説明

脱着式牽引フックの取付構造

【課題】本発明は、中空としたアルミニウム合金製バンパーステイの軸に、脱着式牽引フックを貫通させる方式の取付構造において、牽引中の荷重方向が変化した場合に、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止した、脱着式牽引フックの取付構造を提供することを目的とする。
【解決手段】脱着式牽引フック20が、バンパーリインフォース1の前面側から、その貫通穴6、7と、前記バンパーステイ10の軸部12とに挿入されるとともに、この脱着式牽引フックの軸22が、バンパーステイ10の前端取付部11か、バンパーリインフォースの前壁2かに着脱自在に接合された鋼製座金30の開口部31に嵌入された状態で、牽引フック取付部材24に固定されており、この鋼製座金30の開口部31は、その周縁に前記牽引フックの軸に向けて張り出した拡開部32を有して、この拡開部32が牽引フックの軸22を挟持しているものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の脱着式牽引フックの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脱着式牽引フックは、牽引時又は船による輸送時(タイダウンのため)等に、必要に応じて、自動車に取り付けられるが、通常は取り外されている。この脱着式牽引フックの着脱側の先端には、通常、雄ねじがねじ切りされ、これを車体側に固定された雌ねじ部材に螺合して取り付ける。
【0003】
このような雌ねじ部材は、一般には、車体のサイドメンバーの軸線上において、サイドメンバー自体(特許文献1参照)、あるいはバンパーリインフォース又はバンパーステイ(特許文献2〜6参照)に固定されている。
【0004】
しかし、特許文献1の構造では、衝突時、雌ねじ部材によりバンパーリインフォース及びバンパーステイの圧壊が妨げられ、これらバンパーリインフォース及びバンパーステイをエネルギー吸収に寄与させることができない。
【0005】
一方、特許文献2〜6の構造の場合、バンパーリインフォース及びバンパーステイは、衝突時にサイドメンバーの圧壊に先だって圧壊し、衝突エネルギーを吸収する役割をもつものであるから、サイドメンバーに比べて強度的に劣り、牽引フックから加わる大きい牽引荷重及び牽引モーメントを支持するには適当とはいえない。
【0006】
合わせて特許文献2〜4の構造では、雌ねじ部材によりバンパーリインフォース又はバンパーステイの圧壊が妨げられ、特許文献5の構造でも雌ねじ部材によるバンパーステイの潰れ残りが発生しやすい。特許文献6の構造では、衝突時に後退する雌ねじ部材がサイドメンバーを傷付ける可能性があり、またバンパーリインフォースの牽引フックを通す位置に比較的大きい開窓を形成するので、その部分が衝突に対して脆弱になる可能性がある。
【0007】
また、特許文献7には、バンパーリインフォースに前後方向に貫通する穴を形成し、その穴に管状のアルミニウム合金押出材からなるバンパーステイの軸部を嵌入させ、その前端を前記穴から前方に突出させ、この状態で電磁成形により軸部を拡管して、バンパーリインフォースの前後壁に前記軸部を固定したバンパー構造体が記載されている。ただ、この特許文献7には、脱着式牽引フックの取付構造までは開示されていない。
【0008】
これに対して、特許文献8では、前記特許文献7のような、アルミニウム合金押出材を電磁成形により軸部を拡管して、前端から後端まで中空としたバンパーステイにおいて、雌ねじ部材が固定された牽引フック取付部材をバンパーステイの後端に配置し、サイドメンバーに固定する。これにより、雌ねじ部材が強固に支持され、また、衝突時にバンパーリインフォースとバンパーステイが完全に潰れても、そのあいだ雌ねじ部材に邪魔されることはなく、潰れ残りが生じるのが防止されるとしている。そして、バンパーリインフォースに形成された貫通穴(牽引フックを通す開口)の内周面に、バンパーステイの軸部が密着し、この部分が補強されているため、従来技術のように開口の周辺が衝突に対して脆弱になることはなく、むしろ堅固になっているとしている。
【0009】
【特許文献1】実開平4−39911号公報
【特許文献2】特開2000−296742号公報
【特許文献3】特開2002−68015号公報
【特許文献4】特開2004−90709号公報
【特許文献5】特開2002−53066号公報
【特許文献6】特開2003−2136号公報
【特許文献7】特開2004−237818号公報
