。位置Wにあるバランスリング930内の液体は、位置Wにおける回転槽920の周の接線方向の遠心力Fの分力Tによって、回転槽920の回転時には位置Wから分力Tの向きに移動する。そのため、バランスリング930内の液体の重心WGは、バランスリング平面902(図14)の面内において、回転軸901(図14)が通る中心O0と、中心Oとを結ぶ直線上に、中心O0、中心O、アンバランスU、重心WGの順に並ぶように位置する。その結果、バランスリング930とバランスリング930内の液体と洗濯物を含めた回転槽920全体の重心Gは、バランスリング平面902上に投影されると、中心O0と中心Oを結ぶ線上において、中心O0、中心O、重心Gの順に並ぶように位置する。このように、脱水時の回転運動が開始されてから、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度(概ね300rpm以下)に達するまでの間は、アンバランスUを有した状態で回転する回転槽920の重心Gは、アンバランスUによる不釣合い振動を増大させる位置になる。
【0010】
回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えると、バランスリング930に封入された液体は回転槽920内のアンバランスUと反対の方向に移動する。
【0011】
図16は、従来のバランスリングを備える回転槽がアンバランスを有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度よりも大きい回転速度で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0012】
図16に示すように、回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えると、バランスリング930内の液体が、図14に示す位置から、中心Oに対してアンバランスUと反対側に移動し、液体の重心WGの位置が中心Oに対してアンバランスUと反対側になる。回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えている場合にも、回転槽920は、回転槽920の下方に設けられているモータ等によって、アンバランスUが無い状態で回転する時の回転槽920の回転軸901と同じ回転軸901を中心として回転させられる。
【0013】
図17は、図16に示す回転槽をXVII−XVII線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0014】
図17に示すように、回転槽920の回転時には、上述したように、位置Wにあるバランスリング930内の液体は、位置Wにおける回転槽920の周の接線方向の遠心力Fの分力Tによって、位置Wから分力Tの方向に移動する。そのため、バランスリング930内の液体の重心WGは、バランスリング平面902(図16)の面内において、回転軸901(図16)が通る中心O0と、中心Oとを結ぶ直線上に、アンバランスU、中心O0、中心O、重心WGの順に並ぶように位置する。その結果、バランスリング930とバランスリング930内の液体と洗濯物を含めた回転槽920全体の重心Gは、バランスリング平面902上に投影されると、中心O0と中心Oを結ぶ線上において、中心O0、重心G、中心Oの順に並ぶように位置する。このように、回転速度が洗濯機の1次モード共振に相当する回転速度を超えた場合には、アンバランスUを有した状態で回転する回転槽920の重心Gは、アンバランスUによる不釣合い振動を減少させる位置になる。このようにして、バランスリング930に封入された液体は回転槽920内の不釣合いを解消し、回転槽920の回転振動を低減する。
【0015】
従来のバランスリングなどの流体バランサ装置を備える脱水機や洗濯機は、このようにして、脱水槽や洗濯槽の回転時の不釣合い振動を防いでいる。
【0016】
例えば、特開昭63−158336号公報(特許文献1)に記載のバランサは、中空の環状に形成され、内部に水が封入されて密閉されている。バランサは、脱水槽の上端周辺に沿って設けられている。バランサの内部には遮蔽板が並べて配置されて、回転時のバランサ内の水の移動を制限することによって自励振動の発生を防いでいる。
【0017】
また、特開昭60−156495号公報(特許文献2)に記載の脱水兼用洗濯機は、環状のバランスリングを回転槽の上部に備えるが、バランスリングの内部には水が封入されておらず、密閉されていない。この脱水兼用洗濯機は、洗濯に用いた回転槽の内部の水を、脱水運転毎にポンプで揚水してバランスリング内に一定量供給することによって、脱水運転時の回転槽の回転による不釣合い振動を防ぐ。このようにすることにより、予め洗濯機の製造時にバランスリング内に水を封入して密閉する必要がない。
【0018】
一方、実開平1−138383号公報(特許文献3)に記載のドラム式洗濯機においては、ドラムは、水を満たした水槽内で水平軸を中心にして回転されて、ドラム内に収容されている洗濯物が遠心脱水される。ドラムの外周面には、ドラムの回転軸となる水平軸芯と同軸に略円環状の液溜り部が設けられており、水槽内の水が液溜り部の流入部から液溜り部の内部に流入して、脱水運転時のドラムの回転による不釣合い振動を防ぐ。また、遠心脱水終了後には、ドラムの回転速度が低下するに従って、液溜り部の内部の水は、流入部から重力によって自然落下する。
【0019】
また、特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載のドラム式洗濯機においては、水を満たした外槽内でドラムが水平軸または傾斜軸を中心にして回転されて、ドラム内に収容されている洗濯物が遠心脱水される。ドラムの外面には、複数の貯水槽が設けられており、貯水槽には注水手段によって水が供給されて、脱水運転時のドラムの回転による不釣合い振動を防ぐ。また、貯水槽内部の水は、遠心脱水の進行に伴って、遠心力によって貯水槽の外周面の排水孔から外槽内に流出させられる。このようにして、洗濯物から水分が抜けてドラム内の洗濯物の重量が減少するとともに貯水量を減少させることによって、ドラム全体の偏心荷重の変動に対応させている。
【特許文献1】特開昭63−158336号公報
【特許文献2】特開昭60−156495号公報
【特許文献3】実開平1−138383号公報
【特許文献4】特開2002−136792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来の流体バランサ装置は、洗濯機の脱水行程において、特に脱水起動時から、回転体の1次モード共振点に相当する回転速度に達するまでの間には、上述したように、回転軸に対して、回転体のアンバランスが位置する方向と流体バランサ装置中の水が移動する方向が一致し、不釣合い振動を増大させてしまうという問題がある。
【0021】
また、特開昭63−158336号公報(特許文献1)に記載のバランサのように、水、あるいは、食塩などの水溶液を密封した構成では、製造時に封入した液体をそのまま長期にわたって使用するものであるため、密閉構造を確実なものにする必要があり、コスト高となるという問題がある。さらに、製造当初には確実な密閉構造を達成しても、長期間にわたって使用する場合には、シールの劣化等により水漏れを生じることがある。水漏れが生じると、バランサ内に封入された水量が減少して、バランス作用を損なうという問題がある。
【0022】
特開昭60−156495号公報(特許文献2)に記載の脱水兼用洗濯機は、確実な密閉構造を必要としないが、脱水運転毎にバランスリング内に一定量の水を供給するためにポンプを用いるので、部品点数の増加や脱水兼用洗濯機全体の重量の増加という問題がある。
【0023】
そこで、この発明の目的は、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置とそれを備える洗濯機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明に従った脱水装置は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む繊維構造体を収容するための容器と、容器の上方において容器の周壁に配置されて、水を保持するための水保持部と、容器の回転により生じる遠心力によって容器内の水を水保持部に誘導するための水路とを備える。
【0025】
このようにすることにより、脱水中に容器の回転により繊維構造体から遠心分離された水を水保持部に導き、流体バランサとして作用させることができる。
【0026】
脱水装置で脱水するために容器内に収容されている繊維構造体に含まれる水を流体バランサに利用するため、従来のバランスリング等のように、予め水を封入して密閉する必要がない。そのため、製品の重量を必要以上に大きくしなくてもよいし、当初密閉したバランスリングを長期間使用することによってバランスリングの水漏れが生じて流体バランサの作用が損なわれることもない。
【0027】
また、遠心力を利用して、繊維構造体に含まれる水を容器内から水保持部に誘導するため、従来のように揚水のための給水ポンプなどを必要とすることなく、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0028】
さらに、容器の回転数が小さい場合には、容器内の水に働く遠心力が小さく、水保持部には水が誘導されないことから、回転初期に不釣合い振動を増大するような状況に陥ることなしに、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0029】
このようにすることにより、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置を提供することができる。
【0030】
この発明に従った脱水装置においては、水路は容器の周壁に配置され、回転軸と水路との距離は、容器の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0031】
このようにすることにより、容器内の繊維構造体から遠心分離された水を遠心力によって水保持部に誘導することが容易になる。
【0032】
この発明に従った脱水装置においては、容器の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、容器の回転により生じる遠心力によって水保持部の内部に流入した水が水保持部の内部に保持され、かつ、水保持部の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、容器の回転により生じる遠心力によって水保持部の内部に流入した水が水保持部の内部に保持されないように水保持部は構成されていることが好ましい。
【0033】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期には、容器内の水に働く遠心力が小さく、容器内の水は水路を通って水保持部に流入しないので、水保持部の内部において水が回転することによる自励振動やアンバランスの増大を防ぐことができる。また、脱水工程初期および脱水工程終了時には水保持部に水が保持されないので重量を減少させることができ、回転開始時、あるいは、制動時に、容器を回転させるための駆動モータ等への負担を減少させることが可能となる。
【0034】
この発明に従った脱水装置においては、水路に流入した水を容器の内部に逆流させないようにして水路の外部に排出することが可能であるように水路は構成されていることが好ましい。
【0035】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期においては、容器から水路に遠心分離された水が、水保持部に誘導される前に水路から排出されてしまわないように水路内に保持することができるとともに、脱水工程終了時においては、水保持部まで到達しなかった水が再び容器に戻って脱水した繊維構造体を濡らしてしまうことを防止することができる。
【0036】
この発明に従った脱水装置においては、水路は、多孔質状に形成されている水保持部材を有することが好ましい。
【0037】
このようにすることにより、多孔質状に形成されている水保持部材の毛管現象を利用して水を回転方向に幅広く分散させて保持することができるので、回転時に水路内の水が偏ってアンバランスの原因となることを防止することが可能となる。
【0038】
この発明に従った脱水装置は、容器内に殺菌効果を有する物質を供給するための供給手段を備え、供給手段は、容器の内部に殺菌効果を有する物質を供給するように構成されていることが好ましい。
【0039】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、水路や水保持部の内部の汚れや、それに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0040】
この発明に従った脱水装置においては、殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水であることが好ましい。
【0041】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、銀の抗菌作用をもって、水路や水保持部の内部の汚れやそれに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0042】
この発明に従った脱水装置においては、水保持部は、水保持部の内部と外部とを連通して水を水保持部から排水するための水保持部排水孔と、水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されていることが好ましい。
【0043】
容器の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度よりも高くなると、水保持部内の液体が水保持部内部において移動して、不釣合いが低減される。しかしながら、容器の回転速度がさらに上昇し、容器の2次モード共振点に相当する回転速度に近付くと、水保持部内の液体は、再び不釣合いを増大させる方向へ移動する。
【0044】
実開平1−138383号公報(特許文献3)と特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載の洗濯機は、脱水工程において、バランサ装置として使用されている液溜り部や貯水槽から水を排出することが可能な構成を有する。しかしながら、これらの洗濯機においては、脱水工程の終了時に液溜り部の内部の水を自然落下させて排水したり、貯水槽の外周面等に形成された排水孔から脱水工程の進行に伴って遠心力によって徐々に排水させたりするだけで、液溜り部や貯水槽の内部の水によって、一旦、不釣合いが低減された後に再び不釣合いが増大することを防ぐものではない。
【0045】
そこで、水保持部は、水保持部の内部と外部とを連通して水を水保持部から排水するための水保持部排水孔と、水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されていることによって、容器の回転数が2次モード共振点に相当するほど高い場合に、水保持部の内部に導かれた水が不釣合いを増大させることを防ぐことができる。
【0046】
この発明に従った脱水装置においては、弁体は、容器が所定の速度よりも低い速度で回転している場合には水保持部排水孔を閉塞し、かつ、容器が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、水保持部排水孔を開放するように構成されていることが好ましい。
【0047】
このようにすることにより、脱水工程中に容器の2次モード共振が起こる回転速度に近付いた時点で弁体が水保持部排水孔を開き、水保持部内の水を排出することによって、2次モード共振が起こる回転速度に近付くに従って水保持部内の水が不釣合い振動を増大させる方向へ移動することを防止することが可能となる。
【0048】
この発明に従った脱水装置においては、弁体は、弾性体によって形成されていることが好ましい。
【0049】
このようにすることにより、電磁力等を用いて開閉する弁体を使用する場合と比較して部品点数を減らし、簡便な構造とすることが可能となる。
【0050】
この発明に従った脱水装置においては、水路は、水路の内部と外部とを連通して水を水路から排水するための水路排水孔と、水路排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水路排水孔を開放または閉塞するように構成されていることが好ましい。
【0051】
このようにすることにより、脱水工程の初期においては、水路排水孔を閉塞することによって、容器から遠心分離されて水路内に流入した水が水保持部に導かれる前に水路から排出されないように水路内に保持するとともに、脱水工程の終了時においては、水路排水孔を開放することによって、水保持部に到達しなかった水が、水路を逆流して容器内に再び戻ってしまうことを防止することができる。
【0052】
この発明に従った洗濯機は、上記のいずれかの脱水装置を備えることが好ましい。
【0053】
このようにすることにより、繊維構造体の洗濯終了後に速やかに脱水を行なうことができる。
【発明の効果】
【0054】
以上のように、この発明によれば、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置とそれを備える洗濯機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0056】
(第1実施形態)
