説明

脱臭方法及び脱臭装置

【課題】脱臭作用を有する微生物培養液を循環させて臭気を持った気体と混合させることにより、簡潔な方法及び装置構成によって長期に渡って連続的に良好な脱臭を持続できるようにする。
【解決手段】脱臭を必要とする臭気を含んだ気体を微生物培養液に注入し、微生物の持つ臭い分解作用によって臭気を含んだ気体の脱臭を行う(脱臭槽:脱臭工程)。そして、脱臭を終えその機能の低下した微生物培養液に米ぬかや米のとぎ汁などのエネルギー源を供給し、脱臭機能を回復させる(培養槽:培養工程)。機能が回復した微生物培養液は、循環連結パイプを介して脱臭槽に戻され、再び悪臭を含んだ気体の脱臭に用いられる(循環工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば畜産場から排出される排泄物、またこれより生産される堆肥等から発生する悪臭を連続的に脱臭することができる脱臭方法及び脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家禽、豚、牛そのほかの家畜の飼養がなされる畜産場、これら畜産場から出てくる家畜の排泄物や飼料等の廃棄物の集積場、また、これら排泄物等を用いて堆肥生産を行う作業場、工場等から発生する悪臭は、近隣住民とのトラブルの原因ともなり、近隣住民の生活に影響を及ぼす大きな問題となっている。
【0003】
特に、昨今、郊外への住宅地の進出によって、畜産場や工場と民家との距離が接近する傾向にあり、異臭、悪臭の完全な脱臭の必要性が高まっている。
一般に、養豚場における豚1頭で、人間10人分の排泄物が発生するといわれており、多くの豚を扱う養豚場では、その発する悪臭に対する近隣住民から苦情への対応に苦慮しているのが現実である。
【0004】
また、畜産排泄物の多くは堆肥化されるが、この堆肥生産を行う工場や作業場から発生する強烈な悪臭に関しても、近隣住民からの苦情が寄せられており、その脱臭は必須のものとなっている。
この脱臭方法及び脱臭装置としては、多くの提案がなされているが、微生物を使ったいわゆる生物脱臭法が環境にやさしい方法としてその普及が望まれている。
【0005】
この生物脱臭法としては、例えば畜産される家畜の体内に微生物を取り込んで排泄物自体の悪臭を低減させる方法(以下、「経口方法」という。)がある。しかしながら、この場合、家畜自体の体内に微生物を定時的に取り込むためには、家畜の餌に微生物を過不足なく調合することが必要であり、その手間は膨大なものであった。また、微生物を生きたままの状態で維持しなければならず、その維持費も多額になるという問題もあった。
【0006】
また、他の生物脱臭方法としては、散布した土壌に臭気を含む空気を送り込んで通過させ、その通過途上で、土壌に生息する微生物によって脱臭を行うという方法がある。
図4は、この土壌を用いた生物脱臭方法による脱臭装置の一例を示した模式図である。図4においては、脱臭装置100によって、堆肥醸成室101から発生する悪臭の脱臭がなされる。
【0007】
堆肥醸成室101には畜産排泄物からなる堆肥原料102が収容されており、この堆肥原料102を発酵させて堆肥を生産している。図4の例では、この堆肥醸成室101からの臭気が送風パイプ103によって、脱臭装置100に送り込まれるようになっている。
【0008】
脱臭装置100には、平面的に散布された土壌層104が形成されており、送風パイプ103から送り込まれた臭気は、この土壌層104の下側に設けられた送風装置107によって土壌層104に送風されるようになっている。
そして、土壌層104を通過した悪臭を含んだ空気は、土壌層104の土壌に生息する微生物によって脱臭され、脱臭された空気が排気パイプ105を通じて外部に排出される。
【0009】
このような脱臭装置100では、土壌に生息する微生物に水を散布する必要があるが、この水の散布によって土壌が締まり、通気性が低下するという問題もある。
