説明

脱湿検知剤とその製造方法

【課題】乾燥空気や低露点ガス中の極微量水分を脱湿でき、かつ水分の吸着により短時間で感度よく色を変化させてその極微量水分の存在を容易に検知でき、しかも高温に加熱することなく再生できて安価に実施できるようにする。
【解決手段】吸着基材としてシリカゲルを用い、このシリカゲルに吸湿促進剤としての過塩素酸マグネシウムと、水分指示薬としての酸塩基指示薬を担持させる。酸塩基指示薬にはブロモクレゾールパープル又はブロモチモールブルーを用いる。シリカゲルの粒度を180μm以下とする。シリカゲル100質量部に対し、過塩素酸マグネシウムの担持量は1〜20質量部とし、水分指示薬の担持量は0.001〜1.0質量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱湿検知剤とその製造方法に関し、さらに詳しくは、乾燥空気や低露点ガス中の極微量水分を脱湿させ、かつその極微量水分の吸着により短時間で感度よく色を変化させ、目視によりその極微量水分の存在を容易に検知できる、脱湿検知剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドガスを用いた溶接にあっては、そのシールドガス中の水分濃度が高いと溶接欠陥を生じる虞がある。このため溶接欠陥の発生を低減するには、例えば露点−50℃以下(ガス中の水分濃度が30mg/m3以下)など、低露点のシールドガスが用いられる。しかしながら、例えば溶接作業を一時中断した場合などには、雰囲気中の水分などがゴム製や合成樹脂製等のガス供給路の管壁を透過して、供給路内のシールドガスに混入する虞がある。そこで、特に溶接欠陥を低減した高品位の溶接を行う場合には、シールドガス中の水分濃度を低露点に管理するため、含水量を計測する水分計等の計測装置や、水分等の不純物を除去するガス精製装置などの、高価な設備がガス供給路に付設されている。
【0003】
上記のような低露点ガスをより安価に提供するため、ガス供給路に脱湿剤を付設して除湿することが考えられるが、この場合、水分の吸着により脱湿剤の脱湿性能が低下していないかを確認するためにも、その除湿されたガス中の水分濃度を検認する必要がある。
一般に、水分の吸着状態を色の変化で目視できるようにした脱湿検知剤としては、塩化コバルトや有機系色素を担持したシリカゲルが古くから汎用されている。しかしこの塩化コバルト等を担持したシリカゲルは、例えばシリカゲル100gに約7〜10gの水分を吸着することで、はじめて青からピンクに変色する。このため、高露点ガスが大量に通過しても水分吸着量が所定量に達するまでは色が変化しないので、シールドガスなどに要求される低露点ガスに対しては、これに含まれる微量水分を検知することができない。
【0004】
従来、水分の吸着に対して高感度に色を変化させ、これによりガス中の微量水分を検認できるようにした脱湿検知剤としては、例えば乾燥用シリカゲルに水分指示薬として塩化第二銅を担持させたもの(例えば、特許文献1参照。以下、従来技術1という。)や、20〜40メッシュの膨張パーライトに吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを担持させるとともに、水分指示薬としてNi(II)・ジメチルグリオキシム錯体を担持させたものがある(例えば、非特許文献1参照。以下、従来技術2という。)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−200423号公報
【非特許文献1】「呈色指示薬を含むパーライト基体の過塩素酸マグネシウム乾燥剤の調製(PREPARATION OF PERLITE-BASED MAGNESIUM PERCHLORATE DESICCANT WITH COLOUR INDICATOR)」,タランタ(Talanta),(イギリス国),1994年5月,第41巻,第5号,p.633−637
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術1では、塩化コバルト等を担持させた汎用のシリカゲルに比べて、低湿度領域で色が変化するものの、関係湿度が20〜50%程度の低湿度領域を対象としている。ここで、例えば室温25℃での関係湿度20%の空気中の水分量は、約4600mg/m3に相当する。このため、この従来技術1の脱湿検知剤は、シールドガスのように低露点ガスの水分濃度を検知する分野では、水分吸着量が所定量に達せず色が変化しないため用をなさない。
