説明

脱硝触媒および脱硝方法

【課題】本発明は、窒素酸化物を高効率で除去する事ができる。また、窒素酸化物を高効率で除去しながら、SO発生による配管腐食などの問題を解消するものである。
【解決手段】本発明は、チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒であって、当該触媒をX線光電子分光法によって測定したとき、触媒表面のバナジウム量が、触媒内部のバナジウム量に比べ1.1〜3.0倍であることを特徴とする脱硝触媒である。また、当該触媒を用いた排ガスの脱硝方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝触媒、および脱硝方法に関する。特に、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、火力発電所、ごみ焼却炉および各種工業プロセスから排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)の除去に優れた脱硝触媒、およびそれを用いた脱硝方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されている排ガス中の窒素酸化物除去方法としては、アンモニアまたは尿素などの還元剤を用いて排ガス中の窒素酸化物を触媒上で接触還元して窒素と水に分解する選択的触媒還元法(SCR法)が一般的である。近年、酸性雨に代表されるように窒素酸化物による環境汚染が世界的に深刻化するに伴い、高性能な触媒が求められている。
【0003】
脱硝触媒に関する従来技術としては、例えば、特開2004−943号公報には窒素酸化物の除去に有効な触媒として二酸化チタンおよび/またはチタン複合酸化物からなるハニカム状排ガス処理触媒について開示されているが、充分な処理性能を有するとはいえなかった。
【0004】
さらに、重油や石炭を燃料とする燃焼炉や発電所、ごみ焼却炉から排出される排ガス中にはSOが含まれ、これが触媒上で酸化されてSOになると触媒後段の配管を腐食したり、SOが排ガス中の水やアンモニアと反応して(NH)HSOを生成し、これが触媒に蓄積して触媒性能を低下させるなどの問題が起こる。よって、触媒に求められる特性として窒素酸化物の除去性能に優れるだけでなく、SOの酸化率が低い事も同時に要求される場合があるが、前記公報に開示された技術ではこの点においても充分であるとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記従来技術の問題点を解決し、窒素酸化物の除去性能に優れる触媒を提供する事にある。詳しくは、一般的に脱硝性能を向上させる為の手段として、活性成分であるバナジウム酸化物の含有量を増やす事が挙げられるが、この方法では脱硝性能を向上させるのに限界があった。また、バナジウム酸化物の含有量を増やす事によって、SOの酸化率も同時に高くなるという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意検討を行った。その結果、触媒表面のバナジウム酸化物濃度を触媒内部のバナジウム酸化物濃度よりも高くする事によって、脱硝性能を向上できる事を見出し、発明を完成した。更に排ガス中に硫黄酸化物が含まれていたときも十分に窒素酸化物と硫黄酸化物を処理することができる。
【0008】
本発明は、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、火力発電所、産業廃棄物や都市廃棄物を処理する焼却施設および各種工業プロセスから排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)をアンモニアや尿素などの還元剤を用いて接触還元する為の脱硝触媒に関する。
【0009】
第一発明は、チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒であって、当該触媒をX線光電子分光法によって測定したバナジウム(V2p3/2)が下記条件を満たすことを特徴とする脱硝触媒である。
(1)当該触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(2)当該触媒表面におけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(3)(1)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(2)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(4)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(5)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(6)(4)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(5)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(7)AがAに対して1.1〜3.0倍であること。
【0010】
好ましくは、当該触媒は更にタングステン酸化物及びモリブデン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有するものである。当該チタン酸化物はケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素とチタンとの複合酸化物及び/又は混合酸化物であること、当該チタン酸化物が、少なくとも二種以上のチタン酸化物の混合物であること、当該チタン酸化物が、酸化チタンと酸化タングステンの混合酸化物と、チタンとケイ素の複合酸化物と、の混合物であることが更に好ましい。
