説明

脱臭材及びその製造方法、並びにその脱臭材を用いた脱臭装置

【課題】物理吸着と化学吸着の二つの吸着作用を同時に併せ持ち、且つ耐水性を備えた脱臭材の製造方法を提供する。
【解決手段】脱臭基材として物理吸着作用を持つ無機多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物粉末を用い、結合材としてカオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を用い、これに水を加えて練り混ぜ成形し、該成形物を、前記金属酸化物の活性が失われない温度で、焼成固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活環境で発生する臭気について、これを除去し、快適な生活を送るための脱臭材及びその脱臭材の製造方法、並びにその脱臭材を用いた脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に生活環境で発生する臭気には、塩基性類(アンモニア、トリメチルアミン等)、酸性・脂肪酸類(イソ吉草酸、酢酸、酪酸等)、硫黄化合物(硫化水素、カプタン類(メチルメルカプタン、エチルメルカプタン)等)、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等)に分類されるさまざまな不快な種類の臭気が存在する。そして、臭気の種類は悪臭防止法により特定悪臭物質22物質が政令で指定されている。
一方、これらの臭気を除去する脱臭材(脱臭装置)は、室温で空気を循環させるだけでさまざまな臭気を除去できるものが求められている。
また、梅雨期や浴室等の高湿度の環境下や、トイレや台所のような水周りの場所等、水に濡れるようなところでも使用可能で、酸・アルカリ性物質を使わない安全なものであることが肝要である。
【0003】
室温下で、これら臭気を除去する方法としては、活性炭に代表される細孔による物理吸着と、金属・活性な金属酸化物或いはオゾンの触媒作用による化学吸着の二種類がある。そして、臭気の種類によっては、塩基性臭気のように物理吸着で脱臭効果が得られるもの、硫黄化合物のように化学吸着で脱臭効果が得られるものに分類できる。従って、物理吸着と化学吸着の二つの機能を併せ持つことが理想的である。
【0004】
そのためには、それぞれの吸着役割を持つ粉末を混合して用いればよいのであるが、そのような粉末のままでは臭気が通過しなく、粉末は飛散してしまい、利用する為には容器に入れて放置するだけの非常に狭い空間での脱臭に限定されるものであった。尚、オゾンによる脱臭では、オゾンがその発生装置を腐食・劣化させると共に、オゾン臭も伴う等の問題がある。
従って、効率よく広域に利用する為に、臭気を強制循環し脱臭する方法がいろいろと考えられてきた。例えば、脱臭材を何らかの形状に付ける、例えば、脱臭材粉末を繊維状フィルターや多孔質体に坦持(付着)する方法、或いは脱臭材そのものをある大きさの粒状、ペレット状、ハニカム状の固体にする方法等が考案されている。
例えば、アンモニア、硫化水素等の悪臭を取り除く脱臭材として、ハニカム基材の表面に、二酸化マンガン、銅酸化物、鉄酸化物等の金属酸化物をバインダー(結合材)によって坦持させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、これらの方法はバインダーを必ず用いなければならず、必然的に性能の低下が避けられなく、バインダーの選択とその添加量が脱臭性能を大きく左右する重要な要因であった。なぜなら、バインダーで坦持する場合、少なからずそのバインダーが多孔質セラミックの細孔を塞いで吸着を妨害したり、活性な酸化金属の表面を覆ってしまい臭気との接触を妨げたりする傾向があるためである。前記バインダーの量が少ないと強度がなく破損し、手で触れると汚れ、粉末が離脱・飛散する等取り扱いが悪くなる。逆にバインダーの量が多いと、前記した理由でより一層性能が低下してしまい、十分に脱臭材の性能を発揮することが難しいという問題があった。
【0006】
さらに、脱臭材そのものを固体にする方法では、有機バインダーを用いて固化したものでは、やはり多孔質セラミックの細孔を塞いで吸着を妨害したり、活性な酸化金属の表面を覆ってしまい臭気との接触を妨げたりする。また、これを焼成すると、有機バインダーが燃焼でCO2として失われ地球温暖化にとってもよくないと共に、焼成後の強度が著しく低下し、粉体が手に付き、飛散したりして取り扱いが悪くなると共に、耐水性も期待できないものになってしまう。また、無機バインダーを用いた場合、有機バインダーを用いた場合と傾向は同様であるが、CO2の発生がないこと、焼成・固化した場合でも強度は確保される有利な点がある。但し、焼成すると、酸化反応により金属酸化物の活性が大部分失われてしまう傾向があった。そのような酸化反応を抑制するため、原料に還元剤を混入する方法、窒素や水素を焼成炉に充填して還元雰囲気で焼成する方法等が試みられている。
