説明

脱穀装置の受網構造

【課題】強度的に優れ、比較的安価に製造可能な金属板製の受網でありながら、湿材の処理に際し、裏面側に対する屑類の付着を抑制すると共に、付着した屑類の成長による目詰まりを防止する。
【解決手段】扱室2内に回転自在に配置され、扱室2内に供給される茎稈から穀粒を脱穀する扱胴4と、該扱胴4の下側に沿って配置され、扱室2内で脱穀された穀粒を扱室2の下方に漏下させる受網6とを備える脱穀装置1において、受網6は、穀粒を漏下させる多数の漏下孔6aが形成された金属製の板材からなり、扱胴4の外周と対向しない裏面側のみ撥水処理6bが施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインなどの脱穀装置の受網構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインなどの脱穀装置は、扱室内に供給される茎稈から穀粒を脱穀する扱胴や、扱室内で脱穀された穀粒を扱室の下方(選別室)に漏下させる受網を備えて構成されており、受網としては、鋼線を縦横に格子状に組み合せて多数の漏下孔を形成したクリンプ網、金属製の板材に多数の漏下孔を打ち抜き形成した打ち抜き網、合成樹脂で一体成形される樹脂網(例えば、特許文献1、2参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−101967号公報
【特許文献2】特許第3305934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クリンプ網からなる受網は、強度的に優れるだけでなく、比較的安価に製造することが可能であるが、縦横の鋼線間に枝梗や藁屑が引っ掛かりやすく、特に、水分が多い湿材(濡れ材)を処理する場合に、屑類が付着して目詰まりが発生しやすいという問題があった。
【0005】
一方、打ち抜き網からなる受網は、強度的に優れ、比較的安価に製造することができるものでありながら、クリンプ網に比べて枝梗や藁屑の引っ掛かりが少ないという利点があるが、湿材を処理する場合には、裏面側に付着した屑類が成長(堆積)し、最終的に裏面側から漏下孔を塞いで目詰まりに至ることがあった。
【0006】
尚、樹脂網からなる受網は、撥水性に優れるので、湿材を処理する場合であっても、屑類の付着が少なく、目詰まりが発生し難いという利点があるが、強度的に問題があるだけでなく、金型費によって製造コストが上昇する惧れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、扱室内に回転自在に配置され、扱室内に供給される茎稈から穀粒を脱穀する扱胴と、該扱胴の下側に沿って配置され、扱室内で脱穀された穀粒を扱室の下方に漏下させる受網とを備える脱穀装置において、前記受網は、穀粒を漏下させる多数の漏下孔が形成された金属製の板材からなり、扱胴の外周と対向しない裏面側のみ撥水処理が施されることを特徴とする。
また、前記漏下孔の内側面に撥水処理を施したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、強度的に優れ、比較的安価に製造可能な金属板製の受網でありながら、扱胴の外周と対向しない裏面側に撥水処理が施されているので、湿材の処理に際し、裏面側に対する屑類の付着を抑制できるだけでなく、付着した屑類の成長による目詰まりを防止することができる。しかも、受網の表面側には、撥水処理を施さないので、表裏両面に撥水処理を施す場合に比べて加工費を削減することができるだけでなく、受網の表面側に適度な滑り抵抗を付与して良好な脱穀処理を行うことができる。
また、請求項2の発明によれば、前記漏下孔の内側面に撥水処理を施したので、漏下孔の内側面に対する屑類の付着を抑制し、目詰まりの可能性をさらに低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】脱穀装置の内部を示す概略側面図である。
【図2】脱穀装置の内部を示す概略正面図である。
【図3】受網の表面側を示す斜視図である。
【図4】受網の裏面側を示す斜視図である。
【図5】受網の要部断面図である。