【0007】
一方、上記の従来技術2にあっては、低露点ガスに対して高い脱湿性能を備えている利点がある。しかしながら、この従来技術2の脱湿検知剤は、製造時や再生時に水分を離脱させるため、真空中で220〜240℃の高温に加熱する必要があり、実施が容易でないうえ、エネルギーコストが高くつく問題がある。しかも水分指示薬としては、耐熱性に優れた、例えばNi(II)・ジメチルグリオキシム錯体のような高価なキレートを用いなければならず、汎用の安価な酸塩基指示薬を使用できない問題もある。
【0008】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、乾燥空気や低露点ガス中の極微量水分を脱湿でき、かつ水分の吸着により短時間で感度よく色を変化させてその極微量水分の存在を容易に検知でき、しかも製造・再生時の真空中での高温加熱処理をする必要が無いため安価に実施できる脱湿検知剤とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するため鋭意研究の結果なされたもので、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は脱湿検知剤に関し、吸着基材に吸湿促進剤と水分指示薬とを担持させた脱湿検知剤であって、上記の吸着基材としてシリカゲルを用い、このシリカゲルに吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを担持させるとともに、水分指示薬としてpHが4〜8の範囲で色が変化する酸塩基指示薬を担持させたことを特徴とする。
【0010】
また本発明2は脱湿検知剤の製造方法に関し、吸着基材に吸湿促進剤と水分指示薬とを担持させる脱湿検知剤の製造方法であって、上記の吸着基材としてシリカゲルを用い、上記の吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを用いるとともに、上記の水分指示薬としてpHが4〜8の範囲で色が変化する酸塩基指示薬を用い、上記の過塩素酸マグネシウムと上記の酸塩基指示薬は、いずれも溶液状で上記のシリカゲルに含浸させ、その後に乾燥処理を施すことを特徴とする。
【0011】
ここで、上記の酸塩基指示薬はpHが4〜8の範囲で色が変化するものであればよく、具体的には、ブロモクレゾールパープルやブロモチモールブルーなどを挙げることができる。
【0012】
上記のシリカゲルの粒度は特定の値に限定されないが、粗くし過ぎるとこれに担持させた水分指示薬の色変化が遅く且つ不明瞭になり易い。このため、このシリカゲルの粒度は通常180μm以下に設定され、より好ましくは100μm程度以下に設定される。
【0013】
上記のシリカゲルに対する過塩素酸マグネシウムと水分指示薬の担持量は、必要とされる脱湿性能や水分指示性能に応じた値に設定され、特定の担持量に限定されない。但し、シリカゲル100質量部に対して、過塩素酸マグネシウムを1〜20質量部担持させ、水分指示薬を0.001〜1.0質量部担持させると、極微量の水分を良好に吸着して明瞭に色が変化するので好ましく、水分指示薬を0.01〜0.5質量部担持させると、一層明瞭に色の変化を生じるのでより好ましい。
【0014】
上記の本発明2において、過塩素酸マグネシウムや水分指示薬の溶液は、シリカゲルへの含浸・吸着が可能な形態であればよく、特定の溶媒に限定されない。具体的には、例えばエチルアルコール等の有機溶媒を用いてもよく、或いは水溶液であってもよい。
なおこの過塩素酸マグネシウム溶液と水分指示薬溶液のシリカゲルへの含浸は、特定の順序に限定されず、いずれを先に含浸させてもよく、或いは両溶液を混合して同時に含浸させてもよい。
【0015】
また、上記の本発明2における乾燥処理は、シリカゲルと過塩素酸マグネシウムの脱湿性能が発揮されるように水分を離脱できればよく、特定の処理方法に限定されない。
