説明

脱硝触媒の製造方法

【課題】活性成分を不均一に担持させる方法において、高い脱硝性能を有する触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸化物に少なくともバナジウムを含む活性成分を担持後予備焼成した組成物を第一成分とし、バナジウムを含まないチタン酸化物である第二成分として、これらを混合後、成形、乾燥、焼成する脱硝触媒の製造方法であって、第一成分のチタン酸化物の比表面積が30〜120m2/gになるように調整する脱硝触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア接触還元用脱硝触媒の製造方法に関し、バナジウムなどの活性成分を含むチタン酸化物の組成物とバナジウムなどの活性成分を含まないチタン酸化物とを混合、乾燥、焼成して得られる、高い脱硝率を得ることができる触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンを主成分とするアンモニア還元法脱硝触媒は、活性が高く耐久性が優れるため、国内外でボイラなどの排煙処理に広く用いられ、脱硝触媒の主流となっている。また、これらの脱硝触媒について、脱硝反応器のコンパクト化に対し脱硝性能が高い触媒の需要が高まっている。このような背景に対し、高い脱硝性能を有する脱硝触媒を提供する方法として、触媒表面に活性成分を集中させたコーティング層を有する触媒(特許文献1)や、物理混合によって活性成分が不均質に担持された触媒(特許文献2)などの方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-220468公報
【特許文献2】特開平5-96165公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術で示した触媒表面に活性成分を集中させる方法は、実機運転時に表層部に担持したコーティング層が剥離することがあり、これによって、脱硝性能が低下する現象が生じる。また、後者の物理混合によって活性成分を不均一に担持させる方法では、用いる原料によっては高い脱硝性能が得られないことがあり、これには改善する余地がある。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、上記従来技術を鑑み、活性成分を不均一に担持させる方法において、高い脱硝性能を有する触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は、以下のとおりである。
(1)チタン酸化物に少なくともバナジウムを含む活性成分を担持後予備焼成した組成物を第一成分とし、バナジウムを含まないチタン酸化物を含む組成物を第二成分として、これらを混合後、成形、乾燥、焼成する脱硝触媒の製造方法であって、第一成分のチタン酸化物の比表面積が30〜120m2/gになるように調整することを特徴とする脱硝触媒の製造方法。
(2)前記第二成分が、チタン酸化物のみであることを特徴とする(1)に記載の脱硝触媒の製造方法。
(3)前記第二成分が、モリブデンまたはタングステンを含む組成物であることを特徴とする(1)に記載の脱硝触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本願発明の方法によれば、酸化チタンを主成分とする二酸化硫黄の酸化を抑制した排ガス用脱硝触媒において、活性成分を担持するチタン酸化物として比表面積が30〜120m2/gの範囲内のものを用いて触媒を調製することにより、脱硝性能の高活性化を図ることが可能となる。
【0008】
[原理・作用]
酸化チタンおよびバナジウムを主成分とする触媒は、TiO2上に担持されたバナジウムなどの活性成分が、(1)式で示されるNH3が還元剤である脱硝反応の活性点となる。ここで、活性点とは(1)式の反応が主に進行する場を意味する。
【0009】
NH3 + NO +1/4O2 → N2 + 3/2H2O (1)
ところが、TiO2原料の仕様によっては調製に用いたバナジウムなどの活性成分が全て活性点としての機能していないことが分かった。これについて、本発明者らは鋭意検討した結果、特に活性成分を担持するTiO2原料の比表面積が大きい条件では、用いるバナジウムなどの活性成分が活性点として機能しない割合がより高いことを明らかにし、本出願に至った。
【0010】
なお、TiO2原料の比表面積が大きい条件において、活性点の形成におけるロスが多い理由については、詳しくは明らかとはなっていないが、本発明者らは次のように推定している。すなわち、活性成分がTiO2細孔外部のTiO2表層部とTiO2表層部の粒子間に担持された場合や、TiO2細孔内部に担持された場合、加熱によってTiO2粒子のシンタリングが生じ、その結果、上記した活性成分がTiO2粒子間や細孔内部に閉じ込められ、反応ガスと接触できないようになることが考えられる。そこで、本発明者らは、この現象を抑制する手段について鋭意検討を行ったところ、上述したTiO2粒子のシンタリングは、高比表面積のTiO2で顕著であり、特に300〜600℃での熱処理で著しいことが分かった。よって、予め熱処理を施すなどの処理により触媒原料として、30〜120m2/gの比表面積のTiO2原料を選定し、活性成分を担持すれば、その後の予備焼成で活性成分が閉じ込められることを抑えることができることが分かった。これにより、調製に用いた活性成分は活性点としてのロスが減り、脱硝活性の高い触媒となる。
【0011】