【特許文献8】特開2008−37220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この特許文献8では、その図3に断面図で示すように、牽引フック20の周囲に、硬質ゴム等で形成したリング40を通し、バンパーステイ10の軸部12の先端部11(バンパーリインフォース1の前壁2の位置)において、この軸部12乃至先端部11の内周に嵌め込んでいる。そして、このリング40の内周面を、牽引フック20の外周に密着させる一方、外周面はバンパーステイの軸部12の内周に密着させている。これにより、前記タイダウン時等における荷重の一部を、このリング40を介して、バンパーリインフォース1及びバンパーステイ20に支持し、ナットプレート24及びサイドメンバー25への荷重の集中を軽減しようとしている。
【0011】
しかし、この特許文献8では、索引フック19が、バンパーリインフォース1側の先端で、その図2の通りフリーとなっているか、その図3の通り硬質ゴム等の弾性体のリング40で支持されているのみである。
【0012】
このため、牽引フックによる牽引中に、道路や海、あるいは車の運転や船の操縦などの状況によって、荷重の負荷方向が変化した場合には、本願図7に矢印および点線の索引フックで示すように、索引フック(の軸心)が、索引方向あるいは車両の軸方向から大きくズレて傾くことを防止できない。そして、このような索引フックの傾きが生じた場合、索引フック19を固定するナットプレート(牽引フック取付部材)24部分に、繰り返して曲げ応力がかかり、疲労特性が低下して、破損しやすいという問題を生じる。
【0013】
このような、牽引中の荷重方向の変化によって、索引フックの軸の方向が、車両の軸方向からズレて傾くことを防止できない場合、信頼性の問題から、前端から後端まで中空としたアルミニウム合金製バンパーステイの軸に、脱着式牽引フックを貫通させる方式の取付構造の実用化は困難となる。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、前端から後端まで中空としたアルミニウム合金製バンパーステイの軸に、脱着式牽引フックを貫通させる方式の取付構造において、牽引中の荷重方向が変化した場合でも、索引フックの軸方向が車両の軸方向からズレて傾くことがない、脱着式牽引フックの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的達成のために、本発明の脱着式牽引フックの取付構造の要旨は、自動車バンパーにおける脱着式牽引フックの取付構造であって、バンパーリインフォースを、車幅方向所定位置において断面が中空で、車長方向に対する前壁と後壁とを有し、これら前壁と後壁とにバンパーリインフォースを車長方向に貫通する穴が形成されたものとする一方、このバンパーリインフォースを後方側から支持するバンパーステイを、管状のアルミニウム合金押出材からなる軸部と、この軸部の前端および後端に一体形成されるか又は固定された取付部とからなり、この後端側の取付部に前記脱着式牽引フックの取付部材が配置されたものとし、このバンパーステイを、前記軸部が前記バンパーリインフォースの前壁と後壁との穴と対応するように、前記各取付部にて前記バンパーリインフォースとサイドメンバーとに各々固定し、その上で、前記脱着式牽引フックが、前記バンパーリインフォースの前方側から、前記バンパーリインフォースの前壁と後壁との穴を介して、前記バンパーステイの軸部に挿入されるとともに、この脱着式牽引フックの軸が、前記バンパーステイの前端取付部か、前記バンパーリインフォースの前壁かに着脱自在に接合された鋼製座金の開口部にはめ込まれた状態で、前記牽引フック取付部材に固定されており、この鋼製座金の開口部は、その周縁に前記牽引フックの軸に向けて張り出した拡開部を有して、この拡開部が前記牽引フックの軸を支持していることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明が課題とする、牽引中の荷重方向が変化した場合でも、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことがないようにするためには、牽引フックの軸をしっかりと固定すれば良いことは容易に分かる。しかし、この固定の仕方は、牽引フックが、装着したまま取り外さないような固定タイプでは、固定用の冶具や、溶接接合や機械的な接合などの手段を駆使して、いかようにでも簡便に実施できる。
【0017】