具体的には、例えば100℃以上、好ましくは140℃以上での加熱により良好に乾燥させることができ、或いは露点−76℃以下のドライガスを流通させることで良好に乾燥することができる。さらに任意の温度に加熱してこのドライガスを用いると、一層良好に且つ迅速に乾燥することができ、より好ましい。但し、上記の加熱により乾燥させる場合は、シリカゲルに担持させた過塩素酸マグネシウムや酸塩基指示薬が分解や変質などを生じない範囲に設定される。具体的には、例えば過塩素酸マグネシウムは250℃以上で分解し、ブロモチモールブルーは240℃で分解し、ブロモクレゾールパープルの融点は200℃であるので、これらを用いる場合、上記の加熱温度は180℃以下に、好ましくは150℃以下に設定される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏することができる。
(1)シリカゲルに吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを担持させるとともに、水分指示薬として酸塩基指示薬を担持させたことから、低露点ガス中の極微量の水分でも良好に脱湿できるうえ、この極微量の水分を吸着することにより、短時間で感度よく色が変化するので、この極微量の含水量を容易に検知することができる。
これらにより、シールドガス溶接等に使用される産業ガス中の水分低減を狙った乾燥筒の下流側に、本発明に係る脱湿検知剤を設置することで、乾燥筒の乾燥能を知ることができ、低露点ガスの品質を精緻に管理して、溶接欠陥の発生を低減させることができる。また、半導体分野などの雰囲気ガスとして使用される低露点ガスの監視に対しても、水分計やその他の高価な計測器機等を使用することなく、安価で簡便なライン湿度モニターとして利用することができる。
【0017】
(2)シリカゲルに担持させた過塩素酸マグネシウムは、汎用の酸塩基指示薬の分解温度や融解温度よりも低温の、例えば140℃程度の加熱処理により充分な脱湿性能を発揮することができる。このことから前記の従来技術2と異なって、製造時の乾燥や再生処理を容易に且つ安価に実施できるうえ、水分指示薬として汎用の酸塩基指示薬を用いることができ、一層安価に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明に係る脱湿検知剤について説明する。
本発明に係る脱湿検知剤は、吸着基材としてのシリカゲル100質量部に、吸湿促進剤としての過塩素酸マグネシウム1〜20質量部と、水分指示薬としての酸塩基指示薬であるブロモクレゾールパープル又はブロモチモールブルー0.01〜0.5質量部とを担持させて構成する。
上記のシリカゲル、過塩素酸マグネシウム、ブロモクレゾールパープル、及びブロモチモールブルーは、いずれも市販されているものであり、格別のものではない。
【0019】
上記のシリカゲルの粒度は、後述するように180μm以下のものであってもよいが、100μm程度以下のものが好ましい。なおこのシリカゲルの粒度は、数μm以上のものが用いられるが、細かくし過ぎると通気時の圧力損失が大きくなる場合がある。そこで、この細かい粒度のシリカゲルを用いる場合には、適切な大きさの板材等に塗布して担持させ、このシリカゲルの粒子を担持させた板材等をガスの流通路に配置すると、圧力損失を大きくすることなく、良好に脱湿させることができるので好ましい。
【0020】
次に、上記の脱湿検知剤の製造方法について具体的に説明する。
最初に、吸湿促進剤としての過塩素酸マグネシウムのエタノール溶液と、水分指示薬としての酸塩基指示薬の、具体的にはブロモクレゾールパープル又はブロモチモールブルーのエタノール溶液とを調製する。上記の過塩素酸マグネシウム溶液は、例えばエタノール50mlに対し、過塩素酸マグネシウム10gの割合で溶解させて調製する。また、上記の水分指示薬溶液は、エタノール50mlに対し、水分指示薬80mgの割合で溶解させて調製する。
【0021】
次に、予め所定の粒度に調製されたシリカゲルに、上記の水分指示薬溶液を所定量含浸させ、さらに上記の過塩素酸マグネシウム溶液を所定量含浸させる。
その後、この両溶液が含浸したシリカゲルを所定の温度、例えば140〜180℃に加熱して乾燥させる。或いはこの加熱乾燥に代えて、例えば露点−76℃以下のドライガスを室温で流通させて乾燥させてもよい。但し低露点ガスを流通させて乾燥させる場合は、例えば溶媒の沸点程度に加熱して大部分の溶媒を気化させたのち用いると、迅速に乾燥できて好ましい。