また、本発明においては、特に前記第一成分が、チタン酸化物のみ、あるいはチタン酸化物にモリブデンあるいはタングステンを担持した第二成分と物理混合することで、混合前の第一成分の脱硝活性よりも高い脱硝活性を得ることができる。この原理・作用について、詳しくは明らかにはなっていないが、物理混合によって活性成分が不均一で担持されることによるものと推測される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は上記したように、少なくともバナジウムを含む活性成分をチタン酸化物に担持後予備焼成した第一成分、バナジウムを含まないチタン酸化物である第二成分の両者を一定の不均質さを保持した状態で混合、成形した脱硝触媒であって、第一成分で用いられるチタン酸化物の比表面積が30〜120m2/gであることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、予め調製された第一成分は、酸化チタン、オルトチタン酸もしくはメタチタン酸のスラリ、または上記粉末に水を加えたものと、メタバナジン酸アンモン、硫酸バナジルなどのバナジウム化合物とを混合する他に、モリブデンもしくはタングステンの酸化物、またはオキソ酸塩などの熱分解により酸化物を生成する化合物などを混合することができる。これらを加熱混練、蒸発乾固等の通常、触媒調製に用いられる方法によって水を蒸発させながら担持し、得られたペーストを乾燥、さらに400〜600℃で焼成することが好ましい。また、第二成分は、酸化チタン、オルトチタン酸もしくはメタチタン酸のスラリ、または上記粉末に水を加えたもののみか、あるいはモリブデンもしくはタングステンの酸化物、またはオキソ酸塩などの熱分解により酸化物を生成する化合物を混合して得ることができる。
【0014】
第一成分と第二成分とは混合に先立ち粉砕され、好ましくは、両者の比が10/90から90/10になるように混合され、水とともにニーダなどの混練機でペースト状に混練される。この際必要に応じてセラミックス製繊維、有機または無機バインダなどを加えることができる。得られた触媒ペーストは、そのまま押出し成形機を用いてハニカム、柱状、円筒状などに成形されるか、ローラを用いてメタルラスなどの金属基板やセラミック、ガラス製網状織布などに塗布して板状に成形される。成形体はその後、必要形状に切断、型付けされ、乾燥後400℃から600℃で焼成されることが望ましい。
【0015】
第一成分は予め焼成されることが望ましく、この段階で活性成分が不溶化され、引き続く混合操作で活性成分が溶解して互いに混ざり合って不均一度が低下することが防止される。また、第二成分は、高比表面積である方が高い脱硝性能を得やすく、そのため第二成分は予め焼成されていないことが好ましい。また、第二成分を予め焼成する場合は、モリブデンあるいはタングステンを担持するとチタン酸化物のシンタリングを抑制できるため、これらの成分を担持した後に焼成することが好ましい。
【0016】
第一成分と第二成分の混合比は触媒の使用条件化で上記組成との兼ね合わせで決定されるものであり、どのような比率であってもよいが、混合比があまり大きいと作り難くなり、逆に小さいと効果が小さくなる。通常の混練による操作では第一成分/第二成分の重量比が90/10ないし10/90程度の範囲が選ばれる。
【0017】
さらに第一成分と第二成分とは混合に先立ち粉砕され、その粒子径は通常100から350メッシュとすることが好ましい。脱硝性能面からは微粉が好ましいが、SO2酸化抑制からは粗粒が好ましい。SO2酸化抑制に効果があるためには、第一成分粒子中に500オングストローム以上の細孔が一定以上存在することが好ましく、第二成分粒子は特に粗粒で用いると好結果が得られる。
【実施例】
【0018】
以下、具体的実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
メタバナジン酸アンモニウム1.78gを水84gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/g)56gを入れ、加熱混練を行った。これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。本触媒の組成はTi/V=97.9/2.1 原子比である。これとは別に、水36gに酸化チタン(ミレニアム社製、商品名G5、比表面積300m2/g)24gを入れ、加熱混練を行い、これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥して触媒を得た。Ti/V粉末、上記調製法の酸化チタンのみの粉末それぞれを425〜500μmの粒径に揃えた。さらに、Ti/V粉末と酸化チタンのみの粉末をポリエチレン製の袋の中で物理混合した粉末に対し(重量比70/30)、加圧成型器を用いて、約1.3t/cm2で加圧し、粒状に成型した。物理混合後の触媒の組成はTi/V=98.5/1.5 原子比である。
【0019】
[実施例2]
実施例2で用いた第一成分で用いた酸化チタンとして石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/gを予め700℃で2時間焼成して比表面積を30m2/gとしてから用いるように変えた以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。
【0020】
[実施例3]
実施例1で用いた第一成分で用いた酸化チタンを堺化学社製、商品名SSP-M、比表面積120m2/gに変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0021】
[比較例1]
実施例1で用いた第一成分で用いた酸化チタンをミレニアム社製、商品名G5、比表面積300m2/gに変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0022】
[比較例2]
実施例1で用いた第一成分で用いた酸化チタンをミレニアム社製、商品名G5を予め300℃で2時間焼成して、比表面積200m2/gに変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0023】
[比較例3]
メタバナジン酸アンモニウム1.78gを水120gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業社製、比表面積約90m2/g)80gを入れ、加熱混練を行った。これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。本触媒の組成はTi/V=98.5/1.5 原子比である。得られた触媒粉末を425〜500μmの粒径に揃え、この粉末に対し加圧成型器を用いて、約1.3t/cm2に加圧し、粒状成型した。
【0024】
[実施例4]
第一成分で用いる酸化チタンを72g、第二成分で用いる酸化チタンを8gにそれぞれ変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0025】
[実施例5]