しかし、ふだんは取り外される、脱着式牽引フックの場合には、脱着のために、前記固定用の冶具や、溶接接合や機械的接合などの手段を駆使できなくなり、途端に実現が難しくなる、
【0018】
これに対して、本発明では、前記牽引フックの軸をはめ込む開口部を有した鋼製座金を、前記バンパーステイの前端取付部および/または前記バンパーリインフォースの前壁に、着脱自在に機械的に接合することで解決する。また、更に、前記鋼製座金の開口部が、単なる開口部ではなく、前記牽引フックの軸を支持できるように、その周縁に前記牽引フックの軸に向けて張り出した、バーリング加工あるいはフレアカール加工などによる拡開部を有するように工夫する。そして、これによって、この拡開部が、前記牽引フックの軸を支持することで、牽引中の荷重方向が変化した場合でも、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止する。
【0019】
これによって、牽引フックの信頼性が増し、前端から後端まで中空としたアルミニウム合金製バンパーステイの軸に、脱着式牽引フックを貫通させる方式の取付構造の実用化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る脱着式牽引フックの取付構造を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る脱着式牽引フックの取付構造を説明する断面図である。
【図3】図2の鋼製座金30の開口部31における拡開部32の拡大図である。
【図4】図1の正面図である。
【図5】図1の背面図である。
【図6】本発明に係る脱着式牽引フックの取付構造の別の態様を説明する断面図(組み付け図)である。
【図7】従来の脱着式牽引フックの取付構造を説明する断面図(組み付け図)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
本発明に係る脱着式牽引フックの取付構造の実施態様のひとつを図1〜4に示す。図1は斜視図(組み付け図)、図2は図1の断面図、図3は図1を正面から見た図、図4は図1を背面から見た図である。
【0023】
バンパーリインフォース:
本発明において、自動車バンパーにおけるバンパーリインフォース1は、断面が口形の、矩形アルミニウム合金中空押出形材中空押出形材からなる。アルミニウム合金の種類は、最も強度が優れて、薄肉化、軽量化が可能である点で、JIS乃至AAで言う7000系アルミ合金のT5、T6、T7などの調質(熱処理)材が汎用される。ちなみに、バンパーリインフォース1の断面は、後述する脱着式牽引フックの貫通用の穴を設ける点で、特に支障が無い限り、このような口形に限らず、日形、目形、田形など、他の中空断面形状を有していてもよい。
【0024】
図1、2では、各々図の上側を車体前方側(フロント側)とし、このフロント側でのバンパーリインフォース1への脱着式牽引フックの取付構造を示している。ただ、脱着式牽引フックが取付られるのは、車体後方側(リア側)、あるいはフロント、リアの両方であっても良い。
【0025】
また、図2では、バンパーリインフォース1の車体の右側のみを図示している。バンパーリインフォース1は、自動車の車体設計にもよるが、概ね、車体幅方向に平行な中央部4と、その両側から各々車体の後方に向かって斜めに傾斜した、左右の傾斜端部5を各々有する。すなわち、図2の左側も、図示はしないが、左右対称な形で、この図2と同じバンパーリインフォースの構造となっている。
【0026】
図2において、脱着式牽引フックが取付られるのは、バンパーリインフォース1の車幅方向中央部4でも良いが、車体設計上は概ね、左右いずれかの傾斜端部5の側において、車長(車体前後)方向にバンパーリインフォース1を貫通する貫通穴を設けて、脱着式牽引フックを取付る。この図2では、脱着式牽引フック20をバンパーリインフォース1の右側の傾斜端部5に取り付ける態様を示している。
【0027】
バンパーリインフォース1は、車体衝突時のエネルギ(衝撃)を吸収するために、車幅方向所定位置において断面が中空であればよく、車幅方向の全長に渡って同じ中空断面形状をしている必要はない。例えば、取り付け上の必要性から、左右の傾斜端部5の先端部が、断面の潰し加工を施されていても良い。
【0028】
バンパーリインフォース1の矩形中空断面を構成する4つの壁のうち、車長(車体前後)方向でいう前壁(前側壁)2に設けた貫通穴6と、後壁(後側壁)3に設けた貫通穴7とを各々対応させて設けて、脱着式牽引フック20の軸22を、バンパーリインフォース1を貫通させる貫通穴とする。すなわち、規定する通り、バンパーリインフォース1を、車幅方向所定位置において断面が中空で、車長方向に対する前壁2と後壁3とを有し、これら前壁2と後壁3に、車長(車体前後)方向にバンパーリインフォース1を貫通する穴6、7が形成されたものとする。