【0022】
なお、上記の実施形態では、水分指示薬溶液を含浸させたのち過塩素酸マグネシウム溶液を含浸させたが、過塩素酸マグネシウム溶液を含浸させたのち水分指示薬溶液を含浸させてもよく、或いは両溶液を混合してシリカゲルに含浸させてもよい。また、上記の過塩素酸マグネシウムおよび水分指示薬はいずれもエタノール溶液の形態で調製したが、いずれか一方または両者を水溶液の形態にして用いてもよい。さらに上記の各溶液の濃度は、溶解性や含浸・乾燥時の操作性等を考慮して適宜設定され、上記の実施形態の数値に限定されない。
【0023】
上記のシリカゲルは、粒度が1mm以上であると−25℃前後の高露点ガスを通過させても、色が変化しきるのに時間がかかり、感度よく水分を検知することができない。そこで上記のシリカゲルについて、粒度を異ならせた場合の、水分吸着による色の変化を確認した。
【0024】
粒度比較試験に用いた脱湿検知剤は、次のように調製した。
実施例1では粒度が75μm未満のシリカゲルを用い、実施例2では粒度が75〜106μmのシリカゲルを用い、実施例3では粒度が106〜180μmのシリカゲルを用いた。各実施例では、それぞれシリカゲル1gに対し、上記の過塩素酸マグネシウム溶液を0.5mlと、上記の水分指示薬溶液(ブロモチモールブルー溶液)2.0mlとを混合したのち加熱乾燥した。なお、シリカゲル100質量部に対する担持量は、過塩素酸マグネシウムが10質量部、ブロモチモールブルーが0.32質量部である。
【0025】
上記の各実施例の脱湿検知剤に、露点−53℃(水分量20mg/m3)のガスと、露点−42℃(水分量77mg/m3)とを流通させ、それぞれ水分の吸着による色の変化を観察した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
上記の観察の結果、本発明の脱湿検知剤は、ガスの露点が−42℃の場合には、粒度が106〜180μm程度であっても、充分に目視で判別できる程度に色が変化するが、粒度を100μm程度以下に設定すると、ガスの露点が−53℃の場合においても、より鮮明に色が変化するので好ましい。なお、粒度を小さくすると表面積が大きくなって水分吸着能は高まるが、水分指示薬による着色は薄くなる傾向がある。また、実際に使用するときには、ある程度の通気性を確保するため数μm以上の粒度が好ましい。但し、通気度が重要となる場合は、この脱湿検知剤を板状物等の基材に固定して使用することも可能である。
【0028】
例えば、産業ガス中の水分低減を狙った乾燥筒の下流側に、本発明に係る脱湿検知剤を設置する場合、ガス流量が多くなると、ガラス管内に粉末状の脱湿検知剤を充填したのでは圧力損失が大きく、所定量のガスを流通させることが困難となる。このため、上記の粉末状の脱湿検知剤を使用する場合は、例えば厚紙などの板状のものに両面テープを貼付するなどして粘着層を形成し、その上に上記の粉末状の脱湿検知剤を塗布し、乾燥したものを上記の乾燥筒の下流側に配置する。これによりガス流量が多くなっても、圧力損失を低く抑えることができ、大量のガスを円滑に流通させることができる。
【0029】
次に、シリカゲルのpH値の影響について説明する。
吸着基材であるシリカゲルのpH値により、調製時の乾燥前と乾燥後の色に差異が見られる。そこで、pH値が異なるシリカゲルを用いて脱湿検知剤を次のように調製した。
実施例4としてpH4.5のシリカゲルを用い、比較例1としてpH6.8のシリカゲルを用いた。それぞれのシリカゲル1gに対し、上記の過塩素酸マグネシウム溶液を0.2mlと、上記の水分指示薬溶液(ブロモチモールブルー溶液またはブロモクレゾールパープル溶液)0.4mlとを混合したのち加熱乾燥した。なお、シリカゲル100質量部に対する担持量は、過塩素酸マグネシウムが4質量部、ブロモチモールブルー又はブロモクレゾールパープルが0.064質量部である。
【0030】
上記の脱湿検知剤の調製において、それぞれシリカゲルに上記の両溶液を含浸させた際の色と、これを乾燥したのちの色とを比較した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
