説明

脱穀機

【課題】4番口を形成する流板の少なくとも表面側を、撥水性及び滑動性を有する撥水材料でコーテングすることにより、 扱室から排出される排稈を流板の傾斜に沿った移動をスムーズにすると共に、水分を撥水し藁屑類の表面付着を防止し脱穀作業を能率よく行う脱穀機を提供する。
【解決手段】穀稈をフィードチェン3で挟持搬送し扱室2内に供給し脱穀すると共に、脱穀物を選別風路内の揺動選別体7によって穀粒と排塵物に選別し、脱穀済みの穀稈を扱室2の終端で排稈口2cから流板26,29で形成される漏斗状の4番口10に排出搬送し機外に排出する脱穀機1において、前記4番口10を形成する流板の少なくとも表面側を、撥水性及び滑動性を有する撥水材料33でコーテングした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに搭載可能な脱穀機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンバインに搭載される脱穀機は、穀稈をフィードチェンで挟持搬送し扱室内に供給して脱穀すると共に、扱室等から漏下した穀粒や藁屑等の脱穀物を選別風路内で揺動する揺動選別体によって穀粒と排塵物に選別し、穀粒を一番口から回収し排塵物を吸引排塵ファンから排出する(例えば特許文献1。)。
また上記のような脱穀機は脱穀済みの穀稈を扱室の終端でフィードチェンから排稈搬送装置に引き継いで挟持搬送すると共に、穂先側を扱室の排稈口から排稈と共に送り出される穀粒を回収する4番口に排出移送し、前記揺動選別体に臨む4番口を漏斗状に形成する4番漏斗構造体の後漏斗上壁と後漏斗穂側壁等の流板を経て排稈処理装置に供給し機外に排出する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−180584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1で示される脱穀機は、4番漏斗構造体を鉄板製で一体的に構成し全体を汎用的に使用される機械色の塗料で塗装し、漏斗状の4番口を形成する排稈搬送方向下手側の後漏斗壁と穂側漏斗壁(右漏斗壁)とを、穀粒の流下限界角度(安息角)以上の急傾斜にしている。そして、朝露や雨で濡れた状態の穀稈(濡れ材)を脱穀する場合に、濡れた藁屑や穀粒は4番漏斗の流板表面に付着し易いため、後続の藁屑を順次堆積させ4番口に団塊状の詰りを発生させる欠点がある。そして、詰った藁屑類は穀粒や刺さり粒の回収を低下させると共に、穂先側の搬送遅れを生じさせて排稈の搬送姿勢に乱れを生じさせる欠点があり、脱穀作業中に藁屑の詰りを除去するためのメンテナンス作業を要して作業能率が低下する等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明による脱穀機は、第1に、穀稈をフィードチェン3で挟持搬送し扱室2内に供給し脱穀すると共に、脱穀物を選別風路内の揺動選別体7によって穀粒と排塵物に選別し、脱穀済みの穀稈を扱室2の終端で排稈口2cから流板26,29で形成される漏斗状の4番口10に排出搬送し機外に排出する脱穀機1において、前記4番口10を形成する流板の少なくとも表面側を、撥水性及び滑動性を有する撥水材料33でコーテングすることを特徴としている。
【0006】
第2に、撥水材料33でコーテングした流板26,29を着脱自在に設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
上記構成を備えた脱穀機は次のような効果を奏する。請求項1の発明によれば、4番口を形成する流板の少なくとも表面側を、撥水性及び滑動性を有する撥水材料でコーテングすることにより、朝露や雨で濡れた状態の穀稈を脱穀する際に、流板への藁屑類の表面付着を防止するので、4番口の詰り現象や堆積した藁屑に排稈が接触することによる穂先遅れ等を簡単に防止することができる。また穀粒及び刺さり粒を4番口を介して揺動選別体に効率よく回収し能率のよい脱穀作業を行うことができる。
【0008】
請求項2の発明によれば、撥水材料でコーテングした流板を着脱自在に設けることにより、4番口の4番ユニット構造体の全体を脱穀機体から取り外すことなく、簡単且つ廉価な構成によって流板のみを取り外し新しいものに交換することができる。また取り外した流板は再度コーテング処理をすることにより再使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用された脱穀機を搭載したコンバインの左側面図である。