図1は、この発明の第1実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【0057】
図1に示すように、脱水装置を備える洗濯機100は、筐体101の内部に、防振系102によって筐体101に支持されている外槽140と、外槽140の内側に配置されている容器として内槽120と、外槽140と内槽120の上方に配置される供給手段として給水装置110と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置される水保持部としてバランスリング130と、内槽120の下方に配置されるモータ104と動力伝達機構103と、排水経路141と、排水弁142と、制御部105とを備える。内槽120とバランスリング130は一体に形成されている。
【0058】
内槽120の底面内部には、内槽120内の水を撹拌するためのパルセータ(図示せず)が配置されている。パルセータの軸は内槽120の底面から内槽120の外側へ突き出ており、動力伝達機構103を通してパルセータを駆動するためのモータ104に接続されている。内槽120は、動力伝達機構103を通してモータ104によって、内槽120の底面の中心を通ってほぼ鉛直方向に延びる軸を中心に回転させられる。
【0059】
給水装置110は、銀イオン溶出装置111と、内槽120内に給水するための給水弁112と、補助給水弁113とを含む。
【0060】
図2は、内槽の全体を概略的に示す斜視図である。図3は、バランスリングと樋と内槽の断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0061】
図1から図3に示すように、内槽120は、ほぼ円筒状に形成され、周壁121の全体に多数の孔122が形成されている。内槽120の周壁121の上には、内槽120の下部から上部までのほぼ全体にわたって延びる水路として複数の樋123が配置されている。複数の樋123は内槽120の周方向に間隔をあけて配置されている。樋123は、内槽120の周壁121に形成されている孔122を内槽120の外側から覆うように内槽120と一体化するように形成されている。樋123の上端は、内槽120の上方に配置されているバランスリング130の内部に入りこむように配置されている。内槽120の周壁121の外周面と樋123の内壁面123dとの距離は、内槽120の下部では小さく、内槽120の上部では大きくなるように形成されている。したがって、内槽120の回転軸と樋123との距離は、内槽120の下部から上部に向かって次第に大きくなる。樋123の下部には、排水孔124が形成されている。
【0062】
図4は、樋の全体を概略的に示す斜視図である。
【0063】
図4に示すように、樋123は、上方から見た断面がUの字状に形成されている。樋123は、弧123cの両端に2枚の側壁123aと側壁123bが配置されて構成されている。弧123cは、内槽120の周壁121に沿った形状を有し、第1実施形態においては、樋123は、弧123cの中心角、すなわち、弧123cの両端の側壁123aと側壁123bのなす角度αがπ/6であるように形成されており、内槽120の外周には6つの樋123が、π/6ずつ互いに間隔を開けて配置されている。
【0064】
図1から図4を参照して、洗濯機100の洗濯工程とすすぎ工程と、脱水工程を説明する。
【0065】
内槽120の内部には、繊維構造体として洗濯物が収容される。洗濯工程とすすぎ工程においては、外槽140の下部の排水弁142が閉じられ、給水装置110の給水弁112が開かれて、内槽120の内部に上方から所定量の水が供給される。内槽120内に供給された水は、内槽120の周壁121の孔122を通って、内槽120の外面と外槽140の内面との間の空間に流入し、内槽120を含む外槽140の内部が水で満たされる。モータ104が駆動されると、動力伝達機構103を通してパルセータが回転させられて内槽120内の水と水中の洗濯物が撹拌される。洗濯工程とすすぎ工程の排水時には、排水弁142が開かれて、外槽140の内部に貯められている水が排水経路141を通って排水口143から排水される。樋123の内部の水は、排水孔124を通って樋123の外部、すなわち、内槽120と外槽140との間の空間に排出され、排水経路141を通って排水口143から排水される。排水弁142を所定の時間、開くことによって内槽120と外槽140の内部からの排水が終了しても、洗濯物は水を含んだ状態で内槽120内に収容されている。内槽120中の水位が規定の値より低下したことを制御部105が確認すると、モータ104は脱水回転運動を開始する。
【0066】
脱水工程においては、洗濯工程またはすすぎ工程において内槽120と外槽140の内部に貯められた水を排水した後、排水弁142を開けたままで、モータ104が駆動され、動力伝達機構103を通して内槽120が回転させられる。内槽120が回転すると、内槽120内に収容されている洗濯物に含まれる水に遠心力が働き、遠心力を受けた水は、孔122を通って内槽120の外部に流出し、回転していない外槽140の内壁面に衝突して、外槽140の内壁面を伝って下方へ流れ落ちる。水は、排水経路141から排水口143を通って洗濯機100の外部に排出される。
【0067】
一方、内槽120の孔122は、内槽120の周壁121の周方向にπ/6の角度ずつ間隔を開けて、π/6の角度にわたって樋123によって内槽120の外側から覆われている。そのため、内槽120が回転することによって遠心力を受けて孔122の外部に流出した水の一部は、内槽120と外槽140との間の空間に流出せずに、樋123の内部に保持される。
【0068】
樋123は、内槽120の回転軸からの距離が下部で小さく、上部で大きいテーパ形状に形成されている。内槽120の内部から孔122を通って内槽120の周壁121と樋123との間に流出した水は、内槽120の回転による遠心力を受けて、樋123の内壁面123dに沿って内槽120の回転軸から離れる方向に移動するため、樋123の内壁面123dに沿って樋123の内部を上昇するように移動し、内槽120の上方に配置されているバランスリング130の内部に流入する。樋123の弧123cの中心角αの大きさと、内槽120の外部に配置する樋123の数を変更することによって、バランスリング130に誘導する水の量を変更することができる。樋123の大きさと数は、洗濯機100の大きさ等より規定する。例えば、α=2πとした場合、内槽120の外周を全周に亘って覆う樋123を備える洗濯機100や、α=π/6とした場合、樋123を6個備える洗濯機100が考えられる。
【0069】
樋123は、内部に多孔質状に形成されている水保持部材(図示せず)を備えてもよい。樋123の弧123cの中心角が大きい場合には、多孔質部材のような吸水性の高い水保持部材を樋123の内部に備えることによって、バランスリング130に到達せずに樋123内に保持された水がアンバランスを増長する原因とならないように、樋123の内部の水を周方向に分散して保持することができる。
【0070】
遠心力によって内槽120から樋123を通ってバランスリング130内に誘導された水は、内槽120に収容されている洗濯物が偏って内槽120にアンバランスがある状態で回転しているとき、バランスリング130内においてアンバランスを解消する方向に移動して、流体バランサとして働く。
【0071】
このように、洗濯機100は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む洗濯物を収容するための内槽120と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置されて、水を保持するためのバランスリング130と、内槽120の回転により生じる遠心力によって内槽120内の水をバランスリング130に誘導するための樋123とを備える。
【0072】
このようにすることにより、脱水中に内槽120の回転により洗濯物から遠心分離された水をバランスリング130に導き、流体バランサとして作用させることができる。
【0073】
洗濯機100で脱水するために内槽120内に収容されている洗濯物に含まれる水を流体バランサに利用するため、従来のバランスリング等のように、予め水を封入して密閉する必要がない。そのため、洗濯機100の重量を必要以上に大きくしなくてもよいし、当初密閉したバランスリングを長期間使用することによってバランスリングの水漏れが生じて流体バランサの作用が損なわれることもない。
【0074】
また、遠心力を利用して、洗濯物に含まれる水を内槽120内からバランスリング130に誘導するため、従来のように揚水のための給水ポンプなどを必要とすることなく、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0075】
さらに、内槽120の回転数が小さい場合には、内槽120内の水に働く遠心力が小さく、バランスリング130には水が誘導されないことから、回転初期に不釣合い振動を増大するような状況に陥ることなしに、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0076】
このようにすることにより、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な洗濯機100を提供することができる。
【0077】
また、洗濯機100においては、樋123は内槽120の周壁121の外側に配置され、内槽120の回転軸と樋123との距離は、内槽120の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されている。
【0078】
このようにすることにより、内槽120内の繊維構造体から遠心分離された水を遠心力によってバランスリング130に誘導することが容易になる。
【0079】
また、洗濯機100においては、樋123は、多孔質状に形成されている水保持部材を有してもよい。
【0080】
このようにすることにより、多孔質状に形成されている水保持部材の毛管現象を利用して水を回転方向に幅広く分散させて保持することができるので、回転時に樋123内の水が偏ってアンバランスの原因となることを防止することが可能となる。
【0081】
図5は、内槽とバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0082】
図5に示すように、バランスリング130は、内槽120の上方において内槽120の周壁121の外側に、内槽120と一体に形成されている。バランスリング130は、側断面がCの字状となるような形状を有する。バランスリング130は、上端132において内槽120の周壁121の上端と接続されており、上端132から下端131までの間には、内槽120の回転軸側に凹面、回転軸の反対側に凸面が形成されるように、凹部133が形成されている。バランスリング130の上端132は内槽120と接続されているが、バランスリング130の下端131と、内槽120の外側に配置されている樋123との間には空間が形成されている。バランスリング130の下端131と、内槽120の回転軸との距離をrとする。第1実施形態においては、r=0.25mとする。バランスリング130の下端131の傾きは、バランスリング130の下端131における凹部133の接線に垂直な直線と水平線とのなす角θで表す。
【0083】
脱水工程において内槽120が回転すると、内槽120内に収容されている洗濯物が含む水に遠心力が働き、内槽120内の水は、図中の二点鎖線の矢印で示すように、内槽120の周壁121に沿って上昇して孔122から樋123の内部に流出し、樋123の内壁面123dに衝突し、樋123の内壁面123dを伝うように上昇して、バランスリング130の凹部133に流入し、凹部133に貯められることによってバランスリング130内に保持される。このようにして、バランスリング130に水150が保持される。
【0084】
バランスリング130内に流入し、凹部133に貯められている質量mの水150には、内槽120が角速度ωで回転している場合には、バランスリング130の下端131において、mgの大きさの重力と、mrω2の大きさの遠心力がはたらく。ここでは、水150の質量mがバランスリング130の下端131に集中するとしている。バランスリング130の下端131において水150に働く重力mgと遠心力mrω2の合力Sが水平面となす角度をθ1とする。θ1は、tanθ1=mg/mrω2として表される。内槽120の回転軸からバランスリング130の下端131までの距離rと、内槽120の回転速度によって、バランスリング130の下端131において水150に働く遠心力の大きさが変化し、合力Sと水平面とのなす角θ1の大きさが変化する。
【0085】
バランスリング130の下端131において合力Sと水平面とのなす角θ1の大きさが、バランスリング130の下端131の傾きを表すθよりも大きい場合には、バランスリング130の凹部133に貯められている水150はバランスリング130内に保持されずに落下する。例えば、θ=15°の場合には、内槽120の回転速度が115rpm以下のときにmg/mrω2=tanθ1>tanθ、すなわち、θ1>θとなり、凹部133に保持されている水150がバランスリング130から落下する。
【0086】
図6は、内槽と、別の形状のバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0087】
図6に示すように、バランスリング130の形状を、図5に示す形状と異なる形状としてもよい。図6に示すバランスリング130は、凹部133に貯めることのできる水150の量が図5に示すバランスリング130よりも大きくなるように構成されている。
【0088】
上述したように、バランスリング130の下端131において、tanθ1=mg/mrω2で表される、凹部133内に保持されている水150に働く重力と遠心力との合力が水平線となす角度θ1が、バランスリング130の下端131における傾きを表すθよりも大きければ、バランスリング130内の水150は凹部133に保持されずに落下する。ここで、tanθ1=mg/mrω2=g/rω2であるから、図5に示すバランスリング130と比べて凹部133の容積が大きい図6に示すバランスリング130の場合にも、θ=15°とすれば、内槽120の回転速度が115rpm以下のときに凹部133に保持されている水150がバランスリング130から落下する。
【0089】
このように、バランスリング130の下端131の傾きによって、脱水工程においてバランサ作用が必要とされる内槽120の回転速度範囲に合わせて、バランスリング130内に水150を保持することができる。
【0090】
また、バランスリング130の下端131の傾きが同じバランスリング130であっても、バランスリング130の凹部133の形状を変えることによって、バランスリング130の容積を変更することができる。例えば、バランスリング130の凹部133において、内槽120の回転軸からバランスリング130の最大外周面までの距離を270mmとし、下端131における内槽120の回転軸からバランスリング130の距離を250mmとし、バランスリング130の下端131から上端132までの高さを30mmとすると、バランスリング130の凹部133の容積は2L弱となる。
【0091】
バランスリング130の内部に保持される水150の量が多い程、アンバランスを解消するバランサ作用が大きくなる。また一方では、バランスリング130によって不釣合い振動を解消するためには、バランスリング130の内部に保持する水150の量は、バランスリング130の容積の約半分程度であることが好ましい。そこで、内槽120の外側に配置して内槽120の孔122をふさぐ樋123の形状と数によってバランスリング130内に導かれる水150の量がバランスリング130の容積の半分程度になるように、バランスリング130の凹部133の形状によってバランスリング130の容積を決定することによって、バランスリング130による不釣合い振動の補正効果を高めることができる。
【0092】
図6に示すバランスリング130のその他の構成と作用は、図5に示すバランスリング130と同様である。
【0093】
このようにしてバランスリング130の形状を決定することで、脱水工程初期において、1次モード共振が起こると考えられるような、低い回転速度のときにはバランスリング130内に水150を存在させないことによって、不要な自励振動の発生を防止することができる。また、回転開始時には、バランスリング130内に水150が誘導されておらず、バランスリング130を含む内槽120の上部の重量が小さいことから、モータ104や動力伝達機構103(図1)への負担を少なくし、内槽120の回転数が十分に上昇するまでにかかる時間を短縮することが可能となる。また、脱水行程終了時に内槽120の回転速度が低下すると、バランスリング130内の水150は自重によりバランスリング130の下端131から落下して排水経路141(図1)へ移動し、バランスリング130の質量が小さくなるため、モータ104や動力伝達機構103への負担が小さくなり、制動時間の短縮も可能となる。
【0094】
このように、洗濯機100においては、内槽120の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、内槽120の回転により生じる遠心力によってバランスリング130の内部に流入した水150がバランスリング130の内部に保持され、かつ、バランスリング130の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、内槽120の回転により生じる遠心力によってバランスリング130の内部に流入した水150がバランスリング130の内部に保持されないようにバランスリング130は構成されている。