また、無機バインダーの中でも、比較的低温で焼成・固化することができる水ガラスやコロイダルシリカを用いて、低温焼成で金属酸化物の酸化反応を抑制する方法もある。しかしながら、これらバインダーも、少なからず多孔質セラミックの細孔を塞ぎ、添加量によっては金属酸化物の表面を大部分覆ってしまい、物理吸着および化学吸着両作用を併せて発揮できるようなものではなかった。
古来よりセラミック製品には、成形性向上に可塑性を持たせるために、或いは他の材料との結合材の役割として、一般的に粘土が用いられてきた。これら粘土の内、カオリン鉱物系のカオリン、ハロイサイトが低温450℃前後の脱水で復水しなくなる特性を持つことや、板状(鱗片状)の不規則な積層不整構造であることによる多孔質体の細孔を塞がない特性をもつことは学術的にも広く知られている。しかしながら、このような特性を利用して、脱臭における物理吸着および化学吸着の両作用を併せ持つ脱臭材の製造は試みられることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−314283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、物理吸着と化学吸着の二つの吸着作用を同時に併せ持ち、且つ耐水性を備えた脱臭材及びその製造方法、並びにその脱臭材を用いた脱臭装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する為に本発明は、結合材(バインダー)として粘土を用いることにより、粘土の特性の内、板状(鱗片状)で多孔質体の細孔を塞がない性質と、低温焼成にて固化し、復水しないこと、金属酸化物の酸化反応が極力抑制されることに着目し、脱臭の物理吸着作用及び化学吸着作用の二つの吸着作用を同時に発揮できるように鋭意工夫したものである。
本発明の脱臭材の製造方法は、脱臭基材として物理吸着作用を持つ無機多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物の粉末を用い、結合材としてカオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を用い、これに水を加えて練り混ぜ成形し、該成形体を、前記金属酸化物の活性が失われない温度で焼成固化することを特徴とする。
前記物理吸着作用を持つ無機多孔質体としては、活性炭、シリカゲル、活性白土、ゼオライト、アルミナ、珪藻土、珪質頁岩等が挙げられる。
また、前記化学吸着作用を持つ金属酸化物としては、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)の各酸化物、白金(Pt)、バナジウム(V)、プラセオジム(Pr)、クロム(Cr)の金属イオン等が挙げられる。また、本発明で使用する金属酸化物の粒径は、0.5μm〜3μmである。
【0010】
また、前記結合材として用いるカオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土としては、例えば、蛙目粘土、木節粘土等が挙げられる。そして、この粘土は、前記蛙目粘土、木節粘土等を用いる他に、前記カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を含有する多孔質体(例えば、珪質頁岩粉)を用いてもよい。即ち、脱臭基材として物理吸着作用を持つ無機多孔質粉末に、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を含有する珪質頁岩粉を用い、含有する前記粘土分が十分な量である場合は、別途結合材として蛙目粘土、木節粘土等を混合する必要はなく、前記珪質頁岩粉が含有する粘土分の量が不足する場合は、その不足分を補う量だけ結合材を使用する。勿論、物理吸着作用を持つ多孔質体の粉末がカオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を含有していない場合は、結合材として前記粘土を使用する。この結合材は、全粉体(無機多孔質体粉末、金属酸化物粉末、粘土粉末)に対して10〜30重量%の範囲で混合する、また、本発明で使用する前記粘土の粒径は0.125〜2μmである。