上記の乾燥前後の色を比較した結果、水分指示薬としてブロモチモールブルー或いはブロモクレゾールパープルを用いた場合、シリカゲルのpH値が5以下であれば吸湿時と乾燥時との色の差異が顕著であり、脱湿検知剤として好ましい。これに対し、pH値が7程度よりも大きくなると、色の差異は小さく、好ましくないことが明らかとなった。
【0033】
次に、上記のシリカゲルと、他の吸着基材との比較について説明する。
シリカゲル以外の吸着基材としては、例えばアルミナやモレキュラーシーブなどが考えられる。上記の実施例4と同様に調製したところ、アルミナは吸湿に伴う色変化が見られたが、シリカゲルに比較すると色の変化が顕著ではなかった。また、モレキュラーシーブは乾燥時と吸湿時との色の差異がないため、脱湿検知剤として使用できなかった。
【0034】
次に、吸湿促進剤である過塩素酸マグネシウムについて説明する。
シリカゲルの吸湿性能を補填する吸湿促進剤としては、平衡状態での空気中の水分の分圧が小さいものが好ましく、具体的には、過塩素酸マグネシウム以外に塩化カルシウムや五酸化リンが考えられる。即ち25℃における平衡時の気相水分量は、過塩素酸マグネシウムが0.5〜2mg/m3であるのに対し、塩化カルシウムが0.01mg/m3、五酸化リンが0.02mg/m3である。
しかしながら、上記の塩化カルシウムや五酸化リンを用いた場合、これらを水分指示薬とともにシリカゲルに担持させたものは、吸湿による色の変化がほとんどなく、脱湿検知剤としては過塩素酸マグネシウムを用いたものが優れていることが判明した。
【0035】
次に、上記の過塩素酸マグネシウムの担持量を異ならせたときの、吸湿による色の変化を確認するため、実施例5〜8の脱湿検知剤を次のように調製した。
粒度106〜180μmのシリカゲル2.5gを収容した容器に、上記のブロモクレゾールパープル溶液2mlを投入し、次いで上記の過塩素酸マグネシウム溶液を実施例5では0.125ml、実施例6では1.25ml、実施例7では2.5ml、実施例8では5mlを投入した。シリカゲル100質量部に対する担持量は、ブロモクレゾールパープルが0.128質量部、過塩素酸マグネシウムが実施例5では1質量部、実施例6では10質量部、実施例7では20質量部、実施例8では40質量部である。
その後、上記の両溶液が含浸したシリカゲルを乾燥した際の色と、これに露点−50℃(水分量30mg/m3)のガス及び露点−40℃(水分量101mg/m3)をそれぞれ流通させて吸湿させたのちの色とを観察した。その結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
上記の観察の結果、過塩素酸マグネシウムの担持量は、シリカゲル100質量部に対し1〜20質量部が好ましいことが判明した。
【0038】
次に水分指示薬の担持量を異ならせたときの、吸湿による色の変化を確認するため、実施例9〜13と比較例2の脱湿検知剤を次のように調製した。
粒度が75μm未満のシリカゲル1.0gに対して、上記のブロモチモールブルー溶液を実施例9では0.025ml添加し、実施例10では0.19ml添加し、実施例11では0.5ml添加し、実施例12では2.0ml添加し、実施例13では6.25ml添加し、比較例2では10.0ml添加し、それぞれ過塩素酸マグネシウム溶液0.5mlを混合したのち乾燥した。シリカゲル100質量部に対する担持量は、過塩素酸マグネシウムが10質量部、ブロモチモールブルーが実施例9では0.004質量部、実施例10では0.03質量部、実施例11では0.08質量部、実施例12では0.32質量部、実施例13では1.0質量部、比較例2では1.6質量部である。
【0039】
上記の調製した各脱湿検知剤について、それぞれ乾燥したときの色と、これに露点−54℃(水分量18mg/m3)のガス及び露点−42℃(水分量80mg/m3)をそれぞれ流通させて吸湿させたのちの色とを観察した。その結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
上記の観察の結果、ブロモチモールブルーの担持量が1.6質量部の比較例2では、水分指示薬の色が濃く、色の変化が明瞭でないため、目視による判別が容易でなかった。また、担持量が1.0質量部の実施例13においても色の変化がやや不明瞭であり、一方、担持量が0.004質量部の実施例9では水分指示薬の色が薄くなって、色の変化がやや不明瞭であった。これに対し担持量が0.01〜0.32重量部の実施例10〜12では、いずれも色の変化が明瞭であり、吸湿を目視により容易に判別することができた。