【図6】排塵ファンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1及び図2において、1は脱穀装置であって、該脱穀装置1は、穂先側が扱室2に導入される姿勢で、茎稈を扱室2に沿って挟持搬送する脱穀フィードチェン3と、扱室2に回転自在に内装され、脱穀フィードチェン3が搬送する茎稈から穀粒を脱穀する扱胴4と、扱胴4の下側外周に沿って設けられ、扱胴4で脱穀された穀粒を選別室5に漏下させる受網6と、扱室2の側方に設けられ、送塵口(図示せず)を介して扱室2の後部と連通される処理室8と、処理室8に回転自在に内装され、扱室2から処理室8に供給された処理物を単粒化処理する処理胴(扱胴)9と、処理胴9の外周に沿って設けられ、処理胴9で単粒化された穀粒を選別室5に漏下させる受網10と、選別室5に設けられ、扱室2や処理室8から漏下する穀粒を揺動選別する揺動選別体11と、揺動選別体11から漏下する穀粒を風選別する第一選別ファン12と、一番物を収容する一番ラセン13と、一番物を穀粒タンク14へ揚上搬送する揚上搬送筒15と、二番物を風選別する第二選別ファン16と、二番物を収容する二番ラセン17と、二番物を揺動選別体11上へ還元する二番還元筒(図示せず)と、排塵室19に設けられ、切れ藁などの屑を機外に排出する排塵ファン20と、脱穀済みの排藁を搬送する排藁チェン21と、排藁を細断処理するカッター22とを備えて構成されている。
【0011】
図1及び図2に示すように、扱室2の上部は、開閉自在なシリンダカバー23で覆われており、該シリンダカバー23を開き操作すると、扱室2が開放され、扱室2内に設けられる扱胴4、受網6などの清掃、点検、整備などを行うことが可能になる。扱胴4は、扱胴回転軸24を中心とする円筒形部材であり、その外周面には、複数の扱歯25が突設されている。脱穀作業時は、扱胴4が所定方向に回転するのに伴い、扱歯25が茎稈から穀粒を扱ぎ下ろすようになっている。
【0012】
扱室2内で穀粒を効率良く脱穀するには、処理物に適度な抵抗を付与し、処理物の送り速度(扱胴回転軸方向の送り速度)を最適化する必要がある。このため、扱室2の上部、すなわちシリンダカバー23の下面側には、扱室2内を流動する処理物に接触して処理物の送り速度を調節する複数の送塵ガイド26が角度変更自在に設けられる一方、扱室2の下部、すなわち受網6の表面側には、扱室2内を流動する処理物に適度な抵抗を付与する複数の仕切板27が一体的に設けられている。
【0013】
受網6は、金属製の板材に多数の漏下孔6aを打ち抜き形成した打ち抜き網で構成されている。例えば、本実施形態の受網6は、菱形の漏下孔6aを打ち抜き形成した金属製板材を扱胴4の外周に沿うように曲げ加工すると共に、その表面側に前述した複数の仕切板27を一体的に設ける一方、裏面側に複数の補強板28を一体的に設けて構成されている。
【0014】
打ち抜き網からなる受網6は、強度的に優れ、比較的安価に製造することができるものでありながら、クリンプ網に比べて枝梗や藁屑の引っ掛かりが少ないという利点があるものの、湿材を処理する場合には、裏面側に付着した屑類が成長(堆積)し、最終的に裏面側から漏下孔6aを塞いで目詰まりに至ることがあった。
【0015】
上記のような問題を解決するために、本発明の実施形態に係る受網6は、図5に示すように、扱胴4の外周と対向しない裏面側のみ撥水処理6bが施される。ここで、撥水処理6bとしては、フッ素樹脂コーティングなどの撥水性加工を施す方法や、超高分子樹脂を貼付する方法を好適に用いることができる。
【0016】
このような受網6によれば、強度的に優れ、比較的安価に製造可能な金属板製でありながら、扱胴4の外周と対向しない裏面側に撥水処理6bが施されているので、湿材の処理に際し、裏面側に対する屑類の付着を抑制できるだけでなく、付着した屑類の成長による目詰まりを防止することができる。しかも、受網6の表面側には、撥水処理を施さないので、表裏両面に撥水処理を施す場合に比べて加工費を削減することができるだけでなく、受網6の表面側に適度な滑り抵抗を付与して良好な脱穀処理を行うことができる。つまり、受網6の表面側に撥水処理を施した場合の如く、扱室2内の処理物が必要以上に流れやすくなって、脱穀処理の効率や精度が低下するという問題を回避することができる。
【0017】
また、本実施形態の受網6においては、漏下孔6aの内側面に撥水処理6cを施している。このようにすると、漏下孔6aの内側面に対する屑類の付着を抑制し、目詰まりの可能性をさらに低減させることができる。