尚、前記結合材として、無機バインダー(水ガラス、コロイダルシリカ、セメント及び石膏)、有機バインダー(ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、グリセロール、グリセリン)は使用しない。
【0011】
前記無機多孔質体の粉末と、活性な金属酸化物の粉末と、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を、水を加えて練り混ぜ成形する成形体の形態は、例えばφ5mmの球体が好適であるが、形状は問わない。
【0012】
また、前記成形体を焼成する温度は、各成分の特性を極力失わない400℃〜500℃とし、焼成時間は1時間〜3時間が好適である。
【0013】
また、前記脱臭材はそのまま通気可能な容器(通気可能な袋、箱等)に収容して使用するのが好ましい。例えば、前記脱臭材を、通気が可能な開口を有する容器に収容し、且つ、前記容器にファンを備えて、臭気を循環させて強制的に脱臭する脱臭装置とする。
【0014】
上記手段によれば、無機多孔質体の粉末と、活性な金属酸化物の粉末を、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土に水を加えて練り混ぜ成形した成形体を、金属酸化物の活性が失われない温度(400℃〜500℃)で焼成することで、粘土成分の吸着水(粘土鉱物に含まれている水のうち、粒子表面に吸着されている水)、層間水(粘土鉱物の層間に水分子の形で含まれている水)、構造水(粘土鉱物の構造中にOHの形で含まれている水)、結合水(八面体シートの端に存在する水)を脱水固化でき、水中や湿った空気中に置いても復水(鉱物の層間水、構造水および結合水を除いた後、湿った空気中に置いた場合に水が戻る)しない耐水性を有する脱臭材を製造することができる。
これは、粘土の特に、カオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトの粘土が、低温(400℃〜500℃)の脱水・復水不可逆になる性質を利用し、多孔質体の細孔の溶融による閉塞と、金属酸化物の酸化を抑えることにより、物理吸着及び化学吸着の両特性を併せ持つ脱臭材が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脱臭材の製造方法は、脱臭基材として用いた物理吸着作用を持つ多孔質体と、化学吸着作用を持つ金属酸化物の、それぞれの吸着特性を失うことなく併せ持ち、且つ耐水性を有した脱臭材を容易に製造することができる。
また、その脱臭材は物理吸着及び化学吸着の両特性を併せ持ち、且つ耐水性を有する為、高湿度の環境下や、トイレや台所のような水周りの場所でも安心して使用することができる。
更に、脱臭装置は、物理吸着及び化学吸着の両特性を併せ持つ脱臭材を、通気可能な開口を有する容器にそのまま収容し、且つファンを備えたことにより、臭気を循環させて物理吸着及び化学吸着の両作用によって効率よく脱臭することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】脱臭装置の実施の形態の一例を示す一部切欠断面図。
【図2】脱臭材の物理吸着及び化学吸着のしくみを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る脱臭材の製造方法は、物理吸着の役割成分と化学吸着の役割成分を同時に成形焼成するもので、粘土、特にカオリン鉱物系のうちのカオリナイト、ハロイサイトを含有する粘土が、低温450℃前後で焼成された時、脱水・復水不可逆になる性質を利用し、該粘土を結合材(バインダー)として使用する。
前記粘土としては、板状(鱗片状)で多孔質体粉末の細孔を塞がない性質と低温焼成にて固化するもの、例えば、蛙目粘土(ガエロメ)、木節粘土(キブシ)等が挙げられるが、これら以外に天然の珪酸質多孔体(例えば、珪藻土、珪質頁岩、沸石(ゼオライト)等)にも含まれている。従って、結合材としての粘土は、その目的の為に粘土を別途用意してもよいが、物理吸着の役割成分として前記多孔質体を用いる場合は、それに含有されている粘土を結合材として用いることができる。尚、物理吸着の役割成分として用いる多孔質体に含有されている粘土成分のみでは結合材として必要な量に満たない場合は、別途、前記粘土を加えるようにする。
前記粘土は全粉末に対して10〜30重量%の範囲で加え、可塑性を付与して成形性を向上させる。また、前記粘土の粒径は0.125〜2μmとし、物理吸着作用を担う多孔質体の細孔より大きくして、多孔質体の細孔を閉塞しないようにしてある。尚、前記粘土の添加量が10重量%未満の場合は結合材としての働きが期待できず、所望の形状に成形することができない。また、添加量が31重量%以上の場合は脱臭基材の量が少なくなり、脱臭性能(物理吸着、化学吸着)が低下する。