【0029】
この貫通穴6、7は、脱着式牽引フック20の軸22を保持乃至挟持する必要はないので、その径は、牽引フック20の軸22を車長方向に容易に着脱乃至貫通させるべく、軸22の径よりも大径とする。
【0030】
なお、アルミニウム合金中空押出形材に代えて、鋼製のバンパーリインフォースを用いることもできる。例えば、断面ハット形状の鋼型材に鋼板(鋼製シート材)を溶接して固定して、バンパーリインフォースの断面を全長にわたり矩形の中空としてもよい。また、2つの溝型鋼材同士を向き合わせて上下壁同士を重ね合わせて溶接し、バンパーリインフォースの断面を全長にわたり矩形の中空としてもよい。
【0031】
バンパーステイ:
本発明において、自動車バンパーにおけるバンパーステイ10は、断面が円形の管状のアルミニウム合金中空押出形材から形成される。アルミニウム合金の種類は、強度や成形性が優れ、薄肉化、軽量化が可能である点で、JIS乃至AAで言う6000系や7000系アルミ合金のT5、T6、T7などの調質(熱処理)材が汎用される。ちなみに、バンパーステイ10の断面は、その中空の軸部に後述する脱着式牽引フックを貫通させる点や電磁成形などの成形性の点で、特に支障が無い限り、円形に限らず、楕円形などの、円形から派生した他の中空断面形状、並びに八角形等の多角形中空断面形状を有していてもよい。
【0032】
図1、2の実施態様において、バンパーステイ10は、管状の軸部12と、軸部12の前後端に一体に成形された、外径方向に張り出した平坦な取付部(取付用フランジ)11、13とからなり、これら取付用フランジ11、13には各々ボルト穴14(4箇所)が形成されている。すなわち、規定する通り、バンパーリインフォース1を支持するバンパーステイ10を、管状のアルミニウム合金押出材からなる軸部12と、この軸部12の前端および後端に一体形成されるか又は固定された取付部11、13とからなるものとする。
【0033】
図1、2に示す通り、バンパーステイ10の後端は、取り付け用フランジ13を有して、取付用の冶具であるブラケット15を介して、牽引フック取付部材(ナットプレート)24、及びサイドメンバー25(前側のフランジ26)に取り付けられる。ブラケット15は、周辺部と中央部に段差を有し、前記中央部に穴が形成されたプレートからなり、ステイの軸部12の後端が、この穴内に嵌入(はめ込まれ)し、かつ拡管されて、この取付用ブラケット15の穴の内周面に圧接している。
【0034】
一方、バンパーステイ10の前端の取り付け用フランジ11は、バンパーリインフォース1の後壁(後側壁)3に、これに設けた貫通穴14に、この貫通穴7(あるいは貫通穴6)の軸心と、軸部12の軸心が互いに対応したかたちで取り付けられる。言い換えると、前記軸部12における貫通穴が、前記バンパーリインフォース1を貫通する穴6、7と対応するように、前記バンパーリインフォース1とサイドメンバー25とに固定、配置されたものとする。そして、バンパーステイ10後端の前記取付部13には、雌ねじ部材27が固定された牽引フック取付部材24が配置されている。
【0035】
この図1、2に示すような形状のバンパーステイ10は、管状のアルミニウム合金中空押出材(断面形状は軸方向に同一)を電磁成形して得られる。すなわち、図2のように、前端をバンパーリインフォース1の傾斜壁5の傾斜に合わせて、斜めに切断し、後端を軸方向に垂直に切断して所定長さとした管状のアルミニウム合金押出形材(断面形状は軸方向に同一)を素材として、電磁成形して得られる。
【0036】
より詳しくは、前記特許文献7に記載されているように、管状のアルミニウム合金中空押出形材を、バンパーステイの外形形状を有する金型で包囲し、内部に電磁成形用コイルを挿入し、コイルに瞬間的な大電流を流して電磁成形を行うことにより成形することができる。この図1、2のバンパーステイの場合の前記金型は、内周面がバンパーステイの太鼓形の軸部外形形状に対応した輪郭形状にへこむとともに、バンパーステイのフランジ部に対応した、平坦な外径方向への張出部を、コーナーRを有して、金型の両端部に有するものとする。この電磁成形により、アルミニウム合金形材の中央部は外径方向に張り出して、前記軸部の外形形状に対応した金型内周面に当たって、太鼓型の軸部12が形成され、前後端側の形材は、金型がないために、外径方向に拡開していって、前記金型の張出部の面に当たり、取付用フランジ11、13が形成される。