【0018】
ところで、湿材を処理する際には、受網6だけでなく、その他の箇所でも屑類が付着しやすくなり、付着した屑類が脱穀作業や選別作業に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、選別室5から切れ藁などの屑を機外に排出する排塵ファン20(吸引ファン)においては、ファンブレード20aの裏面側に付着した屑類が成長(堆積)し、排塵ファン20の風量が著しく低下してしまうことがあった。
【0019】
上記のような問題を解決するために、本発明の実施形態に係る排塵ファン20は、図6に示すように、ファンブレード20aの裏面側のみ撥水処理20bが施される。ここで、撥水処理20bとしては、前述した受網6の場合と同様に、フッ素樹脂コーティングなどの撥水性加工を施す方法や、超高分子樹脂を貼付する方法を好適に用いることができる。
【0020】
このような排塵ファン20によれば、湿材の処理に際し、裏面側に対する屑類の付着を抑制できるだけでなく、付着した屑類の成長による風量の低下を防止することができる。しかも、ファンブレード20aの表面側には、撥水処理を施さないので、表裏両面に撥水処理を施す場合に比べて加工費を削減できるという利点がある。
【0021】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、扱室2内に回転自在に配置され、扱室2内に供給される茎稈から穀粒を脱穀する扱胴4と、該扱胴4の下側に沿って配置され、扱室2内で脱穀された穀粒を扱室2の下方に漏下させる受網6とを備える脱穀装置1において、受網6は、穀粒を漏下させる多数の漏下孔6aが形成された金属製の板材からなり、扱胴4の外周と対向しない裏面側のみ撥水処理6bが施されるので、強度的に優れ、比較的安価に製造可能な金属板製の受網6でありながら、湿材の処理に際し、裏面側に対する屑類の付着を抑制できるだけでなく、付着した屑類の成長による目詰まりを防止することができる。しかも、受網6の表面側には、撥水処理を施さないので、表裏両面に撥水処理を施す場合に比べて加工費を削減することができるだけでなく、受網6の表面側に適度な滑り抵抗を付与して良好な脱穀処理を行うことができる。
【0022】
また、漏下孔6aの内側面に撥水処理6cを施したので、漏下孔6aの内側面に対する屑類の付着を抑制し、目詰まりの可能性をさらに低減させることができる。
【0023】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、特許請求の範囲内で適宜変更できることは言うまでもない。
例えば、撥水処理としては、フッ素樹脂コーティングなどの撥水性加工を施す方法や、超高分子樹脂を貼付する方法に限定されるものではなく、撥水性を付与可能であれば、その他の方法を用いてもよい。
また、本発明は、扱室の受網だけでなく、処理室の受網にも適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 脱穀装置
2 扱室
4 扱胴
6 受網
6a 漏下孔
6b 撥水処理
6c 撥水処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扱室内に回転自在に配置され、扱室内に供給される茎稈から穀粒を脱穀する扱胴と、該扱胴の下側に沿って配置され、扱室内で脱穀された穀粒を扱室の下方に漏下させる受網とを備える脱穀装置において、
前記受網は、穀粒を漏下させる多数の漏下孔が形成された金属製の板材からなり、扱胴の外周と対向しない裏面側のみ撥水処理が施されることを特徴とする脱穀装置の受網構造。
【請求項2】
前記漏下孔の内側面に撥水処理を施したことを特徴とする請求項1記載の脱穀装置の受網構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−51890(P2013−51890A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190321(P2011−190321)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】