【0011】
また、第二発明は、当該触媒を用いて窒素酸化物を含む排ガスを処理することを特徴とする脱硝方法である。
【0012】
第三発明は、当該触媒を用いて、窒素酸化物および硫黄酸化物を含む排ガスを処理することを特徴とする脱硝方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の触媒を用いることにより、窒素酸化物を高効率で除去する事ができる。また、窒素酸化物を高効率で除去しながら、SO発生による配管腐食などの問題を解消する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる排ガス処理用触媒について詳細に説明するが、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜実施し得るものである。
【0015】
第一発明は、チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒であって、当該触媒をX線光電子分光法によって測定したバナジウム(V2p3/2)が下記条件を満たすことを特徴とする脱硝触媒である。
チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒であって、当該触媒をX線光電子分光法によって測定したバナジウム(V2p3/2)が下記条件を満たすことを特徴とする脱硝触媒。
(1)当該触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(2)当該触媒表面におけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(3)(1)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(2)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(4)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(5)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(6)(4)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(5)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(7)AがAに対して1.1〜3.0倍であること。
上記手順を番号順に具体的に説明する。
【0016】
−バナジウムの濃度測定−
本発明においては触媒表面のバナジウム酸化物濃度が触媒内部のバナジウム酸化物濃度よりも高い事が最も重要である。当該濃度は、触媒表面から触媒内部にかけてのバナジウム酸化物の濃度分布はX線光電子分光法(以下、XPSと呼称する)によって測定する事ができる。XPSによる分析では、通常、測定試料の表面から数nmまでのごく微細な範囲の情報が得られる為、触媒表面のバナジウム酸化物濃度を定量することができる。なお、主に定性分析に用いられるXPSを、定量分析に用いるには資料中に一定の濃度で存在する標準となる物質が必要である。当該測定においては触媒中に均一に存在するチタンを標準物質として使用し、各資料間のバナジウム量を比較することで各資料間に存在するバナジウムの濃度の比較をすることとした。
【0017】
<触媒表面のバナジウム濃度測定>
バナジウムの量は、XPSによりV2p3/2を測定し、そのピーク面積から求めることとした。上記に記載する手順により、触媒表面から深さ方向のバナジウム濃度を測定することができる。以下に具体的に説明する。
【0018】
(1)当該触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を測定することが必要となる。当該方法は、まず触媒資料をXPSで、バナジウム(V2p3/2)を測定し、チャートに示されたピークの面積を測定する。しかし、当該ピークは測定条件により異なる値となり、このままでは各資料間で直接濃度を比較することができないこととなる。そこで、(2)触媒中に均一に存在するチタン(Ti2p3/2)ピークの面積を測定し、その値を基準にしてバナジウム(V2p3/2)ピークの面積で補正することで各資料間のバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を比較するものである。(3)補正方法は、触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、触媒表面におけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除し、得られた値をAとする。
【0019】
<触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム濃度測定>
同上の手順により、当該深さのバナジウム濃度を測定する。即ち、(4)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を測定すること、(5)触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積を測定することが必要となる。
【0020】
また、当該深さに関しては触媒試料をアルゴンイオンで所定の深さまでエッチングした後、バナジウム(V2p3/2)を測定することで、所定の深さに存在するバナジウムの量を測定することができる。(6)補正方法は、触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を、触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値で除し、得られた値をAとする。