【0018】
そして、脱臭基材には、物理吸着作用を持つ多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物の粉末を用い、これら脱臭基材に前記粘土と水を加えて練り混ぜ、所望の形状、例えばφ5mmの球形に成形し、これを粘土の構造水を除去し、且つ酸化により金属酸化物の活性が失われない温度400℃〜500℃で、1時間〜3時間焼成固化する。
【0019】
前記物理吸着作用を持つ多孔質体としては、珪質頁岩、珪藻土、沸石(ゼオライト)、活性炭、シリカゲル、活性白土、アルミナ等が挙げられる。また、多孔質体の細孔は、例えば、ゼオライトは2.2〜7.5オングストローム、珪藻土・珪質頁岩は20〜100オングストローム、活性炭は10〜200オングストロームで、結合材として使用する前記粘土の粒径より小さい。
【0020】
前記化学吸着作用を持つ金属酸化物としては、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)の各酸化物、白金(Pt)、バナジウム(V)、プラセオジム(Pr)、クロム(Cr)の金属イオン等が挙げられる。また、金属酸化物の粒径は0.5μm〜3μmとし、前記粘土と同様、多孔質体の細孔より大きくし、多孔質体の細孔を閉塞しないようにしてある。
【0021】
次に、結合材(バインダー)の物理吸着に及ぼす影響について考察した内容を以下に示す。
[試料]
物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩の粉末(鈴木産業(株)製)を、化学吸着作用の金属酸化物として酸化鉄(Fe23)粉末(東北珪砂(株)製),活性化二酸化マンガン(MnO2)粉末(日本重化学工業(株)製)を、結合材として粘土(水簸蛙目粘土)(丸石窯業原料(株)製)或いは水ガラス(愛知珪曹工業(株)製のアイセットU−3号)を使用したもの、あるいは使用しないもの、それぞれに水を加え練混ぜ、大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を温度450℃、3時間で焼成・固化し試料とした。各部材の配合比は表1に示す通りである。
[試験方法]
主に物理吸着により除去される代表的臭気、濃度150ppmのNH3をそれぞれの試料10cc充填のカラムに連続で通気量6L/分の速度で通気した時の1分間のNH3の吸着量を測定した。
[結果]
NH3が無機多孔質体粉末に物理吸着作用でより多く吸着され、また、金属酸化物においても化学吸着されている。本結果では、無機多孔質体粉末および金属酸化物粉末を混合した試料は、単独で用いた試料に較べ配合量をそれぞれ約半分に減少させて用いているので、吸着量もそれに比例して減少している。その点を考慮すると、粘土ではほとんど吸着作用に影響を及ぼしてはいない。しかしながら、水ガラスが無機多孔質体および金属酸化物に対して性能を大きく低下させている。これは、水ガラス粒子が無機多孔質体の細孔を塞ぎ、さらに金属酸化物の表面を覆っているため物理吸着作用のみならず化学吸着作用にも大きく影響していると考えられる。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、粘土(結合材)が物理吸着に及ぼす影響について考察した内容を以下に示す。
[試料]
物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩粉末を、結合材として粘土(蛙目粘土)を用い、全粉末(珪質頁岩粉末、粘土)に対する粘土重量比をそれぞれ0%、10%、20%、30%、40%と変化させ、それぞれに水を40重量%加え練混ぜ、それぞれを大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を温度450℃で、3時間、焼成・固化し試料とした。各部材の配合比は表2に示す通りである。
[試験方法]
主に物理吸着により除去される代表的臭気、濃度150ppmのNH3をそれぞれの試料10cc充填のカラムに、通気量6L/分の速度で連続して通気した時の3時間経過した時のNH3の吸着量を測定し、1時間当りで表した。
【0024】
【表2】

【0025】
[結果]
表3に示すように、粘土を加えることにより、試料中の無機多孔質体粉末の割合が少なくなり、それに比例して吸着量が減少する傾向(例えば、粘土添加量30%、無機多孔質体粉末30%減⇒吸着量30%減)にあるが、その点を考慮すると、粘土添加量30%までは、物理吸着作用に及ぼす影響はないと考えられる。また、成形性には、可塑性が向上する粘土はより多く添加したほうが、物理吸着作用にとっては粘土が少ないほうがそれぞれ好ましいのであるが、これらを勘案すると粘土の添加量は10%〜30%の範囲が望ましいと考えられる。