【0095】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期には、内槽120内の水に働く遠心力が小さく、内槽120内の水は樋123を通ってバランスリング130に流入しないので、バランスリング130の内部において水が回転することによる自励振動やアンバランスの増大を防ぐことができる。また、脱水工程初期および脱水工程終了時にはバランスリング130に水150が保持されないので重量を減少させることができ、回転開始時、あるいは、制動時に、内槽120を回転させるための駆動モータ104等への負担を減少させることが可能となる。
【0096】
図3の(A)に示すように、内槽120内に収容されている洗濯物を脱水するために、ある程度以上の回転速度で内槽120を回転させているときには、内槽120内の水が図中の二点鎖線の矢印で示すように、内槽120の回転で生じる遠心力によって内槽120の周壁121に沿って上昇し、孔122を通って外部に樋123の内部に流出し、樋123の内壁面123dに沿って上昇して、バランスリング130の内部に流入して保持される。バランスリング130の内部に保持されている水は、内槽120の回転速度が低くなると、バランスリング130の下端131を通ってバランスリング130から落下する。
【0097】
一方、図3の(B)に示すように、脱水工程の終了時に内槽120の回転速度が低くなる時には、樋123の内部の水に働く遠心力が小さくなり、樋123の内部の水は樋123の内壁面123dに沿って落下し、樋123の下部に形成されている排水孔124を通って、内槽120の内部に逆流することなく、外部に排出される。
【0098】
このように、洗濯機100においては、樋123に流入した水を内槽120の内部に逆流させないようにして樋123の外部に排出することが可能であるように樋123は構成されている。
【0099】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期においては、内槽120から樋123に遠心分離された水が、バランスリング130に誘導される前に樋123から排出されてしまわないように樋123内に保持することができるとともに、脱水工程終了時においては、バランスリング130まで到達しなかった水が再び内槽120に戻って脱水した洗濯物を濡らしてしまうことを防止することができる。
【0100】
樋123は、排水孔124に排水弁(図示せず)を備えるものであっても良い。これは、脱水工程初期の、内槽120の回転速度が低いときに、バランスリング130に到達せずに樋123の内部に保持されている水がアンバランスの原因となるような状況になった時、この水を排水することが可能となるようにするものである。
【0101】
また、洗濯機100の給水装置110(図1)は、洗濯工程やすすぎ工程の最終工程において、内槽120に水を供給するときに、銀イオン溶出装置111(図1)によって溶出された銀イオンを含む水を内槽120に供給する。洗濯工程やすすぎ工程の後、脱水工程に入る前に、内槽120内の水の大部分はバランスリング130に導入されずに排水経路141(図1)を通って排水されるが、内槽120に収容されている洗濯物には銀イオン水が含まれる。脱水工程において銀イオンを含む水が樋123を通ってバランスリング130に導かれる。
【0102】
このように、洗濯機100は、内槽120内に殺菌効果を有する物質を供給するための給水装置110を備え、給水装置110は、内槽120の内部に殺菌効果を有する物質を供給するように構成されている。洗濯機100においては、殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水である。
【0103】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、銀の抗菌作用をもって、樋123やバランスリング130の内部の汚れやそれに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0104】
洗濯機100は、洗濯およびすすぎの最終工程中に、洗濯機100の給水装置110に備えられた銀イオン溶出装置111において殺菌性銀イオン水を生成し、補助給水弁113を通じて樋123内の壁面に殺菌性銀イオン水を供給するようにしてもよい。このようにすることにより、内槽120内の洗濯内容物を再び濡らすことなく、樋123とバランスリング130内部の汚れや、それに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0105】
また、洗濯機100においては、水が内槽120に接合された樋123の内部を通ってバランスリング130へ移動するものとしたことから、洗濯機100の筐体101(図1)に対する内槽120の設置角度によらず、水をバランスリング130へ導入し、不釣合い振動を抑制することが可能となる。
【0106】
(第2実施形態)
図7は、この発明の第2実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【0107】
図7に示すように、第2実施形態の内槽120は、内槽120の周壁121の全体ではなく、周壁121の上部のみに孔122を有する。内槽120の上部の孔122は、内槽120の上部において、周壁121の周囲に内槽120と一体に形成されているバランスリング130の内部と連通している。水路として内槽120の周壁121は、内槽120の下部よりも上部において径が大きくなるように形成されており、内槽120は、いわゆる穴無し槽である。第2実施形態の洗濯機は、第1実施形態の洗濯機100が備えるような樋を備えていない。
【0108】
脱水工程において内槽120が回転すると、内槽120に収容される洗濯物に含まれる水に遠心力が働いて、水は、内槽120の周壁121に沿って上昇する。内槽120の壁には、上部にのみ孔122が形成されているので、水は、内槽120の上部の孔122に到達するまで内槽120の外部に排出されない。このようにすることにより、洗濯物に含まれる水の大部分をバランスリング130に誘導することができる。また、内槽120の外部に第1実施形態の洗濯機100が備えるような樋を備える必要がない。
【0109】
第2実施形態の洗濯機の動作と効果の詳細については、第1実施形態の洗濯機100と同様である。
【0110】
(第3実施形態)
図8は、この発明の第3実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【0111】
図8に示すように、第3実施形態の洗濯機が第1実施形態の洗濯機と異なる点としては、バランスリング130の外周面には複数の弁体160が備えられている。第3実施形態の洗濯機100のその他の構成は、第1実施形態の洗濯機100と同様である。
【0112】
脱水工程において、内槽120の回転速度が、1次モード共振が起こると考えられる回転速度よりも高くなると、バランスリング130内に保持されている水は、内槽120の不釣合い位置と反対側に移動して、流体バランサ装置としての役目を果たす。このようにして、脱水工程初期の過大な不釣合い振動を防止することができる。
【0113】
しかしながら、脱水工程の進行に伴って内槽120の回転速度がさらに上昇すると、内槽120の回転速度は、2次モード共振が起こると考えられる速度に近付く。2次モード共振が起こるような回転速度では、バランスリング130内の水は、再び内槽120の不釣合い位置と同じ側に移動して、不釣合い振動を増大させてしまう可能性がある。2次モード共振が起こると考えられる回転速度は、回転系の重量や構造により決定されるが、少なくとも1000rpm以上の回転速度であり、1次モード共振が起こると考えられる回転速度の範囲、すなわち、概ね500rpm以下の回転速度と比較すると、十分に高い回転速度である。
【0114】
図9は、この発明の第3実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【0115】
図9の(A)に示すように、第3実施形態の洗濯機が備えるバランスリング130が第1実施形態のバランスリング130(図5)と異なる点としては、バランスリング130の凹部133を形成するバランスリング130の壁に、複数の弁体160が配置されている。
【0116】
図9の(B)に示すように、第3実施形態の洗濯機100は、第2実施形態の洗濯機100の内槽120(図7)のように、いわゆる穴無し槽であってもよい。内槽120が穴無し槽であっても、弁体160は、バランスリング130の凹部133を形成する壁上に、バランスリング130の周方向に複数配置される。
【0117】
図10は、この発明の第3実施形態の洗濯機が備える弁体の側面断面を示す側断面図である。図の右側が内槽の中心方向、図の左側が内槽の外周方向である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0118】
図10の(A)と(B)に示すように、弁体160は、バランスリング130の内壁面上に設置されているシリンダ161と、シリンダ161内を移動することが可能であるように配置されているピストン162と、ピストン162をバランスリング130の内部側に付勢するための弾性体としてコイルばね163とから構成されている。
【0119】
シリンダ161は、シリンダ161の内部の空間が、バランスリング130の壁面に形成されてバランスリング130の内面と外面とを結ぶ水保持部排水孔としてバランスリング排水孔134と連通されるようにして、バランスリング130に配置されている。シリンダ161には、穴164が形成されている。バランスリング130内の水は、シリンダ161の穴164を通ってシリンダ161内に流入し、バランスリング130のバランスリング排水孔134を通ってバランスリング130の外部に流出することができる。ピストン162は、円柱状の蓋部162aと円柱状の支持部162bとを、細い棒体部162cで連結した亜鈴型に形成されている。蓋部162aと支持部162bの径は、バランスリング排水孔134の径とほぼ同等の大きさであり、棒体部162cの径は、バランスリング排水孔134の径よりも小さい。ピストン162は、蓋部162aの一部がシリンダ161内に挿入され、蓋部162aの一部がバランスリング130の外部に突出するように配置されている。ピストン162は、必要に応じてピストンリングを備えてもよい。コイルばね163は、一方の端部がピストン162の蓋部162aにおいてバランスリング130の外部に突出している側の端面に固定され、他方の端部がバランスリング130の外面上に固定されている。コイルばね163は、ピストン162をバランスリング130の内部方向に付勢している。
【0120】
図10の(A)に示すように、内槽120(図8)が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、ピストン162の蓋部162aがバランスリング排水孔134を閉塞する。従って、バランスリング130内の水は、穴164からシリンダ161内に流入しても、バランスリング排水孔134がピストン162によって閉塞されているので、バランスリング130の外部に流出することができない。このようにして、バランスリング130の内部に水が保持される。
【0121】
図10の(B)に示すように、内槽120(図8)が回転し、内槽120の回転数が所定の回転数より大きくなると、コイルばね163によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりもピストン162に働く遠心力の方が大きくなって、ピストン162がシリンダ161内をバランスリング130の外部方向に移動する。ピストン162がシリンダ161内を移動して、蓋部162aがバランスリング排水孔134を開放し、ピストン162の細い棒体部162cがバランスリング排水孔134の内部に位置すると、バランスリング130内の水は、シリンダ161の穴164からシリンダ161の内部に流入し、バランスリング排水孔134と棒体部162cとの間の空間を通って、シリンダ161内からバランスリング130の外部に排出される。
【0122】
バランスリング130の内部の水がバランスリング排水孔134を通って排出されることが可能となる内槽の回転速度は、以下のようにして決定される。
【0123】
ピストン162の質量をmp、内槽120の中心からバランスリング排水孔134の外周までの距離をR、バランスリング排水孔134の外周における内槽120の回転の角速度をωとする。また、シリンダ161内に一部が挿入されているピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面から、バランスリング排水孔134のバランスリング130の外面側の端部までの内槽120の静止状態における距離をd0とし、内槽120の静止状態におけるピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の位置と、内槽120の回転状態におけるピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の位置との距離、すなわち、ピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の移動距離をd1とする。また、コイルばね163のばね定数をkとする。
【0124】
内槽120が回転すると、バランスリング130の外周上において、ピストン162には、内槽120の中心から内槽120の周に向かう方向に大きさmpRω2の遠心力が働く。このとき、コイルばね163に働く力のつりあいの式は、mpRω2=kd1となる。
【0125】
ピストン162の蓋部162aがバランスリング排水孔134を開放するのは、d1がd0以上のときである。したがって、内槽120の2次モード共振点に相当する回転の角速度をω1とすると、mpRω12=kd0の関係を満たすようなばね定数kを有するコイルばね163を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になってバランスリング130内の水が不釣合いを増大させるときに、バランスリング130内から排水することができる。また、mpRω12=kd0の関係を満たすばね定数kよりも小さいばね定数kを有するコイルばね163を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になる前に、バランスリング130内から排水することができる。
【0126】
図11は、この発明の第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体を示す図である。図11の(A)は、内槽が静止しているときの弁体の状態を示す側断面図、(B)は、内槽が静止しているときの弁体の正面図、(C)は、内槽が所定の回転速度以上の速度で回転しているときの弁体の状態を示す側断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0127】
図11の(A)から(C)に示すように、第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体160bは、バランスリング130に形成されているバランスリング排水孔134を覆うように配置されている弾性体として板ばね165と、板ばね165の下部に取り付けられている錘166とから構成されている。板ばね165は、板ばね165の上部において固定部材167によってバランスリング130の外壁面上に固定されている。固定部材167の位置が板ばね165の支点となる。板ばね165は、静止時の水漏れを防止するためのパッキンを有してもよい。錘166は、板ばね165によって、バランスリング130と内槽120(図8)の中心方向に付勢されている。
【0128】
図11の(A)に示すように、内槽120が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、板ばね165がバランスリング排水孔134を閉塞し、バランスリング130内の水はバランスリング130内に保持される。
【0129】
図11の(C)に示すように、内槽120の回転数が所定の回転数よりも大きい場合には、錘166に働く遠心力が板ばね165によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりも大きくなって、錘166がバランスリング130から離れる方向に力を受ける。錘166が固定されている板ばね165の下部も、バランスリング130から離れる方向に力を受けてバランスリング130の外周面から離れ、バランスリング排水孔134が開放されて、バランスリング130内の水がバランスリング排水孔134を通って排出される。
【0130】
バランスリング130の内部の水がバランスリング排水孔134を通って排出されることが可能となる内槽の回転速度は、以下のようにして決定される。
【0131】
図11の(A)から(C)に示すように、固定部材167の中心、すなわち、板ばね165の支点から、バランスリング排水孔134の下端までの距離をL、板ばね165の幅をH、板ばね165の厚さをD、質量をmLとする。また、バランスリング排水孔134の下端において、バランスリング130の半径方向における板ばね165の変位をd2とする。簡単のために、板ばね165に働く力は、錘166による集中荷重のみであると仮定する。なお、実際には、遠心力による分布荷重も考慮する。
【0132】