【0021】
なお、当該エッチングの深さに関しては、予めシリカを基準物質として所定の深さまでエッチングできる条件を決めておき、その条件に従って触媒試料をエッチングする事で決定される。このときのエッチング深さは、シリカ基準値として測定する。予めシリカを特定深さまで掘り下げることができるエッチング条件を確認し、同一エッチング条件で当該触媒資料をエッチングすることで触媒表面から深さを決定するものである(「シリカ基準値」とも記載する)。
【0022】
<触媒中のバナジウム濃度比較>
(7)触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、触媒表面におけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除した値をAとし、触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を、触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値で除した値を求め、これをAとする。AがAに対して1.1〜3.0倍であること、即ち、当該Aで当該Aを除し1.1〜3.0となるものである。本発明にかかる触媒において、表面におけるバナジウム濃度は触媒内部のそれに比べ1.1〜3.0倍存在するものである。より好ましくは1.15〜2.0であるのがよく、更に好ましくは1.2〜1.8であるのがよい。A/Aが1.1未満では充分な触媒性能が得られず、3.0を超えて高くなるとバナジウム酸化物のシンタリングが起こって性能が低下する場合があるからである。
【0023】
触媒表面のバナジウム酸化物濃度を高くする事によって脱硝性能が向上する原因としては、脱硝反応が触媒の極表層部で起こる事から、触媒表面に存在するバナジウム酸化物を増加させる事によって脱硝反応を促進できるものと考えられる。
【0024】
これに対し、SO酸化率はバナジウムが表面に偏在しているか均一に分布しているかに関らず、触媒全体としてのバナジウム含有量に影響される。よって、触媒全体としてのバナジウム含有量を増やさずに触媒表面のバナジウム酸化物濃度のみを高くする事で、低いSO酸化率を維持しながら脱硝性能を向上させる事ができる。また、触媒表面のバナジウム酸化物濃度を高めながら、触媒全体としてのバナジウム酸化物含有量を減らす事によって、脱硝活性を維持しながらSO酸化率を抑制する事も可能である。
【0025】
−触媒組成−
本発明は、チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒が基本骨格となる。更にタングステン酸化物及びモリブデン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することもでき、好ましくは当該チタン酸化物が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素とチタンとの複合酸化物及び/又は混合酸化物であること、また当該チタン酸化物が少なくとも二種以上のチタン酸化物の混合物であること、好ましくは当該チタン酸化物が酸化チタンと酸化タングステンの混合酸化物と、チタンとケイ素の複合酸化物と、の混合物であるものである。
【0026】
触媒組成比については、チタン酸化物が酸化物として70〜99.9質量%、より好ましくは80〜99.5質量%の範囲、バナジウム酸化物が金属酸化物として0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%の範囲にあるのがよい。バナジウム酸化物の担持量が0.1質量%より少ないと十分な触媒性能が得られず、30質量%を超えて多くしても触媒性能はそれほど向上しないが、SO酸化率が高くなるなどの不具合が生じるからである。
【0027】
チタンの原料としては、酸化チタン、四塩化チタン、硫酸チタニル、テトライソプロピルチタネートであり、バナジウムの原料としては、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル、シュウ酸バナジルである。
【0028】
更に、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を加えることができるが、この場合には触媒成分全体を100質量%とし、当該ケイ素等は各酸化物状態に換算して触媒組成比を計算する。その含有量は触媒組成に対して0.1〜20質量%の範囲にあるのが好ましい。
【0029】
ケイ素の原料としては、シリカゾル、水ガラス、四塩化ケイ素であり、アルミニウムの原料としては、アルミナ、ベーマイト、硝酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、硫酸アルミニウムであり、ジルコニウムの原料としては、酸化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムであり、タングステンの原料としては、三酸化タングステン、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムであり、モリブデンの原料としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウムである。
【0030】
−触媒調製法−