【0037】
サイドメンバー:
バンパーステイ10の後端側の取り付けフランジ13は、取付用の冶具である前記ブラケット15を介して、雌ねじ部材(ナット)27が固定された牽引フック取付部材(ナットプレート)24、及びサイドメンバー25(前側のフランジ26)に取り付けられる。ナットプレート24にはアルミニウム板や鋼板を適宜用いることができる。
【0038】
このナット27としては好適にはピアスナットが用いられる。ほかにウエルドナットを用いることもできる。ピアスナットの場合、プレート24の中央部にピアスナットを打ち込めばよい。ウエルドナットの場合、プレート24の中央部に穴を開け、その穴の中心とウエルドナットの雌ねじ穴の中心を合わせて、プロジェクション溶接すればよい。このナット27の代わりに他の雌ねじ部材を用いることもできる。ナットプレート24の外周付近には、ボルト穴14が形成されている。サイドメンバー25は、一般に、鋼板を曲げ成形や溶接することにより矩形断面形状に形成され、前端に外径方向に張り出したフランジ26を有し、そのフランジ26の前面にスタッドボルト28を立設させる。
【0039】
鋼製座金:
本発明では、牽引中の荷重方向が変化した場合でも、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことがないようにするために、鋼製座金を設けて、この鋼製座金の開口部31が拡開部32を有して、この開口部31乃至拡開部32にはめ込まれた牽引フックの軸22を支持する(多少のクリアランスを有して挟み込む)ようにすることが特徴である。
【0040】
図1、2において、この鋼製座金は30で示され、この態様では、バンパーステイ10の前面に取り付けられるために、バンパーステイ10の軸部あるいは取り付けフランジ11の外径と外径形状に対応する円形(円盤)形状をしている。そして、牽引フックの軸22をはめ込む(嵌入する)ため、この軸22の外径と外径形状に対応する、径と周縁形状(この場合は円形)を有する開口部31乃至拡開部32を、そのほぼ中心に有する。このような鋼製座金30は素材である鋼板を成形して簡便に製作できる。
【0041】
この開口部31乃至拡開部32は、牽引フックの軸部22を自在に嵌入あるいは抜き出すために、この開口部31の径乃至拡開部32の径は、牽引フックの軸部22の外径よりも多少大きめにして、多少のクリアランスを設け、牽引フックの軸部22に対して移動可能とすることが必要である。ただ、この開口部31の径あるいは拡開部32の径をあまり大きくしすぎると、牽引フックの軸部22との隙間(ガタ)が大きくなりすぎ、牽引フックの軸部22を充分に支持できなくなる。このため、牽引中の荷重方向が変化した場合に、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止できなくなる。したがって、開口部31の径あるいは拡開部32の径と、牽引フックの軸部22との隙間(クリアランス)は数mm以下(好ましくは1〜1.5mm程度)とする。
【0042】
この鋼製座金30は、異材接合となるアルミニウム合金材と接触しても、互いの電位差による電食(腐食)が生じないように、表面に絶縁性のシーリング処理(樹脂塗装、樹脂コーティング)が施されている。そして、この鋼製座金30は、バンパーリインフォース1の前面側からの牽引フック20挿入時に、牽引フックの軸22に嵌合されて、図1、2のように、バンパーステイ10の前端取付部11か、および/または、図6で後述する通り、バンパーリインフォース1の前壁2に、着脱自在に機械的に接合される。
【0043】
この鋼製座金30には、前記タイダウン時等、牽引フックによって、大きな荷重が負荷されるために強度、剛性が必要である。この点、この鋼製座金30が大型化や厚肉化した場合には、バンパーリインフォース1やバンパーステイ10のアルミニウム合金化による軽量化が犠牲になるので、ハイテンなどの高強度な鋼材を用いることが好ましい。この点、ハイテンなどの高強度な鋼材(鋼板)を素材として用いることを前提に、この鋼製座金30の厚みは0.8〜2.0mm程度とすることが好ましい。
【0044】
鋼製座金の拡開部:
ここで、鋼製座金30の開口部31は、その周縁に牽引フックの軸22に向けて張り出した拡開部32を有して、この拡開部32が牽引フックの軸22を多少のクリアランスを有して支持している。この拡開部32が、牽引フックの軸22との、牽引フックの軸22の軸方向に延在する一定長さの係合部となって、牽引中の荷重方向が変化した場合に、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止する。