板ばね165の材料の縦弾性係数をE、ポアソン比をνとすると、内槽120が回転している状態では、板ばね165の変位d2は、d2=4mLRω2L3(1−ν2)/(EHD3)と表すことができる。質量mL、バランスリング130の中心から外周までの距離R、縦弾性係数E、ポアソン比νはあらかじめ定まっており、板ばね165がバランスリング排水孔134を開放し始める必要がある角速度ωを決定することによって、板ばね165の形状として距離L、幅H、厚さDを決定することができる。内槽120の2次モード共振点に相当する回転の角速度をω1とすると、d2=4mLRω12L3(1−ν2)/(EHD3)の関係を満たすような距離L、幅H、厚さDを有する板ばね165を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になってバランスリング130内の水が不釣合いを増大させるときに、バランスリング130内から排水することができる。また、ω1よりも小さい角速度ω2についてd2=4mLRω22L3(1−ν2)/(EHD3)の関係を満たす距離L、幅H、厚さDを有する板ばね165を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になる前に、バランスリング130内から排水することができる。
【0133】
このように、洗濯機100においては、バランスリング130は、バランスリング130の内部と外部とを連通して水をバランスリング130から排水するためのバランスリング排水孔134と、バランスリング排水孔134に配置される弁体160または弁体160bとを有し、弁体160または弁体160bは、内槽120の回転速度に応じてバランスリング排水孔134を開放または閉塞するように構成されている。
【0134】
内槽120の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度よりも高くなると、バランスリング130内の液体がバランスリング130内部において移動して、不釣合いが低減される。しかしながら、内槽120の回転速度がさらに上昇し、内槽120の2次モード共振点に相当する回転速度に近付くと、バランスリング130内の液体は、再び不釣合いを増大させる方向へ移動する。
【0135】
実開平1−138383号公報(特許文献3)と特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載の洗濯機は、脱水工程において、バランサ装置として使用されている液溜り部や貯水槽から水を排出することが可能な構成を有する。しかしながら、これらの洗濯機においては、脱水工程の終了時に液溜り部の内部の水を自然落下させて排水したり、貯水槽の外周面等に形成された排水孔から脱水工程の進行に伴って遠心力によって徐々に排水させたりするだけで、液溜り部や貯水槽の内部の水によって、一旦、不釣合いが低減された後に再び不釣合いが増大することを防ぐものではない。
【0136】
そこで、バランスリング130は、バランスリング130の内部と外部とを連通して水をバランスリング130から排水するためのバランスリング排水孔134と、バランスリング排水孔134に配置される弁体160または弁体160bとを有し、弁体160または弁体160bは、内槽120の回転速度に応じてバランスリング排水孔134を開放または閉塞するように構成されていることによって、内槽120の回転数が2次モード共振点に相当するほど高い場合に、バランスリング130の内部に導かれた水が不釣合いを増大させることを防ぐことができる。
【0137】
また、このように、洗濯機100においては、弁体160または弁体160bは、内槽120が所定の速度よりも低い速度で回転している場合にはバランスリング排水孔134を閉塞し、かつ、内槽120が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、バランスリング排水孔134を開放するように構成されている。
【0138】
このようにすることにより、脱水工程中に内槽120の2次モード共振が起こる回転速度に近付いた時点で弁体160または弁体160bがバランスリング排水孔134を開き、バランスリング130内の水を排出することによって、2次モード共振が起こる回転速度に近付くに従ってバランスリング130内の水が不釣合い振動を増大させる方向へ移動することを防止することが可能となる。
【0139】
また、このように、洗濯機100においては、弁体160または弁体160bは、コイルばね163または板ばね165によって形成されている。
【0140】
このようにすることにより、電磁力等を用いて開閉する弁体を使用する場合と比較して部品点数を減らし、簡便な構造とすることが可能となる。
【0141】
(第4実施形態)
図12は、この発明の第4実施形態の洗濯機が備える、排水孔開閉弁の側断面を示す側断面図である。図の右側が内槽の中心方向、図の左側が内槽の外周方向である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0142】
図12に示すように、第4実施形態の洗濯機が第1実施形態の洗濯機100と異なる点としては、内槽120(図1)の周壁121の外側に配置されている樋123の水路排水孔として排水孔124を閉塞、開放するために、樋123の壁面上に弁体として排水孔開閉弁170が配置されている。
【0143】
図12の(A)と(B)に示すように、排水孔開閉弁170は、第3実施形態の弁体160と同様の構成を有する。排水孔開閉弁170は、樋123の外壁面上に設置されているシリンダ171と、シリンダ171内を移動することが可能であるように配置されているピストン172と、ピストン172を内槽120の内部側に付勢するための弾性体としてコイルばね173とから構成されている。
【0144】
シリンダ171は、シリンダ171の内部の空間が排水孔124と連通するようにして、樋123に配置されている。シリンダ171には、下部に穴174が形成されている。樋123内の水は、排水孔124を通ってシリンダ171内に流入し、シリンダ171の穴174を通って樋123の外部に流出することができる。ピストン172は、円柱状の蓋部172aと円柱状の支持部172bとを、細い棒体部172cで連結した亜鈴型に形成されている。蓋部172aと支持部172bの径は、排水孔124の径とほぼ同等の大きさであり、棒体部172cの径は、排水孔124の径よりも小さい。ピストン172は、内槽120(図1)の静止時には、図12の(B)に示すように、蓋部172aの一部がシリンダ171内に挿入され、蓋部172aの一部が樋123の内部に突出するように配置されている。ピストン172は、必要に応じてピストンリングを備えてもよい。コイルばね173は、一方の端部がピストン172の蓋部172aにおいて樋123の内部に突出している側の端面に固定され、他方の端部が樋123の内面上に固定されている。コイルばね173は、ピストン172を樋123の内部方向に付勢している。
【0145】
図12の(A)に示すように、内槽120(図1)が回転し、内槽120の回転数が所定の回転数より大きい場合には、ピストン172に働く遠心力がコイルばね173によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりも大きくなって、ピストン172がシリンダ171内を樋123の外部方向に移動する。ピストン172がシリンダ171内を移動して、蓋部172aが排水孔124を閉塞する。従って、樋123内の水は、排水孔124がピストン172によって閉塞されているので、排水孔124からシリンダ171の内部に流入することができない。このようにして、樋123の内部に水が保持される。
【0146】
図12の(B)に示すように、内槽120(図1)が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、ピストン172に樋123の外向きに働く遠心力が小さいので、ピストン172はコイルばね173の付勢によって、樋123の内部方向に移動する。ピストン172が樋123の内部方向にある程度移動すると、ピストン172の蓋部172aが排水孔124を開放する。ピストン172の棒体部172cが排水孔124に位置すると、樋123内の水は、排水孔123からシリンダ171の内部に流入し、シリンダ171の穴174を通って樋123の外部に排出される。このようにして、樋123の内部の水が排出される。
【0147】
このように、洗濯機100においては、樋123は、樋123の内部と外部とを連通して水を樋123から排水するための排水孔124と、排水孔124に配置される排水孔開閉弁170とを有し、排水孔開閉弁170は、内槽120の回転速度に応じて排水孔124を開放または閉塞するように構成されている。
【0148】
このようにすることにより、脱水工程の初期においては、排水孔124を閉塞することによって、内槽120から遠心分離されて樋123内に流入した水がバランスリング130に導かれる前に樋123から排出されないように樋123内に保持するとともに、脱水工程の終了時においては、排水孔124を開放することによって、バランスリング130に到達しなかった水が、樋123を逆流して内槽120内に再び戻ってしまうことを防止することができる。
【0149】
第4実施形態の洗濯機のその他の構成と効果は、第1実施形態の洗濯機と同様である。
【0150】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】この発明の第1実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【図2】内槽の全体を概略的に示す斜視図である。
【図3】バランスリングと樋と内槽の断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図4】樋の全体を概略的に示す斜視図である。
【図5】内槽とバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図6】内槽と、別の形状のバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図7】この発明の第2実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図8】この発明の第3実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【図9】この発明の第3実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図10】この発明の第3実施形態の洗濯機が備える弁体の側面断面を示す側断面図である。
【図11】この発明の第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体を示す図である。
【図12】この発明の第4実施形態の洗濯機が備える、排水孔開閉弁の側断面を示す側断面図である。
【図13】従来のバランスリングを備える洗濯機の回転槽の側面断面を概略的に示す図である。
【図14】従来のバランスリングを備える回転槽が不釣合い(アンバランス)を有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度以下で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。
【図15】図14に示す回転槽をXV−XV線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。
【図16】従来のバランスリングを備える回転槽がアンバランスを有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度よりも大きい回転速度で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。
【図17】図16に示す回転槽をXVII−XVII線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0152】
100:洗濯機、110:給水装置、120:内槽、121:周壁、123:樋、130:バランスリング、134:バランスリング排水孔、160,160b:弁体、163:コイルばね、165:板ばね、170:排水孔開閉弁。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には脱水装置とそれを備える洗濯機に関し、特定的には、遠心力を用いて脱水を行なう脱水装置とそれを備える洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転の遠心力を利用した脱水装置や脱水を行なうことが可能な洗濯機は、回転機の不釣合い振動を低減させるために流体バランサ装置を備えている。不釣合い振動は、脱水するために脱水槽や洗濯槽などの回転槽に収容した洗濯物が回転槽の内部で偏り、回転槽がいわゆる不釣合い質量をもって回転することによって生じる。流体バランサ装置は、所定量の水あるいは塩水のような水溶液が注入されて密閉されたバランスリングなどによって構成される。このような流体バランサ装置は、脱水槽や洗濯槽などの回転体の回転速度が所定の範囲にあるとき、流体バランサ内に封入されている液体が回転体の不釣合い位置と反対側に移動することによって、回転体の過大な不釣合い振動を防止することができる。
【0003】
図13は、従来のバランスリングを備える洗濯機の回転槽の側面断面を概略的に示す図である。
【0004】
図13に示すように、円筒状の回転槽920は、回転槽920の上部において、回転槽920の周壁921上に、回転槽920と一体に形成されているバランスリング930を備える。バランスリング930は中空の環状であり、内部に液体収容空間931が形成されている。液体収容空間931内には水や塩水などの液体が収容されて密閉されている。
【0005】
回転槽920は、図13に一点鎖線で示す、回転槽920の底面の中心を通ってほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸901として回転するように、回転槽920の下方に配置されるモータ等によって駆動される。バランスリング930の高さ方向の中心を通る、図13に破線で示すバランスリング平面902と、回転槽920の底面の中心を通って鉛直方向に延びる軸との交点を、回転槽920のバランスリング平面902の中心O0とする。回転槽920の内部に洗濯物が偏ることなく均一に収容されている場合には、回転槽920の回転軸901は、回転槽920の回転時にも回転槽920の中心O0から大きくずれることなく回転する。
【0006】
図14は、従来のバランスリングを備える回転槽が不釣合い(アンバランス)を有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度以下で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0007】
図14に示すように、回転槽920の内部に収容される洗濯物が偏ってアンバランスUが発生している場合にも、回転槽920は、回転槽920の下方に設けられているモータ等によって、静止時の回転槽920の回転軸901と同じ回転軸901を中心として回転させられる。しかしながら、アンバランスUを有することによって回転槽920が傾いているので、回転軸901は回転槽920のバランスリング平面902の中心Oを通らず、回転槽920の中心Oの位置が、アンバランスUが無い状態で回転する時の回転槽920の中心O0からずれた状態で回転槽920が回転する。
【0008】
図15は、図14に示す回転槽をXV−XV線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0009】
図15に示すように、アンバランスUを有する状態で回転する回転槽920のバランスリング930内の任意の位置Wにおいては、バランスリング930内の液体には、回転槽920が回転軸901(図14)を中心に回転することによって生じる遠心力Fが作用する。バランスリング930内の液体に働く重力や摩擦力等のその他の力は図示を省略している。位置Wにあるバランスリング930内の液体は、位置Wにおける回転槽920の周の接線方向の遠心力Fの分力Tによって、回転槽920の回転時には位置Wから分力Tの向きに移動する。そのため、バランスリング930内の液体の重心WGは、バランスリング平面902(図14)の面内において、回転軸901(図14)が通る中心O0と、中心Oとを結ぶ直線上に、中心O0、中心O、アンバランスU、重心WGの順に並ぶように位置する。その結果、バランスリング930とバランスリング930内の液体と洗濯物を含めた回転槽920全体の重心Gは、バランスリング平面902上に投影されると、中心O0と中心Oを結ぶ線上において、中心O0、中心O、重心Gの順に並ぶように位置する。このように、脱水時の回転運動が開始されてから、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度(概ね300rpm以下)に達するまでの間は、アンバランスUを有した状態で回転する回転槽920の重心Gは、アンバランスUによる不釣合い振動を増大させる位置になる。
【0010】
回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えると、バランスリング930に封入された液体は回転槽920内のアンバランスUと反対の方向に移動する。
【0011】