【図2】図2の脱穀機の構成を示す側断面図である。
【図3】図2の脱穀機の4番口及び4番漏斗構造体の構成を示す斜視図である。
【図4】図3の要部の構成を示す平面図である。
【図5】図3の4番漏斗構造体の構成を示す部分斜視図である。
【図6】右漏斗壁の形状を示す斜視図である。
【図7】後漏斗壁の形状を示す斜視図である。
【図8】撥水材料がコーテングされた流板の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1,図2において符号1はコンバイン等の収穫機1aに搭載される脱穀機である。この脱穀機1は扱室2に沿ってフィードチェン3を前後方向に張設し、フィードチェーン3で搬送される穀稈を扱室2の前側板と後側板に支持した扱胴2aの回動により脱穀処理する。また扱室2の後方側方に処理胴4aと処理網4bにより形成される処理室4を連設し、扱室2の下方に送風ファン5を設置し処理室4の後部側方に吸引排塵ファン6を配置している。この送風ファン5と吸引排塵ファン6によって扱室2と処理室4の下方に前後方向に連通する選別風路を形成し、該選別風路中に揺動選別体7を前後方向に揺動可能に設置している。
【0011】
上記構成により脱穀機1は、扱室2の受網2bと処理室4の処理網4bを漏下した脱穀物を揺動選別体7の篩選別と風選別とにより選別し、籾を一番ラセン8を介して穀粒タンク8aに収容し、未処理選別物は二番ラセン9を介し揺動選別体7上に還元し、且つ選別分離された藁屑を吸引排塵ファン6によって機外に吸引排出する。また扱室2の後方には穀粒を回収する4番口10、及び本発明に関わる4番漏斗構造体11を設け、脱粒処理された排稈をフィードチェーン3から排稈搬送装置12へ受け継ぎ搬送し、後方のカッター等の排稈処理装置12aにより処理する。
【0012】
上記排稈搬送装置12は排稈チェン12aの搬送面側に挟持レール12bを対設しており、始端部をフィードチェン3の終端部に臨ませ、且つ平面視において搬送終端側を機体内側に向けて斜設し排稈処理装置12aの略中央部に臨ませるようにしている。これにより排稈搬送装置12は、フィードチェン3で挟持搬送され扱室2から送り出される排稈を4番口10部分で引き継いで、順次内側に向けて後方挟持搬送し排稈処理装置12aに対し横向の適正姿勢で供給させることができる。
【0013】
また脱穀機1は揺動選別体7を在来のものと同様に、扱室2の直下に位置させる無孔の波板からなるグレンパン13と、後部にストローラック14aを一連に有し、複数の篩板を粗間隔を有して前後方向に列設したチャフシーブ14と、その下方に穀粒を濾過させるクリンプ網からなる穀粒濾過網15を設け、且つ該穀粒濾過網15の終端に一番戻し流版7aと、ストローラック14aの終端に二番戻し流版7bとを一体的に設けた構成にしている。そして、一番ラセン8と二番ラセン9との間には補助送風ファン5aを設けている。
これにより揺動選別体7は、穀粒濾過網15とチャフシーブ14とを貫いて送風ファン5から吸引排塵ファン6に至る選別風を一番戻し流版7aで規制案内して一番物選別風路を形成し、且つ補助送風ファン5aと吸引排塵ファン6に至る選別風を一番戻し流版7aと二番戻し流版7bとで案内規制し二番物選別風路を形成している。
【0014】
送風ファン5は、脱穀機1の左右の側壁17,17間で揺動選別体7のグレンパン13下方位置にドラム状のファンケース18を形成し、該ファンケース18の中心に板状の羽根を放射状に設けた回転羽根体19を横向きに軸支し、回転羽根体19の矢印方向の回転によりエアー(外気)を吸い込み、このエアーをファンケース18の送風口20から前記揺動選別体7側に圧送供給する。
吸引排塵ファン6は筒状の横向き断流型ファン にしており、4番漏斗構造体11の後述する後漏斗壁29の後方において、左右の側壁17aに軸支されて矢印方向に回転する。
【0015】
これにより図2で示すように、前記送風ファン5との間に揺動選別体7を横断する一連の選別風路を形成すると共に、4番口10側から外気を吸い込み4番口物の機外吹き出しを防止し、各流板による滑落を促進させ且つ吸引選別を確実にすることができる。また吸引排塵ファン6は排塵物を排出する排出風によって、前記処理室4の終端に形成される排稈口4cから排出される排塵物を下向きに指向させて機外に排出することができる。
【0016】