触媒表面のバナジウム酸化物濃度を高くする方法としては種々挙げられ、例えば触媒調製時に添加するバナジウム溶液のpHを制御する事や、乾燥条件を制御する等の手段を用いる事ができるが、本発明者らが見出した好ましい方法として、TiOとWOの混合酸化物(以下、Ti−W混合酸化物と呼称する)を基材として用いる事が挙げられる。Ti−W混合酸化物を用いた場合に触媒表面のバナジウム酸化物濃度が高くなる要因については明らかではないが、高度に分散化されたタングステン酸化物が基材の酸性質等に影響を与え、この事がバナジウム酸化物の表層への移動に関与しているものと推測される。なお、Ti−W混合酸化物としては、例えばCristal Global社製のDT−52(商品名)を用いる事ができる。また、Ti−W混合酸化物は、特開平7−88368号公報に記載されているような、共沈法によっても調製する事ができる。共沈法によって調製されたTi−W混合酸化物は比表面積が高いなどの優れた特性を有しており、触媒性能も高くなる為、より好適に用いられる。
【0031】
本発明に係わる更に好ましい触媒調製法として、触媒基材に上記Ti−W混合酸化物と別のチタン系高比表面積酸化物を混合して用いる事が挙げられる。高比表面積酸化物の混合によって触媒の比表面積を高める事ができる為、バナジウム酸化物の表面濃度が高くなっても高分散状態を維持し、触媒活性がより高くなる事の他、シンタリングを抑制できるというメリットがあり好ましい。また、このときの高比表面積酸化物としてはTiとSiの複合酸化物(Ti−Si複合酸化物)が特に好ましく用いられる。Ti−Si複合酸化物は比表面積が高い事に加え、特異な酸性質を示し、SO酸化率を抑制できるという効果もある。Ti−W混合酸化物とTi−Si複合酸化物の混合物を基材として用いた触媒の調製法について以下に説明する。
【0032】
シリカゾルとアンモニア水の混合溶液を攪拌しつつ、四塩化チタン、硫酸チタニル、テトライソプロピルチタネートなどの水溶性チタン化合物の液または水溶液を徐々に滴下し、スラリーを得る。これを濾過、洗浄し、さらに乾燥した後に焼成させる事によりTi−Si複合酸化物が得られる。このときの焼成温度は400〜700℃、好ましくは500〜700℃に設定するのが良い。このようにして得られるTi−Si複合酸化物は基本的には非晶質な微細構造を有するチタンとケイ素との複合酸化物であり、150〜200m2/g程度の高い比表面積を有する。得られたTi−Si複合酸化物粉体とTi−W混合酸化物(Cristal Global社製のDT−52(商品名))を混合し、これにメタバナジン酸アンモニウムとシュウ酸とモノエタノールアミンの混合溶液およびメタタングステン酸アンモニウム水溶液を加え、さらに成形助剤および適当量の水を加え、混練後、押し出し成型機でハニカム状に成形する。その後、50〜120℃でよく乾燥した後、300〜750℃、好ましくは350〜650℃で1〜10時間焼成し、成型物を得る。
【0033】
また、触媒の比表面積については、50〜200m/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは60〜150m/g、更に好ましくは65〜130m/gの範囲にあるのがよい。触媒の比表面積が低すぎると充分な触媒性能が得られない他、バナジウム酸化物のシンタリングが起こりやすくなり、高すぎても触媒性能はそれほど向上しないが、被毒物質の蓄積量が多くなって耐久性が悪くなる場合があるからである。
【0034】
さらに、触媒の細孔容積については、全細孔容積が0.2〜0.7mL/gの範囲にあるのがよく、より好ましくは0.3〜0.6mL/g、更に好ましくは0.35〜0.5mL/gの範囲にあるのがよい。触媒の細孔容積が小さすぎると十分な触媒性能が得られず、大きすぎても触媒性能はそれほど向上しないが、触媒の機械的強度が低下してハンドリングに支障をきたしたり、耐磨耗性が低くなるなどの弊害が生じるおそれがある。
【0035】
本発明に係わる触媒の形状については特に限定されるものではないが、ハニカム状、板状、波板状、円柱状、円筒状、球状などに成形して使用することができる。また、アルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、ステンレス金属などからなるハニカム状、板状、波板状、円柱状、円筒状、球状などの担体に担持して使用してもよい。
【0036】
なお、本発明でいう触媒の比表面積は、触媒をアルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、ステンレス金属などからなる担体に担持して使用する場合には、その担体部分を除いて求められる比表面積を指す。
【0037】
本発明の排ガス処理用触媒は、各種排ガスの処理に用いられる。排ガスの組成については特に制限はないが、本発明の触媒は、重油焚きボイラや石炭焚きボイラ、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジン、火力発電所、産業廃棄物や都市廃棄物を処理する焼却施設および各種工業プロセスから排出される窒素酸化物の分解活性に優れるため、これら窒素酸化物を含む排ガスの処理に好適に用いられる。
【0038】
本発明の触媒を用いて窒素酸化物の除去を行うには、本発明の触媒をアンモニアや尿素などの還元剤の存在下、排ガスと接触させて排ガス中の窒素酸化物を還元除去することができる。アンモニア量は、窒素酸化物を窒素と水に分解できる当量に対して0.3〜1.5倍、好ましくは0.5〜1.2倍である。アンモニア量が窒素酸化物を窒素と水に分解できる当量に対して0.3倍未満だと窒素酸化物の処理効率が低くなりすぎ、1.5倍を超えると未反応のアンモニアの残存量が多くなって環境に悪影響を与えるからである。ここで、窒素酸化物を窒素と水に分解できる当量とは次のようになる。すなわち対象物質がNOの場合は、NO1モルに対してアンモニアは1モルであり、対象物質がNOの場合は、NO1モルに対してアンモニアは2モルである。なお、尿素をも用いる場合は、尿素はアンモニアの2倍モルとして作用するのでアンモニア量の半分のモル量となる。
【0039】
−脱硝方法−
本発明の触媒を用いて窒素酸化物の除去を行う際の条件については特に制限は無く、この種の反応に一般的に用いられている条件で実施する事ができる。具体的には、排ガスの種類、性状、要求される除去率などを考慮して適宜決定すればよい。