図16は、従来のバランスリングを備える回転槽がアンバランスを有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度よりも大きい回転速度で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0012】
図16に示すように、回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えると、バランスリング930内の液体が、図14に示す位置から、中心Oに対してアンバランスUと反対側に移動し、液体の重心WGの位置が中心Oに対してアンバランスUと反対側になる。回転槽920の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度を超えている場合にも、回転槽920は、回転槽920の下方に設けられているモータ等によって、アンバランスUが無い状態で回転する時の回転槽920の回転軸901と同じ回転軸901を中心として回転させられる。
【0013】
図17は、図16に示す回転槽をXVII−XVII線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線で示す回転槽920は、アンバランスUが発生していない状態で回転する回転槽920を示す。
【0014】
図17に示すように、回転槽920の回転時には、上述したように、位置Wにあるバランスリング930内の液体は、位置Wにおける回転槽920の周の接線方向の遠心力Fの分力Tによって、位置Wから分力Tの方向に移動する。そのため、バランスリング930内の液体の重心WGは、バランスリング平面902(図16)の面内において、回転軸901(図16)が通る中心O0と、中心Oとを結ぶ直線上に、アンバランスU、中心O0、中心O、重心WGの順に並ぶように位置する。その結果、バランスリング930とバランスリング930内の液体と洗濯物を含めた回転槽920全体の重心Gは、バランスリング平面902上に投影されると、中心O0と中心Oを結ぶ線上において、中心O0、重心G、中心Oの順に並ぶように位置する。このように、回転速度が洗濯機の1次モード共振に相当する回転速度を超えた場合には、アンバランスUを有した状態で回転する回転槽920の重心Gは、アンバランスUによる不釣合い振動を減少させる位置になる。このようにして、バランスリング930に封入された液体は回転槽920内の不釣合いを解消し、回転槽920の回転振動を低減する。
【0015】
従来のバランスリングなどの流体バランサ装置を備える脱水機や洗濯機は、このようにして、脱水槽や洗濯槽の回転時の不釣合い振動を防いでいる。
【0016】
例えば、特開昭63−158336号公報(特許文献1)に記載のバランサは、中空の環状に形成され、内部に水が封入されて密閉されている。バランサは、脱水槽の上端周辺に沿って設けられている。バランサの内部には遮蔽板が並べて配置されて、回転時のバランサ内の水の移動を制限することによって自励振動の発生を防いでいる。
【0017】
また、特開昭60−156495号公報(特許文献2)に記載の脱水兼用洗濯機は、環状のバランスリングを回転槽の上部に備えるが、バランスリングの内部には水が封入されておらず、密閉されていない。この脱水兼用洗濯機は、洗濯に用いた回転槽の内部の水を、脱水運転毎にポンプで揚水してバランスリング内に一定量供給することによって、脱水運転時の回転槽の回転による不釣合い振動を防ぐ。このようにすることにより、予め洗濯機の製造時にバランスリング内に水を封入して密閉する必要がない。
【0018】
一方、実開平1−138383号公報(特許文献3)に記載のドラム式洗濯機においては、ドラムは、水を満たした水槽内で水平軸を中心にして回転されて、ドラム内に収容されている洗濯物が遠心脱水される。ドラムの外周面には、ドラムの回転軸となる水平軸芯と同軸に略円環状の液溜り部が設けられており、水槽内の水が液溜り部の流入部から液溜り部の内部に流入して、脱水運転時のドラムの回転による不釣合い振動を防ぐ。また、遠心脱水終了後には、ドラムの回転速度が低下するに従って、液溜り部の内部の水は、流入部から重力によって自然落下する。
【0019】
また、特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載のドラム式洗濯機においては、水を満たした外槽内でドラムが水平軸または傾斜軸を中心にして回転されて、ドラム内に収容されている洗濯物が遠心脱水される。ドラムの外面には、複数の貯水槽が設けられており、貯水槽には注水手段によって水が供給されて、脱水運転時のドラムの回転による不釣合い振動を防ぐ。また、貯水槽内部の水は、遠心脱水の進行に伴って、遠心力によって貯水槽の外周面の排水孔から外槽内に流出させられる。このようにして、洗濯物から水分が抜けてドラム内の洗濯物の重量が減少するとともに貯水量を減少させることによって、ドラム全体の偏心荷重の変動に対応させている。
【特許文献1】特開昭63−158336号公報
【特許文献2】特開昭60−156495号公報
【特許文献3】実開平1−138383号公報
【特許文献4】特開2002−136792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来の流体バランサ装置は、洗濯機の脱水行程において、特に脱水起動時から、回転体の1次モード共振点に相当する回転速度に達するまでの間には、上述したように、回転軸に対して、回転体のアンバランスが位置する方向と流体バランサ装置中の水が移動する方向が一致し、不釣合い振動を増大させてしまうという問題がある。
【0021】
また、特開昭63−158336号公報(特許文献1)に記載のバランサのように、水、あるいは、食塩などの水溶液を密封した構成では、製造時に封入した液体をそのまま長期にわたって使用するものであるため、密閉構造を確実なものにする必要があり、コスト高となるという問題がある。さらに、製造当初には確実な密閉構造を達成しても、長期間にわたって使用する場合には、シールの劣化等により水漏れを生じることがある。水漏れが生じると、バランサ内に封入された水量が減少して、バランス作用を損なうという問題がある。
【0022】
特開昭60−156495号公報(特許文献2)に記載の脱水兼用洗濯機は、確実な密閉構造を必要としないが、脱水運転毎にバランスリング内に一定量の水を供給するためにポンプを用いるので、部品点数の増加や脱水兼用洗濯機全体の重量の増加という問題がある。
【0023】
そこで、この発明の目的は、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置とそれを備える洗濯機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明に従った脱水装置は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む繊維構造体を収容するための容器と、容器の上方において容器の周壁に配置されて、水を保持するための水保持部と、容器の回転により生じる遠心力によって容器内の水を水保持部に誘導するための水路とを備える。
【0025】
このようにすることにより、脱水中に容器の回転により繊維構造体から遠心分離された水を水保持部に導き、流体バランサとして作用させることができる。
【0026】
脱水装置で脱水するために容器内に収容されている繊維構造体に含まれる水を流体バランサに利用するため、従来のバランスリング等のように、予め水を封入して密閉する必要がない。そのため、製品の重量を必要以上に大きくしなくてもよいし、当初密閉したバランスリングを長期間使用することによってバランスリングの水漏れが生じて流体バランサの作用が損なわれることもない。
【0027】
また、遠心力を利用して、繊維構造体に含まれる水を容器内から水保持部に誘導するため、従来のように揚水のための給水ポンプなどを必要とすることなく、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0028】
さらに、容器の回転数が小さい場合には、容器内の水に働く遠心力が小さく、水保持部には水が誘導されないことから、回転初期に不釣合い振動を増大するような状況に陥ることなしに、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0029】
このようにすることにより、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置を提供することができる。
【0030】
この発明に従った脱水装置においては、水路は容器の周壁に配置され、回転軸と水路との距離は、容器の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0031】
このようにすることにより、容器内の繊維構造体から遠心分離された水を遠心力によって水保持部に誘導することが容易になる。
【0032】
この発明に従った脱水装置においては、容器の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、容器の回転により生じる遠心力によって水保持部の内部に流入した水が水保持部の内部に保持され、かつ、水保持部の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、容器の回転により生じる遠心力によって水保持部の内部に流入した水が水保持部の内部に保持されないように水保持部は構成されていることが好ましい。
【0033】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期には、容器内の水に働く遠心力が小さく、容器内の水は水路を通って水保持部に流入しないので、水保持部の内部において水が回転することによる自励振動やアンバランスの増大を防ぐことができる。また、脱水工程初期および脱水工程終了時には水保持部に水が保持されないので重量を減少させることができ、回転開始時、あるいは、制動時に、容器を回転させるための駆動モータ等への負担を減少させることが可能となる。
【0034】
この発明に従った脱水装置においては、水路に流入した水を容器の内部に逆流させないようにして水路の外部に排出することが可能であるように水路は構成されていることが好ましい。
【0035】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期においては、容器から水路に遠心分離された水が、水保持部に誘導される前に水路から排出されてしまわないように水路内に保持することができるとともに、脱水工程終了時においては、水保持部まで到達しなかった水が再び容器に戻って脱水した繊維構造体を濡らしてしまうことを防止することができる。
【0036】
この発明に従った脱水装置においては、水路は、多孔質状に形成されている水保持部材を有することが好ましい。
【0037】
このようにすることにより、多孔質状に形成されている水保持部材の毛管現象を利用して水を回転方向に幅広く分散させて保持することができるので、回転時に水路内の水が偏ってアンバランスの原因となることを防止することが可能となる。
【0038】
この発明に従った脱水装置は、容器内に殺菌効果を有する物質を供給するための供給手段を備え、供給手段は、容器の内部に殺菌効果を有する物質を供給するように構成されていることが好ましい。
【0039】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、水路や水保持部の内部の汚れや、それに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0040】
この発明に従った脱水装置においては、殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水であることが好ましい。
【0041】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、銀の抗菌作用をもって、水路や水保持部の内部の汚れやそれに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0042】
この発明に従った脱水装置においては、水保持部は、水保持部の内部と外部とを連通して水を水保持部から排水するための水保持部排水孔と、水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されていることが好ましい。
【0043】
容器の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度よりも高くなると、水保持部内の液体が水保持部内部において移動して、不釣合いが低減される。しかしながら、容器の回転速度がさらに上昇し、容器の2次モード共振点に相当する回転速度に近付くと、水保持部内の液体は、再び不釣合いを増大させる方向へ移動する。
【0044】
実開平1−138383号公報(特許文献3)と特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載の洗濯機は、脱水工程において、バランサ装置として使用されている液溜り部や貯水槽から水を排出することが可能な構成を有する。しかしながら、これらの洗濯機においては、脱水工程の終了時に液溜り部の内部の水を自然落下させて排水したり、貯水槽の外周面等に形成された排水孔から脱水工程の進行に伴って遠心力によって徐々に排水させたりするだけで、液溜り部や貯水槽の内部の水によって、一旦、不釣合いが低減された後に再び不釣合いが増大することを防ぐものではない。
【0045】
そこで、水保持部は、水保持部の内部と外部とを連通して水を水保持部から排水するための水保持部排水孔と、水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されていることによって、容器の回転数が2次モード共振点に相当するほど高い場合に、水保持部の内部に導かれた水が不釣合いを増大させることを防ぐことができる。
【0046】
この発明に従った脱水装置においては、弁体は、容器が所定の速度よりも低い速度で回転している場合には水保持部排水孔を閉塞し、かつ、容器が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、水保持部排水孔を開放するように構成されていることが好ましい。
【0047】
このようにすることにより、脱水工程中に容器の2次モード共振が起こる回転速度に近付いた時点で弁体が水保持部排水孔を開き、水保持部内の水を排出することによって、2次モード共振が起こる回転速度に近付くに従って水保持部内の水が不釣合い振動を増大させる方向へ移動することを防止することが可能となる。
【0048】
この発明に従った脱水装置においては、弁体は、弾性体によって形成されていることが好ましい。
【0049】
このようにすることにより、電磁力等を用いて開閉する弁体を使用する場合と比較して部品点数を減らし、簡便な構造とすることが可能となる。
【0050】
この発明に従った脱水装置においては、水路は、水路の内部と外部とを連通して水を水路から排水するための水路排水孔と、水路排水孔に配置される弁体とを有し、弁体は、容器の回転速度に応じて水路排水孔を開放または閉塞するように構成されていることが好ましい。
【0051】
このようにすることにより、脱水工程の初期においては、水路排水孔を閉塞することによって、容器から遠心分離されて水路内に流入した水が水保持部に導かれる前に水路から排出されないように水路内に保持するとともに、脱水工程の終了時においては、水路排水孔を開放することによって、水保持部に到達しなかった水が、水路を逆流して容器内に再び戻ってしまうことを防止することができる。
【0052】
この発明に従った洗濯機は、上記のいずれかの脱水装置を備えることが好ましい。
【0053】
このようにすることにより、繊維構造体の洗濯終了後に速やかに脱水を行なうことができる。
【発明の効果】
【0054】
以上のように、この発明によれば、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な脱水装置とそれを備える洗濯機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0056】
(第1実施形態)
図1は、この発明の第1実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【0057】
図1に示すように、脱水装置を備える洗濯機100は、筐体101の内部に、防振系102によって筐体101に支持されている外槽140と、外槽140の内側に配置されている容器として内槽120と、外槽140と内槽120の上方に配置される供給手段として給水装置110と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置される水保持部としてバランスリング130と、内槽120の下方に配置されるモータ104と動力伝達機構103と、排水経路141と、排水弁142と、制御部105とを備える。内槽120とバランスリング130は一体に形成されている。
【0058】
内槽120の底面内部には、内槽120内の水を撹拌するためのパルセータ(図示せず)が配置されている。パルセータの軸は内槽120の底面から内槽120の外側へ突き出ており、動力伝達機構103を通してパルセータを駆動するためのモータ104に接続されている。内槽120は、動力伝達機構103を通してモータ104によって、内槽120の底面の中心を通ってほぼ鉛直方向に延びる軸を中心に回転させられる。
【0059】