【0042】
上記の本発明の脱湿検知剤は、吸湿により色が変化するが、この吸湿した脱湿検知剤を乾燥することにより、再生することができる。この再生のための乾燥は、前記の製造時の乾燥と同様、加熱処理または乾燥ガスの流通により行うことができる。
【0043】
そこで次に、吸湿して色が変化した本発明の脱湿検知剤を加熱により再生する際、その加熱温度を異ならせたときの、加熱後の脱湿検知剤の色を観察した。その結果を表5に示す。なお、用いた脱湿検知剤は、粒度が75μm未満のシリカゲル2.5gに、前記のブロモクレゾールパープル溶液を6.0mlと、前記の過塩素酸マグネシウム溶液2.5mlとを加えて調整した。シリカゲル100質量部に対する担持量は、過塩素酸マグネシウムが20質量部、ブロモクレゾールパープルが0.384質量部である。
【0044】
【表5】

【0045】
上記の観察の結果、100℃未満の加熱では加熱後の色と吸湿時の色との差異が不明瞭であり、水分検知剤としての機能の再生は不十分であった。これは、加熱温度が低いと水分が充分に離脱しないためと考えられる。これに対し、100℃以上に加熱すると充分に判別できる程度に色が変化し、水分検知剤としての機能を再生することができた。特に、140℃以上に加熱すると色の差異が一層明瞭となり、水分検知剤としての機能が良好に再生された。
【0046】
なお、上記の加熱乾燥に代えて、吸湿した脱湿検知剤に、露点が−76℃〜−90℃の乾燥した窒素ガスを室温(25℃)で流通させたところ、上記の140℃での加熱と同様に色が変化した。このことから、吸湿後の再生に乾燥ガスを使用することにより、脱湿検知剤をガス流路へ配設する際に用いる接続部材など、各種部材の耐熱性に関する使用制限が緩和される。
【0047】
次に上記の脱湿検知剤について、加熱による水分の離脱を確認するため、吸湿状態の脱湿検知剤を加熱したときの重量の変化を測定した。その結果を図1の加熱減量グラフに示す。
上記の測定の結果、吸湿時の重量を1としたとき、140℃での重量は0.82であるので加熱減量は0.18であり、200℃での重量は0.79であるので加熱減量は0.21であり、過塩素酸マグネシウムの分解温度である250℃での重量は0.78であるので加熱減量は0.22であった。
【0048】
上記の減量値から、水分が略完全に離脱していると考えられる250℃での加熱減量を100%とすると、200℃での加熱減量は95%となり、140℃での加熱減量は82%となる。従って本発明の脱湿検知剤は、140℃での加熱により大部分の水分が離脱して乾燥し、水分吸着機能(脱湿性能)が充分に回復することが判る。即ち、過塩素酸マグネシウム単体の場合は、加熱による吸収水分の離脱・減量が150℃前後から始まるが、本発明品は、より低温での乾燥や脱湿材としての再生が可能となる。
【0049】
次に、本発明品とシリカゲル単体と過塩素酸マグネシウム単体とを用いて、それぞれの脱湿性能を測定した。
脱湿試験は、各脱湿剤0.7gを筒体内に収容して真空下140℃で1時間乾燥したのち、露点−50℃の窒素ガスを流通させ、出口側での窒素ガスの露点を測定した。その結果を表6に示す。なお、露点測定装置は、パナメトリクス社製のSYSTEM−3Aを使用した。
【0050】
【表6】

【0051】
上記の測定の結果、本発明品は、シリカゲル単体や過塩素酸マグネシウム単体に比べて到達露点が低く、優れた脱湿性能を発揮した。これは、過塩素酸マグネシウムがシリカゲルの表面に分散されることで、水分との接触面積が大きくなり、見かけの吸・脱湿速度が向上するためと思われる。つまり、本発明品ではシリカゲルと過塩素酸マグネシウムの相乗効果により、140℃程度で再生され、しかも充分に優れた脱湿能力が得られる、と考えられる。なお、上記の過塩素酸マグネシウム単体が吸湿すると、潮解性によりベト付きを生じて取り扱い難くなったが、本発明品は、吸湿状態においても過塩素酸マグネシウムの潮解性によるベト付きは見られず、粒子の流動性が良好に維持されて、取扱が容易であった。
【0052】