【0045】
この拡開部32が無く、開口部31の周縁部の座金の厚み分(鋼製座金30の前記好ましい厚み0.8〜2.0mmだけでは、牽引フックの軸22の軸方向に延在する係合長さが短くなり、牽引フックの軸部22を充分に支持できなくなる。このため、牽引中の荷重方向が変化した場合に、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止できなくなる。一方、この係合長さを稼ぐために、鋼製座金30の肉厚を厚くした場合には、バンパーリインフォース1やバンパーステイ10のアルミニウム合金化による軽量化が犠牲になる。
【0046】
この拡開部32が、牽引フックの軸22との、牽引フックの軸22の軸方向に延在する一定長さの支持部(係合部)とするためには、鋼製座金30の開口部31における拡開部32を、図3(a)に拡大して部分的に示す、この開口部31形成の際のバーリング加工により設けられた折り返し部33とすることが好ましい。また、図3(b)に拡大して部分的に示す、この開口部31形成の際のフレアカール加工により設けられた折り返し部34とすることが好ましい。このような加工によれば、開口部31と拡開部32とを、鋼板素材からの座金の成形と同時に(1回の成形で)、簡便に設けることができる。
【0047】
図1、2の態様では、この拡開部32の向きである折曲がり(カールする)方向を、図の上方、すなわち車体のフロント側への方向としている。但し、バンパステイ10のバンパーリインフォース1への取り付け構造によっては、この拡開部32の向きである折曲がり方向を、図の下方、すなわち車体のリア側への方向としても良く、向きによる、牽引フック20の支持効果の差は無い。ただ、後述する通り図6のように、この拡開部32の向きである折曲がり方向を、図の下方、すなわち車体のリア側への方向とすれば、車体衝突時に、この車体のリア側へ向いた(カールした)拡開部32が邪魔板の役割を果たすため、牽引フック20の突き抜けを防止できる利点はある。
【0048】
このような拡開部32を有する鋼製座金30は、牽引フックの軸部22を嵌入させた上で、スタッドボルト28(図1、2の態様では4本)によって、バンパーリインフォース1の後壁3やステイ10の取付用フランジ11と、この後壁3に設けたボルト穴8や取付用フランジ11のボルト穴(14)を介して、着脱自在に、かつ一体に接合することが好ましい。尚、バンパーリインフォース1がアルミニウム合金押出材の場合、バンパーリインフォース1の後壁3と鋼製座金30との接合は異材接合となるので、電食を防止するために、必要に応じて座金と押出材との間にシール材等を塗布しておいてもよい。また、鋼製座金30は、牽引フック20の着脱に応じて着脱できるように、このように機械的に接合し、溶接などの着脱できないような接合はしない。
【0049】
このような拡開部32を有する鋼製座金30を設けることで、拡開部32の内周面は、牽引フック軸部22の外周に密着して挟み込み、これによりタイダウン時等において荷重の一部が、鋼製座金30を介して、バンパーリインフォース1及びバンパーステイ10に支持される。このため、タイダウン時等において、牽引フックに牽引中の荷重が負荷された場合でも、索引フックの軸が索引車両の軸心からズレて大きく傾くことが防止される。この結果、前記索引フックの取付部が破損したり、索引フックの軸を貫通させた、ステイやバンパーリインフォースの開口部あるいはバンパの周辺部分が破損するという問題が生じない。
【0050】
脱着式牽引フック:
本発明で用いる脱着式牽引フック20自体は、着脱が自在な公知あるいは汎用されている構造でよい。すなわち、図1、2の通り、リング状の頭部21と、これに一体につながる長尺の軸部22と、軸部後端(あるいは先端)に形成された、固定用の雄ねじ部23とからなる。
【0051】
脱着式牽引フックの取付構造:
図1、2において、バンパー構造体(バンパーリインフォース1とバンパーステイ10)、鋼製座金30への、脱着式牽引フック20の取り付け方(組み付け方)を説明する。
【0052】
脱着式牽引フック20の取り付けに際しては、ナットプレート24のボルト穴14にスタッドボルト28を通し、サイドメンバー25の前端フランジ26に重ねる。そして、バンパーステイ10後端側の取付用フランジ13のボルト穴14を、スタッドボルト28に通し、この取付用フランジ13をナットプレート24に重ねて、スタッドボルト28の頭部のナットで締結する。