給水装置110は、銀イオン溶出装置111と、内槽120内に給水するための給水弁112と、補助給水弁113とを含む。
【0060】
図2は、内槽の全体を概略的に示す斜視図である。図3は、バランスリングと樋と内槽の断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0061】
図1から図3に示すように、内槽120は、ほぼ円筒状に形成され、周壁121の全体に多数の孔122が形成されている。内槽120の周壁121の上には、内槽120の下部から上部までのほぼ全体にわたって延びる水路として複数の樋123が配置されている。複数の樋123は内槽120の周方向に間隔をあけて配置されている。樋123は、内槽120の周壁121に形成されている孔122を内槽120の外側から覆うように内槽120と一体化するように形成されている。樋123の上端は、内槽120の上方に配置されているバランスリング130の内部に入りこむように配置されている。内槽120の周壁121の外周面と樋123の内壁面123dとの距離は、内槽120の下部では小さく、内槽120の上部では大きくなるように形成されている。したがって、内槽120の回転軸と樋123との距離は、内槽120の下部から上部に向かって次第に大きくなる。樋123の下部には、排水孔124が形成されている。
【0062】
図4は、樋の全体を概略的に示す斜視図である。
【0063】
図4に示すように、樋123は、上方から見た断面がUの字状に形成されている。樋123は、弧123cの両端に2枚の側壁123aと側壁123bが配置されて構成されている。弧123cは、内槽120の周壁121に沿った形状を有し、第1実施形態においては、樋123は、弧123cの中心角、すなわち、弧123cの両端の側壁123aと側壁123bのなす角度αがπ/6であるように形成されており、内槽120の外周には6つの樋123が、π/6ずつ互いに間隔を開けて配置されている。
【0064】
図1から図4を参照して、洗濯機100の洗濯工程とすすぎ工程と、脱水工程を説明する。
【0065】
内槽120の内部には、繊維構造体として洗濯物が収容される。洗濯工程とすすぎ工程においては、外槽140の下部の排水弁142が閉じられ、給水装置110の給水弁112が開かれて、内槽120の内部に上方から所定量の水が供給される。内槽120内に供給された水は、内槽120の周壁121の孔122を通って、内槽120の外面と外槽140の内面との間の空間に流入し、内槽120を含む外槽140の内部が水で満たされる。モータ104が駆動されると、動力伝達機構103を通してパルセータが回転させられて内槽120内の水と水中の洗濯物が撹拌される。洗濯工程とすすぎ工程の排水時には、排水弁142が開かれて、外槽140の内部に貯められている水が排水経路141を通って排水口143から排水される。樋123の内部の水は、排水孔124を通って樋123の外部、すなわち、内槽120と外槽140との間の空間に排出され、排水経路141を通って排水口143から排水される。排水弁142を所定の時間、開くことによって内槽120と外槽140の内部からの排水が終了しても、洗濯物は水を含んだ状態で内槽120内に収容されている。内槽120中の水位が規定の値より低下したことを制御部105が確認すると、モータ104は脱水回転運動を開始する。
【0066】
脱水工程においては、洗濯工程またはすすぎ工程において内槽120と外槽140の内部に貯められた水を排水した後、排水弁142を開けたままで、モータ104が駆動され、動力伝達機構103を通して内槽120が回転させられる。内槽120が回転すると、内槽120内に収容されている洗濯物に含まれる水に遠心力が働き、遠心力を受けた水は、孔122を通って内槽120の外部に流出し、回転していない外槽140の内壁面に衝突して、外槽140の内壁面を伝って下方へ流れ落ちる。水は、排水経路141から排水口143を通って洗濯機100の外部に排出される。
【0067】
一方、内槽120の孔122は、内槽120の周壁121の周方向にπ/6の角度ずつ間隔を開けて、π/6の角度にわたって樋123によって内槽120の外側から覆われている。そのため、内槽120が回転することによって遠心力を受けて孔122の外部に流出した水の一部は、内槽120と外槽140との間の空間に流出せずに、樋123の内部に保持される。
【0068】
樋123は、内槽120の回転軸からの距離が下部で小さく、上部で大きいテーパ形状に形成されている。内槽120の内部から孔122を通って内槽120の周壁121と樋123との間に流出した水は、内槽120の回転による遠心力を受けて、樋123の内壁面123dに沿って内槽120の回転軸から離れる方向に移動するため、樋123の内壁面123dに沿って樋123の内部を上昇するように移動し、内槽120の上方に配置されているバランスリング130の内部に流入する。樋123の弧123cの中心角αの大きさと、内槽120の外部に配置する樋123の数を変更することによって、バランスリング130に誘導する水の量を変更することができる。樋123の大きさと数は、洗濯機100の大きさ等より規定する。例えば、α=2πとした場合、内槽120の外周を全周に亘って覆う樋123を備える洗濯機100や、α=π/6とした場合、樋123を6個備える洗濯機100が考えられる。
【0069】
樋123は、内部に多孔質状に形成されている水保持部材(図示せず)を備えてもよい。樋123の弧123cの中心角が大きい場合には、多孔質部材のような吸水性の高い水保持部材を樋123の内部に備えることによって、バランスリング130に到達せずに樋123内に保持された水がアンバランスを増長する原因とならないように、樋123の内部の水を周方向に分散して保持することができる。
【0070】
遠心力によって内槽120から樋123を通ってバランスリング130内に誘導された水は、内槽120に収容されている洗濯物が偏って内槽120にアンバランスがある状態で回転しているとき、バランスリング130内においてアンバランスを解消する方向に移動して、流体バランサとして働く。
【0071】
このように、洗濯機100は、ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む洗濯物を収容するための内槽120と、内槽120の上方において内槽120の周壁に配置されて、水を保持するためのバランスリング130と、内槽120の回転により生じる遠心力によって内槽120内の水をバランスリング130に誘導するための樋123とを備える。
【0072】
このようにすることにより、脱水中に内槽120の回転により洗濯物から遠心分離された水をバランスリング130に導き、流体バランサとして作用させることができる。
【0073】
洗濯機100で脱水するために内槽120内に収容されている洗濯物に含まれる水を流体バランサに利用するため、従来のバランスリング等のように、予め水を封入して密閉する必要がない。そのため、洗濯機100の重量を必要以上に大きくしなくてもよいし、当初密閉したバランスリングを長期間使用することによってバランスリングの水漏れが生じて流体バランサの作用が損なわれることもない。
【0074】
また、遠心力を利用して、洗濯物に含まれる水を内槽120内からバランスリング130に誘導するため、従来のように揚水のための給水ポンプなどを必要とすることなく、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0075】
さらに、内槽120の回転数が小さい場合には、内槽120内の水に働く遠心力が小さく、バランスリング130には水が誘導されないことから、回転初期に不釣合い振動を増大するような状況に陥ることなしに、脱水運転時の不釣合い振動を低減させることが可能となる。
【0076】
このようにすることにより、簡単な構造で、回転時の不釣合い振動の増大を抑えることが可能な洗濯機100を提供することができる。
【0077】
また、洗濯機100においては、樋123は内槽120の周壁121の外側に配置され、内槽120の回転軸と樋123との距離は、内槽120の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されている。
【0078】
このようにすることにより、内槽120内の繊維構造体から遠心分離された水を遠心力によってバランスリング130に誘導することが容易になる。
【0079】
また、洗濯機100においては、樋123は、多孔質状に形成されている水保持部材を有してもよい。
【0080】
このようにすることにより、多孔質状に形成されている水保持部材の毛管現象を利用して水を回転方向に幅広く分散させて保持することができるので、回転時に樋123内の水が偏ってアンバランスの原因となることを防止することが可能となる。
【0081】
図5は、内槽とバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0082】
図5に示すように、バランスリング130は、内槽120の上方において内槽120の周壁121の外側に、内槽120と一体に形成されている。バランスリング130は、側断面がCの字状となるような形状を有する。バランスリング130は、上端132において内槽120の周壁121の上端と接続されており、上端132から下端131までの間には、内槽120の回転軸側に凹面、回転軸の反対側に凸面が形成されるように、凹部133が形成されている。バランスリング130の上端132は内槽120と接続されているが、バランスリング130の下端131と、内槽120の外側に配置されている樋123との間には空間が形成されている。バランスリング130の下端131と、内槽120の回転軸との距離をrとする。第1実施形態においては、r=0.25mとする。バランスリング130の下端131の傾きは、バランスリング130の下端131における凹部133の接線に垂直な直線と水平線とのなす角θで表す。
【0083】
脱水工程において内槽120が回転すると、内槽120内に収容されている洗濯物が含む水に遠心力が働き、内槽120内の水は、図中の二点鎖線の矢印で示すように、内槽120の周壁121に沿って上昇して孔122から樋123の内部に流出し、樋123の内壁面123dに衝突し、樋123の内壁面123dを伝うように上昇して、バランスリング130の凹部133に流入し、凹部133に貯められることによってバランスリング130内に保持される。このようにして、バランスリング130に水150が保持される。
【0084】
バランスリング130内に流入し、凹部133に貯められている質量mの水150には、内槽120が角速度ωで回転している場合には、バランスリング130の下端131において、mgの大きさの重力と、mrω2の大きさの遠心力がはたらく。ここでは、水150の質量mがバランスリング130の下端131に集中するとしている。バランスリング130の下端131において水150に働く重力mgと遠心力mrω2の合力Sが水平面となす角度をθ1とする。θ1は、tanθ1=mg/mrω2として表される。内槽120の回転軸からバランスリング130の下端131までの距離rと、内槽120の回転速度によって、バランスリング130の下端131において水150に働く遠心力の大きさが変化し、合力Sと水平面とのなす角θ1の大きさが変化する。
【0085】
バランスリング130の下端131において合力Sと水平面とのなす角θ1の大きさが、バランスリング130の下端131の傾きを表すθよりも大きい場合には、バランスリング130の凹部133に貯められている水150はバランスリング130内に保持されずに落下する。例えば、θ=15°の場合には、内槽120の回転速度が115rpm以下のときにmg/mrω2=tanθ1>tanθ、すなわち、θ1>θとなり、凹部133に保持されている水150がバランスリング130から落下する。
【0086】
図6は、内槽と、別の形状のバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水が移動する方向を示す。
【0087】
図6に示すように、バランスリング130の形状を、図5に示す形状と異なる形状としてもよい。図6に示すバランスリング130は、凹部133に貯めることのできる水150の量が図5に示すバランスリング130よりも大きくなるように構成されている。
【0088】
上述したように、バランスリング130の下端131において、tanθ1=mg/mrω2で表される、凹部133内に保持されている水150に働く重力と遠心力との合力が水平線となす角度θ1が、バランスリング130の下端131における傾きを表すθよりも大きければ、バランスリング130内の水150は凹部133に保持されずに落下する。ここで、tanθ1=mg/mrω2=g/rω2であるから、図5に示すバランスリング130と比べて凹部133の容積が大きい図6に示すバランスリング130の場合にも、θ=15°とすれば、内槽120の回転速度が115rpm以下のときに凹部133に保持されている水150がバランスリング130から落下する。
【0089】
このように、バランスリング130の下端131の傾きによって、脱水工程においてバランサ作用が必要とされる内槽120の回転速度範囲に合わせて、バランスリング130内に水150を保持することができる。
【0090】
また、バランスリング130の下端131の傾きが同じバランスリング130であっても、バランスリング130の凹部133の形状を変えることによって、バランスリング130の容積を変更することができる。例えば、バランスリング130の凹部133において、内槽120の回転軸からバランスリング130の最大外周面までの距離を270mmとし、下端131における内槽120の回転軸からバランスリング130の距離を250mmとし、バランスリング130の下端131から上端132までの高さを30mmとすると、バランスリング130の凹部133の容積は2L弱となる。
【0091】
バランスリング130の内部に保持される水150の量が多い程、アンバランスを解消するバランサ作用が大きくなる。また一方では、バランスリング130によって不釣合い振動を解消するためには、バランスリング130の内部に保持する水150の量は、バランスリング130の容積の約半分程度であることが好ましい。そこで、内槽120の外側に配置して内槽120の孔122をふさぐ樋123の形状と数によってバランスリング130内に導かれる水150の量がバランスリング130の容積の半分程度になるように、バランスリング130の凹部133の形状によってバランスリング130の容積を決定することによって、バランスリング130による不釣合い振動の補正効果を高めることができる。
【0092】
図6に示すバランスリング130のその他の構成と作用は、図5に示すバランスリング130と同様である。
【0093】
このようにしてバランスリング130の形状を決定することで、脱水工程初期において、1次モード共振が起こると考えられるような、低い回転速度のときにはバランスリング130内に水150を存在させないことによって、不要な自励振動の発生を防止することができる。また、回転開始時には、バランスリング130内に水150が誘導されておらず、バランスリング130を含む内槽120の上部の重量が小さいことから、モータ104や動力伝達機構103(図1)への負担を少なくし、内槽120の回転数が十分に上昇するまでにかかる時間を短縮することが可能となる。また、脱水行程終了時に内槽120の回転速度が低下すると、バランスリング130内の水150は自重によりバランスリング130の下端131から落下して排水経路141(図1)へ移動し、バランスリング130の質量が小さくなるため、モータ104や動力伝達機構103への負担が小さくなり、制動時間の短縮も可能となる。
【0094】
このように、洗濯機100においては、内槽120の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、内槽120の回転により生じる遠心力によってバランスリング130の内部に流入した水150がバランスリング130の内部に保持され、かつ、バランスリング130の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、内槽120の回転により生じる遠心力によってバランスリング130の内部に流入した水150がバランスリング130の内部に保持されないようにバランスリング130は構成されている。
【0095】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期には、内槽120内の水に働く遠心力が小さく、内槽120内の水は樋123を通ってバランスリング130に流入しないので、バランスリング130の内部において水が回転することによる自励振動やアンバランスの増大を防ぐことができる。また、脱水工程初期および脱水工程終了時にはバランスリング130に水150が保持されないので重量を減少させることができ、回転開始時、あるいは、制動時に、内槽120を回転させるための駆動モータ104等への負担を減少させることが可能となる。
【0096】
図3の(A)に示すように、内槽120内に収容されている洗濯物を脱水するために、ある程度以上の回転速度で内槽120を回転させているときには、内槽120内の水が図中の二点鎖線の矢印で示すように、内槽120の回転で生じる遠心力によって内槽120の周壁121に沿って上昇し、孔122を通って外部に樋123の内部に流出し、樋123の内壁面123dに沿って上昇して、バランスリング130の内部に流入して保持される。バランスリング130の内部に保持されている水は、内槽120の回転速度が低くなると、バランスリング130の下端131を通ってバランスリング130から落下する。