【0026】
【表3】

【0027】
次に、焼成温度が物理吸着及び化学吸着に及ぼす影響について考察した内容を以下に示す。
先ず、原料の熱的特性について考察する。
脱臭材の原料である無機多孔質体粉末(珪質頁岩粉末)、粘土(蛙目粘土)、金属酸化物粉末(二酸化マンガン)それぞれについて、示差熱分析(DTA)を行い、昇温に伴う重量変化を調べた。示差熱分析は株式会社リガク社製の差動型示差熱天秤 TG−DTAスマートローダ TG−8120を用い、昇温速度10℃/minで測定した。各原料の測定結果は表4〜表6に示す通りである。
【0028】
【表4】

昇温に伴い水分が定量的に減少することが分かる。
【0029】
【表5】

昇温に伴い水分が減少している。450℃までは定量的に減少し(吸着水、層間水の脱
水)、450℃〜550℃において急激な減少があり(構造水、結合水の脱水)、600℃以上で脱水は完了している。
【0030】
【表6】

昇温に伴う重量の減少は、二酸化マンガンが酸化され化学吸着の性能を持たない酸化
マンガンになっていると考えられる。3MnO2+O2 →MnO2+2MnO+2O2
昇温に伴い、500℃までは定量的に減少する。500℃〜600℃急激に減少し、6
00℃以上では減少量が15%になり安定する。
【0031】
[試料]
物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩粉末を45重量%、化学吸着作用の金属酸化物として酸化鉄(Fe23)粉末を2重量%および二酸化マンガン(MnO2)粉末を8重量%、結合材として粘土(蛙目粘土)を5重量%(全粉末に対して10重量%)添加し、水を35重量%加え練混ぜ、大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を未焼成、250℃、350℃、450℃、550℃、650℃で、それぞれ3時間で焼成・固化し試料とした。
[試験方法]
主に物理吸着作用により除去される代表的臭気、NH3をそれぞれの試料10cc充填のカラムに通気量6L/分の速度で連続通気し、3時間経過した時のNH3の吸着量を測定し、1時間当たりで表した。また、化学吸着作用により除去される代表的臭気、濃度200ppmのH2Sをそれぞれの試料10g入れた容量10Lのテドラーバックに注入し静置し(静置試験)、1時間後のH2Sの除去率を求め、試料の吸着性能の目安とした。試験の結果は表7に示す通りである。
【0032】
【表7】

【0033】
[試料]
物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩粉末を、結合材として粘土(蛙目粘土)を用いて、珪質頁岩粉を54重量%、粘土を6重量%(全粉末に対して10重量%)とし、それに水を40重量%加え練混ぜ、大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を未焼成、250℃、350℃、450℃、600℃、700℃、800℃、900℃、それぞれの温度で3時間焼成・固化し試料とした。
[試験方法]
主に物理吸着作用により除去される代表的臭気、NH3をそれぞれの試料10cc充填のカラムに通気量6L/分の速度で連続通気し、3時間経過した時のNH3の吸着量を測定し、単位時間当たりで表した。結果は表8に示す通りである。
【0034】
【表8】

【0035】
表7及び表8に示す結果から、焼成温度が高くなるにつれ、物理吸着作用および化学吸着作用による吸着が低下することが解る。但し、未焼成品は粘土中に含まれる水の影響により物理吸着が若干低くなっている。表7では、焼成温度450℃までは、表6に示した金属酸化物の酸化が進行し活性な金属酸化物が減少することによる化学吸着作用の低下の影響はみられないと考えられるが、焼成温度が550℃を過ぎると化学吸着作用の低下が見られる。これは、表6での金属酸化物の急激な重量の減少傾向と呼応している。また、表8で焼成温度600℃以上では物理吸着作用の低下も顕著に起こってくる。これは、表4及び表5に示すように無機多孔質体粉末及び粘土に含まれている水分が脱水するのと対応している。従って、水がなくなり600℃以上では無機多孔質体の細孔が溶融等何らかの原因で塞がれ、物理吸着作用が低下するものと考えられる。このことから、焼成温度は出来るだけ低温であることが望ましく、物理吸着及び化学吸着それぞれの作用をともに効果的に発揮すると考えられる焼成温度は500℃以下であると考えられる。
【0036】