【0053】
牽引時又は船による輸送時などの脱着式牽引フック20の使用時には、バンパーステイ10の前方側から軸部12内に挿入し、先端に形成された雄ねじ部23をナット27にねじ込み、固定する。すなわち、バンパーリインフォース1の前面側から、牽引フック20を、前記バンパーリインフォース1を貫通する穴6、7と、鋼製座金30の開口部31とを介して、前記バンパーステイ10の軸部12内に挿入し、この牽引フック20の雄ねじ部23は、雌ねじ部材(ナット)27が固定された、牽引フック取付部材(ナットプレート)24に螺合する。この際、鋼製座金30も、牽引フックの軸部22を嵌入させた上で、スタッドボルト28によって、バンパーリインフォース1の後壁3と、この後壁3に設けたボルト穴を介して接合する。
【0054】
この例では、ナットプレート24をバンパーステイ10の取付用フランジ13とサイドメンバー25の前側フランジ26の間に単に挟んで固定したが、ナットプレート24を、サイドメンバー25の前側フランジ26に、例えばスポット溶接により固定することもできる。あるいは、ナットプレート24をバンパーステイ10の取付用フランジ13に重ね、両者をスポット溶接やセルフピアシングリベット等により予め固定しておくこともできる。後者の場合、バンパーリインフォース1、バンパーステイ10及びナットプレート24を1つのバンパー構造体3として取り扱うことができ、組み立て作業が容易となる。また、この例では、ナット27がナットプレート24の後方側に配置され、サイドメンバー25内に位置していたが、ナットプレート24の前方側に配置することもできる。
【0055】
このような構成からなる図1、2の態様では、ステイ10と鋼製座金30、そしてリインフォース1を共締めにより固定できるため、余分に接合部分を設ける手間が省ける。また、更に、リインフォース1の前面に、索引フック20を支持するサポートを別個に取り付けることもでき、ステイ10の根元側(サイドメンバー25側)、ステイ10の先端側(リインフォース1の後壁3との間)、リレインフォース1の前壁2の3箇所とすることができるため、より安定したフックの固定が可能となる。
【0056】
脱着式牽引フックの取付構造の別の態様:
図6は、本発明における脱着式牽引フックの取付構造の別の実施態様を示す。図6では、バンパー構造体において、バンパーステイ10の軸部12の前半分が、バンパーリインフォース1の前記穴6、7内(中空空間内)に嵌入している態様を示している。
【0057】
この図6の態様において、バンパーステイ10が管状のアルミニウム合金押出材から形成されている点は図1、2と同じであり、軸部12と、軸部12の前後端に一体成形された取付部(取付用フランジ)11、13からなる。その一方で、軸部12の前半分がバンパーリインフォース1の前記貫通穴6、7内に嵌入していて、取付用フランジ11が前壁2から外径方向に突出している。そして、太鼓状の軸部12の前半分はバンパーリインフォース1の前記貫通穴6、7の内周面である前壁面2、後壁面3に各々圧接している。
【0058】
このようなバンパーステイ10の構造も電磁成形によって製作できる。すなわち、前記した、前端をバンパーリインフォース1の傾斜壁5の傾斜に合わせて斜めに切断し、後端を軸方向に垂直に切断して所定長さとした管状のアルミニウム合金押出材を、バンパーリインフォース1の貫通穴6、7内に、その前端が前壁2から少し突出するように嵌入させる。そして、後壁3より後方側に突出した部分については、後端部を除いて、前記した通り、金型で包囲する。その上で、管状の押出材内部に電磁成形用コイルを挿入し、コイルに瞬間的な大電流を流して電磁成形を行うことにより成形することができる。
【0059】
すなわち、この電磁成形により、後壁3より後方側に突出したアルミニウム合金押出材の部分については、前記した要領にて成形され、金型の内周面に当たってその太鼓形状に成形され、後端は外径方向に拡開して金型の端面に当たり、取付用フランジ13が形成される。
【0060】
また、バンパーリインフォース1内のアルミニウム合金押出材の前半分も外方に拡管され、バンパーリインフォース1の前壁2及び後壁3の貫通穴6、7の内周面に圧接して密着し、前壁2から突出した部分は、外径方向に拡開して、拡開部(取付用フランジ)11が形成される。この際、前壁2と後壁3の間では、アルミニウム合金押出材は外径方向に張り出して、太鼓状に張出した軸部12が形成される。このように、前壁2と後壁3と貫通穴6、7の内周面にバンパーステイ10の軸部12が圧接し、かつ前壁2が取付用フランジ11と張出した軸部12(前壁2の後方側の張出部)に挟まれ、後壁3が軸部12の張出部に挟まれ、これによりバンパーリインフォース1にバンパーステイ10が強固に固定されたバンパー構造体が形成される。