そこで、土壌層104の通気性を維持するために、土壌の積み上げの厚さを比較的薄くすることが必要となり、一方で、脱臭の処理量を大きくするには、土壌散布面積を広げることが必要となる。このため、図4に示されるような脱臭装置を用いる場合には、その占有面積が広大なものとなる。したがって、この広い面積の土壌層104の全域に散水を行うための散水装置106も大型となり、同様に臭気を分散通気させるための送風装置107も大掛かりとなって、これらの動力も極めて大きくなるという不都合があった。
【0010】
これに対して、通気性を一定状態に保持できるようにする方法として、土壌に換えてロックウールを用いる方法が提案されている。この方法は、土壌の代わりにロックウールを敷き詰め、このロックウール上に生息させた微生物によって脱臭作用を生じさせるものである。
【0011】
しかし、ロックウール自体も比較的通気性が低いため、ロックウールに対して臭気を分散して通気させる送風装置が必要となるが、その小型化は十分ではなかった。また、このロックウールを用いた方法においても、散水装置を設ける必要があり、装置全体の大型化が避けがたく、ランニングコストも高くなるという問題があった。
【0012】
このように、従来の脱臭方法及び装置において、堆肥製造等に伴って発生する多量の気体の脱臭を行うためには、堆肥製造場と同等程度に大きな脱臭装置が必要となり、その設置場所の確保、諸費用は膨大なものとなっている。特に、中小規模の畜産農家等では、その脱臭のための費用は相当な負担となっている。
【0013】
一方、微生物による脱臭に関しては、さまざまな研究開発がなされており、その一つとして乳酸菌及び酵母を利用した消臭方法の提案がなされている(特許文献1を参照)。この特許文献1に記載された消臭方法は、上述したような家畜に対する飼料に混入させる経口方法、あるいは臭いの発生源に散布する方法などである。
しかしながら、このように臭気の発生源に微生物を散布するためには、多量の微生物が必要とされる。また、経口方法により脱臭するには、上述したような、家畜の餌に過不足無く微生物を調合しなければならないといった別の困難な問題が発生する。
また、従来の微生物を用いる脱臭方法では、脱臭量に応じて微生物が減少するため、長期の連続動作を行うと、脱臭効果が著しく低下してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平11−104222号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記種々の課題を解決するためになされたものであり、装置全体の設置面積を少なくした簡単な構造の装置で、かつ長期に渡って連続的に良好な脱臭を持続することができる脱臭方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による脱臭方法は、臭気を含んだ気体を所要の濃度に調製された微生物培養液中に送り込み、これをバブリングさせて前記臭気を脱臭させる脱臭工程と、この脱臭工程における微生物の脱臭作用によって微生物が減少した微生物培養液にエネルギー源を供給して微生物培養液中の微生物を培養増殖させる微生物培養工程と、この培養増殖によって所要の濃度に回復された微生物培養液を循環させる循環工程と、を有し、常に、微生物の培養増殖によって所要の濃度に回復された微生物培養液を用いて臭気を含んだ気体の脱臭を行うことを特徴としている。
【0016】
本発明の好ましい形態としては、上記脱臭方法に用いられる微生物培養液は、臭気を含んだ気体の脱臭に適した所要の濃度に乳酸菌が調製された乳酸水溶液であり、その脱臭される臭気はアミン系臭気であることを特徴としている。また、さらに好ましい形態としては、上記乳酸菌培養液によるアミン系臭気を脱臭した後に、アミン系臭気以外の臭気の脱臭を行うようにしている。
【0017】
本発明の脱臭方法の好ましい形態として、上記のエネルギー源は、米ぬか及び/または米のとぎ汁である。また、微生物の培養層が複数設置されており、これら複数の培養槽のうち任意の数の培養槽に米ぬかや米のとぎ汁等のエネルギー源を供給するようにしている。
【0018】