上記の実施形態で説明した脱湿検知剤は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、シリカゲルの粒度や過塩素酸マグネシウムの担持量、水分検知剤の担持量、乾燥温度、乾燥のために流通させる乾燥ガスの露点などは、上記の実施形態のものに限定されず、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0053】
例えば、上記の実施形態では水分指示薬としての酸塩基指示薬に、ブロモクレゾールパープルまたはブロモチモールブルーを用いたが、両者を混合して用いても良く、さらにはpHが4〜8の範囲で色が変化する他の酸塩基指示薬を単独で或いは組み合わせて用いても良い。また本発明の脱湿検知剤は、ガス流路において乾燥筒の下流側に配置するだけでなく、脱湿材としてガス流路に配置することも可能であることは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の脱湿検知剤は、乾燥空気や低露点ガス中の極微量水分を脱湿でき、かつ水分の吸着により短時間で感度よく色を変化させてその極微量水分の存在を容易に検知でき、しかも高温に加熱することなく再生できて安価に実施できるので、シールドガスや半導体分野で使用される雰囲気ガスなどの、低露点ガス中の水分濃度を管理する脱湿検知剤として特に好適であるが、他の産業用ガスに対する脱湿検知剤としても好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】吸湿状態の脱湿検知剤を加熱したときの重量変化を示す、加熱減量グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着基材に吸湿促進剤と水分指示薬とを担持させた脱湿検知剤であって、
上記の吸着基材としてシリカゲルを用い、このシリカゲルに吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを担持させるとともに、水分指示薬としてpHが4〜8の範囲で色が変化する酸塩基指示薬を担持させたことを特徴とする、脱湿検知剤。
【請求項2】
上記の酸塩基指示薬がブロモクレゾールパープルとブロモチモールブルーの少なくともいずれか一方である、請求項1に記載の脱湿検知剤。
【請求項3】
上記のシリカゲルの粒度が180μm以下である、請求項1または請求項2に記載の脱湿検知剤。
【請求項4】
上記のシリカゲル100質量部に対し、1〜20質量部の過塩素酸マグネシウムと、0.001〜1.0質量部の水分指示薬を担持させた、請求項1から3のいずれか1項に記載の脱湿検知剤。
【請求項5】
吸着基材に吸湿促進剤と水分指示薬とを担持させる脱湿検知剤の製造方法であって、
上記の吸着基材としてシリカゲルを用い、上記の吸湿促進剤として過塩素酸マグネシウムを用いるとともに、上記の水分指示薬としてpHが4〜8の範囲で色が変化する酸塩基指示薬を用い、
上記の過塩素酸マグネシウムと上記の酸塩基指示薬は、いずれも溶液状で上記のシリカゲルに含浸させ、その後に乾燥処理を施すことを特徴とする、脱湿検知剤の製造方法。
【請求項6】
上記の酸塩基指示薬がブロモクレゾールパープルとブロモチモールブルーの少なくともいずれか一方である、請求項5に記載の脱湿検知剤の製造方法。
【請求項7】
上記の乾燥処理は、100℃以上での加熱による、請求項5または請求項6に記載の脱湿検知剤の製造方法。
【請求項8】
上記の乾燥処理は、露点−76℃以下のドライガスを用いて施す、請求項5から7のいずれか1項に記載の脱湿検知剤の製造方法。
【請求項9】
上記のシリカゲルの粒度が180μm以下である、請求項5から8のいずれか1項に記載の脱湿検知剤の製造方法。
【請求項10】
上記のシリカゲル100質量部に対し、1〜20質量部の過塩素酸マグネシウムと、0.001〜1.0質量部の水分指示薬を担持させる、請求項5から9のいずれか1項に記載の脱湿検知剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−322345(P2007−322345A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155558(P2006−155558)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】