次に4番口10及び4番漏斗構造体11について図3〜図8を参照し説明する。先ず4番口10は扱室2の後部で受網2bとの間に排稈口2cを形成する後側壁25と、該後側壁25の左右に外向き傾斜で連なる右漏斗壁26と左漏斗壁27、及び右漏斗壁26と左漏斗壁27との後部を横方向に後向き傾斜で接続する後漏斗壁29等の流板からなり、各流板の下部端で形成される開口を前記チャフシーブ14の上方に臨ませている。
【0017】
図示例の4番漏斗構造体11は上記左漏斗壁27と右漏斗壁26と後漏斗壁29とを平面視でコ字状に一連に接続していると共に、左漏斗壁27と右漏斗壁26の上部端にそれぞれ左立壁27aと右立壁26aを立設し、後漏斗壁29の上部端に排塵室天板29aを接続している。これにより排稈口2cから排出され排稈搬送装置12で搬送される排稈から離脱する刺さり粒や藁屑等の夾雑物を4番口10内に案内し、また排稈の稈身を案内しスムーズな搬送を行うことができるようにしている。
【0018】
即ち、排塵室天板29aは後漏斗壁29に緩やかな傾斜をなして接続し、後部寄りの中央部に切欠部29bを設け該切欠部29bに排稈搬送装置12を臨設させて排稈の稈身を支持案内する。また排塵室天板29aは穂先部側に、穂側案内壁29cを設けて排稈の穂先部を支持案内することができる。そして、上記穂側案内壁29cの前端部は右漏斗壁26に接続し、且つ穂先側端部は排稈搬送装置12と略平行状をなす広さで端辺部29dを起立させ、該端辺部29dの前端部を前記右立壁26aに接続している。
【0019】
また排塵室天板29aの株元側の前端部は、前記左漏斗壁27から起立する左立壁27aに接続させることにより、全体として一体的な排稈案内壁構造を形成している。
上記排稈案内壁構造は図5で示すように、その下部に平面視でコ字状をなす構造壁30を一体的に設けることにより、アッシー状の4番ユニット構造体31となして、当該4番ユニット構造体31を前記脱穀機体の後部に着脱可能に設置する構成にしている。
【0020】
そして、上記構成からなる4番漏斗構造体11は、右漏斗壁26と左漏斗壁27と後漏斗壁29の少なくとも表面側に、撥水性及び滑動性を有する撥水材料33を例えば図8で示すようにコーテングしている。この撥水材料33は、撥水性を有し摩擦係数が小さく耐薬品性にも勝れるフッ素樹脂が望ましく、塗布又は吹付け等のコーテング手段によって流板の皮膜処理をすることができる。尚、撥水材料33はフッ素樹脂に限ることなく、同様な性質を備えたシリコン樹脂を利用することができる。
【0021】
実施形態における撥水材料33のコーテング手段は、上記4番ユニット構造体31に対し止ネジ等からなる複数の止具35によって、それぞれ図3〜図5で示す箇所において、鉄板又はプラスッチック板からなる右漏斗壁26と左漏斗壁27と後漏斗壁29の各流板を着脱可能に設けることにより、これら流板の撥水材料33のコーテング処理を簡単且つ能率よく行うことができる。
即ち、図示例において図7で示す形状の後漏斗壁29は排塵室天板29aの前部端に接続し、図6で示す形状の右漏斗壁26は穂側案内壁29cと右立壁26aに接続し、且つこの状態で後漏斗壁29と右漏斗壁26の隣接端を接続している。また左漏斗壁27は図示を省略した箇所において後漏斗壁29と側壁17a側に着脱可能に接続している。
【0022】
これにより右漏斗壁26と左漏斗壁27と後漏斗壁29の各流板は、それぞれ単独的に撥水材料33に浸漬させる等のコーテング処理を行なうことができ、乾燥後に別途機体色塗料が塗布された4番ユニット構造体31に対し組み付け装着することができる。
また撥水材料33でコーテングされた各流板は、長期の使用において表面の損耗を生じた場合に、4番口10の4番ユニット構造体31の全体を脱穀機体から取り外すことなく、当該流板を単独に取り外して新しいものに交換することができる。また取り外した流板は再度コーテング処理をすることにより簡単且つ廉価な手段によって再使用することができる等の特徴がある。
【0023】
尚、上記各流板を予め4番ユニット構造体31に組み付けた状態、又は各流板が4番ユニット構造体31に一体的に構成されている場合には、これらの全体を浸漬又は吹き付け等のコーテング手段によって撥水材料33を簡単に塗布することができる。
この場合には各流板の裏面にも撥水材料33をコーテングすることができるので、各流板や排塵室天板29aの裏側に対する藁屑類の付着を防止して、藁屑類の排出や風選別等を妨げることのない高性能な脱穀作業を行うことができる。また上記各流板を一体的に設けた4番ユニット構造体31に機体色塗料を塗布したのち撥水材料33を塗布する場合には、マスキング塗装手段を採用することにより塗布対象流板に対するコーテングを行うことができる。