第一成分で用いる酸化チタンを40g、第二成分で用いる酸化チタンを40gにそれぞれ変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0026】
[実施例6]
第一成分で用いる酸化チタンを8g、第二成分で用いる酸化チタンを72gにそれぞれ変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0027】
[実施例7]
第二成分で用いる酸化チタンを石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/gに変えた以外は、実施例1と同様に触媒を調製した。
【0028】
[実施例8]
第二成分で用いる酸化チタンとして石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/gを、予め700℃で2時間焼成して比表面積を30m2/gとしてから用いるように変えた以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。
【0029】
[実施例9]
メタバナジン酸アンモニウム1.78g、モリブデン酸アンモニウム2.73gを水84gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/g)56gを入れ、加熱混練を行った。これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。本触媒の組成はTi/Mo/V=95.8/2.1/2.1 原子比である。これとは別に、水36gに酸化チタン(石原産業社製、比表面積約90m2/g)24gを入れ、加熱混練を行い、これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥して触媒を得た。Ti/Mo/V粉末、上記調製法の酸化チタンのみの粉末それぞれを425〜500μmの粒径に揃えた。さらに、Ti/Mo/V粉末と酸化チタンのみの粉末をポリエチレン製の袋の中で物理混合した粉末に対し(重量比70/30)、加圧成型器を用いて、約1.3t/cm2で加圧し、粒状に成型した。物理混合後の触媒の組成はTi/Mo/V=97.0/1.5/1.5 原子比である。
【0030】
[実施例10]
実施例1における第二成分の調製に用いる水にモリブデン酸アンモニウム2.73gを溶解させ、酸化チタンを入れるように変えた以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。
【0031】
[比較例4]
メタバナジン酸アンモニウム1.78g、モリブデン酸アンモニウム2.73gを水120gに溶解させ、これに酸化チタン(石原産業社製、商品名MC90、比表面積約90m2/g)80gを入れ、加熱混練を行った。これを40℃で一時間保温した後、120℃で一時間乾燥後、500℃で2時間焼成して触媒を得た。本触媒の組成はTi/Mo/V=97.0/1.5/1.5 原子比である。Ti/Mo/V粉末を425〜500μmの粒径に揃え、加圧成型器を用いて、約1.3t/cm2で加圧し、粒状に成型した。
【0032】
[実施例11]
実施例9における第一成分のモリブデン酸アンモニウム2.73gをメタタングステンアンモニウム3.59gに変えた以外は、実施例9と同様にして触媒を調製した。
【0033】
[実施例12]
実施例10における第二成分のモリブデン酸アンモニウム2.73gをメタタングステンアンモニウム3.59gに変えた以外は、実施例10と同様にして触媒を調製した。
【0034】
[比較例5]
比較例3におけるモリブデン酸アンモニウム2.73gをメタタングステンアンモニウム3.59gに変えた以外は、比較例3と同様にして触媒を調製した。
【0035】
[試験例]
上記実施例の効果を示すため以下のような模擬試験を行った。実施例及び比較例の触媒を表1の粒子径に揃え、表1の条件で脱硝率を測定した。得られた結果を表2、表3および表4に纏めて示した。
【0036】
表2において、実施例1〜3の触媒が比較例1や比較例2、3の触媒よりも活性が高いことが分かる。また、混合比が異なる実施例4〜6の触媒が比較例2よりも活性が高いことが明らかである。このことから、本発明の触媒が高い脱硝活性を有していることが分かる。さらに、実施例1、7、8の結果から、第二成分に用いられるTiO2の比表面積は大きい程、高い活性が得られることが分かる。さらに、表3の実施例9、10の触媒が比較例4の触媒よりも活性が高いことが分かる。このことから、本発明の触媒が高い脱硝活性を有していることが分かる。そして、実施例10の結果からモリブデンは第二成分の方に担持されている方が、活性が高いことが明らかである。
【0037】
また、表4の実施例11、12の触媒が比較例5の触媒よりも活性が高いことが分かる。このことから、本発明の触媒が高い脱硝活性を有していることが分かる。そして、実施例12の結果からタングステンは第二成分の方に担持されている方が、活性が高いことが明らかである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物に少なくともバナジウムを含む活性成分を担持後予備焼成した組成物を第一成分とし、バナジウムを含まないチタン酸化物を含む組成物を第二成分として、これらを混合後、成形、乾燥、焼成する脱硝触媒の製造方法であって、第一成分のチタン酸化物の比表面積が30〜120m2/gになるように調整することを特徴とする脱硝触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第二成分が、チタン酸化物のみであることを特徴とする請求項1に記載の脱硝触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第二成分が、モリブデンまたはタングステンを含む組成物であることを特徴とする請求項1に記載の脱硝触媒の製造方法。

【公開番号】特開2013−617(P2013−617A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131208(P2011−131208)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】