【0061】
このような態様では、拡開部32を有する鋼製座金30の接合位置は、牽引フックの軸部22を嵌入させた上で、前記図1、2の場合とは異なり、バンパーリインフォース1の前壁2の前面側(外側)に着脱自在に接合されている。この際も、鋼製座金30は、バンパーリインフォース1の前壁2と、前記図1、2の態様の通り、ブラインドリベット29によって接合されていることが好ましい。
【0062】
また、この図6の態様では、図1、2の態様とは違い、この拡開部32の向きである折曲がり方向を、図の下方、すなわち車体のリア側への方向としている。これは前記した通り、車体衝突時の牽引フック20の突き抜けを防止するためである。
【0063】
更に、この態様では、バンパーリインフォース1の前壁3の前面に取り付けられるために、鋼製座金30は、前壁3の貫通穴6も含めて、バンパーステイ10の軸部あるいは取り付けフランジ11の外径と外径形状に対応する円形(円盤)形状をしている。そして、牽引フックの軸22を嵌入するため、この軸22の外径と外径形状に対応する、径と周縁形状(この場合は円形)を有する開口部31を、そのほぼ中心に有する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、前端から後端まで中空としたアルミニウム合金製バンパーステイの軸に脱着式牽引フックを貫通させる方式の取付構造において、牽引中の荷重方向が変化した場合に、索引フックの軸が索引車両の軸方向からズレて傾くことを確実に防止した、脱着式牽引フックの取付構造を提供できる。このため、牽引時又は船による自動車輸送時等に、必要に応じて、自動車に取り付けられる脱着式牽引フックに好適である。
【符号の説明】
【0065】
1:バンパーリインフォース、2:前壁、3:後壁、4:中央部、5:傾斜端部、6、7:貫通穴、10:ステイ、12:軸部、11、13:取り付け部(フランジ)、14:ボルト穴、15:ブラケット、20:脱着式牽引フック、24:ナットプレート、25:サイドメンバ、26:前端フランジ、27:雌ねじ部材、28:スタッドボルト、29:ブラインドリベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車バンパーにおける脱着式牽引フックの取付構造であって、バンパーリインフォースを、車幅方向所定位置において断面が中空で、車長方向に対する前壁と後壁とを有し、これら前壁と後壁とにバンパーリインフォースを車長方向に貫通する穴が形成されたものとする一方、このバンパーリインフォースを後方側から支持するバンパーステイを、管状のアルミニウム合金押出材からなる軸部と、この軸部の前端および後端に一体形成されるか又は固定された取付部とからなり、この後端側の取付部に前記脱着式牽引フックの取付部材が配置されたものとし、このバンパーステイを、前記軸部が前記バンパーリインフォースの前壁と後壁との穴と対応するように、前記各取付部にて前記バンパーリインフォースとサイドメンバーとに各々固定し、その上で、前記脱着式牽引フックが、前記バンパーリインフォースの前方側から、前記バンパーリインフォースの前壁と後壁との穴を介して、前記バンパーステイの軸部に挿入されるとともに、この脱着式牽引フックの軸が、前記バンパーステイの前端取付部か、前記バンパーリインフォースの前壁かに着脱自在に接合された鋼製座金の開口部にはめ込まれた状態で、前記牽引フック取付部材に固定されており、この鋼製座金の開口部は、その周縁に前記牽引フックの軸に向けて張り出した拡開部を有して、この拡開部が前記牽引フックの軸を支持していることを特徴とする脱着式牽引フックの取付構造。
【請求項2】
前記鋼製座金の開口部における拡開部が、この開口部形成の際のバーリング加工あるいはフレアカール加工により設けられたものである請求項1に記載の脱着式牽引フックの取付構造。
【請求項3】
前記バンパーステイの軸部の前端および後端の取付部が、前記管状のアルミニウム合金押出材を電磁成形することにより、この軸部とともに一体に拡管形成されている請求項1または2に記載の脱着式牽引フックの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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