また、本発明の脱臭装置は、臭気を含んだ気体が供給される所要の濃度に調製された微生物培養液が収容される脱臭槽と、この微生物培養液中の微生物を培養増殖させる培養槽と、培養槽の微生物培養液に微生物を増殖させるためのエネルギー源を供給するエネルギー源供給装置と、培養槽と脱臭槽を連結する循環連結装置とを備え、培養槽において培養増殖させた微生物培養液を、上記循環連結装置を通して脱臭槽に還流させることを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、微生物培養液中に臭気を持った気体を送り込んでバブリングさせることによって、悪臭物質が微生物培養液と良好に接触されるため、悪臭物質が極めて効率的に分解される。この脱臭作用によって微生物培養液中の微生物が減少することになるが、減少した微生物を次の微生物培養工程で増殖させるため、微生物の量を当初の量に近い状態に回復させることができる。そして、回復した微生物培養液を再び脱臭工程に戻すことにより、常に、脱臭に適した所要の微生物濃度によって脱臭反応を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の脱臭方法によれば、微生物培養液中に脱臭を行う気体をバブリングさせることにより、この培養液と気体とを十分に接触させることが可能となる。そして、本発明の方法においては、臭気を帯びた気体を微生物培養液中にバブリングさせるだけで脱臭が可能となるので、土壌層やロックウールのような固体中に通気させる場合に比べて、少ない電力で能率の良い脱臭効果が得られる。
さらに、脱臭作用によって減少した微生物培養液中の微生物を、微生物培養工程で回復させて脱臭工程に還流させるため、脱臭を連続的にかつ恒常的に行うことができる。
【0021】
また、本発明の脱臭装置は、脱臭層と、培養層と、エネルギー供給源と、循環連結装置からなる比較的簡易な構成で実現されるので、従来の脱臭装置に比べてより小型になり、その製造に必要な費用及び維持費を極めて安いコストに抑えることができる。
【0022】
また、家禽、牛、豚等の家畜の排泄物から発生する悪臭成分は、その大部分(80%〜90%)がアミン系のアンモニアであることから、その微生物培養液を、乳酸菌による乳酸液として、アミン系のアンモニアの脱臭を効果的に行うことができる。
【0023】
さらに、本発明の好ましい形態では、乳酸水溶液によって悪臭が脱臭された後の気体を、例えば硫化物系臭気に対して効果的な脱臭効果を有する微生物培養液に送ることによって、より完全な脱臭を行うようにすることができる。この場合は、アミン系の脱臭がなされた後に、さらに硫化物系の臭気を脱臭することになるので、この脱臭に用いられる微生物を比較的自由に選定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の脱臭方法及び脱臭装置の実施の形態例を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の脱臭方法の実施の形態例を説明する。
図1は、本発明の脱臭方法の実施形態例を説明するための概略図である。
図1に示すように、本例の脱臭方法は、次の3つの工程S1〜S3を含んでいる。すなわち、(S1)臭気を含んだ気体を微生物培養液中でバブリングさせて脱臭する工程、(S2)脱臭という働きを終えた微生物培養液中の微生物を増殖させて機能を回復する工程、(S3)機能が回復された微生物培養液を脱臭工程に戻す工程、である。
【0025】
本例の脱臭方法においては、畜産排泄物や家庭生ごみ等による堆肥醸成室等の臭気源1から、脱臭が必要とされる臭気を含んだ気体が、脱臭に適した所要の濃度に調製された微生物培養液中に供給される。この微生物培養液としては、例えば乳酸水溶液が用いられる。そして、この乳酸水溶液中で臭気を含んだ気体をバブリングさせて、乳酸と臭気を含む気体物質(例えばアンモニア)とが化学結合されて脱臭が行われる。これが微生物培養液(乳酸水溶液)による脱臭工程S1の作用である。
【0026】
脱臭工程S1で脱臭された気体は外部に排出されるか、前段で脱臭されなかった臭気をとる補助的な脱臭工程に送られるが、役割を終えた微生物培養液(乳酸水溶液)は、微生物培養工程S2に送られる。この微生物培養工程S2では、外部のエネルギー源供給装置から米ぬかや米のとぎ汁などのエネルギー源が供給される。そして、この外部から供給されたエネルギー源により微生物培養液中の微生物(ここでは、乳酸)が増殖し、これによって微生物培養液が元の状態に機能回復する。