【0024】
以上のように構成される脱穀機1は、刈取られた穀稈をフィードチェン3で挟持搬送し扱室2内に供給して脱穀すると、前記したように脱穀物を選別風路内で揺動する揺動選別体7によって穀粒と排塵物に選別し、穀粒を回収し排塵物を機外に排出する。
そして、脱穀された穀稈は扱室2の終端で株元を排稈搬送装置12に引き継いで挟持搬送されると共に、穂先側は扱胴2aの回転移送作用も付与されて排稈口2cから4番口10に排出移送されて、4番漏斗構造体11及び排塵室天板29aと穂側案内壁29cを経て、排稈処理装置12aに対し横向の姿勢で供給し排稈を細断し排出することができる。
【0025】
このとき排稈は扱室2内で穀粒や刺さり粒及び藁屑を稈身の間に介入したまま4番口10に至るが、受網2bの支持を失った排稈は4番口10を通過する際に、大部分の穀粒や刺さり粒を藁屑と共に揺動選別体7のチャフシーブ14に向けて落下させると共に、残留している穀粒や刺さり粒は、排稈が後漏斗壁29及び右漏斗壁26の表面に接当しその傾斜に沿って摺接しつつ上昇移動する際に、稈身の姿勢変化により残留している穀粒や刺さり粒の殆どを後漏斗壁29及び右漏斗壁26の表面を介して4番口10に落下案内させることができる。また排塵室天板29a或いは穂側案内壁29cで落下する穀粒等は、機体の振動が付加されながらその緩やかな傾斜によって後漏斗壁29及び右漏斗壁26を介して4番口10に落下案内する。
【0026】
このような排稈の排出搬送において硬い穀粒を含む排稈の穂先側は、後漏斗壁29及び右漏斗壁26の表面に接当して上方に移動するが、該表面はフッ素樹脂からなる撥水材料33でコーテングされ滑動性及び耐摩耗性を有しているので、従来の着色塗料が塗布されたもののように滑りや接当抵抗を大きくすることなく表面傾斜に沿った上昇移動をスムーズにし、穂先遅れを防止した排稈搬送を行うことができると共に、流板表面の劣損を抑制することができる。
【0027】
そして、朝露や雨で濡れた状態の穀稈(濡れ材)を脱穀する場合には、排稈及び穀粒等の自重が大きく且つ摩擦係数も大きくなっていること、並びに濡れた藁屑は表面付着し易い等の性質があるが、このような濡れ材でも撥水材料33でコーテングされ撥水性を有する後漏斗壁29及び右漏斗壁26並びに左漏斗壁27は、排稈が有する水分を撥水するので藁屑類の表面付着を防止することができる。従って、従来のもののように表面の一部に付着した藁屑に順次次位の藁屑が堆積し団塊状になることによって生ずる、4番口10の詰り現象や堆積した藁屑に排稈が接触することによる穂先遅れ等を簡単に防止することができる。また濡れ材脱穀を行う際にも穀粒及び刺さり粒を4番口10を介して揺動選別体7に効率よく回収できるため、収量を損なうことのない脱穀作業を能率よく行うことができる等の利点がある。
【符号の説明】
【0028】
1 脱穀機
2 扱室
2c 排稈口
3 フィードチェン
7 揺動選別体
10 4番口
11 4番漏斗構造体
12 排稈搬送装置
26 右漏斗壁(流板)
27 左漏斗壁(流板)
29 後漏斗壁(流板)
33 撥水材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀稈をフィードチェン(3)で挟持搬送し扱室(2)内に供給し脱穀すると共に、脱穀物を選別風路内の揺動選別体(7)によって穀粒と排塵物に選別し、脱穀済みの穀稈を扱室(2)の終端で排稈口(2c)から流板(26,29)で形成される漏斗状の4番口(10)に排出搬送し機外に排出する脱穀機(1)において、前記4番口(10)を形成する流板の少なくとも表面側を、撥水性及び滑動性を有する撥水材料(33)でコーテングすることを特徴とする脱穀機。
【請求項2】
撥水材料(33)でコーテングした流板(26,29)を着脱自在に設ける請求項1記載の脱穀機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−172257(P2010−172257A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18124(P2009−18124)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】