【0097】
一方、図3の(B)に示すように、脱水工程の終了時に内槽120の回転速度が低くなる時には、樋123の内部の水に働く遠心力が小さくなり、樋123の内部の水は樋123の内壁面123dに沿って落下し、樋123の下部に形成されている排水孔124を通って、内槽120の内部に逆流することなく、外部に排出される。
【0098】
このように、洗濯機100においては、樋123に流入した水を内槽120の内部に逆流させないようにして樋123の外部に排出することが可能であるように樋123は構成されている。
【0099】
このようにすることにより、回転速度の低い脱水工程初期においては、内槽120から樋123に遠心分離された水が、バランスリング130に誘導される前に樋123から排出されてしまわないように樋123内に保持することができるとともに、脱水工程終了時においては、バランスリング130まで到達しなかった水が再び内槽120に戻って脱水した洗濯物を濡らしてしまうことを防止することができる。
【0100】
樋123は、排水孔124に排水弁(図示せず)を備えるものであっても良い。これは、脱水工程初期の、内槽120の回転速度が低いときに、バランスリング130に到達せずに樋123の内部に保持されている水がアンバランスの原因となるような状況になった時、この水を排水することが可能となるようにするものである。
【0101】
また、洗濯機100の給水装置110(図1)は、洗濯工程やすすぎ工程の最終工程において、内槽120に水を供給するときに、銀イオン溶出装置111(図1)によって溶出された銀イオンを含む水を内槽120に供給する。洗濯工程やすすぎ工程の後、脱水工程に入る前に、内槽120内の水の大部分はバランスリング130に導入されずに排水経路141(図1)を通って排水されるが、内槽120に収容されている洗濯物には銀イオン水が含まれる。脱水工程において銀イオンを含む水が樋123を通ってバランスリング130に導かれる。
【0102】
このように、洗濯機100は、内槽120内に殺菌効果を有する物質を供給するための給水装置110を備え、給水装置110は、内槽120の内部に殺菌効果を有する物質を供給するように構成されている。洗濯機100においては、殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水である。
【0103】
このようにすることにより、長期間に渡って脱水運転を繰り返しても、銀の抗菌作用をもって、樋123やバランスリング130の内部の汚れやそれに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0104】
洗濯機100は、洗濯およびすすぎの最終工程中に、洗濯機100の給水装置110に備えられた銀イオン溶出装置111において殺菌性銀イオン水を生成し、補助給水弁113を通じて樋123内の壁面に殺菌性銀イオン水を供給するようにしてもよい。このようにすることにより、内槽120内の洗濯内容物を再び濡らすことなく、樋123とバランスリング130内部の汚れや、それに伴うカビの発生を抑えることが可能となる。
【0105】
また、洗濯機100においては、水が内槽120に接合された樋123の内部を通ってバランスリング130へ移動するものとしたことから、洗濯機100の筐体101(図1)に対する内槽120の設置角度によらず、水をバランスリング130へ導入し、不釣合い振動を抑制することが可能となる。
【0106】
(第2実施形態)
図7は、この発明の第2実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【0107】
図7に示すように、第2実施形態の内槽120は、内槽120の周壁121の全体ではなく、周壁121の上部のみに孔122を有する。内槽120の上部の孔122は、内槽120の上部において、周壁121の周囲に内槽120と一体に形成されているバランスリング130の内部と連通している。水路として内槽120の周壁121は、内槽120の下部よりも上部において径が大きくなるように形成されており、内槽120は、いわゆる穴無し槽である。第2実施形態の洗濯機は、第1実施形態の洗濯機100が備えるような樋を備えていない。
【0108】
脱水工程において内槽120が回転すると、内槽120に収容される洗濯物に含まれる水に遠心力が働いて、水は、内槽120の周壁121に沿って上昇する。内槽120の壁には、上部にのみ孔122が形成されているので、水は、内槽120の上部の孔122に到達するまで内槽120の外部に排出されない。このようにすることにより、洗濯物に含まれる水の大部分をバランスリング130に誘導することができる。また、内槽120の外部に第1実施形態の洗濯機100が備えるような樋を備える必要がない。
【0109】
第2実施形態の洗濯機の動作と効果の詳細については、第1実施形態の洗濯機100と同様である。
【0110】
(第3実施形態)
図8は、この発明の第3実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【0111】
図8に示すように、第3実施形態の洗濯機が第1実施形態の洗濯機と異なる点としては、バランスリング130の外周面には複数の弁体160が備えられている。第3実施形態の洗濯機100のその他の構成は、第1実施形態の洗濯機100と同様である。
【0112】
脱水工程において、内槽120の回転速度が、1次モード共振が起こると考えられる回転速度よりも高くなると、バランスリング130内に保持されている水は、内槽120の不釣合い位置と反対側に移動して、流体バランサ装置としての役目を果たす。このようにして、脱水工程初期の過大な不釣合い振動を防止することができる。
【0113】
しかしながら、脱水工程の進行に伴って内槽120の回転速度がさらに上昇すると、内槽120の回転速度は、2次モード共振が起こると考えられる速度に近付く。2次モード共振が起こるような回転速度では、バランスリング130内の水は、再び内槽120の不釣合い位置と同じ側に移動して、不釣合い振動を増大させてしまう可能性がある。2次モード共振が起こると考えられる回転速度は、回転系の重量や構造により決定されるが、少なくとも1000rpm以上の回転速度であり、1次モード共振が起こると考えられる回転速度の範囲、すなわち、概ね500rpm以下の回転速度と比較すると、十分に高い回転速度である。
【0114】
図9は、この発明の第3実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【0115】
図9の(A)に示すように、第3実施形態の洗濯機が備えるバランスリング130が第1実施形態のバランスリング130(図5)と異なる点としては、バランスリング130の凹部133を形成するバランスリング130の壁に、複数の弁体160が配置されている。
【0116】
図9の(B)に示すように、第3実施形態の洗濯機100は、第2実施形態の洗濯機100の内槽120(図7)のように、いわゆる穴無し槽であってもよい。内槽120が穴無し槽であっても、弁体160は、バランスリング130の凹部133を形成する壁上に、バランスリング130の周方向に複数配置される。
【0117】
図10は、この発明の第3実施形態の洗濯機が備える弁体の側面断面を示す側断面図である。図の右側が内槽の中心方向、図の左側が内槽の外周方向である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0118】
図10の(A)と(B)に示すように、弁体160は、バランスリング130の内壁面上に設置されているシリンダ161と、シリンダ161内を移動することが可能であるように配置されているピストン162と、ピストン162をバランスリング130の内部側に付勢するための弾性体としてコイルばね163とから構成されている。
【0119】
シリンダ161は、シリンダ161の内部の空間が、バランスリング130の壁面に形成されてバランスリング130の内面と外面とを結ぶ水保持部排水孔としてバランスリング排水孔134と連通されるようにして、バランスリング130に配置されている。シリンダ161には、穴164が形成されている。バランスリング130内の水は、シリンダ161の穴164を通ってシリンダ161内に流入し、バランスリング130のバランスリング排水孔134を通ってバランスリング130の外部に流出することができる。ピストン162は、円柱状の蓋部162aと円柱状の支持部162bとを、細い棒体部162cで連結した亜鈴型に形成されている。蓋部162aと支持部162bの径は、バランスリング排水孔134の径とほぼ同等の大きさであり、棒体部162cの径は、バランスリング排水孔134の径よりも小さい。ピストン162は、蓋部162aの一部がシリンダ161内に挿入され、蓋部162aの一部がバランスリング130の外部に突出するように配置されている。ピストン162は、必要に応じてピストンリングを備えてもよい。コイルばね163は、一方の端部がピストン162の蓋部162aにおいてバランスリング130の外部に突出している側の端面に固定され、他方の端部がバランスリング130の外面上に固定されている。コイルばね163は、ピストン162をバランスリング130の内部方向に付勢している。
【0120】
図10の(A)に示すように、内槽120(図8)が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、ピストン162の蓋部162aがバランスリング排水孔134を閉塞する。従って、バランスリング130内の水は、穴164からシリンダ161内に流入しても、バランスリング排水孔134がピストン162によって閉塞されているので、バランスリング130の外部に流出することができない。このようにして、バランスリング130の内部に水が保持される。
【0121】
図10の(B)に示すように、内槽120(図8)が回転し、内槽120の回転数が所定の回転数より大きくなると、コイルばね163によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりもピストン162に働く遠心力の方が大きくなって、ピストン162がシリンダ161内をバランスリング130の外部方向に移動する。ピストン162がシリンダ161内を移動して、蓋部162aがバランスリング排水孔134を開放し、ピストン162の細い棒体部162cがバランスリング排水孔134の内部に位置すると、バランスリング130内の水は、シリンダ161の穴164からシリンダ161の内部に流入し、バランスリング排水孔134と棒体部162cとの間の空間を通って、シリンダ161内からバランスリング130の外部に排出される。
【0122】
バランスリング130の内部の水がバランスリング排水孔134を通って排出されることが可能となる内槽の回転速度は、以下のようにして決定される。
【0123】
ピストン162の質量をmp、内槽120の中心からバランスリング排水孔134の外周までの距離をR、バランスリング排水孔134の外周における内槽120の回転の角速度をωとする。また、シリンダ161内に一部が挿入されているピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面から、バランスリング排水孔134のバランスリング130の外面側の端部までの内槽120の静止状態における距離をd0とし、内槽120の静止状態におけるピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の位置と、内槽120の回転状態におけるピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の位置との距離、すなわち、ピストン162の蓋部162aのバランスリング130内部側の端面の移動距離をd1とする。また、コイルばね163のばね定数をkとする。
【0124】
内槽120が回転すると、バランスリング130の外周上において、ピストン162には、内槽120の中心から内槽120の周に向かう方向に大きさmpRω2の遠心力が働く。このとき、コイルばね163に働く力のつりあいの式は、mpRω2=kd1となる。
【0125】
ピストン162の蓋部162aがバランスリング排水孔134を開放するのは、d1がd0以上のときである。したがって、内槽120の2次モード共振点に相当する回転の角速度をω1とすると、mpRω12=kd0の関係を満たすようなばね定数kを有するコイルばね163を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になってバランスリング130内の水が不釣合いを増大させるときに、バランスリング130内から排水することができる。また、mpRω12=kd0の関係を満たすばね定数kよりも小さいばね定数kを有するコイルばね163を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になる前に、バランスリング130内から排水することができる。
【0126】
図11は、この発明の第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体を示す図である。図11の(A)は、内槽が静止しているときの弁体の状態を示す側断面図、(B)は、内槽が静止しているときの弁体の正面図、(C)は、内槽が所定の回転速度以上の速度で回転しているときの弁体の状態を示す側断面図である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0127】
図11の(A)から(C)に示すように、第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体160bは、バランスリング130に形成されているバランスリング排水孔134を覆うように配置されている弾性体として板ばね165と、板ばね165の下部に取り付けられている錘166とから構成されている。板ばね165は、板ばね165の上部において固定部材167によってバランスリング130の外壁面上に固定されている。固定部材167の位置が板ばね165の支点となる。板ばね165は、静止時の水漏れを防止するためのパッキンを有してもよい。錘166は、板ばね165によって、バランスリング130と内槽120(図8)の中心方向に付勢されている。
【0128】
図11の(A)に示すように、内槽120が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、板ばね165がバランスリング排水孔134を閉塞し、バランスリング130内の水はバランスリング130内に保持される。
【0129】
図11の(C)に示すように、内槽120の回転数が所定の回転数よりも大きい場合には、錘166に働く遠心力が板ばね165によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりも大きくなって、錘166がバランスリング130から離れる方向に力を受ける。錘166が固定されている板ばね165の下部も、バランスリング130から離れる方向に力を受けてバランスリング130の外周面から離れ、バランスリング排水孔134が開放されて、バランスリング130内の水がバランスリング排水孔134を通って排出される。
【0130】
バランスリング130の内部の水がバランスリング排水孔134を通って排出されることが可能となる内槽の回転速度は、以下のようにして決定される。
【0131】
図11の(A)から(C)に示すように、固定部材167の中心、すなわち、板ばね165の支点から、バランスリング排水孔134の下端までの距離をL、板ばね165の幅をH、板ばね165の厚さをD、質量をmLとする。また、バランスリング排水孔134の下端において、バランスリング130の半径方向における板ばね165の変位をd2とする。簡単のために、板ばね165に働く力は、錘166による集中荷重のみであると仮定する。なお、実際には、遠心力による分布荷重も考慮する。
【0132】
板ばね165の材料の縦弾性係数をE、ポアソン比をνとすると、内槽120が回転している状態では、板ばね165の変位d2は、d2=4mLRω2L3(1−ν2)/(EHD3)と表すことができる。質量mL、バランスリング130の中心から外周までの距離R、縦弾性係数E、ポアソン比νはあらかじめ定まっており、板ばね165がバランスリング排水孔134を開放し始める必要がある角速度ωを決定することによって、板ばね165の形状として距離L、幅H、厚さDを決定することができる。内槽120の2次モード共振点に相当する回転の角速度をω1とすると、d2=4mLRω12L3(1−ν2)/(EHD3)の関係を満たすような距離L、幅H、厚さDを有する板ばね165を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になってバランスリング130内の水が不釣合いを増大させるときに、バランスリング130内から排水することができる。また、ω1よりも小さい角速度ω2についてd2=4mLRω22L3(1−ν2)/(EHD3)の関係を満たす距離L、幅H、厚さDを有する板ばね165を用いることによって、内槽120の回転速度が2次モード共振点に相当する速度になる前に、バランスリング130内から排水することができる。
【0133】
このように、洗濯機100においては、バランスリング130は、バランスリング130の内部と外部とを連通して水をバランスリング130から排水するためのバランスリング排水孔134と、バランスリング排水孔134に配置される弁体160または弁体160bとを有し、弁体160または弁体160bは、内槽120の回転速度に応じてバランスリング排水孔134を開放または閉塞するように構成されている。