【0027】
これを乳酸水溶液の例で説明すると、アミン系臭気のアンモニアと乳酸との中和反応によって水溶液のpHが高くなる。このpHが高くなった乳酸水溶液に、微生物を培養増殖させるための、いわゆる培地のエネルギー源となる米ぬか、米のとぎ汁等が供給される。
そして乳酸水溶液を所要のpH(ここでは乳酸濃度をいう)に回復させた乳酸水溶液を脱臭工程(S1)に戻すようにする。この工程が循環工程S3である。このように、脱臭(S1)→培養回復(S2)→循環(S3)→脱臭(S1)→培養回復(S2)→循環(S3)→・・・を順次繰り返すことにより、外部からエネルギー源を供給するだけで、永続的(半永久的)に脱臭作用を維持させることができる。
【0028】
通常、家畜等の排泄物から発する悪臭成分は、アミン系のアンモニアが90%程度であり、その大部分を占めている。その他の成分としては、有機酸が5%程度、硫黄化合物が5%程度である。したがって、このアンモニアを例えば乳酸で中和することによって殆どの臭気が取り除かれる。さらに、有機酸の臭気の脱臭がなされることによってほぼ完全な脱臭がなされることになる。
【0029】
ここで、乳酸水溶液の脱臭に適した濃度(pH)は、pH4程度である。脱臭作用後の乳酸水溶液は、pHが上昇するため、そのままにしておくと脱臭効果が低下してくる。
そこで、本例の脱臭方法においては、このpHが上昇した乳酸水溶液に、培養工程(S2)で、米ぬか、米とぎ汁等の乳酸菌のエネルギー源を供給し、乳酸発酵を生じさせて乳酸菌を培養増殖している。これにより乳酸水溶液の乳酸濃度を回復させているのである。そして、この回復された乳酸水溶液を脱臭工程に還流して用いるようにしている。このため、脱臭工程には、常に脱臭に適した濃度の乳酸水溶液が供給されるので、連続的かつ恒久的に脱臭が可能となるのである。
【0030】
次に、本発明脱臭装置の実施の形態例を図2に基づいて説明する。この脱臭装置10は、本発明の脱臭方法を実施するための装置である。
脱臭装置10は、少なくとも脱臭を行う微生物培養液が収容される脱臭槽11と微生物培養液中の微生物を培養増殖させる培養槽12と、培養槽12と脱臭槽11とを連結する循環連結パイプ15とから構成されている。
【0031】
脱臭槽11には、脱臭が必要とされる臭気を分解するに適した所要の濃度に調製された微生物培養液2が収容されている。この微生物培養液2としては、例えば乳酸菌によって乳酸発酵している乳酸水溶液が用いられる。この脱臭槽11の中の微生物培養液2中に、臭気源1から臭気を含む空気が強制的に送給され、バブリングによって脱臭槽11内で臭気を含む空気の気泡が多数発生される。そして臭気を含む気泡が乳酸と化学反応(中和反応)を起こして、脱臭が行われる。
【0032】
図2に示されるように、微生物を培養増殖させる培養槽12は、複数個を従属的に連結する構成とすることができる。図2では第1〜第4の4個の培養槽12A〜12Dが設けられ、これらが順次連結パイプ13によって連結されている。また、脱臭槽11は、その液面近傍に設けられた連結パイプ14によって第1の培養槽12Aに連結される。
【0033】
また、脱臭槽11において、脱臭がなされた気体は外部に放出されるか、または、図2に二点鎖線で図示したように、例えば硫黄化合物による臭気の脱臭を行う補助脱臭装置20に送給される。このため、脱臭排気パイプ24が、脱臭槽11の上方の開口に対して気密的に結合するように配置されている。
【0034】
また、最終段(図2では第4段)の培養槽12Dと脱臭槽11とは、例えば循環連結パイプ51による循環連結装置15によって連結されており、この循環連結パイプ51の適当な場所に、乳酸水溶液を脱臭槽11に送り込むポンプ25が配置されている。
このポンプ25は、脱臭槽11の水位を一定に保持するために、給水制御するポンプである。脱臭槽11の液面は、不図示の液面測定装置によって測定されるが、その液面を一定の水位に保つようにポンプ25は駆動制御される。
【0035】