【0040】
なお、触媒入口ガス温度は100〜500℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは150〜450℃、更に好ましくは200〜400℃がよい。入口ガス温度が低すぎると充分な除去性能が得られず、500℃以上では触媒寿命が短くなるおそれがあるからである。また、その際の空間速度は100〜200000hr−1(STP)が好ましく、1000〜100000hr−1(STP)がより好ましく、更に好ましくは2000〜50000hr−1(STP)がよい。100hr−1以下では触媒量が多くなるため非効率であり、200000hr−1以上では高い除去率が得られないためである。
【0041】
排ガス中の窒素酸化物の濃度は、5〜5000ppm、好ましくは10〜1000ppmである。排ガス中の窒素酸化物の濃度が5ppm未満だと処理効率が低下し、5000ppmを超えると窒素酸化物を所定の濃度まで低減するのに必要な還元剤の量が多くなり、それに伴って未反応のまま環境中に放出される還元剤の量も増加するため、好ましくない。
【0042】
また、本発明の技術を用いればSO酸化率を低く抑制することも可能である為、SOを含有した排ガスの処理にも好適に用いられる。この際の排ガス中のSO濃度は2容量%以下であるのが好ましく、より好ましくは1容量%以下、更に好ましくは0.5容量%以下であるのがよい。排ガス中のSO濃度が2容量%を超えると触媒の劣化が大きくなる場合があるからである。
【実施例】
【0043】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
<Ti−Si複合酸化物粉体の調製>
シリカゾル(SiO2として20質量%含有)5kgと10質量%アンモニア水140kgを混合した液に、硫酸チタニルの硫酸溶液(TiOとして125g/L、硫酸濃度550g/L)60Lをよく攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた。このスラリーを熟成、濾過、洗浄した後、150℃で10時間乾燥した。これを550℃で6時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、Ti−Si複合酸化物粉体を得た。
【0045】
<バナジウムおよびタングステンの添加>
上記の方法で調製したTi−Si複合酸化物粉体7.1kgに、Ti−W混合酸化物としてCristal Global社製のDT−52(商品名,TiO:WO=90:10(質量比))10kgを加え、混合した。次にメタバナジン酸アンモニウム1.3kg、シュウ酸1.6kg、モノエタノールアミン0.5kgを水5Lに混合・溶解させ、均一溶液を調製した。このバナジウム含有溶液とパラタングステン酸アンモニウムの10質量%メチルアミン水溶液(WOとして400g/L)1.8Lを成形助剤と適量の水とともに、先に混合したTi−Si複合酸化物とDT−52の混合粉体に加え、ニーダーで混練した後、外形80mm角、長さ500mm、目開き2.9mm、肉厚0.4mmのハニカム状に押し出し成形した。その後、80℃で乾燥した後、450℃で3時間焼成し、触媒Aを得た。
【0046】
触媒Aの組成はTiO:(Ti−Si複合酸化物):V:WO=48:38:5:9(質量比)であり、BET比表面積は97m/g、全細孔容積は0.42mL/gであった。
【0047】
(実施例2)
実施例1で調製したTi−Si複合酸化物粉体7.1kgに、Ti−W混合酸化物としてCristal Global社製のDT−52(商品名,TiO:WO=90:10(質量比))10kgを加え、混合した。次にメタバナジン酸アンモニウム0.8kg、シュウ酸1.0kg、モノエタノールアミン0.3kgを水4Lに混合・溶解させ、均一溶液を調製した。このバナジウム含有溶液を成形助剤と適量の水とともに、先に混合したTi−Si複合酸化物とDT−52の混合粉体に加え、ニーダーで混練した後、外形80mm角、長さ500mm、目開き2.9mm、肉厚0.4mmのハニカム状に押し出し成形した。その後、80℃で乾燥した後、450℃で3時間焼成し、触媒Bを得た。
【0048】
触媒Bの組成はTiO:(Ti−Si複合酸化物):V:WO=51:40:3:6(質量比)であり、BET比表面積は100m/g、全細孔容積は0.48mL/gであった。
【0049】
(比較例1)
実施例1で調製したTi−Si複合酸化物粉体7.1kgに、TiOとしてCristal Global社製のDT−51(商品名)9kgを加え、混合した。次にメタバナジン酸アンモニウム1.3kg、シュウ酸1.6kg、モノエタノールアミン0.5kgを水5Lに混合・溶解させ、均一溶液を調製した。このバナジウム含有溶液とパラタングステン酸アンモニウムの10質量%メチルアミン水溶液(WOとして400g/L)4.3Lを成形助剤と適量の水とともに、先に混合したTi−Si複合酸化物とDT−51の混合粉体に加え、ニーダーで混練した後、外形80mm角、長さ500mm、目開き2.9mm、肉厚0.4mmのハニカム状に押し出し成形した。その後、80℃で乾燥した後、450℃で3時間焼成し、触媒Cを得た。
【0050】
触媒Cの組成はTiO:(Ti−Si複合酸化物):V:WO=48:38:5:9(質量比)であり、BET比表面積は102m/g、全細孔容積は0.43mL/gであった。
【0051】
(XPSの測定)
実施例1、2および比較例1で得られた触媒A〜Cを用いて、下記の条件でXPSの測定をおこなった。
【0052】
<測定条件>
測定機器:ULVAC−PHI社 Quantera SXM
X線源:Al Kα,ビーム径 100μm,ビーム出力 25W−15kV