【0134】
内槽120の回転速度が1次モード共振点に相当する回転速度よりも高くなると、バランスリング130内の液体がバランスリング130内部において移動して、不釣合いが低減される。しかしながら、内槽120の回転速度がさらに上昇し、内槽120の2次モード共振点に相当する回転速度に近付くと、バランスリング130内の液体は、再び不釣合いを増大させる方向へ移動する。
【0135】
実開平1−138383号公報(特許文献3)と特開2002−136792号公報(特許文献4)に記載の洗濯機は、脱水工程において、バランサ装置として使用されている液溜り部や貯水槽から水を排出することが可能な構成を有する。しかしながら、これらの洗濯機においては、脱水工程の終了時に液溜り部の内部の水を自然落下させて排水したり、貯水槽の外周面等に形成された排水孔から脱水工程の進行に伴って遠心力によって徐々に排水させたりするだけで、液溜り部や貯水槽の内部の水によって、一旦、不釣合いが低減された後に再び不釣合いが増大することを防ぐものではない。
【0136】
そこで、バランスリング130は、バランスリング130の内部と外部とを連通して水をバランスリング130から排水するためのバランスリング排水孔134と、バランスリング排水孔134に配置される弁体160または弁体160bとを有し、弁体160または弁体160bは、内槽120の回転速度に応じてバランスリング排水孔134を開放または閉塞するように構成されていることによって、内槽120の回転数が2次モード共振点に相当するほど高い場合に、バランスリング130の内部に導かれた水が不釣合いを増大させることを防ぐことができる。
【0137】
また、このように、洗濯機100においては、弁体160または弁体160bは、内槽120が所定の速度よりも低い速度で回転している場合にはバランスリング排水孔134を閉塞し、かつ、内槽120が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、バランスリング排水孔134を開放するように構成されている。
【0138】
このようにすることにより、脱水工程中に内槽120の2次モード共振が起こる回転速度に近付いた時点で弁体160または弁体160bがバランスリング排水孔134を開き、バランスリング130内の水を排出することによって、2次モード共振が起こる回転速度に近付くに従ってバランスリング130内の水が不釣合い振動を増大させる方向へ移動することを防止することが可能となる。
【0139】
また、このように、洗濯機100においては、弁体160または弁体160bは、コイルばね163または板ばね165によって形成されている。
【0140】
このようにすることにより、電磁力等を用いて開閉する弁体を使用する場合と比較して部品点数を減らし、簡便な構造とすることが可能となる。
【0141】
(第4実施形態)
図12は、この発明の第4実施形態の洗濯機が備える、排水孔開閉弁の側断面を示す側断面図である。図の右側が内槽の中心方向、図の左側が内槽の外周方向である。図中の二点鎖線の矢印は、水の流れを示す。
【0142】
図12に示すように、第4実施形態の洗濯機が第1実施形態の洗濯機100と異なる点としては、内槽120(図1)の周壁121の外側に配置されている樋123の水路排水孔として排水孔124を閉塞、開放するために、樋123の壁面上に弁体として排水孔開閉弁170が配置されている。
【0143】
図12の(A)と(B)に示すように、排水孔開閉弁170は、第3実施形態の弁体160と同様の構成を有する。排水孔開閉弁170は、樋123の外壁面上に設置されているシリンダ171と、シリンダ171内を移動することが可能であるように配置されているピストン172と、ピストン172を内槽120の内部側に付勢するための弾性体としてコイルばね173とから構成されている。
【0144】
シリンダ171は、シリンダ171の内部の空間が排水孔124と連通するようにして、樋123に配置されている。シリンダ171には、下部に穴174が形成されている。樋123内の水は、排水孔124を通ってシリンダ171内に流入し、シリンダ171の穴174を通って樋123の外部に流出することができる。ピストン172は、円柱状の蓋部172aと円柱状の支持部172bとを、細い棒体部172cで連結した亜鈴型に形成されている。蓋部172aと支持部172bの径は、排水孔124の径とほぼ同等の大きさであり、棒体部172cの径は、排水孔124の径よりも小さい。ピストン172は、内槽120(図1)の静止時には、図12の(B)に示すように、蓋部172aの一部がシリンダ171内に挿入され、蓋部172aの一部が樋123の内部に突出するように配置されている。ピストン172は、必要に応じてピストンリングを備えてもよい。コイルばね173は、一方の端部がピストン172の蓋部172aにおいて樋123の内部に突出している側の端面に固定され、他方の端部が樋123の内面上に固定されている。コイルばね173は、ピストン172を樋123の内部方向に付勢している。
【0145】
図12の(A)に示すように、内槽120(図1)が回転し、内槽120の回転数が所定の回転数より大きい場合には、ピストン172に働く遠心力がコイルばね173によってバランスリング130の内部方向に付勢されている力よりも大きくなって、ピストン172がシリンダ171内を樋123の外部方向に移動する。ピストン172がシリンダ171内を移動して、蓋部172aが排水孔124を閉塞する。従って、樋123内の水は、排水孔124がピストン172によって閉塞されているので、排水孔124からシリンダ171の内部に流入することができない。このようにして、樋123の内部に水が保持される。
【0146】
図12の(B)に示すように、内槽120(図1)が回転していない状態や、内槽120の回転数が所定の回転数よりも小さい状態では、ピストン172に樋123の外向きに働く遠心力が小さいので、ピストン172はコイルばね173の付勢によって、樋123の内部方向に移動する。ピストン172が樋123の内部方向にある程度移動すると、ピストン172の蓋部172aが排水孔124を開放する。ピストン172の棒体部172cが排水孔124に位置すると、樋123内の水は、排水孔123からシリンダ171の内部に流入し、シリンダ171の穴174を通って樋123の外部に排出される。このようにして、樋123の内部の水が排出される。
【0147】
このように、洗濯機100においては、樋123は、樋123の内部と外部とを連通して水を樋123から排水するための排水孔124と、排水孔124に配置される排水孔開閉弁170とを有し、排水孔開閉弁170は、内槽120の回転速度に応じて排水孔124を開放または閉塞するように構成されている。
【0148】
このようにすることにより、脱水工程の初期においては、排水孔124を閉塞することによって、内槽120から遠心分離されて樋123内に流入した水がバランスリング130に導かれる前に樋123から排出されないように樋123内に保持するとともに、脱水工程の終了時においては、排水孔124を開放することによって、バランスリング130に到達しなかった水が、樋123を逆流して内槽120内に再び戻ってしまうことを防止することができる。
【0149】
第4実施形態の洗濯機のその他の構成と効果は、第1実施形態の洗濯機と同様である。
【0150】
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】この発明の第1実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【図2】内槽の全体を概略的に示す斜視図である。
【図3】バランスリングと樋と内槽の断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図4】樋の全体を概略的に示す斜視図である。
【図5】内槽とバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図6】内槽と、別の形状のバランスリングの断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図7】この発明の第2実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図8】この発明の第3実施形態として、洗濯機の全体を概略的に示す側断面図である。
【図9】この発明の第3実施形態として、洗濯機の内槽とバランスリングの側断面の一部を概略的に示す断面図である。
【図10】この発明の第3実施形態の洗濯機が備える弁体の側面断面を示す側断面図である。
【図11】この発明の第3実施形態の洗濯機が備える別の弁体を示す図である。
【図12】この発明の第4実施形態の洗濯機が備える、排水孔開閉弁の側断面を示す側断面図である。
【図13】従来のバランスリングを備える洗濯機の回転槽の側面断面を概略的に示す図である。
【図14】従来のバランスリングを備える回転槽が不釣合い(アンバランス)を有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度以下で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。
【図15】図14に示す回転槽をXV−XV線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。
【図16】従来のバランスリングを備える回転槽がアンバランスを有する状態で、洗濯機の1次モード共振点に相当する回転速度よりも大きい回転速度で回転運動しているときの回転槽の側断面を概略的に示す図である。
【図17】図16に示す回転槽をXVII−XVII線の方向から見たときの回転槽の断面を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0152】
100:洗濯機、110:給水装置、120:内槽、121:周壁、123:樋、130:バランスリング、134:バランスリング排水孔、160,160b:弁体、163:コイルばね、165:板ばね、170:排水孔開閉弁。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む繊維構造体を収容するための容器と、
前記容器の上方において前記容器の周壁に配置されて、水を保持するための水保持部と、
前記容器の回転により生じる遠心力によって前記容器内の水を前記水保持部に誘導するための水路とを備える、脱水装置。
【請求項2】
前記水路は前記容器の周壁に配置され、前記回転軸と前記水路との距離は、前記容器の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されている、請求項1に記載の脱水装置。
【請求項3】
前記容器の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、前記容器の回転により生じる遠心力によって前記水保持部の内部に流入した水が前記水保持部の内部に保持され、かつ、前記水保持部の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、前記容器の回転により生じる遠心力によって前記水保持部の内部に流入した水が前記水保持部の内部に保持されないように前記水保持部は構成されている、請求項1または請求項2に記載の脱水装置。
【請求項4】
前記水路に流入した水を前記容器の内部に逆流させないようにして前記水路の外部に排出することが可能であるように前記水路は構成されている、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項5】
前記水路は、多孔質状に形成されている水保持部材を有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項6】
前記容器内に殺菌効果を有する物質を供給するための供給手段を備え、
前記供給手段は、前記容器の内部に前記殺菌効果を有する物質を供給するように構成されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項7】
前記殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水である、請求項6に記載の脱水装置。
【請求項8】
前記水保持部は、前記水保持部の内部と外部とを連通して水を前記水保持部から排水するための水保持部排水孔と、前記水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、
前記弁体は、前記容器の回転速度に応じて前記水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されている、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項9】
前記弁体は、前記容器が所定の速度よりも低い速度で回転している場合には前記水保持部排水孔を閉塞し、かつ、前記容器が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、前記水保持部排水孔を開放するように構成されている、請求項8に記載の脱水装置。
【請求項10】
前記弁体は、弾性体によって形成されている、請求項8または請求項9に記載の脱水装置。
【請求項11】
前記水路は、前記水路の内部と外部とを連通して水を前記水路から排水するための水路排水孔と、前記水路排水孔に配置される弁体とを有し、
前記弁体は、前記容器の回転速度に応じて前記水路排水孔を開放または閉塞するように構成されている、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の脱水装置を備える、洗濯機。
【請求項1】
ほぼ鉛直方向に延びる軸を回転軸として回転することが可能であって、水を含む繊維構造体を収容するための容器と、
前記容器の上方において前記容器の周壁に配置されて、水を保持するための水保持部と、
前記容器の回転により生じる遠心力によって前記容器内の水を前記水保持部に誘導するための水路とを備える、脱水装置。
【請求項2】
前記水路は前記容器の周壁に配置され、前記回転軸と前記水路との距離は、前記容器の下部から上部に向かって次第に大きくなるように構成されている、請求項1に記載の脱水装置。
【請求項3】
前記容器の回転速度が所定の回転速度よりも大きい場合に、前記容器の回転により生じる遠心力によって前記水保持部の内部に流入した水が前記水保持部の内部に保持され、かつ、前記水保持部の回転速度が所定の回転速度よりも小さい場合に、前記容器の回転により生じる遠心力によって前記水保持部の内部に流入した水が前記水保持部の内部に保持されないように前記水保持部は構成されている、請求項1または請求項2に記載の脱水装置。
【請求項4】
前記水路に流入した水を前記容器の内部に逆流させないようにして前記水路の外部に排出することが可能であるように前記水路は構成されている、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項5】
前記水路は、多孔質状に形成されている水保持部材を有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項6】
前記容器内に殺菌効果を有する物質を供給するための供給手段を備え、
前記供給手段は、前記容器の内部に前記殺菌効果を有する物質を供給するように構成されている、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項7】
前記殺菌効果を有する物質は、銀イオンを含む水である、請求項6に記載の脱水装置。
【請求項8】
前記水保持部は、前記水保持部の内部と外部とを連通して水を前記水保持部から排水するための水保持部排水孔と、前記水保持部排水孔に配置される弁体とを有し、
前記弁体は、前記容器の回転速度に応じて前記水保持部排水孔を開放または閉塞するように構成されている、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項9】
前記弁体は、前記容器が所定の速度よりも低い速度で回転している場合には前記水保持部排水孔を閉塞し、かつ、前記容器が所定の速度よりも高い速度で回転している場合には、前記水保持部排水孔を開放するように構成されている、請求項8に記載の脱水装置。
【請求項10】
前記弁体は、弾性体によって形成されている、請求項8または請求項9に記載の脱水装置。
【請求項11】
前記水路は、前記水路の内部と外部とを連通して水を前記水路から排水するための水路排水孔と、前記水路排水孔に配置される弁体とを有し、
前記弁体は、前記容器の回転速度に応じて前記水路排水孔を開放または閉塞するように構成されている、請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の脱水装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の脱水装置を備える、洗濯機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−463(P2009−463A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187107(P2007−187107)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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