また、本例の脱臭装置10には、培養槽12に対して、米ぬかや米のとぎ汁等のエネルギー源を供給するエネルギー源供給装置18が設けられている。このエネルギー源供給装置18から培養槽12に供給されるエネルギー源は、培養槽12内の乳酸水溶液の乳酸菌を培養増殖して乳酸発酵させるためのものである。このエネルギー源供給装置18は、図2で示すように、培養層12A〜12Dの全部に設けることもできるし、第1段の培養槽12Aのみ、あるいはこれと他の一部の培養槽12とに設けることもできる。
【0036】
脱臭槽11及び培養槽12(12A〜12D)には、微生物培養液を所要の温度に設定するための通電ヒータ等の温度制御装置26が設けられている。
なお、上述した脱臭槽11及び微生物を培養する培養槽12(12A〜12D)は、それぞれ例えば900[l](リットル)収容することができる容器(ポリタンクなど)によって構成することができる。
【0037】
また、本例の脱臭装置10は、畜産排泄物や家庭生ごみ等による堆肥醸成室臭気源1と、脱臭槽11との間に臭気送給パイプ16を備えている。この臭気送給パイプ16は、一端が臭気源1の臭気排気口に連結され、他端が脱臭槽11内の微生物培養液(乳酸水溶液)中に深く浸漬されている。また、この臭気送給パイプ16には、臭気源1からの臭気を含む空気を強制的に脱臭槽11に送り込む臭気送風機17が設けられている。
【0038】
次に、本実施形態例の脱臭装置10の動作を説明する。
まず、脱臭動作の開始時点で、例えばpH4程度の乳酸水溶液を脱臭槽11及び培養槽12(12A〜12D)に収容した状態とする。このpH4程度の乳酸水溶液は、アミン系のアンモニアの脱臭に適した乳酸濃度の溶液である。
そして、臭気送風機17を動作させて臭気源1から発生する臭気を含む空気を、臭気送給パイプ16を通じて脱臭槽11内の乳酸水溶液2中に強制的に吹き込み、脱臭槽11内の乳酸水溶液2中でバブリングさせる。このバブリングによって発生した気泡が乳酸水溶液2の中で激しく動くため、臭気を含む空気が乳酸水溶液2と十分に接触し、効率の良い脱臭がなされる。この脱臭された気体は、乳酸水溶液表面に浮上し、脱臭排気パイプ24を通じて外部に排出されるか、もしくは脱臭されなかった他の臭気を脱臭する補助脱臭装置20に向かって排出される。
【0039】
このとき、脱臭に供した乳酸水溶液2は、アンモニアとの中和反応でそのpHが初期の例えばpH4より高いpH値へと変化する。すなわち、脱臭前には酸性であった乳酸水溶液2が中性ないしはアルカリ性の方向に変化し、例えばpH5.5となって、その脱臭効果が低下してしまう。このため、本例では、培養槽12において、エネルギー源供給装置18から米ぬか等のエネルギー源を供給し、乳酸菌を増殖させ乳酸発酵を促進させて乳酸濃度を上げるようにしている。こうして最終段の培養槽12Dにおける乳酸水溶液2のpH値を、脱臭槽11における脱臭に適したpH値(例えばpH4)に戻すようにする。
【0040】
なお、図2に示される脱臭槽11には、臭気源1からの臭気を含む気体が導入されるため、体積増加による溢水が生じる。そして、この溢水によって脱臭槽11から初段の培養槽12Aに脱臭後の機能を終えた乳酸水溶液が流入するようになっている。
【0041】
次に、乳酸菌の培養について説明する。乳酸菌の培養は、例えば25℃〜35℃で、培養液(水溶液)の1〜2重量%の米ぬか、あるいは5容量%の米とぎ汁を1週間に1〜2回供給することによって行われる。
図2の例においては、脱臭で乳酸濃度が低下した乳酸水溶液2(例えばpHが5.5)は、第1段の培養槽12Aに送り込まれ、連結パイプ13を通じて第2段の培養槽12Bに送り込まれる。そして、この送り込まれた乳酸水溶液2は、順次後段の培養槽12C,12Dへと送られる。
【0042】
この場合、第2段の培養槽12B以降においては、エネルギー源供給装置18からエネルギー源を供給することによって、乳酸水溶液2の乳酸発酵を進行させるようにしている。そして、最終段の培養槽12Dから、脱臭機能を回復した乳酸水溶液2が、循環連結装置15、この例では、循環連結パイプ51を通じて脱臭槽11へ還流される。この循環は、ポンプ25を駆動することによって行われる。
このように、乳酸濃度がpH4まで回復した乳酸水溶液2が、ポンプ25の制御下で脱臭槽11に供給され、この脱臭、培養(回復)、脱臭・・の循環サイクルが形成される。