上記条件において、触媒A〜CのV2p3/2とTi2p3/2を測定し、得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、チタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除してAとした。また、シリカをアルゴンイオンエッチング法によって表面から40nmエッチングし、これと同条件で触媒A〜Cをエッチングした後にV2p3/2とTi2p3/2を測定した。このときの触媒A〜Cのエッチング深さを40nm(シリカ基準値)とした。同様に、シリカを60nm、80nm、100nmまでエッチングし、各々と同条件で触媒A〜Cをエッチングした後にV2p3/2とTi2p3/2を測定した。次に各測定で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値とチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値を求め、バナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を、チタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値で除してAとした。A、AおよびA/Aの値を表1に示した。
【0053】
(性能評価)
実施例1、2および比較例1で得られた触媒A〜Cを用いて、下記の条件で脱硝性能試験およびSO酸化率の測定をおこなった。
【0054】
(反応条件)
下記条件により、脱硝性能及びSO酸化率を測定した。
【0055】
<脱硝性能>
ガス温度 :350℃
空間速度(STP) :26,000Hr−1
ガス組成
NOx :100ppm,dry
NH:100ppm,dry
SO:0ppm,dry
:15%,dry
O :10%,wet
:balance
<SO酸化率>
ガス温度 :350℃
空間速度(STP) :13,000Hr−1
ガス組成
NOx :100ppm,dry
NH:0ppm,dry
SO:200ppm,dry
:15%,dry
O :10%,wet
:balance
また、脱硝率およびSO酸化率は下記式に従って求めた。
脱硝率(%)=[(反応器入口NOx濃度)−(反応器出口NOx濃度)]÷(反応器入口NOx濃度)×100
SO酸化率(%)=(反応器出口SO濃度)÷(反応器入口SOx濃度)×100
得られた脱硝率およびSO酸化率を表2に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の触媒は排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去するのに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物およびバナジウム酸化物を含む脱硝触媒であって、当該触媒をX線光電子分光法によって測定したバナジウム(V2p3/2)が下記条件を満たすことを特徴とする脱硝触媒。
(1)当該触媒表面におけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(2)当該触媒表面におけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積を測定すること。
(3)(1)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(2)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(4)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるバナジウム(V2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(5)当該触媒の表面から深さ40nm〜100nmにおけるチタン(Ti2p3/2)ピークの面積の平均値を求めること。
(6)(4)で得られたバナジウム(V2p3/2)ピークの面積を、(5)で得られたチタン(Ti2p3/2)ピークの面積で除して得られた値をAとすること。
(7)AがAに対して1.1〜3.0倍であること。
【請求項2】
請求項1記載の触媒が、更にタングステン酸化物及びモリブデン酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する請求項1に記載の脱硝触媒。
【請求項3】
当該チタン酸化物が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素とチタンとの複合酸化物及び/又は混合酸化物であることを特徴とする請求項1〜2に記載の脱硝触媒。
【請求項4】
当該チタン酸化物が、少なくとも二種以上のチタン酸化物の混合物であることを特徴とする請求項1〜3に記載の脱硝触媒。
【請求項5】
当該チタン酸化物が、酸化チタンと酸化タングステンの混合酸化物と、チタンとケイ素の複合酸化物と、の混合物であることを特徴とする請求項4に記載の脱硝触媒。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の触媒を用いて、窒素酸化物を含む排ガスを処理することを特徴とする脱硝方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の触媒を用いて、窒素酸化物および硫黄酸化物を含む排ガスを処理することを特徴とする脱硝方法。

【公開番号】特開2012−206058(P2012−206058A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75245(P2011−75245)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】