次に、焼成温度による耐水性に及ぼす影響について考察した内容を以下に示す。
[試料]
物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩粉末を45重量%、化学吸着作用の金属酸化物として酸化鉄(Fe23)粉末を2重量%および二酸化マンガン(MnO2)粉末を8重量%、結合材として粘土(蛙目粘土)を5重量%(全粉末に対して10重量%)添加し、水を35重量%加え練混ぜ、大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を温度250℃、350℃、450℃、550℃、650℃で、それぞれ3時間で焼成・固化し試料とした。
[試験方法]
試料を水に浸漬する前にそれぞれ10個の強度を測定した。次に、各試料を水に24時間浸漬し、各試料の破損数およびその状態を観察した。その結果を表9に示す。
【0037】
【表9】

【0038】
表9に示す結果から、焼成温度が高くなるに伴い浸漬前の強度は高くなる。しかしながら、浸漬後は温度350℃以下では水中で崩壊し、または手に粉が附着し、簡単に手で潰れ耐水性に劣る。温度450℃以上では固化体に歪みによるクラックが少数に生じるものの耐水性には問題ない。これは温度450℃以上の焼成で粘土成分中のカオリナイト及びハロイサイト中の水分(吸着水、層間水、構造水、結合水)が脱水され復水しないためと考えられる。これは、表5の粘土の昇温に伴う重量の減少傾向と呼応している。
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
脱臭基材として、物理吸着作用の無機多孔質体として珪質頁岩の粉末を45重量%、化学吸着作用の金属酸化物として酸化鉄(Fe23)粉末を2重量%及び二酸化マンガン(MnO2)粉末を8重量%、結合材としてカオリナイト、ハロイサイトを含有する粘土(蛙目粘土)の粉末を5重量%(全粉末に対して10%)、水を35重量%加えて練り混ぜ、これをφ5mmの球体に成形し、温度450℃で3時間焼成し、脱水固化して脱臭材を完成した。
【0040】
上記方法により完成された脱臭材の性能を比較する為に、物理吸着作用だけの特性を持つ比較例を作製した。その比較例の脱臭材は、無機多孔質体として珪質頁岩粉末を、バインダーとして粘土(蛙目粘土)を用い、珪質頁岩粉末を54重量%、粘土を6重量%(全粉末に対して10重量%)とし、それに水を40重量%加え練混ぜ、大きさφ5mmの球体に成形した。その成形体を450℃で3時間焼成・固化し試料とした。
【0041】
[試験方法]
生活環境で発生する代表的な臭気6種類、濃度200ppmのアンモニア(NH3)、濃度200ppmの硫化水素(H2S)、濃度200ppmのトリメチルアミン((CH3)3N)、濃度240ppmのエチルメルカプタン(CH3CH2SH)、濃度50ppmのイソ吉草酸(CH3(CH2)3COOH)、濃度500ppmのホルムアルデヒド(HCHO)を、それぞれの試料1gを入れた容量10Lのテドラーバックにそれぞれ注入し、静置し(静置試験)、3時間後のそれぞれの臭気除去率(%)を求め、試料の吸着性能の目安とした。その結果を表11に示す。
[臭気の測定方法]
株式会社ガステック社製の気体採取器と短時間検知管を用いて、初期濃度と各時間経過後の濃度を所定の手順にて測定する。尚、測定した臭気とそれぞれの検知管の品番は表10に示す通りである。
【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
表11に示す結果から、臭気別の吸着除去として、塩基性類(アンモニア、トリメチルアミン)およびアルデヒド類(ホルムアルデヒド)は無機多孔体および金属酸化物の物理・化学両吸着作用(物理吸着作用による除去が大きい)で、硫黄化合物は金属酸化物の化学吸着作用で、脂肪酸類(イソ吉草酸)は物理吸着作用でそれぞれ除去していることが分る。このように、粘土を用い、低温で焼成することにより、生活環境で発生するさまざまな臭気を除去することが可能になる。尚、未焼成試料が焼成試料より除去率が低いのは、粘土に含まれる水の影響によるものと考えられる。
そして、物理吸着及び化学吸着の両特性を持つ実施例の脱臭材は、物理吸着作用だけの特性を持つ比較例の脱臭材の特性に加え、硫化水素やエチルメルカプタンのような臭気も除去できることが分かる。また、実施例の脱臭材は比較例の脱臭材と比べて無機多孔質体粉の量が少ないが、その分を金属酸化物の化学吸着作用により補っている傾向が見られる。これより、本発明に係る脱臭材がより優れたものであることが分かる。
【0045】
次に、本発明に係る脱臭材Aを用いた脱臭装置Bの実施の形態の一例を図1に基づいて説明する。