このように、本例の構成によれば、脱臭槽11には、常時、脱臭に必要なpH濃度をもった乳酸水溶液が供給されるので、連続的かつ恒久的な脱臭動作がなされる。
【0043】
次に、上述した動作をさらに具体的な数値に基づいて詳細に説明する。すなわち、本例による脱臭方法及び脱臭装置においては、培養槽12における乳酸発酵については、例えば30℃において、1[l]で2gの乳酸発酵ができるように構成されている。したがって、一つの培養槽に1日で900[l]の乳酸水溶液が用いられるとすると、1日で1800gの乳酸発酵を行うことができることになる。これは、乳酸菌の分子量が90であるから、約20mol(1800/90)の乳酸水溶液が得られることを意味する。したがって、4段の培養槽12A〜12Dで乳酸菌培養を行うとすると、20molの4倍(80m)の乳酸水溶液が得られる。
【0044】
一方、アンモニア臭気を1分間300[l]処理すると仮定すると、1日で432,000[l]処理することになる。通常、堆肥製造から発生するアンモニア濃度は2000ppm〜3000ppmである。今、仮に、3000ppm(ppmは100万分の1)のアンモニア臭気を処理するとした場合、上記432,000[l]のアンモニア臭気の中のアンモニアの量は1,296[l]となる。1molは22.4[l]であるから、1,296[l]は57.8molになる。これを重量で考えると、アンモニアの分子量17であるから、57.8molが982.6gに相当している。このことは80molの乳酸水溶液で充分脱臭することができることを意味している。
【0045】
本発明による脱臭装置は、図2に示す例に限られるものではなく、上述した本発明方法を実施するように、種々の構成を採り得る。
例えば、図3に示すように、脱臭槽11からの脱臭された空気を取り出す脱臭排気パイプ24と、脱臭槽11から次段の培養槽12に微生物培養液を送る連結パイプ14とを一体構造とすることもできる。
【0046】
次に、図3に示す他の実施形態例について説明するが、図2と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この図3に示す例では、脱水槽11と培養槽12Aを連結する連結パイプ14の、脱臭槽11側の端部41が、脱臭槽11内の微生物培養液中に浸漬され、培養槽12A側の端部42がこの培養槽12A内に浸漬されるように配置される。この場合、脱臭槽11内に開口する連結パイプ14の端部41は、臭気送給パイプ16の開口端部の近傍に開口するように配置される。このようにして、臭気送給パイプ16から微生物培養液2内に送り出された臭気によるバブリングを発生によって発生する気泡が効率よく連結パイプ14に取り込まれるようになされる。
そして、連結パイプ14の脱臭槽11と培養槽12との連結部分14aは、その一部が液面より上方に位置するようになされ、この連結部分14a内において、下方部に微生物培養液2の液面2aが位置し、その上に空間34が存在するように配置される。そして、この連結部分14aの空間34に脱臭排気パイプ24が連結される。
【0047】
この構成によれば、臭気送給パイプ16からの臭気の送給によって発生した気泡が連結パイプ14にその端部41から送り込まれ、このパイプ14内で微生物培養液2中を浮上する過程で脱臭がなされる。そして、この浮上した気泡が、液面2aに達すると空間34へと発散し、この脱臭された臭気は、排気パイプ24を通じて外気に放散されるか、あるいは次段の補助脱臭装置20へと送りこまれる。
【0048】
本例で示した脱臭方法では、脱臭する気体を微生物培養液中でバブリングさせているため、気体と水溶液とが良好に接触して脱臭作用が効率的になされる。このように、本例の脱臭方法では、脱臭が必要とされる気体を微生物培養液中にバブリングさせるのみであるので、土壌層や、ロックウールのような固体中に気体を通気させる場合に比べて、取り扱いが容易になるとともに、装置全体の構造を簡単にすることができる。
【0049】
また、本例に示したバブリングには、特別に強力な動力を必要としないので、その動力源も従来の脱臭装置と比べて小型かつ廉価に構成することができる。ポンプ25についても単に微生物培養液をゆっくりと循環させるためだけに必要なものであるから、格別にパワーの大きいものを必要としないため、安価なもので十分である。
【0050】
以上のように本発明の脱臭方法と脱臭装置によれば、脱臭効果が高いだけでなく、ランニングコストを極めて安価に抑えることができるという利点がある。
したがって、本例の脱臭装置は、大規模畜産場における設置だけでなく、中小規模の畜産場等への設置に好適である。
【0051】
以上、図面に基づいて本発明の実施形態例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて種々の実施形態を含むものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による脱臭方法の実施の形態例の概念図である。
【図2】本発明による脱臭方法及び本発明による脱臭装置の一実施の形態例の構成図である。
【図3】本発明による脱臭方法及び本発明による脱臭装置の他の実施の形態例の構成図である。
【図4】従来の脱臭装置の構成図である。
【符号の説明】
【0053】
1……臭気源、2……微生物培養液(乳酸水溶液)、2a……液面、10……脱臭装置、11……脱臭槽、12……培養槽、13……連結パイプ、14……連結パイプ、14a……連結部分、15……循環連結装置、16……臭気送給パイプ、17……臭気送風機、18……エネルギー源供給装置、20……補助脱臭装置、24……脱臭排気パイプ、25……ポンプ、26……温度制御装置、30……連結兼排気パイプ、34……空間、41,42……端部、51……循環連結パイプ、100……脱臭装置、101……堆肥醸成室、102……堆肥原料、103……送風パイプ、104……土壌層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気を含んだ気体を所要の濃度に調製された微生物培養液中に送り込み、該臭気を含んだ気体をバブリングさせて前記臭気を脱臭させる脱臭工程と、
前記脱臭作用によって前記微生物が減少した微生物培養液にエネルギー源を供給し、前記微生物培養液中の微生物を培養増殖させる微生物培養工程と、
前記培養増殖によって所要の濃度に回復された微生物培養液を循環させる循環工程とを有し、
前記所要の濃度に回復された微生物培養液を用いて前記脱臭工程において前記臭気を含んだ気体の脱臭を行うことを特徴とする脱臭方法。
【請求項2】
前記微生物培養液は、前記臭気を含んだ気体の脱臭に適した所要の濃度に乳酸菌が調製された乳酸水溶液であり、前記臭気はアミン系臭気であることを特徴とする請求項1に記載の脱臭方法。
【請求項3】
前記乳酸菌培養液による前記アミン系臭気を脱臭した後に、さらに前記アミン系臭気以外の臭気の脱臭を行うことを特徴とする請求項2に記載の脱臭方法。
【請求項4】
前記エネルギー源は、米ぬか及び/または米のとぎ汁であることを特徴とする請求項2または3に記載の脱臭装置。
【請求項5】
所要の濃度に調製された微生物培養液が収容され、臭気を含んだ気体が供給される脱臭槽と、
前記微生物培養液中の微生物を培養増殖させる培養槽と、
前記培養槽の微生物培養液に前記微生物を増殖させるためのエネルギー源を供給するエネルギー源供給装置と、
前記培養槽と前記脱臭槽を連結する循環連結装置とを備え、
前記培養槽において前記培養増殖させた微生物培養液を、前記循環連結装置を通して前記脱臭槽に還流させることを特徴とする脱臭装置。
【請求項6】
前記培養槽は複数設置されており、この複数設置された培養槽のうちの何れかひとつ又は複数の培養槽に前記エネルギー源を供給することを特徴とする請求項5に記載の脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−283239(P2007−283239A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114851(P2006−114851)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(592152510)株式会社中島自動車電装 (12)
【出願人】(506132429)
【Fターム(参考)】