脱臭装置Bは、臭気吸込み口2及びフレッシュエアー放出口3を設けた容器1の内部に、臭気を強制循環させるモータ4で駆動するファン5と、脱臭材Aを収容して構成されている。
【0046】
前記容器1は、陶器で構成した下容器1aと、その下容器1aの上に載置する筒状の上容器1bと、前記上容器1bの上面開口部に被着する蓋体1cとで構成されている。
前記下容器1aは内部に支持枠6を介してモータ4とファン5が配置され、周壁には前記モータ4で駆動回転されるファン5の作用で臭気を容器1内に吸い込む臭気吸込み口2が適宜数開設されている。
前記上容器1bは、前記下容器1aの上端に接続載置し得る筒状に形成され、その接続側に脱臭材Aを収容保持でき、且つ下容器1aに吸い込んだ臭気を上容器1bに送り込む通気孔を備えた底板7が設けられている。
前記底板7は上容器1bと一体に形成されていても、或いは別体に形成され、上容器1bに対して着脱自在としてもよい。尚、底板7に形成する通気孔の大きさは前記脱臭材A(例えば、φ5mmの球体)よりも小さくし、脱臭材Aが下容器1aに落下しなければよい。
前記蓋体1cは前記上容器1bの上側開口部に被着するもので、フレッシュエアー放出口3が形成されている。
【0047】
図2は前記脱臭材Aによる脱臭(物理吸着及び化学吸着)のしくみを示す模式図で、脱臭材Aは脱臭基材の無機多孔質体A1、金属酸化物(A2、金属酸化物A3が粘土(結合材)で球体に成形されている。そして、臭気として例えば、アンモニア(塩基性類)、硫化水素(硫黄化合物類)、ホルムアルデヒド(アルデヒド類)が存在した場合、脱臭材A内の無機多孔質体A1にはアンモニアが物理吸着され、金属酸化物A2による化学吸着(分解)によって硫化水素はイオウと無臭の硫化物に変化し、金属酸化物A3による化学吸着(分解)によってホルムアルデヒドは二酸化素と水素に変化される。
それにより、脱臭材Aは物理吸着及び化学吸着の両特性を併せ持つ脱臭材である。
【0048】
本発明の脱臭材、及び脱臭材を用いた脱臭装置は図示した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
(1)実施の形態では、容器が下容器、上容器、蓋体の三部材からなる例を示したがこれに限らず、例えば、二部材、或いは四部材で構成されていてもよい。
(2)実施の形態では、容器が陶器製である例を示したがこれに限らず、合成樹脂製、ガラス製等でもよい。
【符号の説明】
【0049】
A…脱臭材 A1…無機多孔質体
A2…金属酸化物 A3…金属酸化物
B…脱臭装置 1…容器
2…臭気吸込み口 5…ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭基材として物理吸着作用を持つ無機多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物粉末を用い、結合材としてカオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を用い、これに水を加えて練り混ぜ成形し、該成形物を、前記金属酸化物の活性が失われない温度で焼成固化することを特徴とする耐水性及び物理吸着、化学吸着の二つの機能を併せ持つ脱臭材の製造方法。
【請求項2】
前記結合材は、全粉末に対して10〜30重量%の範囲で混合することを特徴とする請求項1記載の脱臭材の製造方法。
【請求項3】
前記焼成固化は、温度400℃〜500℃の範囲で焼成することを特徴とする請求項1または2記載の脱臭材の製造方法。
【請求項4】
物理吸着作用を持つ無機多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物粉末を、カオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を結合材として用いて成形し、焼成固化してなる脱臭材。
【請求項5】
物理吸着作用を持つ無機多孔質体の粉末と、化学吸着作用を持つ活性な金属酸化物粉末を、カオリン鉱物系のうち、カオリナイト及びハロイサイトを含有する粘土を結合材として用いて成形し、焼成固化した脱臭材を、通気が可能な開口を有する容器に収容し、且つ、前記容器にファンを備えたことを特徴とする脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−188888(P2011−188888A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55057(P2010−55057)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】